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2023年7月

2023年7月29日 (土)

中国共産党政治局会議の経済政策対応方針

 毎年7月末に開催される中国共産党政治局の会議は、その年前半の経済関係の統計が出揃ったのを受けて、その年の後半における経済政策を議論することが多いので毎年注目されます。特に今年(2023年)は、ゼロコロナ政策が終了したのに期待したように経済回復が進まず、不動産市場が「マンション・バブル崩壊」と言える状況になっていることから、政治局会議でどのような方針が打ち出されるのか注目されていました。

 今年(2023年)7月の中国共産党政治局会議は、月末に世界ユニバーシティ大会(ユニバーシアードから改称)が四川省の成都で開催され、習近平氏もその開会式に出席する予定だったことが関係していたからか、例年より少し早めの7月24日に開催されました。開催当日の夜の中国中央電視台夜7時のニュース「新聞聯播」で報道された内容を聞いた時、私の第一感は「マンション・バブル崩壊という現状はきちんと認識しているものの、対応策として挙げられているのは従来通りの方法による『景気刺激策』であり、抜本的な対策とは言えないので、明日(25日)のマーケットは失望して株価は下げるだろうなぁ」というものでした。

 しかし、実際の翌7月25日(火)の中国の株式市場は、上海総合指数が対前日比+2.12%、香港ハンセン指数が対前日比+4.10%で引けるという大幅なプラスの反応となりました。ネット等における「解説」によると「市場の期待値が低かったことから『予想以上にポジティブな対応策だ』という印象を与えたようだ」とのことでした。

 もともと中国共産党政治局会議で示されるのは基本的な方針であり、あまり詳細な具体策は示されないことが普通です。今回も「具体策」というよりは「基本方針」というようなものでした。私が「マーケットは失望するだろうなぁ」と感じたのは、現在の中国の経済の状況は「マンション・バブル崩壊」という経験したことのない構造的な困難に直面しているのだから、それに対応する対応方針としては、例えば「民間不動産企業を国有化する(または国有企業が買収する)」といった業界全体の抜本的改革を示すようなものが必要だと私は考えていたのですが、そうした抜本策が出されなかったからでした。

 一方、中国の株式市場の関係者は、経済の活性化にほとんど関心がないかのように見える習近平氏の最近の言動を受けて、政治局会議でも経済に対しては冷淡な対応が示されるのではないか、と思っていたようです。ところが、実際に報道された今回の政治局会議の内容を見て、中国の市場関係者は以下の諸点で「非常にポジティブだ」と感じたようです。テンセント網・房産チャンネルに政治局会議の後にアップされた複数の「解説動画」で解説者が指摘していた点を踏まえてポイントをまとめると以下の通りです。

○今回の政治局会議では、中国経済の現状について、極めて厳しい状態にあることを率直に認めていること。

 今回の政治局会議では、まず中国経済の現状について以下のような認識が述べられいます。

「現在、経済の進行は新たな困難と挑戦に直面している。主に国内の需要が不足しており、一部の企業は経営困難に直面している。重点領域におけるリスクとまだ表に現れていない病巣が比較的多く存在しており、外部環境は複雑で厳しい。」

 日頃、「中国経済はゆっくりと回復しつつある」といった前向きな表現しかしない「新聞聯播」や「人民日報」の報じ方に慣れていると、この政治局会議の認識は「厳しい現状を極めて非常に率直に受け止めている」という印象を受けます。

○政治局会議は経済関係者が懸念している重要な問題点についてきちんと把握していて、それに対する対応策を議論していること。

 今回の政治局会議では、次の諸点について言及しています。

・マクロ経済政策

・国内需要拡大策

・デジタル経済・先進製造業とサービス産業の融合、人工知能(AI)やプラットフォーム企業の発展

・国有企業の競争力と民営企業の発展環境の向上

・不動産市場の活性化

・民生の推進、特に就業問題への対応

 経済界が持つ問題意識とはあまり関係のない「中国の伝統文化保護の強化」といった経済界から見れば「ピンボケ」な案件が多い普段の習近平主氏宰の会議に比べると、今回の政治局会議は、経済界が懸念している諸問題にドンピシャと焦点を当てて議論していることから、多くの市場関係者は非常にポジティブに受け取ったようです。

○政治局会議が経済関係者が抱いている「不安感」をきちんと感じ取っていること。

 今回の政治局会議を伝える「人民日報」などの報道では、会議において議論された方針として「資本市場を活性化させ、投資者の安心感を向上させる」と明記されています。経済には関心がないように見える日頃の習近平氏の言動によって、多くの中国の経済関係者は、中国経済の将来について不安を感じていると思います。特に株式市場関係者は、順調に株価が上がるアメリカや日本の株式市場と比べて、上海や香港の株価がずっと横ばい圏で低迷しているのは、多くの投資家が中国経済の将来性に不安を感じて、資金をアメリカや日本に移しているからではないか、と感じていたと思います。そうした中で、中国共産党政治局が「投資家の安心感の向上」にスポットを当てたことは、中国のマーケット関係者には非常にポジティブな印象を与えたと思います。

○政治局会議では、不動産市場における「マンション・バブル崩壊」のような状況をきちんと認識していること。

 今回の政治局会議を伝える報道では、以下のように述べられています。

「我が国マンション市場の需給において発生している重大な変化という新しい情勢に適応して、重点領域のリスクの拡大防止と解消を切実に行う必要がある。」

「人々の住宅に住みたいという底堅い需要と住居を改善したいという需要をさらにうまく満足させるため、マンション市場の安定的で健康的な発展を促進させる。」

「保障性住宅(低所得者用住宅)の建設と供給を拡大し、都市内部の旧街区の改造を積極的に行い、『平時・緊急時両用』の公共インフラ建設を積極的に推進する。」「各種の使われていない住宅の活用を図る」「地方債券のリスクの拡大防止と解消を有効に図り、債券の一括化方策を実施する」「金融監督を強化し、リスクの高い中小金融機関の改革を穏やかに推進する」

 最初の部分の「我が国マンション市場の需給において発生している重大な変化」という表現は、私に言わせれば「マンション・バブルが崩壊した」を中国共産党政治局ふうに表現した、ということだと思います。中国共産党政治局自身が中国のマンション・バブルが崩壊フェーズに入ったことを自ら認識している、という点で、ここの部分は非常に重要だと私は考えています。「バブル崩壊」という言葉は使ってはいないけれども、テンセント網・房産チャンネルにアップされている「動画解説」の解説者の多くも、この部分は非常に大きな意味を持つ、と指摘しています。

 また、日本の新聞等でも報道されていますが、不動産市場に関する記述において「マンションは投機の対象ではない」(房子不是用来炒的)という文言が全く登場していないことを中国の関係者は非常に高い関心を持って受け止めています。この文言は、2016年12月の中央経済工作会議で使われて以来、中国共産党が示す不動産市場に対する政策を述べる部分ではこれまで必ず使われていた文言です。この文言がなかったことで、二件目、三件目以降のマンション購入を制限する政策(例えば、住宅ローンを組む場合に、二件目以降のマンション購入の際には頭金比率を高くする、とか、二件目以降のマンション購入用の場合はローンの金利を高めに設定する等)は今後緩和されるのではないか、という期待も出ているようです。

