カテゴリー「著作権・ニセモノ・食品薬品の安全性」の記事

2009年4月24日 (金)

高校女子サッカーチーム替え玉事件

 トルコで行われた世界学校別女子サッカー大会で、4月12日、中国重慶市の大坪中学のチームが優勝を果たしました(中国の学校制度では、日本の中学校に相当する「初級中学」と日本の高校に相当する「高級中学」がありあますが、大坪中学校は「高級中学」)。ところが、この優秀した大坪中学チームのメンバー18名のうち、実際の大坪中学の在校生は3名だけで、残りの15名は全国から選抜されて優秀な「助っ人」たちで、大坪中学チームは、実質的に全中国女子サッカー・ユース・ナショナルチームのようなチームだったことがわかりました。このことは、中国のネット上で、大騒ぎになっていました。

 私は、今週の初め(4月20日)頃から日本のネットのニュースでこの件を知っていましたが、いつも読んでいる北京の新聞「新京報」は、この件については、ずっと「だんまり」を通していました。ところが、今日(4月24日)付けの紙面では、スポーツ面のうち1面全部を使ってこの事件を報じていました。昨日(4月23日)、大坪中学がある重慶市の区の教育委員会と大坪中学の校長が記者会見を開いたことから、「新京報」も「報道してよい、という『お許し』が出た」と判断したのだと思います。

(参考)「新京報」2009年4月24日紙面
「『女子サッカー替え玉事件』で校長処分」
http://www.thebeijingnews.com/news/sports/2009/04-24/008@021500.htm

 この記事によると、大坪中学の校長は「処分を記録に残す」という処分になったのだそうです(免職や減給というわけではないようです)。この記者会見で、校長は「謝罪文」を出したそうです。「謝罪文」のポイントは以下のとおりです。

○今回の件は、スポーツの道徳精神に反し、重慶のイメージに損害を与え、我が校や重慶市の発展、中国サッカー界の発展に関心を寄せていただいている各界の関係者の皆様の感情を傷つけてしまった。

○今回の大会で、大坪中学のチームがよい成績を上げないと、我が校、重慶、及び中国サッカー界が栄光のチャンスを失う、と考え、成績を上げるための最もよい方法は、全国的範囲で選抜されたメンバーの助けを借りることだ、と考えた。その結果、我が校の在校生3名、全国から選ばれたメンバー15名からなるチームとなった。

○今回の替え玉事件は、中国と重慶市のイメージに大きなマイナスの影響を与えてしまった。また、教育に携わる学校関係者として、このような替え玉事件により、学生の健全な成長に良くない影響を与えてしまった。深く悔恨の念を抱くとともに、心から深い謝罪の意を表したい。

 今回の「助っ人メンバー」は世界大会で優勝したことでわかるように、実際に優秀な選手たちだったわけですが、そういった「助っ人メンバー」を大坪中学の関係者だけで集められるのか、「全国から選抜された優秀な選手たち」が集まったのだから国家レベルの機関が関与しているのではないか、というのが、ネット上で議論している人たちの大きな疑惑です。校長は「上部機関には相談しなかった」と述べているし、重慶市教育委員会も「替え玉については知らなかった」と言っていますが、世界大会で優勝してしまった事実が、多くの人に「チームのメンバーは本当に全国レベルで選抜された優秀な選手たちなのだ。だとすれば全国レベルの機関が関与していないはずはない。」という思いを抱かせています。

 「新京報」の記事では、「校長は一人でやった、と言っているが、この国家イメージを損なう事件において『責任を下に押しつける』ようなやり方は、とうてい人を納得させることはできない。どこかの『関係機関』は、反省する必要があるだけでなく、その責任が問われなければならない。」と述べています。「どこかの『関係機関』」とは国家レベルの機関を指す可能性があり、ここまで国家レベルの機関を糾弾するような表現をすることは、中国の新聞にとっては、相当に踏み込んだ表現だと思います。

 また「処分を記録に残す」という校長に対して下された処分についても「新京報」は、区の教育委員会に追加インタビューして「処分はこれで終わりなのか」と食い下がっています(それに対し、区の教育委員会は、「校長は公開の場で謝罪しており、処分としてはこれで妥当だと考えている」と「新京報」の記者に答えています)。

 なお、「新京報」では、このほか、この記者会見はたった7分間で終わってしまったこと、区の教育委員会や校長は記者会見が終わった後は記者の質問には一切答えずに去ってしまったこと、その後校長やコーチは姿を隠してしまい記者が追加取材できなかったこと、など荒いざらいを記事にしています。

 そもそも中国のサッカー界においては、男子サッカーについては、「カンフー・サッカー」という呼称が世界中に定着してしまったように、レッドカード連発のルール無用のプレーが続くので、中国のサッカー・ファンも既に愛想を尽かしています。それに対し、女子サッカーについては、それほど悪評はなく、頑張っている、という評価です。ただ、女子サッカーについては、北京オリンピックで日本に負けるなど、必ずしもよい成績を残しておらず、「もっと強くなっていていいはずだ」という思いがサッカー・ファンの間では強かったのかもしれません。そういった中国のサッカー・ファンの思いが、大坪中学の関係者(またはもっと上のレベルの関係者)に対する圧力になっていた可能性があります。

 しかし、今回の「替え玉事件」で、「中国は男子サッカーばかりでなく女子サッカーも『ルール無用』なのか」といったイメージが世界に発信されてしまったおそれがあります。それどころか、体操選手の年齢詐称疑惑など、中国のスポーツ界にある「疑惑」のイメージを今回の「高校女子サッカー替え玉事件」はさらに強めてしまった可能性があります。

 ただ、この事件について、中国のネットワーカーが騒ぎ、「新京報」のように新聞メディアも「これはおかしい」と糾弾の声を上げていることは、そういった状況を改善させるための貴重な第一歩だと思います。

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2009年3月17日 (火)

ニセ薬とニセテレビ

 以前ほどの「鋭さ」がなくなった最近の中国中央電視台第一チャンネル(総合チャンネル)19:38~放送の報道番組「焦点訪談」ですが、今週は久々に結構深刻な「告発もの」をやっていました。

 一昨日(3月15日)放送分は「ニセ薬」の話でした。「病院に薬を納入する業者が正式な証明書が添付されていない薬を納入した際、病院側が『証明書は?』と尋ねると、今回は間に合わなかったので、後ですぐに送ります、と言われたので、病院側はそれを信用して薬を受け取り、そのまま患者に処方した。しかし、いつまで経っても薬納入業者から『証明書』は送られてこず、そのうちに服用して体の不調を訴えた患者が出て、納入された薬がニセモノだったことがわかった。病院側では、薬を患者に渡した記録をきちんと取っていなかったために、ニセ薬がどの患者に渡されたのかはわからない。」という話でした。

 番組では、ニセ薬を作って売り込むニセ薬業者も問題だが、チェックの甘い病院側も問題だ、というような指摘をしていました。中国では、単なる風邪であっても、医者に掛かるのは命懸けです。

 今日(3月17日)放送分は、政府の内需刺激策として採られている「家電下郷」政策(農村で家電製品を買うと、一定の条件に当てはまる場合に価格の13%の補助金が政府から支給される制度)を悪用して、廃品テレビを改造して新品のテレビのようにして農村に売る悪徳業者の話をやっていました。この悪徳業者は、10年以上使った廃品テレビから、ブラウン管など、まだ使える部分を集めてきて、きれいな外枠をはめて、「家電下郷」政策を使ってテレビを買おうとする農民に対して、あたかも新品のテレビであるかのように売っていたのでした。新品テレビだと思って買って使っていたら、1か月たたないうちに故障したので、分解して調べてもらったらブラウン管が使い古しのものであることがわかった、というのが発端だそうです。

 ブラウン管の表面をきれいに拭き、外枠には新しいものを使っただけでなく、段ボールの包装は新品のものを使い、取り扱い説明書だけは新しく印刷したものを入れてあった、というのですから、相当に悪質です。

 一般に「中国製(メイド・イン・チャイナ)」の品質問題が日本などでも問題にされますが、私は基本的に日本で売っている中国製の製品はそれほど心配する必要はないと思っています。輸入する日本の商社が品質には厳しいチェックを掛けているからです。問題は中国製の製品を中国国内で買わざるを得ない中国国内に住んでいる私のような人間や中国の人々です。もちろんちゃんとした製品がほとんどなのですが、たまに「はずれ」の製品に当たる場合があります。私は薬の類は買わないようにしていますが、食べ物は買わないわけにはいかないので、毎日「今日は当たらないように」と祈りながら食べています。

 政府の取り締まり機関も一生懸命取り締まっているし、この「焦点訪談」のようにテレビやマスコミでも取り上げられるのですが、中国のニセモノはなくなりません。一連の「焦点訪談」の「ニセモノ問題特集」は、3月15日の「世界消費者保護デー」にちなんだ特集番組のようです。やはり、結局は、消費者の声を直接政府に訴えられるようなシステム、即ち、取り締まりをきちんとやらない地方政府のトップは住民によってクビにされるという直接選挙による民主制度がない、ということが中国の最大の問題なのでしょう。

 政治の民主化が進まない限り、中国国内におけるニセモノ追放キャンペーンとニセモノ業者のイタチごっこは永遠に続くと思います。

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2008年11月 2日 (日)

メラミン粉ミルク事件から政治改革を考える

 最近、中国では、食品安全問題や炭坑・鉱山の安全操業問題で、地方政府が不法行為を行ったり環境汚染を続ける企業を十分に管理監督できていない、ひどい時にはそういった企業と地方政府が癒着して問題を覆い隠そうとしている、といった事件が多発して、社会問題になっています。このため、党・中央でも、そういった企業と癒着して企業の不法行為を見逃しているような地方政府の幹部については、解任したり、賄賂などをもらっていた場合には、司法の場で裁くようにすることなどにより、改善を図ろうとしています。こういった社会情勢の中で、先に問題となった河北省の三鹿集団によるメラミン混入粉ミルク事件に関連して、11月3日号の経済専門週刊紙「経済観察報」の「観察家」(オブザーバー)の欄に、長江商学院の王一江教授が「三鹿事件から政治体制改革を考える」と題する評論を書いています。

(参考)「経済観察報」2008年11月3日号(11月1日発売)
「三鹿事件から政治体制改革を考える」
http://www.eeo.com.cn/eeo/jjgcb/2008/11/03/118722.html

 この評論のポイントは以下のとおりです。

○長い間、地方政府の幹部はGDPの増大にのみ神経を使ってきた。GDPの増加により地方政府の財政収入が潤い、雇用も確保されるからである。GDPの増加に成功した地方政府は、往々にして出世が速い。これは「地方政府の企業化」を推進した。こういった考え方は、法律を省みない一部の企業の活動を助長した。こういった体質は、今回の三鹿集団によるメラミン入り粉ミルク事件や無許可で操業する炭坑・レンガ工場など、様々な問題を引き起こした。

○党・中央は、こういった状態を問題視し、「科学的発展観」「正しくかつスピードの速い経済発展(「又好又快」=良くかつ速く)」といったスローガンを掲げて、注意を促してきた。「科学的発展」や「正しくかつスピードの速い経済発展」とは、経済発展の過程において、環境の保護、エネルギー消費の適正化、土地やその他の自然資源の適正な利用、適正な収入の適正な分配、社会保障、医療衛生、教育、社会治安、住宅問題、交通問題、食品安全と人民の満足感・幸福感を大事にすべきだ、ということを主張しているのである。

○しかし、これらの目標はなかなか有効に実現することができていない。今後、地方政府が採るべき道には次の三つがある。

(1)今までと同じ路線:GDP至上主義を続けることであるが、この路線を続ける限り「地方政府の企業化」は今後も進み、「科学的発展」「正しくかつスピードの速い経済発展」という目標は実現できない。

(2)地方政府に経済発展を求めない路線:中国の特徴は、政府が資源をコントロールしていて、法律による支配が不完全なことであるから、地方政府に経済発展を求めなかったら、経済に対する積極性は失われ、雇用を確保し、人民の生活水準を向上させて、貧困問題を解消する、という目標を達成することはできない。

(3)先進国のモデルに見習う路線:日本の汚染米問題など、先進国でも食品安全問題は発生している。しかし、先進国では中国のように人々の健康被害に影響が及ぶほどに拡大することはあまりなく、先進国の食品は基本的に安全である。

○中国で先進国のモデルを導入できないのはなぜか。それは次の点で中国と先進国との間に国情の違いがあるからである。

「司法の独立性」:先進国では、司法の独立により、消費者は食品に対する不安に基づき食品安全に対して問題を起こしている利益集団を明らかにすることができる。違法行為を行っている企業は地方政府の保護を受けることができず、違法行為は結局は企業自身の損失となって跳ね返ってくる。

「資源の分散」:先進国では経済発展の力の源泉は政府ではなく民間企業にある。政府が企業の利益を保護する程度はあまり大きくない。

「定期的な選挙」:これが最も重要なことであるが、先進国の地方政府のトップは、定期的な選挙により、有権者の審判を受けている。有権者による評価が気になるので、地方政府のトップは、環境を保護せず、資源を浪費し、社会利益を損ない、法律を無視してまで、企業によるGDP増加のみを追求するようなことを敢えてしようとは考えない。

○司法の独立性と定期的な選挙による社会監督管理制度が、現在の中国の国情と比べて最も異なる点である。

○中国の国情と符号した形で改善を図る道はないのか? 先進国のシステムのポイントは、権限の分散化である。政府のトップは、有権者による選挙で選ばれているので、自らの地位を失わないためには、有権者がどう考えるか、を真っ先に考えるようになる。企業は、違法行為により短期的な利益が図れるとしても、地方政府からの保護がなく、法律システムに対する怖れがあるのであれば、そう簡単に違法行為に走ろうとは思わなくなる。

○改革開放の30年の間、我々は党と政府の分離、政府と企業の分離を進めてきた。今、職位(ポスト)の点では、確かに党と政府、政府と企業は分離されている。しかし、私は、現在のポスト上の分離は、依然として形式上の分離であり、集体が責任を負うという原則にある以上、異なるポストにいる者が真にそれぞれ担当すべき責任事項について独立して責任を果たしているとは言えない、と認識している。我々の「分離」は、往々にして「有名無実」と言わざるを得ないのである。

○地方政府自らが自分で経済発展を進めざるを得ないのだったら、「科学的発展」や「正しくかつスピードのある経済発展」という要求を実現することはできない。それであれば、市長や県長(行政府)がその地方の経済発展に責任を持ち、市や県の党委員会書記が環境保護や資源の問題・社会の調和の問題に責任を持つ、というふうに責任を分離する以外に方法はない。地方政府における党と政府の責任を分離し、それぞれが担当する責任分野に対して評価を受ける、というシステムこそが、中国の国情に符合し、かつ「科学的発展」「正しく・スピードのある発展」という目標を満たすために今後進むべき道なのである。

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 環境問題、食品安全問題、炭坑などの違法操業問題等に起因する労働安全問題等の様々な問題の根っこが現在の政治体制の問題にある、という点を、現在の中国の法律に違反しないというギリギリの範囲内で(=中国共産党による支配体制を批判しないというギリギリの範囲内で)鋭く指摘した評論だと私は思います。王一江教授は「集体が責任を負うという原則にある以上」という表現を使っていますが、はっきり言えばここの部分は「社会主義という原則を採っている以上」と表現した方がわかりやすいと思います。ただ、そこまではさすがにハッキリとは言えなかったのでしょう。

 「党と政府の分離」「政府と企業との分離」は、30年前に改革開放路線が始まって以来、中国共産党自らが認識して進めてきた方針(注)ですが、それが現在でも「形式的なもの」に留まっており、機能として分離していない(チェック・アンド・バランスの機能を果たしていない)ことを上記の評論の筆者は明確に述べています。筆者は、中国共産党が進めてきている改革開放路線を、その基本理念に基づいてきちっと進めるべきだ、と述べていて中国共産党の現在の路線を応援しているのであって、決してそれを否定しているわけではありません。

(注)1989年までは「党と政府の分離」の方針に基づき、党の総書記と国家主席(政府の代表)と党軍事委員会主席(軍の主導権を握る)は別の人物が就いていました。しかし、1989年の「政治風波」を境としては、1989年には党の総書記と党軍事委員会主席が、1993年からは国家主席も含めて、この三つの職位に同一人物が就任するようになっています。つまり、「党と政府の分離」という改革開放の当初の原則が1989年の「政治風波」を境にして変わったのです。これまでもこのブログで何回も紹介してきましたが、今、多くの新聞の評論で、1980年代の(1989年以前の)改革開放の原点に回帰すべきだ、という論調が多くなってきています。

 一方、上記の評論の最後の部分、政府(行政府)が経済成長に責任を持ち、党の方が環境保全・資源の確保や人民生活の保障に責任を持つべきだ、という考え方は、もっともな考え方ですが、見方を変えると江沢民前総書記が提唱した「三つの代表論」を批判的に見ている考え方だ、と捉えることもできます。「三つの代表論」とは、中国共産党は、(1)中国の先進的な社会生産力の発展に対する要求を代表する、(2)中国の先進文化の方向を代表する、(3)中国の広範な人民の根本的利益を代表する、ことを指しますが、三つのうち(3)がポイントであり、中国共産党は、労働者・農民(プロレタリアート)だけではなく、中小商工業者、企業家(昔の言葉で言えばブルジョアジー)や知識階層なども含めた人々の代表である、という点で、画期的な議論です。

