カテゴリー「中国経済はバブルか?」の記事

2009年1月10日 (土)

2009年1月第一週の中国の新聞の注目記事

 最近、中国の新聞は結構元気です。「ここまで書いていいのか」といったところまで書く記事が多く見られます。私もじっくり読んでみたい記事はたくさんあるのですが、全部読んでる時間もないので、記録しておく価値のありそうな記事の見出しとポイントだけ書いておきます。

(参考1)「南方周末」2009年1月8日号1面トップ特集記事
「三鹿(メラミン粉ミルク事件)発覚までの隠された10か月」
http://www.infzm.com/content/22472

 三鹿乳業のメラミン入り粉ミルク事件の裁判(2008年12月31日に公判が開かれた)で明らかにされた詳細な時系列を基に、2007年12月に消費者から粉ミルクに関する疑義が提示されてから、2008年9月13日にこの事件が明るみに出るまでの動きを詳細に報じています。この裁判については、既に日本でも報じられていますが、2008年8月1日に三鹿乳業として原因がメラミンであることを確定した後、生産は停止したものの、オリンピックの直前で三鹿製品に対する評判が落ちることを心配した会社幹部はこのことを秘密にしておいた、というものです。

 8月2日と8月29日には石家庄市政府には報告したものの、石家庄市政府も有効な手段を講じず、上部機関への報告も行わなかったとのことです(この件で石家庄市関係者では党委員会書記から副市長に至る幹部が現在調査を受けています)。

 「南方周末」(日本語表記は「南方週末」)が入手した8月2日と8月29日の三鹿乳業から石家庄市政府への報告書の中には「メディアに対する監督とコントロールを行って社会によくない影響を与えないようにして欲しい」との要請が書かれていたとのことです。

(参考2)「南方周末」2009年1月8日号「評論」欄「方舟評論」
「胡錦濤と馬英九には一緒にノーベル平和賞を受賞して欲しい」(本紙評論員・曹辛)
http://www.infzm.com/content/22427

 中身はタイトルを読んで字のごとしです。今、馬英九氏は中国国民党の代表ではなく、住民選挙で選ばれた「台湾当局」の「総統」です。「ひとつの中国論」を逸脱していないので中国政府の方針に反した評論ではありませんが、中国の新聞でここまで馬英九氏を持ち上げて書くかね、と私は感心しました。

(参考3)「経済観察報」2009年1月12日号(1月10日発売)Naition欄
「還郷(ふるさとへ帰る)」~冬眠(中国語で「蟄伏」)~
http://www.eeo.com.cn/eeo/jjgcb/2009/01/12/126941.shtml

 経済危機により失業して故郷に帰る農民工や請け負い工事担当者、展覧会関連業者、石炭業者、不動産業者などに関する特集記事です。ネット上の記事には書いてありませんが、紙面上には「農民工は旧正月より前倒しで帰郷し、請け負い工事業者、石炭販売業者、不動産リース業者、展覧会業者らは、この経済の温度により、自ら主導的に、あるいはそうすることを迫られて冬眠(中国語で「蟄伏」)している。この静かな春は一体いつまで続くのだろうか。」との頭書きが付いています。「蟄伏」の後は「啓蟄」(けいちつ:春になって虫たちが土の中から顔を出すこと)が来ることを意識した表現だと思います。

 「人民日報」や「中央電視台」では、「故郷に帰った農民工は、新しく創業したり、職業訓練を受けたりして頑張っている」という「明るいニュース」ばかりですが、経済専門紙たる「経済観察報」としては、「事実」を書かざるをえないのでしょう。日本の新聞などには、2009年は中国に危機が訪れる、といった警告を発する論調がよく載りますが、基本的に中国国内の有識者の認識(そしてたぶん党中央・中央政府の幹部の認識)も同じだと思います。

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2008年12月 3日 (水)

景気刺激策の中で農地の収用は抑制可能か

 中国が示した総額4兆元(ここ数日の円高元安傾向のレートだと約54兆円)の大規模な景気刺激策については、その7割近くを地方が負担するのではないかと見られていますが、その財源として地方政府が安い補償金を支払うことによって農民から土地を収用してそれを開発業者に高く売って得る収入でまかなうのではないか、と私は懸念している、と、先日このブログで書きました。

(参考1)このブログの2008年11月28日付け記事
「『史上最大のバブル』の予感」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/11/post-793d.html

 この私の心配は単なる空想ではなく、中国政府当局自体が実際に心配していることがはっきりしました。今日(12月3日)、国土資源部副部長の鹿心社氏が記者会見し、土地の収用については国が許可を行うという制度を通じて地方政府がいわゆる「土地財政」に頼ることがないようにする、と説明しているからです(中国の「部」は日本で言えば中央政府の「省」に相当する役所です。従って、国土資源部副部長は、日本式に言えば国土資源省の副大臣です)。

(参考2)「新華社」ホームページ2008年12月3日18:52配信記事
「国は土地を収用することによって収益をするという『土地財政』を抑制する方針」
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-12/03/content_10451315.htm

 この新華社にアップされている記事には、「某地方政府」が「大衆の利益」と書かれた木になっている果実をもぎ取って「開発業者」に渡す場面がマンガで描かれています。この記事によると、ある市または県において、ある年に耕地を新規で建設用地に造成した土地のうち15%以上が違法状態だった場合、あるいは15%に満たなくても状況が重大で、影響がひどい場合には、当該地方政府の責任者は責任を問われる、とのことです。この国土資源部副部長の発言は、「地方政府が農民から土地を収用することによって財政収入を得ることは許さないぞ」という中央政府の決意を発表しているわけなのですが、この発表を聞いた地方政府の責任者は逆に「新しく開発した土地のうち違法なものが15%未満だったら責任を問わないと国の責任者が認めたわけだ。」と思うに違いありません。

 この「15%を超えたら責任を問う」という話は別の記事にも載っていました。

(参考3)「京華時報」2008年12月3日付け記事
「小産権房の処理を巡っては『責任を大衆に負わせる』ことをしてはならない」
~北京市国土局長、再度、農村の宅地用土地を都市住民のために流用することは厳禁するとの態度を表明~
http://epaper.jinghua.cn/html/2008-12/03/content_371521.htm

※中国のこの種の新聞のホームページではかなりうるさい「ポップアップ広告」が表示されることがありますので御注意ください。

 「小産権」(または「小産権房」)とは、村などの集団に所有権がある農村の土地を農民から収用してその上にマンションや別荘を建てて、都市住民(その村の住民以外の者)に販売している不動産物件のことです。都市の中心部から距離は離れているが、都心部よりかなり価格が安く、購入希望者が多いことから、相当の数販売されています(北京市の場合、流通しているマンション等の約2割程度は「小産権」であるとのこと)。しかし、農村の土地は、農地にしろ農民住居用土地にしろ、集団所有(村などの集団が所有している)のだからその集団のメンバーではない都市住民にはその土地に対する使用権は一切認められていないので「小産権」という不動産物件は違法である、というのが、政府(中央政府の国務院や北京市政府)の見解であり、実際、その考え方に沿った裁判の確定判例が出ています。

(参考4)このブログの2007年12月18日付け記事
「都市住民の『小産権』購入は違法と確定判決」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/12/post_bf8b.html

(参考5)このブログの2008年1月9日付け記事
「国務院が『小産権』に関し明確な通知を発出」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/01/post_4000.html

 上記「参考3」の「京華時報」の記事によると、北京市国土局の魏成林局長が昨日(12月2日)明らかにしたところによると、2008年の上半期に北京市の14の郊外地域にある区や県で行われた新規に造成された土地のうち件数にして67%、面積にして57%が違法または規定に違反していたものだった、とのことです。魏成林局長は、今後、各レベルの地方政府において、法律や規定に違反している土地の割合が15%を超えた場合には、その地方政府の責任者は責任を追及される、と述べています。この発言は、上記「参考2」にある「新華社」の記事に載っている国土資源部の鹿心社副部長の今日(12月3日)の発言と一致していますので、これが中央政府の統一方針なのでしょう。

 それにしても北京市の魏成林局長の発言は、上記(参考4)(参考5)の私のブログに書いてある通り、2008年初頭には裁判所の判決や国務院の明確な意思表示が出ていたにもかかわらず、依然として2008年前半に北京市の郊外地区で新規に造成された土地の、件数にして7割近く、面積にして6割近くが違法状態である、ということを示しています。つまり裁判所や中央政府が見解を違法だと明確に示しているにも係わらず、実際はほとんどの人は「そんなことは関係ない」と平気で違法な開発を行い、北京市政府当局もそういった実態を取り締まることはできなかった、ということを北京市当局の責任者が認めた、ということです。中央政府や北京市政府は、実態的に取り締まれないので、15%を超えたら責任を問う、という形で「取り締まろうという姿勢を示すこと」しかできないのだと思います。中国政府は「中国は法治国家になった」と盛んに自分で言っていますが、実際は、誰も法律を守っていないし、守らせることもできていない(きつい言い方をすれば、中国では政府が行政府としての機能を果たしていない)という現状を示すひとつの事例だと思います。

(注)「麻薬」や「銃」や「中国共産党を批判する言論」に対してはきちんとした取り締まりができているのですから、法律執行能力の面において「中国政府に取り締まり能力がない」と思うのは間違いです。「土地を開発することによって収入を得たい農村」と「安い別荘やマンションが欲しいと思う都市住民」の希望を押しつぶしてまで取り締まると政府に対する反発が強まる、と考えて、強硬な取り締まりができないのだと思います。

 上に述べたように、今回の「15%を超えたら責任を問う」という国土資源局副局長の発言は、地方政府に「15%以下ならばやってもいいんだ」という「免罪符」を与え、農民からの土地収用を促進することになるので、発言としては逆効果だったのではないかと私は思います。私は、上記の報道を見て、ますます(参考1)「『史上最大のバブル』の予感」で書いたような、農民からの土地の収用が進むことにより今後数年間のうちに「大量の不良債権不動産が蓄積される」「土地を失った大量の農民が失業者となる」「中国の農地面積が食糧確保のために最低限必要な面積を下回る」といった危機的状態が起こるのではないか、との懸念を強めました。

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2008年11月28日 (金)

「史上最大のバブル」の予感

 この世界的信用縮小の時期に「『史上最大のバブル』の予感」とは何事か、とお思いのことと思います。しかし、私は、昨日(11月27日)の中国の国家発展改革委員会の張平主任の記者会見の様子をネットで読んでいて、思わずそういうふうに感じてしまったのでした。

 御存じのように世界的な金融危機を受けて、中国は11月9日、2010末までに4兆元(約60億円)を投下する、という10項目の景気刺激策を発表しました。

(参考1)このブログの2008年11月10日付け記事
「中国の景気刺激策は世界を救うのか」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/11/post-cce7.html

 この景気刺激策の内容について、昨日(11月27日)、国家発展改革委員会の張平主任が記者会見を行ったのです。

(参考2)中国政府ネット「国務院記者会見」
「さらに内需を拡大させる問題に関する記者会見の状況」(文字記録)
http://www.gov.cn/wszb/zhibo288/wzsl.htm

 この中で張平主任は、4兆元を何に使うかについて、以下のように述べました。

(1) 安全な住居の提供:2,800億元(シェア7%)
(2) 農村の民生向上と農村インフラ建設:3,700億元(シェア9%)
(3) 鉄道、道路、空港、都市の電力網:1兆8,000億元(シェア45%)
(4) 医療衛生、文教事業:400億元(シェア1%)
(5) 生態環境保護事業:3,500億元(シェア9%)
(6) 自主イノベーションと経済構造改革:1,600億元(シェア4%)
(7) 災害を受けた地域の復旧・復興:1兆元(シェア25%)

 話の順番としては、住宅などの民生、農村・農民対策などを掲げていますが、金額的な割合を見ると、鉄道、道路、空港等の建設や災害被災地の復興・復旧で全体の7割を占めています。今回の景気刺激策が、いわゆる「ハコもの」「建設プロジェクトもの」を中心とする公共事業型景気刺激策であることがよくわかります。医療衛生・文教事業のシェアがたった1%とは、「第一は民生だ」と述べている張平主任の発言と、その中身とが一致していない、と言わざるをえません。

 この記者会見で、張平主任は、4兆元のうち中央による投資は11.8億元(全体の29.5%)である、と述べており、残りは地方などが投資を行う、との見通しを述べています。これら中央の景気刺激策発表を受けて、各地方では一斉に景気刺激のための景気のよい事業プロジェクトの発表が相次いでいるようです。上記の記者会見で、ある記者は、「中央は『4兆元の投資』と言っているが、不完全な集計ではあるが、各地方で発表されている各地の景気刺激のためのプロジェクトの投資額を全部合計すると18兆元にも上る、と言われている。1年後、世界経済が回復したら、中国はまたバブル状態に陥ってしまうのではないか。」と質問しています。これに対して、張平主任は「プロジェクトの実施は中央が許可するという制度は維持し、監督・監査を強化して、重複投資を防ぎ、地方の投資も中央が決めた方向へ向かうようにし、経済構造改革、発展方式の転換、民生問題の解決、生態環境問題の解決に向かうようにする」と答えています。

 今年(2008年)前半まで、中央政府のマクロ経済政策は、地方における過剰投資がバブル化して、北京オリンピック終了後に崩壊することを懸念して、地方の投資を抑えるための様々な方策を講じてきました。ところが、北京オリンピックが終了した後の今年9月に急激に深刻化したアメリカ発の国際金融危機を受けて、中央の経済政策は一変し、金融の緩和と景気刺激を進める方向になりました。このため、今まで地方における投資を抑制する方向ではまっていた「タガ」が一遍にはずれた格好になりました。何しろ今まで「過剰投資は抑制せよ」と言われていた中央が今度は「景気を刺激せよ」と言い始めたわけですから、もともとどんどん投資をしてGDPを上げてお金儲けと出世がしたい地方の党・政府の幹部にとっては「錦の御旗」をもらったのと同じですので、地方には「どんどん投資しよう」という機運が急激に広まっているのだと思います。

 この4兆元の景気刺激策のうち、もし7割近くが地方の負担になるのだとしたら、その財源はどうするのだろうか、という問題が生じます。この4兆元の財源問題は、現時点では必ずしも明らかになってはいません。

 今まで、中国各地で起きていたバブルとも言える建設ブームは、中国式社会主義の上に実現した「土地マジック」が産んだのだ、とも考えられています。中国の農村の土地(農地及び農民が住んでいる住宅地)は村などの地方政府の所有地です(社会主義を原則とする中国では、農民による土地の私有は認められていません)。村などの地方政府は、農民に住宅用地を貸しているとともに、各農家に割り当てられた農地に対して、生産を請け負わせ、請け負い量を上回って生産された農産物は農家の自主的な判断で売りさばいて自分の収入にしてよい、というのが、現在の改革・開放路線の根本になっている生産請負制度です。

 土地の所有権は地方政府が持っているのですから、地方政府が必要だと判断した時には、「合理的な補償金」を農民に支払うことによって土地を収用できます。現在、この「合理的な補償金」の額は、農地の場合、その農地で過去三年間に生産された農産品の価格に相当する金額、とされています。一般に中国の場合、農産品の価格はかなり割安に設定されているので、場所にもよりますが、農地をつぶして、そこをマンション用地や工業用地として売り出せば、地方政府は、補償金よりかなりの高額で「土地使用権」を転売することができます。ある学者は、大まかに言って、だいたい補償金として支払った値段の十倍の値段で売れる、と言っています。

(参考3)このブログの2008年1月14日付け記事
「ついに出た『土地私有制』の提案」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/01/post_6f24.html

 こうして地方政府は、農民から収用した土地の使用権を開発業者に売って、販売金額から農民への補償金を差し引いた残りの金額(上記の学者の言によれば、販売価格の十分の九)を収入とし、それによって、いろいろなプロジェクトの投資を行えるのです(そして、土地開発業者とうまく結託すれば、地方政府の幹部個人の懐も大いに肥える、というわけです)。

 今年前半は、そういった地方政府による土地政策に対する批判もあり、そういったことはおおっぴらにはやりにくかったのですが、今回、「景気刺激策」という「錦の御旗」が中央で掲げられたことは、こういった「農民から土地を収用して資金を調達し、公共事業を実施する」ことに対する正当性を得た、ということになり、地方政府を活気づけたのではないかと思います。

 さらにタイミングが悪いことに、今年10月の中国共産党第17期中央委員会第3回全体会議(第17期三中全会)では、長年にわたる農村・農業・農民問題(三農問題)を解決するための農地改革の一環として、農地の生産請負権の自由な譲渡・売買等を認める「中国共産党中央による農村改革の発展の推進における若干の重大問題に関する決定」が出されました。

(参考4)このブログの2008年10月28日付け記事
「第17期三中全会決定のポイント」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/10/17-86c4.html

 この第17期三中全会の決定は、あくまで「農地」の「農業生産請負権」の自由な譲渡等を認めるものですが、多くの地方政府においては、適用対象の土地を「農地」だけではなく「農民の住宅用地」にまで拡大するとともに、適用対象の権利を「農業生産請負権」ではなく、その農地の「土地使用権」であるとする拡大解釈が行われるのではないかと思います。第17期三中全会の決定の本来の趣旨は、譲渡・転売できるのは「農業生産請負権」ですので、農家からその権利を譲渡された人は農業をやらなければならないのですが、自由に移転できるのは「土地使用権」であり、「土地使用権」の譲渡を受けた者は、土地を農業ではなく別の用途で使うこと(マンション建設用地や工業用地への土地利用目的の変更)も自由にできるのだ、と拡大解釈するわけです(本当は、こういう農地の用途変更は上部機関の許可が必要とされています)。

 この「景気刺激策」と「第17期三中全会の決定」という二つの「錦の御旗」を得た地方政府は、中央の意図とは関係なく、農民から土地の収用し、それで得た資金を公共事業に投資する傾向を歯止めなく進めるのではないか、と私は危惧しています。上記の記者会見で記者が言っていたように、全国で発表されている景気刺激策の公共事業プロジェクトの金額を全部合計すると、中央が言っている4兆元をはるかに上回る18兆元に上ってしまう、という現象も、そういった地方政府の動きが現れた結果ではないかと思います。

 もしこういった現象が歯止めなく進むとすると次のような現象が起きます。

(1)膨大な量のマンション、工業用地が数年間という短期間のうちに供給されますが、それに見合うだけの需要がなければ、これらのインフラ投資は遅かれ早かれバブル化(不良債権化)します(住宅地については、人口が多い中国では常に一定の潜在的な需要があるのでバブル化はしない、という人もいますが、あまり不便な場所に大量の住宅地が建設されても、購入する人がいない(または価格を高くできない)ことにより、投資した資金が回収できないおそれは常に生じると思います)

(2)土地を失った(土地の使用権を補償金を受け取って譲渡した)農民は、しばらくは補償金を食いつぶすことによって生活できると思いますが、いつかはその補償金も底を突きます。その後、農地を失った農民は農業に戻ることはできないので、何らかの職業に就かなければならないわけです。農地が工業団地となり、そこに計画通り工場が建てば、雇用も生まれるのでしょうが、それがうまく行かなかった場合には、元農民は失業者となります。こういった失業者が大量に発生した場合には、大きな社会不安が呼び起こされることになります。

(3)地方政府の農地の収用を中央がコントロールできなかった場合には、中国の人々が食べる食糧を生産するために必要な農地(現在、中国政府は18億ムー(120万平方キロ)を食糧確保のために下回ってはならない農地のレッド・ライン面積として設定しています)より農地面積が減ってしまい、中国の人々が食べていくために必要が食糧の確保ができなくなってしまう可能性があります。中国は、現在、食糧については、消費量とほぼ同程度の生産を行っている(特に穀物についてはここ5年間は増産が続いている)ので何も問題は生じていませんが、人口13億人を抱える中国が食糧の大輸入国になったら、これは世界にとっても大問題となります(ちなみに、大豆については、中国は既に大輸入国になっています)。

 こうならないように中央が地方政府をコントロールできればよいのですが、今、中国において、地方政府を中央がうまくコントロールするシステムが有効に機能しているのか、は、かなり疑問です。本来は、地方政府のトップやその地方政府をコントロールする党委員会のトップ(書記)は中央から派遣され、一定の任期の後に交代させ、もし賄賂をもらうなどの腐敗した行為をすれば処罰する、といったシステムで中央が地方をコントロールしているはずなのですが、省・自治区や直轄市(北京、上海、天津、重慶)のレベルではこのシステムによる管理がうまく行っているように見えますが、それより下の市、県、鎮(村)のレベルになると、その数が膨大になることもあり、中央の目が届かないのが実情だと思います。

 今日(11月28日)付けの「人民日報」(中国共産党の機関紙)の1面に「仲祖文」というペンネームで「党を厳格に治めることは幹部を管理することに体現されなければならない」という評論が掲載されています(「仲祖文」とは、特定の個人ではなく、中国共産党中央組織部が意見を書くときのペンネームだと言われています)。

(参考5)「人民日報」2008年11月28日付け1面に掲載された評論
「党を厳格に治めることは幹部を管理することに体現されなければならない」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-11/28/content_147866.htm

 この評論文では「国を治めるためには、まず党を治めなければならない」と指摘しています。中国共産党が支配する中華人民共和国が成立してもうすぐ60年になろうとしているのに、まだこんな当たり前のことを主張しなければならないのか、と溜め息が出ますが、人民日報に「仲祖文」がこうした文章を書かなければならないほど、党内の管理(特に地方の末端の地方の党・政府の幹部のコントロール)がうまく行っていないことを中国共産党自身は自覚しているのだと思います。逆の見方をすれば、外見の格好悪さを省みずに、こうした文章を正直に「人民日報」に掲げている、という点で(自分自身の内部にある問題点を隠さない、という点で)まだ救いはあるのだと思います。

 中国共産党も、県レベルの党の幹部を中央党校で研修させて、「腐敗に手を染めてはならない」などといった教育は一生懸命やっているのですが、こういった教育や研修で問題が解決するのならば、歴史上の数多くの政権は苦労はしなかったはずです。多くの諸国では、腐敗した政府の幹部はマスコミに批判され選挙で負けて失脚させられる、という報道の自由と民主主義とに立脚するシステムが一応その対策として成立しているわけですが、中国では、いまだにそのシステムを導入する気配はありません。少なくとも、ここ数年の間にその種の腐敗を防止するシステムが確立するとは思えません。

 ということは、「景気刺激策」と「土地に関する権利の自由な譲渡を認めた第17三中全会の決定」という二つの「錦の御旗」をもらった地方政府の暴走を中央はコントロールできなくなる可能性があります。もし本当に地方政府をコントロールすることができなくなって、とてつもない金額の投資が短時間に行われるとしたら、それはたぶん「史上最大のバブル」になると思います。そして、上記(1)(2)(3)で書いた「とんでもないこと」が現実のものとなるおそれがあります。昨日(11月27日)の中国の国家発展改革委員会の張平主任の記者会見について報じている今日(11月28日)の新聞を見てそう感じたので、今日、ここに「『史上最大のバブル』の予感」という文章を書いてみたくなった、というわけです。

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2008年11月13日 (木)

海南省三亜市などでもタクシー・ストライキ

 先日、重慶市で起きた市全体のタクシー運転手のストライキについて書きました。

(参考1)このブログの2008年11月6日付け記事
「重慶市のタクシー・ストライキ」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/11/post-9f93.html

 ところが、その後、同様の動きが別の場所に広がり、11月10日、海南省三亜市、甘粛省蘭州市永登県でも、タクシー・ドライバーのストライキが起きた、とのことです。

(参考2)「新京報」2008年11月11日付け記事
「三亜市で200人以上の集団ストライキが発生」
~タクシー会社への支払金が高過ぎるなどの問題解決を要求、言いがかりを付けてトラブルを起こした疑いで21人が警察から事情聴取を受けた~
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2008/11-11/008@035146.htm

 タクシー運転手側の要求は、運転手が売上金の中から毎月タクシー会社に支払う金が高過ぎること、無許可営業のタクシー(中国語で「黒車」)が多くて営業が妨害されていること、といった状況の改善を要求するものでした。

 今回の三亜市(海南島の南端にある観光都市)のストライキでは、三亜市の市役所の前にタクシー運転手ら200名以上が集まり、市の幹部との面会を要求した、とのことです。また、通常通りの運行をしようとした(スト破りをしようとした)運転手に対して、何者か通行を妨害したり、打ち壊し行為に出たりした、とのことで、警察は、計画性を持った強行ストライキ事件だとして、言いがかりを付けてトラブルを起こした疑いで21人から事情を聞いている、とのことです。この「新京報」の記事の書き方だと「計画性を持った強行ストライキ」が違法行為であるように見えますが、ストライキ自体には違法性はないはずで、暴力行為によってスト破りを阻止しようとした行為が違法である可能性があるとして、警察に事情を聞かれているのだと思います。

 三亜市のストライキは11日も継続しており、三亜市の代理市長とタクシー運転手側との間で話し合いが続けられている、とのことです。代理市長は、スト問題解決の原則として次の4点を打ち出しています。
・社会の安定を維持し、打ち壊し行為を行った不法分子を法に基づき取り締まること。
・タクシー運転手がタクシー会社に支払う金の問題を迅速に解決し、タクシー運転手集団の合法的権益を保護し、タクシー会社の行為を厳格に管理し、無許可タクシー(中国語で「黒車」)を取り締まること。
・タクシー運転手たちが自分たちの要求を取りまとめて訴えるために、自ら協会を設立することを市としても支持すること。
・市の公安・交通等の各部門は一般大衆の利益を守る必要があり、速やかにタクシーが正常運行に戻るように努めること。

(参考3)「新京報」2008年11月12日
「三亜市の代理市長がタクシー運転手たちに対して陳謝」
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2008/11-12/008@030124.htm

 三亜市の代理市長は11日に行われたタクシー運転手らとの交渉(上記の記事では「座談会」と表現されている)の席で陳謝し、タクシー会社への支払い金の金額を引き下げる問題、無許可タクシーの取り締まりの問題の解決を図ることを約束し、12日からのタクシーの正常運行の再開を要請した、とのことです。

 これら相次ぐ、タクシーのストライキについて、11月12日付けの「新京報」では、次のような意見を掲載しています。

(参考4)「新京報」2008年11月11日付け評論欄「第三の目」
「『無許可タクシー(中国語で「黒車」)』の背後に民生問題があることに注意しなければならない」
http://www.thebeijingnews.com/comment/zonghe/1044/2008/11-12/008@030129.htm

 この評論文では、重慶市では、8,000台の正規タクシーに対して、無許可タクシーが2,000台もいることを指摘して、これだけ無許可タクシーが多いのは、無許可タクシーに「従事」している人々が、主に、リストラされた失業者、農業戸籍から非農業戸籍に戸籍を転換した人々、三峡ダムの水没地域の人々などであり、生活のために無許可タクシーをやっている人が多いからである、と指摘しています。また、無許可タクシーを排除することは、これらの人々から「生存の糧」を奪うことである、とも指摘して、無許可タクシーの排除にあたっては、これら無許可タクシーで生活している人々の命運についても関心を払うべきだ、と主張しています。

 重慶市は、農村戸籍・非農村戸籍の一体化をモデル的に行っている地域です。

(参考5)このブログの2007年6月17日付け記事
「重慶と成都が農村・非農村統合試験区に指定される」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/06/post_f7a6.html

 農村戸籍から非農村戸籍になると、都市に住んで、都市住民としての行政サービスを受けることができますが、それは同時に農地という「生活の糧」を失うことを意味し、適切な職場が見つからなければ、失業状態となることを意味します。また、三峡ダムの水没地域に住んでいた人々には、立ち退きに際して代替の農地を与えられるか、そうでなければ補償金が支払われますが、補償金をもらって農地を失った人々のうち補償金を使い尽くす前に職を見付けることができなかった人々は、これもまた失業状態となります。

 上記(参考4)の評論の筆者は、タクシー・ストライキの背後には、単にタクシー業界内部の問題だけではなく、その地域の民生問題全体が絡んでいるのだ、と指摘しているのです。

 これまで急激な経済成長を続けてきた中国経済は「どこかの時点で長年に渡って行われてきた政策によって溜まり続けてきている『歪み』が社会の表面に出てくる時期が来る」と言われ続けてきました。今、その「時期」が始まりつつあるのではないか、と私は思っています。

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2008年11月10日 (月)

中国の景気刺激策は世界を救うのか

 11月9日(日)、中国でも世界的経済危機の影響により輸出企業に対する影響が大きいことから、中国の温家宝総理は、かなり思い切った(世界恐慌の後にアメリカのルーズベルト大統領が採ったニューディール政策を思わせるような)景気刺激策を発表しました。

(参考1)「人民日報」2008年11月10日付け1面
「十項目の内需拡大促進策が打ち出された~積極的な財政政策と貨幣政策の適度な緩和~」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-11/10/content_135966.htm

 この景気刺激策は、下記の十項目について実施するもので、2010年末までの間に総額4兆元(約60兆円)に達するものだ、とのことです。

(1) 安全に暮らせる住居を建設するプロジェクトの加速

(2) 農村インフラ建設(メタンガス利用、飲用水プロジェクト、農業用道路、農村電力網、「南水北調」(揚子江水系の水を北方の乾燥地域へ導くプロジェクト)、危険なダムの撤去や補強など。

(3) 鉄道、道路等の重要インフラ整備の加速(旅客用線路、石炭運搬用線路、西部幹線鉄道、道路、中西部の飛行場及び地方飛行場の整備、都市電力網の改造)

(4) 医療衛生、文化教育事業の推進(医療サービス体系の確立、中西部農村の小中学校の校舎の改造など)

(5) 生態環境インフラの整備(都市汚水・ゴミ処理上の建設と河川汚染防止、保護林・天然林の保護プロジェクト、省エネ・排出減少プロジェクトの推進)

(6) 自主的イノベーション及び経済構造改革の加速(ハイテク技術の産業化と産業技術進展、サービス産業発展への支援)

(7) 地震被災地区の復旧プロジェクト

(8) 都市及び農村の住民の収入の向上(食糧最低購入価格の値上げ(2009年)、農業補助金の増加、社会保障レベルの向上など)

(9) 増値税(日本の消費税に相当)の改革と企業の技術改造促進のために1,200億元(約1兆8,000億円)相当の減税の実施

(10)「農業・農村・農民」支援のため及び中小企業の記述改造のための金融規模の合理的な拡大など。

 この発表を世界各国のマーケットはかなり好意的に受け取ったようで、11月10日のアジア、ヨーロッパの株式市場は軒並み上昇し、先ほど始まったばかりのニューヨーク市場も上昇傾向で始まりました。

 ここのところ、中国の新聞では、かなり正直に、世界的経済危機の影響で沿岸地域を中心とする輸出産業がかなりの打撃を受け、多くの企業が操業を停止して、農村から出稼ぎに出てきている農民工が職を失いつつある、という報道を流していました。

(参考2)このブログの2008年11月7日付け記事
「農民工の失業ショックには政府の支援が必要」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/11/post-ce6e.html

(参考3)「人民日報」2008年11月8日付け記事
「珠江デルタ地帯の出稼ぎ労働者の群像~最近、外国の経済環境の影響を受けて、広東省の一部の企業は困難に直面しており、農民工の影響もまた影響を受けている~」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-11/09/content_135128.htm

 中国経済は、2007年までは北京オリンピックを前にして「バブル」と言えるほどに過熱気味でしたが、2008年7月頃から、ブレーキから足を離して、ごく軽くアクセルに足を掛ける程度に経済政策を転換してきていました。

(参考4)このブログの2008年8月18日付け記事
「発展改革委『オリンピック後の後退はない』」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/08/post_189d.html

 それが9月以降の米国発の金融危機を踏まえて、今回はアクセルをぐっと踏み込む政策にまた一歩進んだと言えるでしょう。

 実は、私は、中国の景気刺激策を伝える今朝(11月10日朝)の人民日報を見て、この報道が世界のマーケットにどれくらい影響を与えるのだろうか、と関心を持って見守っていました。アメリカ市場はまだ開いたばかりですが、現在のところ、今回の中国の景気刺激策は、相当程度に世界のマーケットに影響を与えたようです。先ほど見たCNNのニュースでは、今回の中国の景気刺激策が世界のマーケットにプラスに作用したことをトップニュースで伝えていました。「世界の工場」と呼ばれる中国は、もはや世界の経済全体の動向を左右する相当に大きなプレーヤーに成長したと見るべきでしょう。

 問題は、そういった中国で、今後、政治的な動きも含めて、社会的な変動が起こった場合には、世界全体に対する影響は20年前とは比べものにならないくらい大きくなっている、ということです。中国で社会的な混乱が起きたら、近くにいる日本が大きな影響を被ることはもちろん、世界全体に大きな影響を与えることになります。そういったことを考えると、今、中国はいろいろな国内問題を抱えていますが、それは単に中国国内だけに関係する問題ではなく、世界全体に影響する大きな問題として、世界全体が解決へ向けてみんなで協力して対処していくことが必要なのだと強く感じました。 

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2008年11月 7日 (金)

農民工の失業ショックには政府の支援が必要

 今日(11月7日)付けの北京の新聞「新京報」では、世界に広がる経済危機の影響が中国の輸出産業に出ており、そのあおりを受けて農民工(農村から都市部に出てきている出稼ぎ労働者)がリストラされている現状を指摘して、政府はこういった失業の危機に直面している農民工たちを支援すべきである、と主張する社説を掲げています。

(参考)「新京報」2008年11月7日付け社説
「農民工が直面している失業ショックに対して政府は支援の手をさしのべるべきだ」
http://www.thebeijingnews.com/comment/shelun/2008/11-07/008@030133.htm

