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2024年5月11日 (土)

マンション購入制限措置全廃は問題解決に繋がるのか

 メーデーの連休が明けた後の5月9日までに、杭州と西安でそれまであった住宅購入制限措置が全廃されました。中国の各都市においては、投機目的による住宅購入を抑制するため、住宅購入に関しては「購入できるのはその都市の戸籍を有する者に限る」とか「その都市以外の戸籍の者も購入できるが、三年以上その都市に定住して社会保障費用を継続して支払っていることを条件とする」とか様々な制限が掛かっていました。しかしながら、住宅販売の低迷が深刻化していることから、これらの「住宅購入制限措置」を全廃する都市が南京、成都、武漢、寧波などと続いていました。今般、杭州と西安が全廃したことで、「住宅購入制限措置」が残っている都市は一線級都市(北京、上海、広州、深セン)と天津、珠海(広東省)の6都市だけとなりました。これら残っている6都市でも「住宅購入制限措置」が残っているのは、例えば北京の場合なら五環(第五環状線)の内側だけ、といった特定の区域だけなのだそうです。

 これまで中国政府は「住宅は住むものであって投機の対象とすべきものではない」という方針を打ち出し、投機目的の住宅購入を抑制するための様々な制限を講じてきました。しかしながら、住宅の販売不振の傾向が止まらないことから、こうした投機目的の住宅購入を抑制する措置は段々緩和されてきたのでした。今回、6都市以外の全ての都市での住宅購入制限措置が全廃されたことで、中国の多くの人はハッキリとは口では言いませんが、「中国政府はもはや『投機目的であっても住宅を買ってよい』というように政策の方向転換をしたのだ」と感じているようです。

 住宅購入制限措置を全廃する都市が相次いでいることに対しては、中国の人々も非常に高い関心を持っているようです。今日(2024年5月11日(土))私が閲覧したテンセント網・房産チャンネルにアップされていた解説動画では「緊急特集」と題して「多くの都市での住宅購入制限措置全廃が今後の住宅市況にどういう影響を与えるのか専門家に解説してもらいました」という内容のものでしたが、私が見た時点はこの動画がアップされてから一時間ちょっとしか経過していなかったにもかかわらず、既に「23万人が視聴しました」という表示が出ていました。

 中国国家統計局が発表した主要70都市の住宅価格動向によると、2024年3月は、新築住宅については価格が対前月比で下落してるのが57都市、対前年同月比で下落しているのが58都市、中古住宅については価格が対前月比で下落しているのが69都市、対前年同月比で下落しているのが70都市(全ての都市で下落している)とのことです。こうした中、ある解説動画によると、ある都市で住宅購入制限措置の全廃が発表された翌日には、不動産仲介業者への問合せ電話が殺到したとのことです。

 これらの解説動画で専門家の人たちがアドバイスしているのは「結婚などのために今すぐ家が欲しい、といった事情がないのであれば、市場の動向やどういう政策が今後出されるかを冷静に見極めるべきだ」というものが多くなっています。

 4月30日に開催された中国共産党政治局会議において、中期的な経済政策を議論する三中全会(中国共産党中央委員会第三回全体会議)を7月に開催することが決まったことから、この7月の三中全会において、不動産バブル崩壊に対する何らかの大きな政策が打ち出されるのではないか、という期待も高まっているようです。また、「住宅購入制限措置」を全廃する都市が相次いでいることは、中国共産党もようやく不動産バブル崩壊対策に本腰を入れ出したようだ、と受け取る人も多いようで、そのためかメーデー連休明けの上海や香港の株式市場の株価は大幅な上昇を見せています。

 住宅購入制限措置の全廃が相次いでいることについては、今後「不動産バブル崩壊対策」として効果的な政策が出てきそうだ、と期待する見方と、対症療法に過ぎず、根本的な解決策になっていない、という冷めた見方の両方があるだろうと思います。私は後者の見方をしています。その理由は以下の通りです。

