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2023年10月

2023年10月28日 (土)

李克強氏の死去と動き出した中国の経済対策

 昨日(2023年10月27日(金))未明、国務院前総理の李克強氏が心臓発作のため亡くなりました。中国の国営メディアがこのニュースを伝えたのは日本時間9時半頃でした。中国のテレビではどう伝えているのかなぁ、と思って、スカパー!の大富チャンネルで放送している日本時間13時(北京時間正午)からの中国中央電視台の「中国新聞」を見ました(このお昼の「中国新聞」は、中国国内と同時生放送です)。

 冒頭、「中国新聞」のロゴが流れた後、いつもどおり男女のキャスターが登場しましたが、男性キャスターは黒っぽいネクタイをしていました。女性キャスターが「中国共産党の第17期、18期、19期政治局常務委員で国務院前総理の李克強同志が、上海で静養中に突然の心臓発作を起こし、治療を受けたが2023年10月27日0時10分上海で死去しました。68歳でした。」と伝えた後、このキャスターは「fugao houfa」と言いました。そして再び「中国新聞」の冒頭のロゴが流れ、続いて「中国政府は防災等のために1兆元の国債を追加発行することになりました」という通常ニュースになりました。

 私は「えっ、李克強氏の死去についてのニュースはこれだけ?」と驚きました。女性キャスターが最後に言った「fugao houfa」は意味がわからなかったので電子辞書を引きました。そしたら、これは「訃告后発」(正式な訃報はあとで発表されます)ということでした。その後、日本時間の16時頃、ネットで「人民日報」ホームページや中国共産党のホームページを確認しましたが、この時点でも李克強氏の死去については、「中国新聞」でキャスターが伝えたのと同じ事実関係を短く伝える文章(これは日本時間9:30頃発表になった新華社電の文章)が載っているだけでした。

 夜になって日本時間20時に「新聞聯播」が放送された時点では、中国共産党中央委員会、全国人民代表大会常務委員会、国務院、中国全国政治協商会議が連名で出した「訃告」が出されていたので、「新聞聯播」ではアナウンサーが重々しい声でこの「訃告」を伝えていました。

 要するに、中国の公的機関では「正式な訃告」が出されるまでは、軽々しく「おくやみの言葉」を言ってはならない、ということだったようです。「おくやみの言葉」は、どの世界でも、どの場面でも、表現は非常に難しく、「挨拶文」の中でも最も神経を使うものですが、中国の場合は、「訃告」は極めて政治的にセンシティブな問題を含みますので、「正式な訃告」は、最終的には習近平氏のOKをもらうまで出せない、ということだったのだろうと思います。それにしても、例えば日本では午前11時頃に行われた松野官房長官の記者会見で李克強氏の死去に対する「おくやみのコメント」がなされたように、いくら政治的に難しいとは言っても、亡くなった方に対して即座に素直に「おくやみの言葉」を発することは、人間として当然のことだと思います。「おくやみの言葉」であっても、政治的な意味合いを含むので習近平氏の許可がなければ言えない、というような、そういう社会に私は住みたくないと改めて思いました。

 昨日(10月27日(金))の「新聞聯播」は、トップニュースはこの日に行われた中国共産党政治局会議についての報道、続いてキルギスタンで開かれた上海協力機構首脳(首相級)会議に出席していた李強氏に関するニュースで、三番目が李克強氏の死去に関する「訃告」でした。「訃告」の内容は、李克強氏の経歴を紹介し、業績を語った上で、最後は「李克強同志は永遠に不滅です!」で締めくくられたもので、李克強氏に対する敬意あふれるものだったのですが、このニュースがトップニュースじゃなくて、三番目のニュースなんですかねぇ、というのが私の率直な感想です。「新聞聯播」は、習近平氏関連のニュースが必ずトップで、国務院総理関連のニュースがあるならそれがその次、「その他のニュース」は三番目以降、というのが「お決まり」なのですが、李克強氏死去のニュースが「その他のニュース」なんですかねぇ、と私は思いました。たぶん中国の多くの人も同じような感想を持ったと思います。

 そうした人々の感想があったからかどうか知りませんが、今日(10月28日(土))付けの「人民日報」では、李克強氏の「訃告」が一面のトップでした。中国共産党政治局会議開催に関する記事は「人民日報」というタイトルの右側の位置(ニュースの順番としては「二番目」の扱い)でした。おそらく李克強氏の死去のニュースが「人民日報」の扱いでも「三番目以下」だったら、多くの人民からの反発を買う、と考えたからだろうと思います。

 「訃告」の内容は、例えば「李克強同志は、経済体制改革を継続して推進し、政府と市場との関係をうまく処理し、資源配分における市場が果たす決定的作用を利用して政府の役割をうまく発揮させた」「李克強同志は、人民大衆に対する感情を抱いて、一般大衆の就業問題、教育、住宅、医療、養老等の分野の突出した課題にうまく対処し、民生のボトムラインを守り、絶え間なく一般人民大衆の獲得感、幸福感、安全感を向上させた」など率直に李克強氏の功績を讃えるものになっています。一方で、「(2023年3月に)指導者としての地位を退いて以降、李克強氏は習近平同志を核心とする党中央の指導を断固として守り、党と国家の事業の発展に関心を寄せ、党の清廉な政治建設と反腐敗闘争を断固として支持していた」とも述べています。(このほか、この「訃告」における李克強氏の業績や姿勢に関しては「習近平同志を核心とする党中央の強力な指導の下で」という表現が二回、「習近平同志を核心とする党中央の周囲に団結し」「習近平の新時代の中国の特色のある社会主義思想を全面的に貫徹し」といった表現がそれぞれ一回づつ出てきます)。

 この「訃告」の内容は、李克強氏の業績を高く評価したものになっていますので、1976年の「四五天安門事件」を引き起こした「(四人組が牛耳っていた)党中央は亡くなった周恩来前総理を邪険に扱っている」とか1989年に「六四天安門事件」の運動のきっかけとなった「党中央は亡くなった胡耀邦前総書記に対して冷たい」とかいうのと同じような感情は人々の間には出てこないと思います。ただ、これからの習近平政権の政権運営の行方によっては「李克強氏がもうちょっと長生きしてくれたらなぁ」という思いを多くの中国人民に抱かせることになるので、習近平氏は、一層心を引き締めて政権運営に当たる必要があると思います。

