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2024年4月

2024年4月27日 (土)

急速に進む「超円安」と中国経済

 経済専門週刊誌「週刊エコノミスト」の最新号(2024年4月30日・5月7日合併号)の表紙特集のタイトルは「崖っぷち中国 本当の成長率は1.5%? 不動産バブル崩壊 地方政府の隠れ債務 習近平『経済ブレーン不在』の危うさ 排外主義を強め『文革』再来も」でした。現在の中国経済の状況を象徴する「キーワード」を集めた特集になっているなぁ、と私は感心しました。気を付けなければいけないひとつの重要なポイントは、現在の中国経済は確かに「崖っぷち状態」ではあるけれども、今すぐ急速に「奈落の底に落ちるような状態」になるわけではない、ということでしょう。日本の平成バブル崩壊の過程を振り返って見ればわかるとおり、バブル崩壊の過程は、かなりの長期間、それこそ十年、二十年といった時間経過を辿りながら、経済全体に大きな低迷をもたらすプロセスだからです。

 一方、この一週間、日本の方で「急激な変化」が起きました。昨日(2024年4月26日(金))の日銀金融政策決定会合を受けて始まり、日本時間今朝(4月27日(土)早朝)終わったニューヨーク外国為替市場では、一時、1ドル=158円44銭まで円安が進みました。4月10日に1ドル=152円台に突入してからの円安の進行スピードはもはや「異常事態」と言えるレベルの速さです。

 日本には様々な自由度を持つ政治システムがありますし、欧米との連携も密にしていますので、このような急速な円安が起きても、必要があれば国際協調をしながら、日本はそれなりに対応していけるだろうと思います。日本の平成バブル崩壊の過程を振り返ってみれば、日本では1993年に非自民連立政権の細川内閣が誕生しましたし、1990年代以降の大手銀行の再編や2001年の大規模な省庁再編などもありました。「崖っぷちの中国経済」が日本と比較して最も異なるのは「様々な対策をやってみるという政治的・社会的自由度が中国にはない」「自らの困難を国際協調の中で解決していこうという発想が中国にはない」ということです。

 重要な点は、中国経済は1980年代のトウ小平氏による改革開放政策により自由主義経済を基調とする国際経済の中に組み込まれていったにもかかわらず、中国の経済政策は「中国共産党による一党独裁体制」を前提にしているため、金融政策や資本の国際化の点で自由度がないことです。李克強氏ら一部の中国共産党幹部は、国際経済システムに合わせて中国の経済政策も改革して行こうという意図を持っていたのかもしれませんが、習近平氏はそうした方向性を完全にブロックし、実態的には中国経済は既に大きく国際経済の中に組み込まれているにもかかわらず、経済政策の自由度を国際標準に合わせようという方向には全く向かっていません。

 中国の為替制度は市場動向に任せる変動相場制ではなく、中国人民銀行が毎日決める基準レートの±2.0%の範囲内でのみの変動を認めるという「管理変動相場制」ですし、人民元と外貨との交換や中国内外での資本の移転にも国際的な標準とは異なる様々な制限があります。

 急激に進んだ「超円安」を踏まえて私が今考えているのは、人民元の対日本円レートの変化が中国経済にどのような影響を与えるのだろうか、という点です。私が1986~1988年に北京に駐在していた頃のレートは1人民元=35円くらいでした。この頃は日本と中国の経済力には大きな差がありましたから、この頃のことはあまり参考にはなりません。2007~2009年に私が二度目の北京駐在をしていた頃には1人民元=15円くらいでした。その後、リーマン・ショック後の超円高の時期には1人民元=12円くらいになりましたが、今朝(2024年4月27日)の時点では1人民元=21円77銭となっています。

 現在の「急激な超円安」は、中国側から見れば「急激な対日本円での人民元高」です。これは、中国への日本からの輸入については価格が安くなるのでやりやすくなりますが、中国製品は日本円に換算すると割高になるので、中国から日本への輸出は難しくなります。

 通貨と財・サービスとの関係性を見れば、デフレ傾向にある国の通貨は高くなり、インフレ傾向にある国の通貨は安くなるので、不動産バブル崩壊によりデフレ傾向が強まっている中国の通貨(人民元)がインフレになりかけている一方でまだ金利は上げていない日本の通貨(円)との対比で相対的に高くなるのは自然の流れです。