 この社説は、かなり率直に現在の中国経済が直面している困難を指摘しています。この社説の主張のポイントは以下のとおりです。

○輸出品製造企業の操業停止により、沿海地域においては大量の農民工の「故郷へ帰る流れ」が起きている。農民工の数は膨大で、今年8月に出されたデータでは、2007年の時点での中国の農村の外で働く労働者は1.26億人に達している。郷鎮企業(農村部にある中小の地場企業)の従業員は1.5億人であり、重複部分を除くと、2007年の時点で農民工の数は2.26億人に達していると見られている。

○農民工の地位はぜい弱である。2006年末の時点で、農民工に支払うべき給料のうち欠配となっているのが1,000億元に達しているという。建設業では、72.2%の企業で賃金の欠配が起きており、毎月きちんと給料が支払われている労働者はわずか6%に過ぎないという。

○我が国の多くの輸出企業は、低コストにより国際競争に勝つため、労働賃金の抑制にますます圧力を掛けている。これは農民工に満足した生活を与えないと同時に、こどもたちに対する十分な教育投資ができない現状を生み出し、低賃金労働者では貧困の世代間連鎖が起きている。

○農民工は都市では十分な社会保障を得られていない。一部の沿岸地域では、社会保障を与えるために農民工から社会保障経費を徴収しているところがあり、農民工はいったん故郷に帰ると今度は故郷の地方政府から一定額の社会保障費を徴収されるという現象も起きている。

○今、金融危機の影響を受けている中国経済の中で、多数の農民工が受けているショックは極めて大きい。その中でも「失業ショック」が最も厳しい。香港工業総会会長の陳鎮仁氏は、珠江デルタ地帯にある7万社の香港系企業のうち、今年年末までに四分の一は操業を停止するだろう、と見ている。もしこういったことが起これば、極めて多数の農民工の雇用が失われることになる。

○農民工の失業は、政府関係部門の失業統計の中には含まれていない。従って、表面上は重大な失業問題として統計数字に表れていなくても、中国の製造業で就業する労働力のおよそ半分は農民工なのであるから、彼らが職を失い、故郷に帰ったら、失業状況が重大な状況に陥るだけでなく、中国における都市化の進展という意味でも、大きなブレーキが掛かることになる。

○地方政府が経営が困難になった企業の労働者の賃金を肩代わりしたり、経営が困難になりそうな企業を見極めて支援したりすることにより、珠江デルタ地帯や浙江省においては、「突発的な事件」の発生を防止している。

○中国の経済の発展と都市化を進めていくためには、社会の安定が重要な前提であり、そのためには農民工に対して明るい就業状況の見通しが与えられなければならない。

○政府は、現在、鉄道建設等の公共事業に巨額の投資をして就業問題を解決しようとしている。それに加えて、農民工の雇用の90%を担っている中小企業に対する多種多様な税の優遇措置や、個人所得税・増値税(日本の消費税に相当)を減税して、中国経済を内需牽引型に転換しなければならない。農民工を農地にも工場にも居場所がない「根無し草」にしてはならない。

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 「人民日報」や「新華社」、「中央電視台」などの報道では、「世界的経済危機の中でも中国経済は堅実な成長が可能である」といった「あまり心配する必要はない」となだめるような報道が多いのですが、実態は、世界の金融危機は中国の輸出産業に相当な打撃を与えていると見た方がよいと思います。ただし、現時点では、農民工等による大きな社会的騒乱事件が起きていないのも事実であり、中国政府が今の時点では農民工の不満を何とかなだめている、というところなのだと思います。しかし、上記の社説の中で出てくる「珠江デルタ地帯の香港系企業の四分の一が年内に操業を停止するだろう」という見通しは、現在のような「なんとかなだめている」状況を長期間にわたって続けることを難しくする可能性が大きいのではないかと思います。

 上記の社説の中で出てきている「失業統計の中に農民工の失業が含まれていない」といった中国の統計上の数字の問題は、結構大きな問題を抱えていると思います。企業経営者や政策決定者が社会の状況を正しく把握できていない中で様々な判断をしている可能性があるからです。「公開はされていないが、党・中央は悲観的なデータも含めて経済に関する正確なデータを持っていて、正確に舵取りをするから心配ない」という見方もあります。しかし、党・中央の「事実を知りうる少数の人々」はスーパーマンではありませんから、少数の人だけが事実を知っているような社会がうまくコントロールできていくとは思えません。

 「救い」は、上記のような社説が新聞に掲載され、多くの人々が問題意識を共有するようになってきていることです。党や政府がどう考えているかに関わりなく、今後、多くの人々は解決策を模索し、それを党や政府に実施することを求めていく動きが強くなっていくのではないかと思います。

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2008年10月 9日 (木)

乳製品へのメラミン混入最高限度値

 中国政府(衛生部)は昨日(10月8日)、乳製品に対するメラミンの混入最高限度値を発表しました。

(参考1)「新京報」2008年10月9日付け記事
「乳製品に含まれるメラミンの最高限度値」
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2008/10-09/008@023831.htm

 これによると、今回発表された乳製品に対するメラミン混入最高限度値は以下のとおりです。

・乳児用粉ミルク:1kgあたり1mg

・液体牛乳:1kgあたり2.5mg

・乳製品を含む食品:1kgあたり2.5mg

 これは国際的に一般に用いられているメラミンの耐容一日摂取量(Tolerable Daily Intake = TDI)、具体的にはアメリカでは体重1kgあたり0.63mg、ヨーロッパでは体重1kgあたり0.5mg、中国では体重1kgあたり0.32mgという値を用いて、例えば成人なら体重60kg、こどもなら体重2kg、乳児ならば体重7kgで計算して、標準的な毎日の食品摂取量を考慮し、TDIを十分に下回るように設定した、とのことです。

 メラミンは工業用原料であり、生産の過程で食品に混入することはあり得ないが、昨日の中国衛生部の発表では、メラミンは非常に広い範囲に利用されており、例えば食品を包装する容器から転移することもあるし、プラスチック材料が廃棄されることなどを通じて環境中にも存在しており、食品にメラミンが微量に混入する可能性はゼロではない、として、基準として「検出されないこと」を要求しなかったと説明しています。

 また、中国の衛生部は、これは「混入最高限度値」であって「許容値」ではないことを強調しており、この値が設定されたからと言ってそれ以下ならば食品に混入させてもよい、というものではなく、メラミンは食品に混入させてはならない物質であるので、食品の中にメラミンを混入させることは違法行為であり、刑事責任が追及される犯罪であることを強調しています。

 最近は、化学分析の精度が高くなっているので、分析すればごく微量な量でもあれば検出されてしまうので、メラミンは、工業用原料で食品には使わない物質ではあるものの、猛毒の物質ではなく、一定の量を定期的に摂取しなければ健康上の影響は出ないと見られていることを考慮して、「検出されないこと」を求めるのは現実的ではない、と中国政府は判断したものと思われます。

 乳製品へのメラミンの混入問題は、消費者の問題であるとともに、出荷ができなくなってしまった生産者の問題でもあります。消費者の方は赤ちゃんなどを除けば別の食材を探すことで我慢できますが、牛乳生産農家にとっては牛乳が出荷できないことは死活問題です。今回、中国政府が「メラミン混入最高基準値」を設定して基準を満たした商品であれば販売することを認めることにしたのも、そういった生産者側の立場も考慮したためと思われます。中央電視台の報道によれば、財政部と農業部は今日(10月9日)、特に困難に陥っている牛乳農家を臨時に援助する補助金として中央政府が3億元を計上したことを発表しました。

(参考2)「中国中央電視台」ホームページ2008年10月9日10:53アップ記事
「財政部と農業部が牛乳農家に対する緊急支援補助資金として3億元を計上」
http://news.cctv.com/china/20081009/103415.shtml

 こういう基準ができて早く全てのメーカーの牛乳が店頭に戻ってきて欲しいと思う反面、基準が「ゼロ」ではないことから、牛乳を飲むとその一部のメラミンが入っている可能性は否定できない状態が続くわけで、気分的にはあまりいい感じはしません。

 日本などは、今後とも「メラミンが検出されないこと」を追求するのでしょうか。中国で、このような「メラミン混入最高基準値」が設定された以上、中国の乳製品には基準値以下のメラミンが含まれていることは覚悟せざるを得ないので、日本が今後ともメラミンについては「食品からは検出されないこと」を追求するのであれば、中国から輸入された乳製品を原料とした食品は日本では売ることができないことを意味します。

 中国政府は、国内での混乱を収拾するために、今回「メラミン混入最高基準値」を設定したのですが、そのことが中国製乳製品の世界への輸出に相当なブレーキを掛けることになるかもしれない、と私は思っています。中国政府は、今回の「メラミン混入最高基準値」は国際的に使われているメラミンの耐容一日摂取量(TDI)を基にして設定したのだから、健康影響上は問題ない、国際的にもそれは受け入れられるはずだ、と主張するのでしょうが、世界の消費者が健康上影響があるかどうかにかかわらず「メラミンが入っていない食品」を求めるのだとしたら、中国製乳製品は国際市場から受け入れられないことになると思います。ただでさえ、世界同時不況で、中国の輸出産業は大きな打撃を受けています。こういった時期に、中国の食品関連産業は、食品安全の問題で、さらに一層厳しい試練に立たされるのではないか、とちょっと心配です。

 それから、もっと大事なことは、中国の消費者が、今後、食品安全の問題にどの程度シビアに反応するようになるのか、も重要な視点です。今回のメラミン混入問題は、赤ちゃんが飲む粉ミルクで問題が発生したことから、いつになく中国でも非常に懸念が広がりました。今回のメラミン入り粉ミルク事件は、中国の消費者の食品安全に対する見方をかなり変えた可能性があります。中国政府には、そういった自国内の消費者の意識の変化も見誤らないようにした政策決定が迫られていると思います。

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2008年9月17日 (水)

北京パラリンピック閉幕

 今、中国中央電視台のテレビでは、北京パラリンピックの閉会式を生中継で放送しています。パラリンピックの選手の皆さんの活躍には、「人間にはこんな能力もあるのか」と驚かされました。

 思えば8月8日に北京オリンピックの開会式が行われたのが、はるか昔のように思えます。まずはオリンピック及びパラリンピックが無事に終了したことに対して、関係者の皆様にお祝いを申し上げたいと思います。

 オリンピックが始まった頃は、新疆ウィグル自治区でテロ事件のようなものが起きたりして、ちょっと心配していたのですが、結局は、オリンピック及びパラリンピックの期間を通じて、これらのイベントの運行に影響を与えるような大きな事件・事故は起きませんでした。これも警備・警戒に当たった多くの関係者の努力によるものだと思います。

 ところが、パラリンピックが終盤を迎えつつあるここ数日、段々と社会を騒がすような大きな事件が起きるようになってきています。

○鉱山鉱滓堆積場での土石流の発生

 9月8日:山西省臨汾市襄汾県の違法操業していた鉱山の鉱滓(こうさい)堆積場で、大雨による土石流が発生し、多くの人々が飲み込まれました。9月10日付けのこのブログを書いた時点では「34名が死亡」と書きましたが、その後調査が進んで今日(9月17日)の報道の時点では、259名の死亡が確認されています。この事故に関する行政の監督責任を取る形で、山西省長が9月14日に辞任しています。こういった事故によって、省長(日本で言えば県知事に当たる)が引責辞任するのは極めて異例のことです。

○メラミン入り粉ミルク事件

 9月11日:甘粛省衛生庁が最近甘粛省で多発しているこどもの腎臓結石について、赤ちゃんが1名死亡したこと、この腎臓結石の多発はあるブランドの粉ミルクが原因であることがわかったことを発表しました。その後、これが粉ミルクに有害物質のメラミンが含まれていたことがわかったのでした。この件については、昨日(9月16日付け)のこのブログの記事で書きました。昨日のブログでも書いたように、国家品質監督検査検疫総局が全国調査を行った結果、最初に見つかった社も含めて全部で22社、69の製品の粉ミルクでメラミンが検出され、これらの製品は市場から回収・撤去されることになりました。これだけ多数の製品でメラミンが検出されたことと、メラミンが検出されたとして掲げられたメーカーの中にテレビでコマーシャルをやっているような有名メーカーも複数含まれていたこと、などから、中国では粉ミルクを巡ってちょっとしたパニック状態になっています。

 温家宝総理は今日(9月17日)午前、国務院常務委員会を開催して、乳製品と乳製品製造業者に対する全面的な検査を行うことを決めました。国務院常務委員会は、その時々の経済情勢などを踏まえて、経済対策などを決める会議ですが、こういった特定の事件に対処するための緊急対策を決めるために開催されるのは極めて異例のことです。しかも、温家宝総理は、今日はパラリンピック閉会式の当日のため、外国要人との会見のスケジュールも立て込んでいる日でしたが、そういったスケジュールを押しのけてまで、国務院常務委員会を開き「政府全体として取り組んでいる」という姿勢を示す必要があったのでしょう。

(参考1)「新華社」ホームページ2008年9月17日19:12アップ記事
「国務院常務委員会、乳製品の全面的な検査と乳製品業者の整頓を決定」
http://politics.people.com.cn/GB/1026/8066877.html

○51人が死亡するバス転落事故 

 9月13日:四川省巴中市発で浙江省寧波行きの長距離バスが巴中市内の山道を走行中、ガードレールと衝突し、ガードレールを突き破って谷底に転落し、乗っていた51人全員の死亡が確認される、という事故が起きました。この事故は山奥で発生したためか、あまり迅速には報道されませんでした。今日(9月17日)付けの人民日報で、国務院がこの事故を「特別重大道路交通事故」として調査グループを設置したことを報じています。

(参考2)「人民日報」2008年9月17日付け記事
「国務院『9・13』特別重大交通事項調査グループを設置」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-09/17/content_103878.htm

 これらに加えて、昨日(9月16日)、リーマン・ブラザーズの破綻で世界同時株安を受けて中国の株価も大幅に下落しました。今日(9月17日)は、東京市場などが下げ止まって少し戻したのと対照的に、中国の株価は今日も下げ止まりませんでした。土石流やバス転落事故は、この時期に起こったことは単なる偶然に過ぎないし、ここ数日の株安の原因はアメリカにあるのであって中国のせいではないのですが、こういった事項を並べてみると、なんだか、オリンピックとパラリンピックの開催のために、我慢してきたいろいろなことがパラリンピックの閉幕を待つことができずに、いっぺんに吹き出してきた、というような印象を受けてしまいます。

 この文章を書いている間に、北京パラリンピックの閉会式は、何発もの花火とともに終了しました。9月も中旬を過ぎ、北京では、朝晩はかなり気温が下がり、明らかに秋風が吹いています。そういった秋の気配からも「終わったなぁ」という感じを強く受けてしまいます。

 今度は、9月25日に中国で3回目の有人宇宙飛行である「神舟7号」の打ち上げが予定されています。なんとなく「これでもか、これでもか」というふうに「国家的イベント」が続く感じです。こういったいろいろな「国家的イベント」は、それぞれ順調に行って欲しいと思いますが、それとは別に日常の世界でも世の中全体が落ち着けるような雰囲気になって欲しいと思います。

 日本は、今、福田総理が辞任を表明して次の総理が決まらない状態で、総選挙が近くあるかもしれない、という不安定な雰囲気ですし、アメリカも大統領選まであと1月半に迫っており、経済的な状況も「どうなるかわからない」という雰囲気です。そういった世界の雰囲気に惑わされないように、中国は落ち着いた安定的な発展を続けて欲しいものだと思います(現在のような世界の状況の中で、今、中国の「安定団結局面」が乱れるようになることは、世界にとってタイミング的に非常に良くないからです)。

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2008年8月31日 (日)

「素晴らしい青空が残った」ならいいなぁ

 昨日(8月30日)、東京から北京に戻りました。北京空港は、パラリンピック選手団の入国ラッシュで、各国の選手団でごった返していました。北京の街中でも、車イスに乗った外国人を見掛けます。パラリンピック選手村も昨日開村したそうです。

(参考)「新京報」2008年8月31日付け記事
「パラリンピック村、開村」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/08-31/011@072719.htm

 今日(8月31日)の北京は、抜けるような素晴らしい青空です。オリンピック閉会式翌日の8月25日は、午前中から大気汚染が戻ってきた感じで、「オリンピックが終わったらやっぱり元に戻るのか」とがっかりしたのですが、先週は後半に雨が降ったこともあり、「北京秋天」の名の通り、素晴らしい青空が戻ってきました。閉会式翌日の汚染は、私は、雨を降らせないように打ち込んだ「消雨ロケット」でばらまいたヨウ化銀が大気中を漂って汚染状態を引き起こしたのではないかと疑っています(開会式の翌日も大気汚染の状態は悪かったですから)。私は個人的には、自然をコントロールしようとする中国の考え方には、あんまり賛成しません。

 オリンピックは終わったけれども、今度はパラリンピックが始まるので、まだ「お祭り気分」は続いているようです。街のボランティア・ステーションも活動を続けています。ボランティアは、今までと同じように青いユニフォームを着ているのですが、よく見ると、オリンピックとパラリンピックではユニフォームのデザインがちょっと違います。オリンピックのボランティアが着ているユニフォームは、青を基調にして、肩のところにちょっと黄色と赤が入ったデザインなのでしたが、パラリンピックのボランティアのユニフォームは基調となっている青のほかは黄色や赤のアクセントが入っていません。染め抜きになっているマークも当然違っています。よく見ると街に掲げられている看板もオリンピック用のものからパラリンピック用のものに取り替えられています。パラリンピックが終わるまでは、北京の街は「特別イベント・モード」が続きそうです。

 ただ、パラリンピックの場合は、「国の威信を掛けてメダルを取る」といった「ギスギスした感じ」がないことと、まさかパラリンピックを狙ったテロなどは起きないだろう、といった安心感があることで、多くの人がリラックスして、やさしい気持ちで臨むことができるのではないかと思っています。

 今日の北京の青空は、北京市民に「オリンピックとパラリンピックで、やはり何かが変わったのだ」という実感を与えたと思います。逆に、パラリンピックが終わった後に大気汚染が戻ってきたら、「やればできるのだから、青空を返せ」と思うようになると思います。

 今のところ、オリンピックをきっかけにかなりオープンになったインターネット規制はオリンピック期間中の状態を維持し続けています(一時アクセス可能になったBBCホームページ中国語版の中にある掲示板は、オリンピック期間中にアクセス禁止になり、禁止の状態が今でも続いていますが)。そういったこともあり、現在の時点では、「オリンピック前とは変わった」という雰囲気は続いています。パラリンピックが終わっても、この状態が続いて、「オリンピックとパラリンピックは、北京に青空を残した」というふうになればいいなぁ、と思っています。

 なお、昨日(8月30日)の成田-北京便の飛行機もかなり空席が多く、乗客の占有率は5割~6割程度でした。日本側の不景気のせいなのか、中国国内の経済活動が不活発になっているからなのか、燃料費の高騰で観光客が減ったからなのか、原因はよくわかりません。「青空を残すこと」と「経済活動を依然と同じように活発なまま維持すること」を同時に達成するのは難しい課題です。「オリンピック、パラリンピック後の中国」を見るためには、まだしばらく状況を見守る必要がありそうです。

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2008年8月28日 (木)

日中航空便の空席状況

 北京オリンピック閉会式のあった翌日(8月25日)、私は北京から関西空港経由で羽田まで移動しました。北京・成田便が満席で予約が取れなかったからです。北京空港からは、オリンピック関係者や報道陣などが大量に帰国したと思われますので、それも私が予約を取れなかったのも無理からぬことだと思いました(日本の選手団は、8月25日、別途チャーター便で北京空港から羽田は帰ったそうです)。

 ところが、北京発関西空港行きの私が乗った便は、予想に反してガラガラでした。私は当初通路側の席だったのですが、窓際の席に誰も来なかったので、窓際の席に座りました。客室乗務員は「今日は半分もお客さんが入らないので、窓際に座っていただいても結構です」と言っていましたが、見た感じ、半分どころか2割程度しか乗っていない感じでした。

 関西空港便が人気がないからなのか、多くの観光客やビジネスマンがオリンピック閉会式の翌日は混雑するだろうと避けたために逆にお客が少なかったからなのか、理由はよくわかりません。オリンピックとパラリンピックが行われる期間中、北京では国際会議の開催が禁止されています。通常なら初秋の北京は1年のうちで一番気候がよい季節なので、いろんな国際会議が開かれるのですが、今年はそういう国際会議がなくて、北京を出入りするお客が少ないことが、ガラガラの理由かもしれません。燃料サーチャージが高くなっているのも大きな原因のひとつだと思います。「とにもかくにもオリンピックの成功が最優先」という政策を取ったために、オリンピックは大成功でしたが、オリンピック以外の活動はほとんど停止状態だった、というのが、2008年8月の北京の状況だと思います。

 日中間の航空便でお客が少ないのは、中国を巡る経済活動が全体的に停滞しているからかもしれません。しかし、それが単にオリンピック・パラリンピック期間中だからビジネス上の出張も控えているためなのか、不況により経済活動全体が低迷しているからなのか、はよくわかりません。オリンピックとパラリンピックで、様々な規制が掛けられていますので、本来の経済の姿が目に見えるようになるのは、やはりパラリンピックが終わってからになるのでしょう。

 現在、世界経済全体が変調を来していますので、ここで中国経済が大きく動くことは、世界全体にとってマイナスです。中国経済には、今後とも、安定的な成長が続き、安定成長の中で格差が是正されるような方向での経済運営が図られることを望みたいと思います。

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2008年8月20日 (水)

中国経済はまた大型公共投資依存に戻るのか

 今日(8月20日)の中国大陸の株価は、一昨日(8月18日)の下げを回復する以上に上昇したようです。日本のネットのニュースによれば、オリンピック後、中国政府が大型の景気刺激策を打ち出す見通し、との報道がなされたことが株価上昇の原因だ、とのことです。景気刺激策とはどういう政策を採るのでしょうか。また、大型の公共事業に投資をしたりするのでしょうか。

 私も、中国の経済が収縮してよい、とは思っていませんが、人民元高や原油高などの構造的な原因で、輸出産業の不振が続く中、経済全体を支えるために、大型の公共事業に投資して雇用を創出する、といった政策がいつまでも続けられるとは私には思えません。私は、北京に赴任してから1年4か月、中国国内のいろいろな工業団地などを見ましたが、公共インフラの多くは、既に「過剰」のレベルにまで達していると思っています。現在、開発が終わった、あるいは開発中の全ての工業団地の全ての土地に工場が建つとはとても思えないからです。もし、今後また従来型の公共投資主導型の景気刺激策を採るのであれば、地方ベースでは、今後とも、農地がつぶされ、工業団地が建てられる、というタイプの事業が続けられる可能性があります。それだと、去年あたりから採っていた「バブルは小さいうちにつぶしておく」という政策を、また「バブルをさらに膨らませる政策」に逆戻りさせてしまうことになります。

 構造改革には常に「痛み」を伴いますが、今、中国政府にとっては、輸出企業の倒産による失業者の増大や不動産や株のバブルの崩壊による富裕層の資産の消滅のような「痛み」を伴う政策は怖くて採れないのかもしれません。しかし、景気が悪くなりそうになったら、公共投資で景気を刺激する、といった政策を繰り返していくと、中国の企業はそれに甘えてしまい、本当の意味での国際競争力を付けることができなくなります。いつまで経っても労働集約型産業への依存から脱却できません。それに、不動産や株が下がりそうになったら、政府が何らかの策を講じて下支えしてくれる、といった経験を何回も繰り返すと、投資家の中に自己責任をもって投資するというマインドが育たないと思います。

 中国の金メダル・ラッシュもようやく山を越え、オリンピックも残すところあと4日となりました。今回のオリンピックは、スポーツの面では、中国の人々の能力が非常に高いことを証明しました。経済の面でも、中国の人々の能力をうまく引き出し活用させることができれば、大型の公共投資に頼らずに経済成長を続けることはできると思います。既に中国の大学への進学率は22%を超えており、中国でも高学歴化が進んでいます。このまま大型公共事業と労働集約型産業への依存を強めた経済運営を続けていくと、人々の「働きたい」という欲求と雇用の場の提供とが、数の上では一致しても、質(要求する賃金など)の面でミスマッチが大きくなります。中国政府は、単に数字的に経済を失速させない、ということばかりでなく、中国の人々が自分たちの生活をどうしたいのか、という「思い」をうまくすくい上げるシステムを作り、それによって人々の欲求を的確に把握できるようにする必要があると思います。

 このブログの直前の記事で書いた人民日報のホームページにあった110mハードルを棄権した劉翔選手を励ますポップ・アップは、今日(8月20日)の朝の時点ではあったのですが、夜の時点では既になくなっていました。そろそろ「劉翔選手の棄権ショック」も治まってきただろう、と判断したのだと思います。このようにして、官製メディアが沸騰するネット議論の「ガス抜き」に気を使わなければならないこと自体、中国に人々の気持ちを吸い上げるシステムができていない証拠です。少しづつでよいので、時代の流れに合わせて、中国も変わって行って欲しいと思います。

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2008年8月18日 (月)

発展改革委「オリンピック後の後退はない」

 国家発展改革委員会は、昨日(8月17日)、中国経済の状況についての記者会見を行いました。この席で、国家発展改革委員会経済研究院副院長の王一鳴氏は、「オリンピックは中国経済の分水嶺とはなり得ない」と述べ、「オリンピック後に中国経済にブレーキが掛かるのではないか」との見方を否定しました。

(参考1)「新京報」2008年8月18日付け記事
「中国では『オリンピック後の景気後退』は出現しない」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/08-18/008@020530.htm

 この記事によると、王一鳴副院長が発言したポイントは以下のとおりです。

○オリンピックの終了は北京市の経済に影響を与えることになるだろうが、北京市の経済規模は全中国の3.6%に過ぎず、オリンピックの終了が中国経済全体に影響を与えることはあり得ない。

○マンション価格の動向もオリンピックとは関係しない。中国では急速な都市化が進んでおり、不動産に対する需要は強い。去年下半期以来、不動産市場における販売量は下降傾向にあるが、今年1月~7月の不動産に対する投資は依然として30%を超える速度で伸びている。現在、不動産市場は「模様眺め」の雰囲気が濃厚であるが、これは不動産市場の中のバブル的部分が消滅するまでのひとつのプロセスである。

○株式市場の動向もオリンピックとは無関係である。最近の株価の下降傾向は、マクロ経済的視点で見れば、中国経済がアメリカのサブ・プライム・ローン問題や地球規模の景気後退等の影響を受け、中国経済の不確定性が増加していることから来ている。原油、鉱物資源、食糧価格の大幅上昇も懸念材料になっている。しかし、多くの企業は安定的な成長を維持しており、いくつかの企業の株価は過小評価されている。国内の消費者物価指数が落ち着き、国際石油価格が安定し、投資者の安心感が増せば、株価は一時的な低迷状態から脱して、合理的な範囲に納まることになるだろう。

 で、問題は、この記者会見がなぜ日曜日である8月17日に行われ、8月18日(月)の朝刊にこの発言の内容が掲載されたか、にあります。今週、大手国有企業47社の株取引の制限が緩和され、額面総額1,200億元(約1兆8,000億円)に相当する株が株式市場に出ることになることから、この記者会見は、国家発展改革委員会が国有企業の株が市場に大量に放出されることに伴う株価の値下がりをできるだけ抑制することを意図して設定したものではないか、と私は推測しています。中国では、国有企業の持ち株を、コントロールしながら株式市場に出し、国有企業の経営にも市場原理を導入しようとする政策を採っています。そのため、毎週、なにがしかの国有企業の株が売買解禁となって市場に出されるのですが、たまたま今週は8月に解禁される株の69.2%がまとまって解禁される、とのことで、国家発展改革委員会は、その影響を最小限に抑えようとしたのだと思います。

(参考2)「新京報」2008年8月18日付け記事
「今週、189億株が解禁に~8月の解禁総数の69.2%を占める~」
http://www.thebeijingnews.com/economy/2008/08-18/008@020626.htm

 しかし、この記者会見もあまり効果は大きくなかったようで、今日(8月18日)の中国大陸の株価は、またかなり下げたようです。

 王一鳴副院長が言うように、最近の株式市場の低迷の原因としては、オリンピック需要が終わることへの懸念、というよりは、世界的経済の低迷と人民元高による中国の輸出産業の不振に伴う中国経済全体への警戒感の方が大きいと思います。先月、国家指導者が相次いで沿岸部の輸出産業の中心地を視察したことも、逆に「中国の輸出産業の不振は意外に深刻なのかもしれない」という疑念を市場に与えたのかもしれません。。

 このブログの7月28日付け記事で、国家指導者たちが中国経済の牽引車である沿岸地域を相次いで視察するとともに、中国政府が当面の中国の経済状況を分析し、経済政策の運営方針を検討する会議を相次いで開いたことをお伝えしました。

(参考3)このブログの2008年7月28日付け記事
「中国経済は既に『オリンピック後』に突入」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/07/post_da68.html

 この記事の中でも触れましたが、胡錦濤主席は、7月21日に開いた中国共産党以外の民主党派や無党派の知識人を招いて行った検討会で6つのポイントを指摘しました。6つのポイントのトップは「安定的で比較的スピードの速い経済発展を全力を持って維持すること」でした。これは、それまでの経済政策はバブルが膨らみ過ぎてからはじけるのを防ぐために軽くブレーキを踏んでいた状態だったのを、今後はブレーキから足を離してアクセルに踏み換えアクセルを軽く踏み込むことにした、という経済政策の転換を意味していた、とみなすことができると思います。

 今日、日本から送られてきた日本で発売されている経済雑誌のお盆前の特集号を見たのですが、オリンピック後の中国経済の後退を憂慮する記事がいくつか載っていました。今の中国の経済状況を考えると、王一鳴氏が言っているように「今後の中国経済の動向はオリンピックの終了が原因となるわけではない」のはその通りだと思います。ただ、タイミングとしては、オリンピック終了をひとつのきっかけとして動き、方向性としては、世界的な経済低迷、原油高、中国の輸出産業の不振により、中国経済にブレーキが掛かる方向に振れることは、おそらく間違いないと思います。

 今、多くの中国の人々はオリンピックに熱中していますので、オリンピックが終わるまでは、経済状況はそんなに大きくは変わらないと思いますが、来週の日曜日、オリンピックの聖火が消えた途端、多くの人々が「金メダルの夢」から醒めて、現実の経済状況に直面し、来週の月曜日(8月25日)から市場が動き始める可能性があります。その意味では今後の中国経済については「オリンピックの終了が原因ではない経済の変化がオリンピックの終了をきっかけとして始まる」と表現することが最も適切なのかもしれません。

 人民元レートは7月16日に1ドル=6.8128人民元まで上昇しましたが、その後、やや下落傾向にあり、今日(8月18日)現在1ドル=6.8665人民元となっています(正確なレートは中国銀行のホームページを御覧下さい)。これまでは「人民元は上昇する一方」だったのが、7月中旬以降、やや風向きが変わってきており、ここのところやや下降気味のトレンドが定着しているように見えます。当局が輸出産業にこれ以上打撃を与えないようにするために為替レートを「人民元安」の方向に誘導しようとしている可能性があります。もし「人民元が当面これ以上上がらない」という見方が定着した場合、これまで将来の人民元高を見て為替差益を当て込んで急速に中国国内に流入してきた「ホット・マネー」がどういう動きを見せるのでしょうか。輸出産業を救済しようとする政策が、ホット・マネーに支えられていた不動産バブルの崩壊を後押しすることになってしまう可能性もあります。

 経済システムは複雑ですから、「ブレーキからアクセスに踏み換える」と言っても、実はブレーキとアクセスは1対だけあるのではなく、いくつもあると考えるべきなのでしょう。そういった複数のアクセルとブレーキを間違うことなくコントロールして行くのは非常に難しい作業だと思います。

 中国は、あと1週間は「金メダルの夢」に酔いしれいていてよいと思いますが、オリンピック終了後はうまく切り替えて、中国の多くのオリンピック選手が試合で見せたような柔軟さとしたたかさをもって、「オリンピック終了を原因とはしないがオリンピック終了をきっかけとして動く中国経済」にしっかり対応して欲しいと思います。

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2008年8月15日 (金)

夏休みの時期の不動産屋さんの必死の営業

 今日(8月15日)の北京は抜けるような青空でした。昨日の雷雨で大気汚染がすっかり洗い流された上に、今日は湿度が低かったので、遠くの方までスッキリと見えました。空も青々としており、「北京でもこういう青い空が見られるんだ!」と感激しました。太陽も夕方になってかなり傾いているのにギラギラとまぶしく、真っ直ぐな強い光を放っています。「太陽ってこんなにまぶしいんだ!」という感覚は日本に帰るたんびに感じるのですが、それを今日は北京で感じることができました。今日の北京の大気汚染指数は17、即ち最もよいランクの「優」でした。多くの中国の人が「オリンピックの開会式があと1週間遅かったら、世界中の人々に北京の大気汚染についてどうのこうのと言われることはなかったのに」と思っているでしょう。あさって日曜日の朝は女子マラソンがありますが、この調子ならば、女子マラソンの時に大気汚染について心配する必要はなさそうです。

 昨日の大雨で、ボート競技やテニス、野球の試合の一部などが順延になりましたが、北京市街地の道路の水没等の影響はなかったようです。

 さて、日本でも報道されていますが、中国国内の観光地のホテルや国内航空賃、それに北京市内のホテルや短期貸し付け住宅などが、予想よりお客が大幅に少なくなっているようです。

 先週から今週に掛けて、日本企業の駐在員等を相手にしている複数の北京の不動産屋さんから営業の電話がありました。お話がしたい、として営業の方がわざわざ来て、物件リストなどを置いて行ったところもあります。普通、日本企業の多くは8月中旬はお盆の時期で休んでいる人もいるし、人事異動の季節でもないので、通常の年なら8月中旬は日本人駐在員の住居などを世話する不動産屋さんはあまり活発に商売をする時期ではありません。

