カテゴリー「中国経済はバブルか?」の記事

2013年2月10日 (日)

2013年:春節以降の中国経済

 今日、2月10日は、旧暦の元旦(春節)です。

 月刊誌「中央公論」の最新号(2013年3月号)にアジア経済研究の大御所である渡辺利夫氏(拓殖大学総長・学長)が「日本企業は対中投資戦略を再考せよ~中国経済ハードランディングの危機~」と題する論文を掲載しています。

 中国経済は、1978年の改革開放政策開始以降、「世界の工場」としての地位を確立し、農業生産や工業生産において、実体経済としての実力を強大なものにしてきたのは事実ですが、一方で、中国共産党が支配する社会主義的土地制度に基づいて、農民が使用している農地等を安い賠償金で接収し、その土地を工業団地やマンション等に開発することによって多額の利益を得るという「土地成金」的性質も多大に含むものであることが長年指摘されてきています。渡辺利夫氏も、現在の中国経済における投資の占める比重が大きすぎ、家計の占める大きさが少なすぎることを指摘して、投資効率の低い過大な土地への投資が「バブル」として崩壊する危険性を指摘しています。

 同様のことは私もこのブログで過去に書いたことがあります。

(参考URL1)このブログの2008年11月28日付け記事
「『史上最大のバブル』の予感」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/11/post-793d.html

 昨年あたり、多くのメディアでも、「中国土地バブル崩壊(特に地方政府によって設立された金融機関の土地に対する投資に起因する金融バブルの崩壊)」の懸念が指摘されてきました。

(参考URL2)ニュースウィーク日本語版2012年10月18日付け記事
「不良債権 中国金融が抱える時限爆弾」
http://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2012/10/post-2728.php

 最近では、中国が発表する統計データなどを基にして、この「土地バブル」の規模がどの程度かを推定する試みもなされています。

(参考書籍)「データで読み解く中国経済~やがて中国の失速がはじまる~」(川島博之著:東洋経済新報社)(2012年11月22日発行)

 「中国経済はバブルなのではないか」「中国経済のバブルはまもなくはじけるのではないか」といった話は昔から何回も繰り返されてきました。「2008年の北京オリンピックがが終わったらはじける」「2010年の上海万博へ向けての建設ブームが終わったらはじける」とも言われましたが、実際ははじけませんでした。従って、中国経済はバブルのように見えているのですが、本当にはじけるのか、はじけるとして、それがいつなのかは、誰にもわかりません。ですが、上記に掲げた記事や書籍・論文等に見られるように、今年は「そろそろ危ないのではないか」と思う人が増えてきているように思えます。

 私は、今年2013年については、春節明け(2月下旬~3月上旬)がひとつの「節目」だと思っています。その理由は以下の三つです。

(1)ヨーロッパ経済危機のあおりを受けた輸出不振から成長率が鈍っていた中国経済も2012年8月頃を底にして回復基調にあるが、2012年9月以降の日本との関係悪化によって日本との間の経済関係が冷え込んでいる。日本からの投資にブレーキが掛かるほか、反日デモに見られるような動きを「中国リスク」と捉えて、欧米各国も対中投資に慎重になる可能性がある(※)。

※下記のレポートによれば、2012年の中国の外資利用は、既に対前年比マイナス3.7%になっているとのことです。

(参考URL3)日中産学官連携機構特別研究員田中修氏の2013年1月28日付けレポート
「2012年の主要経済指標」
http://www1a.biglobe.ne.jp/jcbag/tanaka_report130128.pdf

(2)2012年末以来、日米欧の株式市場が明確に回復基調にあり、日米欧の経済が不振であるために中国に流れ込んでいた投機マネーが日米欧に復帰し、その結果として、中国に対する外国からの投資の引き上げが起こる可能性がある。このことは、中国において長年にわたり続けられてきた(特に2008年のリーマン・ショック対応で打ち出された4兆元の投資により更に加速された)土地開発投資によって造成された工業団地等に外資による工場が建たなくなることを意味する。これは、土地開発のために融資された資金が不良債権化することを意味し、同時に、補償金をもらって農地を手放した大量の農民が就職口を得られなくなることを意味する。

(3)3月の全人代で、行政組織のトップが交代するとともに、2000年代の中国マクロ経済の舵取りを担ってきた中国人民銀行の周小川総裁も交代する。中国のマクロ経済マネジメントは、優秀な官僚組織によってコントロールされているので、トップが交代しても変わらないという見方もできるが、新しい指導者たちの政治的な手腕が未知数である現時点においては、中国マクロ経済の舵取りの方向性も未知数であると言わざるを得ない。

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 私は2008年の北京オリンピックの年には北京に駐在していました。この年(2008年)の春節明けには、内陸部での経済発展に伴い、春節で帰京した農民工がそのまま地元企業に就職してしまい、春節が明けても沿岸部に戻って来ず、沿岸部では「人手不足現象」が起き、沿岸部における人件費が高騰して、沿岸部を中心に立地した中国の輸出産業が打撃を受けた、ということがありました。「春節」は、毎年恒例の年間行事のひとつですが、経済活動の変質のひとつのきっかけにはなり得ると思います。また、毎年、全人代が3月上旬に開かれますから、春節明けから全人代までの期間は、今後の中国を見通すに際して、注目すべきタイミングだと思っています。

 今、日本経済にとって、中国は、部品等の大きな輸出先であるし、多くの企業にとって消費財の大きな市場です。中国経済が混乱することは、日本経済に直接的な打撃となります。

 一方、上記の田中修氏のレポート中にもありますが、中国は1兆1,701億ドルのアメリカ国債を有しています。これは世界第一位です(第二位は日本の1兆1,328億ドル)。この金額は、外国で保有されるアメリカ国債の約2割に当たります。中国経済が混乱し、中国政府が保有するアメリカ国債を大量に売りに出すような事態になれば、アメリカの財政にも大きな影響を与えます。従って、アメリカにとっても中国経済が混乱することはぜひとも避けねばなりません。

 ただ、1990年代後半に金融危機に見舞われた日本に続き、2008年にリーマンショックに襲われたアメリカ、2009年以降経済危機に翻弄されているヨーロッパを考えれば、中国経済だけが何も起きないとは考えにくいところです。

 冒頭に書いた「中央公論」2013年3月号における論文「日本企業は対中投資戦略を最高せよ」の中で、渡辺利夫氏は、「新規投資にはよほど慎重たるべきだろう。」とまで述べて警告を発しています。

 日本経済は、安倍内閣発足をきっかけにして、株高・円安の方向に動いていて、回復の方向に向かいつつように見えますが、中国経済が混乱して回復の足下をすくわれないようにする必要があります。上にも書きましたが、今や世界は相互に関係し合っており、誰かが混乱すると、みんなが被害を被る状況になっていますから、渡辺利夫氏が指摘するような「中国経済ハードランディングの危機」が急激に起こらないように(できるだけ時間を掛けてゆっくりとランディングできるように)、日本もアメリカ等と協調して、中国との関係をコントロールしていくことが重要だと思います。

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2009年1月10日 (土)

2009年1月第一週の中国の新聞の注目記事

 最近、中国の新聞は結構元気です。「ここまで書いていいのか」といったところまで書く記事が多く見られます。私もじっくり読んでみたい記事はたくさんあるのですが、全部読んでる時間もないので、記録しておく価値のありそうな記事の見出しとポイントだけ書いておきます。

(参考1)「南方周末」2009年1月8日号1面トップ特集記事
「三鹿(メラミン粉ミルク事件)発覚までの隠された10か月」
http://www.infzm.com/content/22472

