カテゴリー「著作権・ニセモノ・食品薬品の安全性」の記事

2009年4月24日 (金)

高校女子サッカーチーム替え玉事件

 トルコで行われた世界学校別女子サッカー大会で、4月12日、中国重慶市の大坪中学のチームが優勝を果たしました(中国の学校制度では、日本の中学校に相当する「初級中学」と日本の高校に相当する「高級中学」がありあますが、大坪中学校は「高級中学」)。ところが、この優秀した大坪中学チームのメンバー18名のうち、実際の大坪中学の在校生は3名だけで、残りの15名は全国から選抜されて優秀な「助っ人」たちで、大坪中学チームは、実質的に全中国女子サッカー・ユース・ナショナルチームのようなチームだったことがわかりました。このことは、中国のネット上で、大騒ぎになっていました。

 私は、今週の初め(4月20日)頃から日本のネットのニュースでこの件を知っていましたが、いつも読んでいる北京の新聞「新京報」は、この件については、ずっと「だんまり」を通していました。ところが、今日(4月24日)付けの紙面では、スポーツ面のうち1面全部を使ってこの事件を報じていました。昨日(4月23日)、大坪中学がある重慶市の区の教育委員会と大坪中学の校長が記者会見を開いたことから、「新京報」も「報道してよい、という『お許し』が出た」と判断したのだと思います。

(参考)「新京報」2009年4月24日紙面
「『女子サッカー替え玉事件』で校長処分」
http://www.thebeijingnews.com/news/sports/2009/04-24/008@021500.htm

 この記事によると、大坪中学の校長は「処分を記録に残す」という処分になったのだそうです(免職や減給というわけではないようです)。この記者会見で、校長は「謝罪文」を出したそうです。「謝罪文」のポイントは以下のとおりです。

○今回の件は、スポーツの道徳精神に反し、重慶のイメージに損害を与え、我が校や重慶市の発展、中国サッカー界の発展に関心を寄せていただいている各界の関係者の皆様の感情を傷つけてしまった。

○今回の大会で、大坪中学のチームがよい成績を上げないと、我が校、重慶、及び中国サッカー界が栄光のチャンスを失う、と考え、成績を上げるための最もよい方法は、全国的範囲で選抜されたメンバーの助けを借りることだ、と考えた。その結果、我が校の在校生3名、全国から選ばれたメンバー15名からなるチームとなった。

○今回の替え玉事件は、中国と重慶市のイメージに大きなマイナスの影響を与えてしまった。また、教育に携わる学校関係者として、このような替え玉事件により、学生の健全な成長に良くない影響を与えてしまった。深く悔恨の念を抱くとともに、心から深い謝罪の意を表したい。

 今回の「助っ人メンバー」は世界大会で優勝したことでわかるように、実際に優秀な選手たちだったわけですが、そういった「助っ人メンバー」を大坪中学の関係者だけで集められるのか、「全国から選抜された優秀な選手たち」が集まったのだから国家レベルの機関が関与しているのではないか、というのが、ネット上で議論している人たちの大きな疑惑です。校長は「上部機関には相談しなかった」と述べているし、重慶市教育委員会も「替え玉については知らなかった」と言っていますが、世界大会で優勝してしまった事実が、多くの人に「チームのメンバーは本当に全国レベルで選抜された優秀な選手たちなのだ。だとすれば全国レベルの機関が関与していないはずはない。」という思いを抱かせています。

 「新京報」の記事では、「校長は一人でやった、と言っているが、この国家イメージを損なう事件において『責任を下に押しつける』ようなやり方は、とうてい人を納得させることはできない。どこかの『関係機関』は、反省する必要があるだけでなく、その責任が問われなければならない。」と述べています。「どこかの『関係機関』」とは国家レベルの機関を指す可能性があり、ここまで国家レベルの機関を糾弾するような表現をすることは、中国の新聞にとっては、相当に踏み込んだ表現だと思います。

 また「処分を記録に残す」という校長に対して下された処分についても「新京報」は、区の教育委員会に追加インタビューして「処分はこれで終わりなのか」と食い下がっています(それに対し、区の教育委員会は、「校長は公開の場で謝罪しており、処分としてはこれで妥当だと考えている」と「新京報」の記者に答えています)。

 なお、「新京報」では、このほか、この記者会見はたった7分間で終わってしまったこと、区の教育委員会や校長は記者会見が終わった後は記者の質問には一切答えずに去ってしまったこと、その後校長やコーチは姿を隠してしまい記者が追加取材できなかったこと、など荒いざらいを記事にしています。

 そもそも中国のサッカー界においては、男子サッカーについては、「カンフー・サッカー」という呼称が世界中に定着してしまったように、レッドカード連発のルール無用のプレーが続くので、中国のサッカー・ファンも既に愛想を尽かしています。それに対し、女子サッカーについては、それほど悪評はなく、頑張っている、という評価です。ただ、女子サッカーについては、北京オリンピックで日本に負けるなど、必ずしもよい成績を残しておらず、「もっと強くなっていていいはずだ」という思いがサッカー・ファンの間では強かったのかもしれません。そういった中国のサッカー・ファンの思いが、大坪中学の関係者(またはもっと上のレベルの関係者)に対する圧力になっていた可能性があります。

 しかし、今回の「替え玉事件」で、「中国は男子サッカーばかりでなく女子サッカーも『ルール無用』なのか」といったイメージが世界に発信されてしまったおそれがあります。それどころか、体操選手の年齢詐称疑惑など、中国のスポーツ界にある「疑惑」のイメージを今回の「高校女子サッカー替え玉事件」はさらに強めてしまった可能性があります。

 ただ、この事件について、中国のネットワーカーが騒ぎ、「新京報」のように新聞メディアも「これはおかしい」と糾弾の声を上げていることは、そういった状況を改善させるための貴重な第一歩だと思います。

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2009年3月17日 (火)

ニセ薬とニセテレビ

 以前ほどの「鋭さ」がなくなった最近の中国中央電視台第一チャンネル(総合チャンネル)19:38~放送の報道番組「焦点訪談」ですが、今週は久々に結構深刻な「告発もの」をやっていました。

 一昨日(3月15日)放送分は「ニセ薬」の話でした。「病院に薬を納入する業者が正式な証明書が添付されていない薬を納入した際、病院側が『証明書は?』と尋ねると、今回は間に合わなかったので、後ですぐに送ります、と言われたので、病院側はそれを信用して薬を受け取り、そのまま患者に処方した。しかし、いつまで経っても薬納入業者から『証明書』は送られてこず、そのうちに服用して体の不調を訴えた患者が出て、納入された薬がニセモノだったことがわかった。病院側では、薬を患者に渡した記録をきちんと取っていなかったために、ニセ薬がどの患者に渡されたのかはわからない。」という話でした。

 番組では、ニセ薬を作って売り込むニセ薬業者も問題だが、チェックの甘い病院側も問題だ、というような指摘をしていました。中国では、単なる風邪であっても、医者に掛かるのは命懸けです。

 今日(3月17日)放送分は、政府の内需刺激策として採られている「家電下郷」政策(農村で家電製品を買うと、一定の条件に当てはまる場合に価格の13%の補助金が政府から支給される制度)を悪用して、廃品テレビを改造して新品のテレビのようにして農村に売る悪徳業者の話をやっていました。この悪徳業者は、10年以上使った廃品テレビから、ブラウン管など、まだ使える部分を集めてきて、きれいな外枠をはめて、「家電下郷」政策を使ってテレビを買おうとする農民に対して、あたかも新品のテレビであるかのように売っていたのでした。新品テレビだと思って買って使っていたら、1か月たたないうちに故障したので、分解して調べてもらったらブラウン管が使い古しのものであることがわかった、というのが発端だそうです。

 ブラウン管の表面をきれいに拭き、外枠には新しいものを使っただけでなく、段ボールの包装は新品のものを使い、取り扱い説明書だけは新しく印刷したものを入れてあった、というのですから、相当に悪質です。

 一般に「中国製(メイド・イン・チャイナ)」の品質問題が日本などでも問題にされますが、私は基本的に日本で売っている中国製の製品はそれほど心配する必要はないと思っています。輸入する日本の商社が品質には厳しいチェックを掛けているからです。問題は中国製の製品を中国国内で買わざるを得ない中国国内に住んでいる私のような人間や中国の人々です。もちろんちゃんとした製品がほとんどなのですが、たまに「はずれ」の製品に当たる場合があります。私は薬の類は買わないようにしていますが、食べ物は買わないわけにはいかないので、毎日「今日は当たらないように」と祈りながら食べています。

 政府の取り締まり機関も一生懸命取り締まっているし、この「焦点訪談」のようにテレビやマスコミでも取り上げられるのですが、中国のニセモノはなくなりません。一連の「焦点訪談」の「ニセモノ問題特集」は、3月15日の「世界消費者保護デー」にちなんだ特集番組のようです。やはり、結局は、消費者の声を直接政府に訴えられるようなシステム、即ち、取り締まりをきちんとやらない地方政府のトップは住民によってクビにされるという直接選挙による民主制度がない、ということが中国の最大の問題なのでしょう。

