カテゴリー「北京オリンピック」の記事

2008年10月 7日 (火)

北京で新たな交通規制実施へ

 北京市人民政府は9月28日、オリンピック期間中のナンバープレートの偶数・奇数による交通規制が大気汚染改善に一定の効果があった、として、10月11日以降、新たな交通規制を行うことした、と発表しました。その内容は以下のとおりです。

(1)平日は5分の1の車の通行を規制する。車のナンバープレートの末尾の番号が、月曜日は1と6、火曜日は2と7、水曜日は3と8、木曜日は4と9、金曜日は5と0の車の通行を禁止する(バスやタクシーなどの公共交通機関、緊急車両や大使館車など特殊な車両は除く)。

(2)気象条件などにより大気汚染がひどくなることが予想される場合には上記の交通規制に代えて、偶数・奇数による緊急交通規制を実施する(この緊急交通規制の実施は48時間前に発表する)。

 これらの規制は2008年10月11日から2009年4月10日までの間実施するとのことです。

(参考1)北京市人民政府ホームページ
「北京市人民政府の交通管理措置に関する通告」(2008年9月28日)
http://zhengwu.beijing.gov.cn/gzdt/gggs/t994741.htm

(参考2)北京市人民政府ホームページ
「極端に不利な気象条件の下では、政府部門は48時間前に偶数・奇数制限に関する情報を発表する予定」(2008年9月28日)
http://zhengwu.beijing.gov.cn/gzdt/bmdt/t994848.htm

 この冬にはオリンピックのようなイベントは予定されていないので、この措置がうまく機能すれば、来年4月以降も定常的にこういった措置が続く可能性があります。オリンピック期間中の規制は、みんな「オリンピックだからしかたがない」と思っていましたが、特別のイベントの予定がないこの冬の規制に規制を行うとは、私には意外でした。オリンピックが終わった後、偶数・奇数による交通規制が大気汚染や渋滞の緩和に効果があったことから、こういった交通規制はもっと続けるべきだ、という議論があったのは確かですが、経済面等への影響が大きいことから、私はホントにやるとは思っていませんでした。

 車を持っていない人はこの規制は歓迎だと思いますが、車を持っている人や会社、商店などでは、困っているところが多いと思います。車をビジネスの道具に使っている人にとっては、これは死活問題です。オリンピック、パラリンピック期間中の規制は、ずっと前からやることが決まっていたし、パラリンピックが終われば規制は終わる、と考えて我慢していた人が多かったと思います。それより、オリンピックのような国家的イベントやるのだから我慢しよう、と思っていた人が多いと思います。しかし、こういった規制が定常的に続いて経済活動に実際的な影響が出てくるようになると、話は違ってくると思います。

 特に(2)の「大気汚染がひどくなりそうな時は、規制を強化して偶数・奇数による制限とし、それを48時間前に発表する」との措置については、直前の発表では代わりの車を用意することができないので、車を使ったビジネス活動に実質的な経済的影響が出る可能性があります。

 今回の措置が発表された9月28日というタイミングも、たぶんこの規制に反対の立場にある人々にとってはかなり不満だと思います。今年は9月27日(土)、28日(日)は出勤日とし、29日(月)、30日(火)を振り替え休日として、10月1日(水)~3日(金)の法定休日と合わせて、10月5日(日)までの7連休にする、というのが、今年初めに出された政府の「お達し」でした。その国慶節の連休前の最終日にこの発表があったわけです。実施まで2週間の期間がある、とは言いながら、営業日としては実質1週間もないわけで、多くの会社などでは代車の確保などが間に合わないのではないかと思います。

 オリンピック期間中は、偶数・奇数の規制がありましたが、車の量は半分にはなりませんでした。おそらく友だち同士で車での貸し借りをやって、普段はあまり使われていない時間帯にも車が街へ出て、全体の車の稼働率が上がった、のではないかと思います。私の感覚では、偶数・奇数の規制で車の量は確かに減りましたが、半分までは減っておらず、7割程度になっただけだと思います。また、オリンピック、パラリンピック期間中に北京の空気がきれいになったことは事実ですが、それは車の交通規制と同時に建設工事の中止や周辺の工場の操業中止などを行ったからだと思います。今回の交通規制は、建設工事や工場の操業中止を伴わないし、規制する量も「半減」ではなく「2割減」の規制ですから、「大気汚染対策」という点ではあまり効果はないと思います(「渋滞の緩和」という点では一定の効果があると思いますが)。

 中国の場合、あまり準備期間をおかずに「おかみ」からドンと規制が降りてくることが多く、多くの中国の人々はそれにかなり慣れていますが、今回の北京市当局の措置については、ちょっとあまりに唐突過ぎる感じがします。また「オリンピックがある」というような特別の理由も存在しないことから、実際、かなり不満の意見も出ているようです。最近は、中国の人々も「権利意識」がだいぶ高くなってきていますから、特に経済活動に直接の影響が出るような会社などからの不満の声が今後高まってくる可能性もあります。

 「環境や渋滞の緩和のために車の通行を制限する」という方策はあってもいいと思いますが、もっといろいろな人の意見を聞いた上で、ある程度の時間的余裕を持って発表して欲しいと北京で生活している私としては思っています。こういう法運用の仕方を続けていると、「中国は突然法律の規定が変わってしまうかもしれない」という「リスク感覚」を外国の企業に与えることも中国にとってマイナスだと思います。

 一方で、もしかすると、この車の交通規制は、これまで「とにかく経済成長を最優先にする」という方針だった中国の政策が「経済成長を少し犠牲にしてもいいから、人々の生活のしやすさを優先させる」という方向へ転換した、ということを意味するのかもしれません。もし、そうなのだったら、少々生活や仕事の面では不便になりますが、それはそれで仕方がないかなぁ、という気もします。でも、もしそうなのだったら、「政策全体の変更である」とちゃんと説明して欲しいと思います。今回の新しい交通規制の発表では、そういった説明がなく、いきなり規制の追加だけが発表されたので、私の素直な感覚で言わせてもらえれば、規則やルールがしょっちゅう変わって、中国はやはり生活する上ではストレスの掛かるところだなぁ、と改めて感じてしまったのでした。

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2008年10月 4日 (土)

元に戻りつつある北京

 北京の大気汚染指数は9月30日~10月3日の4日連続で100を超える「軽微汚染」でした。オリンピック、パラリンピックが終わり、ナンバープレートの偶数・奇数による自動車の通行規制が9月20日を最後に終了し、工場の運転や各地の工事現場でも作業を開始したことが効いているようです。

 これに対して、今日の北京の新聞「新京報」は「『オリンピック大気』を保つには、まだ共同努力が必要だ」と題する社説を掲げています。

(参考)「新京報」2008年10月4日付け社説
「『オリンピック大気』を保つには、まだ共同努力が必要だ」
http://www.thebeijingnews.com/comment/shelun/2008/10-04/008@020548.htm

 中国では、明日(10月5日)までは国慶節の連休なのですが、今年は、国慶節の連休期間中も工事現場での作業などが行われています。オリンピック、パラリンピックの期間中、約2か月、作業を中断せざるを得なかったので、施工主にとっても、働く労働者にとっても、「休みは既に繰り上げて取ってしまった」ということなのでしょう。そういった活動が大気汚染指数にすぐに反映されたことを考えると、やはり北京の大気汚染は人為的な原因の寄与度が大きいと考えられます。

 建設現場の工事も元に戻りましたし、残念なことですが、今日あたり街を歩くと、地下道にこどもの乞食(こじき)も戻ってきていました。アメリカや日本にもホームレスの人々はたくさんいるので、経済発展を遂げる中国であれば、そういった貧しい人々がいるのは仕方がない、と言えばそれまでですが、私の知る限り、少なくとも日本にはこどもの乞食はいないと思います。1980年代の中国にもこどもの乞食はいませんでした。1980年代の中国には、大人の「よくない人たち」はいましたが、こどもの乞食はいませんでした。今、中国にいるこどもの乞食は、大人が組織的に「やらせている」のだ、と言われています。オリンピックの期間中、取り締まりでそういう人たちを北京からなくすことができたのだとするならば、オリンピック期間が終わっても、そういう人たちをなくすことはできるのではないか、と私は思います。

 北京オリンピックは、中国に「やればできる」という自信を付けたと思います。ですから、オリンピックが終わったとしても、「やる」必要がある部分については「やればできる」と思います。このことは中国の人々も同じように考えていると思います。メラミン入り粉ミルク事件に見られるように「やれるのにやらない」ことについては、中国の人々は「物を言う」ようになってきています。「新京報」の大気汚染に関する社説もその一環ですが、この社説が言っているようにオリンピックが終わっても続けるべき「一つの世界の一つの夢」はまだまだあると思います。

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2008年10月 2日 (木)

温家宝総理の人気が支える中国政府

 2008年、中国はいろいろな問題に直面していますが、中国のテレビや新聞を見る限り、それらの様々な問題に対して、温家宝総理が現場に出向いて現場で指揮を取ったり、人々の意見を聞いたりする様子が頻繁に出てきます。1月末から2月初旬に掛けての中国南部を襲った寒波・大雪・着氷被害の時もそうでしたし、四川大地震の時もそうでした。温家宝総理は、オリンピック、パラリンピックの時には中国に来た要人との会見をこなし、9月の国連総会での演説もしました。メラミン入り粉ミルク事件が起こると、病院に入院したこどもたちを見舞ったり、街のスーパーへ出掛けて問題の商品が回収される様子を視察したりしました。国連総会から帰国後は、有人宇宙船「神舟7号」の帰還の時にコントロール・センターでこれを見守りました。

 こういった多忙な日程の合間を縫って、7月には複数回に渡って転換期を迎えた輸出産業の状況を視察するため、他の国家指導者たちと手分けして沿岸部を視察しています。また、オリンピックのために全国ベースのニュースではあまり取り上げられませんでしたが、8月には寧夏回族自治区の最も貧しい地域の視察へ行くなど、地味な活動もしています。こういったすぐ現場へ行く行動力とソフトな人当たりで、温家宝総理は中国の人々の敬愛を集めています。中国では客観的な世論調査は行われませんが、もし世論調査を行ったら、各国の政治指導者を尻目にして、圧倒的な支持率を獲得すると思います。

 ということもあり、最近、何か問題が起こるとすぐに温家宝総理が現場へ駆け付ける、というパターンが多くて、ちょっと忙し過ぎではないかと心配です。現在66歳で、まだ老け込むお年ではないと思いますが、胡錦濤主席とのペアの任期は次の党大会(2012年)までと言われており、そろそろ時々は後継者となるべき次の世代の人に任せた方がいいなぁ、と思います。四川大地震の時は、李克強氏と交代で現場指揮に当たりましたが、実際にテレビカメラの前で何かを話す、というような場面では、やはりまだ温家宝総理が話すケースが多く、人々に人気のある温家宝総理に頼らざるを得ない、という現在の中国指導部の状況を感じさせます。

 その温家宝総理が国連総会のために訪米した際にCNNの単独インタビューに答えました。CNNのインタビューに答えるのは5年ぶりだとのことですが、CNNと言えば、この4月、北京オリンピック聖火リレー問題が起きた時、CNNのコメンテーターが中国製品を「ジャンク」と表現し、中国をならず者(goons and thugs)と表現したことから、中国国内のネットで怒りの声が沸騰したテレビ局です。CNN側は、さらに「『ならず者(goons and thugs)』と表現したのは、中国政府のことであって、中国人民のことではない」という挑発的なコメントを発表したことは記憶に新しいところです。

(参考1)このブログの2008年4月18日付け記事
「自信を失ったように見える中国」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/04/post_31ea.html

 温家宝総理がこういったCNNの単独インタビューを受けることにしたのも、もの柔らかな温家宝総理の人柄を利用して、オリンピックを成功させつつも、乳製品へのメラミン混入事件などでイメージが悪化してしまった中国に対する世界的なイメージをいくらかでも回復させようという中国政府の狙いがあったものと思われます。

 予想されたことですが、インタビューしたCNNの Fareed Zakaria 氏は、いくつかの質問の中で、1989年5月、天安門前広場に集まる学生たちに呼び掛ける趙紫陽総書記の隣に写っている温家宝氏(当時、趙紫陽総書記の秘書官だった)の写真を示して、「この時のことがどういう教訓になっているのか」と質問しました。温家宝総理は、下唇を振るわせて非常に困ったような顔をしていました。その画面を見て、私は素直に「これだけ人民と国家のために尽力している温家宝総理をあまり困らせるような質問はしないで欲しいなぁ」と思いました。でも、CNNとしては、これはこういう機会があれば避けることができない質問だったと思います。

 温家宝総理は、CNNの英語の通訳では「これ(1989年の経験)は中国の民主主義が前進させることになると信ずる」と言っていましたが、温家宝総理が中国語で本当にそういったのかどうかは、私には聞き取れませんでした。私には温家宝総理は単に「中国の民主主義が前進することを信じている」とだけ言ったのではないか、と思えました。いずれにしても、こういう極めて「敏感な」質問に対して、温家宝総理が答えたこと自体、画期的なことだと私は思います。

 このインタビュー映像は、北京でCNNのページから動画として見ることができました。このインタービュー映像では、学生たちにハンドマイクを持って呼び掛ける趙紫陽総書記の隣に温家宝氏がいる写真や、1989年当時の、長安街で戦車の前に立ちはだかる青年、逃げまどう人々の映像が流れました。私は、北京に来てから、この種の写真や映像に制限なしでアクセスできたのは初めてでした。中国当局としても、さすがに温家宝総理の単独インタビューの映像に対してアクセス制限を掛けることはできなかったのでしょう。CNNの単独インタビューを受けることにOKを出した時点で、こういう映像が作られることは容易に想像できたはずですので、温家宝総理がCNNの単独インタビューを受けたこと自体、ひとつの前進の「サイン」かもしれません。

 一方、昨日(2008年10月1日)の国慶節の日の午前中、中国共産党政治局常務委員の9人の国家指導者(胡錦濤総書記や温家宝総理も含む)が全員そろって、天安門前広場の中心にある人民英雄記念碑に花輪を捧げました。国慶節に行われる儀式として、不自然なものではありませんが、去年はこのような行事はありませんでした。「人民英雄記念碑に花輪を捧げる」という行為は、私には、1976年と1989年の二つの天安門広場での「できごと」の始まりを想起させます。多くの中国の人々もそうだと思います。今年は「改革開放30周年」の年であり、「改革開放政策」が1976年の天安門事件をきっかけにして動き始めたことを考えれば、昨日の9人の国家指導者たちが人民英雄記念碑に花輪を捧げたことは、これも不自然ではないのですが、私には「何かが変わりつつあるのではないか」ということを感じさせるできごとでした。

 さらに、これは単なる偶然なのかもしれませんが、今日(10月2日)発売の週刊紙「南方周末」(日本語表記は「南方週末」)の1面記事は、胡徳平氏の署名入りの「民主法制を提唱し、封建主義に反対する~葉剣英の30年前の講話を再び考える~」と題する評論でした。

(参考2)「南方周末」2008年10月2月号
「民主法制を提唱し、封建主義に反対する~葉剣英の30年前の講話を再び考える~」
http://www.infzm.com/content/18042

 この評論は、30年前に「改革開放政策」を決定した第11期中国共産党中央委員会第3回全体会議(第11期三中全会)の直前に行われた中央工作会議の閉会式で行われた葉剣英氏(文化大革命を主導した「四人組」の逮捕に貢献した軍人の一人)の講話を思い起こして、改革開放について語った論評です。

 改革開放30周年の今年、こういった論文が出るのは別に不自然ではないのですが、この論評には葉剣英氏と胡耀邦氏ががっちりと握手としている1980年1月の写真がくっついています。胡耀邦氏も改革開放路線をスタートさせた時の重要人物ですので、こういった写真が載ることもまた別に不自然ではないのですが、胡耀邦氏は、1980年1月当時は中国共産党中央秘書長であり、その後、中国共産党総書記になり、1986年の学生デモをきっかけにして1987年1月に失脚した人です。しかも、胡耀邦氏が亡くなったのがきっかけで起きたのが1989年の事件でした。

 これらを合わせて考えると、改革開放30年を振り返ることになる今年12月までの動きの中で、1989年の「政治風波」も「目をそらす」のではなく、きちんとどういう意味付けだったのか、考えてみよう、という動きが出始めているのではないかと、私には思えます。

 温家宝総理が1989年5月に、直後に失脚する趙紫陽総書記の傍らにいたにも係わらず、その後も指導部の中枢部に居続けて、国務院総理にまでなっているのは、1989年の行動を「自己批判」したからだ、と言われています。しかし、温家宝総理が多くの中国の人々から慕われているのは、「自己批判したから」ではなく、むしろ「メシが食いたければ趙紫陽のところへ行け」と言われていた改革開放政策初期のリーダー趙紫陽氏の流れを汲んでいるからではないか、と私は思っています。今の中国政府がその温家宝総理に対する人々の敬愛がなければ成り立たなくなっている以上、1989年の「政治風波」に対しても、もっと客観的な見方をせざるを得なくなるのではないか、と私は考えています。

 オリンピック、パラリンピック、神舟7号による有人宇宙飛行が、全て順調に成功裏に終わりました。「お祭り」的なイベントは全て終わったので、10月以降は、地道な日々の「お仕事」が始まります。その中で、胡錦濤主席のリーダーシップの下、新しい明るい動きが始まることを私は期待したいと思います。(その大前提は、温家宝総理が今後も活躍をし続けることです。温家宝総理はあまりにも多忙が続いているので、是非とも健康にだけはお気を付けいただきたいと思います)。

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2008年9月21日 (日)

中国の乳製品パニック

 日本でも報道されているとおり、中国の粉ミルクに有害物質メラミンが混入していた事件で、18日夜に放送された中国中央電視台の7時のニュース「新聞聯播」で、液体の牛乳、しかも大手メーカーが販売している牛乳の一部からもメラミンが検出された、との発表がありました。概要は以下のとおりです。

蒙乳:121サンプルのうち11サンプルからメラミンを検出。検出値は1kgあたり0.7~8ミリグラム

伊利:81サンプルのうち7サンプルからメラミンを検出。検出値は1kgあたり0.7~8.4ミリグラム

光明:93サンプルのうち6サンプルからメラミンを検出。検出値は1kgあたり0.6~8.6ミリグラム

三元:53サンプルのうちメラミンを検出したサンプルはなし。

雀巣(ネスレ):7サンプルのうちメラミンを検出したサンプルはなし。

※雀巣(ネスレ)は、スイスのネスレ社のブランドですが、中国国内で生産されている牛乳です。

(参考1)「人民日報」2008年9月19日付け記事
「全国液体牛乳に対するメラミン検査の結果が発表」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-09/19/content_105492.htm

(参考2)中国国家品質監督検査検疫総局ホームページ2008年9月19日発表
「全国液体牛乳に対するメラミン検査の結果発表」
http://www.aqsiq.gov.cn/zjxw/zjxw/zjftpxw/200809/t20080919_90325.htm

 最初に問題になった三鹿集団の粉ミルクで検出されたメラミンの最高濃度は最高1kgあたり2,563ミリグラムですから、それに比べれば上記の牛乳での検出値はだいぶ低いと言えます。報道では、体重60kgの大人ならば毎日2リットル以上飲まなければ大丈夫、と伝えられています。しかし、メラミンが検出された、ということは、チェックをしていない、ということですから、やはりショックです。私も上記のメーカーの牛乳を毎日飲んでいましたから。

(注)粉ミルクの場合、水に溶いて飲むので、液体の牛乳と比較する場合には粉ミルクの検出値は10分の1くらいなると考えた上で比較する必要があります。

 上記に掲げた5つのメーカーは中国は最大手の乳業メーカーで、毎日、テレビでのコマーシャルをやったりしています。伊利は、北京オリンピックの食品提供メーカーでしたが、北京オリンピック、パラリンピックで提供された乳製品では、メラミンは検出されなかった、と報道されています。

 昨日(9月19日)時点で、私が行ったスーパーでは、蒙乳、伊利、光明の製品は牛乳、ヨーグルト、チーズも含めて全ての乳製品が撤去され、三元、雀巣と外国から輸入された乳製品だけが売られていました。少なくとも私が行ったスーパーでは、三元、雀巣と輸入ものは売られており品切れ状態にはなっていなかったので、乳製品が手に入らない、という状況にはなっていません。中国では、放牧などが盛んな地方を除いて、一般には、多くの人が乳製品を消費するようになったのは、最近、経済レベルが向上してからのことであって、中国の食生活は「乳製品がないと成り立たない」というわけではないので、乳製品全体の消費量が一時的に落ち込んでいるのだと思います。豆乳など代用になりうる商品もあるので、普通の大人の場合は、そんなに「パニック」にはなっていません。しかし、ミルクを与えなければならない赤ちゃんがいる家庭は大変だろうと思います。

 ニュージーランドの牛乳やヨーロッパから輸入したチーズは、中国産のものに比べて2倍~3倍程度の値段するので、普通の人が簡単に「輸入品に切り替える」というわけにはいきません。

 中国は食材が豊富なので、乳製品がなくても、しばらくは都会の消費者も我慢できると思いますが、牛乳生産農家はかなりパニック状態になっているのではないかと思います。日本の乳製品を原料として扱っている食品メーカーも問題となった中国の乳製品メーカーの製品を使っていないかどうかの確認に追われている、と報道されています。

 今回の調査結果を見ると、多くのメーカーの数多くの種類の製品からメラミンが検出されていることから、乳製品製造メーカーではなく、源乳納入業者のレベルでメラミンが混入された可能性が高いと思います。しかも、乳製品製造メーカーが多岐にわたり、地域的にも全国に散らばっているので、おそらくは、ひとつふたつの源乳納入業者がメラミンを混入したのではなく、中国全土に渡って、源乳量の「水増し」を図るために、幅広くメラミンの混入が日常的に行われていた可能性があります。その点で、日本で問題になった農薬入りギョーザ事件とは異なり、今回の乳製品へのメラミンの混入事件は、中国の食品産業の構造的問題に立脚した、相当に根が深い問題である可能性があります。

 もし今回の問題が、業者のモラルの欠如、行政による安全検査体制の不備(もう一歩突っ込んで言えば地方の業者と取り締まる立場の地方政府との癒着)など中国の食品産業の構造的問題に根ざしているのだとしたら、単に特定のメーカーの乳製品という特定分野に限った問題ではなくなります。特にメラミンについては、昨年、アメリカ等へ輸出されたペットフードへの混入が問題となりましたから、それを全く教訓としておらず、問題に真剣に取り組んで来なかった、という点で、中国国内でも行政当局への批判も高まっています。今回の乳製品へのメラミン混入事件については、中国政府も相当深刻に受け止めているようで、連日のように対策会議を開き、迅速な検査と結果の発表、問題のある製品の撤去を徹底しています。

 今日、9月21日から、北京では、オリンピック、パラリンピック期間中に続けられていた車のナンバー・プレートの偶数・奇数による通行制限がなくなりました。そのせいかどうかしりませんが、今日(21日)の北京には、また以前のようなひどい大気汚染が戻ってきています。国際的な経済環境も厳しさを増す中、オリンピック、パラリンピックで目立たなかった多くの問題がこれから次々に出てくる可能性があります。これから中国政府にとって正念場が続くと思います(今月25日には、中国で3回目の有人宇宙飛行(今回は中国で初めての宇宙遊泳の実施が予定されている)が予定され、テレビや新聞でもそのことが盛んに報道されているのですが、一般に生活している感覚からすると「それどころじゃない」という雰囲気です)。

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2008年9月17日 (水)

北京パラリンピック閉幕

 今、中国中央電視台のテレビでは、北京パラリンピックの閉会式を生中継で放送しています。パラリンピックの選手の皆さんの活躍には、「人間にはこんな能力もあるのか」と驚かされました。

 思えば8月8日に北京オリンピックの開会式が行われたのが、はるか昔のように思えます。まずはオリンピック及びパラリンピックが無事に終了したことに対して、関係者の皆様にお祝いを申し上げたいと思います。

 オリンピックが始まった頃は、新疆ウィグル自治区でテロ事件のようなものが起きたりして、ちょっと心配していたのですが、結局は、オリンピック及びパラリンピックの期間を通じて、これらのイベントの運行に影響を与えるような大きな事件・事故は起きませんでした。これも警備・警戒に当たった多くの関係者の努力によるものだと思います。

 ところが、パラリンピックが終盤を迎えつつあるここ数日、段々と社会を騒がすような大きな事件が起きるようになってきています。

○鉱山鉱滓堆積場での土石流の発生

 9月8日:山西省臨汾市襄汾県の違法操業していた鉱山の鉱滓(こうさい)堆積場で、大雨による土石流が発生し、多くの人々が飲み込まれました。9月10日付けのこのブログを書いた時点では「34名が死亡」と書きましたが、その後調査が進んで今日(9月17日)の報道の時点では、259名の死亡が確認されています。この事故に関する行政の監督責任を取る形で、山西省長が9月14日に辞任しています。こういった事故によって、省長(日本で言えば県知事に当たる)が引責辞任するのは極めて異例のことです。

○メラミン入り粉ミルク事件

 9月11日:甘粛省衛生庁が最近甘粛省で多発しているこどもの腎臓結石について、赤ちゃんが1名死亡したこと、この腎臓結石の多発はあるブランドの粉ミルクが原因であることがわかったことを発表しました。その後、これが粉ミルクに有害物質のメラミンが含まれていたことがわかったのでした。この件については、昨日(9月16日付け)のこのブログの記事で書きました。昨日のブログでも書いたように、国家品質監督検査検疫総局が全国調査を行った結果、最初に見つかった社も含めて全部で22社、69の製品の粉ミルクでメラミンが検出され、これらの製品は市場から回収・撤去されることになりました。これだけ多数の製品でメラミンが検出されたことと、メラミンが検出されたとして掲げられたメーカーの中にテレビでコマーシャルをやっているような有名メーカーも複数含まれていたこと、などから、中国では粉ミルクを巡ってちょっとしたパニック状態になっています。

 温家宝総理は今日(9月17日)午前、国務院常務委員会を開催して、乳製品と乳製品製造業者に対する全面的な検査を行うことを決めました。国務院常務委員会は、その時々の経済情勢などを踏まえて、経済対策などを決める会議ですが、こういった特定の事件に対処するための緊急対策を決めるために開催されるのは極めて異例のことです。しかも、温家宝総理は、今日はパラリンピック閉会式の当日のため、外国要人との会見のスケジュールも立て込んでいる日でしたが、そういったスケジュールを押しのけてまで、国務院常務委員会を開き「政府全体として取り組んでいる」という姿勢を示す必要があったのでしょう。

(参考1)「新華社」ホームページ2008年9月17日19:12アップ記事
「国務院常務委員会、乳製品の全面的な検査と乳製品業者の整頓を決定」
http://politics.people.com.cn/GB/1026/8066877.html

○51人が死亡するバス転落事故 

 9月13日:四川省巴中市発で浙江省寧波行きの長距離バスが巴中市内の山道を走行中、ガードレールと衝突し、ガードレールを突き破って谷底に転落し、乗っていた51人全員の死亡が確認される、という事故が起きました。この事故は山奥で発生したためか、あまり迅速には報道されませんでした。今日(9月17日)付けの人民日報で、国務院がこの事故を「特別重大道路交通事故」として調査グループを設置したことを報じています。

(参考2)「人民日報」2008年9月17日付け記事
「国務院『9・13』特別重大交通事項調査グループを設置」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-09/17/content_103878.htm

 これらに加えて、昨日(9月16日)、リーマン・ブラザーズの破綻で世界同時株安を受けて中国の株価も大幅に下落しました。今日(9月17日)は、東京市場などが下げ止まって少し戻したのと対照的に、中国の株価は今日も下げ止まりませんでした。土石流やバス転落事故は、この時期に起こったことは単なる偶然に過ぎないし、ここ数日の株安の原因はアメリカにあるのであって中国のせいではないのですが、こういった事項を並べてみると、なんだか、オリンピックとパラリンピックの開催のために、我慢してきたいろいろなことがパラリンピックの閉幕を待つことができずに、いっぺんに吹き出してきた、というような印象を受けてしまいます。

 この文章を書いている間に、北京パラリンピックの閉会式は、何発もの花火とともに終了しました。9月も中旬を過ぎ、北京では、朝晩はかなり気温が下がり、明らかに秋風が吹いています。そういった秋の気配からも「終わったなぁ」という感じを強く受けてしまいます。

 今度は、9月25日に中国で3回目の有人宇宙飛行である「神舟7号」の打ち上げが予定されています。なんとなく「これでもか、これでもか」というふうに「国家的イベント」が続く感じです。こういったいろいろな「国家的イベント」は、それぞれ順調に行って欲しいと思いますが、それとは別に日常の世界でも世の中全体が落ち着けるような雰囲気になって欲しいと思います。

 日本は、今、福田総理が辞任を表明して次の総理が決まらない状態で、総選挙が近くあるかもしれない、という不安定な雰囲気ですし、アメリカも大統領選まであと1月半に迫っており、経済的な状況も「どうなるかわからない」という雰囲気です。そういった世界の雰囲気に惑わされないように、中国は落ち着いた安定的な発展を続けて欲しいものだと思います(現在のような世界の状況の中で、今、中国の「安定団結局面」が乱れるようになることは、世界にとってタイミング的に非常に良くないからです)。

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2008年9月16日 (火)

有害物質入り粉ミルクで乳児に腎臓結石

 日本でも報道されていますが、中国の河北省石家庄にある三鹿集団有限公司が製造した粉ミルクに有害物質のメラミンが含まれており、この粉ミルクを飲んだ多数の乳児が腎臓結石になり、一部は死亡した例も出ていることがこのほど明らかになりました。メラミンの化学的性質は私もよく知らないのですが、メラミンは食品に入れると分量が増えるが、タンパク質と同じ窒素有機化合物なので、タンパク質含有量検査ではタンパク質として判定されることがあり、過去にも食品の「水増し」に使われて問題になったことがあったそうです。メラミンを含んだ食品を食べると、体内で化学反応が起き、腎臓結石が生じることがあるのだそうです。昨年、メラミンが含まれているペットフードが中国からアメリカ等に輸出されて、多くの犬や猫が死ぬ事件がありました。

 今日(9月16日)付けの北京の新聞「新京報」の記事によると、昨日(9月15日)衛生部が発表したところによると、昨日午前8時の時点で、この会社の粉ミルクを飲んだことにより病院で検診を受けた乳児は1万人近くに上り、腎臓結石と診断された乳児は1,253名、そのうち53名は重症で、今までに2名が死亡している、とのことです。

(参考1)「新京報」2008年9月16日付け記事
「全国の診察により『三鹿による結石の赤ちゃん』は1,253名に上った」
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2008/09-16/008@021544.htm

 今日の「新京報」の1面トップは、昨日の記者会見で頭を下げる三鹿有限公司の幹部の写真が載っていました。

(参考2)「新京報」2008年9月16日付け1面トップ写真の記事
「三鹿集団が消費者に対して謝罪」
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2008/09-16/008@021535.htm

 こういった事件の記者会見で会社の幹部が深々と頭を下げて謝罪するのは、日本では見飽きるほど見ていますが、中国では、こういったふうに「日本式」に頭を下げて謝罪するというのは今までなかったことです(少なくともこうした写真は私は初めて見ました)。こういった「異例の謝罪」があったのも、この有害物質粉ミルク事件が中国社会に大きな衝撃を与え、社会的に大きな反響を呼んでいる証拠だと思います。

 さらに今日(9月16日)夜7時から中国中央電視台で放送されたニュース「新聞聯播」では、このメラミン入り粉ミルク事件に関する最新情報を伝えた際に、アナウンサーが「たった今入ってきた情報です」と言った後、国家品質監督検査検疫総局が行った全国調査の結果、ほかの多数の会社のメーカーの粉ミルクからもメラミンが検出された、として、製品名と企業名のリストを放送しました。メラミンが検出されたのは三鹿集団も含めて22社、とのことです。おそらくこのニュースが「突っ込み」で入ってきたために、通常は7時30分で終わる「新聞聯播」が、今日は7時35分まで延長して放送していました。

 中央電視台の「新聞聯播」は、放送後1時間くらいすると、その放送内容がネット上にアップされてネット上でも見られるようになっています。今日放送の分を見ると、今までのところの調査では109社の491品目について調査を行い、その結果、今回問題となった三鹿集団の製品も含めて、22社、69品目の製品からメラミンが検出された、とのことです。22社のリストは下記の中央電視台「新聞聯播」のページに載っています。

(参考3)中国中央電視台「新聞聯播」2008年9月16日放送分
「中国国家品質監督検査検疫総局、乳児用粉ミルクにメラミンが含まれているかどうかについての検査の現段階での検査結果を発表」
http://news.cctv.com/xwlb/20080916/107382.shtml

 これだけ多くのメーカーの粉ミルクに有毒物質メラミンが含まれていた、ということは、今後、中国の国内における食品安全に関する大問題に発展する可能性があります。輸出されたペットフードの事件や日本のメタミドホス(農薬)入りギョーザ事件の場合には、中国の人々の中には「また外国が中国の悪口を言っている」というふうに捉えた人も多かったと思いますが、今回の粉ミルク事件は自分たちの問題として、真剣に取り組む(取り組まざるを得ない)と思います。有害物質入り粉ミルクが販売され、乳児に犠牲者が出る事件は過去にもありましたので、今回の事件は、有害物質入り粉ミルクを製造したメーカーが批判されるのは当然として、その上に、それを防げなかった政府に対する批判も高まるのではないかと思います。

 たまたま9月16日は、アメリカの金融大手リーマン・ブラザーズの経営破綻で、世界同時株安現象がおき、中国でも上海総合指数が終値で2000ポイントの大台を割り込んだ(昨年(2007年)10月の最高値6000ポイントの3分の1以下になった)、という別の大きな経済ニュースもありました。この世界同時株安は、中国に原因があるわけではなく、中国も一種の「被害者」なのですが、それと有害物質入り粉ミルク事件が重なって起こったことは、タイミング的に中国にとっては不運なことだと思います。

 ちょうど明日、北京パラリンピックが終わり、北京はオリンピックから続いていた「お祭り」の期間が終わって、現実の世界へ引き戻されることになります。アメリカの金融危機も大きな問題であり、アメリカにしっかり対応して欲しいと思いますが、いろいろな問題が悪い方向に重ならないように、粉ミルク事件のように中国国内で対処できる問題については、中国の関係当局には適切に対応して欲しいと思います。

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2008年9月 7日 (日)

偶数・奇数ナンバー規制続行論争

 北京では、現在、パラリンピックが終わった後の9月20日まで、自動車のナンバープレートの末尾番号が偶数か奇数かで北京市内での通行を制限する規制が続行中です(始まったのは7月20日)。この交通規制は、オリンピックとパラリンピック期間中の北京市内の交通渋滞の緩和と大気汚染の緩和のために行われている措置です。オリンピック期間の後半(特に8月15日)以降、大気汚染の状況が格段に改善されていることと、実際に北京市内の交通渋滞がかなり改善されていることから、この偶数・奇数制限をパラリンピックが終了した後も長期的に継続してもよいのではないか、との意見が多くの北京市民から出されています。新聞紙上でも、交通渋滞と大気汚染の緩和に効果があったのだから制限を継続すべし、という意見と、オリンピック・パラリンピックという国家的イベントがあったから特別に実施された措置であって、これを継続することは、社会生活や経済活動に影響があるから反対だ、という意見と両方が出されています。

 北京市当局は、9月5日の記者会見で、パラリンピック終了後の交通規制のあり方については、まもなく発表するが、9月20日以降にも偶数・奇数制限を延長するかどうかは現時点では未定である、と発表しました。

(参考)「新京報」2008年9月6日付け記事
「オリンピック後の交通規制緩和については、まもなく発表」
~北京市交通委員会によれば、9月20日以降の偶数・奇数制限をどうするかは未確定~
http://www.thebeijingnews.com/news/beijing/2008/09-06/008@015534.htm

 当然ですが、これは自家用車を持っている人と持っていない人では、全く意見が異なります。自家用車を持っている人の中には、2か月間の限定だから、ということで、無理をして車を1台余計に借りて通勤している人もいます。会社などでは、余分な出費をして、業務用の車を調達しているところもあると思います。車を持っていない人は、交通渋滞もないし、大気汚染も改善したのだから、偶数・奇数制限は続けるべき、と主張しています。

 9月6日に発売された「経済観察報」では、中国では自家用車は高い買い物であり、その自家用車を1日おきにしか使えない、というのは、一種の財産権の侵害なのだから、これを継続するなどということはあり得ない、例えば家を買った人に「自分の家に泊まるのは1日おきに」などと言えるわけがないのと同じことだ、といった主張の投書が載っていました。「経済観察報」は、お金持ち層が買う新聞ですので、そういった主張の投書が載るのは、ある意味では当然のことだと思います。

 いろいろ論争をするのは結構なことですが、北京で経済活動をしている企業にとっては、9月20日まで、という期間限定という前提で対応してきた車の偶数・奇数制限が、もしかすると延長されるかもしれない、期限が切れる2週間前の9月5日の段階になっても、「その先どうなるか未定」としか発表されない、というのは困ったことだと思います。中国では、常に、こういった規則や規定が時間的余裕なく突然に決まったり変更したりすることが多いので、中国で経済活動を行う企業は、常にそうった「リスク」を頭に入れなければならないのです。これは一種の「チャイナ・リスク」のひとつであり、外国企業による中国投資にとってはマイナス要因のひとつなのですが、中国側はこういったことをあまり「マイナスだ」とは考えていないようです。本来ならば、9月20日まで、という期間限定の約束で始めた偶数・奇数規制は、ちゃんと9月20日に終了すべきなのが本来の姿だと思います。

 昨日、パラリンピックが始まったばかりで、少なくとも9月20日までは「スペシャル期間」が続きますが、それが終わった後、「オリンピック・パラリンピックのスペシャル期間」の最中にいろいろと我慢をしてきた人たちが活動を再開しますので、あちこちでいろんな意見が出てきそうです。ここのところ株価も不動産価格も低迷状態が続いているので、特に経済活動の中心を担っている「お金持ち層」の不満は結構溜まっていると思います。車の偶数・奇数制限をどうするかの判断も、そういった「お金持ち層」の不満と、「お金持ちでない層」の多くの市民の希望との間で、政府にとっては、ひとつの試金石的な判断になると思います。

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2008年9月 2日 (火)

華国鋒氏の葬儀に関する報道

 このブログの8月22日付け記事で、8月20日になくなった華国鋒氏が死去したニュースの報道の仕方が簡潔過ぎる(元中国共産党主席・元国務院総理であったことを明記せず「かつて党と国家の重要な指導的職務に就いていた」としか書かれていなかった)ことについて書きました。

(参考1)このブログの2008年8月22日付け記事
「華国鋒氏がオリンピックに沸く北京で死去」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/08/post_fa9c.html

 ところが、華国鋒氏の葬儀が8月31日に行われましたが、この葬儀には胡錦濤主席、江沢民前主席、ほか中国共産党政治局常務委員全員を含めた国家指導者が参列し、そのことは翌9月1日付けの「人民日報」の1面トップで伝えられました。

(参考2)「人民日報」2008年9月1日付け1面トップ記事
「華国鋒同志、北京において荼毘(だび)に付される」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-09/01/content_93899.htm

※この「人民日報」の記事では、胡錦濤主席と江沢民前主席の写真が同じ大きさで掲載されています。これはオリンピック開会式・閉会式の時の席順にも示されていたように、江沢民氏が公職を引退した後の現在でも大きな力を持っていることを示している、と日本での多くの報道が指摘しています。

 また、この日の「人民日報」4面では「華国鋒同志の生涯」と題して、革命運動における活躍から始まって「四人組」逮捕の際の詳細ないきさつ、周恩来総理死去の後、国務院総理になったこと、毛沢東主席死去の後「四人組」を追放した後で中国共産党主席になったことなど、経歴が事細かに紹介されています。

(参考3)「人民日報」2008年9月1日付け4面記事
「華国鋒同志の生涯」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-09/01/content_93903.htm

 これらの扱いは功績ある国家指導者としての第一級の扱いです。8月20日に死去した直後での報道のされ方扱いとはえらい違いです。(参考1)のブログで華国鋒氏が「文化大革命」の継続を主張していたたために1981年6月の段階で中国共産党主席の座から退いた、即ち、華国鋒氏は現在の改革開放路線とは異なる立場を取った人であるので、そのことにより、「人民日報」などでは華国鋒氏の経歴について詳細な報道がなされなかったのだ、という趣旨のことを書きました。ところが、葬儀の段階での報道を見ると、実はそうではなく、死去した時がたまたま北京オリンピックの最中であり、故人の業績を偲ぶというような雰囲気ではなかったことから、簡潔な報道しかしなかったのだ、という事情が伺えます。

 ただ、「オリンピックの最中なので重要な国家指導者の死去のニュースを簡潔に済ませた」というのは亡くなった方に対しては失礼な気もします。北京オリンピックはそれだけ中国にとって大事なイベントだったということなのでしょう。

 上記の人民日報の「華国鋒同志の生涯」の記事(もともとは新華社電です)は、「華国鋒同志は永遠に不滅です!」という文章で締めくくられています。これは毛沢東主席が亡くなった時に出された「全党・全軍・全国各民族人民に告ぐる書」の「毛沢東同志は永遠に不滅です」という締めくくりの表現と同じであり、最大級の賛辞です。これだけ最大級の賛辞を送るのだったら、いくらオリンピック期間中とは言え、亡くなった時の「人民日報」の報道でも、もう少し業績について記述してもよかったのになぁ、と思いました。

 もしかすると、亡くなった時の「人民日報」の報道の仕方があまりに簡潔に過ぎたため、党内の一部から「四人組の追放に功績があり、改革開放路線への道を開いた人に対して失礼だ」との声が挙がったため、お葬式の方の報道では大きな賛辞が送られたのかもしれません。華国鋒氏の業績の扱い方について、党内にいろいろな考え方の人が存在し、いろいろな論争があった、そのために死去した直後と葬儀の後では扱いがかなり異なる結果となった、と考えるのは「うがち過ぎ」でしょうか。

 華国鋒氏の葬儀の報道については、いつもは独自の記事で読者を楽しませてくれる「新京報」「京華時報」も新華社電の文章をそのまま掲載しており、華国鋒氏の業績については、独自の評価は敢えて書いていません。各新聞が自由な立場で華国鋒氏の業績について論じる、というのはやはりなかなか難しいのでしょうか。

 なお、華国鋒氏の葬儀が8月31日に行われたのは、8月24日まではオリンピックが開催中であり、8月25日~30日は胡錦濤主席が韓国やタジキスタン等への訪問のため北京にいなかったから、という事情があるためと思われます。その意味では、この葬儀のスケジューリングは、北京オリンピックや胡錦濤主席の外国訪問よりはプライオリティは低かったことを表しています。私はそれはそれで妥当なことだと思います。華国鋒氏は既に過去の人であり、その業績は評価すべきですが、華国鋒氏の死去により、現在行われている様々な政治日程を変更してまで葬儀等を行う必要はないと思うからです。

 いずれにしても、華国鋒氏の業績が無視されずに、きちんと評価されたことに、私は一種の安堵感を覚えています。現在の政権は過去の歴史を消し去るようなことはしないことを表しているからです。これからも、いいことも、悪いことも、過去の歴史は客観的に評価する視点を維持して欲しいと思います。

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2008年8月31日 (日)

「素晴らしい青空が残った」ならいいなぁ

 昨日(8月30日)、東京から北京に戻りました。北京空港は、パラリンピック選手団の入国ラッシュで、各国の選手団でごった返していました。北京の街中でも、車イスに乗った外国人を見掛けます。パラリンピック選手村も昨日開村したそうです。

(参考)「新京報」2008年8月31日付け記事
「パラリンピック村、開村」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/08-31/011@072719.htm

 今日(8月31日)の北京は、抜けるような素晴らしい青空です。オリンピック閉会式翌日の8月25日は、午前中から大気汚染が戻ってきた感じで、「オリンピックが終わったらやっぱり元に戻るのか」とがっかりしたのですが、先週は後半に雨が降ったこともあり、「北京秋天」の名の通り、素晴らしい青空が戻ってきました。閉会式翌日の汚染は、私は、雨を降らせないように打ち込んだ「消雨ロケット」でばらまいたヨウ化銀が大気中を漂って汚染状態を引き起こしたのではないかと疑っています(開会式の翌日も大気汚染の状態は悪かったですから)。私は個人的には、自然をコントロールしようとする中国の考え方には、あんまり賛成しません。

 オリンピックは終わったけれども、今度はパラリンピックが始まるので、まだ「お祭り気分」は続いているようです。街のボランティア・ステーションも活動を続けています。ボランティアは、今までと同じように青いユニフォームを着ているのですが、よく見ると、オリンピックとパラリンピックではユニフォームのデザインがちょっと違います。オリンピックのボランティアが着ているユニフォームは、青を基調にして、肩のところにちょっと黄色と赤が入ったデザインなのでしたが、パラリンピックのボランティアのユニフォームは基調となっている青のほかは黄色や赤のアクセントが入っていません。染め抜きになっているマークも当然違っています。よく見ると街に掲げられている看板もオリンピック用のものからパラリンピック用のものに取り替えられています。パラリンピックが終わるまでは、北京の街は「特別イベント・モード」が続きそうです。

 ただ、パラリンピックの場合は、「国の威信を掛けてメダルを取る」といった「ギスギスした感じ」がないことと、まさかパラリンピックを狙ったテロなどは起きないだろう、といった安心感があることで、多くの人がリラックスして、やさしい気持ちで臨むことができるのではないかと思っています。

 今日の北京の青空は、北京市民に「オリンピックとパラリンピックで、やはり何かが変わったのだ」という実感を与えたと思います。逆に、パラリンピックが終わった後に大気汚染が戻ってきたら、「やればできるのだから、青空を返せ」と思うようになると思います。

 今のところ、オリンピックをきっかけにかなりオープンになったインターネット規制はオリンピック期間中の状態を維持し続けています(一時アクセス可能になったBBCホームページ中国語版の中にある掲示板は、オリンピック期間中にアクセス禁止になり、禁止の状態が今でも続いていますが)。そういったこともあり、現在の時点では、「オリンピック前とは変わった」という雰囲気は続いています。パラリンピックが終わっても、この状態が続いて、「オリンピックとパラリンピックは、北京に青空を残した」というふうになればいいなぁ、と思っています。

 なお、昨日(8月30日)の成田-北京便の飛行機もかなり空席が多く、乗客の占有率は5割~6割程度でした。日本側の不景気のせいなのか、中国国内の経済活動が不活発になっているからなのか、燃料費の高騰で観光客が減ったからなのか、原因はよくわかりません。「青空を残すこと」と「経済活動を依然と同じように活発なまま維持すること」を同時に達成するのは難しい課題です。「オリンピック、パラリンピック後の中国」を見るためには、まだしばらく状況を見守る必要がありそうです。

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2008年8月28日 (木)

日中航空便の空席状況

 北京オリンピック閉会式のあった翌日(8月25日)、私は北京から関西空港経由で羽田まで移動しました。北京・成田便が満席で予約が取れなかったからです。北京空港からは、オリンピック関係者や報道陣などが大量に帰国したと思われますので、それも私が予約を取れなかったのも無理からぬことだと思いました(日本の選手団は、8月25日、別途チャーター便で北京空港から羽田は帰ったそうです)。

 ところが、北京発関西空港行きの私が乗った便は、予想に反してガラガラでした。私は当初通路側の席だったのですが、窓際の席に誰も来なかったので、窓際の席に座りました。客室乗務員は「今日は半分もお客さんが入らないので、窓際に座っていただいても結構です」と言っていましたが、見た感じ、半分どころか2割程度しか乗っていない感じでした。

 関西空港便が人気がないからなのか、多くの観光客やビジネスマンがオリンピック閉会式の翌日は混雑するだろうと避けたために逆にお客が少なかったからなのか、理由はよくわかりません。オリンピックとパラリンピックが行われる期間中、北京では国際会議の開催が禁止されています。通常なら初秋の北京は1年のうちで一番気候がよい季節なので、いろんな国際会議が開かれるのですが、今年はそういう国際会議がなくて、北京を出入りするお客が少ないことが、ガラガラの理由かもしれません。燃料サーチャージが高くなっているのも大きな原因のひとつだと思います。「とにもかくにもオリンピックの成功が最優先」という政策を取ったために、オリンピックは大成功でしたが、オリンピック以外の活動はほとんど停止状態だった、というのが、2008年8月の北京の状況だと思います。

 日中間の航空便でお客が少ないのは、中国を巡る経済活動が全体的に停滞しているからかもしれません。しかし、それが単にオリンピック・パラリンピック期間中だからビジネス上の出張も控えているためなのか、不況により経済活動全体が低迷しているからなのか、はよくわかりません。オリンピックとパラリンピックで、様々な規制が掛けられていますので、本来の経済の姿が目に見えるようになるのは、やはりパラリンピックが終わってからになるのでしょう。

 現在、世界経済全体が変調を来していますので、ここで中国経済が大きく動くことは、世界全体にとってマイナスです。中国経済には、今後とも、安定的な成長が続き、安定成長の中で格差が是正されるような方向での経済運営が図られることを望みたいと思います。

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2008年8月26日 (火)

北京オリンピックが終わった翌日

 昨日(北京オリンピックが終わった翌日の8月25日(月))、北京から関西空港経由で東京に来ました。本来ならば、北京発・成田行の便に乗りたかったのですが、満席で予約が取れなかったので、関西空港で国内線に乗り換えて羽田に着きました。

 閉会式翌日、ということで、北京空港第三ターミナルは、オリンピック関係者(選手、役員)や報道陣などの帰国ラッシュでした。国際線ターミナルには、まだ青い北京オリンピックのボランティアの制服を着た人たちがたくさんいて、いろいろ案内などをしていました。ターミナルには、ほんとにいろんな国々の人がいて、体つきやユニフォームから明らかに出場した選手たちだとわかるような人たちもいました(顔を覚えているような有名な選手には出会いませんでしたが)。私はオリンピックの試合会場へは行きませんでしたが、いろんな肌の色の、いろんな言葉を話す人たちがいっぱいる空港で、オリンピックの雰囲気を味合うことができました。

 空港では、各国の人たちが、ボランティアの人などと「お世話になりました。じゃ、ここで記念撮影しましょう。」と記念撮影する姿があちこちで見られました。外国の選手・役員の人たちはおみやげ物のオリンピックのマークの入ったシャツなどを着ている人たちもたくさんいましたが、なんとなく、このオリンピックという「機会」と別れがたく、思い出に残すために記念品を買っていきたい、と思う気持ちはよくわかるような気がしました。

 オリンピックとは、肌の色も、話す言葉も全く違うんだけれども、みんなが同じように「国旗」と「自国民の期待」という誇りとプレッシャーを背負って奮闘し、勝つ人もあり負ける人もあり、だけど「挑戦している」こと自体は共通で、勝ったとき、負けたときに感じる感情が共通だ、ということを観客も含めて、全て参加者が同じ感覚で共有できる場所なんだと思いました。「全然別の国の人と同じ気持ちになれた」ことがものすごく嬉しくて、そしてその嬉しさを相手の国の人も同じように感じていて、だからそれがものすごく大事なことのような気がして、一緒に記念撮影したり、そうした思いを抱いたことを忘れないようにするために記念品を買いたくなったりするのだと思います。

 商業主義だとか、スポーツに「国の威信を掛ける」なんておかしい、などという批判がいろいろある中で、世界各国の人が異口同音に「やっぱり、4年後にはまた集まりましょう。」と言い合うのは、「全然別の国の、言葉もわからない国の人と、同じ気持ちになれた」ということがすごく嬉しくて、貴重に思えて、4年後にまた同じ経験がしたいからだと思います。

 中国の国家指導者の方々がどう考えているか知りませんが、今回の北京オリンピックで、多くの中国の人たちが「他の国の人と同じ気持ちになれた嬉しさ」を初めて経験したと思います。これは北京オリンピックが残した大きな財産です。

 昨日、北京から東京に来るまでに乗った飛行機の中で、私は何回も Mr. Children の「GIFT」を聞いていました。まだ、中国では、中国が勝つことにこだわる傾向があり、勝てなかった選手に対する風当たりは強いのですが、北京オリンピックは「勝ち負けじゃない価値観」という大きな「GIFT」を中国に残したと思います。この「勝ち負けじゃない価値観」は、「金儲けだけじゃないという価値観」につながるので、今の中国にとっては非常に大事なことだと思います。

 トウ小平氏の「白い猫でも黒い猫でもネズミを捕る猫はよい猫だ」という「白猫・黒猫論」は、「社会主義の理想を追求する政策でも、資本主義的傾向のある政策でも、人民の生活を向上させる政策がよい政策なのだ」という意味であり、政治理念としては、非常に正しいものだと私は思います。しかし、現在の中国では、それを少し敷衍(ふえん)しすぎて「環境汚染や腐敗行為など、少しぐらい倫理的に疑問のある行為に目をつぶったとしても、経済が発展し、みんなでお金儲けができるのならば、それがよい政策なのだ」といった誤った認識が中国の国のあり方を狂わせていると私は思っています。ですから、私は「金儲けだけじゃないという価値観」は、今の中国にとってとても大切なものだと思っているのです。今回の北京オリンピックが中国に残した「勝ち負けじゃない価値観」という大きな財産が、しっかりと中国の中に根付いて欲しいなぁ、と願っています。

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2008年8月25日 (月)

「祭り」が終わった

 先ほどまで、北京オリンピックの閉会式をやっていました。歌や演出がてんこ盛りで、もうちょっと簡潔な方がよかったかな、聖火が消えたところで終わりでもよかったかな、などと思いましたが、まぁ、いいでしょう。中国の人々は、この余韻に少しでも長く浸っていたい気持ちなのだと思います。閉会式が終わった直後に打ち上げられた天安門前広場の花火の音が私が住んでいるところまで聞こえてきていましたが、20分間くらい立て続けに大きな音が続いていました。花火は開会式の時よりも盛大だったように思います。

 閉会式の途中で、次の2012年のオリンピック開催地ロンドンを紹介するアトラクションがありました。サッカーのベッカム選手も出てきましたが、レッド・ツェッペリンのギタリスト、ジミー・ペイジ氏が出てきてギンギンのロックを披露していたのが私には印象に残りました。テレビのアナウンサーはジミー・ペイジ氏は64歳とか言っていましたが、やっぱ、こりゃ北京とは世界が違うわ、と思いました。

 今回も胡錦濤主席と呉邦国全人代常務委員会委員長(中国共産党政治局常務委員ナンバー2)との間に江沢民前国家主席が座っていました。こういった国家的な行事でのこの序列はいつまで続くのでしょうか。

 国際オリンピック委員会(IOC)のロゲ会長は、挨拶で「この大会で世界の人々が中国を知った。そして中国の人々もまた世界を知った。」と述べました。感じることは、みな同じだと思いました。

 開会式の時もそうでしたが、閉会式が始まる5分前、IOCのロゲ会長や胡錦濤主席、江沢民氏、中国共産党政治局常務委員のメンバーが入場する時、こういった国家指導者が入場する時にいつも流される曲に乗って観衆が手拍子してこれらの国家指導者たちが入ってきたのですが、テレビの画面を見た感じでは、手拍子していた観客は4分の1よりも少なかったもと思います。こういった国家指導者が並ぶひな壇の前でジミー・ペイジ氏のギンギンのロック・ギターが披露されたわけですが、はっきり言ってかなりのミス・マッチを感じました。このギャップが埋まる日はいつ来るのでしょうか。

 天安門前広場の花火もどうやらようやく終わったようです。まだパラリンピックがありますが、いずれにせよ、これでひとつの「区切り」です。これは単なるイベントの終わりではなく、中国にとってもひとつの大きな「区切り」になるのでしょうか。

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2008年8月24日 (日)

北京オリンピックが教えてくれたもの

 あと3時間半もすると北京オリンピックの閉会式が始まります。大気汚染やテロなど心配な事項もあったのですが、問題なく無事にオリンピックは終了しそうです。競技そのものや競技と関係ないところで、今回の北京オリンピックは、いろいろなことを教えてくれたように思います。最終日の今日の時点で「北京オリンピックが教えてくれたもの」を思いつくまま、順不同で書いてみたいと思います。

○北京の大気汚染はコントロール可能だ、ということ。逆にいうと、やはり北京の視界の悪さ(太陽が白く見えることなど)は人為的な行為が原因であること。

 開会式の前までは、かなり蒸し暑く、湿度も高くて、大気汚染指数も100に近い日が続いたのですが、開会式の後、大気汚染指数はだんだんと下がり、数日おきに雨が降ったことも幸いして、後半(特に8月15日以降)は、北京の大気汚染はほとんど問題のないレベルにまで好転しました。心配された男女のマラソンも大気汚染は全く気になりませんでした。やはり市内を通行する自動車のナンバープレートの偶数・奇数による制限と周辺の工場の排出制限が効いたようです。もう1週間くらい規制の開始を早めれば、開会式当日から青空が見えていたかもしれません。

 別の言い方をすれば、日頃、北京で、空が晴れていても、青空にならず、空が白くなって、太陽が丸く白く肉眼で凝視できるような状態になっているのは、やはり人為的な汚染物質の排出による大気汚染が原因であったことが逆に証明されたと言えます。

 今日(8月24日)付けの「新京報」によると、自動車の奇数・偶数規制が大気汚染の改善に効果があり、渋滞の緩和にも繋がったことから、現在の規制の期限であるパラリンピック終了後の9月20日の以降も自動車の運用規制は継続すべきではないか、との議論が出ているとのことです。

(参考)「新京報」2008年8月24日付け記事
「奇数・偶数規制の長期的実行については、まだ結論が出ず」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/08-24/008@032613.htm

 しかし、多くの北京市民は2か月間という限定付きであり、オリンピック・パラリンピックの開催という国家的イベントだからこそ我慢したのであり、これを長期的に続けることには賛成しないでしょう。そもそも多くの企業が経済的負担を我慢してこの奇数・偶数規制に協力しているのですから、これを長期的に続けることには無理があると思います。

○インターネット規制は、やはり当局が意図的に行っているものであり、当局のさじ加減で、いかようにもなるということ。

 7月最終週以降のインターネット規制の大幅緩和にはびっくりしました。BBCホームページの中国語版は、規制解除するだろうとは思っていたのですが、ウィキペディアの中国語版や中国国民党のホームページまで見られるようになったのには驚きました(ただし、BBCホームページ中国語版の特定の話題に関する掲示板の部分や中国国民党ホームページの一部の項目については、現在でもアクセスできないように規制が掛けられたままです)。いずれにせよ、当局側がインターネット規制を行っていることを公式に認めたことと、当局のさじ加減により、この規制がいかようにも厳しくも緩くもできる、ということが世界中に知れ渡っただけでも、北京オリンピック開催の意義はあった、と私は思っています。

 この後、また規制が強化されるかもしれませんが、少なくとも、中国の人々の多くは、今まで自分たちが見られなかった中国語のページが世界にはたくさん存在していたのだ、ということをこのオリンピック期間中知ることができたと思います。

○「中国のニセモノはケシカラン」といつも言っている外国人が喜んで「ニセモノ市場」で買い物をしていたこと。

 北京でも「ニセモノ市場」として有名な「秀水街」はオリンピック期間中たくさんの外国人客が入り、相当儲かったそうです。「秀水街」は、もともとは露天の衣類・雑貨商が並んでいた街で、あまりに有名ブランド品のニセモノ類の販売が多かったことから、当局が露天商を追い出して、大きなビルを建てたところです。ビルが建った後、追い出された露天商が今度はビルのテナントとして戻ってきて、相変わらずニセモノの販売が行われるようになりました。当局ももともと「ニセモノ販売をなくそう」などとは当初から考えていなかったのではないかと思います。

 ということで、「秀水街」は今でも「ニセモノ市場」として有名で、北京の観光スポットのひとつになっています。時々「ニセモノ販売テナント追放」の取り締まりがあるのですが、取り締まりが行われた後で行ってみると、取り締まりの前にニセモノを販売していたテナントが同じようにニセモノを売っており、「当局はいったい何を取り締まったのだろう」と思わせる不思議な場所です。

 ニセ・ブランド品や海賊版DVDなどは海外から厳しく批判されているのですが、買っている客の多くは外国人観光客です。今回オリンピックのために北京に来た外国人も多くここを訪れているようです。報道によれば、ブッシュ元大統領(父親の方)もここを訪れたとのことです。これだけ外国人のお客が多く集まってきて儲かるのだったら、ニセモノ作りはやめられないよなぁ、と思いました(なお「秀水街」は、ニセモノ市場として有名ですが、絹製品や工芸品など、普通の中国のおみやげ物もたくさん売っているところですので、誤解なきように)。

○メダルを獲得する国々が広く拡散したこと。

 今回、インドやモンゴルなど初めて金メダルを取った国が多く出ました(今までインドがオリンピックで金メダルを取ったことがなかった、ということ自体驚きでしたが)。陸上短距離でのジャマイカ勢の活躍は度肝を抜かれましたし、陸上長距離でのアフリカ勢の活躍も目に付きました。以前は、多くの発展途上国は経済的にスポーツをやる余裕がなく、優秀なスポーツ選手はアメリカに移住して、アメリカにメダルをもたらしていたのが、最近では各国とも自国内でスポーツ選手の育成を図るようになり、そのために多くに国々にメダルが拡散した(その分、アメリカのメダル数が伸びなかった)と言われています。発展途上国では、オリンピックでメダルを取ることは、それぞれの国民の励みになりますので、これはよい傾向だと思います。

○日本人が日本以外のメダルに貢献していることを知ったこと。

 井村雅代コーチの指導により日本を押さえて銅メダルを獲得したシンクロナイズド・スイミング中国チームや、高校・実業団と日本でトレーニングして男子マラソンでケニアに初の金メダルをもたらしたワンジル選手など、日本人が他国のメダル獲得に貢献した例がこのオリンピックでは目立ちました。他国でスポーツのコーチをしたり、若い外国人が日本でトレーニングしたりすることは今までも多くあったと思いますが、今回の北京オリンピックは、そういう形で果たしている日本の役割を再認識させてくれました。日本人がメダルを取ることも大事なのでしょうが、他の国のスポーツの向上に貢献するという面で日本が役割を果たすのも悪くないことだと思いました。

○観客の声援は選手の力になるということ。

 それにしても、率直に言って、北京オリンピックにおける中国選手の活躍は見事でした。メダル総数ではアメリカの方が多いのに、金メダル数では中国の方が圧倒的に多いのは、大勢の観客の「加油!」(がんばれ)という声援が選手に最後に振り絞る「一押し」を与えたからだと思います。私は、多くの中国の人々の期待が大きい分だけ、選手にプレッシャーが掛かり、中国選手は意外に成績が上がらないのではないか、と心配していたのですが、(日本に負けた女子サッカーなど期待が重圧になっていた種目もありましたが)多くの種目では、選手は中国の人々の期待をうまく自分の力に加えることができたように思います。プレッシャーを力に変える、という精神面での調整もうまく行ったのでしょう。中国の選手の中には、東京オリンピックで銅メダルを取ったマラソンの円谷選手(後に次のメキシコ・オリンピックを前に成績が振るわないことを苦にして自殺した)のような悲壮感を漂わせたような選手はいなかったように思います。

 開会式翌日の8月9日、中国最初の金メダルを獲得した女子重量挙げ48kg級の陳燮霞選手が鬼のような形相でウォーと声を上げて気合いを入れて試技を行い、それが成功だとわかり、バーベルを降ろした途端に「普通の女の子の顔」に戻ってワーと声を上げながらコーチの首根っこに抱きついてきたシーンが今でも私の目に焼き付いています(日本のテレビでは、6位に入賞した三宅宏美選手の試技が終わった時点で中継を終了したので、このシーンは日本では放映されていないはずです)。圧倒的な強さで平然と金メダルを獲得しているように見える中国の選手も、相当なプレッシャーと戦っていたのだと思います。

 また、これまで中国は個人技で獲得するメダルが多かったのですが、女子バレーボールの銅メダル、女子ホッケーの銀メダルなど団体で行う球技でのメダル獲得が相次いだのは、中国にとっては大きな収穫だったと思います。

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 私は結局は試合会場へは行かずにテレビ観戦に終始しましたが、競技の時間帯が午前中と夕方以降に集中していたので、テレビでかなり見ることができました。欧米で行われるオリンピックと違って、時差がないのはやはり助かりました。中国のテレビを見たり、NHK-BS1またはNHK-BSハイビジョンで見ていたのですが、NHKの北京オリンピックのテーマ曲、Mr. Children の「GIFT」という曲はよかったですね。「白でも黒でもない」「日差しでも日陰でもない」ところに美しい色がある、という趣旨の歌詞が感動的でした。日本はアテネに比べてメダルの数が少なかった、という批判もあるようですが、スポーツには勝つこともあれば負けることもあります。勝敗を超えた大きなたくさんのものをこの北京オリンピックは残してくれたと思います。

 そして一番大事なのは「国家的イベント」として国の威信を掛けて行われたこの北京オリンピックが「なんとしても成功させる」と意気込む指導者たちの思惑とは全く関係なく、多くのものを中国の人々の中に残したことでしょう。中国にとって「オリンピック後」をどう乗り切っていくかが大変だと思いますが、北京オリンピックが中国の人々の中に残した財産は大きいと私は思います。

 北京オリンピックに参加した全ての選手と北京オリンピックの運営に参加した全ての人たちに感謝の意を表したいと思います。

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2008年8月23日 (土)

中国の人々が世界を見る目

 オリンピック期間中、北京の街中に置かれているテレビの前では多くの人が試合に見入っていました。今日(8月23日)は、男子サッカーの決勝「アルゼンチン対ナイジェリア」の試合をやっていたのですが、ショッピング・モールにある街頭テレビの前では多くの人がこの中継を見ていました。サッカーは中国でも人気なぁ、と私は思いました。今回のオリンピックを通じて、中国の人々は、中国が関係しないところでも、いろいろな競技のいろいろな国の試合を見たのではないかと思います。

 もちろん、中国選手の活躍が一番関心事項だったと思いますが、中国選手が出る以外の試合もテレビでは随分放送していたので、多くの人々が中国とは関係のない試合を見たと思います。今年の4月頃、世界を回る聖火リレーが妨害される事件があった頃、中国のメディアは「西側の報道の仕方はおかしい」といったキャンペーンを張り、中国の人々の間では異様なナショナリズムが盛り上がりました。特にフランスでの聖火リレーに対する妨害が大きかったこともあり、フランス系スーパーマーケット「カルフール」に対する不買運動が各地で広がりました。こういった「反外国」の雰囲気のままでオリンピックを迎えたらどうなるんだろうか、とそのころはちょっと心配していました。

 ところがその後5月12日に発生した四川大地震により雰囲気は一変しました。中国全体が団結して被災地を支援しよう、という雰囲気になりました。各国から救援隊や医療隊が駆け付け、中国の人々は素直にそれに対する感謝の意を表していました。「カルフール」に対する不買運動のようなちょっと歪んだナショナリズムはかなり影を潜めました。

 そういうこともあり、北京オリンピックの期間中は、外国に対する反発のようなものが目立って表に出ることはありませんでした。サッカーの試合では、日本が出場した際にはブーイングなどもまだあったようですが、数年前に比べれば、いくぶんかは良くなったのではないでしょうか。

 今回の北京オリンピックが中国の人々の世界を見る目をかなりソフトにしたのは間違いないと思います。コントロールされた官製メディアを通じてではなく、直接、多くの外国の人と接する機会があったのはよかったと思います。

 後は、今、大幅に緩和されているインターネット規制がオリンピック終了後も継続されて、中国大陸部の人々もネットを通じて常時世界の他の人々が享受しているのと同じような情報交換の自由さを享受でき続けるのか、ということがポイントになると思います。イベントの運営という面では、北京オリンピックは大成功だったと思います。中国の人々に対して、世界を見る窓が開いた、という意味でも、現時点では成功だったと言えるでしょう。今後、オリンピックをきっかけにして開いた世界に対する窓が閉じられるようなことがなければ、北京オリンピックは「真に成功だった」として歴史的にも評価を受けることができるようになるでしょう。

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2008年8月22日 (金)

このまま「夢」が現実として続いて欲しい

 つい先ほど、北京オリンピック陸上男子400mリレーで、日本チームが銅メダルを獲得しました。NHKの放送の解説者は、日本がトラック競技でメダルを獲得したのは80年振りだ、と言っておられました。今回は金メダルはジャマイカ・チームでしたが、このジャマイカ・チームの活躍は歴史に残るでしょう。競泳の最終日にあった400mメドレーリレーでも、8冠のフェルペスを擁するアメリカ・チームの横で日本チームは銅メダルを取ったわけですが、この二つのレースは、金メダルが歴史的なものであるだけに、このレースのシーンは、これから何回も歴史の一シーンとして繰り返し映し出されることになるでしょう。それとともに日本の銅メダルも今後長い間語り継がれることになるでしょう。

 今日の北京の天気は素晴らしい快晴でした。夕方の夕日もまぶしく輝いていました。東京では普通のことなのでしょうが、北京の夕方のまぶしい夕日は、とても新鮮に感じます。今日(8月22日)の北京の大気汚染指数は36の「優」でした。ここのところずっと「優」の日が続いていますが、これは近年にない汚染の少ない8月です。オリンピック期間は、開会式前後は、かなり大気汚染があったのですが、その後徐々によくなり、後半はほとんど大気汚染は気にならなくなりました。オリンピックが終わっても、このような青空とまぶしい太陽が「夢」ではなく現実のものとして続いて欲しいと思います。

 オリンピック前に大幅に解禁されたインターネット規制ですが、今日、試しにアクセスしてみたら、なんと北京から中国国民党のホームページにアクセスできました。

(参考)中国国民党のホームページ
http://www.kmt.org.tw/

 上記のURLを見ておわかりのように、当然ですが、上記のページは台湾にあるサーバー上にあります。この中国国民党のホームページは、英語版、中国語版、日本語版がありますが、中国語版では、今日(8月22日)現在、「馬英九総統」の就任記者会見の動画を見ることができます。当然中国語ですから、ここにアクセスした中国大陸の人は「馬英九総統」の話を直接聞くことができるのです。これは、画期的というより革命的なことだと私は思います。(インターネットは自由に世界を結ぶものなのですから、外の世界と繋がって「革命的だ」と感激すること自体、本来はおかしいんですけどね)。これは「オリンピック・スペシャル」の一時的なものなのでしょうか。それともオリンピックが終わってもずっと続くのでしょうか。

 今回の北京オリンピックでは、日本は、メダルの「数」の点では物足りないところがあるのでしょうが、上に書いた男子陸上400mリレーの銅メダルとか、ソフト・ボールの金メダルとか、フェンシングの太田選手の銀メダルとか、歴史的なメダルが多かったように思います。もし、北京オリンピックが「歴史的なオリンピック」となるのであれば、大気汚染の改善とかインターネット規制の緩和とか、「夢」のように変わった北京の現状の一部分が、オリンピックが終わった後も「夢」ではなく、現実のものとして、ずっと続いて欲しいと切に願いたいと思います。

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華国鋒氏がオリンピックに沸く北京で死去

 元国務院総理、元中国共産党主席の華国鋒氏が一昨日(2008年8月20日)、オリンピックに沸く北京でひっそりと亡くなりました。87歳でした。

 華国鋒氏は、1976年9月に毛沢東主席が亡くなった直後の同年10月、当時実権を握っていた江青、張春橋、姚文元、王洪文ら「四人組」を失脚させて、毛主席の後継者として翌年には中国共産党主席となり、トウ小平時代(=現在の改革開放時代)への「つなぎ」の役割を果たした人物です。

 文化大革命を推進してきた「四人組」を失脚させたものの、自らの地位の根拠が毛主席から「後を頼む」と言われた、という「遺言」だけだったことから、毛沢東主席の路線を継続し、文化大革命を継続する、と主張し続けました。そのため華国鋒氏の政策は、どちらを向いているのかよくわからないものでした。やがてトウ小平氏が正式に復活すると、トウ小平氏は「毛沢東主席の行ったことや毛沢東主席の指示は全て正しい」(「二つの全て」)と主張する一派を「すべて派」だとして批判しました。「すべて派」が華国鋒氏を指すことは明らかでした。

 トウ小平氏は、1978年12月に改革開放路線をスタートさせました。その後、1981年6月、文化大革命を「誤りだった」と断定し、毛沢東主席も晩年には誤りを犯した、との認識を示した「建国以来の党の若干の歴史的問題に関する決議」が採択されるに到り、華国鋒氏は、党内でその存在意義を失い、副主席に降格となりました。その後も、一応、「幹部」では居続けたため、「失脚した」と表現するのは正しくありませんが、その後、華国鋒氏は政治的影響力を全く失いました。「失脚」しなかったのは「四人組追放」という功績は認められていたからでしょう。

 亡くなった一昨日当日(8月20日)の夜7時からの中国中央電視台のニュース「新聞聯播」では、後ろの方の「その他のニュース」の中で「華国鋒同志」の死去を伝えていました。「四人組」を追放し、改革開放路線への道を開いた人にしては、ちょっと寂しい扱いでした。というより、政治的影響力を失った中ででも、その死去が「新聞聯播」で取り上げられたこと自体よかったと考えるべきなのかもしれません。

 一方、昨日(8月21日)付けの「人民日報」では1面の右下の方にこの華国鋒氏の死去のニュースが遺影とともに掲載されていました。端の方とは言え「人民日報」の1面で遺影とともに伝えられた、ということについては、一定の敬意を持って報じられた、と考えてよいでしょう。

(参考1)「人民日報」2008年8月21日付け1面
「華国鋒同志が逝去」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-08/21/content_86213.htm

 ただ、この「人民日報」の記事は新華社電をそのまま伝えただけのもので、その内容は「中国共産党の優秀な党員で、共産主義に忠誠を尽くした経験ある戦士、プロレタリアート階級革命家であり、かつて党と国家の重要な指導的職務に就いていた華国鋒同志」が死去した、という事実のみを伝えるものでした。華国鋒氏の経歴については「かつて党と国家の重要な指導的職務に就いていた」と述べているだけでした。1976年1月に周恩来総理が亡くなった後、国務院総理に就任し、同年9月に毛沢東主席が亡くなった後、翌年8月に中国共産党主席に就任したことは、触れていません。また、華国鋒氏が毛沢東主席が亡くなった直後の1976年10月に「四人組」を失脚させる動きの中で中心的な役割を果たしたことについても何も触れていません。

 「人民日報」の記事のような簡単な伝えられ方だと、32年前を知らない若い人たちは、華国鋒氏がどういう人物であったのかを知らないままにこのニュースを聞き流してしまったろうと思います。「プロレタリアート階級革命家」という修飾語が付いているので、「改革開放期より以前に活躍した過去の人物なんだろうなぁ。」といった想像はできると思いますが、歴史上どういう役割を果たした人物なのかは、このニュースでは若い人たちには伝わらないと思います。

 ただし、華国鋒氏の業績は決して「消された」わけではありません。公式な歴史の中ではきちんと記述されています。

(参考2)「人民日報」ホームページ「中国共産党簡史」
「第7章:十年間の『文化大革命』の内乱」
「四、江青集団を粉砕した勝利」
http://cpc.people.com.cn/GB/64184/64190/65724/4444931.html
「第八章:第11期三中全会において社会主義事業の新しい発展段階が切り開かれた」
「一、模索の中で前進しながら正しい目標をどこに置くべきかの問題について討論した」
http://cpc.people.com.cn/GB/64184/64190/65724/4444932.html

 8月21日付けの「新京報」「京華時報」といった北京の大衆紙でも華国鋒氏の死去は報じられていますが、その内容は「人民日報」と全く同じで、新華社電をそのまま伝えただけのものでした。大衆紙は(人民日報もそうですが)紙面の多くをオリンピック関係記事に割いているため、華国鋒氏の業績について書くスペースがなかったのかもしれません。しかし、もしそうであれば、あまりに寂しいと思いました。たぶん、華国鋒氏は、結果として「四人組」を追放し文化大革命を終わらせるきっかけを作ったけれども、自分自身は「文化大革命を継承する」という立場に立っており、文化大革命を否定してトウ小平氏が始めた現在の改革開放路線からすれば「異なる立場の過去の人」であるから、その経歴を詳しく報じる必要はない、と判断されたのだろうと思います。しかし、私は、華国鋒氏が果たした役割に鑑みれば、それが例え今の政権の路線と「異なる立場の人」だとしても、その業績については積極的に若い人に伝えるべきだと思いました。

 日本の新聞の華国鋒氏の死去を伝えるニュースでは、華国鋒氏が過去に何をした人物であるのかを簡単ではありますが伝えていました。それに対して中国での報道が「かつて党と国家の重要な指導的職務に就いていた華国鋒同志」と伝えるに留まり、それ以上の情報を読者・視聴者に伝えなかったことに非常に違和感を感じました。普通の感覚だったら、周恩来総理の後を継いだ国務院総理、毛沢東主席の後を継いだ中国共産党主席だった華国鋒氏の過去の経歴は、少なくともそういう経歴の持ち主だ、という事実だけでも伝えられて当然だと思えるからです。

 全ての国において、過去の歴史に学ぶことは重要なことです。中国は日本に対して常にその姿勢を求めています。私もそれは重要なことだと考えており、過去の歴史において日本が中国に対して何をしたかを踏まえることは、日中関係を進めるための出発点だと考えています。しかし常にそう言っている中国共産党自身が、自らの過去の歴史について、そのよいところ、よくなかったところの両方を若い人にきちんと伝える努力をしているのだろうか、という点について、最近、私は疑問に思っています。改革開放路線は、文化大革命という「過去の過ち」を反省することから始まっているため、改革開放路線当初(1980年代)は、中国共産党には、党自身の歴史についても、過去の誤りは誤りとして正しく自己批判すべきだ、という姿勢が見えていました。その姿勢が、1989年以降は弱くなってしまったのではないか、というのが私の懸念しているところです。

 過去の歴史が未来を導く鑑(かがみ)である、ということは、長い歴史を持つ中国が一番良く知っていることです。今年は改革開放30周年に当たるので、オリンピックが終わると、今度は年末に掛けて改革開放30周年にちなんだ行事がいろいろ行われることになると思います。その過程で、この改革開放30年の歴史を、きちんと客観的に振り返り、正しくなかった部分は正しくなかったことだと評価した上で、若い世代に事実を伝えるようにして欲しいと私は願っています。もしそうしないならば、中国は正しい未来への道を歩むことができなくなってしまうと私は思います。

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2008年8月20日 (水)

中国経済はまた大型公共投資依存に戻るのか

 今日(8月20日)の中国大陸の株価は、一昨日(8月18日)の下げを回復する以上に上昇したようです。日本のネットのニュースによれば、オリンピック後、中国政府が大型の景気刺激策を打ち出す見通し、との報道がなされたことが株価上昇の原因だ、とのことです。景気刺激策とはどういう政策を採るのでしょうか。また、大型の公共事業に投資をしたりするのでしょうか。