 三鹿乳業のメラミン入り粉ミルク事件の裁判(2008年12月31日に公判が開かれた)で明らかにされた詳細な時系列を基に、2007年12月に消費者から粉ミルクに関する疑義が提示されてから、2008年9月13日にこの事件が明るみに出るまでの動きを詳細に報じています。この裁判については、既に日本でも報じられていますが、2008年8月1日に三鹿乳業として原因がメラミンであることを確定した後、生産は停止したものの、オリンピックの直前で三鹿製品に対する評判が落ちることを心配した会社幹部はこのことを秘密にしておいた、というものです。

 8月2日と8月29日には石家庄市政府には報告したものの、石家庄市政府も有効な手段を講じず、上部機関への報告も行わなかったとのことです(この件で石家庄市関係者では党委員会書記から副市長に至る幹部が現在調査を受けています)。

 「南方周末」(日本語表記は「南方週末」)が入手した8月2日と8月29日の三鹿乳業から石家庄市政府への報告書の中には「メディアに対する監督とコントロールを行って社会によくない影響を与えないようにして欲しい」との要請が書かれていたとのことです。

(参考2)「南方周末」2009年1月8日号「評論」欄「方舟評論」
「胡錦濤と馬英九には一緒にノーベル平和賞を受賞して欲しい」(本紙評論員・曹辛)
http://www.infzm.com/content/22427

 中身はタイトルを読んで字のごとしです。今、馬英九氏は中国国民党の代表ではなく、住民選挙で選ばれた「台湾当局」の「総統」です。「ひとつの中国論」を逸脱していないので中国政府の方針に反した評論ではありませんが、中国の新聞でここまで馬英九氏を持ち上げて書くかね、と私は感心しました。

(参考3)「経済観察報」2009年1月12日号(1月10日発売)Naition欄
「還郷(ふるさとへ帰る)」~冬眠(中国語で「蟄伏」)~
http://www.eeo.com.cn/eeo/jjgcb/2009/01/12/126941.shtml

 経済危機により失業して故郷に帰る農民工や請け負い工事担当者、展覧会関連業者、石炭業者、不動産業者などに関する特集記事です。ネット上の記事には書いてありませんが、紙面上には「農民工は旧正月より前倒しで帰郷し、請け負い工事業者、石炭販売業者、不動産リース業者、展覧会業者らは、この経済の温度により、自ら主導的に、あるいはそうすることを迫られて冬眠(中国語で「蟄伏」)している。この静かな春は一体いつまで続くのだろうか。」との頭書きが付いています。「蟄伏」の後は「啓蟄」(けいちつ:春になって虫たちが土の中から顔を出すこと)が来ることを意識した表現だと思います。

 「人民日報」や「中央電視台」では、「故郷に帰った農民工は、新しく創業したり、職業訓練を受けたりして頑張っている」という「明るいニュース」ばかりですが、経済専門紙たる「経済観察報」としては、「事実」を書かざるをえないのでしょう。日本の新聞などには、2009年は中国に危機が訪れる、といった警告を発する論調がよく載りますが、基本的に中国国内の有識者の認識(そしてたぶん党中央・中央政府の幹部の認識)も同じだと思います。

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2008年12月 3日 (水)

景気刺激策の中で農地の収用は抑制可能か

 中国が示した総額4兆元(ここ数日の円高元安傾向のレートだと約54兆円)の大規模な景気刺激策については、その7割近くを地方が負担するのではないかと見られていますが、その財源として地方政府が安い補償金を支払うことによって農民から土地を収用してそれを開発業者に高く売って得る収入でまかなうのではないか、と私は懸念している、と、先日このブログで書きました。

(参考1)このブログの2008年11月28日付け記事
「『史上最大のバブル』の予感」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/11/post-793d.html

 この私の心配は単なる空想ではなく、中国政府当局自体が実際に心配していることがはっきりしました。今日(12月3日)、国土資源部副部長の鹿心社氏が記者会見し、土地の収用については国が許可を行うという制度を通じて地方政府がいわゆる「土地財政」に頼ることがないようにする、と説明しているからです(中国の「部」は日本で言えば中央政府の「省」に相当する役所です。従って、国土資源部副部長は、日本式に言えば国土資源省の副大臣です)。

(参考2)「新華社」ホームページ2008年12月3日18:52配信記事
「国は土地を収用することによって収益をするという『土地財政』を抑制する方針」
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-12/03/content_10451315.htm

 この新華社にアップされている記事には、「某地方政府」が「大衆の利益」と書かれた木になっている果実をもぎ取って「開発業者」に渡す場面がマンガで描かれています。この記事によると、ある市または県において、ある年に耕地を新規で建設用地に造成した土地のうち15%以上が違法状態だった場合、あるいは15%に満たなくても状況が重大で、影響がひどい場合には、当該地方政府の責任者は責任を問われる、とのことです。この国土資源部副部長の発言は、「地方政府が農民から土地を収用することによって財政収入を得ることは許さないぞ」という中央政府の決意を発表しているわけなのですが、この発表を聞いた地方政府の責任者は逆に「新しく開発した土地のうち違法なものが15%未満だったら責任を問わないと国の責任者が認めたわけだ。」と思うに違いありません。

 この「15%を超えたら責任を問う」という話は別の記事にも載っていました。

(参考3)「京華時報」2008年12月3日付け記事
「小産権房の処理を巡っては『責任を大衆に負わせる』ことをしてはならない」
~北京市国土局長、再度、農村の宅地用土地を都市住民のために流用することは厳禁するとの態度を表明~
http://epaper.jinghua.cn/html/2008-12/03/content_371521.htm

※中国のこの種の新聞のホームページではかなりうるさい「ポップアップ広告」が表示されることがありますので御注意ください。

 「小産権」(または「小産権房」)とは、村などの集団に所有権がある農村の土地を農民から収用してその上にマンションや別荘を建てて、都市住民(その村の住民以外の者)に販売している不動産物件のことです。都市の中心部から距離は離れているが、都心部よりかなり価格が安く、購入希望者が多いことから、相当の数販売されています(北京市の場合、流通しているマンション等の約2割程度は「小産権」であるとのこと)。しかし、農村の土地は、農地にしろ農民住居用土地にしろ、集団所有(村などの集団が所有している)のだからその集団のメンバーではない都市住民にはその土地に対する使用権は一切認められていないので「小産権」という不動産物件は違法である、というのが、政府(中央政府の国務院や北京市政府)の見解であり、実際、その考え方に沿った裁判の確定判例が出ています。

(参考4)このブログの2007年12月18日付け記事
「都市住民の『小産権』購入は違法と確定判決」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/12/post_bf8b.html

(参考5)このブログの2008年1月9日付け記事
「国務院が『小産権』に関し明確な通知を発出」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/01/post_4000.html

 上記「参考3」の「京華時報」の記事によると、北京市国土局の魏成林局長が昨日(12月2日)明らかにしたところによると、2008年の上半期に北京市の14の郊外地域にある区や県で行われた新規に造成された土地のうち件数にして67%、面積にして57%が違法または規定に違反していたものだった、とのことです。魏成林局長は、今後、各レベルの地方政府において、法律や規定に違反している土地の割合が15%を超えた場合には、その地方政府の責任者は責任を追及される、と述べています。この発言は、上記「参考2」にある「新華社」の記事に載っている国土資源部の鹿心社副部長の今日(12月3日)の発言と一致していますので、これが中央政府の統一方針なのでしょう。

