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2024年4月20日 (土)

「人民日報」が「中国経済は順調だ」と主張する理由

 火曜日(2024年4月16日)、中国国家統計局は2024年第一四半期の中国のGDPの実質成長率について、対前年同期比+5.3%だったと発表しました。これは市場予想を上回るもので、2023年第四四半期の+5.2%から若干加速したことを示しています。

 一方、3月のデータには軟調なものが目立ち、特に2024年3月の不動産投資は対前年同月比マイナス16.8%で1-2月期のマイナス9.0%からマイナス幅が拡大しており、不動産販売も2024年3月は対前年同月比マイナス23.7%と1-2月期のマイナス20.5%からマイナス幅が拡大しています。

 そもそも世界各国の政府が定期的に経済統計データを発表しているのは、各経済主体(個人や企業)に現在の経済の状況を伝え、それぞれの経済主体に現在の経済の状況に応じた対応をとって欲しいからです。飛行機の操縦席の前に表示される各種の計器データがパイロットに飛行機の飛行状況を正確に伝えてパイロットがそれに基づいて適切な判断をできるようにするのと同じように、経済統計データは、個人や企業が現状を踏まえて適切な判断ができるようにするための重要な基本情報です。

 一方、今回、中国国家統計局が発表した数多くの経済統計データに関し、「人民日報」は次のような様々な解説記事を連日のように掲載しています。

○4月17日付け3面:「工業は回復上昇、サービス業は好調、前向きの要素が数多く積み重なっている~中国経済は平穏で穏やかな中にも前進する歩みを始めている(権威発布)」

○4月18日付け1面:「経済の回復上昇と好転の態勢を全力を挙げて確固としたものとし増強しなければならない」(「仲音」署名の評論)

○4月18日付け2面:「国務院新聞弁公室は新聞発表会を開催して現在の経済情勢について解説した~中国経済の回復上昇と好転の態勢は絶え間なく確固たるものになるだろう(権威発布)」

○4月18日付け3面:「中国経済の良好な局面は世界経済にとって重要な好影響をもたらす」(「和音」という名のコラム)

○4月19日付け2面:「スマート製造設備産業の規模は3.2兆元、5Gの普及率は6割を超えた~工業経済は平穏で良好かつモデル転換が加速している(権威発布)」

○4月19日付け3面:「中国経済は安定的に成長する巨大な潜在力を有している」(「国際論壇」という評論)

○4月20日付け1面:「第一四半期の社会用電力量は対前年同期比9.8%増だった」(「新データ、新観点」という評論)

○4月20日付け2面:「第一四半期の外資の実際使用額は3,016.7億元だった~ビジネスの運行は総体的に平穏であり、構造は高度化している(権威発布)」

○4月20日付け3面:「第一四半期の農業・農村経済は穏やかで健全な展開だった(権威発布)」

 私は「人民日報」の記事については、「鶏肉の生産が順調」という記事が出ればこれは「豚肉の生産が不振だ」という意味なんだな、と読むクセがついているので、上記のように連日「中国経済は順調だ!」と声高に叫ぶ論評が掲載されると「中国経済はよっぽど悪い状態なんだろうなぁ」と感じてしまいます。おそらくは「若者の就職難が改善していない」「不動産価格の下落傾向が止まらないためにマンションを所有している多くの人は自分たちが持っている資産の価値の将来的な下落に対して大きな不安を持っている」といったことから中国の人々の間に「中国経済の将来に対する不安」が相当程度に広がっているため、「人民日報」としては、上記のような「中国経済はこういう面では好調なのだ」と強調するような記事を書かざるを得なくなっているのだと私は想像しています。

 中国の人々が実際にどう考えているのかは、外からはなかなかわかりにくいのですが、今はネットというツールがあるので、それを利用すると中国の人々の間の「雰囲気」の一端は知ることができます。

