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2024年4月 6日 (土)

中国の不動産バブル崩壊対応は対症療法ばかり

 4月1日にブルームバーグ通信が報じた中国房産信息集団(CRIC)の速報データによると、中国の大手不動産企業100社の2024年3月の新築住宅販売額は前年同月比46%減だったのだそうです。2月は対前年同月比60%減だったので、それよりは減少幅が縮小したとは言えるのですが、春節が終わっても中国の新築マンション販売の低迷は回復の兆しが見えていないようです。

 そうした中、テンセント網・房産チャンネルで話題になっている最近の住宅政策の変化に以下のようなものがありました。

○広東省深セン市で「9070政策」を撤廃。

○北京市で離婚後の夫婦は離婚後三年間はマンションを購入してはならないという制限を撤廃。

 「9070政策」(「7090政策」と呼ばれることもある)は、住宅開発会社が地方政府から土地を購入して住宅開発をする場合、建設する住宅のうち90平方メートル以下のものを70%以上にする必要がある、という政策です。90平方メートルを超える住宅は一種の「ぜいたく」であり、あまり所得の多くない人も買えるような実際に住むための90平方メートル以下の住宅をたくさん建設べきだ、という考え方から出てきた政策です。2006年頃からいろいろな地方で導入されてきた政策のようです。

 「離婚後の一定期間のマンション購入禁止」は、既に住むためのマンションは保有しているが投資用として二戸目のマンションを買いたい夫婦が「一世帯で買えるマンションは一戸まで」という制限をかいくぐるため、「偽装離婚」して「二世帯になったのだからマンションは買えるはずだ」と主張してマンションを買うことを防ぐための措置です。この措置は、「偽装離婚」ではなく、実際に夫婦が不和になって離婚した場合でも適用されるため、離婚後に住む場所を購入できないケースが出たりして評判の悪い政策でした。

 これらの「制限撤廃」は、「マンションが売れなくて困っているので、販売を制限するような政策はどんどん撤廃しよう」という流れの中で出てきたものですが、前者は明らかに「90平方メートル超の大きめの(ちょっとぜいたくな)住宅を大量に建設して販売しても構わない」というものですし、後者は「偽装離婚して投資用マンションを買ってもいいですよ」と政府が承認しているようにも聞こえます。「マンションが売れない」という現状に困った政府がなりふり構わずマンション販売促進をしたいと考えているのがミエミエの政策変更であると言えます。

 中国共産党は現在でもタテマエ上「マンションは住むものであって投機対象としてはならない」と主張していますが、これまでも実際のマンション販売のかなりの割合は投資用だったこともあり、これらの政策変更は、マンション販売の不振に直面して「投資用でも何でもいいから買ってくれ」と言っているようにも聞こえます。こういった政策変更は、中国共産党自体がマンション販売の供給量が需要を大きく上回っていることを認めていることになるので、そうであれば今後マンション価格が上昇することは考えにくいので、「投資用として買ってもいいですよ」と言われても投資用に買う人が増えるとも思えません。これらの政策変更は「苦し紛れ」のように見えます。

 投資用も含めてマンションに対する需要が強くてマンション価格が上昇を続けていた頃には「マンションは投資用としては買うな」と主張し、政策的にも「共同富裕」を打ち出して一部の高所得者層が資産運用のためにマンションを購入することを批判するようなことを言っておきながら、バブルがはじけてマンション価格が下落しマンション販売が低迷するようになると「投資用でもいいからもっと買って」と勧めるような政策変更をし、「共同富裕」という理念も引っ込めた感じになっている中国共産党のやり方は、中国の人々から見ても「ご都合主義」「その場しのぎの対症療法」と見られているのではないかと思います。

 昨年秋頃から中国では、マンションの販売数が減少しマンション開発企業の収入が減って建設代金が払えなくて建設途中で工事がストップしてしまうマンション(爛尾楼)が多発している問題に対処するため、「ホワイトリスト」を作成して銀行にマンション開発企業への融資を促す政策を採っています。この政策自体、「マンションが売れないのならマンション開発企業は融資を受けた銀行にどうやって借金を返すのか」ということを考えていない「その場しのぎ」の政策だと言えます。また、マンション開発企業に土地を販売できなくなって財政が苦しくなった地方政府を救うため、中央政府は地方債の発行枠を増やしたり、中央政府が国債の発行を増やして地方政府に融通する資金を確保したりしていますが、将来にわたって地方政府の収入が増える方策を考えないのであれば、地方債や国債を償還するための資金を確保するメドは立たないことになります。これも「とりあえず借金して今の苦しい状況を何とかする」という「その場しのぎ」の政策だと言えます。