 去年の後半から今年の前半に掛けて、多くのアパートメントで「8月のオリンピック期間を含む期間の賃貸契約を結びたいなら、価格はこれだけ上げさせてもらう」という大家さん側の強気の賃貸料値上げ要求があった、と聞きました。引っ越しをしたくなくて高めに設定された賃貸料を飲んだ人もいますし、「そんなの理不尽だ」と反発して別のアパートメントに引っ越しした人もいます。大家さんの方では、大幅賃貸料引き上げを要求して、店子が出て行った場合には、その部屋をオリンピック期間中の観光客目当てに短期貸しをしようともくろんでいたものと思われます。しかし、実際は、マンションの短期貸し出しはおろか、普通のホテルさえガラガラの状況で、賃貸料値上げ要求をした大家さんは、空き室を抱えて困っているのだろうと思います。そこで、多くの不動産屋さんが、多くの人がオリンピックに夢中になっている普通なら夏休みの真っ最中のこの時期に、必死の営業活動をやっているのだと思います。

 中国国内での観光客が意外に少なかったり、北京でのホテルの予約が埋まらなかったり、短期借り上げマンションにお客が付かなかったりする理由はいろいろあるでしょうが、考えられるのは以下の点です。

・原油価格の高騰により、国際航空運賃にかなりの額のサーチャージが掛かるようになったために、外国から来るオリンピック観戦客が予想外に少なかったこと(中国国内から北京に来る客に関しては中国の国内航空賃は暴落していますから、この理由は当たらないと思います)。

・四川大地震により中国全体に「観光をする雰囲気ではない」という心理が働き、中国各地から北京にオリンピック観戦をしに来る人が少なくなったこと。

・チベット騒乱、新疆ウィグル自治区でのテロの動きなどにより、外国人に対するビザの審査が厳しくなり、外国人観戦客が予想外に少なくなったこと。

(注)日本人は2週間以内ならばビザなしで中国に入れますが、現在、中国へのビザなし短期渡航が認められているのは、日本とブルネイだけです。従来、シンガポールからは短期滞在はビザなしでもよかったのですが、この7月からビザが必要になりました。中国の当局がビザの発給をどのくらい抑制しているのかわかりませんが、安全確保や中国国内でのデモなどを防ぐため、いつもより厳しくビザの発給がチェックされている可能性があります。ただし、ビザなしで入国できる日本人の観戦客も予想よりだいぶ少ないので、これはメインの理由ではないかもしれません。

・チベット騒乱、四川大地震、新疆ウィグル自治区でのテロ等で、中国国内の有数の観光地に行きづらくなり、オリンピック観戦をからめた観光旅行ツアーが組みにくくなったこと。

・北京のホテル代や短期貸し出しマンションの価格がべらぼうに高く設定されていたため、それを伝え聞いて、北京に来るのをあきらめた外国人や中国国内の人が多かったこと。

・オリンピック委員会関係者やスポンサーがチケットのかなりの部分を押さえてしまったため、一般に売り出されるチケットの枚数が少なくなり、チケットを入手できなくて北京での観戦をあきらめた人が多かったこと(オリンピックが始まってから今まで、多くの会場で空席が目立っていることを見ると、この理由はかなり大きいのではないかと思います)。

・世界的な不況で中国旅行をする余裕のある外国人が少なくなったこと。また、中国国内でも株や不動産の価格の低迷、輸出産業の不振などで経済的に余裕のある人も財布のヒモを締めてしまい、多くの人が北京での観戦はあきらめてテレビ観戦に回ったこと。

 四川大地震や原油の高騰がオリンピック直前に起きたことは中国にとって極めて不運だったと言えます。世界的な不況やそれを受けて中国国内経済にもブレーキが掛かりつつある現状も、タイミングとしては中国にとって「不運」と言えるかもしれません(ただし、オリンピック後、中国経済の中のバブル的な部分ははじけるだろうことは多くの人が予測していましたから、この程度の中国国内の経済の減速は「想定の範囲内」と言えるのかもしれません)。

 チベット騒乱や新疆ウィグル自治区でのテロは、むしろオリンピックの機会を捉えて世界の世論を喚起しようという考えに基づいて意図的に起こされたものなので、「不運」という言葉で表現するのは不適切ですし、この問題は根が深い問題で、何か措置を講ずれば事前に防げたはず、といった性質のものではないと思います。

 北京のホテルや短期貸し出しマンションの価格設定を高くし過ぎたこと、チケットを関係者やスポンサーが多く押さえ過ぎたこと、の二つは、私はちょっと「やり過ぎ」だったのだと思います。特にチケットについては、日本などでは「あんなに空席があるのだったら、観戦に行きたかった」と思った人が多いと思います。

 中国政府は、北京オリンピックを安全かつ円滑に運営し、その中で中国の選手が活躍してくれることを最大限の目標にしていますので、中国政府にとっては、オリンピックを機会に「ひと儲けしよう」と思っていた人たちの当てが外れたとしても、「そんなこと知ったこっちゃない」ということなのでしょう。

 オリンピックの時期に楽しく観戦できずに必死に営業活動をしている不動産屋さんは、ちょっと気の毒だとは思いますが、私に言わせれば、オリンピック時期のホテル価格や短期貸し出しマンションの価格の設定の仕方があまりに非常識だったので、ある程度「自業自得」の部分があると思います。オリンピック終了後、こういったホテル業界や観光業界、不動産業界の「当てがはずれた」部分をきっかけとして、中国経済全体が急激に縮小することにならないよう願っています。中国政府には、オリンピックの成功ももちろん重要なことですが、オリンピック後の中国経済がおかしくならないよう、経済運営の方もうまくコントロールして欲しいと思います。

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2008年8月13日 (水)

メダル・ラッシュ報道の裏の不気味な地鳴り

 オリンピックが始まってから、電子メールなどで中国国内旅行の宣伝がよく入るようになりました。「航空賃が安くなりましたので、著名観光地宿泊パックでたった○○○○元!」とか、「観光地近くの豪華ホテル、1泊△△△元で提供しております。御利用ください。」といった調子です。実際ネット上の航空会社の中国激安国内運賃の欄には16%、17%の激安チケットなどが載っています(16%引き、17%引きではない)。

 私は6月23日付けのこのブログで6月時点での中国国内航空賃が暴落していることに関連して「7月になってオリンピックが近くなると人の移動が多くなって国内航空賃も高くなると思うので、今の状況は一時的な現象だと思いますが・・・」と書きました。

(参考1)このブログの2008年6月23日付け記事
「中国国内航空:便によっては激安?」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/06/post_2490.html

 しかし、この中国国内航空賃激安状態は、オリンピックが始まった今も変わっていないようです。というかオリンピック景気の当てが外れた分、さらに国内航空賃は安くなっているのかもしれません。チベット自治区、四川省、新疆ウィグル自治区といった日本の外務省が「渡航の是非検討」以上の渡航情報(危険情報)を出している場所(2008年8月12日現在)は観光客が減ってもやむを得ないかなぁ、と思いますが、上記の「豪華ホテルをお安く提供しております」というのは、上記の渡航情報(危険情報)が出ていない(通常の状態の)場所にあります。中国全土に渡って、旅行者数が減っているのだと思います。

 8月12日夕方に配信された新華社電(英語版)によると、新疆ウィグル自治区の先日武装警察国境警備支部隊が襲撃されて16名が死亡(16名が負傷)したカシュガルの近くで、また、検問に当たっていた警備員3名が何者かに刺殺される事件(1名が負傷)が起きた、とのことです。

(参考2)「新華社」ホームページ英語版2008年8月12日16:32アップ
「新疆ウィグル自治区の道路の検問所で治安要員3人が襲撃されて殺された」
http://news.xinhuanet.com/english/2008-08/12/content_9214741.htm

 上記の新華社の英語の記事は見ることができますが、私は今(8月13日0時過ぎ)の時点では、新華社の中国語のホームページでこのニュースを見つけることができません。中国語の掲示板に「英語版新華社電によれば・・・」という書き出しでこの記事の内容を紹介する書き込みは見付けることができたので、たぶんまだ中国語ではこのニュースは配信していないのだろうと思います。一方、7月末から見ることができるようになったBBCのホームページ中国語版では、上記の新華社電英語版を元にした中国語の記事を見ることができます。たぶん、新華社が既に外国へ向けて配信しているので、中国の明日の朝発売の新聞には、この記事は載るでしょう。

 しかし、国営新華社通信が英語で配信し、外国のテレビ局が既に中国語で伝えているニュースを新華社自身が中国語で自国民に伝えていないこの状況を中国の人々はどう感じているのでしょうか。

 こういった報道のされ方も、対外的に「情報を隠したと言われたくない」という配慮と、自国民に対してはあまり刺激したくない、という複雑で困惑した当局の考え方を表していると思います。それにしても、これだけ立て続けて事件が起こるとさすがにちょっと不安になります。新疆ウィグル自治区は、警備上の重点区域であるはずですが、北京オリンピックの警備のために北京の警備も厳重にしなければならないために、警備の面でも人海戦術を採ることができる中国でも警備の人手が足りなくなっているのでしょうか。

 経済面でもここのところ中国の株価はオリンピックが始まる前には「ご祝儀相場」で少し株価が上がるのではないか、という期待もあったようですが、現実にはそういったものはなく、株価はここのところずっと低下傾向にあります。オリンピック関連の「景気のいい材料」はほぼ出尽くしたので、「オリンピック後」に対する警戒感が一気に出た形になっています。

 今のところ新聞紙面はオリンピック関連の中国のメダル・ラッシュに関する記事ばかりなので、治安面の経済面も「マイナスの話」は新聞紙上では全然目立っていない(ちゃんと報じられてはいる)のですが、「マイナスのニュース」が紙面上目立っていない分だけ逆にちょっと不気味な底流が見えないところで動き出し始めているような気がしてしかたがありません。

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2008年7月28日 (月)

中国経済は既に「オリンピック後」に突入

 オリンピックまであと11日にせまり「いよいよ」の感じが強まってきています。オリンピック直前になったのに、まだ「きれいな青空」が出現しないのが気になりますが、中国政府にとっては「オリンピック後」の経済等の急激な落ち込みが気になるところです。

 今日(7月28日)、新華社通信は、最近、党中央と政府が相次いで最近の経済情勢に関する会議を開催したことを伝えています。

(参考1)「新華社」ホームページ2008年7月28日
「中国共産党中央、目下の経済情勢を深く検討~科学的発展の堅持は揺るぎだにしない~」
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-07/28/content_8783721.htm

 この記事によると、7月8日~11日に、中国政府の国務院は連続して3つの経済情勢に関する検討会を開催した、とのことです。一つ目は7月8日に開催した地方の責任者からの報告と意見を聞く討論会、二つ目は7月10日に開かれた経済学の専門家によるマクロ経済情勢に関する検討会、三つ目は7月11日に開催された専門家による金融及び不動産情勢に関する検討会です。

 これらの会議で、温家宝総理は、厳しさを増す国際的な経済情勢と甚大な自然災害によっても中国の経済発展のファンダメンタルズ(基本的な状況)は変わらない、としながらも、体制上・構造上の矛盾は依然として存在しており、インフレ圧力が大きくなっている等の新しい問題が生じている、と指摘しています。

 引き続いて7月15日と16日の二日間、半日づつかけて温家宝総理は、国務院常務会議を開き、2008年上半期の経済情勢の分析と下半期の経済政策について議論を行った、とのことで、この席で、温家宝総理は次のように強調したとのことです。

・直面する困難と問題を高度に重要視し、危機意識と憂慮の意識を強め、各項目の業務をしっかり行う自信を持たなければならない。
・中国は、今、戦略的に重要な時期に直面している、という認識は変えてはならない。
・企業の競争力と活力を絶え間なく向上させ、市場の変化に対応する能力を増強しなければならない。
・マクロ経済の調整能力は実践の中でこそ、さらなる改善と向上が図られるのである。
・2008年下半期における経済政策においては、安定的で比較的スピードのある経済発展を保持するとともに、マクロ経済調整のために最初にやるべき任務として物価の急激な上昇を抑制させ、真っ先に取り組むべき課題としてインフレを抑制することを位置付けなければならない。

 これらの発言は、株価の暴落や不動産価格の低迷によって多くの投資家たちが政府によるマクロ経済調整政策(景気の引き締め政策)に批判的になっているのに対して、温家宝総理は、今はインフレ懸念がありマクロ経済調整政策の基調は今後も継続させると宣言した、と取ってよいと思います。

 これらの会議と相前後して、この7月は、実に多くの国家指導者たちが、沿岸部等の中国経済の「機関車」となっている地区を相次いで訪問しています。列記すると以下のとおりです。

・陳徳銘商務部長:7月第1週、浙江省(温州、台州等)
・温家宝総理:7月4日~の6日、江蘇省蘇州、上海
・習近平政治局常務委員:7月4日~5日、広東省(深セン、東莞)
※この訪問は香港訪問の途上に行ったもの
・王岐山副総理:7月3日~5日、山東省(烟台、威海)
・李克強政治局常務委員・副総理:7月6日~8日、浙江省(温州、杭州等)
・呉邦国政治局常務委員・全国人民代表大会常務委員会委員長:7月7日~10日、内モンゴル自治区(フルンベル、満州里、オルドス、フフホト等)
・温家宝総理:7月19日~20日:広東省(広州、東莞、深セン)
・胡錦濤主席:7月20日、山東省青島
・賈慶林政治局常務委員・全国政治協商会議主席:7月21日~23日:天津

 これだけそうそうたるメンバーの国家指導者の方々がほぼ時期を同じくして各地を視察するのは極めて異例のことだと思います。行き先は呉邦国氏が行った内モンゴル自治区以外は、全て沿岸部の輸出型製造業の中心となっている地域です。オリンピックやオリンピックに対するテロへの警戒が話題になっていますが、現実世界の問題としては、中国経済が今曲がり角に来ていることの方が重要だと私は思います。

 2008年前半は、中国経済は人民元レートの上昇(ドル安と表裏一体の現象ですが)、原油価格の急騰による原材料コストの上昇、労働契約法の施行(2008年1月1日)に伴う労働コストの上昇、安全性の問題に対する各国からの懸念等が重なって、中国の輸出産業には大きなブレーキが掛かったことが上記の国家指導者の沿岸地域での視察に繋がっていると思います。上に述べたように温家宝総理がその講話の中で「直面する困難と問題を高度に重要視し、危機意識と憂慮の意識を強め」といった緊迫感を持った表現を使っていることからも国家指導者の中国輸出産業に対する危機意識が窺えると思います。

 7月17日に発表された国家統計局の数字によると、2008年上半期の中国経済は、GDPは対前年比10.4%の伸びを示しましたが、その伸び率は前年を1.8ポイント下回った、とのことです。また、2008年上半期の輸出額は6,666億ドル、対前年同時期比21.9%の増でしたが、この伸び率は前年に比べて5.7ポイント下落しているとのことです(輸入額は5,676億ドル、対前年同時期比30.6%の増で、逆に伸び率は前年を12.4ポイント上回った)。安い労働力による労働集約型輸出産業に頼って急成長してきた中国経済が、今、曲がり角に来ていることは間違いないと思います。

 それに加えて、昨年秋にピークに達した後、ピーク時の半分以下に落ち込んでしまった株価や昨年暮頃から見え始めていたマンション等の不動産販売の低迷が「株や不動産に投資していた金持ち層が消費を手控える」という形で実態経済にも影響し始めているのではないかと思われます。今年1月の寒波・大雪被害や5月の四川大地震は、自然災害としての被害は甚大でしたが、大きな中国経済全体から見れば、経済の基本を動揺させるほどのものではないとは見られています。しかし、特に四川大地震については、無駄な出費を控えるという形で、心理的な消費抑制効果の面で中国経済に影響を与えている可能性があります。

 最後の追い打ちが「期待していたオリンピック景気が実際はそれほどでもないらしい。」ということを多くの人が感じるようになったことだと思います。北京市内のホテルは、かなり高めの価格設定をしたこともあり、一部の高級ホテルを除いて、まだかなり予約が入っていないところが多いようです。7月11日の時点で北京市旅遊局の熊玉梅副局長が述べたところによると、この時点でオリンピック期間中の5つ星級ホテルの予約率は78%、四つ星級ホテルは48.5%、三つ星級、二つ星級でも予約が入っているのは半分以下だ、とのことです。

(参考2)「新京報」2008年7月12日付け記事
「オリンピック期間中のホテルの宿泊代は最高で4倍近くに高騰」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/07-12/011@025743.htm

 前々からオリンピックが終わった後は「オリンピック・バブル」が崩壊する、といった心配はなされてきましたが、それが現実のものになりそうな気配があることと、それに加えて中国経済の根本を支えている輸出産業にかげりが見え始めてきたことに対して、党と政府の指導者の方々はかなりの危機意識を持っているようです。上記のような国家指導者による輸出産業地域の視察と相次ぐ会議を踏まえ、(参考1)に掲げた新華社の記事によれば、まず7月21日に胡錦濤総書記は中国共産党以外の民主党派の幹部や無党派の知識人を招いた会議を開いて検討会が開催されたとのことです。胡錦濤総書記・国家主席は、この席で、次の6つのポイントを指摘したとのことです。

(1) 安定的で比較的スピードの速い経済発展を全力を持って維持すること。そのためには内需を拡大するとともに、対外貿易を安定的に発展させて、国際及び国内の両方の市場を十分に活用すること。

(2) 物価上昇のスピードを抑制すること。経済的な政策と法律による行政手段の両方を使って、供給量を増加させ、不合理な需要を抑制すること。特に食糧・食糧油・肉・野菜等の生活必需品の生産の増強に努めるとともに、市場の監視・監督を強化すること。

(3) 農業生産を着実に発展させること。品種のバランスに注意しながら、穀物の安定的な増産に努力すること。さらに一歩農業優遇政策を進めて、農業に対する補助金制度を強化し、農業生産コスト削減のための政策を採り、食糧生産農民の意欲を維持すること。

(4) 経済発展方式の転換を図ること。産業構造を変化させ、科学技術の進歩とイノベーションを積極的に推進し、全力で省エネ・汚染物質排出削減を図ること。

(5) 改革開放政策を継続すること。資本市場体系の整備を急ぎ、行政管理体制改革をより前に進め、対外開放を拡大すること。

(6) 人民生活を保障する業務を誠心誠意行うこと。地震災害に対する救援・復旧作業をしっかり行い、困窮する大衆と大学卒業生の就業対策をしっかり進め(注)、自然災害被災地区の労働者に就業機会を与えること。特に物価の上昇が低収入の大衆の生活レベルに影響していることに関心を払い、財政支出をもって人民生活を支え、低収入の大衆の生活レベルがこれ以上低下しないように努力すること。

(注)中国では2000年代初頭から大学生の数が急速に伸びたのに対し、中国の多くの企業は低賃金労働者を大量に雇用する経営形態から脱しておらず、大学卒業以上の高学歴者に対する求人はあまり多くないのが実態です。高学歴化は進んだのに、産業構造の変化がそれに追い付いていない、という人材の需給の面でのミスマッチが中国では問題になっているのです。

 これらの胡錦濤主席の指摘は、そのまま現在直面している問題点のポイントを突いていると思います。

 こういった認識に基づき、胡錦濤総書記は、7月25日、中国共産党中央政治局会議を開き、上記の認識に基づく現在の経済政策と今後の経済政策についての議論が行われました。そしてこの会議でこの10月に第17期中国共産党中央委員会第三回全体会議(第17期三中全会)を開いて、農村改革問題について検討を進めることが決められました。

 今年は、1978年にトウ小平氏が、それまでの「文化大革命」路線から大きく舵を切って改革開放路線を始めてから30年目に当たります。改革開放路線への転換を決めた会議が第11期三中全会だったのですが、この10月に開催が決まった第17期の三中全会も重要な会議になりそうです。オリンピックが終わったのを受けて、オリンピック後の次のステップの中国の歩むべき道を議論する会議になるだろうと思われるからです。

 中国経済が曲がり角を迎えた今、新しい時代を乗り切るには科学技術の面での「創新」(「より新しいもの・システム・制度を作る」という意味で技術的な「イノベーション」よりも幅の広い言葉)が必要である、という点について、最近、人民日報でもいくつかの論評が掲載されました。この点については、このブログに書かれていることと重複する部分もありますが、下記のページも御参照ください(下記の文章を書いたのはこのブログの筆者です)。

(参考3)科学技術振興機構(JST)中国総合研究センター
「JST北京事務所快報:2008年第7号」(2008年7月23日)
「2008年上半期の中国経済とイノベーション」
http://crds.jst.go.jp/CRC/newsflash/beijing/b080723.html

 今、世界のトップ・アスリートたちは、本番のオリンピックへ向けて、集中力を高めつつある時期だと思いますが、中国経済の実態と、それにうまく対処しようと考えている中国の国家指導者の方々の頭の中は、既に「オリンピック後」へ向けて始動し始めているようです。

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2008年7月14日 (月)

時事ネタ・ジョークはどこまで許されるのか

 6月28日に起きた貴州省甕安県での暴動事件は、ある少女が川で死亡しているのが見つかり、警察は自殺だと断定したが、少女が死んだ現場にいた男友達の中に県や公安の幹部の息子がいて、本当は少女を乱暴して死に至らしめたものを警察が自殺だと決めつけたからではないか、と多くの民衆が疑ったことから発生したのでした。

(参考1)このブログの2008年7月3日付け記事
「貴州省甕安県の暴動事件の真相」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/07/post_ef2a.html

 上記のブログの記事にも書きましたが、この事件について、貴州省の公安当局は、少女が死亡した時の状況について次のように説明しています。

○男女4人が夜に川の上の橋のところへ来て話をしていたところ、少女が「川に飛び込んで死ぬのはやめた」と言った。

○この少女の男友達が離れていった後、もう一人の男性が橋の上で腕立て伏せを始めたところ、少女が川へ飛び込んだ。

○急いで助けようとしたが助けられず、警察を呼んで少女を引き上げた時には既に少女は死亡していた。検死の結果、死亡の原因は溺死だった。乱暴された形跡は見つからなかった。

 この公安当局の発表を聞いて、多くのネットワーカーたちは、若い男女4人が夜に橋の上に行って話をしているうちにそれぞれがバラバラになった、という状況の下で、その中の男が突然「腕立て伏せを始めた」という状況がどう考えても不自然だと感じたのでした。「この説明では納得できない」「ウラに何かあるはずだ」として、インターネットの掲示板でこの件に関する議論が燃え上がったのでした。そして、「寝苦しい夜には腕立て伏せをしよう」といったような、皮肉を込めた言い方が流行し、「腕立て伏せ」という言葉は、あっという間に中国のネット上での「流行語」になったのでした。

 こうした状況を背景にして、南京市内のあるマンションの建設現場で、マンション販売会社が「マンション価格は水に飛び込むようなことになるはずはない。ただ、腕立て伏せをしているだけだ!」という大きな広告板を出しました。これは最近、不動産バブルがはじけ気味で、マンション価格が低落している地域があることを踏まえて、「マンション価格が急落することはありませんよ。今、少し価格が下がっていますが、またしばらくすると上がってきますよ(だから、心配しないでマンションを購入しましょう!)」とお客に訴える広告なのです。貴州省甕安県での事件を念頭において、「水に飛び込む」「腕立て伏せ」という今ネット上で流行っている言葉を使った一種のジョークです。

 客観的に言って、少女が死亡し多くの住民が暴動を起こした事件をジョークで茶化すことは極めて不謹慎で、ひんしゅくモノだと私も思いますが、今の中国で、こういった政治的背景がある時事ネタを使ったジョークがどこまで許されるのか、を計る上では、ユニークな例だと思います。この広告は、今のところ、当局から「ケシカラン」というおしかりは受けていないようです。この広告主は、不動産価格が不安定になっている現状に対して有効な手を打っていない政府の政策にひとこと物言いをしたかったのかもしれません。その意味では、この広告は、社会的には相当に不謹慎でひんしゅくモノだとは思いますが、政治的には、結構、辛辣な風刺も含んでいると思います。

(参考2)「現代快報」2008年7月9日付け記事
「『腕立て伏せ』がマンションの広告になる」
http://www.kuaibao.net/html/2008-07/09/content_64068671.htm

 今、私の住んでいるアパートメントでは、香港で制作され衛星を使って配信されている普通話(中国の標準語)の音楽専門チャンネル「チャンネルV」を見ることができます。去年の夏頃、このチャンネルで流れていたある音楽配信サイト運営会社のコマーシャルを見ていたら、アニメーションで若い労働者風の男女が集団でピンク色の旗を高く掲げたり拳を高く振りかざしながら行進している場面が出てきました。1950年代の社会主義の宣伝映画の場面のような雰囲気でした。そして、「為音楽服務」という文字が大きく出て、この音楽配信サイトの会社名がバーンと画面に出たのでした。「為人民服務」(人民のために奉仕する)というのは中国共産党の最も重要なキャッチ・フレーズなので、このコマーシャルを見て、私は大いに受けてしまいました。掲げているのが紅い旗ではなくて、ピンク色の旗なので、まぁ、これくらいのジョークは許されるのだろうなぁ、と思いながら見ていました。しかし、このコマーシャルは、この時1回だけ見ただけで、その後は一度も見ることはありませんでした。

 私個人としては、大いに「受けた」このコマーシャルですが、誰が見ても中国共産党のキャッチ・フレーズのパロディであることは明らかなので、「その筋」からおしかりを受けたのかもしれません。このチャンネルは制作されているのが香港なので、そういったCMを制作する表現の自由は保証されているはずなのですが、この衛星放送局は大陸に配信することが大きな収入源ですから、「その筋」からおこられたら従わざるを得ないのでしょう。このCMが二度と見られなくなってしまったことから、私は、やはり、中国共産党のパロディというのは、中国においては「許される範囲を超えたジョーク」なのかなぁ、と思ったのでした。

 「これを言ってはいけない」「こういう表現をしてはいけない」という規制を掛けると、人々はそれに触れない範囲で微妙な言い回しで婉曲な表現を使って、自分の言いたいことを表現するようになります。上記の貴州省での暴動についてのこのブログの記事にも書きましたが、「水は船を浮かべることができるが、水は船をひっくり返すこともできる」といった掲示板の発言は、これだけ見れば、表現禁止の内容には当たりませんが、周囲の状況を踏まえると、相当きわどいことを表現していることがわかります。従って、上で紹介したマンション販売会社の広告板は、社会的にはいささか不謹慎だとは思いますが、今の中国では、政策に対する風刺、という意味では、なかなかひねった傑作のひとつと言えるのかもしれません。

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2008年7月10日 (木)

困難に直面する「メイド・イン・チャイナ」

 今日(2008年7月10日)付けの「人民日報」に掲載された評論「人民時報」では、最近の中国の沿岸部での輸出産業の不振に触れ、この不振を打開するには、自主的なイノベーションを進めなければならない、と力説しています。

(参考)「人民日報」2008年7月10日付け10面記事
「『メイド・イン・チャイナ』はいかにして難局を脱出するのか」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-07/10/content_56366.htm

 この記事のポイントは以下のとおりです。

○広東省統計局が6月30日に発表した数字によると、今年(2008年)1月~5月の5か月間で、広東省の一定規模以上の工業分野の企業で赤字になったのが11,006社で、増加率は12.7%であり、この数は広東省全体の工業分野の企業の26.0%に当たる。赤字額ベースで言うと、増加率は49.3%に上る。

○広東省と同じように市場経済が発達している浙江省台州市では、5,371社ある一定規模以上の企業のうち赤字なのは1,111社で、赤字額総計は対前年比55.7%増である。

○こういった企業の業績不振は、国際経済の変化によるものだ。人民元為替レートの上昇、原油をはじめとする原材料価格の上昇と世界的な経済成長の減速が「メイド・イン・チャイナ」が生き残る「空間」を狭くしている。

○浙江省の紡績アパレル業界は、輸出依存度が60%であり、これらの要因の影響を大きく受けている。

○これまでの中国の輸出産業は、安い労働力と安い資源価格、増値税の還付措置などで守られてきたが、今は難しい局面に直面している。

○市場経済が進展した現状にあっては、政府が先祖返りするような財政的な補助金政策を行うことはあり得ない。政府は自主的なイノベーションを進めるための環境を整備する政策を採らなければならない。

○金融政策もまた重要である。政府は、金融制度を刷新して、金融企業が主体的に産業に金融サービスを提供するようにできるであろうか?

○「メイド・イン・チャイナ」の更なる「創新」は、社会的価値観を作り上げることと無関係ではない。不動産投機で儲けた人たちが莫大な利益を上げてそれを産業資本化できるようになった時、その財力で技術の研究開発が行われただろうか? 何千万人もの「サラリーマン」が株式市場で一攫千金を夢見てばかりいたのでは、コツコツと勤勉に働くことによって富を得るという職業精神をどうやって向上させようというのか? 創新(イノベーション)の成果を尊重することによってはじめて、自主的な創新を推し進めようとする力を永続させることができるのである。

○「メイド・イン・チャイナ」の苦境は中国の経済・社会の縮図である。長期的な高度経済成長の後には、経済と社会の深層に様々な矛盾が生じることを避けることはできない。「メイド・イン・チャイナ」が遭遇しているプレッシャーを、これからの成長のための動力源にし、困難に立ち向かっていくこと以外に新しい道へ脱出する方法はないのである。

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 日本の多くの人は「メイド・イン・チャイナ」が直面している問題の原因は、そんなことじゃないでしょ(食品安全やニセモノの問題でしょ)と感じている人が多いと思います。しかし、安全性が問題となっている食品やニセモノは、「メイド・イン・チャイナ」として輸出されている製品の一部に過ぎず、全体的な問題は、上記の人民日報が指摘している問題だ、と私も思います。

 ここでは、人民日報が、最近の国際経済情勢の下で、中国の輸出産業が苦況に立ちつつあることを率直に認め、それに対応するためには技術革新を行う以外にない、と指摘していることに注目したいと思います。この人民日報の記事では、株や不動産で儲けることにばかり熱中して、技術革新に投資しようとしない現在の多く資産家の傾向に対しても批判をしています。ただ、そういう傾向を招来したのは、党と中国政府による経済政策であったはずなので、それに対する自己批判がないところが、中国共産党の機関誌たる人民日報としては物足りない、と私は思います。

 具体的に、どうやったら、お金を持った人が株や不動産で儲けることに走らずに、「創新」にお金を使うようにできるのか、といった具体的な方策にも触れられていないのも、この記事の「物足りなさ」です。ただ、言うのは簡単ですが、中国の企業が自主的に自分で技術革新をするような気持ちにさせることはなかなか難しいと言わざるを得ません。今のマーケットでは技術革新のスピードが要求されますから、基盤技術を持たない中国の企業にとっては、長い時間が掛かる自主的な技術開発に投資するより、外国から安い技術をお金で買ってきた方がビジネスとしては有利だからです。結局は、「じっくりと研究して新しいものを見付けられる人」「コツコツと勤勉に働く人」が長期的に見れば利益をしっかりと得ることができるのだ、という経済社会にするための基盤をじっくり固めていくことが、時間は掛かるけれども、最終的な解決策なのだと思います。

 今年のお正月にも書きましたが、後から振り返った時、やはり2008年は、中国にとって、「北京オリンピックがある年」以上の大きな節目の年になるのだろうという思いを年の半ばにして改めて強くしました。

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2008年7月 6日 (日)

「中国の不動産市場:急を告げる」との記事

 経済専門週刊紙「経済観察報」の2008年7月7日号(7月5日発売)の1面トップに「中国の不動産市場:急を告げる~開発業者が2つの大きな意見を提出、発展改革委員会は衰退のリスクに警戒~」と題する記事が載っていました。最近の中国の不動産市場の冷え込みに対して、開発業者が政府の関係機関が不動産市場に存在するリスクに対して関心を持ち、これを解決するよう希望する、との意見を出した、とのことです。意見の中身は具体的には「資金金融関係に対して下支えを提供できるかどうか」ということと「市場の需要に対して下支えを提供できるかどうか」ということ、とのことです。

 関連記事によると、今年1月~5月の全国の部屋の販売価格は対前年同月比の平均で11.2%上昇しているが、上昇幅は縮小傾向にある、広州、深セン等珠江デルタ地帯の都市においては価格は下降傾向にある、5月の新築住宅価格について見れば四川省の成都は0.4%、重慶は0.1%のマイナスだった、とのことです。また、今年1月~4月に販売された部屋の面積は対前年比4.9%の減少、そのうち住居用部屋の販売面積は対前年比0.4%減少だった、とのことです。その一方で、同じ時期に竣工した販売用の部屋の面積は19.5%の増加、うち住居用部屋の竣工面積は20.2%の増加で、供給量は依然として増えている、とのことです。

 こういった状況に対して、「中国の不動産市場が衰退するリスクがあるのか」「リスクがあるとして、それに対して政府が何らかの措置を取るのか、措置を取るとしてどのような措置をどのようなタイミングで行うのか」といった問題があります。「政府による市場を救済する措置」については、どういった措置が可能なのかは難しい問題です。

 北京地区においては、以前から、オリンピックを境にして建築ブームは一段落するのではないかと言われていました。それに加えて、5月12日に起きた四川大地震で、投機目的でマンションを買おうとしていた層が、資産としてマンションを購入することに対するリスクを強く意識するようになり、マンション購入を控える心理が働いているのではないか、とも言われています。

 ネット上で見られる「経済観察報」のページには、「部屋の価格は下がらないという神話は終わった~或いは理性へ回帰するのかもしれない」と題する宋清華という人の書いた記事が載っています。