 私は、毎日のようにテンセント網・房産チャンネルにアップされている不動産市場に関する解説動画を見ていますが、これらの解説動画は基本的に個人がアップしているものですので、「人民日報」のような官制メディアとは異なり、よいデータも悪いデータも使った客観的な解説が多くなっています。しかも、動画には「これまで○○○人が視聴しています」という表示が出るので、どういう解説動画に対する中国の人たちの関心が高いかもわかるので、非常に参考になっています。

 今日(2024年4月20日)見た解説動画では、マンション価格の下落傾向が止まらないことを受けて、大雑把に2億人が富裕層、4億人が中間所得層、8億人が低所得者層と言われる中国において、今後資産の多くをマンションとして保有している中間所得層の資産が減少していくために中間所得層が分解して、富裕層と低所得者層のM字型分化(二極分化)が起こるだろう、と解説していました(この解説動画の中では「バブル崩壊を経てM字分化が進んだ日本と同じようになるわけだ」と解説されていたのは考えさせられました)。

 この動画で「不安を感じた中間所得層は、こどもたちに高度な教育を与えて、必死になって将来は国家公務員に就職させようとしている。これでは中国で千数百年にわたって続いた『士農工商』の時代への逆戻りだ。」と指摘していたのには妙に納得してしまいました。現在の中国経済の状況と現在の習近平政権の方向性を見て、中国の人たちも「『商』の部分、即ちこれまでの中国の急速な経済発展を支えてきた民間企業には先がない」と感じているようです。

 「人民日報」は、こうした中国の人々の間にある中国経済の将来に対する不安に対して、「いやいや、中国経済にはこんな順調な部分もあるのだぞ。」と強調したいと考えているのでしょう。しかし、そうした「よい部分しか強調しない」という「人民日報」の書き方に対しては、おそらくは中国の人々はシラケた感覚を強めているのではないかと思います。

 このブログの過去の記事を御覧いただければわかりますが、「人民日報」は昔から「中国経済は順調だ」と繰り返し主張するだけの新聞だったわけではありません。「人民日報」は中国共産党の機関紙ですが(「中国共産党の機関紙だから」といった方が適切なのかもしれませんが)、かつては現在の中国社会の課題と思われる諸点について評論やルポルタージュを載せることが時々ありました。例えば私が気が付いてこのブログに書いたものに次のようなものがあります。

☆2007年8月12日付けのこのブログの記事「炎天下の農民工:人民日報のルポ」

☆2008年12月5日付けのこのブログの記事「『人民日報』上での政治の民主化を巡る議論」

☆2013年9月3日付けのこのブログの記事「中国の不動産バブルの現状を『人民日報』がレポート」

 最後に掲げた2013年9月のものは習近平政権が始まった後のものですが、私の感覚では、これ以降、「人民日報」が現在の中国の経済・社会の問題点を指摘するようなルポや評論はだんだんと減ってきているように感じます。最後の記事で紹介しているのですが、2013年9月3日付けの「人民日報」には1面に「盲目的な『都市建設』(中国語で「造城」)は断固として抑制しなければならない」という「人民日報」評論員による社説が載っていました。この頃は李克強氏が様々な改革を打ち出して、世界から「リコノミクス」ともてはやされた頃です。わずか十年前の話ですが、「人民日報」はずいぶん変わったなぁ、という印象は否定できません。この「人民日報」のレポートが掲載された2013年以降、中国のマンション・バブルはむしろより巨大に膨れ上がってしまったのは残念でなりません。

 どんな組織でも、問題が起きていることには目をつぶり、「うちの組織は順調にいってますよ」と宣伝ばかりするような組織は、その組織のメンバー自身に「ウチの組織はこれじゃダメだな」という感覚を生み、自己崩壊の道を歩むことになります。中国共産党の機関紙である「人民日報」が、よくない点には目をつぶり、よい点ばかりを強調する記事を評論を連日掲載するようになっているということ自体が中国共産党という組織内部に自己崩壊の兆しが見え始めている証拠だと私は考えています。

 

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