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2024年2月24日 (土)

34年間の呪縛

 木曜日(2024年2月22日)、東京株式市場で日経平均株価が1989年12月29日のバブル最盛期につけた史上最高値(終値で3万8,915円87銭)を34年ぶりに更新しました(2月22日の終値は3万9,098円68銭)。日経平均株価を構成する225銘柄は定期的に入れ替えが行われており、1989年と現在とではかなり異なりますので、単純に指数を比較してもあまり意味がないことですが、「時代が変わった」「歴史の次のステップに入った」という「雰囲気を示す」という意味ではひとつの大きな節目でした。日本経済新聞は翌2月23日の朝刊一面に「もはや『バブル後』ではない」という評論を掲載しました。

 この34年間、日本では「多数の大きな銀行が離合集散して三メガバンクに統合された」とか「政治の世界では自民党と社会党とによる55年体制が崩壊し、何回か政権交代が起きた」といった変化が起きました。日本がもし今まで「バブル後」という呪縛に捕らわれていたのだとしたら、今回の日経平均株価の史上最高値更新をきっかけにして、その呪縛が解けるよう願いたいものだと思います。

 一方、1989年と言えば、中国では「六四天安門事件」が起きた年ですが、中国では「六四天安門事件後の呪縛」は当面解けそうにありません。中国の場合、「34年間の呪縛が解ける」どころか、習近平氏は「六四天安門事件」に至るまでの1978年以降の「改革開放期」を否定して、それ以前の毛沢東時代に戻ることを指向しているようにさえ見えます。

 中国の現在の最も重要な政策課題は不動産バブル崩壊に対する対処ですが、現時点まで大胆な抜本対策は打ち出されていません。一応、1月末以降、「ホワイトリストによる不動産企業への融資の拡大」という政策が進められてはいます。現在までに中国各地の様々な不動産企業の3,000を超えるプロジェクトが「ホワイトリスト」に掲載され、銀行からの融資の拡大が行われているようです。しかし、前にも指摘しましたが(このブログの2024年2月3日付け記事「ホワイトリストによる不動産企業への融資の問題点」参照)、この「ホワイトリスト」の作成は中央政府が主体となって行われているものではなく、地方政府が行っているものであって、「地方政府と不動産開発企業と各地方を担当する国有銀行との癒着」という不動産バブル形成に至った根本原因にメスを入れるものには全くなっていません。また、この「ホワイトリスト」に基づく融資の実行は、単に爛尾楼(販売予約契約を結んで顧客から資金を事前に受け取っているにも係わらず開発企業の資金不足のために建設工事が中断して完成しないマンション)の建設を進めて顧客にマンションを引き渡すことを目的にして行われているものであり、不動産企業に関連する不良債権を処理するためのものではなく、不動産バブル崩壊に伴う問題を解決するものにはなっていません。

 そもそも中国の不動産バブルは、「土地は公有(国有または地方の集団が所有)である」という社会主義の原則に基づき、地方政府(=中国共産党地方幹部)が補償金を支払って農民から農地を収用し、その土地使用権を開発業者に売却し(その資金は国有銀行が融資し)、土地使用権売却収入を使って地方政府がインフラ投資等を行うことによってその地方のGDPを押し上げ、その結果として中国共産党地方幹部が出世する、という中国共産党地方幹部の権力行使システムによって形作られてきたものです。従って、中国の不動産バブルを抜本的に防ぐためには、中国共産党地方幹部の権力システムの構造を変える必要があり、現在の中国共産党の中央と地方とを結ぶ権力ピラミッド構造を変革する必要があります。今回、不動産企業に対する融資の「ホワイトリスト」の作成を地方政府(=中国共産党地方幹部)に任せたということは、習近平政権は、この中国共産党の中央と地方を結ぶ権力ピラミッド構造を変革するつもりはないと意思表示したのと同じだと私は考えています。