 それにしても北京市の魏成林局長の発言は、上記(参考4)(参考5)の私のブログに書いてある通り、2008年初頭には裁判所の判決や国務院の明確な意思表示が出ていたにもかかわらず、依然として2008年前半に北京市の郊外地区で新規に造成された土地の、件数にして7割近く、面積にして6割近くが違法状態である、ということを示しています。つまり裁判所や中央政府が見解を違法だと明確に示しているにも係わらず、実際はほとんどの人は「そんなことは関係ない」と平気で違法な開発を行い、北京市政府当局もそういった実態を取り締まることはできなかった、ということを北京市当局の責任者が認めた、ということです。中央政府や北京市政府は、実態的に取り締まれないので、15%を超えたら責任を問う、という形で「取り締まろうという姿勢を示すこと」しかできないのだと思います。中国政府は「中国は法治国家になった」と盛んに自分で言っていますが、実際は、誰も法律を守っていないし、守らせることもできていない(きつい言い方をすれば、中国では政府が行政府としての機能を果たしていない)という現状を示すひとつの事例だと思います。

(注)「麻薬」や「銃」や「中国共産党を批判する言論」に対してはきちんとした取り締まりができているのですから、法律執行能力の面において「中国政府に取り締まり能力がない」と思うのは間違いです。「土地を開発することによって収入を得たい農村」と「安い別荘やマンションが欲しいと思う都市住民」の希望を押しつぶしてまで取り締まると政府に対する反発が強まる、と考えて、強硬な取り締まりができないのだと思います。

 上に述べたように、今回の「15%を超えたら責任を問う」という国土資源局副局長の発言は、地方政府に「15%以下ならばやってもいいんだ」という「免罪符」を与え、農民からの土地収用を促進することになるので、発言としては逆効果だったのではないかと私は思います。私は、上記の報道を見て、ますます(参考1)「『史上最大のバブル』の予感」で書いたような、農民からの土地の収用が進むことにより今後数年間のうちに「大量の不良債権不動産が蓄積される」「土地を失った大量の農民が失業者となる」「中国の農地面積が食糧確保のために最低限必要な面積を下回る」といった危機的状態が起こるのではないか、との懸念を強めました。

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2008年11月28日 (金)

「史上最大のバブル」の予感

 この世界的信用縮小の時期に「『史上最大のバブル』の予感」とは何事か、とお思いのことと思います。しかし、私は、昨日(11月27日)の中国の国家発展改革委員会の張平主任の記者会見の様子をネットで読んでいて、思わずそういうふうに感じてしまったのでした。

 御存じのように世界的な金融危機を受けて、中国は11月9日、2010末までに4兆元(約60億円)を投下する、という10項目の景気刺激策を発表しました。

(参考1)このブログの2008年11月10日付け記事
「中国の景気刺激策は世界を救うのか」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/11/post-cce7.html

 この景気刺激策の内容について、昨日(11月27日)、国家発展改革委員会の張平主任が記者会見を行ったのです。

(参考2)中国政府ネット「国務院記者会見」
「さらに内需を拡大させる問題に関する記者会見の状況」(文字記録)
http://www.gov.cn/wszb/zhibo288/wzsl.htm

 この中で張平主任は、4兆元を何に使うかについて、以下のように述べました。

(1) 安全な住居の提供:2,800億元(シェア7%)
(2) 農村の民生向上と農村インフラ建設:3,700億元(シェア9%)
(3) 鉄道、道路、空港、都市の電力網:1兆8,000億元(シェア45%)
(4) 医療衛生、文教事業:400億元(シェア1%)
(5) 生態環境保護事業:3,500億元(シェア9%)
(6) 自主イノベーションと経済構造改革:1,600億元(シェア4%)
(7) 災害を受けた地域の復旧・復興:1兆元(シェア25%)

 話の順番としては、住宅などの民生、農村・農民対策などを掲げていますが、金額的な割合を見ると、鉄道、道路、空港等の建設や災害被災地の復興・復旧で全体の7割を占めています。今回の景気刺激策が、いわゆる「ハコもの」「建設プロジェクトもの」を中心とする公共事業型景気刺激策であることがよくわかります。医療衛生・文教事業のシェアがたった1%とは、「第一は民生だ」と述べている張平主任の発言と、その中身とが一致していない、と言わざるをえません。

 この記者会見で、張平主任は、4兆元のうち中央による投資は11.8億元(全体の29.5%)である、と述べており、残りは地方などが投資を行う、との見通しを述べています。これら中央の景気刺激策発表を受けて、各地方では一斉に景気刺激のための景気のよい事業プロジェクトの発表が相次いでいるようです。上記の記者会見で、ある記者は、「中央は『4兆元の投資』と言っているが、不完全な集計ではあるが、各地方で発表されている各地の景気刺激のためのプロジェクトの投資額を全部合計すると18兆元にも上る、と言われている。1年後、世界経済が回復したら、中国はまたバブル状態に陥ってしまうのではないか。」と質問しています。これに対して、張平主任は「プロジェクトの実施は中央が許可するという制度は維持し、監督・監査を強化して、重複投資を防ぎ、地方の投資も中央が決めた方向へ向かうようにし、経済構造改革、発展方式の転換、民生問題の解決、生態環境問題の解決に向かうようにする」と答えています。

 今年(2008年)前半まで、中央政府のマクロ経済政策は、地方における過剰投資がバブル化して、北京オリンピック終了後に崩壊することを懸念して、地方の投資を抑えるための様々な方策を講じてきました。ところが、北京オリンピックが終了した後の今年9月に急激に深刻化したアメリカ発の国際金融危機を受けて、中央の経済政策は一変し、金融の緩和と景気刺激を進める方向になりました。このため、今まで地方における投資を抑制する方向ではまっていた「タガ」が一遍にはずれた格好になりました。何しろ今まで「過剰投資は抑制せよ」と言われていた中央が今度は「景気を刺激せよ」と言い始めたわけですから、もともとどんどん投資をしてGDPを上げてお金儲けと出世がしたい地方の党・政府の幹部にとっては「錦の御旗」をもらったのと同じですので、地方には「どんどん投資しよう」という機運が急激に広まっているのだと思います。

 この4兆元の景気刺激策のうち、もし7割近くが地方の負担になるのだとしたら、その財源はどうするのだろうか、という問題が生じます。この4兆元の財源問題は、現時点では必ずしも明らかになってはいません。

 今まで、中国各地で起きていたバブルとも言える建設ブームは、中国式社会主義の上に実現した「土地マジック」が産んだのだ、とも考えられています。中国の農村の土地(農地及び農民が住んでいる住宅地)は村などの地方政府の所有地です(社会主義を原則とする中国では、農民による土地の私有は認められていません)。村などの地方政府は、農民に住宅用地を貸しているとともに、各農家に割り当てられた農地に対して、生産を請け負わせ、請け負い量を上回って生産された農産物は農家の自主的な判断で売りさばいて自分の収入にしてよい、というのが、現在の改革・開放路線の根本になっている生産請負制度です。

 土地の所有権は地方政府が持っているのですから、地方政府が必要だと判断した時には、「合理的な補償金」を農民に支払うことによって土地を収用できます。現在、この「合理的な補償金」の額は、農地の場合、その農地で過去三年間に生産された農産品の価格に相当する金額、とされています。一般に中国の場合、農産品の価格はかなり割安に設定されているので、場所にもよりますが、農地をつぶして、そこをマンション用地や工業用地として売り出せば、地方政府は、補償金よりかなりの高額で「土地使用権」を転売することができます。ある学者は、大まかに言って、だいたい補償金として支払った値段の十倍の値段で売れる、と言っています。

(参考3)このブログの2008年1月14日付け記事
「ついに出た『土地私有制』の提案」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/01/post_6f24.html