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 今回の政治局会議が打ち出した経済政策方針に対する「初期反応」は以上の通りですが、時間が経過するにつれて、中国国内でも「あんまり期待しすぎてはいけないのではないか」という冷静な対応も目立ってきています。実際、政治局会議の翌々日の7月26日(水)の株式市場では、上海総合指数は対前日比-0.26%、香港ハンセン指数は対前日比-0.35%で引け、前日の上昇分の一部を消してしまいました。

 政治局会議で示されるのは「基本方針」であり、具体的な政策は、各地方の実情に合わせて各地方政府が具体的に示すことになります。テンセント網・房産チャンネルにアップされる解説動画でも「これから各地方で出される具体的な政策変更を冷静に見ていく必要がある」とする解説が多くなっています。

 具体的な政策に関しては、7月27日に報じられたところによると、中国の住宅都市農村建設相は、関係者を集めた座談会において、以下のような今後の政策修正の考え方を示したとのことです。

・住宅ローン設定時の頭金比率及びローン金利の低減

・住み替え時のマンション購入に関連する税の軽減

・二件目以降のマンション購入に際しての住宅ローン設定時の頭金割合や金利が厳しくされる場合の「二件目以降」の定義として、これまでは「過去に住宅ローンを組んだことのある人が新たに住宅ローンを借りる場合」だったのを「現在住宅を持っていない人が住宅ローンを借りる場合」に変更する(つまり一件目のマンションを売却した(手放した)上で二件目を購入する「住み替え」の場合には、「二件目」ではなく「一件目」の購入時と同じ住宅ローン条件を適用する)

 三番目の政策修正は、これまでこどもの成長や進学する学校の関係で住み替えをするために二件目のマンションを購入したいと思っていた人に対する住宅ローン設定の制限を緩和する、という意味なので、北京、上海等の大都市圏ではマンションの需要拡大に寄与することが期待されいているようです。

 一方、この三番目の政策修正は、現在持っているマンションを保有した状態で新たにプラスしてマンションを購入する場合の住宅ローン設定に対する厳しい制限は継続することを意味しているので、これは「投資目的のマンション購入は認めない」という従来の政策意図の継続を示しており、政治局会議において「マンションは投機の対象ではない」という文言が示されなかったからといって、政府が投機目的のマンション購入を容認したわけではない点は注意すべきだ、と指摘している「解説動画」の解説者もいます。

 いずれにせよ、政治局会議での「基本方針」が出されたとは言え、今後、各地で出されるであろう具体的なマンション関連政策の修正を受け、それを人々がどのように受け止めて、新築マンション及び中古マンションの販売動向が実際に今後どのように変化するかを慎重に見極める必要がある、と指摘する「解説動画」の解説者もいます。

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 以下は私の個人的な考えですが、上に出てきた住宅ローン設定時の頭金比率やローン金利の調整や購入に関する税の調整は、いわば今までも何回も行われてきたマンション市場に対する政策の範囲内の政策修正であり、「バブル崩壊」の状況を呈している現在の中国のマンション市場の状況を抜本的に変えるものにはならないと思います。上に書いたテンセント網・房産チャンネルにアップされている「解説動画」の解説者が言っているように、実際に具体的にどのような政策が各地方政府から打ち出され、それを中国の人々がどのように受け止めて、実際に新築マンションや中古マンションの販売価格、販売戸数が今後どのように変化していくかを見ていく必要があると思います。

 恒大集団をはじめとする多くの不動産企業が経営不振と資金不足からマンションの建設工事を中断させている現状においては、実態的には、住宅ローン金利がどうのこうのというより、政府の指導に基づく金融機関からの融資を受けて、これら建設中のマンションの建設工事がきちんと終了し、まだ数多く残っている「爛尾楼」(建設工事中断中のマンション)が契約通りに購入者に引き渡されるかどうかがポイントになると思います。

 政治局会議の翌日の上海や香港の株式市場での株価上昇は、おそらくあくまで「初期反応」であって、これから多くの市場関係者が冷静になって状況を判断すれば、問題はそんなに簡単ではないと思うようになるでしょう。政治局会議の翌日の7月25日(火)に放送された日経CNBCの朝エクスプレスの中で、コメンテーターの岡崎良介氏は、高く始まった上海と香港の株価指数の状況を見て「日本では、平成バブル崩壊の後、日本政府は何回にもわたって小出しの景気刺激策を出したが、結局は日本経済はそれから何十年にもわたる経済の低迷の時代に入ったことを思い出す必要がある」とコメントしていました。おそらくは、平成バブルを経験している日本の関係者の方が中国の市場関係者より中国共産党政治局会議の経済政策方針が状況を一遍に改善することができるものではないことをよくわかっているのだろうと思います。

 日本のマスコミでも、現在の中国の経済状況と平成バブル崩壊後の日本とを比較して論ずる評論が多くなってきています。例を挙げると以下の通りです。

☆朝日新聞2023年7月18日付け朝刊4面記事
「『日本病』おびえる中国 バブル経済から停滞 そしてデフレへ?」
「遅れる景気回復 『日本の今日は中国の明日に・・・』」

☆日経CNBC「昼エクスプレス」内「Insight」2023年7月25日放送
「中国経済の悲観論を巡る論点整理」(みずほ証券チーフエコノミスト小林俊介氏)

☆NHKホームページ「ニュース」ビジネス特集2023年7月28日19:39アップ
「比較すると?日本化する中国?経済失速は“失われた30年”への入り口か」

 日本経済新聞では今三回にわたって「中国経済の現状と展望」という論説を掲載しています。7月27日付け朝刊27面では日本国際問題研究所客員研究員の津上俊哉氏が「(上)不振企業延命の副作用拡大」と題して、7月28日付け朝刊29面では神戸大学教授の梶谷懐氏が「(中)積極財政と年金拡充が急務」と題して書いています。

 津上俊哉氏は、上記の論説の中で「日本が経験したような大規模で急激なバブル崩壊が中国で起きる可能性は、依然として低い。中国政府が富と権力で市場メカニズムに介入してバブル崩壊を防いでいるからだ。」と書いています。津上氏は続けて「しかし、バブル崩壊を人の身体に例えれば、悪い物を食べて吐いたり下痢したりするようなものだ。苦しい『症状』は生体の防御反応でもある。それを妨げれば毒素が排出されずに体内に蓄積する。今の中国もバブルが崩壊しないように政府が介入する結果、別の形で健康がむしばまれている。」と書いています。多くの日本の関係者の解説の中で、私はこの表現が現在の中国経済の状況を最も的確に表現していると感じました。

 そしてもうひとこと書き加えれば、このブログでは何回も書いて来たことなのですが、最も重要なのは、日本は平成バブル崩壊後の「苦しみ」の中で、すぐ隣にあった「急速に経済成長する中国」を生産基地及び製品・サービスの市場として大いに活用して息をつくことができたのに対し、今の中国の隣には「急速に経済成長する中国」は存在しない、ということです。

 今回の中国共産党政治局会議で示された方針を受けて、これから中国国内では具体的な政策の修正が行われていくのでしょう。その結果、「金九銀十」と呼ばれるようにマンション販売の「かき入れ時」である9月から10月に掛けて、中国のマンション市場に好転の兆しが見えるかどうか、これから中国経済の実情をしっかりと見ていく必要があると思います。