 1990年代の日本の平成バブル崩壊後のデフレ期にはかなりの円高が進み、日本国内の製造業による輸出には大きなブレーキが掛かりました。しかし、ちょうどこの頃の日本は「これから経済成長を始めようとする中国」がすぐ隣にいたので、日本の数多くの製造業企業は、中国に工場を移転して中国で製品を製造して世界に輸出するというビジネス・モデルを構築することにより、バブル崩壊期の苦境を何とか乗り切ったのでした。

 時代が変わって、今(2024年)の時点では、中国で不動産バブルが崩壊し、一方で日本で超円安が進んでいますが、「中国の企業が日本に工場を建設して日本から世界に製品を輸出する」ということにはなりません。日本には安い土地も安い労働力もないからです。一方で、「日本の企業が中国に建設した工場で生産した製品を世界に輸出する」というこれまでのビジネス・モデルの利点はもはや相当程度小さくなったと言えます。これからは中国の工場で生産するのは中国国内で販売する製品だけとし、世界に売る製品は他のアジア諸国や日本国内の工場で生産する、というビジネス・モデルが主流になるのかもしれません。

 1980年代の改革開放の開始から現在まで日本は中国の急速な経済成長に大きな役割を果たしてきました。しかし、中国では不動産バブルが崩壊し、日本では超円安が進行していくであろうこれからは、日本の中国経済と関係する度合いは段々と縮小していくのだろうと思います。別の言い方をすれば「これからは日本は中国から足抜けする」ということです。「平成バブル崩壊期の苦境を中国との協力関係を構築することで乗り切ってきた日本が、今度は中国で不動産バブルが崩壊したら中国を見捨てて『足抜け』するとはあまりにも冷たいではないか」と批判されそうですが、不動産バブルによって沈没する中国に引きずり込まれないようにするのは日本にとって必要なことだと私は思います。

 「週刊エコノミスト」が「崖っぷち中国」という特集記事を掲載した同じ週に「異常事態」とも言える「超円安」が進行したこの一週間、日本と中国の経済関係に関して、私はそんなことを考えたのでした。

 

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2024年4月20日 (土)

「人民日報」が「中国経済は順調だ」と主張する理由

 火曜日(2024年4月16日)、中国国家統計局は2024年第一四半期の中国のGDPの実質成長率について、対前年同期比+5.3%だったと発表しました。これは市場予想を上回るもので、2023年第四四半期の+5.2%から若干加速したことを示しています。

 一方、3月のデータには軟調なものが目立ち、特に2024年3月の不動産投資は対前年同月比マイナス16.8%で1-2月期のマイナス9.0%からマイナス幅が拡大しており、不動産販売も2024年3月は対前年同月比マイナス23.7%と1-2月期のマイナス20.5%からマイナス幅が拡大しています。

 そもそも世界各国の政府が定期的に経済統計データを発表しているのは、各経済主体(個人や企業)に現在の経済の状況を伝え、それぞれの経済主体に現在の経済の状況に応じた対応をとって欲しいからです。飛行機の操縦席の前に表示される各種の計器データがパイロットに飛行機の飛行状況を正確に伝えてパイロットがそれに基づいて適切な判断をできるようにするのと同じように、経済統計データは、個人や企業が現状を踏まえて適切な判断ができるようにするための重要な基本情報です。

 一方、今回、中国国家統計局が発表した数多くの経済統計データに関し、「人民日報」は次のような様々な解説記事を連日のように掲載しています。

○4月17日付け3面:「工業は回復上昇、サービス業は好調、前向きの要素が数多く積み重なっている~中国経済は平穏で穏やかな中にも前進する歩みを始めている(権威発布)」

○4月18日付け1面:「経済の回復上昇と好転の態勢を全力を挙げて確固としたものとし増強しなければならない」(「仲音」署名の評論)

○4月18日付け2面:「国務院新聞弁公室は新聞発表会を開催して現在の経済情勢について解説した~中国経済の回復上昇と好転の態勢は絶え間なく確固たるものになるだろう(権威発布)」

○4月18日付け3面:「中国経済の良好な局面は世界経済にとって重要な好影響をもたらす」(「和音」という名のコラム)

