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2023年10月 7日 (土)

中国不動産危機への対処は重大な段階に入った

 外交・内政ともに「チグハグさ」が目立つ習近平政権ですが、現在の中国国内の最も重要な課題である不動産危機に対する対処についても「チグハグさ」が目立ちます。先週のこのブログで恒大集団の創業者の許家印氏が中国当局に拘束されたことを書きました。中国国内では許家印氏の拘束について「当局は恒大集団に自助努力で『保交楼』(中断した建設工事を再開して契約通りに購入者にマンションを引き渡すこと)をさせるのはムリだと諦めたことを意味する」との認識が広がっています。その一方で、香港証券取引所は国慶節連休明けの10月3日から恒大集団の株の取引を再開しました。株の取引再開を認める、ということは、会社としての活動の継続を認める、ということですから、許家印氏の拘束と恒大の株の取引再開により、当局は恒大集団を今後どうしようとしているのかサッパリわからない、という状態になりました。

 累次このブログで何回も書いてきましたが、最近の中国政府の政策は、様々な部署が打ち出す対応がバラバラで、中国政府全体としてどちらの方向に持って行きたいのかサッパリわからない、という案件が多いのですが、今回の恒大集団に対する対応もそのひとつだと言えるでしょう(中国政府の「バラバラ感」「チグハグ感」については、私は行政の最高責任者である習近平氏が個別の具体的政策課題について「何も言わない」という姿勢でいるのが最大の原因だと思っています)。

 中国では来週(10月9日(月)の週)から国慶節連休明けの様々な活動が再開します。この連休中の各都市での新築・中古マンションの販売状況に関する情報も出てくるでしょう。現時点でのマンションの「売れ行き動向」を踏まえて、中国政府が不動産市場の危機的状況に対して、次にどのような対応をしてくるのか、重大な段階に入ったと言えると思います。

 そこで今回は、この夏以降の中国での不動産市場を巡る様々な動きをまとめておきたいと思います。過去のこのブログに書いたことと一部重複する部分もありますが、その点は御容赦ください。

【2023年】

7月17日:
 恒大集団は延期していた2021年と2022年の決算を発表した。2021年及び2022年の純損失はそれぞれ4,760億3,500万元、1,059億1,400万元だった。2022年末の総資産は約1兆8,400億元、負債総額は2兆4,374億元であり、大幅な債務超過であることが明らかになった。

7月24日:
 中国共産党政治局会議において「我が国マンション市場の需給において発生している重大な変化という新しい情勢に適応して、重点領域のリスクの拡大防止と解消を切実に行う必要がある。」という認識が打ち出された。従来使われていた「マンションは投機の対象ではない」(房子不是用来炒的)という文言が使われなかったことは、一部に「投機目的のマンション売買の制限を緩和するのではないか」との見方をもたらした。

8月9日:
 不動産企業最大手の碧桂園が二つのドル建て債の利息の支払い(総額2,250万ドル)を履行できなかった、と発表した。

8月14日:
 国有企業系で中堅どころの中国不動産企業の遠洋集団(英語名:シノ・オーシャン)が2023年1~6月期の純損益が最大200億元(約4千億円)の赤字になる見通しだと発表した。また、利払いが滞っていた同社の米ドル建て社債の取引が停止となった。

 同日、香港メディアが中国の信託大手である中融国際信託の顧客企業の一部が、期限を迎えた信託商品の支払いが滞っていることを明らかにしたと報じた。中融国際信託の主要株主は中国の資産運用大手の中植企業集団で、この案件は不動産バブル崩壊に関連した同社の流動性危機が関連しているという憶測が広がった。

8月17日:
 恒大集団は、アメリカにおいて外国企業が破産手続きを行うためのアメリカ連邦破産法第15条の適用をニューヨークの裁判所に申請した。

8月25日:
 中国人民銀行、中国金融監督管理総局、中国住宅都市農村建設部の三者が連名で「一軒目か二軒目以降かを判定する基準の変更の基本方針」(従来の「認房又認貸」を「認房不認貸」に変更する)を打ち出した。