 

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2023年7月22日 (土)

今の中国経済の低迷は「習近平不況」だという認識

 今日のタイトルはちょっと刺激的かなぁ、と思って、ネットで「習近平 不況」で検索してみたら、既に日本経済新聞が以下のような社説を掲載していましたね(日付はネットにアップされた日付なので、紙面に掲載された日付とはずれている可能性があります)。

2022年1月18日:中国は政策不況の根源を直視すべきだ

2022年3月6日:中国は「政策不況」脱却へ方向転換急げ

2023年1月17日:習近平第3期政権は明確な改革意思示せ

2023年4月18日:習近平政権は政策不況を繰り返すな

 去年(2022年)の社説の「政策不況」とは、経済を無視したゼロコロナ政策を批判したものですが、今年(2023年)に入ってからの社説は、ネット企業への締め付け等、経済の活性化に逆行するような習近平政権の方針に対して批判的な見方を示したものです。日本企業の多くは中国経済に大きな影響を受けますので、日本を代表する経済紙として日本経済新聞は習近平氏の「経済に冷たい」政策に「物言い」を付けたいと考えているのでしょう。

 私のこのブログでは、特に今年(2023年)4月以降に明確になってきた中国のマンション・バブル崩壊に起因する経済の低迷について、日本の一般マスコミももうちょっと深刻さを持って報じて欲しい、と何回も書いてきましたが、ここに来て、一般紙でも「中国経済は大丈夫か?」と言ったトーンの報道や評論も目立つようになっています。例えば、朝日新聞は7月18日付け朝刊で「中国の経済 透明さを高め抜本策を」と題する社説を掲載しました。この社説の冒頭の書き出しは「中国の経済が、おかしい。」という直接的な表現になっています。

 ここに来て日本の多くのマスコミが「中国経済は大丈夫か?」というトーンでの報道を強めているのは、この一週間の間に以下のようなニュースがあったからでしょう。

○7月17日、中国国家統計局は2023年4-6月期の実質GDPは昨年同期比+6.3%だったと発表した。ゼロコロナ政策によって上海でロックダウン(都市封鎖)が行われていた時期からの反動が含まれていることを考えると、多くの市場関係者が予想していた数字より弱い数字だった。また、この時の発表で、16~24歳の若年層の失業率が21.3%と前月よりさらに悪化したことが示された。

○7月17日、中国の不動産大手の恒大集団が延期していた2年分の決算を発表した。それによると2021年の最終赤字は1,059億元(日本円で約2兆650億円)、2022年の最終赤字は4,760億元(日本円で約9兆2,820億円)、2022年末の負債総額は2兆4,374億元(日本円で約47兆5,290億円)で、負債総額が保有資産を上回る債務超過となることが明らかとなった。

(参考)日本の旧国鉄の累積債務は37兆1,000億円だった。

 もちろん、中国の不動産市場が「マンション・バブル」のような状況になったのは、江沢民、胡錦濤、習近平の三つの政権の政策によるものであって、全ての責任を習近平氏にかぶせるような言い方は正しくありませんが、少なくとも2014年秋頃をピークとしてマンション価格が下落した局面において(人民元レートの切り下げ等により「チャイナ・ショック」と呼ばれる中国発世界同時株安を招いた局面において)、習近平政権が対処策として「新型都市化計画」「交通インフラ投資の促進」「雄安新区建設プロジェクトの開始」といった「新しいバブルを作ることによってバブルに対処する政策」を採ったことが事態をさらに深刻にしたことは間違いありません(中国のマンション・バブルの経緯については、このブログの2023年4月1日付け記事「中国のマンション・バブルはなぜ重要か」参照)。

 さらに、マンション・バブルの崩壊が明らかになっているのに、現時点(2023年7月22日の時点)で習近平政権が抜本的な対処方針を示していないことに対して、「政権の不作為」という観点で批判が高まりつつあるように思います。上記で紹介した7月18日付けの朝日新聞の社説でも「中国政府の動きは鈍い。」と書いています。

 背景としては、そもそも習近平氏が経済の活性化に熱心ではない、と見られていることが挙げられると思います。毛沢東の文革路線を否定したトウ小平氏は、諸外国との関係を改善して、中国の経済を成長させることを重視していました。江沢民氏も、朱鎔基総理に国有企業改革をやらせたり世界貿易機構(WTO)への参加を実現させたりして、中国経済の急速な成長を促しました。胡錦濤氏は「科学的発展観」を提唱して、「GDP一辺倒ではないバランスのとれた経済成長」を目指しましたが、「経済を成長させる」という方向性には全く変更はありませんでした。

 ところが習近平氏の政権になると「党政軍民学、東西南北中の一切を中国共産党が指導する」という方針の下、民間企業についても中国共産党の指導に従うことを強く求め、ネット企業の巨大化にブレーキを掛けるような政策を採るようになりました。「習近平氏は、経済成長よりも、経済分野に対する中国共産党の支配力強化の方を優先しているようだ」と多くの人が考えるようになったのです。

 こうした見方は、おそらくは中国国内でも広がっているのではないかと思います。7月18日に放送されたテレビ東京 News モーニング・サテライトに出演していたAISキャピタルの肖敏捷氏は「中国の本当の経済再開とは何か」と題して解説していました。肖敏捷氏は、去年(2022年)秋の中国共産党大会で習近平氏の三期目続投が決まり、ゼロコロナ政策が終了すれば、中国経済は回復に向かうと多くの人が考えていたが、実際はそうなっていない、と指摘していました。肖敏捷氏は、党大会が終わっても「習近平による新時代の中国の特色ある社会主義思想」を学習しようという政治運動が続いており、「大物政治家」の摘発が続いいるのを見れば、中国ではまだ「政治の季節」が続いている、「その状況を見て中国の企業家の間に政治の動向がどうなるか様子を見ていることによる『寝そべり(あえて新しい投資をしようとは思わない)』が蔓延している」とも指摘していました。

 肖敏捷氏は「今求められているのは、金利の引き下げとか不動産市場への刺激策とかではない。トウ小平氏が行った1978年12月の第11期三中全会(文革路線から改革開放路線に舵を切った会議)のような大転換である。」と述べていました。私は、率直に言って、日本の視聴者は肖敏捷氏のこのような「勇気ある発言」に最大限の敬意を表すべきだ、と思いました。これは私の想像ですが、肖敏捷氏は「自分の発言は、経済に携わっている中国の多くの経済人の気持ちを代弁するものである」という自負を持って発言されているのだと思います。

 おそらく、習近平政権の内部でも、現下の中国経済の低迷の原因が習近平氏の政策方針にある、という認識は共有されているものと思われます。その証拠の一つが7月14日に打ち出された中国共産党中央と国務院による「民営経済の発展強化を促進するための意見」です(この意見の発出の日付は7月14日ですが、報道されたのは7月19日です)。この「意見」は、習近平政権としても、民営企業の発展は重視していますよ、というメッセージにはなったと思います。しかし、31項目にわたるこの「意見」の中身は、「公平な競争のための政策を全面的に実行する」「市場メカニズムに基づく企業再生システムを構築する」「科学技術イノベーション能力の向上を支援する」など「普通の国」では「当たり前」のことばかりです。一方で「中国共産党による指導を堅持し強化する」などという項目もあり、結局は「何も変わっていない」という印象を私は受けました。市場の受け取り方も同様だったようで、この「意見」が発表されても、上海や香港の株価は全く反応しませんでした。

