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2024年3月23日 (土)

中国政府の地方政府債務問題に対する危機感

 IMF(国際通貨基金)が昨年(2023年)10月に発表した金融安定報告書で中国の地方政府の巨額債務問題に懸念を示して対策の必要性を訴えるなど、中国の地方政府が抱える借金の問題については、国際的にも関心が高まっています。中国のマンション・バブルの崩壊や外国企業による中国への直接投資の減少により、住宅や工場を建設するための土地に対する需要が減ってきており、土地使用権売却収入に大きく依存してきた中国の地方政府の財政事情が非常に厳しくなっていることが背景にあります。

 中国政府自身もこの問題については危機感を持っており、先に閉幕した今年(2024年)の全人代での政府活動報告においても、「一部の地方においては、マンション、地方債務、中小金融機関等における隠れたリスクが表面化している」との認識を示した上で、「包括的な地方債務の解消策を制定・実施して、金融リスクの分類ごとに処置を行い、システミック・リスクを発生させないという最低ラインを守る」とされていました。

 こうした基本方針を受け、昨日(2024年3月22日(金))、マンション・バブル対応と地方債務問題に関する二つの会議が開かれました。以下の二つです。いずれの会議も国務院総理の李強氏が主宰しています。

○国務院常務会議

 この会議では、「保交楼(建設がストップしているマンションを完成させて購入者にきちんと引き渡すこと)を持続的に進め、民生を安定させるようにする」「『市場+保障』(市場で取引されるマンションと政府が建設する低所得者用住宅の建設)によって住宅の供給システムの改善を加速させる」といったことが指摘されてます。

○国務院が主催する地方債務リスクを解消させる施策に関するテレビ会議

 この会議では、「新規の債務リスクの増加を厳格に防ぐ」「各種の政策資源を投入して、債務の解消の推進方策を実施する」「地方融資平台の債務リスクを解消するため、融資平台の数と債務規模の圧力の減少を加速させ、長期にわたって借金を返せない企業の清算を進める」「各地区・各部門は、一刻を争って、『時は自分を待たない』という緊迫感を持って(中国語の原文は「只争朝夕、時不我待的緊迫感」)、脇目も振らず努力して成果を出し、経済回復へ向けての体制を増強し固めなければならない」と指摘しています。

 この会議では、財政部と中国人民銀行のほか、天津市政府、内モンゴル自治区政府、貴州省政府、江蘇省政府の関係者が発言していますので、これらの地方における債務の問題が厳しい状態にあるということなのでしょう。

(注)「地方融資平台」とは、地方政府による債務発行が認められていなかった頃に地方政府が設立した「借金の受け皿となる第三セクター的機関」のことです。「融資平台」の借金は、地方政府の帳簿上は出てこないので、「隠れ債務」などと言われることがあります。

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 全人代での政府活動報告や上の二つの会議に見られるように、不動産バブル崩壊と地方債務の問題は、中国政府としても非常に重要視しており、緊急に対処しなければならない、という危機感を持っていることはわかるのですが、残念ながらこれらからは「具体的にどうするのか」という方策が見えてきません。どこかの国のエラい人の発言ではありませんが「しっかりと対処してまいる所存」という決意以上のものが見えないのです。

 私が最も「大丈夫かなぁ」と感じているのは、政府活動報告の中の地方債務対応策について述べている部分で「企業の主体的責任、監督部門の責任及び地方に属する責任を全うさせる」としている点です。「借金を作ったところは自分で責任を取れ」というのは真っ当な主張なのですが、「金融危機」になるかもしれないという危機的状況においては、「借金を作ったヤツは自分でなんとかしろ」と言うだけではダメで、中央政府自らが前面に出て断固として対処する姿勢を見せることが必要です。納税者の意見を気にせざるを得ない民主主義国と違って、一党独裁の中国ならば中央政府による「断固たる措置」を講ずることはできるはずなのですが、中国の中央政府は現段階ではまだそうした「断固たる決断」はしていません。

 中国の規制当局は、3月19日、恒大集団の不動産部門である恒大地産に対して「2019年と2020年分の決算報告において売上高を水増しして公表していた」として42億元(約870億円)の課徴金を課し、創業者・許家印氏に対して個人として4,700万元(約9億8,000万円)の罰金を課すとともに生涯にわたる証券市場への参加禁止処分を下しました。このように個別の案件に関して個別の担当部署が個別の処分を下すのはいいのですが、結局、中国政府は恒大集団を破産させようとしているのか、生き長らえさせて未完成のマンションの完成をさせるつもりなのか、中国政府全体としての対処方針がサッパリわかりません。

