カテゴリー「中国の農民の出稼ぎ(農民工)問題」の記事

2009年3月22日 (日)

中国で放送された政策ディベート番組

 香港の民間衛星テレビ局「鳳凰衛視」(フェニックス衛星テレビ)が土曜日の20:00~21:00というゴールデン・タイムに放送している「一虎一席談」という人気番組があります。世間で話題になっているテーマについて、専門家を読んで話を聞くとともに、スタジオに集まった人々の間で議論するという番組です(番組名の「一虎」とは、人気司会者の胡一虎氏の名前から来ています)。

 昨日(3月21日)夜たまたまこの「一虎一席談」見たら、この日のテーマは「両会(全人代と政治協商会議)開催に合わせた特集」ということで、「戸籍問題」でした。中国では、農村戸籍と非農村戸籍の厳然たる区別があって、農村戸籍の人は、実際にその人がどこに住んでいようと戸籍のある場所でないと教育、医療、社会保障等の制度を利用することができないことになっており、現在の中国の大きな社会的問題になっています。例えば、農村から都会に出稼ぎに出てきている労働者(農民工)のこどもは、戸籍が故郷の農村にあるので、都会に住んでいるのに都会の公立学校に入れないし、病院に行っても医療保険の適用が受けられない、といったような問題です。

 昨日見た番組では、全人代や政治協商会議の代表らも参加して、熱の入った議論が行われていました。出ていた主な意見には次のようなものがありました(番組は、中国語の標準語の放送ですが、中国には方言のきつい人も多いので、多くのテレビ番組では字幕が出ます。字幕が出ると、私程度の中国語ヒアリング能力でも一定程度内容を理解することができます)。

・私は弁護士だが、中華人民共和国憲法には「法の下の平等」がうたわれているのだから、農村戸籍・非農村戸籍で対応が違うのはおかしい。戸籍は一本化すべきだ。

・上海市は戸籍人口が1,300万人だが上海戸籍でない人も500万人住んでいる。戸籍の一本化は図る必要があるとは思うが、都市の政府には、実態的に、戸籍のない人に対して教育、医療、社会保障等の行政サービスを提供する能力が不足している。

・最近の北京のビル群は素晴らしいが、このビル群は誰が作ったのか。農民工の人たちが働いて作ったのではないのか。そういった農民工の人たちのこどもが北京で学校へ行けない、というのは、やはりどう考えてもおかしい。

・私は寧夏回族自治区の人間だが、戸籍制度は経済の進んだ都市部の人々の既得権益を守る役割を果たしている。内陸部の貧しい人々の権利を考えれば、戸籍は一本化すべきと考える。ただし、大学入学試験の戸籍別枠は撤去しないでほしい。例えば、大学入試の戸籍別枠を廃止したら、北京や上海の大学受験生が大量に寧夏回族自治区に来て受験したら、地元の受験生は大学に入れなくなってしまう。

・(農村戸籍の人でも都会に住宅を買って定住している人には都市戸籍を与えるべきだ、という意見があることに対して)住宅を買える経済的余裕のある人だけが都市へ移ってしまい、農村は経済的余裕のない人や老人だけになってしまうから、そういう条件を付けて戸籍の自由化を図ることには反対だ。

・農村・非農村戸籍を廃止し、自由に戸籍が選択できることにしたとしても、例えば都市住民が農村戸籍を取得したいと考えても、農地は既にいる農民に割り当てられており、新しく来た人には農地を割り当てられないから、実態的に戸籍の自由化はできない(筆者注:この部分は、土地の私有は認められておらず、従って農地の売買はできず、農地の耕作は村から請け負わされている形になっている現在の中国の社会主義制度の根本に起因する問題です)。

・私は上海の全人代の人民代表だが、この種の問題の対応策について諸外国の事例をいくつも勉強した。しかし、諸外国の例は、みな、他国からの移民をどう扱うか、という移民政策の問題だった。今、我々が議論しているのは中国国内の問題である。戸籍制度は、例えば、上海を農村から見るとまるで外国のように見えてしまうようにしているのである。私は上海の人間であるが、その前に一人の中国人である。これは何とかしなければならない問題だと考えている。

 議論に参加していた人の多くは「戸籍の自由化」に賛成のようでしたが、今すぐ自由化すると様々な問題が生じるという懸念を表明する人も多いのも事実でした。戸籍制度は、多くの人々が不満に思っている問題であると同時に、社会主義制度の根幹にも係わる問題なので、相当に「敏感な問題」です。

 「フェニックス衛星テレビ」は香港の民間テレビ局なので、報道の自由はあるのですが、中国大陸部での放映が許可されているテレビ局です。大陸部での放映が不許可にされてしまうと民間テレビ局としてやっていいけないので、当然、中国当局ににらまれるような内容の放送はできません。そうしたテレビ局で、今回の戸籍制度のような「敏感な問題」を取り上げて、参加者にディベートをさせて、中国全土に放映したことに対し、私としては、相当な「時代の進歩」を感じました。具体的な政策に関する議論ですから、当然、政府が決めた現行の政策に対する批判も出てくることになるからです。

 もし、このテレビ番組をまねたような小グループでの「討論会」が中国大陸のあちこちで開かれるようになったら、世の中はだいぶ変わると思います。全人代の人民代表が住民の直接選挙で選べない現在の制度では、「討論会」を開いても、その結果として住民が意思表示をする機会がない、というのが現在の中国のシステムでは致命的な問題ですが、今はインターネットがあるので、そういった「討論会」を開いて議論を整理し、その上で自分の意見をネット上にアップすることは可能です。

 ただ、そもそも中国の人々は「自由に自分の意見を述べたり、人の意見をじっくり聞いて論理的にそれに反論する」といった経験をあまり積んでいないように思えます。番組を見た感じでも、あまり議論がかみ合っていない感じがしました。最後の方で、農村出身の口べたな感じの青年が戸籍制度の問題点を挙げて主張していましたが、言いたいことを全部は言えなかった、という感じでした。

 1時間の番組だけでは、当然結論は出ませんが、最後に司会者が「戸籍制度は変えるべきだが、今すぐになくすわけにいかないし、一朝一夕に変えるわけにもいかないという意見が多かったと思います。ただ、最後に発言した農村出身の青年の未来が明るいものになればよいなぁと思っています」とまとめていたのは、なかなかよかったと思います。

 司会者による最後の「まとめ」の中で司会者は「先の改革開放30周年記念式典で、胡錦濤先生は改革開放政策は「不動揺」だし『不折騰』(むちゃをしない)と言っていました。戸籍制度の問題は時間を掛けて議論する必要があると思います」と結論付けていたのも印象に残りました。

 そもそもこの番組が香港のテレビ局だからですけど、胡錦濤主席のことを「主席」とも「同志」とも呼ばず、日本語の「さん」に相当する「先生」と呼んでいたのが印象に残りました(オリンピックの開会式・閉会式でもオリンピック・スタジアムの司会者は「胡錦濤先生」と呼んでいましたので、今の中国では別に珍しくはない表現なのですが、中央電視台では絶対に使わない呼び方です)。

 それから、ここでも「不折騰」という胡錦濤主席の言葉を引用していることに驚きました。やはりこの「不折騰」という言葉は相当に含蓄のある言葉なのだろうと思います。

 中国は、かつてのソ連や東欧諸国をはじめとする社会主義国として分類されますが、ひとつだけ中国だけにしかない特徴があります。それは「香港」という「風穴」が開いていることです。かつてトウ小平氏は、イギリスの植民地だった香港が1997年に中国に返還されるに当たって、「一国二制度」(香港では返還後50年間資本主義制度と報道の自由を維持する)という「ウルトラC」を使いました。これは改革開放を進める経済政策において香港という対外的に開かれた「風穴」を最大限に利用しようとしたからだと思います。そして今、もしかすると、香港は「政治体制改革=民主化」の点でも「風穴」になろうとしているのかもしれません。今回、香港のフェニックス衛星テレビで「政策ディベート番組」を見て、それを感じました。

 2012年に行われる予定の次の香港の行政長官・議会選挙は、今と同じ業界団体などを通じた間接選挙制度で行われ、住民による直接選挙は行われないことが既に決まっています。問題は、次の2017年の選挙がどうなるか、です。それすら決まっていない今の時点で、将来を予測することなどできないし、まだまだ先は長いと思いますが、こういった「フェニックス衛星テレビ」のようなテレビ放送が中国大陸部全土に放送されることによって、たぶん時代は少しづつ変化していくことになるのだろうと私は思っています。

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2009年1月10日 (土)

2009年1月第一週の中国の新聞の注目記事

 最近、中国の新聞は結構元気です。「ここまで書いていいのか」といったところまで書く記事が多く見られます。私もじっくり読んでみたい記事はたくさんあるのですが、全部読んでる時間もないので、記録しておく価値のありそうな記事の見出しとポイントだけ書いておきます。

(参考1)「南方周末」2009年1月8日号1面トップ特集記事
「三鹿(メラミン粉ミルク事件)発覚までの隠された10か月」
http://www.infzm.com/content/22472

 三鹿乳業のメラミン入り粉ミルク事件の裁判(2008年12月31日に公判が開かれた)で明らかにされた詳細な時系列を基に、2007年12月に消費者から粉ミルクに関する疑義が提示されてから、2008年9月13日にこの事件が明るみに出るまでの動きを詳細に報じています。この裁判については、既に日本でも報じられていますが、2008年8月1日に三鹿乳業として原因がメラミンであることを確定した後、生産は停止したものの、オリンピックの直前で三鹿製品に対する評判が落ちることを心配した会社幹部はこのことを秘密にしておいた、というものです。

 8月2日と8月29日には石家庄市政府には報告したものの、石家庄市政府も有効な手段を講じず、上部機関への報告も行わなかったとのことです(この件で石家庄市関係者では党委員会書記から副市長に至る幹部が現在調査を受けています)。

 「南方周末」(日本語表記は「南方週末」)が入手した8月2日と8月29日の三鹿乳業から石家庄市政府への報告書の中には「メディアに対する監督とコントロールを行って社会によくない影響を与えないようにして欲しい」との要請が書かれていたとのことです。