 政治の民主化が進まない限り、中国国内におけるニセモノ追放キャンペーンとニセモノ業者のイタチごっこは永遠に続くと思います。

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2008年11月 2日 (日)

メラミン粉ミルク事件から政治改革を考える

 最近、中国では、食品安全問題や炭坑・鉱山の安全操業問題で、地方政府が不法行為を行ったり環境汚染を続ける企業を十分に管理監督できていない、ひどい時にはそういった企業と地方政府が癒着して問題を覆い隠そうとしている、といった事件が多発して、社会問題になっています。このため、党・中央でも、そういった企業と癒着して企業の不法行為を見逃しているような地方政府の幹部については、解任したり、賄賂などをもらっていた場合には、司法の場で裁くようにすることなどにより、改善を図ろうとしています。こういった社会情勢の中で、先に問題となった河北省の三鹿集団によるメラミン混入粉ミルク事件に関連して、11月3日号の経済専門週刊紙「経済観察報」の「観察家」(オブザーバー)の欄に、長江商学院の王一江教授が「三鹿事件から政治体制改革を考える」と題する評論を書いています。

(参考)「経済観察報」2008年11月3日号(11月1日発売)
「三鹿事件から政治体制改革を考える」
http://www.eeo.com.cn/eeo/jjgcb/2008/11/03/118722.html

 この評論のポイントは以下のとおりです。

○長い間、地方政府の幹部はGDPの増大にのみ神経を使ってきた。GDPの増加により地方政府の財政収入が潤い、雇用も確保されるからである。GDPの増加に成功した地方政府は、往々にして出世が速い。これは「地方政府の企業化」を推進した。こういった考え方は、法律を省みない一部の企業の活動を助長した。こういった体質は、今回の三鹿集団によるメラミン入り粉ミルク事件や無許可で操業する炭坑・レンガ工場など、様々な問題を引き起こした。

○党・中央は、こういった状態を問題視し、「科学的発展観」「正しくかつスピードの速い経済発展(「又好又快」=良くかつ速く)」といったスローガンを掲げて、注意を促してきた。「科学的発展」や「正しくかつスピードの速い経済発展」とは、経済発展の過程において、環境の保護、エネルギー消費の適正化、土地やその他の自然資源の適正な利用、適正な収入の適正な分配、社会保障、医療衛生、教育、社会治安、住宅問題、交通問題、食品安全と人民の満足感・幸福感を大事にすべきだ、ということを主張しているのである。

○しかし、これらの目標はなかなか有効に実現することができていない。今後、地方政府が採るべき道には次の三つがある。

(1)今までと同じ路線:GDP至上主義を続けることであるが、この路線を続ける限り「地方政府の企業化」は今後も進み、「科学的発展」「正しくかつスピードの速い経済発展」という目標は実現できない。

(2)地方政府に経済発展を求めない路線:中国の特徴は、政府が資源をコントロールしていて、法律による支配が不完全なことであるから、地方政府に経済発展を求めなかったら、経済に対する積極性は失われ、雇用を確保し、人民の生活水準を向上させて、貧困問題を解消する、という目標を達成することはできない。

(3)先進国のモデルに見習う路線:日本の汚染米問題など、先進国でも食品安全問題は発生している。しかし、先進国では中国のように人々の健康被害に影響が及ぶほどに拡大することはあまりなく、先進国の食品は基本的に安全である。

○中国で先進国のモデルを導入できないのはなぜか。それは次の点で中国と先進国との間に国情の違いがあるからである。

「司法の独立性」:先進国では、司法の独立により、消費者は食品に対する不安に基づき食品安全に対して問題を起こしている利益集団を明らかにすることができる。違法行為を行っている企業は地方政府の保護を受けることができず、違法行為は結局は企業自身の損失となって跳ね返ってくる。

「資源の分散」:先進国では経済発展の力の源泉は政府ではなく民間企業にある。政府が企業の利益を保護する程度はあまり大きくない。

「定期的な選挙」:これが最も重要なことであるが、先進国の地方政府のトップは、定期的な選挙により、有権者の審判を受けている。有権者による評価が気になるので、地方政府のトップは、環境を保護せず、資源を浪費し、社会利益を損ない、法律を無視してまで、企業によるGDP増加のみを追求するようなことを敢えてしようとは考えない。

○司法の独立性と定期的な選挙による社会監督管理制度が、現在の中国の国情と比べて最も異なる点である。

○中国の国情と符号した形で改善を図る道はないのか? 先進国のシステムのポイントは、権限の分散化である。政府のトップは、有権者による選挙で選ばれているので、自らの地位を失わないためには、有権者がどう考えるか、を真っ先に考えるようになる。企業は、違法行為により短期的な利益が図れるとしても、地方政府からの保護がなく、法律システムに対する怖れがあるのであれば、そう簡単に違法行為に走ろうとは思わなくなる。

○改革開放の30年の間、我々は党と政府の分離、政府と企業の分離を進めてきた。今、職位(ポスト)の点では、確かに党と政府、政府と企業は分離されている。しかし、私は、現在のポスト上の分離は、依然として形式上の分離であり、集体が責任を負うという原則にある以上、異なるポストにいる者が真にそれぞれ担当すべき責任事項について独立して責任を果たしているとは言えない、と認識している。我々の「分離」は、往々にして「有名無実」と言わざるを得ないのである。

○地方政府自らが自分で経済発展を進めざるを得ないのだったら、「科学的発展」や「正しくかつスピードのある経済発展」という要求を実現することはできない。それであれば、市長や県長(行政府)がその地方の経済発展に責任を持ち、市や県の党委員会書記が環境保護や資源の問題・社会の調和の問題に責任を持つ、というふうに責任を分離する以外に方法はない。地方政府における党と政府の責任を分離し、それぞれが担当する責任分野に対して評価を受ける、というシステムこそが、中国の国情に符合し、かつ「科学的発展」「正しく・スピードのある発展」という目標を満たすために今後進むべき道なのである。

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 環境問題、食品安全問題、炭坑などの違法操業問題等に起因する労働安全問題等の様々な問題の根っこが現在の政治体制の問題にある、という点を、現在の中国の法律に違反しないというギリギリの範囲内で(=中国共産党による支配体制を批判しないというギリギリの範囲内で)鋭く指摘した評論だと私は思います。王一江教授は「集体が責任を負うという原則にある以上」という表現を使っていますが、はっきり言えばここの部分は「社会主義という原則を採っている以上」と表現した方がわかりやすいと思います。ただ、そこまではさすがにハッキリとは言えなかったのでしょう。

 「党と政府の分離」「政府と企業との分離」は、30年前に改革開放路線が始まって以来、中国共産党自らが認識して進めてきた方針(注)ですが、それが現在でも「形式的なもの」に留まっており、機能として分離していない(チェック・アンド・バランスの機能を果たしていない)ことを上記の評論の筆者は明確に述べています。筆者は、中国共産党が進めてきている改革開放路線を、その基本理念に基づいてきちっと進めるべきだ、と述べていて中国共産党の現在の路線を応援しているのであって、決してそれを否定しているわけではありません。

(注)1989年までは「党と政府の分離」の方針に基づき、党の総書記と国家主席(政府の代表)と党軍事委員会主席(軍の主導権を握る)は別の人物が就いていました。しかし、1989年の「政治風波」を境としては、1989年には党の総書記と党軍事委員会主席が、1993年からは国家主席も含めて、この三つの職位に同一人物が就任するようになっています。つまり、「党と政府の分離」という改革開放の当初の原則が1989年の「政治風波」を境にして変わったのです。これまでもこのブログで何回も紹介してきましたが、今、多くの新聞の評論で、1980年代の(1989年以前の)改革開放の原点に回帰すべきだ、という論調が多くなってきています。

 一方、上記の評論の最後の部分、政府(行政府)が経済成長に責任を持ち、党の方が環境保全・資源の確保や人民生活の保障に責任を持つべきだ、という考え方は、もっともな考え方ですが、見方を変えると江沢民前総書記が提唱した「三つの代表論」を批判的に見ている考え方だ、と捉えることもできます。「三つの代表論」とは、中国共産党は、(1)中国の先進的な社会生産力の発展に対する要求を代表する、(2)中国の先進文化の方向を代表する、(3)中国の広範な人民の根本的利益を代表する、ことを指しますが、三つのうち(3)がポイントであり、中国共産党は、労働者・農民(プロレタリアート)だけではなく、中小商工業者、企業家(昔の言葉で言えばブルジョアジー)や知識階層なども含めた人々の代表である、という点で、画期的な議論です。

 この「三つの代表論」は、よい意味では、中国共産党がイデオロギーに凝り固まった政党から脱却して中国社会の幅広い分野の人々の意見を結集した現実的な執政党に脱皮した、という言い方もできますし、別の言い方をすれば、労働者だけでなく企業家の意見も聞くようになった、といも言えます。後者の方は、意地悪な言い方をすれば、中国共産党の党員が企業家と癒着関係になっても即座にそれを否定することはできなくなった、とも言えます。上記の評論の筆者・王一江教授は、党の役割を経済成長を進める役割から分離させ、人民の生活を守る役割に特化させるべきだ、と主張しているわけであり、中国共産党の役割を「三つの代表論」で転換した方向から、本来の役割(経済的に力を持たない労働者・農民の権益を守る役割)に戻そうとしている、と考えることもできます。