 「とりあえず借金してその場をしのぐ」というやり方は、政府だろうと企業だろうと個人だろうと、貸し手から「どうもあいつからは金を返してもらえなさそうだ」と思われた瞬間、新たな借金をすることができなくなって破綻します。今まで、多くの人は「中国共産党ならなんとかするさ」と思ってきたのですが、そろそろ「中国共産党と言えども借金が返せなくなりそうだ」と皆が気付き始めるタイミングが近づきつつあるように思います。

 各国の中央政府は、その国の通貨の紙幣を無限大に印刷できる中央銀行を抱えており、必要があれば法律に基づく強制措置を講ずる権限を有していますので、最終的には「何とか」できます(経済がメチャクチャになるのでどこの国も実際にはやりませんが、極端なことを言えば「今までの借金はなかったことにする!」と宣言するいわゆる「徳政令」を出すこともできます)。しかし、通常、政府の強制措置がその国の経済に対して破滅的なダメージを与えることにならないように、各国政府は一定の段階で「処置方針の表明と段階的な強制措置の実施」を行います(例:平成バブル崩壊後の日本政府による住宅金融専門会社への公的資金の注入、リーマン・ショック後のFRB(アメリカ連邦準備制度理事会)によるゼロ金利政策と量的緩和の実施、アメリカ政府による大手銀行や大手企業への公的資金の導入など)。

 客観的に言って、今の中国の不動産バブル崩壊は既にこの「処置方針の表明と段階的な強制措置の実施(別の表現をすれば「断固たる措置」)」を必要とする段階に至っていると思われるのに、中国政府は「その場しのぎの対処療法」を繰り返すだけで「断固たる措置」を取りそうな気配がありません。それどころか「断固たる措置」を実施すべき中心人物であるはずの国務院総理の李強氏の存在感が日に日に薄くなってきています。

 今、アメリカのイエレン財務長官(前FRB議長)が中国を訪問中です。イエレン氏は何回も訪中していますが、私が知る限り、アメリカの財務長官がこれだけ頻繁に訪中するのは聞いたことがありません(通常、米中間で問題になるのは外交問題や通商問題であり、国務長官や商務長官、通商代表が何回も訪中するのならわかるのですが)。イエレン財務長官の度重なる訪中は、アメリカ政府も中国の不動産バブル崩壊問題を重く見ており、中国政府に「何とかしろ」とプレッシャーを掛ける意図があるのだろうと私は思っています。中国共産党が不動産バブル崩壊問題をうまく処理できずに中国経済が破綻したら、アメリカ経済も大きな打撃を受けますし、経済破綻による国内の混乱を避けるために中国共産党が台湾の武力解放といった無茶な政策選択をする可能性も排除できないからです。

 この週末、東京の桜は満開で、たまたま中国の清明節の連休と重なったので、東京の桜の名所には多くの中国人観光客も来ているようです。不動産バブル崩壊の過程が進行中とは言っても、中国経済はまだそれほど「メチャクチャな」状態にはなっていないのでしょう。逆に言えば、今の段階ならば、まだうまく対処できる可能性は大きいと思います。中国共産党としては、上の方で紹介したような姑息なその場しのぎの対症療法的政策をパラパラと実施するのではなく、党中央が断固たる決意を持って不動産バブル崩壊に対処する姿勢を見せて欲しいと思います。「断固たる決意を見せる」だけでも市場は安心するものです。このまま「その場しのぎの対症療法」を断続的に打ち出すだけでは「中国共産党は不動産バブル崩壊にうまく対処する能力がないのではないか」という疑心暗鬼が広がってしまいます。それは習近平氏にとって最も避けるべき事態だと思いますので、習近平氏には一刻も早く不動産バブルに対して「断固たる措置を講じる」という決意をもって効果的な施策を打ち出して欲しいと思います。

 仮にそれができないのだとすると、それは習近平氏自身がそれほど経済には強くないから、というより、習近平氏に対して「ここは不動産バブル崩壊に対して早急に断固たる措置を講じなければ政権にとって危ういことになる」と進言できる経済に強いスタッフが周囲に誰もいない(そういう体制に習近平氏自身がしてしまった)からだと思います。そして、たぶんそのことが習近平氏にとって致命傷になるのだろうと思います。

 

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