 特に現在は、不動産市場を巡る中国経済の状況がかなり深刻であり、中国の人々が習近平政権が適切に経済政策の舵取りを行うのかどうか注目しているタイミングです。例えば、10月26日、世界の主要金融機関が参加する「クレジット・デリバティブ決定委員会」が、不動産最大手の碧桂園が発行した一部のドル建て社債について、デフォルト(債務不履行)が生じたとする判断を示し、2021年にデフォルト状態に陥った恒大集団と合わせて、中国の不動産大手二社がいずれもデフォルト状態に陥ったことがハッキリしました。不動産市場の危機的状況にうまく対応できなければ「建設業等の不動産開発に関連する様々な産業分野が低迷して失業者が増加する」「不動産企業に対する融資が焦げ付いて金融危機が起こる」「爛尾楼(建設工事が途中でストップしたマンション)を購入した多数の人々が困窮する」「土地使用権の売却が進まない地方政府が財政危機に陥る」「格差が拡大し社会の中に不満が蓄積して社会的安定が損なわれる」といった様々な問題が生じることを中国の人々はよくわかっています。

 李克強氏が死去した今となっては、「仮に李克強氏がもう少し長く国務院総理を続けていれば」という「たられば」の気持ちを多くの中国の人々が持つようになる素地ができたと言えます。実際は、李克強氏が総理を続けていても、現在の中国経済の状況に適切に対処することは相当に難しかっただろうと思いますが、李克強氏が亡くなったことが結果的に「やっぱり習近平氏では経済政策はうまく行かない」という感覚を強める作用をもたらす可能性があります。

 従って、習近平政権は、現在の不動産危機に起因する経済情勢を何とか立て直さなければなりません。習近平氏もそのあたりは自覚していると思います。そのためか、これまでの習近平政権は経済政策についてはほとんど「何もしない」「何も言わない」という態度だったのですが、ここに来て少しずつ具体的政策が打ち出されるようになりました。

 そのうちのひとつが、昨日(10月27日)、李克強氏が亡くなったその日に開かれた中国共産党政治局会議で東北地方(黒竜江省、吉林省、遼寧省及び内モンゴル自治区)の振興を打ち出したことです。中国の東北地方は、「重厚長大」の国有企業が多く、広大な穀倉地帯を抱えていることから、「共和国の長子」と呼ばれてきました。中華人民共和国建国の初期段階で中国の経済建設に大きな役割を果たしてきたからです。一方で、大連などのほかは有力な港を持たない、21世紀に入ってからの電子産業化、ネット産業化の動きの中で産業構造の変革が進んでいない等の理由で、中国の東北地方のGDPは伸び悩み、人口流出も進んでいます。中国の東北地方の産業振興はこれからの中国経済発展の重要な課題ですので、そこに着目した今回の党政治局会議の議論は重要だと思います(ただし、今回の会議の内容からは、具体的な東北地方の産業振興策が見えてきません。こらから打ち出される具体的な産業振興策が機能するかどうかが問題だと思います)。

(注)キルギスタンで開催されていた上海協力機構首脳会義(首相級)に出席していた李強総理が北京に戻ったのは27日午後でした。なので、李強総理はこの日開かれた政治局会議に出席していないものと思われます。重要な経済政策を議論する政治局会議に国務院総理が出席しないでいいんですかね、と思いますが、こういった会議開催のスケジューリングを見ても、習近平氏は李強氏をあまり重く扱ってはいないように感じます(というか、外部から「習近平氏は李強総理を軽く扱っているように見える」と思われてマズいと思わないんでしょうか)。

 二つ目は、10月24日に全人代常務委員会が承認した一兆元の国債追加発行です。これまでの中国の景気対策は、地方政府の資金でインフラ投資等を行うことが中心でしたが、土地使用権売却収入が減少して地方財政が苦しくなっている現状において、今回は中央政府自らが国債を発行して景気刺激を図ろうということのようです。一兆元の国債発行の名目は「洪水等の自然災害を蒙った地域の復興と今後の防災対策」であり、要するにロコツに言えば不動産投資の低迷で疲弊する「コンクリート産業」を支援するためのものだと言えるでしょう。一兆元という金額は、2008年にリーマン・ショック対策で打ち出された「四兆元の経済対策」よりは額は少ないものの、2008年の対策は「地方の資金を中心とした四兆元」であったの対し、今回は「中央政府が用意する一兆元」なので効果はかなり期待できる、という見方もあります。

 この一兆元の国債追加発行に関しては「コンクリート産業への投資に使っても経済成長への効果は一時的だ」「巨額な国債発行による財政出動は国家財政を圧迫し通貨価値の下落(=インフレ)をもたらす危険性がある」などの批判はありますが、これまで「何もしなかった」習近平政権としては前進だ、という見方をすることもできます。

 三つ目は、8月の国務院常務会議で決定された「保障性住宅の建設」が具体的に動き出したことです(最近、この政策を促進するよう指示する文書が地方政府に対して発出されたようです)。「保障性住宅の建設」とは、政府が主導して低所得者向けの住宅を建設することです。不動産不況により民間企業による不動産投資が停滞している中、「住宅が買えない」という多数の人々の不満を解消するため、これまでも実施してきた政府主導による「保障性住宅」の建設を一層促進しようというものです。これは「住宅が買えない人々の不満を解消する」ことを目的とすると同時に、民間企業による不動産投資の低迷で困窮する建設業やセメント・鉄鋼、家電・家具等の関連産業を活性化することによる景気刺激も目的としています。ただし、これは民間企業が建設したマンションが売れない(=供給過剰な)状況にあってさらに政府が住宅を供給することになりますから、民間部門のマンション価格(新築及び中古)をさらに引き下げることになり、不動産危機の問題を根本的に解決するものにはなりません。