 この「三つの代表論」は、よい意味では、中国共産党がイデオロギーに凝り固まった政党から脱却して中国社会の幅広い分野の人々の意見を結集した現実的な執政党に脱皮した、という言い方もできますし、別の言い方をすれば、労働者だけでなく企業家の意見も聞くようになった、といも言えます。後者の方は、意地悪な言い方をすれば、中国共産党の党員が企業家と癒着関係になっても即座にそれを否定することはできなくなった、とも言えます。上記の評論の筆者・王一江教授は、党の役割を経済成長を進める役割から分離させ、人民の生活を守る役割に特化させるべきだ、と主張しているわけであり、中国共産党の役割を「三つの代表論」で転換した方向から、本来の役割(経済的に力を持たない労働者・農民の権益を守る役割)に戻そうとしている、と考えることもできます。

 いずれにせよ、王一江教授は、「選挙がない」という現在の中国の最も重要なポイントを指摘している点で重要です(中国にも、人民代表を選ぶ選挙はありますが、人民代表選挙は間接選挙であり立候補に一定の制限がある点で「選挙と呼べるようなものではない」ということは、中国の内外の人はみなよくわかっています)。王一江教授が「だから選挙をやるべきだ」と主張していないのは、現在の中国の新聞に掲載できる論評の限界を示していますが、いずれにしても、こういった議論が新聞やネット上で自由に展開されていることは非常に重要です。こういった活発な議論がなされる中で、中国にとって実現可能な、最もよい方法が見つかることになるでしょう。

 世界的経済危機の中で、中国経済も苦しい状況にあります。しかし、中国政府は財政的には大幅な黒字であり、2兆ドルに達しようかという膨大な外貨準備もありますので、いざとなれば苦しい立場に立つ企業に「公的資金の注入」をすることはいつでもできますので、現在の世界の中では、中国の社会は、むしろ「比較的安心して見ていられる社会」と言ってもいいかもしれません。北京オリンピックが終わった後も、心配されていた「急激な経済バブルの崩壊」はありませんでした。こういった比較的安定した社会が続いているうちに、長期的な将来へ向けて、安定した社会を持続させることができるようなフィード・バック・システムが上記のような様々な議論を通して構築されていくことを期待したいと思います。

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2008年10月 9日 (木)

乳製品へのメラミン混入最高限度値

 中国政府(衛生部)は昨日(10月8日)、乳製品に対するメラミンの混入最高限度値を発表しました。

(参考1)「新京報」2008年10月9日付け記事
「乳製品に含まれるメラミンの最高限度値」
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2008/10-09/008@023831.htm

 これによると、今回発表された乳製品に対するメラミン混入最高限度値は以下のとおりです。

・乳児用粉ミルク:1kgあたり1mg

・液体牛乳:1kgあたり2.5mg

・乳製品を含む食品:1kgあたり2.5mg

 これは国際的に一般に用いられているメラミンの耐容一日摂取量(Tolerable Daily Intake = TDI)、具体的にはアメリカでは体重1kgあたり0.63mg、ヨーロッパでは体重1kgあたり0.5mg、中国では体重1kgあたり0.32mgという値を用いて、例えば成人なら体重60kg、こどもなら体重2kg、乳児ならば体重7kgで計算して、標準的な毎日の食品摂取量を考慮し、TDIを十分に下回るように設定した、とのことです。

 メラミンは工業用原料であり、生産の過程で食品に混入することはあり得ないが、昨日の中国衛生部の発表では、メラミンは非常に広い範囲に利用されており、例えば食品を包装する容器から転移することもあるし、プラスチック材料が廃棄されることなどを通じて環境中にも存在しており、食品にメラミンが微量に混入する可能性はゼロではない、として、基準として「検出されないこと」を要求しなかったと説明しています。

 また、中国の衛生部は、これは「混入最高限度値」であって「許容値」ではないことを強調しており、この値が設定されたからと言ってそれ以下ならば食品に混入させてもよい、というものではなく、メラミンは食品に混入させてはならない物質であるので、食品の中にメラミンを混入させることは違法行為であり、刑事責任が追及される犯罪であることを強調しています。

 最近は、化学分析の精度が高くなっているので、分析すればごく微量な量でもあれば検出されてしまうので、メラミンは、工業用原料で食品には使わない物質ではあるものの、猛毒の物質ではなく、一定の量を定期的に摂取しなければ健康上の影響は出ないと見られていることを考慮して、「検出されないこと」を求めるのは現実的ではない、と中国政府は判断したものと思われます。

 乳製品へのメラミンの混入問題は、消費者の問題であるとともに、出荷ができなくなってしまった生産者の問題でもあります。消費者の方は赤ちゃんなどを除けば別の食材を探すことで我慢できますが、牛乳生産農家にとっては牛乳が出荷できないことは死活問題です。今回、中国政府が「メラミン混入最高基準値」を設定して基準を満たした商品であれば販売することを認めることにしたのも、そういった生産者側の立場も考慮したためと思われます。中央電視台の報道によれば、財政部と農業部は今日(10月9日)、特に困難に陥っている牛乳農家を臨時に援助する補助金として中央政府が3億元を計上したことを発表しました。

(参考2)「中国中央電視台」ホームページ2008年10月9日10:53アップ記事
「財政部と農業部が牛乳農家に対する緊急支援補助資金として3億元を計上」
http://news.cctv.com/china/20081009/103415.shtml

 こういう基準ができて早く全てのメーカーの牛乳が店頭に戻ってきて欲しいと思う反面、基準が「ゼロ」ではないことから、牛乳を飲むとその一部のメラミンが入っている可能性は否定できない状態が続くわけで、気分的にはあまりいい感じはしません。

 日本などは、今後とも「メラミンが検出されないこと」を追求するのでしょうか。中国で、このような「メラミン混入最高基準値」が設定された以上、中国の乳製品には基準値以下のメラミンが含まれていることは覚悟せざるを得ないので、日本が今後ともメラミンについては「食品からは検出されないこと」を追求するのであれば、中国から輸入された乳製品を原料とした食品は日本では売ることができないことを意味します。

 中国政府は、国内での混乱を収拾するために、今回「メラミン混入最高基準値」を設定したのですが、そのことが中国製乳製品の世界への輸出に相当なブレーキを掛けることになるかもしれない、と私は思っています。中国政府は、今回の「メラミン混入最高基準値」は国際的に使われているメラミンの耐容一日摂取量(TDI)を基にして設定したのだから、健康影響上は問題ない、国際的にもそれは受け入れられるはずだ、と主張するのでしょうが、世界の消費者が健康上影響があるかどうかにかかわらず「メラミンが入っていない食品」を求めるのだとしたら、中国製乳製品は国際市場から受け入れられないことになると思います。ただでさえ、世界同時不況で、中国の輸出産業は大きな打撃を受けています。こういった時期に、中国の食品関連産業は、食品安全の問題で、さらに一層厳しい試練に立たされるのではないか、とちょっと心配です。

 それから、もっと大事なことは、中国の消費者が、今後、食品安全の問題にどの程度シビアに反応するようになるのか、も重要な視点です。今回のメラミン混入問題は、赤ちゃんが飲む粉ミルクで問題が発生したことから、いつになく中国でも非常に懸念が広がりました。今回のメラミン入り粉ミルク事件は、中国の消費者の食品安全に対する見方をかなり変えた可能性があります。中国政府には、そういった自国内の消費者の意識の変化も見誤らないようにした政策決定が迫られていると思います。

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2008年9月22日 (月)

社会的事件と担当する行政トップの辞任

 ここのところ中国では、大きな社会問題となった事件・事故に関連して、それを防止できなかった、あるいは事件・事件に対する対処が適切ではなかった、として責任ある行政部署のトップが解任されるケースが相次いでいます。

 まず、山西省臨汾市襄汾県で9月8日に発生した違法操業中の鉱山の鉱滓(こうさい)堆積場で土石流流出事故(住民等260名以上が死亡)に関しては、9月14日に山西省長の孟学農氏が、9月20日には臨汾市中国共産党委員会書記が解任されました。孟学農氏は、昨年(2007年)9月3日に副省長・省長代行に、今年(2008年)1月22日に省長に就任したばかりで、長年に渡って違法操業状態にあった鉱山の監督責任者として孟学農氏にどれだけの責任を問えるのか、という議論はあるのですが、やはりこれだけの大事故を起こしてしまった地方行政機関のトップとして責任を取らされた、というのが大方の見方のようです。

 実は孟学農氏は、2003年、SARS(重症急性呼吸器症候群)が中国で流行った時の北京市長で、このSARS流行の時にも「対処が適切ではなかった」として2003年4月20日に北京市長を解任されています。そのため、今回の土石流事故に際しての孟学農省長の辞任は「孟学農氏は今後行政の舞台には戻って来られないのではないか」との見方がある一方、「行政トップが辞任しても、結局は年間か経過すると別のポストに戻ってくるのだったらトップの辞任は一種のパフォーマンス意味の意味しかなく実効性は乏しい」といった冷めた見方をする人もいます。

 広州で発行されている週刊新聞「南方周末」(日本語表記は「南方週末」)の9月18日号では、孟学農山西省長の辞任に関して「孟学農:彼の辞職、彼の未来」と題する評論を掲載しています。

(参考1)「南方周末」2008年9月18日号記事
「孟学農:彼の辞職、彼の未来」
http://www.infzm.com/content/17337

 はっきりそうは書いてありませんが、この記事の行間からは「行政トップが辞任しても、結局は年間か経過すると別のポストに戻ってくるのだったら、行政トップの辞任は一種のパフォーマンス的な意味しかない」という冷めた見方がにじみ出ているように私は感じました。

 9月21日に発生し37人が死亡した河南省登封市では、河南省の中国共産党規律委員会と河北省の監督庁により、9月22日、登封市長の解任が提議されました。

(参考2)「新華社」ホームページ2008年9月22日12:17アップ記事
「河南省、登封市の炭鉱事故の処理に関して、市長の免職を建議」
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-09/22/content_10091401.htm

 また、9月20日に広東省深セン市で発生したダンスホールでの火災(43人が死亡)では、ダンスホールを経営していた会社の社長が警察に逮捕されたほか、この区の副区長、消防大隊の大隊長も行政の監督責任を問われて解任されました。

(参考3)「新華社」ホームページ2008年9月22日00:12アップ記事
「深セン市の『9・20』重大火災事故の責任者の対する処分が決定」
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-09/22/content_10088602.htm

※そもそも中国では数十人が死亡するような炭鉱事故や火災、交通事故は「しょっちゅう」あるので、こういった事件が起きてもトップニュースにならない程度に多くの人が「慣れっこ」になっていること事態が問題なのだと思います。

 今、最も中国で社会的に影響の大きな事件となっている粉ミルクなど乳製品へのメラミン混入事件では、最初に問題になった製品を製造した三鹿集団公司の責任者が辞任したほか、9月18日には三鹿集団公司のある河北省石家庄市の市長が、今日(9月22日)には石家庄市の党委員会書記が解任されました(中国の地方政府機関としての「市」のトップは市長ですが、実質的な権限は中国共産党の市委員会書記が握っており、序列から言うと党市委員会書記の方が市長よりも上です。その意味では、この粉ミルク事件で、市長だけではなく党書記も解任されたことは、党中央がこの事件の重大性を認識していることの表れだと見ることができます)。

 それに加えて、今日(9月22日)、中央政府の国家品質監督検査検疫総局の李長江局長(閣僚クラス)が責任を取って辞任しました(李長江局長は、これまでもこの事件の経過説明のための記者会見で毎日のようにテレビに登場していました)。

(参考4)「新華社」ホームページ2008年9月22日19:45アップ記事
「党中央・国務院は三鹿ブランドの乳幼児粉ミルク事件の関係者の責任について厳正に対処」
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-09/22/content_10093387.htm

 中国の中央政府の大臣クラスのトップが特定の事件の責任を取って辞任することは極めて異例で、おそらくこういった引責辞任は2003年のSARS流行時に当時の衛生部長(日本の厚生労働大臣に相当)が辞任して以来ではないかと思います。

 パラリンピックが終わる頃から相次いで表面化してきているこれらの社会的重大事件について、胡錦濤主席・中国共産党総書記は、9月19日に開かれた「全党による科学的発展観に関して深く実践的に学習する活動への動員大会」において「重要講和」を行い、関係者に対する注意喚起と引き締めを指示しました。

(参考5)「新華社」ホームページ2008年9月20日00:24アップ記事
「胡錦濤総書記、全党による科学的発展観に関して深く実践的に学習する活動への動員大会の席上で重要講和を発表」
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-09/20/content_10081662.htm

 この「重要講和」の中で、胡錦濤総書記は次のように指摘しています。

「今年以来、一部の地方で重大な生産安全に関する事故と食品安全に関する事故が発生し、人民大衆の生命・財産に重大な損失が発生している。これらの事件の背景として、一部幹部の中に、思想意識が欠落し、社会の大局に対しての現状認識、問題点を憂慮する意識と自己の責任に対する認識が欠如している者があり、仕事の仕方が浮ついており、管理がゆるみ、仕事のやり方が誠実ではなく、ある者は一般大衆の声や苦情を聞く耳を持たず、一般大衆の生命安全のような重大な問題に対する感覚が麻痺している者がいる。これらの事件をきっかけに、我々は、党員幹部の中に存在する問題点を緊急に解決し、党は公のために尽くすためのものであること、人民のために政治を行うこと、人を根本とするという原則を堅持すること、人民大衆の安全・安心のために心を砕くようにすること、をしっかり打ち立てなければならない。」

 胡錦濤総書記自身が地方政府の幹部の中に「ゆるみ」があることを認める危機感が表れた講話だと思います(そもそも、こういう事件が続発して、党中央が「学習活動動員大会」を開かなければならないこと自体が危機的な状況なのだ、という見方もできると思います)。

 1950年代、60年代においては、毛沢東主席が「今、我が党の中の一部には○○○○のような者がいる。」と重要講和を行った場合には、すぐさまそういう人々を排除する運動が起こり、実際、そういった人々は党から排除されていったのでした(一部「行き過ぎ」もありましたが)。今、胡錦濤総書記の呼び掛けにより、人民大衆のための行政を行っていない「一部の幹部」はきちんと排除されることになるのでしょうか。今回辞任した行政トップの方々が、いわば「トカゲのしっぽ切り」となって「これでおしまい」ということになることなく、中国の行政が人々の安全を守るためにきちんと機能するようになって欲しいと思います(今回の乳製品へのメラミン混入事件については、北京に住んでいる私としては、他人ごとではなく、実際に自分自身の健康問題に関連してくるので、真剣にそう思っています)。 

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2008年9月21日 (日)

中国の乳製品パニック

 日本でも報道されているとおり、中国の粉ミルクに有害物質メラミンが混入していた事件で、18日夜に放送された中国中央電視台の7時のニュース「新聞聯播」で、液体の牛乳、しかも大手メーカーが販売している牛乳の一部からもメラミンが検出された、との発表がありました。概要は以下のとおりです。

蒙乳:121サンプルのうち11サンプルからメラミンを検出。検出値は1kgあたり0.7~8ミリグラム

伊利:81サンプルのうち7サンプルからメラミンを検出。検出値は1kgあたり0.7~8.4ミリグラム

光明:93サンプルのうち6サンプルからメラミンを検出。検出値は1kgあたり0.6~8.6ミリグラム

三元:53サンプルのうちメラミンを検出したサンプルはなし。

雀巣(ネスレ):7サンプルのうちメラミンを検出したサンプルはなし。

※雀巣(ネスレ)は、スイスのネスレ社のブランドですが、中国国内で生産されている牛乳です。

(参考1)「人民日報」2008年9月19日付け記事
「全国液体牛乳に対するメラミン検査の結果が発表」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-09/19/content_105492.htm

(参考2)中国国家品質監督検査検疫総局ホームページ2008年9月19日発表
「全国液体牛乳に対するメラミン検査の結果発表」
http://www.aqsiq.gov.cn/zjxw/zjxw/zjftpxw/200809/t20080919_90325.htm

 最初に問題になった三鹿集団の粉ミルクで検出されたメラミンの最高濃度は最高1kgあたり2,563ミリグラムですから、それに比べれば上記の牛乳での検出値はだいぶ低いと言えます。報道では、体重60kgの大人ならば毎日2リットル以上飲まなければ大丈夫、と伝えられています。しかし、メラミンが検出された、ということは、チェックをしていない、ということですから、やはりショックです。私も上記のメーカーの牛乳を毎日飲んでいましたから。

(注)粉ミルクの場合、水に溶いて飲むので、液体の牛乳と比較する場合には粉ミルクの検出値は10分の1くらいなると考えた上で比較する必要があります。

 上記に掲げた5つのメーカーは中国は最大手の乳業メーカーで、毎日、テレビでのコマーシャルをやったりしています。伊利は、北京オリンピックの食品提供メーカーでしたが、北京オリンピック、パラリンピックで提供された乳製品では、メラミンは検出されなかった、と報道されています。

 昨日(9月19日)時点で、私が行ったスーパーでは、蒙乳、伊利、光明の製品は牛乳、ヨーグルト、チーズも含めて全ての乳製品が撤去され、三元、雀巣と外国から輸入された乳製品だけが売られていました。少なくとも私が行ったスーパーでは、三元、雀巣と輸入ものは売られており品切れ状態にはなっていなかったので、乳製品が手に入らない、という状況にはなっていません。中国では、放牧などが盛んな地方を除いて、一般には、多くの人が乳製品を消費するようになったのは、最近、経済レベルが向上してからのことであって、中国の食生活は「乳製品がないと成り立たない」というわけではないので、乳製品全体の消費量が一時的に落ち込んでいるのだと思います。豆乳など代用になりうる商品もあるので、普通の大人の場合は、そんなに「パニック」にはなっていません。しかし、ミルクを与えなければならない赤ちゃんがいる家庭は大変だろうと思います。

