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2024年4月13日 (土)

マンションの「以旧換新」策は弥縫策ではないのか

 先の全人代での政府活動報告でも掲げられているのですが、消費が低迷する中国経済に対して、中国政府は現在、企業の設備や個人の耐久消費財に関して新しい機能のものへの更新などの新旧買い換えを促進しようとしています。中国語では「以旧換新」と言いますが、中国では今、この「以旧換新」が一種のブームになっているようです。

 私がよく見ているテンセント網の房産チャンネルでは、最近、地方政府によるマンションに関する「以旧換新」策が話題になっています。今、中国では新築マンションの販売不振が続いていますが、初めてマンションを買う人が新築マンションを買うのはハードルが高いので、現在既にマンションを保有している人たちに対して、現有のマンションを売り出してその資金を使って新築マンションを買うといういわゆる「買い換え需要」を掘り起こそうとして、数多くの地方政府が様々な施策を打ち出しているのです。

 マンションの買い換え需要を喚起するための「以旧換新」策には様々なタイプがありますが、例えば次のようなものです。

(1)現有のマンションを売って得た資金を活用して新築マンションを買いたいと考えている人には地方政府が一定の補助金(または家具や家電を買うためのクーポン券)を支給するというもの。

(2)地方政府自身または各地方の優良な国有企業が中古マンションを買い取って低所得者向けの賃貸住宅として貸し出す事業を促進するというもの。

 上記の(1)は新築マンションの販売促進になりますし、家具・家電等の住宅関連産業の振興策にもなっています。一方、現在、数多くの中古マンションが売りに出されていてなかなかよい値段で売れないという現状があるので、(2)のように地方政府や国有企業が売りに出されている中古マンションを買い上げてそれを低所得者向けの賃貸住宅として貸し出せば、マンションの買い換えも進むし、マンションを買えない低所得者層も賃貸住宅に住むことができるようになり、一挙両得の策だと考えられているようです。

 しかし、これらのマンションの「以旧換新」策は、私はパッと聞いただけで「うまく行かないんじゃないかなぁ」と感じました。なぜなら、そもそも地方政府が新築マンションの販売拡大に躍起になっているのは、マンション開発業者に土地使用権を売却して得られる財政収入が減っているからであって、地方政府の財政には多額の補助金を支出する余裕はないはずです。なので、地方政府自身は資金を出さずに、地元の優良な国有企業に「行政指導」して中古マンションを購入させようとしている地方もあるようなのですが、低所得者層からはあまり高額な家賃は取れないので「中古マンションを買って賃貸として貸し出す」というのは事業としてはあまり儲からないと思います(もし儲かるのなら、地方政府が国有企業に「指導」しなくても民間企業が積極的に自分でやり始めるはずです)。「中古マンションを買い取って低所得者層に賃貸に出す」という儲からない事業を国有企業にやらせると、結局はその国有企業の体力を消耗させ、その国有企業が行っている本来業務にも悪い影響が出て、その地方の経済全体には悪影響が出る可能性があるので、この政策はよくない政策だとは私は考えています。このやり方は、結局は「不動産バブル崩壊」のマイナスの部分を不動産とは関係のない優良な国有企業に拡散させて薄めようとする政策なので、中国経済全体からすれば全くプラスになっていないからです。

 さらに細かいことを言えば、中間所得層(その多くは自家用車を持っている)が一度買って中古マンションとして売り出した物件は間取りや立地条件(地下鉄・バスの便がよいか、など)が低所得者層の希望と合致するのかどうかはわかりません。そもそも中国では既にマンション価格が高騰し過ぎていて、賃料利回り(マンションを賃貸に出して得られる年間賃料をマンション購入価格で割った値)は銀行預金金利より低くなっており、「中古マンションを買ってそれを賃貸に出す」という事業はほとんど確実に「儲からない事業」です(このブログの2017年9月30日付け記事「中国のマンションにおける『住む価値』と価格との差」参照)。

 従って、上に書いたような地方政府によるマンションの「以旧換新」策は、新築マンションが売れない現状について「何とかしろ」と言われた地方政府がやむにやまれず「とりあえず当面新築マンションが少しでも売れるようにするための方策」として考えた弥縫策(びほうさく=根本的解決策になっていない一時しのぎの策)のように私には見えます。

 私は「経済全体にとってはプラスの効果はないんじゃないかなぁ」「効果があったとしても長い期間継続することは不可能な策だよなぁ」と思うと同時に、ここには中国における中央政府(=中国共産党中央)と地方政府(=中国共産党地方幹部)との間にある組織上のガバナンスの欠陥が存在していると見ています。上の組織が下の組織に「何とかしろ」と指示し、下の組織では対応に困って当面の弥縫策を講じる、という図式は、社長が現場に「何とかしろ」と強く指示し、それを受けた現場がやむなく不正をし、それが発覚した後で社長が「確かに『何とかしろ』とは言ったが『不正をしてもよい』と言った覚えはないぞ」と怒るような日本の不正を起こした企業と同じ構図です。中国共産党の中央と地方との関係において、このような組織ガバナンス上の問題点があるのだとしたら、それは不動産バブル崩壊という非常に難しい課題に対して中国共産党が組織としてうまく対応できないだろうということを予見させるものです。

 日本の平成バブル崩壊の過程を知っている人たちは、土地バブル崩壊の後に来るものは、土地に関連する不良債権の増加に伴う銀行の経営悪化、土地価格の下落に伴う各企業のバランスシート(資産構造)の毀損、それに起因する経済活動の停滞とデフレであることはよくわかっています。仮に中国共産党が日本の平成バブル崩壊の過程をよく勉強しているのであれば、現在行われているようなその場しのぎの弥縫策ではなく、不良債権の増加や各企業のバランスシートの毀損を食い止めるための「断固たる措置」を講じているはずです。中国共産党にそれができないのであれば、不動産バブル崩壊が既に明確になっている中国経済は、平成バブル崩壊後の日本経済よりも「ひどい状態」になる可能性はかなり大きいと言えます。

 日本経済新聞は月曜日(2024年4月8日)付け朝刊の13面に「中国地銀、膨らむ不良債権 不動産向け1年で3割」という見出しの記事を掲載しました。日本経済新聞は、平成バブル崩壊の過程をつぶさに報じてきた日本を代表する経済紙として、現在の中国経済の「危うさ」を日本の経済関係者に対して注意喚起したかったのだと思います。テレビの経済番組などを見ていると、中国政府が発表する経済データに基づいて「不動産における不振は続いているものの、中国政府が打ち出す政策も徐々に効果を上げてきており、中国経済の低迷も底打ちが近いのではないか」などとコメントする「専門家」の方々もおられます。私は中国経済の「専門家」ではありませんが、中国における不動産バブル崩壊に起因する中国経済の低迷は、中国共産党の(中国共産党の名誉のために申し上げれば正確には「習近平体制の」)組織ガバナンスの欠如と相まって、「そんなに簡単に底打ちするものではない」と私は考えています。

 

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