 こうして地方政府は、農民から収用した土地の使用権を開発業者に売って、販売金額から農民への補償金を差し引いた残りの金額(上記の学者の言によれば、販売価格の十分の九)を収入とし、それによって、いろいろなプロジェクトの投資を行えるのです(そして、土地開発業者とうまく結託すれば、地方政府の幹部個人の懐も大いに肥える、というわけです)。

 今年前半は、そういった地方政府による土地政策に対する批判もあり、そういったことはおおっぴらにはやりにくかったのですが、今回、「景気刺激策」という「錦の御旗」が中央で掲げられたことは、こういった「農民から土地を収用して資金を調達し、公共事業を実施する」ことに対する正当性を得た、ということになり、地方政府を活気づけたのではないかと思います。

 さらにタイミングが悪いことに、今年10月の中国共産党第17期中央委員会第3回全体会議(第17期三中全会)では、長年にわたる農村・農業・農民問題(三農問題)を解決するための農地改革の一環として、農地の生産請負権の自由な譲渡・売買等を認める「中国共産党中央による農村改革の発展の推進における若干の重大問題に関する決定」が出されました。

(参考4)このブログの2008年10月28日付け記事
「第17期三中全会決定のポイント」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/10/17-86c4.html

 この第17期三中全会の決定は、あくまで「農地」の「農業生産請負権」の自由な譲渡等を認めるものですが、多くの地方政府においては、適用対象の土地を「農地」だけではなく「農民の住宅用地」にまで拡大するとともに、適用対象の権利を「農業生産請負権」ではなく、その農地の「土地使用権」であるとする拡大解釈が行われるのではないかと思います。第17期三中全会の決定の本来の趣旨は、譲渡・転売できるのは「農業生産請負権」ですので、農家からその権利を譲渡された人は農業をやらなければならないのですが、自由に移転できるのは「土地使用権」であり、「土地使用権」の譲渡を受けた者は、土地を農業ではなく別の用途で使うこと(マンション建設用地や工業用地への土地利用目的の変更)も自由にできるのだ、と拡大解釈するわけです(本当は、こういう農地の用途変更は上部機関の許可が必要とされています)。

 この「景気刺激策」と「第17期三中全会の決定」という二つの「錦の御旗」を得た地方政府は、中央の意図とは関係なく、農民から土地の収用し、それで得た資金を公共事業に投資する傾向を歯止めなく進めるのではないか、と私は危惧しています。上記の記者会見で記者が言っていたように、全国で発表されている景気刺激策の公共事業プロジェクトの金額を全部合計すると、中央が言っている4兆元をはるかに上回る18兆元に上ってしまう、という現象も、そういった地方政府の動きが現れた結果ではないかと思います。

 もしこういった現象が歯止めなく進むとすると次のような現象が起きます。

(1)膨大な量のマンション、工業用地が数年間という短期間のうちに供給されますが、それに見合うだけの需要がなければ、これらのインフラ投資は遅かれ早かれバブル化(不良債権化)します(住宅地については、人口が多い中国では常に一定の潜在的な需要があるのでバブル化はしない、という人もいますが、あまり不便な場所に大量の住宅地が建設されても、購入する人がいない(または価格を高くできない)ことにより、投資した資金が回収できないおそれは常に生じると思います)

(2)土地を失った(土地の使用権を補償金を受け取って譲渡した)農民は、しばらくは補償金を食いつぶすことによって生活できると思いますが、いつかはその補償金も底を突きます。その後、農地を失った農民は農業に戻ることはできないので、何らかの職業に就かなければならないわけです。農地が工業団地となり、そこに計画通り工場が建てば、雇用も生まれるのでしょうが、それがうまく行かなかった場合には、元農民は失業者となります。こういった失業者が大量に発生した場合には、大きな社会不安が呼び起こされることになります。

(3)地方政府の農地の収用を中央がコントロールできなかった場合には、中国の人々が食べる食糧を生産するために必要な農地(現在、中国政府は18億ムー(120万平方キロ)を食糧確保のために下回ってはならない農地のレッド・ライン面積として設定しています)より農地面積が減ってしまい、中国の人々が食べていくために必要が食糧の確保ができなくなってしまう可能性があります。中国は、現在、食糧については、消費量とほぼ同程度の生産を行っている(特に穀物についてはここ5年間は増産が続いている)ので何も問題は生じていませんが、人口13億人を抱える中国が食糧の大輸入国になったら、これは世界にとっても大問題となります(ちなみに、大豆については、中国は既に大輸入国になっています)。

 こうならないように中央が地方政府をコントロールできればよいのですが、今、中国において、地方政府を中央がうまくコントロールするシステムが有効に機能しているのか、は、かなり疑問です。本来は、地方政府のトップやその地方政府をコントロールする党委員会のトップ(書記)は中央から派遣され、一定の任期の後に交代させ、もし賄賂をもらうなどの腐敗した行為をすれば処罰する、といったシステムで中央が地方をコントロールしているはずなのですが、省・自治区や直轄市(北京、上海、天津、重慶)のレベルではこのシステムによる管理がうまく行っているように見えますが、それより下の市、県、鎮(村)のレベルになると、その数が膨大になることもあり、中央の目が届かないのが実情だと思います。

 今日(11月28日)付けの「人民日報」(中国共産党の機関紙)の1面に「仲祖文」というペンネームで「党を厳格に治めることは幹部を管理することに体現されなければならない」という評論が掲載されています(「仲祖文」とは、特定の個人ではなく、中国共産党中央組織部が意見を書くときのペンネームだと言われています)。

(参考5)「人民日報」2008年11月28日付け1面に掲載された評論
「党を厳格に治めることは幹部を管理することに体現されなければならない」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-11/28/content_147866.htm

 この評論文では「国を治めるためには、まず党を治めなければならない」と指摘しています。中国共産党が支配する中華人民共和国が成立してもうすぐ60年になろうとしているのに、まだこんな当たり前のことを主張しなければならないのか、と溜め息が出ますが、人民日報に「仲祖文」がこうした文章を書かなければならないほど、党内の管理(特に地方の末端の地方の党・政府の幹部のコントロール)がうまく行っていないことを中国共産党自身は自覚しているのだと思います。逆の見方をすれば、外見の格好悪さを省みずに、こうした文章を正直に「人民日報」に掲げている、という点で(自分自身の内部にある問題点を隠さない、という点で)まだ救いはあるのだと思います。

 中国共産党も、県レベルの党の幹部を中央党校で研修させて、「腐敗に手を染めてはならない」などといった教育は一生懸命やっているのですが、こういった教育や研修で問題が解決するのならば、歴史上の数多くの政権は苦労はしなかったはずです。多くの諸国では、腐敗した政府の幹部はマスコミに批判され選挙で負けて失脚させられる、という報道の自由と民主主義とに立脚するシステムが一応その対策として成立しているわけですが、中国では、いまだにそのシステムを導入する気配はありません。少なくとも、ここ数年の間にその種の腐敗を防止するシステムが確立するとは思えません。

 ということは、「景気刺激策」と「土地に関する権利の自由な譲渡を認めた第17三中全会の決定」という二つの「錦の御旗」をもらった地方政府の暴走を中央はコントロールできなくなる可能性があります。もし本当に地方政府をコントロールすることができなくなって、とてつもない金額の投資が短時間に行われるとしたら、それはたぶん「史上最大のバブル」になると思います。そして、上記(1)(2)(3)で書いた「とんでもないこと」が現実のものとなるおそれがあります。昨日(11月27日)の中国の国家発展改革委員会の張平主任の記者会見について報じている今日(11月28日)の新聞を見てそう感じたので、今日、ここに「『史上最大のバブル』の予感」という文章を書いてみたくなった、というわけです。

