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2024年3月 2日 (土)

中国の不動産バブル崩壊は次のステージへ

 中国では来週火曜日(2024年3月5日)から全国人民代表大会が開催されます。現状の不動産バブル崩壊に対する対応についても議論されるだろうと思いますが、抜本的な対策は出ないだろうと見られています。不動産バブル崩壊に対する対処は非常に難しく、景気刺激策のような対策で問題が解決するほど単純ではないからです。

 中国のシンクタンクである中国指数研究院によると、中国のトップ100の不動産開発企業による2024年1~2月の住宅販売金額は、昨年同期比で51%の減少だったのだそうです。昨年(2023年)の1月~2月は「ゼロコロナ政策」が終わった直後で、住宅販売についてもゼロコロナ期の反動増があったと思うので、単純に比較することはできないと思いますが、2024年に入っても、中国の新築マンション販売は回復ペースには戻っていないことは間違いなようです。「新築」ではなく「中古」のマンションに関してはそれなりに売れており、「住宅需要が蒸発した」というわけではないようですが、中古マンションの販売価格も下落傾向が続いており、中国政府による様々な住宅販売刺激策にも係わらず、中国のマンション市場の低迷は長期化しつつあるように見えます。

 中国のマンション市場に関するニュースで私が最近最も気になったのは、2024年1月の各種の「法拍房(裁判所によって競売に付される住宅)」が10.04万戸で、前年同月比48.2%の急増だった、というものです。マンション等の競売については、住宅ローンを返済できなくなった個人の所有するマンションが裁判所によって差し押さえられるケースや、企業が融資を受ける際の担保として差し出していた企業所有のマンションが借金返済に行き詰まって差し押さえられるケースが考えられます。テンセント網・房産チャンネルにアップされていたある解説動画では「個人が住宅ローン返済に行き詰まって差し押さえられるケースはそれほど急増するとは考えられない。これだけの競売数の急増は、保有するマンションを担保に設定していた企業の借金返済の行き詰まりが増えているからではないか。」と分析していました。つまり、このことは「マンション価格の低迷」が「企業の保有資産の減少」を招き、銀行から担保価値の減少を理由に借金返済を迫られた企業が苦境に陥るという日本の平成バブル崩壊期によくあった現象が中国でも起き始めていることを示唆しています。

 一方、「週刊東洋経済」(2024年3月2日号)の「中国動態」の欄で、大阪経済大学教授の福本智之氏は「脆弱な中小銀行の整理が加速」と題して、中国当局が農村部にある小規模の銀行(村鎮銀行)の解散・統合を進めていることを報告しています。これも日本の平成バブル崩壊期と同じように、中国においても住宅価格の下落が経営基盤が弱い小規模の銀行の経営を圧迫しつつあることを示している可能性があります。

 つまり、これらのことは、中国における不動産バブル崩壊は、不動産開発企業の経営不振やマンション建設工事に携わる建設会社の業績不振といった「マンションが売れないことが直接に影響を与える範囲」を超えて影響が広がっており、マンション等を企業資産として抱える企業の債権の不良債権化や関係している金融機関の経営圧迫といった「社会全体の不良債権の拡大や金融機関への影響拡大」という「第二ステージ」に入りつつあることを示していると思われます。

 中国当局は、社会全体での不良債権の拡大や金融機関の経営への圧迫が「金融危機」にまで発展しないように最大限の措置をこれから講じることになると思います。昨日(2024年3月1日(金))付け「人民日報」5面には「強大な中央銀行を建設すべき(新論)」と題する金融関連の研究者による評論が掲載されていました。タイミングから言って、もしかすると今回の全人代で金融関係の機能強化についても議論がなされるのかもしれませんが、この評論の掲載は「何か問題が起きても中国当局は強力に金融安定化のための施策を講じる用意がある」という当局の姿勢を見せる意味があったのかもしれません。

 一方、世界に目を転じると、日本の株式市場では日経平均株価が2月22日にバブル期の高値を超えた後も連日のように史上最高値を更新しているほか、アメリカやヨーロッパでも株価の史上最高値が続いています。さらに、暗号資産のビットコインも2021年11月に付けた史上最高値に接近する高値を付けています。もしかすると、中国における不動産バブル崩壊の進行に伴い、中国から資金が抜けて、それが世界の株や暗号資産に流れ込んでいるのが現在の状況なのかもしれません。