 上に紹介した昨日(3月22日(金))開かれた二つの会議を見てわかることは「マンション・バブル崩壊と地方債務の問題に関しては、中国政府としても危機感を持っているが、具体的にどのように対処したらよいかわからない状態である。」ということだと思います。しかし、危機が発生した時、対応にあたる政府が迅速に具体的方策を示すことができず、結果的に「政府としてもどうしたらよいかわからないのだ」と自白するのと同じ結果になってしまうことは、関係者に不安を与えることになるので、危機対応としては非常にマズいと私は思っています。

 マンション・バブル崩壊と地方債務問題は、対応が難しい問題であることは間違いないのですが、包括的な対応方針が示されないままに時間だけがジリジリと経過していくというのは、最も悪いパターンです。

 昨日(3月22日)、中国人民銀行は人民元の対ドルレートの基準値を前日より人民元安に設定したため、市場での人民元の対ドルレートは、心理的節目と思われていた1ドル=7.2元を超えて人民元安が進みました。中国人民銀行が定めたこの日の基準値(1ドル=7.1004元)と比べて市場で取引される人民元はかなり人民元安の方向にかい離しています。これは市場では人民元安方向への強い圧力が掛かっていることを示しています。

 一昨日と昨日で、日本の日経平均株価、アメリカのダウ、S&P500、ナスダックはいずれも史上最高値を更新しました(日本のTOPIX(東証株価指数)は平成バブル崩壊後の高値を更新しました)。株式市場の世界においては、中国から資金が抜けて日本やアメリカにシフトしていると言われて久しいのですが、中国政府がマンション・バブル崩壊や地方債務問題に対して「ビシッ」という対応をしない限りこの傾向は続くでしょう。私は2008年の時点で北京に駐在していましたが、リーマン・ショックの直後の2008年11月、中国政府が「四兆元の経済対策」という世界が驚く「ビシッ」とした政策を打ち出したことをよく覚えているだけに、今の「マンショ・バブル崩壊と地方債務危機」という中国自身の問題に対して中国政府が「ビシッ」とした政策を打ち出せていないことに私は大きなもどかしさを感じています。

 昨日(3月22日(金))、中国の商務省は、2024年1-2月期の企業による内外投資状況に関する統計データを発表しました。それによると、2024年1-2月の海外から中国への直接投資(FDI)は対前年同期比19.9%の減少だったとのことです。同じ商務省の統計データ発表について同日の中国中央電視台夜7時のニュース「新聞聯播」では「非金融部門の中国企業の対外投資は対前年同期比10%の増加でした」と伝えていました。「新聞聯播」の統計データの報道ぶりは「中国共産党にとって都合のよい数字は報じる。都合の悪い数字は報じない。」ということで一貫しているので「いつものこと」ではあるのですが、こういう報道を見ていると、中国当局は目下の厳しい中国経済の現状に対してまじめに対応しているようにはとても見えない、と私は改めて感じました。

 中国政府がマンション・バブル崩壊と地方債務問題に対して「危機感を持っている」ことは「危機感を持っていない」状況に比べれば「まし」であることは間違いありませんが、具体的対策を迅速に打ち出せていないことは中国でビジネスをしている個人や企業に対して大きな不安を与えていると思います。それが「中国への直接投資の減少」や「人民元レートの人民元安方向への圧力」として現れてきていると思います。江沢民氏が唱えた「三つの代表重要思想」に基づいて、現在では多くの企業家が中国共産党の党員になっています。中国では日米欧のような国民が政治に参加する民主主義制度はありませんが、習近平政権が経済問題に適切に対処できていないことに対する不満が中国共産党の数多くの党員の間で高まれば中国共産党内部の権力構造の力学にも変化が生じると思います。

 上に紹介した昨日(3月22日(金))開催された国務院主催の二つの会議は、今後打ち出される具体的な方策の前提となる会議だったのかもしれません。だとすれば、「具体的な方策」はまもなく出てくるのかもしれません。もし仮に、今後も具体的かつ効果的な政策が打ち出されることなくただ時間だけが経過するようなことになるのであれば、マンションは中国の中間層の人々の資産の約7割を占めていると言われますし、土地使用権売却収入に頼っていた地方政府の債務問題に対する抜本的な解決策が講じられないのであれば、人々の生活に直結する地方の行政サービスが滞ることになり、中国の人々の不満は高まりますので、それは経済問題というよりは社会的・政治的問題に発展する可能性が大きいと考える必要があると思います。

 

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