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 1976年1月の周恩来首相の死去は同年4月の「四五天安門事件」を引き起こし、同年9月の毛沢東主席の死去は翌10月の四人組逮捕に結びつき、1989年4月の胡耀邦前総書記の死去は「六四天安門事件」の運動が始まるきっかけとなりました。なので、ここれまで中国当局は死去した過去の有力者に対する追悼の動きが人々の不満を表面化させるきっかけにならないよう細心の注意を払ってきました。そのため1997年のトウ小平氏、2008年の華国鋒氏(元党主席・総理)、2019年の李鵬氏(元総理)、2022年の江沢民氏(元総書記・国家主席)の死去の後は人々の不満が噴出するような動きはありませんでした。ただ、昨年(2022年)11月末の江沢民氏の死去の直後に「ゼロコロナ政策」の突然の解除があったように、「人々の不満を表面化させないように」という配慮に基づいて、有力者の死去がそれまでの硬直的な政策を変更するきっかけになることはあり得ると思います。今回、李克強氏が68歳という若さで亡くなったことは残念でしたが、李克強氏の死去をきっかけにして、習近平政権が「何も言わない」「何もしない」状態から脱却して、低迷する経済状況下の中国の人々の「息詰まる思い」を解消する方向で新しい政策が的確に打ち出されるようになればいいなぁ、と私は願っています。

 

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2023年10月21日 (土)

習近平氏の「寝そべり」状態は相当に深刻

 この一週間は、10月17日(火)~18日(水)に北京で「一帯一路」の国際会議があり、習近平氏はこの国際会議で基調演説を行ったほか、18日にロシアのプーチン大統領と首脳会談を行ったのをはじめとして、国際会議に出席するために訪中した数多くの各国首脳との個別会談を行いました。そういう多忙な一週間を過ごした習近平氏に対して「寝そべり」状態とはこれいかに、とお考えになるかもしれません。私が「習近平氏は『寝そべり』状態だ」と考えている理由は以下の通りです。

(注)「寝そべり」は中国語では「タン平」(「タン」は「身」へんに「尚」)。本来は、明るい将来を見通せないために「結婚もしない」「仕事もしない」で寝そべってばかりいる若者を指して言う言葉です。

○10月18日、習近平氏はプーチン大統領と中ロ首脳会談を行った。プーチン氏は会談終了後、記者会見を行って、イスラエルとガザ地区を実効支配するハマスとの間の戦争状態に関連したコメントも発したが、習近平氏は記者会見を行わなかった。多数の国々の首脳との会談が予定されていて時間がなかった、というスケジュール上の都合があったとは言え、ちょうどこの日、アメリカのバイデン大統領がイスラエルに飛んでネタニヤフ首相と会談していることを考えれば、政治家として中国人民及び世界に対してアピールしたいと思うのだったら、絶好の機会であったはずなのに、プーチン氏との会談後に記者団の前に登場しないという習近平氏は「政治家としてやる気がない」と見られてもしかたがないのではないか。

○10月18日夜、習近平氏は「一帯一路」国際会議に出席のため訪中した国連のグテーレス事務総長と会談したが、少なくとも報道されている範囲では、緊迫しているガザ地区を巡る情勢に関して習近平氏は何も言及しなかった。5か国しかない国連安保理常任理事国のひとつの国のトップとして、ガザ地区を巡る情勢に関して「何も言わない」というのは無責任ではないのか(上に書いたように、プーチン氏は記者からの質問に答える形でコメントしている。ガザ地区が緊迫する中、本来は中国に来る時間はなかったはずのグテーレス事務総長がわざわざ北京まで出向いてきたのであるから、何らかのコメントをするのが中国の国連に対する責務だと私は考える)。

○党大会の翌年の秋には三中全会(中国共産党中央委員会第三回全体会議)を開いて、その時点での重要政策について議論するのが中国共産党の通例であったが、習近平氏は昨年(2022年)の党大会で総書記三期目の続投を決めたのに三中全会を開く気配を全く見せていない。中国共産党のトップとして、重要政策について議論する気がないのではないか。

 一方、習近平氏が国内の個別の政策案件については国務院総理の李強氏に全てを任せていて自分は「寝そべり」状態にある、というのならまだわかるのですが、個別の政策案件については李強氏に任せている、というわけでもないところが問題だと私は考えています。

 今日、久しぶりに中国政府のホームページを見て、ちょっとビックリしました。李克強氏が国務院総理をしていた時期の中国政府のホームページには「国務院総理」というページがあって、そこを開くと李克強氏の写真が大きく載っていて、李克強総理は今日何をやった、昨日はこういう会議に出席した、といった国務院総理の動向に関する情報がズラズラと出てきたのですが、今、中国政府のホームページを見ていろいろクリックしましたが李強総理の写真はどうやっても出てきません。もちろん「李強総理が国務院常務会議を開催した」といった記事はあるのですが、李強氏の記事はその他の記事と全く同列扱いです。このホームページを見る限り「李強氏が中国政府を総理している」というふうには全く見えません。

 中国政府のホームページのトップの写真が国家主席の習近平氏であるのはいいとして、「さらに見る」というところをクリックしてその他の様々な場面の写真を見ましたが、ビックリしたことに全てが習近平氏の写真ばかりで、どこにも李強氏の写真がありません。この中国政府のホームページを見ている限り、習近平氏は「個別の政策事項については李強総理に任せている」という形になっていないどころか、「全ての政策事項は自分(習近平氏)が決めている」とアピールするような構成になっているのです。そうした状態なのに、現実的には習近平氏が「寝そべり」のような態度を取っているので、私は「こんなんで中国政府は大丈夫かな」と感じました。

 こういう感覚は私だけのものではないようです。最近、テレビ等で見る中国の専門家の中には「習近平氏は自信を失っているように見える」とコメントする人もいました。10月18日(水)にテレビ東京で放送された Newsモーニング・サテライトに出ていたAISキャピタルの肖敏捷氏は「プロの眼」のコーナーで次のように言っていました。

・以前は経済政策は企画立案から執行まで国務院が担当しており、世界の経済関係者は国務院総理の発言に注目していた。しかし、習近平政権になってから国務院の役割は徐々に小さくなり、今の総理の李強氏の言動はあまり伝えられなくなった。

・以前は経済政策は専門の官僚集団に任されていたが、今は政治の論理が優先され、専門家集団ではなくトップに忠誠心を持つ者の意見だけが通ってしまっている。

・現在、中国経済は減速しているが、「経済の減速」は恐くはない。「減速の原因となる問題の解決がなされないこと」の方が真の問題である。

 参考までに李強氏が主宰している国務院常務会議で議論されている内容を下記に書き出してみましょう。国務院常務会議は、李克強氏の時代には原則として週に一回開催されていましたが、李強氏の代になってから月に2回程度に開催頻度が減っています。最近の三回の国務院常務会議で議論された内容は以下の通りです。