 たぶん、習近平政権下のエコノミスト官僚たちは、中国の企業家たちの間に「習近平氏は民営企業の活性化を重要視していないのではないか」という懸念が広がっていることを自覚しているので、今回「民営経済の発展強化を促進するための意見」をとりまとめたのだと思います。一方で、習近平氏自身は、現在低迷している経済を活性化させるためにはどうしたらよいか、といった点にはほとんど関心を持っていないように見えます。その証拠の一つが7月20日(木)に開催された中央財経委員会第二回会議です。この会議では、耕地の保護を着実に強化し、農業生産の潜在力を高めていくことが強調されました。農業の強化は、確かに重要な政策であることを否定はしませんが、「中央財経委員会」で議論する案件としては、現時点で中国の企業家たちが関心を持っていることとは相当にズレているだろうなぁ、と私は思いました。

 習近平氏の食糧生産に対する考え方に関連して、今日(7月22日(土))付け産経新聞の7面に「中国、進む食料安保強化 『退林還耕』公園を農地に」という記事が載っていました。この記事を読んで、習近平氏の関心は、経済の発展にではなく、安全保障にあるのだろうなぁ、と私は思いました。中国の多くの経済人も同じような感覚を持っていると思います。なので、おそらくは、今日のタイトルにした「今の中国経済の低迷は『習近平不況』だという認識」は、中国内部の多くの経済関係者の中に広がっているのではないかと私は想像しています。

 上に紹介した産経新聞が書いている「退林還耕」という言葉を最初にネットで見た時、私は大きな衝撃を受けました。なぜなら、胡錦濤政権までは、全く逆の「退耕還林」という政策だったからです。毛沢東時代に「人海戦術」で森林を切り開いて耕作地にした結果、森林が持つ保水作用が失われて国土の乾燥化が進展した、という反省に基づいて、1990年代末から、急斜面に作られた耕作地では、耕作をやめて森林を復活させる「退耕還林」政策が採られてきました。私自身、2008年に寧夏回族自治区へ行った時に見聞きした話をレポートに書いたことがあります。

(参考URL)
サイエンス・ポータル・チャイナ
コラム&リポート-北京便り
【08-008】寧夏回族自治区の「退耕還林」プロジェクト
https://spc.jst.go.jp/experiences/beijing/b080918.html

(注)上記のレポートの筆者はこのブログの筆者です。このレポートには、私自身が撮影した「退耕還林」が進む実態の写真も掲載されています。

 この政策においても、習近平氏は、改革開放時代に進めた政策を毛沢東時代に逆戻りさせようとしていることがわかります。

 習近平氏が「退耕還林」を「退林還耕」に逆回転させようとしているのは、もともとは戦争のような事態に備えた食糧安全保障を強化したいという意図から来ているのだと思いますが、「マンション・バブル崩壊対応」という観点でいうと、次のような意味を含んでいます。

○耕地を農民から収用してマンション用地として売り渡すような地方政府による政策は今後はできる限り抑制する。

○農村における耕地面積を維持し、農業生産を維持するため、農民が都市へ移動することは今後は奨励しない(従って、都市部におけるマンション需要は今後は増加させない方針である)。

 習近平氏自身がどう考えているのかはわかりませんが、私は、このタイミングで(マンション・バブル崩壊が大きな問題になっている現時点で)、中央財政委員会が「耕地の保護の強化」を改めて打ち出したことは、「マンション市場を救うことはしない」というメッセージになったのではないか、と考えています。

 「退耕還林」政策を全く逆方向の「退林還耕」に転換させる方針は、習近平氏からの何の説明もなしに進められています。また、習近平氏が「今は食糧安全保障が大事だから、農民は農業に従事させるべきであって、農民を都市部に移住させることは今後は奨励しない」と考えているのだとしたら、その方針は、習近平政権一期目、二期目で行っていた「新型都市化政策」に全く逆行します。「新型都市化政策」は、農民に都市戸籍を与えて中小都市に移住させようという政策だからです。これら重要な政策の方向性を何の説明もなしに逆方向にしてしまう、という習近平氏の政策実行スタイルは、政策の内容以前の問題として、全ての関係者を戸惑わせ、政策予見性を喪失させ、将来に対する投資をにぶらせることになるので、経済にとっては大きなマイナスです。

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 GDPの伸び悩みや若年層の失業率の上昇が止まらないといった経済指標の相次ぐ発表や恒大集団の決算発表で明示された巨大な負債総額は、中国国内にもかなりの衝撃を与えているようです。テンセント網・房産チャンネルでは、恒大集団の現状に関する解説動画が数多くアップされています。その中にあった「恒大は結局は救済すべきなのか 救済するとしてどのように救済するのか?」と題する解説動画では、恒大集団の現状について「棺桶の中に横たわっているが、まだフタは閉められていない状態」と表現していました。

 日々アップされる解説動画を見ていると、恒大による建設会社への未払い金が巨額に上っている、資金不足により建設工事がストップしているマンション(いわゆる「爛尾楼」)の購入者が住宅ローン返済を拒否している問題は銀行の資金繰りにも影響する、など、不動産企業の問題は中国経済全体に大きな影響を与えていることを説明する解説が多くなってきています。中国の人々もマンション・バブル崩壊が中国経済全体にどのような影響を与えつつあるのかを段々に認識するようになっているのだろうと思います。

 先日見た解説動画には「30年前にマンションを買った日本人は、現在どのような様子なのか?」という日本の状況を紹介する動画もありました(副題には「日本房奴、悲惨30年」とあります。「房奴」とは「マンションの奴隷」という意味の中国の(結構古い)新語です)。この動画では「住宅ローンを払うために65歳以上になっても働かなければならない」「日本では犯罪者の5分の1は高齢者である」「こどもたちは資産価値の下がった住宅を相続したくないため、日本の宅地の20%は所有者不明となっている」などを紹介しています。私が見た時点で既に27万人の人が視聴していました。中国の多くの人々は、現在の中国のマンション市況の状況を日本の平成バブル崩壊と重ねて見るようになっているようです。

 習近平氏が「経済は重視しない」「引き続き自分の権力基盤の強化を図ることを最優先にする」という政策を続けるのはそれで結構ですが、中国国内に「今の中国経済の低迷は『習近平不況』だという認識」がどんどん広がって行っているのだとしたら、どうするおつもりなのでしょうか。既に三期目続投を決めたので、今年の夏は中国共産党の老幹部が集まる「北戴河会議」は開催されないのかもしれませんが、中国共産党の内部でも習近平氏に対する不満が高まることにはならないのかちょっと心配になってきました。

 

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2023年7月15日 (土)