(参考)「経済観察報」ホームページ2008年7月4日付け記事
「部屋の価格は下がらないという神話は終わった~或いは理性へ回帰するのかもしれない」
http://www.eeo.com.cn/Politics/beijing_news/2008/07/04/105347.html

 この記事では、住宅・都市農村建設部が発表した最新のデータとして、今年1月~5月に40の主要都市において売り出された新築の部屋と中古の部屋の累計の契約成立面積は、それぞれ24.9%、20.9%の比率で減少している、という数字を紹介しています。2007年の暮れから土地売買市場が冷え込み、多くの開発業者が大量の物件を抱えることに対するリスクを感じているとも指摘しています。

 原油価格の急騰に伴う影響など、今後の中国経済には、様々な要素が絡んで来ており、先行きを予測することが難しい状況になってきています。今後どのような変化が起こるにせよ、政府による適切な対処と市場関係者の冷静な対応により、その変化がマイルドでソフトなものになることを願いたいと思います。

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2008年6月29日 (日)

中国国内航空便でスケジュールの乱れが頻発

 6月になって、中国国内航空便の遅れや欠航が目立っています。飛行機便ですから、天候の影響や機体の整備の関係で遅れや欠航が出ることは仕方がないのですが、最近の中国国内便の遅れや欠航は、かなりなものだと思います。この6月、仕事関係の2つの中国国内出張で、行きと帰りの往復両方で、出発・到着時刻の大幅な遅延や欠航などが出て、若干辟易(へきえき)しています。昔に比べれば、中国でも、きちんとした誘導装置を導入した空港が多くり、少々の雨や霧でも電子誘導装置で着陸できるので、中国の国内航空便の運航状況は、日本の国内便とそれほど変わらない、というイメージを持っていたのですが、ここに来て、スケジュールの乱れが気になるようになっています。

 出発遅れの場合、空港や機内のアナウンスではその理由についてあまり情報が流されません。情報提供があったとしても「到着地の天候の影響により・・・」といったものが多いのですが、到着地の人に電話を掛けてみると、「別に天候は悪くないですよ」といった返事が返ってくることがしょっちゅうです。航空会社側の都合で一定時間以上到着が遅れた場合は、一定金額を払い戻ししなければならない、といった規定があるので、それを避けるために、本当の理由を言っていないのだ、という人もいますが、真相はわかりません。

 6月23日の記事にも書きましたが、最近、中国国内線で、路線や時間帯によっては、極端に安い安売りチケットが出回るようになってきています。これと運航スケジュールの乱れとは、何か関係があるのかもしれません。

(参考)このブログの2008年6月23日付け記事
「中国国内航空:便によっては激安?」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/06/post_2490.html

 最近の中国国内線のスケジュールの乱れの原因としては、私は、以下のような可能性があるのではないか、と推測しています。

(1) 四川大地震の救援・復旧のため、政府が人員や物資の輸送のために国内航空会社にチャーター便の運航を数多く要請しているため、機体や運航要員のやりくりが難しくなり、欠航が出たり、スケジュール変更が多くなったりしているため。

(2) 中国南方を襲った大雨、台風の上陸、華北地方における雷雨の多発など、例年になく天候が不順なため、運航スケジュールが連鎖反応的に乱れ、一部、機体のやりくりが付かない、などの理由で欠航が出たりしているため(この6月、北京で例年になく異様に雷雨が多い(ほとんど毎日のように雷雨が発生している)のは事実です)。

(3) オリンピックを控えて乗客や手荷物、託送荷物に対するセキュリティ・チェックが厳しくなり、疑わしい人や疑わしい荷物について確認検査を念入りに行っているので、出発遅れが相次ぎ、それが連鎖反応的に広がっているため。

(4) 四川大地震による観光旅行の自粛、株価の暴落による金持ち階層の旅行の手控え、チベット問題や四川大地震による外国からの観光客の減少等により、中国国内便の利用客が減り、一方で原油価格が高騰していることから、1日複数便運航している路線について、予約客が半数に満たない便を欠航とし、2つの便を1つに合わせて飛ばしているケースが多発しているため。

 原因が(1)や(2)だったら致し方ない、と思うし、(3)についても安全運航のためならしょうがない、と思いますが、もし(4)のケースなのだとするとちょっとケシカラン、と思います。新聞などでも何が原因なのか報道されないのでわからないのですが、私の身近で同じ航空会社が1日複数便飛ばしている路線で、朝1番の便が欠航になって切符を2番目の便に切り替えた、というケースを2回連続して経験しましたので、私は(4)のケースも実際にあるのではないか、と疑っています。私のように北京に住んでいる人は、1便遅れてもあまり影響がないのですが、中国国内から北京や上海経由で日本へ帰る予定にしていた人は、朝1番の便が飛ばないとその日のうちに日本に帰れなくなるケースがあるので、結構影響が大きいのです。

 地震の救援や気候の影響やセキュリティ・チェックに時間が掛かりすぎる、などといった原因ならば仕方がないと思うので、「なぜ遅れているのか」「なぜ欠航なのか」をきちんと正確に(正直に)乗客にアナウンスして欲しいと思います。国際線だと、情報提供の仕方が悪いなどサービスが気に入らない場合はほかの航空会社にお客が流れるので、中国の航空会社もスケジュール変更についての情報提供はお客にきちんとやると思いますが、中国国内線の場合、どの航空会社も同じように情報提供しないので、いくらお客が「理由をきちんと説明しろ!」と怒っても、全然改善しないのです。この辺は、まだ、航空会社を分割した「競争原理効果」が現れていないところだと思います。

 オリンピックの時期になって、オリンピック観戦のついでに中国国内を観光しようという人が多くなる頃には改善していることを願いたいと思います。

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2008年6月23日 (月)

中国国内航空:便によっては激安?

 中国の航空会社は、もともとは中国民航1社だったのが、その後の改革開放政策の進展に伴い、今は多くの航空会社に分割化されています。そのため、特に多くの会社が競合している中国の国内路線では、航空会社間で相当競争が激しくなっています。四川大地震の後、気分的に観光旅行に行く雰囲気でなくなったためか、ここのところ、便によっては相当の激安チケットが売り出されるようになってきています。

 インターネットで中国国内線の航空会社のネット予約のページを検索すると、いろいろな値段のチケットが表示されるのですが、早朝便とか、夜遅い便とか、ちょっと不便な便だと、とんでもない安売りチケットが売り出されています。先週は、北京-ハルビン線で150元(約2,250円)、先ほど見たら北京-西安線で100元(約1,500円)なんていうものもありました。こういうのは、今見た時はネットに載っているけれども、すぐに売れてなくなってしまうので、この次に見たら値段は変わっていると思いますが、それにしても、四川大地震の後は、「激安さ」が一段と激しくなった気がします。

 もちろん、こういった「激安チケット」は、ほかに通常料金で乗る客が現れたらそちらを優先する、などという特殊な条件が付いているのだと思います。中国の国内線は、予約する時に旅行会社に聞くと、直前になっても「まだ空席がありますので、お好きな時間帯の便が選べますよ。」などと言われる路線でも、実際に空港に行って飛行機に乗ると、ほとんどの場合、満席です。たぶん、直前まで待って席が埋まらなかった場合にだけ乗せてくれる、という超安売りチケットを買っている人がいるからだと思います。

 直接的には今は四川大地震の後なので不要不急の旅行・出張などが控えられているからだと思いますが、去年の秋頃に比べたら、不動産バブルもはじけたようだし、株も半額以下のレベルになっているので、お金持ちの人たちの「旅行熱」が冷めてしまったことも原因かもしれません。7月になってオリンピックが近くなると人の移動が多くなって国内航空賃も高くなると思うので、今の状況は一時的な現象だと思いますが、それにしても100元台の航空運賃にはびっくりしました。原油価格がこれだけ高騰している中、中国の国内航空会社はやっていけるのでしょうか。

 もしかすると「オリンピック後」のバブルの崩壊が既に始まり掛けているのかもしれません。

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2008年3月31日 (月)

不動産や株のバブルの終わりが明確になった

 今日(3月31日)付けの「人民日報」の経済面に、不動産と株の状況に関する記事が掲載されていました。

 まず、不動産については13面に次の大きな見出しの記事が載っています。

(参考1)「人民日報」2008年3月31日付け記事
「不動産市場の需要と供給は逆転したのか」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-03/31/content_48327168.htm

 この記事では、2007年の第2、第3四半期において急騰した不動産価格が、2007年第4四半期以来、全国70の大中都市での値上がり幅が緩慢になり、広州、深センなどでは値下がり傾向が出始めていることに対して、これが長期的観点から見て不動産の需要と供給の関係が逆転したことを意味するのかどうか、についての専門家の分析を掲げています。

 それによると現状は以下のとおりです。

○2007年の通年の統計では、売りに出された住宅の面積が対前年10%増加したのに対し、実際に販売れて登記された住宅の面積は対前年24%増であり、住宅需要の底堅さを示した。これは、依然として供給が需要に比して不足していることを示している。

○2007年の40の重点都市について見ると、売買契約が成立して登記された新築住宅全体のうち40%(面積ベース)が「二番手住宅」(既に住宅を持っている人が購入する住宅:投機目的に購入するケースが多い)である。一方、低収入家庭や都市の外部から出稼ぎに出てきている人たち、大学を卒業して就職したばかりの人たちが入居したいと思っている賃貸住宅の市場の発展は停滞している。2部屋以上の比較的広い住宅がかなりの数売れないで残っており、40の重点都市では売りに出されている住宅のうち建築面積90平方メートル以下の標準的な広さの住宅の割合はわずか25%程度に過ぎない。即ち、発売される住宅の供給と住宅を欲しいと思っている人たちの実需要との間に矛盾が生じているのである。

○相次ぐ利上げなど政府の経済過熱防止政策が出されていることから、多くの人が「模様眺め」の状況に入っている。このため、北京、上海などでは、住宅販売量が減少している。

○専門家は、中国の不動産需要の源は次の4つであると分析している。
(1) 急速に都市化する人口増加による住宅需要の増加。
(2) 住民の収入の増加に伴う古い住宅から新しい住宅へ、狭い住宅から広い住宅への買い換え需要。
(3) 都市開発のため古い家屋を取り壊された人たちによる必然的な住宅需要。
(4) 過剰流動性、人民元相場上昇を期待する外資による投資需要。
こういった事情を踏まえ、中小型住宅の強化、外国資本による住宅への投資の抑制などを図るべき、と専門家は提案している。

 また、この日の「人民日報」の同じ紙面(13面)には次のような記事も出ています。

(参考2)「人民日報」2008年3月31日付け記事
「値下がりの声の中で不動産価格について語る」(経済ホット・トピックス)
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-03/31/content_48327167.htm

 この記事のポイントは以下のとおりです。

○北京市統計局の発表では、2月の北京の不動産価格指数は前月比0.7%下がった。市街地から遠い地域では価格が軟化しつつあるようだが、市街地近くの住宅に対する需要はまだ強く、値下げに応じない地域も多い。

○国家統計局の2007年第4四半期の全国70の大中都市の価格上昇率は10.2%であり、今年2月は10.9%である。

○しかし、上昇のスピードはゆるみ始めており、重慶、長沙、成都、杭州等の中堅の13都市においては住宅価格の値下がりも見られている(遵義(貴州省)は2.2%、重慶は1.7%、長沙(湖南省)と成都(四川省)は0.4%の下落である)。

 慎重な言い回しではあるけれども、これらの人民日報の記事は、不動産の価格上昇傾向に歯止めが掛かったことを明確に示していると思います。

 上記の不動産関係の記事の載っている次のページの14面には、株に関する次の記事が載っています。

(参考3)「人民日報」2008年3月31日付け記事
「資本市場に対する税制政策は完全なものにしなければならない」(ホットな焦点特集)
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-03/31/content_48327176.htm

 この記事では、株式取引税の制度の経緯を解説し、一定の程度の株式取引税の必要性を説明しています。この記事は、先週、最近の株式市場の低迷を受けて、「政府が株式取引税率を下げるのではないか」との期待感から若干株価が値上がりしたことを受けて書かれたものと思われます。中身を読めば「政府は当面、株式取引税の税率を下げるつもりはない」と読めるものです。こういった政府の姿勢に反応したためか、今日(3月31日)の上海株式市場の指数は先週に比べて約3%下げて引けました。

 株に関しては、今日(3月31日)午前10:01にホームページに掲載された新華社電では、インターネットによる調査によると、最近の株の値下がりを受けて、回答者の9割は「管理層」は株式市場を救う対策を取るべきだ、と考えている、とのことです。

(参考4)「新華社」ホームページ2008年3月31日10:01アップ記事
「インターネット調査:9割近いネットワーカーは『管理層』に対し速やかに市場を救済する措置を取ることを望んでいる」
http://news.xinhuanet.com/finance/2008-03/31/content_7888994.htm

 この記事のポイントは次のとおりです。

○2007年10月以来、上海株式市場指数が6100ポイントから3400ポイントに下がったことにより、多くの投資者が大きな損失を被っている現状に関し、3月31日10時までの時点で、5万人のネットワーカーに対して調査を行った。これによると回答者の89%が現在の株式市場を「不正常」だと認識しており、87.6%の人が「管理層」は直ちに市場救済の措置を取るべきだと主張している。

○新華社ネットのフォーラム上では、多くのネットワーカーが、株式市場において非理性的な下落が起こった時は、管理部門は適切な政策を打ち出して市場を安定させ、投資家の利益を保護することが必要で、それが管理部門の責任である、と認識している。

 この記事で言っている「管理層」とか「管理部門」とかいうのが「中央政府」を指すのかどうか明確ではありませんが、中国の株式市場には「株価が下がるのは『不正常』だ。誰かが何とかすべきだ。」と考えている投資家が多いことを伺わせます。

 中国政府は、昨年来、「経済の過熱化を防ぐ必要がある」と公言し、中国人民銀行による利上げも何回も行われて来ましたから、不動産や株の値上がりがいつか止まることは、ある程度予想されたことで、ある意味では現在の不動産や株式市場の状況は政府が思い描いていたとおり、と言っていいのかもしれません。中国政府は、北京オリンピックが終わるまで、不動産や株がバブル的に膨張を続けていって、オリンピックが終わった途端にいっぺんにそのバブルがはじけるのを最も懸念していたはずで、実態経済を超えた「バブル」の部分は、オリンピックの前にはじけさせておこう、と考えていると思います。政府が想定している通りに経済が動いているのならば、不動産や株の値上がりが止まった事態は、冷静に受け止めてよいと思います。

 問題は、不動産や株が下がった場合、それによって生じた損失について自分の責任だとは考えずに、被った被害は政府等の誰かがきちんと救済べきだ、と思っている投資家が中国には多い、ということです。中国が市場経済の道を歩む以上、不動産や株で損をした人を国が救済する、ということはあり得ません。多くの中国の投資家の認識と、冷徹な市場経済の原則とのギャップが、これからだんだんと表面化してくることになると思います。中国経済の安定的な成長にとって最も恐いのは、今まで一方的な不動産や株の価格の状況に慣れきっていた投資家たちが不動産や株の価格の下落に直面して極端に臆病になり、投資や消費活動を抑制してしまうことです。中国の現在の経済成長は、不動産や株に投資をしているような富裕層の消費意欲に支えられている面が大きいからです。

 マクロ経済コントロールの点では、現在の中国政府は、今のところはそれなりにうまくやっていると思います。問題は多くの中国の投資家の認識と市場原理とのギャップが社会的な不安感の高まりを招くようなことがないかどうかです。不動産と株におけるバブルの時期が終了した、ということは、経済運営の大きな節目を迎えたことを意味します。これからオリンピックが終わる9月末までの半年間は、政治的・社会的な面だけではなく、経済の面でも目の離せない時期になりそうです。

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2008年2月14日 (木)

寒波による農地の被害面積は1,180万haに

 2月14日に民政部が2月12日現在の被害状況として発表したところによると、中国中南部の寒波・大雪・着氷によって被害を被った農地の面積は1,180万ヘクタール、そのうち農作物が壊滅する被害を受けたのは169万ヘクタール、被害を受けた森林の面積は1,733万ヘクタールに上る、ということです。

(参考)「新華社」2008年2月14日10:15アップ
「2月12日現在で寒波被害は死者107人、被害総額1,111億元に」
http://news.xinhuanet.com/video/2008-02/14/content_7601537.htm

 ちなみに、農作物が壊滅したとされる169万ヘクタールとは、日本で言えば、岩手県より広い面積です。また、被害を受けた農地と森林の面積を合わせた2,913ヘクタールという広さは、日本で言えば、日本の全国土面積の約8割に相当する広さです。

 なお、昨日(13日)夜の鉄道部の発表によると、鉄道については、昨日時点で正常運行が確保されている、とのことです。

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2008年2月13日 (水)

中国の寒波の経済損失は1兆6,000億円超

 中国では、今日(2月13日)から春節(旧正月休み)開けで政府機関などが動き始めています。今日(2月13日)、民生部は、昨日(2月12日)時点での中国中南部の寒波被害について発表しています。それによると、この中国中南部を襲った寒波・大雪・着氷による被害は、死者107人、行方不明8人、直接的な経済損失は1,111億元(約1兆6,665億円)に上るとのことです。

(参考1)「新華社」2008年2月13日15:23アップ記事
「速報:寒波災害の被害は、死者107人、直接的な経済損失は1,111億元」
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-02/13/content_7597629.htm

 一方、今日(2月13日)、温家宝総理は国務院常務会議を開き、関係部署による災害復旧について検討を行いました。この会議では「大部分の電力送電線と変電所は復旧した」と報告されていますが、一方で「高圧電線網の復旧に重点を置く必要があり、3月末までには復旧を終わらせる必要がある」とも指摘しており、災害の復旧に数か月のオーダーで時間が掛かることを示しています。この会議では、電力網の復旧のほか、春から始まる農作業に必要な種の確保など農業に対する支援、石炭・石油の輸送、被災した農民への食糧等の供給、倒壊・破損した家屋の復旧、今後の土砂災害や衛生上の問題などの二次的災害の防止を求めています。

 また、この会議では、2月11日までに、国家電力網公司の系統で累計停電戸数の93%に当たる2,212万戸が復旧した、と報告されたと報道されています。ということは、累計で2,378万戸が停電していた、今でも166万戸が停電している、ということになります。

(参考2)「新華社」2008年2月13日17:28アップ記事
「温家宝総理が国務院の会議を開催して、各部署の災害後の復旧作業について検討」
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-02/13/content_7598147.htm

 このあたりの中国の災害報道の仕方は、20年前と全然変わっていません。問題が発生した時にはニュースとして流れず、復旧した時に初めて報道さるので、復旧時に伝えられる報道を見て「あ、それだけ多くの停電戸数があったんだ。初めて知った」というようなことになるのです。今日の国務院の会議での報告を伝える記事では「全国の高速道路と主要国道に不通の個所はない」とされており、鉄道については何も触れられていないので、おそらく鉄道はまだ不通になっている個所があるのではないかと思われます。たぶん、鉄道がどの程度不通だったのかは、復旧した時に発表されるのでしょう。不通ならば不通だ、とちゃんと情報を提供しないと、鉄道は問題ないと思って乗客が駅に集まって来てしまって困ると思うのですが、このあたりの災害報道のあり方についての中国政府のものの考え方は、いまだによくわかりません。

 いずれにしても、今年の寒気団は相当に強力なので、まだ被害を出すような寒波が襲ってくる可能性もあります。今後さらに被害が出たり、二次的な災害が発生しないように祈りたいと思います。

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2008年2月 8日 (金)

胡錦濤主席と温家宝総理が被災地で旧正月

 2月7日は春節(旧正月)で、中国では、親族が揃ってギョーザを食べたりして迎えるのが習慣になっています。そうした中、今年の春節は、胡錦濤国家主席は広西チュワン族自治区で、温家宝総理は貴州省で、それぞれ寒波・大雪・着氷被害の被災者や災害復旧に当たる人々と一緒に「越年」したとのことです。詳しくは調べていませんが、国家主席と国務院総理が両方とも地方で(しかも災害の被災地へ赴くという「仕事」で)春節を迎えた、というのは、中華人民共和国始まって以来ではないかと思います。

 それだけ党中央としては、今回の寒波災害を重大視していることの表れだと思います。近年、不正・腐敗や農民からの無理な土地の収用などで、人心が離れてしまっているところの多い地方政府ですが、民生の維持と災害復旧対策という地方政府のおおもとの本来業務をもし遂行できないところがあるのならば、それは地方政府はもはや「政府」と呼ぶに値しない組織、ということになります。それだけに、党中央としても、この寒波災害における被災者の保護と災害復旧に対して、地方政府が全力を尽くすよう、全力で支援する必要がある、と感じているのだと思います。

 また、この週末から寒波がやってくるという予報が出ているところもあります。中国中南部の寒波被害がこれ以上大きくならないことを祈りたいと思います。

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2008年2月 5日 (火)

雑誌「タイム」も中国の寒波を特集

 アメリカのニュース週刊誌「タイム」の最新号(2008年2月11日号)では、表紙に "China's Big Chill" というタイトルを掲げた中国中南部を襲った寒波を特集しています。記事の内容はあまり多くはありませんが、ポイントとして以下の点を掲げています。

○ある経済専門家は、今回の寒波は2008年の中国のGDPの成長(2007年は11.4%の伸び)の何割かの程度に影響を与える可能性があると述べている。

○ただでさえ急激な消費者物価の上昇を示している中国で、今回の寒波被害がインフレをもたらすおそれがあり、それを政府がどのようにコントロールできるかがポイントである。

○ある専門家は今の中国の政権は、過去の政権よりも危機に対する対応の仕方は優れているように思われる、と言っているが(アメリカのG.W.ブッシュ政権は2005年のハリケーン・カトリーナの襲来に対する対応で批判を受けたように)今、中国政府の危機管理能力が問われている。

 まさにこの中国を襲った寒波の重大性に関するポイントを衝いた記事だと思います。私も、この寒波は、中国経済及び中国の政権に取って、極めて重大な「危機」だと認識しています。この号の「タイム」は、雪に覆われた線路を見て回る鉄道労働者の写真を表紙に掲げて、世界中で売られているはずですから購入されてお読みになってはいかがでしょうか(中国で買うと1冊40元(約600円)とちょっと高いのですが、私はこの問題に着目して素早く特集記事にしたタイム誌に敬意を表して購入しました)。

 被災人口が約1億人を超えた(2月4日時点での中国新聞網(ネット)の報道)、国家電力網公司が管轄する電力ネットワークのうち9,527基の鉄塔が倒壊、1,633万戸が停電、うち2月3日までに1,006万戸が復旧(以上2月4日付け「新京報」記事)、1月31日時点での被害を被った耕地面積が727万ヘクタール(2月1日の中国政府民生部の発表)といった数字を見れば、今回の寒波・大雪・着氷被害の大きさがハンパじゃないことがわかると思います。

(参考)被害を被った面積の727万ヘクタールという数字は、中国の全耕地面積の約6%に当たり、日本で言えば、関東7都県に新潟、山梨、長野、静岡の各県を合わせたよりも広い面積に相当します)。

 私は、今、北京にいますがNHK-BS放送やNHKのテレビの国際放送が見られるので、毎日NHKのテレビを見ていますが、毒物入り冷凍ギョーザ事件発生以降、日本のNHKのニュースでは、今回の中国中南部の寒波について伝えるのを見たことがありません。現在の日本経済は中国と極めて密接に関係しており、中国の危機は日本経済の危機でもあるはずです。それなのにも係わらず日本のマスコミと世論がこの中国の寒波に対する危機感を全く持っていない、ということに対して、私は非常に危機感を持っています。「外国のメディアが取り上げているのだから重要なのだ」と主張するような「ガイアツ」的な考え方は私は本来は好きではありませんが、日本の皆様に警告を発する意味で、世界的なニュース雑誌「タイム」も、この中国の寒波を特集としてしたんだぞ、ということをこのブログで強調させていただきたいと思い、取り上げさせていただきました。

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2008年2月 4日 (月)

農民の土地返還要求に関する米紙の報道

 日本でもMSN産経ニュースで流れていた(私は見ていないのですが、たぶん産経新聞でも伝えられた)ので御存じの方も多いかもしれませんが、1月14日付けのアメリカの新聞ワシントン・ポストに、中国黒竜江省の農民たちが自分たちの耕作していた土地を取り上げた村政府に対して土地の返還を要求し、自分たちに土地所有権があることを認めるよう主張していることについての記事が載っていました。

(参考1)ワシントンポスト2008年1月14日付け記事
"Farmers Rise In Challenge To Chinese Land Policy"
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/01/13/AR2008011302383.html

 中国の耕地は、農民の所有地ではなく、村という単位の集団が所有している土地であり、農民たちには一定の期限付きで貸し与えられ(別の言葉でいうと、期限付きで土地使用権が与えられ)、耕作が行われている、というのが現状です。土地所有権は村という集団が持っていることから、村当局が農民から土地使用権に見合う分だけの一定額の補償金を支払って土地を収用し、その土地を開発業者に売る、という行為が中国各地で行われています。下記(参考2)で紹介しているインタビュー記事によると、「土地使用権に見合う分の一定額の補償金の支払い」が社会主義的な原則に基づいて行われるためその金額は小さく、「開発業者への土地の売却」が市場経済下のルールで行われるためにその金額が大きくなるケースが多く、その結果として、農民に支払われる補償金が少なく、一方で村当局や土地開発業者には巨額の金額が転がり込む、というケースが多いとされています。そのために村当局による不必要な農地の収用と土地の乱開発が跡を絶たず、不正の温床にもなりやすいのだ、というわけです。

 上記(参考1)のワシントン・ポストの記事によると、こういったケースに対して、農民たちは村当局が収容した農地の返還を要求し、農民たち自身が自分の判断で土地開発業者と売却金額の交渉ができるよう、土地所有権を自分たちに与えるように主張している、とのことです。

 もちろんワシントン・ポストで紹介されている農民たちの行動は中国国内では報道されていませんが、この農民たちの考え方と同じような考え方については、このブログの1月14日付け記事で私が紹介したように、1月14日付け(1月12日発売)の経済専門週刊紙「経済観察報」に載っていたインタビュー記事の中で清華大学教授の蔡継明氏が述べていました。

(参考2)このブログの2008年1月14日付け記事
「ついに出た『土地私有制』の提案」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/01/post_6f24.html

 ワシントン・ポストが伝える農民たちの動きが、中国において違法なものなのか、合法的な範囲内のものなのか、については、私は上記のワシントン・ポストの記事以外の情報を何も持っていませんので、判断はできません。ただ、一般的に言えば、中国の共産主義革命の過程の初期の段階では、例えば、1956年頃まであった「初級合作社」の制度では、自作農に対しては土地の私有を認めつつ、共同で農作業を行うことが行われていたので、土地私有制の主張が中国共産党指導下の中国において直ちに違法なものになると言うことはできません。上記の蔡継明清華大学教授の意見が掲載された新聞が堂々と街で売られていることから見ても、「土地私有制」を主張すること自体は、現在の中国では違法なもの、とはみなされないようです。一方、ワシントン・ポストの記事の伝える農民たちの運動がもし仮に「中国共産党の指導による政治」を覆そうと試みるものであるならば、それは、現在の中国の法律の下では違法とみなされる可能性があります。

 一方、上記のワシントン・ポストの記事が北京から何の問題もなくアクセスでき、読むことができる、ということは、党中央がこの記事が伝える農民たちの動きを完璧に抑え込もうと考えているわけではないことを示しているのかもしれません。というのは、現在の中国では、党中央の考え方に真っ向から反対するような主張を伝えるサイトについては、アクセス制限が掛かり、中国国内からは閲覧することができないからです。

 党中央の真意は測り知ることはできませんが、もしかすると、党中央の中にも、村当局が農民の意向に反して土地を収用し、その土地を開発業者に売ることによって莫大な利益を得ることを問題視する考え方の人がいるのかもしれません。もしそうした考え方が党中央の一致した考え方なのだとすると、党中央の考え方は末端の農民の意向と一致し、一方、末端行政機関である地方政府・地方党組織の意向がそれらと対立する、という構図ができあがります。今後の中国の行方を考えるに当たっては、土地を巡るそういった構図があるのか、ないのか、といった「見極め」を念頭に置いておく必要があると思います。

 なお、上記ワシントン・ポストの記事と私が紹介した「経済観察報」の記事がいずれも同じ1月14日付けであったのは、単なる偶然の一致なのでしょうか。それとも党中央の一定の意図が背景にあった必然の結果なのでしょうか。それについては、私には何も知る術はなく、想像の域を何ら超えることはできません。

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2008年2月 3日 (日)

中国大雪被害:広州駅の群衆内で1人が圧死

 中国中南部の大雪は各地にいろいろな被害をもたらしています。広東省広州市の広州駅では、ただでさえ春節(旧正月)を故郷で過ごそうという帰省客が多く集まる時期に、大雪の影響で鉄道のダイヤが大幅に乱れたため、数十万人単位の人々が集まっています。

(参考1)「チャイナ・ディリー」2008年2月2日付け1面トップ記事
「胡錦濤主席、全ての力を(雪害対策に)投入せよ、と指示」
http://www.chinadaily.com.cn/china/2008-02/02/content_6437189.htm

 公安当局も集まる群衆を整理するのに必死になっていますが、昨日(2月1日)、遂に一部の群衆が将棋倒しになり、広州市の時計工場で働く湖北省出身の女性1名が死亡(そのほかに数名がケガ)という事故が起きてしまいました。この時、広州駅には40万人の人々が集まっていたそうです。

(参考2)ネット版「人民日報」(人民網)2008年2月3日00:54アップ記事
「広州駅で旅客1名が圧死」
http://society.people.com.cn/GB/41158/6859662.html

※上記二つの記事は写真付きですので、英語や中国語が読めなくても現場の状況がよくわかると思います。

※※2月1日15時に将棋倒し事故が起き、2月2日0時にこの事故に遭った女性が病院で死亡した事件について、2月2日夜11時になってようやく発表する、という広州市公安当局の対応には、いささか問題があると私は思います。今の中国においては「発表しただけマシ」と言えるのかもしれませんが。

 今日(2月3日)も中央電視台第一チャンネルでは、午前中、大雪被害に関する特別報道番組を放送していました。その中で8日間以上に渡って断水と停電が続いている湖南省のチェンチョウ(●州)市(Chenzhou:●は「林」へんにおおざと)付近の高速道路インターチェンジからの生中継のレポートもやっていましたが、片方の車線は大型トラックが数珠繋ぎで全く動いていない様子でした。温家宝総理は、このチャンチョウ市のある湖南省南部が中国の南北と東西を結ぶ交通の要衝であることから、人民解放軍を動員することはもちろん、大雪被害のない北方の電力関係者をこの地方に派遣して、まず湖南省南部の復旧を図るよう指示した、とのことです。このほかにも寒波・大雪の被害は貴州省、江西省など被害は広範囲に渡っているのですが、まず交通のネックのポイントとなっている地区を優先的に復旧させよう、という方針のようです。

 昨日(2月2日)夜の中央電視台「焦点訪談」では、湖南省長沙(チャンシャー)空港で、降った雨(みぞれ)が滑走路上で完全に氷と化し、スケートリンクのようになった滑走路を復旧させようとしている空港職員の作業の様子が伝えられていました。

 中国の地理にあまり慣れていなくて地名を言われてもピンと来ないかたはぜひ地図を御覧になっていただきたいのですが、湖南省、貴州省、江西省などは、緯度的には沖縄から台湾北部に当たる地方で、これらの地方で大雪や着氷による被害が出ている、ということは、極めて異常なことです。2月2日の香港の最高気温(最低気温ではない)は摂氏プラス10度だったそうで、今回の寒波がいかに強烈であったかがわかると思います。

 今は、鉄道や高速道路が通っている地方の中核都市について多く報道されていますが、おそらく、高速道路や幹線道路からかなり内陸に入った農村部では「陸の孤島」となっている地区が多数あるのではないかと想像されます。それら内陸部では、まだ情報が収集しきれていないので、今回の寒波の被害は、集計してみると今後もっと大きくなる可能性があります。今回の寒波・大雪・着氷被害は、経済発展により高速道路網や電力網が発達した後の中国にとって最大の大規模自然災害と言えるもしれません。例えば、大雪で高速道路が渋滞すると、渋滞途中のトラックがガス欠を起こして立ち往生して、さらに渋滞に拍車をかける、ということがよく起きますが、中国では(特に南部地方では)そういったことを経験したことがたぶんないので、対応に苦慮しているのではないかと思われます。

 北京オリンピックまではまだ半年ありますので、今回の寒波・大雪がオリンピックに影響するとは思いませんが、今の中国は、全国的に「オリンピックどころではない」といった雰囲気になっています。

 この寒気団は、今日(2月3日)になって日本上空に移動し、東京などでも雪が降って雪が積もっているようですが、日本列島は黒潮や対馬暖流に抱かれているので、寒気団が襲ってきても、これら海の影響によりかなりマイルドになっていると思います。その意味で、日本は、中国に比べれば、自然環境の面で非常に恵まれた国です。中国を襲った寒気団は、通常1~2日後に日本へ到達するので、日本のマスコミは中国のこういった寒波襲来のニュースに対して、もうちっと関心を持ってよいと思います。

 なお、中国では、毒物入り冷凍ギョーザ事件については、ほとんど報じられていませんが、こういった寒波・大雪被害の中で人心を不安にするような情報はできるだけ広めたくない、という当局の意図が働いているのかもしれません(春節(小正月)を家族みんなでギョーザを食べながら迎える、というのが、中国の伝統的な慣習ですので)。今回の寒波・大雪被害は相当な規模のものであるので、私は、個人的には、今回に限って言えば、パニックを防止する、という観点で、冷凍ギョーザ事件に関する情報管理もある程度やむを得ないかなぁ、と思っています。 

