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2023年12月 9日 (土)

独裁なのに統一的・迅速・果断な対応ができない

 昨日(2023年12月8日(金))、中国共産党政治局会議が開催され、来年(2024年)の経済政策の基本的方針について議論が行われました。この政治局会議は、例年12月に開催される中央経済工作会議に先立って開催される毎年恒例のものです。

 通常、具体的な経済政策は中央経済工作会議で表明され、直前に行われる政治局会議では大まかな基本方針が示されるのですが、今年の政治局会議を伝える「人民日報」等の報道を見て私が感じた印象は「大まかな『基本方針』とは言え、インパクトがないなぁ」というものです。日本における報道では、「積極的な財政政策については、適度に力を加え」としている部分に着目して、「今までよりも積極的に財政支出を行って経済を下支えする方針が示された」と伝えているものもありますが、現在の中国経済の危機的低迷の状況を踏まえれば、「適度に財政支出をする」だけでは、新鮮味やインパクトはないなぁ、という印象を私は受けたのでした。

 現在の中国経済は、「ゼロコロナ政策」に伴うダメージに加えて、不動産バブル崩壊が現実化し、非常に厳しい危機的状況にあります。今まではこうした経済危機に対する対応としては、一党独裁の中国共産党体制では民主主義国家と比べて統一的で迅速で果断な対応を打ち出すことが容易なので、中国は意外にうまく対応できるのではないか、という期待を込めた見方がありました。実際、2008年9月のアメリカ発のリーマン・ショックという経済危機に対しては、中国の胡錦濤政権は同年11月に「四兆元の経済対策」というインパクトのある経済政策を世界に先駆けて迅速に打ち出し、結果として、世界経済を救う役割を中国が果たすことに成功したのでした。

 しかしながら、「ゼロコロナ政策の痛手+不動産バブルの崩壊」という中国自身に起因する今回の中国経済の危機的状況に対する習近平政権の対応は、二軒目マンション購入時の条件緩和などの対策は打ち出されてはいるのですが、政策としてはインパクトに欠けるものであり、政策が打ち出されるタイミングもとても「迅速」とは言えません。「統一的対応」という点でも疑問符が付く対応が目立っています。例えば、不動産市場を巡る最近の話題では、四川省成都市で、ある不動産企業がそれまでの相場より四割安い価格で新築マンションを販売開始したところ、成都市政府が「値引き販売禁止指示」を出し、既に販売された案件についても契約を破棄させた、という案件が発生している一方、江蘇省蘇州市では、新築マンションの値引き販売を認める方針が打ち出されたりしています。「新築マンションの値引き販売を認めるのかどうか」といった基本的な方針に関しても、各地方政府の自主的な判断に任されており、北京の中央政府が統一的な方針を決めて国全体として対応に当たる、という姿勢が見えていません。

 経済の危機的な状況に対してインパクトのある対策が迅速に打ち出されていない最も大きな原因は、「全ての権限を習近平氏一人に集中させる」という方針が進められている一方で、その習近平氏自身が具体的な政策方針について「何も言わない」「何もしない」姿勢を続けているためです。中国政府の各担当部署は習近平氏の意向を「忖度」して政策を打ち出すため、各部署の対応がバラバラで統一が取れておらず、タイミングとしても迅速さに欠け、対応の中身も「当たり障りのないインパクトに欠ける政策」ばかりで、とても「果断な対応」とは言えないものばかりです。

 12月7日にテレビ東京で放送されたNewsモーニング・サテライトに出演していたAISキャピタルの肖敏捷氏は、「2022年の党大会で習近平氏の三期目続投が決定し、習近平氏の権力基盤が万全なものになったので、それ以降は政治権力闘争は終わり、習近平政権は経済政策に専念すると期待していたのだが、今になっても『反腐敗闘争』という政治権力闘争は続いている。各部署の政策担当者は、どうしたら習近平氏に気に入ってもらえるか、という点ばかりを気にしており、経済政策に集中できていない。2024年の中国経済が希望が持てるものになるか失望に終わるかは、結局は、こうした政治の動きがどうなるか、に掛かっている。」と指摘していました。