中国のマンション・バブル崩壊を示す具体的な数字

 引き続き中国経済の低迷を示す統計数字の発表が相次いでいます。この一週間では、7月10日発表の中国の2023年6月の消費者物価指数が対前年同月比±0.0%だった、7月13日発表の2023年6月の中国の貿易統計(ドルベース)では、対前年同月比で輸出がマイナス12.4%、輸入がマイナス6.8%だった、といった数字です。一方、こういった経済の低迷を示すデータが相次いでいる中で、「これだけ経済の低迷が明らかなのであれば、中国当局は何らかの景気刺激策を打たざるを得なくなるはずだ。だとしたら、今が経済の底で、これからはきっとよくなるはずだ。」という考え方も成り立ち得ます。

 その証拠にさえない貿易統計が発表された7月13日(木)の上海と香港の株式市場では株価が大幅に上昇しました。この日の株価上昇の要因としては、前日の7月12日に李強国務院総理が中国のネット・プラットフォーム企業の幹部を招いた座談会を開催し、業界関係者との意見交換を行ったことが、中国政府によるネット企業締め付けが終わったことを示すサインだ、と受け取られたことがありますが、それに加えて、この日発表された貿易統計について「これだけ数字が悪いのだから、中国当局は何らかの景気刺激策を講じるはずだ」という期待がマーケットで高まったからだと言われています。

 日本にも同じような見方をする人は多くいます。例えば、7月11日(火)にテレビ東京で放送された News モーニング・サテライトでは、コメンテーターが「中国経済の低迷は今が『底』で、今後打ち出される中国当局による景気刺激策により中国経済が復調することに期待してもよいと思う」と述べたのに対して、池谷亮キャスターは「今はもう十分しゃがみこんだから、あとはジャンプ、ということですね」と応えていました。しかし私はこの感覚は「あまりにお気楽すぎる」と感じています。なぜなら、現在の中国経済の状況は通常の景気の波の上下における「底」ではなく、1990年頃の日本の平成バブル崩壊直後のような「これまで経験したことのない構造的な変化の始まり」を示すものだと考えているからです。平成バブル崩壊後、日本政府が様々な対策を講じたにも係わらず、その後の三十年間、日本経済は低迷を続け、いまだにその低迷状態から抜け出せていないことを考えれば、現在の中国経済の状況が「当局が景気刺激策を講じれば、再び上昇傾向に戻る」と言えるような簡単なものではないことは明らかです。

 日本のエコノミストの中にも、現在の中国経済の状況は「バブル崩壊の始まり」と言ってもよい状況だと考える人も出始めています。例えば、三井住友DSアセットマネジメント・チーフファンドマネージャーの苦瓜達郎氏は、7月9日付けの「日経ヴェリタス」に「1990年代の日本に似てきた中国」、7月11日付けで日経電子版に「バブル崩壊後の日本に似てきた中国」と題する記事を書いています。

 中国の「公式メディア」はもちろん現在の中国経済の状況について「バブルが崩壊した」などとは報じていません。それどころか、2023年6月の数字がドルベースでは輸出も輸入も大幅減だった7月10日発表の貿易統計について、中国中央電視台夜7時のニュース「新聞聯播」では、「2023年1~6月の輸出入総額は人民元ベースの半年間の貿易総額としては史上初めて20兆元を超えた」というプラスの数字の部分だけをピックアップして報じていました。一方、マンション市場に関心を持つ一般の人々が参考にしていると思われるテンセント網・房産チャンネルにアップされている解説動画には、極めて具体的な数字を挙げて現状分析をしているものがあります。例として、最近私が見た解説動画を以下に二つ紹介します。いずれも不動産の専門家の王波という人の解説動画です。

○2023年6月20日アップ「なぜ爛尾マンション(建設工事が途中でストップして完成しないマンション)を買った人は住宅ローンの返済をやめられないのか」

・最近、法拍房(裁判所によって競売に出されるマンション)の件数が激増している。具体的には、アリババのプラットフォーム上で売りに出される法拍房の数は、2017年には5,000に過ぎなかったが、2018年には20,000件、2019年には5万件、2021年には162万件になり、2022年には200万件になった。

※王波氏は、この動画の中で、アメリカでは銀行が住宅ローンを組むとき、対象となる住宅を担保として設定するので、金融危機などで、ローンを組んだ人が返済不能に陥り、かつ住宅の価格が極端に下がった場合には、銀行も損失を蒙ることになる(銀行もリスクの一部を負担している)。これに対し、中国の銀行は、例えば、住宅ローンの対象となるマンションで建設工事が途中でストップして完成しない状況(いわゆる「爛尾楼」)になったとしても、銀行はローン設定者に最後までローン返済を要求する権利を有している(即ち、中国の銀行はリスクを負わない)ので、ローン設定者は他の財産を売り払ってでも住宅ローンを返済する必要に迫られる。従って、住宅ローンを組んでマンションを購入する場合には自分の資産状況等を勘案して慎重に検討する必要がある、と解説していました。

○2023年7月10日アップ「今年下半期のマンション市場の趨勢 市場はまだ底を探る必要があるのか?」

・私(王波氏)は最近よく次のような質問を受ける。

「今後のマンション価格は『ネギのように』(如葱)なるのか?(下記注1)」

「マンションを買った人は、落とし穴に落ちることになるのか?」

「マンションを持っている人は今すぐにでも売るべきなのか?」

 これらについて考えていることを解説する。

・大手不動産企業の万科の郁亮氏は「中国のマンション販売総額は18兆元が上限で12兆元が下限だ」と語ったとされている。今後18兆元を超えるのは無理だろう。一方、10兆元程度の市場規模は一定期間は維持されると考えられる。しかし、マンション市場の「熱狂の時期」は既に終わった(下記注2)。

・以下、具体的に一線都市(北京、上海、広州、深セン)と主要な二線都市(武漢(湖北省)、長沙(湖南省)、重慶(直轄市)、成都(四川省)、南京(江蘇省)、杭州(浙江省)、鄭州(河南省)、西安(陝西省)、済南(山東省)、青島(山東省))について見てみよう(下記注3)。

 2023年上半期の一線都市における新築マンション平均価格は以下の通り。

北京:対前年同期比+1%、44,748元/平方メートル

広州:対前年同期比+0.04%、24,652元/平方メートル

上海:対前年同期比-1%、51,171元/平方メートル

深セン:対前年同期比-13%、60,348元/平方メートル

 2023年上半期の一線都市における中古マンション平均価格は以下の通り。

北京:対前年同期比+2%、75,065元/平方メートル(下記注4)

広州:対前年同期比 0%、39,749元/平方メートル

上海:対前年同期比+4%、63,178元/平方メートル(下記注4)

深セン:対前年同期比-4%、64,179元/平方メートル

 主要な二線都市の2023年上半期の新築マンション価格は、長沙、成都、南京、杭州、西安は1%上昇し、武漢、重慶、成都、済南は1%下落した。青島は0.18%のわずかな下落だった。しかし、鄭州は9%下落した。

 主要な二線都市の2023年上半期の中古マンションの価格動向は以下の通り。最も安定していたのが成都であり、最も下落したのは鄭州である(下記注5)。

成都:対前年同期比 0%、18,811元/平方メートル

鄭州:対前年同期比-12%、15,604元/平方メートル

武漢:対前年同期比-5%、17,953元/平方メートル

以下、対前年同期比だけ見ると、青島が-4%、重慶が-4%、南京が-3%、西安が-2%、済南が-1%、杭州が-1%である。

・現在マンションを購入しているのは、実際に住む場所を必要としている人と収入が増えたりして住み替えをしようとしている人、それに少数の投資目的購入者である。

・もし今後強力な景気刺激策が打ち出されなければ、今年下半期の経済を救済することは極めて難しいと考えられる。

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(注1)