2023年9月20日開催分
・新型工業化の推進(デジタル化の推進等)
・欠損企業の整理について
・未成年の有害なネットからの保護について

10月10日開催分
・低収入の人々の人口動態の把握について
・高齢者に対する食料補助サービスについて
・特許の活用について

10月20日開催分
・処罰事項の取り消しについて(規制緩和)
・人体臓器の提供・移植に関する条例の改正案について

 いずれも重要な政策課題であるとは私も思います。しかし、李克強氏が総理だった頃の国務院常務会議では「新型コロナ感染症拡大下での中小企業の支援について」「若年層の就業促進について」など外国人の私が見ても「そうだよなぁ。今の中国ではここがポイントだよなぁ」ということがわかる政府全体に関するタイムリーな政策課題の議論が多かった、という印象があります。現在の国務院常務会議の議題は、関係する範囲があまり広くない、ということから、「政府部内の各部署の官僚が自分の担当に関する課題を持ち込んだ政策案を議論している」のであって、「李強氏が自分の意思で指示して官僚に検討させた政策案を議論している」ようにはとても見えません。

 現在の李強氏については「寝そべり」とまでは言いませんが、国務院常務会議の開催頻度が低いことを別にしても、「ちょっと元気がないなぁ」という印象を私は持っています。その理由は以下の通りです。

○李強氏は、10月7~9日に浙江省を視察しているが、これは浙江省杭州市で開催されていたアジア大会の閉会式に出席した「ついで」に視察を行ったものである。二週間前には、アジア大会の開会式に出席した習近平氏が浙江省を視察しており、李強氏の浙江省視察は完全に「二番煎じ」であって政治的には全くインパクトはなかった。この浙江省視察のため、10月9日に北京で開催された中国工会第18回全国代表大会の開会式に李強氏は出席しなかった(習近平氏をはじめとする他の政治局常務委員は全員が出席している)。「工会」は日本で言えば「労働組合」であり、中国共産党にとってはこの大会は重要な会議であると考えられるのに、李強氏が出席しなかったことによって、「まるで李強氏はのけ者にされているみたい」という印象を私は持った。

○10月12日に習近平氏が江西省視察中に南昌市で開催した「長江経済ベルトの質の高い発展のさらなる推進に関する座談会」に李強氏も出席した。江西省は浙江省の西隣の省であり、前週に浙江省を視察したばかりの李強氏が再び江西省南昌市に飛んだのは不自然に見えた(浙江省は「長江経済ベルト」を構成する省の一つであることから、前週の李強氏による浙江省視察は習近平氏から完全に無視された格好になったため)。

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 いずれにしても、毎週このブログに書いていますが、ほとんど「危機的状況」となり、IMF(国際通貨基金)なども懸念している(先日は中曽前日銀副総裁もニューヨークでの講演で懸念を示していた)中国の不動産市場の現状について、習近平氏も李強氏も「何も言わない」「何もしない」状態が続いていることに対して、「中国は大丈夫か」という受け止め方が徐々に広まってきているのではないかと思います。

 10月18日、中国不動産最大手の碧桂園(カントリー・ガーデン)の9月に利払い予定だったドル建てオフショア債について一ヶ月の猶予期間が終了しましたが、支払いは確認されませんでした。債務不履行(デフォルト)の状態になったと見られています。この碧桂園についても、既に2021年にデフォルト状態になり先月(2023年9月)には創業者の許家印氏が拘束された恒大集団についても、政府による救済もなされず、破産宣告がなされて清算段階に入ることもなく、ズルズルと現状の状態が継続しています。一方で、政府系ファンドが株価の下落を抑えようと株の買い支えをしているのに上海総合指数は年初来安値を更新して下げ続け、中国人民銀行が人民元安を防ぐべく毎日高めに為替レートの基準値を設定しているのに市場では毎日のように人民元安の圧力が掛かり続けています。Newsモーニング・サテライトに出演していたAISキャピタルの肖敏捷氏が指摘していたように、経済状態が悪化していること自体よりも、それに対して適切な対応を何もしない習近平氏や李強氏の「寝そべり」状態の方が「中国は大丈夫か」という懸念を引き起こす意味で重要であると認識される状態になっていると思います。

 今のような習近平氏の「寝そべり」状態が続くのであれば、11月にアメリカで開催予定のAPEC首脳会義に習近平氏は出席しない(従って、バイデン大統領との米中首脳会談も行われない)ことになる可能性が高いと思います。

 

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2023年10月14日 (土)

中国の不動産危機は当面の「景気」の重しに

 今回のタイトルは「『景気』とは経済の先行きに対する気分の問題である」ことに着目して付けました。

 この一週間、中国の不動産市場に関連しては二つのニュースが「重し」になりました。ひとつは、10月10日に中国の不動産大手の碧桂園が「アメリカドルを含む全ての外貨建て債務について資金調達が難しい状況にあり、期日までに支払えない可能性がある」と発表したことであり、もうひとつはマンション販売において一年で最大の「かき入れ時」であるはずの国慶節連休期間中も中国のマンション販売はさえなかったことです。

 中国の不動産市場の低迷は、中国経済への下押しを通じて、世界経済全体へも影響を及ぼします。10月10日に発表されたIMF(国際通貨基金)の世界経済見通しに関する四半期報告では、2024年の世界の経済成長見通しを前回7月の報告から0.1%下方修正した2.9%とし、2024年の中国の経済成長見通しを前回7月の報告から0.3%下方修正した4.2%としました。IMFは下方修正の原因のひとつとして中国の不動産危機を挙げています。中国の不動産市場を巡る状況は、既に世界経済にとって「他人事」とは言えない状況になってきているのです。

 9月28日に恒大集団が創業者の許家印氏に対して「強制措置」がなされていることを発表したことに加えて、10月10日に碧桂園が外債について期日までに支払えない可能性があると自ら発表したことで、中国不動産企業が破綻して清算の過程に入る可能性が現実問題として浮上してきました。中国国内のネット上では、恒大集団に資金を貸している銀行のリストが出回っているようで、報道によれば、10月7日、河北省にある地方銀行の滄州銀行で取り付け騒ぎが起きた、とのことです。