(参考2)「南方周末」2009年1月8日号「評論」欄「方舟評論」
「胡錦濤と馬英九には一緒にノーベル平和賞を受賞して欲しい」(本紙評論員・曹辛)
http://www.infzm.com/content/22427

 中身はタイトルを読んで字のごとしです。今、馬英九氏は中国国民党の代表ではなく、住民選挙で選ばれた「台湾当局」の「総統」です。「ひとつの中国論」を逸脱していないので中国政府の方針に反した評論ではありませんが、中国の新聞でここまで馬英九氏を持ち上げて書くかね、と私は感心しました。

(参考3)「経済観察報」2009年1月12日号(1月10日発売)Naition欄
「還郷(ふるさとへ帰る)」~冬眠(中国語で「蟄伏」)~
http://www.eeo.com.cn/eeo/jjgcb/2009/01/12/126941.shtml

 経済危機により失業して故郷に帰る農民工や請け負い工事担当者、展覧会関連業者、石炭業者、不動産業者などに関する特集記事です。ネット上の記事には書いてありませんが、紙面上には「農民工は旧正月より前倒しで帰郷し、請け負い工事業者、石炭販売業者、不動産リース業者、展覧会業者らは、この経済の温度により、自ら主導的に、あるいはそうすることを迫られて冬眠(中国語で「蟄伏」)している。この静かな春は一体いつまで続くのだろうか。」との頭書きが付いています。「蟄伏」の後は「啓蟄」(けいちつ:春になって虫たちが土の中から顔を出すこと)が来ることを意識した表現だと思います。

 「人民日報」や「中央電視台」では、「故郷に帰った農民工は、新しく創業したり、職業訓練を受けたりして頑張っている」という「明るいニュース」ばかりですが、経済専門紙たる「経済観察報」としては、「事実」を書かざるをえないのでしょう。日本の新聞などには、2009年は中国に危機が訪れる、といった警告を発する論調がよく載りますが、基本的に中国国内の有識者の認識(そしてたぶん党中央・中央政府の幹部の認識)も同じだと思います。

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2008年11月28日 (金)

「史上最大のバブル」の予感

 この世界的信用縮小の時期に「『史上最大のバブル』の予感」とは何事か、とお思いのことと思います。しかし、私は、昨日(11月27日)の中国の国家発展改革委員会の張平主任の記者会見の様子をネットで読んでいて、思わずそういうふうに感じてしまったのでした。

 御存じのように世界的な金融危機を受けて、中国は11月9日、2010末までに4兆元(約60億円)を投下する、という10項目の景気刺激策を発表しました。

(参考1)このブログの2008年11月10日付け記事
「中国の景気刺激策は世界を救うのか」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/11/post-cce7.html

 この景気刺激策の内容について、昨日(11月27日)、国家発展改革委員会の張平主任が記者会見を行ったのです。

(参考2)中国政府ネット「国務院記者会見」
「さらに内需を拡大させる問題に関する記者会見の状況」(文字記録)
http://www.gov.cn/wszb/zhibo288/wzsl.htm

 この中で張平主任は、4兆元を何に使うかについて、以下のように述べました。

(1) 安全な住居の提供:2,800億元(シェア7%)
(2) 農村の民生向上と農村インフラ建設:3,700億元(シェア9%)
(3) 鉄道、道路、空港、都市の電力網:1兆8,000億元(シェア45%)
(4) 医療衛生、文教事業:400億元(シェア1%)
(5) 生態環境保護事業:3,500億元(シェア9%)
(6) 自主イノベーションと経済構造改革:1,600億元(シェア4%)
(7) 災害を受けた地域の復旧・復興:1兆元(シェア25%)

 話の順番としては、住宅などの民生、農村・農民対策などを掲げていますが、金額的な割合を見ると、鉄道、道路、空港等の建設や災害被災地の復興・復旧で全体の7割を占めています。今回の景気刺激策が、いわゆる「ハコもの」「建設プロジェクトもの」を中心とする公共事業型景気刺激策であることがよくわかります。医療衛生・文教事業のシェアがたった1%とは、「第一は民生だ」と述べている張平主任の発言と、その中身とが一致していない、と言わざるをえません。

 この記者会見で、張平主任は、4兆元のうち中央による投資は11.8億元(全体の29.5%)である、と述べており、残りは地方などが投資を行う、との見通しを述べています。これら中央の景気刺激策発表を受けて、各地方では一斉に景気刺激のための景気のよい事業プロジェクトの発表が相次いでいるようです。上記の記者会見で、ある記者は、「中央は『4兆元の投資』と言っているが、不完全な集計ではあるが、各地方で発表されている各地の景気刺激のためのプロジェクトの投資額を全部合計すると18兆元にも上る、と言われている。1年後、世界経済が回復したら、中国はまたバブル状態に陥ってしまうのではないか。」と質問しています。これに対して、張平主任は「プロジェクトの実施は中央が許可するという制度は維持し、監督・監査を強化して、重複投資を防ぎ、地方の投資も中央が決めた方向へ向かうようにし、経済構造改革、発展方式の転換、民生問題の解決、生態環境問題の解決に向かうようにする」と答えています。

 今年(2008年)前半まで、中央政府のマクロ経済政策は、地方における過剰投資がバブル化して、北京オリンピック終了後に崩壊することを懸念して、地方の投資を抑えるための様々な方策を講じてきました。ところが、北京オリンピックが終了した後の今年9月に急激に深刻化したアメリカ発の国際金融危機を受けて、中央の経済政策は一変し、金融の緩和と景気刺激を進める方向になりました。このため、今まで地方における投資を抑制する方向ではまっていた「タガ」が一遍にはずれた格好になりました。何しろ今まで「過剰投資は抑制せよ」と言われていた中央が今度は「景気を刺激せよ」と言い始めたわけですから、もともとどんどん投資をしてGDPを上げてお金儲けと出世がしたい地方の党・政府の幹部にとっては「錦の御旗」をもらったのと同じですので、地方には「どんどん投資しよう」という機運が急激に広まっているのだと思います。

 この4兆元の景気刺激策のうち、もし7割近くが地方の負担になるのだとしたら、その財源はどうするのだろうか、という問題が生じます。この4兆元の財源問題は、現時点では必ずしも明らかになってはいません。

 今まで、中国各地で起きていたバブルとも言える建設ブームは、中国式社会主義の上に実現した「土地マジック」が産んだのだ、とも考えられています。中国の農村の土地(農地及び農民が住んでいる住宅地)は村などの地方政府の所有地です(社会主義を原則とする中国では、農民による土地の私有は認められていません)。村などの地方政府は、農民に住宅用地を貸しているとともに、各農家に割り当てられた農地に対して、生産を請け負わせ、請け負い量を上回って生産された農産物は農家の自主的な判断で売りさばいて自分の収入にしてよい、というのが、現在の改革・開放路線の根本になっている生産請負制度です。

 土地の所有権は地方政府が持っているのですから、地方政府が必要だと判断した時には、「合理的な補償金」を農民に支払うことによって土地を収用できます。現在、この「合理的な補償金」の額は、農地の場合、その農地で過去三年間に生産された農産品の価格に相当する金額、とされています。一般に中国の場合、農産品の価格はかなり割安に設定されているので、場所にもよりますが、農地をつぶして、そこをマンション用地や工業用地として売り出せば、地方政府は、補償金よりかなりの高額で「土地使用権」を転売することができます。ある学者は、大まかに言って、だいたい補償金として支払った値段の十倍の値段で売れる、と言っています。

(参考3)このブログの2008年1月14日付け記事
「ついに出た『土地私有制』の提案」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/01/post_6f24.html

 こうして地方政府は、農民から収用した土地の使用権を開発業者に売って、販売金額から農民への補償金を差し引いた残りの金額(上記の学者の言によれば、販売価格の十分の九)を収入とし、それによって、いろいろなプロジェクトの投資を行えるのです(そして、土地開発業者とうまく結託すれば、地方政府の幹部個人の懐も大いに肥える、というわけです)。

 今年前半は、そういった地方政府による土地政策に対する批判もあり、そういったことはおおっぴらにはやりにくかったのですが、今回、「景気刺激策」という「錦の御旗」が中央で掲げられたことは、こういった「農民から土地を収用して資金を調達し、公共事業を実施する」ことに対する正当性を得た、ということになり、地方政府を活気づけたのではないかと思います。

 さらにタイミングが悪いことに、今年10月の中国共産党第17期中央委員会第3回全体会議(第17期三中全会)では、長年にわたる農村・農業・農民問題(三農問題)を解決するための農地改革の一環として、農地の生産請負権の自由な譲渡・売買等を認める「中国共産党中央による農村改革の発展の推進における若干の重大問題に関する決定」が出されました。

(参考4)このブログの2008年10月28日付け記事
「第17期三中全会決定のポイント」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/10/17-86c4.html

 この第17期三中全会の決定は、あくまで「農地」の「農業生産請負権」の自由な譲渡等を認めるものですが、多くの地方政府においては、適用対象の土地を「農地」だけではなく「農民の住宅用地」にまで拡大するとともに、適用対象の権利を「農業生産請負権」ではなく、その農地の「土地使用権」であるとする拡大解釈が行われるのではないかと思います。第17期三中全会の決定の本来の趣旨は、譲渡・転売できるのは「農業生産請負権」ですので、農家からその権利を譲渡された人は農業をやらなければならないのですが、自由に移転できるのは「土地使用権」であり、「土地使用権」の譲渡を受けた者は、土地を農業ではなく別の用途で使うこと(マンション建設用地や工業用地への土地利用目的の変更)も自由にできるのだ、と拡大解釈するわけです(本当は、こういう農地の用途変更は上部機関の許可が必要とされています)。

 この「景気刺激策」と「第17期三中全会の決定」という二つの「錦の御旗」を得た地方政府は、中央の意図とは関係なく、農民から土地の収用し、それで得た資金を公共事業に投資する傾向を歯止めなく進めるのではないか、と私は危惧しています。上記の記者会見で記者が言っていたように、全国で発表されている景気刺激策の公共事業プロジェクトの金額を全部合計すると、中央が言っている4兆元をはるかに上回る18兆元に上ってしまう、という現象も、そういった地方政府の動きが現れた結果ではないかと思います。

