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2023年12月

2023年12月30日 (土)

「中国式現代化」は毛沢東路線からの離脱だ

 この火曜日(2023年12月26日)、中国では、習近平総書記をはじめとする政治局常務委員全員が参加した「毛沢東同志生誕130年記念座談会」が開催されました。この座談会で行われた習近平氏の演説は、習近平氏の考え方をまとめて表明したものとして私は重要だと思います。

 この「毛沢東同志生誕130年記念座談会」での習近平氏の演説については、ジャーナリストの福島香織氏が今日(2023年12月30日)11:02配信のJBPressに「中国・習近平が目論む『個人崇拝』、毛沢東の夢は『オレが実現』?」と題して分析する記事をアップしています。

 福島氏はこの記事で十年前の「毛沢東生誕120年記念座談会」での習近平氏の演説と比較して、毛沢東について「偉大なる国際主義者だ」という評価を追加していることを指摘していました。そして、習近平氏は、今回の生誕130周年の演説では「毛沢東同志を最もよく記念するには、彼が始めた事業を継続して前へと推進させることだ」と述べるとともに、「毛沢東同志を最もよく記念する方法は、彼が開始した事業を継承して前進することだ。中国式現代化を全面的に推進して強国を建設し、民族復興の偉大なる事業を進めることが、全党全国各民族人民の新時代の新たな道のりの中心任務だ。これは毛沢東ら先輩革命家がついになし得なかった事業で、いまの中国共産党人の圧倒的歴史的責任である。」と述べることによって、習近平氏が「毛沢東がなしえなかった夢を私(習近平氏)がかなえる」と強調しているように見えると指摘しています。「中国式現代化」とは、習近平氏が最近強調している言葉で、いわば習近平氏のキャッチ・フレーズだからです。

 しかし、たぶん多くの人も同じように感じていると思いますが、習近平氏が進めている路線は毛沢東とはかなり異なっています。私は、習近平氏が強調する「中国式現代化」はむしろ毛沢東路線から離脱するものだと考えています。

 今回の「毛沢東生誕130周年座談会」の演説の中の毛沢東の功績を述べる部分で、習近平氏は「マルクス主義の中国化(または中国化されたマルクス主義)」という言葉を7回使っています。一方、習近平氏が総書記になった第18回党大会以降に関する部分については「中国式現代化」という言葉を18回使っています。習近平氏は「毛沢東同志がマルクス主義の中国化を推し進めたことを受けて、私(習近平氏)は『中国式現代化』を進めるのだから、私(習近平氏)は毛沢東同志の後継者だ」と強調したい考えていることは明らかです。しかし私は「マルクス主義の中国化」と「中国式現代化」とは同一延長線上にはないと考えています。

 マルクス主義は、そもそも産業革命後のヨーロッパにおいて、機械を用いた大規模工場を経営する資本家がその工場で働く労働者の生み出した利益を搾取している、そのために大多数の労働者は苦しい生活を強いられている、という発想から出発しました。従って、マルクス主義による革命は、主に都市部で働く工場労働者たちが団結して立ち上がり、資本家たちが作り上げた政府を転覆させることをイメージしていました。しかし、辛亥革命で清朝が倒れた後の20世紀初頭の中国では資本主義はまだ十分には発達しておらず、苦しい生活を強いられていた大多数の中国人民は農民でした。そのため毛沢東は、都市部の工場労働者たちが立ち上がって革命を実現させたロシア革命とは異なり、まず大地主の下で苦しんでいた貧農(小作農)たちに働き掛けて解放区を作り「農村が都市を包囲する」という方法で中国における共産主義革命を進めました。中国の実情に合わせて革命のやり方を変えた、という意味で、これはまさしく「マルクス主義の中国化」でした。

 一方、習近平氏が主張する「中国式現代化」とは、周恩来が政府工作報告で使い始め、トウ小平が強力に推し進めた「四つの現代化」の延長線上にあるものだろうと私は考えています(農業・工業・国防・科学技術の近代化を進めるべきという考え方は、日本語では「四つの近代化」と言うのが普通ですが、中国語では「四個現代化」です)。「四つの現代化」は、文化大革命時代には「経済優先主義だ」として批判された考え方で、毛沢東の目指した理想像とは方向性が異なると私は考えています。毛沢東の考え方の基本は、全ての人が平等で落ちこぼれのない生産と生活が実現される理想的な共産主義社会を目指すことであり、経済を発展させ、近代装備を備えた国防力を強化することに関しては優先順位は高くなかったからです。

 さらに毛沢東を「国際主義者」と評価するのであれば、それは抑圧された人民が国境を越えて団結することにより共産主義運動を世界に広げたいと考えているという意味での「国際主義」であって、中国という国家の力を国際社会の中で強化したいと意味ではないと私は考えています。天安門の毛沢東の肖像の隣に書かれているスローガンは、一つは「中華人民共和国万歳!」ですが、もうひとつは「全世界人民大団結万歳!」です。今でも中国共産党の主要行事で演奏される曲「インターナショナル」は、日本語の歌詞では「立て飢えたる者よ」で始まることでわかるように、「国境を越えて人民は団結すべし」と呼びかける国際共産主義運動を象徴する曲です。国際共産主義運動の背景にある発想は「全世界の人民の大団結は『国家』という概念を超える」というものです。「中国という国家が国際社会の中でリーダー的存在になる」という考え方は「国家中心主義」であって、毛沢東の時代の革命家たちが目指した国際共産主義運動とは全く方向性が異なります。