 私も、中国の経済が収縮してよい、とは思っていませんが、人民元高や原油高などの構造的な原因で、輸出産業の不振が続く中、経済全体を支えるために、大型の公共事業に投資して雇用を創出する、といった政策がいつまでも続けられるとは私には思えません。私は、北京に赴任してから1年4か月、中国国内のいろいろな工業団地などを見ましたが、公共インフラの多くは、既に「過剰」のレベルにまで達していると思っています。現在、開発が終わった、あるいは開発中の全ての工業団地の全ての土地に工場が建つとはとても思えないからです。もし、今後また従来型の公共投資主導型の景気刺激策を採るのであれば、地方ベースでは、今後とも、農地がつぶされ、工業団地が建てられる、というタイプの事業が続けられる可能性があります。それだと、去年あたりから採っていた「バブルは小さいうちにつぶしておく」という政策を、また「バブルをさらに膨らませる政策」に逆戻りさせてしまうことになります。

 構造改革には常に「痛み」を伴いますが、今、中国政府にとっては、輸出企業の倒産による失業者の増大や不動産や株のバブルの崩壊による富裕層の資産の消滅のような「痛み」を伴う政策は怖くて採れないのかもしれません。しかし、景気が悪くなりそうになったら、公共投資で景気を刺激する、といった政策を繰り返していくと、中国の企業はそれに甘えてしまい、本当の意味での国際競争力を付けることができなくなります。いつまで経っても労働集約型産業への依存から脱却できません。それに、不動産や株が下がりそうになったら、政府が何らかの策を講じて下支えしてくれる、といった経験を何回も繰り返すと、投資家の中に自己責任をもって投資するというマインドが育たないと思います。

 中国の金メダル・ラッシュもようやく山を越え、オリンピックも残すところあと4日となりました。今回のオリンピックは、スポーツの面では、中国の人々の能力が非常に高いことを証明しました。経済の面でも、中国の人々の能力をうまく引き出し活用させることができれば、大型の公共投資に頼らずに経済成長を続けることはできると思います。既に中国の大学への進学率は22%を超えており、中国でも高学歴化が進んでいます。このまま大型公共事業と労働集約型産業への依存を強めた経済運営を続けていくと、人々の「働きたい」という欲求と雇用の場の提供とが、数の上では一致しても、質(要求する賃金など)の面でミスマッチが大きくなります。中国政府は、単に数字的に経済を失速させない、ということばかりでなく、中国の人々が自分たちの生活をどうしたいのか、という「思い」をうまくすくい上げるシステムを作り、それによって人々の欲求を的確に把握できるようにする必要があると思います。

 このブログの直前の記事で書いた人民日報のホームページにあった110mハードルを棄権した劉翔選手を励ますポップ・アップは、今日(8月20日)の朝の時点ではあったのですが、夜の時点では既になくなっていました。そろそろ「劉翔選手の棄権ショック」も治まってきただろう、と判断したのだと思います。このようにして、官製メディアが沸騰するネット議論の「ガス抜き」に気を使わなければならないこと自体、中国に人々の気持ちを吸い上げるシステムができていない証拠です。少しづつでよいので、時代の流れに合わせて、中国も変わって行って欲しいと思います。

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劉翔選手の棄権ショック

 8月18日に行われた北京オリンピック陸上110mハードル予選で、中国のスーパースター劉翔選手が、スタジアムには出てきたものの、スタート直前(正確に言うとスタートして、それが他の選手のフライング・スタートだったとわかった直後)に棄権したことは、中国の人々に大きなショックを与えました。これについて、中国のネットの掲示板で、劉翔選手を非難する声、擁護する声、非難する者を批判する者など、いろいろな発言が沸騰していることは、日本でも報道されているので、御存じの方も多いと思います。

 劉翔選手は、古傷を持っており、ここのところその故障の状況が芳しくなく、特にレース2日前の16日の練習時に相当に悪化した、と伝えられています(劉翔選手が8日の開会式に参加しなかったことからも、状況があまりよくないのではないか、ということは、ある程度推測されていた)。ただ、全く走れないほどに悪いとは誰も思っていなかったので「棄権」という結果にみんなビックリしたのです。2日前に相当悪いことがわかったのだったら、その時点で状況を公表し、棄権の意思表示をすべきだった、との批判が多く見られます。苦労してチケットを入手して、当日スタジアムへ行った人は特にそう考えると思います。ただ、これだけ期待が高い中、言い出せる雰囲気ではなかったし、自分もどうしても出たいと思っていたので、もしかすると走れるかもしれないと考えて、最後の最後まで一縷の望みを掛けてスタートラインまでは行った、ということなのかもしれません。

 インターネットの掲示板の発言の中には、悪口雑言に近いものもあるなど相当に過熱していることもあり、当局側がこういった「ネット世論」を必死になだめようとしているように見えます。習近平国家副主席が慰問の電話を掛けたとか、中国中央電視台の夜7時のニュース「新聞聯播」の中で「一日も早い回復を祈る」という論評を伝えるなど、一人のスポーツ選手の棄権に対しては「異例」ずくめの対応が続いています。

 今、「人民日報」のホームページにアクセスすると劉翔選手がユニフォームを顔にかぶせて涙をこらえている様子の写真を背景として「劉翔! あなたは依然として私たちの英雄です!」と書かれたポップアップが出てきます。その中に「あなたの一日も早い回復を祈ります」というクリック・ボタンがあり、8月20日未明の段階でクリック数は100万クリックに近い数に上っています。右の方には「劉翔選手に言いたい」という欄があります。その中を見ると「棄権は正しい判断だった」「それでも私はあなたを支持する」「早く復活して欲しい」といった励ましの発言が並んでいます。

(参考)「人民日報」ホームページのトップ
http://www.people.com.cn/

 日本の女子マラソンの場合も、二連覇を目指す野口みずき選手がレースの5日前に棄権することを発表し、土佐礼子選手も出場はしたものの25キロ付近で棄権するなど、ケガや故障による選手の棄権がありました。これに関しては、日本の掲示板でも、結構、選手に対する批判なども書かれているようです。書きたい放題のことが書かれるネットの掲示板では、そういう発言があっても仕方がないと思います。しかし、日本ではそういったネット上の選手批判の発言について新聞などで報道されることはありません。ましてや政府がそれに反応することはあり得ません。「ネット上での発言はそういうもんだ。」としか見られていないからです。

 劉翔選手に対するネットの中国の掲示板での発言は、私もいくつか中国語の発言そのものを見ました。劉翔選手を批判する発言もあり、擁護する発言もあるのは事実で、その意味では、日本の掲示板の発言とそれほど違いはないと思います。ただ、確かに日本における選手批判とはちょっとフェーズが違う「激しさ」があるのは事実だと私も感じました。期待の大きかった野口選手が出場できなくなったのは、日本でもかなりのショックでしたが、2週間前くらいから、「故障で海外トレーニングを早めに切り上げたようだ」といった情報が伝えられていたので、野口選手の出場断念を聞く前に日本の人たちは「心の準備」ができたいたのだと思います。それに対して劉翔選手は多数のコマーシャルに出演するなど期待の大きさが日本では考えられないほどだったことと、走れない程に故障の程度がひどい、といった情報は事前に全くなく、実際に当日もスタジアムに登場してから棄権したので、ショックが大きかったのだと思います。

 それにしても、そういったネット掲示板の劉翔選手の棄権に対するリアクションに対して行っている中国メディアの「沈静化努力」は、これまた「普通の国」の感覚からすると異様に感じます。ネットワーカーたちの発言の盛り上がりを怖れているように感じます。

 日本の報道では、最近、中国で何か起こると、ネットの掲示板でどういう発言が書かれているか、に注目し、それを報道することが多くなりました。日本国内の案件の報道では、特別な場合を除き、ネットの掲示板の中での発言などはあまり注目されません。中国において、ネット掲示板が注目される理由には二つあります。

(1) 新聞やテレビは一般市民の声を報じないし、メディアが一般市民にインタビューしても一般市民が当局に批判的な発言をするとは思えないが、ネットの掲示板には「本音」が書かれることが多いので、ネット掲示板を見ることが中国の一般市民の声を聞くほとんど唯一の手段であるため。

(2) 当局にとって不都合な発言は削除されるので、どういった発言が削除されるのかを監視することにより、今、当局が何を「不都合だ」と感じているのがわかるため。

 (1)の点は、中国政府も同じように考えていると思います。「普通の国」だと、テレビや新聞、雑誌などのメディアを通して「世論」が形成されるのですが、中国ではメディアは一般市民の声を反映しないので、正常な形での「世論形成」ができないのです。中国政府もネット掲示板の動向を注目している、ということは、別の見方をすれば、中国政府は、一般市民が考えている「世論」を吸い上げて政策に反映させる、という「触覚」を持っていないことを意味します。自由なメディアや民主的な選挙制度といった政策に対するフィード・バック・システムを持っている国では、政府がネット掲示板の盛り上がりを気にする必要はないのです。

 北京オリンピックは、いろいろな面で、中国の実情を世界に知らしめるよい機会になりましたが、今回の「劉翔選手の棄権ショック」も、中国の一面を世界中に知らせるきっかけになったと思います。

 なお、劉翔選手をコマーシャルで使っていたスポーツ用品メーカーのナイキ社は、8月18日付け「新京報」の最終面1面を借り切って広告を出しています。右側から光が当たった劉翔選手を真正面から撮した顔写真を大きく掲げいます。そこには次のように書かれています。

「私たちは、栄光を愛し、そして挫折を愛する。」
「あなたの心を傷つけてしまったスポーツを、それでも私たちは愛する。」

多額の広告料を支払って劉翔選手をコマーシャルに使い続けたナイキ社に対する批判もいろいろあると思います。こういう広告を即座に出したことを見て、ナイキ社は劉翔選手の故障をある程度事前に知っていたのではないか、との疑念を持つ人もいるかもしれません。しかし、私は、ナイキ社は、さすがにスポーツの本質をよくわかっていると思って、感激しました。スポーツを国家の栄誉のためとか政治的な団結とかに利用しようと考えている全ての勢力は考え直して欲しい、と改めて思いました。

 劉翔選手が今回の状況を乗り越えることをお祈り致します。

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2008年8月18日 (月)

発展改革委「オリンピック後の後退はない」

 国家発展改革委員会は、昨日(8月17日)、中国経済の状況についての記者会見を行いました。この席で、国家発展改革委員会経済研究院副院長の王一鳴氏は、「オリンピックは中国経済の分水嶺とはなり得ない」と述べ、「オリンピック後に中国経済にブレーキが掛かるのではないか」との見方を否定しました。

(参考1)「新京報」2008年8月18日付け記事
「中国では『オリンピック後の景気後退』は出現しない」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/08-18/008@020530.htm

 この記事によると、王一鳴副院長が発言したポイントは以下のとおりです。

○オリンピックの終了は北京市の経済に影響を与えることになるだろうが、北京市の経済規模は全中国の3.6%に過ぎず、オリンピックの終了が中国経済全体に影響を与えることはあり得ない。

○マンション価格の動向もオリンピックとは関係しない。中国では急速な都市化が進んでおり、不動産に対する需要は強い。去年下半期以来、不動産市場における販売量は下降傾向にあるが、今年1月~7月の不動産に対する投資は依然として30%を超える速度で伸びている。現在、不動産市場は「模様眺め」の雰囲気が濃厚であるが、これは不動産市場の中のバブル的部分が消滅するまでのひとつのプロセスである。

○株式市場の動向もオリンピックとは無関係である。最近の株価の下降傾向は、マクロ経済的視点で見れば、中国経済がアメリカのサブ・プライム・ローン問題や地球規模の景気後退等の影響を受け、中国経済の不確定性が増加していることから来ている。原油、鉱物資源、食糧価格の大幅上昇も懸念材料になっている。しかし、多くの企業は安定的な成長を維持しており、いくつかの企業の株価は過小評価されている。国内の消費者物価指数が落ち着き、国際石油価格が安定し、投資者の安心感が増せば、株価は一時的な低迷状態から脱して、合理的な範囲に納まることになるだろう。

 で、問題は、この記者会見がなぜ日曜日である8月17日に行われ、8月18日(月)の朝刊にこの発言の内容が掲載されたか、にあります。今週、大手国有企業47社の株取引の制限が緩和され、額面総額1,200億元(約1兆8,000億円)に相当する株が株式市場に出ることになることから、この記者会見は、国家発展改革委員会が国有企業の株が市場に大量に放出されることに伴う株価の値下がりをできるだけ抑制することを意図して設定したものではないか、と私は推測しています。中国では、国有企業の持ち株を、コントロールしながら株式市場に出し、国有企業の経営にも市場原理を導入しようとする政策を採っています。そのため、毎週、なにがしかの国有企業の株が売買解禁となって市場に出されるのですが、たまたま今週は8月に解禁される株の69.2%がまとまって解禁される、とのことで、国家発展改革委員会は、その影響を最小限に抑えようとしたのだと思います。

(参考2)「新京報」2008年8月18日付け記事
「今週、189億株が解禁に~8月の解禁総数の69.2%を占める~」
http://www.thebeijingnews.com/economy/2008/08-18/008@020626.htm

 しかし、この記者会見もあまり効果は大きくなかったようで、今日(8月18日)の中国大陸の株価は、またかなり下げたようです。

 王一鳴副院長が言うように、最近の株式市場の低迷の原因としては、オリンピック需要が終わることへの懸念、というよりは、世界的経済の低迷と人民元高による中国の輸出産業の不振に伴う中国経済全体への警戒感の方が大きいと思います。先月、国家指導者が相次いで沿岸部の輸出産業の中心地を視察したことも、逆に「中国の輸出産業の不振は意外に深刻なのかもしれない」という疑念を市場に与えたのかもしれません。。

 このブログの7月28日付け記事で、国家指導者たちが中国経済の牽引車である沿岸地域を相次いで視察するとともに、中国政府が当面の中国の経済状況を分析し、経済政策の運営方針を検討する会議を相次いで開いたことをお伝えしました。

(参考3)このブログの2008年7月28日付け記事
「中国経済は既に『オリンピック後』に突入」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/07/post_da68.html

 この記事の中でも触れましたが、胡錦濤主席は、7月21日に開いた中国共産党以外の民主党派や無党派の知識人を招いて行った検討会で6つのポイントを指摘しました。6つのポイントのトップは「安定的で比較的スピードの速い経済発展を全力を持って維持すること」でした。これは、それまでの経済政策はバブルが膨らみ過ぎてからはじけるのを防ぐために軽くブレーキを踏んでいた状態だったのを、今後はブレーキから足を離してアクセルに踏み換えアクセルを軽く踏み込むことにした、という経済政策の転換を意味していた、とみなすことができると思います。

 今日、日本から送られてきた日本で発売されている経済雑誌のお盆前の特集号を見たのですが、オリンピック後の中国経済の後退を憂慮する記事がいくつか載っていました。今の中国の経済状況を考えると、王一鳴氏が言っているように「今後の中国経済の動向はオリンピックの終了が原因となるわけではない」のはその通りだと思います。ただ、タイミングとしては、オリンピック終了をひとつのきっかけとして動き、方向性としては、世界的な経済低迷、原油高、中国の輸出産業の不振により、中国経済にブレーキが掛かる方向に振れることは、おそらく間違いないと思います。

 今、多くの中国の人々はオリンピックに熱中していますので、オリンピックが終わるまでは、経済状況はそんなに大きくは変わらないと思いますが、来週の日曜日、オリンピックの聖火が消えた途端、多くの人々が「金メダルの夢」から醒めて、現実の経済状況に直面し、来週の月曜日(8月25日)から市場が動き始める可能性があります。その意味では今後の中国経済については「オリンピックの終了が原因ではない経済の変化がオリンピックの終了をきっかけとして始まる」と表現することが最も適切なのかもしれません。

 人民元レートは7月16日に1ドル=6.8128人民元まで上昇しましたが、その後、やや下落傾向にあり、今日(8月18日)現在1ドル=6.8665人民元となっています(正確なレートは中国銀行のホームページを御覧下さい)。これまでは「人民元は上昇する一方」だったのが、7月中旬以降、やや風向きが変わってきており、ここのところやや下降気味のトレンドが定着しているように見えます。当局が輸出産業にこれ以上打撃を与えないようにするために為替レートを「人民元安」の方向に誘導しようとしている可能性があります。もし「人民元が当面これ以上上がらない」という見方が定着した場合、これまで将来の人民元高を見て為替差益を当て込んで急速に中国国内に流入してきた「ホット・マネー」がどういう動きを見せるのでしょうか。輸出産業を救済しようとする政策が、ホット・マネーに支えられていた不動産バブルの崩壊を後押しすることになってしまう可能性もあります。

 経済システムは複雑ですから、「ブレーキからアクセスに踏み換える」と言っても、実はブレーキとアクセスは1対だけあるのではなく、いくつもあると考えるべきなのでしょう。そういった複数のアクセルとブレーキを間違うことなくコントロールして行くのは非常に難しい作業だと思います。

 中国は、あと1週間は「金メダルの夢」に酔いしれいていてよいと思いますが、オリンピック終了後はうまく切り替えて、中国の多くのオリンピック選手が試合で見せたような柔軟さとしたたかさをもって、「オリンピック終了を原因とはしないがオリンピック終了をきっかけとして動く中国経済」にしっかり対応して欲しいと思います。

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2008年8月17日 (日)

女子マラソン・北京でのテレビ観戦記

 今日(8月17日)、北京時間朝の7:40スタートの北京オリンピック女子マラソンを中国中央電視台第2チャンネルで見ました。マラソンは、チケットがなくても沿道で応援することは可能なんですが、コースのどのあたりが見やすいスポットなのかよくわからなかったし、そもそも日曜日の朝7:40スタートいうのは起きるのがなかなかつらいので、テレビ観戦にしました。今日は大気汚染もほとんど気にならず、気温もかなり低めでした。ちょっと小雨が降りましたが、マラソンにとっては直射日光が差すよりはコンディションとしては良かったのではないでしょうか。

 日本選手のメダルはなりませんでしたが、土佐礼子選手は故障があったようですし、中村友梨花選手は初めてのオリンピックのマラソンでの13位は収穫があったのでないかと思います。トップはルーマニアのトメスク選手のぶっちぎりの優勝でしたが、2位争いは中国の2人とケニアの2人のしのぎあいが、まるで「チーム戦」のような迫力がありました。

 テレビの中継放送は、基本的に国際映像として撮影ものが中継されていますので、日本で放映された映像と北京で私が見た映像とに違いはないと思います。午後にNHK-BS1でも録画放送をやっていたのも一部見ましたが、違いとして感じたことを書いておきたいと思います(演出として、選手の走る姿のスローモーション映像が多用されていましたが、これは中国国内で放送されたものと、外国へ送信されたものとは、たぶん同じものだったろうと思います)。

○中央電視台ではスタートから最初の30分間程度が中継されなかった。

 今朝7時代の中国中央電視台第2チャンネルでは、「今日の試合の見どころ」などをスタジオから放送していました。その中で、女子マラソンの中継は7:30から開始します、と予告がありました。7:30になると、過去のオリンピック・マラソンの勝者の紹介が始まり、続いて期待される中国選手の紹介があり、その後コマーシャルに入りました(中国中央電視台は国営のテレビ局ですがコマーシャルが入ります)。そのコマーシャルが長々と続き、7:40を過ぎてもコマーシャルをやっていました。おかしいなぁ、何かの都合でスタートが遅れているのかなぁ、と思って見ていたら、7:50頃になって、またカメラはスタジオに戻ってしまいました。で、「それではここで昨日の競泳の様子を見てみましょう」とアナウンサーが言って、昨日の競泳の試合のビデオが流れ始めました。女子マラソンの中継がどうなったのか、何か説明したのかも知れませんが、私の中国語ヒアリング能力はからきしダメなので、そういった説明が何かあったようには聞こえませんでした。

 8:00を過ぎても昨日の競泳のビデオが流れ続けているので、「何か不測の事態でも起きたのかもしれない」と思ってパソコンを立ち上げて見たら、日本のネットのニュースの速報では「女子マラソン・スタート」と出ていました。レースはスタートしていたのに、中央電視台の中継が始まっていなかったのです。おかしいなぁ、と思ってほかのチャンネルに切り替えたりしていたのですが、8:10頃に中央電視台第2チャンネルに戻ってみたら、前門から天安門前広場あたりを走っている選手団の映像が映っていました。それから後は、おそらく日本の皆さんが御覧になったのと同じような正常なマラソン中継でした。

 私は、どこかマラソン・コースの沿道で、観客が中国としては認められない旗や横断幕などを掲げる、といったトラブルがあったのかなぁ、と思いました。もしそういう「事件」があっても、中国のメディアでは報道しませんが、もし何かあったら、外国のメディアはすぐに報道するはずです。それで、CNNやBBCを見たり、ネットで日本のニュースを見たりしましたが、そういった「事件」があったとはどこも報じていません。日本で中継を見ていた人に電話で聞いてみたら、特段そういった「好ましくない」状況はなかった、とのことでした。

 そもそもスタート地点の天安門前広場は、一般観客は立ち入り禁止にしていたはずで、スタート時点では、旗や横断幕を掲げるような「事件」や「トラブル」は起こりようがなかったはずです。そういった状況を考えると、中央電視台の中継機器関連で何らかの技術的なトラブルがあったのかもしれません。それにしても、日本への国際映像の送信は問題なく行われていたわけですので、なぜ中央電視台で最初の30分間の中継がなかったのかは、今のところナゾです。明日の新聞に何か情報が載るかもしれません。

○中央電視台の中継では小さくBGMが入っている

 中央電視台の中継では、周囲の観客が応援する声も聞こえているのですが、それに重ねて「雰囲気を盛り上げるような」音楽が音量は小さいですけれども流れていました。このBGMは、NHK-BS1では流れていなかったので、中央電視台の方で入れたのだと思います。BGMを入れた意図は不明です。沿道から「好ましくない声援」が聞こえた時にそれを打ち消すため入れた、などと「勘ぐる」のは「勘ぐり過ぎ」なんでしょうね。

○コマーシャルがちょっと多過ぎ

 女子マラソンは2時間半ちょっとの中継なので、途中でのコマーシャルはなしで中継するのだろうなぁ、と思っていたのですが、中間点をちょっと過ぎたあたりと、30キロを少し過ぎたところでコマーシャルが入りました。また、ゴールまであと数キロというところで、スポンサーのロゴが入った「各国メダル獲得数速報」が入りました。中央電視台は国営テレビなのですから、オリンピックのマラソン中継くらいコマーシャルなしで放送して欲しかったと思います(中国のネットの掲示板でも、この点の不満を感じた人の書き込みがありました)。

○やっぱりマラソン選手は速い

 今回のコースは、天安門前→天壇公園→天安門前→西単→中関村→北京大学キャンパス→清華大学キャンパス→国家スタジアム(鳥の巣)というコースでした。ほとんど知っているところばかりだったのですが、改めてマラソン選手の速さに驚きました。天安門は北京市街地のど真ん中、北京大学・清華大学は北京市街地の北西のはずれで、車で移動する場合でも「相当に遠い」と感じる場所です。平日の夕方だったら、同じコースを車で移動したとすると(もっとも天壇公園の中には車は入れませんが)、2時間半以上掛かる可能性が高いと思います。

○思ったより選手の近くで一般観客が選手を見られた、と感じた

 天安門前広場あたりにいた人たちは、限られた「選ばれた者」であって「一般観客」ではないと思いますが、天壇公園から永定門へ向かうまでの間や中関村あたりでは、明らかに「一般観客」と思える人たちが、私の予想よりは近くまで来て、選手を応援していました。警備担当者が10メートル間隔に1人程度いる、といったことは、私としては「想定の範囲内」でしたので気にはなりませんでした。私は沿道もかなり遠くのところまで警備担当者によって立ち入り制限がなされ、テレビの画面に「一般観客」が映らないくらいなのじゃないか、と思っていました。天安門前広場などは、その予想通りでしたが、中関村あたりでは、白い柵やテープで観客が飛び出さないように仕切られてはいましたが、選手の走るコースの割と近くに「一般観客」が近寄れる場所があったなぁ、というのが私の感想です。テレビの画面にも「一般観客」が随分たくさん映りました。

 天安門前広場周辺にいたのは「選ばれた人たち」(別の言い方をすれば「サクラの観客」)だと思いますが、中関村あたりにいたのは、サクラじゃないと私は思います。

 なお、北京大学と清華大学のキャンパスの中にもたくさんの応援団がいましたが、キャンパスの中にいたのは学生や大学関係者で「一般観客」ではないと思います(たぶん大学のキャンパス内には大学と関係のない「一般客」は入れなかったと思うので)。

○あんまり「北京観光案内」にはならなかった

 北京市内の観光スポットをつなげたようなマラソンのコースを見て「これはテレビ中継は、選手を撮す、というよりは『北京観光案内』になるのじゃないかなぁ。」と思っていましたが、そうはなりませんでした。極めてまじめなマラソンの試合の中継でした。

 ポイント、ポイントで有名な建物などの紹介映像はありましたが、中南海(中国共産党本部)の前などは、ほとんど知らないうちに過ぎてしまった感じですし、北京大学、清華大学に入る時も、大学名の入った門を撮したり、由緒ある建物を撮したり、といった工夫はあまりやっていませんでした。上に書いたように中央電視台では最初の30分間は中継をやっていなかったので、天壇公園の中でどういうアングルで映像を撮っていたのか、私は見られなかったのが残念です(天安門や故宮もそうですが、天壇公園もユネスコの「世界遺産」の一部です)。

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 なお、今日の女子マラソンの試合の際は、大気汚染は心配したほどではなかったと私は思うのですが、国家環境保護部のホームページの「重点都市大気汚染指数」のページには、今日(8月17日)はデータが載っていません。基本的には、毎日午後には、その日の大気汚染指数がこのホームページ上で公開されるのですが、時々、ページにデータが載らなかったり、最新のデータに更新されなかったりすることが起きます。オリンピック期間中は確実に毎日ホームページ上のデータは更新されるだろう、と思っていたのですが、今日はダメでした。普通、何日かすると、過去の分も含めて一括してデータが更新されるので、数日たてば今日の大気汚染指数も見られるようになると思います。私の感覚では、今日の大気汚染指数は40台~50台程度だったのではないかと思います

※私の感覚では、視界は問題なかったのですが、ちょっと自動車の排ガスのようなにおいがあったので、少ないけれども一定の汚染はあったと思います。

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2008年8月16日 (土)

北京オリンピック開会式演出の舞台裏

 8月14日号の「南方周末」(広州で発売されている週刊新聞:北京でも買える)(日本語表記は「南方週末」)に北京オリンピック開会式を担当したいろいろな人に対してインタビューして「裏話」を聞いた特集記事が載っていました。日本の新聞でも紹介されていますが、以下の二人の記事が興味深いと思います。

(参考1)「南方周末」2008年8月14日号記事
「張芸謀監督、二万字に及ぶ話で開幕式の裏話の詳細を語る」
http://www.infzm.com/content/15978

(参考2)「南方周末」2008年8月14日号記事
「陳丹青氏:大きいことは美しいことだ」
http://www.infzm.com/content/15927

 張芸謀監督は、開会式全てを全体的に演出した映画監督です。陳丹青氏は、開会式の前半のアトラクションの「絵巻物」の部分を担当した方です。

 張芸謀監督は「指導者が見に来た時に指導者は何か意見を言ったか。その意見に対してどう対応したか。」と尋ねる南方周末の記者の質問に対してポイントとして以下のように答えています。

・いろんな人がいろんな意見を言いましたよ。いろいろ意見交換しましたけど、今、私とあなたがああでもないこうでもない、と意見を交わしたとしても、それで私があなたに「圧力を掛けた」とは言わないでしょう?

・三人の指導者が来て意見を言って、その意見について私が「その通りだ」と思わなかったとしても、この三人は観衆の中の三人でもあるわけですからね。この三人が「よくない」と言ったら、それは政治的な問題じゃなくて、三人の観衆が「よくない」と感じたってことですからね。彼らが最初に批評した観衆なんですよ。いろんな指導者が何十回となく見に来ましたけど、だいたい三人以上の指導者が変えた方がいい、と言ったら私は変えましたよ。

・指導者たちは国家の状況を知っているし、今の新しい指導者たちは、みんな大学で修士、博士の学歴があり、様々な経歴を持っている人たちですから、あまり時間がない中で、そんなに無茶なことは言いませんよ。

 「敏感な話」「微妙な話」については、こういう持って回った言い方をする人が多いので、私の中国語読解能力では、間違った捉え方をしている可能性がありますが、大体、上記のようなことを言っている、と私は理解しました。

 張芸謀監督は「今の新しい指導者は、みんな大学で修士、博士の学歴があり・・・」と言っていますので、「意見を言った指導者」が中国共産党政治局常務委員9人のうちの何人かであることは、中国の人ならこれを読んだ人はすぐにわかります。日本の新聞等では「政治が演出に介入した」というような報じられ方をしていますが、オリンピックは国家的事業なので、張芸謀監督としては、「スポンサーのお偉いさんが来て意見を言った」というような感覚で受け取ったのではないかと思います。張芸謀監督は北京オリンピック委員会から依頼されて監督を引き受けたわけですから、プロの監督としては、スポンサーの言うことは無視できないことはよくわかっている、ということなんでしょう。

 一方、絵巻物を担当した陳丹青氏の方は、結果的に自分が考えたアイデアがあまり採用されなかったようで、かなり不満げにインタビューに答えています。「指導者が来て言った意見は多かったのか?」という南方周末の記者の問いに対する陳丹青の答のポイントは以下のとおりです。

・中南海(中国共産党本部のある場所)の人が二回来た。最初は去年の初春で、二回目は今年7月16日のドレス・リハーサル(本番と同じ衣裳を着て行う最終的な段階のリハーサル)の時だった。たくさん意見を言って、改めなくちゃいけない、と言っていた。

・(「あなたは芸術監督であり、使用する絵画を選択する責任者として、あなたの意見は最終的に採用されましたか?」との問いに対し)あれ? 私が芸術監督だって? それは全く違う。私には決定権はなかった。私が選んだ絵画の9割は採用されなかった。二人の副監督の提案も7~8割は採用されなかったようだ。張芸謀監督がいくつボツにしたのかは知らないが、彼が自分で決めていた。

 陳丹青氏は、国家指導者の意見で自分が選んだ絵の多くが採用されなかった、とは言っていませんが、結果的に自分の意見が通らなかった部分が多かったようで、このインタビューからはかなり陳丹青氏の不満気な感情が読みとれます。

 オリンピックの開会式は、北京オリンピック委員会が依頼して製作するイベントであり、自主制作映画ではないので、制作者は依頼主の意向を反映しなければならない、制作者と依頼主の意向が異なっていた場合、制作者には不満が残る、ということはあり得る話なのだと思います。問題は、張芸謀監督や陳丹青氏に意見を言った「指導者」というのが、依頼者と言えるのか、というところがひとつのポイントだと思います。しかし、中国は、憲法で「中国共産党の指導」が謳われていますから、北京オリンピック委員会も中国共産党の指導下にあるわけですので、中国の場合、中国共産党の指導者の要請は、即ち依頼主たる北京オリンピック委員会の要請、と言ってもいいのでしょう。

 前にも言ったことがありますが、「南方周末」は中国の新聞の中では異色の鋭いツッコミを見せる新聞です(だからこそ、広州で発行されているのに北京でも売れるのです)。「南方周末」の記者は陳丹青氏に対して「『絵巻物』の(中国の古代の歴史を表現した)前半部分は素晴らしかったと思うが、後半部分は春節(旧正月)前日のテレビのバラエティー・ショー(日本でいうと「紅白歌合戦」に相当する)みたいだった、という人もいるがどう思うか。」と鋭い質問を放っています。それに対して、陳丹青氏は次のように答えています。

 「じゃ。後半は何を表現すればよかったわけ? 革命? チベット鉄道建設の難しさを表現する? 三峡ダムプロジェクト? 人工衛星打ち上げ? 改革開放? ここ百年来の中国の歴史って、みんな西洋から入って来たものじゃないか。開会式イベントは歴史の授業じゃないんだ。」

 かなり感情的な答になっていますが、自分が表現したいものが表現できなかったいらだたしさのようなものを感じました。

 これらのインタビューはかなり長いので、私も全てを熟読したわけではありませんが、北京オリンピックの開会式が歴史的なものだとしたら、その「裏話」もまた歴史的なものだと思います。そして、ここで紹介した二人の表現者は、このインタビューにおいても、今の時点で自分たちが言える範囲の方法で、自分の言いたいことを可能な限り表現しています。今、中国はいろいろ問題を抱えて、それをどう扱おうか、と多くの人が悩んでいます。私は20年前と全然進歩していないところもある、とこのブログで何回も書いてきました。こういった大きなイベントのアトラクションに対して「中南海」の人が来ていろいろ「指導」する、というのも、「全然進歩していない部分」のひとつだと思います。

 しかし、明らかに20年前と違うのは、上で紹介した才能あるエネルギッシュな表現者が、現在自分に許されている範囲で思い切り表現し、ある時は怒りをぶつけ、それを受け止める「南方周末」のようなメディアが存在し、例えそれが広州で発行された新聞であろうとも、1部3元(約45円)という中国の新聞としてはかなりな高額だったとしても、そういった新聞を北京の市民が気軽に買える、ということです。これは20年前にはなかったことです。

 北京オリンピックについては「中国で開くのはまだ早かった」という人がいますが、私はそうは思いません。北京オリンピックを開催することを通じて、中国の多くの人が多くのことに思いを寄せ、いろいろなことを感じ、それが中国の歴史を前に進めるための大きなきっかけになることは間違いないからです。

 今回の「南方周末」に載った「北京オリンピック開会式の裏話」に関するインタビュー記事は、こういった記事が載った新聞が北京の街で売られていた、それを私は買って読んだ、という記録を残しておく価値がある、と思ったので、このブログに書くことにしました。先ほど、野球の星野ジャパンが韓国に逆転負けし、陸上男子100mでジャマイカのボルトが9秒69で他の選手を全く寄せ付けず喜びを表現しながらゴールしたのをテレビで横目で見ながら、今日の記事は書きました。この北京オリンピックの日々は、後から振り返ると、いろいろなことが凝縮された日々だったと思い起こすことになるだろうと思っています。

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2008年8月15日 (金)

夏休みの時期の不動産屋さんの必死の営業

 今日(8月15日)の北京は抜けるような青空でした。昨日の雷雨で大気汚染がすっかり洗い流された上に、今日は湿度が低かったので、遠くの方までスッキリと見えました。空も青々としており、「北京でもこういう青い空が見られるんだ!」と感激しました。太陽も夕方になってかなり傾いているのにギラギラとまぶしく、真っ直ぐな強い光を放っています。「太陽ってこんなにまぶしいんだ!」という感覚は日本に帰るたんびに感じるのですが、それを今日は北京で感じることができました。今日の北京の大気汚染指数は17、即ち最もよいランクの「優」でした。多くの中国の人が「オリンピックの開会式があと1週間遅かったら、世界中の人々に北京の大気汚染についてどうのこうのと言われることはなかったのに」と思っているでしょう。あさって日曜日の朝は女子マラソンがありますが、この調子ならば、女子マラソンの時に大気汚染について心配する必要はなさそうです。

 昨日の大雨で、ボート競技やテニス、野球の試合の一部などが順延になりましたが、北京市街地の道路の水没等の影響はなかったようです。

 さて、日本でも報道されていますが、中国国内の観光地のホテルや国内航空賃、それに北京市内のホテルや短期貸し付け住宅などが、予想よりお客が大幅に少なくなっているようです。

 先週から今週に掛けて、日本企業の駐在員等を相手にしている複数の北京の不動産屋さんから営業の電話がありました。お話がしたい、として営業の方がわざわざ来て、物件リストなどを置いて行ったところもあります。普通、日本企業の多くは8月中旬はお盆の時期で休んでいる人もいるし、人事異動の季節でもないので、通常の年なら8月中旬は日本人駐在員の住居などを世話する不動産屋さんはあまり活発に商売をする時期ではありません。

 去年の後半から今年の前半に掛けて、多くのアパートメントで「8月のオリンピック期間を含む期間の賃貸契約を結びたいなら、価格はこれだけ上げさせてもらう」という大家さん側の強気の賃貸料値上げ要求があった、と聞きました。引っ越しをしたくなくて高めに設定された賃貸料を飲んだ人もいますし、「そんなの理不尽だ」と反発して別のアパートメントに引っ越しした人もいます。大家さんの方では、大幅賃貸料引き上げを要求して、店子が出て行った場合には、その部屋をオリンピック期間中の観光客目当てに短期貸しをしようともくろんでいたものと思われます。しかし、実際は、マンションの短期貸し出しはおろか、普通のホテルさえガラガラの状況で、賃貸料値上げ要求をした大家さんは、空き室を抱えて困っているのだろうと思います。そこで、多くの不動産屋さんが、多くの人がオリンピックに夢中になっている普通なら夏休みの真っ最中のこの時期に、必死の営業活動をやっているのだと思います。

 中国国内での観光客が意外に少なかったり、北京でのホテルの予約が埋まらなかったり、短期借り上げマンションにお客が付かなかったりする理由はいろいろあるでしょうが、考えられるのは以下の点です。

・原油価格の高騰により、国際航空運賃にかなりの額のサーチャージが掛かるようになったために、外国から来るオリンピック観戦客が予想外に少なかったこと(中国国内から北京に来る客に関しては中国の国内航空賃は暴落していますから、この理由は当たらないと思います)。

・四川大地震により中国全体に「観光をする雰囲気ではない」という心理が働き、中国各地から北京にオリンピック観戦をしに来る人が少なくなったこと。

・チベット騒乱、新疆ウィグル自治区でのテロの動きなどにより、外国人に対するビザの審査が厳しくなり、外国人観戦客が予想外に少なくなったこと。

(注)日本人は2週間以内ならばビザなしで中国に入れますが、現在、中国へのビザなし短期渡航が認められているのは、日本とブルネイだけです。従来、シンガポールからは短期滞在はビザなしでもよかったのですが、この7月からビザが必要になりました。中国の当局がビザの発給をどのくらい抑制しているのかわかりませんが、安全確保や中国国内でのデモなどを防ぐため、いつもより厳しくビザの発給がチェックされている可能性があります。ただし、ビザなしで入国できる日本人の観戦客も予想よりだいぶ少ないので、これはメインの理由ではないかもしれません。

・チベット騒乱、四川大地震、新疆ウィグル自治区でのテロ等で、中国国内の有数の観光地に行きづらくなり、オリンピック観戦をからめた観光旅行ツアーが組みにくくなったこと。

・北京のホテル代や短期貸し出しマンションの価格がべらぼうに高く設定されていたため、それを伝え聞いて、北京に来るのをあきらめた外国人や中国国内の人が多かったこと。

・オリンピック委員会関係者やスポンサーがチケットのかなりの部分を押さえてしまったため、一般に売り出されるチケットの枚数が少なくなり、チケットを入手できなくて北京での観戦をあきらめた人が多かったこと(オリンピックが始まってから今まで、多くの会場で空席が目立っていることを見ると、この理由はかなり大きいのではないかと思います)。

・世界的な不況で中国旅行をする余裕のある外国人が少なくなったこと。また、中国国内でも株や不動産の価格の低迷、輸出産業の不振などで経済的に余裕のある人も財布のヒモを締めてしまい、多くの人が北京での観戦はあきらめてテレビ観戦に回ったこと。

 四川大地震や原油の高騰がオリンピック直前に起きたことは中国にとって極めて不運だったと言えます。世界的な不況やそれを受けて中国国内経済にもブレーキが掛かりつつある現状も、タイミングとしては中国にとって「不運」と言えるかもしれません(ただし、オリンピック後、中国経済の中のバブル的な部分ははじけるだろうことは多くの人が予測していましたから、この程度の中国国内の経済の減速は「想定の範囲内」と言えるのかもしれません)。

 チベット騒乱や新疆ウィグル自治区でのテロは、むしろオリンピックの機会を捉えて世界の世論を喚起しようという考えに基づいて意図的に起こされたものなので、「不運」という言葉で表現するのは不適切ですし、この問題は根が深い問題で、何か措置を講ずれば事前に防げたはず、といった性質のものではないと思います。

 北京のホテルや短期貸し出しマンションの価格設定を高くし過ぎたこと、チケットを関係者やスポンサーが多く押さえ過ぎたこと、の二つは、私はちょっと「やり過ぎ」だったのだと思います。特にチケットについては、日本などでは「あんなに空席があるのだったら、観戦に行きたかった」と思った人が多いと思います。

 中国政府は、北京オリンピックを安全かつ円滑に運営し、その中で中国の選手が活躍してくれることを最大限の目標にしていますので、中国政府にとっては、オリンピックを機会に「ひと儲けしよう」と思っていた人たちの当てが外れたとしても、「そんなこと知ったこっちゃない」ということなのでしょう。

 オリンピックの時期に楽しく観戦できずに必死に営業活動をしている不動産屋さんは、ちょっと気の毒だとは思いますが、私に言わせれば、オリンピック時期のホテル価格や短期貸し出しマンションの価格の設定の仕方があまりに非常識だったので、ある程度「自業自得」の部分があると思います。オリンピック終了後、こういったホテル業界や観光業界、不動産業界の「当てがはずれた」部分をきっかけとして、中国経済全体が急激に縮小することにならないよう願っています。中国政府には、オリンピックの成功ももちろん重要なことですが、オリンピック後の中国経済がおかしくならないよう、経済運営の方もうまくコントロールして欲しいと思います。

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2008年8月14日 (木)

地下鉄運転時間延長と飛行機便遅延時の措置

 今日(8月14日)の北京は、午後から激しい雷雲が通過してかなりまとまった量の雨が降りました。あまり雨の激しいと北京市の道路の環状線の中には、立体交差のところで下をくぐる方の道路の排水が追い付かず、道路が冠水してしまうことがあるのですが、今日は大丈夫だったのでしょうか(仮に冠水していたとしても、こういう情報はラジオの交通情報専門局では報道するけれども、普通のテレビでは伝えないので、明日の朝、新聞を見るまで知らなかった、ということが結構あります)。ただ、雨が降ったので、2~3日は空気の汚染について心配する必要はなさそうです(マラソンは17日(日)なので、それまでに大気汚染が戻ってきてしまう可能性はありますが)。

 今日の新聞でちょっと興味深かったニュースは次の二つです。

(1)地下鉄の終電の時間を遅らせることを決定

(参考1)「新京報」2008年8月14日付け記事
「北京地下鉄、最終電車の運転時間を延長」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/08-14/008@025636.htm

 皆さんお気づきのように、北京オリンピックの試合の時間は、ヨーロッパやアメリカのテレビ局からの要請により、北京の日常生活の時間帯からすると、かなり変則的な時間帯に設定されています。午前中に試合があり、午後しばらくお休みがあって、北京時間の午後6時頃から順次試合をやって、球技などでは午後9時以降に開始するものがあります。一昨日のバレーボールの試合では、試合が終わったのは夜中の12時を過ぎていました。試合の終了時刻が遅いと、観客の帰りの足が心配です。そのため、北京市当局では、地下鉄の運転時間を延長し、路線によっては終電を通常より1時間以上遅くする措置を8月10日から始めたのだそうです。

 で、面白いのは、既に8月10日から実際は行われていた運転延長措置について新聞に載ったのが今日(8月14日)だ、ということです。8月10日以降、正式な発表はしなかったけれども、実行ベースで終電の遅延措置を講じていた、ということです。さらに競技が始まった8月9日からではなく8月10日から、というのも「面白い」ところです。たぶん8月9日の夜、試合が終わったのが遅くなって終電に間に合わなくなった人たちから苦情が出たので8月10日から終電を遅らせたのだと思います。

 この辺は、非常に中国的な特徴が出ていると思います。試合開始時間が遅いことは最初からわかっていたわけですから、本来ならば、オリンピック開始前に「オリンピック期間中は終電を遅くします」と決めて発表しておくべきだったのでしょう。苦情が出てから変える、というのは、良く言えば「柔軟性がある」、悪く言えば「計画性がなく泥縄式だ」ということになります。終電を遅らせることを決めても、そのことを新聞に発表しない、というのも、また中国らしいところです。規則上は終電は23:30なのだけれども、実際は地下鉄はそれより遅くまで走っていた、という状況が3日ほど続いていたわけです。「規則ではAにしなければならないのだけれども、現実にはBで行われている。だから現場に実際に行ってみないと、AなのかBなのかわからない。」ということは中国ではよくあることです。

(2)中国民航局による航空便遅延時の乗客支援に関する通知

(参考2)「新京報」2008年8月14日付け記事
「飛行機便が遅延した時には食事やホテルは無料で提供される」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/08-14/008@025638.htm

 通常、機体の故障など航空会社に責任がある理由で飛行機便が遅れたときは、乗客への便宜供与の責任は航空会社にありますが、天候等の航空会社の責任ではない理由で飛行機便が遅れたときは、航空会社は乗客の乗り換え便の手配や食事・宿泊先の手配等を行う義務はありません。ところが中国民航局は、13日、「オリンピック及びパラリンピック期間中は、飛行機の運航が遅れた時は、その理由に係わらず(遅延の理由が航空会社に責任がない天候上の理由であったとしても)、航空会社は乗客に対して、ほかの便への乗り換え、食事や宿泊先の提供等のサービスを無料で行わなければならない。」との通知を出した、とのことです。

 上記の「新京報」の記事によれば、中国民航局のこれまでの規定では「中国民用航空、手荷物国内運輸規則」の規定に基づき、天気等の不可抗力が原因の場合は、航空会社は乗客の食事や宿泊の手配を援助することとするが、その費用は乗客が自ら負担することとする、と規定されていたことから、今回の中国民航局の通知は、これまでの規定と明らかに異なるものなのだそうです。これは、オリンピック期間中、天候等による飛行機便の遅れにより、多くの乗客が空港に足止めになる事態を避けるためだ、とのことです。

 夏は雷雨などの影響で飛行機便が遅れることは結構あるのですが、そうしたとき、空港に大勢の人が足止めされて、空港で一夜を明かす、というような事態が生じた場合、テロ対策など乗客の安全確保の観点から好ましくないので、航空会社の責任で空港に多くの人が滞留するようなことがないようにせよ、という指示なのだと思います。これもまたオリンピックが始まってから出された指示で、いかにも「泥縄的」ですが、おそらくこれは最近発生している新疆ウィグル自治区でのテロと見られる事件などを受けて、テロなどの不測の事態を防止するために急きょ決められた決定なのだと思います。

 それにしても、中国民航局が自ら作った規定を変更するような通知を出し、それを曲がりなりにも「民間会社」である航空会社に守らせる、というような事態は通常の資本主義の国ではあり得ない話です。中国の航空会社は、株の多くはまだ国有だと思いますが、形式上は国とは独立した企業体であり、一部の株は公開されていますから、航空会社の収益は一般株主の利益にも直結します。そういった企業体の権利・義務に直接影響を及ぼす通知を、全人代(国会に相当)のような機関の決定を経ずに、中国民航局という政府機関の「鶴の一声」で決めてしまう、というところが、かなり「市場経済化」されたとは言え、中国の企業は政府の方針でどうにでもなることを示すようなできごとでした。

 上記の地下鉄の終電時刻を遅らせることや飛行機便が遅れたときの航空会社の責任を拡大させることなど、オリンピックが始まってから、やり方や規則を変える、というのは、オリンピックという今まで経験したことのないイベントに対して柔軟性を持って対応している、とプラスに見ることもできるでしょうし、予想していなかった事態に直面して右往左往して対応している、とマイナスに見ることもできるでしょう。日本の人の多くは、事前に予測すべきことは事前に予測して、きちんと対策を取って置かないとダメだ、と考えますが、中国の人の多くは、事態はどうなるか全てを事前に予測することは無理なのだから、実際やってみて、不都合があったらその都度やり方を変えればよいのだ、と柔軟な考え方をします。従って、中国の多くの人は、今回ようなオリンピックが始まってからの規則の変更は、別におかしな話だとは思っていないと思います。むしろ困った事態が生じたのに何も変更しないのだったら、その方がおかしい、と考えると思います。

 こういう融通無碍(ゆうづうむげ)で、その場その場で状況に応じて対応することに慣れている中国の人の方が、全てを事前にきちっと準備しておかないと気が済まない日本人よりも、事態対応能力は高いと思います。今回のオリンピックを見ていてつくづく思うのは、いつもとちょっと違う状況が突然出てきた時に、それでも平然としていつもと同じように試合ができる人の方がよい成績を残しているということです。ちょっと違う状況に遭遇して、それにどう対応しようか、とあわてている人は、力を発揮する前に敗れてしまっているように思います。

 規則が決まっているのに、現実の事態に応じて柔軟にその規則も変えて運用してしまう、ということが多い中国では、規則を踏まえてきちんと準備している日本人などは「えっどうして? そんなはずはないのに!」と頭を抱える場面が多いのですが、そういう場面でも平然と「よくあること」と受け流している中国人の方が結局は力を十分に発揮できるのだと思います。今回の地下鉄の終電変更と飛行機便遅れに対する対応では、そういった「いいかげんさ」と「柔軟性」が同居する中国の強さ(したたかさ)を見たような気がしました。

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2008年8月13日 (水)

足跡花火の合成映像と微笑み美少女の口パク

 私も中国に通算3年以上いるので、たいていのことには「ホントかなぁ。これにはウラがあるんじゃないかなぁ」と疑うクセが付いているのいるのですが、8日に行われた北京オリンピック開会式の下記の二つの件については、全く疑っておらず「コロッとだまされ」ました。

 日本でも報道されているので、御存じと思いますが、8月12日、開会式の「裏話」として、次の2つ事情が明らかにされました。この二つとも開会式の様子を書き留めておいた私のブログの記事にも登場するので、下記の私のブログの記事も適宜参照しながら、以下をお読みください。

(参考1)このブログの2008年8月9日付け記事
「北京のテレビで見たオリンピック開会式」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/08/post_c1a7.html

(1)開会式の開始を告げる花火として、南の永定門、前門、天安門、故宮から北京市の北にあるオリンピック・スタジアムへ向けて移動するように打ち上げられた「足跡形の花火」のテレビ中継の映像では、事前に撮影した花火を現場の生中継の映像に重ね合わせた合成映像が使われた

 開会式の開始の時、実際に永定門、前門、天安門、故宮内などから足跡形の花火が打ち上げられたのは事実だそうですが、この花火をヘリコプターで空撮する場合、北京市街地上空を飛ぶヘリコプターの安全確保を図らなければならないので、理想的な撮影角度を確保することが難しく、一部の「足跡花火」については、事前に撮影してあった足形花火の映像をヘリコプターから撮った生の北京の街の夜景の上に合成して映像を流した、とのことです。

 これは北京オリンピック委員会スポークスマンの王偉氏が12日に記者会見説明したものです。王偉氏は「よい演出効果を確保するため」とその理由を説明したとのことです。

(参考2)「新京報」2008年8月13日付け記事
「多くのオリンピック会場では入客率が7割以上に達している」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/08-13/008@023732.htm

(注)この記事の見出しに関する説明:
 上記の「新京報」の記事では、この日の記者会見で北京オリンピック委員会は、8月11日(月)の北京の18か所の試合会場の入場者率は、90%以上が2か所、80%以上が6か所、70%以上が8か所、残りの2か所も60%以上である、という数字を紹介しています。おそらくは、チケットは完売したと伝えられているのに対し、テレビ画面などを見ると結構空席が目立つことから、この点に対して記者が質問したのに対して北京オリンピック委員会が答えたものと思われます。試合会場に空席が見られることについては、オリンピック関係機関(スポンサーなど)が購入したチケットについて、予選などではお客が実際には来なかった可能性があることや、一部の球技では2試合セットの入場券になっているので、自分が興味のある試合だけを見た客がいたためではないか、と北京オリンピック委員会では説明しています。

(2)国旗入場の時に革命歌「歌唱祖国」を歌っていたかわいらしい女の子は実は口パクだった

 開会式の時、中国の国旗(五星紅旗)がスタジアムに入場し掲揚ポールのところまで移動する間に歌われていた革命歌「歌唱祖国」を歌っていたのはかわいらしい女の子でした。この「歌唱祖国」という歌は行進曲ふうの勇ましい曲で「我らの指導者・毛沢東は、我らの行く先を導く・・・」といった歌詞も含まれている革命を讃える歌です。中華人民共和国の国旗の入場の場面で使う歌としては最もマッチした曲だと私も思いますが、普通の調子で演奏すると、軍隊の行進みたいな感じになり、かなり堅苦しい感じになってしまいます。そこでかわいらしい女の子にこの歌を歌わせて、五星紅旗は少数民族の衣装を着たこどもたちによって運ばれました。こういった柔らかい演出は、私は演出家の大金星だと思っていました。

(参考3)「新京報」2008年8月9日付け記事
「非常に中国的な歌」
http://www.thebeijingnews.com/news/xatk/2008/08-09/008@101800.htm

 この場面には、多くの人々が感激したようで、中国国内のネット上でもこの女の子は大人気になりました。「歌唱祖国」を歌っていたのは、林妙可ちゃんという9歳の北京の小学三年生でした。彼女は歌っている間中微笑みを絶やさなかったことから「微笑み天使」と呼ばれるようになりました。ネット上では、林妙可ちゃんのファンクラブが立ち上がり、林妙可ちゃんのファンは「妙族」(少数民族の「苗(ミャオ)族」と発音が同じことから来た一種のシャレ)と呼ばれるようになりました。海外でも評判で、8月9日付けのニューヨーク・タイムズの1面トップには林妙可ちゃんの写真が載ったとのことです。中国の最も権威ある英字紙チャイナ・ディリーや「人民日報」ホームページ上の記事も、一夜にして「国民的人気者」になったこの林妙可ちゃんについて報じています。

(参考4)「チャイナ・ディリー」2008年8月12日付け記事
「かわいい歌手が国中の心を射止める」
http://www.chinadaily.com.cn/cndy/2008-08/12/content_6926550.htm

(参考5)「人民日報」ホームページ写真ジャーナルのページ
2008年8月12日18:27アップ記事(「武漢晩報」の記事を紹介する形の記事)
「新しい『秘密の少女』、ニューヨークタイムズの1面トップに登場」
http://pic.people.com.cn/GB/1099/7655010.html

 ところが、日本のネット上のニュース等の報道に見たところ、8月12日にアップされた「中国新聞網」が伝えたところによれば、開会式で「歌唱祖国」を歌っていたのは、林妙可ちゃんではなく、全く別の楊沛宜ちゃんという7歳(小学校1年生)の女の子だったとのことです。会場に流れていたのは舞台裏で歌っていた楊沛宜ちゃんの声で、スポットライトを浴びていた林妙可ちゃんは、歌に合わせて口をパクパクさせていた、とのことです。これは開会式の音楽監督をやった陳其鋼氏が明らかにしたとのことです。陳其鋼氏によると、この入れ替えは「楊沛宜ちゃんは外見上の原因で落選したので、国家利益のために行った」とのことです。

 このニュースは「中国新聞網」(中国のネットニュースでも正当派のニュースサイトのひとつです)に掲載されたことから、瞬く間に全世界のメディアで報じられました。ところが、8月13日の中国の新聞では、この「口パク」の件について全く報じていません。また、そもそもの情報の発信源を直接見ようと思って「中国新聞網」のサイトにアクセスしてみましたが、「中国新聞網」のサイト上にある8月12日付け記事のリストには、本件ニュースは載っていません。検索サイトで、このニュースを検索するとヒットしますが、検索結果をクリックしても真っ白の画面が出るだけで何も出ません。外国のメディアが本件を報じて以降、「中国新聞網」上にあったもともとの記事は削除されてしまった模様です。

 ところが、私が見た時点では、検索サイトの「キャッシュ」(検索サイトが各ページの情報を得た時に一時的にその内容を記憶しておくエリア)には、まだこの「中国新聞網」の記事は残っていたので、私はその記事を読むことができました(この記事がアップされたのは2008年8月12日10:05です)。

 この「中国新聞網」の記事には、楊沛宜ちゃんと林妙可ちゃんの両方の写真が掲載されています。BBC中国語サイトがこの写真も含めて「中国新聞網」サイトの記事を紹介していますので、写真を御覧になりたい方はBBC中国語サイトを御覧ください。

(参考6)BBC中国語サイト2008年8月12日北京時間23:28記事
「オリンピック開幕式で偽装、女の子のスターは口パクだった」
http://news.bbc.co.uk/chinese/simp/hi/newsid_7550000/newsid_7556900/7556933.stm

※BBCサイトのニュースは一定の時間が経つと自動的に削除される可能性があります。

 写真を見ればすぐわかりますが、楊沛宜ちゃんは、ごくごく普通の女の子で「外見の点で落選したので」と言われるのはかわいそうだと思います。

 林妙可ちゃんの「口パク」については、テレビを生で見ていた人の中にも「あ、これは口パクだ」と気が付いた人がいたようです。ただ、気が付いた人でも「これだけの大舞台で小さな女の子が緊張して歌えなくなると困るから、前もって録音しておいたものを流して、それに合わせて口を合わせたのだろう。そういうやり方はあり得る話だ。」と考えていたようです。しかし、歌っていたのは実は別人だった、ということを聞くと、普通の人はみんなびっくりします。2006年のトリノ冬季オリンピックの開会式でも、著名なテノール歌手・パパロッティさんが自分の声を事前に録音しておいて、本番の開会式では「口パク」をやっていたことが後で明らかになったのだそうですが、これは本人の声を自分の意志で使ったものであり、こういった手法は多くのイベントで時々行われる演出だと思います。しかし、全然別人の歌に合わせて「口パク」をやるのは、演出ではなく「だまし」だと受け止めれてもしかたがないと思います。

 この件については、中国のネット上でも、相当に議論が沸騰しているようです。先頃、6月20日に胡錦濤主席本人が登場して中国のネットワーカーを驚かせた最も有名な掲示板のひとつ「人民日報」ホームページ上にある「強国論壇」でも、この件に関する意見が載っています(ただし、話題になっている割には掲載されている発言の数が少なすぎるので、かなりの数の発言が削除されている可能性があります)。

 削除されずに残っている発言にも、かなり強烈なものがあります。一番多いのは「この演出は、片方の女の子に『歌はうまくない』と言い、もう片方の女の子に『外見があまりよくない』と言っているのに等しく、二人の女の子に対する侮辱だ」として、この演出を非難し、二人の女の子の気持ちを思いやる意見です。このほかにも「ありえない。もし本当に『口パク』をやっていたのならば、全世界の観衆をだましたことになるんじゃない?」「『国家の見せかけ上の姿』をごまかして作ったとしても、そんな国家はすぐに終わってしまう!」「口パクをやらせるのが国家利益のためですって? 話にならない。こんなのはニセ『国家利益』で、実際は全く逆効果だ!」といった意見が出ています。

※ネット上の掲示板の発言は、日本で言えば「2チャンネルに載っているような見るに耐えないものも多いので、いつもは私はあまり掲示板の発言は紹介したくないと思っているのですが、今回は、中国の名誉のために、あえて、このように極めて常識的な発言も数多く掲載されているのだ、ということを紹介させていただきました。

 ところで、この「林妙可ちゃんは口パクだった」というニュースに関して、現在、下記のように非常に奇妙なことが起こっています。

○「口パクだった」との情報の発信源である「中国新聞網」の記事が削除されてネット上から消えている。

○本件は多くの人が関心を持つ事項であると思われるのに8月13日付けの「新京報」や「京華時報」といった大衆紙が「口パクだった」件について一切報じていない(というか、中国のメディアで「口パク」を報じている新聞を私はまだ見つけられていない)。

○にもかかわらず人民日報ホームページ上の掲示板「強国論壇」には、「中国新聞網」の記事が転載され、それに対する意見の書き込みが今も行われ、削除されずに今でも残っている(当局の指示によって「中国新聞網」のニュースが削除されているのだとしたら、人民日報ホームページの「強国論壇」のような目立つ掲示板にそのニュースを転載する記事が削除されずに残っているのはおかしい)。

 (1)の「テレビで放映された『足跡花火』の一部は合成画面だった」という話は、最初は「だまされた」と思いましたが、「テレビによるショーの見せ方のひとつだ」と言われれば「そうかなぁ」と思えて、それなりに納得できるものでした。でも、(2)の「微笑み美少女は『口パク』だった」という話は私にとってはちょっとショックで、これは「演出」の枠を超えている、と私は感じました。前者については中国のメディアでもきちんと報道されているのに対し、後者については報じられていない(しかし掲示板上からは抹殺はされていない)のは、後者に対しては、中国国内でもいろいろな人がいろいろな印象を受け、結構ショックが大きく、情報管理当局の側でも対応方針が統一されていないからではないか、と思います。

 これらは開会式の単なる「演出」の話であって、世の中の大勢に影響のあるような話でなく、議論する値打ちはない、という考え方もありますが、国際社会に与える中国という国のイメージという点では、私は結構重要な話だと思っています。従って、後者の「口パク」の方が中国の(ネットの掲示板などではない)正式のメディアで報道されていないことにより、この件に関してきちんとした議論が行われないのだとしたら非常に残念なことだと思います。また、元のニュース源がネット上から消され、新聞などでは報じられていない、ということは、「ウラに何かさらに深い理由があるのではないか」といったいつもの「勘ぐりクセ」が出てきてしまいます。

(以下、2008年8月13日23:50追記)

 上記に「中国のメディアで『口パク』を報じている新聞を私はまだ見つけられていない」と書きましたが、広州で発行されている「信息時報」という大衆紙の8月13日付けの紙面に、この件について、独自に取材して書いた記事が掲載されているのを見付けました。この記事には、林妙可ちゃんと楊沛宜ちゃんの二人の写真も掲載されています。

(参考7)「信息時報」2008年8月13日付けオリンピック特集ページT17面記事
「一人が幕の前で顔を出し、一人が幕の後ろで声で貢献した」
http://informationtimes.dayoo.com/html/2008-08/13/content_287977.htm

 このように中国国内でもちゃんと報道されているのだとすると、「中国新聞網」の記事が削除され、北京の新聞が何も書かないのはなぜなのか、ますます理由がわからなくなってしまいました。

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メダル・ラッシュ報道の裏の不気味な地鳴り

 オリンピックが始まってから、電子メールなどで中国国内旅行の宣伝がよく入るようになりました。「航空賃が安くなりましたので、著名観光地宿泊パックでたった○○○○元!」とか、「観光地近くの豪華ホテル、1泊△△△元で提供しております。御利用ください。」といった調子です。実際ネット上の航空会社の中国激安国内運賃の欄には16%、17%の激安チケットなどが載っています(16%引き、17%引きではない)。

 私は6月23日付けのこのブログで6月時点での中国国内航空賃が暴落していることに関連して「7月になってオリンピックが近くなると人の移動が多くなって国内航空賃も高くなると思うので、今の状況は一時的な現象だと思いますが・・・」と書きました。

(参考1)このブログの2008年6月23日付け記事
「中国国内航空:便によっては激安?」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/06/post_2490.html

 しかし、この中国国内航空賃激安状態は、オリンピックが始まった今も変わっていないようです。というかオリンピック景気の当てが外れた分、さらに国内航空賃は安くなっているのかもしれません。チベット自治区、四川省、新疆ウィグル自治区といった日本の外務省が「渡航の是非検討」以上の渡航情報(危険情報)を出している場所(2008年8月12日現在)は観光客が減ってもやむを得ないかなぁ、と思いますが、上記の「豪華ホテルをお安く提供しております」というのは、上記の渡航情報(危険情報)が出ていない(通常の状態の)場所にあります。中国全土に渡って、旅行者数が減っているのだと思います。

 8月12日夕方に配信された新華社電(英語版)によると、新疆ウィグル自治区の先日武装警察国境警備支部隊が襲撃されて16名が死亡(16名が負傷)したカシュガルの近くで、また、検問に当たっていた警備員3名が何者かに刺殺される事件(1名が負傷)が起きた、とのことです。

(参考2)「新華社」ホームページ英語版2008年8月12日16:32アップ
「新疆ウィグル自治区の道路の検問所で治安要員3人が襲撃されて殺された」
http://news.xinhuanet.com/english/2008-08/12/content_9214741.htm

 上記の新華社の英語の記事は見ることができますが、私は今(8月13日0時過ぎ)の時点では、新華社の中国語のホームページでこのニュースを見つけることができません。中国語の掲示板に「英語版新華社電によれば・・・」という書き出しでこの記事の内容を紹介する書き込みは見付けることができたので、たぶんまだ中国語ではこのニュースは配信していないのだろうと思います。一方、7月末から見ることができるようになったBBCのホームページ中国語版では、上記の新華社電英語版を元にした中国語の記事を見ることができます。たぶん、新華社が既に外国へ向けて配信しているので、中国の明日の朝発売の新聞には、この記事は載るでしょう。

 しかし、国営新華社通信が英語で配信し、外国のテレビ局が既に中国語で伝えているニュースを新華社自身が中国語で自国民に伝えていないこの状況を中国の人々はどう感じているのでしょうか。

 こういった報道のされ方も、対外的に「情報を隠したと言われたくない」という配慮と、自国民に対してはあまり刺激したくない、という複雑で困惑した当局の考え方を表していると思います。それにしても、これだけ立て続けて事件が起こるとさすがにちょっと不安になります。新疆ウィグル自治区は、警備上の重点区域であるはずですが、北京オリンピックの警備のために北京の警備も厳重にしなければならないために、警備の面でも人海戦術を採ることができる中国でも警備の人手が足りなくなっているのでしょうか。

 経済面でもここのところ中国の株価はオリンピックが始まる前には「ご祝儀相場」で少し株価が上がるのではないか、という期待もあったようですが、現実にはそういったものはなく、株価はここのところずっと低下傾向にあります。オリンピック関連の「景気のいい材料」はほぼ出尽くしたので、「オリンピック後」に対する警戒感が一気に出た形になっています。

 今のところ新聞紙面はオリンピック関連の中国のメダル・ラッシュに関する記事ばかりなので、治安面の経済面も「マイナスの話」は新聞紙上では全然目立っていない(ちゃんと報じられてはいる)のですが、「マイナスのニュース」が紙面上目立っていない分だけ逆にちょっと不気味な底流が見えないところで動き出し始めているような気がしてしかたがありません。

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2008年8月11日 (月)

キッシンジャー氏の北京の休日

 今日(8月11日:北京オリンピック第4日)の北京の大気汚染指数は37でした。今日は曇りでしたが、昨夜雷雨が降ったので、汚染がきれいに洗い流されて、空気はスッキリしていました。

 今日(8月11日)昼間、北京市内でアメリカのブッシュ大統領一行の車列を見掛けました。前後の交通を完全に遮断して、パトカー先導で長い車列が続きました。ブッシュ大統領は、7日夜に北京に入った後、8日の開会式に出席し、10日に胡錦濤主席や温家宝総理と会見しましたが、その他の時間は、いろんな試合の観戦をしていたようです。昨日(8月10日)夜は、バスケットボールの中国対アメリカの試合を観戦していました。今日(11日)北京を離れたようですが、北京に4泊したわけです。8日の午前中に北京に入り、首脳会談を行った後、開会式(日本時間9日午前2時過ぎまで掛かった)に出席して、北京に1泊もしないでそのまま夜中に北京から長崎に移動して9日11時(日本時間)に行われた長崎の原爆祈念式典に出席した日本の福田総理の忙しさとは比べものにならないほどの優雅な北京の旅でした。今は、まぁ、夏休みの時期ですけれども、来年1月の任期切れを前にして「そろそろ営業終了の時刻」の感じがミエミエのブッシュ大統領の日程でした。

 8月11日付けの新聞ではブッシュ大統領の隣に中国の楊潔外交部長、その隣に父親のブッシュ元大統領、ブッシュ大統領の後にニクソン大統領(共和党)時代の大統領特別補佐官・国務長官のキッシンジャー氏という超大物が揃ってバスケット観戦に興ずる姿の写真が報じられました。その写真の中で、キッシンジャー氏は、手にミネラルウォーターのペットボトルを持って、リラックスした感じで試合を見ていました。

 キッシンジャー氏は、1971年7月、東南アジア歴訪の最後に訪れたパキスタンで「体調を崩してカーン大統領の別荘で休養する」と称して報道陣の前から姿を消し、そのままパキスタンの空軍機で隠密裡に北京へ入って当時の周恩来総理と極秘会談を行うという「忍者外交」を行ったその人です。極秘会談終了後、ニクソン大統領は「来年5月までに自分が北京を訪問する」という演説を行い、世界を驚愕させたのでした。翌年、1972年2月、ニクソン大統領は北京を訪問しました。それはちょうど日本の札幌で冬季オリンピックが行われた直後のことでした。

 ニクソン大統領が北京空港で大統領専用機を降りた時、周恩来総理は非常に硬い緊張した表情で出迎えニクソン大統領と握手した時のニュース映像を私はよく覚えています。当時、アメリカはベトナム戦争で苦しんでいました。中国は中ソ対立でソ連からの圧迫に脅威を感じていました。「敵の敵は味方」の論理で、アメリカと中国との利害が一致した結果のニクソン大統領訪中でした。その時、私は中学生でしたが、「世界は変わる」とニクソン訪中のニュースを見て感じていました。その年の9月、日本の田中角栄総理が訪中して日中国交正常化がなりましたが、北京空港で田中総理を出迎えたときの周恩来総理は、非常ににこやかでリラックスした感じでした。まさにニクソン訪中こそが「のるかそるか」の歴史の転換点であり、田中総理の訪中は、ニクソン訪中により転換した時代の流れに乗った自然の出来事だった、ということを印象付けるような周恩来総理の表情でした。

 あれから36年。ブッシュ大統領は、北京入りする日の午前中、中国に入る前の訪問国タイのバンコクで、中国の人権政策の是正を希望する旨の演説を行いました。その中で、父親の元ブッシュ大統領に同行して1975年に最初に中国を訪問したときの印象を語り、既に世界に大きな影響力を持つに至った中国は、自らの行く道を自ら判断すべきだ、と強調していました。この演説は、今回の訪問で父親のブッシュ元大統領やキッシンジャー氏を同行していることを意識したものだったと思います。今回、1972年のニクソン訪中を思い起こさせるような人物を同行させ、またそれを意識させるような演説をして北京入りしたブッシュ大統領には、アメリカ国内に「共和党政権の中国政策の勝利」を印象づけて、秋の大統領選挙にプラスにしよう、という意図があることは明らかでした。

 ただ、そういった政治的な「駆け引き」を差し引いても、私は、個人的には、リラックスしてオリンピック観戦をするキッシンジャー氏の姿が非常に印象に残りました。この36年間、中国の歴史は決して平坦ではなかったけれども、確かに前へ進んだのは事実だ、と感じたからです。中国を巡る現在の諸般の事情を踏まえれば、アメリカの大統領一行がそんなにリラックスして北京オリンピックを観戦していていいのか、という批判もあると思いますが、「打倒米帝(アメリカ帝国主義)!」と大きな声でスローガンを叫んでいた文革時代に比べれば、中国の歴史が前に進んでいることは事実です。

 私は20年前にも北京に駐在していましたが、今回の北京オリンピックの運営その他の様々な対応状況を見て、中国は、20年前にできなかったことを今きちんとこなしている、と実感しています。20年前の中国には、これだけ大きな国際イベントをホストする余裕はとてもありませんでした。それだけに、社会の状況がそれだけ進歩しているのに、政治の状況が20年前と全く変わっていない(というより1989年の時点でむしろ逆転してしまった)のが残念でなりません。社会の状況も変化しているし、人々の感覚も明らかに進歩しています。北京オリンピックをうまくやり遂げることで、その「人々の感覚」は「自信」へと繋がるでしょう。社会や人々の感覚と政治システムのアンバランスは、もうこれ以上乖離(かいり)できないような臨界点に達していると思います。

 北京オリンピックをうまくやり遂げた自信を持って、ブッシュ大統領がバンコクで演説したように、中国が自らの判断で自ら歩む道を選択し、そういった「アンバランス」の是正へ向けて少しでも前進するよう私は願っています。

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2008年8月10日 (日)

テレビ・新聞はオリンピック一色

 中国中央電視台は、普段は経済ニュースをやっている経済チャンネルもオリンピック中継をやっているので、テレビはオリンピック一色という感じです。新聞もほとんどオリンピックの話題一色です。開会式の直後は、人民日報が「号外」を出しましたが、人民日報が「号外」を出したなんて、史上初じゃないかと思います。いずれにせよ、新聞を一杯にするほど、実際、中国の選手が活躍しているので、うらやましい限りです。テレビを見ていても、やっぱり観客の応援というのは選手にパワーを与えるようで、あまり期待されていなかった種目や選手でも、力を発揮している中国の選手は多いように見受けられます。

 大気汚染の方は相変わらずで、8月10日の北京の大気汚染指数は82でした。自転車のロードレースもやったけれども、大気汚染に文句を言う選手や大会関係者もいなかったようなので、「なんとかなった」ということなのでしょう。もっとも「空気の状況がどうの」とか「蒸し暑い」とか何とか文句を言うような人はオリンピックでは勝てないんでしょうね。今日(8月10日)は、夕方から夜に掛けて雷雨が降っているので、明日以降は大気汚染は改善される可能性があります。

 街を歩くと、公安の車がやたらと多いし、とにかく腕に紅い腕章を着けた治安ボランティアが大勢います。大通りだと100メートルにこういったボランティアの人たちが一人立っている感じです。学生さんとか居民委員会(町内会のようなもの)の人なのでしょうが、こういう形で「自分も北京オリンピックの運営に参加した」と実感するのも悪くない、と思っているのではないでしょうか。8月9日に北京の鼓楼で起きたアメリカ人観光客(バレーボール・チームのコーチの親族)殺害事件、8月10日未明に新疆ウィグル自治区クチャで起きた爆弾襲撃事件は、新華社などで伝えられていますが、オリンピック関係記事が圧倒的に多いので、完全に埋没してしまっている感じです。少なくとも、現在、北京にいる人たちは、オリンピックのお祭り気分に酔っている感じなので、北京で治安上の大きな事件が起きるような雰囲気はありません。

 試合の運営も大きなトラブルはなくうまく行っているようです(小さなトラブルはあるのでしょうが、そういうのはあまり報じられないだけかもしれませんけど)。開会式終了後の観客の帰宅輸送も問題なく行われたようで、今日(8月10日)付けの「新京報」によると、開会式に参加した、観客、出演者、ボランティアなど合わせて16万人も、終了後1時間15分で、混乱なく解散したとのことです。

(参考)「新京報」2008年8月10付け記事
「開会式、観衆は75分で解散」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/08-10/008@032103.htm

 こういう記事が載ること自体、開会式が終わった後の観衆の輸送がひとつの「課題」として認識されていたのでしょう。

 上記の記事によると、開会式に参加した16万人のうち7万人がVIP、来賓、選手、メディア及び開会式出演者などの関係者で、これらは専用車で移動し、その他の9万人のうち、観客は4万人、作業担当者とボランティアが5万人で、彼らは公共交通(バスと地下鉄)で移動した、とのことです(8月8日深夜は地下鉄は終夜運転をしていました)。日本のメディアでも報道されていますが、開会式の晩は蒸し暑かったので、570人が暑さのために体調不良を訴えたとのことです(ただし、これは想定の範囲内で、そういう人が出たときのために救急車などが最初から配備さていた)。

 地下鉄の駅に連なる地下街にある「露天」のようなお店は今日は営業していました。開会式のあった8月8日だけ休んでいたようです。外国人観光客らしきお客もたくさんいました。もう立秋も過ぎましたので、北京の暑さもだんだん和らぐ方向へ向かうでしょう。「盛り上がらない」と言われた北京オリンピックですが、少なくとも北京にいる限り、あと2週間は「オリンピック一色」状態が続きそうです。

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2008年8月 9日 (土)

北京のテレビで見たオリンピック開会式

 昨夜(2008年8月8日夜)の北京オリンピック開会式は、北京で中国中央電視台とNHK-BS1をチャンネルを切り替えながら見ていました。感想や気が付いた点を書いてみます。

○人文字カウントダウン:

 人文字ライトアップによるカウントダウンはなかなか良かったですね。漢数字のわかる日本人としては、漢数字とアラビア数字によるカウントダウンは面白かったと思います。最初は、8月8日午後8時8分に開始なのかと思っていたのですが、8:00ちょうどの開始だったのですね。

○北京市内を走った花火:

 開会式の行われた国家運動場(通称「鳥の巣」)は、天安門と故宮を結ぶ南北の線(北京の中心線)の延長線上の北の方(第四環状路の少し北側)にあります。開会式の始まりを告げる花火は、この北京市を南北に連ねる中心線上に沿って、まず天安門の南にある永定門から始まり、前門、天安門、故宮の中にある神武門、景山公園、その北にある城市公園、第三環状路の北にある科学技術館で打ち上げられた後、オリンピック公園で打ち上げられました。これを空撮ヘリコプターで撮影していました。足跡の形をした花火だったのだそうですが、テレビを見ていた時は「足跡の形」だとは気が付きませんでした。巨大な足跡が南からオリンピック・スタジアムへやってくる、というストーリーだったようです。街全体をキャンバスにしてしまう、という発想には恐れ入りました。

 普段は警備が厳しい北京市のど真ん中の上空を空撮用のヘリコプターが飛び、そこから生中継で映像が送られる、など前代未聞のことです。それに天安門や故宮の周辺はそれなりに広い場所があるとは言え、国宝級の建物の上空や街のど真ん中の公園の上空に花火を打ち上げる、というのは、これまた日本的感覚から言ったら、ちょっと乱暴な感じがしました(不発弾の落下や火の付いた破片の落下を想定して、日本ならば普通は花火は海や川、湖など水の上で花火を打ち上げますよね)。これもオリンピック・スペシャルなんでしょう。

○中国国旗(五星紅旗)の掲揚:

 中国国旗が入場して掲揚塔のところまで運ばれる際に流れていた歌は「歌唱祖国」で、中国では「第二の国歌」とも呼ばれる曲です。中華人民共和国の成立直後に作られた曲で、勇ましい行進曲ふうの曲です。「我らの指導者・毛沢東は、我々の進むべき道を導く」といった歌詞が出てくる革命歌です。国旗を運ぶ場面でのこの曲を使うのは中国では不思議ではないのですが、今回の演出では、この曲を幼い女の子に歌わせていたので、非常に軟らかいイメージの曲に聞こえたと思います。毎日、この局は中央人民ラジオ局のニュースの時間のオープニングに流れますが、いつものような勇ましい行進曲ふうの演奏の仕方だったら、世界中に人に相当にまるで軍事国家のような印象を与えてしまうところでしたからね。小さな女の子に歌わせたのは正解だったと思い思います。