 いずれにせよ、王一江教授は、「選挙がない」という現在の中国の最も重要なポイントを指摘している点で重要です(中国にも、人民代表を選ぶ選挙はありますが、人民代表選挙は間接選挙であり立候補に一定の制限がある点で「選挙と呼べるようなものではない」ということは、中国の内外の人はみなよくわかっています)。王一江教授が「だから選挙をやるべきだ」と主張していないのは、現在の中国の新聞に掲載できる論評の限界を示していますが、いずれにしても、こういった議論が新聞やネット上で自由に展開されていることは非常に重要です。こういった活発な議論がなされる中で、中国にとって実現可能な、最もよい方法が見つかることになるでしょう。

 世界的経済危機の中で、中国経済も苦しい状況にあります。しかし、中国政府は財政的には大幅な黒字であり、2兆ドルに達しようかという膨大な外貨準備もありますので、いざとなれば苦しい立場に立つ企業に「公的資金の注入」をすることはいつでもできますので、現在の世界の中では、中国の社会は、むしろ「比較的安心して見ていられる社会」と言ってもいいかもしれません。北京オリンピックが終わった後も、心配されていた「急激な経済バブルの崩壊」はありませんでした。こういった比較的安定した社会が続いているうちに、長期的な将来へ向けて、安定した社会を持続させることができるようなフィード・バック・システムが上記のような様々な議論を通して構築されていくことを期待したいと思います。

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2008年10月 9日 (木)

乳製品へのメラミン混入最高限度値

 中国政府(衛生部)は昨日(10月8日)、乳製品に対するメラミンの混入最高限度値を発表しました。

(参考1)「新京報」2008年10月9日付け記事
「乳製品に含まれるメラミンの最高限度値」
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2008/10-09/008@023831.htm

 これによると、今回発表された乳製品に対するメラミン混入最高限度値は以下のとおりです。

・乳児用粉ミルク:1kgあたり1mg

・液体牛乳:1kgあたり2.5mg

・乳製品を含む食品:1kgあたり2.5mg

 これは国際的に一般に用いられているメラミンの耐容一日摂取量(Tolerable Daily Intake = TDI)、具体的にはアメリカでは体重1kgあたり0.63mg、ヨーロッパでは体重1kgあたり0.5mg、中国では体重1kgあたり0.32mgという値を用いて、例えば成人なら体重60kg、こどもなら体重2kg、乳児ならば体重7kgで計算して、標準的な毎日の食品摂取量を考慮し、TDIを十分に下回るように設定した、とのことです。

 メラミンは工業用原料であり、生産の過程で食品に混入することはあり得ないが、昨日の中国衛生部の発表では、メラミンは非常に広い範囲に利用されており、例えば食品を包装する容器から転移することもあるし、プラスチック材料が廃棄されることなどを通じて環境中にも存在しており、食品にメラミンが微量に混入する可能性はゼロではない、として、基準として「検出されないこと」を要求しなかったと説明しています。

 また、中国の衛生部は、これは「混入最高限度値」であって「許容値」ではないことを強調しており、この値が設定されたからと言ってそれ以下ならば食品に混入させてもよい、というものではなく、メラミンは食品に混入させてはならない物質であるので、食品の中にメラミンを混入させることは違法行為であり、刑事責任が追及される犯罪であることを強調しています。

 最近は、化学分析の精度が高くなっているので、分析すればごく微量な量でもあれば検出されてしまうので、メラミンは、工業用原料で食品には使わない物質ではあるものの、猛毒の物質ではなく、一定の量を定期的に摂取しなければ健康上の影響は出ないと見られていることを考慮して、「検出されないこと」を求めるのは現実的ではない、と中国政府は判断したものと思われます。

 乳製品へのメラミンの混入問題は、消費者の問題であるとともに、出荷ができなくなってしまった生産者の問題でもあります。消費者の方は赤ちゃんなどを除けば別の食材を探すことで我慢できますが、牛乳生産農家にとっては牛乳が出荷できないことは死活問題です。今回、中国政府が「メラミン混入最高基準値」を設定して基準を満たした商品であれば販売することを認めることにしたのも、そういった生産者側の立場も考慮したためと思われます。中央電視台の報道によれば、財政部と農業部は今日(10月9日)、特に困難に陥っている牛乳農家を臨時に援助する補助金として中央政府が3億元を計上したことを発表しました。

(参考2)「中国中央電視台」ホームページ2008年10月9日10:53アップ記事
「財政部と農業部が牛乳農家に対する緊急支援補助資金として3億元を計上」
http://news.cctv.com/china/20081009/103415.shtml

 こういう基準ができて早く全てのメーカーの牛乳が店頭に戻ってきて欲しいと思う反面、基準が「ゼロ」ではないことから、牛乳を飲むとその一部のメラミンが入っている可能性は否定できない状態が続くわけで、気分的にはあまりいい感じはしません。

 日本などは、今後とも「メラミンが検出されないこと」を追求するのでしょうか。中国で、このような「メラミン混入最高基準値」が設定された以上、中国の乳製品には基準値以下のメラミンが含まれていることは覚悟せざるを得ないので、日本が今後ともメラミンについては「食品からは検出されないこと」を追求するのであれば、中国から輸入された乳製品を原料とした食品は日本では売ることができないことを意味します。

 中国政府は、国内での混乱を収拾するために、今回「メラミン混入最高基準値」を設定したのですが、そのことが中国製乳製品の世界への輸出に相当なブレーキを掛けることになるかもしれない、と私は思っています。中国政府は、今回の「メラミン混入最高基準値」は国際的に使われているメラミンの耐容一日摂取量(TDI)を基にして設定したのだから、健康影響上は問題ない、国際的にもそれは受け入れられるはずだ、と主張するのでしょうが、世界の消費者が健康上影響があるかどうかにかかわらず「メラミンが入っていない食品」を求めるのだとしたら、中国製乳製品は国際市場から受け入れられないことになると思います。ただでさえ、世界同時不況で、中国の輸出産業は大きな打撃を受けています。こういった時期に、中国の食品関連産業は、食品安全の問題で、さらに一層厳しい試練に立たされるのではないか、とちょっと心配です。

 それから、もっと大事なことは、中国の消費者が、今後、食品安全の問題にどの程度シビアに反応するようになるのか、も重要な視点です。今回のメラミン混入問題は、赤ちゃんが飲む粉ミルクで問題が発生したことから、いつになく中国でも非常に懸念が広がりました。今回のメラミン入り粉ミルク事件は、中国の消費者の食品安全に対する見方をかなり変えた可能性があります。中国政府には、そういった自国内の消費者の意識の変化も見誤らないようにした政策決定が迫られていると思います。

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2008年9月22日 (月)

社会的事件と担当する行政トップの辞任

 ここのところ中国では、大きな社会問題となった事件・事故に関連して、それを防止できなかった、あるいは事件・事件に対する対処が適切ではなかった、として責任ある行政部署のトップが解任されるケースが相次いでいます。

 まず、山西省臨汾市襄汾県で9月8日に発生した違法操業中の鉱山の鉱滓(こうさい)堆積場で土石流流出事故(住民等260名以上が死亡)に関しては、9月14日に山西省長の孟学農氏が、9月20日には臨汾市中国共産党委員会書記が解任されました。孟学農氏は、昨年(2007年)9月3日に副省長・省長代行に、今年(2008年)1月22日に省長に就任したばかりで、長年に渡って違法操業状態にあった鉱山の監督責任者として孟学農氏にどれだけの責任を問えるのか、という議論はあるのですが、やはりこれだけの大事故を起こしてしまった地方行政機関のトップとして責任を取らされた、というのが大方の見方のようです。

 実は孟学農氏は、2003年、SARS(重症急性呼吸器症候群)が中国で流行った時の北京市長で、このSARS流行の時にも「対処が適切ではなかった」として2003年4月20日に北京市長を解任されています。そのため、今回の土石流事故に際しての孟学農省長の辞任は「孟学農氏は今後行政の舞台には戻って来られないのではないか」との見方がある一方、「行政トップが辞任しても、結局は年間か経過すると別のポストに戻ってくるのだったらトップの辞任は一種のパフォーマンス意味の意味しかなく実効性は乏しい」といった冷めた見方をする人もいます。

 広州で発行されている週刊新聞「南方周末」(日本語表記は「南方週末」)の9月18日号では、孟学農山西省長の辞任に関して「孟学農:彼の辞職、彼の未来」と題する評論を掲載しています。

(参考1)「南方周末」2008年9月18日号記事
「孟学農:彼の辞職、彼の未来」
http://www.infzm.com/content/17337

 はっきりそうは書いてありませんが、この記事の行間からは「行政トップが辞任しても、結局は年間か経過すると別のポストに戻ってくるのだったら、行政トップの辞任は一種のパフォーマンス的な意味しかない」という冷めた見方がにじみ出ているように私は感じました。