○4月19日付け2面:「スマート製造設備産業の規模は3.2兆元、5Gの普及率は6割を超えた~工業経済は平穏で良好かつモデル転換が加速している(権威発布)」

○4月19日付け3面:「中国経済は安定的に成長する巨大な潜在力を有している」(「国際論壇」という評論)

○4月20日付け1面:「第一四半期の社会用電力量は対前年同期比9.8%増だった」(「新データ、新観点」という評論)

○4月20日付け2面:「第一四半期の外資の実際使用額は3,016.7億元だった~ビジネスの運行は総体的に平穏であり、構造は高度化している(権威発布)」

○4月20日付け3面:「第一四半期の農業・農村経済は穏やかで健全な展開だった(権威発布)」

 私は「人民日報」の記事については、「鶏肉の生産が順調」という記事が出ればこれは「豚肉の生産が不振だ」という意味なんだな、と読むクセがついているので、上記のように連日「中国経済は順調だ!」と声高に叫ぶ論評が掲載されると「中国経済はよっぽど悪い状態なんだろうなぁ」と感じてしまいます。おそらくは「若者の就職難が改善していない」「不動産価格の下落傾向が止まらないためにマンションを所有している多くの人は自分たちが持っている資産の価値の将来的な下落に対して大きな不安を持っている」といったことから中国の人々の間に「中国経済の将来に対する不安」が相当程度に広がっているため、「人民日報」としては、上記のような「中国経済はこういう面では好調なのだ」と強調するような記事を書かざるを得なくなっているのだと私は想像しています。

 中国の人々が実際にどう考えているのかは、外からはなかなかわかりにくいのですが、今はネットというツールがあるので、それを利用すると中国の人々の間の「雰囲気」の一端は知ることができます。

 私は、毎日のようにテンセント網・房産チャンネルにアップされている不動産市場に関する解説動画を見ていますが、これらの解説動画は基本的に個人がアップしているものですので、「人民日報」のような官制メディアとは異なり、よいデータも悪いデータも使った客観的な解説が多くなっています。しかも、動画には「これまで○○○人が視聴しています」という表示が出るので、どういう解説動画に対する中国の人たちの関心が高いかもわかるので、非常に参考になっています。

 今日(2024年4月20日)見た解説動画では、マンション価格の下落傾向が止まらないことを受けて、大雑把に2億人が富裕層、4億人が中間所得層、8億人が低所得者層と言われる中国において、今後資産の多くをマンションとして保有している中間所得層の資産が減少していくために中間所得層が分解して、富裕層と低所得者層のM字型分化(二極分化)が起こるだろう、と解説していました(この解説動画の中では「バブル崩壊を経てM字分化が進んだ日本と同じようになるわけだ」と解説されていたのは考えさせられました)。

 この動画で「不安を感じた中間所得層は、こどもたちに高度な教育を与えて、必死になって将来は国家公務員に就職させようとしている。これでは中国で千数百年にわたって続いた『士農工商』の時代への逆戻りだ。」と指摘していたのには妙に納得してしまいました。現在の中国経済の状況と現在の習近平政権の方向性を見て、中国の人たちも「『商』の部分、即ちこれまでの中国の急速な経済発展を支えてきた民間企業には先がない」と感じているようです。

 「人民日報」は、こうした中国の人々の間にある中国経済の将来に対する不安に対して、「いやいや、中国経済にはこんな順調な部分もあるのだぞ。」と強調したいと考えているのでしょう。しかし、そうした「よい部分しか強調しない」という「人民日報」の書き方に対しては、おそらくは中国の人々はシラケた感覚を強めているのではないかと思います。

 このブログの過去の記事を御覧いただければわかりますが、「人民日報」は昔から「中国経済は順調だ」と繰り返し主張するだけの新聞だったわけではありません。「人民日報」は中国共産党の機関紙ですが(「中国共産党の機関紙だから」といった方が適切なのかもしれませんが)、かつては現在の中国社会の課題と思われる諸点について評論やルポルタージュを載せることが時々ありました。例えば私が気が付いてこのブログに書いたものに次のようなものがあります。

