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2024年2月10日 (土)

株価が下落したので証券監督管理委員会主席を解任

 中国経済の低迷が中国でビジネスを展開する諸外国の企業の業績に対して影響していることが明確になりつつある一方、上海や香港の株価の低落傾向が続いています。こうした中、ブルームバーグが火曜日(2024年2月6日)「習近平氏は規制当局から本土の金融市場に関する説明を受ける予定で、急落している株価の下支えについて検討される模様だ。」と報じました。この報道を受けて、ネット上等では「経済対策、株価対策で習近平氏は何か新しい効果的な対策を打ち出してくるかもしれない」という期待と、「習近平氏は経済のことがよくわかっていないからスタッフから現状の説明を受けても的確な対策を指示することはできないだろう」という「あまり期待しない方がよい」という見方とが交錯していました。

 結果として出てきた「株価下落に対する対応策」に関するニュースは以下の通りです。

○中国政府系投資会社の中央匯金投資がA株(人民元建てで取引される銘柄)への投資を強化すると発表した。

○中国証券監督管理委員会は株券転貸を抑制する等の株の空売り規制の強化を発表した。

○国務院は、中国証券監督管理委員会主席の易会満氏を退任させ、後任に呉清上海市共産党委員会副書記を充てる人事を発表した。

 国家主席の習近平氏にまで相談して打ち出す「対策」なのだから、さらなる金融緩和とか公共事業等への財政支出の拡大とか中国経済の活発化を狙った対策が出てくるのではないか、という見方もあったのですが、結果的には上の三つでした。上の二つは完全なPKO(Price Keeping Operation)です。政府系ファンドが株を買って買え支えるならば株価は下がらないだろうし、借りた株を売る空売りを規制する一方お金を借りて株を買う信用買いは規制しないのならば『売り』が減って『買い』は減らないので株価の下落スピードは緩和するだろうことは明らかです。しかし、「株価は経済の善し悪しを示す指標のひとつ」であることを考えれば、経済活性化の対策を図らないで行う単なる「株価下支え対策」は経済対策としては全く何もやっていないのに等しいと言えます。さらに証券監督管理委員会主席の交代は単に今までの主席が「株価下支え対策」に失敗したために習近平氏の怒りを買っただけのようにも見えます(何の対策にもなっていません)。

(ただし、株式市場の規制当局のトップの交代は2015年の株価下落の局面でも行われたので、この交代は、中国の投資家には「中国共産党中央は本気で株価対策をやるつもりのようだ」というメッセージとして受け取られたようで、このニュースを受けて上海の株価は上がりました。もっとも、香港の株式市場では外国人投資家が多いので「こんなんじゃ何の対策にもなっていない」と受け取られたからか、その後も株価は下がり続けました。)

 正直言って、証券監督管理委員会の主席が交代するとのニュースを知って、私は大いにずっこけてしまいました。例えて言えば、プロ野球で巨人が負けてばかりいるので、巨人ファンのコミッショナーが審判をクビにしたようなものだからです。巨人が負け続けているのは巨人が弱いからであって審判のせいではありません。もし審判をクビにしてしまったら、後任の審判は「巨人を勝たせなければまた自分がクビになってしまう」と考えて、中立公正な立場でなければならない審判が巨人に有利な判定をしてしまうようになるかもしれません。そんなことをやったら野球の試合は全く面白くないものになり、結果的にお客さんに見放されてプロ野球業界全体は低迷してしまうことになるでしょう。

 申し訳ないですが、上記のような対策をやるならば「やらない方がずっとマシだった」と私は思います。というのは、繰り返しますが、経済政策の観点から言ったら、上記の対策は全く「対策」になっていないからです。習近平氏に相談した上でこうした対策しか出てこないのだとしたら、それは「習近平氏は本当に経済のことが全くわかっていない」もしくは「習近平氏は、株価が下がらないようにしたいと考えてはいるものの、低迷する中国経済を活性化させようという意思は全くない」ことを示すことになるからです。しかも、春節休みに入る直前の一週間でこうした対策が出てきたことは「株価下落にあせってあわてて対応した」というイメージを与えて、非常に印象がよくありません。

 よく「中国の不動産バブル崩壊は日本の平成バブル崩壊後と同じような経済の低迷を招くのではないか」という懸念が取り沙汰されていますが、全ての権限を掌握している習近平氏が「経済のことを全くわかっていない」または「経済の低迷を何とかしようという意思が全くない」のだとしたら、「不動産バブル崩壊後の中国経済は平成バブル崩壊後の日本経済よりずっとひどいとんでもないことになる」ことは明らかです。「春節休み期間中に何か抜本的で効果的な経済対策が打ち出される」という期待もあるようですが、今まで経緯を見てみれば、それは単なるないものねだりの「願望」に過ぎないと思います。

 中国では今日(2024年2月10日(土))から春節の連休に入り、この春節期間中に延べ90億人が移動すると中国政府は推計しています。しかし、よく聞くと90億人のうち公共交通機関を利用する人が18億人で自家用車等で移動する人が72億人なのだそうです。中国では春節期間中は高速道路が無料になるのでこういう推計を出しているようですが、このことは、これまで巨額の資金を費やして空港や高速鉄道網を整備してきたのに一年で最も「かき入れ時」の春節期間中に飛行機や高速鉄道を利用する人はそれほど多くならないことを意味します。私はこの春節期間中の人の移動の数字も中国政府特有の「経済は低迷していないことを示すための数字のマジックのひとつ」なのではないかと疑っています。

 冒頭に書いたように相次いで発表される日本やアメリカの企業の決算を見てみると、中国におけるビジネスは相当程度に低迷しているようです。春節が明けて経済活動が平常に戻る過程で、中国経済がコロナ前の水準と比較してどの程度に回復していくかは注意深く見ていく必要があると思います。少なくとも上に書いたように習近平氏の打ち出す「対策」は「私は経済のことをわかっていません」または「私は経済の活性化を図ろうという意思はそもそもありません」ということを示すようなものばかりなので、内外の投資家の失望を誘って春節明け以降の上海や香港の株式市場の株価はこれからも低迷が続くことになるのではないかと私は懸念しています。

 なお、株価に関してですが、今、日本では「平成バブル崩壊後最高値の更新」が、アメリカでは「史上最高値の更新」が続いています。今や中国経済は世界経済の重要な一部になっているのに、中国経済が低迷しているにも係わらず日米で株価の上昇が続いているのは大丈夫なのかなぁ、という感じがします。前にも書いたことがありますが、1989年、4月15日の胡耀邦前総書記の死去から始まった学生・市民の運動が6月4日に人民解放軍による武力弾圧という事態にまで発展したのに、この年の日本の株価は上昇を続け、日経平均株価は1989年年末に「史上最高値」を付けたのでした。日本の株価の上昇と「六四天安門事件」との因果関係については私はよくわからないのですが、もしかすると1989年も香港経由で中国に入っていた投資マネーの一部が日本に回ってきて日本の株高を演出した要素もあったのかもしれません。だとすれば、今(2024年)、中国経済の低迷が本格化・長期化する見込みの中で日米の株価が上昇を続けていることに対してはもっと警戒感を持って見ていた方がよいのかもしれないなぁ、という気もします。

 

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