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2023年11月25日 (土)

あれ?風向きが変わったのかな?

 11月15日、APEC首脳会談に参加するために訪米した中国の習近平主席は、サンフランシスコでアメリカのバイデン大統領と米中首脳会談を行いました。この米中首脳会談が行われたタイミングと前後して、中国に関して「風向きが変わったのか?」と思わせるような出来事がいくつかありました。今回はそれを列記してみたいと思います。

○「人民日報」等での反米キャンペーンが米中友好促進モードに急転換した

 習近平氏が各国の首脳と会談をする際には「いつものこと」なのですが、今回も、米中首脳会談に合わせるように、「人民日報」等の論調が「反米キャンペーン」から「米中友好促進モード」に急転換しました。「いつものこと」ではあるのですが、こうした論調の急転換を見せられる中国の人々はどう感じているのかなぁ、と思います。今回は「米中友好促進モード」の一つとして、第二次世界大戦中にアメリカが中国を支援するために派遣した空軍軍人による「フライング・タイガーズ」が話題に上りましたが、この時アメリカが支援したのは蒋介石の中華民国であって、中国共産党ではないのですよ、ということを考えると、この話題を取り上げること自体に「白々しさ」を感じた人も多いと思います。

 多くの人は、中国の現在の経済状況を考えると、アメリカとの経済関係をこれ以上悪化させることは避けたいという意図が中国側にもあるのだろうなぁ、と感じたと思います。

○李強氏による中央金融委員会の主宰

 11月20日に中国共産党の中央金融委員会が開催されましたが、この会議を主催したのは国務院総理の李強氏でした。この会議を伝える翌11月21日付けの「人民日報」1面記事では、李強氏は「中央金融委員会主任」として紹介されていました。私もこのブログで書いてきましたが、最近の中国国内の動きは「李強はずし」と思えるようなものがあり、特に金融関係については、国務院総理の李強氏をすっ飛ばして副総理の何立峰氏を重用する報道が目立っていました。それがここへ来て「李強氏が中央金融委員会の主任であり、その李強氏が主宰して中央金融委員会を開催した」ということは、何か「風向きが変わったのかなぁ」と思わせるものでした。

 なお、この11月20日の中央金融委員会の開催については、21日付けの「人民日報」では1面でトップ記事に次ぐ位置で報じられているのですが、中央電視台夜7時のニュース「新聞聯播」では報じられませんでした。基本的に「人民日報」と「新聞聯播」は、同じ案件を同じような順番で伝えるのが基本ですので、この報じ方の違いはウラに何かあるのかなぁ、と私は思ってしまいました。

○不動産開発企業に対する中国政府の支援の姿勢が明確になった

 11月17日、中国人民銀行等金融関係の三部門は共同で会議を開き、不動産企業の資金調達の支援を確実に行うこと、経済成長を支えるために金融機関は地方政府と協力して債務の返済期限延長や借り換えを促進するとの方針を決めたとのことです。また、別の報道によれば、現在、中国当局は、金融機関が支援すべき経営が比較的健全な不動産企業50社からなる「ホワイト・リスト」を作成中とのことです。11月23日付けのブルームバーグ通信の報道によれば、先頃米ドル建て債についてデフォルト(債務不履行)状態に入った碧桂園もこの「ホワイト・リスト」50社の中に含まれているとのことです(恒大は含まれていないようです)。

 中国当局は2020年8月に「三つのレッドライン」を出して、借金体質の不動産企業に対する融資を厳しく制限するようになったのですが、今回の会議の結果は、「三つのレッドライン」を事実上完全に撤廃し、不動産企業が倒れないように中国政府として支える姿勢を明らかにしたと言えます。

 ただし、この方針転換については、保交楼(建設途中で工事がストップしたマンションの建設工事を再開させ契約通りに購入者にマンションを引き渡すこと)を確実に進めて民生を安定させるために不動産企業を支援するものだと思われますが、マンション販売が低迷している現状を踏まえれば不動産企業の収益が今後改善する見込みはなく、銀行による不動産企業への融資は結局は銀行にリスクを背負わせることになる、という懸念が残ります。

○人民元の対米ドル相場が「人民元高・米ドル安」方向に急転換した

 中国経済の不振からここのところ人民元は対米ドルで人民元安の方向に圧力が掛かっていましたが、米中首脳会談直前の11月14日頃から急に人民元高の方向に動きました(11月13日の時点では1ドル=7.3人民元程度だったものが、11月21日には1ドル=7.15人民元程度になった)。これは11月14日に発表されたアメリカの消費者物価指数の伸びが市場予想よりも小さく、アメリカのインフレが収まる傾向が鮮明になり、FRBによる利上げはもうない(来年(2024年)に入れば利下げも視野に入る)という考え方が急速に台頭してドル安になったから、という面があります(そのため日本円についても急速に円高が進んだ)。また、11月15日に米中首脳会談が無事に行われたことにより、米中間の鋭い対立は当面は回避されるのではないか、という期待が膨らんだこともあったかもしれません。いずれにせよ、このまま人民元安が進むと、中国国内から国外への資金流出圧力が高まりますから、ここへ来て人民元が元高方向に戻ったことは中国当局をホッとさせているものと思われます。

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 習近平氏は、自らの政治的基本方針を自分の口からは「何も言わない」という姿勢なので、上に掲げたような案件が習近平政権の方針に変更があったことを示すのかどうかはわかりません。しかし、習近平氏の「民間企業を厳しく規制し、国有企業を重視するような政策」は、結果的に中国経済の低迷を招き、社会に広く不満が広がっていることは確かなので、習近平氏が自らの基本方針をいくぶんか軌道修正した可能性はあります。