 さらに言えば、習近平氏が唱える「中国式」とは、毛沢東が否定しようとしていた「中国古来の伝統的考え方」を含んでいるように私には見えます。毛沢東は、儒教に代表されるような「古い権威には従順に従うべきだ」とか「男尊女卑」とかいう中国古来の考え方から人民を解放し、社会の下層の人々や弱い立場の女性たちが自分たちの考えを主張して、古い社会システムを打破すべきだ、と主張していました。一方、習近平氏は「男女平等」は強調しているものの、例えば、今回の毛沢東生誕130周年座談会の演説の中では、「我々は、マルクス主義の基本原理を中国の具体的な実情と結合させることを堅持すると同時に、中華の優秀な伝統文化とも結合させ、中国式現代化建設規律を深く探索しなければならない」と述べるなど、「中国の伝統的な価値観」を重視することも強調しています。この点は、「中国の古い考え方を打破すべき」と考えていた毛沢東とは全く逆方向の発想です。

 ついでに言えば、例えば、昨日(2023年12月29日)付けの「人民日報」に掲載されていた「広く女性たちを組織的に動員して女性の能力を中国式現代化建設に貢献させるべき」と題する論文では、男女平等を強調するとともに、「広大な女性たちに中華民族の伝統的な美徳を高揚させるよう導くとともに、良好な家風の方面での独特の役割を樹立すること」も強調されています。このあたりは、従来から女性の地位向上に取り組んで来た人たちからは「考え方が古すぎるんじゃないの?」と批判される可能性があると思います。毛沢東だったら、こういった表現は絶対にしなかったと思います。

 私は、習近平氏が主張する「中国式」の考え方の中に、「広い中国を統治するには強力な権力が必要だ」と主張して自ら中華帝国皇帝になろうとした袁世凱(中華民国の初代大総統)のような発想が含まれているように感じています。古い中国的発想を徹底的に壊そうと考えていた毛沢東は、そんな考え方は絶対に許さなかったでしょう。

 習近平氏は、今回の毛沢東生誕130周年記念座談会における演説において、「毛沢東はマルクス主義の中国化を実現した。自分(習近平氏)は中国式現代化を進めようとしている。だから私(習近平氏)は毛沢東の後継者なのだ。」と主張したかったのだろうと思いますが、上に書いたように、私は習近平氏の「中国式現代化」の路線は、毛沢東の路線とは全く異なると受け止めています。毛沢東については、私などよりずっとずっとよく知っている中国の人たちはどのように考えているのでしょうか。

 今は「習近平批判」は許されない中国ですが、習近平氏が進める「中国式現代化」について、「それって違うと思うぞ」という中国の人々の感覚が水面下で広がっていく可能性はかなり大きいのではないかと私は考えています。

 

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2023年12月23日 (土)

中国の隣に「急速に成長する中国」は存在しない

 水曜日(2023年12月20日)に年末恒例になっている外務省による外交文書の公開がありました。30年を経過した外交文書を外務省が公開するものですが、今年(2023年)の外交文書公開のひとつの「目玉」は、1992年10月の天皇皇后両陛下(当時)の訪中に関するものでした。

 これらについては、新聞各紙に様々に論ずる記事が掲載されています。概ね「天皇訪中に積極的な外務省チャイナスクールの官僚たちと根強い反対論を展開する自民党保守派の間で判断が揺れる宮沢首相(当時)」という図式で論評されています。私の感覚で言うと、この論評の中からは「1989年の六四天安門事件にも関わらず、中国との関係改善を急ぎたい日本の経済界の姿」が抜け落ちています。ある意味でそれは当然のことです。公開されたのは「外交文書」であり、そこに記録されているのは必然的に外国とのやり取りや外務省官僚と政治家(特に与党の自民党の政治家)との間のやり取りが中心であり、当時の日本の経済界の意向は「外交文書」には記録されていないからです。

 日本の経済界は、1972年の日中国交正常化でスタートし1978年暮れに中国が「改革開放」の方向に政策転換して以降本格化した中国とのビジネス展開を1989年の六四天安門事件で腰折れさせたくなかったのです。なぜなら、中国への投資案件は1980年代に本格化し、1989年の六四天安門事件発生の時点では「投資案件が進行する真っ最中」であり、このタイミングで日中間の経済関係がストップしては、それまで中国に投資された資金が無駄になるし、政治体制がどうなるかは別としてこれから大きく経済的に発展することは間違いない中国とのビジネス・チャンスを失うことになるからです。

 それに加えて、1990年代初頭にはじけた日本の「平成バブル」で傷ついた日本経済を立ち直らせるためには、中国とのビジネスの拡大は日本経済にとって是非とも必要なことでした。なので私は実態はよくは知らないものの、おそらくは当時の日本の経済界は中国との関係正常化を進めるように自民党に相当程度のプレッシャーを掛けていたのだろうと想像しています。だから、日本の保守陣営の論客はよく「六四天安門事件から時間も経過していない時点で天皇訪中という日本政治としては『最大の切り札』を切るよう仕向けた外務省のチャイナスクール官僚はケシカラン」という論陣を張りますが、外務省官僚を批判するならば、表に出ずに中国との関係改善へ向けて政治家たちにプレッシャーを掛け続けた日本の経済界も批判されるべきだと私は考えています。

 同じ趣旨の話は、三年前に外務省が六四天安門事件に関する大量の外交文書を公開した時点で私がこのブログに書いた記事「天安門事件関連外交文書の公開と日本の役割 」(2020年12月26日)でも書きました。それに加えて言えるのは、天皇陛下訪中があった1992年は、平成バブルが崩壊した直後であり、日本経済の立て直しのためにはこの時点ではまだほとんど未開拓だった中国というビジネスチャンスの場を活用することが日本の経済界にとっては是非とも必要だったことです。さらに、1992年の時点では、まだ欧米が六四天安門事件に対する批判の観点から中国との経済関係を正常化することが難しい中、「長年懸案だった天皇陛下の中国訪問」という日本にしかできない最大級の「切り札」を切ることによって日本が他国を出し抜いて中国との関係を改善し、ビジネスの観点で欧米勢に対して大きな先手を打てることは、日本の経済界にとって大きな魅力だったのだろうと思います。