 もしこういった現象が歯止めなく進むとすると次のような現象が起きます。

(1)膨大な量のマンション、工業用地が数年間という短期間のうちに供給されますが、それに見合うだけの需要がなければ、これらのインフラ投資は遅かれ早かれバブル化(不良債権化)します(住宅地については、人口が多い中国では常に一定の潜在的な需要があるのでバブル化はしない、という人もいますが、あまり不便な場所に大量の住宅地が建設されても、購入する人がいない(または価格を高くできない)ことにより、投資した資金が回収できないおそれは常に生じると思います)

(2)土地を失った(土地の使用権を補償金を受け取って譲渡した)農民は、しばらくは補償金を食いつぶすことによって生活できると思いますが、いつかはその補償金も底を突きます。その後、農地を失った農民は農業に戻ることはできないので、何らかの職業に就かなければならないわけです。農地が工業団地となり、そこに計画通り工場が建てば、雇用も生まれるのでしょうが、それがうまく行かなかった場合には、元農民は失業者となります。こういった失業者が大量に発生した場合には、大きな社会不安が呼び起こされることになります。

(3)地方政府の農地の収用を中央がコントロールできなかった場合には、中国の人々が食べる食糧を生産するために必要な農地(現在、中国政府は18億ムー(120万平方キロ)を食糧確保のために下回ってはならない農地のレッド・ライン面積として設定しています)より農地面積が減ってしまい、中国の人々が食べていくために必要が食糧の確保ができなくなってしまう可能性があります。中国は、現在、食糧については、消費量とほぼ同程度の生産を行っている(特に穀物についてはここ5年間は増産が続いている)ので何も問題は生じていませんが、人口13億人を抱える中国が食糧の大輸入国になったら、これは世界にとっても大問題となります(ちなみに、大豆については、中国は既に大輸入国になっています)。

 こうならないように中央が地方政府をコントロールできればよいのですが、今、中国において、地方政府を中央がうまくコントロールするシステムが有効に機能しているのか、は、かなり疑問です。本来は、地方政府のトップやその地方政府をコントロールする党委員会のトップ(書記)は中央から派遣され、一定の任期の後に交代させ、もし賄賂をもらうなどの腐敗した行為をすれば処罰する、といったシステムで中央が地方をコントロールしているはずなのですが、省・自治区や直轄市(北京、上海、天津、重慶)のレベルではこのシステムによる管理がうまく行っているように見えますが、それより下の市、県、鎮(村)のレベルになると、その数が膨大になることもあり、中央の目が届かないのが実情だと思います。

 今日(11月28日)付けの「人民日報」(中国共産党の機関紙)の1面に「仲祖文」というペンネームで「党を厳格に治めることは幹部を管理することに体現されなければならない」という評論が掲載されています(「仲祖文」とは、特定の個人ではなく、中国共産党中央組織部が意見を書くときのペンネームだと言われています)。

(参考5)「人民日報」2008年11月28日付け1面に掲載された評論
「党を厳格に治めることは幹部を管理することに体現されなければならない」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-11/28/content_147866.htm

 この評論文では「国を治めるためには、まず党を治めなければならない」と指摘しています。中国共産党が支配する中華人民共和国が成立してもうすぐ60年になろうとしているのに、まだこんな当たり前のことを主張しなければならないのか、と溜め息が出ますが、人民日報に「仲祖文」がこうした文章を書かなければならないほど、党内の管理(特に地方の末端の地方の党・政府の幹部のコントロール)がうまく行っていないことを中国共産党自身は自覚しているのだと思います。逆の見方をすれば、外見の格好悪さを省みずに、こうした文章を正直に「人民日報」に掲げている、という点で(自分自身の内部にある問題点を隠さない、という点で)まだ救いはあるのだと思います。

 中国共産党も、県レベルの党の幹部を中央党校で研修させて、「腐敗に手を染めてはならない」などといった教育は一生懸命やっているのですが、こういった教育や研修で問題が解決するのならば、歴史上の数多くの政権は苦労はしなかったはずです。多くの諸国では、腐敗した政府の幹部はマスコミに批判され選挙で負けて失脚させられる、という報道の自由と民主主義とに立脚するシステムが一応その対策として成立しているわけですが、中国では、いまだにそのシステムを導入する気配はありません。少なくとも、ここ数年の間にその種の腐敗を防止するシステムが確立するとは思えません。

 ということは、「景気刺激策」と「土地に関する権利の自由な譲渡を認めた第17三中全会の決定」という二つの「錦の御旗」をもらった地方政府の暴走を中央はコントロールできなくなる可能性があります。もし本当に地方政府をコントロールすることができなくなって、とてつもない金額の投資が短時間に行われるとしたら、それはたぶん「史上最大のバブル」になると思います。そして、上記(1)(2)(3)で書いた「とんでもないこと」が現実のものとなるおそれがあります。昨日(11月27日)の中国の国家発展改革委員会の張平主任の記者会見について報じている今日(11月28日)の新聞を見てそう感じたので、今日、ここに「『史上最大のバブル』の予感」という文章を書いてみたくなった、というわけです。

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2008年11月13日 (木)

海南省三亜市などでもタクシー・ストライキ

 先日、重慶市で起きた市全体のタクシー運転手のストライキについて書きました。

(参考1)このブログの2008年11月6日付け記事
「重慶市のタクシー・ストライキ」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/11/post-9f93.html

 ところが、その後、同様の動きが別の場所に広がり、11月10日、海南省三亜市、甘粛省蘭州市永登県でも、タクシー・ドライバーのストライキが起きた、とのことです。

(参考2)「新京報」2008年11月11日付け記事
「三亜市で200人以上の集団ストライキが発生」
~タクシー会社への支払金が高過ぎるなどの問題解決を要求、言いがかりを付けてトラブルを起こした疑いで21人が警察から事情聴取を受けた~
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2008/11-11/008@035146.htm

 タクシー運転手側の要求は、運転手が売上金の中から毎月タクシー会社に支払う金が高過ぎること、無許可営業のタクシー(中国語で「黒車」)が多くて営業が妨害されていること、といった状況の改善を要求するものでした。

 今回の三亜市(海南島の南端にある観光都市)のストライキでは、三亜市の市役所の前にタクシー運転手ら200名以上が集まり、市の幹部との面会を要求した、とのことです。また、通常通りの運行をしようとした(スト破りをしようとした)運転手に対して、何者か通行を妨害したり、打ち壊し行為に出たりした、とのことで、警察は、計画性を持った強行ストライキ事件だとして、言いがかりを付けてトラブルを起こした疑いで21人から事情を聞いている、とのことです。この「新京報」の記事の書き方だと「計画性を持った強行ストライキ」が違法行為であるように見えますが、ストライキ自体には違法性はないはずで、暴力行為によってスト破りを阻止しようとした行為が違法である可能性があるとして、警察に事情を聞かれているのだと思います。

 三亜市のストライキは11日も継続しており、三亜市の代理市長とタクシー運転手側との間で話し合いが続けられている、とのことです。代理市長は、スト問題解決の原則として次の4点を打ち出しています。
・社会の安定を維持し、打ち壊し行為を行った不法分子を法に基づき取り締まること。
・タクシー運転手がタクシー会社に支払う金の問題を迅速に解決し、タクシー運転手集団の合法的権益を保護し、タクシー会社の行為を厳格に管理し、無許可タクシー(中国語で「黒車」)を取り締まること。
・タクシー運転手たちが自分たちの要求を取りまとめて訴えるために、自ら協会を設立することを市としても支持すること。
・市の公安・交通等の各部門は一般大衆の利益を守る必要があり、速やかにタクシーが正常運行に戻るように努めること。

(参考3)「新京報」2008年11月12日
「三亜市の代理市長がタクシー運転手たちに対して陳謝」
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2008/11-12/008@030124.htm

 三亜市の代理市長は11日に行われたタクシー運転手らとの交渉(上記の記事では「座談会」と表現されている)の席で陳謝し、タクシー会社への支払い金の金額を引き下げる問題、無許可タクシーの取り締まりの問題の解決を図ることを約束し、12日からのタクシーの正常運行の再開を要請した、とのことです。

 これら相次ぐ、タクシーのストライキについて、11月12日付けの「新京報」では、次のような意見を掲載しています。

(参考4)「新京報」2008年11月11日付け評論欄「第三の目」
「『無許可タクシー(中国語で「黒車」)』の背後に民生問題があることに注意しなければならない」
http://www.thebeijingnews.com/comment/zonghe/1044/2008/11-12/008@030129.htm

 この評論文では、重慶市では、8,000台の正規タクシーに対して、無許可タクシーが2,000台もいることを指摘して、これだけ無許可タクシーが多いのは、無許可タクシーに「従事」している人々が、主に、リストラされた失業者、農業戸籍から非農業戸籍に戸籍を転換した人々、三峡ダムの水没地域の人々などであり、生活のために無許可タクシーをやっている人が多いからである、と指摘しています。また、無許可タクシーを排除することは、これらの人々から「生存の糧」を奪うことである、とも指摘して、無許可タクシーの排除にあたっては、これら無許可タクシーで生活している人々の命運についても関心を払うべきだ、と主張しています。

 重慶市は、農村戸籍・非農村戸籍の一体化をモデル的に行っている地域です。

(参考5)このブログの2007年6月17日付け記事
「重慶と成都が農村・非農村統合試験区に指定される」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/06/post_f7a6.html

 農村戸籍から非農村戸籍になると、都市に住んで、都市住民としての行政サービスを受けることができますが、それは同時に農地という「生活の糧」を失うことを意味し、適切な職場が見つからなければ、失業状態となることを意味します。また、三峡ダムの水没地域に住んでいた人々には、立ち退きに際して代替の農地を与えられるか、そうでなければ補償金が支払われますが、補償金をもらって農地を失った人々のうち補償金を使い尽くす前に職を見付けることができなかった人々は、これもまた失業状態となります。