 9月21日に発生し37人が死亡した河南省登封市では、河南省の中国共産党規律委員会と河北省の監督庁により、9月22日、登封市長の解任が提議されました。

(参考2)「新華社」ホームページ2008年9月22日12:17アップ記事
「河南省、登封市の炭鉱事故の処理に関して、市長の免職を建議」
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-09/22/content_10091401.htm

 また、9月20日に広東省深セン市で発生したダンスホールでの火災(43人が死亡)では、ダンスホールを経営していた会社の社長が警察に逮捕されたほか、この区の副区長、消防大隊の大隊長も行政の監督責任を問われて解任されました。

(参考3)「新華社」ホームページ2008年9月22日00:12アップ記事
「深セン市の『9・20』重大火災事故の責任者の対する処分が決定」
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-09/22/content_10088602.htm

※そもそも中国では数十人が死亡するような炭鉱事故や火災、交通事故は「しょっちゅう」あるので、こういった事件が起きてもトップニュースにならない程度に多くの人が「慣れっこ」になっていること事態が問題なのだと思います。

 今、最も中国で社会的に影響の大きな事件となっている粉ミルクなど乳製品へのメラミン混入事件では、最初に問題になった製品を製造した三鹿集団公司の責任者が辞任したほか、9月18日には三鹿集団公司のある河北省石家庄市の市長が、今日(9月22日)には石家庄市の党委員会書記が解任されました(中国の地方政府機関としての「市」のトップは市長ですが、実質的な権限は中国共産党の市委員会書記が握っており、序列から言うと党市委員会書記の方が市長よりも上です。その意味では、この粉ミルク事件で、市長だけではなく党書記も解任されたことは、党中央がこの事件の重大性を認識していることの表れだと見ることができます)。

 それに加えて、今日(9月22日)、中央政府の国家品質監督検査検疫総局の李長江局長(閣僚クラス)が責任を取って辞任しました(李長江局長は、これまでもこの事件の経過説明のための記者会見で毎日のようにテレビに登場していました)。

(参考4)「新華社」ホームページ2008年9月22日19:45アップ記事
「党中央・国務院は三鹿ブランドの乳幼児粉ミルク事件の関係者の責任について厳正に対処」
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-09/22/content_10093387.htm

 中国の中央政府の大臣クラスのトップが特定の事件の責任を取って辞任することは極めて異例で、おそらくこういった引責辞任は2003年のSARS流行時に当時の衛生部長(日本の厚生労働大臣に相当)が辞任して以来ではないかと思います。

 パラリンピックが終わる頃から相次いで表面化してきているこれらの社会的重大事件について、胡錦濤主席・中国共産党総書記は、9月19日に開かれた「全党による科学的発展観に関して深く実践的に学習する活動への動員大会」において「重要講和」を行い、関係者に対する注意喚起と引き締めを指示しました。

(参考5)「新華社」ホームページ2008年9月20日00:24アップ記事
「胡錦濤総書記、全党による科学的発展観に関して深く実践的に学習する活動への動員大会の席上で重要講和を発表」
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-09/20/content_10081662.htm

 この「重要講和」の中で、胡錦濤総書記は次のように指摘しています。

「今年以来、一部の地方で重大な生産安全に関する事故と食品安全に関する事故が発生し、人民大衆の生命・財産に重大な損失が発生している。これらの事件の背景として、一部幹部の中に、思想意識が欠落し、社会の大局に対しての現状認識、問題点を憂慮する意識と自己の責任に対する認識が欠如している者があり、仕事の仕方が浮ついており、管理がゆるみ、仕事のやり方が誠実ではなく、ある者は一般大衆の声や苦情を聞く耳を持たず、一般大衆の生命安全のような重大な問題に対する感覚が麻痺している者がいる。これらの事件をきっかけに、我々は、党員幹部の中に存在する問題点を緊急に解決し、党は公のために尽くすためのものであること、人民のために政治を行うこと、人を根本とするという原則を堅持すること、人民大衆の安全・安心のために心を砕くようにすること、をしっかり打ち立てなければならない。」

 胡錦濤総書記自身が地方政府の幹部の中に「ゆるみ」があることを認める危機感が表れた講話だと思います(そもそも、こういう事件が続発して、党中央が「学習活動動員大会」を開かなければならないこと自体が危機的な状況なのだ、という見方もできると思います)。

 1950年代、60年代においては、毛沢東主席が「今、我が党の中の一部には○○○○のような者がいる。」と重要講和を行った場合には、すぐさまそういう人々を排除する運動が起こり、実際、そういった人々は党から排除されていったのでした(一部「行き過ぎ」もありましたが)。今、胡錦濤総書記の呼び掛けにより、人民大衆のための行政を行っていない「一部の幹部」はきちんと排除されることになるのでしょうか。今回辞任した行政トップの方々が、いわば「トカゲのしっぽ切り」となって「これでおしまい」ということになることなく、中国の行政が人々の安全を守るためにきちんと機能するようになって欲しいと思います(今回の乳製品へのメラミン混入事件については、北京に住んでいる私としては、他人ごとではなく、実際に自分自身の健康問題に関連してくるので、真剣にそう思っています)。 

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2008年9月21日 (日)

中国の乳製品パニック

 日本でも報道されているとおり、中国の粉ミルクに有害物質メラミンが混入していた事件で、18日夜に放送された中国中央電視台の7時のニュース「新聞聯播」で、液体の牛乳、しかも大手メーカーが販売している牛乳の一部からもメラミンが検出された、との発表がありました。概要は以下のとおりです。

蒙乳:121サンプルのうち11サンプルからメラミンを検出。検出値は1kgあたり0.7~8ミリグラム

伊利:81サンプルのうち7サンプルからメラミンを検出。検出値は1kgあたり0.7~8.4ミリグラム

光明:93サンプルのうち6サンプルからメラミンを検出。検出値は1kgあたり0.6~8.6ミリグラム

三元:53サンプルのうちメラミンを検出したサンプルはなし。

雀巣(ネスレ):7サンプルのうちメラミンを検出したサンプルはなし。

※雀巣(ネスレ)は、スイスのネスレ社のブランドですが、中国国内で生産されている牛乳です。

(参考1)「人民日報」2008年9月19日付け記事
「全国液体牛乳に対するメラミン検査の結果が発表」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-09/19/content_105492.htm

(参考2)中国国家品質監督検査検疫総局ホームページ2008年9月19日発表
「全国液体牛乳に対するメラミン検査の結果発表」
http://www.aqsiq.gov.cn/zjxw/zjxw/zjftpxw/200809/t20080919_90325.htm

 最初に問題になった三鹿集団の粉ミルクで検出されたメラミンの最高濃度は最高1kgあたり2,563ミリグラムですから、それに比べれば上記の牛乳での検出値はだいぶ低いと言えます。報道では、体重60kgの大人ならば毎日2リットル以上飲まなければ大丈夫、と伝えられています。しかし、メラミンが検出された、ということは、チェックをしていない、ということですから、やはりショックです。私も上記のメーカーの牛乳を毎日飲んでいましたから。

(注)粉ミルクの場合、水に溶いて飲むので、液体の牛乳と比較する場合には粉ミルクの検出値は10分の1くらいなると考えた上で比較する必要があります。

 上記に掲げた5つのメーカーは中国は最大手の乳業メーカーで、毎日、テレビでのコマーシャルをやったりしています。伊利は、北京オリンピックの食品提供メーカーでしたが、北京オリンピック、パラリンピックで提供された乳製品では、メラミンは検出されなかった、と報道されています。

 昨日(9月19日)時点で、私が行ったスーパーでは、蒙乳、伊利、光明の製品は牛乳、ヨーグルト、チーズも含めて全ての乳製品が撤去され、三元、雀巣と外国から輸入された乳製品だけが売られていました。少なくとも私が行ったスーパーでは、三元、雀巣と輸入ものは売られており品切れ状態にはなっていなかったので、乳製品が手に入らない、という状況にはなっていません。中国では、放牧などが盛んな地方を除いて、一般には、多くの人が乳製品を消費するようになったのは、最近、経済レベルが向上してからのことであって、中国の食生活は「乳製品がないと成り立たない」というわけではないので、乳製品全体の消費量が一時的に落ち込んでいるのだと思います。豆乳など代用になりうる商品もあるので、普通の大人の場合は、そんなに「パニック」にはなっていません。しかし、ミルクを与えなければならない赤ちゃんがいる家庭は大変だろうと思います。

 ニュージーランドの牛乳やヨーロッパから輸入したチーズは、中国産のものに比べて2倍~3倍程度の値段するので、普通の人が簡単に「輸入品に切り替える」というわけにはいきません。

 中国は食材が豊富なので、乳製品がなくても、しばらくは都会の消費者も我慢できると思いますが、牛乳生産農家はかなりパニック状態になっているのではないかと思います。日本の乳製品を原料として扱っている食品メーカーも問題となった中国の乳製品メーカーの製品を使っていないかどうかの確認に追われている、と報道されています。