(注)投機目的のマンション売買を抑制するため、従来より、二軒目以降の購入については高い頭金比率や高い住宅ローン金利が適用されている。どういう場合に「二軒目以降」と判断するかについては、従来は「認房又認貸」で判断していた(現在マンションを保有している、または過去に住宅ローンを設定した経歴がある人の新規購入は「二軒目」と認定する)。それを今後は「認房不認貸」(現在、当該都市でマンションを保有している人の新たな購入は「二軒目」と判断するが、現在、当該都市でマンションを保有していない(他の都市で保有していても構わない)人であれば、過去に住宅ローンを設定した経歴があったとしても「一軒目」と認定する)に変更することとした。他の都市からの住み替えや同じ都市内におけるよい条件の住宅への住み替えなどの場合でも「一軒目」としての緩い基準を適用することで、住み替え需要によるマンション購入を促進しようというもの。

8月28日:
 延期されていた決算発表が行われたことから、香港証券取引所は恒大集団の株の取引を再開した。

8月30日:
 碧桂園は2023年1~6月期の連結決算について489億元の赤字、売上高は対前年同期比39%増の2,263億元、負債総額は1兆3,642億元だと発表した

8月31日:
 中国人民銀行と中国金融監督管理総局が連名で以下の三つの方針を打ち出した。

・住宅ローンの頭金比率を全国一律で一件目20%以上、二件目30%以上に引き下げる。

・住宅ローン金利のLPR(優遇貸出金利)上乗せ分を引き下げる(具体的な上乗せ分は都市によって異なる)

・既存の(金利の高い)住宅ローンを違約金なしで低金利の新しい住宅ローンに切り替えることを認める(9月25日から各個人は銀行に申請可能。ただし、具体的な新しい住宅ローンの条件は各銀行と各個人との交渉によって決まる。)

 同日、広州市と深セン市が「二軒目以降の判定基準」として「認房又認貸」を「認房不認貸」に変更すると発表。

9月1日:
 北京市と上海市が「二軒目以降の判定基準」として「認房又認貸」を「認房不認貸」に変更すると発表。

9月5日:
 碧桂園はこの日までに8月に支払いができなかったドル建て社債の利息の支払いを実行した。

9月8日:
 南京市が投機目的のマンション売買を抑制するために採られていた様々な購入制限を撤廃した(これ以降、様々な都市でマンションの購入制限の撤廃が相次いだ)。

9月15日:
 恒大集団の傘下にある生命保険会社「恒大人寿保険」が新たに設立される海港人寿保険に売却されることが中国国家金融監督管理総局によって承認された。海港人寿保険は、深セン市の政府系投資会社が51%、中国保険保証基金と大手保険会社が49%の出資をして設立する会社である(つまり政府主導で恒大集団の生命保険会社を切り出して売却させた)。

 同日、遠洋集団が全ての外貨建て債券の返済を債務の再編が実行されるまで一時的に停止すると発表した。

9月16日:
 深セン市の公安当局は恒大集団の富裕層向け資産管理部門、恒大財富の「杜某」を拘束したと発表した(報道によれば拘束されたのは資産管理部門の責任者の杜亮氏)。

9月19日:
 中国の大手(碧桂園、恒大に次ぐ三位グループの)不動産企業の融創中国がアメリカ連邦破産法第15条の適用申請をした(8月17日に恒大が申請したのと同じ行為)。

 碧桂園はこの日までに、返済期限が来ていた8本の人民元建て社債の全てについて債権者との間で3年間の返済期限延長について合意した。

9月22日:
 恒大集団は延期されていて8月に開催予定だったものが9月25日に再延期されていたドル建て債務に関する債権者会議を「住宅販売が予想より振るわないため」との理由で再々延期した(延期後の日程は設定されず)。