 上記(参考4)の評論の筆者は、タクシー・ストライキの背後には、単にタクシー業界内部の問題だけではなく、その地域の民生問題全体が絡んでいるのだ、と指摘しているのです。

 これまで急激な経済成長を続けてきた中国経済は「どこかの時点で長年に渡って行われてきた政策によって溜まり続けてきている『歪み』が社会の表面に出てくる時期が来る」と言われ続けてきました。今、その「時期」が始まりつつあるのではないか、と私は思っています。

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2008年11月10日 (月)

中国の景気刺激策は世界を救うのか

 11月9日(日)、中国でも世界的経済危機の影響により輸出企業に対する影響が大きいことから、中国の温家宝総理は、かなり思い切った(世界恐慌の後にアメリカのルーズベルト大統領が採ったニューディール政策を思わせるような)景気刺激策を発表しました。

(参考1)「人民日報」2008年11月10日付け1面
「十項目の内需拡大促進策が打ち出された~積極的な財政政策と貨幣政策の適度な緩和~」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-11/10/content_135966.htm

 この景気刺激策は、下記の十項目について実施するもので、2010年末までの間に総額4兆元(約60兆円)に達するものだ、とのことです。

(1) 安全に暮らせる住居を建設するプロジェクトの加速

(2) 農村インフラ建設(メタンガス利用、飲用水プロジェクト、農業用道路、農村電力網、「南水北調」(揚子江水系の水を北方の乾燥地域へ導くプロジェクト)、危険なダムの撤去や補強など。

(3) 鉄道、道路等の重要インフラ整備の加速(旅客用線路、石炭運搬用線路、西部幹線鉄道、道路、中西部の飛行場及び地方飛行場の整備、都市電力網の改造)

(4) 医療衛生、文化教育事業の推進(医療サービス体系の確立、中西部農村の小中学校の校舎の改造など)

(5) 生態環境インフラの整備(都市汚水・ゴミ処理上の建設と河川汚染防止、保護林・天然林の保護プロジェクト、省エネ・排出減少プロジェクトの推進)

(6) 自主的イノベーション及び経済構造改革の加速(ハイテク技術の産業化と産業技術進展、サービス産業発展への支援)

(7) 地震被災地区の復旧プロジェクト

(8) 都市及び農村の住民の収入の向上(食糧最低購入価格の値上げ(2009年)、農業補助金の増加、社会保障レベルの向上など)

(9) 増値税(日本の消費税に相当)の改革と企業の技術改造促進のために1,200億元(約1兆8,000億円)相当の減税の実施

(10)「農業・農村・農民」支援のため及び中小企業の記述改造のための金融規模の合理的な拡大など。

 この発表を世界各国のマーケットはかなり好意的に受け取ったようで、11月10日のアジア、ヨーロッパの株式市場は軒並み上昇し、先ほど始まったばかりのニューヨーク市場も上昇傾向で始まりました。

 ここのところ、中国の新聞では、かなり正直に、世界的経済危機の影響で沿岸地域を中心とする輸出産業がかなりの打撃を受け、多くの企業が操業を停止して、農村から出稼ぎに出てきている農民工が職を失いつつある、という報道を流していました。

(参考2)このブログの2008年11月7日付け記事
「農民工の失業ショックには政府の支援が必要」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/11/post-ce6e.html

(参考3)「人民日報」2008年11月8日付け記事
「珠江デルタ地帯の出稼ぎ労働者の群像~最近、外国の経済環境の影響を受けて、広東省の一部の企業は困難に直面しており、農民工の影響もまた影響を受けている~」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-11/09/content_135128.htm

 中国経済は、2007年までは北京オリンピックを前にして「バブル」と言えるほどに過熱気味でしたが、2008年7月頃から、ブレーキから足を離して、ごく軽くアクセルに足を掛ける程度に経済政策を転換してきていました。

(参考4)このブログの2008年8月18日付け記事
「発展改革委『オリンピック後の後退はない』」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/08/post_189d.html

 それが9月以降の米国発の金融危機を踏まえて、今回はアクセルをぐっと踏み込む政策にまた一歩進んだと言えるでしょう。

 実は、私は、中国の景気刺激策を伝える今朝(11月10日朝)の人民日報を見て、この報道が世界のマーケットにどれくらい影響を与えるのだろうか、と関心を持って見守っていました。アメリカ市場はまだ開いたばかりですが、現在のところ、今回の中国の景気刺激策は、相当程度に世界のマーケットに影響を与えたようです。先ほど見たCNNのニュースでは、今回の中国の景気刺激策が世界のマーケットにプラスに作用したことをトップニュースで伝えていました。「世界の工場」と呼ばれる中国は、もはや世界の経済全体の動向を左右する相当に大きなプレーヤーに成長したと見るべきでしょう。

 問題は、そういった中国で、今後、政治的な動きも含めて、社会的な変動が起こった場合には、世界全体に対する影響は20年前とは比べものにならないくらい大きくなっている、ということです。中国で社会的な混乱が起きたら、近くにいる日本が大きな影響を被ることはもちろん、世界全体に大きな影響を与えることになります。そういったことを考えると、今、中国はいろいろな国内問題を抱えていますが、それは単に中国国内だけに関係する問題ではなく、世界全体に影響する大きな問題として、世界全体が解決へ向けてみんなで協力して対処していくことが必要なのだと強く感じました。 

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2008年11月 7日 (金)

農民工の失業ショックには政府の支援が必要

 今日(11月7日)付けの北京の新聞「新京報」では、世界に広がる経済危機の影響が中国の輸出産業に出ており、そのあおりを受けて農民工(農村から都市部に出てきている出稼ぎ労働者)がリストラされている現状を指摘して、政府はこういった失業の危機に直面している農民工たちを支援すべきである、と主張する社説を掲げています。

(参考)「新京報」2008年11月7日付け社説
「農民工が直面している失業ショックに対して政府は支援の手をさしのべるべきだ」
http://www.thebeijingnews.com/comment/shelun/2008/11-07/008@030133.htm

 この社説は、かなり率直に現在の中国経済が直面している困難を指摘しています。この社説の主張のポイントは以下のとおりです。

○輸出品製造企業の操業停止により、沿海地域においては大量の農民工の「故郷へ帰る流れ」が起きている。農民工の数は膨大で、今年8月に出されたデータでは、2007年の時点での中国の農村の外で働く労働者は1.26億人に達している。郷鎮企業(農村部にある中小の地場企業)の従業員は1.5億人であり、重複部分を除くと、2007年の時点で農民工の数は2.26億人に達していると見られている。

○農民工の地位はぜい弱である。2006年末の時点で、農民工に支払うべき給料のうち欠配となっているのが1,000億元に達しているという。建設業では、72.2%の企業で賃金の欠配が起きており、毎月きちんと給料が支払われている労働者はわずか6%に過ぎないという。

○我が国の多くの輸出企業は、低コストにより国際競争に勝つため、労働賃金の抑制にますます圧力を掛けている。これは農民工に満足した生活を与えないと同時に、こどもたちに対する十分な教育投資ができない現状を生み出し、低賃金労働者では貧困の世代間連鎖が起きている。

○農民工は都市では十分な社会保障を得られていない。一部の沿岸地域では、社会保障を与えるために農民工から社会保障経費を徴収しているところがあり、農民工はいったん故郷に帰ると今度は故郷の地方政府から一定額の社会保障費を徴収されるという現象も起きている。

○今、金融危機の影響を受けている中国経済の中で、多数の農民工が受けているショックは極めて大きい。その中でも「失業ショック」が最も厳しい。香港工業総会会長の陳鎮仁氏は、珠江デルタ地帯にある7万社の香港系企業のうち、今年年末までに四分の一は操業を停止するだろう、と見ている。もしこういったことが起これば、極めて多数の農民工の雇用が失われることになる。

○農民工の失業は、政府関係部門の失業統計の中には含まれていない。従って、表面上は重大な失業問題として統計数字に表れていなくても、中国の製造業で就業する労働力のおよそ半分は農民工なのであるから、彼らが職を失い、故郷に帰ったら、失業状況が重大な状況に陥るだけでなく、中国における都市化の進展という意味でも、大きなブレーキが掛かることになる。

○地方政府が経営が困難になった企業の労働者の賃金を肩代わりしたり、経営が困難になりそうな企業を見極めて支援したりすることにより、珠江デルタ地帯や浙江省においては、「突発的な事件」の発生を防止している。

○中国の経済の発展と都市化を進めていくためには、社会の安定が重要な前提であり、そのためには農民工に対して明るい就業状況の見通しが与えられなければならない。

○政府は、現在、鉄道建設等の公共事業に巨額の投資をして就業問題を解決しようとしている。それに加えて、農民工の雇用の90%を担っている中小企業に対する多種多様な税の優遇措置や、個人所得税・増値税(日本の消費税に相当)を減税して、中国経済を内需牽引型に転換しなければならない。農民工を農地にも工場にも居場所がない「根無し草」にしてはならない。

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 「人民日報」や「新華社」、「中央電視台」などの報道では、「世界的経済危機の中でも中国経済は堅実な成長が可能である」といった「あまり心配する必要はない」となだめるような報道が多いのですが、実態は、世界の金融危機は中国の輸出産業に相当な打撃を与えていると見た方がよいと思います。ただし、現時点では、農民工等による大きな社会的騒乱事件が起きていないのも事実であり、中国政府が今の時点では農民工の不満を何とかなだめている、というところなのだと思います。しかし、上記の社説の中で出てくる「珠江デルタ地帯の香港系企業の四分の一が年内に操業を停止するだろう」という見通しは、現在のような「なんとかなだめている」状況を長期間にわたって続けることを難しくする可能性が大きいのではないかと思います。