☆2007年8月12日付けのこのブログの記事「炎天下の農民工:人民日報のルポ」

☆2008年12月5日付けのこのブログの記事「『人民日報』上での政治の民主化を巡る議論」

☆2013年9月3日付けのこのブログの記事「中国の不動産バブルの現状を『人民日報』がレポート」

 最後に掲げた2013年9月のものは習近平政権が始まった後のものですが、私の感覚では、これ以降、「人民日報」が現在の中国の経済・社会の問題点を指摘するようなルポや評論はだんだんと減ってきているように感じます。最後の記事で紹介しているのですが、2013年9月3日付けの「人民日報」には1面に「盲目的な『都市建設』(中国語で「造城」)は断固として抑制しなければならない」という「人民日報」評論員による社説が載っていました。この頃は李克強氏が様々な改革を打ち出して、世界から「リコノミクス」ともてはやされた頃です。わずか十年前の話ですが、「人民日報」はずいぶん変わったなぁ、という印象は否定できません。この「人民日報」のレポートが掲載された2013年以降、中国のマンション・バブルはむしろより巨大に膨れ上がってしまったのは残念でなりません。

 どんな組織でも、問題が起きていることには目をつぶり、「うちの組織は順調にいってますよ」と宣伝ばかりするような組織は、その組織のメンバー自身に「ウチの組織はこれじゃダメだな」という感覚を生み、自己崩壊の道を歩むことになります。中国共産党の機関紙である「人民日報」が、よくない点には目をつぶり、よい点ばかりを強調する記事を評論を連日掲載するようになっているということ自体が中国共産党という組織内部に自己崩壊の兆しが見え始めている証拠だと私は考えています。

 

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2024年4月13日 (土)

マンションの「以旧換新」策は弥縫策ではないのか

 先の全人代での政府活動報告でも掲げられているのですが、消費が低迷する中国経済に対して、中国政府は現在、企業の設備や個人の耐久消費財に関して新しい機能のものへの更新などの新旧買い換えを促進しようとしています。中国語では「以旧換新」と言いますが、中国では今、この「以旧換新」が一種のブームになっているようです。

 私がよく見ているテンセント網の房産チャンネルでは、最近、地方政府によるマンションに関する「以旧換新」策が話題になっています。今、中国では新築マンションの販売不振が続いていますが、初めてマンションを買う人が新築マンションを買うのはハードルが高いので、現在既にマンションを保有している人たちに対して、現有のマンションを売り出してその資金を使って新築マンションを買うといういわゆる「買い換え需要」を掘り起こそうとして、数多くの地方政府が様々な施策を打ち出しているのです。

 マンションの買い換え需要を喚起するための「以旧換新」策には様々なタイプがありますが、例えば次のようなものです。

(1)現有のマンションを売って得た資金を活用して新築マンションを買いたいと考えている人には地方政府が一定の補助金(または家具や家電を買うためのクーポン券)を支給するというもの。

(2)地方政府自身または各地方の優良な国有企業が中古マンションを買い取って低所得者向けの賃貸住宅として貸し出す事業を促進するというもの。

 上記の(1)は新築マンションの販売促進になりますし、家具・家電等の住宅関連産業の振興策にもなっています。一方、現在、数多くの中古マンションが売りに出されていてなかなかよい値段で売れないという現状があるので、(2)のように地方政府や国有企業が売りに出されている中古マンションを買い上げてそれを低所得者向けの賃貸住宅として貸し出せば、マンションの買い換えも進むし、マンションを買えない低所得者層も賃貸住宅に住むことができるようになり、一挙両得の策だと考えられているようです。

 しかし、これらのマンションの「以旧換新」策は、私はパッと聞いただけで「うまく行かないんじゃないかなぁ」と感じました。なぜなら、そもそも地方政府が新築マンションの販売拡大に躍起になっているのは、マンション開発業者に土地使用権を売却して得られる財政収入が減っているからであって、地方政府の財政には多額の補助金を支出する余裕はないはずです。なので、地方政府自身は資金を出さずに、地元の優良な国有企業に「行政指導」して中古マンションを購入させようとしている地方もあるようなのですが、低所得者層からはあまり高額な家賃は取れないので「中古マンションを買って賃貸として貸し出す」というのは事業としてはあまり儲からないと思います(もし儲かるのなら、地方政府が国有企業に「指導」しなくても民間企業が積極的に自分でやり始めるはずです)。「中古マンションを買い取って低所得者層に賃貸に出す」という儲からない事業を国有企業にやらせると、結局はその国有企業の体力を消耗させ、その国有企業が行っている本来業務にも悪い影響が出て、その地方の経済全体には悪影響が出る可能性があるので、この政策はよくない政策だとは私は考えています。このやり方は、結局は「不動産バブル崩壊」のマイナスの部分を不動産とは関係のない優良な国有企業に拡散させて薄めようとする政策なので、中国経済全体からすれば全くプラスになっていないからです。