 今回の調査結果を見ると、多くのメーカーの数多くの種類の製品からメラミンが検出されていることから、乳製品製造メーカーではなく、源乳納入業者のレベルでメラミンが混入された可能性が高いと思います。しかも、乳製品製造メーカーが多岐にわたり、地域的にも全国に散らばっているので、おそらくは、ひとつふたつの源乳納入業者がメラミンを混入したのではなく、中国全土に渡って、源乳量の「水増し」を図るために、幅広くメラミンの混入が日常的に行われていた可能性があります。その点で、日本で問題になった農薬入りギョーザ事件とは異なり、今回の乳製品へのメラミンの混入事件は、中国の食品産業の構造的問題に立脚した、相当に根が深い問題である可能性があります。

 もし今回の問題が、業者のモラルの欠如、行政による安全検査体制の不備(もう一歩突っ込んで言えば地方の業者と取り締まる立場の地方政府との癒着)など中国の食品産業の構造的問題に根ざしているのだとしたら、単に特定のメーカーの乳製品という特定分野に限った問題ではなくなります。特にメラミンについては、昨年、アメリカ等へ輸出されたペットフードへの混入が問題となりましたから、それを全く教訓としておらず、問題に真剣に取り組んで来なかった、という点で、中国国内でも行政当局への批判も高まっています。今回の乳製品へのメラミン混入事件については、中国政府も相当深刻に受け止めているようで、連日のように対策会議を開き、迅速な検査と結果の発表、問題のある製品の撤去を徹底しています。

 今日、9月21日から、北京では、オリンピック、パラリンピック期間中に続けられていた車のナンバー・プレートの偶数・奇数による通行制限がなくなりました。そのせいかどうかしりませんが、今日(21日)の北京には、また以前のようなひどい大気汚染が戻ってきています。国際的な経済環境も厳しさを増す中、オリンピック、パラリンピックで目立たなかった多くの問題がこれから次々に出てくる可能性があります。これから中国政府にとって正念場が続くと思います(今月25日には、中国で3回目の有人宇宙飛行(今回は中国で初めての宇宙遊泳の実施が予定されている)が予定され、テレビや新聞でもそのことが盛んに報道されているのですが、一般に生活している感覚からすると「それどころじゃない」という雰囲気です)。

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2008年9月17日 (水)

北京パラリンピック閉幕

 今、中国中央電視台のテレビでは、北京パラリンピックの閉会式を生中継で放送しています。パラリンピックの選手の皆さんの活躍には、「人間にはこんな能力もあるのか」と驚かされました。

 思えば8月8日に北京オリンピックの開会式が行われたのが、はるか昔のように思えます。まずはオリンピック及びパラリンピックが無事に終了したことに対して、関係者の皆様にお祝いを申し上げたいと思います。

 オリンピックが始まった頃は、新疆ウィグル自治区でテロ事件のようなものが起きたりして、ちょっと心配していたのですが、結局は、オリンピック及びパラリンピックの期間を通じて、これらのイベントの運行に影響を与えるような大きな事件・事故は起きませんでした。これも警備・警戒に当たった多くの関係者の努力によるものだと思います。

 ところが、パラリンピックが終盤を迎えつつあるここ数日、段々と社会を騒がすような大きな事件が起きるようになってきています。

○鉱山鉱滓堆積場での土石流の発生

 9月8日:山西省臨汾市襄汾県の違法操業していた鉱山の鉱滓(こうさい)堆積場で、大雨による土石流が発生し、多くの人々が飲み込まれました。9月10日付けのこのブログを書いた時点では「34名が死亡」と書きましたが、その後調査が進んで今日(9月17日)の報道の時点では、259名の死亡が確認されています。この事故に関する行政の監督責任を取る形で、山西省長が9月14日に辞任しています。こういった事故によって、省長(日本で言えば県知事に当たる)が引責辞任するのは極めて異例のことです。

○メラミン入り粉ミルク事件

 9月11日:甘粛省衛生庁が最近甘粛省で多発しているこどもの腎臓結石について、赤ちゃんが1名死亡したこと、この腎臓結石の多発はあるブランドの粉ミルクが原因であることがわかったことを発表しました。その後、これが粉ミルクに有害物質のメラミンが含まれていたことがわかったのでした。この件については、昨日(9月16日付け)のこのブログの記事で書きました。昨日のブログでも書いたように、国家品質監督検査検疫総局が全国調査を行った結果、最初に見つかった社も含めて全部で22社、69の製品の粉ミルクでメラミンが検出され、これらの製品は市場から回収・撤去されることになりました。これだけ多数の製品でメラミンが検出されたことと、メラミンが検出されたとして掲げられたメーカーの中にテレビでコマーシャルをやっているような有名メーカーも複数含まれていたこと、などから、中国では粉ミルクを巡ってちょっとしたパニック状態になっています。

 温家宝総理は今日(9月17日)午前、国務院常務委員会を開催して、乳製品と乳製品製造業者に対する全面的な検査を行うことを決めました。国務院常務委員会は、その時々の経済情勢などを踏まえて、経済対策などを決める会議ですが、こういった特定の事件に対処するための緊急対策を決めるために開催されるのは極めて異例のことです。しかも、温家宝総理は、今日はパラリンピック閉会式の当日のため、外国要人との会見のスケジュールも立て込んでいる日でしたが、そういったスケジュールを押しのけてまで、国務院常務委員会を開き「政府全体として取り組んでいる」という姿勢を示す必要があったのでしょう。

(参考1)「新華社」ホームページ2008年9月17日19:12アップ記事
「国務院常務委員会、乳製品の全面的な検査と乳製品業者の整頓を決定」
http://politics.people.com.cn/GB/1026/8066877.html

○51人が死亡するバス転落事故 

 9月13日:四川省巴中市発で浙江省寧波行きの長距離バスが巴中市内の山道を走行中、ガードレールと衝突し、ガードレールを突き破って谷底に転落し、乗っていた51人全員の死亡が確認される、という事故が起きました。この事故は山奥で発生したためか、あまり迅速には報道されませんでした。今日(9月17日)付けの人民日報で、国務院がこの事故を「特別重大道路交通事故」として調査グループを設置したことを報じています。

(参考2)「人民日報」2008年9月17日付け記事
「国務院『9・13』特別重大交通事項調査グループを設置」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-09/17/content_103878.htm

 これらに加えて、昨日(9月16日)、リーマン・ブラザーズの破綻で世界同時株安を受けて中国の株価も大幅に下落しました。今日(9月17日)は、東京市場などが下げ止まって少し戻したのと対照的に、中国の株価は今日も下げ止まりませんでした。土石流やバス転落事故は、この時期に起こったことは単なる偶然に過ぎないし、ここ数日の株安の原因はアメリカにあるのであって中国のせいではないのですが、こういった事項を並べてみると、なんだか、オリンピックとパラリンピックの開催のために、我慢してきたいろいろなことがパラリンピックの閉幕を待つことができずに、いっぺんに吹き出してきた、というような印象を受けてしまいます。

 この文章を書いている間に、北京パラリンピックの閉会式は、何発もの花火とともに終了しました。9月も中旬を過ぎ、北京では、朝晩はかなり気温が下がり、明らかに秋風が吹いています。そういった秋の気配からも「終わったなぁ」という感じを強く受けてしまいます。

 今度は、9月25日に中国で3回目の有人宇宙飛行である「神舟7号」の打ち上げが予定されています。なんとなく「これでもか、これでもか」というふうに「国家的イベント」が続く感じです。こういったいろいろな「国家的イベント」は、それぞれ順調に行って欲しいと思いますが、それとは別に日常の世界でも世の中全体が落ち着けるような雰囲気になって欲しいと思います。

 日本は、今、福田総理が辞任を表明して次の総理が決まらない状態で、総選挙が近くあるかもしれない、という不安定な雰囲気ですし、アメリカも大統領選まであと1月半に迫っており、経済的な状況も「どうなるかわからない」という雰囲気です。そういった世界の雰囲気に惑わされないように、中国は落ち着いた安定的な発展を続けて欲しいものだと思います(現在のような世界の状況の中で、今、中国の「安定団結局面」が乱れるようになることは、世界にとってタイミング的に非常に良くないからです)。

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2008年9月16日 (火)

有害物質入り粉ミルクで乳児に腎臓結石

 日本でも報道されていますが、中国の河北省石家庄にある三鹿集団有限公司が製造した粉ミルクに有害物質のメラミンが含まれており、この粉ミルクを飲んだ多数の乳児が腎臓結石になり、一部は死亡した例も出ていることがこのほど明らかになりました。メラミンの化学的性質は私もよく知らないのですが、メラミンは食品に入れると分量が増えるが、タンパク質と同じ窒素有機化合物なので、タンパク質含有量検査ではタンパク質として判定されることがあり、過去にも食品の「水増し」に使われて問題になったことがあったそうです。メラミンを含んだ食品を食べると、体内で化学反応が起き、腎臓結石が生じることがあるのだそうです。昨年、メラミンが含まれているペットフードが中国からアメリカ等に輸出されて、多くの犬や猫が死ぬ事件がありました。

 今日(9月16日)付けの北京の新聞「新京報」の記事によると、昨日(9月15日)衛生部が発表したところによると、昨日午前8時の時点で、この会社の粉ミルクを飲んだことにより病院で検診を受けた乳児は1万人近くに上り、腎臓結石と診断された乳児は1,253名、そのうち53名は重症で、今までに2名が死亡している、とのことです。

