カテゴリー「中国の土地政策(「小産権」など)」の記事

2009年3月18日 (水)

中南海の向かいの住宅群の撤去工事開始

 今日(3月18日)付けの北京の新聞「新京報」の記事によると、北京の中心部、天安門前を東西に走る長安街の南側の国家大劇院から中国共産党中央組織部のある交差点の間とに残されていた古い住宅がある地区(対象面積約4万平方メートル、約700戸が住んでいる)の住宅の撤去作業が一昨日(3月16日)から始まった、とのことです。この撤去作業により、また古い北京の胡同(フートン:横町のようなもの)がいくつか消えることになります。

(参考)「新京報」2009年3月18日付け記事
「西長安街の拡張のための撤去作業が開始」
http://www.thebeijingnews.com/news/beijing/2009/03-18/008@022312.htm

 この場所は、中国共産党本部や共産党幹部の住居のある「中南海」の正面入り口に当たる「新華門」の長安街を挟んでちょうど真向かいのあたるあたりです。北京を東西に貫く大通りである長安街は、天安門から西へ歩くと、南側は、天安門前広場、人民大会堂、国家大劇院と巨大な建造物が続きますが、国家大劇院の西側は、まだ一般の住居が残っており、古い胡同もいくつか残されています。長安街沿いは、もうほとんど近代的なビル群として再開発されてしまっていますが、この一帯だけは開発されないで残っている数少ない貴重な部分でした。しかし、ついにここも取り壊されることになったようです。取り壊しの目的は「長安街の道路拡張と特殊用地にするため」とのことです。「特殊用地」とは何に使うための土地なのか、私は知りません。今年10月1日の中華人民共和国成立60周年の式典の際に、何らかのイベントをやるために使う用地なのかもしれません。

 中国の場合、土地の私有は認められておらず、都市部の土地は全て国有なので、国家が何かに使うために住んでいる人の立ち退きを決めたら、住民に拒否権はありません。一定の合理的な補償金が支払われた上で、住民は立ち退かなければなりません。今回の撤去作業が行われることになった場所は、北京市のど真ん中もど真ん中ですし、目の前の長安街の下には地下鉄も通っているので、場所的には最高の場所です。そのため、「新京報」の記事によれば、補償金も50万元(約700万円)程度と、かなり高い金額が出されるようです。ただ、この一帯は、住宅を売りに出すとすると評価額は1平米あたり25,095元(約35万円)程度する(北京の普通のマンションの価格の2倍以上)そうですから、50万元程度の補償金では、全然足りない、と考えている人もいるようです。しかも、代替地として提供されるのは、北京市内の昌平区東小口、朝陽区常営、海淀区上地といった郊外の土地で、都心に住み慣れた人には相当の不満があるようです。

 撤去予定地の住人たちに対して、どれくらい以前から話がなされていたのかは不明ですが、上記の「新京報」の記事によると、「表向き」の話としては、計画が公示されたのが2月20日、住居の撤去が公告されたのが3月6日で、実際の撤去作業の開始が3月16日ですから、相当に急な話のように見えます。10月1日の国慶節のイベントのために急に決まった話なのかもしれません。移転に合意して、実際に撤去工事が始まったのはまだ一部で、移転に合意していない人もいるようです。

 しかし、ここは場所的には中国共産党本部の真ん前ですから、ここで揉め事が起こったら、中国共産党のメンツに係わると党の幹部は考えるのではないかと思います。だから、住民と揉めないように、あまり無理をすることはないだろうし、必要とあれば補償金の額も上乗せすると思うので、揉め事になることはないと思いますが、もし10月1日の国慶節のイベントに使うため、という理由だとすると、時間的に期限が限られているので、かなり強硬な手段を採る可能性も否定できません。ここは、天安門前広場のすぐ近くですし、観光客や外国人もよく行く場所なので、何か動きがあったら、相当に目立つ場所です。

 今ある国家大劇院も、同じようにもともとあった古い住居の住人にどいてもらって作った建物ですし、この種の住居移転話は北京市内のどこででもやっている話だし、それに、長安街の両脇は全てビル群に変わるのは時代の流れでしょうから、この住宅撤去話自体はそう不自然ではないのですが、私の感覚からすると、何も建国60周年という「敏感な年」にこんな目立つところで揉める可能性のあることをわざわざやらなくてもいいのになぁ、と思います。

 北京オリンピックが終わってしまったので、次は「中華人民共和国建国60周年記念式典」を何が何でも成功裏に終わらせる、というのを「絶対目標」にして、引き締めを図ろうという意図があるのかもしれません。もしそうなのだとしたら、建国60周年は慶祝すべき話だと私も思いますけど、常に「これだけは絶対やるんだ」という「絶対目標」を常に掲げていないとまとめられない社会というは、やはりおかしいと思います。

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2009年1月 8日 (木)

ある観光塔は「折騰」の典型

 先頃、建設途中で計画が中止になった重慶市にある観光塔が爆破され取り壊されました。

(参考1)「中国中央電視台」ホームページ2009年1月6日08:54アップ記事
「重慶の『三峡明珠観光塔』が破壊された」
http://news.cctv.com/china/20090106/101892.shtml

 「三峡明珠観光塔」は、主要部の高さ92メートルの観光用の塔で、一番上の部分に回転式の展望台が付く予定になっていた建物です。建設費3,500万元(4億9,000万円)が費やされた建設プロジェクトで、2005年の春節(旧正月)前の竣工を目指して2004年3月に工事が開始されました。しかし、この2005年4月に突然建設が中止され、その後3年半にわたって放置されてきました。結局、工事は完成しないまま、このたび破壊された、というものです。

 この「三峡明珠観光塔」について、1月7日の「北京青年報」は、「これこそ『折騰』の典型だ」と指摘しました。「折騰」とは、胡錦濤総書記が昨年12月18日の改革開放30周年記念式典で「不動揺、不懈怠、不折騰」(「動揺しない、怠けない、むちゃなことをしない」というのが最も適当な訳のようです)として使った言葉です。

(参考2)「新華社」ホームーページ2009年1月7日10:14アップ記事(「北京青年報」からの転載)
「『三峡明珠観光塔』は『折騰』の典型だ」
http://news.xinhuanet.com/comments/2009-01/07/content_10616849.htm

※「折騰」の意味については、このブログの2008年12月26日付け記事
「胡錦濤総書記の謎の言葉『不折騰』」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/12/post-2c5d.html
を参照してください。

 地方政府の幹部は、自分の在任中に行った業績を誰が見てもわかるように、何か目立つものを作りたがります。そういう目立った建物などの建設プロジェクトは中国では「イメージ・プロジェクト」と呼ばれています。((参考1)の記事では中国語で「形象工程」と言っています)。

 結局「三峡明珠観光塔」は完成することなく、建設費の3,500万元はムダになってしまったわけですが、中国各地でこういったムダな投資が行われていると言われています。胡錦濤総書記は、こういったことを止めさせよう、と訴えたのだと思います。

 世界的金融危機に対する対応として、昨年11月、中国政府は4兆元(約56兆円)に及ぶ景気刺激策を発表しましたが、今、この景気刺激策のかなりの部分のお金がまた「イメージ・プロジェクト」として消費されてしまうのではないか、という懸念が生まれています。選挙や自由な報道のない中国では、地方の党・政府の幹部がこういった「イメージ・プロジェクト」へ走るのは簡単です。誰も批判する人がいないからです。中央はこういった「イメージ・プロジェクト」をやらせないように監視していますが、広い中国のことですから、目が届きません。「イメージ・プロジェクト」を請け負う建設会社等は地元の有力企業であることが多いですから、これらの地方の有力企業と地方の党・政府の幹部が結託すれば、「イメージ・プロジェクト」はすぐに生まれてしまいます。

 投資効果のない「イメージ・プロジェクト」は、将来の中国に財産として残ることなく、単に一部の建設業者の(そして多くの場合、地方の党・政府の幹部の)懐を肥やすことだけで終わってしまいます。2010年末までの間に使われる4兆元の景気刺激策が、本当に有効なプロジェクトに使われるのかどうか、それをどうやってチェックしていくのか、これから2年間が中国の将来へ向けての正念場になると思います。

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2008年12月 3日 (水)

景気刺激策の中で農地の収用は抑制可能か

 中国が示した総額4兆元(ここ数日の円高元安傾向のレートだと約54兆円)の大規模な景気刺激策については、その7割近くを地方が負担するのではないかと見られていますが、その財源として地方政府が安い補償金を支払うことによって農民から土地を収用してそれを開発業者に高く売って得る収入でまかなうのではないか、と私は懸念している、と、先日このブログで書きました。

(参考1)このブログの2008年11月28日付け記事
「『史上最大のバブル』の予感」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/11/post-793d.html

 この私の心配は単なる空想ではなく、中国政府当局自体が実際に心配していることがはっきりしました。今日(12月3日)、国土資源部副部長の鹿心社氏が記者会見し、土地の収用については国が許可を行うという制度を通じて地方政府がいわゆる「土地財政」に頼ることがないようにする、と説明しているからです(中国の「部」は日本で言えば中央政府の「省」に相当する役所です。従って、国土資源部副部長は、日本式に言えば国土資源省の副大臣です)。

(参考2)「新華社」ホームページ2008年12月3日18:52配信記事
「国は土地を収用することによって収益をするという『土地財政』を抑制する方針」
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-12/03/content_10451315.htm

 この新華社にアップされている記事には、「某地方政府」が「大衆の利益」と書かれた木になっている果実をもぎ取って「開発業者」に渡す場面がマンガで描かれています。この記事によると、ある市または県において、ある年に耕地を新規で建設用地に造成した土地のうち15%以上が違法状態だった場合、あるいは15%に満たなくても状況が重大で、影響がひどい場合には、当該地方政府の責任者は責任を問われる、とのことです。この国土資源部副部長の発言は、「地方政府が農民から土地を収用することによって財政収入を得ることは許さないぞ」という中央政府の決意を発表しているわけなのですが、この発表を聞いた地方政府の責任者は逆に「新しく開発した土地のうち違法なものが15%未満だったら責任を問わないと国の責任者が認めたわけだ。」と思うに違いありません。

 この「15%を超えたら責任を問う」という話は別の記事にも載っていました。

(参考3)「京華時報」2008年12月3日付け記事
「小産権房の処理を巡っては『責任を大衆に負わせる』ことをしてはならない」
~北京市国土局長、再度、農村の宅地用土地を都市住民のために流用することは厳禁するとの態度を表明~
http://epaper.jinghua.cn/html/2008-12/03/content_371521.htm

※中国のこの種の新聞のホームページではかなりうるさい「ポップアップ広告」が表示されることがありますので御注意ください。

 「小産権」(または「小産権房」)とは、村などの集団に所有権がある農村の土地を農民から収用してその上にマンションや別荘を建てて、都市住民(その村の住民以外の者)に販売している不動産物件のことです。都市の中心部から距離は離れているが、都心部よりかなり価格が安く、購入希望者が多いことから、相当の数販売されています(北京市の場合、流通しているマンション等の約2割程度は「小産権」であるとのこと)。しかし、農村の土地は、農地にしろ農民住居用土地にしろ、集団所有(村などの集団が所有している)のだからその集団のメンバーではない都市住民にはその土地に対する使用権は一切認められていないので「小産権」という不動産物件は違法である、というのが、政府(中央政府の国務院や北京市政府)の見解であり、実際、その考え方に沿った裁判の確定判例が出ています。

(参考4)このブログの2007年12月18日付け記事
「都市住民の『小産権』購入は違法と確定判決」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/12/post_bf8b.html

(参考5)このブログの2008年1月9日付け記事
「国務院が『小産権』に関し明確な通知を発出」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/01/post_4000.html

 上記「参考3」の「京華時報」の記事によると、北京市国土局の魏成林局長が昨日(12月2日)明らかにしたところによると、2008年の上半期に北京市の14の郊外地域にある区や県で行われた新規に造成された土地のうち件数にして67%、面積にして57%が違法または規定に違反していたものだった、とのことです。魏成林局長は、今後、各レベルの地方政府において、法律や規定に違反している土地の割合が15%を超えた場合には、その地方政府の責任者は責任を追及される、と述べています。この発言は、上記「参考2」にある「新華社」の記事に載っている国土資源部の鹿心社副部長の今日(12月3日)の発言と一致していますので、これが中央政府の統一方針なのでしょう。

 それにしても北京市の魏成林局長の発言は、上記(参考4)(参考5)の私のブログに書いてある通り、2008年初頭には裁判所の判決や国務院の明確な意思表示が出ていたにもかかわらず、依然として2008年前半に北京市の郊外地区で新規に造成された土地の、件数にして7割近く、面積にして6割近くが違法状態である、ということを示しています。つまり裁判所や中央政府が見解を違法だと明確に示しているにも係わらず、実際はほとんどの人は「そんなことは関係ない」と平気で違法な開発を行い、北京市政府当局もそういった実態を取り締まることはできなかった、ということを北京市当局の責任者が認めた、ということです。中央政府や北京市政府は、実態的に取り締まれないので、15%を超えたら責任を問う、という形で「取り締まろうという姿勢を示すこと」しかできないのだと思います。中国政府は「中国は法治国家になった」と盛んに自分で言っていますが、実際は、誰も法律を守っていないし、守らせることもできていない(きつい言い方をすれば、中国では政府が行政府としての機能を果たしていない)という現状を示すひとつの事例だと思います。

(注)「麻薬」や「銃」や「中国共産党を批判する言論」に対してはきちんとした取り締まりができているのですから、法律執行能力の面において「中国政府に取り締まり能力がない」と思うのは間違いです。「土地を開発することによって収入を得たい農村」と「安い別荘やマンションが欲しいと思う都市住民」の希望を押しつぶしてまで取り締まると政府に対する反発が強まる、と考えて、強硬な取り締まりができないのだと思います。

 上に述べたように、今回の「15%を超えたら責任を問う」という国土資源局副局長の発言は、地方政府に「15%以下ならばやってもいいんだ」という「免罪符」を与え、農民からの土地収用を促進することになるので、発言としては逆効果だったのではないかと私は思います。私は、上記の報道を見て、ますます(参考1)「『史上最大のバブル』の予感」で書いたような、農民からの土地の収用が進むことにより今後数年間のうちに「大量の不良債権不動産が蓄積される」「土地を失った大量の農民が失業者となる」「中国の農地面積が食糧確保のために最低限必要な面積を下回る」といった危機的状態が起こるのではないか、との懸念を強めました。

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2008年11月28日 (金)

「史上最大のバブル」の予感

 この世界的信用縮小の時期に「『史上最大のバブル』の予感」とは何事か、とお思いのことと思います。しかし、私は、昨日(11月27日)の中国の国家発展改革委員会の張平主任の記者会見の様子をネットで読んでいて、思わずそういうふうに感じてしまったのでした。

 御存じのように世界的な金融危機を受けて、中国は11月9日、2010末までに4兆元(約60億円)を投下する、という10項目の景気刺激策を発表しました。

(参考1)このブログの2008年11月10日付け記事
「中国の景気刺激策は世界を救うのか」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/11/post-cce7.html

 この景気刺激策の内容について、昨日(11月27日)、国家発展改革委員会の張平主任が記者会見を行ったのです。

(参考2)中国政府ネット「国務院記者会見」
「さらに内需を拡大させる問題に関する記者会見の状況」(文字記録)
http://www.gov.cn/wszb/zhibo288/wzsl.htm

 この中で張平主任は、4兆元を何に使うかについて、以下のように述べました。

(1) 安全な住居の提供:2,800億元(シェア7%)
(2) 農村の民生向上と農村インフラ建設:3,700億元(シェア9%)
(3) 鉄道、道路、空港、都市の電力網:1兆8,000億元(シェア45%)
(4) 医療衛生、文教事業:400億元(シェア1%)
(5) 生態環境保護事業:3,500億元(シェア9%)
(6) 自主イノベーションと経済構造改革:1,600億元(シェア4%)
(7) 災害を受けた地域の復旧・復興:1兆元(シェア25%)

 話の順番としては、住宅などの民生、農村・農民対策などを掲げていますが、金額的な割合を見ると、鉄道、道路、空港等の建設や災害被災地の復興・復旧で全体の7割を占めています。今回の景気刺激策が、いわゆる「ハコもの」「建設プロジェクトもの」を中心とする公共事業型景気刺激策であることがよくわかります。医療衛生・文教事業のシェアがたった1%とは、「第一は民生だ」と述べている張平主任の発言と、その中身とが一致していない、と言わざるをえません。

 この記者会見で、張平主任は、4兆元のうち中央による投資は11.8億元(全体の29.5%)である、と述べており、残りは地方などが投資を行う、との見通しを述べています。これら中央の景気刺激策発表を受けて、各地方では一斉に景気刺激のための景気のよい事業プロジェクトの発表が相次いでいるようです。上記の記者会見で、ある記者は、「中央は『4兆元の投資』と言っているが、不完全な集計ではあるが、各地方で発表されている各地の景気刺激のためのプロジェクトの投資額を全部合計すると18兆元にも上る、と言われている。1年後、世界経済が回復したら、中国はまたバブル状態に陥ってしまうのではないか。」と質問しています。これに対して、張平主任は「プロジェクトの実施は中央が許可するという制度は維持し、監督・監査を強化して、重複投資を防ぎ、地方の投資も中央が決めた方向へ向かうようにし、経済構造改革、発展方式の転換、民生問題の解決、生態環境問題の解決に向かうようにする」と答えています。

 今年(2008年)前半まで、中央政府のマクロ経済政策は、地方における過剰投資がバブル化して、北京オリンピック終了後に崩壊することを懸念して、地方の投資を抑えるための様々な方策を講じてきました。ところが、北京オリンピックが終了した後の今年9月に急激に深刻化したアメリカ発の国際金融危機を受けて、中央の経済政策は一変し、金融の緩和と景気刺激を進める方向になりました。このため、今まで地方における投資を抑制する方向ではまっていた「タガ」が一遍にはずれた格好になりました。何しろ今まで「過剰投資は抑制せよ」と言われていた中央が今度は「景気を刺激せよ」と言い始めたわけですから、もともとどんどん投資をしてGDPを上げてお金儲けと出世がしたい地方の党・政府の幹部にとっては「錦の御旗」をもらったのと同じですので、地方には「どんどん投資しよう」という機運が急激に広まっているのだと思います。

 この4兆元の景気刺激策のうち、もし7割近くが地方の負担になるのだとしたら、その財源はどうするのだろうか、という問題が生じます。この4兆元の財源問題は、現時点では必ずしも明らかになってはいません。

 今まで、中国各地で起きていたバブルとも言える建設ブームは、中国式社会主義の上に実現した「土地マジック」が産んだのだ、とも考えられています。中国の農村の土地(農地及び農民が住んでいる住宅地)は村などの地方政府の所有地です(社会主義を原則とする中国では、農民による土地の私有は認められていません)。村などの地方政府は、農民に住宅用地を貸しているとともに、各農家に割り当てられた農地に対して、生産を請け負わせ、請け負い量を上回って生産された農産物は農家の自主的な判断で売りさばいて自分の収入にしてよい、というのが、現在の改革・開放路線の根本になっている生産請負制度です。

 土地の所有権は地方政府が持っているのですから、地方政府が必要だと判断した時には、「合理的な補償金」を農民に支払うことによって土地を収用できます。現在、この「合理的な補償金」の額は、農地の場合、その農地で過去三年間に生産された農産品の価格に相当する金額、とされています。一般に中国の場合、農産品の価格はかなり割安に設定されているので、場所にもよりますが、農地をつぶして、そこをマンション用地や工業用地として売り出せば、地方政府は、補償金よりかなりの高額で「土地使用権」を転売することができます。ある学者は、大まかに言って、だいたい補償金として支払った値段の十倍の値段で売れる、と言っています。

(参考3)このブログの2008年1月14日付け記事
「ついに出た『土地私有制』の提案」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/01/post_6f24.html

 こうして地方政府は、農民から収用した土地の使用権を開発業者に売って、販売金額から農民への補償金を差し引いた残りの金額(上記の学者の言によれば、販売価格の十分の九)を収入とし、それによって、いろいろなプロジェクトの投資を行えるのです(そして、土地開発業者とうまく結託すれば、地方政府の幹部個人の懐も大いに肥える、というわけです)。