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2008年2月 2日 (土)

豪雪は杭州31センチ・上海22センチ

 中国中南部の寒波・大雪は今日(2月2日)も続いています。新華社の報道によると、2月2日14時時点で浙江省杭州市で積雪が31センチ、上海では2月2日19時までに雪はやんだものの、ところによっては積雪が22センチ以上に上るところもあるとのことです。緯度で言えば、上海は鹿児島市、杭州は種子島くらいに当たりますから、この積雪量は尋常ではありません。杭州市では1978年に改革開放が始まってから最大の大雪なのだそうです。

 2月1日時点で中国政府が発表したところによると、1月10日以来の寒波と着雪・着氷(注)による被害は、死者60名、行方不明2名、緊急非難を必要とした人175.9万人(うち鉄道や道路の不通により滞留を余儀なくされた人々66.7万人を含む)、被害を被った農地1.41億ムー(940万ヘクタール:日本で言えば北海道と青森県を合わせた面積より広い)、倒壊した家屋22万3,000軒、損壊した家屋86万2,000軒、経済的損失は537.9億元(約8,000億円)に上る、とのことです。電力網の寸断と燃料となる石炭の輸送ができないため、各地で停電が相次いでいます。2月2日付けの「新京報」によると、湖南省のチェンチョウ(●州)市(Chenzhou:●は「林」へんにおおざと)では、停電と断水が8日間続いているとのことです。中国政府は、経済への影響は短期的なもので、全体的な中国経済の状況には影響は与えない、との認識を示していますが、相当な被害であることは間違いありません。

 中国中央電視台第1チャンネルでは、2月2日、午前、通常の番組を中止して、寒波・雪害報道の特別報道番組を放送しました。これはかなり異例のことです。胡錦濤国家主席は人民解放軍と武装警察に対して全力で災害地区を支援するよう命令を発し、これまでに25万人以上が災害救援活動に動員された、とのことです。また、商務部は春節(2月7日)までに国家備蓄している冷凍肉を1.8万トン放出する方針、とのことです。

 日本では、毒物入り冷凍ギョーザ事件の方ばかりクローズアップされて報道されているので(もちろんこちらも重大な事件ですが)、中国中南部の寒波・大雪の方にももっと注意を向けるべきだと思ったので、最新情報を書かせていただきました。

(注)着氷現象について:

 日本は海洋性気候で、陸地と海との温度差により対流が起きやすいので、上層の大気と地表面近くの大気が混じりやすいので発生しにくいのですが、大陸性気候の地域では、時として大規模な着氷現象が起きます。地表面が零度または氷点下、上層大気が零度以上で、風が弱いときに降水現象が起きると、上層大気の部分で雨になったものが零度または氷点下の地表近くに落ちてきて、樹木や電線にぶつかってそこで氷になる現象が起きます。電線や細い木の枝の場合、電線の上に一定以上の量の氷が付くと、重さで氷がくるりと下側に回転し、また電線や木の枝の上に氷が付着していきます。こうして電線や木の枝の周りに「ちくわ」のように氷が蓄積します。電線の場合は、着氷対策をしていないと、こういった着氷現象が起きやすいので、場合によっては直径10センチ程度の「ちくわ」状の氷が付着します。電線の場合は、その氷の重みで電線自体が切れたり、電線を支える鉄塔を引き倒したりします。樹木の場合は、その重みで折れ、道路上にかぶさって交通を妨害したりします。

(参考1)「新華社」2008年2月1日17:32アップ
「レンズを通して見た氷りに覆われた鉄塔に取り組む電力労働者」(組写真)
http://news.xinhuanet.com/photo/2008-02/01/content_7545643_2.htm

(参考2)「新華社」2008年1月29日11:02アップ
「氷に覆われた鉄塔、重さで倒壊 電力労働者3名が殉職」
http://news.xinhuanet.com/photo/2008-01/29/content_7516115.htm
※この鉄塔倒壊事故では、作業中の作業員3名が亡くなっています。

(参考3)「新華社」2008年1月29日11:06アップ
「南京で雪の重みで倒れた松の木」
http://news.xinhuanet.com/photo/2008-01/29/content_7516146.htm

 こういった大規模な着氷現象は、日本ではごくたまにしか起きませんが、大陸性気候のアメリカなどでも時々発生しています。今回の中国中南部の場合は、普段は雪が降ったり着氷現象が起きたりしない地域であるだけに、ほとんど着氷対策がなされていない状態だったのが被害を大きくしているようです。

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2008年1月29日 (火)

中国の中南部で寒波・大雪の被害

 中国の揚子江から南の地域が、ここ数日、歴史的な寒波に襲われ、これらの地方としては非常に珍しい大雪となりました。一部の地方では、湿った雪やみぞれ交じりの雨が降った後に気温が氷点下に下がり、路面が凍結したりして、高圧電線に着氷して、電線を支える鉄塔が崩壊したところもあります。高速道路は、雪のために通行止めになり、多くの鉄道も不通になりました。積雪は多いところでも数十センチのオーダーですので、雪に慣れている地域の人たちにとっては、大したことない雪の量なのでしょうが、滅多に雪の降らない地方での大雪のため、防雪対策がほとんどなされておらず、多くの混乱が起きているようです。地方によっては数十年来とか、中華人民共和国建国以来、とか、場所によっては百年来なかった大雪、と表現しているところもあるようです。

 今年は2月7日が春節(旧正月)なので、中国では、広州や上海など沿岸部に出稼ぎに出てきている労働者(農民工など)の帰省ラッシュが既に始まっています。ただでさえ春節の時期は列車の切符が買えないほどの混雑が続きます。そういった時期に、雪による鉄道の不通が重なったので、広州などでは何十万人のオーダーの人たちが立ち往生する事態になっています。また、送電網が寸断された上に、鉄道による石炭輸送がままならないので、発電容量が足りなくなり、停電になっている地区もあるようです。生鮮食料品の輸送にも支障が出てきているところもあるようです。

 最近は、中国は、鉄道も複線・電化され、高速道路網も相当に発達してきていますが、これらの交通網が高度に発達した中国経済を支えているだけに、今回の寒波・大雪がそういった経済活動の動脈に打撃を与えたため、従来にもない大きさの経済的・社会的影響が出ているようです。ただ、例によって、中国のテレビのニュースでは、あまり大雪被害の状況の映像を流さないので、相当にひどい被害らしい、と想像されるのですが、実際にどの程度の被害なのか、北京にいても、今ひとつイメージが湧きません。

 党中央もこの事態を重視し、昨日(1月28日)夜、温家宝総理自らが急きょ特別機で北京から湖南省に飛び、現地の状況を把握するとともに、災害対策の現場で陣頭指揮に当たっています。今日(1月29日)には、胡錦濤国家主席が緊急の会議を開いて、関係機関に全力で大雪・寒波からの復旧作業に当たるように指示を出しました。

 私のいる北京は、寒いけれども雪は降らない、といういつもと同じ冬の日々が続いており、中南部の自然災害の影響は全く感じられませんが、揚子江より南の地域では、まだ数日は寒波や雪が続くようです。だんだん春節も近づいてきますので、寒波が収まり、交通や電力網が復旧し、多くの人がふるさとで旧正月を迎えられるように祈りたいと思います。

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2008年1月26日 (土)

中国経済の成長を支えるものは何か

 1月24日、中国の国家統計局は2007年の経済状況について発表しました。それによると、2007年の中国の国内総生産(GDP)は、24兆3,619億元(約370兆円)で、対前年比(名目)11.4%の増でした。一方、消費者物価指数は、近年になく大きく上がって+4.8%でした。

 中国は2007年も引き続き相変わらず急速な成長が続いたわけですが、中国の経済成長を支えているものを大きく分けると次の3つになると思います。

○輸出の伸び

 食品や玩具の問題でいろいろ騒がれましたが、中国製品の輸出が伸びているのは間違いない事実です。つまりは世界各国で中国の製品が売れているということです。危険なものや品質の悪いものばかりだったら、世界の消費者は買わないわけですから、一部に問題のあるものはあるとはいうものの、総体的に見れば、やはり中国製品は、安さと品質をてんびんに掛けると「売れる」製品なのだと思います。問題は、いつまでも「安さ」にばかり頼ってはいられない、ということです。これからは、中国は、人件費が少々高くなっても国際競争力を維持できるしっかりとした品質をもった製品を多く作れるように脱皮できるかがカギだと思います。

○投資

 「不動産バブルはピークを越えたのではないか」と言われますが、少なくとも2007年いっぱいは中国全国での建設ラッシュはまだまだ続いていた、ということなのでしょう。この部分が2008年以降、どの程度継続的に中国経済を支えていけるのか、が今後の中国経済を占う上での大きなカギになると思います。

○内需

 中国は2006年に自動車の販売台数で日本を抜き、アメリカに次ぐ第2位となりました。インターネット人口も2007年末で2.1億人に達し、既に世界第2位になっていますが、一位のアメリカとの差はわずかなので、2008年の早い時期にアメリカを抜いて中国は世界最大のネット人口を抱える国になるだろう、と言われています。日本をはじめ、各国企業は、中国市場での販売競争に負けると生き残れない、と言われるほど、中国の消費市場としての比重は大きくなっています。問題は、上記の輸出や投資の部門に「かげり」が見え始めた場合、内需が引き続き底固く推移するのか、それとも尻つぼみになってしまうのか、だと思います。

 あと、私が中国独自の「経済発展を支えるもの」として着目しているのが「土地マジック」です。1月14日付けで紹介した「経済観察報」に載っていた蔡継明清華大学教授のインタービュー記事でも指摘されていたように、中国では、社会主義的な発想による安い評価価格で農民から土地を収用し、それを住宅地や工業開発区として市場経済に売り出す、ということが大々的に行われています。いわば「公有」の農地を市場的価値のある土地として市場に出すわけですので、地下から石油がわき出るように「土地」という形の「天然資源」を中国は毎年大量に市場に送り出し、それが中国の経済成長の大きな推進力になっているのではないか、と私は思っているのです。

(参考1)このブログの2008年1月14日付け記事
「ついに出た『土地私有制』の提案」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/01/post_6f24.html

 国土資源部の「中国国土資源公報」によると、2004~2006年の3年間で、5,428平方キロの耕地が都市用地や工場建設用地に変えられていまるとのことです。

(参考2)中国国土資源部ホームページの「統計情報」のページ
http://www.mlr.gov.cn/zwgk/tjxx/index_883.htm

 5,428平方キロとは、日本で言えば愛知県よりちょっと広く、三重県よりちょっと狭い面積です。これだけの面積の土地が3年間に工業用地などの形で経済市場に売りに出されたことによる経済全体への影響はかなり大きいのではないかと思います。もともと土地に価格が付いている資本主義国とは異なり、値段のついていない土地が突如として値段付きの形で経済のマーケットに登場することのインパクトは大きいと私は思います。

 土地が石油と違うところは、買い手が付かなければ土地は途端に何の価値も無くなってしまう、ということです。耕地をつぶしている分、もしその土地が売れなかったら、むしろ経済的にはマイナスになるでしょう。社会主義体制というポケットから土地を取りだして市場経済に売りに出すことは、いわば中国が自分の体を切り売りしてるのと同じことになりますから、もしこれらの土地に買い手が付かなかったら大変なことになると思います。

 中国製品がなんだかんだと言われつつ世界のマーケットでしっかり売れていること、日本をはじめとする各国の企業が中国の消費市場に殺到して実際にいろんな製品が中国国内で売れていることは、中国経済の「底固い」部分を示していると思います。この「底固い」部分の比重がどれくらいで、上に述べた「自分の体を切り売りしているような部分」の比重がどれくらいなのか、は、私にはよくわかりません。今年2008年は、この「中国経済の成長をささえるもの」のどの部分の比重がより大きいのか、がある程度はっきりしてくる年になるのではないかと私は思っています。

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2008年1月22日 (火)

中国の不動産を巡る報道に「崩壊」の文字

 中国の不動産ブームについては、かなり前から「あまりにもスピードが速すぎる。バブル気味なのではないか。」との声が聞こえていました。そうした中、2007年の末頃から、政府による引き締め政策の影響もあり、さすがの中国の不動産ブームにも「かげり」のようなものが見え始めて来たように感じていました。

(参考1)このブログの2007年12月22日付け記事
「中国の不動産ブームはピークを越えたのか?」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/12/post_7322.html

 2008年に入り、深セン、上海、北京などではいくつかの不動産仲介業者が店を閉める、という報道がなされるようになりました。

(参考2)「新京報」2008年1月10日付け記事
「中大恒基、近く50店を閉店へ」
http://www.thebeijingnews.com/news/beijing/2008/01-10/021@073510.htm

 これらの動きに関する新華社などの報道の中には「崩壊」の文字を使うものも出てきました。

(参考3)中国経済ネットの記事を転載している新華社のページに2008年1月16日にアップされた記事
「中国最大規模の不動産仲介業者『創輝』が『崩壊』に瀕している」
http://news.xinhuanet.com/house/2008-01/16/content_7428402.htm

 これらの動きについては、人民日報もこの二日間、連続の特集記事として報じています。

(参考4)「人民日報」2008年1月21日付け記事
「創輝の暗然たる収縮(経済の焦点:関心を集める不動産仲介業(上))」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-01/21/content_39584201.htm

(参考5)「人民日報」2008年1月22日付け記事
「不動産仲介業界はなぜ揺れ動くのか(経済の焦点:関心を集める不動産仲介業(下))」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-01/21/content_39584201.htm

 この「人民日報」の記事の中では、マンション等を買おうとしている消費者が、現在のマンション価格の動向を見て「模様眺め」の状況に入ったために、ここに来て成約量が急減し、そのために不動産仲介業が店を閉めざるを得なくなった、という専門家の見方を伝えています。また、不動産仲介業は、パソコンと机さえあれば簡単に店を開けることから、これまで安易に店舗数を増やしてきた業者も多かったが、今回の事態はそういった「バブル気味の」仲介業者に市場から退場してもらうという「洗牌」(シーパイ:麻雀やトランプでゲームを始める前にパイやカードをかき混ぜること)の局面に入ったということだ、という冷めた見方も示しています。こういった「人民日報」の報道の仕方を見ていると、北京オリンピックまで異常な不動産ブームが続き、オリンピックが終わった後に一気にバブルが崩壊するよりも、オリンピックまで後200日ほどある今の時点で、つぶれるべき小さな「バブル」はむしろつぶれてもらった方がよい、という党中央の考え方が透けて見えるような気がします。

 ただ、上記の「急に店を閉め始める業者も出始めた」というのは、あくまで「仲介業者」の話であって、現時点ではマンションやオフィスビルを建設している不動産開発会社自身がバタバタ倒れているわけではありません。マンション等の販売には、新しくできた建物の販売と中古物件の販売とがありますが、成約数が極端に減少しているのは中古物件の方です。新規物件の方は、成約数は減少傾向にありますが、「激減」というところまでは行っていないようです。実際に住む家が欲しくてマンションを買おうと思っている消費者が買い控えをしているからなのか、投機対象でマンションを買おうとしている人たちが買い控えをしているからなのか、詳細は不明ですが、いずれにせよ全体として販売量が低下していることが、契約の成立を「日々のメシの種」にしている不動産仲介業者を直撃し、いくつかの業者で閉店に追い込まざるを得なくなったというのが実情だと思います。この傾向が長期的に続くようだと、やがては開発業者の中にも、投下した資金を回収できなくなるところも出てくる可能性があります。

 いずれにせよ、北京において、夜になると立ち並ぶマンションの多くの部屋に電灯が点らないことについて、私は前から気になっていました。実際に住んでいない投機目的のマンション所有者の数は、かなりの数いるのではないかと思います。

(参考6)このブログの2007年10月17日付け記事
「夜8時半過ぎの北京のビルの稼働率」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/10/post_7335.html

 気になるのは、投資対象としてマンションを購入している富裕層が今の事態にどういうふうに対応するかです。今日(2008年1月22日)、世界的株安の流れを受けて、中国の株式市場もかなり値を下げました。現在の中国経済成長は、低賃金労働の基盤の上に立った製品の輸出、土地開発とマンション・オフィスビル等の建設等に対する投資、富裕層による商品・サービスの購入等の内需、の3つが大きな柱です。為替レートと労働契約法の施行により安い労働力に頼った製品の輸出の比重は、今後は下がるでしょう。そうした中で、不動産による資産の目減りがありそうだ、株がどんどん上がるという状況でもない、という事態になって、不動産に対する投資が減る一方、将来を不安視した富裕層が全体的な買い控え傾向に走ると、中国経済全体が不活性な方向へシフトするおそれもあります。

 こういったことを考えると、これから北京オリンピックのある8月へ向けて、いろいろ予測できない状況が出てくる可能性もある、と私は思っています。

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2008年1月14日 (月)

ついに出た「土地私有制」の提案

 今日(2008年1月14日)付けの経済専門週刊紙「経済観察報」(1月12日発売)の「中国」(Nation)という特集欄に農村の土地制度改革の必要性を訴える学者のインタビュー記事が載っていました。

※「経済観察報」のこの記事はインターネット上で無料で読むことはできません。

 この学者とは、清華大学教授の蔡継明氏です。蔡継明教授は、中国の民主政党(中国共産党に協力的立場に立っている合法的な政党)のひとつ「中国民主促進会」(略して「民進」)の中央経済委員会主任で、中国人民全国政治協商会議(注)の委員です。

(注)中国人民全国政治協商会議は、各界・各層の有力者が集まっている会議で、その全体会議は、いつも全国人民代表大会(全人代:日本の国会に当たる)と同時期(通常毎月3月)に並行して開催されます。法律を議決する権限はありませんが、全人代と同じ議題で議論を行い、様々な建議や提案を行います(元々は、革命初期に中国共産党以外の国内有力者の意見を集約するために設立された会議)。

 このインタビュー記事の中で指摘している蔡継明教授の主張のポイントは以下のとおりです(上のタイトルで「ついに」と書きましたが、蔡継明教授の主張は真新しいものではなく、2003年頃からこのような方向性の主張はしていたそうです)。

-----「インタビュー記事のポイント」始まり------

○現在、政府は土地の乱開発による食糧生産用耕地の減少を防ぐため「小産権」(村などの集団所有の土地の上に建てられた住宅)を都市住民が購入することを禁止する政策を徹底させようとしているが、「小産権」の面積は全国の土地の違法開発の面積に比べたら極めて小さい。違法な土地占拠の8割は地方政府によるものであり、「小産権」の都市住民への売却を禁止したとしても、耕地減少問題の解決にはならない。

(参考1)このブログの2007年7月13日付け記事
「中国の地方政府による無秩序な土地開発」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/07/post_1c55.html

○最も重要なポイントは、地方政府が農民から土地を収用する際の土地の評価が30年来続いている「過去3年間のその土地で生産された農産物の価格」に基づいていることである。大まかにいって、この評価方法では、実際の経済活動に基づいて評価される土地の価格の10分の1にしか評価されない。つまり、農民に補償金を払ってこの土地を収用し、開発して商業ベースで販売すると、土地価格の10分の1しか農民に渡らず、残りの9割は地方政府や土地開発業者の懐に入ることになる。これが地方政府が土地の乱開発を止めない主要な原因であり、またこれが政治的腐敗の最も大きな原因になっている。

○ここ10年来の中国の経済成長は、このようにして非常に安く開発された土地が多くの投資を呼び込むことによってもたらされてきたものである。

○農民が実際に耕作している農地、実際に住んでいる住宅の宅地については、その農民の「私有地」として認め、土地の売買を市場原理に任せることが、最もよい解決策である。土地の私有制を認めることにより、農民が土地を手放す時には、市場価格に見合った支払いを受けられることになるし、土地に市場価格に見合ったそれなりに高価な価格が付けば、開発業者もおいそれと購入して開発を進めるわけにはいかないので、自ずと土地の開発競争にもブレーキが掛かる。

・・・・・・(「このブログの筆者による注」)・・・・・・

 現在の中国において、農村による土地の所有形態が国有または「集団所有」であり、土地の私有が認められていないのは、中国の共産主義革命の経緯によるものである。解放前の中国では、大地主が土地を所有し、小作農に土地を貸し付けて耕作させて高額な小作料を徴収することによって、多くの小作農は貧困に喘(あえ)いでいた。中国共産党の指導に基づく革命により大地主の土地は取り上げられた。取り上げられた土地の所有権は結果的には農民に分配されたわけではなく、革命の各段階において「農業生産合作社」から「人民公社」へ変わっていった社会主義的な「集団」が保持することになった。最終的な「人民公社」の段階では、土地と農具などの生産手段、農民の住む住宅までもが「人民公社」の所有とされ、農民はその「人民公社」の「社員」として生産に従事することになった。「人民公社」では、「社員」が耕すのは自分の土地ではなく「公の土地」であり、個々の農民の創意工夫や努力が自分の収入の向上に結びつかないので、この「人民公社」の制度は、農民の生産意欲の減退による農業生産の停滞をもたらした。

 1978年暮れにトウ小平氏によって始められた「改革開放政策」の過程で、1982年頃、「人民公社」は解体された。農地は所有権は村という「集団」が引き続き所有していたが、実際には農民に「耕作を請け負わせる」という形で任されるようになった。農民は自分の創意工夫に応じて自分の「請け負った」耕地で農作ができるようになったので、農民の生産意欲は向上し、中国の農業生産力は向上した。農民の住宅用土地も、村という「集団」の所有ながら、その管理は各農民に任され、住宅の改築なども農民が自分の判断で行えるようになった。

 これが現在の農村の形態である。現在は各農民は、自分の担当する土地では自分の判断で自由に農作をやっているが、土地の「所有権」に関しては、上記の歴史的経緯から今でも「集団所有」のままなのである。現在の中国の法律の解釈では、農民は村から「土地の使用権」を与えられて耕作している、ということになるので、もし村が農民から土地を収用する場合には、その「土地使用権」に対する補償金を支払う必要がある、ということになる。

・・・・・・(「このブログの筆者による注」終わり)・・・・

○現在、農民一人当たりの耕地面積は7.5ムー(約0.5ヘクタール)だが、これでは面積が小さすぎて効率的な農業生産ができない。効率的な農業生産をするには農民一人当たり15ムー(約1ヘクタール)程度あった方がよい。市場原理に基づいて農業生産効率の悪い農民が生産効率のよい農民に土地を売ることにより農民一人当たりの耕地面積が15ムーになれば、農業生産は全体的に効率化する。一方これにより7億人の農民の約半分(3.5億人)の農民が土地を手放すことになるが、彼らは、都市へ出て行って都市で就職し、都市に住むことになる。現在、土地が集団所有制であり、農民は戸籍によって土地と結びつけられているため、経済的にはそれに近い現象が起きているにもかかわらず、制度的に農民は都市に定住できないことになっている。これが現在の農民の都市への出稼ぎ問題、いわゆる「農民工」問題である。土地の私有制は、現在の実際の経済状況に従って農民を土地から切り離し、都市への人口の移動をスムーズに進める助けになる。

○土地の私有制は「土地の集団所有制」という大原則を崩壊させる、と主張する人がいるが、現在の中国が進めている「中国の特色のある社会主義」は、既にその方向に歩み出しており、実質的には「土地の集団所有制」は変質しつつあるのだから、「崩壊する」という言い方はおかしい。

○いわゆる「小産権」のうち、農村の宅地の上に建てられた宅地については、「合理的であるが『不合法』な物件」であり、合法とみなすべきである(このブログの筆者注:「不合法」とは、現在の法律には適合していない、という意味。合理的であるので、蔡教授は敢えて「違法」とか「非合法」とかいう言葉を使っていない)。

○こういった農村の土地制度改革については、今年3月の全国人民代表大会及び政治協商会議の全体会議に議題として提案したいと私は考えている。

○なお、将来的な課題としては、さらに一歩進めて、現在、全て国有となっている都市部の土地の所有権についても、公共目的に使用されている土地については国有のまま残し、そうでない土地については私有とするようにできるのではないかと考えている。

-----「インタビュー記事のポイント」終わり------

 この蔡継明教授の提案は、現在中国が抱える問題の非常に重要なポイントを的確についたもので、非常に合理的なものであると私は思います。ただ、蔡教授自身も言っていますが、「土地の私有制」を認める、ということは、いわば社会主義の大原則を崩す、とも受け取れる部分ですので、もしこれが全人大及び政治協商会議で提案されても、かなりの議論を呼ぶことは間違いないと思います。まず現在の政治状況の中では、実際に「提案する」というところまで持っていけるのかどうか、かなり難しいものがあると私は思います。また、仮に提案できたとしても、相当激しい議論が起こることは必至で、結論が出るとしても相当に長い時間が必要になると思います。

 この提案は、政治的な意味も大きなことはもちろん、経済的にも大きなインパクトを与える可能性があります。これも蔡教授が指摘しているように、ここ10年間の中国の急激な経済成長は、地方政府が安く土地を開発し、それに吸引されて外国から多くの投資が流れ込んで来たことによってもたらされてきたものですので、「土地の私有制の導入」により、ここ10年間の中国経済の急激な成長をもたらた根本的な構造が変わる可能性があるからです。

 もうひとつの大きなポイントは、12月30日に国務院が「『小産権』の都市住民による購入は厳禁する」という通知を改めて出したことに対し、その国務院の政策に真っ向から反対する提案が新聞紙上に掲載され、それが次期の全人大に提案されるかもしれない、という点です。中国では、国務院も全人代も中国共産党の指導の下にありますので、国務院と全人大の方針が異なる、ということは、これまでは基本的にあり得なかったのです。もしこのような国務院の政策に反対するような提案が本当に全人代に出されるのだとすれば、それは中華人民共和国の政治史の中では画期的なことだと思います。

 一方、この主張が「経済観察報」といういわば都市部の「富裕層」(別の言葉で言えば「新社会階層」)が購入する新聞に掲載されている、というところも重要なポイントです。「富裕層」の中には「小産権」に多額の投資をしている人も多いと思われますので、「小産権」の合法化は、「富裕層」にとっての政治的要求のひとつなのだと思われます。つまり、経済的に大きな力を持つようになった「富裕層」が自分たちの権益を守るため政治的な主張をし始めている、というのが、今回のインタビュー記事に現れていると私は思うのです。「富裕層」(「新社会階層」)の政治的要求をいかにして具体的な政策に盛り込んでいくのか、が、現在の中国の政権にとって重要な課題です。「富裕層」にソッポを向かれたら、現在の中国の経済運営はうまくいかず、従って、政治的な運営も困難になるからです。

(参考2)このブログの2007年6月22日付け記事
「新しい社会階層の台頭」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/06/post_6737.html

 2008年に入り、経済的にも政治的にも、少しずつ「何か」が動き始めているのを感じます。
 

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2008年1月 9日 (水)

国務院が「小産権」に関し明確な通知を発出

 国務院は昨年末に会議を開き、2007年12月30日付けで、「小産権」(村などの集団所有地の上に建てられた住宅地)に関する法的位置付けを明確にする通知を出しました。

(参考1)「新華社」2008年1月8日15:58アップ
「国務院弁公庁:都市住民は農村で宅地用土地を購入することはできないことを重ねて通知」
http://news.xinhuanet.com/house/2008-01/08/content_7385599.htm

 この国務院の通知のポイントは以下のとおりです。

○農村の住宅用の土地はその村の村民が住むために分配されているのであって、都市住民が農村で住宅用土地や農民の住宅、あるいはいわゆる「小産権房」(農村の土地の上に建てられたマンションや別荘等)を購入することはできない。

○農村などの集団所有の土地の土地使用権を譲渡あるいは賃貸により非農業目的の建設に使ってはならない。全体的な土地利用計画に基づいて建設用地を取得した企業が破産した場合などにのみその当該土地の使用権を法律に基づき譲渡することができる。そのほか集団所有の建設用地の土地使用権が譲渡できるのは、計画の必要性に合致し、法律に則って取得された建設用地の場合だけであり、それらを商品住宅の開発用に使うことはできない。

○農村などの集団所有の土地を土地利用計画などに違反して「貸与」「請負」などの方式により「売らない代わりに貸す」という形で非農業目的の建設用地に使うことが一部の地方で見られているが、これらは厳格に禁止する必要があり、もしこういう事態あれが厳格に検査して処置する。国土資源管理部門は「売らない代わりに貸す」方式で行われている違法行為について全面的な調査を行い法に則って厳格に処置する。

 この通知の背景にある問題点は、以下の点です。

●農村にある村民住宅用の土地については、村当局などが農民からこれを接収して都市住民に売っている例があり、その際、一部に農民の権利を侵害しているおそれがあるところも出ている。

(参考2)このブログの2007年8月5日付け記事
「ある北京近郊の村の『別荘商売』」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/08/post_2eab.html

●本来農地をつぶして工業用地にすることができるのは、土地利用計画に基づいて、上部機関の許可を得た場合に限られているのに、「土地使用権を売ることはしていないが貸している」「土地を利用した事業を請け負わせているだけだ」などの説明を付けて村当局が上部機関の許可を得ないで土地開発業者などからお金をもらって土地開発をさせている例があり、現実の農地面積が減少してきている。13億人の人口を維持するために必要な食糧の生産量を確保するため、中国政府は農地面積は18億ムー(120万平方km)より絶対に小さくしない、としている。現在の農地面積はまだこれを上回っているが、無秩序な農地開発が進むと、中国全体の農地面積がこの「レッド・ライン」を割り込んでしまうおそれがあるため、中国政府としては、土地利用計画に則らない農地開発はストップさせる必要があると考えている。

(参考3)このブログの2007年7月13日付け記事
「中国の地方政府による無秩序な土地開発」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/07/post_1c55.html

 農村などの集団所有の土地の上に建てられた住宅(「小産権」とか「小産権房」とか言われる物件)に対する法的位置付けは、これまで「あいまい」と言われてきていましたが、先の北京の裁判での確定判決(下記の「参考4」参照)や今回の国務院の通知で法的位置付けは明確になったと思います。

(参考4)このブログの2007年12月18日付け記事
「都市住民の『小産権』購入は違法と確定判決」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/12/post_bf8b.html

 しかし、法律的位置付けが明確になったのはいいとして、不動産取引の1割~2割をこの「小産権」が占めていると言われる現状において、現実的な商取引として行われている不動産取引にこの「小産権」の法的位置付けの明確化がどのように影響するのか、はまだ不透明なところです。法的位置付けに基づく厳格な取り締まりを行えば、現実の商取引に混乱を与える可能性もありますし、取り締まりを甘くし現実を追認するようなことがあれば、裁判所の確定判決や国務院の通知があっても法律が実行されないことになり、法治国家としての根本が崩れてしまうことになります。

 中国のことですから「様子を見ながら徐々に取り締まりを強化していく」ということなのでしょうが、厳しく取り締まられた人は損をし、取り締まりが厳しくなる前に素早く物件を売り抜けることができた人は儲かる、という不平等が広まるおそれがあります。不動産取引は巨額の取引であり、特に個人にとっては、一生を掛けた人生最大の買い物です。あまりこれによる不公平感が広がると、社会の中に不満が溜まっていくのではないか、というのが心配になるところです。

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2008年1月 2日 (水)

2007年の中国の税収は大幅アップ

 不動産や株の高値続きが「バブルではないか」と多くの人が言っているにもかかわらず価格が下がらない背景には、「最後は中国政府が何とかするに違いない」という変な「安心感」みたいなものがあるからだ、と言う人がいます。中国人民銀行の幹部は、こういった安易な考え方を批判していますが、「中国政府は意外に『お金持ち』だ」と思っている人が多いのは確かなようです。

 今日(1月2日)付けの「新京報」が報じている国家税務総局が1月1日に発表した速報値によると、2007年の全国の税収入(関税及び耕地占有税を除く)は、4兆9443億元(約74兆円)で、前年よりも31.4%の増だったのだそうです。この税収入の額は、中央政府と地方政府の税収の合計ですが、つい先日閣議決定された日本の平成20年度(2008年度)予算の政府原案では国の税及び印紙収入は53兆5540億円と計上されていますから、この中国の税収の金額はかなり大きな金額であると言えます。

(参考1)「新京報」2008年1月2日付け記事
「2007年全国の税収が4兆9442.73億元に達した」
http://www.thebeijingnews.com/economy/2008/01-02/014@111725.htm

(参考2)日本の財務省のホームページ
「平成20年度予算政府案」-「平成20年度一般会計歳入歳出概算」
http://www.mof.go.jp/seifuan20/yosan004.pdf

 なお、2006年決算ベースでみると、中国の全国税収入のうち56.2%が中央政府、43.8%が地方政府の収入となっていますので、中央政府の税収入ベースで言うと、おそらくまだ中国の方が日本よりは金額は少ないと思われます(ただし、日本の場合、4割近くが国債の償還に充てられるので、実際に使われる中央政府のお金としては日本と中国とはだいたい同じ程度、と言ってもいいかもしれません)。

(参考3)中国財政部のホームページ
「財政数据」-「2006年全国財政収入決算表」
http://www.mof.gov.cn/news/czsj2005/Book1.htm

 一方、中国の中央銀行である中国人民銀行が持っている黄金と外貨の準備高は、黄金が1929万トロイオンス、外貨準備が1兆4336億ドルです(2007年9月末現在)。日本の黄金準備2460万トロイオンス、外貨準備9461億ドル(2007年11月末現在)と比べても決して引けを取りません(というか、中国の外貨準備高は、人民元レートを低く抑えすぎた結果であり、過大すぎる、と各国から指摘されています)。

(参考4)中国人民銀行ホームページ
「調査統計」-「統計数データ」-「黄金及び外貨準備高表」)
http://www.pbc.gov.cn/diaochatongji/tongjishuju/gofile.asp?file=2007S09.htm

(参考5)日本の財務省のホームページ
「外国為替・国際通貨制度、国際協力」-「統計」-「外貨準備等の状況」
http://www.mof.go.jp/1c006.htm

 こういう数字を見ていると、日本と比較しても、中国政府の財政的基盤はしっかりしており、中国では、何か起こりそうになったら、政府が支えてくれるだろうし、支える能力も十分にある、と思っている人が多いのでしょう。ただ中国人民銀行の幹部が懸念しているように、そういった「いざというときには政府が何とかしてくれるさ」という安易な考え方は、市場メカニズムによる調整機能を狂わせる可能性があります。また、政府による公共工事や政府調達に頼った産業構造は、結果的には各企業の自立能力が育つのを阻害します。中国は「社会主義の道」を歩む以上、政府によるコントロールが今後も掛かり続けることになりますが、そういった環境の中で、中国の経済活動に参加する各プレーヤーが政府による支援なしで国際的な自由競争の場で勝ち残れる力を育てていくことができるかどうかが、今後を占うカギになると思います。

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2008年1月 1日 (火)

2008年:今年のポイント

 皆様、明けましておめでとうございます。

 今までもいろいろ書いてきましたが、今年(2008年)の中国のポイントは、北京オリンピックの開催を除けば、次の3つだと思います。 

(1)労働契約法(2008年1月1日施行)

(2)不動産

(3)株

 時期的なポイントとしては4月と10月だと思います。

 私は不動産の動きに関しては、上記の「小産権」の問題が非常に大きいと思うのですが、さきほど「小産権」という言葉でYahooやGoogleで検索したら、私のブログが上位に出てきてびっくりしました(つまりほかの人はあまり着目して書いていない、ということですよね)。

 実生活面では、北京オリンピックの前後、車の使用制限など、市民生活に対してどのような制限がなされるかが気になるところです。あんまり無理なことをやって、市民の反発を買わなければよいけどなぁ、と思います。東京オリンピックやソウル・オリンピックのように、後から見て、「やはり北京オリンピックは中国の飛躍のひとつのきっかけだった」と言えるようになって欲しいと思います。

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2007年12月22日 (土)

中国の不動産ブームはピークを越えたのか?