(参考1)「新京報」2008年9月16日付け記事
「全国の診察により『三鹿による結石の赤ちゃん』は1,253名に上った」
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2008/09-16/008@021544.htm

 今日の「新京報」の1面トップは、昨日の記者会見で頭を下げる三鹿有限公司の幹部の写真が載っていました。

(参考2)「新京報」2008年9月16日付け1面トップ写真の記事
「三鹿集団が消費者に対して謝罪」
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2008/09-16/008@021535.htm

 こういった事件の記者会見で会社の幹部が深々と頭を下げて謝罪するのは、日本では見飽きるほど見ていますが、中国では、こういったふうに「日本式」に頭を下げて謝罪するというのは今までなかったことです(少なくともこうした写真は私は初めて見ました)。こういった「異例の謝罪」があったのも、この有害物質粉ミルク事件が中国社会に大きな衝撃を与え、社会的に大きな反響を呼んでいる証拠だと思います。

 さらに今日(9月16日)夜7時から中国中央電視台で放送されたニュース「新聞聯播」では、このメラミン入り粉ミルク事件に関する最新情報を伝えた際に、アナウンサーが「たった今入ってきた情報です」と言った後、国家品質監督検査検疫総局が行った全国調査の結果、ほかの多数の会社のメーカーの粉ミルクからもメラミンが検出された、として、製品名と企業名のリストを放送しました。メラミンが検出されたのは三鹿集団も含めて22社、とのことです。おそらくこのニュースが「突っ込み」で入ってきたために、通常は7時30分で終わる「新聞聯播」が、今日は7時35分まで延長して放送していました。

 中央電視台の「新聞聯播」は、放送後1時間くらいすると、その放送内容がネット上にアップされてネット上でも見られるようになっています。今日放送の分を見ると、今までのところの調査では109社の491品目について調査を行い、その結果、今回問題となった三鹿集団の製品も含めて、22社、69品目の製品からメラミンが検出された、とのことです。22社のリストは下記の中央電視台「新聞聯播」のページに載っています。

(参考3)中国中央電視台「新聞聯播」2008年9月16日放送分
「中国国家品質監督検査検疫総局、乳児用粉ミルクにメラミンが含まれているかどうかについての検査の現段階での検査結果を発表」
http://news.cctv.com/xwlb/20080916/107382.shtml

 これだけ多くのメーカーの粉ミルクに有毒物質メラミンが含まれていた、ということは、今後、中国の国内における食品安全に関する大問題に発展する可能性があります。輸出されたペットフードの事件や日本のメタミドホス(農薬)入りギョーザ事件の場合には、中国の人々の中には「また外国が中国の悪口を言っている」というふうに捉えた人も多かったと思いますが、今回の粉ミルク事件は自分たちの問題として、真剣に取り組む(取り組まざるを得ない)と思います。有害物質入り粉ミルクが販売され、乳児に犠牲者が出る事件は過去にもありましたので、今回の事件は、有害物質入り粉ミルクを製造したメーカーが批判されるのは当然として、その上に、それを防げなかった政府に対する批判も高まるのではないかと思います。

 たまたま9月16日は、アメリカの金融大手リーマン・ブラザーズの経営破綻で、世界同時株安現象がおき、中国でも上海総合指数が終値で2000ポイントの大台を割り込んだ(昨年(2007年)10月の最高値6000ポイントの3分の1以下になった)、という別の大きな経済ニュースもありました。この世界同時株安は、中国に原因があるわけではなく、中国も一種の「被害者」なのですが、それと有害物質入り粉ミルク事件が重なって起こったことは、タイミング的に中国にとっては不運なことだと思います。

 ちょうど明日、北京パラリンピックが終わり、北京はオリンピックから続いていた「お祭り」の期間が終わって、現実の世界へ引き戻されることになります。アメリカの金融危機も大きな問題であり、アメリカにしっかり対応して欲しいと思いますが、いろいろな問題が悪い方向に重ならないように、粉ミルク事件のように中国国内で対処できる問題については、中国の関係当局には適切に対応して欲しいと思います。

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2008年8月24日 (日)

北京オリンピックが教えてくれたもの

 あと3時間半もすると北京オリンピックの閉会式が始まります。大気汚染やテロなど心配な事項もあったのですが、問題なく無事にオリンピックは終了しそうです。競技そのものや競技と関係ないところで、今回の北京オリンピックは、いろいろなことを教えてくれたように思います。最終日の今日の時点で「北京オリンピックが教えてくれたもの」を思いつくまま、順不同で書いてみたいと思います。

○北京の大気汚染はコントロール可能だ、ということ。逆にいうと、やはり北京の視界の悪さ(太陽が白く見えることなど)は人為的な行為が原因であること。

 開会式の前までは、かなり蒸し暑く、湿度も高くて、大気汚染指数も100に近い日が続いたのですが、開会式の後、大気汚染指数はだんだんと下がり、数日おきに雨が降ったことも幸いして、後半(特に8月15日以降)は、北京の大気汚染はほとんど問題のないレベルにまで好転しました。心配された男女のマラソンも大気汚染は全く気になりませんでした。やはり市内を通行する自動車のナンバープレートの偶数・奇数による制限と周辺の工場の排出制限が効いたようです。もう1週間くらい規制の開始を早めれば、開会式当日から青空が見えていたかもしれません。

 別の言い方をすれば、日頃、北京で、空が晴れていても、青空にならず、空が白くなって、太陽が丸く白く肉眼で凝視できるような状態になっているのは、やはり人為的な汚染物質の排出による大気汚染が原因であったことが逆に証明されたと言えます。

 今日(8月24日)付けの「新京報」によると、自動車の奇数・偶数規制が大気汚染の改善に効果があり、渋滞の緩和にも繋がったことから、現在の規制の期限であるパラリンピック終了後の9月20日の以降も自動車の運用規制は継続すべきではないか、との議論が出ているとのことです。

(参考)「新京報」2008年8月24日付け記事
「奇数・偶数規制の長期的実行については、まだ結論が出ず」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/08-24/008@032613.htm

 しかし、多くの北京市民は2か月間という限定付きであり、オリンピック・パラリンピックの開催という国家的イベントだからこそ我慢したのであり、これを長期的に続けることには賛成しないでしょう。そもそも多くの企業が経済的負担を我慢してこの奇数・偶数規制に協力しているのですから、これを長期的に続けることには無理があると思います。

○インターネット規制は、やはり当局が意図的に行っているものであり、当局のさじ加減で、いかようにもなるということ。

 7月最終週以降のインターネット規制の大幅緩和にはびっくりしました。BBCホームページの中国語版は、規制解除するだろうとは思っていたのですが、ウィキペディアの中国語版や中国国民党のホームページまで見られるようになったのには驚きました(ただし、BBCホームページ中国語版の特定の話題に関する掲示板の部分や中国国民党ホームページの一部の項目については、現在でもアクセスできないように規制が掛けられたままです)。いずれにせよ、当局側がインターネット規制を行っていることを公式に認めたことと、当局のさじ加減により、この規制がいかようにも厳しくも緩くもできる、ということが世界中に知れ渡っただけでも、北京オリンピック開催の意義はあった、と私は思っています。

 この後、また規制が強化されるかもしれませんが、少なくとも、中国の人々の多くは、今まで自分たちが見られなかった中国語のページが世界にはたくさん存在していたのだ、ということをこのオリンピック期間中知ることができたと思います。

○「中国のニセモノはケシカラン」といつも言っている外国人が喜んで「ニセモノ市場」で買い物をしていたこと。

 北京でも「ニセモノ市場」として有名な「秀水街」はオリンピック期間中たくさんの外国人客が入り、相当儲かったそうです。「秀水街」は、もともとは露天の衣類・雑貨商が並んでいた街で、あまりに有名ブランド品のニセモノ類の販売が多かったことから、当局が露天商を追い出して、大きなビルを建てたところです。ビルが建った後、追い出された露天商が今度はビルのテナントとして戻ってきて、相変わらずニセモノの販売が行われるようになりました。当局ももともと「ニセモノ販売をなくそう」などとは当初から考えていなかったのではないかと思います。

 ということで、「秀水街」は今でも「ニセモノ市場」として有名で、北京の観光スポットのひとつになっています。時々「ニセモノ販売テナント追放」の取り締まりがあるのですが、取り締まりが行われた後で行ってみると、取り締まりの前にニセモノを販売していたテナントが同じようにニセモノを売っており、「当局はいったい何を取り締まったのだろう」と思わせる不思議な場所です。

 ニセ・ブランド品や海賊版DVDなどは海外から厳しく批判されているのですが、買っている客の多くは外国人観光客です。今回オリンピックのために北京に来た外国人も多くここを訪れているようです。報道によれば、ブッシュ元大統領(父親の方)もここを訪れたとのことです。これだけ外国人のお客が多く集まってきて儲かるのだったら、ニセモノ作りはやめられないよなぁ、と思いました(なお「秀水街」は、ニセモノ市場として有名ですが、絹製品や工芸品など、普通の中国のおみやげ物もたくさん売っているところですので、誤解なきように)。

