« 中国の不動産危機は当面の「景気」の重しに | トップページ | 李克強氏の死去と動き出した中国の経済対策 »

2023年10月21日 (土)

習近平氏の「寝そべり」状態は相当に深刻

 この一週間は、10月17日(火)~18日(水)に北京で「一帯一路」の国際会議があり、習近平氏はこの国際会議で基調演説を行ったほか、18日にロシアのプーチン大統領と首脳会談を行ったのをはじめとして、国際会議に出席するために訪中した数多くの各国首脳との個別会談を行いました。そういう多忙な一週間を過ごした習近平氏に対して「寝そべり」状態とはこれいかに、とお考えになるかもしれません。私が「習近平氏は『寝そべり』状態だ」と考えている理由は以下の通りです。

(注)「寝そべり」は中国語では「タン平」(「タン」は「身」へんに「尚」)。本来は、明るい将来を見通せないために「結婚もしない」「仕事もしない」で寝そべってばかりいる若者を指して言う言葉です。

○10月18日、習近平氏はプーチン大統領と中ロ首脳会談を行った。プーチン氏は会談終了後、記者会見を行って、イスラエルとガザ地区を実効支配するハマスとの間の戦争状態に関連したコメントも発したが、習近平氏は記者会見を行わなかった。多数の国々の首脳との会談が予定されていて時間がなかった、というスケジュール上の都合があったとは言え、ちょうどこの日、アメリカのバイデン大統領がイスラエルに飛んでネタニヤフ首相と会談していることを考えれば、政治家として中国人民及び世界に対してアピールしたいと思うのだったら、絶好の機会であったはずなのに、プーチン氏との会談後に記者団の前に登場しないという習近平氏は「政治家としてやる気がない」と見られてもしかたがないのではないか。

○10月18日夜、習近平氏は「一帯一路」国際会議に出席のため訪中した国連のグテーレス事務総長と会談したが、少なくとも報道されている範囲では、緊迫しているガザ地区を巡る情勢に関して習近平氏は何も言及しなかった。5か国しかない国連安保理常任理事国のひとつの国のトップとして、ガザ地区を巡る情勢に関して「何も言わない」というのは無責任ではないのか(上に書いたように、プーチン氏は記者からの質問に答える形でコメントしている。ガザ地区が緊迫する中、本来は中国に来る時間はなかったはずのグテーレス事務総長がわざわざ北京まで出向いてきたのであるから、何らかのコメントをするのが中国の国連に対する責務だと私は考える)。

○党大会の翌年の秋には三中全会(中国共産党中央委員会第三回全体会議)を開いて、その時点での重要政策について議論するのが中国共産党の通例であったが、習近平氏は昨年(2022年)の党大会で総書記三期目の続投を決めたのに三中全会を開く気配を全く見せていない。中国共産党のトップとして、重要政策について議論する気がないのではないか。

 一方、習近平氏が国内の個別の政策案件については国務院総理の李強氏に全てを任せていて自分は「寝そべり」状態にある、というのならまだわかるのですが、個別の政策案件については李強氏に任せている、というわけでもないところが問題だと私は考えています。

 今日、久しぶりに中国政府のホームページを見て、ちょっとビックリしました。李克強氏が国務院総理をしていた時期の中国政府のホームページには「国務院総理」というページがあって、そこを開くと李克強氏の写真が大きく載っていて、李克強総理は今日何をやった、昨日はこういう会議に出席した、といった国務院総理の動向に関する情報がズラズラと出てきたのですが、今、中国政府のホームページを見ていろいろクリックしましたが李強総理の写真はどうやっても出てきません。もちろん「李強総理が国務院常務会議を開催した」といった記事はあるのですが、李強氏の記事はその他の記事と全く同列扱いです。このホームページを見る限り「李強氏が中国政府を総理している」というふうには全く見えません。

 中国政府のホームページのトップの写真が国家主席の習近平氏であるのはいいとして、「さらに見る」というところをクリックしてその他の様々な場面の写真を見ましたが、ビックリしたことに全てが習近平氏の写真ばかりで、どこにも李強氏の写真がありません。この中国政府のホームページを見ている限り、習近平氏は「個別の政策事項については李強総理に任せている」という形になっていないどころか、「全ての政策事項は自分(習近平氏)が決めている」とアピールするような構成になっているのです。そうした状態なのに、現実的には習近平氏が「寝そべり」のような態度を取っているので、私は「こんなんで中国政府は大丈夫かな」と感じました。

 こういう感覚は私だけのものではないようです。最近、テレビ等で見る中国の専門家の中には「習近平氏は自信を失っているように見える」とコメントする人もいました。10月18日(水)にテレビ東京で放送された Newsモーニング・サテライトに出ていたAISキャピタルの肖敏捷氏は「プロの眼」のコーナーで次のように言っていました。

・以前は経済政策は企画立案から執行まで国務院が担当しており、世界の経済関係者は国務院総理の発言に注目していた。しかし、習近平政権になってから国務院の役割は徐々に小さくなり、今の総理の李強氏の言動はあまり伝えられなくなった。