 中国のマンションなどの建設ブームを「バブル」と呼ぶべきかどうか、は議論のあるところです。北京は、来年(2008年)はオリンピックがあるので、それが終われば建設ブームはヤマを越えるが、その他のところはオリンピックはあまり関係ないのではないか、とも言われています。一方、中国政府は、経済成長の過熱を心配しており、今年(2007年)は、相次いで、中央銀行である中国人民銀行による基準金利や預金準備率の引き上げ、膨大な額に上る外貨(注)の運用を担当する中国投資責任有限公司設立のための特別国債の発行などのいわゆる「過剰流動性」を抑えるための対策を行ってきました。

 このうち特別国債1億5500万元については、8月29日から12月14日までの間に7回発行されました。

(参考1)「新京報」2007年12月15日付け記事
「最後の回の特別国債が発売された」
http://www.thebeijingnews.com/economy/2007/12-15/011@003335.htm

 上記のうち第1回と第7回の合計1億3500万元の特別国債については、農業銀行が引き受け、それを中国人民銀行が外貨(注)を政府に売って得た人民元で買い取ったとされているので、この部分については市場への影響は直接はありませんでしたが、残りの2000万元については、直接市場に向けて発行され2000万元分の人民元が市場から吸収された、と考えられています。

(注)中国が保有する外貨の準備高は2007年9月末現在で1兆4300億ドルを超えています。

(参考2)中国人民銀行のページの「黄金及び外貨準備」の表
http://www.pbc.gov.cn/diaochatongji/tongjishuju/gofile.asp?file=2007S09.htm

 この特別国債については、大部分が中央銀行である中国人民銀行が保持することになったのですが、NPO日中産学官交流機構特別研究員の田中修氏は、必要な時にこの特別国債を市場に売り出すことによって市場に出回っている人民元を回収するひとつの手段を中国人民銀行が手にした、という意味がある、との中国財政部の担当者の考え方を紹介しておられます。

(参考3)NPO日中産学官交流機構のホームページにある
特別研究員田中修氏のレポート
http://www1a.biglobe.ne.jp/jcbag/tanaka_report.html
の2007年9月10日付けレポート「経済過熱防止への諸施策(11)」

 利上げは、結局、2007年は6回行われました。

(参考4)「新華社」2007年12月20日19時頃アップ
「中国人民銀行、今年6度目の利上げを発表」
http://news.xinhuanet.com/fortune/2007-12/20/content_7285921.htm

 来年2008年の経済運営の方針については、中国政府は、12月3日~5日に掛けて中央経済工作会議を開催して、その基本的な考え方を明らかにしました。

(参考5)人民日報2007年12月6日付け1面トップ記事
「中央経済工作会議北京で開催」
http://politics.people.com.cn/GB/1024/6618393.html

 胡錦濤中国共産党総書記・国家主席が主宰したこの会議では、来年(2008年)の経済運営について、「引き締めた」貨幣政策を実行する、と述べています。この表現は、従来「適度に引き締めた」という表現だったものから「適度に」が抜けた表現になっています。このことについては意味があるのだ、とする新華社の解説が出されています。

(参考6)新華社2007年12月5日20:36アップ
「専門家が、貨幣政策を『適度に引き締める』から『引き締める』に変更したことについて解説」
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2007-12/05/content_7205702.htm

 この中央経済工作会議では、少なくとも「姿勢」としては、政府は、経済を引き締める方向により強く政策の舵を切った、と宣言したものと言っていいでしょう。

 一方、2007年11月30日付け人民日報(海外版)4面の「中国の不動産:マクロとミクロの両面から見る」という記事では、上海において10月のマンション販売成約量が9月の74%に落ち込んだことを報じています(なぜか11月30日の分だけ、ネット上では人民日報(海外版)を見ることができません。私はたまたま紙面バージョンを入手できたのでこの記事を見つけられました)。

 北京でも、最近、住宅販売量が減ってきている、との記事が出るようになりました。

(参考7)「新京報」2007年12月5日付け記事
「11月の北京の住宅販売は冷え込んだ」
http://www.thebeijingnews.com/economy/2007/12-05/021@092841.htm

 この記事によると、北京市不動産交易管理ネットが発表したデータでは、11月の住宅の成約数は1日平均353件で、405件近かった10月より減少している、とのことです。

 また、北京のマンションでは価格は下がってはいないもののお客に対する割引などのサービス合戦が始まっている(成約数も11月に引き続き続落している)との記事も出ています。

(参考8)「新京報」2007年12月20日付け記事
「北京の多くのマンションで割り引きの声の『大合唱』」
http://www.thebeijingnews.com/economy/2007/12-20/018@092435.htm

 この記事のポイントは以下のとおりです。

・記者がいろいろなマンション開発会社を回ってみたところ、正式価格自体はあまり下がっていないものの、5%引き、10%引きの「特別割引」を提示してくれた物件、「今買うなら家電製品を付けます」と言われた物件、などあの手この手で客引きを図っているところが多かった。

・北京不動産交易管理ネットのデータによると、12月1日~18日までの北京の住宅販売数は4867件で1日平均270件、これは11月の364件、去年の同時期の460件を大きく下回っている。

・ある不動産大手企業は既に広州と上海では15%~30%の値下げを始めている、とのことで、ある北京の開発業者は「もしこの企業が北京の市場で同じようなことをやり始めたら『地震級』の震動があるだろう」と言っていた。

・専門家は、現時点では北京のマンション市場は、囲碁で言えば「観望」(勝ちそうか負けそうか形勢判断をするために打ち手が止まる)という最後のクリティカルな段階に入った、と言っている。

 これらの記事を見ると、少なくとも大都市部では、マンション・ブームはひとつの角を曲がったのではないか、とも思えます(中小都市などその他の地方のことはわかりません)。

 また、先日、このブログで書いた「小産権」問題(農村などの集団所有の土地の上に建てられたマンションや別荘などの物件をその集団のメンバーではない都市住民が購入することは法的に認められないという問題)が中国の不動産売買取引に何らかの影響を与えるようになる可能性もあります。

(参考9)このブログの2007年12月15日と12月18日の記事
「都市住民による農村の『小産権』購入は禁止」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/12/post_fcc8_1.html
「都市住民の『小産権』購入は違法と確定判決」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/12/post_bf8b.html

 今年、いろいろと打ち出された「過剰流動性対策」が今後どの程度実態経済に効いてくるのかもよくわからないところですし、上記の裁判の結果が実際の不動産取引にどの程度影響するのかはよくわからないところがあります。来年2008年は、北京オリンピックが開かれて、終わる、というひとつの区切りの年であることは間違いないわけですが、それに加えてこういった経済上の条件がどのように実態経済の上に現れてくるのか、目が離せない状況が続きそうです。

(以下、2007年12月23日9:00に追記)

 不動産価格の最近の下降傾向気味について、国営新華社通信は12月17日付けで次のような「市場報」の報道を配信しています(この配信が2007年12月23日8:40現在、新華社のホームページのトップ記事に載っていたの気が付きました)。

(参考10)「新華社」ホームページ2007年12月17日付け記事
「観察:不動産市場の価格下落の『虚報』、不動産価格は本当に暴落するのか?」
http://news.xinhuanet.com/house/2007-12/17/content_7264042.htm

 この記事では、以下のようなことを言っています。

○住宅を真に欲しいと思っている消費者が「不動産価格が下落している」という情報を聞いて「もう少しすればもっと下がるのではないか」と思うのは無理のないことである。

○しかし、今回の下落は、急激な価格上昇の後で起こったものであり、「真のトレンド」を見究める必要がある。

○不動産価格の下落が伝えられているのは北京、上海、深センなどごく一部の都市であり、その他の土地ではこのような現象は起きていない。

○住宅が欲しいと思っている中国の消費者は非常に多いので、不動産価格は上昇方向に反転すると見る方が正しい。

○サッカーではゴール前で相手選手と接触した時、相手の反則を誘うためわざと転倒する場合がある。陸上100メートル競走では「興奮剤」を使用した選手がとんでもない「世界記録」を出すことがあるかもしれない。しかし、それは「真の姿」ではない。

○一部の現象に惑わされずに、全体を見て、「真のトレンド」を見極めることが重要である。

 この記事を読んだ私の勝手な感想ですが、政府や関係業界は、最近、不動産価格下落のニュースが流れているのを見て、ちょっと「あわてた」な、と思いました。上記、新華社が引用している「市場報」は、投資者がよく買う新聞ですから、新聞自体の立場として、不動産価格が暴落しては困るのです。また、この17日付けの記事を新華社が今日(23日)になってホームページの一面トップに持ってきたのも、政府関係者がちょっと「あわてた」証拠ではないかと思います。同種の「解説」は今日7:00からの中央電視台テレビの朝のニュース「新聞天下」でやっていました。

 上記の新華社が引用している記事の中のサッカー選手の話や100メートル競走選手の話は「苦し紛れのたとえ話」のように私には思えます。

 いずれにせよ、今後の動きは、こういった情報がいろんなところから流される中、一般消費者や投資者がどういうふうに「真のトレンド」を判断するか、に掛かっていると思います。

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2007年12月18日 (火)

都市住民の「小産権」購入は違法と確定判決

 小産権問題(村などの「集団所有制土地」の上に立てられた別荘、マンションなどの住宅物件(小産権)を村民ではない都市住民などが購入することが違法かどうか)について、小産権を都市住民が購入することは違法、と判断した初めての裁判所の確定判例が昨日(12月17日)北京市第二中級人民法院第三法廷で出されました。

 「小産権」に関しては、下記の私のブログの記事を御覧下さい。

(参考1)私のブログの2007年12月15日付け記事
「都市住民による農村の『小産権』購入は禁止」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/12/post_fcc8_1.html

 最近、政府が「『小産権』を都市住民が購入することは法律上認められない」との見解を出していることと、不動産ブームで「小産権」を含むマンションや別荘の価格が急激に上昇していることから、過去に都市住民にマンションや別荘(場合によっては古いままの農民住宅)を売った農民が「売った住宅を取り戻したいので売買契約は法律上無効だったと確認して欲しい」と訴える裁判が相次いでいます。上記の私の12月15日付けブログで紹介しているケースでは、第1審で農民側が勝訴(裁判所が11年前に交わされた住宅売買契約は違法であるので無効である、と判断した)し、都市住民側が上告する方針を示しています。

 こういった状況の中、昨日(12月17日)、初めての上告審のケースの判決が出ました(中国では裁判は二審制なので、上告審の判決が確定判決です)。

(参考2)「京華時報」2007年12月18日付け記事
「北京の農民が画家の李玉蘭氏を訴えていた小産権売買に関する裁判で改訂判決」
http://beijing.jinghua.cn/c/200712/18/n585511.shtml

(参考3)「北京晨報」2007年12月18日付け記事
「宋庄画家村、非合法の判決を受ける」
http://www.morningpost.com.cn/article.asp?articleid=141758

(参考4)「新京報」2007年12月18日付け記事
「初めての『宋庄住宅案件』村民の勝訴で終わる」
http://www.thebeijingnews.com/culture/2007/12-18/011@092037.htm

 これらの新聞記事によると、この事件の経緯は以下のとおりです。

○北京市内の農村部にある「宋庄」という場所で「中国北京新創意産業基地--宋庄」といううたい文句で画家などをターゲットとした住宅物件が売り出された。都市住民である画家のA氏は2002年、4.5万元(今のレートで約68万円)でこの物件を購入した。A氏は、その後、約10万元を掛けてこの家を改造し、ここに住んで芸術活動を行っている。

○2006年年末、この物件の売主である地元農民のB氏は、家の売買契約の無効を訴えて裁判を起こした。B氏は裁判を起こした理由を明確には説明していないが、この物件の現在の評価額は約30万元(約450万円)以上と見られており、そのためB氏が「『小産権』の都市住民への売却は違法」という政府の見解を盾に、この物件を取り戻したいと思っているためだろうと言われている。

○第1審は、この案件は、集団所有の土地の上に建てられた住宅を集団の構成員ではない都市住民であるA氏に売却したためものであるため、この住宅の売買契約は無効、ただし売主のB氏は、買主のA氏に対して、9.3万元の損害賠償を支払うように、という判決だった。買主のA氏が判決を不服として上告していた。

○第2審(最終審)は、土地売買契約については第1審と同様無効とし、買主のA氏には90日以内に家を受け渡すよう命じるものであった。ただ、第二審判決では、損害賠償額については、現在の家の評価額に比して9.3万元と認定した一審の賠償額については、買主のA氏に対して、別途損害賠償の裁判を起こして売主のB氏から適切な額の損害賠償請求をすることが可能であると述べている。

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 「小産権の都市住民への売却契約は法律的に無効」という判決が確定した影響は大きいと思われます。今まで、何回も政府が「停止するぞ」と宣言しても実際は停止されていなかった「小産権」の売買について、今後は買い手が警戒心を強め、実質的に売買が停止される可能性があるからです。「小産権」は北京地区においては、マンションの売買件数の2~3割を占めると報道されており、その影響は小さくないと思われます。今後、既に「小産権」を買った都市住民による損害賠償請求の裁判が多発することも予想されます。

 また、この法論理は、各地の地方政府が農地や農民住宅地などの「集団所有」の土地を勝手に開発して販売している土地の乱開発にブレーキを掛けることになる可能性があります(買い手が警戒して買わなくなるため)。従って、この昨日の判決は、今後の中国の不動産市場に大きな影響を与える可能性があると思われます。

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2007年12月17日 (月)

中国の法定休日変更は国務院が決定

 昨日(12月16日)、中国の法定休日の変更を定めた条例を国務院が発表しました。「法定」というからには、法律で決めることになるので、てっきり日本の国会にあたる全国人民代表大会が決めるのかと思っていたら、法律によって国務院(行政府:日本の内閣にあたる)に決定権が委任されているようで、12月16日に国務院が新しい休日の条例を発表して、これが「最終決定」ということなのだそうです。この休日の変更は来年1月1日から施行されます。即断、即決なのはいいのですが、こういった国民生活に密接に関連する事項が議会(全人代)で全く議論されずに、あっという間に決まってしまうことに、中国のこの手の「決定」には慣れている私としても、またまた驚かされました。

 このブログの12月9日の記事に「元旦、清明節、メーデー、端午節、中秋節の1日休みは、その日ズバリではなく、年によって近接する月曜日に設定することとし、日本や欧米の『ハッピーマンデー』と同じように土日と合わせて3連休にしよう、という計画」と書きましたが、これは正しくありませんでした。上記の休日が土日に重なった場合は「振り替え休日を作る」というのが条例の内容なので、土日に重ならない年は「ハッピーマンデー」にはなりません。

(参考1)「人民日報」2007年12月17日付け記事
「全国季節休日及び記念日休日に関する規則」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2007-12/17/content_34030768.htm

 具体的には、2008年の中国の法定休日は以下のとおりとなります。

新暦の元旦:1月1日(火)
旧暦の大晦日と正月1日、2日:2月6日(水)、7日(木)、8日(金)
清明節:4月4日(金)
メーデー:5月1日(木)
端午節:端午節の6月8日は日曜日なので、たぶん6月9日(月)が振り替え休日
中秋節:中秋節の9月14日は日曜日なので、たぶん9月15日(月)が振り替え休日
国慶節:10月1日(水)、2日(木)、3日(金)
合計11日

※この他に「婦女節」(3月8日)、青年節(5月4日)、児童節(6月1日)、中国人民解放軍建軍記念日(8月1日)のある特定のグループの人が取る半日休みや少数民族の習慣に基づく祭日などがありますが、これらは普通の政府機関や会社は休みにはなりません。

 今年は春節を大晦日からの休みにすると5連休になり、清明節、端午節、中秋節ともに土日に重なった場合に月曜日を休みにすると全て3連休になるのでこの方式でよいのですが、来年以降も同じ方式を続けるとすると、清明節、端午節、中秋節などが火、水、木にあたる年は3連休にはなりません。ですから、来年以降、必要に応じてまたこの「規則」を微調整して3連休になるように規則の方を変えるのではないかと思います(国務院決定なので、全人大での審議が不要なので、いつでも変えられますから)。

(注)日本の場合、「国民の権利や義務に直接関係する規定」は、基本的に内閣が勝手に決めてはならず、国会で議決して決めることになっています。従って、休日を変えたりするためには、国会で審議するのでそれなりに時間が掛かります。その方が、カレンダー業界に限らず、仕事や旅行の予定を前もって決められるので、国民の側からすると助かります。中国のように、突然「こう決めました」と発表されると、仕事や旅行の予定が立てられなくて困ります。

 私の場合、個人的な好き嫌いを言わせてもらうと、今年、5月のメーデー連休から10月の国慶節休みまで、全く休日がなかったので、ちょっと疲れが溜まるなぁ、と思っていたので、4月から9月まで休日が分散して3連休になる方が好きです。

 ちょっと深読みが過ぎるかもしれませんが、この休日の変更については、私は、胡錦濤政権による「江沢民・朱鎔基政権が決めた方針からの離脱」というひとつの政治的メッセージだと思っています。というのは、もともと5月のメーデーを1週間ぶっ通しの連休にしたのは、江沢民・朱鎔基政権が国内消費拡大のために導入した制度だからです。江沢民・朱鎔基政権は、大型プロジェクトをどんどん始めたり、国内消費拡大政策をどんどん進めて急速な経済成長を遂げましたが、胡錦濤政権は「経済成長は、速ければいいというものではない」という態度を取っているからです。

 12月3~5日行われた中央経済工作会議について解説した12月6日付けの人民日報の社説では、「国民経済を『うまく』かつ『速く』(中国語では「又好又快」)推進する」ことについて「うまく」(中国語では「好」)の方を優先させるべきである、と解説しています。この社説は「速いだけではダメで、調和ある発展が重要」という「科学的発展観」を掲げる胡錦濤政権の方針が江沢民・朱鎔基政権とは異なることを別の言葉で表したものだと思います。メーデーの連休をやめて、清明節、端午節、中秋節の3つの小連休に分散させた今回の休日改革は、この延長線上にあって、胡錦濤政権が江沢民・朱鎔基政権から脱皮する象徴的な決定だったのだと思います。

(参考2)「人民日報」2007年12月6日付け社説
「『うまく』(中国語で「好」)の字を優先させて科学的発展を推進しよう」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2007-12/06/content_33672764.htm

 ただの休日の変更だったら、これほどあわてて変更する必要はなかったと思います。一向に冷却する兆しの見えないバブル気味の経済に対して、胡錦濤政権が「我々の政策運営は江沢民・朱鎔基時代とは違うんだぞ」ということを現実のものとして見せるために、いそいで休日改革をやったのではないか、と私は思っています。

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2007年12月15日 (土)

都市住民による農村の「小産権」購入は禁止

 中国は社会主義国ですので、土地を私有することはできません。全ての土地は国有または村などの集団が所有している「集団所有」のどちらかです。しかし、実際にはマンションや別荘などの不動産の「売買」は行われています。これは、土地については、「所有権」ではなく、その土地の「使用権」を売買する、という考え方に基づいているのです。「土地の使用権」の売買については、従来、法律上の規定がありませんでしたが、実際に行われている不動産売買取引の実態を後追いする形で、今年(2007年)10月1日から施行された「物件法」において、「土地使用権」に対する法律上の位置付けが確立しました。「土地使用権」は、例えば住宅用地の場合70年間など有限ですが、「物件法」により、満期時に延長することも可能になったため、限りなく「土地所有権」に近いものになっています。

 ただ、農村部などで村などの集団が所有している土地の上に建設されたマンションや別荘などを集団の構成メンバーでない人が買うことは法律上問題ないのか、という点については、法律上の位置付けが不明確なままで残っています。都市部の土地は国有なので、中国国民は誰でもその「土地使用権」を保持することが可能、と考えられており、都市部の土地の場合は問題は生じません。農村部の場合は、公式な法律上の位置付けとしては、村の住民でない人は村所有の土地に対する何らの権利も持たないため、村の土地の上に建てられた別荘やマンションを購入することはできない、と考えられています。これは、そもそも中国共産党による革命がその土地に住んでいない大地主が小作農に土地を貸し付けて耕作させる小作農制度を解体することを根本的な出発点としていることに関係しています。村の土地の使用権をその村の住民ではない人に売ることは、実質的に「不在地主」を認めることになり、中国の社会主義革命の出発点の原理を壊すことになるからです。

※ただし、これには考え方が二つあって、農地の場合は実際に耕作する人以外の土地の所有は認めないが、住宅用の土地の場合は村のメンバーではない人がその土地の使用権を持ってもかまわない、という考え方もあります。「小産権」の売買を「可」とする人は後者の立場を取っているのです。なお、「農地の場合は実際に耕作する人以外の土地の所有は認めない」という考え方は、戦後の日本においてアメリカの指導により行われた農地改革の基本原則であり、中国の共産主義革命の「専売特許」ではありません。

 しかし、実態的には、都市部に近い農村では、村が所有している土地の上にマンションや別荘を建てることが数多く行われています。例えば、農民が以前から住んでいた家を取り壊して、その土地に高層マンションを建て、従来の農民がその一角に住み、他の部屋を都市住民に売れば、農民は資金的な負担なしに不便な古い家を新しいマンションに建て替えることができるからです。

 これら集団所有の土地の上に建てられた別荘やマンション物件を俗に「小産権」と呼んでいます。「小産権」には二つの種類があります。

(1)もともと農家の住宅が建っていた土地の上に建てられた別荘やマンション

(2)もともと農地だった土地の上に建てられた別荘やマンション

 上記のうち(1)は、従来からの住宅を建て替えただけですのでそれほど問題にはなりませんが、(2)は農地の減少を伴いますから、国家政策上の重大な問題をはらんでいます。

 これら農村の土地に別荘やマンションを建てて、都市住民に売ったり貸したりしている問題の経緯については、このブログの8月26日付け記事を御覧ください。

(参考1)このブログの2007年8月26日付け記事
「農民の住宅の土地の権利に関する問題」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/08/post_b042.html

 この問題について、国務院は、12月11日、常務委員会を開き、「小産権」を都市住民が買ったり借りたりすることを厳禁する、との方針を打ち出しました。

(参考2)「新京報」2007年12月12日付け記事
「都市住民が農村の『小産権』物件を購入することは禁止」
http://www.thebeijingnews.com/news/beijing/2007/12-12/021@073605.htm

 しかし、従来から「小産権」の物件の売買は実際に行われてきており、過去に売買された「小産権」の権利関係をどう処理するかは、大きな問題です。また、上記のこのブログの8月26日の記事にあるように、例えば、北京で取引されているマンションの物件のうち、建物数でいうと20%、部屋数でいうと30%がこの「小産権」にあたるとされているので、本当に都市住民による「小産権」の購入が禁止になるのだとしたら、マンション売買市場に大きな混乱を与える可能性があります。

 上記の「新京報」の記事では、11年前に自分が住んでいた住宅を売った北京市房山区の農民が、法律上は「小産権」は都市住民が買うことはできないことを知って、物件売買契約の無効確認を訴えた裁判の例が掲載されています。この案件の事情は以下のとおりです。

○農民のAさんは1996年3月、自分が住んでいた6部屋の住宅を都市住民のBさんに1万5000元(現在のレートで約22万5000円)で売った。

○Aさんは今は年老いた妻とともに娘の家族と同居しているが、今年(2007年)になって「小産権」を都市住民に売ることは法律上認められていないことを知り、本来は自分の家と娘の家族の家と2つの家を持つ権利がある、と気が付いて、11年前の住宅売買契約の無効確認を求めて裁判を起こした。

○裁判において、Bさん側は、既に5000元の「村民管理費」を村に支払い済みであり、村の方もBさんを村民として扱っているほか、この住宅の売買契約は村民委員会の同意を得ており、必要な手続きは全て行っている、と主張した。またBさん側は、1996年当時、都市住民が農民の住宅を使用することを禁止した法令はなく、実際、売買に当たってBさんは北京市不動産売買センターで必要な手続きを行って、不動産売買税も北京市に支払ってある、と主張した。

○裁判にあたって、裁判所は、専門家に委託してこの住宅の評価を行ったところ、現時点でのこの住宅の評価額は9.8万元(約147万円)である、と評価された。

○Aさんは、売買契約は無効である上、Bさんに返却すべき金額は、現在の評価額である9.8万元ではなく、1996年の売買時に受け取った1万5000元である、と主張している。

○裁判所は12月11日、この住宅が建っている土地は村の「集団所有」の土地であり、村民ではないBさんにこの住宅を売った契約は農民の住宅の譲渡を禁止した国の規定に違反しており、この売買契約は無効である、と判断した。(新聞記事には、AさんがBさんにいくらの金額を返せばよいか、についての裁判所の判断については書かれていない)。

○Bさんは、この裁判所の判断を不服として、上告する方針。

 私は、民法については詳しくないのでよくはわかりませんが、自らも同意して結んだ11年前の住宅売買契約を無効だとする訴えは、よほどの理由がない限り、日本ではたぶん通らないと思います。また、日本の民法上の請求権の時効は5年なので、11年前の契約を今になって突然覆す、ということは、日本では基本的には認められないと思います(あまり古い契約関係の無効を認めると、その間にその契約関係に基づいてなされた第三者の権利が侵害され、社会的な混乱を起こすおそれがあるため)。日本の場合、11年間適法にその住宅に住んでいるBさんの「住む権利」も尊重されると思うので、なおさらです。

 上記の例と同様の判決例は、このブログの8月6日付け記事にも出てきました。

(参考3)このブログの2007年8月6日付け記事
「『小産権房』(集団所有地上の住宅)をどうする?」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/08/post_e6d8_1.html

 「小産権」のマンションや別荘の開発を村当局自身が積極的に進める例もあります。

(参考4)このブログの2007年8月5日付け記事
「ある北京近郊の村の『別荘商売』」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/08/post_2eab.html

 こういった現象は北京周辺だけでなく、中国各地で行われています。

(参考5)このブログの2007年7月13日付け記事
「中国の地方政府による無秩序な土地開発」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/07/post_1c55.html

 北京の例で見られるように「小産権」は、中国の不動産ブームのかなりの部分を担っていると思われます。もし、上記に紹介したいくつかの裁判所の判例に見られるように、「小産権」に対する法的保護がなくなるのだとしたら、中国の不動産ブームにかなりの影響を与える可能性があります。

 今回(12月11日)の国務院常務委員会で打ち出された方針は、「小産権」について「厳禁」という言葉を使って明確に禁止の方針を示しているし、「売ることはしない代わりに貸す」といった脱法的行為も明確に禁止しているので、今後かなりの影響が出そうです。「物件法」など、不動産売買が先行し、法律上の規定がそれを追認する、という方式が続いてきた中国の政策の進め方が今後変わるのでしょうか。この「小産権」を巡る動きは、「土地の私有は認めない」という社会主義の基本原則と、土地の使用権の売買も含めて経済の市場原理に任せる方針との境界線上に生じた問題です。ですから「小産権」の問題をどう対処するのかは、今後の中国の政策の進め方のひとつの「試金石」になるのではないか、と私は思っています。

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2007年12月 2日 (日)

「中国式計画病」政策決定の大修理はいつ?