 「日本経済が平成バブル崩壊の痛手から立ち直るために中国との経済関係がどのくらい役に立ったのか」については、経済的な様々なデータを検討して分析する必要があると思いますが、直感的に言って、急速に発展した1992年以降の中国との経済関係がなければ、平成バブル崩壊後の日本経済の推移はもっとずっとひどいことになっていだろうと言えると思います。少なくとも、大手金融機関の破綻等があり、日本経済が危機的状況にあった1998年の時点ですら日本の貿易収支が大幅な黒字だったのは、中国での工場建設に伴う日本から中国への工業用機械・設備の輸出額が大きく寄与したことは間違いないからです。

 似たような話はリーマン・ショック後のアメリカについても言えると思います。2008年9月のリーマン・ショックによりアメリカ発の世界経済危機が起きた時、中国は極めて迅速に同年11月に「四兆元の経済対策」を打ち出して世界経済を牽引しました。もちろんアメリカ金融当局の数次に渡る量的緩和の実施やアメリカのネット企業の活躍、アメリカにおけるシェール・オイル産業の勃興など様々な要因はあったものの、その後のアメリカ経済が日本の平成バブル崩壊後のような「失われた時代」に陥ることがなかった背景としては、既に巨大な経済圏となってGDPの面で日本を追い抜き「世界の工場」であり続けた当時の中国経済が世界経済を支える大きな柱のひとつになっていたことは指摘できると思います。

 今、中国の不動産危機に起因する中国経済の不振に関連して、「日本の平成バブル崩壊後と同じような状態になるのか」といった議論やアメリカのリーマン・ショックとの違いについての議論がよく行われますが、重要なポイントは、日本の平成バブル崩壊後やアメリカでのリーマン・ショック後の経済危機をプラスの方向で支えた「成長しつつある巨大な成長圏である中国」と同じような経済圏は、現在の中国の周辺には存在していない、ということです。

 中国共産党内部の優秀なエコノミストたちは日本の平成バブル崩壊やアメリカのリーマン・ショック後の状況をいろいろ研究していると思いますが、「中国の隣には『急速に成長する中国』は存在しない」という事実はどうしようもありません。その意味で、現在の不動産危機に起因する中国の経済の危機的状況は、日本の平成バブル崩壊期やアメリカのリーマン・ショック期よりも現在の中国にとっての周辺環境は格段に悪いと言わざるを得ません。

 そうした中、昨日(2023年12月22日)、これも年末恒例なのですが、中国共産党政治局の「民主生活会」が開催されました。中国共産党の政治局員がそれぞれ日頃の行動について発言してお互いに批判するとともに自己批判する、という会合ですが、近年の様子を見ていると、要するにこの「民主生活会」は「政治局メンバーの習近平氏に対する忠誠心を再確認する会(=習近平氏に対する忠誠心を強要する会)」になっています。

 今年の「民主生活会」の「目玉」は私が見るところ「政治的ではないリスクを政治リスクに転化させてはならない」という部分だと思います。これについて私は「不動産危機に起因する経済危機にうまく対処できないからといって、それをもって習近平氏を批判して党を分裂させるようなことをしてはならない」という意味なんだろうなぁ、と解釈しています。経済的危機が本格化している中でも、様々な対処方法について虚心坦懐に議論することを許さず、「習近平氏を批判してはならない」と強要するこのやり方は、私は中国共産党自体の危機だと思うのですが、中国の人々はそうは思わないのでしょうか。

 国家の危機に対しては、様々な意見を自由闊達に交わして対策を論じ、従来の意見や立場を超えて有用な人材を登用する必要があります。日本における幕末・明治維新期の対応がその典型的な例です。今の習近平体制の中国はそうした体制とは真逆の状態になっています。来年(2024年)の中国は、経済的には不動産に起因する経済危機にどのように対応していくか、政治的には年明け早々に行われる台湾総統選挙の結果に対して中国共産党がどのように反応するのか、という点で、予測が難しい不安定な状態の年になりそうな気配がします。

 

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2023年12月16日 (土)

習近平氏は中央経済工作会議に最後までは出ないのね

 今年(2023年)の中央経済工作会議は、12月11日、12日の二日間にわたって開催されました。私が最初に印象に残ったのは、そのスケジューリングでした。

 先週、12月8日に中国共産党政治局会議が開催されて、来年(2024年)の経済政策についても議論されたので、私も中央経済工作会議は近々開かれるだろうとは思っていました。しかし、習近平氏は12月12~13日にベトナムを訪問する予定だったので、私は中央経済工作会議は習近平氏のベトナム訪問の後に開催されるのだろうと思っていたのです。しかし、実際は、中央経済工作会議は11日から開催され、冒頭、習近平氏も出席して演説を行った一方、12日も引き続いて中央経済工作会議は開催されていたのに、習近平氏はこの日予定通りベトナムを訪問しました。習近平氏がハノイに到着したのは12日の正午頃だったので、習近平氏が中央経済工作会議の二日目に出席していないことは明らかでした。

 確かにこれまでの中央経済工作会議では「総書記・国家主席は最初から最後まで出席した」と明示的に報じられたことはなく、実際は、今までも総書記は冒頭の部分だけ出席して演説をして、後は国務院総理など関係者による議論に任せ、総書記は最後までは出席していなかったのかもしれません。しかし、今回のようにあからさまに「中央経済工作会議の二日目に習近平総書記は外国訪問のために出席していませんよ」と示すようなスケジュールだったことは記憶にないなぁ、と私は思ったのでした。