 上記の社説の中で出てきている「失業統計の中に農民工の失業が含まれていない」といった中国の統計上の数字の問題は、結構大きな問題を抱えていると思います。企業経営者や政策決定者が社会の状況を正しく把握できていない中で様々な判断をしている可能性があるからです。「公開はされていないが、党・中央は悲観的なデータも含めて経済に関する正確なデータを持っていて、正確に舵取りをするから心配ない」という見方もあります。しかし、党・中央の「事実を知りうる少数の人々」はスーパーマンではありませんから、少数の人だけが事実を知っているような社会がうまくコントロールできていくとは思えません。

 「救い」は、上記のような社説が新聞に掲載され、多くの人々が問題意識を共有するようになってきていることです。党や政府がどう考えているかに関わりなく、今後、多くの人々は解決策を模索し、それを党や政府に実施することを求めていく動きが強くなっていくのではないかと思います。

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2008年11月 4日 (火)

女性農民工についてのルポ

 今日(11月4日)付けの人民日報では、「社会観察」という特集ページで、女性の農民工(農村から都会に出稼ぎに出てきている農民)の実態に関するルポルタージュを掲載していました。

(参考)「人民日報」2008年11月4日付け
「流動の中に咲いた青春(記者調査)」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-11/04/content_131967.htm

 この記事のポイントは以下のようなものです。

○35歳のAさん。黒竜江省依安県の農村から、2005年末に家の稼ぎの足しにするため、彼女一人でハルビンに出稼ぎに出てきた。ファースト・フード店で皿を洗うのが仕事。朝の9時から夜の10時まで働き、休日はない。月給は1か月450元(6,750円)。6人で、1日に台車30個分の皿を洗うので、洗剤で手が荒れてしまう。1週間たたないうちに手の指が真っ白になった。その後、労働市場でパートタイムの職を見付けて、今は月1,100元の収入になっているので、今では生活に使った残りの700元ちょっとは貯めておける。

○統計によれば、黒竜江省の流動人口(戸籍がある場所ではない場所で生活している人々)のうち、39歳以下の女性の占める割合が50%前後で、そのうち75%は初等中学(日本の中学校)卒業以下の学歴である。彼女らは単純労働に従事し、月収は多くて500元前後である。

○Bさんは23歳。四川省宜賓からやってきた。2年ちょっとの間に4つの都市を渡り歩いた。四川省綿陽の電子計器組み立て工場で働き、四川省成都の卸売り市場で衣服を売り、貴州省のオモチャ工場でぬいぐるみを縫い、最後は広東省深センの正規のレジャー・センターでマッサージを勉強している。今の収入は月3,000元前後。彼女は「すごく疲れます。クーラーの効いた部屋の中でも汗だくになります。私は初等中学(日本の中学校に相当)しか出ていないので、欲しい給料の額がもらえる仕事に就くのはすごく難しいです。」と言っている。

○Cさんは江蘇省灌雲県朱橋村から来た28歳で、もうすぐ小学校3年生になるこどものことが心配だ。こどもが2歳の時、こどもをおばあさんに預けて、夫とともに蘇州市工業団地に出稼ぎに来た。前の学期、こどもの勉強の成績が急に落ちたので、彼女は1か月休みをもらって故郷に帰った。「近くにいてこどもを教育してやる人がいないと。でも、故郷以外で学校に行くと学費が高いし、住むのも食べるのも大変だ。」

○「女性労働者の家」の理事をしている方清霞さんは、自分が以前、女性出稼ぎ労働者だったので、都市に出稼ぎに来ている女性の境遇はよく知っている。彼女は言う。「病気になるのが一番怖い。カゼをひいて病院にいっただけで200元掛かる。これは部屋代1か月分に相当する。」「戸籍問題は非常にやっかいだ。都市の人ならば必要のない、いろいろな手続きや証明書が要る。住む場所を探すのも大変だ。家賃が高いだけでなく、よく夜中に戸籍調査を受けた。」

○中国社会科学院人口・労働経済研究所の鄭真真教授は、都市で働く出稼ぎ労働者の状況の根本原因は、都市と農村の二重戸籍制度にあると指摘している。ただし、彼らが欲しいと思っているのは「非農村戸籍」を示す一枚の証書ではなく、就業、分配、社会保障の点で都市住民と同等に競争できる社会できる地位なのである。

○山東省聊城から出てきたDさんは、北京のある倉庫設備会社の販売代表である。21歳の彼女は既に出稼ぎを始めて5年になる。去年、北京の通州で働いていた木板工場では、朝8時から夜8時まで働いて、その間に休憩は1時間だけ。いつも超過勤務手当なしで残業していた。「ひどいときは2日間一睡もしないこともあった」。

○労働契約が締結されておらず、超過勤務手当が支払われないことも多い。全国婦女連合会が実施した1,000名の都市で働く女性出稼ぎ労働者に対するアンケート調査によると、正式な労働契約を結んでいたのは48.2%、6割の女性労働者が毎日8時間以上働き、そのうち3割に満たない人しか法定の超過勤務手当をもらっていなかった。また、約半数が社会保障体系の中に入っていなかった。特に、若い女性労働者にとって重要な生育社会保険に至っては、使用者側も労働者側も重視しておらず、保険に入っている人はわずか0.8%しかいなかった。

○「出稼ぎ女性労働者の家」は1996年に成立した中国最初の女性出稼ぎ労働者のための公益組織である。この組織の笵暁紅理事は、労働者の権利保護の仕事をしているが、「労働契約法」が明確に要求しているにもかかわらず、多くの企業、特に正規ではない小規模の企業がいろいろな方法で規定を逃れている。

○女性出稼ぎ労働者は法律知識が乏しく、権利意識が希薄なので、権利侵害が起きても、それを主張しないことが多いか、自分が権利を侵害されていることすら知らないケースも多い。

○女性出稼ぎ労働者は結婚する年齢が遅くなるケースが多い。多くの女性出稼ぎ労働者は、内陸部の山村から出てきている人も多く、避妊や性病に対する知識がない人も多い。深セン市羅湖区がかつて調査したところによると、病院で人工中絶をした女性の6割は未婚の出稼ぎ女性労働者であったという。

○一部の出稼ぎ女性労働者の中には、都市で働く過程で、勉強と職業訓練を通じて自分の能力を高め、成功している例もある。全国婦女連合会のアンケート調査の中では、10.4%が管理職に、8.3%が会社社員になっていたという。

○中国社会科学院人口・労働経済研究所の鄭真真教授は、「女性出稼ぎ労働者は、中国の経済成長の推進の中で無視できない役割を果たしている。人材開発の観点で考えるのと同時に、女性労働者個人と社会の発展との関係にプラスをもたらすためには、社会が働く女性に自分の能力を発展させる機会を与えることができるかどうかがカギだ。」と述べている。

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 「人民日報」も農民工の実態については、こういったルポを時々掲載します。かなり多くのケースで、二重戸籍制度が問題だ、といった指摘がなされるのですが、実態はなかなか改善しません。「労働契約法」ができて施行されたのは、今年(2008年)の1月1日です。「中国の特色のある社会主義」とは「労働者がこういうふうに扱われている社会主義なのだ」ということは、中国の国内の人も、外国の人も知っているのですが、なかなか改善されません。多くの外国の企業は、こういった弱い立場におかれた多数の労働者がいることによって国際的に競争できる価格の中国製品の恩恵を受けているので、少なくとも外国からは、こういった状況を改善させよう、という圧力が働かないからかもしれません。

 中国共産党の機関誌「人民日報」が、こういった問題に目をつぶらずにちゃんと記事にしていること自体は「救い」なのですが、記事にはなるけれども、実態があまり改善されないのを見ていると、こういった記事も「党・中央は農民工の厳しい現状をちゃんと認識していますよ」といった「宣伝」の役割しか果たしていないのではないか、と思えてしまいます。

 現在の世界的な厳しい経済情勢の中で、今、中国の企業も相当に苦しんでいるところだと思います。一方で、労働者の権益保護の意識は、こういった「人民日報」の記事などを通じて、じわじわと労働者の中に根付いていくと思います。諸外国も、安い労働力の中国を利用することのメリットを享受する時代は終わった、と認識して、むしろ中国の数多くの労働者の権益を保護することによって、中国国内の労働者の収入を増やし、中国国内の内需を拡大して、中国を巨大な市場として活用することによって世界の経済成長につなげる、という方向に、中国との付き合い方を変えていく必要があるのではないかと私は思っています。

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2008年10月28日 (火)

第17期三中全会決定のポイント

 10月9日~12日に開催された第17期中国共産党中央委員会第3会全体会議(第17期三中全会)で「中国共産党中央による農村改革の発展の推進における若干の重大問題に関する決定」(以下、簡単に「決定」と呼ぶことにします)が決定されました。

(参考)「新華社」ホームページ2008年10月19日アップ
「中国共産党中央による農村改革の発展の推進における若干の重大問題に関する決定」(2008年10月12日中国共産党第17期中央委員会第3回全体会議で採択)
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-10/19/content_10218932_1.htm

 この決定は、非常に重大な内容を含んでいるものの、表現が「改善させる」とか「強化する」とかいった曖昧な表現になっており、実際にどの程度厳格に進めるのかについては、今後、この方針を具体的な法律として書き起こす時に決められると考えられる部分が多いので、新聞報道などではあまり「重大な変化」としては報道されていないようです。しかし、従来の中国共産党の基本方針からすると、かなり大きな「方向性の変化」を示す部分も含まれていると思われますので、簡単にそれをまとめておきたいと思います。

 今回の「決定」は、大きく分けて6つの部分にわかれています。それぞれの部分についての「決定」の内容とその意味について私が考えるところを簡単にまとめておきたいと思います。

1.新しい情勢の下における農村改革発展の重大な意義

 ここの部分は、現状認識を述べた部分で、1978年12月の第11期三中全会で決められて現在まで続いている改革開放路線の中で、いくつかの矛盾点が出てきており、その問題点に対処するためには農村改革をさらに進めることの重要性を指摘しています。その際、ポイントとして指摘しているのは以下の点です。現在の中国社会が抱える問題点をかなり率直に認めている点では注目に値すると思います。