 8月に打ち出された住宅ローンの頭金比率や金利の引き下げと二軒目以降と認定する基準の緩和(いわゆる「認房不認貸」:詳細についてはこのブログの先週(2023年10月7日付け)の記事「中国不動産危機への対処は重大な段階に入った」参照)というマンション市場活性化策にも係わらず、国慶節連休期間中のマンション販売は地域によってバラツキはあるものの、総体的に見れば「低迷が続いている」という状況だったようです。

 不動産市場の状況についてとりまとめている中国指数研究院は、今年(2023年)の国慶節連休期間中のマンション販売動向の速報を発表しているようです。テンセント網・房産チャンネルにアップされている「解説動画」によると、この中国指数研究院がとりまとめた国慶節連休中の新築マンションの一日当たりの平均販売量(面積ベース)の増減は、概ね以下のような状況なのだそうです。

○一線級都市

<前年(2022年)の国慶節連休との比較で>

上海:+159%、広州:+129%、北京:-31%、深セン:-46%

<コロナ禍前の2019年の国慶節連休との比較で>

上海:わずかなプラス、広州:わずかなプラス、北京:-25%、深セン:-27%

○二線級都市

<前年(2022年)の国慶節連休との比較で>

蘇州と武漢はプラスだがその他はマイナス。寧波、温州、瀋陽、合肥は-50%以下、青海省の西寧は-95%、南京、南昌、杭州、済南は-10~-20%。二線級都市全体で-14%。

<コロナ禍前の2019年の国慶節連休との比較で>

二線級都市全体で-28~-30%。

○三、四線級都市

<前年(2022年)の国慶節連休との比較で>

プラスは福建省の寧徳(+112%)、広東省の東莞(+63%)、広東省の梅州(+33%)、広東省の湛江(わずかなプラス)だけで、あとは全てマイナス。三、四線級都市全体で-50%。

(注)福建省の寧徳には中国最大の電気自動車用バッテリー製造会社である寧徳時代新能源科技(CATL)の本社がある。

<コロナ禍前の2019年の国慶節連休との比較で>

三、四線級都市全体で-59%。

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 各地域ごとの事情に応じてバラツキはありますが、中国政府によるマンション購入刺激策によっても、市場全体は活性化したとは言えない状況です。特に三、四線級都市(地方の中小都市)の販売低迷がキツいですが、碧桂園は三、四線都市の比重が大きく(販売数の60%が三、四線級都市と言われている)全体の売り出し戸数も恒大よりも多いことから、三、四線級都市での販売不振は、碧桂園にとっては大きな痛手だと言われています。

 中国の不動産企業のトップ2である碧桂園と恒大については、テンセント網・房産チャンネルに「解説動画」をアップしている不動産専門家の王波氏が現時点での経営状況について(破綻したらどうなるかも含めて)数字を交えて解説していましたので、ポイントを紹介したいと思います。

【恒大集団】

・2023年1~5月、恒大は爛尾楼(建設が途中でストップしていたマンション)のうち約12.2万戸、面積にして1,389万平方メートルを購入者に引き渡した。しかし、6月以降は購入者に引き渡しているのは毎月1万戸以下である。恒大は、爛尾楼として合計で162万戸、1,000近いプロジェクトを抱えている。

・恒大は128行の銀行と121社の非銀行系金融機関から融資を受けている。

・恒大の外貨建て債券は190億ドルである。借り入れをした時の人民元レートは1ドル=6.3元だった。現在は1ドル=7.3元だから、金利負担に加えて、為替変動に起因する負担が増えている。

・この外貨建て債券発行に対して担保を提供しているのは中国国内の銀行である。外国の融資元は中国国内で担保を設定しても債券の償還ができなかった場合の「担保の取り立て」をすることができないので、外貨建て債券の発行に当たっては、中国の銀行が担保を提供し、中国の銀行は中国国内の恒大の資産を担保として押さえている。このように中国の銀行が仲立ちして、中国国内にある担保物権を使って外貨建て債券を発行して資金調達するやり方を「内保外貸」と呼ぶ。

・恒大が外貨建て債券を償還できなくなったら、外国の融資元は担保を提供した中国の銀行から資金を回収することになる。中国の銀行は担保として設定した中国国内の恒大の資産を接収することになるが、もしその恒大の資産が爛尾楼だったら、中国の銀行は資金を回収できなくなってしまう。そうなったら中国の銀行は中国国内で債券を発行して資金を調達することになるが、その資金調達が難しくなれば中国の銀行を支えるためにその債券を中央銀行である中国人民銀行が買い取ることになるだろう。つまりは、最後の最後は、恒大の経営破綻のツケは中国人民が支払う、ということになるのだ。もし「清算」ということになるのならば、恒大だけでなく、碧桂園、佳兆業、融創も結局は同じような話になる。

【碧桂園】

・碧桂園の米ドル建て債券は15本、合計93億ドル(680億元)である。2024年に期日が来るのはこのうち2本で、2024年1月期日のものが9.65億ドル(70億元)、4月期日のものが5.37億ドル(39億元)である。

・碧桂園の2023年1~3月の売上高は1,549.8億元(対前年同期比-43.9%)だった。売上高は2022全年で4,303.7億元、2021年全年で6,074億元、2020年全年で7,888億元だったから、売上高が急激に減少していきていることは明らかである。

・碧桂園の負債率は2022年末で40%だったが、2023年6月には50.1%に上昇している。2023年6月末の負債総額は1.4兆元、保有現金総額は1,305億元である。

・人民元建て債券1,470億元については債権者との間で支払いを延期することで合意している。2022年に爛尾楼だったもののうち70万戸を購入者に引き渡し、2023年第一~第三四半期の間に42万戸を購入者に引き渡すなど、碧桂園は保交楼(爛尾楼の購入者への引き渡し)について努力していることは間違いない。

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 中国政府が発表する経済統計の数字にはハッキリしないものがありますが、恒大にしろ碧桂園にしろ、香港証券取引場に上場している企業ですので、経営の財務状況については適時公表する義務があり、その財務状況については公開されています。なので、中国の人々はこれらの不動産企業について実際に「清算」となる可能性がどの程度あるのか、これらの財務状況の数字から判断することができます。