○住宅購入制限措置は「投機目的の住宅購入を抑制するためのもの」だったわけだが、それを全廃することは「投機目的で住宅を買ってもいいですよ」というメッセージにほかならない。しかし、現在の新築及び中古マンションの価格の下落は、マンション等の供給が需要を上回っていることを如実に表しており、需要が弱くて在庫がはけない現状において投機目的でマンションを買おうという人が数多くいるとはとても思えない。

○不動産バブル崩壊対策として住宅購入制限措置の全廃を進めるのであれば、それは「バブルに対処するのに新たなバブルを作ることをもってする」ということであり、根本的な解決策にはなっていない。2014年にマンション・バブルがはじけかけた時、中国政府は投機資金が株式市場に向かうように仕向けたが、上海株式市場では株価は急上昇した後、2015年6月をピークとして暴落した(結果的にそれが「中国発世界同時株安」(いわゆる「チャイナ・ショック」)となった)。マンションと株のバブルがはじけたことに対して、習近平政権は2017年4月に雄安新区(北京に隣接する河北省に新しく副都心を建設するプロジェクト)を打ち出し、まさに「バブルに対処するのに新たなバブルを作ることをもってする」を実践したが、それが根本的な解決にはなっておらず、さらに大きくなって2021年以降不動産バブルが本格的に崩壊したことは中国内外の誰もが知っていることである。

○住宅購入制限措置の全廃は、2016年暮の中央経済工作会議で打ち出された「住宅は住むためのものであり、投機目的で売り買いするためのものではない」(中国語では「房子是用来住的、不是用来炒的」)を取り消すことに等しい。例えば「ゼロコロナ政策」をある日突然撤回するなど、中国共産党の政策は何の説明もなしにある日突然ひっくり返されることはよくあることなのだ、と言えばそれまでだが、このような重要な政策方針を何の説明もなく突然真逆の方向に転換することが相次ぐと、どんな政策を打ち出しても中国の人々や外国企業は「どうせまた時間が経てばこの政策はひっくり返るんでしょ」と考えて中国共産党の政策を信用しなくなる。こういう事態が続くと、中国共産党がどのような政策を打ち出しても誰もその政策の継続性を信用しなくなり、結果的にどのような政策も有効な効果をもたらすことができなくなるおそれがある。

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 このブログでも何回も書いてきましたが、不動産バブル崩壊のような危機的な状況に対しては、対症療法的な個別の政策を小出しにしていては効果は上がりません。昨年(2023年)7月の中国共産党政治局会議では二軒目の住宅購入のための住宅ローンに対する制限措置を緩和しました。また、住宅購入制限措置の全廃も、各個別都市でさみだれ式に打ち出されています。このように「対策を小出しにさみだれ式に打ち出すと効果が出ない」ということは世界の政策担当者はよく知っていることです。2013年4月に異次元の量的質的金融緩和を始めた日銀の黒田総裁(当時)は記者会見で「戦力の逐次投入はせず、現時点で必要な政策をすべて講じた」と述べました。政策を小出しにしても効果が出ないことを知っていたからです。中国共産党による不動産バブル崩壊対応策は、政策の打ち出し方からしてあまりに拙劣に過ぎると思います。

 「習近平氏に直言できる経済ブレーンがいない」「習近平氏自身が明確な政策方針を自分の言葉で語らない」「打ち出される対策が小粒のものばかりで、しかもタイミング的にさみだれ式に出されるため、効果があるようにはとても見えない」ことから、「中国の不動産バブル崩壊は日本の平成バブル崩壊と同じようなことにはならない。日本よりもっとずっとひどいことになる。」という認識が多くの人の間で広がっているようです。中国経済に詳しい柯隆氏も、最近出版した「中国不動産バブル」(文春新書)や「文藝春秋」最新号(2024年6月号)の中に掲載されている座談会の中で似たような認識を示しています。

 この一週間、中国の貿易統計が改善した(5月9日発表)、消費者物価がややプラスに持ち直した(5月11日発表)、といった経済統計が出ていることから、中国経済は底を打ったのではないか、という見方も出始めているようです(だからこそ上海や香港の株価が上がっているのでしょう)。しかし、上に書いたように、私は中国経済の先行きについては決して楽観視してはいけない、と考えています。

 

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