 ニュージーランドの牛乳やヨーロッパから輸入したチーズは、中国産のものに比べて2倍~3倍程度の値段するので、普通の人が簡単に「輸入品に切り替える」というわけにはいきません。

 中国は食材が豊富なので、乳製品がなくても、しばらくは都会の消費者も我慢できると思いますが、牛乳生産農家はかなりパニック状態になっているのではないかと思います。日本の乳製品を原料として扱っている食品メーカーも問題となった中国の乳製品メーカーの製品を使っていないかどうかの確認に追われている、と報道されています。

 今回の調査結果を見ると、多くのメーカーの数多くの種類の製品からメラミンが検出されていることから、乳製品製造メーカーではなく、源乳納入業者のレベルでメラミンが混入された可能性が高いと思います。しかも、乳製品製造メーカーが多岐にわたり、地域的にも全国に散らばっているので、おそらくは、ひとつふたつの源乳納入業者がメラミンを混入したのではなく、中国全土に渡って、源乳量の「水増し」を図るために、幅広くメラミンの混入が日常的に行われていた可能性があります。その点で、日本で問題になった農薬入りギョーザ事件とは異なり、今回の乳製品へのメラミンの混入事件は、中国の食品産業の構造的問題に立脚した、相当に根が深い問題である可能性があります。

 もし今回の問題が、業者のモラルの欠如、行政による安全検査体制の不備(もう一歩突っ込んで言えば地方の業者と取り締まる立場の地方政府との癒着)など中国の食品産業の構造的問題に根ざしているのだとしたら、単に特定のメーカーの乳製品という特定分野に限った問題ではなくなります。特にメラミンについては、昨年、アメリカ等へ輸出されたペットフードへの混入が問題となりましたから、それを全く教訓としておらず、問題に真剣に取り組んで来なかった、という点で、中国国内でも行政当局への批判も高まっています。今回の乳製品へのメラミン混入事件については、中国政府も相当深刻に受け止めているようで、連日のように対策会議を開き、迅速な検査と結果の発表、問題のある製品の撤去を徹底しています。

 今日、9月21日から、北京では、オリンピック、パラリンピック期間中に続けられていた車のナンバー・プレートの偶数・奇数による通行制限がなくなりました。そのせいかどうかしりませんが、今日(21日)の北京には、また以前のようなひどい大気汚染が戻ってきています。国際的な経済環境も厳しさを増す中、オリンピック、パラリンピックで目立たなかった多くの問題がこれから次々に出てくる可能性があります。これから中国政府にとって正念場が続くと思います(今月25日には、中国で3回目の有人宇宙飛行(今回は中国で初めての宇宙遊泳の実施が予定されている)が予定され、テレビや新聞でもそのことが盛んに報道されているのですが、一般に生活している感覚からすると「それどころじゃない」という雰囲気です)。

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2008年9月17日 (水)

北京パラリンピック閉幕

 今、中国中央電視台のテレビでは、北京パラリンピックの閉会式を生中継で放送しています。パラリンピックの選手の皆さんの活躍には、「人間にはこんな能力もあるのか」と驚かされました。

 思えば8月8日に北京オリンピックの開会式が行われたのが、はるか昔のように思えます。まずはオリンピック及びパラリンピックが無事に終了したことに対して、関係者の皆様にお祝いを申し上げたいと思います。

 オリンピックが始まった頃は、新疆ウィグル自治区でテロ事件のようなものが起きたりして、ちょっと心配していたのですが、結局は、オリンピック及びパラリンピックの期間を通じて、これらのイベントの運行に影響を与えるような大きな事件・事故は起きませんでした。これも警備・警戒に当たった多くの関係者の努力によるものだと思います。

 ところが、パラリンピックが終盤を迎えつつあるここ数日、段々と社会を騒がすような大きな事件が起きるようになってきています。

○鉱山鉱滓堆積場での土石流の発生

 9月8日:山西省臨汾市襄汾県の違法操業していた鉱山の鉱滓(こうさい)堆積場で、大雨による土石流が発生し、多くの人々が飲み込まれました。9月10日付けのこのブログを書いた時点では「34名が死亡」と書きましたが、その後調査が進んで今日(9月17日)の報道の時点では、259名の死亡が確認されています。この事故に関する行政の監督責任を取る形で、山西省長が9月14日に辞任しています。こういった事故によって、省長(日本で言えば県知事に当たる)が引責辞任するのは極めて異例のことです。

○メラミン入り粉ミルク事件

 9月11日:甘粛省衛生庁が最近甘粛省で多発しているこどもの腎臓結石について、赤ちゃんが1名死亡したこと、この腎臓結石の多発はあるブランドの粉ミルクが原因であることがわかったことを発表しました。その後、これが粉ミルクに有害物質のメラミンが含まれていたことがわかったのでした。この件については、昨日(9月16日付け)のこのブログの記事で書きました。昨日のブログでも書いたように、国家品質監督検査検疫総局が全国調査を行った結果、最初に見つかった社も含めて全部で22社、69の製品の粉ミルクでメラミンが検出され、これらの製品は市場から回収・撤去されることになりました。これだけ多数の製品でメラミンが検出されたことと、メラミンが検出されたとして掲げられたメーカーの中にテレビでコマーシャルをやっているような有名メーカーも複数含まれていたこと、などから、中国では粉ミルクを巡ってちょっとしたパニック状態になっています。

 温家宝総理は今日(9月17日)午前、国務院常務委員会を開催して、乳製品と乳製品製造業者に対する全面的な検査を行うことを決めました。国務院常務委員会は、その時々の経済情勢などを踏まえて、経済対策などを決める会議ですが、こういった特定の事件に対処するための緊急対策を決めるために開催されるのは極めて異例のことです。しかも、温家宝総理は、今日はパラリンピック閉会式の当日のため、外国要人との会見のスケジュールも立て込んでいる日でしたが、そういったスケジュールを押しのけてまで、国務院常務委員会を開き「政府全体として取り組んでいる」という姿勢を示す必要があったのでしょう。

(参考1)「新華社」ホームページ2008年9月17日19:12アップ記事
「国務院常務委員会、乳製品の全面的な検査と乳製品業者の整頓を決定」
http://politics.people.com.cn/GB/1026/8066877.html

○51人が死亡するバス転落事故 

 9月13日:四川省巴中市発で浙江省寧波行きの長距離バスが巴中市内の山道を走行中、ガードレールと衝突し、ガードレールを突き破って谷底に転落し、乗っていた51人全員の死亡が確認される、という事故が起きました。この事故は山奥で発生したためか、あまり迅速には報道されませんでした。今日(9月17日)付けの人民日報で、国務院がこの事故を「特別重大道路交通事故」として調査グループを設置したことを報じています。

(参考2)「人民日報」2008年9月17日付け記事
「国務院『9・13』特別重大交通事項調査グループを設置」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-09/17/content_103878.htm

 これらに加えて、昨日(9月16日)、リーマン・ブラザーズの破綻で世界同時株安を受けて中国の株価も大幅に下落しました。今日(9月17日)は、東京市場などが下げ止まって少し戻したのと対照的に、中国の株価は今日も下げ止まりませんでした。土石流やバス転落事故は、この時期に起こったことは単なる偶然に過ぎないし、ここ数日の株安の原因はアメリカにあるのであって中国のせいではないのですが、こういった事項を並べてみると、なんだか、オリンピックとパラリンピックの開催のために、我慢してきたいろいろなことがパラリンピックの閉幕を待つことができずに、いっぺんに吹き出してきた、というような印象を受けてしまいます。

 この文章を書いている間に、北京パラリンピックの閉会式は、何発もの花火とともに終了しました。9月も中旬を過ぎ、北京では、朝晩はかなり気温が下がり、明らかに秋風が吹いています。そういった秋の気配からも「終わったなぁ」という感じを強く受けてしまいます。

 今度は、9月25日に中国で3回目の有人宇宙飛行である「神舟7号」の打ち上げが予定されています。なんとなく「これでもか、これでもか」というふうに「国家的イベント」が続く感じです。こういったいろいろな「国家的イベント」は、それぞれ順調に行って欲しいと思いますが、それとは別に日常の世界でも世の中全体が落ち着けるような雰囲気になって欲しいと思います。

 日本は、今、福田総理が辞任を表明して次の総理が決まらない状態で、総選挙が近くあるかもしれない、という不安定な雰囲気ですし、アメリカも大統領選まであと1月半に迫っており、経済的な状況も「どうなるかわからない」という雰囲気です。そういった世界の雰囲気に惑わされないように、中国は落ち着いた安定的な発展を続けて欲しいものだと思います(現在のような世界の状況の中で、今、中国の「安定団結局面」が乱れるようになることは、世界にとってタイミング的に非常に良くないからです)。

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2008年9月16日 (火)

有害物質入り粉ミルクで乳児に腎臓結石

 日本でも報道されていますが、中国の河北省石家庄にある三鹿集団有限公司が製造した粉ミルクに有害物質のメラミンが含まれており、この粉ミルクを飲んだ多数の乳児が腎臓結石になり、一部は死亡した例も出ていることがこのほど明らかになりました。メラミンの化学的性質は私もよく知らないのですが、メラミンは食品に入れると分量が増えるが、タンパク質と同じ窒素有機化合物なので、タンパク質含有量検査ではタンパク質として判定されることがあり、過去にも食品の「水増し」に使われて問題になったことがあったそうです。メラミンを含んだ食品を食べると、体内で化学反応が起き、腎臓結石が生じることがあるのだそうです。昨年、メラミンが含まれているペットフードが中国からアメリカ等に輸出されて、多くの犬や猫が死ぬ事件がありました。

 今日(9月16日)付けの北京の新聞「新京報」の記事によると、昨日(9月15日)衛生部が発表したところによると、昨日午前8時の時点で、この会社の粉ミルクを飲んだことにより病院で検診を受けた乳児は1万人近くに上り、腎臓結石と診断された乳児は1,253名、そのうち53名は重症で、今までに2名が死亡している、とのことです。

(参考1)「新京報」2008年9月16日付け記事
「全国の診察により『三鹿による結石の赤ちゃん』は1,253名に上った」
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2008/09-16/008@021544.htm

 今日の「新京報」の1面トップは、昨日の記者会見で頭を下げる三鹿有限公司の幹部の写真が載っていました。

(参考2)「新京報」2008年9月16日付け1面トップ写真の記事
「三鹿集団が消費者に対して謝罪」
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2008/09-16/008@021535.htm

 こういった事件の記者会見で会社の幹部が深々と頭を下げて謝罪するのは、日本では見飽きるほど見ていますが、中国では、こういったふうに「日本式」に頭を下げて謝罪するというのは今までなかったことです(少なくともこうした写真は私は初めて見ました)。こういった「異例の謝罪」があったのも、この有害物質粉ミルク事件が中国社会に大きな衝撃を与え、社会的に大きな反響を呼んでいる証拠だと思います。

 さらに今日(9月16日)夜7時から中国中央電視台で放送されたニュース「新聞聯播」では、このメラミン入り粉ミルク事件に関する最新情報を伝えた際に、アナウンサーが「たった今入ってきた情報です」と言った後、国家品質監督検査検疫総局が行った全国調査の結果、ほかの多数の会社のメーカーの粉ミルクからもメラミンが検出された、として、製品名と企業名のリストを放送しました。メラミンが検出されたのは三鹿集団も含めて22社、とのことです。おそらくこのニュースが「突っ込み」で入ってきたために、通常は7時30分で終わる「新聞聯播」が、今日は7時35分まで延長して放送していました。

 中央電視台の「新聞聯播」は、放送後1時間くらいすると、その放送内容がネット上にアップされてネット上でも見られるようになっています。今日放送の分を見ると、今までのところの調査では109社の491品目について調査を行い、その結果、今回問題となった三鹿集団の製品も含めて、22社、69品目の製品からメラミンが検出された、とのことです。22社のリストは下記の中央電視台「新聞聯播」のページに載っています。

(参考3)中国中央電視台「新聞聯播」2008年9月16日放送分
「中国国家品質監督検査検疫総局、乳児用粉ミルクにメラミンが含まれているかどうかについての検査の現段階での検査結果を発表」
http://news.cctv.com/xwlb/20080916/107382.shtml

 これだけ多くのメーカーの粉ミルクに有毒物質メラミンが含まれていた、ということは、今後、中国の国内における食品安全に関する大問題に発展する可能性があります。輸出されたペットフードの事件や日本のメタミドホス(農薬)入りギョーザ事件の場合には、中国の人々の中には「また外国が中国の悪口を言っている」というふうに捉えた人も多かったと思いますが、今回の粉ミルク事件は自分たちの問題として、真剣に取り組む(取り組まざるを得ない)と思います。有害物質入り粉ミルクが販売され、乳児に犠牲者が出る事件は過去にもありましたので、今回の事件は、有害物質入り粉ミルクを製造したメーカーが批判されるのは当然として、その上に、それを防げなかった政府に対する批判も高まるのではないかと思います。

 たまたま9月16日は、アメリカの金融大手リーマン・ブラザーズの経営破綻で、世界同時株安現象がおき、中国でも上海総合指数が終値で2000ポイントの大台を割り込んだ(昨年(2007年)10月の最高値6000ポイントの3分の1以下になった)、という別の大きな経済ニュースもありました。この世界同時株安は、中国に原因があるわけではなく、中国も一種の「被害者」なのですが、それと有害物質入り粉ミルク事件が重なって起こったことは、タイミング的に中国にとっては不運なことだと思います。

 ちょうど明日、北京パラリンピックが終わり、北京はオリンピックから続いていた「お祭り」の期間が終わって、現実の世界へ引き戻されることになります。アメリカの金融危機も大きな問題であり、アメリカにしっかり対応して欲しいと思いますが、いろいろな問題が悪い方向に重ならないように、粉ミルク事件のように中国国内で対処できる問題については、中国の関係当局には適切に対応して欲しいと思います。

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2008年8月24日 (日)

北京オリンピックが教えてくれたもの

 あと3時間半もすると北京オリンピックの閉会式が始まります。大気汚染やテロなど心配な事項もあったのですが、問題なく無事にオリンピックは終了しそうです。競技そのものや競技と関係ないところで、今回の北京オリンピックは、いろいろなことを教えてくれたように思います。最終日の今日の時点で「北京オリンピックが教えてくれたもの」を思いつくまま、順不同で書いてみたいと思います。

○北京の大気汚染はコントロール可能だ、ということ。逆にいうと、やはり北京の視界の悪さ(太陽が白く見えることなど)は人為的な行為が原因であること。

 開会式の前までは、かなり蒸し暑く、湿度も高くて、大気汚染指数も100に近い日が続いたのですが、開会式の後、大気汚染指数はだんだんと下がり、数日おきに雨が降ったことも幸いして、後半(特に8月15日以降)は、北京の大気汚染はほとんど問題のないレベルにまで好転しました。心配された男女のマラソンも大気汚染は全く気になりませんでした。やはり市内を通行する自動車のナンバープレートの偶数・奇数による制限と周辺の工場の排出制限が効いたようです。もう1週間くらい規制の開始を早めれば、開会式当日から青空が見えていたかもしれません。

 別の言い方をすれば、日頃、北京で、空が晴れていても、青空にならず、空が白くなって、太陽が丸く白く肉眼で凝視できるような状態になっているのは、やはり人為的な汚染物質の排出による大気汚染が原因であったことが逆に証明されたと言えます。

 今日(8月24日)付けの「新京報」によると、自動車の奇数・偶数規制が大気汚染の改善に効果があり、渋滞の緩和にも繋がったことから、現在の規制の期限であるパラリンピック終了後の9月20日の以降も自動車の運用規制は継続すべきではないか、との議論が出ているとのことです。

(参考)「新京報」2008年8月24日付け記事
「奇数・偶数規制の長期的実行については、まだ結論が出ず」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/08-24/008@032613.htm

 しかし、多くの北京市民は2か月間という限定付きであり、オリンピック・パラリンピックの開催という国家的イベントだからこそ我慢したのであり、これを長期的に続けることには賛成しないでしょう。そもそも多くの企業が経済的負担を我慢してこの奇数・偶数規制に協力しているのですから、これを長期的に続けることには無理があると思います。

○インターネット規制は、やはり当局が意図的に行っているものであり、当局のさじ加減で、いかようにもなるということ。

 7月最終週以降のインターネット規制の大幅緩和にはびっくりしました。BBCホームページの中国語版は、規制解除するだろうとは思っていたのですが、ウィキペディアの中国語版や中国国民党のホームページまで見られるようになったのには驚きました(ただし、BBCホームページ中国語版の特定の話題に関する掲示板の部分や中国国民党ホームページの一部の項目については、現在でもアクセスできないように規制が掛けられたままです)。いずれにせよ、当局側がインターネット規制を行っていることを公式に認めたことと、当局のさじ加減により、この規制がいかようにも厳しくも緩くもできる、ということが世界中に知れ渡っただけでも、北京オリンピック開催の意義はあった、と私は思っています。

 この後、また規制が強化されるかもしれませんが、少なくとも、中国の人々の多くは、今まで自分たちが見られなかった中国語のページが世界にはたくさん存在していたのだ、ということをこのオリンピック期間中知ることができたと思います。