 その後、国旗の掲揚は(最後の方で出てくるオリンピック旗の掲揚の時も同じでしたが)人民解放軍の兵士の手によって行われました。これは、毎日、天安門前広場で日の出時の国旗掲揚と日没時の国旗降旗で行われている中国ではごく一般的な儀式なんですが、見慣れない人には、相当にお堅い「社会主義国中国」らしいイメージを与えたかもしれません。

 国旗を様々な少数民族の民族衣装を着たこどもたちが運んできましたが、多くの少数民族の衣装をまとった人々を登場させて民族間の融和を強調するのは、こういったイベントでは必ずやる趣向です。別に最近チベットやウィグル自治区で事件が起きたから、あえてこういう趣向にしたわけではありません。

○歴史絵巻の巻物:

 「歴史絵巻」を光の投射で表現する、というのが、今回の開会式の演出のひとつの「機軸」でした。「漢字」「印刷術」「羅針盤」といった中国の発明が文化を創った歴史を表現していました。「漢字」の表現のところで「和」という字の歴史的移り変わりを表現していましたが、これは「平和」という意味と、現在の胡錦濤政権が掲げる「和諧社会」との両方をイメージさせるものだったと思います。

 活字をイメージしたマスゲームがありましたが、最後に「活字」に入っていた若者たちが顔を出して手を振ったのはよかったですね。「顔の見える演出」だったと思います。

 そのほか、太極拳とか中国古来の伝統的なものが次々に出てきましたが、中国に住んでいる私にとっては、そんなに珍しいものでもなかったので、若干「長いな」という印象を持ちました。最初の30分くらいはテンポがよく引き込まれる感じがあったのですが、後半は蒸し暑さのせいもあり、ちょっと見ていても「疲れ気味」でした。

 でも、全体的には圧巻だったと思います。

○夢:

 宇宙服を着た宇宙飛行士が天井から降りてきましたが、これは今年10月に打ち上げられる予定の中国としては3回目の有人宇宙飛行を意識していたと思います。今度の有人宇宙飛行では宇宙飛行士が宇宙遊泳をすることが計画されています。

○主題歌:

 中国の男性歌手・劉歓とイギリスのソプラノ歌手サブ・ブライトマンが「You and I」という主題歌を歌いました。なぜ女性歌手が中国人じゃないのかなぁ、と思っていたのですが、この主題歌を歌う場面は、中国が世界と手を携えていく、という流れの中だったので、外国人の歌手の方がピッタリだったのですね。これは納得でした。

○選手の入場行進:

 東京オリンピックの頃は、行進曲に乗って各国選手団が整然と入場行進する、というのがオリンピック開会式のお決まりのパターンだったのですが、デジタルカメラが普及して以降、選手自身がカメラを持って撮影しながら行進するようになったので、最近は、オリンピック開会式の入場行進は、悪くいえばダラダラ、よく言えばリラックスした雰囲気の入場行進になっていますね。選手の入場行進は、選手団はのんびり歩いていたので、式を企画した人の想定より、時間が掛かってしまったようでしたね(そのため、今回の開会式は約3時間半掛かる、と言われていたのですが、実際は4時間10分掛かりました)。

 入場行進をする選手たちの歩く道筋を整理するために人垣を作って踊りながら立っていた若い女性の皆様方は、2時間以上続いた選手の入場行進の間ずっと踊っていたようなので(たぶん途中で交代していたと思いますが)、あの蒸し暑さの中、御苦労様でした。

 今回の入場行進は、最初のギリシャと最後の中国は別として、中国語の漢字(簡体字)で表記した際の総画数順というのはユニークでした。日本の「日」は4画なので比較的前の方の登場でした。中国語をご存じない方には全く順番が予想できなかったと思いますが、「智利(チリ)」「墨西哥(メキシコ)」「徳国(ドイツ)」「澳大利亜(オーストラリア)」などは最初の文字の画数が多いので順番が後ろの方になってしまうのですね。

 参加国・地域が204と「史上最多」と言われますが、昔に比べれば、ソ連や旧ユーゴスラビアが解体して国の数は増えていますから、昔と比較するのはあまり意味がないと思います。それにオリンピック委員会ごとの入場なので、「中華台北」「中国香港」と中国は別々ですし、グアムやプエルトリコのような自治領はアメリカとは別、といったふうに、この際「国」はあんまり関係ない、という印象を強く受けました。それにしても、私自身、アフリカやカリブ海に浮かぶ島国など、全然知らない国が意外に多かったのはお恥ずかしい限りでした。

 日本選手団が入場したとき、会場からウォーという声が上がりましたが、歓声なのかブーイングなのかは、よくわかりませんでした。フランスに対しても明らかなブーイングのようなものはなく、開会式に関する限り、観衆は非常にお行儀が良かったと思います。台湾(中華台北)選手団の入場に対して大きな拍手が沸き上がったのはよかったと思います。

○北京オリンピック委員会と国際オリンピック委員会の挨拶:

 今回のオリンピックでは「中国百年の夢」ということがいろいろなところで言われました。清朝末期の1908年、列強各国による半植民地化された当時の中国において、ある雑誌が「中国はいつオリンピックを開催できるのだろうか」という問題提起を掲げてから今年でちょうど100年になるからです。北京オリンピック委員会の劉淇会長は、そのことを強調していました。

 このオリンピック開会式では、5月に起きた四川大地震に配慮して、少し派手さを抑えた演出になるのかなぁ、という観測もありましたが、四川大地震の件は影響していなかったようです。ただ、中国選手団の旗手を務めたバスケットボールの姚明選手は、傍らに林浩という震災の時に友だちを助けた「震災英雄少年」を伴っていました。国際オリンピック委員会のロゲ会長は、その挨拶で5月に起きた四川大地震に言及し、中国の人々の団結を讃えました。

 いつも言う言葉なのでしょうが、ロゲ会長は、選手たちに対して「国籍、人種、性別、信じる宗教、政治システムの違いを超えて、試合をし、交流をすることを求めました。「政治システムの違い」という部分は、いつものオリンピックでも言っていることだとは思いますが、これは国際オリンピック委員会の北京オリンピックにおけるひとつのメッセージだと私は思いました。

○聖火台への点火:

 聖火ランナーは、歴代の中国のメダリストが受け継いだ後、最後は1984年、中国が最初にオリンピックに参加したロサンゼルス大会で金メダルを獲得した李寧氏でした。その意味ではそれほどの「サプライズ人選」ではなかったのですが、後で報道で知ったところによれば、李寧氏は漢族ではなく、チュワン族なのだそうで、そういったところにも民族融和を印象付けたいという企画側の意図があったように思います。

 なお、開会式の進行が予定より遅れたため、胡錦濤主席の開会宣言は8月8日のうちに行われましたが、成果への点火は24時を回っており8月9日になってからでした(聖火台に点火されたのは8月9日0時05分)。

(参考)「新京報」2008年8月9日付け記事
「開会式の時系列」
http://www.thebeijingnews.com/news/xatk/2008/08-09/008@101746.htm

○開会式終了時の花火:

 開会式終了時には一斉に花火が打ち上げられました。天安門前広場でも花火が打ち上げられた、とのことです。私が住んでいるところは、オリンピック・スタジアムからも天安門前広場からもかなり離れているのですが、この最後の花火の音は相当大きく聞こえました。花火の音が聞こえただけで、リアルタイムで北京にいたことを実感できて、私としてはよかったと思っています。

 今終わって考えれば、北京市の中心部に花火という大量の火薬が持ち込まれていたわけです。これは考えようによっては、相当なリスクを背負っての演出だったと思います。日本だったら演出家がそういう提案をしても、消防署や警備担当の警察が許可を出さなかった可能性があります。いろいろな演出で天井から人をぶる下げる演出が多かったり、「中国では安全についてはそれほど気にしない。少しぐらいのリスクならば怖がらずに挑戦する。」という傾向がよく現れていたと思います。

○蒸し暑さと長さ:

 「鳥の巣」に行ったことのある人に聞くと、鳥の巣はすり鉢状で風が通り抜けないため、相当に暑いのだそうです。昨晩は、湿度がかなり高く「熱帯夜状態」だったので、特にきちんとした服を着ていた選手団の皆さんは相当に扱ったのではないかと思います。外国要人の方々には記念品として、大きな「扇」がプレゼントされたようで、皆さんそれで扇いで涼をとっていました。それでも開会式は4時間を超えたので、各国指導者や中国の国家指導者の皆様も、最後の方はちょっとぐったり気味の感じでした。

○テレビが生放送だったかどうかについて:

 一部日本の報道では中国中央電視台の放送が「生放送」より10秒程度遅れていた、と報じていますが、私が見ていた限り、中国中央電視台とNHK-BS1とは同時の画面を放送していました。NHK-BS1は静止軌道上にある放送衛星まで電波が行って帰ってくるまでの時間(約0.24秒)遅れるのですが、最近の放送はデジタル化しているので、デジタル化処理に数秒掛かることを考えると、中国中央電視台の放送はほぼ「生放送」であったと考えて良いと思います。検閲を入れるためには普通最低20秒程度は「遅れ」を入れますので、今回のオリンピック中継については、中国側は「検閲」することはあきらめていると思います。

○政治指導者の映像への登場について:

 中国中央電視台が中国選手団を多く撮し、NHK-BS1が日本選手団の映像を多く選んで放送していたのは当然として、それ以外の部分では、中国中央電視台とNHK-BS1はほとんど(95%以上)同じ映像を使っていました。ただし、中国中央電視台では、中国共産党政治局常務委員ら国家指導者の映像を何回も撮していましたが、同じ時、NHK-BS1では選手団や観客の映像など別の映像を放映していました。中国国家指導者の映像については、中国国内向けのスペシャルだったようです。

 なお、今回の開会式の席順は、国際オリンピック委員会のロゲ会長の隣に胡錦濤国家主席、その隣に現在は何の役職についていない江沢民前国家主席が夫人とともに座り、その隣が呉邦国全国人民代表大会常務委員会委員長(政治局常務委員会ナンバー2)、温家宝国務院総理(政治局常務委員会ナンバー3)・・というふうに「通常の序列順」に着席していました。つまり、江沢民氏がナンバー1の胡錦濤主席とナンバー2の呉邦国氏の間に割って入った形で着席していました。江沢民氏は、北京にオリンピックを誘致した時の国家主席ですので、胡錦濤主席の隣に座っていても不自然ではない、と言えばそれまでですが、江沢民氏が今でもまだ政治的影響力を持っていることを示す席順でした(なお、北京オリンピック誘致時の国務院総理の朱鎔基氏や元総理の李鵬氏は、私が見る限り画面では登場しませんでした)。

 選手団に拍手を送る胡錦濤主席の映像はNHK-BS1でも放送していましたが、中国中央電視台が江沢民氏を撮している時はNHK-BS1では別の場面を放送しており、私が見た限り、NHKの映像には江沢民氏は登場しなかったと思われます。このあたり、どの指導者の映像を国内へ流すのか、国際映像として海外に流すのか、については、中国の放送局はものすごく神経を使っていたと思います。

 各国選手団が入場すると、それぞれの国の首脳クラスは立ち上がって拍手をしますが、今回の開会式では、ブッシュ・アメリカ大統領、日本の福田総理、韓国のイ・ミョンバウ大統領、ロシアのプーチン首相、フランスのサルコジ大統領、イスラエルのシモン・ペレス大統領、アフガニスタンのカルザイ大統領、オーストラリアのケビン・ラッド首相などそうそうたる顔ぶれが画面に登場しました(これらの各国指導者の映像はNHK-BS1でも流れていました)。

○人工消雨について

 一部日本の報道では、開会式で雨が降らなかったのは中国側がヨウ化銀ロケットを1,000発以上打ち込んだ成果だ、として人工消雨に成功したとの報道がなされていますが、私が中国気象局のレーダーを見ていた限り、ヨウ化銀ロケットを打たなくても開会式の時間帯に北京に雨雲が掛かる可能性はあまりなかったと思われますので、あまり科学的根拠もなく「人工消雨」に「成功した」と報じるのはいかがなものかと思います。ヨウ化銀ロケットは、上空に湿った大気がある時、雨が降る確率をいくぶん高める、あるいは、雨が降る場合でも降る量をいくぶん大目にする効果があるとされていますが、全く湿気のないところで雨を降らせたり、大雨が降りそうな気象状況で雨を降らないようにすることはできません。

 ヨウ化銀は人間や動物には無害だとされていますが、降雨効果とヨウ化銀という自然界にない化学物質が環境中にばらまかれることに対する懸念とを天秤に掛けて、日本ではこの方法はあまり実施されていません。これは科学の問題というより、環境に自然界にない化学物質をばらまくことがいいかどうか、という環境に対する発想の問題だと私は思っています。

 8月9日に発表された北京の大気汚染指数(8月8日正午から8月9日正午までの観測値の平均値)は78でした。ヨウ化銀を空気中にばらまく、ということは、大気汚染の原因になる微粒子物質をばらまくことになるので、消雨ロケット作戦は大気汚染指数に悪い影響が出るのではないかと思ったのですが、それほどの影響はなかったようです。

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 いずれにしても開会式が今回のオリンピックのひとつの大きな「ヤマ」だったので、それが無事に終了して、ちょっとホッとした気分です。後は、選手の皆さんの伸び伸びとした活躍を楽しみにしたいと思います。

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2008年8月 8日 (金)

「中国の歴史が変わる日」になるのか

 今、2008年8月8日18:30(北京時間)です。オリンピックの開会式開始まであと1時間半に迫りました。今日はかなり湿度が高くて視界が悪かったのですが、日中、気温が上がるに連れて、視界は少しよくなりました。大気汚染と視界とは1対1には対応しませんが、「開会式当日はスカッと青空」というわけには結局はいきませんでした。8月8日発表の北京の大気汚染指数は94でした。100以下が「良」ですので、ギリギリ合格点、というところでしょうか。こんな感じだと、オリンピック期間中にも100を超える日が何日かあるかもしれません。

 開会式の雨がどうなるのか、と思ってインターネットで中国の国家気象局のレーダー画面を見てみました。このサイトでは、だいたい1時間前までの最新のレーダー画面を見ることができます。

(参考1)中国気象局全国レーダー図
http://www.cma.gov.cn/tqyb/tqyb/radar/rindex.htm
※このサイトから「華北レーダー」を選び、その中の「一小時降水」(1時間降水量)を選ぶと雨が降っている状況がわかるので最もわかりやすいと思います。

 このレーダー画面によると、今日(8月8日)は、北京の北西方向、河北省と内モンゴル自治区との境界あたりを中心に雨雲が発達していましたが、午後になってその雲は小さくなっているようです。また、夏ですから、局地的に雨雲が発達することがあるのですが、最新画面(8月8日北京時間17:20現在)では北京の西の方でちょっと発達していた雲が消滅しつつあるので、どうやら開会式が終わるまでは雨は降らずに済みそうです。私が肉眼で空を見た感じでも、今晩中は雨が降らずに持ちそうな空模様です。

 今日、8月8日は、さすがに街の警戒はかなり厳しいものがありました。いつもは衣服や靴、カバンなどを安く売っている地下鉄の駅に連なる地下道の両脇に並んだ露天も今日は全て店を閉めていました。代わりに警備に当たる係員が地下道を通る人々に目を光らせていました。一方、街を歩く外国人らしき人の数は、いつもより格段に増えており、街角にあるボランティア・ステーションでも、道を聞く外国人らしき姿もありました。

 私が歩いたのは、オリンピック会場とは相当に離れた場所なのですが、それでも街行く人々はウキウキとした雰囲気でした。何となく「お祭り」気分が街中に漂っている感じでした。

 この北京オリンピックは、中国が変わる歴史的な出来事になるのか、それともオリンピックを経ても中国は今までと同じで全く変わらないのか、それはよくわかりません。少なくとも北京の大気汚染については、私はオリンピック期間中だけは「劇的によくなり、オリンピックのために北京に来た世界の人々が『北京の大気汚染は大したことないじゃないか』と誤解して帰る」と想像していたのですが、実際は、確かにいつもよりは改善しましたが、それほど「劇的」には改善されず、オリンピックに来た人は、だいたい普段通りの北京の大気汚染の状況を経験していると思います。一方、インターネット規制については、本当に中国にとってセンシティブなサイトへのアクセスはいまだにアクセス禁止になっていますが、BBC中国語サイトの掲示板やウィキペディア中国語版など、中国の人々が中国語で書き込みもできるサイトへのアクセスはできるようになりました。

(参考2)このブログの2008年8月1日付け記事
「BBC中国語版サイトへのアクセス規制解除」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/08/post_fc0a.html

 このインターネット規制の緩和措置がオリンピック後も続くのかどうかわかりませんが、これはオリンピックによって「劇的」に変わった面のひとつです。

 これらと同じで「オリンピックで中国は劇的に変わる」という予想と「劇的には変わらない」という予想と両方があります。「劇的に変わる部分もあるし、変わらない部分もある」というのが正しい答えになるのでしょう。そういったことはオリンピックが終わった後でじっくりと検証することにして、まずはオリンピック期間中は、街行く中国の人々の「ウキウキお祭り気分」と同じような気持ちでオリンピック自体を楽しみたいと思います。

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開会式当日の北京の朝は視界300メートル

 今、2008年8月8日の朝7:30過ぎ(北京時間)です。オリンピック開会式が12時間後に迫っていますが、朝は最近にない濃い霧に包まれています。視界は300メートルといったところでしょうか。空を見上げると太陽は白く見えています。ここまで視界が悪いと、その原因が全て大気汚染であるはずはないので、湿度の高さが影響しているのは明らかですが、水蒸気の「核」となる微粒子が空気中に浮遊していることは間違いないと思います。

 湿度が高いので、夜8時8分開始の開会式までの間に「ひと雨」ある可能性もあります。ちょっと心配なのは、ここまで視界が悪いと飛行機の運航に影響しないか、ということです。北京首都空港には電子誘導装置がありますので、相当に視界が悪くても飛行機の離発着は可能ですが、過去に濃霧による視界不良のため飛行機便が欠航になったこともあります。「ひと雨」降れば視界も晴れるでしょうが、この8月の時期の「ひと雨」は普通は「雷雨」になりますが、「雷雨」も激しくなると飛行機の運航に影響します。今日は日本の福田総理ほか、開会式に出席する各国首脳の北京到着も相次ぎます(アメリカのブッシュ大統領は既に昨晩のうちに北京に到着しています)。天候がこれら各国首脳や開会式を楽しみにしている一般の観客の皆様が北京に来ることに影響しないことを祈りたいと思います。

 また、あまり視界が悪いと開会式のせっかくの演出が見えにくい、という事態にもなりかねませんので、あと12時間ちょっとの間にこの視界の悪さがなんとか改善してくれればいいなぁ、と思っています。

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2008年8月 7日 (木)

開会式前日の天安門前広場はいたって平和

 オリンピック開会式前日の今日(8月7日)は、開会式に出席する各国首脳の北京到着がピークになり、北京市内に大幅な交通規制が敷かれる可能性があったため、夏休みを取りました。明日の開会式当日は、天安門前広場周辺には大幅な立ち入り制限が敷かれるので、開会式当日に天安門前広場の様子を見に行くことは難しいと考えられたので、開会式前日の今日、地下鉄で天安門前広場の近くまで行って、広場の周囲を歩いてみました。地下鉄の駅では手荷物検査をやっていましたが、私が行ったのは昼間の時間帯だったので、お客で混雑するというようなことはありませんでした。地下鉄自体も普通通りの混み具合で、ギュウギュウ詰めということはありませんでした。

 天安門前広場の約1km東にある北京飯店は、オリンピック関係者が宿泊しているらしく、周囲の歩道に柵が設けられて立ち入り禁止になっていました。しかし、北京飯店の東側にある大通り・王府井大街は、立ち入り禁止になっている部分より北側では、いつもの通りの「歩行者天国」で、大勢の観光客が散策していました。

 北京飯店(長安街の北側にあります)の前の歩道が歩行禁止なので、長安街の南側の歩道を使って天安門前広場まで歩きました。明らかに警官の数はいつもより多いのですが、緊張した雰囲気はなく、たくさんの観光客がのんびりと歩いていました。天安門前広場に入るには地下道を通るのですが、その地下道でまた手荷物検査がありました。私は近くのスタンドで買った中国の新聞を持っていたのですが、係員の人に「何新聞かを見せるように」と言われました。中国で売っている普通の新聞だとわかると、すぐに通してくれました。危険物をチェックする、というよりも、政治的に問題のあるビラなどを持っていないかどうか、がチェックポイントのようでした。

 天安門広場は、真ん中に大きな北京オリンピックのシンボルマークが立っており、東側と西側には、「同一個世界、同一個夢想」というオリンピックのスローガンを表現した飾り付けがされていました。人民英雄記念碑の前には「五洲四海喜慶奥運盛会」(世界中の人々がオリンピックの盛会を喜んでいる)、「改革開放共譜和諧篇章」(改革開放政策によりみんなだ和諧社会(ハーモニーのある社会)の新たなページを書き加えよう)というスローガンが掲げられていました。ただ、こうした「オリンピック用の飾り付け」は広場の面積の一部を使っているだけで、天安門前広場の広さはいつもと同じでした。オリンピック期間中は、この天安門前広場の広いスペースを利用していろいろなイベントが行われるはずなのですが、イベントのための「舞台装置」は「備え付け」ではなく、イベントが行われるたびごとに据え付けられるようです。

 今日は、オリンピック開会式前日ということもあり、確実にいつもより外国人観光客が多いように思えました。メーデー休みや国慶節の連休の時には、天安門前広場は、中国各地からの「お上りさん」で満杯になり外国人観光客はあまり目立たないのですが、今日は、逆に、中国各地から北京に出てきた「お上りさん」ふうの人はほとんど見掛けませんでした。地方の人はあまり経済的に豊かではないので、服装などを見ると都会の住人と大体区別が付くのですが、今日見た限り、天安門前広場にいる中国人らしき人々は、結構経済的に豊かな人ばかりのように見えました。北京市内の建設現場での工事がオリンピックのために停止している関係もあり、地方から北京に働きに来ている人々(いわゆる「農民工」と呼ばれる人々)が北京からだいぶいなくなっているからかもしれません。

 警備の警察官は確かに多いですが、ほとんどギスギスした緊張感はなく、思ったよりも平和なムードが漂っていました。

 今日の北京は「薄曇り」ですが、もやが掛かったような感じでした。雲間から太陽が顔を出すと、正視できないくらいまぶしく感じるのですが、「もや」があるので「ジリジリ照りつける」感じがなく、暑さはそれほど感じませんでした。気温は30度をちょっと超える程度だったと思います。視界は3kmくらいでしょうか。下に、今日、天安門前広場で私が撮影した写真を掲げておきます。約1km程度離れた北京飯店の建物が少しもやって見えるのがわかると思います。今日の北京の大気汚染指数は95だとのことで、車の規制をやっている割りには汚染係数が大きかったと思います。マラソンや自転車競技だと、ちょっと気にする人がいるかもしれません。

(参考1)オリンピック開会式前日の天安門前広場
http://homepage3.nifty.com/itaru_watanabe/HEX/tenanmonmaekankokyaku.jpg

(参考2)北京オリンピックのシンボルと天安門
http://homepage3.nifty.com/itaru_watanabe/HEX/symbolandtenanmon.jpg

(参考3)天安門前広場西端から見た北京飯店(ややかすんで見える)
http://homepage3.nifty.com/itaru_watanabe/HEX/beijinghotel.jpg

 雲南省昆明でのバス爆破事件や新疆ウィグル自治区カシュガルでの武装警察国境支部隊襲撃事件など、凶悪な事件が続いていますが、少なくとも今の北京ではオリンピックの運営に支障が出るような雰囲気は全くありません。街にボランティアの青い制服を着た人たちもたくさん歩いていますし、みんなそれなりに一生懸命に準備しているので、オリンピックの運営には問題は出ないと思います。

 ただ残念なのは、3月のチベットの騒乱、四川省大地震、カシュガルでの襲撃事件などで、オリンピック観戦のために外国から中国へ来た観光客が、この機会に中国各地の観光地へ回る、という雰囲気がなかなか盛り上がらないことです。大地震があった四川省でも、例えば世界自然遺産の九寨溝では観光客の受け入れを再開する、など受け入れ体制は整っているのですが、気分的に大地震の被災地の近くへは観光に行きにくい、と思う人が多いのではないかと思います。本当は、現地では観光で生計を立てている人も多いので、多くの人が観光に行くことが地震からの復興に役立つ面はあるのですが、観光は「楽しむ」ものなので、「気分的に乗らない」というのはいかんともしがたいところです。

 今日(2008年8月7日)現在、日本の外務省の海外安全ホームページにある「危険情報」では、中国については次のような渡航情報(危険情報)が出ています。

・チベット自治区=「渡航の延期をお勧めします」
・青海省、甘粛省、四川省、アフガニスタンとの国境付近=「渡航の是非を検討してください」
・新疆ウィグル自治区=「十分注意してください」

(参考4)日本の外務省の海外安全ホームページ
http://www.pubanzen.mofa.go.jp/

 新疆ウィグル自治区の場合、カシュガルでの襲撃事件によって新たに上記の情報が出されたのですが、テロによって上記のような渡航情報が出で外国人の旅行が抑制されることは、テロリストの「思うつぼ」になってしまうので残念です。でも、日本の外務省としても、実際にテロが起きてしまった以上、日本人の安全の確保のためには上記のような情報を出さざるを得ないのでしょう。

 今日の天安門前広場のような「平和な雰囲気」がオリンピックの期間とパラリンピックの期間ずっと継続され、これらのイベントが滞りなく終わることを祈りたいと思います。

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2008年8月 6日 (水)

開会式当日は国家機関等は休みと突然の発表

 いよいよ北京オリンピックの開会式まであと2日。今日の夜から既に女子サッカーは試合が始まっています。今日の北京は、曇りで時々太陽が覗く、という天気でしたが、雲間から太陽が出てきたときには、今日も「肉眼で凝視できる白い太陽」でした。大気汚染の状況については、たぶん、もうこれ以上はよくはならないのでしょう。これでも、いつもよりはかなり改善されているのは事実であり、中国側の努力の成果は現れていると思います。大気汚染はないとは言えませんが、スポーツをやる上では、まぁ、我慢できる範囲内だと思います。今日は北京市内での聖火リレーもあったし、これからは北京の映像は日本でも流れるようになるので、テレビを通じて北京の空の様子なども見ることができるようになるでしょう。今日(8月6日)の北京の大気汚染指数は85でした。100以下は定義上は「青空」なのですが、実際は今日は「言われて見れば青いような気もする白い空」でした。

 明日7日と明後日の8日は、開会式に出席する各国首脳等が北京に集まるので、あちこちで交通規制が敷かれそうです。そういうこともあり、北京市当局は昨日(8月5日)、国務院の許可を経た上で、「オリンピック業務に関係のない中央及び国家の機関、企業、事業単位、社会団体、北京市の機関、企業、事業単位、社会団体は開会式のある8月8日は朝から休みにする。」と発表しました。この発表は今日(8月6日)の各新聞に掲載されました。

(参考)「新京報」2008年8月6日付け記事
「北京市内の企業・事業単位は8日は休み」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/08-06/021@071129.htm

 これは北京市政府が出した「公告」ですが、休みにするのはいいのですが、3日前の発表じゃ急すぎる、もっと前もって発表してくれればいいのになぁ、と正直思いました。まぁ、開会式当日はあまり仕事の予定を入れていた人はいなかったと思いますが、北京は人口1,700万人のビジネス都市でもあるのですから、3日前の発表というのは、「国際的な常識」から言ったらちょっと急過ぎると思います。

 どうしてこうも中国のこの手の「お達し」というのは急に出るのでしょうか。昨年8月に行われた車のナンバープレート偶数奇数制限のテスト運用も実施の1週間前に急に発表になり、実施されました。たぶん「お上のお達し」に対しては一般市民は文句を言わない(言えない)ので、こういう急な「お達し」がいつまで経ってもなくならないのでしょう。

 今回の北京市の公告では「機関、企業、事業単位、社会団体は休み」とあり、私営企業は対象になるのかどうか、パッと見ただけではよくわかりませんでした。そこで「日系企業も中国においては、中国の政府機関が出す『お達し』はきちんと守るべし」との考え方に基づき、この「公告」を受けて、日系企業の団体である中国日本商会では、日系企業は休みにすべきかどうか、北京市当局に問い合わせて確認をしたそうです。その結果、民営企業はこの「公告」の対象にはならないので、日系企業は各社の自主的な判断で休みにするかどうかは決めてよい、との返事だったそうです。あまり大きな声では言えないですが、問い合わせしなければわからないようなわかりにくい「公告」は出さないで欲しいと思います。

 これまでもそうですが、これからオリンピック期間中、突然「公告」などという形で「お達し」が出ることがあり得るので、北京に住んでいる以上は、そういう「お達し」が出ても困らないように心構えをしておく必要があると思います。

 中国の人々はこういう「急なお達し」に結構慣れていますが、外国から来た選手や報道陣などは慣れていないと思います。このオリンピック期間中にも、オリンピックの運営に関して、様々なイベントのスケジュール等や取材の仕方などに関する規則などについての「急なお達し」が出る可能性がありますが、あまり中国式に「急なお達し」を連発すると外国の選手や報道陣の間では混乱や不満の声が上がると思います。そういった混乱や不満が出ないようにできるか、も、小さなところですが、今回のオリンピック運営がスムーズに行くかどうかの分かれ目だと思います。

 たぶん、オリンピックなど国際競技大会で強い選手は、多少の「急なお達し」が出たとしても冷静に対処して自分のコンディションには影響させない、といった対応能力を持っていると思います。出場する選手たちは、少々急な状況変化があったとしても、「よくあること」と受け流して、どんな場面に遭遇しても実力を100%発揮して欲しいと思います。

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2008年8月 5日 (火)

新疆・カシュガルでの武装警察襲撃事件

 昨日(8月4日(月))と今日(8月5日(火))、所用で上海の西の郊外へ行っていました。昨日の午前中、北京から上海へ行くときは、晴れているけれども大気汚染のため「肉眼で日食観測ができる」という、北京ではよくある「白い太陽が見える」状況でした。今日は、大気汚染は明らかにありましたが、かなり程度はよくなっていて、この程度ならばオリンピックに差し支えないと思われる程度でした。北京の大気汚染指数は、昨日(8月4日)は83、今日(8月5日)は88でいずれも「良」でした。たぶん、オリンピック期間中はこんな感じが続いて、雨が降った翌日はスカッとしてもっときれいになる(大気汚染指数が50以下の「優」になる)、という感じになるのだと思います。

 ところで、上海は昨日はちょっと大気汚染がある感じでしたが、今日はスカッと晴れて、2週間前に私が日本で見たような青空でした。上海は海に近いので海から風が吹けば汚染が拡散することと、周辺が水郷地帯で水が多く、周辺の農村地帯は水田地帯なので、地理条件としては日本と似ているのだと思います。今回は、上海市の市街地の中心部へは行かなかったので今日の上海中心部の大気汚染がどの程度だったのかはよくわからないのですが、上海と北京とを比べると、北京は内陸部にあり周囲からの汚染が流れ込んでしまうこと、北京の周辺は上海の周辺のような水田地帯ではなく畑作地帯なので周囲の農地が乾燥していて農地から巻上がる「砂塵」の影響があること、という点で、大気汚染については北京は上海よりかなり不利であると感じました。

 上海郊外の水田地帯の緑を見ていると、やはり植物による空気の浄化機能は、私たち人間が考えているよりも大きいのだろうとということも実感しました。植物は、二酸化炭素を吸って、酸素を吐き出しているいるわけですので、その過程で、大気中の汚れもフィルターしてくれるのだと思います。気分的な問題だけでなく、緑の植物の大事さを改めて感じました。

 今日、飛行機が降下してくる時に、機内でサービスで提供されているフライト・データと窓の外を見比べていたのですが、北京でも高度1,000mより上では空気はきれいです。大気汚染によって空気に「かすみ」が入ってくるのは、高度1,000mを切ったあたり以下まで飛行機が降りてきてからです。それを見ても北京における今の時期の「かすみ」の原因は地表面の活動や地表から舞い上がる粉塵であることは間違いないと思います。

 さて、日本でも大きく報道されていますが、昨日(8月4日)北京時間朝8時頃、新疆ウィグル自治区の西の端にある都市・カシュガルで、朝の訓練のために行進していた武装警察国境警備分隊の一群に2人組が載ったトラックが突っ込み、刃物で武装警察官を襲撃するとともに、爆発物を爆発させて、武装警察官16名が死亡、16名が負傷する、という事件がありました。2人組はすぐに逮捕されたとのことです。報道によれば、この二人はウィグル族の男だとのことです。

 このニュースは新華社がすぐに報道し、それを元に外国へも伝えられましたが、中国国内での報道のされ方は極めて限定的でした。昨日泊まったホテルは、中国系のチャンネルのテレビしか放送しなかったので、インターネットで日本のニュースを見るまで、この事件があったことは知りませんでした。

 昨日(8月4日)夜7時からの中国中央電視台の全国放送のニュース「新聞聯播」ではこのニュースは報道しませんでした。私は、昨日は、夜中少し前に香港発のフェニックス・テレビのニュースで見ました。このフェニックス・テレビのニュースでも、映像はなく、現地の記者からの電話レポートでした。

 昨日の「新聞聯播」のトップは、「科学発展の旗を高く掲げて~夏期の食糧は五年連続で増収~我が国の食糧生産は安定的に伸びてきている」というものでした。いくつかの「ニュース」(こういうのを日本の感覚で「ニュース」と呼んでいいのかどうかわかりませんが)のあと、オリンピック特集でオリンピック関係のニュースをやりましたが、カシュガルの事件については全く触れませんでした。武装警察国境分隊が襲撃され、しかも30名以上死傷した、という国家としての大事件だと思うのに、こうした事件に全く触れないで「食糧生産が順調に伸びている」という「ニュース」をトップに持ってくるという中央電視台の感覚は、私が20年前、北京に駐在していたころと全く変わっていません。オリンピック取材のために中国に初めて来た外国の記者たちは、相当の違和感を感じたと思います。

 今朝(8月5日朝)の中国の新聞の扱いも非常に小さいものでした。人民日報では、2面の下の方に6行、事実関係を簡単に伝えるだけの記事が載っていました。

(参考1)「人民日報」2008年6月5日付け2面記事
「新疆ウィグル自治区カシュガルで、重大な警察に対する暴力襲撃事件が発生」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-08/05/content_73450.htm

 「新京報」では、1面にこの事件についての「見出し」は載っているのですが、記事自体は、事実関係のみを伝える120字程度の簡単な新華社電が載っているだけでした。

 テレビの方の中央電視台の「新聞聯播」では、今日(8月5日)は、この事件は取り上げましたが、30分のニュースの終わりの方で、ごく簡単に事実関係を述べた内容をアナウンサーが読み上げただけでした。映像や写真は全くありませんでした。

(参考2)中国中央電視台「新聞聯播」2008年8月5日放送
「新疆ウィグル自治区公安庁、メディアに対してカシュガルの暴力襲撃事件の調査の進展状況について説明」
http://news.cctv.com/xwlb/20080805/129633.shtml

 この「新聞聯播」のニュースでは、現場で見つかった手作りの爆破装置や手作りの銃は、2007年1月に警察に摘発された「東トルキスタン」テロリスト・グループが訓練に使っていた装置と似ていること、押収されたものの中に「聖戦」を掲げる宣伝物があったこと、などが伝えられています。

 この中央電視台のニュースの内容は、下記の新華社が伝えるニュースと全く同じ内容です。

(参考3)「新華社」ホームページ2008年8月5日13:21アップ記事
「新疆ウィグル自治区警察、カシュガルの暴力襲撃事件の最新の進捗状況について説明」
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-08/05/content_8967136.htm

 7月21日に起きた雲南省昆明での路線バス連続爆破事件の時は、新華社は次々の新しい情報や現場の写真をネット上に掲載したのですが、今回のカシュガルの事件では、わかった事実を淡々と事実だけをごく簡単に伝えていますが、現場の写真等については、新華社のホームページでは見ることができません。昆明のバス爆破事件の時とは、明らかに扱いが違います。「隠さずに事実を迅速に伝える」という最低限のことはやっていますが、昆明の事件に比べると、このカシュガルの事件は相当に慎重に扱っている感じを受けます。オリンピックの開幕直前で「あまりコトを荒立てたくない」という気持ちもあるのだと思います。襲撃されたのが武装警察の部隊で、新華社といえども、自由に取材し報道できる相手ではなかった、というのも原因かもしません。

 この事件については、今日(8月5日)のNHKテレビでは、事件直後に旅行客が映した写真を報じるとともに、現場に入ったNHKのカメラマンによる映像を流していました。つまり、中国国内にいても、中国のメディアでは全く伝えられていない映像をNHKで見ることができる、という状況です。

 なお、この事件を取材していた日本などの記者が現地の武装警察から暴行を受け、一時身柄を拘束された、とのことですが、この点に関して、現地の武装警察は今日(8月5日)、暴行を受けた日本の記者らに謝罪した、とのことです。この記者に対する暴行や拘束は「突発事件の発生等にあたっても外国の記者には自由に取材させよ」という中央の指示が、現場の末端まで行き届いていなかったことによるできごとだと思います。NHKの番組「激流中国」でも何回か出てきましたが、地元の警察の意向に逆らって報道陣が取材することは、中国では本当の意味での「身の危険」を感じるのが普通です。そういった中国において、オリンピックを契機にして最近急に中央が言い出した「突発事件では外国メディアに自由に取材させよ」という方針は、たぶん現場には、とまどいと反発をもたらしていると思います。

 日本などの記者が武装警察から暴行を受けて一時身柄を拘束されたこと、それに対して武装警察側が謝罪したことについては、中国のメディアは報道していません。ただし、先日、アクセス規制が解除されて見られるようになったBBCの中国語サイトには載っていますので、インターネットを見られる中国の人ならば、この情報は今は誰でも見られるようになっています。

 こういった状況が続くと、多くの中国の人は「なぜBBCのサイトにはこれだけ情報が載っているのに、中国の新聞やテレビや新華社のネットには詳しい情報が載らないのか。」といった不満や不信感がますます強くなると思います。

 3月、4月のオリンピック聖火リレーが諸外国でいろいろ妨害を受けていた頃は、中国のメディアが「西側メディアは偏向している」というキャンペーンを張ってそれが一定の効果を上げました(一部、フランス系スーパーマーケット「カルフール」に対する不買運動など「行き過ぎ」の行為も産みましたが)。しかし、オリンピックが始まり様々な情報が飛び交うようになると、「西側のメディアが不自然に事実を歪曲しているのか」「中国のメディアが不自然に情報をコントロールしているのか」のどちらなのかについては、中国の人々もわかってくると思います。(その兆しが見えたのが、6月28日に起きた貴州甕安県の群衆による暴動事件に関する新華社などの公式報道に対する掲示板でのネットワーカーたちの批判でした)。

(参考4)このブログの2008年7月3日付け記事
「貴州省甕安県の暴動事件の真相」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/07/post_ef2a.html

 カシュガルで起きた武装警察に対する襲撃事件は、明らかにオリンピックで世界の注目が中国に集まった時期を狙った意図的な反社会的行為だと思います。これについては、中国の人々はもちろん、世界の人々が非難の声を上げています。これをきちんと報道することによって、中国の人々も世界の人々も、みんな声を揃えて「反テロリズム」「テロに負けずにオリンピックを成功させよう」という気持ちになると思います。それであれば、今回のカシュガルの事件について中国は報道をコントロールする理由は全くないはずです(むしろ情報をコントロールすることは中国にとって全くのマイナス効果しかもたらさない)。

 新疆ウィグル自治区の公安当局としては、「事件を起こしてはならない時期に事件を起こしてしまった」ということで自分たちの「失点」だと思っているのかもしれませんが、そういう「失点」を隠そうとする態度は、昔から「官僚主義」として批判されてきました。(例えば、1987年に起きた中国東北地方の大興安嶺の森林火災では、火災発生当初、地元当局が自力で消火しようとして中央に報告せず、大火災に発展させてしまったことがありました。この時の地元当局の対応は「官僚主義」として激しく批判されました)。オリンピックを機会に、こうした長年にわたって改善されないできた「失点を隠そうとする各地方の風潮」が少しでも改善できればよいと思います。そう思うのだったら、新華社や人民日報など、中国をリードする報道機関は、もっと積極的にこのカシュガルの事件についても積極的に報道すべきだと私は思います。

 このカシュガルの事件をきっかけに、北京などでは警備体制がまた一段と強化されたようですが、こういったテロ活動をきちんと報道することにより、市民も「テロ防止のためならば警備の強化は当然である。むしろ自分たちも積極的に協力したい。」と思うようになると思います。

 今日(8月4日)、上海の西郊外→上海空港→北京空港→北京市内と移動しましたが、上海の西郊外から上海市内へ向かう時には高速道路に入るところでに警察官に車を止められてチェックされましたし、上海空港でも、空港に入る時と、飛行機に乗る時の2回チェックがありました。飛行機に乗るときの保安検査はいつもありますが、今日は特にチェックが厳しかったように思います。パソコンは開いて見せなければならないし、バックの中も開けられて、何回もレントゲン装置を通されました。北京市内でも、主要な道路には、数十メートルおきに警官が立っている、という感じで、警備の厳しさを感じました。

 何はともあれ、これ以上、何事もなく、無事にオリンピックが終わればよいなぁ、と思います。

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2008年8月 3日 (日)

「張りボテ」の街

 今日(2008年8月3日:オリンピック開幕まであと5日)の北京は、朝から雲ひとつない快晴でした。今日(8月3日)の北京の大気汚染指数は35で、3日連続で50以下の「優」となりました。ただ、午後になってだんだんと汚染が戻ってきた感じで、ややかすんだ感じが強くなってきたので、明日(8月4日)の大気汚染係数はたぶん60~70程度になるでしょう。それでもまだ昼間は太陽を見ると「まぶしくて正視できない」という状況なので、「昼間、肉眼で日食観測ができる」状態の日が多いいつもに比べれば、大気汚染はかなり改善されているのは間違いないと思います。ただ、雨が降らないと大気中の汚染が蓄積されていってしまうので、開会式の8月8日に空気が澄んだ感じになるためには、もう一回くらい雨が降って汚染を洗い流してもらった方がいいと思います。

 昨日(8月2日)、開会式の2回目の「ドレス・リハーサル」がありました。8月1日には、北京-天津間の高速鉄道(最高時速350km)も開業しました。オリンピックの準備は万端整った、という感じです。北京の街の上空をヘリコプターなどが飛ぶことは普段は滅多にないのですが、ここ数日間は、結構、上空を飛んでいるヘリコプターの音を聞きます。上空からの警戒も強めている模様です。

 この週末から、街に「ボランティア・ステーション」が店開きし、学生らしい若いボランティアの人たちが、道順を教えたり、簡単な通訳サービスをしたりする活動を始めています。今日行ったホテルでは、ホテルに入る際に、金属探知器でボディチェックを受け、荷物の中身をチェックされたりしました。ただ、オリンピック取材のための外国人報道陣らしき人々もちらほら見掛けるようになりましたが、外国人観光客が増えた、という感じは、少なくとも私が見た感じではほとんどありません。街のボランティア・ステーションも、私が見ていた限り、利用する人はなく、ボランティアの人たちは手持ち無沙汰の様子でした。中国各地から中国人観光客が北京に集まっている、という雰囲気もありません。

 「新京報」の報道によると、このオリンピックで働くボランティアは総勢170万人なのだそうです。オリンピックを見に来る外国人客は約50万人と見積もられていますので、それに比べたら、圧倒的な数のボランティアです。ボランティアも「関係者」としてカウントすれば、この北京オリンピックは、観客よりも「関係者」の方が数が多い、ということになるのかもしれません。

(参考1)「新京報」2008年8月2日付け記事
「170万人のボランティアが各人それぞれの持ち場に就いた」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/08-02/011@084201.htm

 オリンピックのための準備として、大きな通りの歩道の脇の緑地帯のところには、たくさんの花が植えられたりして、かなりきれいです。大きな通りの街灯にはオリンピックの旗がはためき、多くの店では紅灯(赤いちょうちんのようなもの)をぶらさげたり、国旗(五星紅旗)を掲げたりして、雰囲気を盛り上げています。

 北京市内の建設工事は、粉塵を巻き上げないように、ということで、7月1日以降、中止されています。一部、工事が間に合わなかったところでは、7月になっても工事を続けていたところがありましたが、8月に入ったら、建設工事は完全に停止状態になっているようです。基本的に、作業を停止した工事現場では、工事中のゴミゴミしたところが道路から見えないように、オリンピックのスローガンなどが書かれた大きな「目隠しの覆い」で覆われています。ビル自体、工事の途中であっても、できるだけ「外壁」だけは完成させるように、との「指示」が出ていたようで、多くのビルでは、骨組みができたところで、内部の工事をやる前に外壁だけ先に設置するという工事をやっていました。

 ただ、それでもオリンピックが近づいて工事停止期間になるまでに外壁設置工事が間に合わず、現時点でも外壁が完成していないビルがいくつかあります。下記の写真はいずれも昨日(2008年8月2日)に撮影したものです。これらのビルは、パラリンピックが終わるまで、基本的にこのままの状態が保持されることになるのだと思います。

(参考2)外壁が一部しか完成していないビル
http://homepage3.nifty.com/itaru_watanabe/HEX/ichibukansei.jpg

(参考3)外壁はほとんど完成しているが、最上部だけが未完成のビル
http://homepage3.nifty.com/itaru_watanabe/HEX/saijoubu.jpg

(参考4)外壁設置がほぼ完了した中国中央電視台の新しい本社ビル
http://homepage3.nifty.com/itaru_watanabe/HEX/cctvshinhonsha.jpg

※中国中央電視台の新しい本社ビルは、斜めに傾いた四角柱がねじれた位置でくっつている、という非常に奇抜な格好をしています。内部も含めたビルの完成は2009年になるとのことですが、このオリンピック期間中、この新しいビルの一部を早くも使い始めるとのことです。

 中身がまだ完成していなくても、外面だけきれいにして、見た目を美しくしてお客様をお迎えする、というのが中国的美学なのだそうです。これを「メンツにこだわる」と見る人もいますが、「文化の違いの問題」なので、あまり批判はできないと思います。しかし、建設途中のビルについては、外壁だけくっつけた「張りボテ」なのがミエミエです。私の個人的な感覚からすると、こういった「張りボテ」がいくつかあると、本当は中身がきちんとしているものについても、「どうせ張りボテだろう」と軽く見られてしまい返ってイメージを損なうのではないか、と思ってしまいます。

 中国は、今回のオリンピックを迎えるにあたっての北京の街並みに限らず、いろいろな面に関して、「(中身はともかく)表面に見えるところをきちんとする」という傾向があります。これについては、その表面を見て中身もきちんとしていると思ってしまう人は中国の能力について過大評価してしまうし、表面を見て「どうせ表面だけで中身はないのだろう」と思ってしまう人は中国の能力について過小評価してしまうと思います。いずれにせよ、中国は、外部から正しく理解されない、という結果になってしまいます。

 オリンピックを控えて、外国メディアが中国についていろいろ報道していますが、普通の国のメディアは「まず疑ってかかる」ところから始まりますので、外国の報道陣には、上記の分類でいうと後者の見方をする人の方が多いと思います。そのため、本当は中国はきちんとやっているのに「きちんとやっていないのではないか」という疑いの目で見た報道がなされることが多いと思います。これは中国にとって損だと思います。街のビルを「張りボテ」状態にして、いかにも「完成した」かのように見せるよりも、普段着のそのままの北京を見てもらった方が、「世界に中国を理解してもらう」という観点では、得だと私は思います。

 上記(参考1)の「新京報」の記事によると、ボランティア170万人のうち20万人は「応援団」(中国語で「拉拉隊」)なのだそうなのです。彼らのことを「ボランティアの応援団」と呼ぶか、「会場を盛り上げるためのサクラ」と呼ぶかは人によってマチマチだと思いますが、これも一種のオリンピック会場における「張りボテ」の一種と言えるかもしれません。

 これからオリンピックが始まって、北京と中国のいろいろな面が世界に報じられると思いますが、そうした中国報道を受け取る世界の人々の側にも、それが「張りボテの表面」なのか、本当に中国の真の姿なのか、を見極める「目」が要求されることになると思います。

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2008年8月 2日 (土)

「彼ら」は喜びと同時に忍耐が必要

 今日(2008年8月2日:オリンピック開幕まであと6日)の北京は、朝から「スカッとした快晴」で、正真正銘の青空でした。東京の青空に比べると、ややかすんだ感じがあり、明らかに汚染があることがわかるのですが、これくらいならばマラソンをやっても大丈夫でしょう。雨が降ったのが一昨日の夜ですから、汚染が戻ってくるスピードは確かにいつもよりは遅くなっていると思います。こうした感じで、時々雨が降って汚染を流してくれれて、汚染が戻ってくるのが遅ければ、オリンピック期間は大気汚染を気にせずに済みそうです(ただ、こういうふうに「スカッと晴れる」と、やはり8月ですので、太陽の日差しが強く、日中はかなり気温が高くなるので、屋外競技の場合、むしろ「暑さ対策」が課題になりそうです)。今日(8月2日)の北京の大気汚染指数は34で、昨日に引き続き「優」でした。

 さて、広州で発行されている週刊新聞「南方周末」(北京でも買えます)(日本語表記は「南方週末」)の7月31日号の1面トップは「北京人のオリンピック・カウントダウン」という記事でした。

(参考)「南方周末」2008年7月31日号記事(ネット上では8月1日11:22アップ)
「北京人のオリンピック・カウントダウン」
http://www.nanfangdaily.com.cn/nfzm/200807310063.asp

 この記事では「全てはオリンピックのために、北京人は犠牲と日常生活とを調和させようとしている。彼らは喜びとともに忍耐も必要とされている;それに同意することを求められているのである。」という書き出しで始まり、北京で起きている様々な現象をレポートしています。内容的には、日本などでも報道されていることと同じような話です。笑えるようで笑えない話もあります。ポイントを書くと以下のとおりです。

・ある青年は「オリンピックのためには一生懸命やらなくちゃいけない」と思った。インターネット掲示板で、車のナンバープレートの偶数奇数制限に対応するための呼びかけがあったので、それに参加した。たまたま自宅近くの「妙齢の」女性と職場方向が一致していることがわかった。7月23日からこの青年はその女性と相乗りをするようになったが、6回目の相乗りの後「何も批判されることなどやっていないのに、その女性のお母さんに怒られてしまった。」

・ある人は普段は奇数番号の車で通勤しているが、偶数番号の日は使えないので、近くに住む同僚と相乗りを計画していた。しかし、当日になったら、その同僚の奥さんが急に車を使う必要が生じて、「相乗り出勤計画」は破綻してしまった。

・ある人は、普段は車で約1時間掛けて出勤していたが、バスを使うと通勤に2時間掛かってしまうので、職場近くに住む人と相談して、規制期間中だけ、住む家を「取り代えっこ」した。

・ある不動産屋によると、マンションの大家さんの90%は、部屋をオリンピック期間中の短期貸し出しを計画しているとのことである。中には自分が住んでいるマンションを貸し出そうとしている人もいるとのことである。オリンピック・スタジアム(鳥の巣)の近くのマンションでは、2部屋138平方メートルの部屋を月額7万元(約105万円)で貸し出すところもあるとのことである。

・金属、建築材料、石油化学等の重点企業においては、オリンピック期間中の一時的な生産停止と排出削減案が提示されている。北京市の人材紹介所もオリンピック期間中は全て停止される。ある服飾ショッピング・センターでは、オリンピックの柔道とテコンドウの試合会場に近いことから、9月まで営業を停止することになった。ある地方から来た関係者は「オリンピック期間中は帰省して両親と会うのも悪くはないけれども、1~2か月してからお客が戻ってきてくれるかどうか心配だ」と話していた。

・ある美容室では、人気のあるエステ・サービスを停止することにした。このエステ・サービスに必要な液体材料が日本から輸入できなくなってしまったからだ。

 この記事で印象に残ったのは「北京人のカウント・ダウン」という見出しと、「『彼ら』は喜びとともに忍耐も必要とされている」という表現振りです。この「南方周末」は、広東省の広州で発行されている新聞ですが、自分の国でオリンピックが行われようとしているのに、まるで「他人ごと」のように報じているからです。これは、オリンピックの試合が行われる都市以外に住む中国の多くの人の気持ちを代弁しているのかもしれません。

(注)オリンピックの試合が行われるのは、北京のほか、セーリングが行われる青島、馬術が行われる香港、サッカーが行われる天津、秦皇島、瀋陽、上海の合計7都市です。広州では何も行われません。中国で普通「3大都市」と言えば、北京、上海、広州ですから、広州で何もオリンピック競技が行われないことは広州の人にとっては面白くないのかもしれません。

 ただ、救いなのは、こういった「広州の人々のなんとはない不満」が見え隠れする新聞が広州で発行され、それが北京の新聞スタンドで簡単に買える、という事実です。現在の中国では「締めるべきところは締めて」いるのですが、それ以外のところでは意外にルーズなところ(抜け穴)があり、「ギズギスした締め付け」が必ずしも徹底していないところがあります。これが適当な社会の「安全弁」になっているような気がしています。今、社会のいろいろな階層で不満がうっ積していると思います。1989年には、そういった不満をうまく「ガス抜き」することができずに「爆発」するところまで言ってしまったのですが、今の中国では、最後の最後は、適当なところで「安全弁」が働くのないかという気がしています。

 最近、今度の北京オリンピックを通じて、その「安全弁」の数が増えてきているのではないか、そんな期待を私は持ち始めています。

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2008年8月 1日 (金)

BBC中国語版サイトへのアクセス規制解除

 今日(2008年8月1日:オリンピック開幕まであと7日)の北京は、天気は曇りでしたが、朝から空気がスッキリして、遠くのビルまでハッキリと見えました。昨日の夕方から夜に掛けて、かなり強い雨が降ったので、汚染が洗い流されたようです。このスッキリした空気は夕方まで続き、時々雲間から差してくる太陽の日差しには「ここは北京か」と思わせるほどの輝きがありました。この状態を維持することができれば、大気汚染に関しては、オリンピックは全く問題なく運営できると思います。問題は、明日以降、汚染が戻ってくるかどうかです。今日(8月1日)の北京の大気汚染指数は27の「優」でした。昨年(2007年)は大気汚染指数が30以下の日は8日しかなかったのですから、この状態がもし続くようだとすると、それは素晴らしいことです。交通規制などの対策が功を奏したということになると思います。

 さて、昨日(7月31日)夜、イギリスBBCのホームページを見ていて、今まではアクセス制限によって見ることができなかった中国語版のサイトが見られるようになっていることに気が付きました。

(参考1)BBCホームページ中国語サイト(簡体字版)
http://news.bbc.co.uk/chinese/simp/hi/default.stm

 多くの方が御存じのように、中国大陸部(注)では、中国にとって「好ましくない」と思われるサイトへのアクセス規制を行っています。俗に「金盾」とか「防火長城」とか「グレイト・ファイアーウォール・オブ・チャイナ」とか言われるシステムです(最後のものは「万里の長城」を英語で「グレイト・ウォール・オブ・チャイナ」ということに引っかけた一種の「シャレ言葉」です)。このインターネット規制システムにより、中国大陸部からは、イギリスBBCのサイトは、長い間、トップページは開けるけれども、項目をクリックしても中の記事は読めない状態が続いていました。ところが、今年(2008年)3月中旬、チベット騒乱に関する中国にとってあまり「好ましくない」報道が続いていたにもかかわらず、BBCのサイトはトップページだけでなく、個々の記事も読めるようになりました。しかし、BBCのページにある中国語のサイトへはその後もアクセスできない状態が続いていました。

(注)1997年7月に中国に返還された香港は、今でも、この「ファイアーウォール」の外側にあり、香港では日本と同じように、好きなところへアクセスすることが可能です。今年4月、私は1日のうちに広東省深セン-香港-北京と移動したことがあるのですが、その際に実際にネットにアクセスして確認しました。その経験によると、香港では日本と同じように自由にアクセスできるのですが、数キロしか離れていない深セン市では、北京と全く同じような規制が掛かっていました。深セン市と香港との間に、この「ファイアーウォール」が設置されているのは明らかでした。

 ところが昨晩BBCページの中国語サイトへアクセスしたら内容を見ることができたのです。このアクセス規制解除はごく最近に行われたもののようです。このページには「網上互動」という名前の掲示板があるのですが、この掲示板にもアクセスできます。掲示板の発言者が自分で書いているところによれば、発言者のいる場所はイギリス、大陸、香港、台湾など様々です。大陸と台湾の人が中国語で同じ掲示板に書き込みができる、というのは、これは非常に画期的なことです。

 また、中国語ウィキペディアも長らくアクセスできませんでしたが、今、確認したら、北京から中国語ウィキペディアへもアクセスできます(今見た中国語ウィキペディアの記述を見ると、今日(8月1日)、中国語ウィキペディアへのアクセス規制が解除になったようです)。日本にいた頃に見たことのある中国語ウィキペディアの記述に、次のようなものがありました。「このウィキペディアは、多くのネットワーカーからの書き込み・編集により知識が蓄積されていく。世界の多くの言語の人々がこうして知識を高め合っているのに、中国語ウィキペディアに関してだけは、大陸からのアクセス制限により、台湾等大陸外からの書き込み・編集しかできず、大陸側からの見方が書き込まれないので、中立な立場での知識の集積ができない。中国語を用いる全ての人々の英知を結集できないことは非常に残念である」。私もこの記述を書いた人に大きな共感を覚えました。

 今回、オリンピックを機会にして、こうしたアクセス規制の解除が広がったことにより、インターネットの世界での情報交流が進み、中国大陸の中の人が外の情報を知ることができると同時に、大陸の外の人が大陸の人の声をネットを通じて知ることができるようになるのは素晴らしいことだと思います。

 なお、日本語ウィキペディアについては、アクセス規制が掛かったり解除されたりしています。理由は不明です。昨年(2007年)4月、私が北京に来たときには日本語ウィキペディアにはアクセスできませんでした。しかし、昨年6月中旬~9月中旬の約3か月間、このアクセス規制は解除されました。ところが昨年9月中旬にまたアクセス規制が掛かりました。その後、今年(2008年)4月上旬、再びアクセス規制が解除され、記事が見られるようになって今に至っています。ただし、日本語ウィキペディアでも中国にとって非常にセンシティブな単語については、その単語の記事についてだけアクセスできません(アクセスしようとすると、ウィキペディア自体へのアクセスが制限されてしまい、数分間、ウィキペディアの全てのページを見ることができなくなります。数分経つと、センシティブではない単語については、見ることができるようになります)。

 北京の中心部にある有名な毛沢東主席の肖像が架かっている門の前の広場で起こった事件には、1976年に起こった事件と1989年に起こった事件の2つがありますが、1976年の事件についてはアクセスできるのに、1989年に起こった事件についてはアクセスできない、という状況が現在でも続いています。

 アクセス規制が解除された中国語ウィキペディアでも、そういったセンシティブな単語については、アクセスが規制され見ることができないようです。

 なお、現在、中国国民党のウェブサイトは、台湾にありますが、これだけ中国共産党と中国国民党との融和ムードが高まっている現在でも、北京からはアクセスできません。

(参考2)中国国民党のホームページ
http://www.kmt.org.tw/

 一部のウェブサイトに対するアクセス制限は残っているとは言え、ウィキペディアや大陸の外にサーバーを置いてある掲示板系へのアクセスが解禁になったことは画期的です。そういった大陸の外にあるサーバーを通じて、大陸の人々が大陸の外の人々と「議論」ができるようになったからです。中国国内にあるサーバーにある掲示板では、一定の枠を超えた意見(端的に言えば中国共産党に対する批判的な意見)は管理人によって削除されてしまうので、一定の枠を超えた議論はできません。中国では「中国共産党による指導」が憲法で規定されており、その憲法に違反するような言論は「法律違反」となってしまうからです。大陸の外にサーバーを置く掲示板を使えば「枠を超えた議論」ができてしまうわけなので、これは結構影響が大きいのではないかと思います。

 なおCRI(中国国際ラジオ局)のホームページによれば、昨日(7月31日)、北京オリンピック組織委員会の孫偉徳氏は、外国メディアによるインターネット利用の便宜を図る、とした説明の中で「わずかだがアクセスできないサイトがある。それはそのサイトが中国の法律に違反しているからだ。各国のメディアは中国の法律を尊重することを願う。」と語ったとこのとです。

(参考3)中国国際ラジオ局(日本語版)2008年7月31日記事
「北京五輪、海外メディアのネット利用に便宜」
http://jp1.chinabroadcast.cn/151/2008/07/31/1s123112.htm

 これは、中国がインターネットのアクセス規制を行っていることを公式に認めた発言として注目されます。

 このように世界が注目し、世界のメディアが集まるオリンピックにおいては、中国としても「ハッキリさせるべきところはハッキリ言わなければ通らない」状況になっているからだと思います。私は、ハッキリいうべきことはハッキリ言って、例えばインターネットのアクセス規制をやっているのはきちんとした理由があるのだ、と説明して、むしろ中国の状況を世界の人々に知ってもらうことも重要だと思います。この北京オリンピックの開催を通じて、中国が、世界の人々と共通の基盤に立たなければ世界に中国のことを理解してもらえないのだ、ということを痛感し、世界の共感を得られるような行動に出るのだとしたら、それだけでもう北京オリンピックは成功したと言えると思います。

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2008年7月31日 (木)

開会式リハーサルと緊急追加規制の発表

 今日(2008年7月31日:オリンピック開幕まであと8日)の北京は、朝のうち霧で視界が悪かったのですが、お昼頃には薄日が差し、夕方から夜に掛けては雨が降る、という不安定な一日でした。気温が30度に届かず、気温的には過ごしやすい1日でした。今日(7月31日)の北京の大気汚染指数は69で、昨日予想したよりは若干よかったようです。朝は視界が悪かったのですが、「真っ白い視界の悪さ」だったので、これは汚染ではなく霧だったのでしょう(スモッグの場合は「真っ白」ではなく、やや茶色がかった感じがするので、何となくわかります)。

 昨夜、かなり強い雨が降り、今朝はやや気温が低かったので、たぶん昨晩寒冷前線が通過したのではないかと思います。「たぶん」と書いたのは、中国では、新聞やテレビの天気予報に高気圧や低気圧、前線などの天気図が登場しないので、「想像」するしかないのです。詳しくはよく知りませんが、気圧配置も気象情報のひとつなので、「国家機密」扱いになっており、基本的には公表しない、という方針なのだろうと私は思っています。

 昨日(7月30日)夜、オリンピック・スタジアム(通称「鳥の巣」)で、開会式のリハーサルがあったそうです。リハーサルをやる、という話を私は知りませんでした。今朝の新聞を見て始めて知りました。開会式のプログラムの秘密を保持するため、リハーサルをやるスケジュール等は公表していないようです。

 新聞では「彩排」とありましたので、いわゆる「ドレス・リハーサル(本番と同じ衣裳を付けて行う最終的なリハーサル)」だったようです。このリハーサルは開会式の入場券を持っている人やボランティアなど7万人が「観客」として参加しました。この参加人数で、「鳥の巣」の観客席は8割方埋まったのだそうです。大勢の人が参加するために、開会式の演目の内容が漏れる恐れがありましたが、撮影ができる機器は持ち込み禁止、見た内容は知人に対しても口外禁止、漏らした者は法律に基づき措置される、という「おふれ」が出ていたのだそうです。新聞記事によると、秘密を口外しない、といった契約のようなものは交わしていなかったのだそうで、いったい何の法律に基づいて「措置」されるのかは、よくわかりませんでした。開会式のプログラムの内容は、商業秘密でもないし、漏洩を処罰する法律などはないと思います。まさか「国家秘密保護法」を適用するわけにはいかないと思うのですが。

 このリハーサルについては、一部の外国メディアがリハーサルの内容を撮影して報道して、オリンピック委員会や中国国内の多くの人から非難を浴びているとのことです。興味本位の報道合戦もいいですが、興醒めなことはやらないで欲しいと思います。

 このリハーサルで、演目に関する秘密漏洩の恐れがあったにもかかわらず、大勢の観客を入れたのは、やはり観客の誘導等について「ぶっつけ本番」でやるわけにはいかない、と考えたからでしょう。私は、イベントが終わった後にお客を帰す足の確保が一番問題ではないかと心配していました。その点は、担当当局もわかっていたようで、昨日のリハーサルではバスをフル回転させて、約40分間で7万人以上の観客をスムーズに帰宅させることができた、とのことでした。

(参考1)「新京報」2008年7月31日付け記事
「オリンピック開会式ドレス・リハーサル、7万人が『人より先に見られて嬉しい』」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/07-31/018@073238.htm

 こういったリハーサルは結構入念に行っているようですので、観客の移動などでは問題は起きなさそうです。後はダフ屋とか「黒車」(無許可タクシー)とか「不法のやから」がどれだけ暗躍するかだと思います。オリンピック・スタジアム周辺は、相当に警備が厳重なので、こいった「不法のやから」も出現する余地はないのかもしれません。

 それより今日(7月31日)の新聞を見てびっくりしたのは、今後48時間以内に大気汚染の悪化が予想される場合には、これまで北京市内で実施している偶数・奇数のナンバープレート制限に加えて、緊急追加規制措置を講ずることとする、との発表があったことです。「緊急追加規制措置」の内容は以下のとおりです。

・北京市内では、偶数・奇数制限に加えて、ナンバープレートの下1桁の数字がその日の下1桁の数字と同じ車は通行を禁止する。

・天津市(北京市の南東側に隣接している)でも偶数奇数番号制限を実施する。天津市内の56の石炭火力発電所、石炭火力熱供給ステーション、建築材料、化学、機械電気のうち揮発性有機物や微粒子などの汚染物を放出する生産工程をストップさせる。

・河北省(北京の隣の省)では4つの都市(石家庄、保定、廊坊、唐山)において7時から22時まで奇数偶数交通規制を実施する。その上、これら4都市の61の揮発性有機物や微粒子、悪臭などを放出する企業を一時的に操業停止にする。また、張家口、承徳、石家庄、唐山等の小規模鉄鋼工場において大幅な減産を行う。大型鉄鋼工場においては、状況を見て減産を行う。

(参考2)「新京報」2008年7月31日付け記事
「今後2日間大気汚染指数が基準を超えそうになったら、自動車の運行をさらに10%制限」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/07-31/018@072119.htm

 北京市以外で車の偶数奇数規制を行う、という話は私は始めて聞いた話です。天津市や河北省の人たちはこういうことがあり得る、ということは知っていたのでしょうか。おそらく北京市における車の規制による大気汚染の改善が思っていたほどに効果が上がらないので、「奥の手」を出してきたのでしょう。天津市や河北省の人にとっては「寝耳に水」の話だと思います。オリンピック開始の一週間前になって、こういう措置をやる、と急に発表する、というのは、いくら中国だとは言っても、ちょっと乱暴な気がします。一昨日の記者会見では、北京市環境保護局の担当副局長は「汚染物質は確実に減少しており、追加的措置は必要ない。」と言っていたばっかりでした。この緊急措置の発表は、たぶん、北京市の責任範囲を超えた国レベルの「上の方」からの指示なのでしょう。

 汚染を出す工場を一時的に停止する、とひとことで言っていますが、これは社会的影響はかなり大きいと思います。発電所や鉄鋼工場は、経済を支える部門ですから、経済活動全般に影響を与える可能性もあります。かなり市場経済化が進んで来たとは言え、中国ではまだまだ国有企業が多いので、こういった「中央政府の指示で工場を停止する」ことが、法律の根拠がなくてもできてしまうのだな、と改めて感じました。こういうふうに、市場原理とは全く別の世界で、政府の命令でコストを背負い込まされることがあり得ることが、国有企業になかなかコスト意識が育たない原因なのだと思います。

 これらの措置を講じて、北京の大気汚染がどれだけ改善するのかはわかりません。オリンピックのためにあまり無理なことを強制すると反発が出るのではないかと心配になります。北京の交通規制だけで、既に相当に無理をしているのですから、これ以上の無理はせずに、ある程度の大気汚染があったらあったなりで、オリンピックを運営した方がよいのではないかと思います。「無理」を重ねるごとに中国の人々自身が「オリンピックを楽しむ」という気分からは遠のいていってしまうように思えるからです。

 北京に来る外国人の数が以前に予想したほどには多くないようですので、少なくとも中国の人たちにとっては楽しめるオリンピックであって欲しいと思います。

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2008年7月30日 (水)

北京オリンピック会場では横断幕は禁止

 ここのところ夏休みの宿題の日記のように、毎日「今日の北京の天気は・・・」と書いていますので、今日もそこからスタートしましょう。今日(2008年7月30日:オリンピック開幕まであと9日)の北京は、曇りで、朝方は空気が比較的きれいだったのですが、午前10時頃からだんだんかすんだ感じが強くなり、午後には視界が2km程度の「いつもの白い空気」に戻りました。昨日の午前中の雨で空気がきれいになりましたが、雨による空気の清浄効果は24時間は保たないようです。車の数は確かに偶数奇数規制により数割程度は減っていると思うし、工場の操業停止などもやっていると思うので、雨が降っても復活してしまうこの大気汚染の元は、いったいどこから来るのでしょうか。天津市や河北省から流れてくるのでしょうか。

 今日(7月30日)の北京の大気汚染指数は43の「優」でした。大気汚染指数は前日のお昼の12時から当日のお昼の12時までの24時間の観測値の平均値なので、確かに昨日(29日)の午前中に降った雨の影響で、昨日の午後から夜に掛けてと、今日(30日)の明け方までは空気はきれいだったので、今日の汚染指数が43だったのはそれなりに納得できます。今日(30日)は午後から汚染が戻ってきたので、明日(31日)の大気汚染指数は(夜の間と明日の午前中の状況次第ですが)70~80といった程度になるのではないかと思います。「基準」では「100以下は青空」と定義されていますが、汚染係数が80程度の日は「スッキリ晴れた」というイメージではありません。どうやら、こんな状態のまま、オリンピックが始まりそうです。オリンピックが始まれば、毎日北京からの中継を日本の方も見ることになると思うので、どんな感じかは日本の方々も毎日テレビの画面で確認できることになるでしょう。

 さて、既に日本でも報道されているとおり、今回の北京オリンピックでは、ただ観戦するだけでもいろいろな規制があって結構やっかいです。警備上の都合や安全の確保のためのものもあるのですが、政治的な「もめごと」を避けるための規制もあります。観戦会場にビンや缶類を持って入ってはいけない、といった類のものは、安全上の配慮から納得できますが、「横断幕は一切禁止」というのは、ちょっと違和感があります。

 「新京報」などでは、この観戦ルールが発表された時、「中国がんばれ!」(中国語で「中国、加油!」)といった横断幕もダメだそうです、などと表現して、暗に「規制のし過ぎ」について批判したように読める文章の記事を掲載していました。観戦ルールを作った担当者によると「オリンピックは国際大会なので『中国、加油!』などと横断幕に書いても世界の人にはわからず『世界は一つの大家族だ』という雰囲気を壊してしまうので、ダメなのだ。」といったわかったようなわからないような理屈で、横断幕がダメな理由を説明していました。

(参考1)「新京報」2008年7月23日付け記事
「『中国がんばれ!』の横断幕も試合会場には持ち込み禁止」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/07-23/039@073857.htm

 要するに、外国語で政治的なスローガンの横断幕を掲げる人が出た場合、それを取り締まることが難しいため、一律に何が書いてあっても横断幕は禁止、ということにしたのだと思います。「環境を保護しよう」とか「動物愛護!」とかいう横断幕もダメなのだそうです。素直に応援したいと思っている観客とそれを認めない管理者との間でもめごとが起きないとよいがなぁ、と私は思っています。一般の中国の人の感覚からすると、応援したい中国の選手の名前を書いた横断幕や「中国がんばれ!」と書いた「愛国的な」横断幕がなぜダメなんだ、と感じるだろうと思うからです。

 一方で、当局から、市内の3つの公園(世界公園、紫竹院公園、日壇公園)を「デモ許可区域」として指定し、そこではデモをやってもよろしい、という発表がありました。この発表の真意についてはいろいろな憶測が流れているようです。法律に基づき「デモ許可区域」の公園でもデモをやるためには事前許可が必要ですので、「デモ許可公園の設置」は、むしろ「これらの公園以外ではデモは一切禁止である」ことを明示するためのものだ、という解釈をする人もいます。限定された公園の中だけで、それなりに批判的なデモも認めて、外国メディアに対して「ほら、こういったデモも認められていますよ。」とアピールするためのものだ、と考える人もいます。

(参考2)「財経網」2008年7月23日16:07アップ記事
「オリンピック期間中、北京で三か所のデモ地点を開設」
http://magazine.caijing.com.cn/20080723/76050.shtml

 いずれにせよ、「デモ行進」というものは、「街行く人に自分たちの主張をアピールするためのも」ですから、閉じられた公園の中でデモをやっても、デモを主催する側としては単なる自己満足にしかなりません。「閉じられた公園の中でデモをやりたい」と思う人がいるのかどうかわかりません。「これだけのデモを許可している」ことを外国の報道陣に見せるための官製の「やらせデモ」があるのではないか、と見る人もいますが、どうなるかはわかりません。いずれにせよ、この「デモ許可公園」をした当局側の意図は、私にはよくわかりません。

 いろいろな面で、今回の北京オリンピックは、「世界標準」と違うところがあるので、それが原因でもめごとが起こらなければよいなぁ、と思っています。特に、私としては、オリンピック期間中、中国の法律をよく知らない外国の人が、許可なくプラカードや横断幕や旗を持って街を歩いて、中国の公安当局とトラブルを起こさないとよいがなぁ、とちょっと心配しています。

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2008年7月29日 (火)

北京の大気汚染指数は「作って」はいない

 今日(2008年7月29日:オリンピック開幕まであと10日)の北京は、午前中に雷雨があり、午後から晴れてきましたので、空気がだいぶきれいになりました。午後、太陽が出てきた時には、太陽がまぶしくて肉眼では直視できない程度にはなっていました。(とは言え、雨が降った後でも、何となくぼんやりかすんだ感じで、私が先週、東京で見たスカッとした夏の青空とはやはり違う感じでした)。

 ここ数日間スモッグがかなりひどかったことについては、多くの北京市民も「交通規制については、オリンピックだからしかたがない、と思って不便な思いを我慢しているのに、どうなっているんだ」という不満が募っていたようです。今朝の中央電視台の朝のニュース「新聞天下」では、こういった一般市民の不満をなだめるように、気象の専門家は、オリンピック期間中は「サウナ・スモッグ」が持続するようなことはないと言っている、というニュースを伝えていました(「サウナ」は中国語では「桑拿」(音訳))。

(参考1)中国中央電視台ホームページ2008年7月29日「新聞天下」のニュース
「北京ではオリンピック期間中に『サウナ・スモッグ』が持続することはあり得ない」
http://news.cctv.com/china/20080729/100279.shtml

 ただ、逆に言うと、このテレビのニュースは、多くの人が、ここ数日間の北京の天気を「サウナ・スモッグ」だと思っていた、ということを表していると思います。オリンピック期間になったら「サウナ・スモッグ」が持続しない理由として、このニュースでは、8月7日が立秋であり、北京では立秋以降は毎年爽快な日が多くなるから、という説明をしていました(あんまり説得力のある説明ではないと思いますが)。

 また、今日の「新京報」では、こういった一般市民の気持ちを代弁してだと思うのですが、北京市環境保護局副局長で同局スポークスマンの杜少中氏への単独インタビュー記事を載せていました。

(参考2)「新京報」2008年7月29日付け記事
紙面上の見出し「北京の大気汚染指数は『作られた』ということはない」
ネット上での見出し「大気汚染は健康に影響を与えるものではない」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/07-29/039@073737.htm

 杜少中副局長が言っていることの中心は「今年の7月は去年の7月よりは北京の大気汚染の状態は良くなっている」「7月下旬はたまたま汚染物質が拡散しにくい不利な気象条件になっているだけ」「大気汚染の程度は視界が悪いことだけではなく科学的データに基づいて判断して欲しい」といった今まで何回も記者会見で述べてきたことの繰り返しでした。ただ、新しい点として、次の二つを言っていました。

・7月28日は汚染指数が96で100を下回っており、29日は雨が降る予報が出ているので、改善の兆しがある(実際、29日には雨が降って、大気汚染はかなり改善しました)。

・(「新京報」の記者が「一部の外国メディアが、大気汚染指数100前後の日では、100という境界線をちょっと下回る日が不自然に多く、汚染指数が一定の値を越えた日の数が『修正』されているのではないか、と疑問を投げかけているが、これについてどう考えているのか、と問うたのに対し)北京では科学的事実をもって大気汚染問題に対処しているのであり、「虚偽をもてあそぶ」といった不誠実な言葉を使うことは、自分で自分のボロを出すのと同じである。

 日本のメディアの報道によると、杜少中副局長は7月10日の記者会見で「汚染指数が100を越えそうな日は、観測点周辺で(工場を停止するなどの)応急措置を取る」と答えています。確かにデータをねつ造しているわけではないのですが、この発言を捉えて日本のメディアは「大気汚染指数が基準内だった日の日数を人為的に操作」といった表現で報じたわけです。上記の「新京報」の記事の紙面上での見出しは「汚染指数は作られたわけではない」(中国語で「北京空気汚染指数不存在作假」)となっています。汚染指数が基準値を超えそうな時は、観測点周辺の工場の操業を停止するなどの措置は、「ニセのデータを作る」ことではないので、杜少中副局長の発言は確かに「ウソ」ではありませんが、中国語独特の修辞術を使った「ごまかし」であると言われても仕方がないと思います。紙面で使われた「不存在作假」という見出しがネット記事の報では削除されてしまったのは、こういった「ごまかし」があからさまにならにように、との配慮によるものと思われます。

 通常、中国のスポークスマンは「ウソ」は言いませんが、外国メディアに対する時と中国のメディアに対する時とで微妙に言い回しを変えることがあります。中国のメディアは「党の舌と喉」ですから、スポークスマンが言わんとすること(あるいは言いたくないこと)を忖度(そんたく)して、ウソにならない範囲で記事を作ります。そのため、同じスポークスマンの発言でも、外国メディアと中国のメディアとでは、ほとんど正反対の印象を読者に与えることがあります。「新京報」の記者は、中国の他のメディアでは取り上げていない「大気汚染指数を操作しているのではないかとの疑惑」をあえて取り上げ、そこを突っ込んで質問した、という点で評価されるべきなのでしょう。「新京報」の記者に「汚染が基準を超えそうになったときに、緊急に観測点周辺の工場の操業を停止させるのは『大気汚染指数の基準を超える日の数を操作している』と言われても仕方がないのではないのか。」と質問することまで期待することは、今の中国では無理なのでしょう。