 今年前半は、そういった地方政府による土地政策に対する批判もあり、そういったことはおおっぴらにはやりにくかったのですが、今回、「景気刺激策」という「錦の御旗」が中央で掲げられたことは、こういった「農民から土地を収用して資金を調達し、公共事業を実施する」ことに対する正当性を得た、ということになり、地方政府を活気づけたのではないかと思います。

 さらにタイミングが悪いことに、今年10月の中国共産党第17期中央委員会第3回全体会議(第17期三中全会)では、長年にわたる農村・農業・農民問題(三農問題)を解決するための農地改革の一環として、農地の生産請負権の自由な譲渡・売買等を認める「中国共産党中央による農村改革の発展の推進における若干の重大問題に関する決定」が出されました。

(参考4)このブログの2008年10月28日付け記事
「第17期三中全会決定のポイント」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/10/17-86c4.html

 この第17期三中全会の決定は、あくまで「農地」の「農業生産請負権」の自由な譲渡等を認めるものですが、多くの地方政府においては、適用対象の土地を「農地」だけではなく「農民の住宅用地」にまで拡大するとともに、適用対象の権利を「農業生産請負権」ではなく、その農地の「土地使用権」であるとする拡大解釈が行われるのではないかと思います。第17期三中全会の決定の本来の趣旨は、譲渡・転売できるのは「農業生産請負権」ですので、農家からその権利を譲渡された人は農業をやらなければならないのですが、自由に移転できるのは「土地使用権」であり、「土地使用権」の譲渡を受けた者は、土地を農業ではなく別の用途で使うこと(マンション建設用地や工業用地への土地利用目的の変更)も自由にできるのだ、と拡大解釈するわけです(本当は、こういう農地の用途変更は上部機関の許可が必要とされています)。

 この「景気刺激策」と「第17期三中全会の決定」という二つの「錦の御旗」を得た地方政府は、中央の意図とは関係なく、農民から土地の収用し、それで得た資金を公共事業に投資する傾向を歯止めなく進めるのではないか、と私は危惧しています。上記の記者会見で記者が言っていたように、全国で発表されている景気刺激策の公共事業プロジェクトの金額を全部合計すると、中央が言っている4兆元をはるかに上回る18兆元に上ってしまう、という現象も、そういった地方政府の動きが現れた結果ではないかと思います。

 もしこういった現象が歯止めなく進むとすると次のような現象が起きます。

(1)膨大な量のマンション、工業用地が数年間という短期間のうちに供給されますが、それに見合うだけの需要がなければ、これらのインフラ投資は遅かれ早かれバブル化(不良債権化)します(住宅地については、人口が多い中国では常に一定の潜在的な需要があるのでバブル化はしない、という人もいますが、あまり不便な場所に大量の住宅地が建設されても、購入する人がいない(または価格を高くできない)ことにより、投資した資金が回収できないおそれは常に生じると思います)

(2)土地を失った(土地の使用権を補償金を受け取って譲渡した)農民は、しばらくは補償金を食いつぶすことによって生活できると思いますが、いつかはその補償金も底を突きます。その後、農地を失った農民は農業に戻ることはできないので、何らかの職業に就かなければならないわけです。農地が工業団地となり、そこに計画通り工場が建てば、雇用も生まれるのでしょうが、それがうまく行かなかった場合には、元農民は失業者となります。こういった失業者が大量に発生した場合には、大きな社会不安が呼び起こされることになります。

(3)地方政府の農地の収用を中央がコントロールできなかった場合には、中国の人々が食べる食糧を生産するために必要な農地(現在、中国政府は18億ムー(120万平方キロ)を食糧確保のために下回ってはならない農地のレッド・ライン面積として設定しています)より農地面積が減ってしまい、中国の人々が食べていくために必要が食糧の確保ができなくなってしまう可能性があります。中国は、現在、食糧については、消費量とほぼ同程度の生産を行っている(特に穀物についてはここ5年間は増産が続いている)ので何も問題は生じていませんが、人口13億人を抱える中国が食糧の大輸入国になったら、これは世界にとっても大問題となります(ちなみに、大豆については、中国は既に大輸入国になっています)。

 こうならないように中央が地方政府をコントロールできればよいのですが、今、中国において、地方政府を中央がうまくコントロールするシステムが有効に機能しているのか、は、かなり疑問です。本来は、地方政府のトップやその地方政府をコントロールする党委員会のトップ(書記)は中央から派遣され、一定の任期の後に交代させ、もし賄賂をもらうなどの腐敗した行為をすれば処罰する、といったシステムで中央が地方をコントロールしているはずなのですが、省・自治区や直轄市(北京、上海、天津、重慶)のレベルではこのシステムによる管理がうまく行っているように見えますが、それより下の市、県、鎮(村)のレベルになると、その数が膨大になることもあり、中央の目が届かないのが実情だと思います。

 今日(11月28日)付けの「人民日報」(中国共産党の機関紙)の1面に「仲祖文」というペンネームで「党を厳格に治めることは幹部を管理することに体現されなければならない」という評論が掲載されています(「仲祖文」とは、特定の個人ではなく、中国共産党中央組織部が意見を書くときのペンネームだと言われています)。

(参考5)「人民日報」2008年11月28日付け1面に掲載された評論
「党を厳格に治めることは幹部を管理することに体現されなければならない」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-11/28/content_147866.htm

 この評論文では「国を治めるためには、まず党を治めなければならない」と指摘しています。中国共産党が支配する中華人民共和国が成立してもうすぐ60年になろうとしているのに、まだこんな当たり前のことを主張しなければならないのか、と溜め息が出ますが、人民日報に「仲祖文」がこうした文章を書かなければならないほど、党内の管理(特に地方の末端の地方の党・政府の幹部のコントロール)がうまく行っていないことを中国共産党自身は自覚しているのだと思います。逆の見方をすれば、外見の格好悪さを省みずに、こうした文章を正直に「人民日報」に掲げている、という点で(自分自身の内部にある問題点を隠さない、という点で)まだ救いはあるのだと思います。

 中国共産党も、県レベルの党の幹部を中央党校で研修させて、「腐敗に手を染めてはならない」などといった教育は一生懸命やっているのですが、こういった教育や研修で問題が解決するのならば、歴史上の数多くの政権は苦労はしなかったはずです。多くの諸国では、腐敗した政府の幹部はマスコミに批判され選挙で負けて失脚させられる、という報道の自由と民主主義とに立脚するシステムが一応その対策として成立しているわけですが、中国では、いまだにそのシステムを導入する気配はありません。少なくとも、ここ数年の間にその種の腐敗を防止するシステムが確立するとは思えません。

 ということは、「景気刺激策」と「土地に関する権利の自由な譲渡を認めた第17三中全会の決定」という二つの「錦の御旗」をもらった地方政府の暴走を中央はコントロールできなくなる可能性があります。もし本当に地方政府をコントロールすることができなくなって、とてつもない金額の投資が短時間に行われるとしたら、それはたぶん「史上最大のバブル」になると思います。そして、上記(1)(2)(3)で書いた「とんでもないこと」が現実のものとなるおそれがあります。昨日(11月27日)の中国の国家発展改革委員会の張平主任の記者会見について報じている今日(11月28日)の新聞を見てそう感じたので、今日、ここに「『史上最大のバブル』の予感」という文章を書いてみたくなった、というわけです。

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2008年10月28日 (火)

第17期三中全会決定のポイント

 10月9日~12日に開催された第17期中国共産党中央委員会第3会全体会議(第17期三中全会)で「中国共産党中央による農村改革の発展の推進における若干の重大問題に関する決定」(以下、簡単に「決定」と呼ぶことにします)が決定されました。

(参考)「新華社」ホームページ2008年10月19日アップ
「中国共産党中央による農村改革の発展の推進における若干の重大問題に関する決定」(2008年10月12日中国共産党第17期中央委員会第3回全体会議で採択)
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-10/19/content_10218932_1.htm

 この決定は、非常に重大な内容を含んでいるものの、表現が「改善させる」とか「強化する」とかいった曖昧な表現になっており、実際にどの程度厳格に進めるのかについては、今後、この方針を具体的な法律として書き起こす時に決められると考えられる部分が多いので、新聞報道などではあまり「重大な変化」としては報道されていないようです。しかし、従来の中国共産党の基本方針からすると、かなり大きな「方向性の変化」を示す部分も含まれていると思われますので、簡単にそれをまとめておきたいと思います。

 今回の「決定」は、大きく分けて6つの部分にわかれています。それぞれの部分についての「決定」の内容とその意味について私が考えるところを簡単にまとめておきたいと思います。

1.新しい情勢の下における農村改革発展の重大な意義

 ここの部分は、現状認識を述べた部分で、1978年12月の第11期三中全会で決められて現在まで続いている改革開放路線の中で、いくつかの矛盾点が出てきており、その問題点に対処するためには農村改革をさらに進めることの重要性を指摘しています。その際、ポイントとして指摘しているのは以下の点です。現在の中国社会が抱える問題点をかなり率直に認めている点では注目に値すると思います。

○食糧と主要農産物を効果的に生産し、農民の収入を増加させ、農村を反映させることが持続可能な社会を発展させるための基本である。

○改革開放政策の進展により、グローバル化(国際的な協調と競争の深化)が進む中で、中国における「都市と農村との二重構造の問題」における矛盾が突出してきている。農村の経済体制は、現在においてもなお不完全であり、農業生産経営の組織化はいまだに低く、農産品のマーケットシステムと農民に対する社会福祉制度と国家が農業を支援する制度は完全なものとは言えない。

○気候変動の影響が大きくなってきており、自然災害が頻発している中、国際的な食糧需給の矛盾も突出しており、国家的な食糧安全保障と農産品の需給バランスとの関係は緊迫してきている。農村における社会的事業の水準は低く、農村と都市との収入格差は拡大しつつある。一部の地方では、最も基盤となる農村組織の基盤がぜい弱であり、農村における民主的法制度と基盤的組織と社会管理体制の確立が重要になってきている。

○農村の繁栄と安定化、農民が安心して暮らせる状況の実現なくしては、全国人民が安心して暮らせる社会を実現することはできない。

○現在は、農村と都市の二重構造を終わらせ、都市と農村が一体化して発展する局面を作るための重要な時期に差し掛かっている。

2.農村改革を発展させるための指導思想、目標、重大な原則

 ここでは、1.で述べた現状認識に基づき「何を行うか」を掲げた部分です。この中で、2020年までに農民一人あたりの純収入を2008年の2倍にする、という数値目標を掲げています。ただし、1.で都市と農村との格差拡大の問題を指摘しながら、ここでは「都市と農村との格差の縮小」を目標としては掲げていません。今後とも、農村における農民の収入増加の努力は続けつつも、「都市と農村との格差」を「縮小」させることは難しい、との認識があるためと思われます。

 収入の拡大とともに、消費水準の大幅な上昇、貧困の克服、農民自治制度の確立、農民の民主的権利の保障、農民一人一人の良好な教育機会の確保、農村における基本的な生活保障、基本的医療制度の健全化などが掲げられていますが、ここは「数値目標」的なものがないため「改善のために努力する」以上のことは、この「決定」の中から読みとることはできません。

 「決定」では、上記の目標を達成するための「原則」として、以下の5つを掲げています。

○農業の基盤を固め、全国13億人の食糧を確実に確保すること。

○農民の権益を確保し、農民の基本的利益を実現し、維持し、発展させることを一切の任務の出発点・立脚点として押さえること。

○農村における社会生産能力の開放を進め、新しい政策を農村発展の原動力とすること。

【解説】ここの部分は、過去の「人民公社」時代には、土地や生産資材の完全公有化と農作業の共同化により、個々の農民の農作業に対するインセンティブ(やる気)を失わせたのに対し、改革解放後、「人民公社」を解体して、個々の農民に「生産請負」の形で自主性を与え、各農家のインセンティブを引き出して農業生産を拡大させてきた過去の経験を踏まえたものです。

○都市と農村との発展を統合し、新しい工業と農業との関係、都市と農村との関係を速やかに構築すること。

○中国共産党の農村における管理任務を堅持し、党による農村における指導の強化・改善を図ること。

【解説】「改革の推進により農民の心が中国共産党から離れることがあってはならない」という党としての危機感を感じる部分です。

3.新しい制度改革を協力に推進し、農村制度の確立を強化する

 ここの部分がいわば今回の「決定」の「目玉」の部分で、具体的な新しい政策のあり方が列挙されています。

(1)農村の基本的経営制度の安定化と確立

○個々の農家単位の生産請負制は「長期的に安定」である。

【解説】中国の土地は公有(国有または村などの集団所有)ですが、各農地における農業生産は「生産請負」の形で各農家に任されています。「生産請負契約」によって求められる一定量の生産量を超える部分は、各農家で自分の収入として処分できます。これが各農家のインセンティブ(やる気)を出させて農業生産を拡大させた改革開放の原点なのですが、改革開放当初は、この「生産請負制度」は30年の期限付きで行う、として始められました。今、改革開放から30年が過ぎようとしているので、この期限を30年から70年に延長すべき、といった議論がなされていました。今回の「決定」では、具体的な延長年限は明示せず「長期的に安定である」という曖昧な表現になっています。年限を切らなかった理由、または年限を切らずに「無期限」としなかった理由については不明ですが、将来の政策変更に含みを持たせたかったため、と理解することもできると思われます。あるいは党の内部で議論の集約ができなかったからかもしれません。

(2)健全で厳格かつ規範的な農村土地管理制度を確立する

○土地管理制度を厳格にし、全国の耕地面積18億ムー(1ムーは6.667アール=15分の1ヘクタール)という「レッドライン」を下回らないように死守する。「永久基本農地」を確定し、「基本農地」の面積を減らしたり、用途を変更したりしないようにする。

○農家の土地に対する「請負生産経営権」、即ち「請負生産」を行うために農家が農地を占有し、使用し、そこから収益を上げることを権利として確立する。「請負生産経営権」については、「請負生産経営権」を交換する健全なマーケット(「請負生産経営権交換市場」)を設置し、「請負生産経営権」を他者への請負委任、貸し出し、交換、譲渡、株形式での持ち合い等の形式で移転させることにより、多種多様な経営方式と適切な規模の経営が可能なようにする。条件が整っている地方においては、大規模専業農家の発展、家庭農場、農民が集まって作る専業合作社の設立などの様々な経営規模の経営主体が考えられる。「請負生産経営権」の移転は「土地は公有(国有または集団所有)である」との大原則を変えるものではなく、全体としての農地の規模を変えるものであってはならない。

【解説】

 ここの部分が今回の「決定」の最も重要な部分です。「土地は公有」という大前提は変えることはしないが、他人への委任、貸し出し、交換、譲渡、株形式での持ち合い等により「請負生産経営権」が特定の者(または合作社などという名前の組織)に集中し、大規模農業経営が行われることを認めています。これは、農業生産会社が農家から「請負生産経営権」を買い取って大規模プランテーションを行うことを可能にしているほか、大規模農家が貧しい農家から「請負生産経営権」を買い取ることを可能にしている、という点で、「大規模地主から土地を取り上げて大多数の貧農に土地を分配する」ことから出発した中国共産党の大原則を変える、という意味で、極めて「革命的」であると言えます。

 「請負生産経営権」を売った農民が「請負生産経営権」を買い取った会社や大規模農家の「雇用者」として耕作を行うこともあり得るので、この制度により、「請負生産経営権」は耕作者の手元から離れることになります。日本では農地法において実際の農地の耕作者以外に農地の所有を認めていないので、この制度が中国で実現することになると、農業に関しては、日本の方が中国よりずっと「社会主義的な国」ということになります。

 ここの部分では「請負生産経営権」を農業を行わない者(工業用地開発業者など)に譲渡できるのか、についてははっきりした記述がありません。譲渡できるのは「請負生産経営権」であって「土地使用権」ではないので、譲渡を受けた者は必ず農業の請負生産をしなければならないのだ(経営権は譲渡できるが、農地の農業以外への利用はできないのだ)、と読むのが自然だと思われますが、「請負生産経営権」は「権利」であって「義務」ではなく、「請負生産経験権」の譲渡を受けた者が「農業生産を行う権利」を放棄して農地を別の用途に利用することも禁止していないようにも読めるので、この点は極めて曖昧です(曖昧であるが極めて重要な部分です)。

 また上記項目の中で「請負生産経営権」の移転を認めておきながら、「『土地は公有』との原則は不変であり、全体としての農地の規模を変えるものではない」としている部分も意味不明です。ここの部分は、「『土地は公有』という原則はいつまでもついて回るので、土地の収用権(必要な時に合理的な補償金を払うことによって土地の使用権を回収する権利)は、国または村などの集団が保持しているので、中国全体として農地が不足する場合は、国または村が「土地所有権」に基づく土地の収用権を発動して、合理的な補償金を支払った上で「請負生産経営権」の所有者から土地を取り上げて国家が必要とする農産物を生産させるようにすることが可能なのだ、という意味なのかもしれません。

 ただし、ほとんどの農地は村など地方の「集団所有」であって「国有」ではありません。各村にとっては中国全体の農地が不足しているかどうか、などということは関心の外ですので、実は「土地は公有」であることは「中国全体の農地の規模が一定以下にならないようにするための支え」には全くなっていないのです。そういった点も踏まえると「請負生産経営権」の譲渡等を認めることと「『土地は公有』という原則は不変である」こととの関係は、曖昧模糊としており、この「決定」だけではどういう政策が採られるのかは全く判断できません。

○農家の住宅用地については、法に基づき農家に住宅用地としての「物権」を保障する。農家の住宅用土地を収用する場合には、「同地同価」の原則に基づき、合理的な補償を行うとともに、宅地用土地を収用する農民の就業、住居、社会保障などの問題を解決しなければならない。

○都市と農村とで統一した建設用土地市場を設立し、収用した土地の使用権を転売する場合には、必ず統一的な市場において公開の場で土地使用権の売買を行うこととする。

【解説】

 ここの部分は、現在、農家の住宅用土地も「集団所有」であることから、村などが十分な補償を行わずに農民の住宅用土地を収用し、村当局が特定の開発業者と土地の売買をしていて、土地売買の透明性が確保されていないケースが多い、という現状を反映しているものと思われます。

 また、農民の住宅用と地の「土地使用権」を土地を所有している集団の構成員(村民)以外の人に譲渡できるのかできないのか、についてもこの「決定」では述べていません。従って、現在、問題になっている「小産権」(農民の土地の上にマンションや別荘を建てて都市住民(村民以外の者)に売買するような不動産物件)の存在を認めるのか認めないのか、は、この「決定」を読んだだけではわかりません。 

(3)農業支援制度を確立する

○農業生産のために必要な物資の価格が高騰した時の補償、農産品の価格保護制度など農業を安定的に続けられるようにするための制度を確立する。

(4)近代的な農村金融制度を確立する

○農村合作組合や信用組合など近代的な農村金融制度と政策性農村保険制度を確立する

【解説】ここの部分については、農民が上記の「請負生産経営権」を担保として金融機関からお金を借りられるのか、という疑問が生じます。新聞に掲載されている専門家の解説によると、農民がお金を返せなくなり金融機関が担保にしていた「請負生産経営権」を接収しても、金融機関は「農業経営」はできないのだから、そもそも「請負生産経営権」は担保とはなりえない、とのことです。しかし、金融機関は「請負生産経営権」を取得した後、その権利を農業経営をすることができる第三者に売却することが可能なのだから、担保とすることは可能である、と考えることもできます。「請負生産経営権」をここでいう「近代的な農村金融制度」の担保とすることが可能なのかどうか、という疑問は、農村における金融制度の確立上極めて重大な問題なのですが、この「決定」では、その疑問には答えていません。

(5)都市と農村との経済社会発展一体化制度を確立する

○農村と非農村に分かれている現在の戸籍制度を改革し、中小都市においては、都市で安定的に就業している農民が都市住民になれるよう制度を緩和する。労働報酬、子女の就学、医療、住宅借り上げ・購入、養老保険等の面において農民工(農村戸籍の農民が都市に出て働いている出稼ぎ労働者)の権益を保護する。