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2008年11月13日 (木)

海南省三亜市などでもタクシー・ストライキ

 先日、重慶市で起きた市全体のタクシー運転手のストライキについて書きました。

(参考1)このブログの2008年11月6日付け記事
「重慶市のタクシー・ストライキ」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/11/post-9f93.html

 ところが、その後、同様の動きが別の場所に広がり、11月10日、海南省三亜市、甘粛省蘭州市永登県でも、タクシー・ドライバーのストライキが起きた、とのことです。

(参考2)「新京報」2008年11月11日付け記事
「三亜市で200人以上の集団ストライキが発生」
~タクシー会社への支払金が高過ぎるなどの問題解決を要求、言いがかりを付けてトラブルを起こした疑いで21人が警察から事情聴取を受けた~
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2008/11-11/008@035146.htm

 タクシー運転手側の要求は、運転手が売上金の中から毎月タクシー会社に支払う金が高過ぎること、無許可営業のタクシー(中国語で「黒車」)が多くて営業が妨害されていること、といった状況の改善を要求するものでした。

 今回の三亜市(海南島の南端にある観光都市)のストライキでは、三亜市の市役所の前にタクシー運転手ら200名以上が集まり、市の幹部との面会を要求した、とのことです。また、通常通りの運行をしようとした(スト破りをしようとした)運転手に対して、何者か通行を妨害したり、打ち壊し行為に出たりした、とのことで、警察は、計画性を持った強行ストライキ事件だとして、言いがかりを付けてトラブルを起こした疑いで21人から事情を聞いている、とのことです。この「新京報」の記事の書き方だと「計画性を持った強行ストライキ」が違法行為であるように見えますが、ストライキ自体には違法性はないはずで、暴力行為によってスト破りを阻止しようとした行為が違法である可能性があるとして、警察に事情を聞かれているのだと思います。

 三亜市のストライキは11日も継続しており、三亜市の代理市長とタクシー運転手側との間で話し合いが続けられている、とのことです。代理市長は、スト問題解決の原則として次の4点を打ち出しています。
・社会の安定を維持し、打ち壊し行為を行った不法分子を法に基づき取り締まること。
・タクシー運転手がタクシー会社に支払う金の問題を迅速に解決し、タクシー運転手集団の合法的権益を保護し、タクシー会社の行為を厳格に管理し、無許可タクシー(中国語で「黒車」)を取り締まること。
・タクシー運転手たちが自分たちの要求を取りまとめて訴えるために、自ら協会を設立することを市としても支持すること。
・市の公安・交通等の各部門は一般大衆の利益を守る必要があり、速やかにタクシーが正常運行に戻るように努めること。

(参考3)「新京報」2008年11月12日
「三亜市の代理市長がタクシー運転手たちに対して陳謝」
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2008/11-12/008@030124.htm

 三亜市の代理市長は11日に行われたタクシー運転手らとの交渉(上記の記事では「座談会」と表現されている)の席で陳謝し、タクシー会社への支払い金の金額を引き下げる問題、無許可タクシーの取り締まりの問題の解決を図ることを約束し、12日からのタクシーの正常運行の再開を要請した、とのことです。

 これら相次ぐ、タクシーのストライキについて、11月12日付けの「新京報」では、次のような意見を掲載しています。

(参考4)「新京報」2008年11月11日付け評論欄「第三の目」
「『無許可タクシー(中国語で「黒車」)』の背後に民生問題があることに注意しなければならない」
http://www.thebeijingnews.com/comment/zonghe/1044/2008/11-12/008@030129.htm

 この評論文では、重慶市では、8,000台の正規タクシーに対して、無許可タクシーが2,000台もいることを指摘して、これだけ無許可タクシーが多いのは、無許可タクシーに「従事」している人々が、主に、リストラされた失業者、農業戸籍から非農業戸籍に戸籍を転換した人々、三峡ダムの水没地域の人々などであり、生活のために無許可タクシーをやっている人が多いからである、と指摘しています。また、無許可タクシーを排除することは、これらの人々から「生存の糧」を奪うことである、とも指摘して、無許可タクシーの排除にあたっては、これら無許可タクシーで生活している人々の命運についても関心を払うべきだ、と主張しています。

 重慶市は、農村戸籍・非農村戸籍の一体化をモデル的に行っている地域です。

(参考5)このブログの2007年6月17日付け記事
「重慶と成都が農村・非農村統合試験区に指定される」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/06/post_f7a6.html

 農村戸籍から非農村戸籍になると、都市に住んで、都市住民としての行政サービスを受けることができますが、それは同時に農地という「生活の糧」を失うことを意味し、適切な職場が見つからなければ、失業状態となることを意味します。また、三峡ダムの水没地域に住んでいた人々には、立ち退きに際して代替の農地を与えられるか、そうでなければ補償金が支払われますが、補償金をもらって農地を失った人々のうち補償金を使い尽くす前に職を見付けることができなかった人々は、これもまた失業状態となります。

 上記(参考4)の評論の筆者は、タクシー・ストライキの背後には、単にタクシー業界内部の問題だけではなく、その地域の民生問題全体が絡んでいるのだ、と指摘しているのです。

 これまで急激な経済成長を続けてきた中国経済は「どこかの時点で長年に渡って行われてきた政策によって溜まり続けてきている『歪み』が社会の表面に出てくる時期が来る」と言われ続けてきました。今、その「時期」が始まりつつあるのではないか、と私は思っています。

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2008年11月10日 (月)

中国の景気刺激策は世界を救うのか

 11月9日(日)、中国でも世界的経済危機の影響により輸出企業に対する影響が大きいことから、中国の温家宝総理は、かなり思い切った(世界恐慌の後にアメリカのルーズベルト大統領が採ったニューディール政策を思わせるような)景気刺激策を発表しました。

(参考1)「人民日報」2008年11月10日付け1面
「十項目の内需拡大促進策が打ち出された~積極的な財政政策と貨幣政策の適度な緩和~」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-11/10/content_135966.htm

 この景気刺激策は、下記の十項目について実施するもので、2010年末までの間に総額4兆元(約60兆円)に達するものだ、とのことです。

(1) 安全に暮らせる住居を建設するプロジェクトの加速

(2) 農村インフラ建設(メタンガス利用、飲用水プロジェクト、農業用道路、農村電力網、「南水北調」(揚子江水系の水を北方の乾燥地域へ導くプロジェクト)、危険なダムの撤去や補強など。

(3) 鉄道、道路等の重要インフラ整備の加速(旅客用線路、石炭運搬用線路、西部幹線鉄道、道路、中西部の飛行場及び地方飛行場の整備、都市電力網の改造)

(4) 医療衛生、文化教育事業の推進(医療サービス体系の確立、中西部農村の小中学校の校舎の改造など)

(5) 生態環境インフラの整備(都市汚水・ゴミ処理上の建設と河川汚染防止、保護林・天然林の保護プロジェクト、省エネ・排出減少プロジェクトの推進)

(6) 自主的イノベーション及び経済構造改革の加速(ハイテク技術の産業化と産業技術進展、サービス産業発展への支援)

(7) 地震被災地区の復旧プロジェクト

(8) 都市及び農村の住民の収入の向上(食糧最低購入価格の値上げ(2009年)、農業補助金の増加、社会保障レベルの向上など)

(9) 増値税(日本の消費税に相当)の改革と企業の技術改造促進のために1,200億元(約1兆8,000億円)相当の減税の実施

(10)「農業・農村・農民」支援のため及び中小企業の記述改造のための金融規模の合理的な拡大など。

 この発表を世界各国のマーケットはかなり好意的に受け取ったようで、11月10日のアジア、ヨーロッパの株式市場は軒並み上昇し、先ほど始まったばかりのニューヨーク市場も上昇傾向で始まりました。