 中国側がオリンピックのために一生懸命大気汚染改善のために努力をしているのに、西側のメディア(私のこのブログも含めてですが)が盛んに北京の大気汚染がオリンピックに影響を与えるのではないか、との憂慮を表す記事を書くので、新華社通信は相当頭に来たらしく、以下のような論評を配信しました。
 
(参考3)「新華社」ホームページ2008年7月28日13:02アップ論評
「マスクをしてオリンピックに参加する、というのは誇張のし過ぎ」(言立侖)
http://news.xinhuanet.com/comments/2008-07/28/content_8834302.htm

 この論評では、北京の大気汚染は10年前より相当に改善しており、今回のオリンピックに対しては北京市民が交通規制など大変な犠牲を払いながら大気汚染の改善を図っているのに、西側メディアは意図的に事実を歪曲して報道している、「選手はマスクをしてオリンピック競技に参加した方がよい」といった表現は誇張のし過ぎ、と指摘しています。北京の大気汚染が昔より改善していることも、多くの北京市民が犠牲を強いられていることも事実ですが、「西側メディアが歪曲報道をしている」という表現は相当に刺激的な論評です。まるで、外国で聖火リレーをやっていた時の「西側報道タタキ」を連想させるような言い回しです。中国のメディアではこういうような報道しかしないので、多くの中国の人々は「西側メディアは中国のことを正しく伝えていない」「世界は中国のことを間違って理解している」と思ってしまうのです。

 北京市環境保護局の「大気汚染指数が基準値を超える日の日数を少なくしようとして行った人為的操作」についての報道を「虚偽をもてあそぶ」と表現することが「正しい報道」であり、実際に肉眼で太陽が凝視できてしまうような白い空気の中でマラソンをすることが心配だ、と報じるのは「事実を歪曲した報道」である、といった認識を、もし中国の関係者の多くが持っているのだとしたら、私はいつまでたっても中国は世界の仲間には入れないと思います。

 北京の大気汚染指数は、昨日(7月28日)は96、今日(29日)は90でしたが、国家環境保護部のホームページでは、昨日の分の指数がずっと発表になりませんでした。普通は、毎日午後2時頃には発表になるのですが、今日の午後になって今日の分が発表になるまで、昨日の大気汚染指数は国家環境保護部のホームページでは見ることができませんでした。このホームページでは過去の大気汚染指数も検索できるので、今日の指数が発表になった後で、昨日の分を検索したら96だということがわかりました。システムのトラブルで昨日の時点でアップできかなかったのか、それとも意図的にアップしなかったのか、については不明です。

 中国では、大気汚染データの測定をはじめ、気象観測データの測定を行うには関係当局の許可が要りますので、外国の報道機関や研究者が勝手に大気汚染の観測を行うことは認められていません(気象観測データは「国家秘密」の扱いになっているためです)。ですから、国家環境保護部の観測データ自体が正しいのかどうか、誰もクロスチェックできないのも、外国の人からすると、何となく「ふに落ちない」ところです。せめてオリンピック期間中だけでも、外国の研究者は大気汚染観測を自由にやってよい、といったような措置を採ってくれれば、かなり信用の回復には効果があったと思うんですけどね。

 北京オリンピックは、こうした中国で現実に行われている様々なこと世界の面前にさらけ出した、という意味では、非常に意味のあるイベントだと思います。

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2008年7月28日 (月)

中国経済は既に「オリンピック後」に突入

 オリンピックまであと11日にせまり「いよいよ」の感じが強まってきています。オリンピック直前になったのに、まだ「きれいな青空」が出現しないのが気になりますが、中国政府にとっては「オリンピック後」の経済等の急激な落ち込みが気になるところです。

 今日(7月28日)、新華社通信は、最近、党中央と政府が相次いで最近の経済情勢に関する会議を開催したことを伝えています。

(参考1)「新華社」ホームページ2008年7月28日
「中国共産党中央、目下の経済情勢を深く検討~科学的発展の堅持は揺るぎだにしない~」
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-07/28/content_8783721.htm

 この記事によると、7月8日~11日に、中国政府の国務院は連続して3つの経済情勢に関する検討会を開催した、とのことです。一つ目は7月8日に開催した地方の責任者からの報告と意見を聞く討論会、二つ目は7月10日に開かれた経済学の専門家によるマクロ経済情勢に関する検討会、三つ目は7月11日に開催された専門家による金融及び不動産情勢に関する検討会です。

 これらの会議で、温家宝総理は、厳しさを増す国際的な経済情勢と甚大な自然災害によっても中国の経済発展のファンダメンタルズ(基本的な状況)は変わらない、としながらも、体制上・構造上の矛盾は依然として存在しており、インフレ圧力が大きくなっている等の新しい問題が生じている、と指摘しています。

 引き続いて7月15日と16日の二日間、半日づつかけて温家宝総理は、国務院常務会議を開き、2008年上半期の経済情勢の分析と下半期の経済政策について議論を行った、とのことで、この席で、温家宝総理は次のように強調したとのことです。

・直面する困難と問題を高度に重要視し、危機意識と憂慮の意識を強め、各項目の業務をしっかり行う自信を持たなければならない。
・中国は、今、戦略的に重要な時期に直面している、という認識は変えてはならない。
・企業の競争力と活力を絶え間なく向上させ、市場の変化に対応する能力を増強しなければならない。
・マクロ経済の調整能力は実践の中でこそ、さらなる改善と向上が図られるのである。
・2008年下半期における経済政策においては、安定的で比較的スピードのある経済発展を保持するとともに、マクロ経済調整のために最初にやるべき任務として物価の急激な上昇を抑制させ、真っ先に取り組むべき課題としてインフレを抑制することを位置付けなければならない。

 これらの発言は、株価の暴落や不動産価格の低迷によって多くの投資家たちが政府によるマクロ経済調整政策(景気の引き締め政策)に批判的になっているのに対して、温家宝総理は、今はインフレ懸念がありマクロ経済調整政策の基調は今後も継続させると宣言した、と取ってよいと思います。

 これらの会議と相前後して、この7月は、実に多くの国家指導者たちが、沿岸部等の中国経済の「機関車」となっている地区を相次いで訪問しています。列記すると以下のとおりです。

・陳徳銘商務部長:7月第1週、浙江省(温州、台州等)
・温家宝総理:7月4日~の6日、江蘇省蘇州、上海
・習近平政治局常務委員:7月4日~5日、広東省(深セン、東莞)
※この訪問は香港訪問の途上に行ったもの
・王岐山副総理:7月3日~5日、山東省(烟台、威海)
・李克強政治局常務委員・副総理:7月6日~8日、浙江省(温州、杭州等)
・呉邦国政治局常務委員・全国人民代表大会常務委員会委員長:7月7日~10日、内モンゴル自治区(フルンベル、満州里、オルドス、フフホト等)
・温家宝総理:7月19日~20日:広東省(広州、東莞、深セン)
・胡錦濤主席:7月20日、山東省青島
・賈慶林政治局常務委員・全国政治協商会議主席:7月21日~23日:天津

 これだけそうそうたるメンバーの国家指導者の方々がほぼ時期を同じくして各地を視察するのは極めて異例のことだと思います。行き先は呉邦国氏が行った内モンゴル自治区以外は、全て沿岸部の輸出型製造業の中心となっている地域です。オリンピックやオリンピックに対するテロへの警戒が話題になっていますが、現実世界の問題としては、中国経済が今曲がり角に来ていることの方が重要だと私は思います。

 2008年前半は、中国経済は人民元レートの上昇(ドル安と表裏一体の現象ですが)、原油価格の急騰による原材料コストの上昇、労働契約法の施行(2008年1月1日)に伴う労働コストの上昇、安全性の問題に対する各国からの懸念等が重なって、中国の輸出産業には大きなブレーキが掛かったことが上記の国家指導者の沿岸地域での視察に繋がっていると思います。上に述べたように温家宝総理がその講話の中で「直面する困難と問題を高度に重要視し、危機意識と憂慮の意識を強め」といった緊迫感を持った表現を使っていることからも国家指導者の中国輸出産業に対する危機意識が窺えると思います。

 7月17日に発表された国家統計局の数字によると、2008年上半期の中国経済は、GDPは対前年比10.4%の伸びを示しましたが、その伸び率は前年を1.8ポイント下回った、とのことです。また、2008年上半期の輸出額は6,666億ドル、対前年同時期比21.9%の増でしたが、この伸び率は前年に比べて5.7ポイント下落しているとのことです(輸入額は5,676億ドル、対前年同時期比30.6%の増で、逆に伸び率は前年を12.4ポイント上回った)。安い労働力による労働集約型輸出産業に頼って急成長してきた中国経済が、今、曲がり角に来ていることは間違いないと思います。

 それに加えて、昨年秋にピークに達した後、ピーク時の半分以下に落ち込んでしまった株価や昨年暮頃から見え始めていたマンション等の不動産販売の低迷が「株や不動産に投資していた金持ち層が消費を手控える」という形で実態経済にも影響し始めているのではないかと思われます。今年1月の寒波・大雪被害や5月の四川大地震は、自然災害としての被害は甚大でしたが、大きな中国経済全体から見れば、経済の基本を動揺させるほどのものではないとは見られています。しかし、特に四川大地震については、無駄な出費を控えるという形で、心理的な消費抑制効果の面で中国経済に影響を与えている可能性があります。

 最後の追い打ちが「期待していたオリンピック景気が実際はそれほどでもないらしい。」ということを多くの人が感じるようになったことだと思います。北京市内のホテルは、かなり高めの価格設定をしたこともあり、一部の高級ホテルを除いて、まだかなり予約が入っていないところが多いようです。7月11日の時点で北京市旅遊局の熊玉梅副局長が述べたところによると、この時点でオリンピック期間中の5つ星級ホテルの予約率は78%、四つ星級ホテルは48.5%、三つ星級、二つ星級でも予約が入っているのは半分以下だ、とのことです。

(参考2)「新京報」2008年7月12日付け記事
「オリンピック期間中のホテルの宿泊代は最高で4倍近くに高騰」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/07-12/011@025743.htm

 前々からオリンピックが終わった後は「オリンピック・バブル」が崩壊する、といった心配はなされてきましたが、それが現実のものになりそうな気配があることと、それに加えて中国経済の根本を支えている輸出産業にかげりが見え始めてきたことに対して、党と政府の指導者の方々はかなりの危機意識を持っているようです。上記のような国家指導者による輸出産業地域の視察と相次ぐ会議を踏まえ、(参考1)に掲げた新華社の記事によれば、まず7月21日に胡錦濤総書記は中国共産党以外の民主党派の幹部や無党派の知識人を招いた会議を開いて検討会が開催されたとのことです。胡錦濤総書記・国家主席は、この席で、次の6つのポイントを指摘したとのことです。

(1) 安定的で比較的スピードの速い経済発展を全力を持って維持すること。そのためには内需を拡大するとともに、対外貿易を安定的に発展させて、国際及び国内の両方の市場を十分に活用すること。

(2) 物価上昇のスピードを抑制すること。経済的な政策と法律による行政手段の両方を使って、供給量を増加させ、不合理な需要を抑制すること。特に食糧・食糧油・肉・野菜等の生活必需品の生産の増強に努めるとともに、市場の監視・監督を強化すること。

(3) 農業生産を着実に発展させること。品種のバランスに注意しながら、穀物の安定的な増産に努力すること。さらに一歩農業優遇政策を進めて、農業に対する補助金制度を強化し、農業生産コスト削減のための政策を採り、食糧生産農民の意欲を維持すること。

(4) 経済発展方式の転換を図ること。産業構造を変化させ、科学技術の進歩とイノベーションを積極的に推進し、全力で省エネ・汚染物質排出削減を図ること。

(5) 改革開放政策を継続すること。資本市場体系の整備を急ぎ、行政管理体制改革をより前に進め、対外開放を拡大すること。

(6) 人民生活を保障する業務を誠心誠意行うこと。地震災害に対する救援・復旧作業をしっかり行い、困窮する大衆と大学卒業生の就業対策をしっかり進め(注)、自然災害被災地区の労働者に就業機会を与えること。特に物価の上昇が低収入の大衆の生活レベルに影響していることに関心を払い、財政支出をもって人民生活を支え、低収入の大衆の生活レベルがこれ以上低下しないように努力すること。

(注)中国では2000年代初頭から大学生の数が急速に伸びたのに対し、中国の多くの企業は低賃金労働者を大量に雇用する経営形態から脱しておらず、大学卒業以上の高学歴者に対する求人はあまり多くないのが実態です。高学歴化は進んだのに、産業構造の変化がそれに追い付いていない、という人材の需給の面でのミスマッチが中国では問題になっているのです。

 これらの胡錦濤主席の指摘は、そのまま現在直面している問題点のポイントを突いていると思います。

 こういった認識に基づき、胡錦濤総書記は、7月25日、中国共産党中央政治局会議を開き、上記の認識に基づく現在の経済政策と今後の経済政策についての議論が行われました。そしてこの会議でこの10月に第17期中国共産党中央委員会第三回全体会議(第17期三中全会)を開いて、農村改革問題について検討を進めることが決められました。

 今年は、1978年にトウ小平氏が、それまでの「文化大革命」路線から大きく舵を切って改革開放路線を始めてから30年目に当たります。改革開放路線への転換を決めた会議が第11期三中全会だったのですが、この10月に開催が決まった第17期の三中全会も重要な会議になりそうです。オリンピックが終わったのを受けて、オリンピック後の次のステップの中国の歩むべき道を議論する会議になるだろうと思われるからです。

 中国経済が曲がり角を迎えた今、新しい時代を乗り切るには科学技術の面での「創新」(「より新しいもの・システム・制度を作る」という意味で技術的な「イノベーション」よりも幅の広い言葉)が必要である、という点について、最近、人民日報でもいくつかの論評が掲載されました。この点については、このブログに書かれていることと重複する部分もありますが、下記のページも御参照ください(下記の文章を書いたのはこのブログの筆者です)。

(参考3)科学技術振興機構(JST)中国総合研究センター
「JST北京事務所快報:2008年第7号」(2008年7月23日)
「2008年上半期の中国経済とイノベーション」
http://crds.jst.go.jp/CRC/newsflash/beijing/b080723.html

 今、世界のトップ・アスリートたちは、本番のオリンピックへ向けて、集中力を高めつつある時期だと思いますが、中国経済の実態と、それにうまく対処しようと考えている中国の国家指導者の方々の頭の中は、既に「オリンピック後」へ向けて始動し始めているようです。

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2008年7月27日 (日)

北京で追加的な交通規制を実施

 今日(7月27日)、オリンピック村の開村式がありました。まず中国選手団が入村し、日本選手団の一部も既にオリンピック村へ入ったとのことです。といったふうに、そろそろ「オリンピック直前」になりつつあるのですが、今日(7月27日)も北京は白い「かすみ」が掛かったような状態で、曇ってはいないのですが空が白い状態です。視界は700~800メートルといったところでしょうか。国家環境保護部の発表によると、今日の北京の大気汚染指数は113で、これで4日連続で「軽微汚染」になってしましいました。

 一昨日、このブログに車の偶数・奇数制限が始まったのに、車の量はあまり減っていないし、大気汚染もあまり良くなっていない、と書きました。

(参考1)このブログの2008年7月25日付け記事
「変わっていない!車の数も大気汚染も」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/07/post_5363.html

 こういった私の印象は、北京の一般市民も持っているようで、今日(7月27日)付けの北京の大衆紙「新京報」には、当局関係者の「言い訳」のようなものが載っていました。特に「車の量があまり減っていない」ことに関しては、北京市当局もさらなる対策を講じるとのことです。北京市内の交通規制は、大気汚染対策と観光客が渋滞に巻き込まれないようにするための対策だったのですが、市内の幹線道路のひとつである第二環状路(片道3車線)では、1車線の「オリンピック関係者用専用レーン」を設けたところ、先週(7月21日(月)からの週)、ナンバープレート偶数奇数の規制を始めたのに、今までと同じような渋滞が起きてしまいました。このため、北京市交通管理局では、第二環状路については、偶数奇数制限に加えて、随時、入り口を閉鎖して、車を入れない措置を新たに講ずることになった、とのことです。

(参考2)「新京報」2008年7月27日付け記事(1面トップ記事)
「第二環状路、渋滞したときは入り口を閉鎖」
http://www.thebeijingnews.com/news/beijing/2008/07-27/011@072344.htm

 北京市交通管理局の当局者は、7月20日からナンバープレートの偶数・奇数の規制を始めたのに交通量があまり減らず第二環状路で相変わらず渋滞が起きていることについて、以下の4つの原因があるのではないか、と推測しています。

(1) オリンピック車両専用レーンを設けたことにより一車線少なくなったこと。

(2) 過去にも国際イベントで交通規制を行ったことがあるが、多くは週末であったが、今回は平日の通常勤務時間帯も規制を行っていること。

(3) 偶数・奇数制限の期間が長い(2か月間)ことから、普段は2日に分けて行う業務を1日で済ませてしまおうと考える人が多く、結果的に1台の車が街へ出る回数が通常より多くなってしまったと考えられること。

(4) 第二環状路は、沿線にいろいろな機能を持った機関が集まっていて便利なことから、規制を始める前よりもかえって、あまり移動せずにいろいろな用が足せる第二環状路周辺地区に車が集まってしまったこと。

 渋滞が発生しそうな時には第二環状路への乗り入れ制限が行われる、となると、今度は第三環状路など、別の場所で渋滞が発生しそうです。渋滞が発生すると、それだけ自動車の排ガスの量は増えますので、結局のところ、オリンピックのための大気汚染対策として実施した車の偶数・奇数制限は、予想していたほどには効果が上がらないのかもしれません。

 車の数が減らないことと直接的に関係しているのかどうかはわかりませんが、ここ数日間、大気汚染係数が101以上の「軽微汚染」の日が続いています。北京のビル群を遠くから眺めれば、大気がかすんで視界が悪くなっているのは誰の目にも明らかです。このブログの昨日の記事にも載せましたが、7月25日に撮影した下の写真などを見ていただければ、雰囲気がわかると思います。

(参考3)北京地下鉄空港線から見た空港高速道路料金所(2008年7月25日撮影)
http://homepage3.nifty.com/itaru_watanabe/HEX/kosokuryoukinjo.jpg

 これについて、北京市環境保護局副局長で同局スポークスマンの杜少中氏が説明をしています。

(参考4)「新京報」2008年7月27日付け記事
「景色がぼやけて見えるのは、大気汚染の状態が良くないことを表しているわけではない」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/07-27/011@075458.htm

 杜少中氏は「浴室の中では近くものでもよく見えないが、だからといって浴室の空気が汚染されているわけではない。」という例示を示して、視界を左右しているのは水蒸気であって、汚染物質そのものではないことを強調しています。核となる微粒子が空気中に存在し、そこで湿度が高くなると微粒子の回りに水分が凝集することによって視界が悪くなるのであって、大気汚染物質があっても湿度があまり高くなければ視界は悪くならないし、汚染物質が少なくても、湿度が過度に高いと視界が悪くなることは事実です(実際、大気中に汚染物質がなくても自然現象としての霧は発生します)。ただ、大気中に汚染物質がなければ、空気中の湿度が高くても水蒸気として凝集する可能性が少なくなるので、大気中の汚染物質の量が多い方が視界が悪くなる確率が高くなることは間違いないと思います。

 杜少中氏は、ここ数日の北京は、気温が高い、湿度が高い、風が弱くて汚染物質が拡散しにくい、という大気汚染にとって不利な気象条件が重なっているが、汚染の原因となる物質は明らかに減少してきている、と指摘しています。ただ、北京市環境保護局のスポークスマンが記者会見でこういう「言い訳」のような説明をしているということ自体、北京市民の間に「交通規制により自分たちは不便な思いをしているが、大気汚染は全然改善していないじゃないか。」という不満があることを示していると思います。

 この北京市環境保護局の杜少中副局長は、7月10日の記者会見で、過去の北京の大気汚染指数のデータをグラフにすると「軽微汚染」か「良」かの境目となる100より少し汚染指数が高い日の数が極端に少ないことについて質問された際、「汚染指数が基準をわずかに上回りそうな時は、観測点周辺で応急措置を取る」と答え、「軽微汚染」になる日を少なくするための「操作」をしていることを認めた人です。従って、私としては、杜少中副局長の説明を聞いても、素直には納得できない気持ちです。

(参考5)このブログの2008年7月11日付け記事
「2008年上半期の北京の大気汚染指数」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/07/2008_d352.html

 なお、北京の大気汚染指数を減らすために「操作」が行われていることを杜少中副局長が認めた、という件については、日本では報道されていましたが、中国の新聞等で報道されているのは、少なくとも私は見ていません。

 今日(7月27日)、一部の日本選手団が北京へ来てオリンピック村に入りましたので、その日本選手団が今日の北京の空気を見てどのような感想を言うのか、については、日本でも報道されると思います。「視界が悪いのは水蒸気のせいであって必ずしも大気汚染がひどいことを表しているわけではない」というのは、間違いではないと思うのですが、日本では、この北京のような「晴れているけれども視界が悪い」という天候はあまりないので、日本選手団は、おそらくは「やはり空気が悪いなぁ」という印象を持ったと思います(今日、北京入りした競泳選手団は29日に韓国へ移動して最後の調整を行うとのことです)。

 天気予報では、明日(7月28日)夕方には雷雨が降るかもしれない、と言っていますので、雷雨によって汚染物質が流されて、北京でもスッキリとした青空が広がることを期待したいと思います。

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2008年7月26日 (土)

北京地下鉄空港線に乗ってみました

 昨日(7月25日)、北京空港から市内まで、7月19日に開通したばかりの北京地下鉄空港線(北京首都空港鉄道)に乗ってみました。

 北京地下鉄空港線は、通常の鉄の線路の上を走り、電源は第三軌道から取ります(パンタグラフからではなく軌道脇の第三のレールから電源を取る方式:東京の地下鉄でいうと東京メトロの銀座線と丸ノ内線と同じ形式)。車輪で車体を支えていますが、2本のレールの真ん中に金属板が設置されているリニア・モーターカーです(この方式は東京の地下鉄でいうと都営地下鉄の大江戸線と同じ形式)。4両編成で、車内は向かい合わせの座席が着いているモダンなデザインです。運転士のいない自動運転で運行を行っています。

 北京首都空港は、北京市市街地の北東にありますが、この空港線の路線は、北京市内の第二環状路の下を通っている地下鉄2号線の東北部にある「東直門駅」を乗り換え駅としてこの駅を出発点とし、第三環状路付近を通っているこれも7月19日に開通したばかりの地下鉄10号線との乗換駅である「三元橋駅」に停車し、その後は地上に出て北京空港へ向かいます。まず、国際線や一部国内線が発着する世界最大級といわれる巨大な「第3ターミナル駅」(これは地上にあります)に到着します。その後、進行方向を変えて(後ろ向きに出発し)、「第1・第2ターミナル駅」(これは地下にあります)へ向かいます。第1ターミナルは最も古いターミナルで一部の国内線が運航しています。第2ターミナルは、この3月まで国際線などが使っていたターミナルです(今は一部の国内線のみが使っています)。第1ターミナルと第2ターミナルは比較的近いので、地下鉄空港線の駅は共通でひとつの駅を使っています。

※第3ターミナルはほとんどの国際線(日本航空と全日空を含む)と一部の国内線が利用しています。

 「第1・第2ターミナル駅」でのお客の乗降が終わると、今度は再び進行方向を変えて(後ろ向きに出発し)市内へ向かい「三元橋駅」「東直門駅」の順に止まります。運行の順序は「東直門駅」→「三元橋駅」→「第3ターミナル駅」→「第1・第2ターミナル駅」→「三元橋駅」→「東直門駅」の順番で、「第1・第2ターミナル駅」から「第3ターミナル」へ向かう便はありません。従って、国際線で第3ターミナルに到着し、第1または第2ターミナル発の国内線に乗り換える時は便利ですが、逆に国内線で第1または第2ターミナルに到着し、第3ターミナルから国際線に乗り換えて外国へ出る場合には、この地下鉄空港線は使えません。別途、ターミナル間を運行しているシャトルバスを使う必要があります。地下鉄空港線の空港←→市内(三元橋駅または東直門駅)間は統一料金で25元(約375円)です。

 飛行機を降りてから、まず、第3ターミナルを出てターミナル前の道路の上を通っている橋を渡ると、巨大な亀の甲羅上の半透明な屋根の付いた「第3ターミナル駅」に出ます(この第3ターミナル駅の地下が巨大な駐車場になっているので、車を止めている人は、ここからエスカレーターで地下へ降ります)。屋根が半透明なので、自然光が入って明るいのですが、今のような夏の時期は「巨大な温室」になってしまい、空調は入れているのでしょうがほとんど効いておらず、非常に蒸し暑く感じました。

 切符の自動販売機は2台ありましたが、1台は停止中でした。稼働中の1台も、100元札を入れたら「現在、お取り扱いしておりません」の表示(中国語)が出ました。20元札を入れたら、また「現在、お取り扱いしておりません」の表示が出ました。10元札と5元札は受け付けたので、10元札1枚と5元札3枚で切符を買いました。100元札の場合は「おつりがない」場合には「お取り扱いできない」のはわかるのですが、おつりを必要としない20元札も受け付けなかった理由は不明です。外国から来たお客さんは、普通は細かいお金は持っていないと思うので、100元札、20元札が使えないと不便だと思いました。ただし、自動販売機のすぐ隣に係員のいる窓口があるので、窓口に行けば切符を買えます(ただし、窓口ではお客が並んでいるので、少し時間が掛かります)。

 切符は名刺大のICカードタイプで、記念に持って帰りたかったのですが、降りた駅で自動改札機に回収されてしまい、手元に残りませんでした。改札は自動改札機で、切符を挿入するか、感知部分に切符をタッチすることで中に入れます。

 ホームと列車はホームドアと列車ドアの2重ドア方式です(東京の地下鉄でいうと東京メトロ南北線と同じ形式)。列車が入線して右側が降車専用ホーム、右側が乗車専用ホームとなっています。右側からお客の降車が終わると乗車側のドアが開きます。

 ドアが閉まって、列車が発車すると「第1・第2ターミナル駅」へ向かいます。途中で地下に潜ります。「第1・第2ターミナル駅」は地下にあります。「第3ターミナル駅」から「第1・第2ターミナル駅」までは、8分程度かかります。同じ北京空港ですが、第3ターミナルは第1・第2ターミナルからかなり離れていますので、国際線と国内線を乗り換える際には、自分の乗る国内線航空会社がどこのターミナルを使っているか注意する必要があります。航空会社によって、第1・第2ターミナルと第3ターミナルとで乗り換える必要がある場合には、移動のために十分な時間的余裕を持った便を予約しておく必要があります。

 「第1・第2ターミナル駅」で乗客の乗降が終わると、列車は来た方向に後戻りして、今度は市内へ向かう路線に入ります。途中で地上に出て、空港へ向かう高速道路とほぼ並行して走ります。途中、ほぼ中間点の第五環状路と交差するあたりで、上り線と下り線を入れ替えるポイントがあります(中国の鉄道は基本的に日本と逆の右側通行です)。第四環状路を越え、第三環状路が近づくと、列車は再び地下に潜ります。そして「三元橋駅」に付きます。「第1・第2ターミナル駅」から「三元橋駅」までは20分です(「第3ターミナル駅」を出発してからは約30分です)。

 「三元橋駅」も列車ドアとホームドアの二重ドア方式です。「三元橋駅」のホームから1階上がると改札口で、一度改札を出ます。連絡通路を100メートルくらい歩くと、地下鉄10号線「三元橋駅」に出ます。改札を入って階段を下りると地下鉄10号線のホームです。地下鉄10号線も空港線と同じようにホームドアがあります。乗り換えは階段の脇に上りエスカレーターがあるので、荷物を持っていても楽です。空港線も10号線もホームと改札階との間にはエレベーターもありますが、身障者マークが付いていたので私は使うのは遠慮しました。地下鉄10号線の駅の切符自動販売機では北京地下鉄共用ICカード「イーカートン」のチャージができましたので、次に載るときのためにチャージをしました(「イーカートン」は新たに買うときは窓口で買う必要があります。いくらかディポジットを取られます)。市内の地下鉄は、何回乗り換えても2元(約30円)単一料金です。

 空港の「第3ターミナル駅」は「温室効果」で非常に暑かったのですが、空港線、地下鉄10号線とも車両の中は冷房が効いており、快適でした。混雑が心配されたのですが、空港線は座席の数に対して乗車率が80%程度でした。地下鉄10号線も「立っている人がちらほら」という程度で全く問題ありませんでした(私が乗ったのが平日の昼間だったからだと思います。地下鉄10号線は6両編成なので朝夕のラッシュ時はもっと混むと思います)。

 ということで、空港から市内へ地下鉄を乗り継ぎましたが、「第3ターミナル駅」が暑かったことを除いては、非常に快適でした。心配された保安検査ですが、空港で飛行機を降りて荷物を受け取って出るところで、荷物をレントゲン検査機に通すように言われましたが、地下鉄空港線への乗車、10号線への乗り換えについては、保安検査はありませんでした(ただし、レントゲン検査装置は置いてありましたので、必要に応じ、随時、地下鉄の乗り換え時点でも保安検査が実施される可能性があります)。

 下記の「新京報」の記事によると、7月19日の開業当日には、いろいろトラブルがあったようですが、少なくとも私が乗った7月25日は、トラブルもなく順調に運行されていました。「新京報」の記事では、7月19日の開業当日に記者が乗った時には、空港線では加速・減速時にかなりの揺れがあった、とされていますが、私が乗ったときは、空港線も10号線も揺れについては全く問題ありませんでした(日本の地下鉄と同じ程度です)。

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(参考)「新京報」2008年7月20日付け記事
「地下鉄空港線、初日から故障」
http://www.thebeijingnews.com/news/beijing/2008/07-20/018@075421.htm

 上記の「新京報」の試乗体験記事のポイントは以下の通りです(運転開始は7月19日14:00でした)。

○14:50、3番列車が出発した。列車や240人ほどの乗客で満員だった。列車が第三ターミナルに入り、乗客が乗ってドアが閉まったが、列車は動かない。約15分後、「ブレーキ系統に故障が生じたたため、乗客の皆様、下車をお願いします」とのアナウンス。ホームの反対側に乗り換え用の列車が入ってきて、乗客はそちらに乗り換えた。故障した列車は車庫へ回送された。

○地下鉄10号線との乗り換え駅「三元橋駅」に着いた時と、地下鉄2号線との乗り換え駅(=空港線の終着駅)「東直門駅」に着いた時、短い臨時停車があった。列車は、急停車した後、1~2秒してからゆっくり動き出した。地下鉄会社の担当者によると、1回は信号系統の故障で、1回は車両の連結器の故障、とのことだった。安全の観点から列車を停止させてから、調整を行った、とのことだった。

○地下鉄空港線では、設計の段階から、車両故障対策が施してある。車両故障が起きても運行に支障が出ないように、予備の軌道を作ってある。例え1台車両が故障して立ち往生しても、予備用軌道を使うことにより、他の列車に遅延を来さないようにしている。

○北京市地下鉄運営公司のスポークスマンの話:「開通当初は、どうしても不具合が出てしまう。これはある意味で正常な現象である。我々は正式開通前に、お客を乗せない試運転を3か月間実施したが、やはりお客を乗せると試運転とは異なるので、どうしても初期の段階では故障が出てしまう。オリンピック開始までには調整可能なので、オリンピック期間の正常な運行は保証できる。」

○記者が感じた問題点は以下のとおり。

【問題点1】空港線はかなり揺れる。加速時、減速時は立っている客は「あっちによろめき、こっちによろめき状態」だった。イスに座っている必要がある。地下鉄会社の人は「最初の段階は『摺り合わせ』が必要ですから」と言っていた。

【問題点2】待ってる場所が狭い。東直門駅では1列に並ぶのがやっとの場所がある。ある女性は「開通初日でこんなに混んでるのだったら、今後お客が増えたらどうなるのかしら。」と言っていた。

【問題点3】第3ターミナルの待合い場所が暑過ぎ。亀の甲羅のようなガラス張りの屋根の下、ほとんど風が通らないので「悶熱的温室」になっている。ある客は「太陽の光を遮るとか、空調を強くしなくちゃダメだよ。設計思想がよくわからん。エネルギーの無駄だ。」と言っていた(筆者注:北京オリンピックのために作った世界に誇る第三ターミナルについて、中国の新聞がここまで書くとはちょっと驚きです)。

【問題点4】7月20日から空港施設内に入る時に保安検査を実施することになるが、地下鉄空港線では地下鉄に乗るときにまた保安検査がある。これは無駄ではないか。

○北京大学で中国を勉強しているアメリカ人のマイクは「ニューヨークにも飛行場から市街地へ一本で行ける地下鉄はないよ」と地下鉄空港線を絶賛していた(筆者注:「新京報」としても、ひとことぐらい「お褒めの言葉」を入れないとまずい、と思ったのでしょう)。
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 上記のように運行初日はいろいろトラブルがあったようですが、少なくとも私が乗った時は何の問題もありませんでした。

 ただ、「新京報」の記事の中で地下鉄会社の担当者が言っていた「車両故障が起きても運行に支障が出ないように、予備の軌道を作ってある。」という部分は不可解です。「予備の軌道」なんてありませんでしたから。もしかしたら、「中間の地点で上り下りの軌道の相互乗り入れができるようになっており、片方の軌道で故障して立ち往生しても、もう一方の軌道に乗り入れることにより正常運行が続けられるようになっている」という意味なのかもしれません。もしそうだとすると、運転士のいない自動運転で、上り下りを同じ軌道で運行する、というような事態を想定しているのだとしたら、ちょっと「怖い」ような気もします。

 また、「新京報」の記事の【問題点4】で指摘している「保安検査が多すぎ」という点については、地下鉄会社の方も気にしているようで、少なくとも私が乗った時には、空港での保安検査はありましたが、地下鉄の乗り降り時の検査はありませんでした(保安検査は、必要な時に随時やるのだと思います)。

 なお、意外にお客が少なかったことについては、日本的感覚だと、空港線の25元(約375円)は非常に安いのですが、ほぼ同じ路線も走っている空港シャトルバス(リムジンバス)は16元(約240円)、市内の地下鉄は乗り換え自由で2元(約30円)なので、中国の多くの人にとっては「地下鉄空港線は高い」と思っているのでしょう。バスはターミナルの入り口まで乗り付けてくれるので、大きな荷物を持った人はバスの方が便利かもしれません。

 御参考までに私が撮した写真が見られるように下記にリンクを張っておきます。

北京地下鉄空港線・第3ターミナル駅
http://homepage3.nifty.com/itaru_watanabe/HEX/daisanterminaleki.jpg

北京地下鉄空港線・第3ターミナル駅に入る列車
http://homepage3.nifty.com/itaru_watanabe/HEX/ekinihairuressha.jpg

北京地下鉄空港線・車内の様子
http://homepage3.nifty.com/itaru_watanabe/HEX/shanainoyousu.jpg

北京地下鉄空港線・軌道の様子
http://homepage3.nifty.com/itaru_watanabe/HEX/kidounoyousu.jpg

北京地下鉄空港線から見た空港高速道路料金所
http://homepage3.nifty.com/itaru_watanabe/HEX/kosokuryoukinjo.jpg
※このあたりの写真では、北京の大気の雰囲気がわかると思います

北京地下鉄空港線の車両基地
http://homepage3.nifty.com/itaru_watanabe/HEX/sharyoukichi.jpg

北京地下鉄空港線・三元橋駅のホーム
http://homepage3.nifty.com/itaru_watanabe/HEX/sangenkyouhomu.jpg

北京地下鉄10号線・三元橋駅改札口
http://homepage3.nifty.com/itaru_watanabe/HEX/jugousenkaisatu.jpg

 いずれにせよ、私が「新京報」の記事を見て想像していたよりも、地下鉄空港線は格段に快適でした(これはお世辞ではありません。実感です)。これからも、安全で快適な運行が続くことを願いたいと思います。

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2008年7月25日 (金)

変わっていない!車の数も大気汚染も

 今日、久しぶりに日本から北京に戻ってきました。飛行機が上空を飛んでいる時、機内のアナウンスでは「北京の天気は薄曇り」と言っていました。飛行機は、北京空港へ向けて徐々に高度を下げていきましたが、なかなか地面が見えてきません。雲がある高度より低くなっているはずなのに、あたりは真っ白で何も見えないのです。飛行機はさらに高度を下げて翼のフラップを下ろしましたが、まだ地面が見えません。「ガタン」と車輪が降りる音がしてもまだ外は真っ白のままです。ようやく事情の建物が見えてきたのは高度100メートルくらいになってからでした。

 窓際の席ではなかったので、ちょっと外が見にくかったのは事実ですが、今日の昼間の北京の視界は確実に500メートル以下でした。例によって雲はなく、太陽は空に白く見えており、肉眼で日食観測ができる状況でした。空の状態は天津市上空あたりからずっと同じだったので、天津と河北省に囲まれている北京市だけでは、北京市(岩手県より少し広く四国より少し狭いくらいの面積がある)だけで大気汚染対策をやってもムリだ、ということが、飛行機の上から見てよくわかりました。

 今日は湿度が相当高かったので、視界が悪いのはそのせいだと思われます。大気汚染だけでは、さすがにこれだけ視界が悪くなることはないのですが、たまたま空気中に微粒子の浮遊物が多い時に湿度が高くなる気象条件が重なると、今日の北京のように「晴れだけれども視界が効かない」状態になるようです。国家環境保護部の発表によると、今日(7月25日)の大気汚染指数は109で、昨日に引き続き「軽微汚染」でした。

 夕方6時頃、市内を車で通りましたが、夕方のラッシュはいつもとほとんど同じでした。心持ち車の数は少ないかなぁ、という感じはしましたが、パッと見で、いつもの金曜日の夕方の9割くらいの車の量だったと思います。回りの車のナンバープレートは、タクシーやバスを除くと確かに奇数です(今日は7月25日なので奇数ナンバー車しか走れない)。ごくたまに特別許可を受けた偶数番号車もいましたが、それはほんの一部で、バス・タクシー以外はほんと奇数ナンバーばかりです。偶数奇数で制限し、政府機関の車も減らすので、車の数は4割程度に減るはず、と当局は見ていたようですが、実際にはそれほど減っていないのは明らかでした。

 「上に政策あれば下に対策あり」と言われるのが中国の社会ですから、みんな「なんとか」したのでしょうか。この交通規制の一環として、北京ナンバー以外の車はそもそも特別な許可がなければ北京市に入れないようになっているので、北京以外から奇数番号車を借りてきた、というわけではありません。お金持ちの中には、奇数偶数規制に備えて、事前にいつも使っている車に加えて車を買ったという人もいる、とのことです。でもそういった人はそんなに多くいるとは思えないので、この車の数の多さはどうやって説明すればよいのでしょうか。さすがに車のナンバープレートでは「ニセモノ」が出回っているとは思えないのですが。

 7月20日(日)に車の奇数偶数規制が始まったのに大気汚染指数は24日、25日と連続で「軽微汚染」になってしまいました。大気汚染指数は、風の強さなどが影響するので、車の数だけが原因ではありませんが、今のところ大気汚染の劇的な改善は見られていないのは事実です。もしかすると、このような状況のままオリンピック期間に突入するのかもしれません。私は何回も「さすがに、本番のオリンピックになれば、きれいな青空になると思う」と書いてきましたが、自信がなくなってしまいました。既に車の規制は実施され、汚染を出す工場は停止され、建物の建設・解体工事は中断状態にする、など打つべき手は打っているからです。はっきり言って、今日の北京の空気の状態では、マラソンはちょっとムリだと思いました。

 今、夏ですから、夕立(雷雨)が一度降るとだいぶ空気もきれいになると思います。8月8日のオリンピック開幕まで、まだ2週間ありますので、それまでの間に何回か雨に降ってもらって、もうちょっときれいな空気になればいいなぁ、と思います。今日、すっきり青空の東京から北京に来たので、改めて、この落差にショックを受けて、昨日と同じようなことを書いてしまいました。

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2008年7月24日 (木)

青空はすばらしい

 夏休みで、今、一時的に日本にいます。今日は、長野県から東京へ移動しました。「梅雨明け十日」ですばらしい青空でした。長野から東京へ移動しても、青空はほとんど変化しませんでした。北京だと、こういう青空は1年に3日あるかどうか、という感じです。北京は降水量が少ないので、雲のない日は多いのですが、「空が白い日」が多いのです。北京では空気汚染係数が100以下の日を「青空の日」としていますが、実際は50以下にならないと「すっきり青空」という感じにはなりません。

 北京で「空が白い日」が多いのは、もちろん大気汚染が大きな原因であるのは間違いないのですが、そのほかに自然条件も大きいと思います。日本は島国であるところが非常に有利に働いています。海の上は人間活動による汚染や砂ぼこりがありませんから、日本の場合、日本列島である程度汚染が生じても、どちらかの方向から少し風が吹けば、海の上のきれいな空気が日本列島の上空を「掃除」してくれるのです。北京の場合、西から風が吹けば河北省や山西省の汚染が、南東から風が吹けば天津の汚染が北京に流れてきますから、少しくらい風が吹いても北京の空はきれいになりません(北京でも、雨が降ると次の日はかなりすっきりとした空気になります)。

 それから地表面の状況もだいぶ違います。今日、長野県へ行って改めて思いましたが、日本は山々はびっしりと緑に覆われ、平地には水田の緑が広がっています。この日本の夏の緑と青空のコントラストは非常にすばらしいです。北京から来た私は「白黒テレビの世界からカラーテレビの世界に入った」ような気がしました。日本にいる人たちは、そういった日本の美しさに気が付いていないのです。

 一方、中国大陸の自然はそんなに甘くありません。北京周辺の地方は、降水量が少ないので、山々は緑の少ない岩山がほとんどです。平地の農業地帯も冬小麦が栽培されている地域は6月の刈り取りが終わると、乾いた地面がむき出しになります。そもそも河北省あたりの小麦の大穀倉地帯は、小麦の生長に必要な水のうち、降水でまかなわれるのは3割程度で、後は地下水を汲み上げることによるかんがいに頼っています。従って、作物が栽培されていない時期の畑は表面は常に乾燥しており、風が吹けば砂塵が舞い上がりやすい状態です。水を張った状態の期間の長い水田が主体となっている日本では、農村部では砂塵がほとんど舞い上がらないのです。

 北京地方の場合は、さらに北西方向には砂漠地帯があり、気象条件によっては、砂漠地帯で舞い上がった砂塵が運ばれてくることがあります(春の黄砂は日本まで飛んできます)。このように人工的な大気汚染がなくても、中国の大気は日本の大気に比べると、ただでさえ浮遊微粒子が多い状態なのです。

 北京の大気汚染の主要原因は「可吸入顆粒物」ですが、この「可吸入顆粒物」を構成しているのが何なのか(自然に発生する砂塵の類なのか、自動車から発生する「スス」の類なのか、建物解体作業等に伴うコンクリートの粉塵なのか)は分析すればすぐわかると思うのですが、こうった分析結果が発表されたのは見たことがありません。北京オリンピックのために、汚染物質を多く出す工場を停止させ、建設・解体工事も停止させ、車の運行もナンバープレート偶数奇数規制で減らす、ということをやっているわけですから、当局としては、大気汚染の原因となっている「可吸入顆粒物」が何なのかはわかっているのでしょう。

 国家環境保護部のホームページによると今日(7月24日)の北京の大気汚染指数は113で「軽微汚染」だそうです。

(参考)国家環境保護部ホームページ
「重点都市大気汚染指数日報」
http://www.mep.gov.cn/quality/air.php3

 7月20日から「オリンピック・モード」に入って、工場の操業停止や建設・解体工事の停止、車の運行制限も始まったのに、まだそれほど「劇的」には改善していないようです。たぶん、一度雨が降って空気中に舞い上がっている汚染物質が一度地面に落ちれば、あとはいろいろな規制により汚染物質の「発生」は押さえられているので、たぶん、オリンピック期間中は、北京でも「青空」が見られると思います。

 それにしても、いくら島国とは言え、降水量が多く都市部以外はほとんど緑で覆われているという好条件があるとは言え、日本の青空は掛け値なしにすばらしいと思います。日本に住んでいる人たちは、1970年代の「公害列島」と言われた時代をいかにして克服してきたか、を忘れずに、現在の日本の青空の大事さを再認識し、しっかり守っていって欲しいと思います。

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2008年7月23日 (水)

「言葉のせき止め湖」の危険にどう対処する

 今日(7月23日)付けの「人民日報」に「『言葉のせき止め湖』の危険をどうやったら取り除くことができるか」という評論が載っていました。

(参考)「人民日報」2008年7月23日の「人民時評論」
「『言葉のせき止め湖』の危険をどうやったら取り除くことができるか」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-07/23/content_65205.htm

 これは四川大地震をきっかけにして多くの人の口に上るようになった「せき止め湖」(中国語で「堰塞湖」)という言葉になぞらえて、人々の政治に対する不満が溜まって一気に爆発しそうになる現象を「言葉のせき止め湖」(中国語で「言塞湖」)と表現して、それにどう対処すべきか、を論じたものです。「堰塞湖」と「言塞湖」は、中国語では「堰」はyanの4声、「言」はyanの2声、で、声調だけは違いますが発音は同じなので、同じ発音の文字を入れ替えた、一種の「ダジャレ言葉」です。

 人民日報にこういう評論が載る、ということは、党中央も、最近の地方での集団騒乱事件の頻発などを受けて、人々の間に不満がうっ積しつつあることを認識し、地方政府は、それにちゃんと対処しなければならない、との問題意識を持っていることの表れだと思います。この論評では、地方政府の幹部が豪華な政府庁舎や官舎を建て、地域住民が不満に思っていたことが、何かのきっかけで明るみに出て問題になる、というケースが続いていることを指摘しています。例として、安徽省阜陽市で、市政府が豪華な庁舎を建て、住民から「ホワイト・ハウス」と呼ばれて批判されていたが、この豪華庁舎問題を指摘した人が死亡し、その死因に不審なところがあったことから中央のメディアが取り上げ、結局は市の党書記が人民代表の職を解かれたケースを挙げています。

 こういったケースは「何かのきっかけ」がなければ明るみに出なかった可能性があり、その場合、人々の不満はうっ積し「言葉のせき止め湖」ができてしまうので、それを避ける方策を考えなければならない、とこの論評は指摘しています。

 この評論では、「言葉のせき止め湖」に対処する方法として、既に下記のような仕組みが実施されていることを指摘して、これらの方法を通じて民意を汲み上げる「トンネル」を確保することの重要性を指摘しています。

○中国共産党の伝統である大衆の声を聞く路線を実践すること。
○人々の訴えをよく聞くこと(「信訪制度」を活用すること)
○世論の動向をよく見極めること。
○最近よく行われるようになった公聴会制度や政府情報公開請求制度を活用すること。

 こういった論評を読むと、私などは、どうしてここに「地方政府幹部を選挙で選ぶこと」というのが入って来ないのかなぁ、と思ってしまいます。「住民の間に不満の声が溜まったら、次の選挙で落選してしまう。」というシステムを作り上げることが最も単純で確実な「言葉の堰き止め湖」に対する対処だと私は思います。ここでそういった議論がなされないのは、「選挙」という手法は、地方政府の幹部は中央が指名する、という現在の体制を崩してしまうことになるからだと思います。

 中国には、住民に不満がある場合には、上部機関に直接訴える「信訪制度」があります。例えば、ある県の幹部のやり方を不満に思う住民は、県を飛び越えて、その上にある市やさらにはその上の省、最終的には国の「訴え受付機関」に訴えて解決を要請することができます。これを「信訪制度」といいます。これもひとつの方法だと思いますが、「信訪制度」は、結局は封建時代の「直訴」と同じです。上部機関が住民から寄せられる数多くの「直訴」に全て対処できるのか、「直訴」があったものだけ改善していたのでは、一種の対処療法であり、根本的な解決にはならないのではないか、と私は思うのですが、そういった議論が残念ながら中国では行われません。結局は、「選挙の必要性」に行き着いてしまうので、議論ができない、ということなのでしょうか。

 中国では、昔から、地方政府に対する不満を爆発させた住民による集団暴動事件は数多く発生しています。最近は、北京オリンピックで注目されていることと、住民がすぐにネットに情報をアップするようになったことで、外国のメディアでも報道されるケースが多くなっているのだと思います。「言葉のせき止め湖」が大きくなって、一気に決壊することは、誰も望んでいません。しかし、この問題は「住民の声をよく聞くようにしよう」といった呼び掛けだけで改善するような問題ではありません。この人民日報の評論によって「言葉の堰止め湖」という言葉が一種の「流行語」のようになって、中国国内でも真剣な議論が起こることを期待したいと思います。

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2008年7月21日 (月)

雲南省昆明市でバス爆破事件が発生

 7月21日(月)朝の通勤時間帯、中国雲南省の省都・昆明市で約1時間間隔で2つのバス爆破事件が相次いで発生しました。今までにわかっているところでは、2人が死亡し14人が負傷したとのことです。本件については、中国中央テレビのお昼のニュースで報道されたほか、新華社通信の雲南報道のページに「特設ページ」が設けられ、逐次、新しい情報がアップされつつあります(昆明市は人口620万人のこの地方では大都市です)。

(参考1)「新華社」雲南報道のページ
「昆明市で発生したバス爆破事件特設報道ページ」
http://www.yn.xinhuanet.com/topic/2008/explosion/

 朝の通勤時間帯に2つの爆破が続けて起きた、爆発が起きたのが座席の下だった、という事実から、当局もこれがテロであると見ており、目下、全力で犯人の捜索に当たっているとのことです。上記のように(最近の中国ではこういう傾向にあるのですが)異例の速さで、新華社通信等が写真等も含めた最新の映像を続々と流しています(不要なデマの発生を防ぐため、できるだけ速く詳細な情報を報道しようとしているのだと思います)。

 それにしても、私は、中国では、民衆の集団による暴動事件が起きることはあっても、爆弾テロは起きないと思っていました。いかなる政治的目的を持っているにせよ、中国では多数の人民を味方に付けなければその政治目的を達成できないのは明らかであり、テロ行為を行うことは、理由の如何を問わず人心を離れさせることになり、一定の政治目的を持つグループにとっては逆効果以外の何者でもないからです。雲南省は、中国の中でも少数民族が多い地区ですが、雲南省は昔から多くの少数民族が混在して居住している地域であり、少数民族問題を理由とした暴力事件やテロ事件があったという話は私は聞いたことはありません。

 今回の昆明市のバス爆破事件の背景について、今の段階で軽々に推測するのは慎むべきですが、今回の事件は、北京オリンピックへ向けて、北京で交通規制が始まるなど「オリンピック特別期間」が始まった最初の月曜日の朝の通勤時間帯を狙って約1時間の時差を付けて複数の爆発を起こした、という事実だけを見ると、相当に冷徹に計画されたもののように見えます。

 今までも、政治的な背景とは関係なく、会社から解雇された人が自爆テロ的に会社の車に放火するというような個人的恨みに基づく事件はありました。

(参考2)このブログの2007年10月3日付け記事
「重慶でバス火災27人死亡・放火か?」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/10/27_7d11_1.html

しかし、今回の昆明でのバス爆破テロは、この重慶のバス放火事件のような「個人的な恨みによるもの」とは違うように思います。

 また、中国では、無数の違法な炭坑で操業が行われ、そこで使われるダイナマイトがずさんに管理されているのが実態です。そういう状態で今まで中国ではいわゆる「爆弾テロ」のような事件はあまり起きていなかったのですから、基本的に中国では爆弾テロの起きる素地はないものだと思っていました。

(参考3)このブログの2007年7月6日付け記事
「遼寧省のカラオケ店の爆発で25人死亡」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/07/25_07f6.html

 なお、雲南省では7月19日に雲南省プーアル市孟連ダイ族ラフ族ワ族自治県で、ゴム農民とゴム生産企業との間に起きていたトラブルに関連して、ゴム農民が数百人集まって公安当局を取り囲んで暴力行為を働いたため、公安当局が自衛のために発砲し、村民多数が負傷し、うち2名が死亡する、という事件がありました(これは新華社がそう報道しているのでこの事実に間違いないと思います。一部、日本の報道では「公安当局がゴム弾を発射し」とありますが、新華社の報道では「ゴム弾」の記述はありません。「ゴム弾」の発射で死亡することは考えにくいので、集まった群衆に対しては銃の実弾が発射されたものと思われます)。

※雲南省プーアル(普○:「○」は「さんずい」に「耳」)市はプーアル茶で有名です。

(参考4)新華社・雲南報道ページ2008年7月20日付け記事
「雲南省孟連県で暴力事件が発生」
http://www.yn.xinhuanet.com/newscenter/2008-07/20/content_13873445.htm

 この事件について、新華社は続報を報じており、翌日の20日にも約450人の群衆が集まったこと、雲南省幹部が死亡した2名の死因については調査を行うことを集まった群衆に説明したこと、20日に集まった群衆は衝突事件などは起こさず夜になってから解散したこと、などを伝えています。

(参考5)新華社・雲南報道ページ2008年7月20日付け記事
「雲南省孟連県『7・19事件』で集まったゴム農民は説得されて引き上げた」
http://www.yn.xinhuanet.com/newscenter/2008-07/20/content_13873451.htm

(参考6)新華社・雲南報道ページ2008年7月21日付け記事
「雲南省では、全力を挙げて孟連でのゴム農民集団事件に対する対処が行われている 雲南省の指導部は現場に行って群衆の訴えを聴取した」
http://www.yn.xinhuanet.com/newscenter/2008-07/21/content_13878264.htm

 これらの報道によると、このゴム生産会社は数年前に私営企業になったが、ゴム農民たちとの間で利益配分について意見の相違があり、ゴム農民たちは会社に自分たちの権利が侵害されていると考えていたとのことです。このため数年前からゴム農民たちは何回もゴム生産会社を包囲して焼き討ちする騒ぎを起こしていた、とのことです。事件が起きた7月19日、公安当局が5人の犯罪容疑者を取り調べていたところ、約500人のゴム農民たちがゴム採取作業に使う長刀や鉄パイプ、棍棒などを持って集まって公安当局を取り囲んで襲撃したため、41名の民事警察官が負傷し、8台の警察車両が破壊された、とのことです。公安当局側は自衛のために発砲し、15人のゴム農民が負傷し、そのうちの2名が死亡した、とのことです。

 新華社の記事では触れていませんが、上記の状況を踏まえると、ゴム農民たちは、ゴム生産企業と公安当局が「グル」になっていると考えて、普段から公安に対する不満を募らせていたのではないか、と思います。

 この孟連県でのゴム農民たちと公安当局との衝突事件と、昆明で起きたバス爆破事件が関係があるのかどうかはわかりません。地理的に言うと、プーアル市孟連県と昆明市とは数百キロ離れていますし、例えゴム農民たちが公安当局に対して不満をうっ積させていたとしても、彼らとしては昆明市民を殺傷する爆破テロを起こしても何の意味もないので、この2つの事件は関係はないのではないかと思います。

 いずれにしても、今回の昆明市でのバス爆破事件については、早く犯人が特定され、真相が解明されることを望みたいと思います。

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2008年7月20日 (日)

「コメントする自由」「文句を言う自由」

 今日(7月20日)から北京市内では、オリンピック期間中の渋滞の防止と大気汚染緩和のため、ナンバープレートの偶数・奇数による交通規制が始まりました。パラリンピック終了後の9月20日までの期間、北京市内では偶数日には奇数番号の車、奇数日は偶数番号の車は通行が許されません(バス、タクシー等の公共交通機関の車、消防・救急等の緊急車両、オリンピック関係車両、大使館関係車両等を除く)。

 ところが規制当日の今日(7月20日)になって「人民日報」の朝刊に「毎日午前0時から3時までの3時間については、ナンバープレート規制を緩和する」との発表が載っていました。

(参考1)「人民日報」2008年7月20日付け記事
「午前0時から3時までは偶数・奇数制限は実施しない」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-07/20/content_61849.htm

 この規定緩和措置は7月19日に北京市交通管理局が発表したものだそうです。なぜまた突然規制開始の前日になって規制の一部を変更する発表を行ったのでしょうか。それまでは、みんな「夜中の0時きっかりで北京市内を通行できる車が切り替わる。それに違反したら罰金100元(約1,500円)を取られる。」と思っていたのです。それが証拠に7月19日付けの「新京報」では「今日は奇数番号の車は夜中の24時までにお家に帰ろう」と呼び掛ける記事を掲載していました。

(参考2)「新京報」2008年7月19日付け記事
「奇数番号車は今日は24時の前に必ず家に帰らなければならない」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/07-19/018@073151.htm

 この記事によると、北京市交通管理局の担当者が「19日は土曜日なので外出する人が多いと思うが、24時を過ぎると奇数番号車に対しては規制が掛かるので、奇数番号車を運転している人は必ず早めに家に帰らなければならない」と発言したことを引用して、読者に対して注意を喚起しています。

 よく考えてみると「規制期間中であっても、午前0時から3時の間は偶数・奇数両方の車両の通行を認める」というのは、至極当たり前の措置です。夜中の0時時点で北京市内を走行中の車に対して「今、午前0時を過ぎたから罰金」などと言うのは現実的ではないからです。かと言って、偶数番号車、奇数番号車は、それぞれ偶数日、奇数日の24時までに家に帰り着くようにせよ、というのだったら、毎日午前0時直後は、北京市内には車が全くない状態になることになります。1,700万人都市・北京でそんなことが現実にできるわけがありません。午前0時~3時までの3時間はどちらの車の通行も認めるので、規制が掛かる車は午前3時までに家に帰り着くように、ということならば現実的に対処は可能です。午前0時~3時の時間帯なら車の渋滞は関係ないし、この時間に走っている車の数はそれほど多くはないと思うので、この規制緩和をやっても大気汚染防止の効果にはそれほど影響は出ないと思います。

 こういった「当たり前の措置」がなぜ規制の前日まで発表されなかったのか、を考えると、以下の二つが考えられます。

(1) 北京市当局は、規則上は午前0時で規制を切り替える、ということにしているが、取り締まりの現場では午前3時頃までは、偶数奇数規制に違反している車でも「大目に見る」ことで対応しようと思っていた。

(2) 取り締まりを担当する現場の担当官や多くの市民は「0時きっかりに規制を切り替えるのは現実には無理だ」と考えていたが、誰もそれを口に出さず、規制を作った北京市の上層部は「この規則を厳格に適用すると現場で無理が生じる」という認識を持っていなかった(「新京報」の記事を見て、北京市上層部がこの規制に無理があることを始めて認識した。だから19日、北京市上層部の「鶴の一声」で急遽午前0時からの3時間については規制を緩和することを決定した)。

 もし(1)だとすると、北京市当局は規則を作っておきながら、そもそもその規則を規則通りには運用するつもりがなかった、ということになります。これは、法律や規則がありながら、現実にはその通りに規制されていない、という中国の実情を反映していますが、中国が「法治国家」ではなく、まだ、現場の取り締まり担当官の判断でいかようにもできる「人治国家」であることを世界中に示すことになってしまいます。まじめに規則を守ろうと考えていた北京市民はバカを見たことになります(こういうことはしょっちゅうで中国の人々は慣れているので、そもそも多くの北京市民は「規則を規則通りにまじめに守ろう」とは考えていなかった、と言った方が正しいのかもしれませんけど)。

 もし(2)だとすると、北京市当局の内部で現場の声が上層部に届くシステムができていない、新聞等も規制の問題点について何も指摘せず、中国では「社会を監視する」というマスコミが果たすべき役割を全く果たしてない、ということになります。

 中国では、憲法に「中国共産党による指導により政治を行う」という大原則が規定されており、これに反する報道をすることは「法律違反」となります。従って、新聞の記事等が「法律違反」にならないように、当局の「指導」がなされています。ただ、北京のローカル新聞ですと、例えば夜中の2時前に起きた火事がその日の朝刊に載ったりしていますので、たぶん全ての記事の「事前検閲」はやっていないと思います。問題のある記事が掲載された場合には、事後的に直ちに「指導」が入るというふうな「事後検閲システム」になっているのだと思います。重大な「法律違反」の記事が新聞に掲載された場合には、新聞は発刊停止に追い込まれ、重大な場合は記事を書いた記者や編集者が「国家転覆罪」に問われる場合もありますし、そうでなくても免職にされ、言論人としての生命を絶たれてしまう可能性もあります。そのため、言論人は、常に「どこまでは発言が許される範囲なのか」を意識しながら「自主規制」をしているのです。

 こういった「自主規制」が習い性となっているので、今回のような交通規制のあり方、といった政治には全く関係のない案件についても「当局が決めたことに対してコメントしたりしてはいけない」「ましては当局が決めたことに対して文句を言うなどとんでもない」という感覚が言論人の中に定着してしまっているのだと思います。

 ナンバープレートの偶数・奇数による交通規制は、昨年(2007年)8月に4日間だけ試験的に実施されました。夜中の0時に偶数・奇数の規制を切り替える際に発生する問題点は、その時には認識されていたはずなのですが、どの新聞もそこに問題がある、というコメントをしませんでした。そして、今年(2008年)6月20日に発表された規制の規則では、午前0時の切り替え時の移行措置については何らの考慮もなされなかったのでした。

 何らかの措置を講じた時、それに対する「コメントを受ける」「文句を聞く」ということは将来の改善のために非常に重要です。一般ビジネスにおいては「お客からのクレームはビジネス改善のための大切な宝の山」と認識されており、「クレーム処理を大事にしない会社は伸びない」ことは常識とされています。中国において、政治問題の大原則に対して批判を許さない、という政策を取っていることに対しては、中国の内政問題ですので私はコメントしませんが、それをやることによって、政治とは全く関係ない「社会の便利さ・暮らし良さ」といった点に対しても「コメントする自由」「文句を言う自由」が実質上ない、というのは、社会全体の改善の観点から言ったら大きなマイナスだと思います。中国の関係者は「法律に違反しなければ、当局の施策に対して、コメントする自由も文句を言う自由もある」と反論すると思いますが、新聞等の報道機関が「自主規制」して「当局が決めたことに対してコメントや文句は言わない方がよい」と考えているのだったら、実質的に「コメントする自由」「文句を言う自由」はない、といっても差し支えないと思います。

 問題は、こういった感覚が、政府機関や会社などの中国の組織の中に深く浸透しているのではないか、ということです。即ち、トップが決めたことは、部下は唯々諾々とそれに従うのが賢い処世術であり、上司のやり方に対してコメントしたり文句を言ったりしないようにしている、という人が多いのだったら、それは中国の組織の発展を阻害することになると思います。はしなくも今回の車の偶数・奇数制限の問題で明らかになりましたが、(政治的な意味での言論の自由の問題は別に置いておくとしても)ごく一般的な意味で「自由にコメントし、自由に文句を言える雰囲気を作ること」が中国の今後の発展にとって非常に大事だと思いました。 

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2008年7月19日 (土)

北京地下鉄10号線・空港線開通

 報道によると、北京地下鉄10号線(第一期)、オリンピック公園支線、北京首都空港鉄道線が7月19日開通したとのことです。まだ私自身は乗っていないので「したとのことです」と書いておきます。

 これらの路線については、昨日(7月18日)の段階では、「週末に開通」とだけ発表されており、19日(土)に開通するのか、20日(日)に開通するのか、わかりませんでした。ところが19日(土)朝になってから、「新京報」などで「今日(19日(土))開通する」というニュースが報じられました。

(参考)「新京報」2008年7月19日付け記事
「地下鉄3路線、今日14時に開通」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/07-19/018@074440.htm

 この「新京報」の記事でも、開通式は19日の「だいたい午前10時頃」にやる、と書いてありました。空港線の運賃が25元(約375円)になった、と発表になったのは昨日(18日)です(それまでは「25元にするか、30元にするか、どちらかの案で検討中」ということでした。7月2日にこの運賃に関する公聴会があったのですが、その後、昨日(18日)まで、料金は決まっていませんでした)。

 どうして、ここまでギリギリまで何も決まらないのか、その背景がさっぱりわかりません。中国の新聞は、「なぜギリギリまで決まらないのか」といった関係者が困るような案件を突っ込んで取材して報道するようなことはしないので、「なぜギリギリまで決まらなかったのか」は最後まで「ナゾ」として残ると思います。それにしても、開通式をやる時刻が「だいたい午前10時頃」という発表も何となく変です。関係者や報道陣は、いったい何時に開通式場に行けばよいのでしょうか。

 今日、お昼過ぎに、たまたま北京空港から飛行機に乗ったのですが、北京空港へ行く途中で、空港線が走っているのを見ました(地下鉄の路線のひとつということになっていますが、空港線はほとんどの区間、地上を走っています)。赤い色のモダンな車両でした。ただ、ちょっと気になるのは、4両編成なので、これでお客をさばききれるのかなぁ、という点です。第2ターミナル発の便、第3ターミナル発の便が、それぞれ別個に運転間隔15分で運航するのだそうです。それで4両編成だと相当に混雑するのじゃないかなぁ、と思います。混むのがイヤな人は、高いけれどもタクシーを使う、ということになるのかもしれません。また市内と空港を結ぶリムジンバス(地下鉄空港線の市内側のターミナルの「東直門」と空港の間は16元(約240円))の値段と比較すると、この地下鉄空港線の値段は意外に高い感じがするので、そんなにお客は多く乗らないのかもしれません。

 オリンピック公園支線は、8月7日までは一般客は乗せずに、選手やオリンピック関係者だけを運ぶ、とのことです。8月8日以降も、オリンピック、パラリンピックの当日のチケットを持っている人だけが乗れる、ということで、誰でも自由に乗れるようになるのはパラリンピック終了後の9月20日以降だそうです。8月7日までは一般客を乗せずに営業して、8月8日の開会式当日にいきなり何万人もの開会式に出る観客を運ぶようにする、という計画になっているのですが、係員の慣熟などの点で大丈夫なのかなぁ、とちょっと心配です。地下鉄10号線とオリンピック支線の乗り換え駅の「北土城駅」では、地下鉄10号線から乗り換える人は、いったん改札を出て、オリンピックのチケットを持っていることを係員に確認してもらって、飛行機に乗るときと同じような保安検査を受けてから、オリンピック支線に乗り換えるのだそうです。乗り換え客がどのくらいの数いると想定しているのかわかりませんが、この乗り換え駅で観客の乗り換えがスムーズにできるのか、というのもちょっと心配です。

 北京空港では明日(7月20日)から、出迎え見送りの人も含めて、空港に入る人は全て入り口で保安検査(ボディチェック)を受けることになります。従って、飛行機で出発する人は2回保安検査を受けることになります。そのため、空港では、時間に十分に余裕を見て空港に来るように呼び掛けています。

 今日(7月19日)はまだ空港入口での保安検査はやっていませんでしたが、飛行機に乗るときの保安検査はいつもより相当に念入りにやられました。ノート・パソコンは「バックから出して開いて見せろ」と言われ、ポケットにハンカチやちり紙を入れている場合も「出して見せろ」と言われました。いつもより1.5倍くらいは時間が掛かったような気がします。

 ただ、今、空港の利用客はかなり減っています。原油価格の高騰により、燃油サーチャージが高くなったせいか、外国から来る観光客も中国国内の観光客もかなり減っているようです。さらに、中国国内では、四川大地震の影響で、ちょっと気分的に観光旅行をする雰囲気ではない、と感じている人が多いせいか、中国国内の観光客はいつもの年よりかなり少ないようです。また、中国の政府関係機関では、四川大地震の復興を最優先にするため、予算を一律5%カットして復興支援に回すように指示されているそうで、そのために業務上の海外出張案件は相当の数がキャンセルになっているそうです。そのため、オリンピック期間中も含めて、開会式・閉会式の前後のごく短期間を除いては、例えば日中間の航空便は(特にエコノミークラスは)まだ相当空席がある、とのことです。あまり観客が多いと保安検査場が混雑したりするので、原油高や四川地震の影響で飛行場の利用者が少なくなったというのは、むしろ幸いなのかもしれません。

 いよいよ明日(7月20日)から北京市内でのナンバープレート偶数・奇数による交通規制が始まります。7月21日から始まる平日、朝夕のラッシュ時に道路の状況がどうなるか、地下鉄の混雑がどの程度になるのか、空港線がどのくらい混雑することになるのか、しばらくは様子を見る必要があると思います。

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2008年7月17日 (木)

北京オリンピック観戦客の「足」の問題

 今日(7月17日)現在、北京の地下鉄10号線とオリンピック公園支線、空港と市内を結ぶアクセス鉄道(北京首都空港鉄道)は、まだ開通していません。開通日は「今週末」とだけ発表されており、19日(土)なのか20日(日)なのかわかりません。これらの路線については、最初は「6月末開通」という「ウワサ」があり、そのうち「7月上旬に開通」との発表があり、それが「7月中旬に開通」になり、今は「今週末に開通」ということになっているのです。なぜ開通が遅れているのかに関する情報は全くありません。

 北京にある既存の地下鉄でも、車両を新しいものに変えたり、切符売り場に自動販売機を導入したり、とオリンピックへ備えての準備が進められているのですが、先日、切符の自動販売機が登場した時は、お客が使い方がわからない、とか、機械が故障した、とかいうことが重なって、自動販売機にお客が殺到して混乱するトラブルがありました。地下鉄2号線の「北京駅」では、お客が数少ない自動販売機に殺到して危険なため、入り口を閉鎖する措置を講じました。地下鉄2号線の「北京駅」は、その名のとおり長距離鉄道の北京駅との乗り換え駅ですので、地方から出てきた大きな荷物を持った人が地下鉄に乗り換えることができず、地下鉄の隣の駅まで歩いたり、長蛇の列の後ろについてタクシーを待ったり、という事態になりました。

 北京の地下鉄は、東京でいう「スイカ」や「パスモ」、大阪の「イコカ」と同じICカードで乗れます。ICカードを持っていればスイスイ改札を通れるのですが、切符の自動販売機ではこのICカードにチャージすることができません。チャージは窓口でやる必要があるのですが、窓口が駅に一つしかないので、チャージする人は長蛇の列、というケースが多々あります。これだけ市場経済が進んでいる中国ですが、地下鉄は「公営」なので、自動販売機の設置を担当している人は「切符が買えればいいんでしょ」とばかりにICカードのチャージについては何も考えていない、など、「地下鉄」では、古い計画経済の体質がちょこちょこ顔を出します。それでちょっと心配なのが、北京オリンピック観戦客の「足」の問題なのです。

 北京市内の移動の手段は、地下鉄のほか、バス、タクシーがあります。バスは慣れていると安くて便利ですが、交通渋滞に巻き込まれると、「いつ来るかわからない状態」になり、停留所に人があふれます。北京はタクシーの台数は多く、普段は、気軽に拾えますが、夕方のラッシュ時や雨が降り始めの時は、みんなが一斉にタクシーを拾うので、途端に拾いにくくなります。その意味では、地下鉄は渋滞もないし快適なのですが、オリンピックを控えて7月1日から地下鉄に乗る時にも保安検査(ボディチェックなど)を行うようになったので、試合終了時などに大量のお客が一時的に集中する際には相当の混雑が予想されます。

 7月20日からは、自家用車などはナンバープレートの偶数・奇数で交通制限が掛かるので、多くのマーカー通勤族が地下鉄やバスを利用するようになると予想されます。従って、本来は、地下鉄10号線は、7月20日以前の「通常の状態」の段階で開業して、お客の流れなどに一応慣熟してから、マイカー規制によりお客が殺到する7月21日(月)からの週を迎えたかったはずです。しかし、結局、それができずに、新しい路線の開通とマイカー規制による地下鉄へのお客の殺到が同時に起こる事態になってしまいました。7月21日の週、朝夕の通勤ラッシュ時に地下鉄10号線がどういう状態になるのかちょっと心配です。

 日々の通勤の足も心配ですが、オリンピック観戦客の各試合会場への行き帰りの「足」の確保も心配です。北京は、まだ、東京のように「地下鉄が網の目のように張り巡らされている」というほど地下鉄が整備されていないので、多くのオリンピック会場は、地下鉄では行けない場所にあります。オリンピックの各試合会場へは、行きバスやタクシーを使えばたどり着けると思います(ただし、バスは路線が複雑だし、タクシーも英語はほとんど通じないので、初めて中国に来た人がバスやタクシーで目的地に行くのは、それなりに大変です)。

 最も心配なのが、帰りの足を確保することです。特にサッカーなど試合が終わると何万人もの人が一斉に帰る種目の場合は、バスはすぐに満員になるだろうし、タクシーがすぐつかまるとはとても思えません。テロ防止のため、試合会場周辺はほとんどが駐車禁止になると思うので、マイカーで相乗りで試合会場に行く、というのはたぶんムリです。特に心配なのは、オリンピック・スタジアム(通称「鳥巣」)に通じる地下鉄が(これから開通する)オリンピック公園支線1本しかないことです。近くの複数の地下鉄の駅との間でシャトル・バスを運行するという話もありますが、オリンピック・スタジアムは9万人以上入れるそうですので、満員のお客が一斉に帰途についたら、地下鉄1本でさばけるのだろうか、と不安になります。

 ちなみに東京近郊の場合、東京ドームだと、JR総武線のほか、東京メトロの地下鉄丸ノ内線と南北線、都営地下鉄三田線の合計4本の鉄道の駅があるから、試合後の人の波をさばけているのです。西武ドームは西武鉄道の西武球場線と山口線の2本しかありませんが、試合終了の頃になると、西武球場駅では列車を5~6本待機させる特別ダイヤを仕立ててお客を輸送しています。北京のオリンピック・スタジアムでこういった東京のスタジアムと同じような観客輸送ができるのだろうか、という点は、全くの未知数です。

 日本の旅行会社の「北京オリンピック観戦ツアーパック」のネット上にある広告を見ていたら、日本と北京との航空券とホテルは確保するが「試合会場とホテルとの間は公共交通機関を使って各自で行き来してください」というのがありました。普通は、パック旅行の場合、北京市内の観光は、バスを仕立てて移動するのが普通なのですが、ナンバープレートの偶数・奇数規制などの各種交通規制があるために旅行会社も確実にバスを手配することができないのでしょう。北京市内の幹線道路では、オリンピック期間中は「オリンピック車両専用レーン」が設定されていますので、主要道路では一般車両が通れるレーンは普段より1つ少なくなります。ナンバープレート規制と政府機関の公用車に対する規制により、自家用車や政府機関の車は普段の4割程度に減らすそうだし、オリンピック期間中は休暇を取る人も多いと思うので、道路のレーン数がいつもより1つ減っても、普段の北京のような交通渋滞は起きないと思いますが、試合会場近くでは、かなりの渋滞になることが予想されます。

 日本の旅行会社の「パック」の中には、サッカーの観戦ツアーで「行きは皆様を会場へお連れします。」「試合終了後は、各自でホテルにお戻りください」というのがありました。試合会場周辺は駐車禁止措置が採られるので、迎えのバスを待機させておくことができないから「各自でホテルにお戻りください」ということになるのでしょう。こういったパックに参加される方は、相当の覚悟が必要です。こういう状況だと違法タクシー(日本語だと「白タク」、中国語だと「黒車」)が出没する可能性がありますが、これは違法ですし、悪質なのにつかまるといくら取られるかわかりませんので、違法タクシーに乗るのはやめましょう。

 私は、今度の北京オリンピックでは、選手や競技関係者の移動などはきちんとやると思うので、競技自体は何の問題もなくスムーズに行われると思います。新聞記者に対する情報提供などもきちんとやると思います(プレス(報道関係者)に対するサービスが悪いと、何を書かれるかわからないので、北京オリンピック委員会もプレスに対するサービスはきちんとやると思います)。

 問題は、一般観客がオリンピック観戦に満足して帰るか、です。心配なのは、上に書いたように試合会場までの行き帰りの「足」の確保がきちんとできているのか、ということと、もうひとつは「チケット問題」です。日本ではオリンピックのチケットがなかなか手に入らないそうですが、それは中国国内でかなり大量のチケットが留保されていることを意味しており、かなりの数の「ダフ屋」が出ることが予想されます。「ダフ屋行為」は違法ですし、ニセモノのチケットをつかまされる可能性もありますから、「ダフ屋」からチケットを買うことは避けるべきです。一般観客の「足」の問題と「ダフ屋」の問題で、小さなトラブルが頻発するのではないか、というのが今の時点での私の心配です。また、試合会場入り口での保安検査が厳重で観客が列を作ってしまったさばききれず「試合開始に間に合わなかった」といった観客の不満が出る場面も出そうです。

 「足」や「チケット」や「警備の問題」などで一般観客が不満に思ったり、一部で観客が若干のトラブルを起こしたとしても、競技自体が無事終われば「オリンピックは成功」ということになるのでしょう。そもそも中国で暮らすためには、オリンピックがあってもなくても、「だまされないように細心の注意を払う」「情報がない中でいかに自分で判断するか」「予定が急に変更になった時にあわてずに対処できるか」といった「サバイバル精神力」が必要です。北京オリンピックを現地で実際に観戦される皆様には「サバイバル精神力」「我慢する精神力」「『何の情報ない』といった状態に耐え抜く胆力」「予定と違った事態が発生した時に柔軟に対処できるしたたかさ」をお持ちになり、「オリンピック観戦」という「戦い」を勝ち抜かれることを希望したいと思います。

 なお、私自身は、オリンピック期間中はずっと北京にいる予定ですが、残念ながらその種の「強靱な精神力」や「胆力」「したたかさ」については、まだまだ修行が足りていないので、競技場で見ることはやめて、テレビで観戦することにしています。

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2008年7月13日 (日)

「オリンピックを機会に」と思う人々の願い

 昨日(7月12日)早朝、北京近郊で農薬を散布していたヘリコプターが墜落し、乗員1名が死亡したほか、墜落したヘリコプターが高圧電線を切断して約5,000戸が停電しました。また、昨日午前9時頃、北京市内の地下鉄2号線の朝陽門駅で一人の男が線路に転落し、地下鉄2号線が約10分間運行を停止しました。転落した男は軽傷で済んだそうですが、転落した原因は不明なのだそうです。これらのニュースは昨日の夕刊にも載ったし、今朝(7月13日朝)の「新京報」などの朝刊紙にも載っていました。

 午前中に起きた事件や事故のニュースがその日の夕刊に載り、翌日の朝刊に載るのは、日本(というか「普通の国」)ならば別に珍しくもない当たり前のことですが、今日の「新京報」の社説では「こういった『突発的に起きたマイナスのニュース』が1時間程度で新華社で報道され、多くの人々に知らされたことは、注目に値し、嬉しくてホットする」と評価しています。この手の「突発的なマイナスの事件」が迅速に新華社のページで報道されるのは、これが初めてではないし、「新京報」の社説が「注目に値し、嬉しくてホットする」とまで言って持ち上げるのは、やや大げさな感じはするのですが、今までの中国において「マイナスのニュース」が迅速に報道されにくかったのは事実です(社説を書いた人は「皮肉」のつもりで大げさに「伝え方が迅速だったのは良かった」と新華社を持ち上げたのかもしれません)。