 11月19日、ネット版人民日報「人民網」のページに「『中国式計画病』にスポットを当てる:政策決定過程の『大修理』はいつになったらできるのか?」と題するルポルタージュ記事が掲載されました。

(参考)ネット版人民日報「人民網」の「時政」(時事政治)のページ
「『中国式計画病』にスポットを当てる:政策決定過程の『大修理』はいつになったらできるのか?」
http://politics.people.com.cn/GB/30178/6573279.html

※「人民網」のページの「時政」(時事政治)のページは、現在、外国からのアクセスはできないように制限が掛かっている模様ですので、日本からは上記のページは開けないかもしれません。今日(12月2日)現在、中国国内では見ることができます。

 この記事は、「人民網」と週刊の経済誌「中国経済週刊(中国語では「中国経済周刊」)が共同して書いた記事のようです。このルポルタージュ記事の冒頭に掲げられている「ポイント」は、次のような言葉で始まっています。

「『鶴の一声』で数十億元。前の指導者がいなくなったら、新しい指導者がまた新しい都市計画を出してきた。納税者のお金はどのように使われるのか。計画に伴って土地を失った農民の問題はどうなる?住民移転の問題と腐敗の問題はどうやって解決するのか?・・・解決策はただひとつ。公権力を制限し、公共の福祉のために責任を追及し、自由な市場のために権限を制限することだ。」

 この書き出しは、人民日報社が運営するページに掲げられた記事とは思えない内容で、現在の中国社会が抱える問題点を鋭く指摘したものとして注目に値すると思います。「中国式計画病」という記事のタイトルも「告発調」であり、記事を書いた記者の問題意識が窺えます。

 この記事では、下記の三つの事例に対して、記者が現地に行って取材したルポルタージュが記されています(下記のうち、例えば瀋陽に取材にいったのが今年8月とのことですので、この記事はかなり長期間にわたって綿密に取材された結果書かれたものと推察されます)。

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【遼寧省瀋陽市の例】

 瀋陽市の渾南市場というところは、建設用地の費用として23億元(約345億円)を掛けて開発が行われ、5つの大きなビルができているのに、そのままの形で放置されて既に8年になっている。前の指導者が農地を農民から買収して始めたプロジェクトだが、予想に反して価格が高騰し、テナントが入らず、投資資金が回収できなくなっているからである。投資資金が回収できないため、土地を提供した農民たちに対する補償金の支払いが滞っている。農民たちは「上訪活動」(北京に対して救済を求める陳情活動)を行っているが問題は解決していない。この渾南市場を計画した指導者は汚職で逮捕されたが、その後着任した指導者は北の方に別の新しい開発プロジェクトを始め、渾南市場は放置されたままになっている。

【北京市大興区の例】

 北京市の大興区には、様々な開発区があり、その数は100個に上っていた。あまりに多くの開発区が乱立したことから、開発区の整理が行われ、その数は3つに減らされた。しかし、例えばこれまで「大興区魏善庄鎮工業区」と呼ばれていた開発区は「大興工業開発区龍海園」と名称が変更され、大きな開発区の一部の「園」として扱われるようになっただけであるなど、実態は何も変わっていないことがわかった。また、新しい指導者が着任すると、「開発区」の数は増やすことができないことから、今度は例えば「大興生物医薬基地」といった「基地」が作られるようになった。「基地」は「開発区」では認められていない商業用地としての利用も可能である。また、許可を得る機関も「開発区」より上の機関であるので、大興区では上部機関の許可を取って「基地」の開発を進めている。

【広東省深セン市の例】(「セン」は「土」へんに「川」)

 広東省深セン市では、経済発展に伴って、次々に大きな道路が作られた。だが、その一部は、建設されてから8年~10年たったところで「使用期限が来た」として大幅な改修が行われるなど、何回も大幅な改良工事が行われている。ある場所では、コンクリート舗装では破損が激しいとして、歩道の部分に対して花崗岩による補修が行われた。しかし、花崗岩の歩道は雨が降ると滑りやすい、として不評だったため、今度は滑り防止措置を施した花崗岩敷石に交換された。市民からは「浪費だ」との声が上がっている。

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 この深セン市の例の記事の最後は次のような言葉で締めくくられています。 

「西側諸国では、公共的政策は、提案された後、議会で討論され、その政策を進めるかどうか、進めるとした場合どの程度の予算を使うのか、何回も公聴会が開かれてから、予算が決定される。我が国では、道路補修のような市民の利益に直結する公共的事業に対して、ただ政府のみがその権限を担うことになっており、市民が十分にそれに参与する仕組みになっていない。」

 このルポルタージュ記事は、「人民日報」のページに載っているのですから、「ありもしないことを吹聴している」ということではなく、中国の地方政府の行政のあり方を正直にレポートしたものだと考えてよいと思います。

 中国の地方政府における無秩序な土地開発や公共工事の乱発の背景には以下の留意点を挙げることができます。

○中国では土地は公有であり、私有は認められてないため、土地を売買する自由市場というのは存在しない。そのため、農地を農民から収容する際に支払う補償金の金額を決める土地の評価額は、ほとんど政府が勝手に決められると言ってよい(このため、補償金の額が安すぎる、として立ち退きを迫られる農民等と開発業者とのトラブルが絶えない)。

○(少なくとも今まで沿岸部などの条件のよい地域では)土地を開発すれば、そこに人件費の安い中国での生産を見込んだ外国企業等が進出して来るので、土地開発を行う地方政府は手っ取り早く収入増が図れる。工場誘致がうまく行けば、GDPも上がり、その地方の指導者は中央からの評価が上がる。

○公共事業を行えば失業対策になり余剰労働力の問題が解決できるほか、直接的にGDPアップに寄与することができる。

○人民元レートの値上がりを予想して、外資がどんどん流入している一方、中国人民銀行は人民元レートを急激に上昇させないように外貨を買い支えているため、市場に人民元資金があふれ出している(過剰流動性問題)。このため、地方政府や土地開発業者は、銀行から容易にお金を借りられるし、銀行側も土地開発のための貸し出しを増やしたがる。

※中国人民銀行が人民元レートを上昇させないようにしているのは、人民元レートの上昇により輸出が減少して輸出に依存している現在の中国の経済成長にブレーキが掛かることを避けるためと、外国の安い農産品の輸入の増加により農民が打撃を受けることを避けるためである。

○土地開発や公共事業を許可する権限を持っているのは政府であり、中国の銀行は全て国有であるので、地方政府、土地開発業者や建設業者、銀行の3社が「ぐる」になれば土地開発や公共事業はいくらでもできる(予算をチェックする「地方議会」が存在しないので)。しかも、上記のように地方政府と銀行の利害は一致しているし、土地開発業者・建設業者は土地開発や公共事業が進めば進むほど儲かるわけなので、この3者は自然と「ぐる」になる。この構図に中央政府が「待った」を掛ける制度的手段がない(地方政府と銀行幹部の人事権は中央が握っているが、人事権だけでは個々の活動をコントロールすることには限界がある)。

○今までは土地を取られた農民等が裁判所へ訴える際に根拠となる法律がなかった(この点については「物権法」が2007年10月1日から施行になったので、土地収容を巡る裁判は、これから頻発するのではないかと思われる。ただし、中国の場合、特に地方の裁判所は地方の政府と独立していないので、裁判所が地方政府の乱脈ぶりをチェックする機能を果たせるかどうかは疑問である)。

 上記のような背景に基づく地方政府による無秩序な土地開発や公共事業の乱発は、市場原理に基づかない状態で爆発的に進められているところに極めて重大な危うさをはらんでいます。「土地を開発すれば、外国企業がどんどん投資して工場を建ててくれるはずだ」「中央政府は北京オリンピックや上海万博のために公共工事をどんどん進めるはずだ」「土地開発や公共事業が止まれば農民工は職を失い社会的不安定をもたらすから、党・中央も本気で土地開発や公共事業を止めようなどとは思っていないはずだ」こういった「思惑」によって土地やインフラ設備の実際の需用とは全く関係なく土地の開発や公共事業が進められているからです。

 道路などのインフラ整備は、社会資本として残るのでまだよいとしても、行きすぎた土地開発は、膨大な不良債権を銀行に残すおそれがあります。正確な統計がないので私にもわかりませんが、地方政府による土地の乱開発は、既に中央がコントロール可能なレベルをはるかに超えてしまっているのではないか、と私は危惧しています。私も実際にいくつかの工業開発区を見学させてもらいましたが、それらの工業開発区の広さはとんでもなく広大なものであり、こられの工業開発区の全てに工場が建ち並ぶとは直感的にはとても考えられないからです。

 この点については、中国共産党中央も、たぶん同じような危惧を持っているのでないかと思います。人民日報のページに、このブログで紹介したような激しい告発調のルポルタージュ記事が掲載されたことが、それを表していると思います。経済における市場原理、政治における自由選挙制度、マスコミや市民団体によるチェックという三つのフィードバック機能(行きすぎにブレーキを掛ける機能)が弱い中国において、この地方政府による爆発的な土地開発や公共事業の乱発にブレーキを掛けるのは至難の業です。今回紹介した記事をきっかけにして、地方政府の幹部や銀行の幹部が党中央と危機感を共有して、少しでも軟着陸へ向けた努力に協力するようになって欲しいと私は切に思っています。

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2007年11月23日 (金)

江西省の農民工呼び戻し作戦

 今日(11月23日)付けの北京の大衆紙「新京報」によると、広州などを中心として広く読まれている週刊紙「南方周末」(日本語表記は「南方週末」)で、江西省で563万人の出稼ぎ労働者に故郷に帰るよう呼びかけを強めていることが報道されている、とのことでした。ネットで検索してみると、下記の記事が見つかりました。

(参考)「南方周末」のページに2007年11月22日にアップされた記事
「全省総動員で労働力不足を解消へ」
http://www.nanfangdaily.com.cn/zm/20071122/jj/200711220037.asp

 江西省は上海の南西にある浙江省の西、台湾の対岸にある福建省の西にある内陸の省です。海に面しておらず、揚子江の海運を利用できない省内の多くの地域では外国と船で直接貿易することができないため、中国の経済発展の中では取り残され気味の省です(「経済統計年鑑2005」によると、江西省の2005年の一人当たりGDPの値は、31ある中国の省・直轄市・自治区の中で22番目です)。そのため、多くの農民が隣の浙江省や上海、あるいは南の広東省などに出稼ぎに行っています(いわゆる「農民工」)。その一方で、江西省の中にも工業開発区が作られ多くの企業が誘致されているのですが、働き手の多くが沿岸地域に出稼ぎに行っているため、江西省内の企業ではむしろ労働力不足が発生している、とのことです。そのため、省政府では、あの手この手で、出稼ぎに行っている農民工たちを故郷の江西省に戻って就職するよう「呼び戻し作戦」を展開している、とのことです。

 江西省出身の農民工たちが故郷に戻って来ない理由は、江西省内の企業の賃金が安いからです。ある江西省の工業開発区に立地した企業では、月給が1,000元(約15,000円)に満たず、沿岸地域の経済発達が進んだ地域より30%以上賃金が安いほか、多くの企業では社会保障が提供できていない、とのことです。江西省内の地方政府は、立地した企業に対して、もっと賃金を上げるように要請しているのですが、企業側は「江西省に工場を立地したのは、ここが賃金が安いと聞いたからだ。」と主張して、地方政府の要請にはなかなか応える動きを見せず、地方政府は対応に苦慮している、とのことです。

 この現象は、沿岸地域における労働賃金が上昇し、江西省のような「沿岸部から一歩中に入った地域」においても、既に安い賃金で働いてくれる労働者が不足してきている(一定以上の賃金を支払わないと人が集まらない)状態になってきていることを示しています。一方、一人っ子政策の影響で、江西省でもこどもの数は減少傾向にあり、将来はこの労働力不足がもっと深刻になるおそれがあるとのことです。

 こうした状況に対し、今日(11月23日)付けの「新京報」は、社説で「労働者の権益を保障することによって『出稼ぎ者が故郷へ帰る』ような吸引策を採るべきだ」と述べています。

(参考2)「新京報」2007年11月23日付け社説
「労働者の権益を保障することによって『出稼ぎ者が故郷へ帰る』ような吸引策を採るべきだ」
http://www.thebeijingnews.com/comment/shelun/2007/11-23/018@080822.htm

 この社説では、この江西省のような労働力不足現象は、中国の産業が沿岸部から内陸部へ拡大し、沿岸部の経済が低賃金労働力集約型製造業から金融サービスやハイテク産業へ変化する過程での一種の「陣痛」である、と分析しています。また、この社説では、中国が今まで謳歌してきた「人口メリット」(人口が多いことに起因する有利さ)が意外に早く終末を迎える可能性があるかもしれない、とも指摘しています。そして、この社説では、最後に、地方政府は、よりよい労働条件を整え、労働者の権益をさらにきちんと保障することによってこそ、激烈な競争の中で勝ち残ることができるのだ、と結論付けています。

 この江西省の例は、現在の中国経済が置かれている状況を非常に象徴的に表していると思います。「中国は13億人を超える人口を抱え、極めて安い賃金で働いてくれる優秀な労働者は内陸部にいくらでもいる」といったイメージは、中国の経済発展に伴う全体的な賃金の上昇に伴い、次第に幻想に近いものになってきているのではないでしょうか。

 江西省は浙江省や福建省など海に面した省の隣の省で、いわば海から見れば「第二線」の省ですが、中国には、さらに内陸部に大量の人口を抱える省があるので、江西省では安い労働力が少なくなったというのであれば、さらに内陸部から出稼ぎに出てきてもらえばよい、という考え方もあります。しかし、ここでは、既に中国の国内において「安い労働力の奪い合い」が起きつつあり、必然的に労働コストは徐々に上がり始めていることに注目すべきでしょう。一方で、今年(2007年)の大学卒業生495万人のうち140万人が9月1日(中国の次の年度の新学期の開始日)時点で就職できていない、など、労働力の供給と需要にミスマッチが目立ってきています。このことは、比較的高い学歴の労働力を必要とする金融業などのサービス業やハイテク産業などが、今の中国ではまだ十分には育ってきていないことを示していると思います。

 現在も続いている年率11%の高い経済成長は、次の時代の産業の基盤となる工業開発区や建物に対する投資に支えられています。もし、従来型の「安い労働力集約型製造業」の企業の中国での立地のスピードが鈍り、次の世代のサービス産業型あるいはハイテク産業型の企業の育成が遅れて、「産業構造変化の一時的エアポケット状態」が生じると、これまで行われてきた急激な投資資金の回収が不可能になる事態も考えられます。中国の経済成長と産業構造の変化は、あまりに急速過ぎたため、次の世代の産業の育成が間に合っておらず、「継ぎ目のない新しい産業構造への移行」が難しいのではないか、というのが私の危惧しているところです。私には、中国では、既に、「労働集約産業中心型」の時代が終わり、次の時代の新しい産業がまだ立ち上がっていない、という「継ぎ目の空白の時代」(エアポケットの時代)が始まっているような気がしてならないのです。

 上記の「南方周末」が伝え、「新京報」が社説で分析している江西省における労働力不足の問題は、そういった「エアポケットの時代」の始まりを象徴するできごとのひとつなのではないか、と私は考えたので、今日のブログで紹介させていただきました。私としては、中国がこの「エアポケット」に突っ込んで、乗っている乗客がケガをするようなことにならなければよいが、と願っています。

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2007年11月18日 (日)

中国経済はバブルか:2008年は転換点?

 2007年11月19日号(11月17日発売)の経済週刊紙「経済観察報」では、1面トップに「注意!王志浩氏が財政政策に転向」という見出しで、スタンダードチャータード銀行のイギリス人エコノミスト Stephen Green (王志浩)氏が財政政策について研究を始めたことを報じて、読者に「注意信号」を発信しています。この記事によると、王志浩氏は、来年下半期以降、中国経済の増加スピードはピークを過ぎてブレーキが掛かり始める可能性があるので、財政政策がさらに重要になる、と認識している、とのことです。

 一方、同じ号の「経済観察報」の「観察家」(オブザーバー)という欄には、「金融の不均衡に対する政策の調整が急がれる」と題するエール大学管理学院金融経済学教授で長江商学院客員教授の陳志武氏の論文が掲載されていました。陳志武氏は、この論文で、株のバブルが今後数年間の最も大きな経済的・社会的リスクである、と指摘しています。彼は、また、政府による社会保障、保険や公共的な年金制度、医療保障制度が整っていないという点で、今の中国は、1990年頃のバブルがはじける直前の日本というよりは、むしろ1929年(大恐慌直前)のアメリカの状況に似ている、とも指摘しています。

 今の中国経済の状況が「バブル」であるのかどうかは、人によって見方は異なると思います。経済の成長のスピードや投資、銀行の貸し出し量があまりにも大き過ぎて心配だと言う人がいる一方、自動車やその他の消費財の販売量は底固く、全体的に内需は増加傾向にあり、「バブル」的な部分は一部に過ぎない、と楽観視する人もいます。

 私は、来年(2008年)1月1日から施行される労働契約法(中国語で「労働合同法」)がボディーブローのように中国経済に効いてくるのではないかと思っています。労働契約法は、労働者の保護のための法律ですが、一定の条件を満たした期限付き労働者に対しては、本人が希望する場合は定年まで継続される期限なしの契約を締結することを使用者に義務付けているので、中国における労働コストがアップするひとつの大きなきっかけになる可能性があるからです。労働コストのアップは、安くて大量にある労働力に頼ってきた中国の産業構造に質的変化をもたらす可能性があります。

 また、世界的な原油高により、北京でもこの11月からガソリン代が値上げされていますが、石油の半分近くを輸入している中国は、今後とも世界的な原油高に大きく影響を受けていくことになると思います。そのような周辺状況を考えると、2008年は、単に北京オリンピック景気に区切りがつく、というだけではなく、もっと大きな意味で中国経済にとって大きな節目の年になる、と私は思っています。

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2007年10月17日 (水)

夜8時半過ぎの北京のビルの稼働率

 北京の秋も深まってきました。夕方6時には空はほとんど真っ暗になります。夜8時過ぎまで明るかった夏の間とは、だいぶ雰囲気が変わってきました。

 秋が深まり、夜が早く訪れるようになると、ビルに電灯が点っているかどうかの違いが目立ってきます。夜8時半頃だと、オフィスビルなら、まだ多くの会社で残業している人がいるし、マンションやホテルでは部屋に帰っている人も結構いるので、東京あたりだと、多くのビルでほとんどの窓から電灯の光が漏れて見えてきます。北京も高層ビルが次々に建っていますが、夜8時半時点で多くの階で灯りが煌々と灯っているオフィスビルもある一方、ビルのほんの一部にしか電気がついておらず、他の部分にはテナントが入っていないじゃないか、と思わせるようなオフィス・ビルもたくさんあります。マンションやホテルでも、概して東京の同じ時刻で見るよりも、明かりのついている部屋の割合がかなり低いような気がします。

 私は不動産の専門家ではないし、明かりのついていない部屋の割合を正確に数えたわけではないのですが、街を歩いてビルを見た印象として、東京よりも北京の方がビルの部屋の稼働率は小さい、と感じています。これは私の想像ですが、マンションの部屋などの場合は、投資対象で買ったけれども自分では住んでいない、他人にも貸していない、という部屋が結構多いのではないかと思います。

 ビルがどんどん建っている間は、建設工事の需要により経済は発展しますが、ビルは最終的には、オフィスとして使われたり、人が住んだりして利用することによって、その使用者が支払う使用料が建設資金の償還に回されるのです。持続的な経済発展のためには、このようなビルの建設資金が順調に回収され、次の建設投資に回っていくことが必要です。夜8時半頃に、東京に比べて暗い部屋が多い北京のビル群を見ていると、この投資回収が今後順調に進んで経済が円滑に回転していくのかどうか、ちょっと心配な感じもしています。

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2007年10月 1日 (月)

2007年10月1日:国慶節の天安門前広場にて

 今日、2007年10月1日は、中華人民共和国成立58周年の記念日(国慶節)です。中国では連休の初日です。私も、かなり涼しくなってきた秋の雨上がりの曇り空の下、ぶらぶらと天安門前広場を歩いてきました。中国人民の多くの皆さんも、だいたいみんな同じようなことを考えているため、天安門前広場周辺は、ものすごい人出でした。日の出の時刻に行う国旗掲揚式には、十数万人の人が集まったそうです。私は、午前10時半頃に行ったのですが、その時も、天安門前広場周辺には、ざっと見て十万人以上の人々がいたと思います。

 国慶節の天安門前広場と言えば、ひな壇に中国共産党の指導者が並び、その前をミサイルや戦車を先頭にして人民解放軍の兵士が行進する、ひな壇の指導者の並ぶ順序によって、今後の指導部の人事を予測する、などという時代が、かつてありました。いつまでそういうことをやっていたのかは記憶が定かではありませんが、少なくとも20数年以上前の1980年代にはそういう行事はやらなくなりました。今の国慶節は、そういう仰々しい行事のない、年に3回ある大型連休のひとつです(他の二つは春節(旧正月)と労働節(メーデー))。天安門前広場は、花壇や臨時の大噴水、万里の長城や天壇公園をかたどった飾り物が並び、地方からの「お上りさん」がごった返す人並みの中で記念撮影をする、そういった場所になっています。

 十万人オーダーの人が集まるので、人波の整理は大変です。狭いところに大群衆が集中して将棋倒しのようなことが起きては困るので、警官や城管(都市管理局)の職員が大勢出て、群衆の整理をしていました。天安門前広場に最も近い地下鉄1号線の「天安門東」駅と地下鉄2号線の「前門」駅は、ホームに人があふれかえると非常に危険なので、国慶節期間中は、駅自体が閉鎖になり、地下鉄の列車は通過になります。人々は、それぞれ1つ手前の駅で降りて、あとは「歩き」で、天安門前広場に来ます。従って、好むと好まざるとに係わらず「ぶらぶら歩く」程度の速さでしか歩けないのです。

 中国は、今、様々な社会的問題を抱えていますが、少なくとも今日の天安門前広場に集まった人たちを見る限り、中国はいたって平和です。花壇や噴水がきれいで、みんな休日を楽しんでいる様子でした。人波を整理する警官や城管職員にも厳しい雰囲気はありませんでした。ただ、地下鉄は、あまり乗り慣れていない「お上りさん」がギュウギュウ詰めになって乗っているので、いささか「殺人的」な雰囲気ではありました。北京の地下鉄1号線、2号線は6両編成なので、利用しようとする人数に比べて輸送能力が少な過ぎるのです(東京の場合も、最初にできた銀座線と次にできた丸の内線は6両編成です)。

 私は今日は普段着にリュックを背負って、手には街のスタンドで買った「新京報」を持って歩いていました。たぶん外国人には見えなかったと思います。天安門前広場の東側は中国国家博物館ですが、その東側は公安部です。公安部の前を歩いている時、警備中の警察官に「ちょっとちょっと」と呼び止められました。「安全のためリュックの中身を確認させてください。」とのことでした。これだけの人波ですから、危険物でも持ち込まれたら危ないので、そういった荷物検査をやっているのだと思います。その警察官は、たまたまリュックの中に折りたたんで入れてあったボウリングのスコアを書いた紙を見つけて、広げて見せてくれ、と言いました。私がその紙を広げて見せると「わかったわかった。御協力ありがとう。」と言って、そのまま行かせてくれました。その警察官は、危険物を持っていないかどうかを確かめると同時に、「好ましくないスローガン」などを持って、天安門前広場で掲げよう、などということを考えていないかどうか、確認したかったのだろうと思います。

 皆さん御存じのように、天安門には真ん中に毛沢東主席の肖像が掲げられており、その両側に、赤地に白抜きで、広場側から見て左側に「中華人民共和国万歳」、右側に「世界人民大団結万歳」という文字が書かれています。今日は、それと対面する形で、天安門前広場の真ん中にある人民英雄記念碑の前には孫文の肖像が掲げられ、その両側に、赤地に白抜きで、天安門から見て左側に「祝賀中華人民共和国成立五十八周年」、右側に「堅定不移地走中国特色社会主義偉大道路」(中国の特色のある社会主義の偉大な道を堅持してぶれずに歩んでいこう)と書かれていました。10月15日から第17回中国共産党大会が開かれますので、それを意識したスローガンの表示だと思います。

(参考)「新華社」ホームページ2007年10月1日14:53アップ組写真
「連休週第一日:天安門前広場に集まった人々」
http://news.xinhuanet.com/photo/2007-10/01/content_6820641.htm

 夜7時の中央電視台のニュースによれば、胡錦濤国家主席・中国共産党総書記は、今日の国慶節は北京にはおらず、上海にいて、工場の視察や、2日から上海で始まるスペシャル・オリンピックに出る知的障害者の人たちと交流したりした、とのことです。

 マンションやオフィスビルの建設ラッシュはどう見てもバブル的で、株の上昇の仕方も尋常ではなく、豚肉をはじめとする物価も上昇し、国内外でニセモノ騒ぎが続き、億の単位で都市部に出稼ぎに出てきている農民工のこどもたちが公立学校へ行けない、というような問題が続いている中で、十数万人の人たちが天安門前広場で穏やかに休日を楽しんでおり、社会が不安定になりそうな気配は全く感じない、それが現在の中国のいつわらざる姿なんだと、今日、国慶節の天安門前広場で改めて思いました。

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2007年8月 6日 (月)

「小産権房」(集団所有地上の住宅)をどうする?

 「小産権房」、即ち村有地など集団が所有する土地の上に建てられた住宅(別荘、マンションなども含む)は、その集団のメンバー(村の場合は村民)以外には法律上の権利は及ばない、というのが中国の法律上の建前ですが、実際にはこれら「小産権」の別荘やマンションは多くの場合、都市住民など土地を所有している集団のメンバー以外の人に売却されています。この問題をどう扱うかが現在の中国の大きな社会問題になっています。この問題については、このブログの昨日の記事「ある北京近郊の村の『別荘商売』」でも書きましたが、ネット版人民日報「人民網」では、今日(8月6日)、この問題に関する特集記事をアップしていますので、今日も触れてみたいと思います。

ネット版人民日報「人民網」2007年8月6日00:29アップ
「拆(チャイ)! 『小産権房』は生死の瀬戸際に直面している」
http://politics.people.com.cn/GB/30178/6072490.html

(注)「拆(チャイ)」とは、機械や建物を解体する、取り壊す、という意味です。取り壊す予定の旧い建物には「危険なので中に入らないように」という意味も含めて○の中に「拆」の字を書いたマークがペンキで描かれます。今、北京でも、この「拆」のマークが書かれた旧い建物をあちこちで見ることができます。

 上記の特集記事では、過去に書かれたいくつかの記事をまとめながら、問題点となっている現象をいくつかピックアップして報じています(それぞれの段落の「詳細」というところをクリックすると、過去に書かれたこの問題に関する様々な記事にリンクするようになっています)。

 山東省済南市では、この7月、市行政当局が違法な「小産権房」を強制的に取り壊しました。その様子が写真入りで紹介されています。この強制取り壊しに対して、済南市当局のスポークスマンは、次のように説明しています。

○村有地などの集団所有の土地の上に建てられた住宅(「小産権房」)は、法律上何らかの規定があるわけではない。

○法律上の許可を得て建てられた合法的なものもあるが、法律に従った許可を得ずに建てられた違法な「小産権房」は、許可がなく建てられているため、市全体の都市計画に合致していない。

○我々は何回も工事の停止や警告を発した。口頭での警告を何回もし、その後、文書による警告も出した。度重なる警告にも係わらず工事が続行された場合は、電気の供給を停止することなどにより工事を停止させた。法律に違反し、都市計画に合致していない建物は強制的に取り壊さざるを得ない。

○違法な建物であることを承知の上でこの住宅を購入した者は、法律上、当然補償の対象とはならない。

○許可なく建てられた違法な『小産権房』は、劣悪な材料を使っているかもしれないなど、安全性は誰も保証していない。一般市民が出入りすることになることを考えると、絶対多数の人を保護するためには、法律に基づき処理せざるを得ない。

 この特集記事の筆者は、何千万元(日本円で億円単位)も掛けて建てられた新品の「小産権房」を何百万元(数千万円単位)のお金を掛けて取り壊すのは、いくら違法とは言え社会経済上の損失が大きすぎるし、社会不安の原因にもなりかねない、そもそもこれらの建物は建設労働者の血と汗の労働の成果であることを忘れてはならない、と述べるなど、強制取り壊しには批判的な立場で書いています。この記事の筆者は、違法な建設ならば、そもそも建物が建てられる前に強制的に工事を止めるべきである、と主張しています。

 一番最後には北京市での事例として、農民が村の土地の上に建てた別荘を北京市に住む画家に売ったことに関する裁判の例が載っています。農民は、売買契約を交わして北京の都市部に住む画家に「小産権」の別荘を売ったが、後になってこの別荘は違法なものだから売買契約は無効であって、現在でも画家から使用料を徴収できるはずだ、として裁判を起こしたものです。一審では農民側が勝訴しました。裁判所は、売買契約は無効で、別荘に対する農民の権利は現在でも残っている、との判断を示したのです。この裁判は、別荘を買った画家側が判決を不満として上級審に控訴しているためまだ結論は出ていません。この北京の画家と農民との裁判に関する記事(7月30日付け「中国経済週刊」記事)の筆者は、農民は、正式に書面による売買契約を結んで画家に別荘を売ったにも係わらず、最近の不動産ブームによる別荘の価格の急激な値上がりを見て、自らの権利を回復させたいと思って裁判を起こしたのだが、こういった行為を裁判所が認めてしまうことは、法律上の解釈としては間違っていないのかもしれないが、双方が合意の上で成立した「売買契約」が後で覆ることになり、「合理的」とは言えないのではないか、と批判しています。

(参考1)ネット版人民日報「人民網」にリンクされた「中国経済週刊」2007年7月30日(第29期)の記事
「画家と農民との『小産権房』を巡る争いについて裁判所が判断」
http://paper.people.com.cn/zgjjzk/html/2007-07/30/content_14196299.htm

 土地に対する権利、というのは、いつの時代でも、社会の最も根本をなす法律上の位置付けのひとつです。「土地は全て国有、または集団所有で、個人による私有は認めない」という社会主義の大原則に立っているのが今の中国です。その中国において、市場経済を導入し、現在、資本主義社会のような土地開発ブームが起きているわけです。中国の土地ブーム(不動産ブーム)においては、土地については現在でも私有は認められておらず、例えば70年間といった期限付きでのその土地の「使用権」が売買されているにすぎませんが、この「長期にわたる使用権の売買」は、実態的には「所有権の売買」に限りなく近い、ということが、法律上の「タテマエ」と経済実態との矛盾を生じさせ、様々な問題を表面化させているのです。「小産権」問題は、社会主義の原則の上に立って市場経済原理を急速に導入してきた現在中国の経済社会の矛盾を象徴する典型的な問題のひとつと言うことができると思います。

 個人や企業の「所有権」について何を認めるか、について定めた法律「物権法」が今年3月の全国人民代表大会で成立し、今年(2007年)の10月1日から施行されることになっています。

(参考2)全国人民代表大会のホームページにある中華人民共和国物権法(中国語)
http://npc.people.com.cn/GB/28320/78072/78092/5487932.html

 そもそも今まで「所有権」に関して規定した「物権法」がない状態で市場経済を導入してきたこと自体が政策の進め方としては順番が逆なのであって、様々なところで矛盾点が出てくるのは当然である、という議論はよくなさるところです。中国の場合は「人民を豊かにする」という最終目標を達成するため、制度の改革をその成果を見きわめながら徐々に行ってきているため、どうしてもこういう「制度改革の逆転現象」が起こる場合があります。「小産権」問題もこの「政策と現実との逆転現象」が生み出した問題のひとつですが、上記の特集記事の筆者が言っているように、多額の資金を掛けて作られたピカピカの「小産権」マンションを「違法だから」という理由で取り壊してしまうのは、国民経済上の大きな損失ですから、こういう損失が起きないよう、うまく多くの人が納得できる解決策を考え出して欲しいものだ、と私も思っています。

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2007年8月 5日 (日)

ある北京近郊の村の「別荘商売」

 最近の中国の住宅ブームに乗った大都市近郊の農村における「開発」の一例として、北京の大衆紙「新京報」が密雲県(行政区域としては北京市内:北京の市街地から車で1時間半くらいのところにある農村地帯)のある村の最近の様子をルポしています。

「新京報」2007年8月3日付け記事
「ある村の共産党支部書記の『小産権』住宅を使った商売の経緯」
http://news.thebeijingnews.com/0547/2007/0803/011@280934.htm

(注1)「小産権」とは、村のような集団所有の土地の上に立てられた住宅物件に関する権利またはその権利の対象となっている住宅物件のこと。中国は社会主義国なので、土地の私有は認められておらず、全ての土地は国有か、そうでなければ村などの単位の「集団」が所有している土地です。法律の建前上、国有地の上に建てられた住宅ならば、一定の使用料を支払えば全ての国民にこれを利用する権利がありますが、集団所有の土地の上に建てられた住宅については、その集団のメンバー(村の場合は村民)以外の者がその住宅を使用する権利はないはずです。しかし、実際には、農村部の村が所有する土地に建てられた別荘などを都市住民が購入して利用している例が全国に数多くあります。こういった不動産に対する権利を中国語で「小産権」または「郷産権」と言います。今年6月25日、国土資源部と北京市当局は、今後「小産権」の住宅・マンションの工事・販売を停止する方針を発表しました。しかし、既に建設・販売が行われている「小産権」の住宅・マンションをどうするのか、既に購入した人の権利はどうなるのか、などの方針が明らかにされておらず、実態的には、多くの場所で、いまだに「小産権」の上に建てられた住宅・マンションの建設工事や販売は行われています。

(参考1)このブログの2007年6月26日付け記事
「北京では耕地などに作ったマンションの売買を停止」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/06/post_94bc.html

(注2)中国では各地方政府の共産党委員会の書記(トップ)はその地方政府の首長よりも地位が高く、実質的な行政の最終判断は党書記が行います。村の場合は、村長よりも、共産党の村支部の書記の方が地位が高く、村支部の書記が実質的な政策の判断責任者です。

 「新京報」のルポルタージュが述べているこの村の共産党支部書記が採った方策のポイントは以下のとおりです。

○村民の旧い住宅を取り壊してひとつにまとめ、新しい村民住宅を建設する。

○村の耕地2000ムー(133ha)を回収し、一部は乳牛の飼育場と野菜生産地にし、残りには別荘を建てて売りに出す。

○村民には、乳牛飼育場または野菜生産地で働いてもらうことによって就業問題を解決させる。別荘を売って得た収入は、耕地を提供した村民に対する食糧補助に充てるほか、新しく建てた村民住宅の水道代、冬季の暖房代などに充てる(従って、村民住宅に入る村民は、水道代、暖房費などを払わなくて済むようにする)。また、別荘を売って得た収入で、老人に対する補助金などを支払う。

 2003年から売り出された広さ220平方メートル以上の豪華な別荘は、場所が北京市街地に近いこともあり、2003年は30万元、2004年には40万元、2005年には50万元で売れ、昨年(2006年)末には100万元(約1,500万円)以上で売れました。そのため、耕地を提供した農民に対する補助を行うことも十分に出来、老人に対する補助金などは他の村よりも多額にすることができたため、村民の中で文句を言う人はあまりいませんでした。

 しかし、ある乳牛農家は、自分の家を引き渡す際の補償金の額が十分でないと考え、旧い自分の家を取り壊して新しい村民住宅に移転することを拒否しました。

(注3)こういう土地開発に対して単独で移転に反対する家のことを、中国語で「釘子戸」と言います(中国語の「新語・流行語」の類です)。「釘(くぎ)のような家」というような意味です。開発業者による「地上げ」に反対する「釘子戸」の様子は、最近、日本でもよく報道されるので御存じの方も多いと思います。

 村の書記は、この「釘子戸」の乳牛農家に対し、村の獣医による診察を停止させる、という措置を執りました。これに対し、この乳牛農家は、村の書記による獣医の診察停止は違法である、として裁判を提起しました(この裁判は、8月2日から審理が開始されました。「新京報」の記事は、この裁判の審理開始をきっかけとして書かれたものです)。

 法律では、耕地をつぶして住宅や別荘を建てる際には、上部機関の許可が必要です。この書記は上部機関の許可を取らずに、別荘と村民住宅の建設を進めました。上部機関(密雲県国土資源局)はこれを問題にし、昨年、この村に対して罰金250万元(3,750万円)の行政処罰を科しました。しかし、別荘の価格の高騰で、別荘の売り上げ収入が十分にあったことから、この書記は罰金250万元を支払ったとのことです。罰金は支払ったが、上部機関の許可を得る手続きはいまだにやっていないとのことです。「罰金」という処罰が、お金持ちにとっては実質的には痛くもかゆくもなく、罰金を支払った上で平気で違法状態を続ける、という最近の中国のよくない傾向のひとつの例です。

(参考2)このブログの7月28日の記事
「『なんでもかんでも罰金』の功罪」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/07/post_a073.html

 かつてこの書記の前任の書記だった人は、このやり方に反対しています。今は、別荘が値上がりして売れているからいいものの、耕地だった土地を全て開発してしまって売り尽くしてしまった後は、村民はメシを食うすべを失ってしまうからです。これに対して現職の書記は、「農地を耕して農業をやるのは儲からない」として、まだ開発が始まっていない耕地でも全く耕作を行わず、荒れ放題にしたままにしてある、とのことです。

 6月25日に国土資源部と北京市当局が「小産権」の住宅・マンションの工事と販売を停止する方針を発表した後も、この村での別荘の工事は続けられているそうです。「新京報」のこのルポルタージュでは、裁判の対象になっているからだと思いますが、あえてこの書記の政策がいいとも悪いとも言わず、淡々と事実関係を伝えるだけに留め、「新京報」としての意見を表明するのは差し控えています。

 「小産権」の住宅・マンションについては、6月25日に国土資源部と北京市当局による工事・販売の停止方針の発表の後、各新聞紙上で「実際にこれだけ売買が行われているのに、いきなり停止なんて無理だ」「既に購入した人の権利はちゃんと守られるべきだ」などいろいろな議論が行われました。一時期「近々国務院でこの問題に関する会議が開かれ、方針が示される見通し」という記事も載ったことがあったのですが、その後、具体的には何の動きもありません。一部の「小産権」を開発している村では、「販売」という看板を「賃貸」に書き換え、「我が村の物件はあくまで村民の所有物である。それを都会の人に70年間という期間限定で賃貸して利用してもらい、その賃貸料(利用料)を最初に一括して支払っていただこう、というものである。賃貸しであるから、販売には当たらず、従って法律上は何の問題もない。」と説明しているところもあるそうです。「おかみに『政策』があれば、我々しもじもには『対策』がある」という中国ならではの現象ですが、急激に成長を続ける中国経済を示す数字の中には、こういった形の「開発」によるものも含まれている、ということは、常に認識しておく必要があると思います。