○メダルを獲得する国々が広く拡散したこと。

 今回、インドやモンゴルなど初めて金メダルを取った国が多く出ました(今までインドがオリンピックで金メダルを取ったことがなかった、ということ自体驚きでしたが)。陸上短距離でのジャマイカ勢の活躍は度肝を抜かれましたし、陸上長距離でのアフリカ勢の活躍も目に付きました。以前は、多くの発展途上国は経済的にスポーツをやる余裕がなく、優秀なスポーツ選手はアメリカに移住して、アメリカにメダルをもたらしていたのが、最近では各国とも自国内でスポーツ選手の育成を図るようになり、そのために多くに国々にメダルが拡散した(その分、アメリカのメダル数が伸びなかった)と言われています。発展途上国では、オリンピックでメダルを取ることは、それぞれの国民の励みになりますので、これはよい傾向だと思います。

○日本人が日本以外のメダルに貢献していることを知ったこと。

 井村雅代コーチの指導により日本を押さえて銅メダルを獲得したシンクロナイズド・スイミング中国チームや、高校・実業団と日本でトレーニングして男子マラソンでケニアに初の金メダルをもたらしたワンジル選手など、日本人が他国のメダル獲得に貢献した例がこのオリンピックでは目立ちました。他国でスポーツのコーチをしたり、若い外国人が日本でトレーニングしたりすることは今までも多くあったと思いますが、今回の北京オリンピックは、そういう形で果たしている日本の役割を再認識させてくれました。日本人がメダルを取ることも大事なのでしょうが、他の国のスポーツの向上に貢献するという面で日本が役割を果たすのも悪くないことだと思いました。

○観客の声援は選手の力になるということ。

 それにしても、率直に言って、北京オリンピックにおける中国選手の活躍は見事でした。メダル総数ではアメリカの方が多いのに、金メダル数では中国の方が圧倒的に多いのは、大勢の観客の「加油!」(がんばれ)という声援が選手に最後に振り絞る「一押し」を与えたからだと思います。私は、多くの中国の人々の期待が大きい分だけ、選手にプレッシャーが掛かり、中国選手は意外に成績が上がらないのではないか、と心配していたのですが、(日本に負けた女子サッカーなど期待が重圧になっていた種目もありましたが)多くの種目では、選手は中国の人々の期待をうまく自分の力に加えることができたように思います。プレッシャーを力に変える、という精神面での調整もうまく行ったのでしょう。中国の選手の中には、東京オリンピックで銅メダルを取ったマラソンの円谷選手(後に次のメキシコ・オリンピックを前に成績が振るわないことを苦にして自殺した)のような悲壮感を漂わせたような選手はいなかったように思います。

 開会式翌日の8月9日、中国最初の金メダルを獲得した女子重量挙げ48kg級の陳燮霞選手が鬼のような形相でウォーと声を上げて気合いを入れて試技を行い、それが成功だとわかり、バーベルを降ろした途端に「普通の女の子の顔」に戻ってワーと声を上げながらコーチの首根っこに抱きついてきたシーンが今でも私の目に焼き付いています(日本のテレビでは、6位に入賞した三宅宏美選手の試技が終わった時点で中継を終了したので、このシーンは日本では放映されていないはずです)。圧倒的な強さで平然と金メダルを獲得しているように見える中国の選手も、相当なプレッシャーと戦っていたのだと思います。

 また、これまで中国は個人技で獲得するメダルが多かったのですが、女子バレーボールの銅メダル、女子ホッケーの銀メダルなど団体で行う球技でのメダル獲得が相次いだのは、中国にとっては大きな収穫だったと思います。

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 私は結局は試合会場へは行かずにテレビ観戦に終始しましたが、競技の時間帯が午前中と夕方以降に集中していたので、テレビでかなり見ることができました。欧米で行われるオリンピックと違って、時差がないのはやはり助かりました。中国のテレビを見たり、NHK-BS1またはNHK-BSハイビジョンで見ていたのですが、NHKの北京オリンピックのテーマ曲、Mr. Children の「GIFT」という曲はよかったですね。「白でも黒でもない」「日差しでも日陰でもない」ところに美しい色がある、という趣旨の歌詞が感動的でした。日本はアテネに比べてメダルの数が少なかった、という批判もあるようですが、スポーツには勝つこともあれば負けることもあります。勝敗を超えた大きなたくさんのものをこの北京オリンピックは残してくれたと思います。

 そして一番大事なのは「国家的イベント」として国の威信を掛けて行われたこの北京オリンピックが「なんとしても成功させる」と意気込む指導者たちの思惑とは全く関係なく、多くのものを中国の人々の中に残したことでしょう。中国にとって「オリンピック後」をどう乗り切っていくかが大変だと思いますが、北京オリンピックが中国の人々の中に残した財産は大きいと私は思います。

 北京オリンピックに参加した全ての選手と北京オリンピックの運営に参加した全ての人たちに感謝の意を表したいと思います。

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2008年8月13日 (水)

足跡花火の合成映像と微笑み美少女の口パク

 私も中国に通算3年以上いるので、たいていのことには「ホントかなぁ。これにはウラがあるんじゃないかなぁ」と疑うクセが付いているのいるのですが、8日に行われた北京オリンピック開会式の下記の二つの件については、全く疑っておらず「コロッとだまされ」ました。

 日本でも報道されているので、御存じと思いますが、8月12日、開会式の「裏話」として、次の2つ事情が明らかにされました。この二つとも開会式の様子を書き留めておいた私のブログの記事にも登場するので、下記の私のブログの記事も適宜参照しながら、以下をお読みください。

(参考1)このブログの2008年8月9日付け記事
「北京のテレビで見たオリンピック開会式」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/08/post_c1a7.html

(1)開会式の開始を告げる花火として、南の永定門、前門、天安門、故宮から北京市の北にあるオリンピック・スタジアムへ向けて移動するように打ち上げられた「足跡形の花火」のテレビ中継の映像では、事前に撮影した花火を現場の生中継の映像に重ね合わせた合成映像が使われた

 開会式の開始の時、実際に永定門、前門、天安門、故宮内などから足跡形の花火が打ち上げられたのは事実だそうですが、この花火をヘリコプターで空撮する場合、北京市街地上空を飛ぶヘリコプターの安全確保を図らなければならないので、理想的な撮影角度を確保することが難しく、一部の「足跡花火」については、事前に撮影してあった足形花火の映像をヘリコプターから撮った生の北京の街の夜景の上に合成して映像を流した、とのことです。

 これは北京オリンピック委員会スポークスマンの王偉氏が12日に記者会見説明したものです。王偉氏は「よい演出効果を確保するため」とその理由を説明したとのことです。

(参考2)「新京報」2008年8月13日付け記事
「多くのオリンピック会場では入客率が7割以上に達している」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/08-13/008@023732.htm

(注)この記事の見出しに関する説明:
 上記の「新京報」の記事では、この日の記者会見で北京オリンピック委員会は、8月11日(月)の北京の18か所の試合会場の入場者率は、90%以上が2か所、80%以上が6か所、70%以上が8か所、残りの2か所も60%以上である、という数字を紹介しています。おそらくは、チケットは完売したと伝えられているのに対し、テレビ画面などを見ると結構空席が目立つことから、この点に対して記者が質問したのに対して北京オリンピック委員会が答えたものと思われます。試合会場に空席が見られることについては、オリンピック関係機関(スポンサーなど)が購入したチケットについて、予選などではお客が実際には来なかった可能性があることや、一部の球技では2試合セットの入場券になっているので、自分が興味のある試合だけを見た客がいたためではないか、と北京オリンピック委員会では説明しています。

(2)国旗入場の時に革命歌「歌唱祖国」を歌っていたかわいらしい女の子は実は口パクだった

 開会式の時、中国の国旗(五星紅旗)がスタジアムに入場し掲揚ポールのところまで移動する間に歌われていた革命歌「歌唱祖国」を歌っていたのはかわいらしい女の子でした。この「歌唱祖国」という歌は行進曲ふうの勇ましい曲で「我らの指導者・毛沢東は、我らの行く先を導く・・・」といった歌詞も含まれている革命を讃える歌です。中華人民共和国の国旗の入場の場面で使う歌としては最もマッチした曲だと私も思いますが、普通の調子で演奏すると、軍隊の行進みたいな感じになり、かなり堅苦しい感じになってしまいます。そこでかわいらしい女の子にこの歌を歌わせて、五星紅旗は少数民族の衣装を着たこどもたちによって運ばれました。こういった柔らかい演出は、私は演出家の大金星だと思っていました。

(参考3)「新京報」2008年8月9日付け記事
「非常に中国的な歌」
http://www.thebeijingnews.com/news/xatk/2008/08-09/008@101800.htm