 同日、中国の不動産投資会社、中国泛海控股(チャイナ・オーシャンワイド・ホールディングス:英領バミューダ諸島で登記、香港株式市場に上場)は、アメリカでの開発事業の支払いを巡って英領バミューダ諸島の裁判所から清算命令を受けた(このため香港株式市場において9月25日から中国泛海の株式の売買が停止された)。

9月24日:
 恒大集団は、子会社の恒大地産集団が情報開示を巡って証券監督当局から捜査を受けているため新規の社債を発行できない、と発表した。

9月25日:
 中国のメディア財新が、恒大集団の元CEO(最高経営責任者)の夏海鈞氏と元CFO(最高財務責任者)の潘大栄氏が当局に拘束されたと報じた。

 同日、恒大集団はこの日が支払い期限だった人民元建て債券40億元の元利金を支払えなかった。

9月28日:
 恒大集団は創業者の許家印氏に対し「強制措置」が採られたと発表した。同日、香港証券取引所は恒大集団の株の取り引きを停止した。

10月3日:
 香港証券取引所は恒大集団の株の取引を再開した。

10月4日:
 中国の不動産企業の中駿集団(SCEグループ)がドル建て社債の元利金6,100万ドルの支払いが滞ったことが原因でデフォルト(債務不履行)に陥ったと発表し、18億ドル相当の4本のドル建て社債の取引を停止した。

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 このほか、9月に入ってからいくつかの都市でマンション販売価格の制限(値下げ禁止令)の撤廃が広がっているようです。このような価格制限撤廃や南京から始まった様々な購入制限の撤廃は、頭金比率や住宅ローン金利の引き下げ、ニ軒目以降を判断する基準の緩和(「認房又認貸」から「認房不認貸」への変更)によってもマンション販売があまり活性化しておらず、多くの都市においてさらなるマンション販売促進策が必要になったことを意味しています。

 一方、この夏以降、中古マンションの売り出し数が激増しているのだそうです。9月21日に見たテンセント網・房産チャンネルにアップされていた「解説動画」では、中古マンション売り出し件数は、上海47万軒、北京19万軒、広州13万軒、深セン8万軒、重慶27万軒、西安17万軒、成都15万軒で合肥、瀋陽、天津、南京は10万軒を超えていると紹介していました。2022年一年間の上海でのマンション販売数は、新築で9.2万軒、中古で15.8万軒だったことから、これらの中古マンション売り出し数は多すぎる、とこの「動画解説」で解説している人は言っていました。

 上に書いた当局によるマンション購入促進策がアナウンスされた後、中古マンションの売り出し数が増えている原因としては、次の二つがあると別の「解説動画」では解説していました。

・当局による「住み替え需要喚起策」を好感して、大都市への移住やこどもの成長などの環境変化で住み替えを検討していた人たちが現在住んでいるマンションを売りに出して新しいマンションへの住み替えをやり始めたため。

・マンション購入刺激策が出されたため、需要が増えるだろうと見込んで「売り時」を見計らっていた投機目的のマンション保有者が一斉に売りに出たため。

 前者ならばよいのですが、後者だとすると、今後、中古マンションがだぶついて中古マンションの価格が下落する可能性があります。

 さらに最近テンセント網・房産チャンネルで話題に上っているのが、「9月21日に北京市朝陽区の住宅建設委員会が手持ちのマンション154戸(個別価格70~130万元)を売り出した(総額10億元)」「9月25日に済南市発展集団資産運営管理有限公司が手持ちのマンション1,341戸を売り出した(総額28億元)」という案件です。売却の理由としては「資産配置の合理化」「所有するマンションを売却することにより現金を獲得して資産問題を緩和するため」としている、とのことです。中国のネット上では「公的機関自身が『これからマンション価格は下落するから今のうちに売っておこう』と考えているのではないか」「土地使用権売却収入が減少して地方財政が苦しくなっていることの表れではないか」といった疑心暗鬼が広がっているようです。