【解説】現在、農民工の子女は都市部で公立学校に入学できず、医療保険が適用されず、住宅の借り上げ・購入などにもいろいろ制限があります。ここでは二重戸籍制度は「やめる」とは言っていないし、「いつまでに何をやる」といったタイムスケジュールも示されていないので、現実的に農民工の権益保護が改善されるかどうかは、今後の政策の進展に掛かっており、具体的にどういった改善がいつまでになされるのか、は、この「決定」を読んだだけではわかりません。

(6)農村における民主管理制度の健全化

○2012年までに郷鎮(村レベル)の機構改革を終了させ、郷鎮政府の社会サービス機能を強化する。

○郷鎮政府の統治管理に対する農民の政治参加と積極性を引き出すため、行政事務の公開と法に基づく農民の知る権利、参政権、意思表示権、監督権を確立する。

○村の党委員会組織による指導を健全化し、村民自治システムに活力を与えるため、直接選挙制度を深く展開させ、村民会議、村民代表会議、村民議事によって民主的に政策決定を行うようにする。

【解説】村民委員会の直接選挙制度は地方によっては1990年頃から既に導入されてはじめています。今回の「決定」では上記のように書かれていますが、具体的に村民委員会と村の中国共産党委員会との間で、実質的な政策決定権限がどこにあるのかが明確にならない限り、どのような「民主化を進める」というスローガンを掲げたとしても、実際にどの程度民主化が進むかは疑問です。この「決定」を見ると、逆の見方をすれば、郷鎮(村)より上のレベル(市や県のレベル以上)では住民の直接選挙による自治制度を導入する考えは全くないことがわかる、という見方をした方がよいのかもしれません。

 4.以下は新しいことは何もない(と私は思う)ので項目だけを掲げます。

4.近代的農業の発展と農業総合生産能力の積極的な発展

(1)国家食糧安全保障の確保
(2)農業構造の戦略的調整(市場のニーズと各地方の特色に合った生産品目や生産規模の設定)
(3)農業における科学技術イノベーションの推進
(4)農業インフラ施設の整備
(5)病害の防止、農産品の品質管理、農業生産資材の安定的供給確保等の新しい農業サービス体系の確立
(6)循環型農業、副産物や廃棄物の資源化等による持続可能な農業の発展(森林や草原を食い尽くすタイプの農業の排除)
(7)農業の対外開放(国際市場の研究と情報収集を強化し、国際的な農産品貿易秩序に積極的に参加する)

5.農村における公共事業を加速させ、農村社会の全面的な進歩の推進

(1)科学的思考(迷信や旧い風習の排除)、遵法道徳、男女平等の普及などの文化活動を発展させる。
(2)農村における公平な教育の推進
(3)農村における医療・衛生事業の発展
(4)農村における最低生活保障、養老保険、自然災害被災者、障害者等に対する社会保障体系の健全な発展
(5)電気、水道、道路、ゴミ処理などの農村における生活インフラ建設の強化
(6)貧困地域の開発支援の推進
(7)農村における防災・減災対策の推進
(8)農村における社会治安維持管理の強化(健全な党と政府の主導により農民の検疫を守り、広く社会の人々との意思疎通を図ることにより、各種矛盾は萌芽の段階で解決する)

6.党による指導を強化・改善し、農村の改革発展に対して政治的な保証を提供する

(1)党による農村の指導体制を強化する
(2)農村の基盤における党の組織を強化する
(3)農村の基盤における党幹部の人材養成を強化する
(4)農村のおける党員の人材養成を強化する
(5)農村における党の規律維持を強化する

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 以上が第17期三中全会で決まった「中国共産党中央による農村改革の発展の推進における若干の重大問題に関する決定」のポイントです。「方向性」としては、特に「請負生産経営権」の譲渡を可能としている部分で、もはや「社会主義」とは言えないような方向を目指すような重大な転換を含んでいます。しかし、「請負生産経営権」の譲渡や移転を認めながら、なぜ土地の所有は公有であり続けなければならないのか(なぜ土地の私有制を導入できないのか)など、多くの疑問と曖昧な点を残しているのが今回の「決定」の特徴だと思います。

 中国では、現在では、中国共産党の決定がそのまま実行されることはなく、党が決めた方針に沿って法律が作られ、その法律が全国人民代表大会(全人大)で決定されて、初めて政策が現実のものとして実施されることになります。従って、法律案が起草されて、その法律案が全人大で議論される過程で、具体的な実施方針が変更されることはあり得ます。全国人民代表の3分の2程度は中国共産党員ですので、基本的な方針が大きく変わることはありえませんが、法律案の概要が新聞などで伝えられて、多くの人々から強い不満が出たりすると、法律の審議の過程で修正が入ることは十分にあり得ます。現在の中国では、議会制民主主義のシステムはないけれども、中国共産党と言えども、世論を無視した政策の強硬はできない状況になっているのです。

 上記の農村改革に関する問題の中で、例えば二重戸籍制度の改革は、農民にとっては是非とも廃止して欲しい制度ですが、安い労働力が農村部から自由に都市に流入してきては困るので、都市住民にとっては二重戸籍制度の廃止は、必ずしも歓迎すべき政策変更ではありません。議会制民主主義システムがない以上、そういった人々の中に異なる意見が存在する場合に、その意見をどうやって集約して政策に反映させるのか、という「ルール」は中国にはまだ存在していません。今回の第17期三中全会で決まった農村改革に関する決定も、固まったルールがない中で世論を取り入れて具体化されていくことになるので、どういった人々の世論を取り入れ、どのような形で、いつ具体的な政策を固めていくのか、を今から予測することは困難です。

 今回決定された「農村改革」は、中国にとって長期的に極めて重要な課題ですが、それよりも、現在、世界を覆っている経済危機とそれに伴う中国の輸出産業の低迷の方が現在の中国にとっては緊急の課題です。そういう意味でも、今回の第17期三中全会での決定は、今すぐに結果が見える、というものではなく、長期的な観点で見ていく必要があると思います。

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2008年8月20日 (水)

中国経済はまた大型公共投資依存に戻るのか

 今日(8月20日)の中国大陸の株価は、一昨日(8月18日)の下げを回復する以上に上昇したようです。日本のネットのニュースによれば、オリンピック後、中国政府が大型の景気刺激策を打ち出す見通し、との報道がなされたことが株価上昇の原因だ、とのことです。景気刺激策とはどういう政策を採るのでしょうか。また、大型の公共事業に投資をしたりするのでしょうか。

 私も、中国の経済が収縮してよい、とは思っていませんが、人民元高や原油高などの構造的な原因で、輸出産業の不振が続く中、経済全体を支えるために、大型の公共事業に投資して雇用を創出する、といった政策がいつまでも続けられるとは私には思えません。私は、北京に赴任してから1年4か月、中国国内のいろいろな工業団地などを見ましたが、公共インフラの多くは、既に「過剰」のレベルにまで達していると思っています。現在、開発が終わった、あるいは開発中の全ての工業団地の全ての土地に工場が建つとはとても思えないからです。もし、今後また従来型の公共投資主導型の景気刺激策を採るのであれば、地方ベースでは、今後とも、農地がつぶされ、工業団地が建てられる、というタイプの事業が続けられる可能性があります。それだと、去年あたりから採っていた「バブルは小さいうちにつぶしておく」という政策を、また「バブルをさらに膨らませる政策」に逆戻りさせてしまうことになります。

 構造改革には常に「痛み」を伴いますが、今、中国政府にとっては、輸出企業の倒産による失業者の増大や不動産や株のバブルの崩壊による富裕層の資産の消滅のような「痛み」を伴う政策は怖くて採れないのかもしれません。しかし、景気が悪くなりそうになったら、公共投資で景気を刺激する、といった政策を繰り返していくと、中国の企業はそれに甘えてしまい、本当の意味での国際競争力を付けることができなくなります。いつまで経っても労働集約型産業への依存から脱却できません。それに、不動産や株が下がりそうになったら、政府が何らかの策を講じて下支えしてくれる、といった経験を何回も繰り返すと、投資家の中に自己責任をもって投資するというマインドが育たないと思います。

 中国の金メダル・ラッシュもようやく山を越え、オリンピックも残すところあと4日となりました。今回のオリンピックは、スポーツの面では、中国の人々の能力が非常に高いことを証明しました。経済の面でも、中国の人々の能力をうまく引き出し活用させることができれば、大型の公共投資に頼らずに経済成長を続けることはできると思います。既に中国の大学への進学率は22%を超えており、中国でも高学歴化が進んでいます。このまま大型公共事業と労働集約型産業への依存を強めた経済運営を続けていくと、人々の「働きたい」という欲求と雇用の場の提供とが、数の上では一致しても、質(要求する賃金など)の面でミスマッチが大きくなります。中国政府は、単に数字的に経済を失速させない、ということばかりでなく、中国の人々が自分たちの生活をどうしたいのか、という「思い」をうまくすくい上げるシステムを作り、それによって人々の欲求を的確に把握できるようにする必要があると思います。

 このブログの直前の記事で書いた人民日報のホームページにあった110mハードルを棄権した劉翔選手を励ますポップ・アップは、今日(8月20日)の朝の時点ではあったのですが、夜の時点では既になくなっていました。そろそろ「劉翔選手の棄権ショック」も治まってきただろう、と判断したのだと思います。このようにして、官製メディアが沸騰するネット議論の「ガス抜き」に気を使わなければならないこと自体、中国に人々の気持ちを吸い上げるシステムができていない証拠です。少しづつでよいので、時代の流れに合わせて、中国も変わって行って欲しいと思います。

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2008年7月 6日 (日)

「中国の不動産市場:急を告げる」との記事

 経済専門週刊紙「経済観察報」の2008年7月7日号(7月5日発売)の1面トップに「中国の不動産市場:急を告げる~開発業者が2つの大きな意見を提出、発展改革委員会は衰退のリスクに警戒~」と題する記事が載っていました。最近の中国の不動産市場の冷え込みに対して、開発業者が政府の関係機関が不動産市場に存在するリスクに対して関心を持ち、これを解決するよう希望する、との意見を出した、とのことです。意見の中身は具体的には「資金金融関係に対して下支えを提供できるかどうか」ということと「市場の需要に対して下支えを提供できるかどうか」ということ、とのことです。

 関連記事によると、今年1月~5月の全国の部屋の販売価格は対前年同月比の平均で11.2%上昇しているが、上昇幅は縮小傾向にある、広州、深セン等珠江デルタ地帯の都市においては価格は下降傾向にある、5月の新築住宅価格について見れば四川省の成都は0.4%、重慶は0.1%のマイナスだった、とのことです。また、今年1月~4月に販売された部屋の面積は対前年比4.9%の減少、そのうち住居用部屋の販売面積は対前年比0.4%減少だった、とのことです。その一方で、同じ時期に竣工した販売用の部屋の面積は19.5%の増加、うち住居用部屋の竣工面積は20.2%の増加で、供給量は依然として増えている、とのことです。

 こういった状況に対して、「中国の不動産市場が衰退するリスクがあるのか」「リスクがあるとして、それに対して政府が何らかの措置を取るのか、措置を取るとしてどのような措置をどのようなタイミングで行うのか」といった問題があります。「政府による市場を救済する措置」については、どういった措置が可能なのかは難しい問題です。

 北京地区においては、以前から、オリンピックを境にして建築ブームは一段落するのではないかと言われていました。それに加えて、5月12日に起きた四川大地震で、投機目的でマンションを買おうとしていた層が、資産としてマンションを購入することに対するリスクを強く意識するようになり、マンション購入を控える心理が働いているのではないか、とも言われています。

 ネット上で見られる「経済観察報」のページには、「部屋の価格は下がらないという神話は終わった~或いは理性へ回帰するのかもしれない」と題する宋清華という人の書いた記事が載っています。

(参考)「経済観察報」ホームページ2008年7月4日付け記事
「部屋の価格は下がらないという神話は終わった~或いは理性へ回帰するのかもしれない」
http://www.eeo.com.cn/Politics/beijing_news/2008/07/04/105347.html

 この記事では、住宅・都市農村建設部が発表した最新のデータとして、今年1月~5月に40の主要都市において売り出された新築の部屋と中古の部屋の累計の契約成立面積は、それぞれ24.9%、20.9%の比率で減少している、という数字を紹介しています。2007年の暮れから土地売買市場が冷え込み、多くの開発業者が大量の物件を抱えることに対するリスクを感じているとも指摘しています。

 原油価格の急騰に伴う影響など、今後の中国経済には、様々な要素が絡んで来ており、先行きを予測することが難しい状況になってきています。今後どのような変化が起こるにせよ、政府による適切な対処と市場関係者の冷静な対応により、その変化がマイルドでソフトなものになることを願いたいと思います。

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2008年2月 4日 (月)

農民の土地返還要求に関する米紙の報道

 日本でもMSN産経ニュースで流れていた(私は見ていないのですが、たぶん産経新聞でも伝えられた)ので御存じの方も多いかもしれませんが、1月14日付けのアメリカの新聞ワシントン・ポストに、中国黒竜江省の農民たちが自分たちの耕作していた土地を取り上げた村政府に対して土地の返還を要求し、自分たちに土地所有権があることを認めるよう主張していることについての記事が載っていました。

(参考1)ワシントンポスト2008年1月14日付け記事
"Farmers Rise In Challenge To Chinese Land Policy"
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/01/13/AR2008011302383.html

 中国の耕地は、農民の所有地ではなく、村という単位の集団が所有している土地であり、農民たちには一定の期限付きで貸し与えられ(別の言葉でいうと、期限付きで土地使用権が与えられ)、耕作が行われている、というのが現状です。土地所有権は村という集団が持っていることから、村当局が農民から土地使用権に見合う分だけの一定額の補償金を支払って土地を収用し、その土地を開発業者に売る、という行為が中国各地で行われています。下記(参考2)で紹介しているインタビュー記事によると、「土地使用権に見合う分の一定額の補償金の支払い」が社会主義的な原則に基づいて行われるためその金額は小さく、「開発業者への土地の売却」が市場経済下のルールで行われるためにその金額が大きくなるケースが多く、その結果として、農民に支払われる補償金が少なく、一方で村当局や土地開発業者には巨額の金額が転がり込む、というケースが多いとされています。そのために村当局による不必要な農地の収用と土地の乱開発が跡を絶たず、不正の温床にもなりやすいのだ、というわけです。

 上記(参考1)のワシントン・ポストの記事によると、こういったケースに対して、農民たちは村当局が収容した農地の返還を要求し、農民たち自身が自分の判断で土地開発業者と売却金額の交渉ができるよう、土地所有権を自分たちに与えるように主張している、とのことです。

 もちろんワシントン・ポストで紹介されている農民たちの行動は中国国内では報道されていませんが、この農民たちの考え方と同じような考え方については、このブログの1月14日付け記事で私が紹介したように、1月14日付け(1月12日発売)の経済専門週刊紙「経済観察報」に載っていたインタビュー記事の中で清華大学教授の蔡継明氏が述べていました。

(参考2)このブログの2008年1月14日付け記事
「ついに出た『土地私有制』の提案」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/01/post_6f24.html

 ワシントン・ポストが伝える農民たちの動きが、中国において違法なものなのか、合法的な範囲内のものなのか、については、私は上記のワシントン・ポストの記事以外の情報を何も持っていませんので、判断はできません。ただ、一般的に言えば、中国の共産主義革命の過程の初期の段階では、例えば、1956年頃まであった「初級合作社」の制度では、自作農に対しては土地の私有を認めつつ、共同で農作業を行うことが行われていたので、土地私有制の主張が中国共産党指導下の中国において直ちに違法なものになると言うことはできません。上記の蔡継明清華大学教授の意見が掲載された新聞が堂々と街で売られていることから見ても、「土地私有制」を主張すること自体は、現在の中国では違法なもの、とはみなされないようです。一方、ワシントン・ポストの記事の伝える農民たちの運動がもし仮に「中国共産党の指導による政治」を覆そうと試みるものであるならば、それは、現在の中国の法律の下では違法とみなされる可能性があります。

 一方、上記のワシントン・ポストの記事が北京から何の問題もなくアクセスでき、読むことができる、ということは、党中央がこの記事が伝える農民たちの動きを完璧に抑え込もうと考えているわけではないことを示しているのかもしれません。というのは、現在の中国では、党中央の考え方に真っ向から反対するような主張を伝えるサイトについては、アクセス制限が掛かり、中国国内からは閲覧することができないからです。

 党中央の真意は測り知ることはできませんが、もしかすると、党中央の中にも、村当局が農民の意向に反して土地を収用し、その土地を開発業者に売ることによって莫大な利益を得ることを問題視する考え方の人がいるのかもしれません。もしそうした考え方が党中央の一致した考え方なのだとすると、党中央の考え方は末端の農民の意向と一致し、一方、末端行政機関である地方政府・地方党組織の意向がそれらと対立する、という構図ができあがります。今後の中国の行方を考えるに当たっては、土地を巡るそういった構図があるのか、ないのか、といった「見極め」を念頭に置いておく必要があると思います。

 なお、上記ワシントン・ポストの記事と私が紹介した「経済観察報」の記事がいずれも同じ1月14日付けであったのは、単なる偶然の一致なのでしょうか。それとも党中央の一定の意図が背景にあった必然の結果なのでしょうか。それについては、私には何も知る術はなく、想像の域を何ら超えることはできません。

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2008年1月26日 (土)

中国経済の成長を支えるものは何か

 1月24日、中国の国家統計局は2007年の経済状況について発表しました。それによると、2007年の中国の国内総生産(GDP)は、24兆3,619億元(約370兆円)で、対前年比(名目)11.4%の増でした。一方、消費者物価指数は、近年になく大きく上がって+4.8%でした。

 中国は2007年も引き続き相変わらず急速な成長が続いたわけですが、中国の経済成長を支えているものを大きく分けると次の3つになると思います。

○輸出の伸び

 食品や玩具の問題でいろいろ騒がれましたが、中国製品の輸出が伸びているのは間違いない事実です。つまりは世界各国で中国の製品が売れているということです。危険なものや品質の悪いものばかりだったら、世界の消費者は買わないわけですから、一部に問題のあるものはあるとはいうものの、総体的に見れば、やはり中国製品は、安さと品質をてんびんに掛けると「売れる」製品なのだと思います。問題は、いつまでも「安さ」にばかり頼ってはいられない、ということです。これからは、中国は、人件費が少々高くなっても国際競争力を維持できるしっかりとした品質をもった製品を多く作れるように脱皮できるかがカギだと思います。

○投資

 「不動産バブルはピークを越えたのではないか」と言われますが、少なくとも2007年いっぱいは中国全国での建設ラッシュはまだまだ続いていた、ということなのでしょう。この部分が2008年以降、どの程度継続的に中国経済を支えていけるのか、が今後の中国経済を占う上での大きなカギになると思います。

○内需

 中国は2006年に自動車の販売台数で日本を抜き、アメリカに次ぐ第2位となりました。インターネット人口も2007年末で2.1億人に達し、既に世界第2位になっていますが、一位のアメリカとの差はわずかなので、2008年の早い時期にアメリカを抜いて中国は世界最大のネット人口を抱える国になるだろう、と言われています。日本をはじめ、各国企業は、中国市場での販売競争に負けると生き残れない、と言われるほど、中国の消費市場としての比重は大きくなっています。問題は、上記の輸出や投資の部門に「かげり」が見え始めた場合、内需が引き続き底固く推移するのか、それとも尻つぼみになってしまうのか、だと思います。

 あと、私が中国独自の「経済発展を支えるもの」として着目しているのが「土地マジック」です。1月14日付けで紹介した「経済観察報」に載っていた蔡継明清華大学教授のインタービュー記事でも指摘されていたように、中国では、社会主義的な発想による安い評価価格で農民から土地を収用し、それを住宅地や工業開発区として市場経済に売り出す、ということが大々的に行われています。いわば「公有」の農地を市場的価値のある土地として市場に出すわけですので、地下から石油がわき出るように「土地」という形の「天然資源」を中国は毎年大量に市場に送り出し、それが中国の経済成長の大きな推進力になっているのではないか、と私は思っているのです。

(参考1)このブログの2008年1月14日付け記事
「ついに出た『土地私有制』の提案」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/01/post_6f24.html