○「中国のニセモノはケシカラン」といつも言っている外国人が喜んで「ニセモノ市場」で買い物をしていたこと。

 北京でも「ニセモノ市場」として有名な「秀水街」はオリンピック期間中たくさんの外国人客が入り、相当儲かったそうです。「秀水街」は、もともとは露天の衣類・雑貨商が並んでいた街で、あまりに有名ブランド品のニセモノ類の販売が多かったことから、当局が露天商を追い出して、大きなビルを建てたところです。ビルが建った後、追い出された露天商が今度はビルのテナントとして戻ってきて、相変わらずニセモノの販売が行われるようになりました。当局ももともと「ニセモノ販売をなくそう」などとは当初から考えていなかったのではないかと思います。

 ということで、「秀水街」は今でも「ニセモノ市場」として有名で、北京の観光スポットのひとつになっています。時々「ニセモノ販売テナント追放」の取り締まりがあるのですが、取り締まりが行われた後で行ってみると、取り締まりの前にニセモノを販売していたテナントが同じようにニセモノを売っており、「当局はいったい何を取り締まったのだろう」と思わせる不思議な場所です。

 ニセ・ブランド品や海賊版DVDなどは海外から厳しく批判されているのですが、買っている客の多くは外国人観光客です。今回オリンピックのために北京に来た外国人も多くここを訪れているようです。報道によれば、ブッシュ元大統領(父親の方)もここを訪れたとのことです。これだけ外国人のお客が多く集まってきて儲かるのだったら、ニセモノ作りはやめられないよなぁ、と思いました(なお「秀水街」は、ニセモノ市場として有名ですが、絹製品や工芸品など、普通の中国のおみやげ物もたくさん売っているところですので、誤解なきように)。

○メダルを獲得する国々が広く拡散したこと。

 今回、インドやモンゴルなど初めて金メダルを取った国が多く出ました(今までインドがオリンピックで金メダルを取ったことがなかった、ということ自体驚きでしたが)。陸上短距離でのジャマイカ勢の活躍は度肝を抜かれましたし、陸上長距離でのアフリカ勢の活躍も目に付きました。以前は、多くの発展途上国は経済的にスポーツをやる余裕がなく、優秀なスポーツ選手はアメリカに移住して、アメリカにメダルをもたらしていたのが、最近では各国とも自国内でスポーツ選手の育成を図るようになり、そのために多くに国々にメダルが拡散した(その分、アメリカのメダル数が伸びなかった)と言われています。発展途上国では、オリンピックでメダルを取ることは、それぞれの国民の励みになりますので、これはよい傾向だと思います。

○日本人が日本以外のメダルに貢献していることを知ったこと。

 井村雅代コーチの指導により日本を押さえて銅メダルを獲得したシンクロナイズド・スイミング中国チームや、高校・実業団と日本でトレーニングして男子マラソンでケニアに初の金メダルをもたらしたワンジル選手など、日本人が他国のメダル獲得に貢献した例がこのオリンピックでは目立ちました。他国でスポーツのコーチをしたり、若い外国人が日本でトレーニングしたりすることは今までも多くあったと思いますが、今回の北京オリンピックは、そういう形で果たしている日本の役割を再認識させてくれました。日本人がメダルを取ることも大事なのでしょうが、他の国のスポーツの向上に貢献するという面で日本が役割を果たすのも悪くないことだと思いました。

○観客の声援は選手の力になるということ。

 それにしても、率直に言って、北京オリンピックにおける中国選手の活躍は見事でした。メダル総数ではアメリカの方が多いのに、金メダル数では中国の方が圧倒的に多いのは、大勢の観客の「加油!」(がんばれ)という声援が選手に最後に振り絞る「一押し」を与えたからだと思います。私は、多くの中国の人々の期待が大きい分だけ、選手にプレッシャーが掛かり、中国選手は意外に成績が上がらないのではないか、と心配していたのですが、(日本に負けた女子サッカーなど期待が重圧になっていた種目もありましたが)多くの種目では、選手は中国の人々の期待をうまく自分の力に加えることができたように思います。プレッシャーを力に変える、という精神面での調整もうまく行ったのでしょう。中国の選手の中には、東京オリンピックで銅メダルを取ったマラソンの円谷選手(後に次のメキシコ・オリンピックを前に成績が振るわないことを苦にして自殺した)のような悲壮感を漂わせたような選手はいなかったように思います。

 開会式翌日の8月9日、中国最初の金メダルを獲得した女子重量挙げ48kg級の陳燮霞選手が鬼のような形相でウォーと声を上げて気合いを入れて試技を行い、それが成功だとわかり、バーベルを降ろした途端に「普通の女の子の顔」に戻ってワーと声を上げながらコーチの首根っこに抱きついてきたシーンが今でも私の目に焼き付いています(日本のテレビでは、6位に入賞した三宅宏美選手の試技が終わった時点で中継を終了したので、このシーンは日本では放映されていないはずです)。圧倒的な強さで平然と金メダルを獲得しているように見える中国の選手も、相当なプレッシャーと戦っていたのだと思います。

 また、これまで中国は個人技で獲得するメダルが多かったのですが、女子バレーボールの銅メダル、女子ホッケーの銀メダルなど団体で行う球技でのメダル獲得が相次いだのは、中国にとっては大きな収穫だったと思います。

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 私は結局は試合会場へは行かずにテレビ観戦に終始しましたが、競技の時間帯が午前中と夕方以降に集中していたので、テレビでかなり見ることができました。欧米で行われるオリンピックと違って、時差がないのはやはり助かりました。中国のテレビを見たり、NHK-BS1またはNHK-BSハイビジョンで見ていたのですが、NHKの北京オリンピックのテーマ曲、Mr. Children の「GIFT」という曲はよかったですね。「白でも黒でもない」「日差しでも日陰でもない」ところに美しい色がある、という趣旨の歌詞が感動的でした。日本はアテネに比べてメダルの数が少なかった、という批判もあるようですが、スポーツには勝つこともあれば負けることもあります。勝敗を超えた大きなたくさんのものをこの北京オリンピックは残してくれたと思います。

 そして一番大事なのは「国家的イベント」として国の威信を掛けて行われたこの北京オリンピックが「なんとしても成功させる」と意気込む指導者たちの思惑とは全く関係なく、多くのものを中国の人々の中に残したことでしょう。中国にとって「オリンピック後」をどう乗り切っていくかが大変だと思いますが、北京オリンピックが中国の人々の中に残した財産は大きいと私は思います。

 北京オリンピックに参加した全ての選手と北京オリンピックの運営に参加した全ての人たちに感謝の意を表したいと思います。

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2008年8月13日 (水)

足跡花火の合成映像と微笑み美少女の口パク

 私も中国に通算3年以上いるので、たいていのことには「ホントかなぁ。これにはウラがあるんじゃないかなぁ」と疑うクセが付いているのいるのですが、8日に行われた北京オリンピック開会式の下記の二つの件については、全く疑っておらず「コロッとだまされ」ました。

 日本でも報道されているので、御存じと思いますが、8月12日、開会式の「裏話」として、次の2つ事情が明らかにされました。この二つとも開会式の様子を書き留めておいた私のブログの記事にも登場するので、下記の私のブログの記事も適宜参照しながら、以下をお読みください。

(参考1)このブログの2008年8月9日付け記事
「北京のテレビで見たオリンピック開会式」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/08/post_c1a7.html

(1)開会式の開始を告げる花火として、南の永定門、前門、天安門、故宮から北京市の北にあるオリンピック・スタジアムへ向けて移動するように打ち上げられた「足跡形の花火」のテレビ中継の映像では、事前に撮影した花火を現場の生中継の映像に重ね合わせた合成映像が使われた

 開会式の開始の時、実際に永定門、前門、天安門、故宮内などから足跡形の花火が打ち上げられたのは事実だそうですが、この花火をヘリコプターで空撮する場合、北京市街地上空を飛ぶヘリコプターの安全確保を図らなければならないので、理想的な撮影角度を確保することが難しく、一部の「足跡花火」については、事前に撮影してあった足形花火の映像をヘリコプターから撮った生の北京の街の夜景の上に合成して映像を流した、とのことです。

 これは北京オリンピック委員会スポークスマンの王偉氏が12日に記者会見説明したものです。王偉氏は「よい演出効果を確保するため」とその理由を説明したとのことです。

(参考2)「新京報」2008年8月13日付け記事
「多くのオリンピック会場では入客率が7割以上に達している」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/08-13/008@023732.htm

(注)この記事の見出しに関する説明:
 上記の「新京報」の記事では、この日の記者会見で北京オリンピック委員会は、8月11日(月)の北京の18か所の試合会場の入場者率は、90%以上が2か所、80%以上が6か所、70%以上が8か所、残りの2か所も60%以上である、という数字を紹介しています。おそらくは、チケットは完売したと伝えられているのに対し、テレビ画面などを見ると結構空席が目立つことから、この点に対して記者が質問したのに対して北京オリンピック委員会が答えたものと思われます。試合会場に空席が見られることについては、オリンピック関係機関(スポンサーなど)が購入したチケットについて、予選などではお客が実際には来なかった可能性があることや、一部の球技では2試合セットの入場券になっているので、自分が興味のある試合だけを見た客がいたためではないか、と北京オリンピック委員会では説明しています。

(2)国旗入場の時に革命歌「歌唱祖国」を歌っていたかわいらしい女の子は実は口パクだった

 開会式の時、中国の国旗(五星紅旗)がスタジアムに入場し掲揚ポールのところまで移動する間に歌われていた革命歌「歌唱祖国」を歌っていたのはかわいらしい女の子でした。この「歌唱祖国」という歌は行進曲ふうの勇ましい曲で「我らの指導者・毛沢東は、我らの行く先を導く・・・」といった歌詞も含まれている革命を讃える歌です。中華人民共和国の国旗の入場の場面で使う歌としては最もマッチした曲だと私も思いますが、普通の調子で演奏すると、軍隊の行進みたいな感じになり、かなり堅苦しい感じになってしまいます。そこでかわいらしい女の子にこの歌を歌わせて、五星紅旗は少数民族の衣装を着たこどもたちによって運ばれました。こういった柔らかい演出は、私は演出家の大金星だと思っていました。

(参考3)「新京報」2008年8月9日付け記事
「非常に中国的な歌」
http://www.thebeijingnews.com/news/xatk/2008/08-09/008@101800.htm

 この場面には、多くの人々が感激したようで、中国国内のネット上でもこの女の子は大人気になりました。「歌唱祖国」を歌っていたのは、林妙可ちゃんという9歳の北京の小学三年生でした。彼女は歌っている間中微笑みを絶やさなかったことから「微笑み天使」と呼ばれるようになりました。ネット上では、林妙可ちゃんのファンクラブが立ち上がり、林妙可ちゃんのファンは「妙族」(少数民族の「苗(ミャオ)族」と発音が同じことから来た一種のシャレ)と呼ばれるようになりました。海外でも評判で、8月9日付けのニューヨーク・タイムズの1面トップには林妙可ちゃんの写真が載ったとのことです。中国の最も権威ある英字紙チャイナ・ディリーや「人民日報」ホームページ上の記事も、一夜にして「国民的人気者」になったこの林妙可ちゃんについて報じています。

(参考4)「チャイナ・ディリー」2008年8月12日付け記事
「かわいい歌手が国中の心を射止める」
http://www.chinadaily.com.cn/cndy/2008-08/12/content_6926550.htm

(参考5)「人民日報」ホームページ写真ジャーナルのページ
2008年8月12日18:27アップ記事(「武漢晩報」の記事を紹介する形の記事)
「新しい『秘密の少女』、ニューヨークタイムズの1面トップに登場」
http://pic.people.com.cn/GB/1099/7655010.html

 ところが、日本のネット上のニュース等の報道に見たところ、8月12日にアップされた「中国新聞網」が伝えたところによれば、開会式で「歌唱祖国」を歌っていたのは、林妙可ちゃんではなく、全く別の楊沛宜ちゃんという7歳(小学校1年生)の女の子だったとのことです。会場に流れていたのは舞台裏で歌っていた楊沛宜ちゃんの声で、スポットライトを浴びていた林妙可ちゃんは、歌に合わせて口をパクパクさせていた、とのことです。これは開会式の音楽監督をやった陳其鋼氏が明らかにしたとのことです。陳其鋼氏によると、この入れ替えは「楊沛宜ちゃんは外見上の原因で落選したので、国家利益のために行った」とのことです。

 このニュースは「中国新聞網」(中国のネットニュースでも正当派のニュースサイトのひとつです)に掲載されたことから、瞬く間に全世界のメディアで報じられました。ところが、8月13日の中国の新聞では、この「口パク」の件について全く報じていません。また、そもそもの情報の発信源を直接見ようと思って「中国新聞網」のサイトにアクセスしてみましたが、「中国新聞網」のサイト上にある8月12日付け記事のリストには、本件ニュースは載っていません。検索サイトで、このニュースを検索するとヒットしますが、検索結果をクリックしても真っ白の画面が出るだけで何も出ません。外国のメディアが本件を報じて以降、「中国新聞網」上にあったもともとの記事は削除されてしまった模様です。

 ところが、私が見た時点では、検索サイトの「キャッシュ」(検索サイトが各ページの情報を得た時に一時的にその内容を記憶しておくエリア)には、まだこの「中国新聞網」の記事は残っていたので、私はその記事を読むことができました(この記事がアップされたのは2008年8月12日10:05です)。

 この「中国新聞網」の記事には、楊沛宜ちゃんと林妙可ちゃんの両方の写真が掲載されています。BBC中国語サイトがこの写真も含めて「中国新聞網」サイトの記事を紹介していますので、写真を御覧になりたい方はBBC中国語サイトを御覧ください。

(参考6)BBC中国語サイト2008年8月12日北京時間23:28記事
「オリンピック開幕式で偽装、女の子のスターは口パクだった」
http://news.bbc.co.uk/chinese/simp/hi/newsid_7550000/newsid_7556900/7556933.stm

※BBCサイトのニュースは一定の時間が経つと自動的に削除される可能性があります。

 写真を見ればすぐわかりますが、楊沛宜ちゃんは、ごくごく普通の女の子で「外見の点で落選したので」と言われるのはかわいそうだと思います。

 林妙可ちゃんの「口パク」については、テレビを生で見ていた人の中にも「あ、これは口パクだ」と気が付いた人がいたようです。ただ、気が付いた人でも「これだけの大舞台で小さな女の子が緊張して歌えなくなると困るから、前もって録音しておいたものを流して、それに合わせて口を合わせたのだろう。そういうやり方はあり得る話だ。」と考えていたようです。しかし、歌っていたのは実は別人だった、ということを聞くと、普通の人はみんなびっくりします。2006年のトリノ冬季オリンピックの開会式でも、著名なテノール歌手・パパロッティさんが自分の声を事前に録音しておいて、本番の開会式では「口パク」をやっていたことが後で明らかになったのだそうですが、これは本人の声を自分の意志で使ったものであり、こういった手法は多くのイベントで時々行われる演出だと思います。しかし、全然別人の歌に合わせて「口パク」をやるのは、演出ではなく「だまし」だと受け止めれてもしかたがないと思います。

 この件については、中国のネット上でも、相当に議論が沸騰しているようです。先頃、6月20日に胡錦濤主席本人が登場して中国のネットワーカーを驚かせた最も有名な掲示板のひとつ「人民日報」ホームページ上にある「強国論壇」でも、この件に関する意見が載っています(ただし、話題になっている割には掲載されている発言の数が少なすぎるので、かなりの数の発言が削除されている可能性があります)。

 削除されずに残っている発言にも、かなり強烈なものがあります。一番多いのは「この演出は、片方の女の子に『歌はうまくない』と言い、もう片方の女の子に『外見があまりよくない』と言っているのに等しく、二人の女の子に対する侮辱だ」として、この演出を非難し、二人の女の子の気持ちを思いやる意見です。このほかにも「ありえない。もし本当に『口パク』をやっていたのならば、全世界の観衆をだましたことになるんじゃない?」「『国家の見せかけ上の姿』をごまかして作ったとしても、そんな国家はすぐに終わってしまう!」「口パクをやらせるのが国家利益のためですって? 話にならない。こんなのはニセ『国家利益』で、実際は全く逆効果だ!」といった意見が出ています。

※ネット上の掲示板の発言は、日本で言えば「2チャンネルに載っているような見るに耐えないものも多いので、いつもは私はあまり掲示板の発言は紹介したくないと思っているのですが、今回は、中国の名誉のために、あえて、このように極めて常識的な発言も数多く掲載されているのだ、ということを紹介させていただきました。

 ところで、この「林妙可ちゃんは口パクだった」というニュースに関して、現在、下記のように非常に奇妙なことが起こっています。

○「口パクだった」との情報の発信源である「中国新聞網」の記事が削除されてネット上から消えている。

○本件は多くの人が関心を持つ事項であると思われるのに8月13日付けの「新京報」や「京華時報」といった大衆紙が「口パクだった」件について一切報じていない(というか、中国のメディアで「口パク」を報じている新聞を私はまだ見つけられていない)。

○にもかかわらず人民日報ホームページ上の掲示板「強国論壇」には、「中国新聞網」の記事が転載され、それに対する意見の書き込みが今も行われ、削除されずに今でも残っている(当局の指示によって「中国新聞網」のニュースが削除されているのだとしたら、人民日報ホームページの「強国論壇」のような目立つ掲示板にそのニュースを転載する記事が削除されずに残っているのはおかしい)。

 (1)の「テレビで放映された『足跡花火』の一部は合成画面だった」という話は、最初は「だまされた」と思いましたが、「テレビによるショーの見せ方のひとつだ」と言われれば「そうかなぁ」と思えて、それなりに納得できるものでした。でも、(2)の「微笑み美少女は『口パク』だった」という話は私にとってはちょっとショックで、これは「演出」の枠を超えている、と私は感じました。前者については中国のメディアでもきちんと報道されているのに対し、後者については報じられていない(しかし掲示板上からは抹殺はされていない)のは、後者に対しては、中国国内でもいろいろな人がいろいろな印象を受け、結構ショックが大きく、情報管理当局の側でも対応方針が統一されていないからではないか、と思います。