○食糧と主要農産物を効果的に生産し、農民の収入を増加させ、農村を反映させることが持続可能な社会を発展させるための基本である。

○改革開放政策の進展により、グローバル化(国際的な協調と競争の深化)が進む中で、中国における「都市と農村との二重構造の問題」における矛盾が突出してきている。農村の経済体制は、現在においてもなお不完全であり、農業生産経営の組織化はいまだに低く、農産品のマーケットシステムと農民に対する社会福祉制度と国家が農業を支援する制度は完全なものとは言えない。

○気候変動の影響が大きくなってきており、自然災害が頻発している中、国際的な食糧需給の矛盾も突出しており、国家的な食糧安全保障と農産品の需給バランスとの関係は緊迫してきている。農村における社会的事業の水準は低く、農村と都市との収入格差は拡大しつつある。一部の地方では、最も基盤となる農村組織の基盤がぜい弱であり、農村における民主的法制度と基盤的組織と社会管理体制の確立が重要になってきている。

○農村の繁栄と安定化、農民が安心して暮らせる状況の実現なくしては、全国人民が安心して暮らせる社会を実現することはできない。

○現在は、農村と都市の二重構造を終わらせ、都市と農村が一体化して発展する局面を作るための重要な時期に差し掛かっている。

2.農村改革を発展させるための指導思想、目標、重大な原則

 ここでは、1.で述べた現状認識に基づき「何を行うか」を掲げた部分です。この中で、2020年までに農民一人あたりの純収入を2008年の2倍にする、という数値目標を掲げています。ただし、1.で都市と農村との格差拡大の問題を指摘しながら、ここでは「都市と農村との格差の縮小」を目標としては掲げていません。今後とも、農村における農民の収入増加の努力は続けつつも、「都市と農村との格差」を「縮小」させることは難しい、との認識があるためと思われます。

 収入の拡大とともに、消費水準の大幅な上昇、貧困の克服、農民自治制度の確立、農民の民主的権利の保障、農民一人一人の良好な教育機会の確保、農村における基本的な生活保障、基本的医療制度の健全化などが掲げられていますが、ここは「数値目標」的なものがないため「改善のために努力する」以上のことは、この「決定」の中から読みとることはできません。

 「決定」では、上記の目標を達成するための「原則」として、以下の5つを掲げています。

○農業の基盤を固め、全国13億人の食糧を確実に確保すること。

○農民の権益を確保し、農民の基本的利益を実現し、維持し、発展させることを一切の任務の出発点・立脚点として押さえること。

○農村における社会生産能力の開放を進め、新しい政策を農村発展の原動力とすること。

【解説】ここの部分は、過去の「人民公社」時代には、土地や生産資材の完全公有化と農作業の共同化により、個々の農民の農作業に対するインセンティブ(やる気)を失わせたのに対し、改革解放後、「人民公社」を解体して、個々の農民に「生産請負」の形で自主性を与え、各農家のインセンティブを引き出して農業生産を拡大させてきた過去の経験を踏まえたものです。

○都市と農村との発展を統合し、新しい工業と農業との関係、都市と農村との関係を速やかに構築すること。

○中国共産党の農村における管理任務を堅持し、党による農村における指導の強化・改善を図ること。

【解説】「改革の推進により農民の心が中国共産党から離れることがあってはならない」という党としての危機感を感じる部分です。

3.新しい制度改革を協力に推進し、農村制度の確立を強化する

 ここの部分がいわば今回の「決定」の「目玉」の部分で、具体的な新しい政策のあり方が列挙されています。

(1)農村の基本的経営制度の安定化と確立

○個々の農家単位の生産請負制は「長期的に安定」である。

【解説】中国の土地は公有(国有または村などの集団所有)ですが、各農地における農業生産は「生産請負」の形で各農家に任されています。「生産請負契約」によって求められる一定量の生産量を超える部分は、各農家で自分の収入として処分できます。これが各農家のインセンティブ(やる気)を出させて農業生産を拡大させた改革開放の原点なのですが、改革開放当初は、この「生産請負制度」は30年の期限付きで行う、として始められました。今、改革開放から30年が過ぎようとしているので、この期限を30年から70年に延長すべき、といった議論がなされていました。今回の「決定」では、具体的な延長年限は明示せず「長期的に安定である」という曖昧な表現になっています。年限を切らなかった理由、または年限を切らずに「無期限」としなかった理由については不明ですが、将来の政策変更に含みを持たせたかったため、と理解することもできると思われます。あるいは党の内部で議論の集約ができなかったからかもしれません。

(2)健全で厳格かつ規範的な農村土地管理制度を確立する

○土地管理制度を厳格にし、全国の耕地面積18億ムー(1ムーは6.667アール=15分の1ヘクタール)という「レッドライン」を下回らないように死守する。「永久基本農地」を確定し、「基本農地」の面積を減らしたり、用途を変更したりしないようにする。

○農家の土地に対する「請負生産経営権」、即ち「請負生産」を行うために農家が農地を占有し、使用し、そこから収益を上げることを権利として確立する。「請負生産経営権」については、「請負生産経営権」を交換する健全なマーケット(「請負生産経営権交換市場」)を設置し、「請負生産経営権」を他者への請負委任、貸し出し、交換、譲渡、株形式での持ち合い等の形式で移転させることにより、多種多様な経営方式と適切な規模の経営が可能なようにする。条件が整っている地方においては、大規模専業農家の発展、家庭農場、農民が集まって作る専業合作社の設立などの様々な経営規模の経営主体が考えられる。「請負生産経営権」の移転は「土地は公有(国有または集団所有)である」との大原則を変えるものではなく、全体としての農地の規模を変えるものであってはならない。

【解説】

 ここの部分が今回の「決定」の最も重要な部分です。「土地は公有」という大前提は変えることはしないが、他人への委任、貸し出し、交換、譲渡、株形式での持ち合い等により「請負生産経営権」が特定の者(または合作社などという名前の組織)に集中し、大規模農業経営が行われることを認めています。これは、農業生産会社が農家から「請負生産経営権」を買い取って大規模プランテーションを行うことを可能にしているほか、大規模農家が貧しい農家から「請負生産経営権」を買い取ることを可能にしている、という点で、「大規模地主から土地を取り上げて大多数の貧農に土地を分配する」ことから出発した中国共産党の大原則を変える、という意味で、極めて「革命的」であると言えます。

 「請負生産経営権」を売った農民が「請負生産経営権」を買い取った会社や大規模農家の「雇用者」として耕作を行うこともあり得るので、この制度により、「請負生産経営権」は耕作者の手元から離れることになります。日本では農地法において実際の農地の耕作者以外に農地の所有を認めていないので、この制度が中国で実現することになると、農業に関しては、日本の方が中国よりずっと「社会主義的な国」ということになります。

 ここの部分では「請負生産経営権」を農業を行わない者(工業用地開発業者など)に譲渡できるのか、についてははっきりした記述がありません。譲渡できるのは「請負生産経営権」であって「土地使用権」ではないので、譲渡を受けた者は必ず農業の請負生産をしなければならないのだ(経営権は譲渡できるが、農地の農業以外への利用はできないのだ)、と読むのが自然だと思われますが、「請負生産経営権」は「権利」であって「義務」ではなく、「請負生産経験権」の譲渡を受けた者が「農業生産を行う権利」を放棄して農地を別の用途に利用することも禁止していないようにも読めるので、この点は極めて曖昧です(曖昧であるが極めて重要な部分です)。

 また上記項目の中で「請負生産経営権」の移転を認めておきながら、「『土地は公有』との原則は不変であり、全体としての農地の規模を変えるものではない」としている部分も意味不明です。ここの部分は、「『土地は公有』という原則はいつまでもついて回るので、土地の収用権(必要な時に合理的な補償金を払うことによって土地の使用権を回収する権利)は、国または村などの集団が保持しているので、中国全体として農地が不足する場合は、国または村が「土地所有権」に基づく土地の収用権を発動して、合理的な補償金を支払った上で「請負生産経営権」の所有者から土地を取り上げて国家が必要とする農産物を生産させるようにすることが可能なのだ、という意味なのかもしれません。

 ただし、ほとんどの農地は村など地方の「集団所有」であって「国有」ではありません。各村にとっては中国全体の農地が不足しているかどうか、などということは関心の外ですので、実は「土地は公有」であることは「中国全体の農地の規模が一定以下にならないようにするための支え」には全くなっていないのです。そういった点も踏まえると「請負生産経営権」の譲渡等を認めることと「『土地は公有』という原則は不変である」こととの関係は、曖昧模糊としており、この「決定」だけではどういう政策が採られるのかは全く判断できません。

○農家の住宅用地については、法に基づき農家に住宅用地としての「物権」を保障する。農家の住宅用土地を収用する場合には、「同地同価」の原則に基づき、合理的な補償を行うとともに、宅地用土地を収用する農民の就業、住居、社会保障などの問題を解決しなければならない。

○都市と農村とで統一した建設用土地市場を設立し、収用した土地の使用権を転売する場合には、必ず統一的な市場において公開の場で土地使用権の売買を行うこととする。

【解説】

 ここの部分は、現在、農家の住宅用土地も「集団所有」であることから、村などが十分な補償を行わずに農民の住宅用土地を収用し、村当局が特定の開発業者と土地の売買をしていて、土地売買の透明性が確保されていないケースが多い、という現状を反映しているものと思われます。

 また、農民の住宅用と地の「土地使用権」を土地を所有している集団の構成員(村民)以外の人に譲渡できるのかできないのか、についてもこの「決定」では述べていません。従って、現在、問題になっている「小産権」(農民の土地の上にマンションや別荘を建てて都市住民(村民以外の者)に売買するような不動産物件)の存在を認めるのか認めないのか、は、この「決定」を読んだだけではわかりません。 