 国土資源部の「中国国土資源公報」によると、2004~2006年の3年間で、5,428平方キロの耕地が都市用地や工場建設用地に変えられていまるとのことです。

(参考2)中国国土資源部ホームページの「統計情報」のページ
http://www.mlr.gov.cn/zwgk/tjxx/index_883.htm

 5,428平方キロとは、日本で言えば愛知県よりちょっと広く、三重県よりちょっと狭い面積です。これだけの面積の土地が3年間に工業用地などの形で経済市場に売りに出されたことによる経済全体への影響はかなり大きいのではないかと思います。もともと土地に価格が付いている資本主義国とは異なり、値段のついていない土地が突如として値段付きの形で経済のマーケットに登場することのインパクトは大きいと私は思います。

 土地が石油と違うところは、買い手が付かなければ土地は途端に何の価値も無くなってしまう、ということです。耕地をつぶしている分、もしその土地が売れなかったら、むしろ経済的にはマイナスになるでしょう。社会主義体制というポケットから土地を取りだして市場経済に売りに出すことは、いわば中国が自分の体を切り売りしてるのと同じことになりますから、もしこれらの土地に買い手が付かなかったら大変なことになると思います。

 中国製品がなんだかんだと言われつつ世界のマーケットでしっかり売れていること、日本をはじめとする各国の企業が中国の消費市場に殺到して実際にいろんな製品が中国国内で売れていることは、中国経済の「底固い」部分を示していると思います。この「底固い」部分の比重がどれくらいで、上に述べた「自分の体を切り売りしているような部分」の比重がどれくらいなのか、は、私にはよくわかりません。今年2008年は、この「中国経済の成長をささえるもの」のどの部分の比重がより大きいのか、がある程度はっきりしてくる年になるのではないかと私は思っています。

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2008年1月22日 (火)

中国の不動産を巡る報道に「崩壊」の文字

 中国の不動産ブームについては、かなり前から「あまりにもスピードが速すぎる。バブル気味なのではないか。」との声が聞こえていました。そうした中、2007年の末頃から、政府による引き締め政策の影響もあり、さすがの中国の不動産ブームにも「かげり」のようなものが見え始めて来たように感じていました。

(参考1)このブログの2007年12月22日付け記事
「中国の不動産ブームはピークを越えたのか?」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/12/post_7322.html

 2008年に入り、深セン、上海、北京などではいくつかの不動産仲介業者が店を閉める、という報道がなされるようになりました。

(参考2)「新京報」2008年1月10日付け記事
「中大恒基、近く50店を閉店へ」
http://www.thebeijingnews.com/news/beijing/2008/01-10/021@073510.htm

 これらの動きに関する新華社などの報道の中には「崩壊」の文字を使うものも出てきました。

(参考3)中国経済ネットの記事を転載している新華社のページに2008年1月16日にアップされた記事
「中国最大規模の不動産仲介業者『創輝』が『崩壊』に瀕している」
http://news.xinhuanet.com/house/2008-01/16/content_7428402.htm

 これらの動きについては、人民日報もこの二日間、連続の特集記事として報じています。

(参考4)「人民日報」2008年1月21日付け記事
「創輝の暗然たる収縮(経済の焦点:関心を集める不動産仲介業(上))」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-01/21/content_39584201.htm

(参考5)「人民日報」2008年1月22日付け記事
「不動産仲介業界はなぜ揺れ動くのか(経済の焦点:関心を集める不動産仲介業(下))」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-01/21/content_39584201.htm

 この「人民日報」の記事の中では、マンション等を買おうとしている消費者が、現在のマンション価格の動向を見て「模様眺め」の状況に入ったために、ここに来て成約量が急減し、そのために不動産仲介業が店を閉めざるを得なくなった、という専門家の見方を伝えています。また、不動産仲介業は、パソコンと机さえあれば簡単に店を開けることから、これまで安易に店舗数を増やしてきた業者も多かったが、今回の事態はそういった「バブル気味の」仲介業者に市場から退場してもらうという「洗牌」(シーパイ:麻雀やトランプでゲームを始める前にパイやカードをかき混ぜること)の局面に入ったということだ、という冷めた見方も示しています。こういった「人民日報」の報道の仕方を見ていると、北京オリンピックまで異常な不動産ブームが続き、オリンピックが終わった後に一気にバブルが崩壊するよりも、オリンピックまで後200日ほどある今の時点で、つぶれるべき小さな「バブル」はむしろつぶれてもらった方がよい、という党中央の考え方が透けて見えるような気がします。

 ただ、上記の「急に店を閉め始める業者も出始めた」というのは、あくまで「仲介業者」の話であって、現時点ではマンションやオフィスビルを建設している不動産開発会社自身がバタバタ倒れているわけではありません。マンション等の販売には、新しくできた建物の販売と中古物件の販売とがありますが、成約数が極端に減少しているのは中古物件の方です。新規物件の方は、成約数は減少傾向にありますが、「激減」というところまでは行っていないようです。実際に住む家が欲しくてマンションを買おうと思っている消費者が買い控えをしているからなのか、投機対象でマンションを買おうとしている人たちが買い控えをしているからなのか、詳細は不明ですが、いずれにせよ全体として販売量が低下していることが、契約の成立を「日々のメシの種」にしている不動産仲介業者を直撃し、いくつかの業者で閉店に追い込まざるを得なくなったというのが実情だと思います。この傾向が長期的に続くようだと、やがては開発業者の中にも、投下した資金を回収できなくなるところも出てくる可能性があります。

 いずれにせよ、北京において、夜になると立ち並ぶマンションの多くの部屋に電灯が点らないことについて、私は前から気になっていました。実際に住んでいない投機目的のマンション所有者の数は、かなりの数いるのではないかと思います。

(参考6)このブログの2007年10月17日付け記事
「夜8時半過ぎの北京のビルの稼働率」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/10/post_7335.html

 気になるのは、投資対象としてマンションを購入している富裕層が今の事態にどういうふうに対応するかです。今日(2008年1月22日)、世界的株安の流れを受けて、中国の株式市場もかなり値を下げました。現在の中国経済成長は、低賃金労働の基盤の上に立った製品の輸出、土地開発とマンション・オフィスビル等の建設等に対する投資、富裕層による商品・サービスの購入等の内需、の3つが大きな柱です。為替レートと労働契約法の施行により安い労働力に頼った製品の輸出の比重は、今後は下がるでしょう。そうした中で、不動産による資産の目減りがありそうだ、株がどんどん上がるという状況でもない、という事態になって、不動産に対する投資が減る一方、将来を不安視した富裕層が全体的な買い控え傾向に走ると、中国経済全体が不活性な方向へシフトするおそれもあります。

 こういったことを考えると、これから北京オリンピックのある8月へ向けて、いろいろ予測できない状況が出てくる可能性もある、と私は思っています。

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2008年1月14日 (月)

ついに出た「土地私有制」の提案

 今日(2008年1月14日)付けの経済専門週刊紙「経済観察報」(1月12日発売)の「中国」(Nation)という特集欄に農村の土地制度改革の必要性を訴える学者のインタビュー記事が載っていました。

※「経済観察報」のこの記事はインターネット上で無料で読むことはできません。

 この学者とは、清華大学教授の蔡継明氏です。蔡継明教授は、中国の民主政党(中国共産党に協力的立場に立っている合法的な政党)のひとつ「中国民主促進会」(略して「民進」)の中央経済委員会主任で、中国人民全国政治協商会議(注)の委員です。

(注)中国人民全国政治協商会議は、各界・各層の有力者が集まっている会議で、その全体会議は、いつも全国人民代表大会(全人代:日本の国会に当たる)と同時期(通常毎月3月)に並行して開催されます。法律を議決する権限はありませんが、全人代と同じ議題で議論を行い、様々な建議や提案を行います(元々は、革命初期に中国共産党以外の国内有力者の意見を集約するために設立された会議)。

 このインタビュー記事の中で指摘している蔡継明教授の主張のポイントは以下のとおりです(上のタイトルで「ついに」と書きましたが、蔡継明教授の主張は真新しいものではなく、2003年頃からこのような方向性の主張はしていたそうです)。

-----「インタビュー記事のポイント」始まり------

○現在、政府は土地の乱開発による食糧生産用耕地の減少を防ぐため「小産権」(村などの集団所有の土地の上に建てられた住宅)を都市住民が購入することを禁止する政策を徹底させようとしているが、「小産権」の面積は全国の土地の違法開発の面積に比べたら極めて小さい。違法な土地占拠の8割は地方政府によるものであり、「小産権」の都市住民への売却を禁止したとしても、耕地減少問題の解決にはならない。

(参考1)このブログの2007年7月13日付け記事
「中国の地方政府による無秩序な土地開発」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/07/post_1c55.html

○最も重要なポイントは、地方政府が農民から土地を収用する際の土地の評価が30年来続いている「過去3年間のその土地で生産された農産物の価格」に基づいていることである。大まかにいって、この評価方法では、実際の経済活動に基づいて評価される土地の価格の10分の1にしか評価されない。つまり、農民に補償金を払ってこの土地を収用し、開発して商業ベースで販売すると、土地価格の10分の1しか農民に渡らず、残りの9割は地方政府や土地開発業者の懐に入ることになる。これが地方政府が土地の乱開発を止めない主要な原因であり、またこれが政治的腐敗の最も大きな原因になっている。

○ここ10年来の中国の経済成長は、このようにして非常に安く開発された土地が多くの投資を呼び込むことによってもたらされてきたものである。

○農民が実際に耕作している農地、実際に住んでいる住宅の宅地については、その農民の「私有地」として認め、土地の売買を市場原理に任せることが、最もよい解決策である。土地の私有制を認めることにより、農民が土地を手放す時には、市場価格に見合った支払いを受けられることになるし、土地に市場価格に見合ったそれなりに高価な価格が付けば、開発業者もおいそれと購入して開発を進めるわけにはいかないので、自ずと土地の開発競争にもブレーキが掛かる。

・・・・・・(「このブログの筆者による注」)・・・・・・

 現在の中国において、農村による土地の所有形態が国有または「集団所有」であり、土地の私有が認められていないのは、中国の共産主義革命の経緯によるものである。解放前の中国では、大地主が土地を所有し、小作農に土地を貸し付けて耕作させて高額な小作料を徴収することによって、多くの小作農は貧困に喘(あえ)いでいた。中国共産党の指導に基づく革命により大地主の土地は取り上げられた。取り上げられた土地の所有権は結果的には農民に分配されたわけではなく、革命の各段階において「農業生産合作社」から「人民公社」へ変わっていった社会主義的な「集団」が保持することになった。最終的な「人民公社」の段階では、土地と農具などの生産手段、農民の住む住宅までもが「人民公社」の所有とされ、農民はその「人民公社」の「社員」として生産に従事することになった。「人民公社」では、「社員」が耕すのは自分の土地ではなく「公の土地」であり、個々の農民の創意工夫や努力が自分の収入の向上に結びつかないので、この「人民公社」の制度は、農民の生産意欲の減退による農業生産の停滞をもたらした。

 1978年暮れにトウ小平氏によって始められた「改革開放政策」の過程で、1982年頃、「人民公社」は解体された。農地は所有権は村という「集団」が引き続き所有していたが、実際には農民に「耕作を請け負わせる」という形で任されるようになった。農民は自分の創意工夫に応じて自分の「請け負った」耕地で農作ができるようになったので、農民の生産意欲は向上し、中国の農業生産力は向上した。農民の住宅用土地も、村という「集団」の所有ながら、その管理は各農民に任され、住宅の改築なども農民が自分の判断で行えるようになった。

 これが現在の農村の形態である。現在は各農民は、自分の担当する土地では自分の判断で自由に農作をやっているが、土地の「所有権」に関しては、上記の歴史的経緯から今でも「集団所有」のままなのである。現在の中国の法律の解釈では、農民は村から「土地の使用権」を与えられて耕作している、ということになるので、もし村が農民から土地を収用する場合には、その「土地使用権」に対する補償金を支払う必要がある、ということになる。

・・・・・・(「このブログの筆者による注」終わり)・・・・

○現在、農民一人当たりの耕地面積は7.5ムー(約0.5ヘクタール)だが、これでは面積が小さすぎて効率的な農業生産ができない。効率的な農業生産をするには農民一人当たり15ムー(約1ヘクタール)程度あった方がよい。市場原理に基づいて農業生産効率の悪い農民が生産効率のよい農民に土地を売ることにより農民一人当たりの耕地面積が15ムーになれば、農業生産は全体的に効率化する。一方これにより7億人の農民の約半分(3.5億人)の農民が土地を手放すことになるが、彼らは、都市へ出て行って都市で就職し、都市に住むことになる。現在、土地が集団所有制であり、農民は戸籍によって土地と結びつけられているため、経済的にはそれに近い現象が起きているにもかかわらず、制度的に農民は都市に定住できないことになっている。これが現在の農民の都市への出稼ぎ問題、いわゆる「農民工」問題である。土地の私有制は、現在の実際の経済状況に従って農民を土地から切り離し、都市への人口の移動をスムーズに進める助けになる。

○土地の私有制は「土地の集団所有制」という大原則を崩壊させる、と主張する人がいるが、現在の中国が進めている「中国の特色のある社会主義」は、既にその方向に歩み出しており、実質的には「土地の集団所有制」は変質しつつあるのだから、「崩壊する」という言い方はおかしい。

○いわゆる「小産権」のうち、農村の宅地の上に建てられた宅地については、「合理的であるが『不合法』な物件」であり、合法とみなすべきである(このブログの筆者注:「不合法」とは、現在の法律には適合していない、という意味。合理的であるので、蔡教授は敢えて「違法」とか「非合法」とかいう言葉を使っていない)。

○こういった農村の土地制度改革については、今年3月の全国人民代表大会及び政治協商会議の全体会議に議題として提案したいと私は考えている。

○なお、将来的な課題としては、さらに一歩進めて、現在、全て国有となっている都市部の土地の所有権についても、公共目的に使用されている土地については国有のまま残し、そうでない土地については私有とするようにできるのではないかと考えている。

-----「インタビュー記事のポイント」終わり------

 この蔡継明教授の提案は、現在中国が抱える問題の非常に重要なポイントを的確についたもので、非常に合理的なものであると私は思います。ただ、蔡教授自身も言っていますが、「土地の私有制」を認める、ということは、いわば社会主義の大原則を崩す、とも受け取れる部分ですので、もしこれが全人大及び政治協商会議で提案されても、かなりの議論を呼ぶことは間違いないと思います。まず現在の政治状況の中では、実際に「提案する」というところまで持っていけるのかどうか、かなり難しいものがあると私は思います。また、仮に提案できたとしても、相当激しい議論が起こることは必至で、結論が出るとしても相当に長い時間が必要になると思います。

 この提案は、政治的な意味も大きなことはもちろん、経済的にも大きなインパクトを与える可能性があります。これも蔡教授が指摘しているように、ここ10年間の中国の急激な経済成長は、地方政府が安く土地を開発し、それに吸引されて外国から多くの投資が流れ込んで来たことによってもたらされてきたものですので、「土地の私有制の導入」により、ここ10年間の中国経済の急激な成長をもたらた根本的な構造が変わる可能性があるからです。

 もうひとつの大きなポイントは、12月30日に国務院が「『小産権』の都市住民による購入は厳禁する」という通知を改めて出したことに対し、その国務院の政策に真っ向から反対する提案が新聞紙上に掲載され、それが次期の全人大に提案されるかもしれない、という点です。中国では、国務院も全人代も中国共産党の指導の下にありますので、国務院と全人大の方針が異なる、ということは、これまでは基本的にあり得なかったのです。もしこのような国務院の政策に反対するような提案が本当に全人代に出されるのだとすれば、それは中華人民共和国の政治史の中では画期的なことだと思います。

 一方、この主張が「経済観察報」といういわば都市部の「富裕層」(別の言葉で言えば「新社会階層」)が購入する新聞に掲載されている、というところも重要なポイントです。「富裕層」の中には「小産権」に多額の投資をしている人も多いと思われますので、「小産権」の合法化は、「富裕層」にとっての政治的要求のひとつなのだと思われます。つまり、経済的に大きな力を持つようになった「富裕層」が自分たちの権益を守るため政治的な主張をし始めている、というのが、今回のインタビュー記事に現れていると私は思うのです。「富裕層」(「新社会階層」)の政治的要求をいかにして具体的な政策に盛り込んでいくのか、が、現在の中国の政権にとって重要な課題です。「富裕層」にソッポを向かれたら、現在の中国の経済運営はうまくいかず、従って、政治的な運営も困難になるからです。

(参考2)このブログの2007年6月22日付け記事
「新しい社会階層の台頭」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/06/post_6737.html

 2008年に入り、経済的にも政治的にも、少しずつ「何か」が動き始めているのを感じます。
 

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2008年1月 9日 (水)

国務院が「小産権」に関し明確な通知を発出

 国務院は昨年末に会議を開き、2007年12月30日付けで、「小産権」(村などの集団所有地の上に建てられた住宅地)に関する法的位置付けを明確にする通知を出しました。

(参考1)「新華社」2008年1月8日15:58アップ
「国務院弁公庁:都市住民は農村で宅地用土地を購入することはできないことを重ねて通知」
http://news.xinhuanet.com/house/2008-01/08/content_7385599.htm

 この国務院の通知のポイントは以下のとおりです。

○農村の住宅用の土地はその村の村民が住むために分配されているのであって、都市住民が農村で住宅用土地や農民の住宅、あるいはいわゆる「小産権房」(農村の土地の上に建てられたマンションや別荘等)を購入することはできない。

○農村などの集団所有の土地の土地使用権を譲渡あるいは賃貸により非農業目的の建設に使ってはならない。全体的な土地利用計画に基づいて建設用地を取得した企業が破産した場合などにのみその当該土地の使用権を法律に基づき譲渡することができる。そのほか集団所有の建設用地の土地使用権が譲渡できるのは、計画の必要性に合致し、法律に則って取得された建設用地の場合だけであり、それらを商品住宅の開発用に使うことはできない。

○農村などの集団所有の土地を土地利用計画などに違反して「貸与」「請負」などの方式により「売らない代わりに貸す」という形で非農業目的の建設用地に使うことが一部の地方で見られているが、これらは厳格に禁止する必要があり、もしこういう事態あれが厳格に検査して処置する。国土資源管理部門は「売らない代わりに貸す」方式で行われている違法行為について全面的な調査を行い法に則って厳格に処置する。

 この通知の背景にある問題点は、以下の点です。

●農村にある村民住宅用の土地については、村当局などが農民からこれを接収して都市住民に売っている例があり、その際、一部に農民の権利を侵害しているおそれがあるところも出ている。

(参考2)このブログの2007年8月5日付け記事
「ある北京近郊の村の『別荘商売』」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/08/post_2eab.html

●本来農地をつぶして工業用地にすることができるのは、土地利用計画に基づいて、上部機関の許可を得た場合に限られているのに、「土地使用権を売ることはしていないが貸している」「土地を利用した事業を請け負わせているだけだ」などの説明を付けて村当局が上部機関の許可を得ないで土地開発業者などからお金をもらって土地開発をさせている例があり、現実の農地面積が減少してきている。13億人の人口を維持するために必要な食糧の生産量を確保するため、中国政府は農地面積は18億ムー(120万平方km)より絶対に小さくしない、としている。現在の農地面積はまだこれを上回っているが、無秩序な農地開発が進むと、中国全体の農地面積がこの「レッド・ライン」を割り込んでしまうおそれがあるため、中国政府としては、土地利用計画に則らない農地開発はストップさせる必要があると考えている。

(参考3)このブログの2007年7月13日付け記事
「中国の地方政府による無秩序な土地開発」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/07/post_1c55.html

 農村などの集団所有の土地の上に建てられた住宅(「小産権」とか「小産権房」とか言われる物件)に対する法的位置付けは、これまで「あいまい」と言われてきていましたが、先の北京の裁判での確定判決(下記の「参考4」参照)や今回の国務院の通知で法的位置付けは明確になったと思います。

(参考4)このブログの2007年12月18日付け記事
「都市住民の『小産権』購入は違法と確定判決」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/12/post_bf8b.html

 しかし、法律的位置付けが明確になったのはいいとして、不動産取引の1割~2割をこの「小産権」が占めていると言われる現状において、現実的な商取引として行われている不動産取引にこの「小産権」の法的位置付けの明確化がどのように影響するのか、はまだ不透明なところです。法的位置付けに基づく厳格な取り締まりを行えば、現実の商取引に混乱を与える可能性もありますし、取り締まりを甘くし現実を追認するようなことがあれば、裁判所の確定判決や国務院の通知があっても法律が実行されないことになり、法治国家としての根本が崩れてしまうことになります。

 中国のことですから「様子を見ながら徐々に取り締まりを強化していく」ということなのでしょうが、厳しく取り締まられた人は損をし、取り締まりが厳しくなる前に素早く物件を売り抜けることができた人は儲かる、という不平等が広まるおそれがあります。不動産取引は巨額の取引であり、特に個人にとっては、一生を掛けた人生最大の買い物です。あまりこれによる不公平感が広がると、社会の中に不満が溜まっていくのではないか、というのが心配になるところです。

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2008年1月 1日 (火)

2008年:今年のポイント

 皆様、明けましておめでとうございます。

 今までもいろいろ書いてきましたが、今年(2008年)の中国のポイントは、北京オリンピックの開催を除けば、次の3つだと思います。 

(1)労働契約法(2008年1月1日施行)

(2)不動産

(3)株

 時期的なポイントとしては4月と10月だと思います。

 私は不動産の動きに関しては、上記の「小産権」の問題が非常に大きいと思うのですが、さきほど「小産権」という言葉でYahooやGoogleで検索したら、私のブログが上位に出てきてびっくりしました(つまりほかの人はあまり着目して書いていない、ということですよね)。

 実生活面では、北京オリンピックの前後、車の使用制限など、市民生活に対してどのような制限がなされるかが気になるところです。あんまり無理なことをやって、市民の反発を買わなければよいけどなぁ、と思います。東京オリンピックやソウル・オリンピックのように、後から見て、「やはり北京オリンピックは中国の飛躍のひとつのきっかけだった」と言えるようになって欲しいと思います。

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2007年12月22日 (土)

中国の不動産ブームはピークを越えたのか?