 「マンション価格が『ネギのように(如葱)なる』」の「如葱」は辞書には載っていません。「マンション価格が白菜のような価格になる」という表現はよく聞きますが。ネットで調べると、2017年頃、アリババの創業者の馬雲(ジャック・マー)氏がある会合で「8年後、マンション価格はネギのようになる」と言ったということで、そろそろその「8年後」が近づきつつある昨今、本当に馬雲氏の「予言」通りにマンション価格は「ネギのように」なるのか、というのがネット上で話題になっているようです。

(注2)

 動画ではハッキリとは言っていないのですが、この部分は「今後も中国では一定規模のマンション需要が続くと考えられるが、そのレベルはこれまで不動産企業が考えていた最低限の市場規模より下のレベルだ」と言いたいのは明らかです。

(注3)

 中国において新築マンションより中古マンションの方が価格が高いのは、

(1) 中国の場合、新築マンションはコンクリート打ちっぱなしの状態で販売され、購入者が自分の好みに応じて内装工事を行うのが普通なので、内装工事が終わった中古マンションの方が高くなる場合がある。

(2) 過去に建設されたマンションの方が都市の中心部の便利な場所にあることが影響している可能性がある。

(3) 新築マンションには、完成前のマンションについて購入契約を結んだ例が含まれる。中古マンションの場合は確実に既に完成しているので、最近問題になっている「爛尾楼」(建設工事が途中でとまっていつまでも完成しないマンション)の問題が影響して、「中古マンションの方が新築マンションより安心して買える」という心理が影響している可能性がある。

 なお、「中古マンション価格が新築マンション価格より高い」という状況は2016年頃までの一時的なマンション市場の冷え込みの後に出現した現象のようです。現在までの「中古マンションの価格は新築マンションより高い」という状況は、新築マンションを買って保持すれば、そのうちに新築マンションより高い価格で売れる、という心理を生んで、マンション市況を過熱させた一つの要因でもあったようです。現在の状況(大量の中古マンションが売りに出されている状況)を踏まえて、今後は常識的な状況である「新築マンション価格>中古マンション価格」になれば、「新築マンションを買えば黙っていても価値が上がる」という状況ではなくなるため、新築マンションの売れ行きは今後は伸びない、という見方も広がっているようです。

 また、対前年同期比の数字については、昨年(2022年)上半期は「ゼロコロナ政策」の真っ最中であり、特に上海では4~5月は完全な「ロックダウン(都市封鎖)状態」だったことを考慮する必要があります(ちなみに、2022年4月の上海での新車販売台数はゼロ(全く売れなかった)でした)。

(注4)

 現在の為替レートを1元=19.5円だとし、標準的な家族世帯が住むマンションを70平方メートルだとすると、その広さの中古マンション価格は北京が1億246万円、上海は8,624万円ということになります。なお、中国のマンションの面積表示は、共用スペースも含めた面積を入居戸数で割って算出するので、同じ平方メートル表示でも中国の場合は日本より10~15%程度狭いことを考慮する必要があります(つまり、日本の同じ平方メートルのマンションと比較するのだったら、中国のマンションは上の日本円表示の価格より10~15%高いと考える必要がある)。

 実際に住んだ経験で言うと、すぐ近くにJRや地下鉄の駅があり、スーパー、コンビニ、薬局がある、晴れた日の空は澄んだ青い空、ネットで何を書き込んでも捕まる心配がない、という東京と北京とを比べると、70平米で1億円以上するというマンション価格は私にとっては「話にならないとんでもない価格」だと感じます。なお、現在の北京の地下鉄の最低料金は3元(約60円)、北京のタクシー最低料金は20元(約400円)以下です。

(注5)

 二線都市がこういう状況であることを考えれば、もっと小規模な(=需要が少ない)三線都市、四線都市ではもっと価格が下落していることは容易に想像できます。

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 上に紹介した王波氏の解説動画「なぜ爛尾マンション(建設工事が途中でストップして完成しないマンション)を買った人は住宅ローンの返済をやめられないのか」(6月20日アップ)は私が閲覧した7月13日の時点では「52万人が視聴した」と表示が出ていました。中国中央電視台等の公式メディアが「現在の中国経済は穏やかに回復している」などと報道していても、中国の人々は現在の中国経済の状況をよく知っていると思います。

 上の具体的な数字を見ればわかるように、「中国の全国各地でマンション価格が暴落している」というわけではないので、「中国でマンション・バブルが崩壊した」という表現は正しくない、という見方もあろうかと思います。しかし、中古マンションの売り出し数が急増している、中古マンションの販売成約数が激減している、といった状況を考えれば、また、累次ご紹介しているマンション市場の現状を解説する「解説動画」の内容を見る限り、現時点で既に中国においてマンション・バブルの崩壊が始まっていることは明らかです。中国におけるマンション・バブル崩壊の進行は、経済面だけでなく、政治的にも世界に大きなインパクトを与える可能性がありますから、日本の一般マスコミももっと現状の深刻さを認識した上で報道して欲しいと思います。

 今まで長年にもわたって「中国のマンション・バブルは崩壊する」と言われながら、毎回「何とかなってきた」ので、今回も「何とかなるだろう」という見方もあるかもしれませんが、私は中国共産党と中国政府の機能が完全に硬直化してしまった習近平氏三期目体制では、現在進行中の危機的状況に対しては適切な対応はできないのではないかと危惧しています。とりあえず、7月末の中国共産党政治局会議で何らかの具体的かつ効果的な対応策が打ち出されるかどうかが注目されます。

 

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2023年7月 8日 (土)

何も言わない皇帝を忖度(そんたく)する官僚たち

 最近の習近平政権の政策について、私は「迅速な具体策が出てこない」「各種対応がチグハグで方向性がはっきりしない」「政府高官の発言に『非常識』なものが多い」と感じています。具体的に書くと以下の通りです。

○マンション・バブル崩壊に伴う経済の低迷に対する対応策が出てこない(0.1%の利下げといった小粒の対症療法的対応しか出てこない)

○習近平氏自身がマイクロ・ソフトのビル・ゲイツ氏と対等なスタイルで会談する一方、ブリンケン国務長官との会談では「皇帝が臣下と会うようなスタイル」で会談した→経済面でアメリカと協調したいのかどうかサッパリわからない。

○李強総理が夏季ダボス会議で中国経済の対外開放の促進と諸外国との経済的協力関係の強化を訴える一方、「人民日報」や「新聞聯播」では、連日のように反米・反日キャンペーンを行っている→日本やアメリカとの経済関係を強化したいのかしたくないのかサッパリわからない。

○河野洋平元衆議院議長・玉城デニー沖縄県知事らと李強国務院総理が会談して友好的な雰囲気を作った翌日、習近平氏は人民解放軍東部戦区を視察して「実戦的軍事訓練に大いに力を入れ、勝利する能力の向上を加速する必要がある」と語った→アジア諸国と友好関係を築きたいのか強硬姿勢で突っ張る方針なのかサッパリわからない。