 これらは開会式の単なる「演出」の話であって、世の中の大勢に影響のあるような話でなく、議論する値打ちはない、という考え方もありますが、国際社会に与える中国という国のイメージという点では、私は結構重要な話だと思っています。従って、後者の「口パク」の方が中国の(ネットの掲示板などではない)正式のメディアで報道されていないことにより、この件に関してきちんとした議論が行われないのだとしたら非常に残念なことだと思います。また、元のニュース源がネット上から消され、新聞などでは報じられていない、ということは、「ウラに何かさらに深い理由があるのではないか」といったいつもの「勘ぐりクセ」が出てきてしまいます。

(以下、2008年8月13日23:50追記)

 上記に「中国のメディアで『口パク』を報じている新聞を私はまだ見つけられていない」と書きましたが、広州で発行されている「信息時報」という大衆紙の8月13日付けの紙面に、この件について、独自に取材して書いた記事が掲載されているのを見付けました。この記事には、林妙可ちゃんと楊沛宜ちゃんの二人の写真も掲載されています。

(参考7)「信息時報」2008年8月13日付けオリンピック特集ページT17面記事
「一人が幕の前で顔を出し、一人が幕の後ろで声で貢献した」
http://informationtimes.dayoo.com/html/2008-08/13/content_287977.htm

 このように中国国内でもちゃんと報道されているのだとすると、「中国新聞網」の記事が削除され、北京の新聞が何も書かないのはなぜなのか、ますます理由がわからなくなってしまいました。

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2008年7月11日 (金)

2008年上半期の北京の大気汚染指数

 今までにもこのブログで何回か国家環境保護部(今年3月の全人代の決定により「部」に昇格する前は国家環境保護総局)が発表する北京の大気汚染指数について書いてきました。

 大気汚染指数の定義等については、下記の記事を御覧ください。

(参考1)このブログの2007年6月19日付け記事
「北京の今日の大気汚染度はIII(1)級(軽微汚染)」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/06/iii1_5bc5.html

 2006年の北京の大気汚染指数の度数分布については、下記の記事を御覧ください。

(参考2)このブログの2007年8月22日付け記事
「北京の自動車交通制限と大気汚染指数」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/08/post_284f.html

 2007年の北京の大気汚染指数の度数分布については、下記の記事を御覧ください。

(参考3)このブログの2008年1月3日付け記事
「2007年の北京の大気汚染指数」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/01/2007_7776.html

 今年(2008年)も上半期が終わりましたので、2008年1月~6月の北京の大気汚染指数を度数分布にしてみたら下記のようになりました。

【2008年1月~6月の北京の大気汚染指数の度数分布】(■=1日)

000-020:■1
021-030:■1
031-040:■■■■■■■7
041-050:■■■■■■■■■9
051-060:■■■■■■■■■■■■■■■■■17
061-070:■■■■■■■■■■■■■■■■■■18
071-080:■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■25
081-090:■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■24
091-100:■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■21
101-110:■■■■4
111-120:■■■■■■■■■9
121-130:■■■■■■■■■■10
131-140:■■■■■■■■8
141-150:■■■■■■6
151-160:■■■■■■6
161-170:■■■3
171-180:■■■■4
181-190:■■2
191-200:0
201-210:0
211-220:0
221-230:0
231-240:■1
241-250:0
251-260:■1
261-270:0
271-280:0
281-290:■1
291-300:0
301以上:■■■■4
合計=182日

 今までの傾向と同じように100以下と101以上のところで、明らかに不自然な「くびれ」が出ています。100以下は「良」、101以上は「軽微汚染」で、100以下を「青空」として、「青空」になる日を多くする、というのがオリンピックを控えての目標でした。確かに以前のデータに比べると、総体的には改善傾向は見られていると思います。ただ、以前にも書きましたが、上記の度数分布の形は、「青空」の日を多くする、という目標を達成するために数字の操作が行われている可能性を示している、と私には見えていました。

 今日、日本からの報道を見ていたら、北京市環境保護局の担当副局長は、7月10日に行われた記者会見で、記者から100以上のところの件数がへこんでいる現象について質問されてた際、「汚染指数が基準をわずかに上回りそうな時は、観測点周辺で応急措置を取る」と答えた、とのことです。

(参考4)アサヒ・コム(朝日新聞社)2008年7月11日1:56アップ記事
「『青空』増は人為的? 北京市『汚染ひどいと改善措置』」
http://www.asahi.com/international/update/0711/TKY200807100396.html

(参考5)「MSN産経ニュース」に載っている「共同通信」の記事(2008年7月10日21:44アップ)
「北京の青空に疑惑浮上 観測点で『応急措置』」
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/160199

(注)これらのネット上の記事は時間が経過すると削除されます。おそらくこれらの記事は7月11日付けの紙面で記事になっていると思いますので、時間が経過してからこのブログを御覧になっている方は、新聞の紙面の記事の方を参照してください。

 北京市環境保護局の担当副局長が記者の質問に答えて「数字合わせ」のための操作をしていることをあっさり認める、というのも、素直と言えば素直、「あっけらかん」としていると言えば「あっけらかん」としているのですが、この北京市環境保護局副局長の発言を問題視するような中国の新聞の記事は私が見る限り見つかりませんでした。中国の新聞記者は「そういった『数字合わせ』はよくあることでニュース性がない」と判断したのでしょうか。それとも「当局の御指導」で記事にできなかったのでしょうか。

 いずれにしても北京市内の環境保護について「取り締まる側」の立場にいる北京市環境保護局がこのような「数字合わせの操作」をしている、という状態では、誰もまじめに環境基準を守ろうとしないのではないか、と私には思えてしまいます。それとも、こういった観測データが簡単にネット上で入手でき、記者会見で記者の質問に答えて北京市当局の担当者が正直に答えるようになった、ということに「中国の進歩」を見るべきなのだ、今の中国ではそれが限界なのだ、とあきらめるしかないのでしょうか。

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2008年7月10日 (木)

困難に直面する「メイド・イン・チャイナ」

 今日(2008年7月10日)付けの「人民日報」に掲載された評論「人民時報」では、最近の中国の沿岸部での輸出産業の不振に触れ、この不振を打開するには、自主的なイノベーションを進めなければならない、と力説しています。

(参考)「人民日報」2008年7月10日付け10面記事
「『メイド・イン・チャイナ』はいかにして難局を脱出するのか」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-07/10/content_56366.htm

 この記事のポイントは以下のとおりです。

○広東省統計局が6月30日に発表した数字によると、今年(2008年)1月~5月の5か月間で、広東省の一定規模以上の工業分野の企業で赤字になったのが11,006社で、増加率は12.7%であり、この数は広東省全体の工業分野の企業の26.0%に当たる。赤字額ベースで言うと、増加率は49.3%に上る。

○広東省と同じように市場経済が発達している浙江省台州市では、5,371社ある一定規模以上の企業のうち赤字なのは1,111社で、赤字額総計は対前年比55.7%増である。

○こういった企業の業績不振は、国際経済の変化によるものだ。人民元為替レートの上昇、原油をはじめとする原材料価格の上昇と世界的な経済成長の減速が「メイド・イン・チャイナ」が生き残る「空間」を狭くしている。

○浙江省の紡績アパレル業界は、輸出依存度が60%であり、これらの要因の影響を大きく受けている。

○これまでの中国の輸出産業は、安い労働力と安い資源価格、増値税の還付措置などで守られてきたが、今は難しい局面に直面している。

○市場経済が進展した現状にあっては、政府が先祖返りするような財政的な補助金政策を行うことはあり得ない。政府は自主的なイノベーションを進めるための環境を整備する政策を採らなければならない。

○金融政策もまた重要である。政府は、金融制度を刷新して、金融企業が主体的に産業に金融サービスを提供するようにできるであろうか?

○「メイド・イン・チャイナ」の更なる「創新」は、社会的価値観を作り上げることと無関係ではない。不動産投機で儲けた人たちが莫大な利益を上げてそれを産業資本化できるようになった時、その財力で技術の研究開発が行われただろうか? 何千万人もの「サラリーマン」が株式市場で一攫千金を夢見てばかりいたのでは、コツコツと勤勉に働くことによって富を得るという職業精神をどうやって向上させようというのか? 創新(イノベーション)の成果を尊重することによってはじめて、自主的な創新を推し進めようとする力を永続させることができるのである。

○「メイド・イン・チャイナ」の苦境は中国の経済・社会の縮図である。長期的な高度経済成長の後には、経済と社会の深層に様々な矛盾が生じることを避けることはできない。「メイド・イン・チャイナ」が遭遇しているプレッシャーを、これからの成長のための動力源にし、困難に立ち向かっていくこと以外に新しい道へ脱出する方法はないのである。

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 日本の多くの人は「メイド・イン・チャイナ」が直面している問題の原因は、そんなことじゃないでしょ(食品安全やニセモノの問題でしょ)と感じている人が多いと思います。しかし、安全性が問題となっている食品やニセモノは、「メイド・イン・チャイナ」として輸出されている製品の一部に過ぎず、全体的な問題は、上記の人民日報が指摘している問題だ、と私も思います。

 ここでは、人民日報が、最近の国際経済情勢の下で、中国の輸出産業が苦況に立ちつつあることを率直に認め、それに対応するためには技術革新を行う以外にない、と指摘していることに注目したいと思います。この人民日報の記事では、株や不動産で儲けることにばかり熱中して、技術革新に投資しようとしない現在の多く資産家の傾向に対しても批判をしています。ただ、そういう傾向を招来したのは、党と中国政府による経済政策であったはずなので、それに対する自己批判がないところが、中国共産党の機関誌たる人民日報としては物足りない、と私は思います。

 具体的に、どうやったら、お金を持った人が株や不動産で儲けることに走らずに、「創新」にお金を使うようにできるのか、といった具体的な方策にも触れられていないのも、この記事の「物足りなさ」です。ただ、言うのは簡単ですが、中国の企業が自主的に自分で技術革新をするような気持ちにさせることはなかなか難しいと言わざるを得ません。今のマーケットでは技術革新のスピードが要求されますから、基盤技術を持たない中国の企業にとっては、長い時間が掛かる自主的な技術開発に投資するより、外国から安い技術をお金で買ってきた方がビジネスとしては有利だからです。結局は、「じっくりと研究して新しいものを見付けられる人」「コツコツと勤勉に働く人」が長期的に見れば利益をしっかりと得ることができるのだ、という経済社会にするための基盤をじっくり固めていくことが、時間は掛かるけれども、最終的な解決策なのだと思います。

 今年のお正月にも書きましたが、後から振り返った時、やはり2008年は、中国にとって、「北京オリンピックがある年」以上の大きな節目の年になるのだろうという思いを年の半ばにして改めて強くしました。

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2008年2月16日 (土)

ギョーザ事件:選択的報道は世論操作か?

 私は、このブログでは、これまで「毒物入り冷凍ギョーザ事件」については、「日本のマスコミが騒ぎすぎでは?」「ギョーザ事件を報道するのも重要だが、中国中南部の寒波被害について深刻さを持って報道しない日本のマスコミはおかしい」と繰り返し述べてきました。しかし、昨日と今日のギョーザ事件に関する中国の報道振りを見て「中国での報道のされ方もおかしい」と思ったので、ひとこと言わせていただきたいと思います。

 今回の「毒物入り冷凍ギョーザ事件」については、誰かが故意に農薬の成分である毒物を冷凍ギョーザに混入した可能性もあるので、この事件については、原因が特定できない段階で「だから中国製の食品は危ないのだ」といった議論に結びつけるのは正しくありません。従って、中国の政府関係者が、記者会見で「日本の報道機関は事実に基づき冷静に報道してほしい」と繰り返し述べている理由も理解ができるところです。

 一方、中国では春節(旧正月:2月7日)頃までは、この事件については、あまり報道されていませんでした。中南部での寒波被害が甚大なので、そういった自然災害による混乱の中、旧暦の大晦日(2月6日)の夜に親族が揃ってギョウザを食べる習慣がある中国において、あまり不安を抱かせるような報道をしたくない、という中国当局の考え方もわかるなぁ、と私はある程度の同情の念を持っていました。

 春節以降は、この冷凍ギョウザ事件に関しては、中国の新聞やテレビでも中国側の記者会見の様子などで示された事実関係を淡々とではありますが、かなり詳しく報ずるようになりました。これらの報道は、基本的には、中国国内で行われた記者会見で発表された情報をを報ずるものでしたので、袋の外側や内側でメタミドホスが検出された、とか、検出されたメタミドホスには不純物が多く含まれており研究用として日本にあるメタミドホスとは異なり中国で農薬として使われているものである可能性が高い、とか、メタミドホス以外にも農薬成分ジクロルボスが検出されたケースもあった、とか、いう日本で伝えられているもろもろの事実関係は、中国ではほとんど報道されていません。

 そうした中、徳島県で冷凍ギョウザの袋からジクロルボスが検出された件について調べた結果、この徳島県のケースでは、ギョーザが売られていた店の店内の別の場所でもジクロルボスが検出されたことから、店内で殺虫剤を噴霧したことにより付着したと判断される、と徳島県が発表しました。

(参考1)徳島県庁ホームページ2008年2月14日報道発表
「危機管理会議の開催結果について」
http://www1.pref.tokushima.jp/001/01/shoku/cs/H20021419.pdf

 これを受けて、新華社通信は「徳島県庁が『問題のギョウザ』は店内で殺虫剤を用いたことにより汚染されたものであることを認めた」という見出しの記事を流しました。

(参考2)「新華社」2008年2月15日18:26アップ
「日本の徳島県庁が『問題の餃子』は店内で殺虫剤を用いたことにより汚染されたものであることを認めた」
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-02/15/content_7610764.htm

 この新華社の報道は、2月15日22:00からの中国中央電視台第1チャンネルの「夜間新聞」(夜のニュース)、2月16日付けの「新京報」でも伝えられました。また、このニュースについては、2月16日付けの人民日報でも報じられました。

(参考3)「人民日報」2008年2月16日付け記事
「日本の公的機関は徳島県の『問題の餃子』は店内での殺虫剤使用により汚染されたことが原因であることを認めた」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-02/16/content_43856285.htm

 いずれも記事も文章をよく読むと「徳島県で問題となったギョーザについては、店内での殺虫剤使用が原因であることを徳島県当局が発表した」と書いてあるのであり、千葉県や兵庫県で中毒者を出したギョーザについては、この記事では何も言っていないので、記事の内容自体は間違いではありません。人民日報の見出しでも「徳島県の『問題のギョウザ』は・・」と、きちんと「徳島県の」という修飾語が付いています。しかし『問題のギョーザ』と『 』付きで書かれていることと、新華社の記事では見出しに「徳島県の」とうい修飾語が付いていないので、見出しだけ見ると、問題となった一連のギョーザの全てが日本の店内での殺虫剤使用により汚染されたものであるかのような誤解を読者に与えかねない見出しの付け方になっています。

 中国国内では中国国内での記者会見で発表される情報以外の情報がほとんど報道されない中、この徳島県のケースだけが選択的に報道されると、「今回のギョーザ事件は、日本国内で殺虫剤を使用したことが原因だ。それなのに日本のマスコミは中国製品が悪いといって騒いでいる。これはおかしい。」という印象を多くの中国人民に与えることになると思います。そもそも中国のマスコミが当局の指導の下で報道していることと、今回の徳島のケースを中央電視台と人民日報という「本家本元の公式メディア」が率先してこれを伝えていることを考えると、中国当局が中国は悪くない(悪いのは日本だ)という方向に世論を誘導しているのではないか、との意図を感じます。

 しかし、そういう世論誘導を中国当局がしようとしているのは、中国当局にとって何のプラスにもならない、と私は思います。中国当局が仮に中国国内の世論コントロールに成功したとしても、中国当局は国際世論をコントロールすることはできないからです。むしろそういった世論操作は、国際世論に対しては中国当局に対するよくない印象を与えます。オリンピックを控えている今年、これは中国当局に得となるはずはありません。

 私は、今回、日本で見つかった毒物入り冷凍ギョーザ事件に対しては、中国当局の内部でも対応方針が一枚岩になっていないのではないか、という気がしています。というのは、徳島県のケースを特出しにして報じることは、中国の一般市民の間でようやく好転しつつあった反日感情をまた悪化させてしまうことになりかねず、4月頃に予定されている胡錦濤主席の訪日にマイナスになってしまうからです。これは党中央の意図するところとは異なると思います。

 中国当局が、寒波被害という国家レベルの自然災害の中で、日本のマスコミによるギョーザ事件に関する「メディア・スクラム」に大いに辟易しているのは理解できますが、今回の徳島県のケースを特出しで選択的に報道したことは、中国当局にとって「失策」だったと私は思います。その背景には、そもそも新華社、中央電視台、人民日報といった「本家本元の公式メディア」を使えば世論操作が可能である、という中国当局の意識があると思います。もし中国当局が意図するのと違う方向に反日感情が盛り上がった場合は、また別の方法で世論操作すればよい、と考えている可能性があるからです。しかし、こういった世論操作は、結局は、国内世論と国際世論とのギャップを産むことになります。国内世論と国際世論とのギャップは、オリンピックの場において表面化する可能性があります。それは中国当局にとって好ましくないはずで、その意味でも、中国当局は、世論は操作しようと思えばできるもの、といった思い上がった考えからそろそろ脱却する必要があると思います。