 特にマンションの売れ行き不振に伴う土地売却収入の減少による地方政府の財政困難は相当程度深刻なようです。昨日(2023年11月24日)私が見たテンセント網・房産チャンネルの解説動画では、以下のような地方政府の財政困難を示す事象を紹介していました。

○四川省楽山市の楽山大仏(ユネスコの世界遺産に登録されている)の30年間の経営権(入場料収入等)が17億元で売却された。

○河南省鄲城県では財政難から公共バスが運休している。

○黒竜江省鶴崗市ではこれから冬場に向かうのに地域暖房供給が停止される計画が示された。

○河北省、貴州省、甘粛省では地方公務員の給与が半年支払われていないところがある。

○黒竜江省ハルビン市や山西省、湖北省のいくつかの都市では20%を超える人員削減が行われた。

 テンセント網・房産チャンネルでは、このほか、地方財政が厳しい地区において地方が整備した道路を有料化した、などということも話題に上っています。全国で多数の爛尾楼(販売済みで購入者からは既に代金は受け取っているのに開発企業の資金難により建設工事が途中でストップしてしまったマンション)が発生して人々の不満が溜まっている中、地方政府の財政難により地方公務員の給与が満足に支払われなかったり、地方政府による生活に密着した行政サービスが滞ったりすることによって、人々の間の不満が現実問題として相当程度高まって来ているのではないかと思われます。

 一般庶民の間だけでなく、中国社会を支える経済活動の中枢を担う経済界の間にも相当程度の不満が高まっている可能性があります。11月22付けの現代ビジネスのネット上の記事「いくらバイデンと会っても、習近平独裁は中国人にとって『もう限界!』」(筆者は林愛華氏)では中国のメディアの財新網が11月4日に「改革が新たな突破をするべきだ」と題する社説を掲載したことを紹介しています。この社説では、「長江と黄河は逆流することはない」という李克強前首相の発言を引用して、李克強氏が首相になったばかりの2013年の党大会で指摘されていた様々な改革を進めるべきだと強調しているとのことです。

 週刊東洋経済2023年11月4日号には「法治主義を強化し、民間企業いじめをやめよ」と題する「財新周刊」10月16日号の社説が紹介されています(この社説が掲載されたのは李克強氏が亡くなる前です)。

 今日(11月25日)私が見たテンセント網・房産チャンネルの「解説動画」の中には、中国政府が不動産企業支援のための50社の「ホワイト・リスト」を作成中であり、この「ホワイト・リスト」の中に国有企業だけでなく民間の不動産企業も含まれることが見込まれることに関連して、「今まで不動産業界においても民間企業に対する締め付けを強化する傾向があったが、今までの中国経済は国有企業、民間企業、国と民間の資金が混じった混合企業が共存して発展してきたのであるから、その方針を今後も続けることが重要である。『長江と黄河は逆流することはない』のだ。」と主張しているものがありました。

 これら財新の主張やテンセント網・房産チャンネルの「解説動画」は、習近平氏がこれまで行ってきたネット企業や学習塾業界の規制に見られる「民間企業いじめ」や国有企業を重視するような政策を正面から批判するものになっています。こういう現政権が行う政策方針をかなり真正面から批判する論調がメディアやネットにアップされているということ自体、私にとって「あれ?風向きが変わったのかな?」と感じさせる状態です。

 これは私の推測ですが、民間企業に対する締め付け強化と2022年までの「ゼロコロナ政策」の強行とが相まって習近平氏の政策が中国経済の活力を失わせたことに対して、一般の人々だけではなく、これまで中国共産党政権を支えてきた経済界の主流派の中にも習近平氏に対する不満が蓄積してきており、その不満が10月27日の李克強氏の死去をきっかけとして一気に吹き出し、習近平氏としてもそれを力で抑え込むことは得策ではない、と考えるようになったのではないかと思います。そういった習近平政権を取り巻く環境の変化が上に掲げたような「風向きが変わった」と思わせるような様々な現象に現れているのではないかと思います。

 「死せる李克強氏、生ける習近平氏を走らす」とまでは言えないかもしれませんが、結果的に見て、李克強氏の死去がかたくなな習近平氏の政策を柔軟化させるきっかけになるのかもしれません。

 もうすぐ11月が終わりますが、結局は「通常党大会の翌年の秋に開かれて重要政策が議論される三中全会(中国共産党中央委員会第三回全体会議)」は開催されそうもありません。このことは、今の中国共産党の内部が三中全会を開催できるほどまとまっていないことを示すかもしれないので要注意です。

 習近平氏が一般の人々や経済関係者の不満を受けて、従来の路線の軌道修正を図るような柔軟性を持っているとしたら、それはそれで評価すべきなのですが、ハッキリ言って、現在の不動産企業の経営問題とそれに起因する地方財政の危機的状況は、ちょっとやそっとの政治的努力で解決できるほどの簡単な問題ではありません。習近平氏が周囲の不満を受けて軌道修正できる柔軟性を持っているのならば、「一人独裁」はやめて、中国共産党全体の「知恵」を活用できるようにトウ小平氏時代の「集団指導体制」を復活させてもらいたいものだと思います。(「集団指導体制」を復活させるとなると、中国共産党内部の各勢力が様々にうごめいて党内で揉めごとが起こるかもしれませんけどね。「一人独裁」でも「集団指導体制」でもダメなのだったら、それなら「中国共産党一党独裁体制」自体をやめて欲しい、というのが私のホンネです)。

 

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