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2023年9月23日 (土)

台湾有事よりも中国共産党有事の方が心配なのかも

 中国の習近平政権の「ちょっと変な動き」が続いています。特に外交関係で打ち出されるメッセージが「方向性が統一されておらずバラバラ」で、中国共産党内部に組織的問題があるのではないか、と伺わせます。私が「ちょっと変だ」と感じている点は以下の諸点です。

○日本のALPS処理水の海洋放出に関して強烈な対日批判を展開している一方で、9月3日の「抗日戦争勝利記念日(日本の降伏文書署名の日を記念する日)」や9月18日の「(満州事件のきっかけとなった)柳条湖事件記念日」には特段の動きはなく、むしろ通常の年よりも平穏なくらいだった。

○ニューヨークでの国連総会に韓正国家副主席が出席し、9月18日に韓正氏がアメリカのブリンケン国務長官と会っている同じタイミングで、王毅外相はモスクワを訪問して中ロの緊密な関係を演出していた。このタイミングで人民日報は9月20日、一面トップで「習近平氏が抗日戦争中のアメリカ義勇軍航空隊を賞賛する返信の手紙を送った」と報じて米中関係改善を望む姿勢を打ち出した。

○9月21日、中国海事局が天然ガス掘削船を尖閣諸島付近の日中中間線より日本側に曳航する旨の発表を行ったが、翌22日に日本の松野官房長官が記者会見で中国側に申し入れを行った旨を述べた直後、中国側はこの発表を取り消した。報道によれば、中国側は日本政府に対して「入力ミスだった」と連絡してきた由。

 三番目の案件は、中国側が釈明していることを踏まえれば、純粋に「事務的ミス」だった可能性もありますが、「事務的ミス」だったとしても、海事局が外交上大問題となるような案件をホームページ上にアップするのを事前にチェックできなかった、という点で「組織上のたるみ」がある、と言われてもしかたがないと思います。特に海事局がこの発表を行った日は、習近平氏が杭州で開かれるアジア大会開会式に出席することの正式発表があったのと同じ日であり、意地悪く勘ぐれば、習近平氏に反対する勢力が、アジア大会開会式に出席してアジア諸国との友好関係をアピールしたいと考えている習近平氏に対する「当てつけ」の嫌がらせをしたという見方もできます。同じような指摘は今年(2023年)2月にアメリカのブリンケン国務長官が訪中する直前にアメリカ本土上空に偵察用と見られる中国の気球が出現した時にも言われました。

 二番目の「習近平氏が抗日戦争中のアメリカ義勇軍航空隊を賞賛する返信の手紙を送った」という案件もいささか意味不明です。この「アメリカ義勇航空隊」の案件とは1941年に当時のアメリカの退役軍人らが抗日戦争中の中国に対してフライング・タイガーズ(中国名「飛虎隊」)を組織して支援したことを指すのだそうです。これを記念して1998年に「中米航空遺産基金」という団体が設立され、今回は習近平氏がこの団体の関係者に返信の手紙を出した、ということなのだそうです。当時のアメリカは蒋介石の中華民国を支援したのであって中国共産党を支援したわけではない、といった細かい話は脇に置いて置くとしても、このタイミングで習近平氏が返信の手紙を出したことを「人民日報」の1面トップに掲載したことは、中国がアメリカに対して「関係改善の意思がある」というメッセージを出したかったからだということは明らかです。最近の中国による一連の「日本たたき」が日米韓の連携強化に対する反発なのだとしたら、今回の「アメリカとの関係改善の意思の表明」は、中国の外交姿勢に全く一貫性がないことを印象づけるものだと私は感じました。

 さらにこの「中米航空遺産基金」に対する習近平氏の手紙の件については、9月20日付けの「人民日報」の2面に「飛虎隊の精神を代々伝承させよう」という解説記事が載っていたのに、翌9月21日付け「人民日報」2面にも「飛虎隊精神を伝承して中米民間友好を推進させよう」という解説記事が掲載されていたのを見て私は「変だな」と感じました。私は最初に21日付けの紙面を見たとき「あれ?昨日と同じ記事が載っているぞ」と思ったからでした。よく読むとこの二つの記事は全く同じではなく、前者は新華社の記者が書いたもの、後者は人民日報の記者が書いたものでした。別人が書いた記事なので全く同じではないのですが、同じ案件に関する記事なので情報としては重複する部分が多く、二日にわたって記事を掲載する意味を全く感じないものでした。日本でも、同じ案件に対して共同通信と時事通信がそれぞれ記事を書くことは日常的になされていますが、同じ新聞が両通信社の記事を両方載せるようなことはしないでしょう。「人民日報」があまり違わない内容の記事を二日連続で掲載した意味は不明です。アメリカとの関係改善を呼びかけるような記事の掲載自体が唐突でしたが、同じような記事の二日連続での「人民日報」への掲載も意味不明でした。背景にアメリカに対する対応方針に関する派閥争いのようなものがあるのだろうか、と私は勘ぐってしまいました。