○外交担当トップの王毅中国共産党共産党政治局員が日中韓の関係者が参加した会合で「(中日韓の人は)頭を金髪に染めても鼻を高くしても、西洋人にはなれない」「欧米人は中日韓の区別が付かない」「われわれは自分たちのルーツがどこにあるのか知るべきだ」と述べた→日本での滞在経験も長いベテラン外交官の言葉としては非常識過ぎる(「日本も韓国もしょせんは中国の子分だろ」という考え方がミエミエ)。

 上の件に象徴的に現れていますが、習近平政権の十年間を見てきて感じるのは、以下の諸点です。

☆中国の今後に大きな影響を与える具体的な政策については習近平氏自身は判断を示さない

例1)2019年6月に始まった香港でのデモに対して習近平氏が明示的な判断を明言しないまま2020年6月の全人代常務委員会で香港国家安全維持法が制定された。

例2)「ゼロコロナは断固として維持すべき」と言い続けてきた習近平氏が何も言わないまま、2022年12月7日、「国務院新型コロナ感染症対応防疫コントロール総合グループ」が実質的に「ゼロコロナ政策」を撤廃する通知を行った。

☆対外関係では「シッポを振って関係改善を求めてくる相手には寛大な姿勢を示すが、そうでない相手は冷たくあしらう」(つまり、「三跪九叩頭の礼」をしてくる朝貢国には恩恵を与えるが、そうではない国とは関係を拒否するというかつての中華帝国皇帝の発想で対応する)

☆具体的政策について何も言わない習近平氏に対し、各担当の官僚たちが自分たち自身の考えに基づいて習近平氏が考えているであろう方向性を「忖度」した言動をするので、時として外から見ると中国政府の対応がチグハグに見えたり非常識に見えたりする。

 このような状況を見ていると、習近平氏がトップをしている中国共産党及び中国政府は、組織として機能不全に陥っている可能性がある、と思えてきます。

 この感覚は私は以前からずっと持っていました。今、改めて、このブログの過去の記事をチェックしてみたら、「機能不全」という文言をタイトルに入れた記事は以下の5つありました。

2021年10月9日付け記事:中国国内の行政が機能不全に陥っていないか

2022年3月19日付け記事:習近平政権は機能不全に陥りつつあるように見える

2022年10月22日付け記事:習近平氏三期目で中国政府が機能不全となる可能性

2022年12月17日付け記事:中国政府機能不全と非習近平色の中央経済工作会議

2022年12月30日付け記事:中国共産党政権下の行政機能不全が世界のリスクへ

 私は「中国共産党及び中国政府が組織として機能不全に陥っているのではないか」という懸念は、アメリカも持っているのではないかと推測しています。アメリカのバイデン政権は、議会や世論における対中強硬姿勢に配慮して、具体的な政策では中国に対抗する様々な政策を打ち出していますが、一方で、先にブリンケン国務長官を訪中させ、直近ではイエレン財務長官を訪中させるなど中国政府との意見交換を積極的に行っており、習近平氏との首脳会談の実現へ向けて動いています。これは、習近平政権が国内政策でコケたり(例えば、マンション・バブル崩壊が中国国内の金融システム不安を引き起こす、など)、合理的な判断力を失って暴発したり(例えば、予想外のタイミングで台湾の武力侵攻を始める、など)するとアメリカ自身も困るので、できるだけ中国国内の関係者とのパイプを太くしておいて、不測の事態が起きないようにしたい、とバイデン政権が考えているからではないか、と私は推測しているのです。

 特に、ブリンケン国務長官に続く高官の訪中者が通商関係でも軍事関係でもなくイエレン財務長官だった、という点は、バイデン政権がマンション・バブル崩壊に伴う中国の金融システム不安を懸念している表れではないか、と私は見ています。中国は日本に次ぐ世界第二位のアメリカ国債保有国ですから、中国で金融システム不安が発生したら、それは直接的にアメリカ自身の問題に跳ね返ってきますからね。イエレン氏は、経済学者で、前のFRB(連邦準備制度理事会)議長だというのも国務長官に続いて訪中するアメリカ政府高官として選ばれた理由だと私は思います。

 中国政府が機能不全に陥っているのではないか、という感覚は、中国国内の人々も持っている可能性があります。7月4日(火)に放送された日経CNBCの昼エクスプレスの中で楽天証券研究所客員研究員の加藤嘉一氏は、三年半ぶりに中国に出張して感じた現地の感覚として、中国の多くの人が習近平氏が具体的にどのような政策を出してくるのか様子見をしている雰囲気が充満していた、と語っていました。

 習近平政権の一期目と二期目は李克強氏が国務院総理をしていたので、習近平氏がトップをしていても、具体的政策については李克強氏がうまく取り繕ってくれるだろうという思いもあったのですが、李克強氏が政権からいなくなった今、具体的政策を企画立案するのは誰なんだろう、という思いは、中国内外の多くの人が抱いている感覚だと思います。

 現在の中国経済は、マンション・バブル崩壊が進行中で、若者の就職環境も厳しい状況です。こうした中で、仮に「習近平政権下の中国政府は機能不全だ」との感覚が中国国内で広がったら、これはゆゆしき事態だと思います。一刻も早く、政府全体の方向性をビシッと示す「所信表明」が行われて、その方針に基づく具体的な政策群を打ち出す必要があると思います。(例えば、「共同富裕」というようなイメージ先行のスローンが語られる一方、それを具現化する具体的な政策が何も出てきていない、という点が中国の人々を「様子見」にさせている根本的な原因だと私は思っています)。

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 7月になってテンセント網・房産(マンション)チャンネルのトップページのニュースの更新が止まりました。いつかはこうなると思っていました。人民日報ホームページの房産チャンネルは、2021年4月頃からニュースの更新が滞りはじめた後、8月末をもってチャンネル自体が消滅してしまいましたし、民間のマンション関連ニュースサイトとして見ていた中国網の房産チャンネルも2022年6月頃からニュースの更新が滞るようになりました。マンション市場の状況が困難になる中、当局がニュース・サイトに対する締め付けを強化しているのは明らかです。

 その中でテンセント網・房産チャンネルはホットな情報が頻繁にアップされるので私は毎日のように見ています。テンセント網・房産チャンネルは、現在はトップページ(首頁)の記事は6月末のものから更新されていない状態になっていますが、「資訊」(日本語で言えば「情報」)のページには最新のニュースや解説動画が載っているので、今日(2023年7月8日(土))の時点では実質的な不便は感じていません。

 今日見たテンセント網・房産チャンネルの「資訊」の記事の中で目に付いたのは「マンションをタダであげます!」という話でした。ある人がSNSで「私のマンションをタダであげます」という書き込みをしたことが話題になっているという話です。「マンション価格は今後下がりそうだし、住宅ローンを返済し続けるのはツラいので、私のマンションをタダであげるから、今後の住宅ローンの返済はお願いします」というような書き込みだったようです。「ついにマンションをタダであげる時代になったのか」という記事もありました。

 解説動画の中には「既にマンションに対する熱狂の時代は終わった。コロナ禍と『三道紅線』(三つのレッドライン:借金体質の不動産企業に対する融資規制)で時代は変わったのだ。我々は若年層失業率が20%、これから人口が減少する時代を生きている。」といった内容のものもありました。