 さらに細かいことを言えば、中間所得層(その多くは自家用車を持っている)が一度買って中古マンションとして売り出した物件は間取りや立地条件(地下鉄・バスの便がよいか、など)が低所得者層の希望と合致するのかどうかはわかりません。そもそも中国では既にマンション価格が高騰し過ぎていて、賃料利回り(マンションを賃貸に出して得られる年間賃料をマンション購入価格で割った値)は銀行預金金利より低くなっており、「中古マンションを買ってそれを賃貸に出す」という事業はほとんど確実に「儲からない事業」です(このブログの2017年9月30日付け記事「中国のマンションにおける『住む価値』と価格との差」参照)。

 従って、上に書いたような地方政府によるマンションの「以旧換新」策は、新築マンションが売れない現状について「何とかしろ」と言われた地方政府がやむにやまれず「とりあえず当面新築マンションが少しでも売れるようにするための方策」として考えた弥縫策(びほうさく=根本的解決策になっていない一時しのぎの策)のように私には見えます。

 私は「経済全体にとってはプラスの効果はないんじゃないかなぁ」「効果があったとしても長い期間継続することは不可能な策だよなぁ」と思うと同時に、ここには中国における中央政府(=中国共産党中央)と地方政府(=中国共産党地方幹部)との間にある組織上のガバナンスの欠陥が存在していると見ています。上の組織が下の組織に「何とかしろ」と指示し、下の組織では対応に困って当面の弥縫策を講じる、という図式は、社長が現場に「何とかしろ」と強く指示し、それを受けた現場がやむなく不正をし、それが発覚した後で社長が「確かに『何とかしろ』とは言ったが『不正をしてもよい』と言った覚えはないぞ」と怒るような日本の不正を起こした企業と同じ構図です。中国共産党の中央と地方との関係において、このような組織ガバナンス上の問題点があるのだとしたら、それは不動産バブル崩壊という非常に難しい課題に対して中国共産党が組織としてうまく対応できないだろうということを予見させるものです。

 日本の平成バブル崩壊の過程を知っている人たちは、土地バブル崩壊の後に来るものは、土地に関連する不良債権の増加に伴う銀行の経営悪化、土地価格の下落に伴う各企業のバランスシート(資産構造)の毀損、それに起因する経済活動の停滞とデフレであることはよくわかっています。仮に中国共産党が日本の平成バブル崩壊の過程をよく勉強しているのであれば、現在行われているようなその場しのぎの弥縫策ではなく、不良債権の増加や各企業のバランスシートの毀損を食い止めるための「断固たる措置」を講じているはずです。中国共産党にそれができないのであれば、不動産バブル崩壊が既に明確になっている中国経済は、平成バブル崩壊後の日本経済よりも「ひどい状態」になる可能性はかなり大きいと言えます。

 日本経済新聞は月曜日(2024年4月8日)付け朝刊の13面に「中国地銀、膨らむ不良債権 不動産向け1年で3割」という見出しの記事を掲載しました。日本経済新聞は、平成バブル崩壊の過程をつぶさに報じてきた日本を代表する経済紙として、現在の中国経済の「危うさ」を日本の経済関係者に対して注意喚起したかったのだと思います。テレビの経済番組などを見ていると、中国政府が発表する経済データに基づいて「不動産における不振は続いているものの、中国政府が打ち出す政策も徐々に効果を上げてきており、中国経済の低迷も底打ちが近いのではないか」などとコメントする「専門家」の方々もおられます。私は中国経済の「専門家」ではありませんが、中国における不動産バブル崩壊に起因する中国経済の低迷は、中国共産党の(中国共産党の名誉のために申し上げれば正確には「習近平体制の」)組織ガバナンスの欠如と相まって、「そんなに簡単に底打ちするものではない」と私は考えています。

 

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2024年4月 6日 (土)

中国の不動産バブル崩壊対応は対症療法ばかり

 4月1日にブルームバーグ通信が報じた中国房産信息集団(CRIC)の速報データによると、中国の大手不動産企業100社の2024年3月の新築住宅販売額は前年同月比46%減だったのだそうです。2月は対前年同月比60%減だったので、それよりは減少幅が縮小したとは言えるのですが、春節が終わっても中国の新築マンション販売の低迷は回復の兆しが見えていないようです。