 秦剛外交部長の突然の退任とか、李尚福国防部長の三週間にもわたる所在不明とか、最近の習近平政権には「意味不明」の動きが目立ちすぎます。日本のマスコミではどこも取り上げていませんが、7月25日の中国中央電視台の夜7時のニュース「新聞聯播」は、スカパー!の大富チャンネルで日本国内向けに録画放送された時には冒頭のニュースが放送されませんでした(冒頭の部分だけ「中国風景」という風景動画が流されていた)。「新聞聯播」は、中国中央電視台のホームページで見ることができますので、ネットで確認すると、スカパー!の大富チャンネルで放送されなかったのは、同日開催された中国共産党政治局第七次集体学習において軍の強化に関する議論がなされたことを報じる部分でした。ちょうどこの頃ロケット軍の幹部の交代があった時期なので、映像を提供する中国中央電視台の側かあるいは日本国内で放映する大富チャンネルの側かどちらかが何らかの考えに基づいて「日本国内で放映するのはマズい」と考えてこの部分だけカットしたのだと思います。日本のNHK等の報道を中国国内での放映時に「検閲カット」することは私は何回も経験していますが、日本国内で放映される中国国内で製作されたニュースが「検閲カット」されたのを見たのは私は初めてでした。軍を含めた中国国内で「何かが起きている」ことを想像させるような案件でした。

 2024年1月の台湾での総統選挙をきっかけとした中国共産党による台湾の武力統一行動、いわゆる「台湾有事」が懸念されていますが、著名なエコノミストのリチャード・クー氏は週刊東洋経済2023年8月5号の記事で「『バランスシート不況』の中国に台湾に侵攻する余裕はない」と言っていますし、アメリカのバイデン大統領はベトナム訪問時の9月11日、中国について「厳しい経済問題を抱えていることが台湾への侵攻に向かわせることになるとは思わない。おそらくはむしろ逆で経済問題を抱えていることにより台湾への侵攻の意欲が弱くなるかもしれない。」と語っています。

 アメリカは、おそらくは中国の内部で「何かが起きている」という情報を持っているのだろうと私は想像しています。アメリカと中国は昨日(2023年9月22日)、経済と金融に関する作業部会を設置することを発表しました。私はここに「金融」が含まれていることがキーだと考えています。今年7月、ブリンケン国務長官に続いて訪中したのが商務長官ではなくイエレン財務長官だったことからもアメリカは中国との関係について「通商・貿易問題」よりも「金融問題」の方を重視していると私は見ています。日本に次ぐ金額の大量のアメリカ国債を中国が保有していることを考えた時、現在進行中の中国の不動産バブルの崩壊現象が金融危機にまで発展することは、アメリカにとっては「他人事」ではなく完全な「自分の問題」であることがわかっているからです。

 中国の不動産企業がドル建て社債を償還ができなくなりそうな時、中国人民銀行は緊急のドル融資をするかもしれませんが、そのためのドルを手当てするために中国が持っているアメリカ国債を売却するかもしれません。中国による急激なアメリカ国債の売却は、アメリカ国債金利の急騰をもたらし、アメリカ経済のみならず世界経済に大きな衝撃を与えます。ですから、アメリカはそういうことにならないように中国と情報を交換し、必要があれば中国を支援する(例えば今は米中間では通貨スワップ協定はありませんが、アメリカFRBが中国人民銀行が発行する人民元を担保として中国人民銀行に米ドルを緊急融資するなど)ことも考えているかもしません。