(参考)「新京報」2008年7月13日付け社説
「オリンピックは情報公開された中国を試す一つの試験である」
http://www.thebeijingnews.com/comment/shelun/2008/07-13/011@082021.htm

 この「新京報」の社説では、オリンピックが開かれることにより、中国の一挙一動に対して世界が注目し、何万人もの外国の報道陣が中国を訪れて「非常に複雑な状況」になるので、情報公開をさらに進め、情報を秘匿することによるリスクを減らすようにすることが必然的に求められる、と指摘しています。ある外交官は、最近の中国の情報公開は、オリンピックを開催するという圧力によるものではなく、中国の改革開放30年の結果として得られたものなのだ、と主張しているとのことです。この社説では「その意味では、北京オリンピックは、中国が改革開放の過去30年で得てきた中国社会の開放性と情報公開が徐々に進んできたことを試す一種のテスト期間であると信じる」と指摘しています。例によって、この社説では今ひとつ「ズバリ」と本音をストレートに書いてはいない感じがしますが、要するに、この社説を書いた「新京報」の論説委員もオリンピックを機会に中国の情報公開が一歩前進することを願っているのだと思います。

 よく多くの外国人が「北京オリンピックを機会に中国がより新しい段階へ進むことを期待する」といったことを言いますが、実はそう思っているのは中国の人々自身なのです。ただ「新しい段階へ進むこと」に対する期待を強く述べることは、「今まではダメだった」と表明することの裏返しですから、余りストレートにはそれを言えないだけなのです。

 今まで何回も書いてきたように、オリンピックが近づくにつれ、日常生活に影響する様々な規制が強化されてきています。日々の暮らしを少し我慢するから、それならその分、オリンピックを機会にもうちょっと「マシ」になって欲しいなぁ、と思うのは、中国に住んでいる外国人も中国の人々自身も全く同じ気持ちだと思います。

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2008年7月12日 (土)

軍隊が警備するオリンピック

 日本でも報道されているので皆様御存じだと思いますが、北京オリンピックのテロ警戒等に対しては、人民解放軍の陸海空軍が前面に出て、万全の体制で警備するとのことです。オリンピック・スタジアムの周辺には地対空ミサイルが配置され、海での競技が行われれる場所の周辺では海軍の艦艇が警戒に当たるほか海中にもフロッグ・マンを配置して警戒に当たるとのことです。

 下記の「新京報」の記事では配備されている地対空ミサイルの写真も載っています。オリンピックの安全を確保するために軍隊が警戒に当たるのは国際慣例だ、という説明が付いています。

(参考1)「新京報」2008年7月11日付け記事
「オリンピック競技場にはNBCテロ監視設備も配置」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/07-11/018@072718.htm

 上記記事では、NBCテロ(核・生物・化学テロ)に対策もちゃんと整っている、といったことが書かれています。

 一方、オリンピックを安全にスムーズに実施するために、以下のような対策が講じられるとのことです。

○車のナンバープレート偶数・奇数による交通制限を実施(下記(参考2)参照)。

(参考2)このブログの2008年6月20日付け記事
「オリンピック期間前後の北京の交通規制」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/06/post_22aa.html

○北京に入ってくる長距離バスの乗客は北京に入るときに身分証明書で身分を確認される(7月20日以降)。

○北京空港においては出迎え・見送りのために空港建屋に入る人に対しても保安検査が行われる。従って、乗客は飛行機に乗るまでに2回保安検査を受けなければならない(7月20日以降)。

○オリンピックの開会式が行われる8月8日は夜19時~24時の間、北京首都空港の全ての発着陸が停止される。

○地下鉄に乗る乗客に対して、持ち物等をX線検査装置に通すなどの保安検査を実施する(7月1日から既に実施開始)。

○全国17の主要な空港とチベット自治区、新疆ウィグル自治区の全ての飛行場において特別な安全検査を実施する(7月20日以降)(安全検査のために乗り遅れないように乗客には早めに空港へ来るように呼び掛けが行われている)。

○オリンピックのための交通の妨害とならないようにするため、軽微な交通事故の場合は、そこに車を止めないで、直ちに現場を離れるよう呼びかけられている。

○北京市内の病院に対して、オリンピック期間中は、テロ等の不測の事態が生じて緊急に輸血用血液が必要になることを想定して、不要不急の手術は行わないよう要請がなされている。

○オリンピック期間中、テロ事件、国内外の不法組織による破壊活動、オリンピック関係者及び外国人に対する傷害事件、多数の死傷者が出るような重大事故や重大な刑事事件について公安当局に通報した市民については、最高50万元(約450万円)の賞金を出すことにしている(下記(参考3)の「新京報」の記事参照)。

(参考3)「新京報」2008年7月12日付け記事
「オリンピック妨害活動を通報した人には最高50万元の賞金」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/07-12/011@025528.htm

 とにかく「オリンピックを安全にスムーズにやるために考えられる全てのことをやる」という感じです。一生懸命に「オリンピックを成功させたい」と思っている気持ちはわかるし、「人民解放軍の陸海空軍がしっかり守っている」ことをことさらにアピールしているのは一種の「抑止効果」を狙っているからだと思いますが、何となく「戒厳令下のオリンピック」みたいに思えて、「オリンピックを楽しもう」という雰囲気になかなかなれません。

 本当は、オリンピックを機会に多くの外国人に中国に来てもらって、普段着の中国を見てもらって、中国を理解してもらおう、というのも北京オリンピックの目的の一つだったはずなのですが、これではオリンピック期間中は「普段とは全く違う中国」になってしまうので、オリンピック観戦のために中国に来た外国人は間違った印象を持って帰ってしまうのではないかと心配になります。

 先日報道されたところによると、JTBが行った今年の7月15日~8月31日の夏休み期間中に行く1泊以上の旅行についての調査によると、日本から中国本土への旅行者数は昨年同時期比36.6%減の24万人と見込まれる、とのことです。景気の後退や航空燃料チャージの高騰が大きく影響しているものと思われますが、オリンピックがある年に日本からの旅行者数が対前年比36.6%の減少、というのは、どう見るべきなのでしょうか。オリンピック期間中は、北京市内のホテルが異常に高くなると見込まれているので、それが影響しているのでしょうか。この減少分のうちのいくらかは「警備が厳しすぎて、オリンピックを楽しもうという気分にならない」という気分的な部分も入っているのではないか、と私は思っています。「安全に」「スムーズに」も大事ですけれども、北京オリンピックはやはり「楽しく、感動的に」終わって欲しいと切に願っています。

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2008年7月11日 (金)

2008年上半期の北京の大気汚染指数

 今までにもこのブログで何回か国家環境保護部(今年3月の全人代の決定により「部」に昇格する前は国家環境保護総局)が発表する北京の大気汚染指数について書いてきました。

 大気汚染指数の定義等については、下記の記事を御覧ください。

(参考1)このブログの2007年6月19日付け記事
「北京の今日の大気汚染度はIII(1)級(軽微汚染)」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/06/iii1_5bc5.html

 2006年の北京の大気汚染指数の度数分布については、下記の記事を御覧ください。

(参考2)このブログの2007年8月22日付け記事
「北京の自動車交通制限と大気汚染指数」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/08/post_284f.html

 2007年の北京の大気汚染指数の度数分布については、下記の記事を御覧ください。

(参考3)このブログの2008年1月3日付け記事
「2007年の北京の大気汚染指数」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/01/2007_7776.html

 今年(2008年)も上半期が終わりましたので、2008年1月~6月の北京の大気汚染指数を度数分布にしてみたら下記のようになりました。

【2008年1月~6月の北京の大気汚染指数の度数分布】(■=1日)

000-020:■1
021-030:■1
031-040:■■■■■■■7
041-050:■■■■■■■■■9
051-060:■■■■■■■■■■■■■■■■■17
061-070:■■■■■■■■■■■■■■■■■■18
071-080:■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■25
081-090:■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■24
091-100:■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■21
101-110:■■■■4
111-120:■■■■■■■■■9
121-130:■■■■■■■■■■10
131-140:■■■■■■■■8
141-150:■■■■■■6
151-160:■■■■■■6
161-170:■■■3
171-180:■■■■4
181-190:■■2
191-200:0
201-210:0
211-220:0
221-230:0
231-240:■1
241-250:0
251-260:■1
261-270:0
271-280:0
281-290:■1
291-300:0
301以上:■■■■4
合計=182日

 今までの傾向と同じように100以下と101以上のところで、明らかに不自然な「くびれ」が出ています。100以下は「良」、101以上は「軽微汚染」で、100以下を「青空」として、「青空」になる日を多くする、というのがオリンピックを控えての目標でした。確かに以前のデータに比べると、総体的には改善傾向は見られていると思います。ただ、以前にも書きましたが、上記の度数分布の形は、「青空」の日を多くする、という目標を達成するために数字の操作が行われている可能性を示している、と私には見えていました。

 今日、日本からの報道を見ていたら、北京市環境保護局の担当副局長は、7月10日に行われた記者会見で、記者から100以上のところの件数がへこんでいる現象について質問されてた際、「汚染指数が基準をわずかに上回りそうな時は、観測点周辺で応急措置を取る」と答えた、とのことです。

(参考4)アサヒ・コム(朝日新聞社)2008年7月11日1:56アップ記事
「『青空』増は人為的? 北京市『汚染ひどいと改善措置』」
http://www.asahi.com/international/update/0711/TKY200807100396.html

(参考5)「MSN産経ニュース」に載っている「共同通信」の記事(2008年7月10日21:44アップ)
「北京の青空に疑惑浮上 観測点で『応急措置』」
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/160199

(注)これらのネット上の記事は時間が経過すると削除されます。おそらくこれらの記事は7月11日付けの紙面で記事になっていると思いますので、時間が経過してからこのブログを御覧になっている方は、新聞の紙面の記事の方を参照してください。

 北京市環境保護局の担当副局長が記者の質問に答えて「数字合わせ」のための操作をしていることをあっさり認める、というのも、素直と言えば素直、「あっけらかん」としていると言えば「あっけらかん」としているのですが、この北京市環境保護局副局長の発言を問題視するような中国の新聞の記事は私が見る限り見つかりませんでした。中国の新聞記者は「そういった『数字合わせ』はよくあることでニュース性がない」と判断したのでしょうか。それとも「当局の御指導」で記事にできなかったのでしょうか。

 いずれにしても北京市内の環境保護について「取り締まる側」の立場にいる北京市環境保護局がこのような「数字合わせの操作」をしている、という状態では、誰もまじめに環境基準を守ろうとしないのではないか、と私には思えてしまいます。それとも、こういった観測データが簡単にネット上で入手でき、記者会見で記者の質問に答えて北京市当局の担当者が正直に答えるようになった、ということに「中国の進歩」を見るべきなのだ、今の中国ではそれが限界なのだ、とあきらめるしかないのでしょうか。

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2008年7月10日 (木)

困難に直面する「メイド・イン・チャイナ」

 今日(2008年7月10日)付けの「人民日報」に掲載された評論「人民時報」では、最近の中国の沿岸部での輸出産業の不振に触れ、この不振を打開するには、自主的なイノベーションを進めなければならない、と力説しています。

(参考)「人民日報」2008年7月10日付け10面記事
「『メイド・イン・チャイナ』はいかにして難局を脱出するのか」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-07/10/content_56366.htm

 この記事のポイントは以下のとおりです。

○広東省統計局が6月30日に発表した数字によると、今年(2008年)1月~5月の5か月間で、広東省の一定規模以上の工業分野の企業で赤字になったのが11,006社で、増加率は12.7%であり、この数は広東省全体の工業分野の企業の26.0%に当たる。赤字額ベースで言うと、増加率は49.3%に上る。

○広東省と同じように市場経済が発達している浙江省台州市では、5,371社ある一定規模以上の企業のうち赤字なのは1,111社で、赤字額総計は対前年比55.7%増である。

○こういった企業の業績不振は、国際経済の変化によるものだ。人民元為替レートの上昇、原油をはじめとする原材料価格の上昇と世界的な経済成長の減速が「メイド・イン・チャイナ」が生き残る「空間」を狭くしている。

○浙江省の紡績アパレル業界は、輸出依存度が60%であり、これらの要因の影響を大きく受けている。

○これまでの中国の輸出産業は、安い労働力と安い資源価格、増値税の還付措置などで守られてきたが、今は難しい局面に直面している。

○市場経済が進展した現状にあっては、政府が先祖返りするような財政的な補助金政策を行うことはあり得ない。政府は自主的なイノベーションを進めるための環境を整備する政策を採らなければならない。

○金融政策もまた重要である。政府は、金融制度を刷新して、金融企業が主体的に産業に金融サービスを提供するようにできるであろうか?

○「メイド・イン・チャイナ」の更なる「創新」は、社会的価値観を作り上げることと無関係ではない。不動産投機で儲けた人たちが莫大な利益を上げてそれを産業資本化できるようになった時、その財力で技術の研究開発が行われただろうか? 何千万人もの「サラリーマン」が株式市場で一攫千金を夢見てばかりいたのでは、コツコツと勤勉に働くことによって富を得るという職業精神をどうやって向上させようというのか? 創新(イノベーション)の成果を尊重することによってはじめて、自主的な創新を推し進めようとする力を永続させることができるのである。

○「メイド・イン・チャイナ」の苦境は中国の経済・社会の縮図である。長期的な高度経済成長の後には、経済と社会の深層に様々な矛盾が生じることを避けることはできない。「メイド・イン・チャイナ」が遭遇しているプレッシャーを、これからの成長のための動力源にし、困難に立ち向かっていくこと以外に新しい道へ脱出する方法はないのである。

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 日本の多くの人は「メイド・イン・チャイナ」が直面している問題の原因は、そんなことじゃないでしょ(食品安全やニセモノの問題でしょ)と感じている人が多いと思います。しかし、安全性が問題となっている食品やニセモノは、「メイド・イン・チャイナ」として輸出されている製品の一部に過ぎず、全体的な問題は、上記の人民日報が指摘している問題だ、と私も思います。

 ここでは、人民日報が、最近の国際経済情勢の下で、中国の輸出産業が苦況に立ちつつあることを率直に認め、それに対応するためには技術革新を行う以外にない、と指摘していることに注目したいと思います。この人民日報の記事では、株や不動産で儲けることにばかり熱中して、技術革新に投資しようとしない現在の多く資産家の傾向に対しても批判をしています。ただ、そういう傾向を招来したのは、党と中国政府による経済政策であったはずなので、それに対する自己批判がないところが、中国共産党の機関誌たる人民日報としては物足りない、と私は思います。

 具体的に、どうやったら、お金を持った人が株や不動産で儲けることに走らずに、「創新」にお金を使うようにできるのか、といった具体的な方策にも触れられていないのも、この記事の「物足りなさ」です。ただ、言うのは簡単ですが、中国の企業が自主的に自分で技術革新をするような気持ちにさせることはなかなか難しいと言わざるを得ません。今のマーケットでは技術革新のスピードが要求されますから、基盤技術を持たない中国の企業にとっては、長い時間が掛かる自主的な技術開発に投資するより、外国から安い技術をお金で買ってきた方がビジネスとしては有利だからです。結局は、「じっくりと研究して新しいものを見付けられる人」「コツコツと勤勉に働く人」が長期的に見れば利益をしっかりと得ることができるのだ、という経済社会にするための基盤をじっくり固めていくことが、時間は掛かるけれども、最終的な解決策なのだと思います。

 今年のお正月にも書きましたが、後から振り返った時、やはり2008年は、中国にとって、「北京オリンピックがある年」以上の大きな節目の年になるのだろうという思いを年の半ばにして改めて強くしました。

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2008年7月 9日 (水)

やっぱり生放送じゃなかった「生放送」

 7月9日付けの北京の大衆紙「新京報」によると、中国中央電視台(中国中央テレビ局)では、オリンピックの生中継においては、これまで30秒遅れで放送していた「現場直播」を国際映像と同様に本当の「生放送」で放送することにした、とのことです。

(参考)「新京報」2008年7月9日付け記事
「中央電視台、オリンピックの生中継時に初めて時間遅れのない放送を実施」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/07-09/018@081345.htm

 この記事によると、中国中央電視台では、今まで生中継(中国語で「現場直播」)で何かのイベントを中継する場合は、「放送における安全を保証するため」、30秒間の技術的な遅れを入れていた、とのことです。つまり視聴者は、イベントをリアルタイムで見ているのではなく、30秒前のイベントを見ていた、というわけです。それをオリンピックの生中継からは、この30秒の「技術的な遅れ」を入れずに、国際映像信号と同時のタイミングで放送することにした、とのことです。

 前にも書いたことがありますが、衛星を使ったNHKの国際放送ワールドプレミアムは、ニュースなどは総合テレビやBS-2で放送しているものと同じものを流しているのですが、タイミングは総合テレビ等から20秒~30秒遅れて放送されています。このタイミングのズレを利用して、当局が「不適切な画像」のカットの操作をやっているのです。3月~4月頃にチベット騒乱が起きたり、各国で聖火リレーに対する妨害活動があった時には、この「30秒遅れ」を利用して、NHKでも何回も検閲カット(ブラックアウト)をやられました。中国の国内放送でも、3月の聖火点火式では30秒遅れで放送しており、人権活動家が妨害活動をした場面は、中国国内での放送では別のアングルのカメラに切り替えたために、人権活動家の映像は放送されなかったと聞いています。

 上記の「新京報」の記事を見ると、今回の聖火リレー関連の中継だけではなく、中国では基本的に全てのイベントの生中継は全て30秒遅れで放送され、本当の「生中継」はされていなかったのですね。そういったことを堂々と発表するようになった、というだけで大進歩だと思うべきなのでしょうか。

 私は前から中国のテレビのニュース番組は生放送ではないのではないか、と疑っています(アナウンサーが突然「不適切な発言」をした時に適切に対処するためです)。イベントの生中継が「生中継」ではなかった、というところから見ると、案外、私の「疑い」も間違いではないかもしれません。

 なお、前にも書いたことがありますが、「30秒遅れがなくなった」ということをいいことに、外国人がオリンピックの観戦にかこつけて、政治的なスローガンをテレビカメラに撮させようというような試みは、中国ではやらないで欲しいと思います。中国は政治的なスローガンを許可なく公の場で掲げることは、それだけで「違法」です。オリンピックというスポーツの場で、違法な行為はして欲しくないからです。また、そういう法律があることを承知で中国に入国した外国人は、中国の法律を尊重するのが国際法上の義務だからです(政治スローガンを掲げることを「違法」にする法律自体がおかしいのだ、というのは、また別の議論です)。

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2008年7月 8日 (火)

またまた中国国内線航空便でトラブル

 今日、広東省広州から北京に帰ってきたのですが、またまたトラブルに遭遇してしまいました。私は午後広州発の便で北京に帰ることにしていました。夕方には北京に着く予定でした。広州空港に着くと定刻で搭乗手続きが始まりました。最近、中国国内出張では飛行機便のトラブル続きだったので「今回はトラブルなく帰れそうだ」と思いました。しかし、機内に入って、着席してドアがしまったのですが、なかなか動き出しません。そのうち「出発の指示が出ませんので、しばらくお待ち下さい。詳しい情報がはいりましたらお知らせします。」というアナウンスがあり、待たされました。いや~な予感がしたのですが、そのうちに客室乗務員がコーラやジュースのサービスを始めました。40分くらいたつと「今しばらく待機しますので、お待ちください。情報が入りましたらお知らせします。」とまたアナウンスがありましたが、なぜ遅れているのかは自分たち(乗務員)も知らない、という雰囲気でした。そのうちに、客室乗務員が上空で出す予定だった食事を乗客に配り始めました。「こりゃ長期戦だ」と思って覚悟を決めました。

 結局、私が乗った飛行機は、定刻より約2時間遅れで広州空港を飛び立ちました。

 途中の飛行は順調で、3時間ほどのフライトで北京空港に到着しました。「2時間遅れくらいならしかたがないや」と思って、荷物受け取り場所へ行きました。私の乗った便が表示されている12番のターンテーブルのところで待っていましたが、いくら待っても荷物が出てきません。「おかしいなぁ」と思っていたら、隣の11番のターンテーブルで荷物が流れ始めました。「どうも隣に荷物が出てくるらしい」とみんなが言っているらしいので、そちらへ行くと、表示されている便名が違うのですが、荷物が流れています。私と同じ便に乗った同行者の荷物は出てきましたが、私の荷物が出てきません。

 「託送荷物案内」のカウンターに行って「私の荷物が出てこない」と言うと、荷物のタグを見て、係員が12番で出てくるから12番で待っいてくれ、とのことでした。

 で、12番で待っていましたが、待てど暮らせど出てきません。もう一度カウンターに行って聞くと、同じように「もうしばらく12番のところで待っていてくれ」とのことでした。約1時間が経過し、12番のターンテーブルでは、私が乗った次の広州発北京行きの便の荷物が出始めました(広州・北京間はメイン路線のひとつなので1時間に1本くらいの間隔で飛んでいます)。もしかすると、この次の便の荷物の中に私の荷物が紛れ込んでいるのかなぁ、と思って辛抱強く待っていたら、案の定、私の荷物が出てきました。私の荷物に付いたタグを見ると、タグの上に手書きで次の便の便番号が書いてありました。私は体だけは2時間遅れで予定通りの便で北京に到着しましたが、荷物はさらに次の便で北京に到着していた、ということのようです。結局は空港を出た時刻は当初予定していた時刻より3時間以上遅れていました。

 「託送荷物案内」のところでは、「荷物は次の便で来るからもう少し待て」という説明は全くなく、とにかく「そのうち出てくるからもう少し待て」という説明でした。この係員が、一部の荷物は乗客が乗っていた便ではなく、その次の便で運んでいる、という事情を知っていたのかどうかは不明です。

 中国については、いいかげんなところが多いようなイメージを持たれている方も多いと思いますが、今までは、航空便の託送荷物で、荷物がなくなったり、別のところへ間違って運ばれたりしたことは、私は一度も経験したことがありませんでした。私は、ヨーロッパへ行った回数は少ないのですが、その少ない回数の中で、自分はウィーンからパリに行ったのに、荷物はデュッセルドルフへ行っていた、ということを経験しました。この時は、航空会社が翌日、ホテルまで荷物を届けてくれました。中国では、国内移動を何十回も経験していますが、今まで、こういう荷物のトラブルにあったことはありませんでした。

 以前、中国国内の別のところへ行った時にも、定刻に飛行機に乗り込んだのに、飛行機に乗り込んでドアを閉めたあと、そのまま4時間待たされてから、飛び立ったことがありました。その時は、中国語では「目的地の天候が悪いから」と言い、英語では「航空管制システムの理由により」といったようことを言っていたようですが、結局理由はわかりませんでした。その時、目的地にいる人に電話を掛けたら、「別に天気は悪くないですよ」とのことでした。

 何か都合があるのだったら、お客を飛行機に乗せないで待合室で待たせていた方がよいように思うのですが、待合室で待たせると、お客が買い物に行ったりして収拾がつかなくなるので、航空会社としては、とにかく登場させて、ドアを閉めて、お客が逃げないようにしてから待たせる、という方針のようです(中国の人は交渉ごとに強いので、遅れるなら、別の便で行く、と交渉する(ごねる)客が出るのが航空会社としてはイヤなのでしょう)。飛行機にお客を乗せてから何時間も待たせると、クーラーはオンにしておかなければならないので、エネルギーの無駄だと思うのですが、それよりも「お客をコントロール下に置いておく」ことの方が航空会社にとっては大事なのでしょう。

 この6月には、北京空港第三ターミナルで大規模な荷物搬送に関するトラブルが起きました。乗客の体だけが予定通りの便で飛んだのに、荷物が次の便で目的地に到着する、というケースが続出し、目的地で行った会議でプレゼンができなかった、といった苦情が殺到した、といったことが新聞に出ていました。

 このニュースを聞いた時は、北京空港第三ターミナルは、今年3月に運用を開始したばかりなので、職員が不慣れだとか、機器の故障があったからかなぁ、と思いましたが、今日の広州発北京行きの私の場合は、トラブルは明らかに広州空港で起きています。乗客(私)と荷物を同じ便に乗せなかったのは広州空港の問題であり、北京空港の問題ではないからです。

 以上を総合して考えると、最近の中国国内航空便のトラブルが多発している原因のひとつとして最も可能性が大きいのは、託送荷物に対する安全検査(レントゲンによるチェックなど)に時間が掛かり過ぎ、機体への積み込みが遅れたり、今日の私のケースのように荷物だけが次の便に回されたりしているから、ということのようです。北京オリンピックを控えて、テロを警戒して、公安当局が安全検査を相当入念にやっているからなのかもしれません。これは、空港の公安当局の問題であり、航空会社の責任ではないわけですが、航空会社としても公安当局からにらまれたら恐いのですから、機内アナウンスで「公安当局の安全チェックが遅いので」と言うわけにはいかないので、天気のせいにしたり、航空管理システムのせいにしたりするのだと思います。今日の私の経験では、機内のアナウンスは最後まで遅れた理由についての説明はありませんでした。今日は、中国の航空会社にしては珍しく「遅れて申し訳ありませんでした」と「お詫びの言葉」を言っていたので、「それなりの」誠意は感じましたが。

 最近、北京では、オリンピックの円滑な成功のためには、市民には少々の不便は我慢してもらう、という方針で、様々な規制強化が行われています。地下鉄に乗るのにも安全検査を受けなければならないし、7月20日からはナンバープレートの偶数・奇数による車の交通規制が始まります。大気汚染の原因となる工場については、北京市だけでなく、周辺の河北省に対しても操業休止の要請(「要請」とっても中国の場合は「指示」に等しい)が出されているそうです。

 結局は、オリンピックだけに着目すれば「順調にうまくいった」ということで終わると思いますが、そのために、周囲でいろいろ不便なことが起きそうです。オリンピックを機会に中国国内を観光しようと計画している皆様には、十分な時間的余裕を持ったスケジュールを立てるとともに、それなりの心の準備をしていただいた方がよいと思います。また、飛行機に乗るときには「託送荷物は次の便で遅れてくるかもしれない」ということをあらかじめ想定して、手元にないとどうしようもなく困るようなものは託送荷物の中に入れずに、機内持ち込み荷物として持ち込むようにした方がよいと思います(ただし、液体やハサミ、ナイフの類など機内持ち込み禁止の物品がありますので、何が機内に持ち込めないかは、航空会社や空港でよく確認してください)。

 ということで、最近の中国国内出張は、ストレスが溜まって疲れます。早く無事にオリンピックが終わって欲しいと思います。

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2008年7月 6日 (日)

「中国の不動産市場:急を告げる」との記事

 経済専門週刊紙「経済観察報」の2008年7月7日号(7月5日発売)の1面トップに「中国の不動産市場:急を告げる~開発業者が2つの大きな意見を提出、発展改革委員会は衰退のリスクに警戒~」と題する記事が載っていました。最近の中国の不動産市場の冷え込みに対して、開発業者が政府の関係機関が不動産市場に存在するリスクに対して関心を持ち、これを解決するよう希望する、との意見を出した、とのことです。意見の中身は具体的には「資金金融関係に対して下支えを提供できるかどうか」ということと「市場の需要に対して下支えを提供できるかどうか」ということ、とのことです。

 関連記事によると、今年1月~5月の全国の部屋の販売価格は対前年同月比の平均で11.2%上昇しているが、上昇幅は縮小傾向にある、広州、深セン等珠江デルタ地帯の都市においては価格は下降傾向にある、5月の新築住宅価格について見れば四川省の成都は0.4%、重慶は0.1%のマイナスだった、とのことです。また、今年1月~4月に販売された部屋の面積は対前年比4.9%の減少、そのうち住居用部屋の販売面積は対前年比0.4%減少だった、とのことです。その一方で、同じ時期に竣工した販売用の部屋の面積は19.5%の増加、うち住居用部屋の竣工面積は20.2%の増加で、供給量は依然として増えている、とのことです。

 こういった状況に対して、「中国の不動産市場が衰退するリスクがあるのか」「リスクがあるとして、それに対して政府が何らかの措置を取るのか、措置を取るとしてどのような措置をどのようなタイミングで行うのか」といった問題があります。「政府による市場を救済する措置」については、どういった措置が可能なのかは難しい問題です。

 北京地区においては、以前から、オリンピックを境にして建築ブームは一段落するのではないかと言われていました。それに加えて、5月12日に起きた四川大地震で、投機目的でマンションを買おうとしていた層が、資産としてマンションを購入することに対するリスクを強く意識するようになり、マンション購入を控える心理が働いているのではないか、とも言われています。

 ネット上で見られる「経済観察報」のページには、「部屋の価格は下がらないという神話は終わった~或いは理性へ回帰するのかもしれない」と題する宋清華という人の書いた記事が載っています。

(参考)「経済観察報」ホームページ2008年7月4日付け記事
「部屋の価格は下がらないという神話は終わった~或いは理性へ回帰するのかもしれない」
http://www.eeo.com.cn/Politics/beijing_news/2008/07/04/105347.html

 この記事では、住宅・都市農村建設部が発表した最新のデータとして、今年1月~5月に40の主要都市において売り出された新築の部屋と中古の部屋の累計の契約成立面積は、それぞれ24.9%、20.9%の比率で減少している、という数字を紹介しています。2007年の暮れから土地売買市場が冷え込み、多くの開発業者が大量の物件を抱えることに対するリスクを感じているとも指摘しています。

 原油価格の急騰に伴う影響など、今後の中国経済には、様々な要素が絡んで来ており、先行きを予測することが難しい状況になってきています。今後どのような変化が起こるにせよ、政府による適切な対処と市場関係者の冷静な対応により、その変化がマイルドでソフトなものになることを願いたいと思います。

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2008年7月 4日 (金)

大陸・台湾間で直行チャーター便が運航開始

 5月末に北京を訪問した中国国民党の呉伯雄主席と中国共産党の胡錦濤総書記との会談でなされた合意に基づき、今日(2008年7月4日)から、週末に中国大陸と台湾との間を直接結ぶ直行チャーター便の運航が始まりました。今日は、北京、上海、廈門(アモイ)、広州、南京の5つの都市から台湾へ向けての直行便が飛び立ちました。北京での「出発式」では、台湾弁公室主任の王毅氏(前駐日大使)が挨拶しました。その様子は、今朝の中国中央電視台のニュースの時間で生中継で放送されました。

(参考)「新華社」ホームページ2008年7月4日17:26アップ記事
「ニュース特写:海峡の対岸へ向かっての飛行」
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-07/04/content_8491039.htm

 上記の新華社の記事に載っている写真を見ればわかるように、北京から台湾へ向かった飛行機には中国の国旗(五星紅旗)が描かれていないように見えます。台湾の飛行機も大陸へ飛んできますが、お互いに対立している点は避けて、実利を取ろう、ということで合意して、「旗」は表示しないことにしたのではないかと思います。

 大陸から台湾への訪問客は、基本的に「ツアー旅行団」を組んで観光します。6月30日のこのブログの記事で「自由時間もあるようです」と書きましたが、自由時間はあるけれども、ツアーガイドの許可の下で、ツアーガイドの指示に従って行動すること、という「注意事項」があるのだそうです。政治的な活動はもちろん禁止ですが、人と人とが顔を合わせて話をすれば、同じ中国人同士なんですから、わかりあえる部分がどんどん増えてくると思います。

 「観光ツアーは政治的には無色透明」とは言いながら、例えば、中国の観光客が台北の故宮博物館にある宝物を見てどう思うでしょうか。「政治的なものは見せない」という観光コースだとしても、街の片隅に書いてあることがらや、テレビ番組、インターネットなど「外の世界」が見られるわけですから、大陸からの観光客は「何か」を感じるかもしれません(当然のことですが、台湾は、中国当局によるインターネット規制の範囲の外です)。もっとも、「台湾ツアー」に参加できるような人たちはお金持ちで、今までに香港や日本へはさんざん行ったことのある人たちであって、「外の空気」を吸ってビックリするようなことのない人たちなのかもしれません。ただ、日本は外国だし、香港も長年イギリスの植民地だったから「外の空気」があるのは当然だとしても、同じ中国なのに台湾になぜ「外の空気」があるのか不思議だ、という気分にはなるかもしれません。

 いずれにせよ、大陸側と台湾側の政治的意図がどういうものだったかに関わりなく、人と人とが行き来して、顔を付き合わせて話をする機会が増える方向に世の中が進んだことは、素直に「歴史が前に進んだ」と喜ぶべきだと思います。これもオリンピックと同じように、中国が外へ向かって開かれていく道程のひとつになるのだと思います。

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2008年7月 3日 (木)

貴州省甕安県の暴動事件の真相

 本件は、日本のマスコミでも報道されており、また、現在まだ「なぞ」の部分も多く、これからも「真相」がわかってくるところがあると思いますが、記録の意味もあり、今日(7月3日)時点で書いておくことにします。

 海外のマスコミで報道されていることと、中国で報道されていることには微妙な違いがあります。しかし、これまでの多くの中国国内の地方での暴動事件とは異なり、本件については、中国国内でも報道されており、掲示板の発言も認められています(ただし、一定の主張の発言は削除されているようです)。今まで私が知り得たことをまとめておきます。

○海外マスコミの報道(いろいろな報道があるものを、筆者がポイントをまとめたもの)

「6月28日、貴州省黔南プイ族ミャオ族自治州甕安(日本語読みでは「おうあん」)県で、数千人(報道によっては数万人)による抗議行動があり、政府関係機関の建物や警察の車両が放火されたりする事件が起こった。数日前、ある少女が川で遺体で見つかり、少女の親族はそばにいた男の友人ら3名に暴行されて殺されたのではないか、と疑っていたが、警察は少女の死を自殺と判断し、3名を釈放した。取り調べを受けて釈放された3名の中に県の幹部の息子がいたために、暴行殺人がもみ消されたのではないか、とのウワサが流れた。抗議に訪れた少女の叔父が警察に抗議に行ったところ、その叔父は暴行を受けて死亡した。この暴動は、これらの警察の動きに怒った民衆が起こしたもので、この抗議行動により多数が逮捕された(報道の中には、取り締まりの過程で警察側が発砲し、複数の死者が出た、というものもあった)。」

○中国での報道

(参考1)「新華社」ホームページ2008年6月29日5:48アップ記事
「貴州省甕安(おうあん)県で焼き討ち事件が発生」
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-06/29/content_8456598.htm

[(参考1)の記事のポイント]
 28日午後、甕安県において、女子学生の死因鑑定に対する不満を持つ一部の人が原因となって、群衆が県政府及び公安局に集まった。政府の責任者が応対している時、真相を知らない群衆が一部の人に煽動されて県の公安局、県政府と共産党県委員会のビルに押し掛けた。その後、少数の不法分子が、事務室を打ち壊し、多くの事務室と一両の車に放火した。事件発生後、貴州省の共産党常務委員、公安庁のトップらが現場に駆けつけて、29日午前2時の時点では人々は解散した。事態は拡大せず、甕安県の街は現在のところ正常な状態を回復している。

(参考2)「新華社」ホームページ2008年7月1日9:50アップ記事
「貴州省の石宗源書記『6・28突発事件』は善処しなければならない、と語る」
http://news.xinhuanet.com/politics/2008-07/01/content_8468856.htm

[(参考2)の記事のポイント]
 貴州省の共産党委員会書記で貴州省の人民代表大会委員長の石宗源氏は、「6・28事件」の現場に行き事情を聞いた。石宗源書記は、「この事件は、もともとの原因となった事情は単純なものだったが、少数の下心を持った人たちによって煽動され利用され、「黒勢力」(暴力団)の参与によって、党委員会と政府に対して挑発された集団事件である。」と述べた。党中央・国務院も事態を重視し、胡錦濤総書記は、政治局常務委員の周永康(公安担当)に対応を指示した。公安部の孟建柱部長も何回も現地に電話して直接指示を行った。

(参考3)「新華社」ホームページ2008年7月1日13:30アップ記事
「甕安県の民衆は6・28焼き討ち事件を起こした不法分子に対する怒りの声を上げている」
http://news.xinhuanet.com/local/2008-07/01/content_8469834.htm

[(参考3)の記事のポイント]
 甕安県で6月28日に打ち、壊し、撞き、焼く事件が発生した後、甕安県の幅広い大衆の間に、法律を踏みにじって国家機関を焼き討ちし、公共財物を損壊した一部の不法分子に対する強烈な反発が引き起こされた。
(筆者注:「打ち、壊し、撞き、焼く事件」という表現は、今年3月14日にチベット自治区・ラサで起きた事件を報じる新華社の報道と同じ表現である)。

(参考4)「人民日報」2008年7月2付け2面記事
「貴州省公安庁、甕安県の『6・28』事件について報告」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-07/02/content_51574.htm

[(参考4)の記事のポイント]

・貴州省公安局は7月1日夜、記者会見を開いて6月28日に甕安県で起きた焼き討ち事件について記者団に説明した。この事件では警察官等100名以上が負傷したほか、県の党委員会、県の政府、県の公安局のビルが焼き討ちに合い、公共財産が損害を受けた。現在のところ、事件は終息しており、現在、基本的な調査が行われている。

・6月22日0時27分、甕安県公安局に110番通報があった。県の西門河大堰橋において人が川に飛び込んだとのことだった。近くの派出所の警官が現場に駆けつけ、3時頃、溺れた少女を発見したが既に死亡していた。警察は現場にいた劉某(別の報道によれば男)、陳某(男)、王某(女)の3人を取り調べた。死亡したのは1991年7月生まれのAさんだった(注:人民日報では実名が報じられている。人民日報は「強姦殺人ではなく自殺だ」という立場にあるので、死んだ少女の実名を報道しているが、このブログでは実名は伏せておくことにする)。

・調べによれば、21日20時頃、AさんとAさんの女友だちの王某、Aさんの男友達の陳某、陳某の友だちの劉某は西門河大堰橋のところに行った。彼らが話をしている時、Aさんが突然、「川に飛び込んで死んじゃうのはやめた。死んでも何にもならないのだったら、うまく生きていかなくちゃいけない」(中国語原文では「跳河死了算了,如果死不成好好活下去。」)と言った。約10分後、陳某が先に現場を離れた。陳某が離れた後、劉某はAさんの気持ちが平静になったと思ったので、橋の上で腕立て伏せを始めた。劉某が3回目の腕立て伏せをやった時、Aさんは「私は行くわ」という大きな声を出して、下の川に飛び込んだ。劉はすぐに川に飛び込んで助けようとした。王は急いで陳に電話して助けを求めた。陳はすぐに引き返してきて、川に入って救助しようとした。劉と陳は体力が続かず、岸の上に引き返した。王と劉はすぐに警察に通報した。

・甕安県公安局は調査の結果、Aさんの死亡は自分で川に飛び込んだ自殺と判断して家族に伝えたが、家族は強姦殺人の疑いがあるとしてDNA鑑定を要求した。6月25日午後、貴州省黔南プイ族ミャオ族自治州の公安局が派遣した医師により検死が再び行われ、溺死と判定された。しかし、家族は遺体を埋葬せず、王某、劉某、陳某の責任を追及し、公安部門に対して50万元の賠償を請求した。

・県当局の何回にもわたる説得の結果、Aさんの家族は6月28日に協議書にサインすることになった。しかし、6月28日16時、Aさんの親族は300人以上の人たちと一緒に横断幕を掲げて県政府庁舎にデモを行った。土曜日の午後だったので、街に多くの人がおり、一部の群衆がデモに加わって、16時30分頃には多くの人々が公安局ビルの前に集まった。警察は解散するよう説得したが、少数の人による煽動によって、一部の不法分子がミネラル・ウォーターのビンや泥の塊やレンガで警察官を攻撃し、警察官が作った人垣を突破して、ビルを打ち壊し、車両に放火した。20時頃、不法分子は共産党県委員会や県政府のビルに対しても打ち壊しを行った。打ち壊し行為は7時間に及んだ。ケガをした人は150名以上に及んだが大部分は軽傷で、死者はいなかった。

・打ち壊し行為に直接参加した人に多くの地元の暴力団員が含まれていた。現在までに50余人が拘束され、取り調べが行われている。

・7月1日、Aさんの家族に対する説得が行われ、家族は遺体を埋葬することに同意したが、その前にもう一度遺体を検査することを要求した。貴州省公安局は、もう一度貴州省と県の法医学関係者が共同して遺体を検査することを決定した。

(参考5)「新京報」2008年7月2日付け記事
「甕安県の共産党県委員会や県政府が焼かれ50余人が拘束された」
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2008/07-02/021@073020.htm

[(参考5)の記事のうち(参考4)の記事にない情報のポイント]

・自治州政府の要請により二度目の検死を行った都匀市の法医師の王代興氏が7月1日に語ったところによると、「死因は溺れたことによる窒息死で、死ぬ前に性行為が行われた形跡はない。陰道の分泌物を検査したが、精液成分は検出されなかった。」とのことである。

(筆者注)上記説明の中に「陰道の分泌物を検査したが、精液成分は検出されなかった。」とあるが、筆者の理解では、日本の判例では、そういう状態に至らない状況であったとしても婦女暴行罪は成立する、とされている。従って、日本の裁判では、上記の証拠だけでは「婦女暴行はなかった」ことの証明にはならないと思われる)。

・貴州省黔南プイ族ミャオ族自治州政法委員会の羅毅介書記によると、現場にいた陳某、劉某、王某は、三人とも両親は農村に住んでいて農業に従事しており、ウワサになっているような「現場にいた3人の中に県の書記や副県長の息子がいた」という事実はない。

・甕安県公安局の周国祥副局長によると「死んだAさんの叔父が警察で乱暴されて死亡した」というウワサがあるが、死んだAさんの叔父が警察で乱暴された、という事実はない。Aさんの叔父は、派出所を出た後、教育局の事務局で報告をしていた。その後、保険会社の入り口のところで殴打された、とのことである。この事件については、現在、警察において調査中である。

(参考6)「人民日報」のホームページに2008年7月2日13:29にアップされた記事
(もともとは「金黔オンライン」に載っていた記事を人民日報ホームページが転載したもの)
「甕安事件の死者の叔父が真相を語る:私は死んでいない、デマを言ってはいけない」
http://society.people.com.cn/GB/8217/126097/126098/7458367.html

[(参考6)の記事のポイント]

 Aさんの叔父は中学校の教師である。現在、暴行事件でケガをして入院中であるが、「私は死んではいない。変なデマは流さないで欲しい。」と言っている。Aさんの叔父の話は次の通り。

・6月22日の深夜、姪が死んだと聞いたので、現場へ行って遺体を確認した。その後、状況を聞こうと思って警察の事務室に行った。警官がこの事件の処理で忙しそうにしており、私が入っていくと大声で「何しに来た!」と怒鳴った。私も姪が死んで気が立っていたので「遊びに来たんだ!」と言い返した。すると警官は「出て行け!」と言って私を突いて来たので、ケンカになった。

・その後、教育局から呼び出しがあり、警官との衝突の状況を説明に行った。教育局を出て保険会社の入り口のところへ行ったら、正体不明の6人の男に出会って暴力を振るわれた。すぐに110番した。警官が来て、私は病院に送られた。それ以来病院から出ていないので、焼き討ち事件のことは知らなかった。

・焼き討ち事件の当日、家族が病院に来て、「街の人はみんなあなたが公安局で殴られて死んだと言っている。1万人にも上る人があなたと姪の怨みを晴らすのだ、と言っている」と言っていた。私は死んだ姪の親族として、このような事態に発展するとは思いも寄らなかった。私と私の親族は、絶対に焼き討ちに加わっていないし、焼き討ち事件が起こることを全く希望していなかった。

(参考7)「人民日報」のホームページ2008年7月3日8:30アップの記事
「貴州省の事件処理担当グループ、6・28事件の深層原因について初歩的に分析」
http://politics.people.com.cn/GB/1026/7462193.html

[(参考7)の記事のポイント]

 7月2日、貴州省の副書記で、共産党省委員会が設置した甕安6・28事件担当グループ・グループ長の王富玉氏と副省長で担当グループの副グループ長の黄康生氏は、甕安県幹部の検討会において次のように発言した。

・多くの人は、甕安6・28事件の原因にはいくつかの側面があると考えている。

(1) 一つ目はもともと治安が良くないことである。暴力事件が年間600~800件発生しているが、検挙率は50%に過ぎない。

(2) 二つ目は社会的矛盾が蓄積していることである。住宅の取り壊しに係わる紛争や国有企業の改革において多くの矛盾が出現している。一部の人々の合法的な権益が守れていないケースがあり、一部の民衆の間に怒りが溜まっている。

(3) 三つ目は、道徳教育が十分に重視されていないことである。少数の幹部は党の幹部としての品性に欠けており、危機意識が欠けている。一部の学校では知識教育偏重になっており、思想、品格、徳育教育を重視していない。一部の民衆は法律意識に乏しく利益追求の気持ちが強すぎる。

(4) 四つ目は、一部の幹部の誠実さの欠如である。一部の部門の幹部は、民衆と相対し、民衆の中に深く入って、民衆を指導する能力が不足しており、民衆の気持ちを理解せず、行政が硬直的になっている。罪人を恐れて法による処罰を厳正に行わなかったり、法執行において情実を掛け、情を以て法に代えるという現象が起きている。

(5) 党の基層において基礎的な工作が不足している。基層においては党員が模範となるべきなのにそれがうまくできていない。

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 インターネットにおける本件に対する扱い(インターネットにおける本件関連事項へのアクセス規制など)や報道の仕方は時期によって扱いが揺れているようです。「新華社」は事件発生の翌日6月29日の早朝の時点で報道を始めています。中国の地方における暴動事件の報道としては異例の早さだと思います。しかし、人民日報が本件に初めて触れたのは事件が発生してから3日目の7月2日です。また、私が見ている範囲では、テレビでは本件は報道されていません。「新華社」の記事に付随している掲示板に対する書き込みは、基本的には認められており、先日(6月20日)に胡錦濤総書記が突然登場した「人民日報」のホームページの掲示板「強国論壇」にも、本件に関するたくさんの書き込みがなされています。ただ、党批判、政府批判に走るような発言は削除されているようです。

 本件に関しては、当初から、焼き討ち事件を目撃した人が撮影した写真が大量にネット上にアップされました。6月30日夜の時点で中国の最大の検索エンジンである百度で「甕安」というキーワーで画像検索すると、多くの焼き討ち事件を撮した写真がヒットしました。ただ、私が見た時点(6月29日夜)では、多くの焼き討ち事件の写真のサムネイル(見出しとして使う縮小した写真)は見ることができても、そこをクリックして拡大して見ようとすると「削除されていて存在しません」としか表示されませんでした。7月1日の夜時点になると、百度で「甕安」というキーワーで画像検索しても、焼き討ち事件関連の写真は、サムネールも含めて全く表示されませんでした。余りに多くの数の写真がアップされたために当初は削除し切れなかったようですが、結局は現場の写真は削除する、というのが当局の方針だったようです。

 本件については、新華社や人民日報が「デモは、真相を知らない一部の人が煽動したもので、焼き討ち事件を起こしたのは一部の不法分子で、その中には地元の暴力団員が含まれている」というトーンで報道していますが、掲示板の発言には、こういった報道の仕方に対して、かなりの批判が出ています。新華社の報道では、事件翌日早朝の記事で「一部の人が真相を知らない群衆を扇動し・・・」といった表現が使われていますが、この時点では誰も「真相」は知らなかったはずで、それなのに新華社が「真相を知らない群衆を扇動し・・・」と群衆は真相を知らないはずだと決めつけているのはおかしい、という批判です。また、今回は多くの焼き討ち場面の写真がネットに掲載され、実際に数千人に上る人が公安局の前に集まっていることは事実だ、とみんな知っていたので、新華社が言っている「少数の不法分子」という表現はおかしい、とみんなが思ったのです。また、ウラに何かなければ「一部の人の煽動」だけで、あれだけの数の群衆が騒ぐはずがない、ということはみんなよくわかっているので、新華社の報道はおかしい、と感じたのだと思います。

 中国で公式報道を批判するような掲示板の発言が削除されずに残っている、ということは、かなり珍しいことです。当局側も、先に胡錦濤総書記が「人民日報」ホームページの掲示板「強国論壇」に登場したように、ネットの発言を削除しまくっているだけではもはやネット世論をコントロールできない、と考えるようになったからのようです。

 新華社の記事についている掲示板には、「事態は発展していない。既に正常に戻っている。」という新華社の表現について「記者の良心はあるのか。事件の原因は? 現場に行って調べないのか? 我々は真相を知りたいのだ!」といった報道に対する辛辣なコメントもありました。また、「水は船を浮かべることができるが、水は船をひっくり返すこともできる。共産党は反省しなければいけないのではないか。」といったかなり大胆な発言も削除されないで残っていました(今も残っているかどうかは知りません)。

 また、事件の詳細の報道のうち、友だちが「橋の上で腕立て伏せをしているうちに少女が飛び込んだ」といった経緯に対しては、多くの人が「考えにくいシチュエーションだ」として疑問を持っているようです。また、死んだ少女の叔父は死んではいなかったものの「正体不明の6人組に襲われてケガをした」というのは事実のようですので、それが何を意味するのか、については、全くナゾが解かれていません。

 もうひとつ着目すべきなのは、(参考7)の人民日報の記事が「地方政府の側にもいろいろ問題があった」と指摘していることです。これは、チベット自治区のラサで起きた暴動については「一部の不法分子が外国勢力の煽動によって引き起こしたもの」という「公式見解」で押し通すことができたの対し、今回の貴州省の暴動では「一部の者が真相を知らない群衆を扇動し、少数の不法分子が焼き討ちを行った」という「公式見解」だけでは中国国内が収まらない、地方政府にも一定の責任を負わせなければならない、と当局が考えている現れ、と見ることもできます。事態がこれ以上拡大することはないと思いますが、「事態の処理の仕方が不適切だった」などという理由で地方政府の一部の幹部が処分されるような事態になるのかもしれません。

 なお、この事件は貴酬省の黔南プイ族ミャオ族自治州で起きた事件ですが、別の報道によれば、死んだ少女も、現場にいた3人の友だちも全て漢族であり、少数民族問題は、この事件の場合は関係ありません。

 まだまだ、これからも新しい事実が出てくるかもしれません。少なくとも、中国では、今までこの種の群衆事件については、全く報道されず「ヤミに葬られる」ことの多かったのですが、今回は、中国の公式メディアも、それが真相なのかどうかはともかく、情報を提供していますし、掲示板での発言も認められている、という点が今までと違うところだと思います。たぶん、オリンピックを控えて、世界に対して「情報開示が不十分だ」と思われたくないからだと思います。これも中国が変わっていく、ひとつの転換点なのかもしれません。

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2008年7月 1日 (火)

北京オリンピック観戦時の注意事項

 北京オリンピックの観戦を楽しみにしておられる方、行きたいのだけどチケットが手に入らなくてイライラしている方、などいろいろおられると思います。今回のオリンピックは中国で行われるということで、観戦するにもいろいろ「ルール」がありますので、現地で観戦される方は「ルール」を守って観戦するようにいたしましょう。

 在北京日本大使館のホームページに北京オリンピック委員会のホームページに出ている注意事項の日本語訳が掲載されていますので、現地で観戦される方は、御一読されてはいかがかと思います。

(参考)在北京日本大使館のホームページ
「北京2008年オリンピック入場チケット取り扱い注意事項」
~北京オリンピック組織委員会ホームページより~
http://www.cn.emb-japan.go.jp/olympic_j/ticket_j080529.htm

 中でも注意しなければいけないのは、持ち込み制限品目が結構多いということです。缶やボトル入り飲料などは、日本でも多くのスポーツ観戦で持ち込み禁止のケースが多いので慣れている方も多いと思いますが、特に下記のようなものは持ち込み禁止だと思っていない人も多い可能性があるので要注意です。

<競技会場に持ち込み禁止の物品の例>

○ドラ、太鼓、ラッパ等の各種楽器
○広げた時の面積が2m×1mを超える旗

【筆者のコメント】
 日本のプロ野球の応援と同じことを考えているとまずいですね。

○オリンピック非参加国である国または地域の旗

【筆者のコメント】
 これは昨今の事情を考えればすぐにわかると思います。

○全ての横断幕、スローガン、ビラ

【筆者のコメント】
 「がんばれ!ニッポン!」と日本語で書いた横断幕や、応援する選手の名前を書いた横断幕もダメ、というのは、多くの人にとっては、ちょっと欲求不満が溜まるかもしれません。

○長柄傘、カメラやビデオカメラの三脚等の先のとがった物品

【筆者のコメント】
 刃物やバットが持ち込み禁止なのはすぐにわかると思いますが、長柄傘などはちょっと盲点で持っていってしまいそうなので要注意ですね。要するに、これらの品々はケンカなどが起こった時に凶器になりかねないからです。

 あとは、「フラッシュを焚いて撮影しない」など常識の範囲でわかるものがほとんどですが、いろんなスポーツ応援に慣れている人でも「あれ?」と思うところがあると思うので、現地で観戦される方は上記の日本大使館のページは事前にお読みになっておいた方がよいと思います。

 規定に違反している物品は競技場に持ち込めませんが、入り口のところで持ち込み制限品を預かるサービスはやらないそうなので、持ち込み禁止品持っていってしまった場合には、その持ち込み禁止品を手放すか、そうでなければ観戦をあきらめるしかないようです。

 オリンピック競技場では、テロ防止のため、入るときにセキュリティ・チェックがありますので、協議の開始時間間際に行くと、観客がセキュリティ・チェックのところで列を作っていて待たされて、試合開始までに会場に入れない、というおそれがあるので、できるだけ時間に余裕を持って会場に来るように呼びかけが行われています。

 また、オリンピックのチケットを持っている人は、その試合当日の地下鉄とバス(長距離バスや北京空港鉄道は除く)は無料で乗れるのだそうです。これは便利で、よいサービスだと思うのですが、オリンピック・スタジアム(通称「鳥巣」)へ行く地下鉄は1本しかないし、この無料サービスのために、試合を見る前に買い物をしよう、などという観客も出ると思うので、北京市内の地下鉄やバスにお客が殺到して、一般市民はオリンピック開催期間中はほとんど地下鉄やバスを使えないのじゃないかなぁ、と心配性の私は今からちょっと心配しています。

 北京のタクシーは初乗り(2km)10元(約150円)で、その後500mごとに1元(約15円)づつ上がる、という料金体系で、全てメーター制です。日本人的感覚だと比較的安いと思うので、移動にはタクシーを使うのが便利かもしれません。ただし、北京のタクシーの運転手さんの収入は歩合制なので、運転は相当に荒いです。オリンピックを前にして、かなり厳しく指導がなされていることもあり、北京では、そんなにあくどい感じのタクシーの運転手さんに出会ったことはありませんが、地理を知らない外国人だと気付くとわざと遠回りするような運転手さんも中にはいるかもしれません。でも、基本的に、私は北京のタクシーは諸外国の中ではかなり安全だと思っています(世界的標準からすると、日本のタクシーは安全過ぎるので、日本のタクシーに慣れている方にとっては要注意かもしれませんが)。なお、北京のタクシーでは英語は通じないと思った方が無難です。日本人の場合は最後の最後は「筆談」という手がありますが。

 なお、タクシーを使う場合、競技場へ行くときは便利ですが、帰りは一度にどっとお客が帰ることになりますので、タクシーをつかまえることはまず無理でしょう。白タク(中国語では「黒車」と言います)が出る可能性大ですが、当然、白タクは違法行為ですから、気を付けましょう。試合を見た帰りは、北京の街を眺めながらのんびり歩いて帰る、といった心のゆとりが必要だと思います。

 そんなこんなを考え、しかも北京の8月の気候を考えると、屋外競技の場合は結構暑さが厳しいと思うので、やはりテレビ観戦が一番楽だろうなぁ、などと思っております。

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2008年6月29日 (日)

中国国内航空便でスケジュールの乱れが頻発

 6月になって、中国国内航空便の遅れや欠航が目立っています。飛行機便ですから、天候の影響や機体の整備の関係で遅れや欠航が出ることは仕方がないのですが、最近の中国国内便の遅れや欠航は、かなりなものだと思います。この6月、仕事関係の2つの中国国内出張で、行きと帰りの往復両方で、出発・到着時刻の大幅な遅延や欠航などが出て、若干辟易(へきえき)しています。昔に比べれば、中国でも、きちんとした誘導装置を導入した空港が多くり、少々の雨や霧でも電子誘導装置で着陸できるので、中国の国内航空便の運航状況は、日本の国内便とそれほど変わらない、というイメージを持っていたのですが、ここに来て、スケジュールの乱れが気になるようになっています。

 出発遅れの場合、空港や機内のアナウンスではその理由についてあまり情報が流されません。情報提供があったとしても「到着地の天候の影響により・・・」といったものが多いのですが、到着地の人に電話を掛けてみると、「別に天候は悪くないですよ」といった返事が返ってくることがしょっちゅうです。航空会社側の都合で一定時間以上到着が遅れた場合は、一定金額を払い戻ししなければならない、といった規定があるので、それを避けるために、本当の理由を言っていないのだ、という人もいますが、真相はわかりません。

 6月23日の記事にも書きましたが、最近、中国国内線で、路線や時間帯によっては、極端に安い安売りチケットが出回るようになってきています。これと運航スケジュールの乱れとは、何か関係があるのかもしれません。

(参考)このブログの2008年6月23日付け記事
「中国国内航空:便によっては激安?」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/06/post_2490.html

 最近の中国国内線のスケジュールの乱れの原因としては、私は、以下のような可能性があるのではないか、と推測しています。

(1) 四川大地震の救援・復旧のため、政府が人員や物資の輸送のために国内航空会社にチャーター便の運航を数多く要請しているため、機体や運航要員のやりくりが難しくなり、欠航が出たり、スケジュール変更が多くなったりしているため。

(2) 中国南方を襲った大雨、台風の上陸、華北地方における雷雨の多発など、例年になく天候が不順なため、運航スケジュールが連鎖反応的に乱れ、一部、機体のやりくりが付かない、などの理由で欠航が出たりしているため(この6月、北京で例年になく異様に雷雨が多い(ほとんど毎日のように雷雨が発生している)のは事実です)。

(3) オリンピックを控えて乗客や手荷物、託送荷物に対するセキュリティ・チェックが厳しくなり、疑わしい人や疑わしい荷物について確認検査を念入りに行っているので、出発遅れが相次ぎ、それが連鎖反応的に広がっているため。

(4) 四川大地震による観光旅行の自粛、株価の暴落による金持ち階層の旅行の手控え、チベット問題や四川大地震による外国からの観光客の減少等により、中国国内便の利用客が減り、一方で原油価格が高騰していることから、1日複数便運航している路線について、予約客が半数に満たない便を欠航とし、2つの便を1つに合わせて飛ばしているケースが多発しているため。

 原因が(1)や(2)だったら致し方ない、と思うし、(3)についても安全運航のためならしょうがない、と思いますが、もし(4)のケースなのだとするとちょっとケシカラン、と思います。新聞などでも何が原因なのか報道されないのでわからないのですが、私の身近で同じ航空会社が1日複数便飛ばしている路線で、朝1番の便が欠航になって切符を2番目の便に切り替えた、というケースを2回連続して経験しましたので、私は(4)のケースも実際にあるのではないか、と疑っています。私のように北京に住んでいる人は、1便遅れてもあまり影響がないのですが、中国国内から北京や上海経由で日本へ帰る予定にしていた人は、朝1番の便が飛ばないとその日のうちに日本に帰れなくなるケースがあるので、結構影響が大きいのです。

 地震の救援や気候の影響やセキュリティ・チェックに時間が掛かりすぎる、などといった原因ならば仕方がないと思うので、「なぜ遅れているのか」「なぜ欠航なのか」をきちんと正確に(正直に)乗客にアナウンスして欲しいと思います。国際線だと、情報提供の仕方が悪いなどサービスが気に入らない場合はほかの航空会社にお客が流れるので、中国の航空会社もスケジュール変更についての情報提供はお客にきちんとやると思いますが、中国国内線の場合、どの航空会社も同じように情報提供しないので、いくらお客が「理由をきちんと説明しろ!」と怒っても、全然改善しないのです。この辺は、まだ、航空会社を分割した「競争原理効果」が現れていないところだと思います。

 オリンピックの時期になって、オリンピック観戦のついでに中国国内を観光しようという人が多くなる頃には改善していることを願いたいと思います。

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2008年6月28日 (土)

全然変わっていない中国の災害報道

 中国の災害報道については、5月12日の四川大地震において現地からの生放送をはじめリアルタイムで多くの情報を発信したことから、「中国の災害報道は変わった」との印象を内外に強く与えました。

 ところが、四川大地震から1か月以上たった現在、四川大地震に関する報道については、災害救援と復旧に当たる関係者の必死の努力や被災者自身による復旧へ向けての動きなどを「英雄譜」として報道することがメインとなりました。今回の地震災害で何が問題であったか、今後の防災・減災のためには何が必要か、といった問題点を点検する、という観点の報道はほとんどありません。関係者が救援や復旧に対して必死で、まさに英雄的な努力をしており、被災者の方々も必死で復旧へ向けての努力を続けていることは紛れもない事実なので、それを伝えることは間違いではないし、被災者を元気付けるためにも、多くの人が英雄的な活動を行っていることを報道することには意味があると私も思います。でも、そういった報道だけでは、今回の四川大地震による教訓を全国の人々の防災意識として定着させ、今後起きる自然災害に対する防災・減災に役立てることはできないと思います。

 6月25日には、2008年の台風6号(英語名:Fengshen、中国語名「風神」)が広東省に上陸し、そのまま中国大陸を北上して、広東省、福建省、湖南省、江西省などに相当にひどい暴風雨をもたらしました。多くの飛行機便が欠航したほか、香港の株式市場では、一時、取引を中断する、という影響も出ました。

 この台風6号に対しては、上陸前は、中国中央電視台のテレビでは、天気予報で台風の進路予想や暴風雨警報が出されていることは伝えていましたが、ニュースでは何も報じませんでした。日本など「普通の国」では、強まりつつある風雨の中にレポーターが立って「だんだんと風雨が強まっています!」などと絶叫する現場レポートをやるのですが、中国中央電視台ではそういうニュースはやりません。天気予報でも、淡々と「台風はこのコースを北上する予定です。この地区に暴風雨警報が出ています。」という情報を地図上に表示して、アナウンサーが伝えるだけで、風雨が強まりつつある現地の映像は全く流しません。台風の勢力(中心の気圧や最大風速)なども伝えられません。

 台風が通り過ぎた後、中国中央電視台の夜7時のニュースでは、終わりの方の「その他のニュース」の中で、「台風が襲った地域では、地元政府が排水や復旧作業に当たっています」というニュースがごく簡単に伝えられるだけです。映像的には、台風の深刻さが全く伝わってこないのです。

 私が新華社のホームページで確認したところによると、この台風6号(「風神」)では、広東省で9人が死亡、江西省で1人が死亡しているようですが、そういったニュースは中国中央電視台の全国ニュースでは放送されません。台風は毎年複数回中国大陸に上陸しており、そのたびに何人かの方が亡くなっているので、10人程度の死亡者数では、中国ではニュース価値がない、という判断なのだと思いますが、こういうニュースの伝え方では、中国の人々の間に「防災意識」が高まらないと思います。

 6月23日に開かれた中国科学院・中国工程院の院士大会(業績ある研究者・技術者の大会)で胡錦濤主席が講話を行いました。この講話では、特に自然災害に対する防災・減災の分野で、自然災害の観測、予測等に対する研究者・技術者の今後の努力に期待している旨が強調されていました。この冬の大寒波、四川大地震、最近の中国南部を襲った大洪水など、打ち続く自然災害を踏まえて、胡錦濤主席がこの点を強調したのは、当然のことだと思います。しかし、中国の自然災害報道を見ていると、中国が既に現在持っている観測・予測技術を十分に生かし切っていない(災害情報が一般国民に迅速に伝えられていない)ことを痛感します。

 中国は、全国の大部分をカバーする気象レーダー網を持っており、インターネットでもそれを見ることができます。

(参考)国家気象局のホームページにある「全国レーダー図」
http://www.cma.gov.cn/tqyb/tqyb/radar/rindex.htm

 このページでは「1時間降水量」(中国語で「一小時降水」)を動画(アニメーション)で見ることもできます(中国語で「播放」と書いてあるところをクリックする)。こういった降水量分布のアニメーションをテレビで伝えることは、防災上役に立つと思うのですが、なぜかそういうことはしません(中国では一般に気象観測データは「国家秘密」扱いですが、気象レーダー画面はホームページで見ることができるのですから、これは「秘密」扱いではないはずです)。

 前にも何回も書いたことがありますが、中国のテレビの天気予報では、低気圧、高気圧、前線などが書かれた天気図がほとんど登場せず、見ている方としては、非常にわかりにくいものとなっています。「どういう気圧配置の時に、どういう気象状況になるのか。降水量をレーダーで見るとどうなっているのか。」をテレビで紹介することは、一般の人々の間の気象災害に対する知識を高め、防災意識を高めると思うのですが、中国のテレビではそれをやりません。「気象災害が起こりそうだ」という情報を一般の人々に伝えることによって社会不安が起こることを恐れているのでしょうか。

 6月14日に起きた日本の岩手・宮城内陸地震で、日本の気象庁が緊急地震速報を出したことについては、中国でも大きな関心を呼び、多くの新聞で伝えられました。四川大地震を受けて、胡錦濤主席の講話を待つまでもなく、自然災害に対する観測・予測の重要性を多くの人々が再認識しているからだと思います。しかし、観測・予測の技術を高める前に、「情報をいかに正確に多くの人々に伝えるか」という点で、中国では改善すべき点が多いと思います。優れた観測・予測の技術が完成しても、それを多くの人々に伝えられないのだったら、防災上何の意味もないからです。

 今回の台風6号(「風神」)については、オリンピックを1か月半後に控えて、あまり大げさに報道したくない、という気持ちが働いたのでしょうか。もしそうなのだとしたら、「いったい何が一番大事だと思っているのか」ということになってしまうと思います。

 四川大地震で「大きく変わった」と多くの人が思ったのですが、本質的なところでは何も変わっていないのかもしれません。北京オリンピックの成功も大事ですが、北京オリンピックをきっかけにして、中国はまたひとつ大きく前進するのだ、という多くの人々の期待を裏切らないようにして欲しいと思います。

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2008年6月27日 (金)

北京首都空港鉄道の料金や開通予定

 オリンピック開幕へ向けて、北京首都空港と北京市内を結ぶ北京首都空港鉄道がほぼ完成しました。6月25日には試運転車両に胡錦濤主席が乗り込み、進捗状況を視察しました。この北京首都空港鉄道についての今後の予定等が、胡錦濤主席の試乗に合わせて6月25日に発表になりました。

(参考)「新京報」2008年6月26日付け
「空港鉄道の料金、7月2日に公聴会で意見を聴取」
http://www.thebeijingnews.com/news/beijing/2008/06-26/021@072208.htm

 北京首都空港鉄道の駅は、地下鉄2号線(1980年代に開通済み)との乗り換え駅になる東直門駅、地下鉄10号線(まもなく開通予定)の乗り換え駅になる三元橋駅、それに空港第三ターミナル駅(国際線と一部の国内線)、空港第二ターミナル駅(一部の国内線)の4つになる予定です(最も古い第一ターミナルはごく少数の国内線用の航空会社しか利用しないため駅はない)。4駅約28.5km間を運行時間16分で結ぶ、とのことです。

 運行開始の日は「7月上旬」とのことで、まだ何日なのか確定した発表はされていません。しかも「7月上旬」に始まるのは「試験営業運転」なのだそうです。昨年10月に開通した地下鉄5号線でも「最初の1年間は『試験営業運転』」と銘打って開通しました。「試験営業運転期間」は10分間隔、2010年からは5分間隔、2017年からは4分間隔で運転する予定、とのことです。

 乗車料金は、どこで乗ってどこで降りても同じ統一料金で、1人25元(約375円)にするか1人30元(約450円)にするか検討中で、この料金体系は7月2日に行われる公聴会で意見を聞いてから決定する、とのことです。この料金は、北京首都空港鉄道の市内の始発駅である東直門駅を起点とすると、空港と市内を結ぶリムジンバスが1人16元(約240円)、タクシーだと高速道路料金も入れて67元(約1,005円)、自家用車を使った場合に掛かる費用(高速道路料金込み)で40元(約600円)以上なので、これらほかの手段との比較で、空港鉄道を使う人の数が、料金を25元の場合に年間1,220万人(空港利用者の16.1%)、30元にした場合は年間1,032万人と見積もって試算したもの、とのことです。

 私の感覚だと、市内の地下鉄の統一料金2元(約30円)、リムジンバスの料金16元(約240円)に比べると、この空港鉄道の料金はちょっと高過ぎると思います。「25元か30元かの案を提示して、公聴会を開いてから決める」ということになっていますが、30元を支持する理由はないので、たぶん最初から「25元ありき」で、形式的に公聴会を開くということなのでしょう(昨年の地下鉄料金改定の時も「客観的に見て片方の案しか選ぶ人がいないような二つの案を提示して公聴会をやるのは、結論ありきで、公聴会は形式的な意味しかない」と「新京報」の社説で批判されたことがありました。今回も同じような感じのようです)。

 「公聴会」の参加者は、北京市人民代表大会、北京市政治協商会議、北京市人民政府の関係部門、専門の大学などから選ばれた価格公聴会の常任の代表10人、消費者協会が推薦した消費者の代表11人、経営者代表4人からなる、とのことです。

 そもそも地下鉄統一料金の2元というのは、建設費用と比べたら安過ぎる値段であって、地下鉄の運営に当たっては政府が相当の資金補助をしていると思います。上のような料金の決め方は、市場原理に基づくものではなく、政府が政策的意図を持って決めたのは明らかです。大幅に市場原理を導入している、とは言いながら、公共部門においては政府が価格を決める、という現在の「中国の特色のある社会主義」の一端がわかる料金の決め方だと思います。この期に及んでまだ開通日が「7月上旬」とだけ示されて、何日かを確定して発表しない、というのも「中国的」と言えるかもしれません。

 私は、地下鉄乗り換え駅での「乗り換え勝手のよさ」がポイントだと思っています。飛行機で旅行に行く人は大きな荷物を抱えている人が多いので、乗り換え駅でエレベーターやエスカレーターが便利でないと、使い勝手が良くないからです。北京の地下鉄では、十字路の交差点の地下に作られた駅でも出口が3つしかない(ひとつのブロックには出口がない)といったふうに「使い勝手」が今ひとつよくないところが多いので、空港鉄道がどのような「使い勝手」なのか、ちょっと気になります。

 3月に開業した北京首都空港の第三ターミナルは、建物の長さが3kmに及ぶ、という世界でも最大級の巨大ターミナルですが、何回か使ってみて「使い勝手」は悪くない、という印象を私は持っています。空港鉄道も、「使い勝手」の良さを考慮した「お客に優しい」作りになっていることを期待したいと思います。 

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2008年6月23日 (月)

中国国内航空:便によっては激安?