 上に書いたように恒大に融資をしていると伝えられた地方銀行で取り付け騒ぎが起きているように、中国の人々の間ではこれらの不動産企業が実際に「清算」という事態になる、ということは、かなりの現実味を持って受け止められてきているようです。その事実は、「不動産企業が本当に清算の段階に入るのか」とは別の問題として、中国の「景気」を考える上で非常に重要です。中国経済の先行きについて、中国の多くの人々が悲観的に見る見方が広がっているとすると、人々は将来の経済変動に備えて消費に慎重になり、そのことがまた中国経済の低迷を長引かせることになるからです。中国の人々が消費に慎重になる、ということは、中国国内での製品の販売を通じて、あるいは中国人観光客によるインバウンド消費を通じて、日本経済にも直接的な影響を及ぼすことなります。

 別の「解説動画」では、もし仮に不動産企業が「清算」という事態になった場合には中国国内の銀行や地方財政に大きな影響を及ぼす可能性があることを解説した最後に「我々は、冬は既に到来している、春はまだ遠い、と考えるべきなのだろうか」と締めくくっています。大手不動産企業が実際に破綻し「清算」の段階にまで至るのかどうかはまだわかりませんが、少なくとも中国の人々の中国経済に対する「センチメント」(信頼感、先行き感)は既に相当程度悪化しているのは間違いないと思います。

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 10月11日、中国の政府系ファンドのひとつである中央匯金投資は、4大国有銀行の株式を買い増し、今後も購入を続ける計画だと発表しました。いわゆる「国家隊(ナショナル・チーム)」による株価買い支え策です。

 10月12日付けの香港発ロイター通信によると、中国証券監督管理委員会は、中国国内の証券会社とその海外部門に対して、海外取引サービスで中国本土の新規顧客を受け入れることを禁止したとのことです。中国国内から外国への資金流出を防ぐためと思われます。

 これらの諸施策は「姑息な手段」だとは言えますが、中国当局が中国の人々のセンチメント悪化とそれによる資金の中国国内から外国への流出加速を懸念していることの表れだと見ることもできます。

 一方で、「根本的な対策」は何もなされていません。10月12日、習近平主席は江西省南昌市で「長江経済ベルトの質の高い発展のさらなる推進に関する座談会」を開催しました。この座談会には李強総理も参加しています。この「座談会」は、習近平氏の江西省視察活動の一環として開催されたのですが、李強氏は、この座談会に出るためだけに北京から南昌へ出張したようです。前にも書いたことがありますが、李克強氏が国務院総理だった時期には、習近平氏の地方視察に李克強氏が同行したことは一度もありませんでした。李強氏の動きを見ていると、「李強氏は習近平氏の『子分』であり、経済政策も習近平氏が自分でコントロールするのだ」ということを内外にアピールする意図があるように思います。

 李強氏は、この江西省での座談会の前には国務院常務会議を主催し、江西省での座談会の後の昨日(10月13日)には経済関係者との座談会を開いているのですが、これらの経済に関する会議に関する「人民日報」等の報道では不動産市場に関しては何も触れられていません。要するに習近平氏も李強氏も不動産市場に関しては「何も言わない」「何もしない」という状況が続いています。

 中国政府の経済政策のトップが「何も言わない」「何もしない」一方で、政府系ファンドが銀行株を買い支えするというような「姑息な手段」で中国の人々の間に蔓延するセンチメントの悪化に対処しようとしている、という現状自体が「中国経済はこの先大丈夫か」という不安を煽ることに繋がっていると私は考えています。

 

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2023年10月 7日 (土)

中国不動産危機への対処は重大な段階に入った

 外交・内政ともに「チグハグさ」が目立つ習近平政権ですが、現在の中国国内の最も重要な課題である不動産危機に対する対処についても「チグハグさ」が目立ちます。先週のこのブログで恒大集団の創業者の許家印氏が中国当局に拘束されたことを書きました。中国国内では許家印氏の拘束について「当局は恒大集団に自助努力で『保交楼』(中断した建設工事を再開して契約通りに購入者にマンションを引き渡すこと)をさせるのはムリだと諦めたことを意味する」との認識が広がっています。その一方で、香港証券取引所は国慶節連休明けの10月3日から恒大集団の株の取引を再開しました。株の取引再開を認める、ということは、会社としての活動の継続を認める、ということですから、許家印氏の拘束と恒大の株の取引再開により、当局は恒大集団を今後どうしようとしているのかサッパリわからない、という状態になりました。

 累次このブログで何回も書いてきましたが、最近の中国政府の政策は、様々な部署が打ち出す対応がバラバラで、中国政府全体としてどちらの方向に持って行きたいのかサッパリわからない、という案件が多いのですが、今回の恒大集団に対する対応もそのひとつだと言えるでしょう(中国政府の「バラバラ感」「チグハグ感」については、私は行政の最高責任者である習近平氏が個別の具体的政策課題について「何も言わない」という姿勢でいるのが最大の原因だと思っています)。

 中国では来週(10月9日(月)の週)から国慶節連休明けの様々な活動が再開します。この連休中の各都市での新築・中古マンションの販売状況に関する情報も出てくるでしょう。現時点でのマンションの「売れ行き動向」を踏まえて、中国政府が不動産市場の危機的状況に対して、次にどのような対応をしてくるのか、重大な段階に入ったと言えると思います。

 そこで今回は、この夏以降の中国での不動産市場を巡る様々な動きをまとめておきたいと思います。過去のこのブログに書いたことと一部重複する部分もありますが、その点は御容赦ください。

【2023年】

7月17日:
 恒大集団は延期していた2021年と2022年の決算を発表した。2021年及び2022年の純損失はそれぞれ4,760億3,500万元、1,059億1,400万元だった。2022年末の総資産は約1兆8,400億元、負債総額は2兆4,374億元であり、大幅な債務超過であることが明らかになった。

7月24日:
 中国共産党政治局会議において「我が国マンション市場の需給において発生している重大な変化という新しい情勢に適応して、重点領域のリスクの拡大防止と解消を切実に行う必要がある。」という認識が打ち出された。従来使われていた「マンションは投機の対象ではない」(房子不是用来炒的)という文言が使われなかったことは、一部に「投機目的のマンション売買の制限を緩和するのではないか」との見方をもたらした。