 ここのところ、中国の新聞では、かなり正直に、世界的経済危機の影響で沿岸地域を中心とする輸出産業がかなりの打撃を受け、多くの企業が操業を停止して、農村から出稼ぎに出てきている農民工が職を失いつつある、という報道を流していました。

(参考2)このブログの2008年11月7日付け記事
「農民工の失業ショックには政府の支援が必要」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/11/post-ce6e.html

(参考3)「人民日報」2008年11月8日付け記事
「珠江デルタ地帯の出稼ぎ労働者の群像~最近、外国の経済環境の影響を受けて、広東省の一部の企業は困難に直面しており、農民工の影響もまた影響を受けている~」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-11/09/content_135128.htm

 中国経済は、2007年までは北京オリンピックを前にして「バブル」と言えるほどに過熱気味でしたが、2008年7月頃から、ブレーキから足を離して、ごく軽くアクセルに足を掛ける程度に経済政策を転換してきていました。

(参考4)このブログの2008年8月18日付け記事
「発展改革委『オリンピック後の後退はない』」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/08/post_189d.html

 それが9月以降の米国発の金融危機を踏まえて、今回はアクセルをぐっと踏み込む政策にまた一歩進んだと言えるでしょう。

 実は、私は、中国の景気刺激策を伝える今朝(11月10日朝)の人民日報を見て、この報道が世界のマーケットにどれくらい影響を与えるのだろうか、と関心を持って見守っていました。アメリカ市場はまだ開いたばかりですが、現在のところ、今回の中国の景気刺激策は、相当程度に世界のマーケットに影響を与えたようです。先ほど見たCNNのニュースでは、今回の中国の景気刺激策が世界のマーケットにプラスに作用したことをトップニュースで伝えていました。「世界の工場」と呼ばれる中国は、もはや世界の経済全体の動向を左右する相当に大きなプレーヤーに成長したと見るべきでしょう。

 問題は、そういった中国で、今後、政治的な動きも含めて、社会的な変動が起こった場合には、世界全体に対する影響は20年前とは比べものにならないくらい大きくなっている、ということです。中国で社会的な混乱が起きたら、近くにいる日本が大きな影響を被ることはもちろん、世界全体に大きな影響を与えることになります。そういったことを考えると、今、中国はいろいろな国内問題を抱えていますが、それは単に中国国内だけに関係する問題ではなく、世界全体に影響する大きな問題として、世界全体が解決へ向けてみんなで協力して対処していくことが必要なのだと強く感じました。 

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2008年11月 7日 (金)

農民工の失業ショックには政府の支援が必要

 今日(11月7日)付けの北京の新聞「新京報」では、世界に広がる経済危機の影響が中国の輸出産業に出ており、そのあおりを受けて農民工(農村から都市部に出てきている出稼ぎ労働者)がリストラされている現状を指摘して、政府はこういった失業の危機に直面している農民工たちを支援すべきである、と主張する社説を掲げています。

(参考)「新京報」2008年11月7日付け社説
「農民工が直面している失業ショックに対して政府は支援の手をさしのべるべきだ」
http://www.thebeijingnews.com/comment/shelun/2008/11-07/008@030133.htm

 この社説は、かなり率直に現在の中国経済が直面している困難を指摘しています。この社説の主張のポイントは以下のとおりです。

○輸出品製造企業の操業停止により、沿海地域においては大量の農民工の「故郷へ帰る流れ」が起きている。農民工の数は膨大で、今年8月に出されたデータでは、2007年の時点での中国の農村の外で働く労働者は1.26億人に達している。郷鎮企業(農村部にある中小の地場企業)の従業員は1.5億人であり、重複部分を除くと、2007年の時点で農民工の数は2.26億人に達していると見られている。

○農民工の地位はぜい弱である。2006年末の時点で、農民工に支払うべき給料のうち欠配となっているのが1,000億元に達しているという。建設業では、72.2%の企業で賃金の欠配が起きており、毎月きちんと給料が支払われている労働者はわずか6%に過ぎないという。

○我が国の多くの輸出企業は、低コストにより国際競争に勝つため、労働賃金の抑制にますます圧力を掛けている。これは農民工に満足した生活を与えないと同時に、こどもたちに対する十分な教育投資ができない現状を生み出し、低賃金労働者では貧困の世代間連鎖が起きている。

○農民工は都市では十分な社会保障を得られていない。一部の沿岸地域では、社会保障を与えるために農民工から社会保障経費を徴収しているところがあり、農民工はいったん故郷に帰ると今度は故郷の地方政府から一定額の社会保障費を徴収されるという現象も起きている。

○今、金融危機の影響を受けている中国経済の中で、多数の農民工が受けているショックは極めて大きい。その中でも「失業ショック」が最も厳しい。香港工業総会会長の陳鎮仁氏は、珠江デルタ地帯にある7万社の香港系企業のうち、今年年末までに四分の一は操業を停止するだろう、と見ている。もしこういったことが起これば、極めて多数の農民工の雇用が失われることになる。

○農民工の失業は、政府関係部門の失業統計の中には含まれていない。従って、表面上は重大な失業問題として統計数字に表れていなくても、中国の製造業で就業する労働力のおよそ半分は農民工なのであるから、彼らが職を失い、故郷に帰ったら、失業状況が重大な状況に陥るだけでなく、中国における都市化の進展という意味でも、大きなブレーキが掛かることになる。

○地方政府が経営が困難になった企業の労働者の賃金を肩代わりしたり、経営が困難になりそうな企業を見極めて支援したりすることにより、珠江デルタ地帯や浙江省においては、「突発的な事件」の発生を防止している。

○中国の経済の発展と都市化を進めていくためには、社会の安定が重要な前提であり、そのためには農民工に対して明るい就業状況の見通しが与えられなければならない。

○政府は、現在、鉄道建設等の公共事業に巨額の投資をして就業問題を解決しようとしている。それに加えて、農民工の雇用の90%を担っている中小企業に対する多種多様な税の優遇措置や、個人所得税・増値税(日本の消費税に相当)を減税して、中国経済を内需牽引型に転換しなければならない。農民工を農地にも工場にも居場所がない「根無し草」にしてはならない。

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 「人民日報」や「新華社」、「中央電視台」などの報道では、「世界的経済危機の中でも中国経済は堅実な成長が可能である」といった「あまり心配する必要はない」となだめるような報道が多いのですが、実態は、世界の金融危機は中国の輸出産業に相当な打撃を与えていると見た方がよいと思います。ただし、現時点では、農民工等による大きな社会的騒乱事件が起きていないのも事実であり、中国政府が今の時点では農民工の不満を何とかなだめている、というところなのだと思います。しかし、上記の社説の中で出てくる「珠江デルタ地帯の香港系企業の四分の一が年内に操業を停止するだろう」という見通しは、現在のような「なんとかなだめている」状況を長期間にわたって続けることを難しくする可能性が大きいのではないかと思います。

 上記の社説の中で出てきている「失業統計の中に農民工の失業が含まれていない」といった中国の統計上の数字の問題は、結構大きな問題を抱えていると思います。企業経営者や政策決定者が社会の状況を正しく把握できていない中で様々な判断をしている可能性があるからです。「公開はされていないが、党・中央は悲観的なデータも含めて経済に関する正確なデータを持っていて、正確に舵取りをするから心配ない」という見方もあります。しかし、党・中央の「事実を知りうる少数の人々」はスーパーマンではありませんから、少数の人だけが事実を知っているような社会がうまくコントロールできていくとは思えません。