(3)農業支援制度を確立する

○農業生産のために必要な物資の価格が高騰した時の補償、農産品の価格保護制度など農業を安定的に続けられるようにするための制度を確立する。

(4)近代的な農村金融制度を確立する

○農村合作組合や信用組合など近代的な農村金融制度と政策性農村保険制度を確立する

【解説】ここの部分については、農民が上記の「請負生産経営権」を担保として金融機関からお金を借りられるのか、という疑問が生じます。新聞に掲載されている専門家の解説によると、農民がお金を返せなくなり金融機関が担保にしていた「請負生産経営権」を接収しても、金融機関は「農業経営」はできないのだから、そもそも「請負生産経営権」は担保とはなりえない、とのことです。しかし、金融機関は「請負生産経営権」を取得した後、その権利を農業経営をすることができる第三者に売却することが可能なのだから、担保とすることは可能である、と考えることもできます。「請負生産経営権」をここでいう「近代的な農村金融制度」の担保とすることが可能なのかどうか、という疑問は、農村における金融制度の確立上極めて重大な問題なのですが、この「決定」では、その疑問には答えていません。

(5)都市と農村との経済社会発展一体化制度を確立する

○農村と非農村に分かれている現在の戸籍制度を改革し、中小都市においては、都市で安定的に就業している農民が都市住民になれるよう制度を緩和する。労働報酬、子女の就学、医療、住宅借り上げ・購入、養老保険等の面において農民工(農村戸籍の農民が都市に出て働いている出稼ぎ労働者)の権益を保護する。

【解説】現在、農民工の子女は都市部で公立学校に入学できず、医療保険が適用されず、住宅の借り上げ・購入などにもいろいろ制限があります。ここでは二重戸籍制度は「やめる」とは言っていないし、「いつまでに何をやる」といったタイムスケジュールも示されていないので、現実的に農民工の権益保護が改善されるかどうかは、今後の政策の進展に掛かっており、具体的にどういった改善がいつまでになされるのか、は、この「決定」を読んだだけではわかりません。

(6)農村における民主管理制度の健全化

○2012年までに郷鎮(村レベル)の機構改革を終了させ、郷鎮政府の社会サービス機能を強化する。

○郷鎮政府の統治管理に対する農民の政治参加と積極性を引き出すため、行政事務の公開と法に基づく農民の知る権利、参政権、意思表示権、監督権を確立する。

○村の党委員会組織による指導を健全化し、村民自治システムに活力を与えるため、直接選挙制度を深く展開させ、村民会議、村民代表会議、村民議事によって民主的に政策決定を行うようにする。

【解説】村民委員会の直接選挙制度は地方によっては1990年頃から既に導入されてはじめています。今回の「決定」では上記のように書かれていますが、具体的に村民委員会と村の中国共産党委員会との間で、実質的な政策決定権限がどこにあるのかが明確にならない限り、どのような「民主化を進める」というスローガンを掲げたとしても、実際にどの程度民主化が進むかは疑問です。この「決定」を見ると、逆の見方をすれば、郷鎮(村)より上のレベル(市や県のレベル以上)では住民の直接選挙による自治制度を導入する考えは全くないことがわかる、という見方をした方がよいのかもしれません。

 4.以下は新しいことは何もない(と私は思う)ので項目だけを掲げます。

4.近代的農業の発展と農業総合生産能力の積極的な発展

(1)国家食糧安全保障の確保
(2)農業構造の戦略的調整(市場のニーズと各地方の特色に合った生産品目や生産規模の設定)
(3)農業における科学技術イノベーションの推進
(4)農業インフラ施設の整備
(5)病害の防止、農産品の品質管理、農業生産資材の安定的供給確保等の新しい農業サービス体系の確立
(6)循環型農業、副産物や廃棄物の資源化等による持続可能な農業の発展(森林や草原を食い尽くすタイプの農業の排除)
(7)農業の対外開放(国際市場の研究と情報収集を強化し、国際的な農産品貿易秩序に積極的に参加する)

5.農村における公共事業を加速させ、農村社会の全面的な進歩の推進

(1)科学的思考(迷信や旧い風習の排除)、遵法道徳、男女平等の普及などの文化活動を発展させる。
(2)農村における公平な教育の推進
(3)農村における医療・衛生事業の発展
(4)農村における最低生活保障、養老保険、自然災害被災者、障害者等に対する社会保障体系の健全な発展
(5)電気、水道、道路、ゴミ処理などの農村における生活インフラ建設の強化
(6)貧困地域の開発支援の推進
(7)農村における防災・減災対策の推進
(8)農村における社会治安維持管理の強化(健全な党と政府の主導により農民の検疫を守り、広く社会の人々との意思疎通を図ることにより、各種矛盾は萌芽の段階で解決する)

6.党による指導を強化・改善し、農村の改革発展に対して政治的な保証を提供する

(1)党による農村の指導体制を強化する
(2)農村の基盤における党の組織を強化する
(3)農村の基盤における党幹部の人材養成を強化する
(4)農村のおける党員の人材養成を強化する
(5)農村における党の規律維持を強化する

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 以上が第17期三中全会で決まった「中国共産党中央による農村改革の発展の推進における若干の重大問題に関する決定」のポイントです。「方向性」としては、特に「請負生産経営権」の譲渡を可能としている部分で、もはや「社会主義」とは言えないような方向を目指すような重大な転換を含んでいます。しかし、「請負生産経営権」の譲渡や移転を認めながら、なぜ土地の所有は公有であり続けなければならないのか(なぜ土地の私有制を導入できないのか)など、多くの疑問と曖昧な点を残しているのが今回の「決定」の特徴だと思います。

 中国では、現在では、中国共産党の決定がそのまま実行されることはなく、党が決めた方針に沿って法律が作られ、その法律が全国人民代表大会(全人大)で決定されて、初めて政策が現実のものとして実施されることになります。従って、法律案が起草されて、その法律案が全人大で議論される過程で、具体的な実施方針が変更されることはあり得ます。全国人民代表の3分の2程度は中国共産党員ですので、基本的な方針が大きく変わることはありえませんが、法律案の概要が新聞などで伝えられて、多くの人々から強い不満が出たりすると、法律の審議の過程で修正が入ることは十分にあり得ます。現在の中国では、議会制民主主義のシステムはないけれども、中国共産党と言えども、世論を無視した政策の強硬はできない状況になっているのです。

 上記の農村改革に関する問題の中で、例えば二重戸籍制度の改革は、農民にとっては是非とも廃止して欲しい制度ですが、安い労働力が農村部から自由に都市に流入してきては困るので、都市住民にとっては二重戸籍制度の廃止は、必ずしも歓迎すべき政策変更ではありません。議会制民主主義システムがない以上、そういった人々の中に異なる意見が存在する場合に、その意見をどうやって集約して政策に反映させるのか、という「ルール」は中国にはまだ存在していません。今回の第17期三中全会で決まった農村改革に関する決定も、固まったルールがない中で世論を取り入れて具体化されていくことになるので、どういった人々の世論を取り入れ、どのような形で、いつ具体的な政策を固めていくのか、を今から予測することは困難です。

 今回決定された「農村改革」は、中国にとって長期的に極めて重要な課題ですが、それよりも、現在、世界を覆っている経済危機とそれに伴う中国の輸出産業の低迷の方が現在の中国にとっては緊急の課題です。そういう意味でも、今回の第17期三中全会での決定は、今すぐに結果が見える、というものではなく、長期的な観点で見ていく必要があると思います。

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2008年8月 7日 (木)

開会式前日の天安門前広場はいたって平和

 オリンピック開会式前日の今日(8月7日)は、開会式に出席する各国首脳の北京到着がピークになり、北京市内に大幅な交通規制が敷かれる可能性があったため、夏休みを取りました。明日の開会式当日は、天安門前広場周辺には大幅な立ち入り制限が敷かれるので、開会式当日に天安門前広場の様子を見に行くことは難しいと考えられたので、開会式前日の今日、地下鉄で天安門前広場の近くまで行って、広場の周囲を歩いてみました。地下鉄の駅では手荷物検査をやっていましたが、私が行ったのは昼間の時間帯だったので、お客で混雑するというようなことはありませんでした。地下鉄自体も普通通りの混み具合で、ギュウギュウ詰めということはありませんでした。

 天安門前広場の約1km東にある北京飯店は、オリンピック関係者が宿泊しているらしく、周囲の歩道に柵が設けられて立ち入り禁止になっていました。しかし、北京飯店の東側にある大通り・王府井大街は、立ち入り禁止になっている部分より北側では、いつもの通りの「歩行者天国」で、大勢の観光客が散策していました。

 北京飯店(長安街の北側にあります)の前の歩道が歩行禁止なので、長安街の南側の歩道を使って天安門前広場まで歩きました。明らかに警官の数はいつもより多いのですが、緊張した雰囲気はなく、たくさんの観光客がのんびりと歩いていました。天安門前広場に入るには地下道を通るのですが、その地下道でまた手荷物検査がありました。私は近くのスタンドで買った中国の新聞を持っていたのですが、係員の人に「何新聞かを見せるように」と言われました。中国で売っている普通の新聞だとわかると、すぐに通してくれました。危険物をチェックする、というよりも、政治的に問題のあるビラなどを持っていないかどうか、がチェックポイントのようでした。

 天安門広場は、真ん中に大きな北京オリンピックのシンボルマークが立っており、東側と西側には、「同一個世界、同一個夢想」というオリンピックのスローガンを表現した飾り付けがされていました。人民英雄記念碑の前には「五洲四海喜慶奥運盛会」(世界中の人々がオリンピックの盛会を喜んでいる)、「改革開放共譜和諧篇章」(改革開放政策によりみんなだ和諧社会(ハーモニーのある社会)の新たなページを書き加えよう)というスローガンが掲げられていました。ただ、こうした「オリンピック用の飾り付け」は広場の面積の一部を使っているだけで、天安門前広場の広さはいつもと同じでした。オリンピック期間中は、この天安門前広場の広いスペースを利用していろいろなイベントが行われるはずなのですが、イベントのための「舞台装置」は「備え付け」ではなく、イベントが行われるたびごとに据え付けられるようです。