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2007年7月27日 (金)

中国経済の実態:携帯電話契約件数は5億件超

 下記の中央電視台の報道によると、中国での今年上半期の自動車販売台数は229万台で、前年同期比25.9%の増加、とのことです。

(参考1)中央電視台ホームページ経済欄2007年7月25日記事
「中国経済は良好な状況を維持して進んでいる。産業構造は絶え間なく発展している。」
http://finance.cctv.com/20070725/102258.shtml

 また、7月25日に発表された中国情報産業部の統計(2007年6月末現在)の数字によれば、中国の携帯電話の契約件数は5億件に達した、とのことです。

(参考2)中国情報産業部ホームページ2007年7月25日発表
「2007年6月通信事業統計月報」
http://www.mii.gov.cn/art/2007/07/25/art_166_32599.html

 よく中国の国内総生産の統計データなどは、地方政府が中央に対して「いいかっこ」を見せるためにかさ上げして報告しているのではないか、など、その信憑性については、いろいろ議論がありますが、自動車の販売台数とか携帯電話の契約件数などは、実際にビジネスをやっていれば手応えはわかるので、上記の数字には、そんなにごまかしはないと思います。

 中国の自動車の新車の販売台数は、既に昨年の時点で日本における新車の販売台数を追い抜いた、と言われています。今の中国経済は「バブルかどうか」という点はよく議論になるところですが、上記の数字を見ればわかるとおり、手堅い内需があることは紛れもない事実だと思います。問題は株や不動産などの取引のどの程度の部分がバブルで、それがハジけた場合に手堅い実質経済にどの程度のショックを与えるのか、という点です。

 携帯電話の契約件数の総計が5億件を超えたという数字はハンパな数ではありません。1人で複数の携帯電話を持っている人もいますが、中国の場合、かなり所得の低い層の人々の間にも携帯電話はかなり普及しています(そうでなければ、5億などという数字にはならない)。よく農村部から都市部に出稼ぎに来て建設業などに従事している農民工の厳しい労働条件が話題になりますが、先日、次のようなニュースがありました。「ある建設工事の工事主が、農民工に何ヶ月も給料を払わなかった。農民工はその日その日の食事にありつくこともできなくなり、ついには携帯電話を売って、ようやくその日の饅頭(マントウ)を買った。問題を重視した行政当局がこの建設工事主に対して立ち入り調査に入った。」といったニュースです。低所得に喘いでいる農民工の人たちも携帯電話は持っているのです。街のゴミ箱をあさってペットボトルを集めたりしている人たちも携帯電話は持っていたりするのだそうです(こういう人たちが持っている携帯電話は中古品が多いらしいですが)。こういう人たちにとっては、日々の職探しのために、携帯電話は、ほとんど必需品に近いものなのだそうです。

 中国は、時々自らの国のことを「中国はまだ発展途上国で、貧しい人々がたくさんいるのです。」などと言いますが、中国にいる「貧しい人々」とは、アジア・アフリカの最貧国にいる「貧しい人々」とは全く性質が違います。確かに所得は低いのですが、しっかりとした義務教育を終えた一定の教育レベルを持ち、新聞を読み、携帯電話で情報交換をする人たちです(解放後(1949年以降)に教育を受けた人たちの識字率はほとんど100%に近いと言われています)。これらの中国の「貧しい人々」は、もし本当に生活が立ち行かなくなったら、お互いに情報交換をし、きちんとした形で、一定の意志表示をすることになるでしょう。

 20年前、前回私が北京に駐在していた頃は、北京などの都市部でさえ、自宅に固定電話を持っている人はほとんどいませんでした。上記の情報産業部の月報によれば、携帯電話5億件のほかに固定電話契約が3.7億件あるとのことで、この20年間の急激な変化は尋常ではありません。しかし、この電話の数の増加は事実であって「バブル」ではありません。自動車の新車販売台数においても、中国は日本より大きな市場になった、という事実を見ても、世界経済の中において、中国が占める比重は確実に大きくなりました。つまり、今、現在、既に中国の政治経済が急激に変動することは、世界経済に大きなインパクトを与えることになるのです。それにしては、中国の内部に存在する深刻な都市部と農村との格差問題、環境問題、株や不動産のバブル的な動き、中央政府が地方政府をコントロールできていない実態などの様々な矛盾や不安定要因について、世界の人々はまだあまり知らな過ぎるように思います。それは、中国自身が情報をコントロールしているせいでもありますが、これは世界にとっても中国自身にとってもよくないことだと思います。

 中国の問題は、今や世界の問題でもあります。北京オリンピックを機会に、世界の多くの人々が中国の抱える様々な問題点を知り、ともに協力してその解決に当たれるようになればいいなぁ、と私は願っています。(その意味では、私は、中国政府には、北京オリンピックの期間中だけ工場の操業を停止したり自動車の使用制限をしたりして、大気汚染をなくそう、などというその場を取り繕うような手法は採って欲しくないと思っています)。

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2007年7月22日 (日)

中国の経済成長はまだ過熱状態

 7月19日、中国統計局は、2007年前半の中国の経済成長率が11.5%、第二四半期の成長率は11.9%であった、と発表しました。

(参考1)中国統計局2007年7月19日発表
「上半期の国民経済は継続して安定的なスピードある発展を続けている」
http://www.stats.gov.cn/tjfx/jdfx/t20070719_402418926.htm

 この統計局の発表の直後の7月20日、国務院は貯蓄利子に対する所得税を8月15日以降、現在の20%から5%に引き下げる、と発表しました。市場に出回って株取引などに使われている個人資産を貯金に引き戻すための方策です。また、同日、中国人民銀行は、1年ものの基準金利を0.27%アップさせ、従来の3.06%から3.33%にする、などの利上げを発表しました。これも景気引き締め対策のひとつです。

(参考2)ネット版人民日報「人民網」経済ページ2007年7月20日19:10
「国務院、貯蓄利子税の税率を20%から5%に減税することを決定」
http://finance.people.com.cn/GB/6015097.html

(参考3)ネット版人民日報「人民網」経済ページ2007年7月20日17:18
「中央銀行、人民元貸し出し基準金利を1年ものにつき0.27%アップ」
http://finance.people.com.cn/GB/6014773.html

 これらの動きについて、7月23日号(7月21日発売)の経済専門週刊紙「経済観察報」の社説は、これまでも景気抑制策が小出しに出されてきているが、今年前半の経済成長率が引き続き高いレベルにあることを見ると、今までの景気抑制政策が全然効いていないのではないか、との懸念を表明しています。この社説では、将来の安定的で継続的な中国の経済発展のためには、内需振興を図るべきで、現在、一般庶民が社会保険、医療、教育、住宅などの不安を抱えているために安心して消費にお金を回せていない現状を考えれば、今、国の財政は比較的余裕があるのだから、財政投入の重心を公共事業に置くのではなく、民生問題の解決に力を入れるべきだ、と主張しています。

 私は、この社説で「上半期の経済成長率が11.5%、第二四半期だけ見ると11.9%という数字は、目標とされる8%を4%近くも上回っており、軟着陸どころか、ますます収めるのが難しい勢いになってきている」と述べていることが、この社説の筆者の一種の「危機感」を示していると思いました。

 北京オリンピックまで、ほぼあと1年。経済における各プレーヤーは、そろそろ「オリンピック後」の中国経済の姿を想定しながら動くべき時期のはずです。各プレーヤーは「オリンピック後」も年12%レベルの経済成長が継続される、と考えているのでしょうか。今の時点である程度ブレーキを掛けておかないと、「オリンピック後」にうまくスムーズに連続的に移行していけないのではないか、とみんなが思っているはずなのですが、現実にはまだブレーキは掛かっていません(政府としてはブレーキを掛けているつもりなのでしょうが、全然効いていない)。

 まだまだ、中国経済は目の離せない状況が続きそうです。

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2007年6月28日 (木)

次々と打ち出される過剰流動性対策

 今、中国の外貨準備高は1兆2000億ドルを超える、という天文学的な数字に上っています。これは大幅な貿易黒字と人民元為替レートを人為的に低く抑えようとするために大量のドル買い・元売り介入を行ってきた結果です。

(参考1)中国人民銀行ホームページ
「調査統計」-「統計数データ」-「黄金及び外貨準備高表」
http://www.pbc.gov.cn/diaochatongji/tongjishuju/gofile.asp?file=2007S09.htm

 元安を維持する政策が行われているのは、人民元レートを高くすると

○「人件費が安いから売れる」という中国製品のメリットが失われ、経済成長の柱である輸出産業が打撃を受けるため

○外国の安い農産物が輸入され、中国の農業が打撃をうけるため

だと言われています。こういった中国の為替政策については、アメリカ等から強い圧力が掛かっています。アメリカ等からの外圧や外貨準備高があまりにも巨大になりすぎたため、「いつかは人民元レートは上がるだろう」と見られているので、外国から中国への投資がどんどん行われています。元が安い今のうちに中国国内に投資して、元が高くなってから投資を回収すれば、為替差益の分がまるまる儲かるので、外国の投資家が「こんなうまい話はない」と思ってどんどん中国国内に投資するからです。

 中国人民銀行によるドル買い・元売りによって市場に出回る人民元と、外国投資家が儲けを見込んで海外から流し込む資金とで、中国国内には資金がダブダブに余っている状態になっています。これが今の中国の過剰流動性問題です。余った資金は、株やマンション・オフィスビル等の不動産の投資に回され、バブルとも言える株高・不動産高を招いています。また、過剰流動性により、消費者物価も上昇しています。一方、ここ1年の間、全国の貯蓄率は下がり続けています。多くの人が貯金を下ろして、株や不動産に投資しているからだと言われています。

 天文学的な数字の外貨準備高や、株・不動産の価格がバブル的に高騰している中、地方の農民の苦しい生活は一向に改善されません。このような状態では、いくら党や政府が「和諧社会の実現」をスローガンにしても、それがすぐに実現できるとは誰にも思えない状況になっています。土地開発やビルの建設ラッシュで、農村から出稼ぎに来ている農民工たちが働いて給料をもらって、それを故郷の農村に送金しているので、今のところ表立った不満の動きは表面化していませんが、どこかで何かひとつ歯車が狂うと、農村部の人民の貧しさと都市部など一部での金余り現象とをかろうじて共存させている巨大な細木細工が崩壊してしまう危険性があります。

 そこで、党と政府は、いま必死で「バブル」の動きにブレーキを掛けようとしています。そのために、ここへ来て、また、矢継ぎ早に「バブル」の原因となっている過剰流動性に対処する対策が打ち出されました。

(1)貯蓄利子に対する個人所得税の減税または免除

 現在開かれている第10期全国人民代表大会(全人大=日本の国会に当たる)の常務委員会第28回会合で、貯蓄利子に対する個人所得税の減税又は免除の決定を国務院(日本の内閣に当たる)に授権する法案の審議が行われています。これは現在20%になっている貯蓄利子に対する個人所得税の減税または免除を、その時の経済情勢に合わせて、国務院が随時決定できるようにするものです。現在、急激に貯蓄残高が減ってきており、その分が株や不動産の投機に回っていると見られることから、資金を貯蓄に戻そう、という狙いをもったものです。

 ただし、これについては、例え税率がゼロになっても、今の状況では、貯蓄するよりは株や不動産に投資した方がリターンが大きいので、この政策の効果はあまり大きくないのではないか、という見方もなされています。

(参考2)「新華社」2007年6月28日付け記事
「利息税調整は、必ずしも貯蓄動向を変えるものではない 株式市場への影響もあまり大きくない」
http://news.xinhuanet.com/fortune/2007-06/28/content_6300576.htm

(2)1兆5500億元(2000億ドル)の特別国債の発行

 これも今開かれている全人大常務委員会で議論されている政策です。現在、巨大に膨らんだ外貨準備を適切に運用するため、国家外貨投資公司の設立が計画されていますが、この政策は、外貨投資公司の設立に際して特別国債を発行しようというものです。その意図は、人民元で特別国債を買ってもらって、それをもとにして外貨を運用する、つまり市場に出回っている人民元をこの特別国債で吸収しよう、というものです。この政策については、2000億ドル(約25兆円)という額の巨額さから、この特別国債の発行がいろいろな面で別の角度からのインパクトを与えるのではないか、と心配する人もいます。一方、利率などの詳細はまだ決まっていないことから、これが市場の人民元をどれだけ吸収し、過剰流動性対策としてどの程度効果があるのか、今のところまだわからない、という人もいるようです(この「特別国債」は、普通に販売したのでは売れないでしょうから、各銀行に強制的に買わせるようなことをするのかもしれません)。

(参考3)「新華社」2007年6月27日付け記事
「新華社の視点:1兆5500億元の特別国債の『特別』な狙いを透視する」
http://news.xinhuanet.com/politics/2007-06/27/content_6299746.htm

 いずれにせよ、そもそもの過剰流動性の原因は人民元のレートを人為的に低く抑えていることにあるのであって、為替政策を変えずに、小出しにいろいろと過剰流動性対策を発表しても根本問題は解決しない、という見方もあります。

 こういった「金余り減少対策」として資本主義社会でなされるようなマクロ経済対策が次々と打ち出される一方、今日(6月28日)の人民日報の1面には、「中央と国家機関、人民団体は、胡総書記の重要講話を真剣に学習しきちんと理解しよう」「全党の思想認識を更に一歩統一させよう」といった「これぞ社会主義国家!」といった雰囲気の見出しが踊っています(胡錦濤総書記の「重要講話」については6月26日の私のブログの記事「北京では耕地などに作ったマンションの売買を停止」を参照)。バブリーに見える活気にあふれる街の様子と、打ち出される政策と、人民日報の見出しとが、全然マッチしないために、多くの人がまじめに議論し、いろいろな政策が出されているにもかかわらず、私には、かえって「これからいったいどうなっていくのだろうか」という不安な気持ちを起こさせてしまうのです。

(参考4)人民日報2007年6月28日1面トップ紙面
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2007-06/28/node_17.htm

 7月1日の香港返還10周年記念式典に出るために、胡錦濤主席が香港へ行くそうです。できるのかなぁ、と心配する人もいた香港復帰を見事に成し遂げ、混乱を起こさず、10年間、香港の発展を維持してきた政策は(いろいろ意見のある方はいるでしょうが)、それなりに評価はできると思います。ですから、今の中国国内のバブルに対しても、うまく対処してくれるよう期待したいものです。

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2007年6月26日 (火)

北京では耕地などに作ったマンションの売買を停止

 今日(2007年6月26日)の人民日報の一面は、以下の記事で塗りつぶされています。

「胡錦濤総書記が中央党校(共産党幹部を養成する学校)で重要な講話を行って強調した『中国の特色ある社会主義の偉大な道をたがうことなくしっかりと進み、全面的に穏やかな社会を建設するという新しい勝利の局面を奪取するために奮闘しよう』」

 下記のURLを見ていただければわかりますが、この見出しの書きぶりといい、紙面の雰囲気といい、この雰囲気は30年くらい時代が遡った感覚を覚えます。WTOに加盟して5年以上がたち、世界経済の中で華々しく活躍する現代の中国からすると、雰囲気的に相当なミスマッチ感を感じる紙面です。

「人民日報」2007年6月26日付け1面トップ紙面
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2007-06/26/node_17.htm

 胡錦濤総書記の「重要講話」のポイントは、新しい時代の情勢に直面して、以下を行おう、というものです。

○トウ小平氏の理論と「三つの代表」(中国共産党が「先進的生産力」「先進的文化」「広範な人民の利益」の3つを代表する、という考え方。2001年に江沢民総書記が打ち出した)の思想を堅持する。

○改革開放政策を堅持する。

○科学を発展させ「和諧社会」(調和のある社会)の建設を促進させる。

○四つの基本原則(改革開放政策を強力に推進したトウ小平氏が守るべき基本原則として掲げた四つ:社会主義の道を歩むこと、人民民主主義独裁を貫くこと、共産党の指導の下に全てを進めること、マルクス・レーニン主義と毛沢東思想を守ること)を堅持する。

○全面的に穏やかな社会(小康社会)を作るべく努力する。

 基本的に「今までの路線を堅持するぞ!」という意図表明であり、新しい点は何もないのですが、新しい点と言えば、最後の「穏やかな社会(小康社会)を作る」と単語がちょっと新しさを感じます。この言葉は、現在の状況を踏まえると「バブルは許さんぞ!」というふうに解釈するのが自然だと私は思います。

 中央党校での講話なので、見出しが「お堅い」感じになったのかもしれませんが、急激な経済成長に警戒感を持つ「保守派」に対して配慮した、という意味もあったのだと思います。

 同じく今日(6月26日)の別の新聞には下記のような記事が載っていました。私はこれは偶然の一致ではなく、「バブルは許さない」という党・中央の硬い意志を示しているという点で、一貫していると思います。

「新京報」2007年6月26日記事
「北京『小産権』房要停工停售」
(北京では国有の土地ではない耕地などに作ったマンションの工事と販売を停止する必要がある) http://news.thebeijingnews.com/0553/2007/06-26/015@272145.htm

「北京晨報」2007年6月26日記事
「小産権房将停工售」(国有の土地ではない耕地などに作ったマンションの工事と販売を停止)」
http://www.morningpost.com.cn/article.asp?articleid=111259

 中国は社会主義国ですので、土地の私有というのはあり得ません。土地は国有であるか、村などの地方政府が所有しているか(集団所有)のどちらかです。集団所有の土地にマンションを建てた場合、その集団に所属していない外部の者は、土地に対して何の権利もないので、マンションの部屋を買うことはできないのが原則ですが、現実的には、地方政府が自分の持っている集団所有の耕地などの上に勝手にマンションなどを建てて外部の人に売って収入を得ることが横行しています。こういったマンションの権利のことを「郷産権」とか「小産権」とか言っています。

 上記の記事は、昨日(6月25日)に国土資源部と北京市政府が、集団所有の耕地などを開発して建てたマンションは外部の人には土地についての権利がないので、そういう土地の売買は今後停止させるし、工事も停止させる、という意向を示したことを伝えるものです。

 上記の記事によれば、北京の土地で国有なのはわずか18%で、残りは「集団所有」の土地だ、とのことです。「新京報」の記事によれば、北京の「小産権」のマンションは72棟、これを仮に1プロジェクトあたり10万平米だと仮定したとして概算すると、北京で売買されているマンションの3分の1がこの「小産権」に当たる、としています(この計算は、かなり大ざっぱなのであまり正確ではない可能性があります)。北京晨報の記事では、北京で売られているマンションの2割程度が「小産権」にあたる、と見積もっています。北京晨報の記事では、「小産権」の物件は、行政区域としては北京市内ですが、市街地からかなり離れた郊外地区に集中しており、市街地周辺地区に比べて25%~30%とかなり割安なため、買う人が多い、と指摘しています。

 土地の私有が認められていない社会主義国の中国で、マンションを売買する際には、常にこのようなリスクは伴っているわけですが、「バブルを防ぐため」とは言うものの、急に社会主義の原則を持ち出してきて一部のマンションの建設と売買を停止させる、というのは、いささか荒療治過ぎるような気がします。政府に言わせれば「そもそも集団所有の耕地などの土地にマンションを建てること自体違法なのだから、そういった違法なマンションの建設や販売を止めるのは当然」という理屈なのでしょうが、これに対して市場がどう反応するかが心配です。

 実は、昨日(6月25日)付けのチャイナ・ディリーの You Nuo 氏のコラムに "Time to take heed of economic warnings" という記事を読んで、私は「近々何かあるのではないか。」と思っていました。

China Daily 2007-06-25 "Opinion"
"Time to take heed of economic warnings" by You Nuo
http://www.chinadaily.com.cn/opinion/2007-06/25/content_901226.htm

 このコラムでは、ポイントとして、以下のように言っています。

○中国本土の最大の不動産デベロッパーである Wang Shi 氏は、珠江デルタの記者を前にして、「いつまでに」という時間的なことは言わなかったが、次のように語った。「今の中国の株の狂気は長続きできるものではない。いつの日か、バブルがはじけるか、あるいは内部の圧力を何らかの方法で解放するほかの方法を見つけるべき日が来る。」

○多くのエコノミストが、中国は今までと異なる発展の仕方をすべき大きな曲がり角の中にいる、と主張している。

○一方、多くの株のトレーダーはそうは思っていない。

○ただ、株のトレーダーが考えている「時間枠」は非常に短く、今と2008年の第三四半期、すなわち北京オリンピックが終わった時点との間のことしか考えていない。

○彼らは、『いつまでも続くパーティなんてない』ということはわかっているけれども、政府はオリンピックが終わるまでは大きな経済的ショックを受けて顔をつぶされるようなことはできなはずだ、と思っている。

○投資家のどん欲な食欲を満たし続けるには、パーティを続けるしかない。しかし、中国の長期的で健全な発展を考えたら、バブルは大きく成長する前に小さなうちにつぶしておくべきだ。その際、オリンピックのことは忘れる必要がある。

 中国の将来を真剣に考えている人は、みんなこのコラムを書いた You Nuo 氏と同じ考えを持っていると思います。胡錦濤総書記や党・中央の幹部の多くも同じようなことを考えていると思います。問題は、具体的にどういう手段でやれば、激しいショックなく、バブルを少しずつ消していけるか、です。

 今回の、耕地などの国有地でない土地(集団所有の土地)に作ったマンションの建設と販売を停止する、という北京における方針の発表は、市場にどういう影響を与えるのか、必要以上のショックを与えることはないのか、気になるところです。一番大事なのは、人々が、急激な動きに走らずに、冷静に行動することだと思います。中国は、これまでも、こういったことは数多く経験してきているので、今回のバブルへの対処でも、うまく対応できるだろう、と私は思っています。

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2007年6月21日 (木)

中国のマンション・バブルはいつまで続くのか

 タイトルに「バブル」という言葉を使いましたが、そもそも急速に成長する中国経済を表現する言葉として「バブル」という言葉が適切であるのかどうかは、議論のあるところです。近年、中国の工業生産力が力強くなってきていることは事実ですし、13億人の巨大な市場があり、内需拡大の余地はまだまだあることから、中国の経済成長は、経済の実態を背景としたものであって「バブル」ではない、という根強い見方があります。

 現在、中国の経済成長は、GDPの成長率が10%を超えるレベルで成長していますが、これについては、いろいろな見方があります。

A:2010年の上海万博の後も、ずっと継続してこのレベル(10%超)の高度成長は持続される。

B:2010年の上海万博までは、このレベルの高度成長は維持されるが、上海万博の後、一定の調整局面に入る。

C:2008年の北京オリンピックまではこのレベルの高度成長は続くが、その後、2010年の上海万博の前に経済は調整局面に入る。

D:現在が経済成長のピークで、2008年の北京オリンピックの前に経済は調整局面に入る。

 上記のそれぞれの見方も、見る対象が「中国経済全体」なのか「中国の株価」なのか「中国のマンションなどの都市部の不動産投資」といった個別分野の話なのか、によって異なると思います。「中国経済全体」を見る場合には「経済の実態に沿った手堅い部分」があるが、ある一部の特定の分野については、経済の実態を超えた「バブル」の部分がある、という見方が正しいのかもしれません。どこかの時点で、ある特定の部分の「バブル」がはじけた時、その「バブル」の部分の経済全体に占める比重がどのくらいで、その特定の部分のバブル崩壊が、経済全体にどの程度の影響を与えるのか、が「中国の高度経済成長はバブルなのか」を考える上での重要なポイントだと思います。

 上記の4つの見方のうち、Dの見方をする人はほとんどおらず、多くの人が「少なくともオリンピックまでは、現在のレベルの高度成長は続く」と思っていますが、その後、どの時点で「調整局面」に入るのか、あるいはずっと高度成長が続くのか、については、議論の分かれるところです。

 中国に来た人が建設ラッシュに湧く街並みを見て率直に感じるのは、「こんなにビルをたくさん建設して、オフィスやマンションの供給過剰にならないのだろうか。」ということだと思います。「こんな急速な建設ラッシュがいつまでも続くはずがない」と思いつつ、こういった建設ラッシュがここ20年以上ずっと続いていることから、やっぱりまだまだ建設ラッシュは続くのかもしれない、と考える人も多いと思います。

 現実的に言うと、政府は経済の過熱を防ぐため調整のための様々な手段(基準金利の引き上げなど)を採っていますが、少なくとも不動産市場は、現実にはまだ拡大が続いています。

(参考1)新華社2007年6月20日付け記事
「統計データは、中国の不動産市場が調整状況の中においてもまだホットであることを示している」
http://news.xinhuanet.com/house/2007-06/20/content_6263875.htm

この記事によると、今年1月~5月の中国の不動産投資は、依然として急速に伸びているとのことです。

 一方で、6月20日付けの「北京晨報」によると、高い価格帯(例えば1平米あたり12000元(192,000円)以上の2部屋の物件)の供給量が増えている中、これまでこれらのマンションを所有して賃貸ししていた持ち主の中には、年内にまた金利の引き上げがあるのではないか、との予測の下、これを売りに出して現金化する動きが見られる、と伝えています。
※先日発表された「2006年度労働社会保障事業発展統計公報」によると、中国の給与所得者の2006年の平均月収は約1,750元です。

(参考2)北京晨報2007年6月20日付け記事
「投資型マンション持ち主、価格を下げて現金化」
http://www.morningpost.com.cn/article.asp?articleid=110001

 この記事では、一方で、買い方の方では、マンション価格が今後も上昇するとの見方は変わっておらず、金利利上げ予測は需要の面では影響はまだ出ていない、と分析しています。

 現在、多くのマンションなどの建設現場では、全国で億を超える数の農村出身のいわゆる「農民工」が働いています。この人たちが住む場所が足りない、という意味では、住宅の供給量は数の上ではいくらあっても足りない、と言えます。しかし、現在のマンションの価格は、これら「農民工」の人々にはとても手が出せるような値段ではありません。しかも、「農民工」は農村戸籍ですので、いずれは故郷の農村に帰らなければならず、制度的にも都市部のマンションを買えるような状況にはなっていません。一方で、投資目的ではなく、実際にマンションを買ってそこに住める「実需」がどれくらいあるのか(実際にマンションを買ってそこに定住できる「小金持ち」がどのくらいの数いるのか)がポイントなのですが、その点については、私はよくわかりません。

 しかし、もし、仮に、現在のマンション建設ラッシュが経済の実態と掛け離れた「バブル」であって、どこかの時点でその「バブル」がはじけるのだとすると、マンション・バブルがはじけた途端、マンションの建設がストップしますから、建設工事に携わっている「農民工」の人たちが職を失うことになります。だからこそ、投資の過熱を防ぎ、経済が実態と離れた「バブル化」することを避けることが、政府による現在の経済運営の重要なカギなのです。

 中国の経済がバブル化し、そのバブルがはじけることは、誰も望んでいません。日本としてもそうなっては困ります。日本でも、中国の高度経済成長に注目している人は多いと思いますが、長期的な視点で、中国の安定的な経済成長を見守る目が、日本にとっては重要だと私は思っています。

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2007年6月 1日 (金)

中国の急速な都市化は「多すぎで、速すぎ」

 2007年5月23日付けの中国の英字紙チャイナ・ディリーは、解説ページで「急速な都市化は『多すぎで、速すぎ』」("Rapid urbanization 'too much, too quickly'") と題する記事を載せていました。

この記事は、チャイナ・ディリーのホームページの下記のURLで読むことができます。
http://www.chinadaily.com.cn/cndy/2007-05/23/content_878321.htm

 この記事では、急激な都市化が、地方政府による農民からの土地の取り上げ、農村から流入した労働者による都市のスラム化を引き起こしている、という問題について、具体的な数字も盛り込んでかなり詳しく解説しています。政府関係者は都市化を進めるべしと主張し、学者はそれに対して警告を発している、というふうに、二つの意見があることを客観的に記述しています。

 チャイナ・ディリーは英字紙ですが、私の認識では、人民日報とともに党中央の「主流派」の意見を代表する新聞、と思っていましたので、このような率直な記事を見てびっくりしました。最近の各紙の論調を見ると、以下の二つの方向性が、大きく割れて議論がなされている(今の時点では意見が一本化されていない)ことが窺えます。

(1)高めの成長率(7~8%を超える成長率)の経済成長を維持し、場合によっては、二重戸籍制度を廃止して、農村人口の都市への流入も認める考え方

(2)高度成長はいつかは壁にぶち当たることを懸念し、経済成長を抑制し、二重戸籍制度は改革はするものの、今すぐに廃止することはしないでしばらくは継続し、農村から都市への人口移動を抑制しようという考え方

 今の政府の政策実行の担当部署においては、(2)の考え方では農村地域の人々の不満を解消することはできない、従って少なくとも2010年の上海万博までは(1)の考え方で行くしかない、と考えている、と私は推測しています。

 一方で、人民日報などの論調は(2)の考え方に近く、むしろ(2)よりずっと保守的な雰囲気で社会主義思想の重要性を強調しています。最近の人民日報は、20年前より更に古い雰囲気の論調が目立っており、政府の実際の政策と党の機関紙たる人民日報の論調が合っていないのではないか、という印象を受けることすらあります。今年秋の党大会へ向けて、党内でもかなりの論争が行われているのかもしれません。

 チャイナ・ディリーの記事では、具体的には下記のようなポイントのことが記されています。

○民政部の高官は、「中国は都市化の『非常に重要な段階』 ("crutial phase") にあり、そのペースを落としてはならない。なぜならそうしないと多くのよくないことが起こるからだ」と、最近、中国語の雑誌に書いている。

○国家発展改革委員会都市化局の高官は、都市化は、農民の生活水準を高め、工業やサービス業を発展させ、「投資に基づく」経済から「消費に基づく」経済へ移行するために必要なのだ、と述べている。

○しかし政府のこういった都市化政策に対し、学者の中にはこのような速度での都市化に疑問を投げかけている人がいる。あまりにも急激な都市化は、都市貧困層を増やし、農地と5000万人の農民の居場所をなくしてしまう、と懸念しているのである。

○中国科学院のある学者は「1億3000万人の農村出身の労働者が『都市住民』としてカウントされているが、彼らは教育、住居、医療などの点で、都市住民が受けている便益を得られていない。」と指摘している。

○政府と学者の考え方の違いは、農民たちをどうするか、という点に集中している。都市化は、一方では出稼ぎ賃金を地方に流すという形で、地方経済を改善させるのに役立っている。

○「もし『二重戸籍制度』がなくなって、社会保障制度がうまく改革できたら、農民は自由に都市に住めるようになり、都市と地方のギャップは埋まるだろう」と発展改革委の高官氏は雑誌の寄稿の中で書いている。

○しかしながら、多くの地方政府は、農民から土地を取り上げて都市化を進めている。中国科学院の上記の学者は、2000年までに5000万人の農民が土地を失ったが、2001年から2004年までに670万人が土地を失い、このままの傾向が続けば、さらに6000万人が土地を失うだろう、と指摘している。

○よく行われているのは、地方政府が農民から土地を買い、それを開発業者に売ったり、インフラ建設にあてたりしていることである。農民は「最小限」の補償しか受けていないという。例えば、北京郊外では、1畝(ムー:667平方メートル)あたり10万元(12,821米ドル)という価格で農民から買い上げられ、1畝あたり数百万元で開発業者に売り渡されている、とのことである。上記の中国科学院の学者によると、更に1畝あたり3000元(384米ドル)で買い上げられている地方もあるという。

○彼は「もし、いつかGDPの成長率が正常な値と思われる5~6%に落ちる日が来たら、そこには1000万人の土地を持たない農民が取り残され、恐ろしいことになるだろう。」と述べた。

○中国都市計画設計院の別の学識経験者は、上記の中国科学院の学者の見方に賛成した上で「地方の土地を都市化することによって得ている収入は、地方政府の収入の3分の2にも上っている。」と述べた。

○彼は「都市化は労働力を供給するが、同時に『都市貧困層』を作り出している。これらの人々は、もともとは外地(農村)から来た労働者だったが、定職がなく、医療保障もなく、昇進の見込みもなく、出身地ごとに『村』を作って北京の中に住んでいる。」と述べた。
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 チャイナ・ディリーの記事は「これらの『村』は、公式にはそうは言われていないが、現実的にはスラムとなっている。」という言葉で結ばれています。このような解説記事が、最も権威ある英語の全国紙であるチャイナ・ディリーに掲載されたことを考えると、中国の社会は、現在、かなり深刻な状況にあり、党・中央もそれに対する対策を真剣に考えざるを得ない状況になっている、と考えてよいと思います。

 この記事は、最近、矢継ぎ早に出されているバブル警戒・インフレ対策のための諸施策に見られるように、中国政府の中心ベクトルが、経済「引き締め」の方向へ向かおうとしていることの現れだと思います。ただ、まだ上記の記事の中の政府高官の発言にもあるように、「引き締め」へ向かおうとする中心ベクトルはあるのだけれども、政府部内の各部署では、まだ当分高度成長を続けるべき、と考える人も多いのだと思います。

 いずれにせよ、こういった二つの見方が英字紙とは言いながら中国の全国紙に掲載される、ということは、中国政府が世論の反応を探っている、と考えることもできます。私は、政府関係者、学者、一般の人々などが虚心坦懐に議論して、最もしなやかで安定的な経済の舵取りの仕方を見つけることができることを期待しています。

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