 しかも、今確認したら、十年前の2013年の中央経済工作会議は四日間の日程で行われたのに対し、今年(2023年)の中央経済工作会議は二日間だけの日程でした。こういうスケジューリングから見えることは、明らかに習近平政権が進むに従って、中央経済工作会議の位置付けが「軽いもの」に変化してきたのは間違いないと思います。

 さて、今回の会議の中身ですが、今年(2023年)の中央経済工作会議の内容で目に付くのは、やはり不動産市場、地方財政及び金融に関するリスクに対する対応でしょうか。今回の中央経済工作会議の内容を伝える12月13日付けの「人民日報」の記事では、「不動産産業、地方債務、中小金融機構等のリスクを統一的政策で解消させ、システミック・リスクを発生させないという基本線を断固として守る。」と表現しています。これまでのこの種の会議では「リスクの発生を防止し・・・」といった表現であったことを考えると、ここの表現は、中国共産党としても「不動産産業、地方債務及び中小金融機構においては、既にリスクが発生している」ことを自ら認めた内容になっていると読めます。

 ここの部分は、さらに「不動産産業のリスクを積極的かつ穏当に解消し、『一視同仁』で異なる所有制の不動産企業の合理的な融資の要求を満足させ、不動産産業の平穏かつ健康的な発展を促進させる。」としています。「一視同仁」とは「全てのものを平等に見る」という意味の四字成句で、国有企業も民営企業も区別なく合理的な資金要求には応えていく、という意味です。ここの部分は、最近報道されているように、国有企業であるか民営企業であるかに関係なく、比較的健全な不動産企業に対しては銀行からの融資により支援していくという方針を党と政府の方針として正式に決めた、と見ることができます。

 私としては、ここの部分は危機的状態とも言える現在の中国の不動産産業に対する中国政府の係わり方の観点で非常に重要な部分であり、こういう重要な方針を決めた中央経済工作会議には、習近平氏は最後まで出席して「この方針は私が決めた方針である」と内外に示して欲しかったなぁ、と思います。実際には、習近平氏は、一日目の冒頭で演説はしたものの「あとは李強総理以下担当の者に任せた」とばかり、二日目はベトナムへ行ってしまった、という事実により、「習近平氏は経済政策を軽視している」というメッセージを内外に発してしまった、と私は認識しています。

 12月12日の中国中央テレビ夜7時のニュース「新聞聯播」や翌13日の「人民日報」のトップニュースは中央経済工作会議について伝えていましたが、翌日からは「新聞聯播」も「人民日報」も習近平氏のベトナム訪問のニュース一色になってしまいました。イメージとしては、習近平氏は不動産危機対応等の重要な経済政策よりも、ベトナムで盛大な歓迎を受けて、ベトナムでの様々な外交イベントに参加することの方を重要視していると受け取られてしまっても仕方がないと思います。

 こうした一連のイベントのスケジューリングと報道の仕方を見ていると、習近平氏の本心は「私は自分で責任を持って中国の経済政策を決めたくない。ただ、皇帝のように他国での歓迎行事に参加したいのだ。」というものだと感じられてしまいます。

 ここの部分は、同じように「独裁者」と見られているロシアのプーチン大統領との大きな違いです。プーチン大統領は、今年も年末恒例の「長時間会見イベント」を開いて、自らの政策を説明するとともに、新聞記者や一般市民からの質問に答えています。報道によれば、ある女性から「生活者としては最近の卵の価格は高すぎて困る」と言われたプーチン大統領は「生産量が少ないからだ。その点は謝罪します。」と素直に述べたそうです。こういった話はあらかじめ事前に筋書きが決められた「茶番のお芝居」なのだと思いますが、少なくともプーチン大統領は「全ての政策を私が責任を持って決めている」ということを内外にアピールしたいからこそ、こうした「お芝居イベント」を開催しているのでしょう。

 それに比べると、習近平氏の言動からは「全ての政策を自分が責任を持って決めているのだ」とアピールしたいという意欲を全く感じません。逆に「個々の政策は部下の担当者に任せている」という姿勢が明確です。これは「個々の政策が失敗したらそれは担当した部下の責任だ」「一方、政策がうまく行ったらトップに立つ自分(習近平氏)の功績だ」と主張したいという意図がミエミエです。こういうリーダーに人々はついていくでしょうか。私ももちろん「ロシアのプーチン大統領はリーダーとして優秀だ」と言うつもりは毛頭ありませんが、ただ、メディアの発達した21世紀の現代においては、「自分を優れたリーダーだと人々に見せるテクニック」は、独裁国家だろうが民主主義国家だろうが政治家として重要でしょ、と私は言いたいのです。

 一連の政治イベントとその報道ぶりを見ていると、習近平氏は、権力基盤を強化した上で自らの信念に基づいて自らの判断で政策を決定し実行していった毛沢東やトウ小平のようなタイプのリーダーではなく、具体的な政策は宰相その他の「部下」に任せ、自らは中華帝国の威厳を体現することに専念した明や清の時代の皇帝のようになりたい、と考えていると誰が見ても見えてしまうと思います。でもそれって、中華民国の初代大総統でありながら、自ら本気で中華帝国の皇帝になろうとした袁世凱と同じじゃないですか。袁世凱は諸外国のみならず中国の人々からも見放されて失意のうちに病没したのですが、習近平氏はそうなりたいんでしょうかね。