 今日は、オリンピック開会式前日ということもあり、確実にいつもより外国人観光客が多いように思えました。メーデー休みや国慶節の連休の時には、天安門前広場は、中国各地からの「お上りさん」で満杯になり外国人観光客はあまり目立たないのですが、今日は、逆に、中国各地から北京に出てきた「お上りさん」ふうの人はほとんど見掛けませんでした。地方の人はあまり経済的に豊かではないので、服装などを見ると都会の住人と大体区別が付くのですが、今日見た限り、天安門前広場にいる中国人らしき人々は、結構経済的に豊かな人ばかりのように見えました。北京市内の建設現場での工事がオリンピックのために停止している関係もあり、地方から北京に働きに来ている人々(いわゆる「農民工」と呼ばれる人々)が北京からだいぶいなくなっているからかもしれません。

 警備の警察官は確かに多いですが、ほとんどギスギスした緊張感はなく、思ったよりも平和なムードが漂っていました。

 今日の北京は「薄曇り」ですが、もやが掛かったような感じでした。雲間から太陽が顔を出すと、正視できないくらいまぶしく感じるのですが、「もや」があるので「ジリジリ照りつける」感じがなく、暑さはそれほど感じませんでした。気温は30度をちょっと超える程度だったと思います。視界は3kmくらいでしょうか。下に、今日、天安門前広場で私が撮影した写真を掲げておきます。約1km程度離れた北京飯店の建物が少しもやって見えるのがわかると思います。今日の北京の大気汚染指数は95だとのことで、車の規制をやっている割りには汚染係数が大きかったと思います。マラソンや自転車競技だと、ちょっと気にする人がいるかもしれません。

(参考1)オリンピック開会式前日の天安門前広場
http://homepage3.nifty.com/itaru_watanabe/HEX/tenanmonmaekankokyaku.jpg

(参考2)北京オリンピックのシンボルと天安門
http://homepage3.nifty.com/itaru_watanabe/HEX/symbolandtenanmon.jpg

(参考3)天安門前広場西端から見た北京飯店(ややかすんで見える)
http://homepage3.nifty.com/itaru_watanabe/HEX/beijinghotel.jpg

 雲南省昆明でのバス爆破事件や新疆ウィグル自治区カシュガルでの武装警察国境支部隊襲撃事件など、凶悪な事件が続いていますが、少なくとも今の北京ではオリンピックの運営に支障が出るような雰囲気は全くありません。街にボランティアの青い制服を着た人たちもたくさん歩いていますし、みんなそれなりに一生懸命に準備しているので、オリンピックの運営には問題は出ないと思います。

 ただ残念なのは、3月のチベットの騒乱、四川省大地震、カシュガルでの襲撃事件などで、オリンピック観戦のために外国から中国へ来た観光客が、この機会に中国各地の観光地へ回る、という雰囲気がなかなか盛り上がらないことです。大地震があった四川省でも、例えば世界自然遺産の九寨溝では観光客の受け入れを再開する、など受け入れ体制は整っているのですが、気分的に大地震の被災地の近くへは観光に行きにくい、と思う人が多いのではないかと思います。本当は、現地では観光で生計を立てている人も多いので、多くの人が観光に行くことが地震からの復興に役立つ面はあるのですが、観光は「楽しむ」ものなので、「気分的に乗らない」というのはいかんともしがたいところです。

 今日(2008年8月7日)現在、日本の外務省の海外安全ホームページにある「危険情報」では、中国については次のような渡航情報(危険情報)が出ています。

・チベット自治区=「渡航の延期をお勧めします」
・青海省、甘粛省、四川省、アフガニスタンとの国境付近=「渡航の是非を検討してください」
・新疆ウィグル自治区=「十分注意してください」

(参考4)日本の外務省の海外安全ホームページ
http://www.pubanzen.mofa.go.jp/

 新疆ウィグル自治区の場合、カシュガルでの襲撃事件によって新たに上記の情報が出されたのですが、テロによって上記のような渡航情報が出で外国人の旅行が抑制されることは、テロリストの「思うつぼ」になってしまうので残念です。でも、日本の外務省としても、実際にテロが起きてしまった以上、日本人の安全の確保のためには上記のような情報を出さざるを得ないのでしょう。

 今日の天安門前広場のような「平和な雰囲気」がオリンピックの期間とパラリンピックの期間ずっと継続され、これらのイベントが滞りなく終わることを祈りたいと思います。

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2008年6月20日 (金)

オリンピック期間前後の北京の交通規制

 「近日中に正式発表」と言われながら、なかなか発表されなかったオリンピック前後における北京市内の交通規制が6月19日に正式に発表されました。

(参考)北京市人民政府ホームページに掲載された2つの通告

「2008年オリンピック及びパラリンピック期間中における自動車の臨時交通管理に関する通告」
http://zhengwu.beijing.gov.cn/gzdt/gggs/t975714.htm

「2008年オリンピック及びパラリンピック期間中における北京ナンバー以外の車両の臨時交通管理に関する通告」
http://zhengwu.beijing.gov.cn/gzdt/gggs/t975716.htm

 正確な内容は上記のページ(中国語)を見ていただきたいと思いますが、私なりに簡単に解説すると、この交通規制の主な内容のポイントは以下のとおりです。

○規制期間:7月20日(日)0時~9月20日(土)24時(パラリンピック終了後まで)

○北京市内の交通規制の内容:
偶数日はナンバープレートが偶数の車だけ通行可
奇数日はナンバープレートが奇数の車だけ通行可

○上記のほか、中国の政府関係機関では、さらに70%の公用車の使用を削減する(奇数・偶数規制で減った車のさらに30%しか使えない)

○規制対象から除外される車:
警察車両、救急車等、バス、タクシー(ただし借り上げハイヤーは規制対象となる)、オリンピック関係車両、大使館車など

○対象区域
7月20日(日)~8月27日(水)24時:北京市の行政区域全域
(注)「北京市の行政区域」とは市街地とその周辺の郊外地区を含み、その面積は岩手県より広く四国より少し狭い程度のかなり広い面積のエリアです。

8月28(木)日0時~9月20日(土)24時:北京市の第5環状路より内側の市街地(第5環状路を含む)及び首都空港高速道路、八達嶺高速道路等

○上記のほか7月1日~9月20日の期間、北京ナンバーではない車両については、トラック等(生鮮食料品を運ぶため等のために特別に許可された車を除く)は北京市の行政区域全域に進入禁止、排ガス規制合格証のない車は乗り入れ禁止。その上で上記の偶数・奇数の規制に従う、などの規制が掛かる。

 現在、北京市内には、地下鉄1号線とその東の延長線上にある八通線、地下鉄2号線、地下鉄13号線、地下鉄5号線が開通しており、地下鉄10号線、北京首都空港線がオリンピックまでに開通予定です(開通予定日は未発表)。北京市の人口は、常住人口約1,700万人、戸籍人口約1,200万人ですが、そのうち「市街地」に当たる部分に住んでいるのがどれくらいか正確な数字はわかりません(北京市人民政府のホームページを見てもイマイチよくわからない)。たぶん、市街地に当たる部分に住む戸籍人口は約800万人程度と思われます。その人口からすれば、地下鉄の本数はまだ足りないので、バスやタクシーも含めた自動車は北京では重要な交通手段です(最近は、北京では、自転車の数はかなり減ってきています。自家用車族が増えたためです)。

 北京のタクシーの台数は非常に多く、普段は、どこでも気軽に「流し」のタクシーをつかまえることができるし、初乗り(2kmまで)料金が10元(約150円)と私たち外国人にとっては比較的安いので、結構気楽にタクシーを使っています。しかし、交通規制期間中は、タクシー自体は奇数・偶数番号制限の対象にはなりませんが、普段自家用車や会社の車を使っている人の半分がみんな一斉にタクシーを使うことになるので、タクシーをつかまえることが非常に難しくなるのではないか、と心配です。普段でも雨が降り出すと、いつもは自転車に乗っている人が一斉にタクシーをつかまえようとするので、タクシーがつかまらなくなるので、そういった状態が2か月間続くのではないか、と思われるからです。

 その上、オリンピック期間中は、中国全土や外国からオリンピック競技を見に来るお客さんが増えるので、オリンピック期間中は、地下鉄で行けない場所に自由に移動しようとするのには、相当苦労しそうです。もちろん網の目のような路線を走っているバスは使えますが、交通規制期間中はバスも混みそうだし、路線がかなり複雑なので、慣れない人にはバスは使いにくいのではないかと思います。

 7月~9月の3か月間は、北京市内の建築工事は中止になり、そこで働いている農民工の人たちは故郷に帰される、と言われているし、8月末までは大学は夏休み期間中だし、多くの企業や工場も休むと思われるので、交通規制期間中は、意外に北京市内を移動する人の数は多くないのかもしれません。

 ということで、7月20日~9月20日までの間、北京市内の交通事情がどういう状況になるのか、今からはほとんど想像ができません。

 なお、大幅な交通規制により、多くの企業の活動に影響が出るわけですが、そういった企業活動への影響に対する政府からの補償はありません。ただ、交通規制に違反しない限り、7月~9月の3か月間は、自動車を持っている人に掛かる車両船舶税と道路補修税が免税になるのだそうです。これによる政府の減収は13億元(約200億円)の見通し、とのことです。ラジオでは、実質的な規制は1か月(2か月間、奇数・偶数規制が続くので、実質的に車を使えないのは1か月間だけ、という意味)なのだが、免税期間は3か月ある、と盛んに宣伝しています。つまりは、それで我慢しろ、ということなのでしょう。

 ちょっと心配なのは、一般のトラックも奇数・偶数規制の対象になることで、物流に影響が出るのではないか、ということです。食料品などについては、特別に許可を受けたトラックが運ぶので市民生活には影響は出ない、ということのようですが、2か月間という期間はかなり長いので、市民生活にどういう影響が出るのか、ちょっと心配です。

 いずれにせよ、この交通規制は「オリンピックとパラリンピックの期間中の交通の順調な運行と大気の状況を良好に保つため」に行うものだ、とのことです。中国では、多くのイベントで、「こんなんでうまくやれるのだろうか」というような準備状況であっても、実際にやってみると、終わってみればそれなりにきちんとできた、というケースが多いので、オリンピックやパラリンピックもうまく行くだろうと私は思っています。ただ、そのウラで、市民の間に日常生活の上での不満が溜まることのないようにして欲しいなぁ、と願っています。

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