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2024年4月27日 (土)

急速に進む「超円安」と中国経済

 経済専門週刊誌「週刊エコノミスト」の最新号(2024年4月30日・5月7日合併号)の表紙特集のタイトルは「崖っぷち中国 本当の成長率は1.5%? 不動産バブル崩壊 地方政府の隠れ債務 習近平『経済ブレーン不在』の危うさ 排外主義を強め『文革』再来も」でした。現在の中国経済の状況を象徴する「キーワード」を集めた特集になっているなぁ、と私は感心しました。気を付けなければいけないひとつの重要なポイントは、現在の中国経済は確かに「崖っぷち状態」ではあるけれども、今すぐ急速に「奈落の底に落ちるような状態」になるわけではない、ということでしょう。日本の平成バブル崩壊の過程を振り返って見ればわかるとおり、バブル崩壊の過程は、かなりの長期間、それこそ十年、二十年といった時間経過を辿りながら、経済全体に大きな低迷をもたらすプロセスだからです。

 一方、この一週間、日本の方で「急激な変化」が起きました。昨日(2024年4月26日(金))の日銀金融政策決定会合を受けて始まり、日本時間今朝(4月27日(土)早朝)終わったニューヨーク外国為替市場では、一時、1ドル=158円44銭まで円安が進みました。4月10日に1ドル=152円台に突入してからの円安の進行スピードはもはや「異常事態」と言えるレベルの速さです。

 日本には様々な自由度を持つ政治システムがありますし、欧米との連携も密にしていますので、このような急速な円安が起きても、必要があれば国際協調をしながら、日本はそれなりに対応していけるだろうと思います。日本の平成バブル崩壊の過程を振り返ってみれば、日本では1993年に非自民連立政権の細川内閣が誕生しましたし、1990年代以降の大手銀行の再編や2001年の大規模な省庁再編などもありました。「崖っぷちの中国経済」が日本と比較して最も異なるのは「様々な対策をやってみるという政治的・社会的自由度が中国にはない」「自らの困難を国際協調の中で解決していこうという発想が中国にはない」ということです。

 重要な点は、中国経済は1980年代のトウ小平氏による改革開放政策により自由主義経済を基調とする国際経済の中に組み込まれていったにもかかわらず、中国の経済政策は「中国共産党による一党独裁体制」を前提にしているため、金融政策や資本の国際化の点で自由度がないことです。李克強氏ら一部の中国共産党幹部は、国際経済システムに合わせて中国の経済政策も改革して行こうという意図を持っていたのかもしれませんが、習近平氏はそうした方向性を完全にブロックし、実態的には中国経済は既に大きく国際経済の中に組み込まれているにもかかわらず、経済政策の自由度を国際標準に合わせようという方向には全く向かっていません。

 中国の為替制度は市場動向に任せる変動相場制ではなく、中国人民銀行が毎日決める基準レートの±2.0%の範囲内でのみの変動を認めるという「管理変動相場制」ですし、人民元と外貨との交換や中国内外での資本の移転にも国際的な標準とは異なる様々な制限があります。

 急激に進んだ「超円安」を踏まえて私が今考えているのは、人民元の対日本円レートの変化が中国経済にどのような影響を与えるのだろうか、という点です。私が1986~1988年に北京に駐在していた頃のレートは1人民元=35円くらいでした。この頃は日本と中国の経済力には大きな差がありましたから、この頃のことはあまり参考にはなりません。2007~2009年に私が二度目の北京駐在をしていた頃には1人民元=15円くらいでした。その後、リーマン・ショック後の超円高の時期には1人民元=12円くらいになりましたが、今朝(2024年4月27日)の時点では1人民元=21円77銭となっています。

 現在の「急激な超円安」は、中国側から見れば「急激な対日本円での人民元高」です。これは、中国への日本からの輸入については価格が安くなるのでやりやすくなりますが、中国製品は日本円に換算すると割高になるので、中国から日本への輸出は難しくなります。

 通貨と財・サービスとの関係性を見れば、デフレ傾向にある国の通貨は高くなり、インフレ傾向にある国の通貨は安くなるので、不動産バブル崩壊によりデフレ傾向が強まっている中国の通貨(人民元)がインフレになりかけている一方でまだ金利は上げていない日本の通貨(円)との対比で相対的に高くなるのは自然の流れです。

 1990年代の日本の平成バブル崩壊後のデフレ期にはかなりの円高が進み、日本国内の製造業による輸出には大きなブレーキが掛かりました。しかし、ちょうどこの頃の日本は「これから経済成長を始めようとする中国」がすぐ隣にいたので、日本の数多くの製造業企業は、中国に工場を移転して中国で製品を製造して世界に輸出するというビジネス・モデルを構築することにより、バブル崩壊期の苦境を何とか乗り切ったのでした。

 時代が変わって、今(2024年)の時点では、中国で不動産バブルが崩壊し、一方で日本で超円安が進んでいますが、「中国の企業が日本に工場を建設して日本から世界に製品を輸出する」ということにはなりません。日本には安い土地も安い労働力もないからです。一方で、「日本の企業が中国に建設した工場で生産した製品を世界に輸出する」というこれまでのビジネス・モデルの利点はもはや相当程度小さくなったと言えます。これからは中国の工場で生産するのは中国国内で販売する製品だけとし、世界に売る製品は他のアジア諸国や日本国内の工場で生産する、というビジネス・モデルが主流になるのかもしれません。

 1980年代の改革開放の開始から現在まで日本は中国の急速な経済成長に大きな役割を果たしてきました。しかし、中国では不動産バブルが崩壊し、日本では超円安が進行していくであろうこれからは、日本の中国経済と関係する度合いは段々と縮小していくのだろうと思います。別の言い方をすれば「これからは日本は中国から足抜けする」ということです。「平成バブル崩壊期の苦境を中国との協力関係を構築することで乗り切ってきた日本が、今度は中国で不動産バブルが崩壊したら中国を見捨てて『足抜け』するとはあまりにも冷たいではないか」と批判されそうですが、不動産バブルによって沈没する中国に引きずり込まれないようにするのは日本にとって必要なことだと私は思います。

 「週刊エコノミスト」が「崖っぷち中国」という特集記事を掲載した同じ週に「異常事態」とも言える「超円安」が進行したこの一週間、日本と中国の経済関係に関して、私はそんなことを考えたのでした。

 

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