 ところで、アメリカのイエレン財務長官は、12月14日にワシントンで開かれた米中ビジネス協議会のイベントで講演しました。NHKの報道によればイエレン氏は「中国が直面している不動産市場の低迷やそれに伴う地方政府の債務問題について言及し」「中国の経済政策は広い範囲に影響が及び、アメリカの政策立案にも極めて重要だとして、こうした課題や予期せぬ事態が起きたときに中国政府がどう対応しようとしているか説明を求めていく考えを示した」とのことです。このブログで前にも指摘しましたが、経済学者で前FRB議長のイエレン氏は、中国が巨額なアメリカ国債を保有していることから、中国の不動産危機や地方政府の債務問題について非常に懸念しているのだと思います。習近平氏は、こうした他国の経済閣僚までもが心配している不動産危機や地方政府の債務問題を議論している中央経済工作会議に最後まで出ないで外国訪問に行っちゃって、ほんとによかったんですかね(少なくとも中央経済工作会議よりもベトナム訪問を重視していると見られないようにスケジュール調整をすべきだったのではないのですかね)というのが私の率直な感想です。

 中央経済工作会議の翌日の上海と香港の株式市場では株価が下がりました。投資家たちが中央経済工作会議の結果に失望したからだ、というのが一般的な見方のようです。プーチン大統領のマネをしろ、というわけではありませんが、私は、習近平氏には、もっと「中国の困難な政策課題について(部下に任せるのではなく)自らの責任で取り組んでいるんだ」という姿勢をアピールして欲しいと思います。そうでないと、中国の人々から見放されてしまうのではないかと心配です。私は、別に習近平政権を応援するつもりはありませんが、隣国の日本としては、習近平氏が中国の人々から見放されて、中国国内の政治が混乱することが一番困る、と考えているからです。

 最近、日本をはじめ諸外国が中国におけるビジネスを見直そうという動きが強まっています。それに加えて、中国の経済界の人たちまでもが中国国内でビジネスを展開するよりも、諸外国でビジネス・チャンスを探す方がよい、と考えるようになったらどうするのでしょうか。党大会の翌年秋に開かれて重要政策を議論する「三中全会」も開催されないようですし、中央経済工作会議も以前と比べて「軽く」なり、極端に言えば実質的に形骸化してしまい、習近平氏自身は具体的な政策課題については興味がない、というのだったら、中国の政策は今後誰が責任を持って舵取りをしていくのでしょうか。私は最近だんだんそういう心配をするようになってきています。

 

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2023年12月 9日 (土)

独裁なのに統一的・迅速・果断な対応ができない

 昨日(2023年12月8日(金))、中国共産党政治局会議が開催され、来年(2024年)の経済政策の基本的方針について議論が行われました。この政治局会議は、例年12月に開催される中央経済工作会議に先立って開催される毎年恒例のものです。

 通常、具体的な経済政策は中央経済工作会議で表明され、直前に行われる政治局会議では大まかな基本方針が示されるのですが、今年の政治局会議を伝える「人民日報」等の報道を見て私が感じた印象は「大まかな『基本方針』とは言え、インパクトがないなぁ」というものです。日本における報道では、「積極的な財政政策については、適度に力を加え」としている部分に着目して、「今までよりも積極的に財政支出を行って経済を下支えする方針が示された」と伝えているものもありますが、現在の中国経済の危機的低迷の状況を踏まえれば、「適度に財政支出をする」だけでは、新鮮味やインパクトはないなぁ、という印象を私は受けたのでした。

 現在の中国経済は、「ゼロコロナ政策」に伴うダメージに加えて、不動産バブル崩壊が現実化し、非常に厳しい危機的状況にあります。今まではこうした経済危機に対する対応としては、一党独裁の中国共産党体制では民主主義国家と比べて統一的で迅速で果断な対応を打ち出すことが容易なので、中国は意外にうまく対応できるのではないか、という期待を込めた見方がありました。実際、2008年9月のアメリカ発のリーマン・ショックという経済危機に対しては、中国の胡錦濤政権は同年11月に「四兆元の経済対策」というインパクトのある経済政策を世界に先駆けて迅速に打ち出し、結果として、世界経済を救う役割を中国が果たすことに成功したのでした。

 しかしながら、「ゼロコロナ政策の痛手+不動産バブルの崩壊」という中国自身に起因する今回の中国経済の危機的状況に対する習近平政権の対応は、二軒目マンション購入時の条件緩和などの対策は打ち出されてはいるのですが、政策としてはインパクトに欠けるものであり、政策が打ち出されるタイミングもとても「迅速」とは言えません。「統一的対応」という点でも疑問符が付く対応が目立っています。例えば、不動産市場を巡る最近の話題では、四川省成都市で、ある不動産企業がそれまでの相場より四割安い価格で新築マンションを販売開始したところ、成都市政府が「値引き販売禁止指示」を出し、既に販売された案件についても契約を破棄させた、という案件が発生している一方、江蘇省蘇州市では、新築マンションの値引き販売を認める方針が打ち出されたりしています。「新築マンションの値引き販売を認めるのかどうか」といった基本的な方針に関しても、各地方政府の自主的な判断に任されており、北京の中央政府が統一的な方針を決めて国全体として対応に当たる、という姿勢が見えていません。

 経済の危機的な状況に対してインパクトのある対策が迅速に打ち出されていない最も大きな原因は、「全ての権限を習近平氏一人に集中させる」という方針が進められている一方で、その習近平氏自身が具体的な政策方針について「何も言わない」「何もしない」姿勢を続けているためです。中国政府の各担当部署は習近平氏の意向を「忖度」して政策を打ち出すため、各部署の対応がバラバラで統一が取れておらず、タイミングとしても迅速さに欠け、対応の中身も「当たり障りのないインパクトに欠ける政策」ばかりで、とても「果断な対応」とは言えないものばかりです。