・以前は経済政策は専門の官僚集団に任されていたが、今は政治の論理が優先され、専門家集団ではなくトップに忠誠心を持つ者の意見だけが通ってしまっている。

・現在、中国経済は減速しているが、「経済の減速」は恐くはない。「減速の原因となる問題の解決がなされないこと」の方が真の問題である。

 参考までに李強氏が主宰している国務院常務会議で議論されている内容を下記に書き出してみましょう。国務院常務会議は、李克強氏の時代には原則として週に一回開催されていましたが、李強氏の代になってから月に2回程度に開催頻度が減っています。最近の三回の国務院常務会議で議論された内容は以下の通りです。

2023年9月20日開催分
・新型工業化の推進(デジタル化の推進等)
・欠損企業の整理について
・未成年の有害なネットからの保護について

10月10日開催分
・低収入の人々の人口動態の把握について
・高齢者に対する食料補助サービスについて
・特許の活用について

10月20日開催分
・処罰事項の取り消しについて(規制緩和)
・人体臓器の提供・移植に関する条例の改正案について

 いずれも重要な政策課題であるとは私も思います。しかし、李克強氏が総理だった頃の国務院常務会議では「新型コロナ感染症拡大下での中小企業の支援について」「若年層の就業促進について」など外国人の私が見ても「そうだよなぁ。今の中国ではここがポイントだよなぁ」ということがわかる政府全体に関するタイムリーな政策課題の議論が多かった、という印象があります。現在の国務院常務会議の議題は、関係する範囲があまり広くない、ということから、「政府部内の各部署の官僚が自分の担当に関する課題を持ち込んだ政策案を議論している」のであって、「李強氏が自分の意思で指示して官僚に検討させた政策案を議論している」ようにはとても見えません。

 現在の李強氏については「寝そべり」とまでは言いませんが、国務院常務会議の開催頻度が低いことを別にしても、「ちょっと元気がないなぁ」という印象を私は持っています。その理由は以下の通りです。

○李強氏は、10月7~9日に浙江省を視察しているが、これは浙江省杭州市で開催されていたアジア大会の閉会式に出席した「ついで」に視察を行ったものである。二週間前には、アジア大会の開会式に出席した習近平氏が浙江省を視察しており、李強氏の浙江省視察は完全に「二番煎じ」であって政治的には全くインパクトはなかった。この浙江省視察のため、10月9日に北京で開催された中国工会第18回全国代表大会の開会式に李強氏は出席しなかった(習近平氏をはじめとする他の政治局常務委員は全員が出席している)。「工会」は日本で言えば「労働組合」であり、中国共産党にとってはこの大会は重要な会議であると考えられるのに、李強氏が出席しなかったことによって、「まるで李強氏はのけ者にされているみたい」という印象を私は持った。

○10月12日に習近平氏が江西省視察中に南昌市で開催した「長江経済ベルトの質の高い発展のさらなる推進に関する座談会」に李強氏も出席した。江西省は浙江省の西隣の省であり、前週に浙江省を視察したばかりの李強氏が再び江西省南昌市に飛んだのは不自然に見えた(浙江省は「長江経済ベルト」を構成する省の一つであることから、前週の李強氏による浙江省視察は習近平氏から完全に無視された格好になったため)。

------

 いずれにしても、毎週このブログに書いていますが、ほとんど「危機的状況」となり、IMF(国際通貨基金)なども懸念している(先日は中曽前日銀副総裁もニューヨークでの講演で懸念を示していた)中国の不動産市場の現状について、習近平氏も李強氏も「何も言わない」「何もしない」状態が続いていることに対して、「中国は大丈夫か」という受け止め方が徐々に広まってきているのではないかと思います。

 10月18日、中国不動産最大手の碧桂園(カントリー・ガーデン)の9月に利払い予定だったドル建てオフショア債について一ヶ月の猶予期間が終了しましたが、支払いは確認されませんでした。債務不履行(デフォルト)の状態になったと見られています。この碧桂園についても、既に2021年にデフォルト状態になり先月(2023年9月)には創業者の許家印氏が拘束された恒大集団についても、政府による救済もなされず、破産宣告がなされて清算段階に入ることもなく、ズルズルと現状の状態が継続しています。一方で、政府系ファンドが株価の下落を抑えようと株の買い支えをしているのに上海総合指数は年初来安値を更新して下げ続け、中国人民銀行が人民元安を防ぐべく毎日高めに為替レートの基準値を設定しているのに市場では毎日のように人民元安の圧力が掛かり続けています。Newsモーニング・サテライトに出演していたAISキャピタルの肖敏捷氏が指摘していたように、経済状態が悪化していること自体よりも、それに対して適切な対応を何もしない習近平氏や李強氏の「寝そべり」状態の方が「中国は大丈夫か」という懸念を引き起こす意味で重要であると認識される状態になっていると思います。

 今のような習近平氏の「寝そべり」状態が続くのであれば、11月にアメリカで開催予定のAPEC首脳会義に習近平氏は出席しない(従って、バイデン大統領との米中首脳会談も行われない)ことになる可能性が高いと思います。

 

|

« 中国の不動産危機は当面の「景気」の重しに | トップページ | 李克強氏の死去と動き出した中国の経済対策 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 中国の不動産危機は当面の「景気」の重しに | トップページ | 李克強氏の死去と動き出した中国の経済対策 »