 一年半程前の2022年7月、経済マーケット専門チャンネルの日経CNBCでソニー銀行が提供している番組「GINZA CROSSING Talk」にゲストとして出演していた投資コンサルタント会社・複眼経済塾の塾頭のエミン・ユルマズ氏は次のような興味ある指摘をしていました。

○日経平均株価が史上最高値を付けた1989年12月末がベルリンの壁崩壊(1989年11月)と同じタイミングだったのは偶然ではない。日本経済の高度成長が、朝鮮戦争特需から始まったことを考えれば、日本経済は「冷戦構造」の中で発展した、と言える。

○冷戦終結により、中国とロシアが世界経済の中に開放された。世界のマネーは、未開拓の中国とロシアに流れ込んだ。このため、日本が「置き去り」にされて日本経済は停滞期に入った。

○中国は低賃金の労働力を、ロシアは低価格の資源を提供することにより、世界は「労働力と資源は中国とロシアにまかせる」という形で、物価が安い状態のままで経済を進展させる、という「ディスインフレ(モノの価格や賃金が上昇しない状態)の時代」に入った。

○欧米(及び日本)は、中国の安い労働力とロシアの安い資源を利用するために、中ロ国内における人権や環境破壊等の問題には目をつぶって、中国とロシアを世界経済の中で泳がせてきた。中国とロシアは次第に経済力を付けて、欧米主導のやり方に反発し、自分のやり方をやり始めた(一帯一路など)。欧米は、中ロの人権問題等については今までは大目に見てきたのだけれども、自分たちのやり方に異議を唱え始めた中国・ロシアを見て「私たちのルールに従えないのだったらバスから降りてください」と言い始めた。

 このエミン・ユルマズ氏の考え方を延長すれば、現在の日米欧の株高やビットコイン価格の上昇は、1990年頃の冷静終結以降の30年間はロシアや中国へ世界の資金が流入していたものが、ロシアのウクライナ侵攻や中国の不動産バブル崩壊を受けて今は逆流しつつあることを示すひとつの現象なのかもしれません。

 ここでひとつ思い出さなければならない重要なことは、1990年以降の日本の平成バブル崩壊期には、日本は1992年に「天皇陛下訪中」という最大級の切り札を切って1989年の「六四天安門事件」以来停滞していた中国との関係を改善して、急速に発展する中国経済に乗っかる形で日本のバブル崩壊後の危機を何とか乗り切った、という事実です。留意すべきなのは、これから中国が不動産バブル崩壊に伴う様々な問題(例えば数多くの企業の不良債権や金融システムに対する圧迫の問題)に対処するに際して、中国には「利用できる隣国」がないことです。不動産バブル崩壊後の諸問題に中国が苦しむとしても、おそらく日本も欧米各国も中国に手を差し伸べることはしないと思います。私も、習近平氏による中国共産党統治体制を手助けすることはすべきではないと思います。ですが、全世界のことを考えれば、中国が最悪の状態になることは誰も望んでいないと思うので、何らかの形で中国との関係を改善して手助けする(そうすれば必然的にプーチン氏のロシアを孤立させることができる)ことも検討すべきではないかとも思います。

 中国は、アメリカとの関係では対立関係を維持していますが、最近、「新聞聯播」や「人民日報」では、トップニュース扱いで「習近平氏がアメリカの高校生の訪中団が送って来た手紙に返信した」といったニュースを流しています。これは「中国としても対米関係を改善したいと考えている」という一種のメッセージかもしれません。実際、中国は、経済関係を踏まえれば、欧米や日本と徹底的な対立関係に陥っては困る、とも考えていると思います。中国がこれから不動産バブル崩壊に起因する様々な問題で苦しむであろうとことを想定して、言い方はよくありませんが、むしろそうしたこれから起こるであろう中国の苦境を「利用」して、欧米や日本としては、中国を「国際社会における『我々の側』に引きずり戻す」ための方策を考える必要があるのかもしれません。逆説的になりますが、習近平氏が不動産バブル崩壊にうまく対処できないことが日米欧にとってはむしろプラスに作用するかもしれない、ということです。

 

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