 12月7日にテレビ東京で放送されたNewsモーニング・サテライトに出演していたAISキャピタルの肖敏捷氏は、「2022年の党大会で習近平氏の三期目続投が決定し、習近平氏の権力基盤が万全なものになったので、それ以降は政治権力闘争は終わり、習近平政権は経済政策に専念すると期待していたのだが、今になっても『反腐敗闘争』という政治権力闘争は続いている。各部署の政策担当者は、どうしたら習近平氏に気に入ってもらえるか、という点ばかりを気にしており、経済政策に集中できていない。2024年の中国経済が希望が持てるものになるか失望に終わるかは、結局は、こうした政治の動きがどうなるか、に掛かっている。」と指摘していました。

 ところが、昨日(12月8日)の政治局会議の内容は肖敏捷氏の期待に反するものでした。昨日の政治局会議の内容は、ひとつは「2024年の経済政策に関する分析・検討」だったのですが、もうひとつは「各部署における清廉な政治風土の建設と反腐敗工作に関する検討」でした。「反腐敗工作」とは「各部署における腐敗した幹部を摘発・排除する」というものですが、「習近平の新時代の中国の特色のある社会主義思想を主題とする教育を行うことによって・・・」という前提が付いていることを考えれば、要するに「腐敗分子の摘発・排除」とは、習近平氏に忠誠を誓わない者の摘発・排除、というふうに見えます。

 上に書いたように、一党独裁体制の中国では、様々な利害関係者による議論を経ることが必要な民主主義国家と異なり、思い切った統一的な政策を迅速に果断に実行できるはずだ、と見られてきました。しかし、残念ながら現在の習近平政権はこの「独裁の利点」を発揮できていません。「習近平氏の一人独裁体制」がその実「習近平氏の顔色ばかり伺っている体制」になっているからです。

 日本の平成バブル崩壊やアメリカのリーマン・ショックの経験を経て、最近ではむしろ民主主義国家の方が経済危機に対して、迅速・果断な対応を取る例が多くなっています。最近の「経済危機対応の実例」を下記に掲げてみます。

【経済面での新型コロナ対応】

 2020年3月3日、急速な新型コロナウィルス感染症の拡大が経済に対して与える影響について議論するため、G7財務大臣・中央銀行総裁が電話会談を行い「新型コロナウィルスの経済への影響に対してはあらゆる手段を講じて対処する」との声明を発表した。その直後、アメリカFRB(連邦準備制度理事会)は0.50%の緊急利下げを発表した。

 3月15日、日曜日にも関わらずFRBは臨時会合を開催して、金利をさらに1%引き下げて0.00~0.25%にする(ゼロ金利にする)ことを発表した。同時に世界の6つの中央銀行(アメリカFRB、ヨーロッパ中央銀行、日本銀行、カナダ銀行、イングランド銀行、スイス国立銀行)は協調して民間銀行に対する米ドル供給金利を引き下げ従来より長い期間の供給を認める方針を決定した。

 さらに日本銀行は、3月18~19日に開催予定だった金融政策決定会合を前倒しで16日12時から会合を開催し、ETF(上場投資信託)の買い入れ枠を従来の年間6兆円から12兆円に倍増する、企業が発行するコマーシャル・ペーパーや社債の買い入れ枠を増加する等の追加緊急緩和措置を決定した。

【イギリスのポンド危機】

 2022年9月、イギリスのトラス首相による大規模減税策とアメリカFRBによる急速な利上げ決定を受けて、イギリスポンドとイギリス国債が大量に売られてイギリス国債の金利が急騰した。この事態に対応して、9月28日、イングランド銀行は二週間の期限付きでイギリスの長期国債を無制限に購入する方針を発表した。

 10月20日、ポンドの下落、イギリス国債の金利の急騰に対してイギリス国内からの批判だけでなく国際機関(IMFなど)からも批判があり、イギリスのトラス首相は辞意を表明した。後任の首相となったスナク氏は、トラス前首相が打ち出した大規模減税策を撤回した。

【アメリカのシリコン・バレー・バンクの破綻】

 2023年3月10日、アメリカのシリコン・バレー・バンクが破綻した。これを受けて、3月12日、アメリカ財務省とFRBは「シリコン・バレー・バンクの預金者の預金は全額保護される」等の声明を発表した(アメリカでは銀行が破綻した場合の預金保護金額は一人あたり25万ドルだが、信用不安を拡大させないため、「預金の全額保護」という特例措置を講じたもの)。

【クレディ・スイスの買収】

 スイス第二の大手銀行であるクレディ・スイスはかねてから経営不振が報じられていたが、2023年3月15日、クレディ・スイスの筆頭株主であるサウジ・ナショナル・バンクがクレディ・スイスへの追加出資に否定的だとの報道がなされ、クレディ・スイスの株価が急落した。

 3月19日、スイス最大の銀行UBSがクレディ・スイスを買収することを発表した。この発表の記者会見には、UBSの社長はもちろん、スイスの大統領とスイス国立銀行の総裁も同席しており、スイスという国家を挙げての買収劇だったことが世界に対してアピールされた。

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 これらに比べて、中国の不動産危機に対する中国政府の対応は「遅すぎ、ぬるすぎ」ではないのですか? 中国の不動産大手の恒大集団が米ドル債に関して債務不履行状態になったのは2021年のことであり、その後もいくつかの不動産企業が債務不履行に陥りました。最大手の碧桂園は今年(2023年)10月、米ドル建て債に関して債務不履行状態と認定されました。しかしながら、恒大集団については、破綻させるのか、政府が救済するのか、どちらともつかない状態が現在も続いています。恒大集団の債権者が精算処理を求めている件について、12月4日、香港の裁判所は最終的な判断を示すものと見られていましたが、判断はまたも次回来年1月29日の審理まで先送りされました。