 中国の航空会社は、もともとは中国民航1社だったのが、その後の改革開放政策の進展に伴い、今は多くの航空会社に分割化されています。そのため、特に多くの会社が競合している中国の国内路線では、航空会社間で相当競争が激しくなっています。四川大地震の後、気分的に観光旅行に行く雰囲気でなくなったためか、ここのところ、便によっては相当の激安チケットが売り出されるようになってきています。

 インターネットで中国国内線の航空会社のネット予約のページを検索すると、いろいろな値段のチケットが表示されるのですが、早朝便とか、夜遅い便とか、ちょっと不便な便だと、とんでもない安売りチケットが売り出されています。先週は、北京-ハルビン線で150元(約2,250円)、先ほど見たら北京-西安線で100元(約1,500円)なんていうものもありました。こういうのは、今見た時はネットに載っているけれども、すぐに売れてなくなってしまうので、この次に見たら値段は変わっていると思いますが、それにしても、四川大地震の後は、「激安さ」が一段と激しくなった気がします。

 もちろん、こういった「激安チケット」は、ほかに通常料金で乗る客が現れたらそちらを優先する、などという特殊な条件が付いているのだと思います。中国の国内線は、予約する時に旅行会社に聞くと、直前になっても「まだ空席がありますので、お好きな時間帯の便が選べますよ。」などと言われる路線でも、実際に空港に行って飛行機に乗ると、ほとんどの場合、満席です。たぶん、直前まで待って席が埋まらなかった場合にだけ乗せてくれる、という超安売りチケットを買っている人がいるからだと思います。

 直接的には今は四川大地震の後なので不要不急の旅行・出張などが控えられているからだと思いますが、去年の秋頃に比べたら、不動産バブルもはじけたようだし、株も半額以下のレベルになっているので、お金持ちの人たちの「旅行熱」が冷めてしまったことも原因かもしれません。7月になってオリンピックが近くなると人の移動が多くなって国内航空賃も高くなると思うので、今の状況は一時的な現象だと思いますが、それにしても100元台の航空運賃にはびっくりしました。原油価格がこれだけ高騰している中、中国の国内航空会社はやっていけるのでしょうか。

 もしかすると「オリンピック後」のバブルの崩壊が既に始まり掛けているのかもしれません。

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2008年6月20日 (金)

オリンピック期間前後の北京の交通規制

 「近日中に正式発表」と言われながら、なかなか発表されなかったオリンピック前後における北京市内の交通規制が6月19日に正式に発表されました。

(参考)北京市人民政府ホームページに掲載された2つの通告

「2008年オリンピック及びパラリンピック期間中における自動車の臨時交通管理に関する通告」
http://zhengwu.beijing.gov.cn/gzdt/gggs/t975714.htm

「2008年オリンピック及びパラリンピック期間中における北京ナンバー以外の車両の臨時交通管理に関する通告」
http://zhengwu.beijing.gov.cn/gzdt/gggs/t975716.htm

 正確な内容は上記のページ(中国語)を見ていただきたいと思いますが、私なりに簡単に解説すると、この交通規制の主な内容のポイントは以下のとおりです。

○規制期間:7月20日(日)0時~9月20日(土)24時(パラリンピック終了後まで)

○北京市内の交通規制の内容:
偶数日はナンバープレートが偶数の車だけ通行可
奇数日はナンバープレートが奇数の車だけ通行可

○上記のほか、中国の政府関係機関では、さらに70%の公用車の使用を削減する(奇数・偶数規制で減った車のさらに30%しか使えない)

○規制対象から除外される車:
警察車両、救急車等、バス、タクシー(ただし借り上げハイヤーは規制対象となる)、オリンピック関係車両、大使館車など

○対象区域
7月20日(日)~8月27日(水)24時:北京市の行政区域全域
(注)「北京市の行政区域」とは市街地とその周辺の郊外地区を含み、その面積は岩手県より広く四国より少し狭い程度のかなり広い面積のエリアです。

8月28(木)日0時~9月20日(土)24時:北京市の第5環状路より内側の市街地(第5環状路を含む)及び首都空港高速道路、八達嶺高速道路等

○上記のほか7月1日~9月20日の期間、北京ナンバーではない車両については、トラック等(生鮮食料品を運ぶため等のために特別に許可された車を除く)は北京市の行政区域全域に進入禁止、排ガス規制合格証のない車は乗り入れ禁止。その上で上記の偶数・奇数の規制に従う、などの規制が掛かる。

 現在、北京市内には、地下鉄1号線とその東の延長線上にある八通線、地下鉄2号線、地下鉄13号線、地下鉄5号線が開通しており、地下鉄10号線、北京首都空港線がオリンピックまでに開通予定です(開通予定日は未発表)。北京市の人口は、常住人口約1,700万人、戸籍人口約1,200万人ですが、そのうち「市街地」に当たる部分に住んでいるのがどれくらいか正確な数字はわかりません(北京市人民政府のホームページを見てもイマイチよくわからない)。たぶん、市街地に当たる部分に住む戸籍人口は約800万人程度と思われます。その人口からすれば、地下鉄の本数はまだ足りないので、バスやタクシーも含めた自動車は北京では重要な交通手段です(最近は、北京では、自転車の数はかなり減ってきています。自家用車族が増えたためです)。

 北京のタクシーの台数は非常に多く、普段は、どこでも気軽に「流し」のタクシーをつかまえることができるし、初乗り(2kmまで)料金が10元(約150円)と私たち外国人にとっては比較的安いので、結構気楽にタクシーを使っています。しかし、交通規制期間中は、タクシー自体は奇数・偶数番号制限の対象にはなりませんが、普段自家用車や会社の車を使っている人の半分がみんな一斉にタクシーを使うことになるので、タクシーをつかまえることが非常に難しくなるのではないか、と心配です。普段でも雨が降り出すと、いつもは自転車に乗っている人が一斉にタクシーをつかまえようとするので、タクシーがつかまらなくなるので、そういった状態が2か月間続くのではないか、と思われるからです。

 その上、オリンピック期間中は、中国全土や外国からオリンピック競技を見に来るお客さんが増えるので、オリンピック期間中は、地下鉄で行けない場所に自由に移動しようとするのには、相当苦労しそうです。もちろん網の目のような路線を走っているバスは使えますが、交通規制期間中はバスも混みそうだし、路線がかなり複雑なので、慣れない人にはバスは使いにくいのではないかと思います。

 7月~9月の3か月間は、北京市内の建築工事は中止になり、そこで働いている農民工の人たちは故郷に帰される、と言われているし、8月末までは大学は夏休み期間中だし、多くの企業や工場も休むと思われるので、交通規制期間中は、意外に北京市内を移動する人の数は多くないのかもしれません。

 ということで、7月20日~9月20日までの間、北京市内の交通事情がどういう状況になるのか、今からはほとんど想像ができません。

 なお、大幅な交通規制により、多くの企業の活動に影響が出るわけですが、そういった企業活動への影響に対する政府からの補償はありません。ただ、交通規制に違反しない限り、7月~9月の3か月間は、自動車を持っている人に掛かる車両船舶税と道路補修税が免税になるのだそうです。これによる政府の減収は13億元(約200億円)の見通し、とのことです。ラジオでは、実質的な規制は1か月(2か月間、奇数・偶数規制が続くので、実質的に車を使えないのは1か月間だけ、という意味)なのだが、免税期間は3か月ある、と盛んに宣伝しています。つまりは、それで我慢しろ、ということなのでしょう。

 ちょっと心配なのは、一般のトラックも奇数・偶数規制の対象になることで、物流に影響が出るのではないか、ということです。食料品などについては、特別に許可を受けたトラックが運ぶので市民生活には影響は出ない、ということのようですが、2か月間という期間はかなり長いので、市民生活にどういう影響が出るのか、ちょっと心配です。

 いずれにせよ、この交通規制は「オリンピックとパラリンピックの期間中の交通の順調な運行と大気の状況を良好に保つため」に行うものだ、とのことです。中国では、多くのイベントで、「こんなんでうまくやれるのだろうか」というような準備状況であっても、実際にやってみると、終わってみればそれなりにきちんとできた、というケースが多いので、オリンピックやパラリンピックもうまく行くだろうと私は思っています。ただ、そのウラで、市民の間に日常生活の上での不満が溜まることのないようにして欲しいなぁ、と願っています。

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2008年6月15日 (日)

北京市内のオリンピック準備の進み具合

 北京オリンピック開幕まで2か月を切りました。大気汚染防止のため7月20日~9月20日(パラリンピック終了後)まで、ナンバープレートの奇数・偶数で北京市内の車の交通規制をするという方針については「その方向で検討中。正式発表は近日中に行う。」という話になっているのですが、今日(6月15日)時点では、まだ正式発表にはなっていません。7月~9月の3か月間は、粉塵が舞い上がるのを防ぐため、建物の解体工事やビルの建設工事は中断するらしい、と言われていますが、これもまだ正式発表はありません。この間、建設工事で働く労働者(多くが地方から出稼ぎに出てきているいわゆる「農民工」)は北京に留まれるのか、この間の彼らの賃金は誰が払うのか、といった話は、新聞に載らないので私は知りません(直接の関係者は知っているのかもしれませんが)

 最近は、オリンピックの開催期間中(開会式のある8月8日から閉会式のある8月24日まで)は、一般の工場・会社も含めて全て休業にすべし、という通知が出る、という「ウワサ」もあるのですが、それも定かではありません。

 工場や会社を休業にすることになった場合、その間の営業補償は誰がするのか、そもそも車の交通規制をやっている間に仕事のできない運送会社、車の運転手の収入補償は誰がするのか、という問題には誰も答えてくれません(政府は補償はしないらしい)。

 オリンピック・スタジアムまでつながる地下鉄10号線や北京首都空港につながる地下鉄が何月何日に開業するのか、についても、まだ発表がありません。地下鉄10号線は、以前から「6月中に開業」とのウワサが流れていました。地下鉄10号線の新しい地下鉄の駅は、歩道の上にほぼできあがっています。ただ、見ている様子だと、地下鉄駅周辺の工事はまだまだ続いており、6月中の開業には間に合いそうにないので、開業は7月上旬になるのではないか、と言われています(公式発表がないので、こういったことについては、常に「ウワサ」が流れるだけです)。

(注)北京の地下鉄は、現在までに開通しているのが、1号線、2号線、13号線、5号線です。10号線と空港へ行く路線は現在建設中ですが、オリンピックまでに開通することになっています。計画路線のうち、番号の順番に開通してきているわけではないので、現在既に13号線が開通しているからといって、北京に地下鉄が13路線既に存在している、というわけではありません。

 7月以降、9月いっぱいは建築現場での工事ができなくなる、ということで、工事中の各ビルでは、工事が急ピッチで行われています。しかも、完成していないビルについても「外壁だけはきれいに整えろ」という「お達し」が出ているらしく、骨組みができただけで、ビルの中の方の工事を全然やっていないビルについても、外壁だけを先に貼り付ける工事が急ピッチで進んでいます。多くのビルは、中身が全然できていないのに外壁だけきれいになった「張りぼて」の状態でオリンピックを迎えることになりそうです。

 ビルの解体工事現場では、6月中に解体工事を終わらせるため、作業を急いでいます。あるビルの解体現場では、解体作業を急がせるため、9階建てのビルの上に2台の小型パワーショベルを載せて、どんどん解体工事を進めていました。そうしたら、関係当局から2台のパワーショベルを同時に解体するビルの上に載せるのは安全上問題がある、とのクレームが付き、当局からの安全検査を受けることになった、とのことです。

(参考1)「新京報」2008年6月14日付け記事
「安全監督局、高層ビルの解体工事現場の上に掘削機を上げて工事を行っていることについて調査を実施」
http://www.thebeijingnews.com/news/beijing/2008/06-14/021@074042.htm

※上記のページの写真を見れば様子がわかると思います。

 今日(6月15日)もこの解体工事現場の前を通りましたが、2台のパワーショベルがビルの上に乗ったまま解体工事をやっていましたので、安全監督局は調査はしたけれども、結局は「問題なし」という結論を出したようです(記事にある「最牛」とは「最も速い」という意味です。「牛」は最近のはやり言葉「ブル・マーケット」(急騰する相場)の「ブル」から来た新語ですので、中国語の辞書には載っていないかもしれません)。

 また、昨年8月の集中豪雨の際に、道路の排水設備が十分ではなくて、複数回にわたって道路が冠水してしまった事態に対しても、まだ十分対策ができてはいないようです。一昨日(6月13日)の夕方、北京では毎年夏になるとよくある雷を伴う集中豪雨があったのですが、この集中豪雨で北京市北西部の中関村地区にある地下鉄13号線と知春路の立体交差路(地下鉄13号線が地上を走り、知春路の道路がその下をくぐるために掘り下げて作った立体橋)で、道路部分が最大2.5mの深さに冠水してしまったそうです。こうなると、当然、自動車は通れなくなるので、大渋滞が発生します。

(参考2)「新京報」2008年6月14日付け記事
「昨晩、集中豪雨が突然北京市街地を襲う」
http://www.thebeijingnews.com/news/beijing/2008/06-14/021@072503.htm

※上記の記事にも写真がふんだんに載っているので様子がわかると思います。

 オリンピックが行われる8月は、毎年、雷雨などが多い時期ですので、オリンピック期間中は、雨が降っても道路が冠水して車が通れなくてひどい渋滞、などということが起きなければよいなぁ、と思っています。

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2008年5月31日 (土)

がれきの上に立てるNGOの旗

 今日(5月31日)付けの「新京報」の「評論週刊」(週刊の評論特集)のトップに艾君という方が書いた「災害救援に見るNGOの成長」と題する文章が載っていました。

(参考)「新京報」2008年5月31日付け
「災害救援に見るNGOの成長」
~地震が変えたのは「世界が中国を見る見方」だけではない~(艾君)
http://comment.thebeijingnews.com/1108/2008/05-31/011@093126.htm

 この記事では「今回の四川大地震において、政府や軍による救援活動も行われているが、それに加えてボランティアや民間団体など、NGO(非政府組織)による活動もめざましい。このようなことは今までの中国にはなかったことだ。」といったことが指摘されています。これも四川大地震によって中国社会に起きた「偉大な変化」のひとつだと思います。

 上のURLをクリックしていただければわかりますが、この記事には、がれきの上に人々がまさに「NGO」の旗を打ち立てようとしている図が描かれています。日本人やアメリカ人ならばすぐわかりますが、この構図は、第二次世界大戦末期、硫黄島での激しい戦闘の後、アメリカ軍が硫黄島に星条旗を立てようとしている写真と同じものです。この写真を基にして、後にアメリカのワシントンD.C.を見下ろすバージニア州アーリントンの丘の上に "Iwo Jima Memorial" という記念碑の彫刻が作られました。

 中国の人々がこの硫黄島の写真についてどのくらい知っているのかはよくわからないのですが、この画はなかなか寓意を含んでいると私は思いました。硫黄島の写真は、アメリカが日本軍を苦難の末に打ち破って星条旗を打ち立てた時のものだからです。

 現在の中国では、表立って議論されることはありませんが、中国政府が、ほとんど資本主義と同じではないか、と言えるような経済政策を次々に打ち出している中にあって、「なぜ、今、中国は中国共産党の指導下にあらねばならないのか」という疑問を多くの人が抱いています。この疑問に対する答は二つあります。ひとつは「中国共産党という求心力がなければ、中国はバラバラになり、社会と経済に混乱が生じる。だから中国共産党が必要なのだ。」という答です。ただこれだと「中国全体をまとめる強力な党」が必要なのはわかるが、それがなぜ中国共産党でなければならないのか、の答にはなっていません。この問に答えるのが第二の答えで、それは「中国共産党は、中国人民の支持の上に立って抗日戦争を戦い抜き、外国勢力を排除して、中国を半植民地状態から救うに際して中心的な役割を果たした。そのような歴史を踏まえれば、中国共産党以外に中国全体をまとめる求心力を持ちうる党は存在しないから。」です。

 今回の四川大地震は、国家的大災害でしたが、これにより中国の人々の間には自発的な団結心が芽生えたように私は思います。それは中国共産党の存在をも超えた「我々は同じ中国人なのだ」といった連帯感です。このことは台湾の人々や世界中に住む多くの華僑の人々の心の中にもこの連帯感が芽生えたことからもわかると思います。それは、「もしかすると、我々は、中国共産党という求心力がなくても、中国人である、ということだけで、団結することができるのではないだろうか。」という一種の自信のようなものかもしれません。そういった党でも政府でもない団結心の象徴がNGOの活動なのだと思います。

 従って、硫黄島の写真になぞらえた「新京報」の画は、苦難の末に我々が打ち立てたのは、党でも政府でもない、素朴な人々の団結心だったのだ、そういう団結心を実は我々は心の中に持っていたのだ、ということを表しているように思えました。

 今回の四川大地震に対する中国政府や中国共産党の各組織、人民解放軍の働きには素晴らしいものがあると私は思います。しかし、それとは別に、党や政府が存在する以前の段階における人々の団結心が実は社会の根幹をなす上で重要であり、そういった団結心を我々はもともと持っていたのだ、ということに中国の人々が気が付いた、という点が非常に大きいように思います。

 上記の「新京報」の評論は「今回の地震により、世界の中国を見る目が変わったし、中国が世界を見る目も変わった。」と評しています。また、この評論では、先の海外でのオリンピック聖火に対する反応にも触れ、「世界は氷のように冷たいものでも、火のように熱いものでもなく、複雑なものなのである。このような複雑な過程に伴って我々は成長し、成熟していくのだ。」と述べています。この感覚は、私個人が受けている印象と全く同じもので、私はこの評論に大いに共感を覚えました。

 今回の大地震では多くの犠牲者が出、今も多くの被災者が厳しい避難生活を強いられています。亡くなった多くの方々を哀悼し、多くの被災者の方々を精神的に支援していくためにも、私は、今、中国で暮らす外国人に一人として、というより、地球上に住む人間の一人として、この「共感」を大事にしていきたいと思っています。

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2008年5月23日 (金)

北京で感じる四川大地震

 5月12日(月)14:28(北京時間)に四川省で起きたマグニチュード8の巨大地震によって未曾有の被害が出ました。今日(5月23日)16時の民生部の発表によれば、死者55,740人、行方不明者24,960人、けが人292,481人、避難した人1,136万7,929人とのことです。死者・行方不明者・負傷者の多さもさることながら、避難した人が1,000万人を越えるというのは、とんでもない被害だと思います。亡くなった方々の御冥福をお祈りするとともに、被災された方々に心からお見舞いを申し上げます。

 5月12日の14:35分頃、私は北京のオフィスビルの11階にいました。めまいがするような感じがしましたが、「まさか。こんな揺れ方をするような地震はないよなぁ。」と思って壁を見たら、壁に掛かっているカレンダーが大きく揺れており、めまいではなく本当の地震なのだ、ということを知りました。2秒くらいの周期で1メートル近く揺れるようなゆっくりした揺れでした。私がいたのが高層オフィスビルのちょうど真ん中くらいの高さのところだったので、揺れが地面よりは増幅したようでした。日本の震度で言えば、震度2~3に相当するくらいの揺れでした。日本の高層ビルならば、「この程度の揺れは当然耐震設計の範囲内」だとわかっているので心配はしないのですが、北京のビルの耐震設計がどの程度しっかりできているのかわからなかったので、本気で机の下に潜ろうかと思いました。

 すぐにテレビを付けましたが、中央電視台第1チャンネル(総合チャンネル)は通常放送を続けていました。停電もしなかったので、それほどの地震ではないと思いましたが、あれだけ周期の長い地震があの程度の大きさで揺れた、ということは、相当遠いところで、相当大きな地震があったのかもしれない、と思いました。

 最近、日本でも大きな地震が何回も起きているので、私も経験上、近い地震ならガタガタガタという周期の短い揺れが来る、遠い地震だとユッサユッサという感じの周期の大きな揺れを感じる、ということは知っていました。ただ、巨大地震が遠くで起きた場合、普通は小さな初期微動(P波によるもの)が来て、その後でユッサユッサという大きな揺れ(S波によるもの)を感じるのですが、今回はP波による揺れに相当するものを感じなかったので、おかしいなぁ、と思いました。また、揺れ方や揺れの大きさは、自分がいる建物の構造と場所(地上近くか高層ビルの上の方か、など)でかなり違いますので、この大きなゆっくりとした揺れは建物の構造のせいかもしれない、とその時は思いました。  

 携帯電話で外出中の知人に電話を掛け、東京にも国際電話を掛けましたが、いずれも通常通りに通じました。停電もしないし、電話が通じたので、それほど大きな地震ではないのかなぁ、と思いました。しかし、窓の外を見ると大勢の人たちがビルの外に避難していました。ちょうど隣では、多くの北京市内の地区と同じように、新築の高層ビルが建設途中だったのですが、建設工事現場にいる黄色いヘルメットを被った工事労働者の人たちが、建築現場から出てきて、歩道に座って様子を見ていました。安全点検のため、一時的に建築作業が中断されていたようでした。

 地震から約50分経過した15:30頃、インターネットで、四川省でマグニチュード7.6~8.0の地震が発生した、という情報が流れました。私はまさか、と思いました。四川省と北京とは直線距離で約1,500kmも離れており、いくら巨大な地震であっても、四川省の地震を北京で感じるはずがない、もし北京で感じるような地震だったら、とてつもなく巨大な地震のはずだ、と思ったからです。

 それから15分くらいたった15:45頃、温家宝総理が四川省へ向けて出発した、というニュースがネットで流れました。何がどうなっているのかわからない時点で総理が現地へ向かう、とはびっくりしましたが、北京から四川省の成都までジェット機で約2時間掛かりますから、とにかく現地へ向かい、四川省に到着するまでの2時間の間に現地の状況を見極めよう、という胡錦濤主席の判断だったのだと思います。

 その後、インターネットで四川省アバ・チベット族チャン族自治州のブン川県(「ブン」は「さんずい」に「文」)で14:28にマグニチュード7.8(後に8.0に修正)が起き、14:35に北京市通州区でマグニチュード3.9の地震が発生した、というニュースが流れました。私は通算して3年北京にいますが、有感地震を感じたのは今回が初めてです。マグニチュード3.9程度の地震ですら、北京市内を震源とした地震が発生した、という話は聞いたことがありませんでした。ですから、この北京市通州区で地震が発生した、というニュースには耳を疑いました。また、普段地震が起きないところで地震が起きたということは、四川省の地震によって誘発された地震なのだろうか、と思いました。でも、巨大地震によって遠隔地で別の地震が誘発される、という事例は私は聞いたことがなかったので、北京の地震は四川省の地震に誘発されたわけではないだろう、そうだとすると滅多にない北京の地震がたまたま偶然に四川省の地震の直後に起きたのか、それも確率的には考えにくい、いったいどうなっているのだろう、と頭の中が混乱しました。

 翌日、この「北京市通州区でマグニチュード3.9の地震が発生した」というニュースは「誤報だった」ことがわかりました。やはり北京での揺れは四川省の巨大地震の揺れが伝わった結果だったのです。なぜ、「北京市通州区で地震」という誤報が流れたのかについての原因は、現在はまだ明らかにされていませんが、地震計によるデータを見た地震局の担当者が、四川省を震源とする地震によって北京で揺れを感じることはありえない、と判断して、北京市内を震源とする別の地震が発生した、と判断したからかもしれません(この辺は、事態が落ち着いてから検証されることになると思います)。もしそうなのだとしたら、地震局の担当者も判断を誤るくらい、四川省の地震が巨大であり、かつ、揺れがとんでもなく遠くまで伝わった、ということなのだと思います。この揺れは、北京のほか、上海、台北、香港、タイのバンコクでも感じられた、とのことです。

 地震発生時刻の14:28と北京で揺れを感じた14:35の間に7分間の時差がありますが、これは秒速約4kmと言われる地震波が1,500km離れた四川省と北京との間を伝播するためにそれだけの時間が掛かったことを示しています。

 インターネットの新華社ホームページは、地震発生直後から、上記の「北京市通州区でマグニチュード3.9の地震が発生した」という後に「誤報」であることがわかる情報も含めて、大量の情報をリアルタイムで流し始めました。

 オフィスで見られる香港発の衛星放送テレビのチャンネルは、四川省での巨大地震発生のニュースが伝わってから、通常番組を変更して地震に関する情報を流し始めましたが、中国中央電視台第1チャンネル(総合チャンネル)は通常番組を続けていました。中国中央電視台が地震の特別番組に切り替わったのは22:00~の夜のニュースが終了した22:30からでした。それから、中国中央電視台第1チャンネルでは24時間体制で生放送で地震の情報を流し始めることになります。この22:30から始まった特別番組の当初の頃は、なかなか情報が入ってこなかったことと、アナウンサーがこういった災害時の生放送の特別放送に慣れていなかったせいか、何を伝えていいのかとまどっているような様子でした。

 こういった中国の大陸のメディアが、大規模な自然災害に関する情報をリアルタイムで流すことは極めて異例のことです。おそらく情報をコントロールすることによって発生するデマによる混乱を恐れたためと思います。その後、外国メディアも含めて、現地からの情報は、生で中国国内及び世界各国に伝えられましたので、これまでの中国の自然災害(例えば今年1~2月の寒波・大氷雪被害)とは異なり、被災地の情報が瞬時に世界各地へ伝わりました。これが、その後の世界各国からの支援に結びついたと思います。(中国側は、1週間前にミャンマーで発生したサイクロン被害に対し、ミャンマーの軍事政権が外国メディアや外国人救援者の受け入れを拒否していて、国際社会から非難されていることを、かなり意識していたと思います。中国政府の対応はミャンマー政府の対応とは明らかに異なるものでした。)

 中国政府は、地震から一週間後の5月19日~21日の3日間を「全国哀悼の日」と定め、旗を半旗に掲げるとともに、公共の場所での娯楽活動を取りやめる、という「国務院公告」を出しました。このため、外国のNHKワールド・プレミアムをはじめとする歌・スポーツ・娯楽番組を含むチャンネルは全て放送が停止されました(テレビのチャンネルをNHKワールド・プレミアムなどに合わせると真っ黒い画面に「国務院の公告に基づき5月19日~21日の3日間、歌・スポーツ・娯楽番組を含む外国チャンネルの放送は停止しています」との告示が表示されるだけでした)。ニュース専門チャンネルであるBBCワールドやCNNは通常通り見ることができました。ある意味では、このことは衛星からの電波を受信して番組を配信している外国衛星テレビも当局のコントロール下にあることをはからずも示す結果となりました。各アパートメントで独自にパラボラ・アンテナを立てて直接受信しているNHK-BS1、BS2、BSハイビジョン、KBS(韓国の放送局)などは通常通り見ることができました。これらのチャンネルは当局がコントロールしていない、ということなのでしょう。

 国務院による「全国哀悼の日」の公告では、地震発生からちょうど一週間目の5月19日14:28に3分間の黙祷を捧げることが告げられていました。ラジオでは、座っている人は起立し、車に乗っている人は車を停止して車を降りて黙祷するように呼びかけが行われました。各職場でも黙祷のための集会が行われたようでした。私がこの日の午後訪問を予定していた機関でも、14:28から全職員による黙祷集会がある、と聞いたので、訪問を早々に切り上げて、私たちは近くにある清華大学のキャンパスへ行きました。14:28近くになると、キャンパス内の各建物から学生や教職員らが続々と出てきて、建物の前に半旗で掲げられている国旗の周りに集まりました。

 14:28になると一斉に防空警報のサイレンが鳴り響きました。併せて、多くの車がクラクションを鳴らして弔意を表しているのが聞こえました。大学の学生や教職員らは静かに黙祷を始めました。ちょっと蒸し暑い初夏の午後でしたが、一斉に鳴り響くサイレンと車のクラクションの中、大勢の人が身じろぎもせずに黙祷をしている中で、私も一緒に黙祷しました。中国には、今、いろいろな問題があるけれども、とにもかくにも、今は、全ての人が力を合わせて、この被災した人々を助けなければならない、という気持ちにさせる3分間でした。

 そもそも北京に防空警報システムがある、ということは、この時、初めて知りました。本来はあまり公にしていないものについても、中国政府は「今はそんなことを言っている場合ではない」として、かなりの部分で「秘密解除」をしたところがあったように思います。北京の新聞各紙によると、北京の防空警報システムのサイレンが実際に鳴ったのは、これが初めてなのだそうです。

 5月19日14:28からの「黙祷の3分間」の後も、北京では、多くの市民が天安門前広場に集まって哀悼の意を捧げた、とのことです。夕方暗くなると人々は手に手に火の灯ったロウソクを持って亡くなった数多くの犠牲者の冥福を祈りました。この日、20:30頃、私は天安門前広場前の長安街を車で通りました。夜になると天安門前広場は立ち入り禁止になるのですが、天安門前広場の周辺は、いつもより数多くの警官が出て警戒に当たっていました。天安門前広場近くの歩道には、まだロウソクを手に持ったまま家路に付こうとしている大勢の人たちが歩いていました。

 多くの市民が哀悼の意を捧げるために自然発生的に天安門前広場に集まる、という現象は、過去にも1976年4月と1989年4月に起きました。1976年の時は1月に亡くなった周恩来総理を悼んで、1989年の時は4月に亡くなった胡耀邦前総書記を悼んでのものでした。いずれのケースも、この「哀悼の意を表するために自然発生的に天安門前広場に集まった市民等の動き」は、その後、「事件」と呼ばれる事態に発展していったのですが、2008年5月19日の状況はそれとは全く異なるものでした。人々は、心から地震で亡くなった人々を悼んで、集まったのでした。そういった人々に対しても、数多くの警官が出て警戒に当たらなければならない、というのが、現在の中国の悲しい点だと私は思いました。

 5月22日の午前0時を過ぎると、停められていた外国の衛星テレビ放送は通常に戻りました。香港発の音楽専門衛星テレビ「チャンネルV」は、5月22日は電波は復活していましたが、内容はいつもの音楽番組ではなく、中国中央電視台が伝える震災報道特番組を流していました。5月23日になり「チャンネルV」も通常の音楽番組を流すようになりました。ただ、「チャンネルV」の中で流れていた中国語版の「We are the World」(1980年代、アメリカの音楽家たちが集まってアフリカ支援のために歌った歌)は心に滲みるものがありました。5月23日になると、中国中央電視台も通常のドラマ番組を流すようになり、徐々に通常状態に戻りつつあります。5月23日の夕方にはロシアのメドべージェフ大統領が北京を訪れ、胡錦濤主席と首脳会談を行いました。これも「業務は通常に戻った」というひとつのサインだと思います。

 今回の地震は、中国のメディアを明らかに変えました。悲惨な災害現地からのテレビの生中継など今まではなかったのですが、それをやりはじめたのです(ただ、生中継の画面には、救援隊の活動などは映るものの、一般の被災者は出ません。一般の被災者が出るのは録画された場面だけ、という点は、まだ他の国のメディアと違うところです)。

 災害現場は、非常に広範囲であり、土砂崩れによって堰止められてできた湖など二次災害の危険もあります。いろいろな情報が錯綜しているところもあるようです。多くの人々が懸命に努力していますが、復興までには、まだかなりの時間が掛かるものと思われます。

 学校で手抜き工事が行われていたのではないか、などいろいろな議論が行われていますが、断層面が何百キロにもわたって地表に出るようなマグニチュード8の地震が人間が住んでいる直下で起きた今回の地震災害は、おそらく人類が経験した地震災害の中でも最大のものではないかと思います。マグニチュード8の直下型地震に襲われたら、どんな耐震工事も役に立たないでしょう。そうした中、何が問題であり、何を改善すべきなのか、はこれから議論されていくことでしょう。それよりもまず、今は、ケガをした人々の治療を行い、被災して避難している人たちの健康を維持して、生活できる場を再建することが先決です。

 北京オリンピックまで、どの程度復興ができるのか、今の時点ではまだわかりませんが、なんとか多くの人々が力を合わせて、派手な演出は控えつつ、オリンピック競技が行える状況になるよう祈りたいと思います。

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2008年5月10日 (土)

日本をプラスに評価する評論

 昨日のこのブログの記事で5月8日付けの「新京報」の社説を紹介した際、「日本について中国の新聞がここまで前向きな表現を使ったことを少なくとも私は見たことはなかったように思います」と書きました。ところが、今日(5月10日(土))、改めて今週の「新京報」を読み返してみたら、昨日紹介した社説の出る前日の5月7日付けの「時事評論:国際観察」の欄に、北京の学者・劉檸氏という方の個人の見解としてではありますが、もっと日本をプラスに評価する評論が載っていました。

(参考)「新京報」2008年5月7日付け「時事評論:国際観察」欄の評論
「『日本を師として』中国の改革を推進する助けとすべき」
http://www.thebeijingnews.com/comment/zonghe/1044/2008/05-07/018@080158.htm

 この評論のタイトルは中国語で書くと「『以日為師』助推中国改革」です。この評論のポイントは以下のとおりです。

----(評論のポイント:始まり)----

○中国の改革開放の30年の歴史を振り返ると、日本は日中平和友好条約が発効した翌年の1979年以来、少なくない額の政府開発援助(ODA)を中国の経済建設の推進剤として提供した。このことを中国人は忘れてはならない。

○1980年代末までの中国の現代化にあっては、日本は中国人の心の中の「現代化」のモデルの一つであり、日本を師とすることを少しもおかしいとは思っていなかった。

○日本の中国の現代化に対する支援は、資金や技術に限ったものではない。その経済の飛躍的発展の成功の経験それ自体が、中国にとって不可欠な重要な手本だからである。

○1964年の東京オリンピックの後4年で日本は西ドイツを抜いて世界第二の経済大国となった。それから既に40年が経つ。その間、日本は産業構造改革に成功し、国際競争力を高い水準で維持し続けている。日本は、この間、経済の持続的発展の過程で、「公害列島」と言われた環境問題の悪夢を克服し、世界に誇る環境保護天国を作り上げた。

○中国は改革開放の30年で人目を驚かすほどの経済大国になったが、同時に「遅れた改革者」としての課題に直面する時代に入ってきている。今後の中国の発展のロードマップを考えるに当たっては、東の隣国を他山の石とすべきことは論を待たない。

○やがてくる「オリンピック後」の時代にあっては、中日間の「戦略的互恵関係」に基づく絆は、両国関係を発展させることを通じて中国の建設と改革の推進を後押しすることになるだろう。今はまさに日本を師とすることを再び論ずる時なのである。

----(評論のポイント:終わり)----

 この評論は、昨日付のこのブログで解説した5月8日付けの「新京報」の社説のバックグラウンドとなっている考え方だと思います。誇り高き中国の人に「日本を師とする」とまで言われると、「過奨了」(褒めすぎですよ)と言いたくなって、ちょっと「くすぐったい」気分になります。しかし、この評論は、日本人向けの単なる外交辞令ではなく、一般の中国人向けの新聞に掲載された評論ですから、ここまで突っ込んだ表現を使ったことについて、我々日本人はこの筆者の気持ちをしっかりと受け止める必要があると思います。

 これほどまでに日本を「持ち上げた」評論をしたのは、前日(5月6日)から始まった胡錦濤主席の日本訪問に当たって日中友好ムードを盛り上げたい、という当局の意向が背景にあると思いますが、「新京報」は当局の意向を素直に受け入れる系統の新聞ではありませんので、この評論はそれなりに素直に受け取ってよいと思います。日本は、こういうふうに「持ち上げ」られると、すぐに頭に乗って「天狗」になる傾向があるので気を付けないといけないと思うので、その点には注意した上で、こういった中国国内の考え方を重要視する必要があると思います。

 上記の評論の中でもう一つ着目すべき点は「1980年代末までの中国の現代化にあたっては、日本は中国人の心の中の『現代化』のモデルの一つであり、日本を師とすることを少しもおかしいとは思っていなかった。」と述べている点です。ここの部分は、1990年代に入って、中国は「歴史問題」などを強調し、中国国内で反日感情が高まったことを暗に批判しているのです。

 現在の党・中央の公式見解は、「1978年の改革開放の開始以来、党・中央の政策は一貫している」というものですが、私はこの改革開放の30年の歴史の中で1989年の前と後とでは断絶があると考えています。上記の評論は、そういった私の考え方と軌道を同じくするものです。

 1989年以降、中国共産党は国内での思想的引き締めを強化する一方、経済的には、国有企業も含めた株式市場の開設、「土地は公有」という原則は維持しつつも「土地使用権は売買できる」という考え方に基づいた土地の売買の事実上の解禁、といった改革を進め、「社会主義市場経済」の名のもとに「共産主義」からはどんどん離れていく政策を採っていきます。そうなると中国の人々の間に「我々はなぜ今も中国共産党の指導の下に政策を進めなければならないのか」との疑問が生じかねません。そこで、抗日戦争を勝ち抜いてきた中国共産党の歴史を振り返り、その歴史があるからこそ中国共産党が中国の中核とならなければならないのだ、というメッセージを中国の人々に訴える必要があったのです。つまり1989年以降の日本に対する「歴史問題」とは、実は「中国共産党だけが中国の中核になりうるのだ」ということを訴える中国国内向けのメッセージでもあったのです。

 上記の評論は、1989年以降の「歴史問題」に基づく「反日」の考え方から決別すべきだ、と表明したものであり、その意味で非常に画期的だと思います。上記の評論は劉檸という方の個人的見解として掲載されているものですが、翌日、同じ論調の論文が「新京報」の社説として掲載されたことは意義が大きいと思います。

 今回の胡錦濤主席の日本訪問は、日本側では、ギョーザ問題や東シナ海ガス田問題などの課題を先送りしただけで、具体的な成果はなかった、としてあまり高く評価しない傾向があるようですが、私は中国側から見た場合、今回の胡錦濤主席の訪日は、中国自身の政策運営に関して、画期的な歴史的転換点だと思っています。胡錦濤主席は、「反日」を乗り越えて前へ進む、というメッセージを表すことによって、1980年代への回帰、別の言い方をすると1989年以降の政策への決別を表明したからです。

 中国の1980年代は、1981年6月の「建国以来の党の若干の歴史的問題に関する決議」(いわゆる「歴史決議」)において、文化大革命を批判し、偉大な毛沢東主席もその生涯の一部においては誤りを犯した、と指摘したところから出発しています。「中国共産党も誤りを犯すことがあるのだ」「大事なのは誤りを誤りと認めた上で、前へ進むためにそれを改革することである」という点から出発した1980年代に回帰する、ということは、極めて重要な意味を持つと私は思っています。

 北京オリンピックの聖火リレーは、欧米各国で抗議行動を引き起こし、それが中国国内におけるナショナリズムの高まりを引き起こしましたが、中国の指導部や知識人(「新京報」の論説陣も含む)の間に「中華ナショナリズムの過度の高揚は、国際社会における中国の孤立化を招く」という危機感を引き起こしたのではないかと思います。今までの流れからは考えられない日本への急接近は、こういった危機感が背景にある、と私は思っています。

 私は昨年4月に20年振りに北京に駐在するようになり、この20年間、中国は経済的に飛躍的に発展したものの、様々な面でほとんど前進していない(一部については後退している)と感じて若干落胆していたのですが、今回の胡錦濤主席の訪日によって、歴史は大きく前に前進した、と感じています。今回の胡錦濤主席の訪日は、中国が国際社会の中で高い地位を占めていくには、国際的に共有できる認識に立ち、国際的理解を勝ち得なければならないことを中国の指導部や知識人たちが再認識するきっかけになったと思うからです。

 行きつ戻りつしつつも、やはり歴史は確実に前に進んでいくものなのだ、今、私はそう感じています。

(以下は、2008年5月10日夕方に追記)

 上記に紹介した「新京報」5月7日付けに掲載されていた評論『日本を師として』中国の改革を推進する助けとすべき」については、上記に「新京報」のホームページの中に掲載されているURLを載せてありますが、5月10日の午後になってから、この評論文は削除された模様です。5月10日の午前中に確認したときは、確かに「新京報」のホームページ上でも見ることができましたが、午後に確認してみると掲載されていません。「日本を師として」という表現が、自尊心あふれる中国の若者たちの心の琴線に触れ、「新京報」に抗議が殺到したからかもしれません。

 「新京報」のホームページからは削除されてしまいましたが、この評論文は、既に多くのブログや掲示板に転載されています。中国では、ネット上では著作権はないのに等しい状況ですので、一度発表された評論文などは、筆者に無断でブログや掲示板にどんどん転載されます。従って「以日為師」「助推中国改革」といったキーワードを使って検索エンジンで検索すると、この評論の原文の載ったサイトが山のように出てきます。

 それらの掲示板に載っている議論を読むと、この評論の筆者に賛同する人もいますが、やはり「一体、日本に何を学ぶというのか?」といった反発する記載が圧倒的に多いようです。

 「新京報」は、今日(5月10日)付けの紙面から、1週間に一度「評論週刊」(サブタイトル:公民読本を作る(中国語で「建設公民読本」))という時事問題に対する評論の特集を始めました。この中に、新聞各紙に掲載された評論文に対してコメントする欄があるのですが、今月の担当者・余世存氏は、この5月7日付け「新京報」の「『日本を師として』中国の改革を推進する助けとすべき」という評論を取り上げ、「現在のこのような『中国の決起』が起きている雰囲気のなかで、このような見識は発表することだけで大胆と言うべきである。」とコメントしています。

 この今日付の「評論週刊」の創刊号のタイトルは「愛国と民族主義」です。5月7日に「日本を師として」と題する評論を掲げたのは、「新京報」が若い人たちから反発が出ることを承知の上で、問題提起をしたかったからだと思います。この論文に対してはネット上のあちこちの掲示板で熱い論戦が起きていますが、むしろこれはいいことだと私は思います。敢えてこの問題を提起した「新京報」に私は敬意を表したいと思います(ただ、それならば「日本を師として」の評論をホームページ上から削除して欲しくなかったと思います)。

 これからは、中国の中で、「愛国」「民族主義」「言論・表現の自由」といった問題について、多くの人がいろいろな議論をするようになるのではないかと私は思います。

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2008年5月 4日 (日)

「新京報」北京大学創立110周年記念特集

 今日(2008年5月4日)付けの北京の大衆紙「新京報」では、昨日、胡錦濤主席が北京大学を訪問したことを報じるとともに、北京大学創立110周年記念特集として、北京大学の歴史や北京大学卒業生の有名人に対するインタビューなどを掲載していました。

 胡錦濤主席の北京大学訪問の記事では、北京大学人文学部の袁行霈教授が胡錦濤主席との座談会で次のようなことを話したことが載っています。

○大学は非常に自由な学術環境が必要であり、自由な研究ができる前提の下でこそ多くの成果が得られるのである。

○(政府による)これまでの物質的な支援のほか、さらに重要なのはもっと多くの自主権を大学に与えることである。

○民族の文化を伝承し、人の理念と精神的な面を向上させるため、人文社会学科をさらに重要視ことを希望する。

(参考1)「新京報」2008年5月4日付け記事
「胡錦濤主席、北京大学を視察」
http://www.thebeijingnews.com/news/beijing/2008/05-04/018@074558.htm

 この袁行霈教授の話は、胡錦濤主席がライバル校である清華大学の理工系(水利技術学科)卒であることを意識しているものと思われます。また、この日の「新京報」の北京大学創立110周年特集号では、昨年11月に撤去された「三角地」について、歴史的には「北京大学の民主の壁」と呼ばれてきたことを紹介するなど、「新京報」の記事自身が「自由な学術環境」「大学の自主権」を重要視した内容になっていることが注目されます(ただし、さすがに「北京大学の歴史」「三角地の歴史」の中でも1989年のことについては触れていません)。

(参考2)このブログの2007年11月3日付け記事
「北京大学の『三角地』掲示板の行方」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/11/post_b865.html

 なお、昨日の胡錦濤主席の北京大学訪問については、「人民日報」で1面のほとんど全てをこれに関連する記事にあてるなど、大きく取り上げています。

(参考3)「人民日報」2008年5月4日付け1面
「心から深い気持ちを北京大学キャンパスに寄せる~胡錦濤総書記、北京大学視察の概要~」「北京大学の教授・学生代表との座談会における講話」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-05/04/node_17.htm

 5月4日は「五四青年節」で、北京大学は1919年の「五四運動」の発生の地ですから、5月4日付けの新聞で「北京大学特集」を組むのは別におかしくはないのですが、扱い方がやけに大きいなぁ、ということと「新京報」が「自由な学術環境」「大学の自主権」に重きを置いた記事にしていることが私の印象に残りました。

 今、北京大学と清華大学は、北京市の中関村地区で隣接して立地していて、中国のトップを行く大学としてライバル関係にあります。最近は、輩出する国家指導者の数やいろいろな学術研究の成果では清華大学の方が上だ、と考える人も多いのですが、「中国を引っ張ってきた」という歴史の重みとそれに裏打ちされた自負とプライドにおいては、まだまだ北京大学の方が上だ、と思っている人が多いのかもしれません。今日の「人民日報」や「新京報」の記事を見て、そんなことを思いました。

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2008年5月 3日 (土)

胡錦濤国家主席が5月3日に北京大学を訪問

 中国では、5月4日は、1919年の5月4日に始まった「五四運動」にちなんで「青年節」と呼ばれ、青年(14歳~28歳)には半日の休日が与えられる、という法定休日になっています。

---【「五四運動」に関する説明】(始まり)---

 1919年1月から第一次世界大戦の戦後処理について話し合うヴェルサイユ会議が開かれましたが、この会議において、中国は当時日本が占領していた山東半島を中国に返還するように要求していました。山東半島は、もともとドイツが租借地として支配していましたが、英仏に味方して第一次世界大戦に参戦した日本は、山東半島に出兵し、ここを占領しました。そして、日本は、1915年、「対華21か条」において、日本による山東半島占領を認めるよう中国に要求しました。英仏米もこの日本の要求を黙認したため、当時の中国の袁世凱政権はこの要求を飲まざるを得ませんでした。戦争が終わってドイツが負けたことから、中国政府は、アメリカ大統領ウィルソンが提唱していた「民族自決主義」の原則に基づき、山東半島を中国に返還するよう要求していたのです。

 しかし、第一次世界大戦の戦勝国側(英仏米日)がリードするヴェルサイユ会議は、この中国の要求を拒否しました。中国の要求が拒否されたことが伝えられると、中国の人々の列強各国、特に日本に対する怒りが爆発し、1919年5月4日、北京大学の学生らが天安門前へ向けてデモを行ったことをきっかけに、中国における反帝国主義の大衆運動が広がっていったのでした。これが「五四運動」です。5月4日は、中国革命において、学生ら青年たちの民族主義的な情熱から出発して、幅広い人々による大衆運動が広まった「真の革命」の出発点の日として、今でも歴史上の重要な日として位置付けられています。

---【「五四運動」に関する説明】(終わり)---

 世界を巡った北京オリンピックの聖火リレーに対して様々な妨害活動があったことから、今、これに反発して、中国のナショナリズムがいつになく高まっています。特にフランスでの聖火リレーに対する抗議活動が激しく、フランスのサルコジ大統領が「場合によってはオリンピックの開会式に出ないこともあり得る」といった発言をしていることから、中国の若い人たちの間にフランスに対する反発が高まり、フランスの会社が経営するスーパーマーケット「カルフール」での不買運動が起こるまでになっています(この不買運動は、「『カルフール』の大手株主がチベット独立運動グループを支援している、とのウワサがネット上で広まったことがきっかけになっています。「カルフール」側はこのウワサを否定しています)。

 中国国内のメディアも、「チベットでの動きに対する西側メディアの報道は偏向している」など、中国の人々の愛国主義的感情を煽るような報道をしてきたのですが、学生らの動きが「カルフール」の不買運動にまで発展したことを受けて、「愛国主義は重要だが、それは理性的に国家建設へ向ける必要がある」といった趣旨の論説を掲載するなど、ナショナリズムの過激化を警戒するようになってきています。特に、オリンピック成功へ向けて国際世論に対する配慮を示すため、チベット問題に関してダライ・ラマ側と非公式な接触を図ろうとしている中国政府にとって、あまりに過激なナショナリズムは好ましくありません。非公式とは言え、ダライ・ラマ側と接触しようとする政府に対して、学生らが「妥協しすぎだ」と反発すると困るからです。5月4日は、ナショナリズムの国民運動の出発点である「五四運動」の記念日なので、この日をきっかけに学生らの動きが、中国政府の思惑を超えるほどに盛り上げることは、中国政府としても困るのです。

 そんな中、5月1日に日本の時事通信は「胡錦濤国家主席が5月4日に北京大学を視察することを予定している」というニュースを配信しました。私は「まさか」と思いました。北京大学は「五四運動」の発生の地です。また、北京大学の学生は今でも「自分たちが中国をリードしている」というプライドを持っています。そんな中、「五四運動」の記念日に国家主席が北京大学へ行ったら、国家主席に「直訴」しようとする学生らに格好のきっかけを与えてしまうことになるからです。国家主席自らが「愛国主義の熱情は素晴らしいもので理解できる。しかし、その情熱は理性的に社会の建設のために向けて欲しい。」と訴えることは非常に重要なことだと思うのですが、それを5月4日に胡錦濤主席自らが北京大学に出向いて行うのはあまりにも刺激的だ、と私には思えました。また、警備上の都合から言っても、国家主席の視察日程が事前に報道されることはあり得ないはずだ、と私は思いました。

 ところが、今日(5月3日)夜7時から放送された中国中央電視台の「新聞聯播」によると、胡錦濤国家主席は、5月4日ではなく、今日(5月3日)に北京大学を視察した、とのことです。このテレビのニュースでは、胡錦濤主席が大学生らと和やかに交流したり、白人の外国人留学生と交流して国際的な相互理解の重要性を強調したりしている姿が放映されました。胡錦濤主席が5月4日に北京大学へ行く、という時事通信の報道は、一種の「おとり情報」だったようです。5月4日の前日に電撃的に行くことで、胡錦濤主席は、過激な学生らに「直訴」されるようなことなく、「愛国主義の熱情は理性的な方向へ向けよう」「国家の団結も重要だが、それを基にした国際的相互理解もまた重要だ」という強いメッセージを学生たちに発することに成功したと思います。

 一方、5月2日時点での日本での報道やBBC、CNNでは、ダライ・ラマ側の特使は、5月3日に中国に入って中国側と接触する予定、と報道していました(一部の報道では、ダライ・ラマ側の特使が行く場所は北京だ、と報道していました)。「五四」の前日にダライ・ラマ側と接触したりしたら、ナショナリズムで高揚している学生たちを刺激するだけで、タイミングとしては悪すぎる、と私は思いました。

 ところが、北京時間5月3日夜の報道によると、ダライ・ラマ側の特使は5月3日に中国に入ったが、中国政府の関係者と会談するのは5月4日だ、とのことです。また、NHKのニュースなどの報道によると、会談の場所は北京ではなく広東省深セン(香港の北隣)だ、とのことです。中国政府とダライ・ラマ側との非公式な接触については、中国国内のメディアでは伝えられていません。日本や欧米のメディアは、中国側やダライ・ラマ側から非公式に流される情報に「踊らされて」いるようです。こういった「水面下の交渉」が行われる時間や場所は、交渉がそれこそ「水面下」で行われるので、正確な情報はオモテには出ないのが普通なので、流される情報に振り回されないようにする必要があると思います。

 また、昨日(5月2日)、今日(5月3日)の時点で「カルフール」を意味する中国語の「家楽福」を中国の検索エンジン(百度(バイドゥ)、Yahoo!、Google)で検索すると「法律の規定に基づき検索結果が表示されません」と表示され、検索することができません。インターネットによる不買運動の動きが広がることを防ぐため、当局によるインターネットアクセス制限が掛かっているからのようです。

 こういったインターネット・アクセス制限については、当局側が公表しないのはもちろんのこと、中国の新聞でも報道されないのが普通なのですが、今日(5月3日)発売の経済専門週刊紙「経済観察報」(2008年5月5日号)では、1面に載せた「カルフールの5月1日」(中国語で「家楽福5月1日」)と題する記事の中で、「カルフール」の語が百度で検索できないことを伝えています。

 一方、中国「カルフール」のホームページに非常に似た(スペリングで1字違いの)アドレスを持つ愛国主義を訴える過激なイメージのサイトには、アクセス制限が掛かっておらず、閲覧できる状態になっています(このサイトでは「オリンピックを妨害するいかなる言論や行動に対しても断固として反対しよう」というスローガンが掲げられていますが、「不買運動をしよう」などとはひとことも言っていないので、削除やアクセス制限の対象になっていないものと思われます。しかし、そのアドレスを見れば「カルフール」を対象にしていることは明らかです)。

 また、新華社のホームページには、伝えられる記事に対する意見を書き込める掲示板が付いているのですが、「カルフール」の不買運動に対して「理性的に対応しよう」という専門家の論評に対する掲示板には、「専門家は何もわかっていない」など、不買運動を支持する書き込みが削除されずにそのまま掲載されています。

 胡錦濤主席の北京大学訪問を伝える5月3日の「新聞聯播」では、チベットのラサ地区がこのメーデー連休から国内の観光客に開放されたこと、北京で「チベットの今昔展」が開かれておりこれを見た多くの人が最近のチベットの発展に満足の意を示していることが伝えられていました。新華社等の公式メディアでは、今の時点でも「チベット独立派」「ダライ集団」の不当性を訴える記事を「これでもか」という程に連日報道しています。

 このようにナショナリズムの高まりや「カルフール」の不買運動、中国政府とダライ・ラマ側との非公式な接触に関する情報は、「何が本当で、なにが『おとり情報』なのか」「当局は、どの情報を制限し、どの情報の流布を許可し、世論をどの方向に持っていこうとしているのか」が現在よくわからない状況になっています(それゆえに、外国メディアの中には、中国当局の内部で対応の仕方に対する路線対立があり、軸足が定まっていないのではないか、と論評するところもあります)。

 ただ、インターネットの掲示板などでは、激しくナショナリズムを高揚させるような書き込みがありますが、「不買運動をやろう」と呼びかけられていた一昨日(5月1日)、北京市内にいくつかある「カルフール」の店舗のうち、店の前に人が集まって店に入る客に不買を呼びかける、といった目立った活動が行われたのは、北京大学などに近い中関村店だけで、そのほかの店では、大きな動きはなかったようです(ただ、「経済観察報」の記事によると、ほかの店でも、いつものメーデー連休に比べてお客はかなり少なかった模様です)。

 そういった状況も踏まえると、大多数の中国の人々は基本的に冷静なのだと思います。聖火リレーは、5月1日の香港を皮切りにして、中国国内に入りました。中国国内では、さすがに「抗議行動」などはないと思うので、これ以上「騒ぎ」が大きくなることはないと思います。ただ、オリンピック本番で、ナショナリズムの熱情に燃えた一部の若い人たちが、外国人との間でトラブルを起こすことだけは避けて欲しいと思っています。

 いずれにせよ「五四青年節」の前日に胡錦濤国家主席が自ら北京大学へ行った、ということは、党・政府も事態を重要視していることの表れだと思います(表向きは、開校110周年の記念式典に出席した、ということになっていますが、「五四」のタイミングを狙って行ったことは明らかです)。「不買運動」などをやっている若い人たちの気持ちが本当に「愛国主義」に基づくものなのであれば、彼らはこの胡錦濤国家主席の気持ちを汲み取って理性的に行動するはずである、と私は信じています。

(2008年5月5日深夜追記)

 上記の文章で「中国『カルフール』のホームページに非常に似た(スペリングで1字違いの)アドレスを持つ愛国主義を訴える過激なイメージのサイト」について書きましたが、5月5日夜現在、このサイトは、削除されたのか、あるいはアクセス制限が掛けられたからなのかわかりませんが、見ることができなくなっています。違法と指摘されないように注意して作られたサイトのように見えましたが、やはり見たイメージがちょっと過激な感じがしたので削除されてしまったのか、あるいは自主規制して自分で削除してしまったのかもしれません。

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2008年4月30日 (水)

Ready for what?

 今日4月30日は、北京オリンピック100日前に当たります。北京では、様々な記念のイベントが行われました。北京オリンピックのイメージ・ソングは "We are ready" (中国語では「我們準備好了」:私たちは準備ができています)です。それに合わせて、今日は、中央電視台で「我們準備好了」という特別番組を放送しました。

 私は、いつもこの "We are ready" の曲を聴くと、"So, reday for what?" (それで、何の準備ができているの?)と問い掛けたくなります。

 1964年の東京オリンピックは、第二次世界大戦に負けた日本が19年の時を経て世界に「新しい日本」として再出発した姿を見せる場でした。そして、東京オリンピックを契機として日本は高度経済成長を遂げることになります。1988年のソウル・オリンピックは、1980年に軍事クーデターで政権を奪取したチョン・ドゥホァン(全斗煥)大統領が「オリンピックの開催の前に大統領を退陣する」と宣言して招致したオリンピックでしたが、実際に、1988年、チョン・ドゥホァン大統領はオリンピックを前に大統領を退陣し、国民による直接選挙で選ばれたノ・テウ(盧泰愚)大統領が就任しました。また、ソウル・オリンピック以降、韓国はNIEs(新興工業国・地域)のひとつとして経済的にも国際社会の中で大きく羽ばたくことになったのでした。

 それと比較すると、北京オリンピックを契機として、中国自身がどう変わるのだろうか、中国の国際社会での位置付けがどう変わるのだろうか、というのが私には開幕の100日前の今日になっても、まだ見えてきていないのです。東京オリンピックもソウル・オリンピックも、日本や韓国を国際社会の一員としての舞台に載せる役割を果たしたのですが、北京オリンピックについては、一昨日まで世界を巡っていた聖火リレーを見ていると、むしろ逆に中国を国際社会の中における異質の存在としてクローズ・アップさせる場になってしまったようにさえ感じました。オリンピックの開催を通して国としてひとつにまとまる、民族意識が高まる、というのは、悪ことではないのですが、それが国際社会と対立する方向を向いており、オリンピックが目指すべきものと方向が逆のように思えるからです。

 私と同じような見方の論調をズバリと掲げる中国の新聞は見掛けませんが、今日(4月30日)付けの北京の大衆紙「新京報」に「オリンピック100日前のカウントダウン:さらに開放された中国を世界に示そう」と題する社説が掲載されていました。

(参考)「新京報」2008年4月30日付け社説
「オリンピック100日前のカウントダウン:さらに開放された中国を世界に示そう」
http://www.thebeijingnews.com/comment/shelun/2008/04-30/011@101131.htm

 この社説では、最初の4分の1の部分で、「オリンピックの聖火リレーが一部の『チベット独立派』の妨害を受けたが、13億の中国人と数千万の在外華僑の力により、妨害は排除され、中華民族の団結を示した。」と述べる一方、続けて「しかしながら、我々の目の前にはさらに多くの考えるべき課題が残っている。」として、オリンピックを契機に中国が示すべき道を論じています。

 この社説では、オリンピックに関する建物などの「ハード」の準備状況は目を見張るものがあるが、それらの影響は一時的なものであり、もっと長く持続的に続く「ソフト」面での建設を考える必要がある、と指摘しています。具体的には、「国民の自治」「法律に基づき政治を行う権威」「権利の保障」・・・といった点の改革の道のりはまだまだ遠く、今日この時から、小さな一歩を踏み出す必要がある、と指摘しています。さらにこの社説は、「オリンピック精神は異なる文化を容認し理解することを強調している」として、「中国が積極的に開放的で自由な発展を進め、それをもって一部の国が持っている中国に対する誤解や偏見を消し去り、オリンピック運動が提唱する真の国際交流を実現しなければならない。」と結んでいます。

 中国の新聞の社説や論説は、「ズバリ」と指摘するといろいろ差し障りが出るケースがあるため、論旨が回りくどくて(たとえ中国語の読解能力が完全であったとしても)、その主張を理解するのは相当に難しいケースがあるのですが、この「新京報」の社説が言っていることは、最初の4分の1の部分(聖火リレーによって中華民族が団結したことを評価する部分)を除いては、私の考えていることとほとんど同じだと思います。

 私は、北京オリンピックによって、世界の多くの人が中国を訪れ、世界の多くの人が中国を理解するきっかけになるとともに、中国の人々が世界を理解するきっかけになればよいな、と思っていました。しかし、少なくとも、19か国を回った聖火リレーの結果だけを見れば、世界の人々と中国の人々との「意識のギャップ」はむしろ深まってしまったように思います。

 私がよく知っている北京のホテルは、いつもは1泊500元(7,500円)程度の値段なのに、7月下旬から8月いっぱいは1泊3,500元(52,500円)~4,500元(67,500円)にする、と言っています。今日(4月30日)夜9時からのNHK総合テレビで放送された「ニュース・ウォッチ」によると、日本の旅行社等ではオリンピックの人気のある試合のチケットがほとんど確保できていない状況だとのことです。こういった状況を踏まえると、私は、オリンピックが始まっても、実際は外国人はあまり数多くは中国へは来ないのではないか、と心配しています。スタジアムは満員だけど、ほとんどみんな中国人だけ、ということになるのではないか、とも思っています(外国での聖火リレーを見ていると、どうしてもそういうイメージを持ってしまうのです)。

 こういった私の心配が杞憂になり、北京オリンピックにおいて、数多くの外国の人々と中国の人々とが触れ合い、お互い知らなかったことを理解し合う交流が笑顔の下で行われることを祈りたいと思います。

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2008年4月26日 (土)

「ダライ・ラマと対話の用意がある」の意味

 昨日(4月25日)、中国の新華社通信は「中国政府の関係者は、分裂活動やオリンピックへの妨害活動をやめるのならば近日中にダライ・ラマの私的代表と話し合う用意がある」と発言した旨伝えました。この報道が日本の長野での聖火リレーの前日で、長野での抗議活動をやるかもしれないと伝えられていた活動家グループ「国境なき記者団」が日本に入国する直前になされたことに、私は中国側の「意図」を感じました。

 私が想像する中国側の「意図」とは以下のようなものです。

○5月初旬にも予定されている胡錦濤国家主席の日本訪問を直前に控えて、聖火リレーへの妨害活動等に関連して欧米各国とはぎくしゃくした関係にある中国側としては、今までこの件に関して積極的に中国批判を行って来なかった日本との関係を良好なままに保ちたいと思っており、そのためには長野の聖火リレーにおいて中国に対する大きな抗議活動が起こっては困る。

○「中国政府がダライ・ラマ側と接触する用意がある」との意図を示せば、聖火リレーに対して抗議活動を行ってきた人々の抗議の根拠がなくなる。もしそれでも抗議活動を行えば、それは「政治的な主張に基づく正当な抗議」ではなく、単なる「嫌がらせの妨害行為」ということになり、もし混乱が起きても日本国民の世論が抗議者側に賛意を表することはなくなる。

 つまり、この「ダライ・ラマ側と接触する用意がある」という新華社の報道は、もちろん国際世論に配慮した、という意味はあるものの、そのタイミングを考えると、特に日本に対して出された「中国は日本とだけは友好的な関係を維持したい」というメッセージであると捉えていいと思います。

 4月26日に長野で行われた聖火リレーは、ロンドンやパリのような騒ぎにはなりませんでしたが、物が投げつけられたり妨害行為があり、逮捕者も出ました。また、集まった中国人留学生らと抗議行動を行おうというグループとの間で小競り合いがあり、中国人留学生ら数人がケガをしたとのことです。この長野の聖火リレーについては、中国のメディアは「聖火は日本の人々に歓迎されてリレーは成功裏に終了した」と報道したのみで、妨害行為や中国人留学生がケガをしたことは伝えていません。こういった報道の仕方も「日本との間ではギクシャクしたくない」という中国政府の「意図」を表していると思います。

 今後注目すべきなのは、今回の「ダライ・ラマ側と接触する用意がある」との中国政府関係者の発言が、単なる国際世論(特に日本に対する)メッセージだけで終わるのか、実際に中国政府がダライ・ラマ側と接触し、問題解決の話し合いのテーブルに着くかのかどうか、です。EUの代表は「もともとダライ・ラマ14世は『中国からの独立は主張していない』『自治の確立とチベットの文化や宗教の保護を求めているだけ』『北京オリンピックの開催は支持する』と主張しているので、中国政府とダライ・ラマ側との話し合いが持たれれば問題解決の余地はあるのではないか。」との期待を表明しています。この期待が現実のものになるとよいのですが。

 問題は、これまでさんざん「ダライ集団は国家を分裂させようとしている」とダライ・ラマ側を批判して国内の民族主義的な感情を煽ってきた中国政府が急に「ダライ・ラマ側と話し合う用意がある」との考え方を示したことに対して、中国の人々(特に若い人々)がどのように反応するかです。「ダライ・ラマ側と話し合う用意がある」との政府関係者の発言を伝える新華社電は、中国国内でも人民日報や中央電視台のテレビ・ニュースでも伝えられ、一般の中国国民にも既に伝わっています。今日(4月26日)は土曜日で、この後、5月1日からの3連休、5月4日の「五四青年節」(1919年5月4日以降、列強各国(特に日本)に対して当時の若者たちが民族主義的主張を掲げて起こしたことを記念した日)になりますから、今は若い人たちが何か動きを見せる時間的に余裕が持てるタイミングです。「五四青年節」に向けて、若い人たちがどう動くのかが気になります。

 民族主義的熱気に包まれた若者たちが「ダライ・ラマ側と話し合うなどとんでもない」と考えて、中央政府の考え方に反発するような動きを見せたりすると、話が複雑になります。もしそうなったら中国政府は、これまでダライ・ラマ側や西側報道機関を強烈に批判するキャンペーンを行って来たことの反動を自分で受け止めなければならないことになります。(新華社のホームページにある「ダライ・ラマ側と話し合う用意がある」という記事に付けられている掲示板には「政府の意向を支持する」という発言が並んでいますが、これが本当にネットワーカーの意見を代表するものであるとは、私にはとても思えません)。

 別の観点から捉えれば、この時点で「ダライ・ラマ側と話し合う用意がある」との発言が公表されたことは、中国の党・政府の中で問題解決に対してどういう手法を取るかについての「迷い」(別の言葉でいうと内部での路線対立)があることを表しているのかもしれません。

 いずれにせよ、私は、中国の若者たちが過激な行動に走ることなく、国際的な感覚をもって(=外国の人々が自分たちの行動をどう受け止めているのか、を自覚して)、冷静に行動することを期待しています。問題は、今の若者たちは1989年の事態を知らない世代であり、1989年の事態に関する情報からいっさい遮断されているということです(1989年の事態に対する情報に関しては、インターネットで閲覧しようとしてもアクセス制限が掛かっています)。私としては「オリンピックを契機とした穏やかな歴史の前進」を改めて願いたいと思います。

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2008年4月21日 (月)

デモに関する報道

 日本からの報道やCNNなどの報道によると、この週末(4月19日、20日)、次のようなデモがあった、とのことです。

(1)パリ、ロサンゼルスなどで、フランスにおける聖火リレーへの妨害行為やCNNの報道に抗議する中国人留学生らによるデモがあった。

(2)武漢などの中国の複数の都市において、フランスにおける聖火リレーへの妨害行為等に抗議するため、フランスの会社が経営するスーパーマーケット「カルフール」での不買運動を訴える学生らによるデモがあった。

 これらについては、4月20日、4月21日付けの中国の新聞による報道は以下のとおりになっています。

(1)については、写真を入れたりして大きく報道している。

(例1)「新京報」2008年4月20日付け記事
「5000人の中国人がパリでオリンピック支持の集会を開催」
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2008/04-20/011@072623.htm

(例2)"China Daily" 2008年4月21日付け1面トップ記事
"Thousands rally in Europe, US" (何千人もの人がヨーロッパやアメリカでデモを行った)
http://www.chinadaily.com.cn/cndy/2008-04/21/content_6630616.htm

(例3)「人民日報」2008年4月21日付け記事
「北京オリンピックを支持し、事実に反する報道に反対する~米、仏、英、独等で華僑や在留中国人や中国人留学生が各種の活動を実施~」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-04/21/content_48355249.htm

(2)については、「カルフール」に対する不買運動が起きていることは報じているが、「デモ」という形の運動が中国国内で起きていることについては詳細には報じられていない。しかし、デモが計画されていることがわかってからは、暗にデモのような行動による抗議を戒める論説が掲載されるようになる。

(例4)「人民日報」2008年4月20日付け1面の下の方に掲げられた論説
「愛国主義は、どのようにしたらさらに有効になるのか」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-04/20/content_48354756.htm

 一方、4月20日の「新京報」には、石嘉という名前の北京の学者の意見文が掲載されています。この意見文の中では、冒頭、雲南省昆明において「カルフール」の店の前に約200人が集まって抗議行動を行い、店に入る客に「売国奴」という罵声を浴びせたり、水を掛けたり、ひどいときには殴打したりした事実を伝えてます。このような事態に対して、石嘉氏は、「私は、不買運動をしようと考えたり、不買運動に反対したり、様々な意見が表明されることを支持するが、片方の意見を持つ者が異なる意見を持つ者に対して、理性を失い、合法性を逸脱する態度を取ってはならない。」「そういった行為は、かえって多くの人に不買運動に対する疑念を抱かせるのであって、世界中で形成されつつある好ましい民族的現象を妨害することになる」と批判しています。

(例5)「新京報」2008年4月20日付け「観察家」(意見欄)
「カルフールの店の前における理性の危機」
http://www.thebeijingnews.com/comment/guanchajia/2008/04-19/011@023715.htm

 (例4)(例5)に掲げた論説や意見文は、至極もっともなものであるし、オリンピックを妨害する行為に対して行われた抗議活動は、過激になると、むしろそれによりオリンピックによくない影響を与えることになる、という中国当局の懸念と一致するものだと思います。

 ただ、もし中国当局がそのように懸念するのであれば、(例1)(例2)(例3)に掲げたように、ヨーロッパやアメリカで聖火リレー妨害や反中国的な西側報道に対する反発のデモを大きく伝えるのは大いなる矛盾だと思います。これら外国での激しいデモの報道を見れば、中国国内にいる多くの若者たちは、諸外国で中国系住民や中国人留学生がデモをやっているのなら、自分たちも中国国内でデモをやりたい、と思うようになるのが自然だろう、と思えるからです。

 今まで、中国の国内メディアが展開してきた「チベットの住民による暴力行為糾弾キャンペーン」「聖火リレーに対する妨害行為を糾弾するキャンペーン」「中国政府のやり方を批判する西側メディアを『偏向している』『事実を伝えていない』と批判するキャンペーン」が非常に激しかっただけに、ここに来て急に「不買運動はいいが、過激な行動には走らないように」とブレーキを掛けても、中国の若い人は納得するだろうか、という心配があります。少なくとも、上記のように矛盾して見える中国のメディアの報道振りは、「国内世論のコントロールに苦労してる中国当局の姿を表していると思います。

 中国の人々は、世の中が混乱しては困る、ということを自分たちで一番よく知っています。ですから、これからも小さなトラブルはいくつかあるかもしれませんが、大きな混乱にはならないと思います。オリンピックに影響を与えるような事態になることは誰も臨んでいないのですから。

 それを考えると、中国の報道機関も「世論をコントロールしよう」と思うのではなく、右側の事実も左側の事実も、事実を淡々と伝えることに徹し、必要に応じて、起こった事実に対する論評を加える、という報道の仕方にする方がよいと思います。その方が自然で、みんな(諸外国も含めて)が納得できるものになると思います。

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2008年4月19日 (土)

北京の一部の大使館街が公安当局により封鎖

 今日(4月19日)午後、第三環状路を車に乗って通っていたら、北京市の東北部にある朝陽区三里屯の大使館街で、第三環状路から大使館街に入る道が全て公安当局の人員による隊列で入れない状態になっていました。この三里屯の大使館街は、日本の大使館は入っていませんが、ヨーロッパ、ラテンアメリカ、アジア、アフリカなど各国の大使館が連なっているところです。もちろん各大使館は警戒が厳重で、用のない人は各国大使館の敷地内に入ることはできませんが、各国大使館前の道路は、いつもは自由に通行できます。大使館街は、街路樹がしっかり整備されているので、緑の季節には通ると気持ちのいい街です。その三里屯の大使館街がブロックごと完全に公安当局に封鎖されていたのです。

 どこの国の大使館を守るためにこういった措置が取られているのかは不明でしたが、最近の動きから想像すると、この三里屯の大使館街の中にあるフランス大使館に対するデモを防止するための措置と思われます。

 昨日(4月18日)付けのこのブログの発言でも書きましたが、パリにおける聖火リレーに対する妨害行動が激しかったことや、サルコジ大統領が開会式への出席に対して「状況によっては出席しない」といった態度を取っていることから、中国国内の人々のフランスに対する反感が高まっています。そのため、フランスの会社が経営するスーパーマーケット「カルフール」での買い物をやめよう、という不買運動の呼びかけがネットワーク上で起きているそうです。

 昨日(4月18日)付けの「新京報」によると、「カルフール」の大株主であるモエヘネシー・ルイヴィトン・グループは、ルイ・ヴィトン・グループがダライ・ラマを支援したとの一部の報道に対し、「ルイ・ヴィトン・グループは、チベット独立派を支持したことはないし、中国の消費者を侮辱するような発言をしたこともない」との声明を発表したとのことです。

 また、この記事によれば、湖北省武漢の「カルフール」の店の前に掲げてあった中国の国旗が半旗状態になっており、それを撮影した写真がインターネット上に流された、とのことです。「カルフール」側は、国旗を半旗状態にしたのは「カルフール」の社員ではない、との声明を出し、店先に「カルフールは北京オリンピックを応援しています」という張り紙を出したとのことです。

(参考1)「新京報」2008年4月18日付け記事
「ルイ・ヴィトン、ダライを支援したことはないとの声明を発表」
http://www.thebeijingnews.com/news/intime/2008/04-18/015@075825.htm

※上記の記事の中の「武漢のカルフール、『半旗事件』について調査」とある見出しの部分が武漢での「半旗事件」に関する記事です。記事中、「路易威」は「ルイ・ヴィトン」、「家楽福」は「カルフール」のことです。

 こういった動きを受けてのことだと思いますが、4月19日午後に放送されたNHKのニュースによると、武漢で学生らによる反仏デモが行われ、フランスに対する抗議と中国を支持しない外国に対する抗議を叫んだとのことです。このNHKのニュースによると、デモは、携帯電話のショートメールを使って呼びかけられたとのことです。

 北京の大使館街が公安当局によって封鎖されたのも、こういったデモの動きを警戒したためと思われます。今日(4月19日)日本時間夜7時から放送されたNHKのニュースによると、武漢のほか北京でもデモが行われたとのことですが、少なくとも私はデモ自体は見ませんでした。

 中国では、当局に無届けでデモを行ったり、デモを呼びかけたりすることは法律違反です。

(参考2)このブログの2007年8月24日付け記事
「ネットで集会を呼びかけた大学院生が拘束」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/08/post_2a32.html

 上記の記事で書いたケースでは、インターネット上の掲示板にデモへの参加を呼びかける発言をしたために拘束されたのですが、携帯電話のショートメールを使って、いわゆる「チェーンメール」(「友だち数人にそのまま転送してください」という「不幸の手紙」形式のメール)を使って呼びかけを広めた場合、発信源が特定できないので、上記の記事のケースのように公安当局がデモの呼び掛け人を事前に拘束することは、まず不可能です。そのため、最近は、デモの呼び掛けを行うのに携帯電話のショートメールを使うケースが増えています。

(参考3)このブログの2008年1月28日付け記事
「中国における最近の住民運動の例」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2008/01/post_a9b2.html

 4月15日に行われた定例記者会見において、インターネット上でのフランス商品に対する不買運動について問われた外交部の報道官は、「最近の一部の中国国民は彼らの意見と気持ちを表現しているのだと思う。これらのことには原因があり、フランス側もよく深く省みて考える必要がある。私は中国国民が法律に則り彼らの合理的要求を表明するものと信じている」と述べています。この発言は、後半で「違法なことはするな」とクギを指しているものの、不買運動を肯定するような内容になっています。これを中国の人々は、不買運動は当局が公認したものだ、と受けとめたようで、このような当局側の姿勢が反仏デモにまで発展したものと思われます。

(参考4)中国外交部報道官定例記者会見2008年4月15日
http://www.fmprc.gov.cn/chn/xwfw/fyrth/1032/t425465.htm

 しかし、学生等がデモを行おうとしている、との動きを受けて、中国当局も騒ぎの拡大を懸念するようになったようです。4月17日夜に配信された新華社通信では、人々に理性的な対応をするよう呼びかける論評を配信しています。

(参考5)「新華社」ホームページ2008年4月17日21:21アップ
「専門家、ネット市民がカルフール不買運動について議論している:理性的な態度を持って愛国の感情を表す必要がある」
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-04/17/content_7998084.htm

 「西側のメディアは偏向していてケシカラン」というキャンペーンを張ったのは中国当局自身ですが、かといって外国製品の不買運動を大々的に行ったり、外国に対する反発を表明するデモが行われたりしたのでは、諸外国から多くの客を招き入れることになる北京オリンピックに対するマイナスイメージが出てしまうことになります。中国当局は、そこまで騒ぎが大きくなることは望んでいないと思います。中国の人々は、こういった中国当局の意向を敏感に受け止めます。「運動を起こしても公認されるな」と思えば運動を行い、「ここまで運動をやったらヤバイ」と思ったらすぐにやめるという「知恵」を持っています。私は、その時は北京にいなかったので詳細はよく知らないのですが、2005年の反日運動の時も、当局が公認している間は運動は盛り上がったが、当局が「これ以上はダメだ」という方針を示した後は自然に収まった、と聞いています。

 4月19日に行われた北京の大使館街の公安当局による封鎖も、そういった中国当局の「これ以上は騒ぎを大きくするな」という明確なメッセージですので、中国の人々はこれ以上騒ぎを大きくすることはないと思います。

 ただ、これからオリンピックへ向けて、いろいろ対外的に注目を集めるイベントが目白押しですので、中国の人々が今までのように中国当局のメッセージに応じて理性的に行動し、大きな混乱なくオリンピックを迎えることができるのかどうかちょっと心配な点があります。オリンピック期間中(7月20日からパラリンピックが終了する9月20日まで)の建設工事の中止や工場の運転中止、市内での交通制限は、労働者や市民生活に直接影響しますので、これらを人々がどう受け止めるのか、ちょっと予測できない点があるからです。

 今日、大使館街の周りの公安当局の隊列を見て、私もちょっと緊張感を感じました。これからオリンピックが終了するまで、ちょっと落ち着かない毎日が続きそうです。

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2008年4月18日 (金)

自信を失ったように見える中国

 CNNが4月9日に放送した番組の中で、コメンテーターのジャック・カフェティ氏が中国製品を「ジャンク」と表現し、中国は「愚連隊で悪漢だ(goons and thugs)」と表現したことに対して、中国政府が謝罪を求め、中国のネットワークではCNNの態度に対する攻撃が盛り上がっています。これに対し、CNNはステートメントを出したのですが、そのステートメントの中で「goons and thugs」と言ったのは、中国政府に対してであり、中国人民に対してではない、と述べたため、これがまた中国政府を怒らせることになり、中国外交部は4月15日、CNN北京支局長を外交部に呼んで抗議した、とのことです。

 「『愚連隊で悪漢』なのは、中国人民ではなく、中国政府のことを言っているのだ」とは、CNNもずいぶんと挑発的なコメントを出したなぁ、と私も思います。このステートメントはCNNのホームページに載っているはず(私は数日前に見た記憶がある)なのですが、残念ながら北京にいる私のところからは、今(4月18日夜)はCNNのホームページの中の「検索」をしたら「Internet Explorer ではこのページは表示できません」と出てきてしまいました。当局がCNNのページにアクセス制限を掛けているのか、多数の中国のネットワーカーが集中的にアクセスしているのでアクセスできなくなっているのかはわかりませんが、少なくとも残念ながら、今の時点では、このCNNのステートメントは見ることはできません。

 外交部(日本の外務省に相当する)が駐在する報道機関の支局長を呼んで抗議する、というのは、「普通の国」ではあり得ないのことですが、中国では報道機関が支局を設置するためには中国政府の許可が必要ですから、こういった行為は、相当の「おどし」になることは間違いないと思います。もっとも、CNNは過去にもこのような経験は何度もしており、「おどし」で何かを変えるとは思えませんが。

 ジャック・カフェティ氏の発言は、テレビのコメンテーターの発言としては、いささか品格を欠き、アジア人に対する偏見のようなものが見え隠れするのを私も感じますが、こういった一人のコメンテーターのちょっとした口汚い「言い過ぎ発言」に対して中国の政府当局がここまで過剰に反応するのは、ちょっとやりすぎだと思います。

 一方、中国のネットワーカーの間では、パリでの聖火リレーに対する抗議行動に対する反発やフランスの政治家の言動から、フランスの会社が経営するスーパーマーケットに対する不買運動が広がっています。これは、スーパーマーケット経営者には気の毒だと思います。中国は「政治とオリンピックは別だ。政治の問題でオリンピックをボイコットしようとしている一部の国の政治家はおかしい」と盛んに主張しています。その論理を主張するのだったら、パリでの聖火リレーに対する抗議行動やフランスの政治家の言動とフランスのスーパーマーケット会社とは全くの無関係ですから、フランスに抗議するためにフランスの会社のスーパーマーケットで不買運動をする、というのは全く筋が通りません。

 こういった不買運動は「中国は企業にとって大きな市場である」ということを利用した多数による「おどし」だと取られても仕方のない行為だと思います。中国が世界の中で「普通の国」として受け入れられていくためには、こういった自分の主張を自分自身に当てはめたら自己矛盾を起こすような行為や「おどし」に見えるような行為はやめないといけないと私は思います。中国の新聞紙上で「不買運動はおかしい」といった主張が述べられていないのは、ちょっと残念です。

 中国は人口も多く、政治大国であると同時に、最近は既に経済大国になっており、こういった「おどし」のような手段を使わないでも十分に発言力を発揮することはできると思います。「おどし」のような手段を使わざるを得ないと考えているのだとしたら、逆にそれは中国の自信のなさを示しているのだと思います。

 私は1986年~1988年に北京に駐在していましたが、その当時、中国の経済力はまだまだ小さいものでしたが、ゴルバチョフ改革が進むソ連と比べてもその成長は非常に順調でした。当時の中国は「少々外国から何か言われたとしても、我々の社会はびくともしない」という自信にあふれていたように思います。それに比べて、今、経済的には飛躍的に成長したのだけれど(ある意味では飛躍的に経済が成長したが故に)2008年の中国はむしろ1988年当時の中国に比ると、内部に「何かあると壊れるのではないか」という不安を抱え、自信を失っているように見えます。自信があるのなら、インターネットのアクセス制限やテレビの検閲ブラックアウトをやる必要はないと思うからです。

 私は、中国は、もっと堂々と自信を持っていいと思います。

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2008年4月11日 (金)

全てを「独立派」だとする理由

 北京オリンピックの聖火リレーに関するロンドン、パリ、サンフランシスコでの混乱については、中国では、全て「ごく少数の『チベット独立』分子による妨害があったが、聖火は、それぞれの国民の歓迎を受け、聖火リレーは順調に終了した。」というトーンで報道されています。

 いつもは政府の政策について結構辛口のコメントもする北京の大衆紙「新京報」も、この件についてだけは、新華社通信が配信する記事や写真を載せるだけですので、人民日報などほかの新聞と同じ内容の報道振りになっています。

(参考)「新京報」2008年4月11日付け記事
「サンフランシスコでの聖火リレー、順調に終了」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/04-11/015@074527.htm

 上記の記事にある「旧金山」とはサンフランシスコのことです。この記事には、中国支持派が中国国旗を掲げる場面、聖火を写真に撮ろうとするアメリカ人、警察に取り押さえられる活動家、という3つの写真が載っています。このうち警察に取り押さえられる活動家の写真には「サンフランシスコ警察が一人のオリンピック聖火を妨害しようとした『チベット独立』分子を取り押さえた」との説明が付いています。中国では、聖火リレーを妨害しようとする人々は全て「『チベット独立』分子」と呼ばれます。

 聖火リレーに対して抗議活動をしている人たちの中には、実際に「チベット独立」を主張している人もいるでしょうし、「独立は求めないがもっと自治を与えるべきだ」と考えている人もいるでしょうし、「どういう政治形態を取るかは中国とチベットの人々が決めるべき話だが、平和的デモを力で押さえ付ける中国政府のやり方に抗議する」という人もいるでしょう。けれども、中国にとっては、いずれの人々も同様に「国家を転覆させようと考えている犯罪者」なのです。

 もともと中国は、大多数の漢民族のほか、チベット族を含め多数の民族が寄り集まった集合体であり、黙っていると国全体がバラバラになってしまう傾向があります。20世紀初頭、封建的な清朝による支配体制を解体し、列強各国の勢力を排除して国としての独立を回復させようとして革命を始めた孫文は、国民が一致団結して封建的な勢力や列強各国に対抗しなければならないのにもかかわらず、一向にまとまる気配のなかった当時の中国国民の状況に対して「中国の人々は『散沙の民』(握ろうとしても指の間からこぼれてしまう砂の如くまとまることのない人々)である」と嘆いたのでした。

 中国では、清朝以前は、皇帝権力によって「バラバラになろうとする人々」を強圧的にひとつにまとめていたのですが、皇帝権力が弱体化した清朝末期から中華民国時代において、中国は「散沙の民」の特徴を列強各国に衝かれ、バラバラに解体されて半植民地化されてしまったのでした。

 そういった中国を再びひとつの国としてまとめ上げたのが中国共産党なのでした。現在の中国は、13億人の人々がひとつの国としてまとまっているからこそ、経済活動が円滑に行き、国際社会の中でも大きな発言権を得ることができるのです。これがみなバラバラになったら、経済活動は混乱し、国際社会における発言権は低下し、外国からの干渉があれば、半植民地時代と同様になってしまい、「中国」としてのひとつの国家の体をなさなくなってしまうおそれがあります。一方で、いまのところ中国共産党以外に「散沙の民」をまとめる力を持っている者はいません。そこで「中国共産党がなくなったら中国全体がバラバラになる、従って中国共産党を否定することは国家を分裂させることを意味し、それは犯罪的行為である」という考え方になるのです。

 政治的に中国共産党の指導を否定したり、中国共産党から独立した少数民族の自治を求めたりすることは、上記の考え方から「国家分裂罪」になる、という理屈です。実際、先日、AIDS患者支援などを行っていた人権活動家が「国家分裂罪」で有罪判決を受けた例がありました。

 「国家を分裂させる」という重大なことにつながるので、中国共産党の指導を否定したり中国共産党から独立した少数民族の自治を求めたりするようなスローガンを叫んだり、そういった内容の横断幕やプラカードを掲げたりすることは、それだけで法律違反であり「犯罪」になります。普通の民主主義国家では、表現の自由の範囲内で許されることが、中国では「犯罪」になるのです。上記のような横断幕やプラカードを持ち、スローガンを叫んで歩くことは、暴力行為を伴わなくても、犯罪行為として取り締まりや逮捕の対象となります。中国にとって、このような行為は「平和的デモ」とは呼ばないのです。そこがそもそも「平和的デモを行っている人々を拘束するのはけしからん」と言っている西側と「法律に基づき犯罪者を取り締まることがなぜ悪いのか」と主張している中国政府側とのギャップの出発点なのです。