 日本における平成バブル崩壊後の34年間の呪縛は解消されつつあるのかどうかはわかりませんが、少なくとも日本においては「バブル崩壊後の呪縛」を解消するための努力は続けられてきました(これからも続けられていくことになるでしょう)。しかし、中国においては、1989年の「六四天安門事件」によって凝り固まった中国共産党統治体制という呪縛については、そもそも「解消しようとする動き」すら起きていません(というか「解消しようという意思」そのものがない)。習近平氏は、呪縛による矛盾が表面化しないようにむしろ呪縛を強化しようとしているように見えます。

 中国における不動産バブル崩壊の状況を見て、よく「中国も日本の平成バブル崩壊後と同じような道をたどるのか」という疑問が呈されていますが、習近平氏が中国における不動産バブルを起こした根本原因のひとつである「中国共産党の権力ピラミッド構造」を変革させようという意思を持っていないのであれば、中国は日本と同じ道を歩むことにはなりません。日本よりももっとひどい経済的・社会的混乱を招くことになるでしょう。

 中国における不動産バブルの現状を踏まえて、日本の平成バブル崩壊後の動きを参考にして考えれば、今後の中国の状況は以下のようになると考えられます。

○(地方政府が「新築マンションの値下げ販売禁止令」を維持したとしても中古マンションションの販売価格の下落は止められないので)不動産企業や不動産に投資した多くの企業が所有している数多くのマンションの資産価値の下落が明確になり、中国において多額の不良債権の問題が表面化するのはむしろこれからである(日本の場合、株価のピークは1989年年末だったが、土地価格が下落し始めたのは1992年頃であり、不良債権の問題が表面化し始めたのは1995年頃(第二地銀だった兵庫銀行が破綻したのは1995年8月)、住専(住宅金融専門会社)への公的資金注入について国会で議論になったのは1996年、各銀行の不良債権処理のための預金保険機構の各銀行への支援金額がピークに達したのは2000年だった)。ただし、不良債権の問題については、中国の場合、「世論の動向」や「国会での議論」を気にする必要がないので、中国人民銀行による迅速かつ強力な資金支援で日本よりうまく対処できる可能性はある。

○土地使用権売却収入が減少した地方政府は景気下支えのためのインフラ投資等に対する余力が減り、場合によっては住民に対する各種行政サービスも抑制せざるを得なくなり、経済の低迷と地方政府による行政サービスの低下により住民の不満が高まる(これは日本にはなかった現象)。

○(仮に不動産バブルの問題をうまく処理できない地方政府の幹部を腐敗追放の名目で処分したりすれば)「中国共産党の中央と地方を結ぶ権力ピラミッド構造」が崩れ、中国共産党中央と中国共産党地方幹部との間で緊張関係が生まれ、中国共産党内部の権力闘争において混乱が生じる可能性がある(これも日本にはなかった現象)。

 よく「中国共産党は日本の平成バブル崩壊の過程をよく研究しているから、日本の経験を参考としてうまく対処できるはずだ」という見方がなされます。しかし、もし仮に中国共産党が日本の平成バブル崩壊をよく研究していて、不動産バブルを崩壊させてはならない、と考えているのだったら、もっと早い段階(例えば2014年をピークにして不動産価格が下がった段階)でそれ以上のバブル膨張を防ぐ手段を講じただろうと私は考えています。しかし、実際は習近平政権は、2015年頃の「チャイナ・ショック」の時期の後、新型都市化計画や雄安新区開発プロジェクトを推進するなど「バブルに対処するために新たなバブルを作る」政策を推進してきました。なので私は、中国共産党は確かに日本の平成バブル崩壊をよく勉強して頭ではわかっているけれども、中国共産党の中央と地方の権力ピラミッド構造を壊したくないので、今後も適切な対処はできないだろう、と考えています。

 中国の不動産バブルは、中国共産党の権力構造にその原因がある以上、中国共産党に自身の権力構造を変更する意思がない限り、適切には対応できないでしょう。日本は、これからバブル崩壊後の34年間の呪縛を超えて新しい時代に入っていく可能性がありますが、中国は、中国共産党が自らの権力構造の維持に固執するために、むしろこれから「六四天安門事件後の34年間の呪縛」のツケを支払うための本格的な苦悩の時代を迎えることになるのだと思います。

 

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