 中国のマンションなどの建設ブームを「バブル」と呼ぶべきかどうか、は議論のあるところです。北京は、来年(2008年)はオリンピックがあるので、それが終われば建設ブームはヤマを越えるが、その他のところはオリンピックはあまり関係ないのではないか、とも言われています。一方、中国政府は、経済成長の過熱を心配しており、今年(2007年)は、相次いで、中央銀行である中国人民銀行による基準金利や預金準備率の引き上げ、膨大な額に上る外貨(注)の運用を担当する中国投資責任有限公司設立のための特別国債の発行などのいわゆる「過剰流動性」を抑えるための対策を行ってきました。

 このうち特別国債1億5500万元については、8月29日から12月14日までの間に7回発行されました。

(参考1)「新京報」2007年12月15日付け記事
「最後の回の特別国債が発売された」
http://www.thebeijingnews.com/economy/2007/12-15/011@003335.htm

 上記のうち第1回と第7回の合計1億3500万元の特別国債については、農業銀行が引き受け、それを中国人民銀行が外貨(注)を政府に売って得た人民元で買い取ったとされているので、この部分については市場への影響は直接はありませんでしたが、残りの2000万元については、直接市場に向けて発行され2000万元分の人民元が市場から吸収された、と考えられています。

(注)中国が保有する外貨の準備高は2007年9月末現在で1兆4300億ドルを超えています。

(参考2)中国人民銀行のページの「黄金及び外貨準備」の表
http://www.pbc.gov.cn/diaochatongji/tongjishuju/gofile.asp?file=2007S09.htm

 この特別国債については、大部分が中央銀行である中国人民銀行が保持することになったのですが、NPO日中産学官交流機構特別研究員の田中修氏は、必要な時にこの特別国債を市場に売り出すことによって市場に出回っている人民元を回収するひとつの手段を中国人民銀行が手にした、という意味がある、との中国財政部の担当者の考え方を紹介しておられます。

(参考3)NPO日中産学官交流機構のホームページにある
特別研究員田中修氏のレポート
http://www1a.biglobe.ne.jp/jcbag/tanaka_report.html
の2007年9月10日付けレポート「経済過熱防止への諸施策(11)」

 利上げは、結局、2007年は6回行われました。

(参考4)「新華社」2007年12月20日19時頃アップ
「中国人民銀行、今年6度目の利上げを発表」
http://news.xinhuanet.com/fortune/2007-12/20/content_7285921.htm

 来年2008年の経済運営の方針については、中国政府は、12月3日~5日に掛けて中央経済工作会議を開催して、その基本的な考え方を明らかにしました。

(参考5)人民日報2007年12月6日付け1面トップ記事
「中央経済工作会議北京で開催」
http://politics.people.com.cn/GB/1024/6618393.html

 胡錦濤中国共産党総書記・国家主席が主宰したこの会議では、来年(2008年)の経済運営について、「引き締めた」貨幣政策を実行する、と述べています。この表現は、従来「適度に引き締めた」という表現だったものから「適度に」が抜けた表現になっています。このことについては意味があるのだ、とする新華社の解説が出されています。

(参考6)新華社2007年12月5日20:36アップ
「専門家が、貨幣政策を『適度に引き締める』から『引き締める』に変更したことについて解説」
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2007-12/05/content_7205702.htm

 この中央経済工作会議では、少なくとも「姿勢」としては、政府は、経済を引き締める方向により強く政策の舵を切った、と宣言したものと言っていいでしょう。

 一方、2007年11月30日付け人民日報(海外版)4面の「中国の不動産:マクロとミクロの両面から見る」という記事では、上海において10月のマンション販売成約量が9月の74%に落ち込んだことを報じています(なぜか11月30日の分だけ、ネット上では人民日報(海外版)を見ることができません。私はたまたま紙面バージョンを入手できたのでこの記事を見つけられました)。

 北京でも、最近、住宅販売量が減ってきている、との記事が出るようになりました。

(参考7)「新京報」2007年12月5日付け記事
「11月の北京の住宅販売は冷え込んだ」
http://www.thebeijingnews.com/economy/2007/12-05/021@092841.htm

 この記事によると、北京市不動産交易管理ネットが発表したデータでは、11月の住宅の成約数は1日平均353件で、405件近かった10月より減少している、とのことです。

 また、北京のマンションでは価格は下がってはいないもののお客に対する割引などのサービス合戦が始まっている(成約数も11月に引き続き続落している)との記事も出ています。

(参考8)「新京報」2007年12月20日付け記事
「北京の多くのマンションで割り引きの声の『大合唱』」
http://www.thebeijingnews.com/economy/2007/12-20/018@092435.htm

 この記事のポイントは以下のとおりです。

・記者がいろいろなマンション開発会社を回ってみたところ、正式価格自体はあまり下がっていないものの、5%引き、10%引きの「特別割引」を提示してくれた物件、「今買うなら家電製品を付けます」と言われた物件、などあの手この手で客引きを図っているところが多かった。

・北京不動産交易管理ネットのデータによると、12月1日~18日までの北京の住宅販売数は4867件で1日平均270件、これは11月の364件、去年の同時期の460件を大きく下回っている。

・ある不動産大手企業は既に広州と上海では15%~30%の値下げを始めている、とのことで、ある北京の開発業者は「もしこの企業が北京の市場で同じようなことをやり始めたら『地震級』の震動があるだろう」と言っていた。

・専門家は、現時点では北京のマンション市場は、囲碁で言えば「観望」(勝ちそうか負けそうか形勢判断をするために打ち手が止まる)という最後のクリティカルな段階に入った、と言っている。

 これらの記事を見ると、少なくとも大都市部では、マンション・ブームはひとつの角を曲がったのではないか、とも思えます(中小都市などその他の地方のことはわかりません)。

 また、先日、このブログで書いた「小産権」問題(農村などの集団所有の土地の上に建てられたマンションや別荘などの物件をその集団のメンバーではない都市住民が購入することは法的に認められないという問題)が中国の不動産売買取引に何らかの影響を与えるようになる可能性もあります。

(参考9)このブログの2007年12月15日と12月18日の記事
「都市住民による農村の『小産権』購入は禁止」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/12/post_fcc8_1.html
「都市住民の『小産権』購入は違法と確定判決」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/12/post_bf8b.html

 今年、いろいろと打ち出された「過剰流動性対策」が今後どの程度実態経済に効いてくるのかもよくわからないところですし、上記の裁判の結果が実際の不動産取引にどの程度影響するのかはよくわからないところがあります。来年2008年は、北京オリンピックが開かれて、終わる、というひとつの区切りの年であることは間違いないわけですが、それに加えてこういった経済上の条件がどのように実態経済の上に現れてくるのか、目が離せない状況が続きそうです。

(以下、2007年12月23日9:00に追記)

 不動産価格の最近の下降傾向気味について、国営新華社通信は12月17日付けで次のような「市場報」の報道を配信しています(この配信が2007年12月23日8:40現在、新華社のホームページのトップ記事に載っていたの気が付きました)。

(参考10)「新華社」ホームページ2007年12月17日付け記事
「観察:不動産市場の価格下落の『虚報』、不動産価格は本当に暴落するのか?」
http://news.xinhuanet.com/house/2007-12/17/content_7264042.htm

 この記事では、以下のようなことを言っています。

○住宅を真に欲しいと思っている消費者が「不動産価格が下落している」という情報を聞いて「もう少しすればもっと下がるのではないか」と思うのは無理のないことである。

○しかし、今回の下落は、急激な価格上昇の後で起こったものであり、「真のトレンド」を見究める必要がある。

○不動産価格の下落が伝えられているのは北京、上海、深センなどごく一部の都市であり、その他の土地ではこのような現象は起きていない。

○住宅が欲しいと思っている中国の消費者は非常に多いので、不動産価格は上昇方向に反転すると見る方が正しい。

○サッカーではゴール前で相手選手と接触した時、相手の反則を誘うためわざと転倒する場合がある。陸上100メートル競走では「興奮剤」を使用した選手がとんでもない「世界記録」を出すことがあるかもしれない。しかし、それは「真の姿」ではない。

○一部の現象に惑わされずに、全体を見て、「真のトレンド」を見極めることが重要である。

 この記事を読んだ私の勝手な感想ですが、政府や関係業界は、最近、不動産価格下落のニュースが流れているのを見て、ちょっと「あわてた」な、と思いました。上記、新華社が引用している「市場報」は、投資者がよく買う新聞ですから、新聞自体の立場として、不動産価格が暴落しては困るのです。また、この17日付けの記事を新華社が今日(23日)になってホームページの一面トップに持ってきたのも、政府関係者がちょっと「あわてた」証拠ではないかと思います。同種の「解説」は今日7:00からの中央電視台テレビの朝のニュース「新聞天下」でやっていました。

 上記の新華社が引用している記事の中のサッカー選手の話や100メートル競走選手の話は「苦し紛れのたとえ話」のように私には思えます。

 いずれにせよ、今後の動きは、こういった情報がいろんなところから流される中、一般消費者や投資者がどういうふうに「真のトレンド」を判断するか、に掛かっていると思います。

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2007年12月18日 (火)

都市住民の「小産権」購入は違法と確定判決

 小産権問題(村などの「集団所有制土地」の上に立てられた別荘、マンションなどの住宅物件(小産権)を村民ではない都市住民などが購入することが違法かどうか)について、小産権を都市住民が購入することは違法、と判断した初めての裁判所の確定判例が昨日(12月17日)北京市第二中級人民法院第三法廷で出されました。

 「小産権」に関しては、下記の私のブログの記事を御覧下さい。

(参考1)私のブログの2007年12月15日付け記事
「都市住民による農村の『小産権』購入は禁止」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/12/post_fcc8_1.html

 最近、政府が「『小産権』を都市住民が購入することは法律上認められない」との見解を出していることと、不動産ブームで「小産権」を含むマンションや別荘の価格が急激に上昇していることから、過去に都市住民にマンションや別荘(場合によっては古いままの農民住宅)を売った農民が「売った住宅を取り戻したいので売買契約は法律上無効だったと確認して欲しい」と訴える裁判が相次いでいます。上記の私の12月15日付けブログで紹介しているケースでは、第1審で農民側が勝訴(裁判所が11年前に交わされた住宅売買契約は違法であるので無効である、と判断した)し、都市住民側が上告する方針を示しています。

 こういった状況の中、昨日(12月17日)、初めての上告審のケースの判決が出ました(中国では裁判は二審制なので、上告審の判決が確定判決です)。

(参考2)「京華時報」2007年12月18日付け記事
「北京の農民が画家の李玉蘭氏を訴えていた小産権売買に関する裁判で改訂判決」
http://beijing.jinghua.cn/c/200712/18/n585511.shtml

(参考3)「北京晨報」2007年12月18日付け記事
「宋庄画家村、非合法の判決を受ける」
http://www.morningpost.com.cn/article.asp?articleid=141758

(参考4)「新京報」2007年12月18日付け記事
「初めての『宋庄住宅案件』村民の勝訴で終わる」
http://www.thebeijingnews.com/culture/2007/12-18/011@092037.htm

 これらの新聞記事によると、この事件の経緯は以下のとおりです。

○北京市内の農村部にある「宋庄」という場所で「中国北京新創意産業基地--宋庄」といううたい文句で画家などをターゲットとした住宅物件が売り出された。都市住民である画家のA氏は2002年、4.5万元(今のレートで約68万円)でこの物件を購入した。A氏は、その後、約10万元を掛けてこの家を改造し、ここに住んで芸術活動を行っている。

○2006年年末、この物件の売主である地元農民のB氏は、家の売買契約の無効を訴えて裁判を起こした。B氏は裁判を起こした理由を明確には説明していないが、この物件の現在の評価額は約30万元(約450万円)以上と見られており、そのためB氏が「『小産権』の都市住民への売却は違法」という政府の見解を盾に、この物件を取り戻したいと思っているためだろうと言われている。

○第1審は、この案件は、集団所有の土地の上に建てられた住宅を集団の構成員ではない都市住民であるA氏に売却したためものであるため、この住宅の売買契約は無効、ただし売主のB氏は、買主のA氏に対して、9.3万元の損害賠償を支払うように、という判決だった。買主のA氏が判決を不服として上告していた。

○第2審(最終審)は、土地売買契約については第1審と同様無効とし、買主のA氏には90日以内に家を受け渡すよう命じるものであった。ただ、第二審判決では、損害賠償額については、現在の家の評価額に比して9.3万元と認定した一審の賠償額については、買主のA氏に対して、別途損害賠償の裁判を起こして売主のB氏から適切な額の損害賠償請求をすることが可能であると述べている。

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 「小産権の都市住民への売却契約は法律的に無効」という判決が確定した影響は大きいと思われます。今まで、何回も政府が「停止するぞ」と宣言しても実際は停止されていなかった「小産権」の売買について、今後は買い手が警戒心を強め、実質的に売買が停止される可能性があるからです。「小産権」は北京地区においては、マンションの売買件数の2~3割を占めると報道されており、その影響は小さくないと思われます。今後、既に「小産権」を買った都市住民による損害賠償請求の裁判が多発することも予想されます。

 また、この法論理は、各地の地方政府が農地や農民住宅地などの「集団所有」の土地を勝手に開発して販売している土地の乱開発にブレーキを掛けることになる可能性があります(買い手が警戒して買わなくなるため)。従って、この昨日の判決は、今後の中国の不動産市場に大きな影響を与える可能性があると思われます。

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2007年12月15日 (土)

都市住民による農村の「小産権」購入は禁止

 中国は社会主義国ですので、土地を私有することはできません。全ての土地は国有または村などの集団が所有している「集団所有」のどちらかです。しかし、実際にはマンションや別荘などの不動産の「売買」は行われています。これは、土地については、「所有権」ではなく、その土地の「使用権」を売買する、という考え方に基づいているのです。「土地の使用権」の売買については、従来、法律上の規定がありませんでしたが、実際に行われている不動産売買取引の実態を後追いする形で、今年(2007年)10月1日から施行された「物件法」において、「土地使用権」に対する法律上の位置付けが確立しました。「土地使用権」は、例えば住宅用地の場合70年間など有限ですが、「物件法」により、満期時に延長することも可能になったため、限りなく「土地所有権」に近いものになっています。

 ただ、農村部などで村などの集団が所有している土地の上に建設されたマンションや別荘などを集団の構成メンバーでない人が買うことは法律上問題ないのか、という点については、法律上の位置付けが不明確なままで残っています。都市部の土地は国有なので、中国国民は誰でもその「土地使用権」を保持することが可能、と考えられており、都市部の土地の場合は問題は生じません。農村部の場合は、公式な法律上の位置付けとしては、村の住民でない人は村所有の土地に対する何らの権利も持たないため、村の土地の上に建てられた別荘やマンションを購入することはできない、と考えられています。これは、そもそも中国共産党による革命がその土地に住んでいない大地主が小作農に土地を貸し付けて耕作させる小作農制度を解体することを根本的な出発点としていることに関係しています。村の土地の使用権をその村の住民ではない人に売ることは、実質的に「不在地主」を認めることになり、中国の社会主義革命の出発点の原理を壊すことになるからです。

※ただし、これには考え方が二つあって、農地の場合は実際に耕作する人以外の土地の所有は認めないが、住宅用の土地の場合は村のメンバーではない人がその土地の使用権を持ってもかまわない、という考え方もあります。「小産権」の売買を「可」とする人は後者の立場を取っているのです。なお、「農地の場合は実際に耕作する人以外の土地の所有は認めない」という考え方は、戦後の日本においてアメリカの指導により行われた農地改革の基本原則であり、中国の共産主義革命の「専売特許」ではありません。

 しかし、実態的には、都市部に近い農村では、村が所有している土地の上にマンションや別荘を建てることが数多く行われています。例えば、農民が以前から住んでいた家を取り壊して、その土地に高層マンションを建て、従来の農民がその一角に住み、他の部屋を都市住民に売れば、農民は資金的な負担なしに不便な古い家を新しいマンションに建て替えることができるからです。

 これら集団所有の土地の上に建てられた別荘やマンション物件を俗に「小産権」と呼んでいます。「小産権」には二つの種類があります。

(1)もともと農家の住宅が建っていた土地の上に建てられた別荘やマンション

(2)もともと農地だった土地の上に建てられた別荘やマンション

 上記のうち(1)は、従来からの住宅を建て替えただけですのでそれほど問題にはなりませんが、(2)は農地の減少を伴いますから、国家政策上の重大な問題をはらんでいます。

 これら農村の土地に別荘やマンションを建てて、都市住民に売ったり貸したりしている問題の経緯については、このブログの8月26日付け記事を御覧ください。

(参考1)このブログの2007年8月26日付け記事
「農民の住宅の土地の権利に関する問題」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/08/post_b042.html

 この問題について、国務院は、12月11日、常務委員会を開き、「小産権」を都市住民が買ったり借りたりすることを厳禁する、との方針を打ち出しました。

(参考2)「新京報」2007年12月12日付け記事
「都市住民が農村の『小産権』物件を購入することは禁止」
http://www.thebeijingnews.com/news/beijing/2007/12-12/021@073605.htm

 しかし、従来から「小産権」の物件の売買は実際に行われてきており、過去に売買された「小産権」の権利関係をどう処理するかは、大きな問題です。また、上記のこのブログの8月26日の記事にあるように、例えば、北京で取引されているマンションの物件のうち、建物数でいうと20%、部屋数でいうと30%がこの「小産権」にあたるとされているので、本当に都市住民による「小産権」の購入が禁止になるのだとしたら、マンション売買市場に大きな混乱を与える可能性があります。

 上記の「新京報」の記事では、11年前に自分が住んでいた住宅を売った北京市房山区の農民が、法律上は「小産権」は都市住民が買うことはできないことを知って、物件売買契約の無効確認を訴えた裁判の例が掲載されています。この案件の事情は以下のとおりです。

○農民のAさんは1996年3月、自分が住んでいた6部屋の住宅を都市住民のBさんに1万5000元(現在のレートで約22万5000円)で売った。

○Aさんは今は年老いた妻とともに娘の家族と同居しているが、今年(2007年)になって「小産権」を都市住民に売ることは法律上認められていないことを知り、本来は自分の家と娘の家族の家と2つの家を持つ権利がある、と気が付いて、11年前の住宅売買契約の無効確認を求めて裁判を起こした。

○裁判において、Bさん側は、既に5000元の「村民管理費」を村に支払い済みであり、村の方もBさんを村民として扱っているほか、この住宅の売買契約は村民委員会の同意を得ており、必要な手続きは全て行っている、と主張した。またBさん側は、1996年当時、都市住民が農民の住宅を使用することを禁止した法令はなく、実際、売買に当たってBさんは北京市不動産売買センターで必要な手続きを行って、不動産売買税も北京市に支払ってある、と主張した。