 そうした中、テンセント網・房産チャンネルで話題になっている最近の住宅政策の変化に以下のようなものがありました。

○広東省深セン市で「9070政策」を撤廃。

○北京市で離婚後の夫婦は離婚後三年間はマンションを購入してはならないという制限を撤廃。

 「9070政策」(「7090政策」と呼ばれることもある)は、住宅開発会社が地方政府から土地を購入して住宅開発をする場合、建設する住宅のうち90平方メートル以下のものを70%以上にする必要がある、という政策です。90平方メートルを超える住宅は一種の「ぜいたく」であり、あまり所得の多くない人も買えるような実際に住むための90平方メートル以下の住宅をたくさん建設べきだ、という考え方から出てきた政策です。2006年頃からいろいろな地方で導入されてきた政策のようです。

 「離婚後の一定期間のマンション購入禁止」は、既に住むためのマンションは保有しているが投資用として二戸目のマンションを買いたい夫婦が「一世帯で買えるマンションは一戸まで」という制限をかいくぐるため、「偽装離婚」して「二世帯になったのだからマンションは買えるはずだ」と主張してマンションを買うことを防ぐための措置です。この措置は、「偽装離婚」ではなく、実際に夫婦が不和になって離婚した場合でも適用されるため、離婚後に住む場所を購入できないケースが出たりして評判の悪い政策でした。

 これらの「制限撤廃」は、「マンションが売れなくて困っているので、販売を制限するような政策はどんどん撤廃しよう」という流れの中で出てきたものですが、前者は明らかに「90平方メートル超の大きめの(ちょっとぜいたくな)住宅を大量に建設して販売しても構わない」というものですし、後者は「偽装離婚して投資用マンションを買ってもいいですよ」と政府が承認しているようにも聞こえます。「マンションが売れない」という現状に困った政府がなりふり構わずマンション販売促進をしたいと考えているのがミエミエの政策変更であると言えます。

 中国共産党は現在でもタテマエ上「マンションは住むものであって投機対象としてはならない」と主張していますが、これまでも実際のマンション販売のかなりの割合は投資用だったこともあり、これらの政策変更は、マンション販売の不振に直面して「投資用でも何でもいいから買ってくれ」と言っているようにも聞こえます。こういった政策変更は、中国共産党自体がマンション販売の供給量が需要を大きく上回っていることを認めていることになるので、そうであれば今後マンション価格が上昇することは考えにくいので、「投資用として買ってもいいですよ」と言われても投資用に買う人が増えるとも思えません。これらの政策変更は「苦し紛れ」のように見えます。

 投資用も含めてマンションに対する需要が強くてマンション価格が上昇を続けていた頃には「マンションは投資用としては買うな」と主張し、政策的にも「共同富裕」を打ち出して一部の高所得者層が資産運用のためにマンションを購入することを批判するようなことを言っておきながら、バブルがはじけてマンション価格が下落しマンション販売が低迷するようになると「投資用でもいいからもっと買って」と勧めるような政策変更をし、「共同富裕」という理念も引っ込めた感じになっている中国共産党のやり方は、中国の人々から見ても「ご都合主義」「その場しのぎの対症療法」と見られているのではないかと思います。

 昨年秋頃から中国では、マンションの販売数が減少しマンション開発企業の収入が減って建設代金が払えなくて建設途中で工事がストップしてしまうマンション(爛尾楼)が多発している問題に対処するため、「ホワイトリスト」を作成して銀行にマンション開発企業への融資を促す政策を採っています。この政策自体、「マンションが売れないのならマンション開発企業は融資を受けた銀行にどうやって借金を返すのか」ということを考えていない「その場しのぎ」の政策だと言えます。また、マンション開発企業に土地を販売できなくなって財政が苦しくなった地方政府を救うため、中央政府は地方債の発行枠を増やしたり、中央政府が国債の発行を増やして地方政府に融通する資金を確保したりしていますが、将来にわたって地方政府の収入が増える方策を考えないのであれば、地方債や国債を償還するための資金を確保するメドは立たないことになります。これも「とりあえず借金して今の苦しい状況を何とかする」という「その場しのぎ」の政策だと言えます。