 ところが、昨日(12月8日)の政治局会議の内容は肖敏捷氏の期待に反するものでした。昨日の政治局会議の内容は、ひとつは「2024年の経済政策に関する分析・検討」だったのですが、もうひとつは「各部署における清廉な政治風土の建設と反腐敗工作に関する検討」でした。「反腐敗工作」とは「各部署における腐敗した幹部を摘発・排除する」というものですが、「習近平の新時代の中国の特色のある社会主義思想を主題とする教育を行うことによって・・・」という前提が付いていることを考えれば、要するに「腐敗分子の摘発・排除」とは、習近平氏に忠誠を誓わない者の摘発・排除、というふうに見えます。

 上に書いたように、一党独裁体制の中国では、様々な利害関係者による議論を経ることが必要な民主主義国家と異なり、思い切った統一的な政策を迅速に果断に実行できるはずだ、と見られてきました。しかし、残念ながら現在の習近平政権はこの「独裁の利点」を発揮できていません。「習近平氏の一人独裁体制」がその実「習近平氏の顔色ばかり伺っている体制」になっているからです。

 日本の平成バブル崩壊やアメリカのリーマン・ショックの経験を経て、最近ではむしろ民主主義国家の方が経済危機に対して、迅速・果断な対応を取る例が多くなっています。最近の「経済危機対応の実例」を下記に掲げてみます。

【経済面での新型コロナ対応】

 2020年3月3日、急速な新型コロナウィルス感染症の拡大が経済に対して与える影響について議論するため、G7財務大臣・中央銀行総裁が電話会談を行い「新型コロナウィルスの経済への影響に対してはあらゆる手段を講じて対処する」との声明を発表した。その直後、アメリカFRB(連邦準備制度理事会)は0.50%の緊急利下げを発表した。

 3月15日、日曜日にも関わらずFRBは臨時会合を開催して、金利をさらに1%引き下げて0.00~0.25%にする(ゼロ金利にする)ことを発表した。同時に世界の6つの中央銀行(アメリカFRB、ヨーロッパ中央銀行、日本銀行、カナダ銀行、イングランド銀行、スイス国立銀行)は協調して民間銀行に対する米ドル供給金利を引き下げ従来より長い期間の供給を認める方針を決定した。

 さらに日本銀行は、3月18~19日に開催予定だった金融政策決定会合を前倒しで16日12時から会合を開催し、ETF(上場投資信託)の買い入れ枠を従来の年間6兆円から12兆円に倍増する、企業が発行するコマーシャル・ペーパーや社債の買い入れ枠を増加する等の追加緊急緩和措置を決定した。

【イギリスのポンド危機】

 2022年9月、イギリスのトラス首相による大規模減税策とアメリカFRBによる急速な利上げ決定を受けて、イギリスポンドとイギリス国債が大量に売られてイギリス国債の金利が急騰した。この事態に対応して、9月28日、イングランド銀行は二週間の期限付きでイギリスの長期国債を無制限に購入する方針を発表した。

 10月20日、ポンドの下落、イギリス国債の金利の急騰に対してイギリス国内からの批判だけでなく国際機関(IMFなど)からも批判があり、イギリスのトラス首相は辞意を表明した。後任の首相となったスナク氏は、トラス前首相が打ち出した大規模減税策を撤回した。

【アメリカのシリコン・バレー・バンクの破綻】

 2023年3月10日、アメリカのシリコン・バレー・バンクが破綻した。これを受けて、3月12日、アメリカ財務省とFRBは「シリコン・バレー・バンクの預金者の預金は全額保護される」等の声明を発表した(アメリカでは銀行が破綻した場合の預金保護金額は一人あたり25万ドルだが、信用不安を拡大させないため、「預金の全額保護」という特例措置を講じたもの)。