 外国での聖火リレーに抗議する人々に対する取り締まりは、中国の法律の下で行うわけではありませんから、聖火リレーの際に横断幕やプラカードを掲げ、スローガンを叫ぶことは外国ではできます。しかし、中国国内で行われるオリンピック競技の応援のために中国国内に入った外国人は、中国共産党の指導を否定したり、中国共産党から独立した少数民族の自治を求めたりするような横断幕やプラカードを掲げたりスローガンを掲げたりすると、取り締まりや逮捕の対象になりますので注意が必要です。国際法上、外国人であっても、中国国内にいる限り、中国の法律を守ることが求められるからです(そういう法律がイヤだったら、中国の国内には入るな、ということなのです)。

 それを考えると、オリンピック競技を応援に来た外国人が中国国内で逮捕されたりする事件が多発するのではないか、と私は今から心配しています。「普通の国」でもオリンピックの競技会場で政治的スローガンを掲げたりすることはオリンピック憲章により禁止されますが、「普通の国」ではオリンピック競技会場の外での「平和的な意思表示」は自由にできます。しかし、中国ではオリンピック競技会場の外でも「平和的な意思表示」が自由にできるわけではありません。中国共産党の指導を否定したり、中国共産党から独立した少数民族の自治を求めるような意思表示はできないのです。北京オリンピックを観戦しようとして中国に来る外国人は、その点を十分にわきまえておく必要があります。

 もし「オリンピックは世界の人々の交流の場だ。その国で自由に自分の意志を表現をしたり、その国の人々と自由に意見の交換ができないのだったら、そのようなオリンピックは開催する意味はない」という主張をするのだとしたら、それは、そもそも中国でオリンピックを開催すること自体が間違いだったのだ、ということになります。

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2008年3月30日 (日)

フィードバック・システムが働かない社会

 チベット問題は、中国の国内問題だと思うので、私はチベット騒乱問題そのものに対するコメントは控えたいと思います。今回のチベットでの騒乱について、中国政府はダライ・ラマ14世側からの煽動があったと主張し、ダライ・ラマ14世は煽動していない、と言っています。煽動があったにしてもなかったにしても、かなり多数の人が参加した騒動があったのは事実ですから、騒動を起こそうと思うほど現状に不満を持った人たちがチベット自治区や周辺の地域にかなりの数いた、ということは隠しようのない事実だと思います。

 一方、解放後まもなく60年、改革開放政策により中国経済全体の急成長が始まって30年経つというのに、なぜそういう不満を持った人たちがまだいるのか、についての分析の評論が、残念ながら中国のマスコミ上には登場していません。中国のマスコミには「ダライ集団の煽動はけしからん」「西側の報道は事実を歪曲している」といった主張ばかりが載っています。

 事件・事故や何らかの社会的問題があった場合、その原因を分析し、今後そのようなことが起きないようにするにはどうしたらよいか、を分析し提言するのがマスコミの重要な使命であり、そういった各種の分析・提言に従って少しでもよい方向に向かうように政策決定をするのが政治の使命です。こういったマスコミや政治の役割は、社会のフィードバック・システムとして重要なものです。

 政府がマスコミに対してどのような政策を採るのか、政治が住民による直接選挙によって選ばれた議員によって運営されることにするのかどうか、など具体的な政治システムについては、それぞれの国にそれぞれの事情があり、どういった政治システムを採用するのが最もよいのかについては、各国の内政問題ですので、それについても、私はコメントは控えたいと思います。ただ、一般論として申し上げれば、フィードバック・システムが働かない社会は、どこかの時点で必ず行き詰まることは間違いない、と私は思っています。

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2008年3月28日 (金)

強烈な国内メディア戦略の展開

 従来、中国では、自国に都合のよくない事件等については、外国のメディアによる報道を制限するとともに、国内では全く何も伝えないか、伝えたとしてもごく簡単に政府の発表を伝えるだけ、といったスタイルの報道振りを示すことが多かったように思います。しかし、今回のチベット地域での騒乱については、外国メディアによる速報報道はブロックしつつ、国内向けには、当局側の立場に立った多種多様の情報を大量に流して、当局の正当性を主張する戦略を取っています。

 3月27日付けの人民日報では、全16面のうち4面、5面、8面の全部と3面の3分の1程の紙面を使って、「『中国はチベット文化を破壊してきた』という批判の不当性」「チベットで騒乱を起こした暴徒の凶暴さ」「西側が意図的に中国当局側が暴力を振るっているように事実をねじ曲げて報道していることの不当性」を大々的に伝えています。

(参考1)「人民日報」2008年3月27日付け紙面
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-03/27/node_17.htm

※左上の「選択版面」と書いてある部分の数字をクリックすると、見たい紙面が表示され、記事のところにマウスを置いてクリックすると、記事の中身を読むことができます。

 3月24日にギリシャで行われた北京オリンピックの聖火の点火式にチベット問題に抗議するグループの人が抗議のために乱入した事件に対しては、当初はほとんどの中国のメディアは報道せず、この件を報道する外国の衛星テレビ放送は検閲でブラックアウトされていました。しかし、3月28日の朝刊からは、中国の国内紙も「新華社電」として、このニュースを伝え始めました。この「新華社電」では、聖火の採火式での乱入事件について伝えるとともに、諸外国の多くの人がオリンピック行事を妨害することに対する批判の声を挙げているとか、国際オリンピック委員会が乱入者を批判したことなども併せて伝えられています。

(参考2)「新京報」2008年3月28日付け記事
「採火式への乱入者が3人拘束される」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/03-28/011@071558.htm

 「事実を隠す」のではなくて、今の中国では、「事実の一定の部分(例えば、ラサでは商店が焼き討ちを受けてひどい被害を受けている、一部の外国メディアではデモ隊を取り締まるネパールの警察の写真や映像を掲げてそれに『中国当局が暴力で取り締まった』と受け取られるような説明を付けていたなど)を取り出して、繰り返し繰り返しその部分を強調して大々的に伝える」という国内メディア戦略に出ています。

 このメディア戦略は中国国内ではかなりの効果を上げていると思います。新華社のホームページでは、チベットでの分裂行動を痛烈に攻撃したり、西側の報道を「事実を歪曲した報道にメディアの良心はどこにあるのか?」と批判したりする中国のネット・ユーザーの声が盛り上がっていることを伝えています。ネット・ユーザーの具体的な発言も掲示板から転載して掲載しています。

 もちろん中国のネットの掲示板は、中国共産党の指導を否定したり、国家の分裂を煽動したりするような意見は、「法律違反」としてそもそも掲載できませんし、掲載したとしても掲示板管理者に削除されてしまいます。そういった掲示板の議論の中に載った意見の中から新華社が「適当だ」と思われるものを選択して、新華社のホームページに集めているのですから、この新華社のホームページに載っている「ネット・ユーザーの声」というのが、中国のネット・ユーザーの声の全体像を表しているわけではありません。

 しかし、例えば、CNNの報道によると、CNNの報道の仕方に関して、CNN北京支局に中国市民からの抗議の電話が殺到した、とのことですので、ネットの世界でも「分裂を叫ぶ暴徒はけしからん」「事実を歪曲して伝えている西側メディアは間違っている」という声がかなりの割合で中国のネット・ユーザーの中に広がっていることはウソではないのだと思います。

 ただ、上記の「新京報」の記事に見られるように、こういった「焼き討ち暴徒は凶暴だ」「西側メディアは歪曲した報道をしている」という大合唱をしているのは、人民日報、中央電視台、新華社といった政府直結のメディアだけです。政府当局とは一定の距離を置いている記事の多い「新京報」は、自社の記者が書いた記事もたくさん載せますが、このチベット騒乱関係の記事については、新華社電を載せるだけで、目立った独自の取材記事はありません。いつもは鋭く政府を批判する社説を掲載する「経済観察報」は、3月24日号(3月22日発売)では社説を掲載しませんでした(いつも社説が載っている1面の下半分は、この号では広告になっていました)。

 中国では、メディアは「党の喉と舌」と呼ばれ、新聞やテレビは中国共産党の宣伝機関である、と位置付けられています。最近は、「メディアによる権力機構の監視の役割も重要である」と言われるようになってきていますが、メディアが批判の対象としているのは地方政府だけで、メディアが党中央や中央政府自体を批判することはありません。

 中国メディアの位置付けは、第11期全国人民代表大会第1回全体会議の最終日の3月18日に行われた温家宝総理に対する記者会見で明確に現れています。この総理記者会見での質問した記者の所属する会社と質問内容は以下のとおりです。

○フェニックス衛星テレビ局(香港):雪害に対する温家宝総理のコメント
○人民日報:物価問題
○CNN(米国):チベット争乱問題、大陸と台湾との関係
○フィナンシャル・タイムス(英国):インフレ懸念、チベット争乱問題
○中国中央電視台:新しい総理の任期中(今後5年間)の経済社会発展の目標
○DPA(ドイツプレス):チベット争乱とオリンピックとの関係
○台湾工商時報:大陸と台湾との経済関係の今後
○ロイター通信社:人権活動家が「国家転覆罪」で起訴されている件、死刑を今後どうするのか、「国民の権利・政治的権利に関する国際条約」の批准をどうするのか
○中国中央電視台:政治機構改革(国務院の省庁再編)について
○AFP通信社(フランス):チベット争乱問題(ダライ・ラマと直接対話しないのか)
○ブルーグバーグ・ニュース(米国):株安、ドル安について
○新華社通信:新しい総理の任期中(今後5年間)の政治体制改革をどう進めるのか
○インディアン・タイムス(インド):チベット争乱が今後の中国とインドとの関係に及ぼす影響

(参考3)「新華社」ホームページ「全人代現場中継」
2008年3月18日:温家宝国務院総理内外記者会見
http://www.xinhuanet.com/2008lh/zb/0318b/

 上を見ればわかるように、中国系以外のメディアはほとんどの社がチベット問題や人権問題について質問しているのに対し、人民日報、中央電視台、新華社通信は、本来は温家宝総理が記者会見で言いたかったであろう事項を引き出すような質問をしています。上記の質問の状況は、中国ではメディアの役割は「政府を批判するもの」ではなく「政府の考えを人民に伝えるもの」であることを明確に表しています。

 チベット問題に関する今回の人民日報、中央電視台、新華社の「大合唱」を「政府によるメディア戦略だ」と捉えるのか、「これらメディアは政府の主張を正しく伝えている」と評価するのか、は、中国人民が決めることですが、少なくとも言えることは、こういった現在の中国のメディアの状況は、多くの世界がこれからの社会として目指す方向とは合致しない、ということです。中国が世界の中で、本当の意味で力を発揮していくためには、こういった部分を「世界標準」に合わせようとする努力をする必要があると思います。 

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2008年3月26日 (水)

聖火の点火式のニュースのカットは悲しい

 3月24日にギリシャで行われた北京オリンピックの聖火の点火式やその後の聖火リレーで、チベット情勢に対する中国政府の対応を批判する人たちによる抗議行動が行われました。25日付けの中国のほとんどの新聞などでは、このような抗議行動については、一切報道されず、点火式や聖火リレーが成功裏に行われた、ということが報道されています。

(参考)「新京報」2008年3月25日付け記事
「聖火リレー、スタート」
http://www.thebeijingnews.com/news/olympic/2008/03-25/011@073754.htm

 外国の衛星テレビ放送では、抗議行動について報道しているものがほとんどでしたが、抗議行動を報道していた24日夜のBBC、CNN、NHKワールド・プレミアムのニュースでは、その部分については、検閲ブラックアウトになり、北京では見ることができませんでした。インターネット上では、BBCではニュース映像を見ることができましたが、CNNはそのニュースの記事の映像をクリックしても映像が出てきませんでした。NHKは、ニュース映像をインターネット上には掲載しなかったようです。

 いずれにせよ、晴れがましい聖火の点火式や聖火リレーといったイベントがブラックアウトで見られない、というのは悲しいです。中国国内では、中央電視台のテレビが点火式のイベントは生中継で放送していたようですが、日本の報道機関のネット上の記事によると、この「生中継」はリアルタイムより十数秒遅れで放送され、抗議行動の部分の映像は、別の映像に差し替えられていたのだそうです。

 これから聖火は世界各国を回ります。また、オリンピック競技自体、世界各国から観客が北京に集まります。これからどうなるのか、ちょっと心配です。

 私が天安門前広場を歩いたりする時には、警備担当の人から持ち物検査を受けます。危険物を持ち込んでいないかどうか、というよりは、スローガンが書かれた横断幕やビラを持っていないかを点検されるのです。オリンピックの試合を観戦する観客に対しても、同じような点検が行われることになるのでしょうか。

 いずれにしても、検閲によってテレビが真っ黒になるのは悲しいです。その抗議が正しくない、というのならば、ニュースを伝えた上で、「正しくないのだ」と主張して欲しいと思います。

 3月25日(火)も21:00から放送されたNHK総合テレビと同時放送された「ニュース・ウォッチ」をNHKワールド・プレミアムで見ていましたが、一部がスッポリとブラックアウトしていました。何がブラックアウトされたのかよくはわからないのですが、四川省でまだ暴動が続いている、というニュースがカットされたようです。オリンピックの開催期間中まで、この検閲ブラックアウトは続くのでしょうか。こういったブラックアウトは、中国に対するイメージが悪くなるだけで、ほとんど意味がないので、私は早く止めた方がよいと思います。

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2008年3月22日 (土)

情報統制批判に中国当局が強烈な反撃を開始

 「チベット騒乱に関連して、中国は情報統制をしている」との西側メディアの批判に対して、中国当局は大反撃を開始したようです。今日(3月22日)付けの英字紙「チャイナ・ディリー」の1面トップでは、「西側の暴動報道ではメディアが偏向していることを示している」という実例入りの記事を大きく掲げています。

(参考1)"China Daily" 2008年3月22日付け1面トップ記事
"Riot reports show media bias in West"
http://www.chinadaily.com.cn/cndy/2008-03/22/content_6557325.htm

 この記事では、下記のように、ホームページ上で見られる西側の記事を具体的に挙げて、意図的な情報の選択や誤った印象を与える解説がなされていると指摘しています。

○CNNのホームページに掲げられている "Reports: 100 dead in Tibet violence" と題する記事に掲載されている写真では、群衆が街の中を走ってくる取り締まり当局のものと思われるトラックに対して投石している場面の写真のうち、群衆が投石している部分をカットし、街の中を取り締まり当局のトラックが走っている場面だけを切り取って掲載している。

○ワシントン・ポストのホームページに掲載されている3月18日付けA06面の記事によると、ネパールのカトマンズでデモ参加者をネパール警察官が警棒で殴打している写真を掲載し、その写真のすぐ下に「中国政府は、中国によるチベットの支配に抗議するチベット族の抗議者を打ち倒している。警察は、チベット自治区の首都ラサにおいて、暴力行為に参加した数百人の容疑者を検挙している。」との解説が付いている(写真の内容と解説が一致していない)。

○ベルリン・モーニングポスト(ドイツ語)のホームページにおいて、警察に保護される漢族の男性の写真を掲載し、その解説に「警察に拘束される暴徒」と書いてある。

 同様の「西側の報道は偏向している」との報道は、中国語メディアでも、例えば、人民日報のホームページに掲載されている「環球時報」の記事で見ることができます。

(参考2)「人民日報」のホームページに転載されている「環球時報」2008年3月22日付け記事
「西側メディアは事実に反するチベット報道により世界の民衆をだましている」
http://world.people.com.cn/GB/14549/7032010.html

 こういった西側メディアに対する反撃は、3月20日に行われた外交部報道官の定例記者会見でも示されています。

(参考3)日本語版「人民日報」2008年3月21日付け記事
「ダライはあらゆる祖国分裂活動を完全に停止せよ」
http://www.people.ne.jp/a/331777a923f4422dbd50059019cdd064

 この中で外交部の秦剛報道官は、「(外国メディアの報道について)比較的客観的な報道もあれば、事実と著しく異なる報道もある。私たちはメディアに、責任ある態度で、客観的事実を尊重し、報道のルールに従い、客観的で公正的な報道を行うことを望む。」と述べています。この記者会見においては、外国メディアの記者が「ラサが既に安定を取り戻している、というのなら、なぜ我々外国人記者の質問に対して、秦剛報道官は「社会安定のために特別な措置を講じているので外国メディアの方々には御理解をいただきたい」と応えています。

(参考4)中国外交部ホームページ
「2008年3月20日の外交部スポークスマン定例記者会見記録」
http://www.fmprc.gov.cn/chn/xwfw/fyrth/1032/t416737.htm

※この記者会見の応答を読むと、チベット問題に対する矢継ぎ早の質問に対して「どこの国でも暴力行為が発生したら、警察を出動させるでしょ?」と報道陣に逆質問するなど、いつもは冷静な秦剛報道官のいらついた気持ちを感じることができます。

 一方、中国国内では、チベット自治区やその周辺地区における騒乱では、凶暴な暴徒が商店などを襲い、一般市民を殺害している、という趣旨の報道が盛んに行われています。3月20日に中国中央電視台が放送した「ドキュメンタリー『ラサ3・14打ち壊し・焼き討ち暴力事件の記録』」という15分間のドキュメンタリー番組はインターネットでも見ることができます。

(参考5)「中国中央電視台」のホームページ
「ドキュメンタリー『ラサ3・14暴力事件の記録』」
http://space.tv.cctv.com/podcast/lasa314jishi

※このページの「視頻播放」という部分をクリックすると(通信状態が良ければ)番組を動画で見ることができます。

 また、今日(3月22日)付けの北京の大衆紙「新京報」の1面トップには、3月14日、ラサで中国国旗を焼く暴徒の写真が大きく掲載されています。

(参考6)「新京報」2008年3月22日付け記事
「チベットの不法分子、国旗を焼く」
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2008/03-22/021@073410.htm

 ラサでの騒乱では、実際、漢民族が経営する商店などが焼き討ちを受けたものと思われます。これらの中国国内でのテレビ報道では、「このような暴力行為は良くない」と発言するチベット族の人に対するインタビューも放映されていますが、全国の中国の人々(特に大多数を占める漢民族の人々)に対して、騒動を起こしたチベット族の人々に対する憎悪の念をかき立てるのに十分だと思います。こういった中国国内での報道を見れば、中国の人々の中には、西側の報道の方が偏向している、中国をおとしめようとしている、と思う人が多いとしても、不思議ではないと思います。

 昨日(3月21日)夜の時点では、外国の衛星テレビに対する検閲ブラックアウトはだいぶ減りました。私が見た限りではCNNの日本時間22日01:00~のニュースでは一部検閲ブラックアウトがありましたが、21日夜のBBCニュースやNHKのニュースではブラックアウトはありませんでした。CNNのニュースでも米国のペロシ下院議長がダライ・ラマ14世のところを訪問したニュースについてはブラックアウトになっていませんでした。

 CNNについては、テレビ放送ではブラックアウトになった映像もインターネット経由では見ることができるケースが多いのです。3月20日を過ぎた時点で、外国テレビの検閲やアクセス制限は、一部が緩和されてきている可能性があります。3月22日現在、今までは各記事を閲覧することができなかったBBCのニュースのページ

(参考7)BBCのニュース・ページのトップ
http://news.bbc.co.uk/

に掲げられた一般の記事は北京からもアクセス可能になっています。

 しかし一部の記事、例えば

(参考8)BBCのニュース・ページの記事
"Tibet's unsettled borders"
http://news.bbc.co.uk/1/hi/world/asia-pacific/7304825.stm

には3月22日の時点では北京からはアクセスできません。また、BBCニュース・ページにある中国語版のページ

(参考9)BBCのニュース・中国語版のページ
http://www.bbc.co.uk/chinese

には3月22日の時点では従来通り北京からは全くアクセスできません。

(注)こういった一部のサイトへのアクセス制限や、一部のキーワードを使った検索の結果出てきたページを見ることができない、ということについては、CNNがリポートして放送しています。そのCNNのレポート自体は、インターネットで北京でも見ることができます。

 数多くある外国メディアのサイトを全てチェックしてアクセス制限を掛けることは事実上不可能です。今、中国のネット人口は2.1億人と言われています。中国人民がインターネットで外国メディアのページから情報を得ることを中国当局が阻止することはもはやできない時代になっているのです。そのため、中国当局としては、衛星テレビの検閲ブラックアウトやインターネットのアクセス制限を強化するよりは、中国国内向けに対して「暴徒はひどいことをしている」「外国のメディアは偏向しているので信用できない」というメッセージを大量に発出することによって、中国政府の措置に対する中国人民の支持を取り付けよう、という作戦に転換してきているものと思われます。

 これを補助する情報として、中国中央電視台のニュースでは「国際的には多くの国々から中国政府に対する支持の表明がなされている」として、支持を表明した国々の名前を多数並べて伝えていました。中国中央電視台が3月21日夜に放送したニュース番組「新聞聯播」によれば、中国の措置に支持を表明した国々とは以下の国々です。

「ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタン、グルジア、パキスタン、朝鮮(北朝鮮)、モンゴル、ネパール、ベトナム、フィジー、シリア、セルビア、ザンビア、ブルネイ、バングラディシュ、セラルレオーネ、レソト、モーリタニア、コートジボワール、コンゴ及びいくつかのアラブ国家」

(参考10)中国中央電視台のホームページ
「新聞聯播」2008年3月21日放送分
「チベット自治区ラサでの打ち壊し・焼き討ち暴力犯罪事件に対する我が国の法に則った措置は国際社会から広範な支持を集めている」
http://news.cctv.com/xwlb/20080321/104636.shtml

 欧米各国や日本、韓国といった主要国が全く入っていない国々の名前を並べて「国際社会の広範な支持を集めている」と主張するニュースに対して、中国人民がどのように判断するのかはわかりません。ただ、私が見る限り、中国当局によるこういった世論誘導は、中国国内においては、少なくとも当面は、騒乱を治め、騒乱の拡大を防ぐためには一定の効果を上げていると思います。

 「少なくとも当面は」と書いたのは、今回の中国国内向け報道は、多くの中国の人々(特に漢民族の人々)に対して、チベット人に対する憎悪や恐怖感を植え付けたと思われ、長期的な観点から見れば、中国にとって極めて重要な各民族の融和という課題に対しては、むじろマイナスに作用しているのではないか、と思われるからです。

 これから、中国政府は、国内の騒ぎや不安定さの拡大を何としても抑え、国際的にはオリンピックに対するボイコットの声が広がらないようにし、とにもかくにも北京オリンピックを無事に乗り切ることにがむしゃらに邁進していくことになるのだろうと思います。

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2008年3月21日 (金)

情報統制とデマ

 3月14日に起きたチベット自治区ラサでの騒乱をきっかけにして、チベット自治区以外の四川省、甘粛省などチベット族の多い地区で騒ぎが起きていることについて、3月20日、新華社通信が中国側メディアとして初めて伝えている、とNHKのテレビで言っていました。でも、新華社のホームページを見てみましたが、私は、その手のニュースはまだ見付けることができていません。また「新華社は外国のメディアには情報を提供しているけれども、中国人民には情報を提供していない」という状況のようです。

 新華社が外国メディアに提供している情報は、1日程度経ってから国内でも伝えられることが多いのですが、いずれにせよ、国内向けの情報は完全にコントロールされています。国内向けの情報がコントロールされていること自体は、中国の人々自身、よく知っているので、多くの中国の人々は中国のテレビを見たり、新華社のホームページを見たりしても、「実はもっとウラがあるんじゃないか。」「実際はこういうことが起きるのではないか。」と相当に疑心暗鬼になっているようです。

 それを象徴するような出来事が20日朝の北京の大衆紙「京華時報」に載っていました。四川省の成都で18日、バスのドアが壊される、という事件がありました。これに対してインターネット上で「バスが爆破された」とか「何人かの死傷者が出ている」といったデマが流れたため、成都市の公安局は18日の夜10時半に緊急に記者会見し、「これは普通の刑事事件である」とデマを打ち消すための説明を行ったとのことです。

(参考)「京華時報」2008年3月20日付け記事
「成都公安局が、爆発事件が起きて銃撃戦が行われている、とのデマを打ち消し」
http://china.jinghua.cn/c/200803/19/n868738.shtml

 この記事によると、事情は以下のとおりです。

○3月18日午前10時半頃、成都市内で、通常に運行していたバスを成都市の外から来た一人の男が停めようとした。

○バスの運転手は、停留所ではない場所だったので、バスを止めなかった。このため、この男は持っていた刃物類でバスを叩き、ドアを壊した。その後、この男は怒って近くに停めてあった2台の車を持っていた刃物類で打ち壊した。

○その過程で、近くでタクシーを待っていた群衆の一人の腰の部分を傷つけた。被害者は、貴州省から成都に出張で来ていた人で、軽傷だった。

○公安機関のこれまでの調べによると、事件を起こしたのは四川省アバ・チベット族理県の男だった。詳細は現在調査中。

 記事に載っている事実はこれだけなので、勝手に想像してはいけないと思いますが、昨今の状況を踏まえれば、これは単に酒に酔った男がうっぷん晴らしのためにバスのドアを壊した、といった類の「普通の刑事事件」とは違うのだろう、ということは容易に想像できます。当局がこういった事件に対して、情報を発表しないので、事件を目撃した人がインターネットなどで他人に情報を伝えていくうちに、「尾ひれ」がどんどんついて「爆破事件が起きた」とか「死傷者が出ている」とかいう「デマ」に成長していくのでしょう。上記の記事の見出しを見ると「銃撃戦が起きた」といったデマまで飛び交っていたようです。成都は、四川省の省都で、外国企業も多く進出しており、外国人もたくさんいますから、本当に成都で銃撃戦が起きているのだとしたら、どこかの外国メディアが必ず伝えるはずです。

 多くの中国の人は「テレビや当局の発表は事実を全て伝えていない」と知っていますから、少ない情報の中で自分でいろいろと友だち同士で情報交換をしあうのです。今は、携帯メールやインターネットといった情報ツールをみんな持っているので、それを通じてデマが拡大・拡散してしまうのです。

 この手の事件に対して、当局の発表やテレビでの報道は、20年前に比べれば、情報量は多くなったし、スピードも速くなったとは思いますが、今でも、通常、当局に都合の悪い部分は除いて発表されますし、発表されるのはだいたい事態が沈静化した後(従って、発表されるのは事態が起きてから何日か経ってから、ということが多い)になります。特に今回のチベットでの騒乱のような極めて微妙な問題に関するものについては、マスコミに載るのは当局の「正式発表」だけであり、記者が自分で取材して得た情報、というのはまず掲載されません。中国の「マスコミ」と呼ばれるメディアは、多くの人民の「知りたい」という要求には応えることができていないのです。それが、携帯メールやインターネットでデマ情報が広がる原因になっています。

 外国の衛星テレビの各チャンネルは、時々検閲によるブラックアウトを受けますが、衛星テレビを配信しているどこかの段階にいる検閲担当者のその場での判断で遮断スイッチを操作しているものと思われますので、同じ映像でもブラックアウトになったり、そのまま放送されたりします。また、テレビでは検閲ブラックアウトを受けていたのに、インターネット経由では、同じ映像が見られる場合もあり、情報検閲の判断基準はあまり統一的ではありません。これだけ情報流通ルートが多様化している現代においては、数多くの人手が掛かる検閲を完全に統一的に実施することは実際は不可能だと思います。そうした中で、こういった検閲をやる意味がどこまであるのか、大いに疑問です。

 ギョーザ事件については、多くの中国の人は「あの事件は日本で毒物が混入された、ということで決着した事件だ」と思っていますが、それは巧みな中国側のメディア統制のおかげです。その意味で、メディア統制、情報統制は、統治する側からすると、一定の成果が上がることは事実ですが、国内では不要なデマを発生させたり、外国に対しては中国のイメージを著しく損なったり、という点で、総合的に見れば中国にとってよいことではないと思います。

 多くの中国の人民が知りたいことを、知りたいタイミングできちんと流すことが、変なデマが流れないようにするための最良の方法だと思います。

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2008年3月15日 (土)

NHKでも検閲によるブラックアウト

 3月14日(金)午後に中国のチベット自治区の首都ラサで発生した暴動については、日本でも報道されているので、このブログをお読みになっている方はよく御存じだと思います。というより、北京にいる私より日本にいてこのブログをお読みになっている方々の方がよく御存じだと思います。というのは、ここ北京にいては、この件に関する情報の入手に関して制限がいろいろあるからです。

 日本時間3月14日(金)夜のBBCワールドやCNNのニュースが伝えたトップニュースは、このラサでの騒乱事件についてですが、私が見ている北京のアパートメントのテレビでは、このチベットでの事件になると一部が信号が途切れて画面が真っ黒になり、音声も何も聞こえなくなります。このブラックアウト状態が終わると別のニュースをやっていたりするので、当局による検閲によってこのブラックアウトが起こっていることは明らかです。

 私がいるアパートメントでは、テレビのNHK国際放送である「NHKワールド・プレミアム」とNHK-BS1、BS2、BSハイビジョンを見ることができます。「NHKワールド・プレミアム」とBS2は、正午や夜7時のニュースは、総合テレビで放送しているものと全く同じものを同時放送しています。その時に「ワールド・プレミアム」とBS2を見比べるとわかるのですが、「ワールド・プレミアム」の方が30秒ほど遅れて放送されます。中国当局は、この30秒間に中国当局にとって問題であると思われる場面があった場合はカットを入れるのだと思います。

 中国では、外国の衛星テレビが見られる衛星放送受信設備を設置する際には許可が要ります。中国に何千とあるホテルや外国人が入っているアパートメントでは、こういった外国の衛星放送が視られる設備が入っているのですが、おそらくはこの認められた衛星放送受信設備には、当局がカットしたい場面はカットできるような装置が組み込まれているものと推測されます。

 今日(3月15日(金))になっても、このチベットでの事件に関するニュースの検閲ブラックアウトは続いています。私のアパートメントでは、BBCワールド、CNN、NHKワールド・プレミアムのほか、フランスのテレビも入っているのですが、今日(15日)は、BBCやCNNのほか、NHKワールド・プレミアムやフランスのテレビについても検閲ブラックアウトが入りました。ということは、検閲担当部局には、英語、日本語、フランス語がわかる担当者がそれぞれ付いていて、衛星から受信した信号を見て、各家庭に配信されるまでの間の30秒間にカットするかどうかの判断をしているものと思われます。相当なコストだと思うのですが、中国当局は、それだけのコストを払う必要があると思って、こういった検閲をやっているのでしょう。

 ニュースは生放送ですから、英語、日本語、フランス語がわかる担当者がそれぞれの担当者の判断でリアルタイムでその場でカットするかどうか判断しているものと思われます。いろいろなチャンネルを見ていると、カットしている場面が微妙に異なります。チベット関連のニュースが最初から完全に全部カットされているケースもあるし、最初は普通に見られていたのに、途中からカットになる場合もあります。検閲の担当者は、どこでカットするのか、判断するのに相当に苦労しているだろうということが窺えます。

 中国の沿岸部では、NHKが国際放送として放送している「NHKワールド・プレミアム」のほかに、日本国内向けに配信しているBS1、BS2、BSハイビジョンが直接受信できます。日本国内向け放送に対しては中国当局は検閲を入れることができませんので、北京でもBS2で放送するニュースでは検閲カットなしで見ることができます。

 そもそもこういった外国の衛星テレビ放送が見られるホテルやアパートメントに入れるのは、それなりの「お金持ち」であって、多くの一般人民は見ることはできません。従って、こういった検閲カットをする意味がどれだけあるのか、私には理解できません。逆に中国当局がニュースに対してこうした検閲をやっていることが外国人に明確にわかってしまい、それが世界に伝わる方が、私は中国にとってはマイナスだと思います。

 このチベットにおける騒乱については、外国メディア向けには14日(金)夕方頃から国営新華社通信が配信していましたが、14日の時点では中国国内では報道されませんでした。北京時間15日(土)午前1時22分に新華社の中国語ホームページに下記の記事が配信されて以降、中国国内でも報道されるようになりました。

(参考1)「新華社」のホームページ2008年3月15日01:22(北京時間)
「チベット自治区の責任者、破壊、略奪、焼き討ち行為に対する新華社記者の質問に答える」
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-03/15/content_7792268.htm

 この記事では、新華社の記者の質問に答えて、チベット自治区の責任者がポイントとして以下のようなことを述べたことを伝えています。

○最近、ラサでごく少数の人々が破壊、略奪、放火など社会秩序を乱し大衆の生命と財産に危害を加える行為をしている。

○これはダライ・ラマの勢力が綿密に計画したものだという十分な証拠を我々は持ってる。

○当局は法に基づき適切な対処をしている。

○社会の安定と和諧を破壊しようとする試みは、必ず失敗するだろう。

 新聞では、例えば3月15日付けの「人民日報」「新京報」は、上記の新華社の報道をそのまま記事にしています。

 テレビでは、中国中央電視台3月15日第1チャンネル朝7時からの「新聞天下」(朝のニュース)の時間の国内ニュースの中で、また第4チャンネル(アジア向け衛星チャンネル)のニュースの中で、アナウンサーが上記の新華社の記事と全く同じ文章を読み上げていました。

 上記の中国国内向けテレビ・ニュースではラサで撮影された映像も放映されましたが、群衆が石を投げたり、商店を壊したり、警察の車をひっくり返したりしている様子や、道路の真ん中で車が燃えている様子、市内の数カ所から黒い煙が上がっている様子が放送されました。ただし、映っているのは投石、破壊行為等を行っている群衆だけで、取り締まり当局側は映像には全く登場しません。中国国内で放映されている画面は新華社の以下のページで見ることができます。

(参考2)「新華社」2008年3月15日アップの動画ページ
http://news.xinhuanet.com/video/2008-03/15/content_7793348.htm

※中国国内のサイトにアップされている動画は、日本で見る場合には、通信回線の状況により、うまく見られない場合があります。

 現在、北京では、全国人民代表大会が開催されており、今日(3月15日)午前の会議で、次期(2008年からの5年間)の国家主席として胡錦濤氏が再任されました。北京の街の状況は、いつもと全く変わりません。外国テレビ放送の検閲ブラックアウトは、検閲担当者が過剰に反応した結果かもしれませんが、諸外国に対して、かなりマイナスのメッセージを発したと思います。

 今まで、昨年4月に北京に来て以来、NHKワールド・プレミアムの放送で検閲によるブラックアウトを見たことはありませんでした(CNNでは2回、BBCでは1回見たことがありましたが)。今日(3月15日)のNHKワールド・プレミアムの検閲ブラックアウトは私にとって初めての経験でした。外国の衛星放送を見る機会のある「お金持ち層」の中国人も非常に多くなっている現在、中国の人々は、こういったテレビ放送の検閲カットに対して、どう思っているのでしょうか。

 このお正月、2008年には、「北京オリンピックがあるほかにもいろいろありそうだ」と書いた私ですが、実際、これからもいろいろなことが起こりそうな気がしています。 

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2008年2月27日 (水)

今でもまだやっている大衆の前での野外裁判

 2月24日、山西省で、昨年末に起きた炭鉱事故の責任者に対する裁判がありました。雪が降りしきる中、多くの大衆を集めて、その面前で行われた野外裁判で、16人の被告に対して有罪判決が出された、とのことです。

(参考)「新京報」2008年2月25日付け記事
「洪洞炭坑災害で16人が有罪」
http://www.thebeijingnews.com/news/guonei/2008/02-25/018@073906.htm

 上記の記事の写真を見ていただければわかるように、被告は後ろ手に縛られて壇上に並ばされて、傍聴者の大衆の面前にさらされています。

 この裁判は、2007年12月5日に山西省臨●市(●は「さんずい」に「分」)洪洞県の炭坑で起きた105人が死亡、8人が負傷した事故の責任を問う裁判です。炭坑の安全を無視したずさんな管理が問題とされた事件でした。

 社会的に重大な事件の裁判の判決なので、人々の注目を集めていることは間違いないのですが、文化大革命の時期の裁判じゃあるまいし、多くの群衆の前に被告を並べて、有罪を宣告する、というやり方は、「法治国家」を目指している現在の中国においてふさわしいものであったのか、私は非常に疑問に思いました。日本を含めて多くの国では、裁判は公開で、一般大衆が傍聴できますけれども、こうやって被告を後ろ手に縛って屋外で大衆の前に並べるような裁判をやっている「先進国」はないと思います。今回のニュースは、外国の人々に「オリンピックが開かれるというのに中国ではまだこんな裁判のやり方をやっているのか。」というマイナスのイメージを与えたと思います。

 この裁判は、「12・5炭坑事故公判大会」という名前で開かれたのだそうですが、この「大会」で行われた講話で、市の党委員会副書記と市長代理がこういった裁判のやり方を採用したことについて「全市の担当者と人民大衆に対する教育のためだ」と述べた、とのことです。

 そもそも裁判で、市の行政担当者や党の幹部が「講話」を述べる、ということ自体、「裁判の判決とは、行政や党の業務とは独立して客観的立場に立って判断されるべきものだ」という原則からはずれるものです。また、被告を後ろ手に縛って大衆の前に並べることは「被告は、判決が出されるまでは有罪か無罪か確定していない」という原則に反するものです。そもそも、裁判を「市の担当者や一般大衆を教育するためのもの」だと考えていること自体、中国の裁判が「法律に基づき客観的かつ公正に判断するためのもの」だと考えられているのではないことを示すものです。「通常の国々での常識」が今の中国ではまだ通用していないことを示すエピソードだと思います。

 私は、炭鉱事故の責任者を弁護するつもりはさらさらありませんが、法律とは何か、裁判とは何か、について、改革開放から既に30年も経っているのですから、地方の責任者も「世界の常識」というものをもう少し頭に入れて欲しいと思います。これも「中国特色の裁判のやり方だ」と主張するのだろうと思いますが、中国が国際化していくためには、自分のやり方をそのまま進めるのではなく、もう少し「世界標準」を考えるべきだと思います。

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2008年2月23日 (土)

農薬汚染食品事件:日系企業が原因との報道

 10人の中毒患者を出した殺虫剤の成分が混入した中国製冷凍ギョーザの事件に関連して、日本では、今、中国で加工されたいろいろな食品に対する検査が行われているため、最初に中毒患者を出した冷凍ギョーザとは別の中国製の加工食品から、微量の農薬が検出されるケースが相次いで報道されています。これら10人の中毒患者を出したケースとは別のケースのいくつかについて、今日(2月23日)付けの人民日報は、中国国家品質検査検疫総局の発表として以下のような報道しています。

○中国国家品質検査検疫総局は、日本側関係機関から、中国から日本に輸出されたニラ肉まんとニラエビ揚げ肉まんから、それぞれ0.45ppm~0.66ppmと0.04ppm~0.08ppmのメタミドホスが検出され、アスパラガスの肉巻き揚げから1.2ppmのホレートが検出されたとの通報を受けた。中国側はこの件を非常に重視し、直ちに調査を行った。

○国家品質検査検疫総局が現在までに得た調査結果によると、上記のニラ肉まんとニラエビ揚げ肉まんを作った会社及びアスパラガスの肉巻き揚げを作った会社は、両方とも中国国内に設立された日本資本100%の日系企業(日系独資企業)で、生産工程は日本の基準で管理され、日本側の会社の職員が工場に駐在して監督を行っていた。

○この事件は、上記の日系独資企業による原材料の野菜を購入する際のチェックが不十分だったことが原因であった。

○従来、日本側は、肉まんやギョーザなどの製品に関しては、残留農薬量の量に対する制限や検査実施を要求していなかったが、今回、初めて検査を行ったものである。国家品質検査検疫総局は、検討を行い、日本側関係機関と技術基準について情報交換を行い、検査作業を行っていく方針である。

○冷凍ギョウザ中毒事件に関しては、中国公安部が20日、担当官を日本に派遣して、日本の警察当局と、情報交換等を行った。中国政府としては、冷凍ギョウザ中毒事件に関しては、徹底的に捜査する決意である。

(参考)「人民日報」2008年2月23日付け記事
「日本に輸出した肉まんについては、日系独資本企業の検査が不十分だったことが原因」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-02/23/content_44973086.htm

 この記事に書かれていることは間違いではないし、中国側もこの記事で言及しているケースについては、中国における残留農薬が原因であることを認めているわけですが、見出しや書きぶりからすると、「日系企業とそれを監督していた日本の企業が悪い」という印象を強く受ける記事です。こういうふうな書きぶりをされると、ウラの意味として「中国側当局は全く責任はない」ことをこの記事は主張したかったのだ、と感じてしまいます。有毒な農薬に汚染されている野菜などが流通していることに対する中国当局としての反省が全く感じられない記事だと私は思います。

 また、最後の項目は、今回の騒ぎの発端となった10人の中毒患者を出したケースについて述べたものであるのだけれど、一読した読者からすると、異なるケースについて述べたのかどうかわかりにくい書きぶりになっています。こうやって並べて記述されると、意地悪く解釈すれば、最後の部分は、「中国公安部が日本へ行って日本の警察と情報交換を行った」のは日本の企業が悪いから中国の公安部がわざわざ日本へ行ったのだ、との印象を読者に与える意図があるのではないか、とも思えてしまいます。

 もともと中国共産党の機関誌であり、「党の舌と喉」の本家本元である「人民日報」に客観的で公平な報道を期待すること自体無理なのはわかっているのですが、どうも「みんな日本が悪い、中国は悪くない」という方向に中国人民の世論を誘導しようとしているように見えて、私は釈然としません。

 それは置いておくとしても、上記の記事は、やはり残留農薬に汚染された野菜が中国国内に出回っていることを中国国家品質検査検疫局が認めたことを意味しますので、毎日、中国産の野菜しか食べることができない北京に住む私にとっては、気の重い記事であることは確かです。この間、春節で日本に帰ったときに人間ドックを受けてきましたが、変な結果が出ていないことを祈るばかりです。

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2008年2月16日 (土)

ギョーザ事件:選択的報道は世論操作か?

 私は、このブログでは、これまで「毒物入り冷凍ギョーザ事件」については、「日本のマスコミが騒ぎすぎでは?」「ギョーザ事件を報道するのも重要だが、中国中南部の寒波被害について深刻さを持って報道しない日本のマスコミはおかしい」と繰り返し述べてきました。しかし、昨日と今日のギョーザ事件に関する中国の報道振りを見て「中国での報道のされ方もおかしい」と思ったので、ひとこと言わせていただきたいと思います。

 今回の「毒物入り冷凍ギョーザ事件」については、誰かが故意に農薬の成分である毒物を冷凍ギョーザに混入した可能性もあるので、この事件については、原因が特定できない段階で「だから中国製の食品は危ないのだ」といった議論に結びつけるのは正しくありません。従って、中国の政府関係者が、記者会見で「日本の報道機関は事実に基づき冷静に報道してほしい」と繰り返し述べている理由も理解ができるところです。

 一方、中国では春節(旧正月:2月7日)頃までは、この事件については、あまり報道されていませんでした。中南部での寒波被害が甚大なので、そういった自然災害による混乱の中、旧暦の大晦日(2月6日)の夜に親族が揃ってギョウザを食べる習慣がある中国において、あまり不安を抱かせるような報道をしたくない、という中国当局の考え方もわかるなぁ、と私はある程度の同情の念を持っていました。

 春節以降は、この冷凍ギョウザ事件に関しては、中国の新聞やテレビでも中国側の記者会見の様子などで示された事実関係を淡々とではありますが、かなり詳しく報ずるようになりました。これらの報道は、基本的には、中国国内で行われた記者会見で発表された情報をを報ずるものでしたので、袋の外側や内側でメタミドホスが検出された、とか、検出されたメタミドホスには不純物が多く含まれており研究用として日本にあるメタミドホスとは異なり中国で農薬として使われているものである可能性が高い、とか、メタミドホス以外にも農薬成分ジクロルボスが検出されたケースもあった、とか、いう日本で伝えられているもろもろの事実関係は、中国ではほとんど報道されていません。

 そうした中、徳島県で冷凍ギョウザの袋からジクロルボスが検出された件について調べた結果、この徳島県のケースでは、ギョーザが売られていた店の店内の別の場所でもジクロルボスが検出されたことから、店内で殺虫剤を噴霧したことにより付着したと判断される、と徳島県が発表しました。

(参考1)徳島県庁ホームページ2008年2月14日報道発表
「危機管理会議の開催結果について」
http://www1.pref.tokushima.jp/001/01/shoku/cs/H20021419.pdf

 これを受けて、新華社通信は「徳島県庁が『問題のギョウザ』は店内で殺虫剤を用いたことにより汚染されたものであることを認めた」という見出しの記事を流しました。

(参考2)「新華社」2008年2月15日18:26アップ
「日本の徳島県庁が『問題の餃子』は店内で殺虫剤を用いたことにより汚染されたものであることを認めた」
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-02/15/content_7610764.htm

 この新華社の報道は、2月15日22:00からの中国中央電視台第1チャンネルの「夜間新聞」(夜のニュース)、2月16日付けの「新京報」でも伝えられました。また、このニュースについては、2月16日付けの人民日報でも報じられました。

(参考3)「人民日報」2008年2月16日付け記事
「日本の公的機関は徳島県の『問題の餃子』は店内での殺虫剤使用により汚染されたことが原因であることを認めた」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-02/16/content_43856285.htm

 いずれも記事も文章をよく読むと「徳島県で問題となったギョーザについては、店内での殺虫剤使用が原因であることを徳島県当局が発表した」と書いてあるのであり、千葉県や兵庫県で中毒者を出したギョーザについては、この記事では何も言っていないので、記事の内容自体は間違いではありません。人民日報の見出しでも「徳島県の『問題のギョウザ』は・・」と、きちんと「徳島県の」という修飾語が付いています。しかし『問題のギョーザ』と『 』付きで書かれていることと、新華社の記事では見出しに「徳島県の」とうい修飾語が付いていないので、見出しだけ見ると、問題となった一連のギョーザの全てが日本の店内での殺虫剤使用により汚染されたものであるかのような誤解を読者に与えかねない見出しの付け方になっています。

 中国国内では中国国内での記者会見で発表される情報以外の情報がほとんど報道されない中、この徳島県のケースだけが選択的に報道されると、「今回のギョーザ事件は、日本国内で殺虫剤を使用したことが原因だ。それなのに日本のマスコミは中国製品が悪いといって騒いでいる。これはおかしい。」という印象を多くの中国人民に与えることになると思います。そもそも中国のマスコミが当局の指導の下で報道していることと、今回の徳島のケースを中央電視台と人民日報という「本家本元の公式メディア」が率先してこれを伝えていることを考えると、中国当局が中国は悪くない(悪いのは日本だ)という方向に世論を誘導しているのではないか、との意図を感じます。

 しかし、そういう世論誘導を中国当局がしようとしているのは、中国当局にとって何のプラスにもならない、と私は思います。中国当局が仮に中国国内の世論コントロールに成功したとしても、中国当局は国際世論をコントロールすることはできないからです。むしろそういった世論操作は、国際世論に対しては中国当局に対するよくない印象を与えます。オリンピックを控えている今年、これは中国当局に得となるはずはありません。

 私は、今回、日本で見つかった毒物入り冷凍ギョーザ事件に対しては、中国当局の内部でも対応方針が一枚岩になっていないのではないか、という気がしています。というのは、徳島県のケースを特出しにして報じることは、中国の一般市民の間でようやく好転しつつあった反日感情をまた悪化させてしまうことになりかねず、4月頃に予定されている胡錦濤主席の訪日にマイナスになってしまうからです。これは党中央の意図するところとは異なると思います。

 中国当局が、寒波被害という国家レベルの自然災害の中で、日本のマスコミによるギョーザ事件に関する「メディア・スクラム」に大いに辟易しているのは理解できますが、今回の徳島県のケースを特出しで選択的に報道したことは、中国当局にとって「失策」だったと私は思います。その背景には、そもそも新華社、中央電視台、人民日報といった「本家本元の公式メディア」を使えば世論操作が可能である、という中国当局の意識があると思います。もし中国当局が意図するのと違う方向に反日感情が盛り上がった場合は、また別の方法で世論操作すればよい、と考えている可能性があるからです。しかし、こういった世論操作は、結局は、国内世論と国際世論とのギャップを産むことになります。国内世論と国際世論とのギャップは、オリンピックの場において表面化する可能性があります。それは中国当局にとって好ましくないはずで、その意味でも、中国当局は、世論は操作しようと思えばできるもの、といった思い上がった考えからそろそろ脱却する必要があると思います。

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2008年2月14日 (木)

寒波による農地の被害面積は1,180万haに

 2月14日に民政部が2月12日現在の被害状況として発表したところによると、中国中南部の寒波・大雪・着氷によって被害を被った農地の面積は1,180万ヘクタール、そのうち農作物が壊滅する被害を受けたのは169万ヘクタール、被害を受けた森林の面積は1,733万ヘクタールに上る、ということです。

(参考)「新華社」2008年2月14日10:15アップ
「2月12日現在で寒波被害は死者107人、被害総額1,111億元に」
http://news.xinhuanet.com/video/2008-02/14/content_7601537.htm

 ちなみに、農作物が壊滅したとされる169万ヘクタールとは、日本で言えば、岩手県より広い面積です。また、被害を受けた農地と森林の面積を合わせた2,913ヘクタールという広さは、日本で言えば、日本の全国土面積の約8割に相当する広さです。

 なお、昨日(13日)夜の鉄道部の発表によると、鉄道については、昨日時点で正常運行が確保されている、とのことです。

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2008年2月13日 (水)

中国の寒波の経済損失は1兆6,000億円超

 中国では、今日(2月13日)から春節(旧正月休み)開けで政府機関などが動き始めています。今日(2月13日)、民生部は、昨日(2月12日)時点での中国中南部の寒波被害について発表しています。それによると、この中国中南部を襲った寒波・大雪・着氷による被害は、死者107人、行方不明8人、直接的な経済損失は1,111億元(約1兆6,665億円)に上るとのことです。

(参考1)「新華社」2008年2月13日15:23アップ記事
「速報:寒波災害の被害は、死者107人、直接的な経済損失は1,111億元」
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-02/13/content_7597629.htm

 一方、今日(2月13日)、温家宝総理は国務院常務会議を開き、関係部署による災害復旧について検討を行いました。この会議では「大部分の電力送電線と変電所は復旧した」と報告されていますが、一方で「高圧電線網の復旧に重点を置く必要があり、3月末までには復旧を終わらせる必要がある」とも指摘しており、災害の復旧に数か月のオーダーで時間が掛かることを示しています。この会議では、電力網の復旧のほか、春から始まる農作業に必要な種の確保など農業に対する支援、石炭・石油の輸送、被災した農民への食糧等の供給、倒壊・破損した家屋の復旧、今後の土砂災害や衛生上の問題などの二次的災害の防止を求めています。

 また、この会議では、2月11日までに、国家電力網公司の系統で累計停電戸数の93%に当たる2,212万戸が復旧した、と報告されたと報道されています。ということは、累計で2,378万戸が停電していた、今でも166万戸が停電している、ということになります。

(参考2)「新華社」2008年2月13日17:28アップ記事
「温家宝総理が国務院の会議を開催して、各部署の災害後の復旧作業について検討」
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2008-02/13/content_7598147.htm

 このあたりの中国の災害報道の仕方は、20年前と全然変わっていません。問題が発生した時にはニュースとして流れず、復旧した時に初めて報道さるので、復旧時に伝えられる報道を見て「あ、それだけ多くの停電戸数があったんだ。初めて知った」というようなことになるのです。今日の国務院の会議での報告を伝える記事では「全国の高速道路と主要国道に不通の個所はない」とされており、鉄道については何も触れられていないので、おそらく鉄道はまだ不通になっている個所があるのではないかと思われます。たぶん、鉄道がどの程度不通だったのかは、復旧した時に発表されるのでしょう。不通ならば不通だ、とちゃんと情報を提供しないと、鉄道は問題ないと思って乗客が駅に集まって来てしまって困ると思うのですが、このあたりの災害報道のあり方についての中国政府のものの考え方は、いまだによくわかりません。

 いずれにしても、今年の寒気団は相当に強力なので、まだ被害を出すような寒波が襲ってくる可能性もあります。今後さらに被害が出たり、二次的な災害が発生しないように祈りたいと思います。

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2008年2月 8日 (金)

胡錦濤主席と温家宝総理が被災地で旧正月

 2月7日は春節(旧正月)で、中国では、親族が揃ってギョーザを食べたりして迎えるのが習慣になっています。そうした中、今年の春節は、胡錦濤国家主席は広西チュワン族自治区で、温家宝総理は貴州省で、それぞれ寒波・大雪・着氷被害の被災者や災害復旧に当たる人々と一緒に「越年」したとのことです。詳しくは調べていませんが、国家主席と国務院総理が両方とも地方で(しかも災害の被災地へ赴くという「仕事」で)春節を迎えた、というのは、中華人民共和国始まって以来ではないかと思います。

 それだけ党中央としては、今回の寒波災害を重大視していることの表れだと思います。近年、不正・腐敗や農民からの無理な土地の収用などで、人心が離れてしまっているところの多い地方政府ですが、民生の維持と災害復旧対策という地方政府のおおもとの本来業務をもし遂行できないところがあるのならば、それは地方政府はもはや「政府」と呼ぶに値しない組織、ということになります。それだけに、党中央としても、この寒波災害における被災者の保護と災害復旧に対して、地方政府が全力を尽くすよう、全力で支援する必要がある、と感じているのだと思います。

 また、この週末から寒波がやってくるという予報が出ているところもあります。中国中南部の寒波被害がこれ以上大きくならないことを祈りたいと思います。

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2008年2月 5日 (火)

雑誌「タイム」も中国の寒波を特集

 アメリカのニュース週刊誌「タイム」の最新号(2008年2月11日号)では、表紙に "China's Big Chill" というタイトルを掲げた中国中南部を襲った寒波を特集しています。記事の内容はあまり多くはありませんが、ポイントとして以下の点を掲げています。

○ある経済専門家は、今回の寒波は2008年の中国のGDPの成長(2007年は11.4%の伸び)の何割かの程度に影響を与える可能性があると述べている。

○ただでさえ急激な消費者物価の上昇を示している中国で、今回の寒波被害がインフレをもたらすおそれがあり、それを政府がどのようにコントロールできるかがポイントである。

○ある専門家は今の中国の政権は、過去の政権よりも危機に対する対応の仕方は優れているように思われる、と言っているが(アメリカのG.W.ブッシュ政権は2005年のハリケーン・カトリーナの襲来に対する対応で批判を受けたように)今、中国政府の危機管理能力が問われている。

 まさにこの中国を襲った寒波の重大性に関するポイントを衝いた記事だと思います。私も、この寒波は、中国経済及び中国の政権に取って、極めて重大な「危機」だと認識しています。この号の「タイム」は、雪に覆われた線路を見て回る鉄道労働者の写真を表紙に掲げて、世界中で売られているはずですから購入されてお読みになってはいかがでしょうか(中国で買うと1冊40元(約600円)とちょっと高いのですが、私はこの問題に着目して素早く特集記事にしたタイム誌に敬意を表して購入しました)。

 被災人口が約1億人を超えた(2月4日時点での中国新聞網(ネット)の報道)、国家電力網公司が管轄する電力ネットワークのうち9,527基の鉄塔が倒壊、1,633万戸が停電、うち2月3日までに1,006万戸が復旧(以上2月4日付け「新京報」記事)、1月31日時点での被害を被った耕地面積が727万ヘクタール(2月1日の中国政府民生部の発表)といった数字を見れば、今回の寒波・大雪・着氷被害の大きさがハンパじゃないことがわかると思います。

(参考)被害を被った面積の727万ヘクタールという数字は、中国の全耕地面積の約6%に当たり、日本で言えば、関東7都県に新潟、山梨、長野、静岡の各県を合わせたよりも広い面積に相当します)。

 私は、今、北京にいますがNHK-BS放送やNHKのテレビの国際放送が見られるので、毎日NHKのテレビを見ていますが、毒物入り冷凍ギョーザ事件発生以降、日本のNHKのニュースでは、今回の中国中南部の寒波について伝えるのを見たことがありません。現在の日本経済は中国と極めて密接に関係しており、中国の危機は日本経済の危機でもあるはずです。それなのにも係わらず日本のマスコミと世論がこの中国の寒波に対する危機感を全く持っていない、ということに対して、私は非常に危機感を持っています。「外国のメディアが取り上げているのだから重要なのだ」と主張するような「ガイアツ」的な考え方は私は本来は好きではありませんが、日本の皆様に警告を発する意味で、世界的なニュース雑誌「タイム」も、この中国の寒波を特集としてしたんだぞ、ということをこのブログで強調させていただきたいと思い、取り上げさせていただきました。

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2008年2月 3日 (日)

中国大雪被害:広州駅の群衆内で1人が圧死

 中国中南部の大雪は各地にいろいろな被害をもたらしています。広東省広州市の広州駅では、ただでさえ春節(旧正月)を故郷で過ごそうという帰省客が多く集まる時期に、大雪の影響で鉄道のダイヤが大幅に乱れたため、数十万人単位の人々が集まっています。

(参考1)「チャイナ・ディリー」2008年2月2日付け1面トップ記事
「胡錦濤主席、全ての力を(雪害対策に)投入せよ、と指示」
http://www.chinadaily.com.cn/china/2008-02/02/content_6437189.htm

 公安当局も集まる群衆を整理するのに必死になっていますが、昨日(2月1日)、遂に一部の群衆が将棋倒しになり、広州市の時計工場で働く湖北省出身の女性1名が死亡(そのほかに数名がケガ)という事故が起きてしまいました。この時、広州駅には40万人の人々が集まっていたそうです。

(参考2)ネット版「人民日報」(人民網)2008年2月3日00:54アップ記事
「広州駅で旅客1名が圧死」
http://society.people.com.cn/GB/41158/6859662.html

※上記二つの記事は写真付きですので、英語や中国語が読めなくても現場の状況がよくわかると思います。

※※2月1日15時に将棋倒し事故が起き、2月2日0時にこの事故に遭った女性が病院で死亡した事件について、2月2日夜11時になってようやく発表する、という広州市公安当局の対応には、いささか問題があると私は思います。今の中国においては「発表しただけマシ」と言えるのかもしれませんが。

 今日(2月3日)も中央電視台第一チャンネルでは、午前中、大雪被害に関する特別報道番組を放送していました。その中で8日間以上に渡って断水と停電が続いている湖南省のチェンチョウ(●州)市(Chenzhou:●は「林」へんにおおざと)付近の高速道路インターチェンジからの生中継のレポートもやっていましたが、片方の車線は大型トラックが数珠繋ぎで全く動いていない様子でした。温家宝総理は、このチャンチョウ市のある湖南省南部が中国の南北と東西を結ぶ交通の要衝であることから、人民解放軍を動員することはもちろん、大雪被害のない北方の電力関係者をこの地方に派遣して、まず湖南省南部の復旧を図るよう指示した、とのことです。このほかにも寒波・大雪の被害は貴州省、江西省など被害は広範囲に渡っているのですが、まず交通のネックのポイントとなっている地区を優先的に復旧させよう、という方針のようです。

 昨日(2月2日)夜の中央電視台「焦点訪談」では、湖南省長沙(チャンシャー)空港で、降った雨(みぞれ)が滑走路上で完全に氷と化し、スケートリンクのようになった滑走路を復旧させようとしている空港職員の作業の様子が伝えられていました。

 中国の地理にあまり慣れていなくて地名を言われてもピンと来ないかたはぜひ地図を御覧になっていただきたいのですが、湖南省、貴州省、江西省などは、緯度的には沖縄から台湾北部に当たる地方で、これらの地方で大雪や着氷による被害が出ている、ということは、極めて異常なことです。2月2日の香港の最高気温(最低気温ではない)は摂氏プラス10度だったそうで、今回の寒波がいかに強烈であったかがわかると思います。

 今は、鉄道や高速道路が通っている地方の中核都市について多く報道されていますが、おそらく、高速道路や幹線道路からかなり内陸に入った農村部では「陸の孤島」となっている地区が多数あるのではないかと想像されます。それら内陸部では、まだ情報が収集しきれていないので、今回の寒波の被害は、集計してみると今後もっと大きくなる可能性があります。今回の寒波・大雪・着氷被害は、経済発展により高速道路網や電力網が発達した後の中国にとって最大の大規模自然災害と言えるもしれません。例えば、大雪で高速道路が渋滞すると、渋滞途中のトラックがガス欠を起こして立ち往生して、さらに渋滞に拍車をかける、ということがよく起きますが、中国では(特に南部地方では)そういったことを経験したことがたぶんないので、対応に苦慮しているのではないかと思われます。

 北京オリンピックまではまだ半年ありますので、今回の寒波・大雪がオリンピックに影響するとは思いませんが、今の中国は、全国的に「オリンピックどころではない」といった雰囲気になっています。

 この寒気団は、今日(2月3日)になって日本上空に移動し、東京などでも雪が降って雪が積もっているようですが、日本列島は黒潮や対馬暖流に抱かれているので、寒気団が襲ってきても、これら海の影響によりかなりマイルドになっていると思います。その意味で、日本は、中国に比べれば、自然環境の面で非常に恵まれた国です。中国を襲った寒気団は、通常1~2日後に日本へ到達するので、日本のマスコミは中国のこういった寒波襲来のニュースに対して、もうちっと関心を持ってよいと思います。

 なお、中国では、毒物入り冷凍ギョーザ事件については、ほとんど報じられていませんが、こういった寒波・大雪被害の中で人心を不安にするような情報はできるだけ広めたくない、という当局の意図が働いているのかもしれません(春節(小正月)を家族みんなでギョーザを食べながら迎える、というのが、中国の伝統的な慣習ですので)。今回の寒波・大雪被害は相当な規模のものであるので、私は、個人的には、今回に限って言えば、パニックを防止する、という観点で、冷凍ギョーザ事件に関する情報管理もある程度やむを得ないかなぁ、と思っています。 

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2008年2月 2日 (土)

豪雪は杭州31センチ・上海22センチ

 中国中南部の寒波・大雪は今日(2月2日)も続いています。新華社の報道によると、2月2日14時時点で浙江省杭州市で積雪が31センチ、上海では2月2日19時までに雪はやんだものの、ところによっては積雪が22センチ以上に上るところもあるとのことです。緯度で言えば、上海は鹿児島市、杭州は種子島くらいに当たりますから、この積雪量は尋常ではありません。杭州市では1978年に改革開放が始まってから最大の大雪なのだそうです。

 2月1日時点で中国政府が発表したところによると、1月10日以来の寒波と着雪・着氷(注)による被害は、死者60名、行方不明2名、緊急非難を必要とした人175.9万人(うち鉄道や道路の不通により滞留を余儀なくされた人々66.7万人を含む)、被害を被った農地1.41億ムー(940万ヘクタール:日本で言えば北海道と青森県を合わせた面積より広い)、倒壊した家屋22万3,000軒、損壊した家屋86万2,000軒、経済的損失は537.9億元(約8,000億円)に上る、とのことです。電力網の寸断と燃料となる石炭の輸送ができないため、各地で停電が相次いでいます。2月2日付けの「新京報」によると、湖南省のチェンチョウ(●州)市(Chenzhou:●は「林」へんにおおざと)では、停電と断水が8日間続いているとのことです。中国政府は、経済への影響は短期的なもので、全体的な中国経済の状況には影響は与えない、との認識を示していますが、相当な被害であることは間違いありません。

 中国中央電視台第1チャンネルでは、2月2日、午前、通常の番組を中止して、寒波・雪害報道の特別報道番組を放送しました。これはかなり異例のことです。胡錦濤国家主席は人民解放軍と武装警察に対して全力で災害地区を支援するよう命令を発し、これまでに25万人以上が災害救援活動に動員された、とのことです。また、商務部は春節(2月7日)までに国家備蓄している冷凍肉を1.8万トン放出する方針、とのことです。

 日本では、毒物入り冷凍ギョーザ事件の方ばかりクローズアップされて報道されているので(もちろんこちらも重大な事件ですが)、中国中南部の寒波・大雪の方にももっと注意を向けるべきだと思ったので、最新情報を書かせていただきました。

(注)着氷現象について:

 日本は海洋性気候で、陸地と海との温度差により対流が起きやすいので、上層の大気と地表面近くの大気が混じりやすいので発生しにくいのですが、大陸性気候の地域では、時として大規模な着氷現象が起きます。地表面が零度または氷点下、上層大気が零度以上で、風が弱いときに降水現象が起きると、上層大気の部分で雨になったものが零度または氷点下の地表近くに落ちてきて、樹木や電線にぶつかってそこで氷になる現象が起きます。電線や細い木の枝の場合、電線の上に一定以上の量の氷が付くと、重さで氷がくるりと下側に回転し、また電線や木の枝の上に氷が付着していきます。こうして電線や木の枝の周りに「ちくわ」のように氷が蓄積します。電線の場合は、着氷対策をしていないと、こういった着氷現象が起きやすいので、場合によっては直径10センチ程度の「ちくわ」状の氷が付着します。電線の場合は、その氷の重みで電線自体が切れたり、電線を支える鉄塔を引き倒したりします。樹木の場合は、その重みで折れ、道路上にかぶさって交通を妨害したりします。

(参考1)「新華社」2008年2月1日17:32アップ
「レンズを通して見た氷りに覆われた鉄塔に取り組む電力労働者」(組写真)
http://news.xinhuanet.com/photo/2008-02/01/content_7545643_2.htm

(参考2)「新華社」2008年1月29日11:02アップ
「氷に覆われた鉄塔、重さで倒壊 電力労働者3名が殉職」
http://news.xinhuanet.com/photo/2008-01/29/content_7516115.htm
※この鉄塔倒壊事故では、作業中の作業員3名が亡くなっています。

(参考3)「新華社」2008年1月29日11:06アップ
「南京で雪の重みで倒れた松の木」
http://news.xinhuanet.com/photo/2008-01/29/content_7516146.htm

 こういった大規模な着氷現象は、日本ではごくたまにしか起きませんが、大陸性気候のアメリカなどでも時々発生しています。今回の中国中南部の場合は、普段は雪が降ったり着氷現象が起きたりしない地域であるだけに、ほとんど着氷対策がなされていない状態だったのが被害を大きくしているようです。

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2008年1月29日 (火)

中国の中南部で寒波・大雪の被害

 中国の揚子江から南の地域が、ここ数日、歴史的な寒波に襲われ、これらの地方としては非常に珍しい大雪となりました。一部の地方では、湿った雪やみぞれ交じりの雨が降った後に気温が氷点下に下がり、路面が凍結したりして、高圧電線に着氷して、電線を支える鉄塔が崩壊したところもあります。高速道路は、雪のために通行止めになり、多くの鉄道も不通になりました。積雪は多いところでも数十センチのオーダーですので、雪に慣れている地域の人たちにとっては、大したことない雪の量なのでしょうが、滅多に雪の降らない地方での大雪のため、防雪対策がほとんどなされておらず、多くの混乱が起きているようです。地方によっては数十年来とか、中華人民共和国建国以来、とか、場所によっては百年来なかった大雪、と表現しているところもあるようです。

 今年は2月7日が春節(旧正月)なので、中国では、広州や上海など沿岸部に出稼ぎに出てきている労働者(農民工など)の帰省ラッシュが既に始まっています。ただでさえ春節の時期は列車の切符が買えないほどの混雑が続きます。そういった時期に、雪による鉄道の不通が重なったので、広州などでは何十万人のオーダーの人たちが立ち往生する事態になっています。また、送電網が寸断された上に、鉄道による石炭輸送がままならないので、発電容量が足りなくなり、停電になっている地区もあるようです。生鮮食料品の輸送にも支障が出てきているところもあるようです。

 最近は、中国は、鉄道も複線・電化され、高速道路網も相当に発達してきていますが、これらの交通網が高度に発達した中国経済を支えているだけに、今回の寒波・大雪がそういった経済活動の動脈に打撃を与えたため、従来にもない大きさの経済的・社会的影響が出ているようです。ただ、例によって、中国のテレビのニュースでは、あまり大雪被害の状況の映像を流さないので、相当にひどい被害らしい、と想像されるのですが、実際にどの程度の被害なのか、北京にいても、今ひとつイメージが湧きません。

 党中央もこの事態を重視し、昨日(1月28日)夜、温家宝総理自らが急きょ特別機で北京から湖南省に飛び、現地の状況を把握するとともに、災害対策の現場で陣頭指揮に当たっています。今日(1月29日)には、胡錦濤国家主席が緊急の会議を開いて、関係機関に全力で大雪・寒波からの復旧作業に当たるように指示を出しました。

 私のいる北京は、寒いけれども雪は降らない、といういつもと同じ冬の日々が続いており、中南部の自然災害の影響は全く感じられませんが、揚子江より南の地域では、まだ数日は寒波や雪が続くようです。だんだん春節も近づいてきますので、寒波が収まり、交通や電力網が復旧し、多くの人がふるさとで旧正月を迎えられるように祈りたいと思います。

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2008年1月22日 (火)

中国の不動産を巡る報道に「崩壊」の文字

 中国の不動産ブームについては、かなり前から「あまりにもスピードが速すぎる。バブル気味なのではないか。」との声が聞こえていました。そうした中、2007年の末頃から、政府による引き締め政策の影響もあり、さすがの中国の不動産ブームにも「かげり」のようなものが見え始めて来たように感じていました。

(参考1)このブログの2007年12月22日付け記事
「中国の不動産ブームはピークを越えたのか?」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/12/post_7322.html

 2008年に入り、深セン、上海、北京などではいくつかの不動産仲介業者が店を閉める、という報道がなされるようになりました。

(参考2)「新京報」2008年1月10日付け記事
「中大恒基、近く50店を閉店へ」
http://www.thebeijingnews.com/news/beijing/2008/01-10/021@073510.htm

 これらの動きに関する新華社などの報道の中には「崩壊」の文字を使うものも出てきました。

(参考3)中国経済ネットの記事を転載している新華社のページに2008年1月16日にアップされた記事
「中国最大規模の不動産仲介業者『創輝』が『崩壊』に瀕している」
http://news.xinhuanet.com/house/2008-01/16/content_7428402.htm

 これらの動きについては、人民日報もこの二日間、連続の特集記事として報じています。

(参考4)「人民日報」2008年1月21日付け記事
「創輝の暗然たる収縮(経済の焦点:関心を集める不動産仲介業(上))」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-01/21/content_39584201.htm

(参考5)「人民日報」2008年1月22日付け記事
「不動産仲介業界はなぜ揺れ動くのか(経済の焦点:関心を集める不動産仲介業(下))」
http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2008-01/21/content_39584201.htm

 この「人民日報」の記事の中では、マンション等を買おうとしている消費者が、現在のマンション価格の動向を見て「模様眺め」の状況に入ったために、ここに来て成約量が急減し、そのために不動産仲介業が店を閉めざるを得なくなった、という専門家の見方を伝えています。また、不動産仲介業は、パソコンと机さえあれば簡単に店を開けることから、これまで安易に店舗数を増やしてきた業者も多かったが、今回の事態はそういった「バブル気味の」仲介業者に市場から退場してもらうという「洗牌」(シーパイ:麻雀やトランプでゲームを始める前にパイやカードをかき混ぜること)の局面に入ったということだ、という冷めた見方も示しています。こういった「人民日報」の報道の仕方を見ていると、北京オリンピックまで異常な不動産ブームが続き、オリンピックが終わった後に一気にバブルが崩壊するよりも、オリンピックまで後200日ほどある今の時点で、つぶれるべき小さな「バブル」はむしろつぶれてもらった方がよい、という党中央の考え方が透けて見えるような気がします。

 ただ、上記の「急に店を閉め始める業者も出始めた」というのは、あくまで「仲介業者」の話であって、現時点ではマンションやオフィスビルを建設している不動産開発会社自身がバタバタ倒れているわけではありません。マンション等の販売には、新しくできた建物の販売と中古物件の販売とがありますが、成約数が極端に減少しているのは中古物件の方です。新規物件の方は、成約数は減少傾向にありますが、「激減」というところまでは行っていないようです。実際に住む家が欲しくてマンションを買おうと思っている消費者が買い控えをしているからなのか、投機対象でマンションを買おうとしている人たちが買い控えをしているからなのか、詳細は不明ですが、いずれにせよ全体として販売量が低下していることが、契約の成立を「日々のメシの種」にしている不動産仲介業者を直撃し、いくつかの業者で閉店に追い込まざるを得なくなったというのが実情だと思います。この傾向が長期的に続くようだと、やがては開発業者の中にも、投下した資金を回収できなくなるところも出てくる可能性があります。

 いずれにせよ、北京において、夜になると立ち並ぶマンションの多くの部屋に電灯が点らないことについて、私は前から気になっていました。実際に住んでいない投機目的のマンション所有者の数は、かなりの数いるのではないかと思います。

(参考6)このブログの2007年10月17日付け記事
「夜8時半過ぎの北京のビルの稼働率」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/10/post_7335.html

 気になるのは、投資対象としてマンションを購入している富裕層が今の事態にどういうふうに対応するかです。今日(2008年1月22日)、世界的株安の流れを受けて、中国の株式市場もかなり値を下げました。現在の中国経済成長は、低賃金労働の基盤の上に立った製品の輸出、土地開発とマンション・オフィスビル等の建設等に対する投資、富裕層による商品・サービスの購入等の内需、の3つが大きな柱です。為替レートと労働契約法の施行により安い労働力に頼った製品の輸出の比重は、今後は下がるでしょう。そうした中で、不動産による資産の目減りがありそうだ、株がどんどん上がるという状況でもない、という事態になって、不動産に対する投資が減る一方、将来を不安視した富裕層が全体的な買い控え傾向に走ると、中国経済全体が不活性な方向へシフトするおそれもあります。

 こういったことを考えると、これから北京オリンピックのある8月へ向けて、いろいろ予測できない状況が出てくる可能性もある、と私は思っています。

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2008年1月 6日 (日)

首都鉄鋼4号炉停止・経済損失26億元

 今日(1月6日)付けの「新京報」によると、北京にある首都鉄鋼の4号高炉が昨日(1月5日)、35年2か月に及ぶ連続生産の役割を終え、停止した、とのことです。

(参考)「新京報」2007年1月6日付け記事
「4号高炉にお別れ、首都鉄鋼400万トン減産へ」
http://www.thebeijingnews.com/news/beijing/2008/01-06/018@075422.htm

 これは2005年から始まった北京にある首都鉄鋼製鉄所の停止計画の一環で、この後も段階的に溶鉱炉を停止して、2010年には完全に操業を停止する予定です。首都鉄鋼は、河北省などにある別の製鉄所での生産を続け、北京の製鉄所で働いていた労働者は、これらの別の製鉄所に移らせるか、早期希望退職を募って退職させる予定とのことです。

 この首都鉄鋼製鉄所の停止は、北京オリンピックへ向けた排出ガス対策の一環で、オリンピック期間中には首都製鉄の北京の製鉄所は、排出ガス量を通常より70%以上削減する予定である、とのことです。

 この北京の製鉄所の操業停止は、古いエネルギー効率の悪い製鉄所を効率のよい新しいものに代える、その機会に北京に集中した工場を別の場所に展開する、といった意味もありますので、オリンピックのためだけに行われているわけではありませんが、北京オリンピックの開催のための大気汚染改善を大きな目的にして行われていることは間違いありません。首都鉄鋼は、歴史のある国有企業ですから、オリンピックという国家的事業を前にしてその役割を果たすことも使命のひとつなのでしょう。ただ、生産停止による経済損失が26億元(約390億円)あることを考えると、こういうことができるのは首都鉄鋼が国有企業だからであって、私営企業や外資系企業では、いくら国家的行事のための政府の指令とは言っても、こういった大胆な政策的指示は受け入れないと思います。ある意味で、この件は、中国の基幹産業においては、まだまだ社会主義的要素が色濃く残っていることを現していると思います。

 この首都鉄鋼の件も含めて「北京オリンピック成功のため」という名目の下で、いささか無理強い的な政策が進められつつあるようなのが、ちょっと私は気になっています。オリンピックは国民みんなが喜んで迎える行事であるはずです。あまり「オリンピックのために」という名目で強引な政策を進めることにより、「オリンピックさえなければ」という反発心が人々の間に芽生えるようなことがなければよいが、と私は願っています。
 

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2008年1月 3日 (木)

2007年の北京の大気汚染指数

 今年2008年は北京オリンピックがあるので、北京の大気汚染については、世界中の関心を集めると思います。中国国家環境保護総局は、毎日、主要な都市の大気汚染を指数として測定して発表しています。大気汚染指数(API:Air Pollution Index)は、100以下が「優」「良」、101を超えるとレベルによって「軽微汚染」「軽度汚染」「中度汚染」「中度重汚染」「重汚染」というふうに分類されます。大気汚染指数の定義及び大気汚染指数による汚染度合いの分類の仕方は、下記のこのブログの2007年6月19日付け記事を御覧下さい。

(参考1)このブログの2007年6月19日付け記事
「北京の今日の大気汚染度はIII(1)級(軽微汚染)」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/06/iii1_5bc5.html

 2006年1年間の北京の大気汚染指数の度数分布は、このブログの2007年8月22日付けの記事に書きました。

(参考2)このブログの2007年8月22日付け記事
「北京の自動車交通制限と大気汚染指数」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/08/post_284f.html

 年が明けましたので、これと同じ方法で2007年1年間の北京の大気汚染指数の度数分布をグラフにしてみました。

※データの出典:中国国家環境保護総局の重点都市大気汚染日報のページ
http://www.sepa.gov.cn/quality/air.php3
の下の方にある検索機能を使って「北京」の「2007年1月1日~2007年12月31日」の大気汚染指数を表示させて大気汚染指数を10ごとに分類してその指数を示した日数が何日あったかを数えたものが下記のグラフです。なお、車のナンバーの偶数・奇数による市内への乗り入れ制限を行った試験期間(4日間)の最終日の8月20日は「欠測」となっておりデータがありません。自動車の乗り入れ規制の最終日、という「最も大気汚染の状況が知りたい日」が「欠測」になっている理由は不明ですが、いずれにせよこの日だけデータがないので、2007年1年間のデータがある日は364日間となっています。

【2007年の北京の大気汚染指数の度数分布】(■=3日)

000-020:■1
021-030:■■■7
031-040:■■■9
041-050:■■■■■15
051-060:■■■■■■■■■■■31
061-070:■■■■■■■21
071-080:■■■■■■■■■■■■■■■■48
081-090:■■■■■■■■■■■■36
091-100:■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■77
101-110:■■■■■14
111-120:■■■■■■■■24
121-130:■■■■10
131-140:■■■■■14
141-150:■■■■12
151-160:■■■■12
161-170:■■■7
171-180:■■■7
181-190:■■4
191-200:■■4
201-210:■2
211-220:0
221-230:0
231-240:■1
241-250:■1
251-260:■1
261-270:■2
271-280:■1
281-290:0
291-300:0
301以上:■3
合計=364日(欠測1日)

 2008年1月1日付けの「新京報」では、北京市環境保護局の副局長は、2007年の北京の「青空」(大気汚染指数が100以下の日)は、目標の245日を1日オーバーした246日となり、目標を達成した、と述べた、と伝えています(上記のグラフでは「欠測」扱いにしている8月20日を大気汚染指数100以下として数えると100以下の日は246日になります)。

 確かに数字の上では大気汚染指数が100以下の日は246日間で目標を達成していますが、上記のグラフを見れば、90-100の日数が異様に多く、101-110の日数が異様に少ないことがわかります。この傾向は上記(参考2)に掲げた2006年のデータでも同じです。統計学的に言えば、大気汚染指数が100を超えるか超えないか境界線にある日の測定値に関して、何らかのデータの操作が行われた疑いが大きい、と言って差し支えないと思います(もちろん「何らかのデータの操作が行われた」と言い切ることはできませんが)。

 全体的に見れば、2007年は2006年より汚染指数が明らかに下がっているので、当局の大気汚染対策の努力はそれなりに効いているのだと思います。また、私の感覚的な感じから言っても、20年前に比べれば、冬の間、スモッグのない青空の日数は増えたような気がします(夏の間の汚染はひどくなったように感じましたが)。このように全体的には改善の傾向があるのですから、「目標を達成できた」ことを強調するために測定データをいじくるような姑息なことはせずに、正々堂々と正しいデータを発表すべきだと思います。

 中国国家環境保護総局は、測定されたデータをそのまま公表しているだけであり、「データの操作が行われた疑いが大きい」などと言うのはケシカラン、と言うかもしれません。しかし、上記のような度数分布グラフを見れば明らかです((参考2)に掲げた2006年のデータの方がさらに顕著です))。これらのグラフを見れば「このデータはそのまま信用することはできないな」と思う人の方が多いと思います。

 どうも中国では、「鉄鋼生産量○○トン、自動車生産台数△△台」という国家計画のノルマを達成したかどうか、で業績が評価される古い社会主義体制のトラウマが今でも消えていないようです。古い社会主義体制下では、粗悪な鉄鋼でも、すぐ故障するような車でも、とにかく目標のトン数や台数をクリアすれば、それでOKだったので、昔は無理をして鉄鋼の生産トン数や車の生産台数を上げる努力が行われました。今でも、無理をしてでも「目標達成!」と言いたい、という風潮はまだ残っているのだと思います。

 国民の目を意識すると数字をいじりたくなるのでしょうが、最も恐いのは、政策決定者が操作された統計数字を基にしてい政策判断をしているのではないか、と思われることです。

 中国の新聞は、地方政府の問題点はかなり厳しく指摘するようになっていますが、中央政府に対する厳しい指摘は全くと言ってよいほどありません。こういった環境測定データについては、公表データをグラフ化すれば誰でもわかることなのですから、中国の新聞はもっとしっかり書くべきだと私は思います。

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2008年1月 1日 (火)

2008年:今年のポイント

 皆様、明けましておめでとうございます。

 今までもいろいろ書いてきましたが、今年(2008年)の中国のポイントは、北京オリンピックの開催を除けば、次の3つだと思います。 

(1)労働契約法(2008年1月1日施行)

(2)不動産

(3)株

 時期的なポイントとしては4月と10月だと思います。

 私は不動産の動きに関しては、上記の「小産権」の問題が非常に大きいと思うのですが、さきほど「小産権」という言葉でYahooやGoogleで検索したら、私のブログが上位に出てきてびっくりしました(つまりほかの人はあまり着目して書いていない、ということですよね)。

 実生活面では、北京オリンピックの前後、車の使用制限など、市民生活に対してどのような制限がなされるかが気になるところです。あんまり無理なことをやって、市民の反発を買わなければよいけどなぁ、と思います。東京オリンピックやソウル・オリンピックのように、後から見て、「やはり北京オリンピックは中国の飛躍のひとつのきっかけだった」と言えるようになって欲しいと思います。

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2007年12月27日 (木)

大気汚染V級「重汚染」が「熱烈歓迎」

 今日(2007年12月27日)夕方、福田総理が北京に到着しました。日中両国の首脳が直接話をして、意見を交換し合う、ということは、何にしてもいいことだと思います。

 ところで今日の北京は朝からスモッグがすごく、300メートル先も見えないという状況でした。発表された国家環境保護総局の今日の北京の「空気質量」(大気汚染の状況)は、汚染指数(API)が421で、7つある等級のうち最も汚染がひどい「V級(重汚染)」でした。

(参考1)国家環境保護総局のホームページ
「重点都市大気汚染状況」
http://www.sepa.gov.cn/quality/air.php3

※下の方の欄で「都市」(中国語で「城市」)を選択し、希望の日付を入れて「査詢」というボタンをクリックすると希望する期間の過去の大気汚染の状況が検索できます。

 「重汚染」(汚染級数V級)は「健康な人々に対しても運動に対する抵抗力を弱める。強い症状を発現させたり、何らかの疾病の発現を促進する可能性がある。老人及び病人は室内に留まり、体力の消耗を避ける必要がある。一般人も戸外での活動を避ける必要がある。」とされています。しかも、汚染指数(API)が251~300がIV(2)級の「中度重汚染」ですから、今日の汚染指数421はとんでもなく高い値であることがわかります(たぶん今年最悪の値です)。少なくとも、今日のような大気の状況では、マラソンをやることは無理だと思います。もっとも、来年の北京オリンピックは8月なので、暖房用燃料の煙などが加わる冬のスモッグと同じような状態にはならないと思いますが。

※「汚染指数」(API)や汚染級数についてはこのブログの下記の記事を参照。

(参考2)このブログの2007年6月19日付け記事
「北京の今日の大気汚染度はIII(1)級(軽微汚染)」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/06/iii1_5bc5.html

 最悪の大気汚染の日に北京に来た福田総理は「運が悪かった」と言うべきなのでしょうか、それとも総理に同行してきた日本の報道関係者がこの大気汚染を実感して日本に報道してくれる、という意味では「運がよかった」と言うべきなのでしょうか。

 私は20年前にも2回北京の冬を経験していますが、当時は暖房の主体が練炭だったので、冬の間の大気汚染にはかなりひどいものがありました。しかし、今年12月までを経験したところでは、思っていたよりは、すっきりと晴れた青空の日が多かった、という印象でした。去年から都心部での練炭の使用が制限され、暖房用の燃料には天然ガスが使われるようになったこともあり、20年前に比べれば、暖房用燃料による北京の大気汚染はだいぶ改善されたようです(その代わり自動車の台数が増えたので、自動車の排ガスによる汚染は増えましたが)。少なくとも、中国でも、大気汚染対策の努力はしているし、その効果が上がりつつあることは確かだと思います。でもやっぱり気象条件によっては、今日のようなひどいスモッグの日が出現するのが現実です。

 天気予報によれば、明日(12月28日)は、気温が下がって少し雪が降り、風も吹くようなので、汚染は少しは改善されるでしょう。今回の総理訪中に同行した日本の報道関係者が、この北京の大気汚染についてどのように報道するか、注目したいと思います(今日の夜のNHKのニュースなどを見ると、北京特派員が北京の夜景を背景にリポートしていましたので、特派員がレポートする背景に映っている街の様子を見ればテレビの画面からも、大気汚染の状況はある程度は伝わると思います)。

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2007年12月22日 (土)

中国の不動産ブームはピークを越えたのか?