 不動産企業に対する支援についても、「中国当局は支援の対象となる比較的経営状況が健全な50社のホワイト・リストを作成中」という報道がなされてから半月くらい経ちますが、いまだに具体的な支援の内容も「ホワイト・リスト」なるものも公表されていません。

 中国の不動産企業は、その負債の規模があまりにも巨大であるために、政府が救済するにしろ、清算処理させるにしろ、問題は簡単ではないことは事実ですが、過去の経験からすれば、この手の経済危機への対応は「迅速さ」「果断さ」が重要です。「ズルズルと先送り」が最もよくないことは誰もが知っていることです。

 習近平氏にしてみれば、「中国の不動産の問題は江沢民政権時代の1998年のマンションの商業販売が始まった時から継続している問題であり、自分(習近平氏)に過去の歴代政権が残した課題の責任を押しつけられても困る」という感覚はあるのかもしれません。しかし、中国共産党の中央経済工作会議が不動産問題を認識して対策を打ち出したのは2016年12月であり、翌2017年12月の中央経済工作会議の時点では「レバレッジ率」(借金に頼る率)のコントロールが指摘されていました。ところが、恒大集団や碧桂園の借金拡大による「高レバレッジ経営」はむしろ2018年以降加速して現在のような問題の悪化を招いています。問題点を認識しながら、不動産企業の暴走を止められなかった、という点は、習近平政権の責任であると言えます。

 また、習近平氏への権力集中と「反腐敗工作」の強力な推進によって、中国共産党と中国政府の内部に「習近平氏に忠誠心を見せるためだけに行動する」という風潮を蔓延させ、結果的に党と政府の機能不全をもたらしているのだとしたら、それは間違いなく習近平氏の責任です。

 昨日(2023年12月8日)の中国共産党政治局会議において、「(1)経済的危機に対してインパクトのある政策方針が打ち出されなかったこと」「(2)引き続き『反腐敗工作の進展』が強調されたこと」が並列して打ち出されたことは、今後とも中国政府が不動産危機に対して、統一的で迅速で果断な措置を講ずることはない(できない)だろう、という予想を私にもたらしました。

 以前見たテンセント網・房産チャンネルにアップされていた動画で次のように解説している人がいました。

「現在の中国の不動産に関する問題は、1990年代の日本の状況を想起させると言う人がいるが、私はこれからの中国が1990年代の日本と同じようになるとは思わない。これからの中国は、1990年代の日本のようにひどいことにはならないか、そうでなければ1990年代の日本よりもっとずっとひどいことになる、のどちらかだ。『中間』はない。」

 習近平政権が独裁体制の利点を活かした「統一的で迅速で果断な」対応ができないのであれば、これからの中国は1990年代の日本と比べて「もっとずっとひどいこと」にならざるを得ないと思います。

 

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2023年12月 2日 (土)

中国の不動産危機を巡る様々なニュース

 中国の不動産を巡る危機的状況については様々報道されていますが、最近日本経済新聞に掲載されたいくつかの記事をピックアップすると以下の通りです。

○2023年11月25日付け日本経済新聞朝刊16面記事

「中国投資会社が債務超過 中植企業集団、最大5.4兆円 不動産不況響く 信託商品焦げ付きか」

 中国の民営複合企業である中植企業集団が11月23日までに負債が資産を上回る債務超過に陥っていることを明らかにした、という報道です。中植企業集団の傘下の企業が投資家から預かった資金を不動産等で運用する信託商品と呼ばれる金融商品を販売していたが、不動産投資からの資金回収が難しくなり、一部の信託商品が償還停止となって、投資家が抗議行動を行う事態となっている、という話です。

 この件に関しては、公安当局が中植企業集団の系列会社の複数の関係者を違法行為の疑いで拘束した、といった続報も報じられています(12月1日付け日本経済新聞朝刊10面記事「中国企業トップ 音信不通相次ぐ 中植問題で逮捕・拘束か」)。

○2023年11月25日付け日本経済新聞夕刊3面記事

「中国不動産の万科 2段階格下げ」

 アメリカの格付け会社ムーディーズが11月24日に中国不動産大手の万科企業の格付けを「投資適格級」の下限となる「Baa3」に2段階格下げした、という報道です。

 万科については、11月6日に筆頭株主の深セン市地鉄集団(万科の株主の27.18%を保有する)から100億元を超える支援を受ける見通しだと発表されたのですが(このブログの2023年11月11日付け記事「中国共産党直轄による金融政策はうまくいくのか」参照)、ムーディーズはそれを踏まえても「格下げ」の判断をしたようです。

○2023年11月30日付け日本経済新聞朝刊17面記事

「中国恒大を子会社提訴 銀行が強制執行の資産 補填求める」

 経営再建中の不動産大手の中国恒大集団の傘下にある恒大物業集団が、11月28日、銀行に差し押さえられた資産について親会社の恒大集団に補填を求める訴訟を起こした、という報道です。

 系列企業内部での訴訟という恒大集団内部の「泥仕合」ぶりを象徴するようなニュースです。

○2023年11月30日付け日本経済新聞朝刊17面記事

「外貨建て債務再編案 中国奥園集団 債権者から承認」

 不動産開発の中国奥園集団は、11月29日、外貨建て債務の再編案について債権者から承認を受けた、と発表した、という報道です。

○2023年12月1日付け日本経済新聞朝刊10面記事

「米ドル債の償還延長同意 万達集団の債権者」

 不動産を含めた複合企業である万達集団は、2024年1月に満期を迎える6億ドルの米ドル債について、11月21日に最大11か月の償還延長を要請していたが、債権者が延長に同意したことが11月30日に香港取引場に届け出た文書でわかった、という報道です。