【クレディ・スイスの買収】

 スイス第二の大手銀行であるクレディ・スイスはかねてから経営不振が報じられていたが、2023年3月15日、クレディ・スイスの筆頭株主であるサウジ・ナショナル・バンクがクレディ・スイスへの追加出資に否定的だとの報道がなされ、クレディ・スイスの株価が急落した。

 3月19日、スイス最大の銀行UBSがクレディ・スイスを買収することを発表した。この発表の記者会見には、UBSの社長はもちろん、スイスの大統領とスイス国立銀行の総裁も同席しており、スイスという国家を挙げての買収劇だったことが世界に対してアピールされた。

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 これらに比べて、中国の不動産危機に対する中国政府の対応は「遅すぎ、ぬるすぎ」ではないのですか? 中国の不動産大手の恒大集団が米ドル債に関して債務不履行状態になったのは2021年のことであり、その後もいくつかの不動産企業が債務不履行に陥りました。最大手の碧桂園は今年(2023年)10月、米ドル建て債に関して債務不履行状態と認定されました。しかしながら、恒大集団については、破綻させるのか、政府が救済するのか、どちらともつかない状態が現在も続いています。恒大集団の債権者が精算処理を求めている件について、12月4日、香港の裁判所は最終的な判断を示すものと見られていましたが、判断はまたも次回来年1月29日の審理まで先送りされました。

 不動産企業に対する支援についても、「中国当局は支援の対象となる比較的経営状況が健全な50社のホワイト・リストを作成中」という報道がなされてから半月くらい経ちますが、いまだに具体的な支援の内容も「ホワイト・リスト」なるものも公表されていません。

 中国の不動産企業は、その負債の規模があまりにも巨大であるために、政府が救済するにしろ、清算処理させるにしろ、問題は簡単ではないことは事実ですが、過去の経験からすれば、この手の経済危機への対応は「迅速さ」「果断さ」が重要です。「ズルズルと先送り」が最もよくないことは誰もが知っていることです。

 習近平氏にしてみれば、「中国の不動産の問題は江沢民政権時代の1998年のマンションの商業販売が始まった時から継続している問題であり、自分(習近平氏)に過去の歴代政権が残した課題の責任を押しつけられても困る」という感覚はあるのかもしれません。しかし、中国共産党の中央経済工作会議が不動産問題を認識して対策を打ち出したのは2016年12月であり、翌2017年12月の中央経済工作会議の時点では「レバレッジ率」(借金に頼る率)のコントロールが指摘されていました。ところが、恒大集団や碧桂園の借金拡大による「高レバレッジ経営」はむしろ2018年以降加速して現在のような問題の悪化を招いています。問題点を認識しながら、不動産企業の暴走を止められなかった、という点は、習近平政権の責任であると言えます。

 また、習近平氏への権力集中と「反腐敗工作」の強力な推進によって、中国共産党と中国政府の内部に「習近平氏に忠誠心を見せるためだけに行動する」という風潮を蔓延させ、結果的に党と政府の機能不全をもたらしているのだとしたら、それは間違いなく習近平氏の責任です。

 昨日(2023年12月8日)の中国共産党政治局会議において、「(1)経済的危機に対してインパクトのある政策方針が打ち出されなかったこと」「(2)引き続き『反腐敗工作の進展』が強調されたこと」が並列して打ち出されたことは、今後とも中国政府が不動産危機に対して、統一的で迅速で果断な措置を講ずることはない(できない)だろう、という予想を私にもたらしました。

 以前見たテンセント網・房産チャンネルにアップされていた動画で次のように解説している人がいました。

「現在の中国の不動産に関する問題は、1990年代の日本の状況を想起させると言う人がいるが、私はこれからの中国が1990年代の日本と同じようになるとは思わない。これからの中国は、1990年代の日本のようにひどいことにはならないか、そうでなければ1990年代の日本よりもっとずっとひどいことになる、のどちらかだ。『中間』はない。」

 習近平政権が独裁体制の利点を活かした「統一的で迅速で果断な」対応ができないのであれば、これからの中国は1990年代の日本と比べて「もっとずっとひどいこと」にならざるを得ないと思います。

 

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