 「救い」は、上記のような社説が新聞に掲載され、多くの人々が問題意識を共有するようになってきていることです。党や政府がどう考えているかに関わりなく、今後、多くの人々は解決策を模索し、それを党や政府に実施することを求めていく動きが強くなっていくのではないかと思います。

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2008年10月 9日 (木)

乳製品へのメラミン混入最高限度値

 中国政府(衛生部)は昨日(10月8日)、乳製品に対するメラミンの混入最高限度値を発表しました。

(参考1)「新京報」2008年10月9日付け記事
「乳製品に含まれるメラミンの最高限度値」
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2008/10-09/008@023831.htm

 これによると、今回発表された乳製品に対するメラミン混入最高限度値は以下のとおりです。

・乳児用粉ミルク:1kgあたり1mg

・液体牛乳:1kgあたり2.5mg

・乳製品を含む食品:1kgあたり2.5mg

 これは国際的に一般に用いられているメラミンの耐容一日摂取量(Tolerable Daily Intake = TDI)、具体的にはアメリカでは体重1kgあたり0.63mg、ヨーロッパでは体重1kgあたり0.5mg、中国では体重1kgあたり0.32mgという値を用いて、例えば成人なら体重60kg、こどもなら体重2kg、乳児ならば体重7kgで計算して、標準的な毎日の食品摂取量を考慮し、TDIを十分に下回るように設定した、とのことです。

 メラミンは工業用原料であり、生産の過程で食品に混入することはあり得ないが、昨日の中国衛生部の発表では、メラミンは非常に広い範囲に利用されており、例えば食品を包装する容器から転移することもあるし、プラスチック材料が廃棄されることなどを通じて環境中にも存在しており、食品にメラミンが微量に混入する可能性はゼロではない、として、基準として「検出されないこと」を要求しなかったと説明しています。

 また、中国の衛生部は、これは「混入最高限度値」であって「許容値」ではないことを強調しており、この値が設定されたからと言ってそれ以下ならば食品に混入させてもよい、というものではなく、メラミンは食品に混入させてはならない物質であるので、食品の中にメラミンを混入させることは違法行為であり、刑事責任が追及される犯罪であることを強調しています。

 最近は、化学分析の精度が高くなっているので、分析すればごく微量な量でもあれば検出されてしまうので、メラミンは、工業用原料で食品には使わない物質ではあるものの、猛毒の物質ではなく、一定の量を定期的に摂取しなければ健康上の影響は出ないと見られていることを考慮して、「検出されないこと」を求めるのは現実的ではない、と中国政府は判断したものと思われます。

 乳製品へのメラミンの混入問題は、消費者の問題であるとともに、出荷ができなくなってしまった生産者の問題でもあります。消費者の方は赤ちゃんなどを除けば別の食材を探すことで我慢できますが、牛乳生産農家にとっては牛乳が出荷できないことは死活問題です。今回、中国政府が「メラミン混入最高基準値」を設定して基準を満たした商品であれば販売することを認めることにしたのも、そういった生産者側の立場も考慮したためと思われます。中央電視台の報道によれば、財政部と農業部は今日(10月9日)、特に困難に陥っている牛乳農家を臨時に援助する補助金として中央政府が3億元を計上したことを発表しました。

(参考2)「中国中央電視台」ホームページ2008年10月9日10:53アップ記事
「財政部と農業部が牛乳農家に対する緊急支援補助資金として3億元を計上」
http://news.cctv.com/china/20081009/103415.shtml

 こういう基準ができて早く全てのメーカーの牛乳が店頭に戻ってきて欲しいと思う反面、基準が「ゼロ」ではないことから、牛乳を飲むとその一部のメラミンが入っている可能性は否定できない状態が続くわけで、気分的にはあまりいい感じはしません。

 日本などは、今後とも「メラミンが検出されないこと」を追求するのでしょうか。中国で、このような「メラミン混入最高基準値」が設定された以上、中国の乳製品には基準値以下のメラミンが含まれていることは覚悟せざるを得ないので、日本が今後ともメラミンについては「食品からは検出されないこと」を追求するのであれば、中国から輸入された乳製品を原料とした食品は日本では売ることができないことを意味します。

 中国政府は、国内での混乱を収拾するために、今回「メラミン混入最高基準値」を設定したのですが、そのことが中国製乳製品の世界への輸出に相当なブレーキを掛けることになるかもしれない、と私は思っています。中国政府は、今回の「メラミン混入最高基準値」は国際的に使われているメラミンの耐容一日摂取量(TDI)を基にして設定したのだから、健康影響上は問題ない、国際的にもそれは受け入れられるはずだ、と主張するのでしょうが、世界の消費者が健康上影響があるかどうかにかかわらず「メラミンが入っていない食品」を求めるのだとしたら、中国製乳製品は国際市場から受け入れられないことになると思います。ただでさえ、世界同時不況で、中国の輸出産業は大きな打撃を受けています。こういった時期に、中国の食品関連産業は、食品安全の問題で、さらに一層厳しい試練に立たされるのではないか、とちょっと心配です。

 それから、もっと大事なことは、中国の消費者が、今後、食品安全の問題にどの程度シビアに反応するようになるのか、も重要な視点です。今回のメラミン混入問題は、赤ちゃんが飲む粉ミルクで問題が発生したことから、いつになく中国でも非常に懸念が広がりました。今回のメラミン入り粉ミルク事件は、中国の消費者の食品安全に対する見方をかなり変えた可能性があります。中国政府には、そういった自国内の消費者の意識の変化も見誤らないようにした政策決定が迫られていると思います。

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2008年9月17日 (水)

北京パラリンピック閉幕

 今、中国中央電視台のテレビでは、北京パラリンピックの閉会式を生中継で放送しています。パラリンピックの選手の皆さんの活躍には、「人間にはこんな能力もあるのか」と驚かされました。

 思えば8月8日に北京オリンピックの開会式が行われたのが、はるか昔のように思えます。まずはオリンピック及びパラリンピックが無事に終了したことに対して、関係者の皆様にお祝いを申し上げたいと思います。

 オリンピックが始まった頃は、新疆ウィグル自治区でテロ事件のようなものが起きたりして、ちょっと心配していたのですが、結局は、オリンピック及びパラリンピックの期間を通じて、これらのイベントの運行に影響を与えるような大きな事件・事故は起きませんでした。これも警備・警戒に当たった多くの関係者の努力によるものだと思います。

 ところが、パラリンピックが終盤を迎えつつあるここ数日、段々と社会を騒がすような大きな事件が起きるようになってきています。

○鉱山鉱滓堆積場での土石流の発生

 9月8日:山西省臨汾市襄汾県の違法操業していた鉱山の鉱滓(こうさい)堆積場で、大雨による土石流が発生し、多くの人々が飲み込まれました。9月10日付けのこのブログを書いた時点では「34名が死亡」と書きましたが、その後調査が進んで今日(9月17日)の報道の時点では、259名の死亡が確認されています。この事故に関する行政の監督責任を取る形で、山西省長が9月14日に辞任しています。こういった事故によって、省長(日本で言えば県知事に当たる)が引責辞任するのは極めて異例のことです。