 中国のマンションなどの建設ブームを「バブル」と呼ぶべきかどうか、は議論のあるところです。北京は、来年(2008年)はオリンピックがあるので、それが終われば建設ブームはヤマを越えるが、その他のところはオリンピックはあまり関係ないのではないか、とも言われています。一方、中国政府は、経済成長の過熱を心配しており、今年(2007年)は、相次いで、中央銀行である中国人民銀行による基準金利や預金準備率の引き上げ、膨大な額に上る外貨(注)の運用を担当する中国投資責任有限公司設立のための特別国債の発行などのいわゆる「過剰流動性」を抑えるための対策を行ってきました。

 このうち特別国債1億5500万元については、8月29日から12月14日までの間に7回発行されました。

(参考1)「新京報」2007年12月15日付け記事
「最後の回の特別国債が発売された」
http://www.thebeijingnews.com/economy/2007/12-15/011@003335.htm

 上記のうち第1回と第7回の合計1億3500万元の特別国債については、農業銀行が引き受け、それを中国人民銀行が外貨(注)を政府に売って得た人民元で買い取ったとされているので、この部分については市場への影響は直接はありませんでしたが、残りの2000万元については、直接市場に向けて発行され2000万元分の人民元が市場から吸収された、と考えられています。

(注)中国が保有する外貨の準備高は2007年9月末現在で1兆4300億ドルを超えています。

(参考2)中国人民銀行のページの「黄金及び外貨準備」の表
http://www.pbc.gov.cn/diaochatongji/tongjishuju/gofile.asp?file=2007S09.htm

 この特別国債については、大部分が中央銀行である中国人民銀行が保持することになったのですが、NPO日中産学官交流機構特別研究員の田中修氏は、必要な時にこの特別国債を市場に売り出すことによって市場に出回っている人民元を回収するひとつの手段を中国人民銀行が手にした、という意味がある、との中国財政部の担当者の考え方を紹介しておられます。

(参考3)NPO日中産学官交流機構のホームページにある
特別研究員田中修氏のレポート
http://www1a.biglobe.ne.jp/jcbag/tanaka_report.html
の2007年9月10日付けレポート「経済過熱防止への諸施策(11)」

 利上げは、結局、2007年は6回行われました。

(参考4)「新華社」2007年12月20日19時頃アップ
「中国人民銀行、今年6度目の利上げを発表」
http://news.xinhuanet.com/fortune/2007-12/20/content_7285921.htm

 来年2008年の経済運営の方針については、中国政府は、12月3日~5日に掛けて中央経済工作会議を開催して、その基本的な考え方を明らかにしました。

(参考5)人民日報2007年12月6日付け1面トップ記事
「中央経済工作会議北京で開催」
http://politics.people.com.cn/GB/1024/6618393.html

 胡錦濤中国共産党総書記・国家主席が主宰したこの会議では、来年(2008年)の経済運営について、「引き締めた」貨幣政策を実行する、と述べています。この表現は、従来「適度に引き締めた」という表現だったものから「適度に」が抜けた表現になっています。このことについては意味があるのだ、とする新華社の解説が出されています。

(参考6)新華社2007年12月5日20:36アップ
「専門家が、貨幣政策を『適度に引き締める』から『引き締める』に変更したことについて解説」
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2007-12/05/content_7205702.htm

 この中央経済工作会議では、少なくとも「姿勢」としては、政府は、経済を引き締める方向により強く政策の舵を切った、と宣言したものと言っていいでしょう。

 一方、2007年11月30日付け人民日報(海外版)4面の「中国の不動産:マクロとミクロの両面から見る」という記事では、上海において10月のマンション販売成約量が9月の74%に落ち込んだことを報じています(なぜか11月30日の分だけ、ネット上では人民日報(海外版)を見ることができません。私はたまたま紙面バージョンを入手できたのでこの記事を見つけられました)。

 北京でも、最近、住宅販売量が減ってきている、との記事が出るようになりました。

(参考7)「新京報」2007年12月5日付け記事
「11月の北京の住宅販売は冷え込んだ」
http://www.thebeijingnews.com/economy/2007/12-05/021@092841.htm

 この記事によると、北京市不動産交易管理ネットが発表したデータでは、11月の住宅の成約数は1日平均353件で、405件近かった10月より減少している、とのことです。

 また、北京のマンションでは価格は下がってはいないもののお客に対する割引などのサービス合戦が始まっている(成約数も11月に引き続き続落している)との記事も出ています。

(参考8)「新京報」2007年12月20日付け記事
「北京の多くのマンションで割り引きの声の『大合唱』」
http://www.thebeijingnews.com/economy/2007/12-20/018@092435.htm

 この記事のポイントは以下のとおりです。

・記者がいろいろなマンション開発会社を回ってみたところ、正式価格自体はあまり下がっていないものの、5%引き、10%引きの「特別割引」を提示してくれた物件、「今買うなら家電製品を付けます」と言われた物件、などあの手この手で客引きを図っているところが多かった。

・北京不動産交易管理ネットのデータによると、12月1日~18日までの北京の住宅販売数は4867件で1日平均270件、これは11月の364件、去年の同時期の460件を大きく下回っている。

・ある不動産大手企業は既に広州と上海では15%~30%の値下げを始めている、とのことで、ある北京の開発業者は「もしこの企業が北京の市場で同じようなことをやり始めたら『地震級』の震動があるだろう」と言っていた。

・専門家は、現時点では北京のマンション市場は、囲碁で言えば「観望」(勝ちそうか負けそうか形勢判断をするために打ち手が止まる)という最後のクリティカルな段階に入った、と言っている。

 これらの記事を見ると、少なくとも大都市部では、マンション・ブームはひとつの角を曲がったのではないか、とも思えます(中小都市などその他の地方のことはわかりません)。

 また、先日、このブログで書いた「小産権」問題(農村などの集団所有の土地の上に建てられたマンションや別荘などの物件をその集団のメンバーではない都市住民が購入することは法的に認められないという問題)が中国の不動産売買取引に何らかの影響を与えるようになる可能性もあります。

(参考9)このブログの2007年12月15日と12月18日の記事
「都市住民による農村の『小産権』購入は禁止」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/12/post_fcc8_1.html
「都市住民の『小産権』購入は違法と確定判決」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/12/post_bf8b.html

 今年、いろいろと打ち出された「過剰流動性対策」が今後どの程度実態経済に効いてくるのかもよくわからないところですし、上記の裁判の結果が実際の不動産取引にどの程度影響するのかはよくわからないところがあります。来年2008年は、北京オリンピックが開かれて、終わる、というひとつの区切りの年であることは間違いないわけですが、それに加えてこういった経済上の条件がどのように実態経済の上に現れてくるのか、目が離せない状況が続きそうです。

(以下、2007年12月23日9:00に追記)

 不動産価格の最近の下降傾向気味について、国営新華社通信は12月17日付けで次のような「市場報」の報道を配信しています(この配信が2007年12月23日8:40現在、新華社のホームページのトップ記事に載っていたの気が付きました)。

(参考10)「新華社」ホームページ2007年12月17日付け記事
「観察:不動産市場の価格下落の『虚報』、不動産価格は本当に暴落するのか?」
http://news.xinhuanet.com/house/2007-12/17/content_7264042.htm

 この記事では、以下のようなことを言っています。

○住宅を真に欲しいと思っている消費者が「不動産価格が下落している」という情報を聞いて「もう少しすればもっと下がるのではないか」と思うのは無理のないことである。

○しかし、今回の下落は、急激な価格上昇の後で起こったものであり、「真のトレンド」を見究める必要がある。

○不動産価格の下落が伝えられているのは北京、上海、深センなどごく一部の都市であり、その他の土地ではこのような現象は起きていない。

○住宅が欲しいと思っている中国の消費者は非常に多いので、不動産価格は上昇方向に反転すると見る方が正しい。

○サッカーではゴール前で相手選手と接触した時、相手の反則を誘うためわざと転倒する場合がある。陸上100メートル競走では「興奮剤」を使用した選手がとんでもない「世界記録」を出すことがあるかもしれない。しかし、それは「真の姿」ではない。

○一部の現象に惑わされずに、全体を見て、「真のトレンド」を見極めることが重要である。

 この記事を読んだ私の勝手な感想ですが、政府や関係業界は、最近、不動産価格下落のニュースが流れているのを見て、ちょっと「あわてた」な、と思いました。上記、新華社が引用している「市場報」は、投資者がよく買う新聞ですから、新聞自体の立場として、不動産価格が暴落しては困るのです。また、この17日付けの記事を新華社が今日(23日)になってホームページの一面トップに持ってきたのも、政府関係者がちょっと「あわてた」証拠ではないかと思います。同種の「解説」は今日7:00からの中央電視台テレビの朝のニュース「新聞天下」でやっていました。

 上記の新華社が引用している記事の中のサッカー選手の話や100メートル競走選手の話は「苦し紛れのたとえ話」のように私には思えます。

 いずれにせよ、今後の動きは、こういった情報がいろんなところから流される中、一般消費者や投資者がどういうふうに「真のトレンド」を判断するか、に掛かっていると思います。

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2007年12月 1日 (土)

知らないうちに終わっていた「選挙」

 11月30日付けの「新京報」によると、次期(第13期)の北京市人民代表771名が11月29日に決まったのだそうです。

(参考1)「新京報」2007年11月30日付け記事
「北京、次期人民代表を選出」
http://www.thebeijingnews.com/news/beijing/2007/11-30/011@073141.htm

 中国の国会にあたる「全国人民代表大会」の議員(全国人民代表)は、例えば北京市で選出する人民代表の場合は次のような順番で決まっていきます。

1.北京市内にある区や県(中国の「県」は、北京のような直轄市や省・自治区の中にある小さな地方行政単位)の人民代表(議員)がそこの住民によって選出される。まず各政党と人民団体から推薦された人、代表(議員)10名以上の連名で推薦された人の中から候補者名簿を作り、その候補者に対して住民(有権者)が投票して区・県レベルの人民代表を選出する。選挙を管理する「主席団」が候補者に関する検討のための文書を送付した後、投票を行う。検討の期間は少なくとも2日間とする。

2.北京市内の区や県のレベルの人民代表が北京市の人民代表を選出する。選挙が終わった後、北京市人民代表大会常務委員会資格審査委員会が選挙で当選した人の資格審査を行う。この資格審査に合格すると正式に北京市の人民代表となることが決まる(ちなみに今回の北京市人民代表選挙では、選挙で選ばれた人は全て資格審査委員会では合格だった、とのことです)。

※上記の選挙においては差額選挙を行う(「額」は中国語で「定数」の意味で、当選予定者より候補者の数が多い選挙を「差額選挙」という)。候補者の数は、当選定員の20%以上、50%以下とするように、と規定されている。

3.各省・直轄市(北京、上海、天津、重慶)・各自治区の人民代表により全国人民代表(国会議員)が選出される。

 人民代表の任期は5年間です。2008年から新しい期(全国人民代表の場合は第11期:歴史的経緯のせいで北京市人民代表と期数が異なる)の人民代表の任期に入るので、今はその選挙プロセス中、というわけです。北京市の場合は、11月29日に上記の「2」の段階まで終わった、ということです。

 それにしても5年に一度の国会議員選挙プロセスが行われている最中なのですが、不覚ながら、私は、昨日(11月29日)の「新京報」を見るまで、こういった選挙が行われつつあることを全く知りませんでした。10月の共産党大会の後、来年1月には新しい全国人民代表が決まる、というスケジュールは知っていたのですが、具体的にいつ投票が行われ、いつ各地区の人民代表が決まるのかは知りませんでした。今回「北京市の人民代表が決まった」という新聞記事を見て、「ああ、実は既に選挙プロセスは始まっていて、住民による投票の部分は既に終わっていたのだ」と初めて知ったのです。だから、誰が立候補していて、投票率が何%で、誰が何票取って当選したのか、などは全く知りません。そもそも、区や県レベルの人民代表が何人いるのかも知りません。

 もちろん私は中国では有権者ではありませんので、選挙に関する通知等は一切送られてこないので、知らなくても仕方がないのですが、この選挙の過程について、北京市の人民代表が決まったことが報道されるまで、新聞では人民代表の選挙プロセスが進行中であること自体、全く報道されなかったようです。私は毎日複数の新聞やネットのニュースに目を通しているので、私が「見落とした」のではなく、実際に報道されていなかったのだと思います。選挙が行われたのですが、街に選挙ポスターが貼られるわけでもなく、選挙カーが行き交ったわけでもありません。共産党大会が開かれていた時に街中に「熱烈祝賀第17回中国共産党全国代表大会勝利開催」という紅地に白抜きの横断幕があふれていたのとは大違いです。

 10月の共産党大会で、胡錦濤総書記が「民主化、民主化」とかなり強調していたので、選挙過程についても何か新しい試みをやるのかなぁ、と思っていたのですが、全く新しい試みは行われず、選挙制度や報道のされ方については、全く旧態依然としたものであることがわかりました。

(参考2)このブログの2007年10月19日付け記事
「党大会後の民主化の具体化はどうなる?」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/10/post_7250.html

 実は私は20年前(1987年)の「第7期」の全国人民代表選挙の時期にも北京にいました。当時も新聞等では選挙の過程については報道されませんでしたが、街中の胡同(小さな路地)を歩くと「選挙は人民の貴重な権利です。棄権しないようにしましょう。」などという紙が張ってあったりしたので、「ああ、選挙をやっているのだ」と気が付きました。今、北京の街はビル街になってしまい、私自身、胡同をぶらぶら歩く機会もなくなってしまったので、今回は、選挙をやっているのを全く知らずにいたようです。

 この20年間、選挙制度で改革があったとすれば、「差額選挙」(当選定員より多い候補者を立てる選挙)が導入されたことでしょうか。以前は、候補者数は当選定員と同数で、「選挙」とは信任投票のことだったのです。今は、定員より候補者が多いので、得票が多くなければ落選するので「一応」選挙戦はある格好になります。「一応」と書いたのは、上の選挙プロセスに書いたように、立候補の段階で、政党や団体や現職議員の推薦がないと立候補できないので、普通の意味での「選挙戦」とは言えないからです。選挙が終わった後で、資格審査委員会による審査がある、というのも、「普通の国の選挙」とは異なるところです。もし、資格審査をやるのだったら、立候補の段階でやるべきで、選挙が終わった後で当選者に対する資格審査をやることになっているこの制度では、選挙の有権者よりも資格審査委員会の方が強い権限を持つことになってしまいます。

 実は、私は、北京オリンピックの開催が、選挙制度改革のひとつのきっかけになるのではないか、と密かに期待していたのです。韓国の場合がそうだったからです。1980年の軍事クーデターによって大統領になったチョン・ドゥファン(全斗煥)氏は、1988年のソウル・オリンピックを花道として退陣することを宣言し、実際、1988年以降の韓国の大統領は国民による自由選挙によって選ばれるようになりました。

 中国の場合は、いっぺんに全てのレベルの選挙を完全に自由選挙にすることは難しいだろう、と私も思っていましたが、例えば、県のような地方レベルの人民代表の選挙において部分自由選挙(例えば、議員の半数は中国共産党の推薦により決定し、残りの半分の議員は自由立候補による選挙で決定する、など)が行われるようになるのではないか、と期待していたのです。部分自由選挙ならば、「中国共産党による指導」という憲法に規定された大原則からはずれることなく、自由選挙を通じて、住民による地方政府に対するチェック機能が発揮できるからです。

 中国では、経済の分野では、例えば国有企業が株式を発行し、3分の2の株は国有として公有の部分を残し、残りの3分の1を株式市場に上場して市場経済にさらすことによって国有企業の活性化を図る試みを実施しています。ですから、政治の分野でも同じような「知恵」を働かすことは可能だだろう、と思ったのです。もちろん反対する勢力もあると思うのですが、北京オリンピックという世界が注目するイベントを利用して、反対勢力の動きを封じ込めることもできるのではないか、と思っていたのです。

 地方政府の腐敗に対しては、きちんとしたチェック機構を働かさなければならない、そのためには政治体制の民主化が大事だ、ということは多くの人々はわかっています。この10月の党大会で胡錦濤総書記の報告の中に「民主化」とうい言葉が何回も出てきたことでわかるように、党中央も同じ認識を持っているのだと思います。だから、私は、今回(第11期)の全国人民代表選挙で何らかの改革が行われるのではないか、と期待していたのです。

(参考3)このブログの2007年5月30日付け記事
「中国の新聞に『根本は政治体制改革』との社説」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/05/post_f50b.html

 上記(参考1)に掲げた11月30日付けの「新京報」の記事によると、今回当選した第13期の北京市の771名の人民代表のうち、60.57%の476人が共産党員だそうです(約13億人の中国人民のうち共産党員は7,336万人(2007年6月現在))。第13期の人民代表では、弁護士の数が増えるなど時代の流れを反映した部分もあるが、党や政府機関の幹部が人民代表の36.19%(279人)で、現在の第12期の35.5%(263人)より増えている、と「新京報」の記事では指摘しています。政府機関の幹部が人民代表の中に占める割合が多いと、人民代表大会が政府機関のチェック機構として力を発揮できない、という指摘がこれまで新聞紙上などでなされてきましたが、この点については、少なくとも北京に関しては全く改善されていない、ということになります。

(参考4)このブログの2007年8月16日付け記事
「地方の工事は人民代表が決めるという実験」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/08/post_5988.html

 また、今日(12月1日)付けの「新京報」によると、11月30日、北京市長の交代も決まった、とのことです。

(参考5)「新京報」2007年12月1日付け記事
「郭金龍氏が北京市長代理に」
http://www.thebeijingnews.com/news/beijing/2007/12-01/021@071741.htm

 郭金龍氏は、中国共産党安徽省党委員会書記です。これまでチベット自治区書記や四川省副書記を歴任してきた人で、地元北京の人ではありません。

 北京市長も市民の選挙によって決まるのではないのです。形式上、北京市の人民代表大会が選ぶ北京市人民代表大会常務委員会(54名)の議決に基づき、中央政府が任命するのですが、実質上は、中国共産党の中央が任命します(今日の段階では、最終的な中央からの任命がまだなので、郭金龍氏は、まだ「市長代理」なのです)。前回に私が駐在員として北京に赴任した直後の1986年12月、政府幹部の腐敗反対のデモを起こした上海の学生たちは「私たちの街・上海の市長をなぜ私たち自身が選べないのか」と主張していた、と伝えられたのを覚えています。21年たった今でも、地方政府のトップを住民が決められない、という点については全く進歩していないのです。

 中国の行政単位は、大きい方から、国レベル-省・直轄市・自治区レベル-市レベル-県レベル-郷・鎮レベル-村レベルとなります。1990年頃から、村レベルのトップについては複数立候補による自由選挙が行われていますが、それ以外は、選挙ではなく、上の機関からの任命によって決まる、という制度が変わらずに続いています。地方政府のトップを上部機関が任命する制度では、住民が地方政府が腐敗に走るのをチェックできず、腐敗がなかなか根絶できない、と多くの人が認識しているのですが、地方の各レベルの既得権益を持ったグループが抵抗勢力となっているため、改革がなかなか進まないのだと思います。

 中国において、国会議員(全国人民代表)の選び方や地方政府のトップの決め方は今後変わるのでしょうか。急激な自由選挙の導入は政治的な不安定をもたらす可能性がある、という懸念については私も同意します。しかし、一方、中国の多くの人々は住民による自由選挙のような地方政府のチェック機構を導入しないと、地方政府の腐敗による経済的・政治的混乱のリスクの方が日に日に大きくなっていくのではないか、という懸念も同時に持っていると思います。自由な選挙を導入することによるリスクと、導入しないことによるリスクと、どちらが大きいと見るか、という問題ですが、私は、後者のリスクが前者のリスクを凌駕する日は遠くないと思います。

 今回の選挙では「何も変わらなかった」ことを知って、正直のところ、私はかなりがっかりしています。北京オリンピックを前にした今回の人民代表の改選選挙が大きなチャンスで、このチャンスを逃すと今後はますます改革のハードルが高くなる、と思っていたからです。次の全国人民代表大会の選挙は5年後ですが、それまでには何かが変わるのでしょうか。次の全国人民代表大会の選挙までに「選挙制度を改革しないことによるリスク」が「改革することによるリスク」を上回ることになるのではないか、という現在の私の懸念が杞憂になることを願うほかはないと思います。

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2007年11月25日 (日)

スモッグの季節:今日の北京は「中度重汚染」

 10月は比較的青空の日も多かった北京ですが、11月15日から一般の建物でもスチームによる地域暖房が始まったせいか、日によって、スモッグがひどい日も多くなりました。一昨日(11月23日(金))は、強い風が吹いて汚染が吹き飛ばされたせいか、感激的に素晴らしい青い空だったのですが、昨日(24日(土))と今日(25日(日))は、相当にひどい大気汚染です。太陽や月は見えているので雲があるわけではないのですが、空全体が白くもやっている感じです。「この大気汚染の原因がスモッグだ」とわかるのは、外に出ると実際にかすかに煙のにおいがするのを鼻で感じることができるからです。

 国家環境保護総局のホームページによると、今日(25日)の北京の空気汚染指数(API)は269で、分類としてはIV(2)級の「中度重汚染」だとのことです。昨日(24日)の方がひどかった気がするのですが、なぜか昨日は国家環境保護総局の空気汚染指数の観測データが欠測になっていて数値が発表になっていません。

(参考)空気汚染指数については、このブログの下記の記事を参照
2007年6月19日付け記事
「北京の今日の大気汚染度はIII(1)級(軽微汚染)」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/06/iii1_5bc5.html
「6月19日の大気汚染度はIV(1)級(中度汚染)」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/06/619iv1_d1e6.html

 地域暖房のために石炭を焚くので、中国の北方地方の冬の時期の大気汚染は昔からのもので、ある程度、致し方のないところがあります。ずっと北京に住んでいる人に聞くと、大気汚染は、1990年代後半が一番ひどく、最近は少しは「まし」になってきているのだそうです。それでも、これだけ空気が白く、明確に「煙のにおい」を鼻で感じることができると、屋外でスポーツをしようという気にはなれません。

 北京オリンピックは夏なので、暖房用に焚く石炭の煙はないし、大掛かりな交通制限で北京市内に乗り入れる自動車の数も減らすなど、一定の大気汚染対策はなされるようですので、たぶん問題はないでしょう。しかし、オリンピックがどうのこうのという前に、一般市民の健康のことを考えたら、この大気汚染については、真剣に考える必要があると思います。やはり根本の問題は「この大気汚染を何とかしろ」という一般市民の声が政治に反映されるシステムになっていないことだと思います。

 昨日、オーストラリアの総選挙で野党が勝ち、11年振りに政権交代が実現するようです。古今東西の例を見れば、結局は、一般市民にソッポを向かれたら政権を失う、という危機感がなければ、政府というものは、一般市民の要望を本気で実現しようとは思わないものです。中国政府が「オリンピックを無事に乗り切れさえすればよい」とだけ考えているのではないことを切に願いたいと覆います。

 何十年後か、一般市民の声が政治に反映されるシステムができあがって、北京でも「ジョギングでもしようか」と思えるような空が戻ってくることを期待したいと思います。

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2007年11月18日 (日)

中国経済はバブルか:2008年は転換点?

 2007年11月19日号(11月17日発売)の経済週刊紙「経済観察報」では、1面トップに「注意!王志浩氏が財政政策に転向」という見出しで、スタンダードチャータード銀行のイギリス人エコノミスト Stephen Green (王志浩)氏が財政政策について研究を始めたことを報じて、読者に「注意信号」を発信しています。この記事によると、王志浩氏は、来年下半期以降、中国経済の増加スピードはピークを過ぎてブレーキが掛かり始める可能性があるので、財政政策がさらに重要になる、と認識している、とのことです。

 一方、同じ号の「経済観察報」の「観察家」(オブザーバー)という欄には、「金融の不均衡に対する政策の調整が急がれる」と題するエール大学管理学院金融経済学教授で長江商学院客員教授の陳志武氏の論文が掲載されていました。陳志武氏は、この論文で、株のバブルが今後数年間の最も大きな経済的・社会的リスクである、と指摘しています。彼は、また、政府による社会保障、保険や公共的な年金制度、医療保障制度が整っていないという点で、今の中国は、1990年頃のバブルがはじける直前の日本というよりは、むしろ1929年(大恐慌直前)のアメリカの状況に似ている、とも指摘しています。

 今の中国経済の状況が「バブル」であるのかどうかは、人によって見方は異なると思います。経済の成長のスピードや投資、銀行の貸し出し量があまりにも大き過ぎて心配だと言う人がいる一方、自動車やその他の消費財の販売量は底固く、全体的に内需は増加傾向にあり、「バブル」的な部分は一部に過ぎない、と楽観視する人もいます。

 私は、来年(2008年)1月1日から施行される労働契約法(中国語で「労働合同法」)がボディーブローのように中国経済に効いてくるのではないかと思っています。労働契約法は、労働者の保護のための法律ですが、一定の条件を満たした期限付き労働者に対しては、本人が希望する場合は定年まで継続される期限なしの契約を締結することを使用者に義務付けているので、中国における労働コストがアップするひとつの大きなきっかけになる可能性があるからです。労働コストのアップは、安くて大量にある労働力に頼ってきた中国の産業構造に質的変化をもたらす可能性があります。

 また、世界的な原油高により、北京でもこの11月からガソリン代が値上げされていますが、石油の半分近くを輸入している中国は、今後とも世界的な原油高に大きく影響を受けていくことになると思います。そのような周辺状況を考えると、2008年は、単に北京オリンピック景気に区切りがつく、というだけではなく、もっと大きな意味で中国経済にとって大きな節目の年になる、と私は思っています。

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2007年11月 4日 (日)

農民工の十大願望

 中国では、現在、農村に住む人は農村戸籍、都市部に住む人は非農村戸籍、というふうに二種類の戸籍に区分けする制度が採られています。今の中国では、億の単位の農村からの出稼ぎ労働者(農民工)が都市部の経済発展を支えていますが、彼らは戸籍が故郷の農村にあるために都市部では十分な行政的支援を受けられていないことが大きな問題になっています。

 このような「農民工」の問題をはじめ、農村部と都市部との格差の問題を解決するため、重慶市と四川省は、農村部と都市部を統合するモデル地区として指定され、様々な施策が試験的に実施されています。

(参考1)このブログの2007年6月17日付け記事
「重慶と成都が農村・非農村統合試験区に指定される」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/06/post_f7a6.html

 そのため重慶市では、今日11月4日を初めての重慶市の「農民工の日」と定めて、いろいろなイベントが行われています。この「農民工の日」に関連して、先頃、重慶市は、1,800人の農民工の人々の話を聞き「重慶市の農民工の十個の願望」というのをとりまとめました。

(参考2)「新華社」のホームページ2007年11月3日アップ記事
「農民工の十大願望まとまる 最大の希望は老後の社会保障」
http://cq.xinhuanet.com/2007/2007-11/03/content_11576378.htm

 上記の「新華社」の報道によると、農民工の十大願望は以下のとおりです。

○都市部の人たちと同等の社会保障を得たい
○都市部の労働者と同等の賃金と福利厚生を得たい
○農民工の子女の入学に際しては学校は差別をしないで欲しい
○多くの職業ポストを提供し、定期的に専門の就職あっせん会を開催して欲しい
○使用者は法律で定められた祝休日や休息の権利を勝手に奪わないで欲しい
○都市部の戸籍に編入するための条件をゆるめて欲しい
○政府には廉価な住宅を提供して欲しい
○政府には一定の無料の職業訓練の機会を与えて欲しい
○都市部の市民には、農民工を尊重し、理解し、受け入れて欲しい
○政府には農民工の余暇生活を豊かにする施策を採って欲しい

 これについて、11月4日付けの北京の大衆紙「新京報」の社説では、「『農民工の十大願望』は、公平、正義、幸福な生活の追求の観点からは当たり前過ぎる事項であり、わざわざ改めてこのように取りまとめて提示することがニュースになること自体がおかしい、と主張しています。そしてこの「農民工の十大願望」が「農民工の日」にちなんで取りまとめられたのだとしたら、それこそ「毎日毎日を農民工の日」にすべきである、と、いつになく激しい調子で主張しています。

(参考3)「新京報」2007年11月4日付け社説
「全ての一日一日が『農民工の日』でなければならない」
http://www.thebeijingnews.com/comment/shelun/2007/11-04/021@080209.htm

 この社説では、農民工たちは、自分たちが都市部の経済的繁栄を支えているのに、妻や子と離れ、「地位低等」の位置に立たされていることをよくわかっているばかりでなく、戸籍制度に基づく一種の優越感によって都市住民から「二等国民」のレッテルを貼られていることをよく知っている、として、農民工の立場に立った主張を展開しています。農民工の実態に関する実情を表現する言葉として、上記の「 」でくくったような表現は外国のメディアでは使われることはありますが、中国国内の新聞でここまで「ズバリ」と表現したものは珍しいと思います。この社説は、社説執筆者のジャーナリストとしての正義感を感じる文章だ、と私は思いました。

 今、北京は、オリンピックの開催へ向けて、ビルや地下鉄などの大規模な工事が急ピッチで進んでいます。これら建設工事を支えているのは、農民工たちの労働力です。来年8月にオリンピックが開催される時点ではこれらの工事は山場を越えていることと、北京市内に留まる人数をできるだけ減らし、車の数も制限する必要があることから、オリンピック期間中は、今北京にいる農民工たちは、休暇を与えられて故郷へ帰されることになるのではないか、と言われています。このため、本来は、中国国内の各界、各層の人々の心をひとつにする役割を果たすはずの北京オリンピックが、必ずしも中国人民全体の求心力として働いていないのではないか、との見方をする人もいます。

 皮肉なことに、私が買った上記の社説が載っている「新京報」には、「○○基金の収益率138%、××基金の収益率147%。手数料はたった0.1%!」という証券会社の折り込み広告が挟まっていました。こういった広告を、農民工たちはどういった目で見ているのでしょうか。

 共産党大会は終わり、人民日報などでは「第17回党大会の精神を真剣に学習しよう!」などというキャンペーンの文字が躍っていますが、今後、「和諧」のためにどのような具体的な政策が採られていくのか、はまだ見えていません。ただ、中国の新聞紙上に農民工が望んでいることが具体的に掲載されるようになっている、ということは、たぶん、その願望が叶うような方向で今後政策が採られていくのだろう、という期待を与えてくれます。その期待が現実化することが、中国の今後の安定的な発展のカギだ、ということは、現在の中国の指導部をはじめ、みんなわかっています。もう既に「議論の時」は終わっていると思うので、具体的にどのような政策が採られていくのか、注目していきたいと思います。

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2007年11月 3日 (土)

北京大学の「三角地」掲示板の行方

 11月1日付けの「京華時報」は、北京大学のキャンパスの中にある「三角地」と呼ばれる場所にある掲示板が前日撤去されたことを伝えていました。

(参考1)「京華時報」2007年11月1日付け記事
「北京大学の三角地掲示板、撤去される」
http://epaper.jinghua.cn/html/2007-11/01/content_172048.htm

 大学側の説明によると、もともとここは学生の間の情報交換のための掲示板だったのだが、最近はほとんどが商業広告で占められてきており、本来の学生間の情報交換の役目を果たしておらず、しかもその商業広告の中にはニセモノの広告などの怪しげな広告も多くなり、北京大学のキャンパス内にいくつかの来年のオリンピックの競技会場となる施設も作られていることなどを考えて、構内環境の浄化の観点から撤去した、とのことです。上記の京華時報の記事によると、大学側は、その場所に電光掲示板を設置して、情報提供の役割を引き続き果たすようにしたいと考えている、とのことです。

 これに対しては、「三角地」は、様々な情報交換が行われてきた北京大学の「文化」のひとつである、として、撤去を惜しむ声が上がっています。11月2日付けの「新京報」の評論欄には、方維民という北京の学者が書いた「三角地の現状を保持することには今でも意義がある」と題する文章が載っていました。

(参考2)「新京報」2007年11月2日付け「馬上評論」の欄
「北京大学の『三角地』の現状を保持することには今でも意義がある」
http://www.thebeijingnews.com/comment/zonghe/1044/2007/11-02/011@074830.htm

 この文章の筆者は、北京大学の「三角地」は、多くの北京大学生が意見を発表し、情報を交換してきた場所であり、北京大学の文化のひとつのシンボルである、と指摘しています。また、この「三角地」が撤去された件について、寛容と批判の精神を北京大学の中でいかに継承していくかの観点で惜しむべきものであり、多くの人が考えるべき問題だ、とも指摘しています。

 また、11月2日付けの「新京報」の記事によると、「三角地」の掲示板の撤去は学内で大きな論争を引き起こしているとのことです。

(参考3)「新京報」2007年11月1日付け記事
「北京大学による『三角地』の撤去は論争を引き起こしている」
http://www.thebeijingnews.com/news/beijing/2007/11-01/011@082357.htm

 このように学内で論争になっていることから、2日に行われたシンポジウムの冒頭、北京大学の許智宏学長は、「三角地」を撤去した後、この一帯に「学生活動センター」を作ることも可能である、との考えを示した、とのことです。

(参考4)「新京報」2007年11月3日付け記事
「北京大学の『三角地』に学生センターを建設する計画」
http://www.thebeijingnews.com/news/beijing/2007/11-03/021@071251.htm

 来年8月に行われる北京オリンピックでは、卓球など一部の競技会場が北京大学のキャンパス内に建設されています(国としては土地が確保しやすいことと、オリンピック終了後は大学のスポーツ施設として使えるので、これは合理的な話だと思います)。また、オリンピックにおけるマラソンコースの一部は北京大学のキャンパス内を通ります。そのため、例えばマンホールの出っ張りでランナーがつまずかないようにするため、など、北京大学のキャンパス内の道路の補修工事などが急ピッチで進められています。10月29日からは、キャンパス内の道路補修工事による渋滞を緩和するため、大学関係者の車、お客を乗せたタクシー、事前に登録した車以外の車はキャンパスに入ることが禁止になりました。

 そういった動きの中では、乱雑で怪しげな商業広告があふれるようになってしまった「三角地」の掲示板を大学側が撤去した理由については、それなりの説得力があるのですが、学内での論争や北京の新聞の反応を見ていると、多くの人が「単なる乱雑な掲示板の撤去」ではないものを感じて、警戒心を持ったのではないかと思います。

 中国の現代の歴史の中で、北京大学の学生たちが果たした様々な役割は、人々の記憶に残っているところです。歴史上のどういう事態に、北京大学の学生がどのように関与したのか、について具体的な例を挙げることは、ここでは控えたいと思います。今回の「三角地」の撤去がオリンピックへ向けての単なるひとつの環境整備事業のひとつなのか、それとも「何かの始まり」なのか、それは私にはわかりません。ただ、私としては、「単なる掲示板の撤去」ではない「何か」を感じたので、この文章を書き残しておきたい、と思ったということを申し上げておきたいと思います。 

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2007年10月 6日 (土)

北京地下鉄:5号線開通と運賃値下げ

 現在、北京には、天安門前の長安街の下を東西に走る1号線、第二環状路(昔の城壁の跡)の下を走る環状の2号線、1号線の東の端から東郊外へ延びる八通線、2号線の北東・北西の部分から、北の郊外を逆U字型に結ぶ13号線の4つの地下鉄があります。明日(10月7日)、それに加えて、環状の2号線の東3分の1くらいのところを南北に貫く地下鉄5号線が開通します。それにあわせるように、北京地下鉄の値段は、今は1号線、2号線内は3元(約45円)、13号線に乗り換えると乗り換え料金が必要だったものを、どの路線にどれだけ乗っても一律2元(約30円)に値下げになります。

(参考1)「新京報」2007年10月1日付け記事
「地下鉄10月7日から、一律料金2元に」
http://www.thebeijingnews.com/news/beijing/2007/10-01/021@075111.htm

 当初、地下鉄5号線の開業は、9月20日に、とアナウンスされていたのですが、国慶節連休の最終日である10月7日(日)に延期になりました。開業延期の理由はよくわかりません。また、5号線は、開業するけれども1年間は試運転期間なのだそうで、その間、不具合が生じた場合には、必要に応じて改善していくので、その点、利用者の皆様の御理解を御願いします、と北京市当局は言っています。

 料金値下げの理由もよくわかりません。9月後半頃から、地下鉄料金を値下げする、という案が出され、公聴会なども開かれていました(注)。その結果、9月30日に急きょ、5号線を10月7日に開業すると同時に、料金の値下げを実施する、との発表がなされました。今回は、新路線の開通と料金の値下げの発表なので誰も文句は言っていませんが、中国の場合、こういった市民生活に大きな影響のある事項が、1週間くらい前に急に発表になることがあるので要注意です(8月に行われたナンバープレートの奇数・偶数による自動車の北京市内での通行制限も、実施の1週間前に実施が発表されたのでした)。

(注)この地下鉄料金に関する公聴会については、市当局からは「一律2元にする案」「初乗り料金を2元とし、距離によって料金を加算していく案」が提示されて議論がなされました。「新京報」の10月1日付け2面の「観察家」という欄で、北京大学社会学教授の鄭也夫氏は、この二つの案は不均衡であり、誰でも「一律2元の案」を指示するはずだから議論になるはずがない、これは最初から「1律2元にする案」ありきで公聴会が行われたのではないか、と、市当局の案の提示の仕方を批判する意見を書いていました。

(参考2)「新京報」2007年10月1日付け論評欄「観察家」
北京大学社会学教授鄭也夫氏の評論
「地下鉄運賃制度と公聴会」
http://www.thebeijingnews.com/comment/guanchajia/2007/10-01/021@080146.htm

 北京のバスや地下鉄は北京市の財政的支援の下で運営されていますので、赤字になったら市から財政的に補填すればよいので、料金はいかようにも設定できるのですが、今回の料金の値下げは、原油価格の高騰をはじめとする諸物価上昇という周辺状況を考えれば、かなり思い切った措置だと思います。値下げの理由は発表になっていないので、よくわかりませんが、ひとつはバス料金(原則1元、ICカード割引を使うと0.4元)との価格差を小さくして、地下鉄を使える人にはできるだけ地下鉄を利用してもらおう、という方針から来ているのだと思います。また、最近のいろいろな物価上昇に対する市民の不満を少しでも和らげるため、という考えもあるのかもしれません。今回の値下げで、北京の地下鉄料金は、中国全土の中でも地下鉄料金としては最低水準になる、とのことです。

 明日開通する5号線に加えて、現在、北京では、環状線の西側3分の1くらいのところを南北に走る4号線、第三環状路の下付近を北京市の東側から北西部まで走る10号線、10号線から乗り換えてオリンピック・メインスタジアムへ行けるようにする8号線、飛行場と現在運転中の2号線を繋げる飛行場線、の4つの路線で建設が進められています。飛行場線やオリンピック・メインスタジアムへ直結する8号線など主要なところは、来年のオリンピックの前までに開通することになるでしょう(公式な開通予定日時は伝えられていないし、今回の5号線のように、開通日時が一度アナウンスされた後で変更される可能性もあるので、いつ開通するのか、ということについては断定的なことは言えません)。地下鉄の開通は、バスの利用者が地下鉄に回るだけで、マイカー族は地下鉄は使わないので、交通渋滞の改善にはあまり効果はないのではないかと言われています。

 北京の地下鉄は、1971年に1号線が開通し、1987年に2号線が環状線としてつながった後、この20年間で、1号線の東側への延長、八通線の開通、13号線の開通があっただけですので、地上部分でのビル群の建設ラッシュに比べると、かなり整備のペースは遅いと言わざるを得ません。私が19年前の1988年7月に書いた文章に以下のような部分があります。

「・・・新聞報道によれば、現在、東西線を東へ延長して天安門前を横断して東郊外まで伸ばす線と、西北の頤和園付近から環状線の北半分を串差しにして東へ抜けて東北郊外にある北京空港までを結ぶ線、天安門を中心に北京を南北に縦断する線の3つの新しい地下鉄路線が計画されているという。新聞には『1990年代内の完成を目指す』と書いてあった。中国の人に言わせると『つまり完成は20年後でしょうね』ということになるが、・・・」

(参考3)このブログの筆者のホームページ「北京よもやま話」にある
「地下鉄に乗って」(1988年7月8日)
http://homepage3.nifty.com/itaru_watanabe/beijing/chikatet.html

 新聞に載っていた公式の見通しを無視して「完成は20年後でしょうね」と言っていた、当時の中国人の達見には恐れ入ります。地下鉄の路線計画も20年前にされたものと今とではだいぶ違っていることがわかります。オリンピックがなければ、多くの地下鉄の開業時期はもっと先に延びたでしょう。北京オリンピックが、少なくとも北京の公共施設に関して言えば、大きな促進要因になっていることは間違いないと言えると思います。北京オリンピックに対しては、いろいろな意見がありますが、オリンピックを契機に、こういった市民生活を支えるインフラが整備されていることは、よいことだと思います。

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2007年10月 4日 (木)

マナーの問題

 私が、

http://folomy.jp/heart/

の「テレビフォーラム」に8月11日にアップした文章をこちらのココログにも掲載します。

 folomyは、かつての@ニフティのフォーラムを運営していた人たちが集まって運営しているサイトで、メールアドレスを持っている方ならば誰でも無料で登録できます。私がfolomyに書いたものの再アップは、折りを見て時間のあるときに行います。従って、例えばfolomyに掲げた文章のアップは1か月程度遅れると思います。最新の文章を御覧になりたい方は、ぜひ、御自分で上記のアドレスからfolomyに登録して、御覧いただくよう御願いします。

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アップ場所: http://folomy.jp/heart/

「テレビフォーラム(ftv)」-「喫茶室『エフ』」-「『ドナウ川の蚊柱』の続き」

記載日時:2007年8月11日

【マナーの問題】

 8月8日に行われた北京オリンピック1年前の記念行事については、日本のテレビや新聞でもかなり大きく報道されたようです。日本での報道で「懸念される課題」として取り上げられたのは、「大気汚染」「交通渋滞」「食品の安全問題」「マナーの問題」などでした。来年のオリンピック期間中には、かなり大々的な交通規制や工場の操業休止などが行われると思うので、「大気汚染」と「交通渋滞」については何とかなるのじゃないか、と私は思っています。「マナーの問題」も、街を歩く観光客などの中には一部不愉快に思う人が出るかもしれませんが、オリンピック競技自体については、さすがに競技の実施の妨げになるようなひどい問題は起こらないだろうと私は思っています。

 中国では「マナーがなってなくてケシカラン」といちいち頭に来ているようでは暮らしていけません。中国は国土は広いですが、西部の砂漠や山岳地帯などの人が住めない部分が多く、人が住める東部のごく限られた地域を中心にして13億人が住んでいるのですから、他人に「どうぞ」と譲っていたのでは中国では生きていけないのです。親戚・知人同士で固く結束して「よそ者」を押しのける気力がないといけません。そういった中国の社会には「マナー」などという甘っちょろい発想が存在する余地はないのです。赤信号で立ち止まり、車の途切れるのを待つのではなく、信号が赤だろうが、車がこちらへ向かって来ようが、堂々と道路を横断する胆力がないと、目的地へはたどり着けないのです。

 ということで、経済的に苦しい立場にある多くの人民がマナーを守らなくても、私は仕方がないなぁ、と思うのですが、最近気になっているのは、経済的に豊かになった一部の人達にもマナーの悪い人が多いということです。私は北京でもよくボウリング場へ行きますが、ボウリングでは、隣のレーンの人がアプローチに立ったら、その投球が終わるまで待つのがマナーです。初心者はこういったマナーを知らないことも多いのでしかたがないのですが、中国ではマイ・ボールを持っている人もこのマナーを守らない人が多いのです。東洋系の顔立ちでマイ・ボールを持っている人が隣のレーンで投げている場合、日本人や韓国人だとすぐにわかります。こちらが先にアプローチに立つと「お先にどうぞ」と譲ってくれるからです。日本や韓国と違って、中国では、ボウリングは、かなりのお金持ちにしかできないスポーツなので、マイ・ボールを持っているような中国人ボウラーは、一種の「特権意識」のようなものを持っているのかもしれません。

 北京オリンピックで、一般の観客がブーイングをしたりするのは、まぁ、ある程度大目に見てやって欲しいなぁ、と私は思います。むしろ経済的に豊かになった一部の人たちがマナーの点でも中国全体をリードするようになって欲しいと思います。

(2007年8月11日、北京にて記す)

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2007年9月29日 (土)

北京の違法炭坑1000か所以上を爆破して封鎖

 今日(9月29日)付けの「新京報」によると、北京市当局は、オリンピック前までに北京市内に1,000か所以上あるとされる不許可炭坑を爆破して封鎖する方針を示した、とのことです。これらの違法炭坑では、許可なくダイナマイトを所有して採炭しているケースがあり、オリンピックの安全な運営のため、オリンピックの前にこういった違法炭坑は一掃しておきたい、ということのようです((注)行政区域としての「北京市」の面積は、岩手県より少し広く、四国より少し狭い程度の広さです)。

(参考1)「新京報」2007年9月29日付け記事
「オリンピック前に1,000か所以上の違法炭坑を爆破して封鎖」
~北京で違法炭坑取り締まりプロジェクトを展開、爆発物管理を強化~
http://www.thebeijingnews.com/news/beijing/2007/09-29/018@073403.htm

 上記の「新京報」のページには、最初に爆破・封鎖された違法炭坑の爆破された時の写真が載っています。上記のインターネット上の記事では省略されていますが、紙面上の記事では、写真に載っている爆破された違法炭坑は、坑道の深さが300メートル以上に達し、一日の採炭能力が50~60トンに上るもので、この炭坑を運営していた人は既に21日、警察に拘束されている、とのことです。

 中国は、石炭資源が豊富で、石炭層が地表近くにまで達しているところがたくさんあります。そのため、農家が仕事の合間に裏山で石炭を掘り出して小遣い稼ぎをやる、というようなところはたくさんあります。そういう零細規模のものも含めてだと思いますが、それにしても北京市内だけで1,000か所以上の違法炭坑があるとは驚きです。中国では(というかどこの国でも同じだと思いますが)、一定の手続きをしないで鉱物資源を採掘したら違法になります。「農家の小遣い稼ぎのようなものまで取り締まるのはいかがなものか」という考え方に基づいて今までは「大目に見てきた」のでしょう。しかし、坑道の深さが300メートル以上もある本格的な違法炭坑を放っておいた、というのは、「大目に見る」という線を越えて、取り締まり当局の怠慢、と言ってもいいのではないでしょうか。しかも、ダイナマイトを不法に所持している違法炭坑が多いのだがそれを「大目に見てきた」というのでは、政府の存在意義を疑いたくなるような話です。

 今年7月に遼寧省のカラオケ店で爆発が起こり25人が死亡する、という事故がありました。

(参考2)このブログの2007年7月6日付け記事
「遼寧省のカラオケ店の爆発で25人死亡」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/07/25_07f6.html

 この事故の原因は、カラオケ店の店主が炭坑も経営しており、ダイナマイトをカラオケ店の中に保管していたことだったようです。このカラオケ店の店主の場合、炭坑の経営自体は違法なものではなかったようですが、ダイナマイトをカラオケ店に保管していたのは、明らかに管理の仕方がまずかったと思います。

 違法な炭坑が多く、ダイナマイトの保管管理がずさんなところが多いのに、ダイナマイトがテロ行為などに使われることがない、というのは、中国が平和である証拠なのかもしれませんが、北京市内に違法な炭坑が1,000以上ある、それをオリンピックまでに封鎖する、という話は、「それじゃ政府は今まで何をやっていたのか」という気持ちを私に起こさせました。もし、オリンピックがなかったら、これらの違法な炭坑やダイナマイトのずさんな管理は、ずっと「お目こぼし」に預かり続けたのでしょうか。人民の安全な生活を守る、という基本的な点について、中国では政府がまだ十分にその機能を果たしていないのではないか、そんな疑問を私は最近持ち始めています。

 また、今まで「大目に見てきた」違法な炭坑を「オリンピックをやるから」という理由で急に方針を変えて、短期間に、しかも「爆破して封鎖」という強硬手段で取り締まろうというやり方は、妥当なやり方なのか、という疑問も湧いてきます。上記の「新京報」の記事によれば、違法な炭坑で働いていた農民工たちは、故郷へ帰るように勧奨されることになる、とのことです。オリンピックを理由に、こうした急激な取り締まり強化をすることは、これらの人々の間に「オリンピックさえなければ」という気持ちを起こさせることにならないか心配になります。

 これからオリンピックへ向けて、こういった「今までは大目に見てきた違法行為」の整理整頓が進められていくのでしょう。オリンピックを機会に、社会のいろいろな問題点が改善されていく、ということはよいことだと思います。しかし、それが急激かつ強権的なものになって、多くの人々の反感を買うようなことにならないように望みたいと思います。

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2007年8月25日 (土)

北京の流動人口は510万人

 8月21日付けの北京の大衆紙「新京報」によると、今年6月末時点で、北京市の戸籍人口は1,204万人であるのに対し、流動人口は510.7万人で、双方を合わせた北京の総人口は1,700万人を超える、とのことです。

(参考)「新京報」2007年8月21日付け記事
「部屋の賃貸登記制度、全国で実施へ~公安部、貸し主の治安責任とホテルの情報収集を更に厳格にする方針~」
http://news.thebeijingnews.com/0546/2007/0821/014@284963.htm

 北京市は、国の直轄市で、日本の「市」よりは相当に広い範囲をカバーする行政区域で、面積は約16,410.54平方キロあります。日本で言えば、岩手県よりちょっと広く、四国よりちょっと狭い程度の面積です。北京市政府は、基本的に戸籍人口の1,200万人を対象として様々な行政を行っていますので、実際に住んでいる人口の約3割に当たる510万人の人々は、住居、教育などの面で、北京市政府から行政上の支援を受けることができません。

 しかも、この「流動人口」は、北京市の市街地部分に集中していると考えられますので、北京市市街地での「流動人口」の割合は、北京市全体を平均した3割という数字よりもっと多いと思います。このため治安の維持が重要な問題となります。戸籍人口より多い数の人がいるため、北京市の警察だけでは十分な治安維持ができない可能性があるからです。このため、上記の「新京報」の記事では、各流動人口の出身地域の地方政府から警察要員を派遣してもらい、そられらの地方警察要員で流動人口の人々の治安に当たらせることを公安部は計画しているとこのとです。これは俗に「ふるさと警察」(中国語で「老郷警察」)と呼ばれている、とのことです。

 上記の「新京報」の記事では、地方の事情に通じた出身地の警察に取り締まりを任せることは「郷土意識」の観点ではいい面もあるが、各地の警察によって取り締まりのやり方が異なったりして公平性を欠くことになる可能性があるほか、外地から来ている人たちともともと北京に住んでいる市民との間の融合の妨げになる可能性もある、という社会学者の意見も紹介しています。

 いずれにせよ、来年の北京オリンピックは、実は、住んでいる人の3割は北京市民ではない、という街で開催されることになるわけです。

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2007年8月10日 (金)

北京で自動車使用規制の「実験」

 昨日(8月9日)、北京市関係当局は、市内を流れる自動車の数を減らすことがオリンピック期間中の大気汚染軽減にどの程度効果があるのかを測定するため、8月17日(金)から8月20日(月)までの4日間、ナンバープレートの番号による車両通行規制を実施することを発表しました。17日と19日はナンバープレート番号の下一桁が奇数の車のみ、18日と20日は偶数の車のみが市内での通行を認められます。救急車、消防車、警察などの緊急車両、バス、タクシーなどの公共車両、各国大使館車などの特別な車両は規制の対象からはずされます。北京市当局によれば、番号による車の制限を行う一方、政府関係機関の業務時間を通常より1時間前倒しにしたり、大型商店の閉店時間を遅らせたりして、出勤時、退勤時のピークをできるだけ小さくすようにするほか、バスや地下鉄の運行本数の増加などを行い、市民の足にはできるだけ影響が出ないようにする、とのことです。

 当然のことながら、このニュースは、今日(8月10日)付けの北京の地元新聞の1面トップのニュースでした。

(参考1)「北京晨報」2007年8月10日付け記事
「自動車、番号の奇数偶数によって使用を規制」
http://www.morningpost.com.cn/article.asp?articleid=120570

(参考2)「新京報」2007年8月10日付け記事
「17日から20日まで自動車はプレートの奇数偶数によって使用を規制」
http://news.thebeijingnews.com/0546/2007/0810/018@282592.htm

 中国の普通の企業などは、学校や大学の関係のところを除けば、「夏休み」の習慣はあまりないので、8月17日(金)~20日(月)も「普通の週末」のひとつです。従って今回の車の使用規制の「実験」の影響はかなり大きいと思います。北京の車のうち通勤に使われている「マイカー」がどのくらいの割合なのか私はよく知りませんが、上記の北京晨報の記事では、現在登録されている305万台の車のうち約130万台が止まることになる、と予測しています。北京の場合、地下鉄は、東西に走る1号線と八通線、第二環状路の下を走る2号線、北の郊外を逆U字型に走る13号線しかまだ開通していませんので、地下鉄で行ける場所は限られます。従って、番号による車両制限が行われると、いつもは車で通勤している人の半数のうちかなりの部分の人がバスやタクシーで通勤することになるわけですので、バスがどの程度混むことになるのか、タクシーがどの程度つかまらなくなるのか、ちょっと予想がつきません。

 こういった「実験」は、8月にやることになるだろう、とは前々から言われていたのですが、具体的な日程や、どういう制限の仕方にするのかなどは、全く決まっていませんでした。実施の約一週間前の昨日、突然に発表になったので、私も予定を再調整するためにちょっとあわてました。会議や打ち合わせの予定を変更した人もいたと思います。北京で働く日本人の中には、今、お盆休みで日本に帰ったりしている人も多いので、このニュースを知らない人も多いかもしれません。いつも奇数番号の車を使っている人は、お盆明け直後の20日の月曜日には車が使えないことになるので、ちょっと対処が大変だと思います。大気汚染軽減のためならばこういった「実験」も仕方がないと思いますが、私としては、1か月くらい前から予告して欲しかったなぁ、と思いました。

 屋根に会社名などが入った北京のタクシーは、メーター制で基本的に安心して乗れるので、タクシーが使えるのならば問題ないのですが、もし6.6万台あると言われる北京のタクシーよりも利用客が大幅に多くなった場合は、タクシーがつかまりにくくなるので、不許可タクシー行為(日本で言う「白タク」、中国語でいう「黒車」)が横行するのではないかとちょっと心配です。普段でも、雨が降り出した直後は、みんなが一斉にタクシーを拾うので、一時的にタクシーを捕まえるのが非常に難しくなることがあります。ですから、もし仮に車両規制の期間中の朝夕のラッシュ時に雨が降ったりすると、徒歩や自転車で通勤しようと思っていた人もタクシーを拾う可能性があるので、ちょっとした混乱も予想されます。8月17日~8月20日の期間中に観光旅行などで北京訪問を計画されている方は、お気を付けくださいませ。

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2007年8月 9日 (木)

なぜ8月8日に内モンゴル自治区成立60周年記念式典なのか

 昨日(8月8日)、北京でオリンピック1年前の記念行事が行われているまさに同じ日、内モンゴル自治区の首都フフホトでは、内モンゴル自治区成立60周年記念式典が開かれました。この60周年式典には、中国共産党政治局常務委員で国家副主席の曽慶紅氏(党内序列ナンバー5)を団長とする中央からの代表団が参加しました。

 内モンゴル自治区は、中華人民共和国が成立する2年前の1947年に成立しており、いわば中華人民共和国成立の先駆となった自治区ですので、その設立60周年をお祝いする式典が行われるのは別におかしくはありません。しかし、内モンゴル自治区が成立したのは1947年の5月1日です。

(参考)内モンゴル自治区人民政府ホームページ内「人文歴史」のページ
http://intonmg.nmg.gov.cn/rwls/index.htm

その成立60周年記念式典を、なぜわざわざ北京オリンピック1年前の式典をやる8月8日にぶつけてやる必要があったのか、私には非常に疑問に思えるのです。

 8月8日の夜7時からの中国中央電視台のニュース「新聞聯播」では、トップニュースがこの内モンゴル自治区成立60周年記念式典で、2番目が北京オリンピック1年前記念行事のニュースでした。8月9日付けの人民日報や経済日報の1面トップ(第1面の左側)はやはり「内モンゴル自治区記念式典」で、「オリンピック記念行事」は1面の右側半分の扱いでした。8月9日夜のニュース「新聞聯播」は、トップニュースで「中国共産党の省、市、県、郷の各地方レベルの党幹部が順調に決まった」というニュースを伝えた後、2番目に昨晩(8月8日)のオリンピック1年前記念行事、続いて3番目に今日(8月9日)行われた内モンゴル自治区民族団結表彰大会の様子を伝えていました。中央電視台の第一チャンネル(総合チャンネル)は、昨日はオリンピック1年前記念行事をずっと生中継していましたが、今日は夜8時からは内モンゴル自治区成立60周年記念特別番組を放送しています。どう考えても、全国ニュースのレベルでは、内モンゴル自治区のニュースでオリンピックのニュースを薄めようとしているように思えてなりません(なお、8月9日付けの北京晨報、新京報など北京の新聞は当然ながらオリンピックの話題が1面トップです)。

 私が4月に中国に来て感じたのは、日本にいたときには「きっと中国は来年へ向けてオリンピック・ムードで一色だろう」と思っていたのだけれども、実際に来てみると必ずしもそうでもない、ということです。上記のニュースの流し方を見ていると、中央政府は、むしろ北京だけが「オリンピック!オリンピック!」と盛り上がることがないようにして、中央政府は常に他の地方のことも考えていますよ、というメッセージを出したいと考えているように感じました。もしかすると、中国国内には、貧しい農民のことを後回しにして何が何でもオリンピックを成功させようとしている中央政府に対する不満があって、中央政府もそれを気にしていて、オリンピックが全てではない、というメッセージを全国の人民に出そうと努めているのかもしれません。

 昨日(8月8日)のオリンピック1年前行事は、一部はBBCワールドやCNNでも生中継をしていました。それだけ世界が注目している北京オリンピックなのに、中国国内では「内モンゴル自治区成立60周年記念式典」がトップニュースだったことに、私としては非常に奇異な感じを受けたのでした。

 内モンゴル自治区成立60周年記念式典とそれに関連する行事のニュースが続くので、これらに出席している曽慶紅国家副主席の顔が何回もテレビに登場しました。オリンピック1年前記念式典に出たのは、中国共産党中央委員会常務委員、国務院副総理、全国人民代表大会委員長の呉邦国氏(党内序列ナンバー2)でした。そのため、この二人の顔がここ二日のテレビのニュースを独占しています。

 一方、胡錦濤総書記・国家主席(党内序列ナンバー1)と温家宝国務院総理(党内序列ナンバー3)は、なぜか今週月曜日から全くテレビのニュースに出てきていません。それが何を意味するのか私にはよくわかりません。胡錦濤主席は、来週17日からロシア・キルギスタン訪問という外交日程を控えているので、今週は夏休みを取っているのかもしれません。あるいは秋の党大会へ向けていろいろ水面下で動いているのかもしれません。中国では国家指導者が夏休みを取ってもニュースとして流れないので、実際に夏休みを取っているのかどうか私には確かめるすべがないのです。

 私には「内モンゴル自治区成立60周年記念式典」をなぜわざわざオリンピック1年前行事と同じ時期にぶつけて開催したのか、それが何を意味するのか、結局はわかりませんでした。単に今の時期は内モンゴル自治区は緑の季節で気持ちがよいし、8月なので国家指導者のスケジュールも取りやすかっただけ、という単純な理由なのかもしれません(でも、それにしても、内モンゴル自治区成立60周年記念式典をオリンピック記念行事とドンピシャの同じ日にぶつける必要はなかったと思います)。

 いずれにせよ、正確な情報が正式には伝えられず、こういうふうにいろいろな周辺状況から「ウラを読む」という毎日が続くと疲れます。中国も、早くもっと率直にいろいろな情報が自由に流通する国になって欲しいと思います。

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2007年8月 8日 (水)

大気汚染と北京オリンピック

 今日(2007年8月8日)は、北京オリンピック開会式1年前の日です。今日は、北京ではオリンピック開始1年前の様々なイベントが行われました。テレビでその関連のニュースを御覧になった方は気が付いたかもしれませんが、今日も北京は晴れていたのですが、白くもやっていて何となく空気がかすんだ感じのする1日でした。もやのきつい時間帯では晴れているのに影ができなていないのがテレビの画面でもわかったと思います。私は8月8日は工場などを休みにして大気汚染をその日だけでもよくするのかなぁ、と思っていましたが、だいたいいつもと同じでしたね。今日の中国国家環境保護総局の「各都市の空気汚染日報」によると、空気汚染指数は88で、汚染等級はIIでした(101以上が「軽微汚染」なので、88だと「良」になります)。

 オリンピックの開会式は2008年8月8日夜8時8分からなのだそうで、これは「末広がり」の8が並んで縁起がいいからなのだそうです。でも、私のような「ひねくれ人間」は、8月8日の夜8時過ぎだと、周りはもう暗くなっているので、大気汚染が目立たなくて済むのでそれを狙ったのかなぁ、などと思ってしまいます。私には1964年10月10日の東京オリンピック開会式の時の青空が印象に残っているので、やっぱりオリンピックは青空の下でやって欲しいなぁ、と思っています。

 最近、中国国家環境保護総局の「各都市の空気汚染日報」のページ

http://www.sepa.gov.cn/quality/air.php3

では、の下の方に都市名と期間を入れると任意の都市のこれまでの任意の時期の大気汚染の状況が見られるようになりました。北京は8月に入って毎日のように雷雨が降っているのですが、大気汚染はあまりよくなっていないことがわかります。この環境保護総局のページは、中国の大気汚染をモニターするのには非常に便利だと思います(こういうふうにインターネット上で情報が公開されるようになってきていることは評価すべきなんでしょうね)。

 私はオリンピックをやる8月には少しは大気汚染は改善すると思ったのですが、あまり改善されていないようです。そういった意味もあり、北京の大気汚染に関連して、私が、

http://folomy.jp/heart/

の「テレビフォーラム」に6月25日にアップした文章を今日のこちらのココログにも掲載します。

 folomyは、かつての@ニフティのフォーラムを運営していた人たちが集まって運営しているサイトで、メールアドレスを持っている方ならば誰でも無料で登録できます。私がfolomyに書いたものの再アップは、折りを見て時間のあるときに行います。従って、例えばfolomyに掲げた文章のアップは1か月程度遅れると思います。最新の文章を御覧になりたい方は、ぜひ、御自分で上記のアドレスからfolomyに登録して、御覧いただくよう御願いします。

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アップ場所: http://folomy.jp/heart/

「テレビフォーラム(ftv)」-「喫茶室『エフ』」-「『ドナウ川の蚊柱』の続き」

記載日時:2007年6月25日

【大気汚染と北京オリンピック】

 日本のテレビではあまり紹介されていないと思いますが、先週の北京に青空はありませんでした。空を見上げると太陽がまるで満月のように透けて見えます。雲はないのですが、空がうっすら茶色がかった白い色をしているのです。国家環境保護総局の発表によると、先週の北京の大気汚染の主要原因は「可吸入顆粒物」だ、とのことです。

 私は20年前にも北京に住んでいたことがありましたが、その当時も冬や早春にはそういう日も結構ありました。原因は、暖房用の石炭を焚く煙と黄砂でした。でも、20年前は、5月、6月は、基本的にスカッと晴れてきれいな青空が広がっていた日が多かったと記憶しています。四合院風の昔のお屋敷を改造したホテルなどでは、昼間は、中庭の庭園にテーブルを出して、太陽の光に輝く新緑の下で食事を楽しんだりしたものでした。

 大気汚染の原因は、暖房や火力発電で石炭を焚いた煙、工場のばい煙、自動車の排ガス、工事現場で巻上がるほこり、などが考えられています。日本の高度経済成長期の公害もひどかったですが、今の中国ほどひどくはなかったと思います。三井物産戦略研究所中国経済センター長の瀋才彬氏は、今の中国の経済を「爆食経済」と形容しています。エネルギーや自然環境をばくばく食べて、経済成長している、という意味です。自然環境も食い尽くして行ったら、どこかで限界が来ます。先週火曜日のような視界500mの汚染度IV(1)(中度汚染)の日を経験すると、その限界が結構近くまで来ているような気がします。

 問題は、来年のオリンピックの時に、この大気汚染がどうなっているか、です。オリンピックが開催されるのは8月ですので、少しは湿度が高いので、大気汚染も少しはマシになるだろう、とか、交通渋滞緩和のため、政府がオリンピック開催期間中は工場などの操業を休止させるだろうから大丈夫だ、という楽観論もありますが、どうなるかよくわかりません。もし、先週のような大気の状態の中でオリンピックをやったとしたら、マラソンはかなりキツイと思うし、激しい運動を伴うサッカーなども大変だと思います。

 日本の国立環境研究所が中国側と共同で実施した研究によると、中国の大気汚染は、ごく小さな浮遊微粒子が原因なので、室外も室内もそれほど違いがない、という結果が出ています。従って、この大気汚染は、水泳やバスケットボールなどのなどの激しい呼吸を伴う室内競技にも影響が出る可能性があります。

 瀋才彬氏が言う「爆食経済」、即ち、自然環境が持っている余裕を食いつぶしながら成長していく経済は、タコが自分の足を食べているようなものです。韓国や日本への越境汚染も問題になっていますが、オリンピックを契機にして、この汚染を本気で何とかしないと、中国は結局は自分でそのツケを払わされることになると思います。

※瀋才彬氏の名前は、時折誤って「沈才彬」と表記されることがあります。「沈」は「瀋」という字の中国式の簡体字です。従って、日本語の表記の中で書く場合には「瀋才彬氏」と書くのが正しいのです。「瀋」氏は、英語表記は Shen であり、日本式に発音するとすると「シン」であって「チン」ではありません。

(参考1)イヴァン・ウィルのブログ(ココログ)
2007年6月19日付け記事
「北京の今日の大気汚染度はIII(1)級(軽微汚染)」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/06/iii1_5bc5.html
「6月19日の大気汚染度はIV(1)級(中度汚染)」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/06/619iv1_d1e6.html

(参考2)国立環境研究所の研究情報誌「環境儀」No.21:2006年7月号
「中国の都市大気汚染と健康影響」
http://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/21/21.pdf

(注)6月25日にfolomyに掲載したときは以下の2つの新聞記事も参考としてリンク先を掲げたのですが、既にリンクが切れているので、ここでは見出しだけを記載しておきます。

○スポーツニッポン2007年6月7日付け記事
「前が見えない! 浦和 敵は大気汚染」

○スポーツニッポン2007年6月8日付け記事
「辰也奮闘も・・・浦和 大気汚染に負けた」

(2007年6月25日、北京にて記す)

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2007年7月26日 (木)

この大気汚染の中で野球はできるのか

 今日(7月26日)の北京は視界約500メートルでした。空気汚染指数(API)は151で、汚染の等級はIII(2)級「軽度汚染」だった、とのことです。

※中国国家環境保護総局が毎日出す「空気質量日報」及び空気汚染指数(API)の定義などについては、私のこのブログの6月19日付けの記事

「北京の今日の大気汚染度はIII(1)級(軽微汚染)」
http://ivanwil.cocolog-nifty.com/ivan/2007/06/iii1_5bc5.html

を御覧下さい。

 今日も、晴れてはいるのですが、空全体が真っ白で、上を見上げると、太陽が満月のように透けて見えました。気温は33度程度で、かなり湿度も高かったようです。5月のメーデー連休に青空があった以降は、この7月末まで、空が青かった日は、合計して3~4日しかなかったように記憶しています。

 今日の昼間、「鳥巣」と呼ばれるオリンピック・メインスタジアムのすぐそばの北四環路を通りましたが、鋼鉄製の灰色の巨大な「鳥巣」は全体がかすんで見えました。この巨大な構造物は、灰色の汚染空気の中では全然映えません。やっぱりバックはすっきりした青空じゃないといけないなぁ、と思いました。

 今日は汚染による「もや」が相当に濃かったので、今日のような状態の中でサッカーをやったら観客は相当ボールが見えにくいだろうと思います。野球をやった場合には、フライが上がると外野手がボールを見失うのではないか、と思うほどでした。もし、今日のような大気汚染と33度の気温の中でマラソンをやったら、選手は相当に健康を害すると思います。

 ただ、北京オリンピックは来年の8月8日からで、マラソンをやる8月の後半になれば、だいぶ朝晩は涼しくなるはずだ、という見込みもあります。また、そもそもオリンピック開催期間中は、ちょうど夏休みシーズンでもあり、政府が統一的に指導して、多くの工場を休業にするだろうし、自動車の乗り入れ制限も相当強力にやると思うので、今日のような大気汚染は、オリンピック期間中には出現しないのではないか、と言われています。きっと北京オリンピックは青空の下で競技が行われることになるのでしょう。ただ、もしそうだとすると、世界中の人に、「それが北京の普段の姿なのだ」と思って欲しくないなぁ、と私は思います。何千万人の人が、いつもは、この真っ白い汚染された大気の下で暮らしていることを、もっと世界の多くの人に知ってもらいたいと私は思っています。

 もっとも、そんな他人のことを言うより前に、来年の夏のオリンピックの時期まで、この大気汚染の中で、そもそも私の健康が維持できるのかどうか、そちらの方が最近は心配になってきました。

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2007年7月25日 (水)

北京オリンピック期間中ホテル代は8倍以上に

 オリンピックの期間中、北京のホテル代等は高騰するだろうと言われていますが、北京の大衆紙「新京報」が調査した結果によると、現時点で予約を取っているホテルでは、通常の価格の8倍以上の値段で予約を受け付けているところがあるそうです。

(参考)「新京報」2007年7月24日付け記事
「240元の客室がオリンピック期間中は2000元に」
http://news.thebeijingnews.com/0558/2007/07-24/021@278414.htm

 北京オリンピックの開幕(2008年8月8日)まで、まだ1年以上あるので、お客がどれくらいくるのかまだ見えてきていないところがありますが、「新京報」が現時点で聞き取り調査をした結果、回答が得られた37のホテルのうち17のホテルでは、既にオリンピック期間中の予約を受け付けている、とのことです。北京のホテルは星の数で一つ星級から五つ星級までの5段階にランク付けされていますが、三つ星級ホテルで標準的な値段が1泊240元(約3,840円)の客室がオリンピック期間中は1泊2,000元(32,000円)にまで値上がりしていることろがあるそうです。五つ星クラスだと、オリンピック期間中は通常の約3倍を超える1泊4,000元(64,000円)~5,000元(80,000円)程度の値段がついている、とのことです。

 また、新京報が調査した既に予約を始めているホテルの過半は、予約時に宿泊費の一部又は全部の支払いを要求しており、キャンセルした場合は、既に支払った料金は返さない、といった契約にしているところもあるそうです。

 上記の記事には書いてありませんが、私が聞いた範囲では、1年契約のアパートなどでも、オリンピック期間中を含む契約期間で契約する場合は、通常より高い特別料金の家賃を要求されたり、オリンピック観戦等にとって交通の便利な場所のアパートについては、オリンピック期間中を含む場合は契約更新そのものをしない(オリンピック期間中は特別料金で別の人に貸すため)といったケースも出てきているようです。

 オリンピックは、本来は現地に住んでいる人にとっては、胸の沸き立つ、楽しい、うきうきしたイベントのはずなんですが、そういった「盛り上がる雰囲気」より(これは外国人である私が勝手にそう思っているだけですが)「ちょっと勘弁して欲しいなぁ」という気分の方が大きくなっている今日この頃です。

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