○裁判にあたって、裁判所は、専門家に委託してこの住宅の評価を行ったところ、現時点でのこの住宅の評価額は9.8万元(約147万円)である、と評価された。

○Aさんは、売買契約は無効である上、Bさんに返却すべき金額は、現在の評価額である9.8万元ではなく、1996年の売買時に受け取った1万5000元である、と主張している。

○裁判所は12月11日、この住宅が建っている土地は村の「集団所有」の土地であり、村民ではないBさんにこの住宅を売った契約は農民の住宅の譲渡を禁止した国の規定に違反しており、この売買契約は無効である、と判断した。(新聞記事には、AさんがBさんにいくらの金額を返せばよいか、についての裁判所の判断については書かれていない)。

○Bさんは、この裁判所の判断を不服として、上告する方針。

 私は、民法については詳しくないのでよくはわかりませんが、自らも同意して結んだ11年前の住宅売買契約を無効だとする訴えは、よほどの理由がない限り、日本ではたぶん通らないと思います。また、日本の民法上の請求権の時効は5年なので、11年前の契約を今になって突然覆す、ということは、日本では基本的には認められないと思います(あまり古い契約関係の無効を認めると、その間にその契約関係に基づいてなされた第三者の権利が侵害され、社会的な混乱を起こすおそれがあるため)。日本の場合、11年間適法にその住宅に住んでいるBさんの「住む権利」も尊重されると思うので、なおさらです。

 上記の例と同様の判決例は、このブログの8月6日付け記事にも出てきました。

(参考3)このブログの2007年8月6日付け記事
「『小産権房』(集団所有地上の住宅)をどうする?」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/08/post_e6d8_1.html

 「小産権」のマンションや別荘の開発を村当局自身が積極的に進める例もあります。

(参考4)このブログの2007年8月5日付け記事
「ある北京近郊の村の『別荘商売』」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/08/post_2eab.html

 こういった現象は北京周辺だけでなく、中国各地で行われています。

(参考5)このブログの2007年7月13日付け記事
「中国の地方政府による無秩序な土地開発」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/07/post_1c55.html

 北京の例で見られるように「小産権」は、中国の不動産ブームのかなりの部分を担っていると思われます。もし、上記に紹介したいくつかの裁判所の判例に見られるように、「小産権」に対する法的保護がなくなるのだとしたら、中国の不動産ブームにかなりの影響を与える可能性があります。

 今回(12月11日)の国務院常務委員会で打ち出された方針は、「小産権」について「厳禁」という言葉を使って明確に禁止の方針を示しているし、「売ることはしない代わりに貸す」といった脱法的行為も明確に禁止しているので、今後かなりの影響が出そうです。「物件法」など、不動産売買が先行し、法律上の規定がそれを追認する、という方式が続いてきた中国の政策の進め方が今後変わるのでしょうか。この「小産権」を巡る動きは、「土地の私有は認めない」という社会主義の基本原則と、土地の使用権の売買も含めて経済の市場原理に任せる方針との境界線上に生じた問題です。ですから「小産権」の問題をどう対処するのかは、今後の中国の政策の進め方のひとつの「試金石」になるのではないか、と私は思っています。

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2007年12月 2日 (日)

「中国式計画病」政策決定の大修理はいつ?

 11月19日、ネット版人民日報「人民網」のページに「『中国式計画病』にスポットを当てる:政策決定過程の『大修理』はいつになったらできるのか?」と題するルポルタージュ記事が掲載されました。

(参考)ネット版人民日報「人民網」の「時政」(時事政治)のページ
「『中国式計画病』にスポットを当てる:政策決定過程の『大修理』はいつになったらできるのか?」
http://politics.people.com.cn/GB/30178/6573279.html

※「人民網」のページの「時政」(時事政治)のページは、現在、外国からのアクセスはできないように制限が掛かっている模様ですので、日本からは上記のページは開けないかもしれません。今日(12月2日)現在、中国国内では見ることができます。

 この記事は、「人民網」と週刊の経済誌「中国経済週刊(中国語では「中国経済周刊」)が共同して書いた記事のようです。このルポルタージュ記事の冒頭に掲げられている「ポイント」は、次のような言葉で始まっています。

「『鶴の一声』で数十億元。前の指導者がいなくなったら、新しい指導者がまた新しい都市計画を出してきた。納税者のお金はどのように使われるのか。計画に伴って土地を失った農民の問題はどうなる?住民移転の問題と腐敗の問題はどうやって解決するのか?・・・解決策はただひとつ。公権力を制限し、公共の福祉のために責任を追及し、自由な市場のために権限を制限することだ。」

 この書き出しは、人民日報社が運営するページに掲げられた記事とは思えない内容で、現在の中国社会が抱える問題点を鋭く指摘したものとして注目に値すると思います。「中国式計画病」という記事のタイトルも「告発調」であり、記事を書いた記者の問題意識が窺えます。

 この記事では、下記の三つの事例に対して、記者が現地に行って取材したルポルタージュが記されています(下記のうち、例えば瀋陽に取材にいったのが今年8月とのことですので、この記事はかなり長期間にわたって綿密に取材された結果書かれたものと推察されます)。

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【遼寧省瀋陽市の例】

 瀋陽市の渾南市場というところは、建設用地の費用として23億元(約345億円)を掛けて開発が行われ、5つの大きなビルができているのに、そのままの形で放置されて既に8年になっている。前の指導者が農地を農民から買収して始めたプロジェクトだが、予想に反して価格が高騰し、テナントが入らず、投資資金が回収できなくなっているからである。投資資金が回収できないため、土地を提供した農民たちに対する補償金の支払いが滞っている。農民たちは「上訪活動」(北京に対して救済を求める陳情活動)を行っているが問題は解決していない。この渾南市場を計画した指導者は汚職で逮捕されたが、その後着任した指導者は北の方に別の新しい開発プロジェクトを始め、渾南市場は放置されたままになっている。

【北京市大興区の例】

 北京市の大興区には、様々な開発区があり、その数は100個に上っていた。あまりに多くの開発区が乱立したことから、開発区の整理が行われ、その数は3つに減らされた。しかし、例えばこれまで「大興区魏善庄鎮工業区」と呼ばれていた開発区は「大興工業開発区龍海園」と名称が変更され、大きな開発区の一部の「園」として扱われるようになっただけであるなど、実態は何も変わっていないことがわかった。また、新しい指導者が着任すると、「開発区」の数は増やすことができないことから、今度は例えば「大興生物医薬基地」といった「基地」が作られるようになった。「基地」は「開発区」では認められていない商業用地としての利用も可能である。また、許可を得る機関も「開発区」より上の機関であるので、大興区では上部機関の許可を取って「基地」の開発を進めている。

【広東省深セン市の例】(「セン」は「土」へんに「川」)

 広東省深セン市では、経済発展に伴って、次々に大きな道路が作られた。だが、その一部は、建設されてから8年~10年たったところで「使用期限が来た」として大幅な改修が行われるなど、何回も大幅な改良工事が行われている。ある場所では、コンクリート舗装では破損が激しいとして、歩道の部分に対して花崗岩による補修が行われた。しかし、花崗岩の歩道は雨が降ると滑りやすい、として不評だったため、今度は滑り防止措置を施した花崗岩敷石に交換された。市民からは「浪費だ」との声が上がっている。

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 この深セン市の例の記事の最後は次のような言葉で締めくくられています。 

「西側諸国では、公共的政策は、提案された後、議会で討論され、その政策を進めるかどうか、進めるとした場合どの程度の予算を使うのか、何回も公聴会が開かれてから、予算が決定される。我が国では、道路補修のような市民の利益に直結する公共的事業に対して、ただ政府のみがその権限を担うことになっており、市民が十分にそれに参与する仕組みになっていない。」

 このルポルタージュ記事は、「人民日報」のページに載っているのですから、「ありもしないことを吹聴している」ということではなく、中国の地方政府の行政のあり方を正直にレポートしたものだと考えてよいと思います。

 中国の地方政府における無秩序な土地開発や公共工事の乱発の背景には以下の留意点を挙げることができます。

○中国では土地は公有であり、私有は認められてないため、土地を売買する自由市場というのは存在しない。そのため、農地を農民から収容する際に支払う補償金の金額を決める土地の評価額は、ほとんど政府が勝手に決められると言ってよい(このため、補償金の額が安すぎる、として立ち退きを迫られる農民等と開発業者とのトラブルが絶えない)。

○(少なくとも今まで沿岸部などの条件のよい地域では)土地を開発すれば、そこに人件費の安い中国での生産を見込んだ外国企業等が進出して来るので、土地開発を行う地方政府は手っ取り早く収入増が図れる。工場誘致がうまく行けば、GDPも上がり、その地方の指導者は中央からの評価が上がる。

○公共事業を行えば失業対策になり余剰労働力の問題が解決できるほか、直接的にGDPアップに寄与することができる。

○人民元レートの値上がりを予想して、外資がどんどん流入している一方、中国人民銀行は人民元レートを急激に上昇させないように外貨を買い支えているため、市場に人民元資金があふれ出している(過剰流動性問題)。このため、地方政府や土地開発業者は、銀行から容易にお金を借りられるし、銀行側も土地開発のための貸し出しを増やしたがる。

※中国人民銀行が人民元レートを上昇させないようにしているのは、人民元レートの上昇により輸出が減少して輸出に依存している現在の中国の経済成長にブレーキが掛かることを避けるためと、外国の安い農産品の輸入の増加により農民が打撃を受けることを避けるためである。

○土地開発や公共事業を許可する権限を持っているのは政府であり、中国の銀行は全て国有であるので、地方政府、土地開発業者や建設業者、銀行の3社が「ぐる」になれば土地開発や公共事業はいくらでもできる(予算をチェックする「地方議会」が存在しないので)。しかも、上記のように地方政府と銀行の利害は一致しているし、土地開発業者・建設業者は土地開発や公共事業が進めば進むほど儲かるわけなので、この3者は自然と「ぐる」になる。この構図に中央政府が「待った」を掛ける制度的手段がない(地方政府と銀行幹部の人事権は中央が握っているが、人事権だけでは個々の活動をコントロールすることには限界がある)。

○今までは土地を取られた農民等が裁判所へ訴える際に根拠となる法律がなかった(この点については「物権法」が2007年10月1日から施行になったので、土地収容を巡る裁判は、これから頻発するのではないかと思われる。ただし、中国の場合、特に地方の裁判所は地方の政府と独立していないので、裁判所が地方政府の乱脈ぶりをチェックする機能を果たせるかどうかは疑問である)。

 上記のような背景に基づく地方政府による無秩序な土地開発や公共事業の乱発は、市場原理に基づかない状態で爆発的に進められているところに極めて重大な危うさをはらんでいます。「土地を開発すれば、外国企業がどんどん投資して工場を建ててくれるはずだ」「中央政府は北京オリンピックや上海万博のために公共工事をどんどん進めるはずだ」「土地開発や公共事業が止まれば農民工は職を失い社会的不安定をもたらすから、党・中央も本気で土地開発や公共事業を止めようなどとは思っていないはずだ」こういった「思惑」によって土地やインフラ設備の実際の需用とは全く関係なく土地の開発や公共事業が進められているからです。

 道路などのインフラ整備は、社会資本として残るのでまだよいとしても、行きすぎた土地開発は、膨大な不良債権を銀行に残すおそれがあります。正確な統計がないので私にもわかりませんが、地方政府による土地の乱開発は、既に中央がコントロール可能なレベルをはるかに超えてしまっているのではないか、と私は危惧しています。私も実際にいくつかの工業開発区を見学させてもらいましたが、それらの工業開発区の広さはとんでもなく広大なものであり、こられの工業開発区の全てに工場が建ち並ぶとは直感的にはとても考えられないからです。

 この点については、中国共産党中央も、たぶん同じような危惧を持っているのでないかと思います。人民日報のページに、このブログで紹介したような激しい告発調のルポルタージュ記事が掲載されたことが、それを表していると思います。経済における市場原理、政治における自由選挙制度、マスコミや市民団体によるチェックという三つのフィードバック機能(行きすぎにブレーキを掛ける機能)が弱い中国において、この地方政府による爆発的な土地開発や公共事業の乱発にブレーキを掛けるのは至難の業です。今回紹介した記事をきっかけにして、地方政府の幹部や銀行の幹部が党中央と危機感を共有して、少しでも軟着陸へ向けた努力に協力するようになって欲しいと私は切に思っています。

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2007年8月26日 (日)

農民の住宅の土地の権利に関する問題

 農村の村所有の土地(集団所有の土地)の上に建てられた住宅(いわゆる「小産権」「郷産権」と呼ばれるもの)の取り扱いをどうするかが今中国で社会問題になっていることは、これまでもこのブログで何回か書いてきました。法律上のタテマエでは、集団所有の土地に建てられた住宅は、その集団のメンバー(つまりその村の村民)しか使えないはずなのですが、実際には、村の外部の市街地の住民などに貸し出されたり、売られたりしているのです。

(参考1)このブログの2007年6月26日付け記事
「北京では耕地などに作ったマンションの売買を停止」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/06/post_94bc.html

(参考2)このブログの2007年8月5日付け記事
「ある北京近郊の村の『別荘商売』」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/08/post_2eab.html

(参考3)このブログの2007年8月6日付け記事
「『小産権房』(集団所有地上の住宅)をどうする?」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/08/post_e6d8_1.html

 この問題について、2007年8月27日号(8月25日発売)の経済専門週刊紙「経済観察報」の「観察家(オブザーバー)」の欄で、北京大学・長江商学院教授の周其仁氏が「小産権、大きな機会~農村建設用地譲渡の制度的変遷~」という論文を書いています(この文章は、北京大学中国経済研究センター第10回中国経済観察シンポジウム(2007年7月29日)における発言を一部修正補充して文字化したものです)。周其仁教授は、法律の規定を杓子定規に当てはめず、経済の実態を見て、むしろこの「小産権」問題をひとつのチャンスと捉えて土地制度改革のきっかけとすべき、と主張しています。

 この「小産権」の問題は、農村における土地所有権をどうするのか、という問題であり、「社会主義の原則」と「市場経済」をどう溶け合わせるか、という現在の中国が直面する最も重要な問題に関係するため、多くの関係者が真剣に議論をしているのです。

 周教授の論文によれば、農民が住んでいる住居とその住居が建っている土地の所有権についての歴史的経緯と問題の所在はポイントとして以下のとおりです。

○「人民公社」時代の1962年の中国共産党第8期第10回中央委員会全体会議で採択された「農村人民公社耕作条例修正草案」には次のような条文がある。

<第21条>生産隊(人民公社の中の単位)の範囲内の土地は、生産隊の所有とする。生産隊が所有する土地は、人民公社の社員(=村民)が自分で管理している「自留地」「自留山」及び宅地が建っている土地も含めて、貸し出したり売買したりすることは認めない。

<第45条>人民公社の社員(=村民)の住宅については、永久にその社員による所有を認める。社員は、住宅を貸したり、売ったりする権利を有する。

 つまり、人民公社時代の規定では、村民は、自分の家を貸したり売ったりする権利を持つが、その住宅が建っている土地を貸したり売ったりする権利は持っていない、ということである。従って、Aさんが自分の家をBさんに売った後、Bさんのものになった家が火事で焼けて何もなくなってしまった場合、その土地に新しく家を建てる権利を持っているのは誰か、という問題が生じる。この人民公社時代の規定では、法律上、この点が明確ではなかった。建前上は、土地は生産隊の所有だから、Bさんは勝手にその上に新しい家を建てられないはずである。ただ、現実的には、習慣法的に、このような場合、家を買ったBさんが新しく家を建てる権利を持っている、という解釈で運用が行われてきた。

○「人民公社」時代は、就業など生活の全てがその土地に縛られていたので、問題はほとんど表面化しなかった。しかし、改革開放後、土地を離れる農民が増えたため、土地に対する権利の問題が表面化してきたのである。

○統計によれば、現在、中国全国の農村戸籍人口は9.4億人である。しかし、実際にそこに常住している人は7.4億人である(2005年の数字)。つまり、2億人以上の人が自分の戸籍がある土地に住んでいないので、農村住宅の貸し借り、売買が多数行われるようになったのである。

○現在、法律上「農地を非農地として転用するのは国の許可に基づき国により利用される場合のみ」「(都市部の土地などの)国有地の土地使用権は、貸し借り、売買が可能」となっているが、「農民が住んでいる住宅が建っている土地を別の用途で使う場合」の規定がない。

(このブログの筆者注:法律のタテマエ上は「農地を非農地として転用するのは国の許可に基づき国により利用される場合のみ」なのだが、実際は「上部機関の許可を得た上で農地の土地使用権が開発業者に売られて別荘などの開発が行われているケース」や「村当局が上部機関の許可を得ないで勝手に開発業者に農地の土地使用権を売って開発業者による別荘開発が行われているケース」などがあり、問題を複雑にしている)。

○「土地使用権」は、今は、通常70年の年限を持って貸し借り、売買が行われているが、「土地使用権」は、その期限が長くなればなるほど、「土地所有権」と実態上の差がなくなってしまう。特に2007年10月1日施行の「物権法」によれば、住宅用土地の使用権は、一定の条件を満たせば、期限が来ても期限の「自動延長」が可能なので、「土地使用権」を買うことは「永久土地所有権」を買うことと同じになるのであろうか?

○農民の住宅用地の面積は、全部合わせると16.4万平方キロに及び、その面積は河南省全体の面積に近く、全ての都市部の面積の4.6倍に当たる。これだけ膨大な土地の貸し借り、売買を法律上どのように扱うかは、土地政策上極めて大きな影響を持つ。

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 資本主義社会においても、自由に使ったり、貸したり、売ったりできる一般の動産に対する所有権と異なり、土地に対する所有権は結構難しい問題を含んでいます。特に農地の場合はそうです。日本の場合も、戦前、大地主の土地所有の下で多くの小作農が苦しんでいた経験を踏まえ、戦後、農地改革により「耕作者が土地を所有すること」が大原則となりました。現在の日本の農地法では、農地の所有権が耕作者以外の者に移転されることについては、様々な制限が設けられています。戦後の日本の農地改革は、アメリカ軍を主体とする進駐軍の指導により行われたのですが、その内容は、大地主から土地を取り上げて実際の耕作者である小作農に分け与えるという極めて社会主義的なものだったのです。

 今、中国では、日本の戦後の農地改革とは全く逆に、「人民公社時代」に一端純粋に社会主義化した農民の土地(農地と農民の住宅地)の権利関係を市場経済化した現在の中国の経済実態にどのように合わせて行くのか、という苦労が試行錯誤的に行われているのです。

 上記の周其仁教授の文章によれば、現在、北京の「小産権」の物件は、80か所あり、これは市場に出回っているマンションの数で言うと20%、売買されている部屋の数でいうと30%に当たる、とのことです。一般に「小産権」の物件は、北京市の中心街からは遠いのですが、村が自分の持っている土地を切り売りしているため値段を安くすることができます。このため、市街地のマンションを買えない人たちが数多く購入しています。周教授によれば、「小産権」の物件を買っているのは、退職後に住むことを念頭においた中高齢者、中心街の値段の高いマンションが買えない若年層、投機目的で買っている人、の3種類いるとのことです。「小産権」の物件は「安い」とは言っても1平方メートルあたり2,000~3,000元(30,000~45,000円)、70平米の物件で14~21万元(210~315万円)します。下記の「新京報」の記事によれば、今年の北京市新卒者(大卒・高卒・中卒全体)の中位クラスの初任給が月給2,000元弱(約3万円)ですから、相当に高い買い物であることには違いありません(北京市街地でのマンション価格は、今は、上記の4~6倍の1平方メートルあたり12,000元以上します)。

(参考4)「新京報」2007年8月15日付け記事
「大学卒初任給、高いレベルの者は月収6,450元」
~500余の職業について月給の標準価格が確定、社長クラスの平均年収は25万元(約375万円)~
http://news.thebeijingnews.com/0553/2007/08-15/021@283649.htm

 これら「小産権」を既に購入している人たちが多数いる、ということを踏まえて、現実的な土地政策を採らないと大変なことになると思います。ただ、ここは、まさに「社会主義の原則」と「市場経済の現実」とが真っ正面からぶつかり合うところですので、中国政府も慎重の上にも慎重な議論を重ねて、政策を決定していくことになると思います。

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2007年8月 6日 (月)

「小産権房」(集団所有地上の住宅)をどうする?