○メラミン入り粉ミルク事件

 9月11日:甘粛省衛生庁が最近甘粛省で多発しているこどもの腎臓結石について、赤ちゃんが1名死亡したこと、この腎臓結石の多発はあるブランドの粉ミルクが原因であることがわかったことを発表しました。その後、これが粉ミルクに有害物質のメラミンが含まれていたことがわかったのでした。この件については、昨日(9月16日付け)のこのブログの記事で書きました。昨日のブログでも書いたように、国家品質監督検査検疫総局が全国調査を行った結果、最初に見つかった社も含めて全部で22社、69の製品の粉ミルクでメラミンが検出され、これらの製品は市場から回収・撤去されることになりました。これだけ多数の製品でメラミンが検出されたことと、メラミンが検出されたとして掲げられたメーカーの中にテレビでコマーシャルをやっているような有名メーカーも複数含まれていたこと、などから、中国では粉ミルクを巡ってちょっとしたパニック状態になっています。

 温家宝総理は今日(9月17日)午前、国務院常務委員会を開催して、乳製品と乳製品製造業者に対する全面的な検査を行うことを決めました。国務院常務委員会は、その時々の経済情勢などを踏まえて、経済対策などを決める会議ですが、こういった特定の事件に対処するための緊急対策を決めるために開催されるのは極めて異例のことです。しかも、温家宝総理は、今日はパラリンピック閉会式の当日のため、外国要人との会見のスケジュールも立て込んでいる日でしたが、そういったスケジュールを押しのけてまで、国務院常務委員会を開き「政府全体として取り組んでいる」という姿勢を示す必要があったのでしょう。

(参考1)「新華社」ホームページ2008年9月17日19:12アップ記事
「国務院常務委員会、乳製品の全面的な検査と乳製品業者の整頓を決定」
http://politics.people.com.cn/GB/1026/8066877.html

○51人が死亡するバス転落事故 

 9月13日:四川省巴中市発で浙江省寧波行きの長距離バスが巴中市内の山道を走行中、ガードレールと衝突し、ガードレールを突き破って谷底に転落し、乗っていた51人全員の死亡が確認される、という事故が起きました。この事故は山奥で発生したためか、あまり迅速には報道されませんでした。今日(9月17日)付けの人民日報で、国務院がこの事故を「特別重大道路交通事故」として調査グループを設置したことを報じています。

(参考2)「人民日報」2008年9月17日付け記事
「国務院『9・13』特別重大交通事項調査グループを設置」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-09/17/content_103878.htm

 これらに加えて、昨日(9月16日)、リーマン・ブラザーズの破綻で世界同時株安を受けて中国の株価も大幅に下落しました。今日(9月17日)は、東京市場などが下げ止まって少し戻したのと対照的に、中国の株価は今日も下げ止まりませんでした。土石流やバス転落事故は、この時期に起こったことは単なる偶然に過ぎないし、ここ数日の株安の原因はアメリカにあるのであって中国のせいではないのですが、こういった事項を並べてみると、なんだか、オリンピックとパラリンピックの開催のために、我慢してきたいろいろなことがパラリンピックの閉幕を待つことができずに、いっぺんに吹き出してきた、というような印象を受けてしまいます。

 この文章を書いている間に、北京パラリンピックの閉会式は、何発もの花火とともに終了しました。9月も中旬を過ぎ、北京では、朝晩はかなり気温が下がり、明らかに秋風が吹いています。そういった秋の気配からも「終わったなぁ」という感じを強く受けてしまいます。

 今度は、9月25日に中国で3回目の有人宇宙飛行である「神舟7号」の打ち上げが予定されています。なんとなく「これでもか、これでもか」というふうに「国家的イベント」が続く感じです。こういったいろいろな「国家的イベント」は、それぞれ順調に行って欲しいと思いますが、それとは別に日常の世界でも世の中全体が落ち着けるような雰囲気になって欲しいと思います。

 日本は、今、福田総理が辞任を表明して次の総理が決まらない状態で、総選挙が近くあるかもしれない、という不安定な雰囲気ですし、アメリカも大統領選まであと1月半に迫っており、経済的な状況も「どうなるかわからない」という雰囲気です。そういった世界の雰囲気に惑わされないように、中国は落ち着いた安定的な発展を続けて欲しいものだと思います(現在のような世界の状況の中で、今、中国の「安定団結局面」が乱れるようになることは、世界にとってタイミング的に非常に良くないからです)。

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2008年8月31日 (日)

「素晴らしい青空が残った」ならいいなぁ

 昨日(8月30日)、東京から北京に戻りました。北京空港は、パラリンピック選手団の入国ラッシュで、各国の選手団でごった返していました。北京の街中でも、車イスに乗った外国人を見掛けます。パラリンピック選手村も昨日開村したそうです。

(参考)「新京報」2008年8月31日付け記事
「パラリンピック村、開村」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/08-31/011@072719.htm

 今日(8月31日)の北京は、抜けるような素晴らしい青空です。オリンピック閉会式翌日の8月25日は、午前中から大気汚染が戻ってきた感じで、「オリンピックが終わったらやっぱり元に戻るのか」とがっかりしたのですが、先週は後半に雨が降ったこともあり、「北京秋天」の名の通り、素晴らしい青空が戻ってきました。閉会式翌日の汚染は、私は、雨を降らせないように打ち込んだ「消雨ロケット」でばらまいたヨウ化銀が大気中を漂って汚染状態を引き起こしたのではないかと疑っています(開会式の翌日も大気汚染の状態は悪かったですから)。私は個人的には、自然をコントロールしようとする中国の考え方には、あんまり賛成しません。

 オリンピックは終わったけれども、今度はパラリンピックが始まるので、まだ「お祭り気分」は続いているようです。街のボランティア・ステーションも活動を続けています。ボランティアは、今までと同じように青いユニフォームを着ているのですが、よく見ると、オリンピックとパラリンピックではユニフォームのデザインがちょっと違います。オリンピックのボランティアが着ているユニフォームは、青を基調にして、肩のところにちょっと黄色と赤が入ったデザインなのでしたが、パラリンピックのボランティアのユニフォームは基調となっている青のほかは黄色や赤のアクセントが入っていません。染め抜きになっているマークも当然違っています。よく見ると街に掲げられている看板もオリンピック用のものからパラリンピック用のものに取り替えられています。パラリンピックが終わるまでは、北京の街は「特別イベント・モード」が続きそうです。

 ただ、パラリンピックの場合は、「国の威信を掛けてメダルを取る」といった「ギスギスした感じ」がないことと、まさかパラリンピックを狙ったテロなどは起きないだろう、といった安心感があることで、多くの人がリラックスして、やさしい気持ちで臨むことができるのではないかと思っています。

 今日の北京の青空は、北京市民に「オリンピックとパラリンピックで、やはり何かが変わったのだ」という実感を与えたと思います。逆に、パラリンピックが終わった後に大気汚染が戻ってきたら、「やればできるのだから、青空を返せ」と思うようになると思います。

 今のところ、オリンピックをきっかけにかなりオープンになったインターネット規制はオリンピック期間中の状態を維持し続けています(一時アクセス可能になったBBCホームページ中国語版の中にある掲示板は、オリンピック期間中にアクセス禁止になり、禁止の状態が今でも続いていますが)。そういったこともあり、現在の時点では、「オリンピック前とは変わった」という雰囲気は続いています。パラリンピックが終わっても、この状態が続いて、「オリンピックとパラリンピックは、北京に青空を残した」というふうになればいいなぁ、と思っています。

 なお、昨日(8月30日)の成田-北京便の飛行機もかなり空席が多く、乗客の占有率は5割~6割程度でした。日本側の不景気のせいなのか、中国国内の経済活動が不活発になっているからなのか、燃料費の高騰で観光客が減ったからなのか、原因はよくわかりません。「青空を残すこと」と「経済活動を依然と同じように活発なまま維持すること」を同時に達成するのは難しい課題です。「オリンピック、パラリンピック後の中国」を見るためには、まだしばらく状況を見守る必要がありそうです。

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