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2008年1月31日 (木)

毒物入り冷凍ギョーザ事件

 昨日(1月30日)以来報道されている中国製冷凍餃子から農薬や殺虫剤に使われるメタミドホスという有毒物質が検出され、これを食べた10人が中毒症状を訴えた事件については、日本のメディアでは、詳しく報道されているので、皆様よく御存じのことと思います。

 各種の報道によると、この事件の時系列は以下のとおりです。

1月30日(水)
日本時間16時頃(北京時間15時頃):千葉県警が被害について発表
北京時間夕方:(新華社電によれば)在北京大使館から中国国家品質検査総局に対して事件について通報。日本からの通報を受けて、国家品質検査総局が河北省の天洋食品加工工場の調査を実施。

1月31日(木)
北京時間午前3時頃(日本時間午前4時頃):国家品質検査総局が、問題となった2007年10月1日と10月20日に製造された餃子についての検査記録を確認したところ、ショウガ、白菜に対して原料への残留農薬検査が行われていたが、メタミドホスは検出されておらず、検査には合格していたことが確認された。また、工場に残されていた餃子のサンプル及び現在使われている原材料を検査したところ、メタミドホスは検出されず、工場の加工記録にも問題となるような部分は見つからなかった。

(1月31日(木)お昼頃までの時点で、の中国のテレビや新聞では、ごく一部の新聞で日本における報道を引用する形で事実を伝える記事が載った以外、本件に関するニュースは流されませんでした)

午後:中国国家品質検査総局が記者会見し、天洋食品加工工場から出荷された製品の回収を行っていることと、上記のこれまでの検査の状況を説明

北京時間16:58(日本時間17:58)これに関して新華社通信が自国内発の情報としては、本件について(おそらく)初めて報道

(参考)「新華社」ホームページ2008年1月31日16:58アップ記事
「中国国家品質検査総局、日本の食物中毒事件に対して、既に調査を開始」
http://news.xinhuanet.com/fortune/2008-01/31/content_7535106.htm

※新華社のニュースの見出しが「日本の食物中毒事件に対して・・・」となっているのは、中国国内に対するインパクトをできるだけやわらげたいという意図が見え隠れしています。

北京時間22:00(日本時間23:00):中国中央電視台第一チャンネルの「晩間新聞」(夜のニュース)で、上記の国家品質検査総局の記者会見の模様を報道(おそらく中国国内のテレビが本件について報道するのはこれが初めて)

 31日夕方までは中国におけるメディアでは本件についての報道はありませんでしたが、日本政府からの情報提供を受けて、国家品質検査総局が直ちに動き出し、30日深夜から31日未明に掛けて調査を行い、その日の午後に記者会見を行う、という中国政府のスピードは、中国の対応としては極めて異例のものです。中国は、現在、南半分で寒波と大雪・氷雨による電力網の寸断、交通網のマヒ、燃料の石炭が運べないことと送電線が切れていることによる大規模な停電の発生しているなど、国として緊急事態と言ってもいい状況にあります(胡錦濤主席、温家宝総理をはじめ幹部が現地へ行って陣頭指揮を取らなければならない状況)。そういった状況の中での今回の農薬入り冷凍ギョウザ事件への対応は極めて異例です。食品の安全に関する問題が、寒波・雪害による被害にも劣らないほど重大な問題であることを中国政府自身がよく認識している証拠だと思います。

 これら二つの全く関係のない案件が重なって発生してしまったのはアン・ラッキーでしたが、中国としては、この危機を何としても乗り切らなければならないと思います。食の安全の問題は重要な問題ですが、日本としても、中国製品は何でもかんでもストップさせる、というような極端な対応に走るのではなく、きちんと安全性を確認した上で冷静に対処することが重要だと思います。

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2007年10月13日 (土)

「安全」を作り上げるシステム

 私が、

http://folomy.jp/heart/

の「テレビフォーラム」に8月25日にアップした文章をこちらのココログにも掲載します。

 folomyは、かつての@ニフティのフォーラムを運営していた人たちが集まって運営しているサイトで、メールアドレスを持っている方ならば誰でも無料で登録できます。私がfolomyに書いたものの再アップは、折りを見て時間のあるときに行います。従って、例えばfolomyに掲げた文章のアップは1か月程度遅れると思います。最新の文章を御覧になりたい方は、ぜひ、御自分で上記のアドレスからfolomyに登録して、御覧いただくよう御願いします。

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アップ場所: http://folomy.jp/heart/

「テレビフォーラム(ftv)」-「喫茶室『エフ』」-「『ドナウ川の蚊柱』の続き」

記載日時:2007年8月25日

【「安全」を作り上げるシステム】

 今週、日本では2つの飛行機に関する事件がありました。ひとつは8月20日(月)沖縄那覇空港で台湾の中華航空機が着陸後、駐機場に止まったところで燃料漏れから火災・爆発を起こした事故で、もうひとつは8月25日(土)松本発福岡行きの日本コミューター機が2つのプロペラエンジンのうち1つが停止したため、ひとつのエンジンだけで大阪空港に緊急着陸した事件でした。幸いにして、この二つの事故とも死傷者は出ませんでした。

 旅客機では、機体のどこかで火災が発生した場合、火災が起きている付近の非常口は使えないと仮定した上で、緊急脱出の指示が出てから90秒以内に満員の乗客と乗員の全員が脱出できるように設計されているのだそうです。中華航空機の事故では、実際に緊急脱出の指示が出てから約90秒で全員が脱出しました。また、双発のプロペラ機では、片方のエンジンが完全に停止した場合でも、もうひとつのエンジンだけで飛行を続け、着陸できるように設計されているのだそうで、日本コミューター機の件では、実際に片方のエンジンだけで飛行し無事に着陸しました。この二つの事件は、航空機には、過去、何回も起きた事故を教訓として、一定の安全対策がなされていることを改めて示しました。安全対策は、過去の苦い経験を元に「事故を繰り返してはならない」という意志と「事故原因の徹底的な解明とその結果の情報展開」の二つがあって初めてなされるものです。

 航空会社や航空機製造会社は一回事故を起こすと顧客離れが起きるので死活問題です。従って、航空会社や航空機製造会社には、市場原理に基づき「安全対策への意志」が強く働くのです。また、各国の関係当局は、航空機事故の原因を徹底的に調べて公表しますので、事故原因は世界中の航空関係者で共有されることになります。こういったシステムの下で、航空機では、過去の事故の教訓が様々な安全対策に活かされて来ているのです。

 一方、過去の教訓が全く活かされていないと思われるのが中国における炭坑事故です。中国の炭坑では2007年は1月~7月だけで102件の事故が起き680人が死んでいます。中国で炭坑事故が多いのは昔からですが、一向に改善されません。事故を起こせば死んだ従業員への補償金の支払いが必要になりますが、石炭を買うお客は減りませんから、炭坑会社には市場原理に基づく『安全への意志』の力が弱くしか働かないのです。また、事故原因については、会社や政府の責任が追求されるのを恐れてからか、詳細はほとんどテレビや新聞では報道されません。だから、事後原因についての知識や教訓を関係者の間で共有することができず、いつまでたっても中国での炭坑事故は減らないのです。

 今週の二つの航空機を巡る事件のニュースを聞いて、中国を巡る様々な「安全」の問題は技術の問題ではなく社会システム上の問題なのだ、ということを、改めて感じました。

(参考)中国国家安全生産監督管理総局
「政府ネット事故検索システム」
http://media.chinasafety.gov.cn:8090/iSystem/shigumain.jsp

※上記の検索システムで、期間と炭坑事故の場合は類型として「煤鉱」(中国語で炭坑の意味)を選んで検索すると、各事故の概要と死亡者数が表示されます。最新の事故も含めて、全ての事故がこうやってインターネットで検索できる、というのは、昔に比べると「情報の公開」という点では大進歩だと思います。でも、炭坑事故は一向に減りません。

(2007年8月25日、北京にて記す)

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2007年10月11日 (木)

明るさと安心の心理的影響

 私が、8月18日、夏休み期間中に日本に帰国している間に

http://folomy.jp/heart/

の「テレビフォーラム」にアップした文章をこちらのココログにも掲載します。

 folomyは、かつての@ニフティのフォーラムを運営していた人たちが集まって運営しているサイトで、メールアドレスを持っている方ならば誰でも無料で登録できます。私がfolomyに書いたものの再アップは、折りを見て時間のあるときに行います。従って、例えばfolomyに掲げた文章のアップは1か月程度遅れると思います。最新の文章を御覧になりたい方は、ぜひ、御自分で上記のアドレスからfolomyに登録して、御覧いただくよう御願いします。

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アップ場所:
http://folomy.jp/heart/
「テレビフォーラム(ftv)」-「喫茶室『エフ』」-「『ドナウ川の蚊柱』の続き」

記載日時:2007年8月18日

【明るさと安心の心理的影響】

 今、夏休みのため駐在先の北京から日本に一時帰国しています。正直に言うと、今、北京に駐在している間は、「チャンスがあれば短期間でもいいから日本に帰りたい」といつも思っています。日本は、東京でも晴れれば青空になるので気持ちがいいからです。

 私は、20年前にも北京に駐在していましたが、あの頃はあんまり「日本に帰りたい」とは思いませんでした。20年前の北京は、冬は暖房用石炭の煙によるスモッグがひどかったのですが、夏は乾燥した青空の気持ちのよい日が多くありました。食べ物は、衛生管理が悪くてお腹を壊すことはあったし、残留農薬には気を付ける必要もありましたが、口に入れる物に有害な化学物質が入っているかもしれない、などとは心配しませんでした。

 20年前は、改革開放政策が軌道に乗り始めたばかりの頃で、「これからだんだんに良くなっていくんだ」という期待感を多くの人が持っていて、世の中に何となく明るさがあったように思います。今の中国は、経済発展が速いのはいいのですが、その経済発展のスピードについて多くの人がバブル的だと感じていて、「いつかはハジける」という何とはない不安感があって、世の中に「安心できる明るさ」がないのです。

 私の場合は、それに加えて「何を食わされているのかわからない」という心理的プレッシャーがあります。実際にはそれほど心配することはないのだろうと思いますが、日本の場合、何かあったら内部告発によってすぐに表沙汰になりテレビや新聞で大騒ぎになるので、「騒ぎになっていないから大丈夫だろう」と変な形で安心できるのに比べて、中国では、食品に問題があっても表沙汰にならないケースが多いので、消費者側に「これだから安心だろう」と判断できる材料がなく、それが心理的には負担になっているのです。

 今、中国では、留学のために外国に出国した学生のうち4分の1しか帰国していない、という現状が問題になっています。最近は、中国国内も経済発展し、中国で起業してお金持ちになることも可能になったので、帰国する人も増えていますが、根本的な原因は、海外留学組にとって魅力的な就職口が中国国内にはまだ数としては少ないからのようです。帰国する海外留学組が少ない問題と、大気汚染や食品の安全の問題は、基本的には別の問題ですが、心理的影響としてはある程度関係しているのではないかと私は思っています。

 私の個人的感触としては、中国は、経済発展はしましたが、この20年間で「住みたいと思う魅力」を失ったように思います。中国人の中にも私と同じような感覚を持っている人がいるのではないでしょうか。夏のきれいな青空と「今はまだ苦しいけれども、これからどんどんよくなっていくはずだ」という期待感から来る明るさ、そういった20年前にあったものを、中国にはぜひ取り戻して欲しいと思います。

(2007年8月18日、日本にて記す)

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2007年10月 9日 (火)

安全設備とコスト

 国慶節連休の最後の日曜日、街を歩いていたら、路線バスが別のバスに追突した交通事故の現場の前を通りかかりました。後ろから追突したバスの前方の乗降口の部分が完全につぶれて、乗客が降りられないような状態になっていました。このバスの乗客は、駆けつけた警察官などの助けを借りながら、窓から一人づつ脱出していました。翌日の新聞での報道によると、この事故では、双方のバスの乗客25人がケガをしたそうです。

(参考1)「新京報」2007年10月8日付け記事
「二台のバスが追突、25人の乗客が負傷」
http://www.thebeijingnews.com/news/beijing/2007/10-08/014@083940.htm

 後方から追突したバスには「非常口」がなかったために、前方の乗降口が衝突でつぶれて使えなくなると、乗客がバスの中に閉じこめられてしまって、外に出られなくなっていたのでした。

 中国では、非常口のないバスは、数多く走っています。このブログの10月3日付け記事で書いたバス火災のケースでも、バスに非常口がなく、乗客の乗り降りは前方のドア1つしかありませんでした。出火したのが運転席のすぐ後ろの座席にあったに荷物だったことから、後方座席の乗客はバスの前方のドアから外に脱出することができず、結果的に死者27名という大惨事になってしまったのです。

(参考2)このブログの2007年10月3日付け記事
「重慶でバス火災27人死亡・放火か?」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/10/27_7d11_1.html

 詳しい統計を見たわけではありませんが、中国では「いざというときのための安全設備」が付いていないために、大事故になってしまうケースが結構多いのではないかと思います。「いざというときのための安全設備」は、「いざというとき」にならなければ不必要な設備ですので、コストダウンの対象となりやすく、きちんと設置されていないケースがあるからです。中国では、一般に物価は安いですが、一方では「安全設備が十分に備わっていないために起こるリスク」は常に覚悟しておかなければならない、と私は思っています。

 昨日は、私の勤務先の隣のビルでボヤがあり、数百人が避難する騒ぎがありました。実際に火の手が上がったわけではなく、新聞の報道によると、原因は調査中だが、排煙筒の中に溜まった油分が過熱して煙を出したのではないかと考えられているようです。このビルのボヤ騒ぎが、ビルの安全設備に関係があるのかどうかはわかりませんが、二日連続で新聞ネタになるような交通事故やビルの火事騒ぎに遭遇したので、私は、中国にいると、交通事故や火事の現場に自分が居合わせる確率が日本にいるときよりもかなり高いような気分になりました。中国では、もともと、自分の安全は自分で守る、というドライな考え方の人が多いので、使うことがあるかどうかわからない安全設備にコストを掛けたものを高い料金を払って利用するよりも、安全設備は十分ではないかもしれないけれども、安い料金で利用することの方を選択する人が多いのかもしれません。これも文化の違いのひとつだと思いますが、中国で生活するためには、そういったリスクがあることを覚悟した上で生活する必要があるのだと思っています。

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2007年9月17日 (月)

信用の価値

 「遺憾なことながら、現在の中国は信用欠乏の危機に直面しているのではないだろうか」と今日(9月17日)付けの新聞「新京報」の社説は、自問しながら問題提起をしています。「中国でも孔子の時代から『信用』が大事であることは力説されてた。現在、多くの先進国では、政府、企業、個人の全てのレベルにおいて『信用』を極めて重視している。しかし、それに対し、現在の中国は『信用に重きが置かれていない国家群』の中に入れられてしまっているのではないか。」とこの社説は指摘しています。

(参考)「新京報」2007年9月17日付け「社説」
「信頼失墜の困難な状況を打破しようとするならば、信頼を守ることに対する価値を高める必要がある」
http://www.thebeijingnews.com/comment/shelun/2007/09-17/018@073523.htm

 この社説は、先進国の人々も生まれながらにして信用を大事にする素質を備えているわけではなく、信用を重視する政府、企業、個人は利益を得、信用を重視しない政府、企業、個人は社会的に様々なマイナスを受けるシステムができているので、みんな信用を大事にするのだ、と指摘し、中国でも「信用」に対する価値を高めなければならない、と強調しています。この社説では、例えば、信用を失った人に対する社会的制裁の具体的な例として、信用を失った企業や個人は、融資や保険などの面で信用を守っている人よりも冷遇されることになることなどを挙げています。

 もともと伝統的に中国はビジネス上の信義を非常に重要視するお国柄であり、だからこそ、世界各国で中国系の市民が経済上大きな地位を占めているのだと思います。しかしながら、現在の中国の社会では、一部の「信用を重視しない人々」が利益を得ることができ、しかもそういう人たちがのうのうと社会的制裁も受けないで大手を振って歩いている状況が残念ながらあるのだと思います。

 ビジネスの世界で厳しい国際競争にさらされている中国は、今、いやおうなしに「信用を重視しない」人たちは社会的に立ちゆかないようなシステムが社会の中に定着していかざるを得ない状況に置かれていると思います。

 最近、食品・薬品の安全性問題が国際的に取り上げられていますが、これらは「信用がいかに重要視されるか」という観点で、重大な中国の国内問題なのです。信用できない政府、企業、個人がきちんと排除されるようなシステムを作ることが、中国の国内問題として求められているのだと私は思います。

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2007年8月31日 (金)

中国製品の品質問題は外国バイヤーのせい?