 「小産権房」、即ち村有地など集団が所有する土地の上に建てられた住宅(別荘、マンションなども含む)は、その集団のメンバー(村の場合は村民)以外には法律上の権利は及ばない、というのが中国の法律上の建前ですが、実際にはこれら「小産権」の別荘やマンションは多くの場合、都市住民など土地を所有している集団のメンバー以外の人に売却されています。この問題をどう扱うかが現在の中国の大きな社会問題になっています。この問題については、このブログの昨日の記事「ある北京近郊の村の『別荘商売』」でも書きましたが、ネット版人民日報「人民網」では、今日(8月6日)、この問題に関する特集記事をアップしていますので、今日も触れてみたいと思います。

ネット版人民日報「人民網」2007年8月6日00:29アップ
「拆(チャイ)! 『小産権房』は生死の瀬戸際に直面している」
http://politics.people.com.cn/GB/30178/6072490.html

(注)「拆(チャイ)」とは、機械や建物を解体する、取り壊す、という意味です。取り壊す予定の旧い建物には「危険なので中に入らないように」という意味も含めて○の中に「拆」の字を書いたマークがペンキで描かれます。今、北京でも、この「拆」のマークが書かれた旧い建物をあちこちで見ることができます。

 上記の特集記事では、過去に書かれたいくつかの記事をまとめながら、問題点となっている現象をいくつかピックアップして報じています(それぞれの段落の「詳細」というところをクリックすると、過去に書かれたこの問題に関する様々な記事にリンクするようになっています)。

 山東省済南市では、この7月、市行政当局が違法な「小産権房」を強制的に取り壊しました。その様子が写真入りで紹介されています。この強制取り壊しに対して、済南市当局のスポークスマンは、次のように説明しています。

○村有地などの集団所有の土地の上に建てられた住宅(「小産権房」)は、法律上何らかの規定があるわけではない。

○法律上の許可を得て建てられた合法的なものもあるが、法律に従った許可を得ずに建てられた違法な「小産権房」は、許可がなく建てられているため、市全体の都市計画に合致していない。

○我々は何回も工事の停止や警告を発した。口頭での警告を何回もし、その後、文書による警告も出した。度重なる警告にも係わらず工事が続行された場合は、電気の供給を停止することなどにより工事を停止させた。法律に違反し、都市計画に合致していない建物は強制的に取り壊さざるを得ない。

○違法な建物であることを承知の上でこの住宅を購入した者は、法律上、当然補償の対象とはならない。

○許可なく建てられた違法な『小産権房』は、劣悪な材料を使っているかもしれないなど、安全性は誰も保証していない。一般市民が出入りすることになることを考えると、絶対多数の人を保護するためには、法律に基づき処理せざるを得ない。

 この特集記事の筆者は、何千万元(日本円で億円単位)も掛けて建てられた新品の「小産権房」を何百万元(数千万円単位)のお金を掛けて取り壊すのは、いくら違法とは言え社会経済上の損失が大きすぎるし、社会不安の原因にもなりかねない、そもそもこれらの建物は建設労働者の血と汗の労働の成果であることを忘れてはならない、と述べるなど、強制取り壊しには批判的な立場で書いています。この記事の筆者は、違法な建設ならば、そもそも建物が建てられる前に強制的に工事を止めるべきである、と主張しています。

 一番最後には北京市での事例として、農民が村の土地の上に建てた別荘を北京市に住む画家に売ったことに関する裁判の例が載っています。農民は、売買契約を交わして北京の都市部に住む画家に「小産権」の別荘を売ったが、後になってこの別荘は違法なものだから売買契約は無効であって、現在でも画家から使用料を徴収できるはずだ、として裁判を起こしたものです。一審では農民側が勝訴しました。裁判所は、売買契約は無効で、別荘に対する農民の権利は現在でも残っている、との判断を示したのです。この裁判は、別荘を買った画家側が判決を不満として上級審に控訴しているためまだ結論は出ていません。この北京の画家と農民との裁判に関する記事(7月30日付け「中国経済週刊」記事)の筆者は、農民は、正式に書面による売買契約を結んで画家に別荘を売ったにも係わらず、最近の不動産ブームによる別荘の価格の急激な値上がりを見て、自らの権利を回復させたいと思って裁判を起こしたのだが、こういった行為を裁判所が認めてしまうことは、法律上の解釈としては間違っていないのかもしれないが、双方が合意の上で成立した「売買契約」が後で覆ることになり、「合理的」とは言えないのではないか、と批判しています。

(参考1)ネット版人民日報「人民網」にリンクされた「中国経済週刊」2007年7月30日(第29期)の記事
「画家と農民との『小産権房』を巡る争いについて裁判所が判断」
http://paper.people.com.cn/zgjjzk/html/2007-07/30/content_14196299.htm

 土地に対する権利、というのは、いつの時代でも、社会の最も根本をなす法律上の位置付けのひとつです。「土地は全て国有、または集団所有で、個人による私有は認めない」という社会主義の大原則に立っているのが今の中国です。その中国において、市場経済を導入し、現在、資本主義社会のような土地開発ブームが起きているわけです。中国の土地ブーム(不動産ブーム)においては、土地については現在でも私有は認められておらず、例えば70年間といった期限付きでのその土地の「使用権」が売買されているにすぎませんが、この「長期にわたる使用権の売買」は、実態的には「所有権の売買」に限りなく近い、ということが、法律上の「タテマエ」と経済実態との矛盾を生じさせ、様々な問題を表面化させているのです。「小産権」問題は、社会主義の原則の上に立って市場経済原理を急速に導入してきた現在中国の経済社会の矛盾を象徴する典型的な問題のひとつと言うことができると思います。

 個人や企業の「所有権」について何を認めるか、について定めた法律「物権法」が今年3月の全国人民代表大会で成立し、今年(2007年)の10月1日から施行されることになっています。

(参考2)全国人民代表大会のホームページにある中華人民共和国物権法(中国語)
http://npc.people.com.cn/GB/28320/78072/78092/5487932.html

 そもそも今まで「所有権」に関して規定した「物権法」がない状態で市場経済を導入してきたこと自体が政策の進め方としては順番が逆なのであって、様々なところで矛盾点が出てくるのは当然である、という議論はよくなさるところです。中国の場合は「人民を豊かにする」という最終目標を達成するため、制度の改革をその成果を見きわめながら徐々に行ってきているため、どうしてもこういう「制度改革の逆転現象」が起こる場合があります。「小産権」問題もこの「政策と現実との逆転現象」が生み出した問題のひとつですが、上記の特集記事の筆者が言っているように、多額の資金を掛けて作られたピカピカの「小産権」マンションを「違法だから」という理由で取り壊してしまうのは、国民経済上の大きな損失ですから、こういう損失が起きないよう、うまく多くの人が納得できる解決策を考え出して欲しいものだ、と私も思っています。

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2007年8月 5日 (日)

ある北京近郊の村の「別荘商売」

 最近の中国の住宅ブームに乗った大都市近郊の農村における「開発」の一例として、北京の大衆紙「新京報」が密雲県(行政区域としては北京市内:北京の市街地から車で1時間半くらいのところにある農村地帯)のある村の最近の様子をルポしています。

「新京報」2007年8月3日付け記事
「ある村の共産党支部書記の『小産権』住宅を使った商売の経緯」
http://news.thebeijingnews.com/0547/2007/0803/011@280934.htm

(注1)「小産権」とは、村のような集団所有の土地の上に立てられた住宅物件に関する権利またはその権利の対象となっている住宅物件のこと。中国は社会主義国なので、土地の私有は認められておらず、全ての土地は国有か、そうでなければ村などの単位の「集団」が所有している土地です。法律の建前上、国有地の上に建てられた住宅ならば、一定の使用料を支払えば全ての国民にこれを利用する権利がありますが、集団所有の土地の上に建てられた住宅については、その集団のメンバー(村の場合は村民)以外の者がその住宅を使用する権利はないはずです。しかし、実際には、農村部の村が所有する土地に建てられた別荘などを都市住民が購入して利用している例が全国に数多くあります。こういった不動産に対する権利を中国語で「小産権」または「郷産権」と言います。今年6月25日、国土資源部と北京市当局は、今後「小産権」の住宅・マンションの工事・販売を停止する方針を発表しました。しかし、既に建設・販売が行われている「小産権」の住宅・マンションをどうするのか、既に購入した人の権利はどうなるのか、などの方針が明らかにされておらず、実態的には、多くの場所で、いまだに「小産権」の上に建てられた住宅・マンションの建設工事や販売は行われています。

(参考1)このブログの2007年6月26日付け記事
「北京では耕地などに作ったマンションの売買を停止」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/06/post_94bc.html

(注2)中国では各地方政府の共産党委員会の書記(トップ)はその地方政府の首長よりも地位が高く、実質的な行政の最終判断は党書記が行います。村の場合は、村長よりも、共産党の村支部の書記の方が地位が高く、村支部の書記が実質的な政策の判断責任者です。

 「新京報」のルポルタージュが述べているこの村の共産党支部書記が採った方策のポイントは以下のとおりです。

○村民の旧い住宅を取り壊してひとつにまとめ、新しい村民住宅を建設する。

○村の耕地2000ムー(133ha)を回収し、一部は乳牛の飼育場と野菜生産地にし、残りには別荘を建てて売りに出す。

○村民には、乳牛飼育場または野菜生産地で働いてもらうことによって就業問題を解決させる。別荘を売って得た収入は、耕地を提供した村民に対する食糧補助に充てるほか、新しく建てた村民住宅の水道代、冬季の暖房代などに充てる(従って、村民住宅に入る村民は、水道代、暖房費などを払わなくて済むようにする)。また、別荘を売って得た収入で、老人に対する補助金などを支払う。

 2003年から売り出された広さ220平方メートル以上の豪華な別荘は、場所が北京市街地に近いこともあり、2003年は30万元、2004年には40万元、2005年には50万元で売れ、昨年(2006年)末には100万元(約1,500万円)以上で売れました。そのため、耕地を提供した農民に対する補助を行うことも十分に出来、老人に対する補助金などは他の村よりも多額にすることができたため、村民の中で文句を言う人はあまりいませんでした。

 しかし、ある乳牛農家は、自分の家を引き渡す際の補償金の額が十分でないと考え、旧い自分の家を取り壊して新しい村民住宅に移転することを拒否しました。

(注3)こういう土地開発に対して単独で移転に反対する家のことを、中国語で「釘子戸」と言います(中国語の「新語・流行語」の類です)。「釘(くぎ)のような家」というような意味です。開発業者による「地上げ」に反対する「釘子戸」の様子は、最近、日本でもよく報道されるので御存じの方も多いと思います。

 村の書記は、この「釘子戸」の乳牛農家に対し、村の獣医による診察を停止させる、という措置を執りました。これに対し、この乳牛農家は、村の書記による獣医の診察停止は違法である、として裁判を提起しました(この裁判は、8月2日から審理が開始されました。「新京報」の記事は、この裁判の審理開始をきっかけとして書かれたものです)。

 法律では、耕地をつぶして住宅や別荘を建てる際には、上部機関の許可が必要です。この書記は上部機関の許可を取らずに、別荘と村民住宅の建設を進めました。上部機関(密雲県国土資源局)はこれを問題にし、昨年、この村に対して罰金250万元(3,750万円)の行政処罰を科しました。しかし、別荘の価格の高騰で、別荘の売り上げ収入が十分にあったことから、この書記は罰金250万元を支払ったとのことです。罰金は支払ったが、上部機関の許可を得る手続きはいまだにやっていないとのことです。「罰金」という処罰が、お金持ちにとっては実質的には痛くもかゆくもなく、罰金を支払った上で平気で違法状態を続ける、という最近の中国のよくない傾向のひとつの例です。

(参考2)このブログの7月28日の記事
「『なんでもかんでも罰金』の功罪」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/07/post_a073.html

 かつてこの書記の前任の書記だった人は、このやり方に反対しています。今は、別荘が値上がりして売れているからいいものの、耕地だった土地を全て開発してしまって売り尽くしてしまった後は、村民はメシを食うすべを失ってしまうからです。これに対して現職の書記は、「農地を耕して農業をやるのは儲からない」として、まだ開発が始まっていない耕地でも全く耕作を行わず、荒れ放題にしたままにしてある、とのことです。

 6月25日に国土資源部と北京市当局が「小産権」の住宅・マンションの工事と販売を停止する方針を発表した後も、この村での別荘の工事は続けられているそうです。「新京報」のこのルポルタージュでは、裁判の対象になっているからだと思いますが、あえてこの書記の政策がいいとも悪いとも言わず、淡々と事実関係を伝えるだけに留め、「新京報」としての意見を表明するのは差し控えています。

 「小産権」の住宅・マンションについては、6月25日に国土資源部と北京市当局による工事・販売の停止方針の発表の後、各新聞紙上で「実際にこれだけ売買が行われているのに、いきなり停止なんて無理だ」「既に購入した人の権利はちゃんと守られるべきだ」などいろいろな議論が行われました。一時期「近々国務院でこの問題に関する会議が開かれ、方針が示される見通し」という記事も載ったことがあったのですが、その後、具体的には何の動きもありません。一部の「小産権」を開発している村では、「販売」という看板を「賃貸」に書き換え、「我が村の物件はあくまで村民の所有物である。それを都会の人に70年間という期間限定で賃貸して利用してもらい、その賃貸料(利用料)を最初に一括して支払っていただこう、というものである。賃貸しであるから、販売には当たらず、従って法律上は何の問題もない。」と説明しているところもあるそうです。「おかみに『政策』があれば、我々しもじもには『対策』がある」という中国ならではの現象ですが、急激に成長を続ける中国経済を示す数字の中には、こういった形の「開発」によるものも含まれている、ということは、常に認識しておく必要があると思います。

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2007年7月13日 (金)

中国の地方政府による無秩序な土地開発

 地方政府が中央の方針を守らないで勝手に権限を振るっていることが、今、中国では大きな問題になっています。中国では、改革開放路線の中で、企業による市場での競争を経済発展の原動力にしてきたように、地方行政の面においても、中央は、できるだけ地方に権限委譲し、地方政府の判断で処理できる範囲を拡大し、地方政府の間で競争をさせて、それを地方の発展の原動力にしてきました。中央政府自身は、地方政府がルール違反をしないよう監督する立場という一歩退いた位置に自分を位置づけています。

 しかし、地方政府が大きな行政権限と経済的裁量権を持ったために、今、各地方政府が勝手に事業を行い、国全体からするとマイナスになりかねない事態がいろいろなところで起きています。河川や湖沼の水質汚染、大気汚染などの環境問題もそのひとつですが、土地問題ももうひとつの大きな問題です。本来は、全国レベルでは食糧確保等のため一定量の耕地面積を確保しておく必要があるのですが、地方では、それぞれの独自の判断で農地をつぶし、住宅や工業団地に開発する計画が進んでおり、全国レベルで耕地面積が減少傾向にあります。これら全国の土地利用の現状について、7月12日、中国政府の国土資源部の部長(日本の大臣に相当)ら幹部が記者会見で説明しました。この記者会見での説明によると、国として守るべき最低の耕地面積である18億ムー(120万平方km)は確保できているものの、2007年1月~5月だけで24,245件、土地面積にして22万ムー(約147平方km)の違法な土地使用が見つかった、とのことです。

 記者の質問に答えて、国土資源部の幹部は、違法案件の土地の面積にして80%が地方政府または政府関係機関が主体となって違法行為を行ったものであると説明しています。

(参考1)「新京報」2007年7月13日記事
「違法な土地利用の主体の80%は政府」
 http://news.thebeijingnews.com/0565/2007/07-13/014@024657.htm

※国土資源部長らの記者会見の議事録(全文)は下記のサイトで見ることができます。

(参考2)中国網(2007年7月12日「国家土地監察制度の実施状況に関する記者会見ネット実況中継」(文字記録))
http://webcast.china.com.cn/webcast/created/1346/36_1_0101_asc.htm

 違法な土地の開発の8割が地方政府または政府関連機関自身が主体となって土地開発を行ったもの、という状況では、一般の商業開発業者は、法律に基づき、必要な許可をきちんと取ってから土地を開発しようという気持ちは起きないと思います。

 また、中国中央電視台(CCTV)が7月5日に放送した番組「焦点訪談」では、浙江省のある村で村の政府自身が農地をつぶして別荘群を建設したことを取り上げていました。中国では、「新農村建設」といって、農民の住居を新しく建て直す開発計画がどんどん進んでいます。基本的にこのような宅地の建設は、農地をつぶして行う場合、上部機関である鎮(村のひとつ上の地方行政単位)の許可が必要ですが、この別荘建設は、許可が得られる前に建設を開始してしまった違法な開発でした。

 上部機関である鎮の政府は、この別荘の建設に対して「許可が得られていないので建設を中止するように」との通知を2年前に出しましたが、村による建設は続けられました。鎮政府の方では、建設中止通知を出した以降は、何のアクションも取っていませんでした。

(参考3)中国中央電視台「焦点訪談」2007年7月5日放送
「村での違法な別荘建設」
http://news.cctv.com/society/20070705/108976.shtml

 上記のページの写真を見れば、相当に立派な別荘団地が造られていることを御覧いただけると思います。番組では、この別荘の価格は1戸60万元(約960万円)であるのに対し、村の一般的な村民の収入は年間1.1万元(約18万円)であるので、村の中ではごく少数の金持ちしか買えないのではないか、と指摘しています(村の中で売れ残った場合は、買うとすれば、一定の収入のある近くの都市に住む都市住民が購入することになります)。この村では、一人あたりの農地面積が0.3ムー(200平方メートル)であるのに対し、別荘58棟を建設するのにその230倍以上の70ムーの水田をつぶしたのでした。これだけの農地をつぶして造った別荘に、ほとんどの農民は入居することができません。一方、この58棟の別荘が完売すれば村は260万元(4160万円)以上の利益を得るのだそうです。このプロジェクトは、村にとっては、農民のための新しい家を建設するために進められている「新農村建設」という「うたい文句」に名を借りたひとつの金儲けプロジェクトだったのです。

 このような状態に対して、この番組では、農民の農地を取り上げ、村民自身が買えないような別荘の建設を許可を得ないままに進めてしまった村と、その村の行為に気づいて建設中止の通知を出していながら、通知を出した後、何もしなかった上部機関である鎮政府の無責任な対応を批判していました。

 村や鎮政府の行為を批判するのは簡単ですが、現実問題として、このように違法な状態で建てられてしまった別荘群を今後どうするのか(取り壊すのか、できあがったものはしかたがない、として現状を認めて合法化するのか)が大きな問題として残ります。また、もし合法化されたとして、できあがった別荘が大幅に売れ残った場合、建設資金はどうやって回収するのか、という問題も残ります。別荘が売れ残って借金が残った場合、最後の奥の手として、村としては、まだ開発されていない農地(中国の場合、原則として、農地は私有地ではなく、「村」という単位の集団の所有地とされています)を開発業者に売って借金を返す、という方法があります。ただ、これもそういった土地開発を上部機関が承認するかどうか、という問題がありますし、それよりも何よりも、村が自分たちの生活基盤である農地を切り売りして借金を返したら、最終的には村民は借金を返したあと生きていくよすがを失ってしまうことが最大の問題なのです。

 地方政府による無秩序な土地開発に関して最も問題なのは、中央政府が、農地が無秩序に減らないように、農地を開発するためには必ず上部機関の許可が必要である、という法制度を作っているにもかかわらず、その制度を執行すべき地方政府自らがその制度を守っていない、という実態です。地方政府自らが法律違反をして平気な顔をしている現状は、一般市民に「法律を守るなんてバカバカしい」という法意識を定着させる結果になっており、社会全体にとって大きなマイナスだと思います。

 ですから、今、中国の中央政府は、法律や制度によって地方政府をコントロールできていないことにかなりの危機感を持っています。だからこそ、メディアに問題点を指摘させ、警鐘を鳴らしているのです。ただし、メディアが警鐘を鳴らしただけでは問題は解決しないと思います。中央と地方とが危機感を共有して、経済全体が一気に崩壊しないように、少しずつ問題解決が図られるように努力して欲しい、と私は願っています。