 こういった案件がネットで話題になるくらい、現在中国でマンションを保有している人の多くは「マンション価格はまだまだ下がるのではないか」という不安にさいなまれているのではないでしょうか。一方、今マンションを持っていない人にとってはマンション価格は下がった方がよいのですが、マンション価格が下がって不動産市場の活気が失われることは中国経済にとってよくないと警告を発する「解説動画」もあります。

 ある「解説動画」では、「マンション市場の救済が行われなければ、それがどのような重大な結果をもたらす可能性があるのか?経済の基盤が崩壊するのか?」と題して解説しています。この「解説動画」では、仮にマンション市場が救済されなかったら「経済の減速と失業の増加」「金融リスクの拡大」「消費市場の一層の萎縮」「地方政府の財政収入減少」「貧富の格差拡大による民生の低下と社会の不安定の増大」が起こる可能性があると警告を発し、「だからこそマンション市場は必ず救済されなければならない」と主張しています。

 飛ぶ鳥を落とす勢いで中国の経済成長における「チャイナ・ドリーム」の体現者だとみなされていた恒大集団の創業者の許家印氏が当局に拘束されたことは、中国の人々にとっては大きな衝撃だったようです。「なぜこうなったのか」といった議論がネット上で飛び交っています。

 許家印氏の奥さんだった丁玉梅氏は、恒大の株の24.74%を持った状態で既に許家印氏と離婚し、現在はカナダのパスポートを取得してカナダに滞在していると言われています。こうしたことから許家印氏に対しては、家族を使って個人の資産を海外に逃避させているのではないか、といった疑いもなされています。なので、ネット上では許家印氏個人に対して「巨大な会社のトップは社会的責任を果たすべきだ」といった非難が飛び交っています。

 その一方で、こうした恒大集団に対して安易に資金を融資した銀行に対する批判やあまり明示的には言ってはいないものの恒大集団のこれまでの動きを許してきた行政当局の「甘さ」を暗に批判する発言もネット上ではなされています。

 今日(10月7日(土))見た「解説動画」では、「許家印が目的ではない、背後にいる木喰い虫を根こそぎ退治しなければさらにひどいことになる」と題して、「国家財政を食い物にする木喰い虫をえぐり出さなければならない」と主張していました。この「解説動画」では「木喰い虫」とは具体的に何を指すのかは必ずしも明確ではないのですが、最後は「この考え方が広がっていけるのか。はたまた封殺されるのか。一切を天命に任せようではないか(聴天由命)。」と結んでいました。

 最後の言い方ですが、私は「誰が皇帝になるかは天が決める」「天命を失った皇帝は失脚し、新たに天命を得た者が皇帝になる」という中国の「易姓革命」の考え方を連想してしまいました。

 マンションは人々が安心して生活できる場所であり、日々苦労して稼いで貯めたお金でようやく買えた人生最大の財産です。また中国経済の大きな部分が不動産業に支えられていることを中国の人々はよくわかっています。だからこそ、中国の人々の不動産市場の問題に対する関心は高いのです。国慶節の連休が明けて、連休中のマンションの売れ行き状況が明らかになって以降、中国政府がマンション市場の状況に対して相当強力な対応策を打ち出さないと、中国の人々の中に溜まった不満はこれからますます高まって行くことになるでしょう。

 私は日々中国のネット空間のごく一部を見ているだけですが、中国の人々の不満は臨界点に達しつつあるような雰囲気を感じます。こうした状況において、習近平氏は「何も言わない」「何もしない」という姿勢を今後も続けるのでしょうか。私はそろそろ「何も言わない」「何もしない」では済まない段階に入ってきていると感じています。

 いずれにせよ、国慶節の連休明けに何か動きがあるかどうか、今後とも注目していきたいと思っています。

 

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