 「とりあえず借金してその場をしのぐ」というやり方は、政府だろうと企業だろうと個人だろうと、貸し手から「どうもあいつからは金を返してもらえなさそうだ」と思われた瞬間、新たな借金をすることができなくなって破綻します。今まで、多くの人は「中国共産党ならなんとかするさ」と思ってきたのですが、そろそろ「中国共産党と言えども借金が返せなくなりそうだ」と皆が気付き始めるタイミングが近づきつつあるように思います。

 各国の中央政府は、その国の通貨の紙幣を無限大に印刷できる中央銀行を抱えており、必要があれば法律に基づく強制措置を講ずる権限を有していますので、最終的には「何とか」できます(経済がメチャクチャになるのでどこの国も実際にはやりませんが、極端なことを言えば「今までの借金はなかったことにする!」と宣言するいわゆる「徳政令」を出すこともできます)。しかし、通常、政府の強制措置がその国の経済に対して破滅的なダメージを与えることにならないように、各国政府は一定の段階で「処置方針の表明と段階的な強制措置の実施」を行います(例:平成バブル崩壊後の日本政府による住宅金融専門会社への公的資金の注入、リーマン・ショック後のFRB(アメリカ連邦準備制度理事会)によるゼロ金利政策と量的緩和の実施、アメリカ政府による大手銀行や大手企業への公的資金の導入など)。

 客観的に言って、今の中国の不動産バブル崩壊は既にこの「処置方針の表明と段階的な強制措置の実施(別の表現をすれば「断固たる措置」)」を必要とする段階に至っていると思われるのに、中国政府は「その場しのぎの対処療法」を繰り返すだけで「断固たる措置」を取りそうな気配がありません。それどころか「断固たる措置」を実施すべき中心人物であるはずの国務院総理の李強氏の存在感が日に日に薄くなってきています。

 今、アメリカのイエレン財務長官(前FRB議長)が中国を訪問中です。イエレン氏は何回も訪中していますが、私が知る限り、アメリカの財務長官がこれだけ頻繁に訪中するのは聞いたことがありません(通常、米中間で問題になるのは外交問題や通商問題であり、国務長官や商務長官、通商代表が何回も訪中するのならわかるのですが)。イエレン財務長官の度重なる訪中は、アメリカ政府も中国の不動産バブル崩壊問題を重く見ており、中国政府に「何とかしろ」とプレッシャーを掛ける意図があるのだろうと私は思っています。中国共産党が不動産バブル崩壊問題をうまく処理できずに中国経済が破綻したら、アメリカ経済も大きな打撃を受けますし、経済破綻による国内の混乱を避けるために中国共産党が台湾の武力解放といった無茶な政策選択をする可能性も排除できないからです。

 この週末、東京の桜は満開で、たまたま中国の清明節の連休と重なったので、東京の桜の名所には多くの中国人観光客も来ているようです。不動産バブル崩壊の過程が進行中とは言っても、中国経済はまだそれほど「メチャクチャな」状態にはなっていないのでしょう。逆に言えば、今の段階ならば、まだうまく対処できる可能性は大きいと思います。中国共産党としては、上の方で紹介したような姑息なその場しのぎの対症療法的政策をパラパラと実施するのではなく、党中央が断固たる決意を持って不動産バブル崩壊に対処する姿勢を見せて欲しいと思います。「断固たる決意を見せる」だけでも市場は安心するものです。このまま「その場しのぎの対症療法」を断続的に打ち出すだけでは「中国共産党は不動産バブル崩壊にうまく対処する能力がないのではないか」という疑心暗鬼が広がってしまいます。それは習近平氏にとって最も避けるべき事態だと思いますので、習近平氏には一刻も早く不動産バブルに対して「断固たる措置を講じる」という決意をもって効果的な施策を打ち出して欲しいと思います。

 仮にそれができないのだとすると、それは習近平氏自身がそれほど経済には強くないから、というより、習近平氏に対して「ここは不動産バブル崩壊に対して早急に断固たる措置を講じなければ政権にとって危ういことになる」と進言できる経済に強いスタッフが周囲に誰もいない(そういう体制に習近平氏自身がしてしまった)からだと思います。そして、たぶんそのことが習近平氏にとって致命傷になるのだろうと思います。

 

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