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2007年6月26日 (火)

北京では耕地などに作ったマンションの売買を停止

 今日(2007年6月26日)の人民日報の一面は、以下の記事で塗りつぶされています。

「胡錦濤総書記が中央党校(共産党幹部を養成する学校)で重要な講話を行って強調した『中国の特色ある社会主義の偉大な道をたがうことなくしっかりと進み、全面的に穏やかな社会を建設するという新しい勝利の局面を奪取するために奮闘しよう』」

 下記のURLを見ていただければわかりますが、この見出しの書きぶりといい、紙面の雰囲気といい、この雰囲気は30年くらい時代が遡った感覚を覚えます。WTOに加盟して5年以上がたち、世界経済の中で華々しく活躍する現代の中国からすると、雰囲気的に相当なミスマッチ感を感じる紙面です。

「人民日報」2007年6月26日付け1面トップ紙面
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2007-06/26/node_17.htm

 胡錦濤総書記の「重要講話」のポイントは、新しい時代の情勢に直面して、以下を行おう、というものです。

○トウ小平氏の理論と「三つの代表」(中国共産党が「先進的生産力」「先進的文化」「広範な人民の利益」の3つを代表する、という考え方。2001年に江沢民総書記が打ち出した)の思想を堅持する。

○改革開放政策を堅持する。

○科学を発展させ「和諧社会」(調和のある社会)の建設を促進させる。

○四つの基本原則(改革開放政策を強力に推進したトウ小平氏が守るべき基本原則として掲げた四つ:社会主義の道を歩むこと、人民民主主義独裁を貫くこと、共産党の指導の下に全てを進めること、マルクス・レーニン主義と毛沢東思想を守ること)を堅持する。

○全面的に穏やかな社会(小康社会)を作るべく努力する。

 基本的に「今までの路線を堅持するぞ!」という意図表明であり、新しい点は何もないのですが、新しい点と言えば、最後の「穏やかな社会(小康社会)を作る」と単語がちょっと新しさを感じます。この言葉は、現在の状況を踏まえると「バブルは許さんぞ!」というふうに解釈するのが自然だと私は思います。

 中央党校での講話なので、見出しが「お堅い」感じになったのかもしれませんが、急激な経済成長に警戒感を持つ「保守派」に対して配慮した、という意味もあったのだと思います。

 同じく今日(6月26日)の別の新聞には下記のような記事が載っていました。私はこれは偶然の一致ではなく、「バブルは許さない」という党・中央の硬い意志を示しているという点で、一貫していると思います。

「新京報」2007年6月26日記事
「北京『小産権』房要停工停售」
(北京では国有の土地ではない耕地などに作ったマンションの工事と販売を停止する必要がある) http://news.thebeijingnews.com/0553/2007/06-26/015@272145.htm

「北京晨報」2007年6月26日記事
「小産権房将停工售」(国有の土地ではない耕地などに作ったマンションの工事と販売を停止)」
http://www.morningpost.com.cn/article.asp?articleid=111259

 中国は社会主義国ですので、土地の私有というのはあり得ません。土地は国有であるか、村などの地方政府が所有しているか(集団所有)のどちらかです。集団所有の土地にマンションを建てた場合、その集団に所属していない外部の者は、土地に対して何の権利もないので、マンションの部屋を買うことはできないのが原則ですが、現実的には、地方政府が自分の持っている集団所有の耕地などの上に勝手にマンションなどを建てて外部の人に売って収入を得ることが横行しています。こういったマンションの権利のことを「郷産権」とか「小産権」とか言っています。

 上記の記事は、昨日(6月25日)に国土資源部と北京市政府が、集団所有の耕地などを開発して建てたマンションは外部の人には土地についての権利がないので、そういう土地の売買は今後停止させるし、工事も停止させる、という意向を示したことを伝えるものです。

 上記の記事によれば、北京の土地で国有なのはわずか18%で、残りは「集団所有」の土地だ、とのことです。「新京報」の記事によれば、北京の「小産権」のマンションは72棟、これを仮に1プロジェクトあたり10万平米だと仮定したとして概算すると、北京で売買されているマンションの3分の1がこの「小産権」に当たる、としています(この計算は、かなり大ざっぱなのであまり正確ではない可能性があります)。北京晨報の記事では、北京で売られているマンションの2割程度が「小産権」にあたる、と見積もっています。北京晨報の記事では、「小産権」の物件は、行政区域としては北京市内ですが、市街地からかなり離れた郊外地区に集中しており、市街地周辺地区に比べて25%~30%とかなり割安なため、買う人が多い、と指摘しています。

 土地の私有が認められていない社会主義国の中国で、マンションを売買する際には、常にこのようなリスクは伴っているわけですが、「バブルを防ぐため」とは言うものの、急に社会主義の原則を持ち出してきて一部のマンションの建設と売買を停止させる、というのは、いささか荒療治過ぎるような気がします。政府に言わせれば「そもそも集団所有の耕地などの土地にマンションを建てること自体違法なのだから、そういった違法なマンションの建設や販売を止めるのは当然」という理屈なのでしょうが、これに対して市場がどう反応するかが心配です。

 実は、昨日(6月25日)付けのチャイナ・ディリーの You Nuo 氏のコラムに "Time to take heed of economic warnings" という記事を読んで、私は「近々何かあるのではないか。」と思っていました。

China Daily 2007-06-25 "Opinion"
"Time to take heed of economic warnings" by You Nuo
http://www.chinadaily.com.cn/opinion/2007-06/25/content_901226.htm

 このコラムでは、ポイントとして、以下のように言っています。

○中国本土の最大の不動産デベロッパーである Wang Shi 氏は、珠江デルタの記者を前にして、「いつまでに」という時間的なことは言わなかったが、次のように語った。「今の中国の株の狂気は長続きできるものではない。いつの日か、バブルがはじけるか、あるいは内部の圧力を何らかの方法で解放するほかの方法を見つけるべき日が来る。」

○多くのエコノミストが、中国は今までと異なる発展の仕方をすべき大きな曲がり角の中にいる、と主張している。

○一方、多くの株のトレーダーはそうは思っていない。

○ただ、株のトレーダーが考えている「時間枠」は非常に短く、今と2008年の第三四半期、すなわち北京オリンピックが終わった時点との間のことしか考えていない。

○彼らは、『いつまでも続くパーティなんてない』ということはわかっているけれども、政府はオリンピックが終わるまでは大きな経済的ショックを受けて顔をつぶされるようなことはできなはずだ、と思っている。

○投資家のどん欲な食欲を満たし続けるには、パーティを続けるしかない。しかし、中国の長期的で健全な発展を考えたら、バブルは大きく成長する前に小さなうちにつぶしておくべきだ。その際、オリンピックのことは忘れる必要がある。

 中国の将来を真剣に考えている人は、みんなこのコラムを書いた You Nuo 氏と同じ考えを持っていると思います。胡錦濤総書記や党・中央の幹部の多くも同じようなことを考えていると思います。問題は、具体的にどういう手段でやれば、激しいショックなく、バブルを少しずつ消していけるか、です。

 今回の、耕地などの国有地でない土地(集団所有の土地)に作ったマンションの建設と販売を停止する、という北京における方針の発表は、市場にどういう影響を与えるのか、必要以上のショックを与えることはないのか、気になるところです。一番大事なのは、人々が、急激な動きに走らずに、冷静に行動することだと思います。中国は、これまでも、こういったことは数多く経験してきているので、今回のバブルへの対処でも、うまく対応できるだろう、と私は思っています。

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2007年6月13日 (水)

北京の住宅立ち退き問題で住民投票

 中国では、今、都市部などで古い住宅を壊して新しいビルを建てるプロジェクトがものすごいスピードで進展していますが、ビルを建てようとする開発業者と立ち退きを求められる住民との間でのトラブルが絶えません。立ち退きに当たっては、一定の補償金が支払われますが、退職して年金で暮らしている高齢者などの中には、住み慣れた場所から出たくない、と思っている人も大勢います。収入が低く、補償金をもらっただけでは新しく住む場所を買ってそこに住み替えることが簡単にはできない人もいます。多くの人が移転に同意しても、少数の移転反対者が居座ってプロジェクトがストップし、先に移転に同意して既に住む家を取り壊された人が困ってしまった、という事態も起きています。

 開発業者の中には、こういった移転反対の住民に対して、日本で言う「地上げ屋」を雇って移転反対者に対して強圧的な態度で臨むこともあります。住民側も防衛対策を取り、開発業者に雇われた「地上げ屋」と住民側が衝突し、負傷者が出る暴力事件も多発しています。

 このあたりの話は、時々日本のマスコミでも報道されていますので、御存じの方も多いと思います。このような暴力事件の多発に対し、先日、北京のある新聞では「今、政府の執政能力が試されている」とまで書いていました。

 こういった問題を解決するひとつの方策として、6月9日、北京市北東部にある酒仙橋地区で、中華人民共和国成立以来初めて、と言われる都市開発問題に関する住民投票が行われました。この住民投票は、老朽家屋を取り壊し都市開発を行う計画に関するひとつの対処案に対する賛否投票という形で行われました。結果は、5473戸の対象住民中、投票したのが3711戸(投票率67.8%)、投票の結果は対処案に賛成が2451票、反対が1228票、無効票が32票でした。投票総数のうち反対が66.0%、反対が32.6%で、住民投票の結果としては、対処案に従った移転賛成が多数を占めたのですが、この投票結果は、結構複雑なものとして受け取られました。というのは、投票しなかった人が3分の1いたために、賛成票を投じた人は、対象住民の44.8%に過ぎず、過半数に達しなかったからです。また、ブロックごとに賛否の割合が異なり、最低のブロックでは投票数の33%しか対処案に従った移転に賛成しませんでした。

 アパートを借りて住んでいる人、平屋建てを借りて住んでいる人、持ち家の人などいろいろな立場の人がいるので、事情は複雑です。なお、そもそも中国の場合、土地の所有権は国にあり、住民が持っているのは「土地使用権」だけですので、「持ち家」とはなんぞや、というところが、日本とは異なることには留意が必要です。

 この投票結果については、「そもそも設問が『対処案』に対する賛否だったため、移転には賛成だけれども『対処案』に示された条件ではイヤだ、という人も反対票を投じたので、住民投票の設問の設定の仕方がおかしかった」とか、「住民投票で大多数が移転に賛成したからと言って、それで少数者の権利を奪うわけにはいかない。だからこの問題はそもそも住民投票では解決できなかったのではないか」とか、いろいろな意見が新聞で論じられています。

 6月13日付けの人民日報でも、この件について報じています。この開発計画は、北京市政府の許可を得て進められてきたものですが、この人民日報の報道では、12日に記者会見した北京市朝陽区酒仙橋街道事務所工事委員会副書記が次のように言っています。 「この投票結果は、住民の都市計画の条件に対する意見を表しているものであって、計画そのものに対する反対を示しているのではない。この種の要求は理解できるが、開発業者ができる対応策にも限界がある。住民と開発業者との間の最もよい『妥協点』を見い出すしかない。」

 これに対して、この日の人民日報の記事は「このような『妥協点』とは、いったいどこにあるのだろうか?」という言葉で終わっています。

 この手のプロジェクトにおいて、住民に立ち退いてもらう問題は、非常に難しい問題です。日本でも、過去に様々な場所で問題が起きました。この種の問題は、上記の議論のように、住民投票をすれば解決する問題ではありません。一方、現在の中国において、住民自らが自由な投票によって意思表示をする機会を与えられ、その投票結果が率直に報道された、ということ自体、極めて画期的だ、という見方もできます。

 オリンピックを約1年ちょっと後に控え、各地で過熱気味の建設ラッシュが続き、バブル崩壊の懸念が高まる中、首都北京で、このような住民投票が行われ、各新聞、なかんずく中国共産党の最も権威ある機関誌たる人民日報までもが大きな紙面を割いてこれを詳細に報道しているのはなぜでしょうか。そしてその人民日報の記事が「『妥協点』は、いったいどこにあるのだろうか?」と解決の方向が全く見えない形の終わり方をしていることをどう捉えたらよいのでしょうか。この点は、私もよくわかっていません。考えられるのは、以下の点です。

○本来は移転賛成が圧倒的多数を占め、その結果をもって少数の移転反対者を排除するつもりだったが、予想外に反対票が多過ぎた(賛成票が少な過ぎた)ので、当局は困惑している。

○そもそも、党中央としては「暴力的な『地上げ行為』で住民を追い出すのは不当だ。住民投票をはじめとして様々な手段で住民の意見を聞くべきだ」と開発業者に釘を刺すメッセージを一般国民向けに出すことにより、国民の間で高まっている党や政府に対する不満を柔らげる狙いがあった。

○そもそも、「多くの住民を平和的に納得させて移転計画を進めるのには非常に手間と時間が掛かるので、投資としてはそれほどメリットは大きくない」というメッセージを開発業者に向けて出すことにより、過熱気味の建設ラッシュへの投資に水を差す狙いがあった。

○そもそも、開発業者と住民との間の暴力事件が多発する中、「党や政府は何もしていない」との批判を避けるため、すぐに解決に結びつけることは難しいことはわかっていたが「住民投票」というこれまでにない新しい試みを実施し、問題解決に党も政府も努力している、という姿勢を見せる狙いがあった。

○そもそも、実社会の事態は複雑で「住民投票をすれば解決する」というわけにはいかない、という実例を広く知らしめることにより、政治の民主化(自由立候補及び自由投票による選挙)を求める一部の国民に対し、「今の中国ではまだ無理だ」ということを示す狙いがあった。

(参考)2007年6月13日付け人民日報記事「移転『票決』の道は難航」

http://society.people.com.cn/GB/1062/5856851.html

 いずれにせよ、今回の老朽家屋を取り壊し都市開発を行う計画の対処案に対する住民投票は、現在の中国の社会における、ひとつの画期的なできごとだった、と私は思っています。

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2007年6月 1日 (金)

中国の急速な都市化は「多すぎで、速すぎ」

 2007年5月23日付けの中国の英字紙チャイナ・ディリーは、解説ページで「急速な都市化は『多すぎで、速すぎ』」("Rapid urbanization 'too much, too quickly'") と題する記事を載せていました。

この記事は、チャイナ・ディリーのホームページの下記のURLで読むことができます。
http://www.chinadaily.com.cn/cndy/2007-05/23/content_878321.htm

 この記事では、急激な都市化が、地方政府による農民からの土地の取り上げ、農村から流入した労働者による都市のスラム化を引き起こしている、という問題について、具体的な数字も盛り込んでかなり詳しく解説しています。政府関係者は都市化を進めるべしと主張し、学者はそれに対して警告を発している、というふうに、二つの意見があることを客観的に記述しています。

 チャイナ・ディリーは英字紙ですが、私の認識では、人民日報とともに党中央の「主流派」の意見を代表する新聞、と思っていましたので、このような率直な記事を見てびっくりしました。最近の各紙の論調を見ると、以下の二つの方向性が、大きく割れて議論がなされている(今の時点では意見が一本化されていない)ことが窺えます。

(1)高めの成長率(7~8%を超える成長率)の経済成長を維持し、場合によっては、二重戸籍制度を廃止して、農村人口の都市への流入も認める考え方

(2)高度成長はいつかは壁にぶち当たることを懸念し、経済成長を抑制し、二重戸籍制度は改革はするものの、今すぐに廃止することはしないでしばらくは継続し、農村から都市への人口移動を抑制しようという考え方

 今の政府の政策実行の担当部署においては、(2)の考え方では農村地域の人々の不満を解消することはできない、従って少なくとも2010年の上海万博までは(1)の考え方で行くしかない、と考えている、と私は推測しています。

 一方で、人民日報などの論調は(2)の考え方に近く、むしろ(2)よりずっと保守的な雰囲気で社会主義思想の重要性を強調しています。最近の人民日報は、20年前より更に古い雰囲気の論調が目立っており、政府の実際の政策と党の機関紙たる人民日報の論調が合っていないのではないか、という印象を受けることすらあります。今年秋の党大会へ向けて、党内でもかなりの論争が行われているのかもしれません。

 チャイナ・ディリーの記事では、具体的には下記のようなポイントのことが記されています。

○民政部の高官は、「中国は都市化の『非常に重要な段階』 ("crutial phase") にあり、そのペースを落としてはならない。なぜならそうしないと多くのよくないことが起こるからだ」と、最近、中国語の雑誌に書いている。

○国家発展改革委員会都市化局の高官は、都市化は、農民の生活水準を高め、工業やサービス業を発展させ、「投資に基づく」経済から「消費に基づく」経済へ移行するために必要なのだ、と述べている。

○しかし政府のこういった都市化政策に対し、学者の中にはこのような速度での都市化に疑問を投げかけている人がいる。あまりにも急激な都市化は、都市貧困層を増やし、農地と5000万人の農民の居場所をなくしてしまう、と懸念しているのである。

○中国科学院のある学者は「1億3000万人の農村出身の労働者が『都市住民』としてカウントされているが、彼らは教育、住居、医療などの点で、都市住民が受けている便益を得られていない。」と指摘している。

○政府と学者の考え方の違いは、農民たちをどうするか、という点に集中している。都市化は、一方では出稼ぎ賃金を地方に流すという形で、地方経済を改善させるのに役立っている。

○「もし『二重戸籍制度』がなくなって、社会保障制度がうまく改革できたら、農民は自由に都市に住めるようになり、都市と地方のギャップは埋まるだろう」と発展改革委の高官氏は雑誌の寄稿の中で書いている。

○しかしながら、多くの地方政府は、農民から土地を取り上げて都市化を進めている。中国科学院の上記の学者は、2000年までに5000万人の農民が土地を失ったが、2001年から2004年までに670万人が土地を失い、このままの傾向が続けば、さらに6000万人が土地を失うだろう、と指摘している。

○よく行われているのは、地方政府が農民から土地を買い、それを開発業者に売ったり、インフラ建設にあてたりしていることである。農民は「最小限」の補償しか受けていないという。例えば、北京郊外では、1畝(ムー:667平方メートル)あたり10万元(12,821米ドル)という価格で農民から買い上げられ、1畝あたり数百万元で開発業者に売り渡されている、とのことである。上記の中国科学院の学者によると、更に1畝あたり3000元(384米ドル)で買い上げられている地方もあるという。

○彼は「もし、いつかGDPの成長率が正常な値と思われる5~6%に落ちる日が来たら、そこには1000万人の土地を持たない農民が取り残され、恐ろしいことになるだろう。」と述べた。

○中国都市計画設計院の別の学識経験者は、上記の中国科学院の学者の見方に賛成した上で「地方の土地を都市化することによって得ている収入は、地方政府の収入の3分の2にも上っている。」と述べた。

○彼は「都市化は労働力を供給するが、同時に『都市貧困層』を作り出している。これらの人々は、もともとは外地(農村)から来た労働者だったが、定職がなく、医療保障もなく、昇進の見込みもなく、出身地ごとに『村』を作って北京の中に住んでいる。」と述べた。
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 チャイナ・ディリーの記事は「これらの『村』は、公式にはそうは言われていないが、現実的にはスラムとなっている。」という言葉で結ばれています。このような解説記事が、最も権威ある英語の全国紙であるチャイナ・ディリーに掲載されたことを考えると、中国の社会は、現在、かなり深刻な状況にあり、党・中央もそれに対する対策を真剣に考えざるを得ない状況になっている、と考えてよいと思います。

 この記事は、最近、矢継ぎ早に出されているバブル警戒・インフレ対策のための諸施策に見られるように、中国政府の中心ベクトルが、経済「引き締め」の方向へ向かおうとしていることの現れだと思います。ただ、まだ上記の記事の中の政府高官の発言にもあるように、「引き締め」へ向かおうとする中心ベクトルはあるのだけれども、政府部内の各部署では、まだ当分高度成長を続けるべき、と考える人も多いのだと思います。

 いずれにせよ、こういった二つの見方が英字紙とは言いながら中国の全国紙に掲載される、ということは、中国政府が世論の反応を探っている、と考えることもできます。私は、政府関係者、学者、一般の人々などが虚心坦懐に議論して、最もしなやかで安定的な経済の舵取りの仕方を見つけることができることを期待しています。

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