8月9日:
 不動産企業最大手の碧桂園が二つのドル建て債の利息の支払い(総額2,250万ドル)を履行できなかった、と発表した。

8月14日:
 国有企業系で中堅どころの中国不動産企業の遠洋集団(英語名:シノ・オーシャン)が2023年1~6月期の純損益が最大200億元(約4千億円)の赤字になる見通しだと発表した。また、利払いが滞っていた同社の米ドル建て社債の取引が停止となった。

 同日、香港メディアが中国の信託大手である中融国際信託の顧客企業の一部が、期限を迎えた信託商品の支払いが滞っていることを明らかにしたと報じた。中融国際信託の主要株主は中国の資産運用大手の中植企業集団で、この案件は不動産バブル崩壊に関連した同社の流動性危機が関連しているという憶測が広がった。

8月17日:
 恒大集団は、アメリカにおいて外国企業が破産手続きを行うためのアメリカ連邦破産法第15条の適用をニューヨークの裁判所に申請した。

8月25日:
 中国人民銀行、中国金融監督管理総局、中国住宅都市農村建設部の三者が連名で「一軒目か二軒目以降かを判定する基準の変更の基本方針」(従来の「認房又認貸」を「認房不認貸」に変更する)を打ち出した。

(注)投機目的のマンション売買を抑制するため、従来より、二軒目以降の購入については高い頭金比率や高い住宅ローン金利が適用されている。どういう場合に「二軒目以降」と判断するかについては、従来は「認房又認貸」で判断していた(現在マンションを保有している、または過去に住宅ローンを設定した経歴がある人の新規購入は「二軒目」と認定する)。それを今後は「認房不認貸」(現在、当該都市でマンションを保有している人の新たな購入は「二軒目」と判断するが、現在、当該都市でマンションを保有していない(他の都市で保有していても構わない)人であれば、過去に住宅ローンを設定した経歴があったとしても「一軒目」と認定する)に変更することとした。他の都市からの住み替えや同じ都市内におけるよい条件の住宅への住み替えなどの場合でも「一軒目」としての緩い基準を適用することで、住み替え需要によるマンション購入を促進しようというもの。

8月28日:
 延期されていた決算発表が行われたことから、香港証券取引所は恒大集団の株の取引を再開した。

8月30日:
 碧桂園は2023年1~6月期の連結決算について489億元の赤字、売上高は対前年同期比39%増の2,263億元、負債総額は1兆3,642億元だと発表した

8月31日:
 中国人民銀行と中国金融監督管理総局が連名で以下の三つの方針を打ち出した。

・住宅ローンの頭金比率を全国一律で一件目20%以上、二件目30%以上に引き下げる。

・住宅ローン金利のLPR(優遇貸出金利)上乗せ分を引き下げる(具体的な上乗せ分は都市によって異なる)

・既存の(金利の高い)住宅ローンを違約金なしで低金利の新しい住宅ローンに切り替えることを認める(9月25日から各個人は銀行に申請可能。ただし、具体的な新しい住宅ローンの条件は各銀行と各個人との交渉によって決まる。)

 同日、広州市と深セン市が「二軒目以降の判定基準」として「認房又認貸」を「認房不認貸」に変更すると発表。

9月1日:
 北京市と上海市が「二軒目以降の判定基準」として「認房又認貸」を「認房不認貸」に変更すると発表。

9月5日:
 碧桂園はこの日までに8月に支払いができなかったドル建て社債の利息の支払いを実行した。

9月8日:
 南京市が投機目的のマンション売買を抑制するために採られていた様々な購入制限を撤廃した(これ以降、様々な都市でマンションの購入制限の撤廃が相次いだ)。

9月15日:
 恒大集団の傘下にある生命保険会社「恒大人寿保険」が新たに設立される海港人寿保険に売却されることが中国国家金融監督管理総局によって承認された。海港人寿保険は、深セン市の政府系投資会社が51%、中国保険保証基金と大手保険会社が49%の出資をして設立する会社である(つまり政府主導で恒大集団の生命保険会社を切り出して売却させた)。

 同日、遠洋集団が全ての外貨建て債券の返済を債務の再編が実行されるまで一時的に停止すると発表した。

9月16日:
 深セン市の公安当局は恒大集団の富裕層向け資産管理部門、恒大財富の「杜某」を拘束したと発表した(報道によれば拘束されたのは資産管理部門の責任者の杜亮氏)。

9月19日:
 中国の大手(碧桂園、恒大に次ぐ三位グループの)不動産企業の融創中国がアメリカ連邦破産法第15条の適用申請をした(8月17日に恒大が申請したのと同じ行為)。

 碧桂園はこの日までに、返済期限が来ていた8本の人民元建て社債の全てについて債権者との間で3年間の返済期限延長について合意した。

9月22日:
 恒大集団は延期されていて8月に開催予定だったものが9月25日に再延期されていたドル建て債務に関する債権者会議を「住宅販売が予想より振るわないため」との理由で再々延期した(延期後の日程は設定されず)。

 同日、中国の不動産投資会社、中国泛海控股(チャイナ・オーシャンワイド・ホールディングス:英領バミューダ諸島で登記、香港株式市場に上場)は、アメリカでの開発事業の支払いを巡って英領バミューダ諸島の裁判所から清算命令を受けた(このため香港株式市場において9月25日から中国泛海の株式の売買が停止された)。

9月24日:
 恒大集団は、子会社の恒大地産集団が情報開示を巡って証券監督当局から捜査を受けているため新規の社債を発行できない、と発表した。

9月25日:
 中国のメディア財新が、恒大集団の元CEO(最高経営責任者)の夏海鈞氏と元CFO(最高財務責任者)の潘大栄氏が当局に拘束されたと報じた。

 同日、恒大集団はこの日が支払い期限だった人民元建て債券40億元の元利金を支払えなかった。

9月28日:
 恒大集団は創業者の許家印氏に対し「強制措置」が採られたと発表した。同日、香港証券取引所は恒大集団の株の取り引きを停止した。

10月3日:
 香港証券取引所は恒大集団の株の取引を再開した。

10月4日:
 中国の不動産企業の中駿集団(SCEグループ)がドル建て社債の元利金6,100万ドルの支払いが滞ったことが原因でデフォルト(債務不履行)に陥ったと発表し、18億ドル相当の4本のドル建て社債の取引を停止した。