 この場面には、多くの人々が感激したようで、中国国内のネット上でもこの女の子は大人気になりました。「歌唱祖国」を歌っていたのは、林妙可ちゃんという9歳の北京の小学三年生でした。彼女は歌っている間中微笑みを絶やさなかったことから「微笑み天使」と呼ばれるようになりました。ネット上では、林妙可ちゃんのファンクラブが立ち上がり、林妙可ちゃんのファンは「妙族」(少数民族の「苗(ミャオ)族」と発音が同じことから来た一種のシャレ)と呼ばれるようになりました。海外でも評判で、8月9日付けのニューヨーク・タイムズの1面トップには林妙可ちゃんの写真が載ったとのことです。中国の最も権威ある英字紙チャイナ・ディリーや「人民日報」ホームページ上の記事も、一夜にして「国民的人気者」になったこの林妙可ちゃんについて報じています。

(参考4)「チャイナ・ディリー」2008年8月12日付け記事
「かわいい歌手が国中の心を射止める」
http://www.chinadaily.com.cn/cndy/2008-08/12/content_6926550.htm

(参考5)「人民日報」ホームページ写真ジャーナルのページ
2008年8月12日18:27アップ記事(「武漢晩報」の記事を紹介する形の記事)
「新しい『秘密の少女』、ニューヨークタイムズの1面トップに登場」
http://pic.people.com.cn/GB/1099/7655010.html

 ところが、日本のネット上のニュース等の報道に見たところ、8月12日にアップされた「中国新聞網」が伝えたところによれば、開会式で「歌唱祖国」を歌っていたのは、林妙可ちゃんではなく、全く別の楊沛宜ちゃんという7歳(小学校1年生)の女の子だったとのことです。会場に流れていたのは舞台裏で歌っていた楊沛宜ちゃんの声で、スポットライトを浴びていた林妙可ちゃんは、歌に合わせて口をパクパクさせていた、とのことです。これは開会式の音楽監督をやった陳其鋼氏が明らかにしたとのことです。陳其鋼氏によると、この入れ替えは「楊沛宜ちゃんは外見上の原因で落選したので、国家利益のために行った」とのことです。

 このニュースは「中国新聞網」(中国のネットニュースでも正当派のニュースサイトのひとつです)に掲載されたことから、瞬く間に全世界のメディアで報じられました。ところが、8月13日の中国の新聞では、この「口パク」の件について全く報じていません。また、そもそもの情報の発信源を直接見ようと思って「中国新聞網」のサイトにアクセスしてみましたが、「中国新聞網」のサイト上にある8月12日付け記事のリストには、本件ニュースは載っていません。検索サイトで、このニュースを検索するとヒットしますが、検索結果をクリックしても真っ白の画面が出るだけで何も出ません。外国のメディアが本件を報じて以降、「中国新聞網」上にあったもともとの記事は削除されてしまった模様です。

 ところが、私が見た時点では、検索サイトの「キャッシュ」(検索サイトが各ページの情報を得た時に一時的にその内容を記憶しておくエリア)には、まだこの「中国新聞網」の記事は残っていたので、私はその記事を読むことができました(この記事がアップされたのは2008年8月12日10:05です)。

 この「中国新聞網」の記事には、楊沛宜ちゃんと林妙可ちゃんの両方の写真が掲載されています。BBC中国語サイトがこの写真も含めて「中国新聞網」サイトの記事を紹介していますので、写真を御覧になりたい方はBBC中国語サイトを御覧ください。

(参考6)BBC中国語サイト2008年8月12日北京時間23:28記事
「オリンピック開幕式で偽装、女の子のスターは口パクだった」
http://news.bbc.co.uk/chinese/simp/hi/newsid_7550000/newsid_7556900/7556933.stm

※BBCサイトのニュースは一定の時間が経つと自動的に削除される可能性があります。

 写真を見ればすぐわかりますが、楊沛宜ちゃんは、ごくごく普通の女の子で「外見の点で落選したので」と言われるのはかわいそうだと思います。

 林妙可ちゃんの「口パク」については、テレビを生で見ていた人の中にも「あ、これは口パクだ」と気が付いた人がいたようです。ただ、気が付いた人でも「これだけの大舞台で小さな女の子が緊張して歌えなくなると困るから、前もって録音しておいたものを流して、それに合わせて口を合わせたのだろう。そういうやり方はあり得る話だ。」と考えていたようです。しかし、歌っていたのは実は別人だった、ということを聞くと、普通の人はみんなびっくりします。2006年のトリノ冬季オリンピックの開会式でも、著名なテノール歌手・パパロッティさんが自分の声を事前に録音しておいて、本番の開会式では「口パク」をやっていたことが後で明らかになったのだそうですが、これは本人の声を自分の意志で使ったものであり、こういった手法は多くのイベントで時々行われる演出だと思います。しかし、全然別人の歌に合わせて「口パク」をやるのは、演出ではなく「だまし」だと受け止めれてもしかたがないと思います。

 この件については、中国のネット上でも、相当に議論が沸騰しているようです。先頃、6月20日に胡錦濤主席本人が登場して中国のネットワーカーを驚かせた最も有名な掲示板のひとつ「人民日報」ホームページ上にある「強国論壇」でも、この件に関する意見が載っています(ただし、話題になっている割には掲載されている発言の数が少なすぎるので、かなりの数の発言が削除されている可能性があります)。

 削除されずに残っている発言にも、かなり強烈なものがあります。一番多いのは「この演出は、片方の女の子に『歌はうまくない』と言い、もう片方の女の子に『外見があまりよくない』と言っているのに等しく、二人の女の子に対する侮辱だ」として、この演出を非難し、二人の女の子の気持ちを思いやる意見です。このほかにも「ありえない。もし本当に『口パク』をやっていたのならば、全世界の観衆をだましたことになるんじゃない?」「『国家の見せかけ上の姿』をごまかして作ったとしても、そんな国家はすぐに終わってしまう!」「口パクをやらせるのが国家利益のためですって? 話にならない。こんなのはニセ『国家利益』で、実際は全く逆効果だ!」といった意見が出ています。

※ネット上の掲示板の発言は、日本で言えば「2チャンネルに載っているような見るに耐えないものも多いので、いつもは私はあまり掲示板の発言は紹介したくないと思っているのですが、今回は、中国の名誉のために、あえて、このように極めて常識的な発言も数多く掲載されているのだ、ということを紹介させていただきました。

 ところで、この「林妙可ちゃんは口パクだった」というニュースに関して、現在、下記のように非常に奇妙なことが起こっています。

○「口パクだった」との情報の発信源である「中国新聞網」の記事が削除されてネット上から消えている。

○本件は多くの人が関心を持つ事項であると思われるのに8月13日付けの「新京報」や「京華時報」といった大衆紙が「口パクだった」件について一切報じていない(というか、中国のメディアで「口パク」を報じている新聞を私はまだ見つけられていない)。

○にもかかわらず人民日報ホームページ上の掲示板「強国論壇」には、「中国新聞網」の記事が転載され、それに対する意見の書き込みが今も行われ、削除されずに今でも残っている(当局の指示によって「中国新聞網」のニュースが削除されているのだとしたら、人民日報ホームページの「強国論壇」のような目立つ掲示板にそのニュースを転載する記事が削除されずに残っているのはおかしい)。

 (1)の「テレビで放映された『足跡花火』の一部は合成画面だった」という話は、最初は「だまされた」と思いましたが、「テレビによるショーの見せ方のひとつだ」と言われれば「そうかなぁ」と思えて、それなりに納得できるものでした。でも、(2)の「微笑み美少女は『口パク』だった」という話は私にとってはちょっとショックで、これは「演出」の枠を超えている、と私は感じました。前者については中国のメディアでもきちんと報道されているのに対し、後者については報じられていない(しかし掲示板上からは抹殺はされていない)のは、後者に対しては、中国国内でもいろいろな人がいろいろな印象を受け、結構ショックが大きく、情報管理当局の側でも対応方針が統一されていないからではないか、と思います。

 これらは開会式の単なる「演出」の話であって、世の中の大勢に影響のあるような話でなく、議論する値打ちはない、という考え方もありますが、国際社会に与える中国という国のイメージという点では、私は結構重要な話だと思っています。従って、後者の「口パク」の方が中国の(ネットの掲示板などではない)正式のメディアで報道されていないことにより、この件に関してきちんとした議論が行われないのだとしたら非常に残念なことだと思います。また、元のニュース源がネット上から消され、新聞などでは報じられていない、ということは、「ウラに何かさらに深い理由があるのではないか」といったいつもの「勘ぐりクセ」が出てきてしまいます。

(以下、2008年8月13日23:50追記)

 上記に「中国のメディアで『口パク』を報じている新聞を私はまだ見つけられていない」と書きましたが、広州で発行されている「信息時報」という大衆紙の8月13日付けの紙面に、この件について、独自に取材して書いた記事が掲載されているのを見付けました。この記事には、林妙可ちゃんと楊沛宜ちゃんの二人の写真も掲載されています。

(参考7)「信息時報」2008年8月13日付けオリンピック特集ページT17面記事
「一人が幕の前で顔を出し、一人が幕の後ろで声で貢献した」
http://informationtimes.dayoo.com/html/2008-08/13/content_287977.htm

 このように中国国内でもちゃんと報道されているのだとすると、「中国新聞網」の記事が削除され、北京の新聞が何も書かないのはなぜなのか、ますます理由がわからなくなってしまいました。

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