 上に書いたように、今、習近平政権内部では「何か変なこと」が起きているような気配がしているのですが、アメリカにとっては「台湾有事」が起きても困るが、一方で中国共産党内部で深刻な権力闘争が起きて中国政治が混乱して中国国内の不動産バブル崩壊が金融危機にまで発展しても困るのです。なので、アメリカは「台湾有事」が起きないように努力するとともに、中国共産党内部の危機的な権力闘争、いわば「中国共産党有事」が起きないように今最大限の努力を傾注しているのだと思います。全く変な話なのですが、おそらくアメリカは「習近平政権がコケないように陰ながら支える」という役割を果たそうとしているのだと思います。

 9月19日(火)の産経新聞9面の「田中秀男の経済正解」の欄「中国金融危機 米国は今度こそ放置するのか」の中で、筆者の同紙編集委員の田中秀男氏は、8月14日にアメリカ金融資本最大手のJPモルガン・チェースが香港株式市場で中国不動産最大手の碧桂園の株を買い増して株式の5%以上を保有したことを指摘しています。今、中国の不動産企業の株価は暴落して「紙くず同然」になっていますから、JPモルガン・チェースにとっては、碧桂園の株を買い増しすることの負担はそれほど大きくないと思いますが、田中氏はこの記事で「バイデン政権が習政権に助け船を送る構図が透けて見える」と書いています。

 問題は、こういう「アメリカのバイデン政権が国内の不動産危機で苦悩する習近平政権が倒れないように支えようとしている」ことが明らかになってくることが中国国内にどういう反応をもたらすか、です。中国国内には「習近平氏は対米強硬路線を行っているからこそ支持してきた」という人もいるだろうし、逆に「中国経済の活性化のためには毛沢東時代に戻るような習近平氏のやり方ではなく、トウ小平氏のように『対外開放と経済の市場化』を進めてアメリカとの関係も改善すべきだ」と考える人もいると思います。こうした中で「実はアメリカは習近平政権が倒れないように支えているのだ」ということがハッキリしたら、中国国内では外からは想像できない波紋が広がるかもしれません。

 昨日(2023年9月22日(金))、習近平氏は浙江省杭州市で、杭州アジア大会開会式に参加するために訪中しているシリアのアサド大統領と会談しました。習近平氏がどの国の首脳と会うかは習近平氏の勝手ですが、ロシアの支援を受けているアサド大統領と会うことが示す外交的メッセージは明白です。このことを見ても、私には「習近平氏が外交的にどの方向を目指しているのかサッパリわからない」と思えます。アメリカに対抗する姿勢を強く見せたいのであれば、9月20日の「人民日報」1面トップの「抗日戦争中のアメリカ義勇軍航空隊を賞賛する返信の手紙を送った」という記事は何だったのか、と思えるからです。

 今ネットを見たら、習近平氏は、同じく杭州を訪問している韓国のハン・ドクス首相と会談し、韓国が現議長国として年内開催を目指す「日中韓サミット」について「適切な時期の開催を歓迎する」と表明した、とのニュースが流れていました。韓国や日本との関係をあまり悪化させたくないと考えているのだったら、日本産水産物の全面輸入禁止を何とかして欲しいなぁ、と思いますね。

 中国の不動産市場に関しては、これから重要な数週間が始まります。9月25日(月)から既存の住宅ローンの低金利のものへの切り替えに関する住宅ローン設定者の銀行への申請が始まります。4,000万人と言われる住宅ローン設定者が銀行に殺到して混乱が起きないか、重要な収入源である住宅ローン金利を一斉に引き下げることにより各銀行の経営状況が悪化しないのか、など今後どうなるかを見極める必要があります。10月1日からの国慶節の連休は、中国のマンション業界にとっては一年中で最大の「かきいれ時」です。8月末~9月初の住宅ローンの頭金比率や金利の引き下げ、二件目購入の際の条件緩和などのマンション購入刺激策がどの程度効果があるかが連休を経過すればある程度わかってくると思います。

 今晩(2023年9月23日夜)、アジア大会杭州大会の開会式が行われました。何回も言いますが、習近平氏には、こういうセレモニーに出席するのもいいですが、それより外交・内政ともに具体的な政策の方向性について、明確に自分の考えを示して欲しいと思います。そうでないと、仮に習近平氏自身が具体的な政策を打ち出さない一方で「金融危機が起きないようにアメリカが習近平政権を陰ながら支えている」というような認識が中国国内に広まってしまっては、習近平氏にとって極めてよくないことになる、と私は思います。

 

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