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 このほか、9月に入ってからいくつかの都市でマンション販売価格の制限(値下げ禁止令)の撤廃が広がっているようです。このような価格制限撤廃や南京から始まった様々な購入制限の撤廃は、頭金比率や住宅ローン金利の引き下げ、ニ軒目以降を判断する基準の緩和(「認房又認貸」から「認房不認貸」への変更)によってもマンション販売があまり活性化しておらず、多くの都市においてさらなるマンション販売促進策が必要になったことを意味しています。

 一方、この夏以降、中古マンションの売り出し数が激増しているのだそうです。9月21日に見たテンセント網・房産チャンネルにアップされていた「解説動画」では、中古マンション売り出し件数は、上海47万軒、北京19万軒、広州13万軒、深セン8万軒、重慶27万軒、西安17万軒、成都15万軒で合肥、瀋陽、天津、南京は10万軒を超えていると紹介していました。2022年一年間の上海でのマンション販売数は、新築で9.2万軒、中古で15.8万軒だったことから、これらの中古マンション売り出し数は多すぎる、とこの「動画解説」で解説している人は言っていました。

 上に書いた当局によるマンション購入促進策がアナウンスされた後、中古マンションの売り出し数が増えている原因としては、次の二つがあると別の「解説動画」では解説していました。

・当局による「住み替え需要喚起策」を好感して、大都市への移住やこどもの成長などの環境変化で住み替えを検討していた人たちが現在住んでいるマンションを売りに出して新しいマンションへの住み替えをやり始めたため。

・マンション購入刺激策が出されたため、需要が増えるだろうと見込んで「売り時」を見計らっていた投機目的のマンション保有者が一斉に売りに出たため。

 前者ならばよいのですが、後者だとすると、今後、中古マンションがだぶついて中古マンションの価格が下落する可能性があります。

 さらに最近テンセント網・房産チャンネルで話題に上っているのが、「9月21日に北京市朝陽区の住宅建設委員会が手持ちのマンション154戸(個別価格70~130万元)を売り出した(総額10億元)」「9月25日に済南市発展集団資産運営管理有限公司が手持ちのマンション1,341戸を売り出した(総額28億元)」という案件です。売却の理由としては「資産配置の合理化」「所有するマンションを売却することにより現金を獲得して資産問題を緩和するため」としている、とのことです。中国のネット上では「公的機関自身が『これからマンション価格は下落するから今のうちに売っておこう』と考えているのではないか」「土地使用権売却収入が減少して地方財政が苦しくなっていることの表れではないか」といった疑心暗鬼が広がっているようです。

 こういった案件がネットで話題になるくらい、現在中国でマンションを保有している人の多くは「マンション価格はまだまだ下がるのではないか」という不安にさいなまれているのではないでしょうか。一方、今マンションを持っていない人にとってはマンション価格は下がった方がよいのですが、マンション価格が下がって不動産市場の活気が失われることは中国経済にとってよくないと警告を発する「解説動画」もあります。

 ある「解説動画」では、「マンション市場の救済が行われなければ、それがどのような重大な結果をもたらす可能性があるのか?経済の基盤が崩壊するのか?」と題して解説しています。この「解説動画」では、仮にマンション市場が救済されなかったら「経済の減速と失業の増加」「金融リスクの拡大」「消費市場の一層の萎縮」「地方政府の財政収入減少」「貧富の格差拡大による民生の低下と社会の不安定の増大」が起こる可能性があると警告を発し、「だからこそマンション市場は必ず救済されなければならない」と主張しています。

 飛ぶ鳥を落とす勢いで中国の経済成長における「チャイナ・ドリーム」の体現者だとみなされていた恒大集団の創業者の許家印氏が当局に拘束されたことは、中国の人々にとっては大きな衝撃だったようです。「なぜこうなったのか」といった議論がネット上で飛び交っています。

 許家印氏の奥さんだった丁玉梅氏は、恒大の株の24.74%を持った状態で既に許家印氏と離婚し、現在はカナダのパスポートを取得してカナダに滞在していると言われています。こうしたことから許家印氏に対しては、家族を使って個人の資産を海外に逃避させているのではないか、といった疑いもなされています。なので、ネット上では許家印氏個人に対して「巨大な会社のトップは社会的責任を果たすべきだ」といった非難が飛び交っています。

 その一方で、こうした恒大集団に対して安易に資金を融資した銀行に対する批判やあまり明示的には言ってはいないものの恒大集団のこれまでの動きを許してきた行政当局の「甘さ」を暗に批判する発言もネット上ではなされています。

 今日(10月7日(土))見た「解説動画」では、「許家印が目的ではない、背後にいる木喰い虫を根こそぎ退治しなければさらにひどいことになる」と題して、「国家財政を食い物にする木喰い虫をえぐり出さなければならない」と主張していました。この「解説動画」では「木喰い虫」とは具体的に何を指すのかは必ずしも明確ではないのですが、最後は「この考え方が広がっていけるのか。はたまた封殺されるのか。一切を天命に任せようではないか(聴天由命)。」と結んでいました。

 最後の言い方ですが、私は「誰が皇帝になるかは天が決める」「天命を失った皇帝は失脚し、新たに天命を得た者が皇帝になる」という中国の「易姓革命」の考え方を連想してしまいました。

 マンションは人々が安心して生活できる場所であり、日々苦労して稼いで貯めたお金でようやく買えた人生最大の財産です。また中国経済の大きな部分が不動産業に支えられていることを中国の人々はよくわかっています。だからこそ、中国の人々の不動産市場の問題に対する関心は高いのです。国慶節の連休が明けて、連休中のマンションの売れ行き状況が明らかになって以降、中国政府がマンション市場の状況に対して相当強力な対応策を打ち出さないと、中国の人々の中に溜まった不満はこれからますます高まって行くことになるでしょう。

 私は日々中国のネット空間のごく一部を見ているだけですが、中国の人々の不満は臨界点に達しつつあるような雰囲気を感じます。こうした状況において、習近平氏は「何も言わない」「何もしない」という姿勢を今後も続けるのでしょうか。私はそろそろ「何も言わない」「何もしない」では済まない段階に入ってきていると感じています。

 いずれにせよ、国慶節の連休明けに何か動きがあるかどうか、今後とも注目していきたいと思っています。

 

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