 最後の二つは、「とりあえず目先の借金の返済については待ってもらうことになってよかったね」ということですが、単に「解決が先送りになっただけ」であって、資金繰りが苦しいという状況は何も解決していません。

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 「お隣の国の話」なので、日本経済新聞では「この程度」しか報道されていませんが、テンセント網・房産チャンネルを見ていると、日本では報道されないような様々な不動産関連のニュースが連日中国では報じられています。例えば、江蘇省蘇州市で土地開発会社が製鉄所の跡地を買い取って住宅や小学校・幼稚園を建設したところ、後になって土壌から汚染物質が見つかり、土地開発会社が製鉄会社や蘇州市を相手取って約2,000億円の損害賠償訴訟を起こした、といった話とか、河南省鄭州市で買ったマンションが爛尾楼(建設工事が途中で止まったマンション)になり住宅ローンの返済に苦しんでいる話をネットで公開して資金的支援を募った夫婦が「違法な資金集めだ」として逮捕された事件とか、いろいろです。こういった「ひどい話」を連日聞かされている中国の人たちの多くが「今、マンションを買うのはやめておこう」と考えるようになっているのは、むしろ当然のことだと思います。

 買ったマンションが爛尾楼になってしまったが、住宅ローンの支払いは始まっているので、それに加えて今まで住んでいた賃貸住宅の家賃も払い続けるわけにもいかないので、電気や水道も通っていない未完成の爛尾楼に住み着いてしまった、といった人たちの苦労については、日本でも2021年10月にNHK-BS1で「BS1スペシャル『廃墟になったマイホーム~中国『鬼城』住民の闘い」として放送されました。こうした「やむを得ず爛尾楼に住み着いた人たち」の悲惨な状況については、中国国内でも数多くがSNS上にアップされているようです。

 今日(2023年12月2日)私がテンセント網・房産チャンネルで見た動画でも、こうした買ったマンションが爛尾楼になってしまった人々の現状をレポートするものがありました。この動画では、民間研究機関が発表した爛尾楼となっているマンションの建設面積から2022年の時点で中国全土で231万戸が爛尾楼となっていると推算していました。この動画では、「土地を売った(地方政府の)責任、マンションを完成させる(開発業者の)責任、開発業者に資金を融資した(銀行の)責任」が果たされていない、マンション開発業者や銀行は破産していないのに、マンションを買った普通の個人が「家は完成しない」「住宅ローンは支払う義務を負わされている」という意味で実質的に破産状態に突き落とされているのはおかしいと主張していました。

 あんまり地方政府等を直接的に批判するのははばかれるからか、こうした解説の途中にテレビドラマ「三国演義」の中に出てきた劉備玄徳が「私はいまだかつてこのような厚顔無恥の人に会ったことはない!」と怒っている場面が挿入されていました。

 検閲削除されてしまうような「直接的な政府批判」はありませんが、こうした一連の動画を見ていると、「地方政府が安い補償金で農民から農地を収用して、その土地使用権をマンション開発業者に売り渡して地方政府が巨額の財政収入を得ている。マンション開発業者に対しては国有銀行が資金を融資している。」という中国の経済成長を強力に推進してきた土地財政のシステム自体に対して多くの中国人民が「そんなのおかしい」と考えるようになってきていることは明らかです。こうした動画が削除されずにいるところを見ると、中国当局も、この種の動画の全てを検閲削除することはもはやできない、と考えているように見えます。

 とは言え、地方政府幹部(=中国共産党地方幹部)が自らの権限をもって農地の収用とその土地使用権の開発業者への販売を行い、自らの政治的影響力を使ってその地域の国有銀行から開発業者への融資を促し、その結果得られた財政収入によってその地方のGDPアップを図っている、という土地財政システムは、中国共産党がその権力基盤を使って強力に経済成長を促進するための大きな原動力のひとつです。その意味で、現在の中国の不動産危機は、中国共産党の権力と経済の融合に関わる基本システムと中国の人々の不満との正面衝突が社会現象として表面化しているものだと言えます。だから私は今の中国の不動産危機は中国共産党の危機だと考えているのです。

 日々報じられるマンションに関する様々なニュースの中で、中国の人々の中ではマンション開発企業に対する不信感が高まっています。人々はマンション購入に非常に慎重になっていますから、今後は、今までのようなペースでマンションが建設され販売され続けることはないでしょう。それは、関連産業も含めると中国のGDPの約三割を占めると言われているマンション関連産業が今までのペースに戻ることはない、ということを意味します。習近平政権は今後「マンション建設に頼らない中国経済」を構築しなければなりませんが、どうやってそうした経済政策の大きな方向転換を図ることができるのか、中国経済はおそらく十年単位の厳しい状況を続けることになるだろうと思います。

 中国不動産企業の中で最も危機的状況にある恒大集団について、債権者からの清算申し立てを受けて審理を続けてきた香港の裁判所は、12月4日に次回の審理を開きます。前回の10月の審理で、裁判所は次回(12月4日)の審理で具体的な再建計画の修正案を提示できなければ清算命令を出す可能性があるとしていました。今日(2023年12月2日)11:15配信のロイター通信は「中国恒大が債務再編で新提案 株式交換、清算回避狙う」と報じています。この新提案について、香港の裁判所がどう受け止め、12月4日の審理でどういう判断が示されるのかが注目されます。

 中国の不動産危機については、日々、様々なニュースが飛び交いますので、これからも私たちはそれらのニュースを注意深くチェックしていく必要があると思います。

 

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