 今日(8月31日)付けの中国の英字紙「チャイナ・ディリー」の意見欄に「中国製品の品質問題は、無理難題を言ってくる外国顧客のせいだ」という署名入りの意見評論が載っていました。

(参考)「チャイナ・ディリー」2007年8月31日付け記事
"Unrealistic foreign buyers created Chinese product 'quality problem'"
http://www.chinadaily.com.cn/opinion/2007-08/31/content_6070860.htm

 英語が読めなくても、ひ弱な中国企業の上でふんぞり返る外国人バイヤーが描かれたマンガを見れば、この意見評論の言いたいことはわかると思います。

 この意見評論を書いたのは、John Goss というイギリス人で、「自分は中国人女性と結婚して5年以上香港に住んでいるので、半分は中国人だ。」と自分でこの評論の中で言っています。彼の意見のポイントは、外国のバイヤーが「もっと安くしろ」「もっと納期を短くしろ」と無理難題を押しつけてくるので、お客を失いたくない中国の製造メーカーは品質を維持することができなくなってしまっているのだ、ということです。

 私は、こういった主張は現実の一端を表していると思います。外国のバイヤーが中国に求めているのは「とにかく安く、とにかく早く作ること」です。「少々値段が高くても時間が掛かってもよいから、品質の高い製品を作ってください」と中国に頼む外国のバイヤーなど今はいないのです。従って、そういう「安値買いたたき」のプレッシャーの連続が中国製品を「安いけれども品質がよくない」ままに留めている、という面は否定できないと思います。

 しかし、中国が「自分は市場経済の原理を利用して発展していくのだ」という方向性を定めた以上、市場経済社会においては、顧客が要求する無理難題の中で、品質を維持・向上させた上で値段を安くする努力を続けられる企業だけが生き残り、そうでない企業は生き残れないのだ、という市場経済の「オキテ」がある、ということは覚悟しなければなりません。日本や韓国の企業だって、そういう厳しい国際競争の中を生き抜いて来たのです。「品質が向上しないのは無理難題を言うバイヤーのせいだ」という論理は、厳しい市場経済の世界の中では通用しないのです。

 「ひ弱な中国企業に無理難題を押しつけて、もしかして自分は19世紀の大英帝国と同じことをしているのではないか」と常に自問していると思われるこの意見評論の筆者のイギリス人には、私はむしろ敬意を表しますが、だからといってこういうイギリス人の論評を掲載して「言い訳」めいたことをしているチャイナ・ディリー紙の意図には賛成しません。「中国製品の品質問題は、外国のバイヤーのせいだ」という論理は、世界中どこへ行っても通用しません。そういった考え方から脱しなかったら、いつまでたっても「中国製品」の名誉回復はできないと思います。

 今、中国製品がどんどん売れているのは大部分の中国製品が安くて品質がそれなりだからです。粗悪品が中国製品の中の一部にしか過ぎないことは誰でも知っています。あるCNNの番組でアメリカの広報の専門家が言っていましたが、そういう状況の中で中国政府が「粗悪品は一部にしか過ぎない」と声高に強調するのは、広報戦略上は全くヘタなやり方で、むしろ逆効果なのです。粗悪品しか作れない企業には市場から退場していただく、という最も基本的な市場経済の「オキテ」に従って、現実的に「粗悪な中国製品を市場から追放する」ことが「中国製品」の名誉回復の最も確実な方法なのです。

 もし、「中国は社会主義国であり、多くの労働者を抱えていながら技術力が低い国有企業が多いので、簡単に『よい品質の製品を作れない企業は市場から退場していただく』などというわけにはいかないのだ。」と言うのだったら、残念ながら激しい競争を続ける国際マーケットでプレーすることは考え直してもらわなければならないと思います。国内に貧しい地方や膨大な農民人口を抱えているのはわかりますが、2001年にWTOに加盟して国際マーケットに打って出てプレーするのだ、と決めた以上、結局は、中国も、相手プレーヤーの少々強い当たりにも対処できる基礎体力を付けていくしかないと思います。 

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2007年8月22日 (水)

北京の自動車交通制限と大気汚染指数

 8月17日(金)~20日(月)の4日間、北京では自動車のナンバープレートの奇数・偶数で市内の走行を規制する交通制限を実施しました。来年の北京オリンピックの開催へ向けて、交通制限をした場合、公共交通機関でどの程度カバーできるのか、大気汚染の改善にどの程度効果があるのかについて「実験」を行ったのです。結果としては、市内を走行する車の台数は大幅に減少し、普段車を使って移動している人が公共交通機関を利用したためいつもよりタクシーがつかまりにくかった、という状況はあったにせよ、大きな混乱はありませんでした。また、大気汚染への影響についても、規制を行う前日の8月16日は、大気汚染指数が115(汚染等級でよい方から数えて3段階目である「軽微汚染」)だったのが、規制実施期間の4日間は「良」であり、規制が終わった21日には116の「軽微汚染」に戻りました。北京市当局は「測定結果は成功だった」と分析しています。

 ただ、大気汚染指数は、雨が降った翌日や風の強い日には低くなるので、これが全て自動車の交通制限の影響であったかどうかは、確定的なことは言えないと思います。また、21日(火)の日中は非常に青い美しい空が広がったので、私は「今日は汚染指数は低いだろう」と思ったのですが、発表された大気汚染指数は116(軽微汚染)でした。北京市当局は、この数字をもって「交通規制が終われば汚染は元に戻る」ということを言ったのだと思いますが、私の感覚では、21日(火)の116という数字は高すぎるように思いました。「交通規制が大気汚染改善に効果があった」ということを言いたいがために、交通規制が終わった翌日の大気汚染指数を高めに出したのではないか、とすら勘ぐってしまいました。

 この「見た目の感覚と発表された大気汚染指数の違い」については、人民日報は下記の記事を掲載しています。

(参考1)「人民日報」2007年8月22日付け記事
「大気汚染の測量はデータの根拠を使って結論を出す必要がある」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2007-08/22/content_17222801.htm

 この記事が言いたいのは、「空が青い」とか「遠くまでスッキリ見える」とかいう目で見た感覚は、水中の水蒸気の割合も関係するので、人工的な汚染物の濃度とは必ずしも一致しないので、大気汚染については、測定されたデータの根拠に基づいて判断すべきである、ということなんだと思います。この記事によれば、中国国家環境保護総局が発表する大気汚染指数とは、前日のお昼の12時から当日12時までの24時間の測定値の平均値を発表しているのであって、21日は確かにお昼過ぎからきれいに晴れたが、朝方のラッシュ時には結構汚染があったので、24時間の平均値で出すと高い数字が出るのだ、と北京市環境保護局副局長は説明している、とのことでした。

 「人が空を見た目で受ける印象と実際の大気汚染の度合いは異なる。きちんとした測定データに基づいて判断する必要がある」というのはその通りだと私も思いますが、人民日報にわざわざこういう記事が載っているのを見ると、「見た目の空の様子と大気汚染指数が一致しない。大気汚染指数は、本当に汚染の実態を表しているのか疑わしい。」といった一般庶民の感覚に対する「言い訳」を言っているようにも見えます。

 この北京市環境保護局副局長に説明については、「新京報」も記事を書いています。

(参考2)「新京報」2007年8月22日付け記事
「交通制限の終了した後の初日は『軽微汚染』」
http://news.thebeijingnews.com/0553/2007/08-22/014@285315.htm

 この記事の見出しを見ると、4日間の交通制限が終わった途端に前と同じような汚染になった、つまり交通制限が効いたのだ、というふうに読めますが、実際の数字を見ると、そうは簡単には判断できません。

 国家環境保護総局が発表している北京の大気汚染係数は、8月13日~22日までの10日間は順に以下の通りになっています。
【交通規制実施前】56、76、86、115、
【交通規制実施中】91、93、95、(欠測)、
【交通規制実施後】116、88
となっています。8月20日(月)がなぜ「欠測」なのか理由は不明です(今まで「欠測」の日なんてなかったのですが)。これを見ても、交通規制を行っていた4日間だけ特別に汚染が低かった、とはこのデータだけでは言えないと思います。確かに北京市当局は「測定結果は成功だった」と言っており、これは「必要なデータは取れた」という意味であって、車を制限することが即大気汚染の改善につながることが実証された、とまでは言っていないので、間違ったことを言っているのではないのですが、「交通制限の終了した後の初日は『軽微汚染』」という新京報の見出しは、多くの読者に「交通制限によって大気汚染が改善されたことが確認された」という必ずしも科学的には正しくない結論のイメージを与えたのではないかと思います。

 実は、交通規制実施期間中に出ていた90台という大気汚染指数の数字は、発表される大気汚染指数の数字としてはよく見る数字です。実際に国家環境保護総局が測定した北京の2006年1年間の大気汚染指数を10単位でグラフにしてみると以下のとおりになります。

※データの出典:中国国家環境保護総局の重点都市大気汚染日報のページ
http://www.sepa.gov.cn/quality/air.php3
の下の方にある検索機能を使って「北京」の「2006年1月1日~2006年12月31日」の大気汚染指数を表示させて10単位にその指数を示した日数が何日あったかを数えたもの。

【2006年の北京の大気汚染指数の度数分布】(■=3日)

000-020:0
021-030:■2
031-040:■■■7
041-050:■■■■■■17
051-060:■■■■■■17
061-070:■■■■■■■■■■■■■■42
071-080:■■■■■■■■■■■■36
081-090:■■■■■■■■■■■■■■41
091-100:■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■79
101-110:■■■■12
111-120:■■■■■15
121-130:■■■■■14
131-140:■■■■■■■20
141-150:■■■■11
151-160:■■■■11
161-170:■■6
171-180:■■4
181-190:■■5
191-200:■2
201-210:■3
211-220:■1
221-230:■2
231-240:0
241-250:■2
251-260:■3
261-270:0
271-280:■1
281-290:0
291-300:0
301以上:■■■■12
合計=365日

 普通、この手のバラツキのあるデータの測定値を度数分布のグラフにすると、なだらかな山型のカーブを描くのですが、上記のグラフでは、91-100のところが不自然に多く、101~130のあたりが不自然に少ないように感じます。汚染等級としては、0-50が「優」、51-100が「良」、101-150が「軽微汚染」、151-200が「軽度汚染」、201-250が「中汚染」、250-300が「中度重汚染」、301以上が「重汚染」に分類されます。従って、100以下なら「良」、101以上ならば「軽微汚染」に分類されるので、ここの境目が非常に重要なのです。上のグラフを見ると実際は100をちょっと超えた程度だった日の部分を91-100の日として寄せ集めたように見えます。

 この傾向は2007年のデータでも見ることができます。例え測定されたデータを正確に記録していたのだとしても、例えば10回測定して、その測定値の中から「適切なもの」を観測値として選ぶ、といった「測定データの意図的な選択」をやれば、データをねつ造しなくとも、測定値の操作はある程度可能です。しかし、そのように一定の意図の下に選択されたデータは科学的には意味を持ちません。そもそも科学的にデータ測定をする場合には、そのような「意図的なデータの選択」を行ってはならないのです。

 測定には必ず測定誤差が出ますので、実際にたまたま上記のような測定結果が出たのだ、と言われればそれを否定することはできません。ただ、統計学的に考えれば、上のグラフはかなりの高い確率で意図的な測定値の操作あるいは選択が行われた可能性を示しています。

 環境汚染対策は、まず実情がどうであるのかを科学的に正確に測定するところから出発します。北京でナンバーの奇数・偶数による自動車の通行制限が行われていた4日間の大気汚染指数が3日は90台、1日は欠測だった、という結果を見て、この数字を本当に素直に受け取っていいのだろうか、という疑問を私はぬぐい去ることができませんでした。

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2007年8月 4日 (土)

在北京韓国大使館公使の死去

 北京に駐在している韓国大使館の政務公使ファン・ジョンイル(黄正一)氏が7月29日北京の病院で亡くなりました。この件は日本でも報道されているので御存じの方も多いと思いますが、ファン公使は、7月28日の夕方、大使館近くで購入したサンドイッチを食べたところ腹痛と下痢に見舞われ、翌日(29日)になっても回復しないところから、外国人もよく利用する診療所へ行って点滴を受けたとのことです。ところが点滴を受けている最中に呼吸困難に陥った、とのことで、その診療所では救急医療ができないため、救急隊の派遣を要請したが、救急隊が到着したときには既に呼吸停止状態で、そのまま29日午前中に死去した、とのことです。ファン公使は、政務担当の公使ですが、大使級の人物であることから、中国当局もこれを重視し、点滴に使われたリンゲル注射液の残量を回収するとともに、家族の同意を得て司法解剖を行い、原因を調査しているとのことです。

 日本語で読める記事としては、下記の韓国の新聞、朝鮮日報(日本語版)の報道が最も詳しいと思います。

(参考1)朝鮮日報オンライン(日本語版)2007年7月31日11:20アップ記事
「駐中韓国公使が急死、診療所の注射液に疑いも」
http://www.chosunonline.com/article/20070731000027

 原因は調査中なので、事情を知らない私が、上記の新聞記事にあるように「前日夕方に食べたサンドイッチ」「点滴に使った注射液」「診療所の点滴の仕方」のいずれかに関係があるのではないか、などと軽々しく言うことは慎むべきだと思いますが、ファン公使が行った診療所は、外国人もよく行く診療所で、日本語の対応も可能なことから、北京にいる日本人向けに配られている無料情報誌や日本で売られている旅行ガイドにも載っている比較的有名な診療所なので、北京に住んでいる私としては、このニュースは非常にショックでした。

 報道によれば、ファン公使は「購入したサンドイッチを食べたところ腹痛と下痢に見舞われた」とのことですが、中国で何かを食べて「当たる」ことは、結構あることです。20年前に私が北京に駐在していた時は、約2年間で3回「当たり」ました。基本的に中華料理は熱を通しているので問題はないのですが、ジュースや氷など「熱くないもの」は「当たる」確率が高くなります。

 ちょっと気になるのが、本件が北京ではほとんど報道されていない、ということです。中国の重要な隣国のひとつである韓国の大使級の公使が北京で亡くなった、ということ自体、その死因が何であるにせよ、ニュースになっていい案件だと思うのですが、本件についての中国国内での報道は非常に少なく、現時点では以下が見つかるだけです。

(参考2)広東省の「新快報」2007年8月1日付け記事
「韓国の在中国公使が腹痛・下痢の治療中に死亡」
http://www.xkb.com.cn/view.php?id=111353

(参考3)「新京報」2007年8月4日付け記事
「韓国の在中国公使の死去について、中韓両国が正式に調査を開始」
http://news.thebeijingnews.com/0564/2007/08-04/011@281212.htm

 「新京報」の記事は、昨日(8月3日)に行われた国家食品薬品監督局の記者会見の席上、前者の「新快報」の記事を受けて発せられた記者による質問とそれに対する食品薬品監督局側の回答を報じたものです。

 上記の中国の2つの報道は、極めて簡単なもので、「購入したサンドイッチを食べて腹痛・下痢を起こした」という部分の記述がなく、死亡原因と思われるようなことについての記述もなく、単に前者の「新快報」の記事の中で「使われた点滴液の残りが回収されるとともに、尿検査と解剖による検査が行われた」と書かれているに過ぎません。中国における最初の報道が、北京の新聞ではなく、中国の南の端の広東省の新聞だった、という状況は、事件の起きた当地では報道されず、関係のない遠隔地で先に報道されることが多い、という現在の中国の新聞事情を象徴するものです。ただ、「新京報」の記事にあるように、国家食品薬品監督局の記者会見で記者がこの案件を質問した、ということは、薬品に問題があったのではないか、と中国の記者も思っていることは確かだと思います。

 私が気になるのは、本件が韓国大使館公使という外国人の「大物」が死亡した案件だから韓国で報道されてコトが表沙汰になったのであって、もし一般の中国人が死亡したのだとしたら、中国国内では報道されなかったのではないか、という点です。最近、社会の問題点を鋭く追求する記事を多く書く広東省の新聞や北京の大衆紙「新京報」の記事にしては、あまりに内容が簡単過ぎる、という印象を私は受けました。もちろん、原因がハッキリしていない現段階で、憶測による記事を書くのは慎むべきだ、という考え方もあるのだと思いますが、この中国の新聞報道の記事の「簡単さ」の背景には中国当局の「指導」があるのではないか、と私は推測しています。

 報道をコントロールするのは中国の政策なのだから、私は文句は言いませんが、北京で生活する者としては、命に係わる問題ですので、この件は徹底的に原因究明の調査を行って、その結果を公表して欲しいと思います。

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2007年8月 2日 (木)

確かに「違法」ではないけれど

 中国では、多くの人々の経済力が上がってきたので、今は観光地はどこも大にぎわいです。日本の高度経済成長期の「レジャー・ブーム」のような様相を示しています。そんな中、観光地での商売のやり方に不満を持つ人(それも外国人観光客ではなく、中国人の観光客の中に)が最近増えてきました。

 昨日(8月1日)付けの英字紙「チャイナ・ディリー」のオピニオン欄に、Liu Shinan氏の下記のコラムが載っていました。

(参考)China Daily 2007-08-01
"Killing the goose that lays the golden egg"
http://www.chinadaily.com.cn/language_tips/2007-08/01/content_5447176.htm

 Liu Shinan氏は、先の週末、娘さんとその子の孫と一緒に渤海湾にある海水浴場に遊びに行ったのだそうです。彼は、海辺に行く途中で、孫が使うのにちょうど良さそうなプラスチック・ボードを売っていたので、それを20元(約320円)で買いました。それを持って海辺へ行こうとすると、海辺へ行く途中に「安全のためプラスチック製の浮き具の使用は禁止されています。」との立て札がありました。海辺近くには、監視員がいて「プラスチック・ボードは使用禁止です」と言われました。監視員の隣ではゴム製の浮き輪を売っていた、とのことです。監視員は「安全のため、浮き具を使うならゴム製のものを使って下さい。」と言っていました。しかたなく、彼は孫のために50元(約800円)のゴム製の浮き輪を買ってやったとのことです。

 その後のLiu Shinan氏と監視員との会話は以下の通りです。

Liu氏「使用禁止のプラスチック・ボードをなぜあそこで売ってるんですか。」

監視員「プラスチック・ボードは『ここ』では販売禁止です。彼らは『あっちの方』で売ってるんでしょ。」

Liu氏「じゃ、なんで『プラスチック製ボード禁止』の立て札があの店より海側に立っているのか。」

監視員「それは私には関係ないこと。」

Liu氏「観光客にプラスチック・ボードを買わせておいて、海辺ではその使用を禁止して、海辺近くでゴム製の浮き輪を売っているって、これは『だまし』じゃないか!」

監視員「不満があるなら、関係当局に抗議するとか、警察を呼ぶとかしたらいかがですか?」

 Liu氏は完全に頭に来て、言葉も出なかった、とのことです。でも、中国に住んでいる私にとっては「ありそうな話だ。」と思えて、変に納得してしまったエピソードでした。

 プラスチック・ボード使用禁止の区域の外でプラスチック・ボードを売り、海辺近くでゴム製の浮き輪を売ることは、ともに違法ではありません。50元くらいのことで警察を呼ぶ人もいないだろうし、関係当局に抗議に行ってせっかくの週末をつぶすような観光客もいないでしょうから、それを見越して「限りなく『だまし』に近い商売」をやっているわけで、そういう商売のやり方に対して Liu氏は怒っているのです。「観光地は貴重な資源(金の卵をうむガチョウ)だが、その金の卵を産むガチョウを殺すようなことをしている」というのが、このコラムのタイトルの意味です。

 観光客はたぶん一生に一度くらいしか来ないのだろうから、とタカをくくって、違法ではないけれども「だまし」に近いような商売をやっている観光地は、中国以外にも世界各地にあると思います。しかし、長期的に見れば、こういった商売のやり方は、その観光地の評判を落とします。オリンピックに世界中から多くの人々が中国に来ると思いますが、そういう外国人観光客が、こういった商売のやり方によって、中国に対してよくないイメージを持って帰って欲しくないなぁ、と私は思っています。

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2007年7月19日 (木)

「段ボール肉まん」報道は「やらせ」だった

 「段ボール入り肉まんが売られていた!」というテレビの報道が実は「やらせ」だった、というニュースは、中国の人々を怒らせています。この件は、最初の「段ボール肉まんが売られていた」という報道がなされた時から、「それが実は『やらせ』だった」とテレビ局が謝罪するまで、ほとんどタイムラグなしに日本でも報道されているので、知っている方も多いと思いますが、事実関係を並べると以下の通りです。

○7月8日、19:00からの北京電視台生活チャンネルの「透明度」という報道番組で、記者がカメラの隠し撮りで北京市内で段ボール入りの肉まんを売っている業者がいると伝えた。この報道によると、古い段ボールを苛性ソーダで軟らかくして香料を入れ豚肉の色に着色したものを6割、残りの4割に腐って崩れかけて軟らかくなった豚肉を入れて肉まん(中国語で「包子」)を作って売っているとのこと。

○7月10日、「透明度」の報道内容を北京電視台第一チャンネル(総合チャンネル)のニュースの時間に放送。その後、中央電視台第一チャンネル(総合チャンネル)のニュースでも放送。(私は中央電視台の朝のニュースでこの報道を見ました。隠し撮りのカメラの向こうで、「段ボール肉まん」を作っている人に対して記者が「これは自分でも食べるの?」と聞くと、作っている人は「自分じゃ食べないよ。」と言っていました)。

○これらの報道を受け、外国のメディアも「北京で『段ボール肉まん』が売られていた」と報道した。

○7月16日、報道を受けて緊急調査を行った北京市食品安全弁公室は、全市23個所の肉まん販売業者のサンプル抜き打ち検査を行ったが「段ボール肉まん」は見つからなかった、と発表。しかし、肉まんの売り上げは「段ボール肉まん」報道によって激減した。

○7月18日、北京電視台は夜のニュースの中で「『段ボール肉まん』の報道は、虚偽の報道であったことが確認された。撮影者は刑事当局によって拘留されている。北京電視台としては、社会に対して深く謝罪する。」との告知を放映。

○北京電視台が放送した告知の内容は以下の通り。

「今年6月中旬、北京電視台生活チャンネルの番組『透明度』の臨時雇用スタッフが、北京市内で、人を使って肉まん販売員に頼み、自分で用意した肉、段ボール、肉まんの皮などを使って肉まんを作るように要請し、その様子を自分で持ってきたデジタル・ビデオで撮影した。この臨時雇用スタッフは、公安当局によって現在刑事拘留されている。局内での審査制度が十分に機能せず、虚偽のニュースを放送したことに対し、北京電視台は社会に対して深く謝罪する。」

北京電視台の「告知」そのものは北京電視台の以下のページで視ることができます。

(参考1)北京電視台ホームページ「北京新聞」2007年7月18日
「北京電視台は、社会に対して深く謝罪する」
http://www.btv.org/btvweb/07btv1/2007-07/18/content_199465.htm

 なお、下記の「新京報」の記事によると、7月12日に北京電視台が発表した数字によると、「透明度」の視聴率は6.77%(占有率は21.63%)で、北京電視台10チャンネルの中の報道関連番組の中では4番目の高視聴率番組だった、とのことです。

(参考2)「新京報」2007年7月19日付け記事
「BTV(北京電視台):『段ボール肉まん』は虚偽報道だった」
http://news.thebeijingnews.com/0558/2007/07-19/015@277353.htm

 下記のページには、北京電視台の「謝罪報道」の場面の写真が載っています。

(参考3)新華社ネット上の「中華新聞メディアネット」のページ2007年7月19日アップ
「中国記者協会、『段ボール肉まん』の虚偽報道に付いて通知を発出」
http://news.xinhuanet.com/zgjx/2007-07/19/content_6401303.htm

上記の記事によると、事態を重視した中国記者協会は、関係者に対し、職業倫理に基づく報道をするように、との通知を発出した、とのことです。

 「ニセモノ報道が実はニセモノだった」という今回の事件は、中国の人々にかなりのショックを与えたようです。そもそも当局の厳重な管理下にあるはずのテレビ局が「ニセ報道」をやる、などということは、中国のテレビの歴史にとって前代未聞のことで、多くの人は「いったい何を信じたらよいのか。」という気持ちでいるようです。

 「あちこちでニセモノが売られている」という報道が相次いでいる中、豚肉の価格が高騰していることから、多くの人がこのニュースを聞いて、「まさか」とは思いながら、「あり得る話だ」と思ってしまったことが、「やらせ」がそのまま放送され、なかなか「やらせ」だとわからなかったことの背景にあると思います。今回の「やらせ」事件は、今、中国の多くの人が「こういうこともあり得る話だ」と思ってしまうような疑心暗鬼の状態にあることを、いみじくも表面化させてしまったと私は思います。

 一方、今回の事件は、最近、中国製品の安全性について外国でいろいろ取り上げられているのを何とか収めようとしている政府関係者にとっては、かなりの痛手だったと思います。今回の「段ボール肉まん報道」は、「中国では、国内でも『食』の安全が守られていない!」という形で外国に報道されてしまって、中国に対するマイナスイメージを更に一層ショッキングな形で高めてしまったからです。しかも、ニセ報道をやったのが、街で売られている大衆新聞などではなく、公式メディアの最も権威あるものであるはずのテレビ局だっただけに、当局の権威にも傷が付いた形となり、二重の意味で、今回の「やらせ事件」は中国政府当局にとっては痛手だったと思います。

 この件に関して、ネット上に新聞社などが設けている掲示板には、様々な「ナマの声」に近い人々の意見が載っています(もちろん、管理人がいるので一定のスクリーニングは掛かっていますが)。「何を信じてよいのか!」といった怒りの声はもちろん、「外国で『中国製品の品質は信用できない』と言われているけど、そもそも国内の人が信用してないんだから、他人に信用しろ、と言っても無理だよな。」などと言った声も散見されます。「『臨時雇用』のスタッフを捕まえておしまいかよ。北京電視台の正式職員はどうした? 『深く謝罪する』と放送するだけでおしまいなわけ?」と言っている人もいます。

 一方、掲示板では、「何が『やらせ』をさせたのか。この件で一番損害を受けるのは誰か。一番得をするのは誰か。」と言った違った見方をする人もいます。この掲示板の発言ではハッキリは言っていませんが、この「やらせ事件」をきっかけとした報道機関への締め付けを警戒する人たちもたくさんいると思います。

 私などは、これだけ「何を信じてよいのか」といった事態が続くと、この「やらせ報道」自体が、報道に対する管理を強化するために誰かが仕組んだ「やらせ」なのではないか、などと疑いたくもなってしまいます。

 それは考えすぎだと思いますが、今度の事件で、多くの人の、何を信用してよいのかわからない、という疑心暗鬼の気持ちが更に強まったのは事実だと思います。

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2007年7月11日 (水)

北京のタンク入り飲用水の半分はニセモノ?

 「北京で売られているタンク入り飲料用水の半分はニセモノだ、と業界人が言った」というタイトルの記事が7月9日付けの「京華時報」という新聞に載り、その記事がネット版人民日報「人民網」に転載されました。

(参考1)ネット版人民日報「人民網」2007年7月9日アップ(情報源は「京華時報」)
「北京で売られているタンク入り飲料用水の半分はニセモノだ、と業界人が言った」
http://society.people.com.cn/GB/5961520.html

 北京では、水道水にはカルシウム分が多くて、水道水をそのまま飲むのはあまり好ましくないとの理由で、家や事務所に冷水器を持っていて、それ用に大きな(例えば18.9リットル入りの)円筒形のポリタンクに入った水を買って来て飲んでいる人がかなりの数います。(なお、オリンピックを控えて、北京の水道水の質もだいぶ改善されて、最近は飲めるようになった、という話も聞きます)。大きなタンク入りの水を買うという水の飲み方は、もともとはアメリカあたりから始まったのだと思いますが、日本でもオフィスなどでは最近ではかなり多くなっていると思います。

 上記の記事によると、「京華時報」の記者がある飲料用タンク水の製造工場の人に聞いた話では、北京で売られているタンク入り水の少なくとも半分は、ニセモノのラベルが貼られて造られたものだ、とのことです。この工場の人の話によると、2006年の数字では、北京では200以上のブランドのタンク入り水が売られていて、その数量は年間1億個、水を作っている工場は北京には2万近くあるとのことです。

 この記者は、業界の人になりすまして、ニセのラベルを売っている人に話を聞いたり、実際にニセラベルを張ってタンクに水を詰めている工場に行ったりした状況をレポートしています。こういう「ニセラベル」の水は、短時間で多くの水を入れようとして回収されたタンクをよく洗わないで水を入れるため、大腸菌などの量が基準値を上回るものがある、とのことです。

 この記事が出た翌日の7月10日、国家品質検査総局は、記者会見で、北京で売られている飲用水の96.9%は合格であると発表しました。この数字は、今年5月10日に実施した北京の141の工場の162種類の製品に対する検査で、合格したのは157種類で、全体のサンプリング調査の結果としては96.9%が合格だった、という結果を発表したものです。この記者会見の席上、「北京で売られているタンクの水の半分がニセモノだ」との記事について記者から質問された国家品質検査総局の担当官は、個別の水製造工場の問題については現在調査中であり、適切な時期にメディアに調査結果を公表したい、と述べた、とのことです。

(参考2)「新京報」2007年7月11日記事
「北京の飲用水の生産合格率は96.9%」
http://news.thebeijingnews.com/0555/2007/07-11/014@275542.htm

(参考3)ネット版人民日報「人民網」に2007年7月11日7:46に転載された「京華時報」の記事
「品質検査総局、北京のタンク水について調査」
http://society.people.com.cn/GB/5961520.html

 そもそも国家品質検査総局の正規のラベルの製品の検査でも、3.1%が不合格だった、ということ自体が問題だと思います。それに加えて、もし本当に正規のラベルではないニセラベルの水が、北京で売られているものの半分を占めていたのだとしたら、毎日、水を飲んでいる私としては、問題外の話だと思っています。

 最近、中国製品について、ニセモノや食品などの安全性の問題が各国で問題になっていますが、実は、ニセモノ問題は、国内問題として中国自身にとっても重要な問題なのです。

 飲料水については、先日、別の調査結果が新聞に載っていました。7月2日付けの「新京報」に載っていた記事です。この記事に載っているのは、中国全土を対象としたボトル入りの飲用水の調査では、12.8%が不合格だったとのことです。

(参考4)「新京報」2007年7月2日
「ボトル入り飲用水の12.8%は不合格」
http://news.thebeijingnews.com/0555/2007/07-02/015@273478.htm

 私は20年前に2年間北京に駐在していた時、一度、缶ジュースを飲んで「あたった」ことがありました。たぶん缶ジュースに雑菌が入っていたからだと思います。あれから20年経って、中国はかなり経済成長し、いろいろな物が作られるようになって、立派な製品も数多く作るようになりましたが、逆に底辺も広がったので、「合格率」という率の数字で言うと20年前とあまり進歩していないのかもしれません。

 いずれにしても、飲用水の品質の問題は、人々の健康に直接影響する問題なので、当局も「北京で売られているタンクの水の半分はニセモノ、と業界の人が言った」という記事は相当重く受け止めているようです。現在、調査中、とのことですので、きちんとした調査が行われて、「ニセモノのラベルが売られている」などという状態は、きちんと取り締まって欲しいと思います。

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2007年7月 3日 (火)

中国でのカラオケを巡る著作権料論争

 私が、中国におけるカラオケからの著作権料徴収の問題に関連して、

http://folomy.jp/heart/

の「テレビフォーラム」に5月26日にアップした文章をこちらのココログにも掲載します。

 folomyは、かつての@ニフティのフォーラムを運営していた人たちが集まって運営しているサイトで、メールアドレスを持っている方ならば誰でも無料で登録できます。私がfolomyに書いたものの再アップは、折りを見て時間のあるときに行います。従って、例えばfolomyに掲げた文章のアップは1か月程度遅れると思います。最新の文章を御覧になりたい方は、ぜひ、御自分で上記のアドレスからfolomyに登録して、御覧いただくよう御願いします。

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アップ場所: http://folomy.jp/heart/

「テレビフォーラム(ftv)」-「喫茶室『エフ』」-「『ドナウ川の蚊柱』の続き」

記載日時:2007年5月26日

【カラオケを巡る著作権料論争】

 ここのところ、中国では、カラオケからの著作権料徴収の方法について、ちょっとした論争が起きています。発端は、昨年11月、国家著作権局が「カラオケの著作権料徴収は、、1日・1部屋あたり12元(=約192円)を標準とする、というガイドラインを発表したことにあります。これに対して、カラオケ業者らが「高すぎる。このガイドラインに法的根拠はあるのか。使われていない部屋も含めて一律に1日・1部屋あたり12元徴収とは不合理だ。」と一斉に反発しました。カラオケ業者の中には「著作権料は、曲の使用回数に応じて支払うべきだ。」と主張する人たちもいます。中には「著作権料収入の一部が国家著作権局に入っているのではないか。」との疑いを差し挟む人も出てきました。

 これに対し、5月18日、国家著作権局の局長は「著作権料の徴収は著作権法に基づくもので、著作権料の一部が国家著作権局の収入にあてられているなんてとんでもない。」と反論しました。この反論の中で、局長は「12元という金額は、100個所以上の都市を調査し、カラオケの営業収入の1%に当たる額として算出したものであり不合理ではない。」と主張しました。また、合わせて「曲の使用回数に応じた著作権料の徴収は、カラオケ店がその費用を利用者に転嫁する可能性があるので反対である。」との意向を示しました。

 この発言に対して「著作権料をきちんと徴収するために1日・1部屋あたりの金額の基準を作るのは悪くはない」「いや、一律に1日・1部屋あたりで決めるのはおかしい。使用回数に応じて徴収すべきだ。」などの意見が、けんけんがくがく、人民日報も含めて、いろんな新聞紙上で議論されています。

 カラオケからの著作権料徴収については、1990年代に日本でも相当議論がありましたので、日本人もこの中国での論争を笑うことはできません。ただ、著作権使用料は、本来、最終利用者が支払うべきものですので、国家著作権局長が言っている「店が利用者に転嫁する可能性があるから、曲の使用回数に応じた徴収には反対」という論理は、私はおかしいと思っています。たぶん、この著作権局長の発言は、カラオケ利用者からの反発を招かないようにするための、政治的な配慮によるものだろうなぁ、と私は推測しています。

 一般の利用者の間には「カラオケ店に料金を払っているのに、なぜ自分が著作権料を払う必要があるのか。」という気分が根強いようです。日本でも1990年代までは「テレビ番組を見損なったので、録画した人はダビングして送って下さい。」といった御願いの投書が有名雑誌に平気で掲載されたりしていました。著作権意識は時代とともに変わっていくものだと思います。本当に世界経済の仲間入りをするためには、中国人民の皆さんも、早く世界標準の著作権感覚を持たなければならないと思います。

(参考URL)

 人民日報の紙上で政府担当者の意向とそれに反対する意見とが記事の中で客観的に並列されて記載されているのは、ちょっとした「みもの」です。中国語の読める方は以下のネット上の記事を御覧下さい。

ネット版人民日報「人民網」2007年5月21日付け記事
「カラオケの著作権徴収~『部屋ごと』か『使用回数ごと』か~」
http://politics.people.com.cn/GB/1026/5754185.html

 なお、ネット版人民日報「人民網」では、このカラオケ著作権徴収について「ネット世論調査」も実施しています。
http://culture.people.com.cn/GB/22226/68575/index.html

 ただし、「看査」というボタンを押すと調査結果が見られるのですが、例えば「調査1」では、5月21日(月)に見ても、今(5月26日(土))に見ても、「調査への参加者は252人」で投票した人数は全く変わっていません。これが何を意味するかは、皆様の御判断におまかせします(^^;)。

(2007年5月26日、北京にて記す)

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