 こういうような内容のネット記事や解説動画を人々に見せたくない、という中国当局の考え方もよくわかりますが、こういったネットを規制しても問題は何も解決しないと思います。多額の財産をつぎ込んで購入したマンションの価値が今後どうなるかわからない、という不安を持ち始めた中国の人々の気持ちを力づくで抑え込むようなやり方はむしろ逆効果だと私は思います。

 こういったネットのサイトに対する規制についても、おそらくは検閲担当の係官は、自分がどういう方向でどの程度の厳しさでネットの規制をやったらいいかよくわかっていない(担当部署によって方針が統一されていない)のが現状だと思います。「何も言わない皇帝を忖度する官僚たちによって運営される機能不全の政府」のボロは、検閲部門で真っ先に表面化してくるのかもしれません。

 

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2023年7月 1日 (土)

人民元安と資産流出が続いているが対策は出ない

 中国の通貨・人民元の対米ドルレートがジリジリと人民元安の方向に動いています。日本円の円安も進行中ですが、人民元安のスピードの方がやや速く、日本円対人民元では、若干ながら「円高・人民元安」の方向に動いています。昨日(2023年6月30日(金))の時点では1ドル=7.27人民元となっており、2019-2020年の水準を超え、「ゼロコロナ」の最中だった2022年10月頃の人民元最安値(1ドル=7.375人民元)に迫っています。

 人民元安の理由は、基本的には、欧米各国がインフレ対応のために急速な利上げを行っている一方、中国では「ゼロコロナ」解除後の経済回復が進んでおらず、中国人民銀行が利下げの方向に金融政策を動かしているため、金利差拡大によって人民元が売られる傾向が強いからです。さらに、マンション・バブルの崩壊が明確となり、諸外国から中国に流入していた資金が流出するとともに、中国の富裕層なども中国経済の将来を悲観して資産を外国に移していることも原因のひとつと思われます。後者はキャピタル・フライト(資産流出)と呼ばれますが、将来的にも人民元安が続くという見方が定着すると、人民元を売って外貨を買って外国の資産を買おうとする動きが活発になるので、さらに人民元安圧力が強まる、という「負のスパイラル」に陥る危険性があります。

 ここのところ日本の株価が非常に高くなっていますが、これは諸外国の投資家がアジアに振り向けている資金のうち、中国に投資していた分を日本に振り向け直しているのもひとつの要因だ、という解説がなされています。また、ここのところ東京周辺でマンション価格が非常に高止まりしているのも、中国に投資していた外国人投資家や中国の富裕層が中国国内におけるマンション・バブル崩壊の状況を踏まえて、資金を日本に振り向けているからだ、という見方もなされています。

 6月18日(日)付けの経済投資専門週刊紙「日経ヴェリタス」30面に「不動産熱冷めぬシンガポール」と題する記事が載っていました。この記事によると、6月5日にシンガポール政府が突然180年を超える歴史を持つシンガポール唯一の競馬場「シンガポール・ターフ・クラブ」を閉鎖すると発表したとのことですが、これは、シンガポールでは不動産市場が過熱しているため、競馬場を閉鎖してできる120ヘクタールの跡地を不動産開発用地として活用する計画のためなのだそうです。

 この記事では、シンガポールの不動産市場の過熱は、投機によるものではなく、実需に基づくものなので、少々の不動産開発用地の供給増加では効果が出ないのでは、との見方を紹介しています。中国本土や香港の富裕層のシンガポールへの移住希望者が多いことが背景にあるようです。シンガポールは、中華系、マレイ系、インド系などの住民が入り混じった国際都市国家ですが、住民の9割は中華系だと言われています。私もシンガポールへ行ってタクシーに乗ったとき、タクシーの運転手さんに私の中国語が通じて感激したことを覚えています。中国の富裕層にとっては、おそらくシンガポールは非常に親近感のある住みやすい国だと感じるのでしょう。

 中国国内でマンション・バブルが拡大している間は中国国内に資産を増やすチャンスはたくさん転がっていたのだと思いますが、中国国内のマンション・バブル崩壊が明確になっている現状においては、中国の富裕層はシンガポールや日本やその他の諸外国に資産を移す動きを加速させているのだと思います。

 これらの状況に対して、習近平政権は、一向に対応策を打ち出す気配を見せていません。昨日(2023年6月30日(金))、中国共産党政治局会議が開催されたので、何か経済関係の政策が打ち出されるかなぁ、と期待してニュースを見ていたのですが、今回の会議で議題になったのは、現在進行中の雄安新区開発プロジェクトに関するものでした。私は「中国共産党政治局会議」とは政策の基本方針を議論する会議だと思っているのですが、そこでこういう個別プロジェクトに関する議論がなされた(=政策の基本方針に関する議論がなされなかった)ことにいささかがっかりしました(「中国共産党政治局会議」は、基本的に毎月一回月末に開催されるのですが、2023年の1月と5月は開催されなかった(あるいは開催されたけれども開催されたことが報道されなかった)こともあり、私は「習近平氏が三期目続投を決めてから、政治局会議の機能が低下したように見えるなぁ」と感じています)。

 先日、コロナ禍によりここ数年は開催が見送られていた世界経済フォーラム夏季会合(いわゆる「夏季ダボス会議」)が天津で開催されました。李強総理が出席してスピーチをしたので、ここで何か目新しい政策方針などが示されるのかなぁ、と期待していたのですが、この会議でも、李強総理は、3月の全人代で示された5%前後という今年(2023年)の経済成長を達成することに自信を示したものの、その根拠は明示せず、現在進行中のマンション・バブル崩壊に対する対応策も何も明らかにしませんでした。

 先ほどちょうど十年前の2013年7月頃のこのブログの記事を読み返したのですが、十年前、即ち、習近平政権が正式に発足した年の夏には、実に様々な具体的政策が打ち出されていました。以下のような諸点です。

・経済のバブル化を避けるため、国外からの投機マネーの流入を抑制するために「偽装輸出」を厳しく取り締まる。

・銀行金利の自由化のためにそれまで設けていた銀行貸出金利の下限を撤廃する。

・上海自由貿易試験区を設立する。

・都市間鉄道、都市郊外鉄道、資源開発用鉄道について、地方政府と民間資本に開放し、これらの鉄道の所有権と経営権を認める。

 特に最後の鉄道改革は、解放前の中国が外国資本により主要鉄道を押さえられていた(例えば日本が南満州鉄道を掌握していた)という経験を踏まえて鉄道は国有とすることを原則としてきた中華人民共和国にとっては、画期的な改革だと私は考えていました。しかし、十年経過した今、民間資本が所有したり経営したりしている鉄道があるとは私は聞いていないので、この改革は結局は「掛け声倒れ」に終わったようです(別の言い方をすれば、この改革を主導した李克強氏は、巨大利権集団化している中国政府の鉄道部門という「岩盤の既得権益グループ」を突き崩すことができなかった、ということです)。

 その後順調に改革が進んだかどうかは別として、少なくとも習近平政権の一期目の初期段階である2013年7月頃には、世界の人々が驚くほど様々な改革メニューが次々と打ち出されていたことが思い出されます(だからこそ、世界の多くの人々は、当時の中国の経済政策を国務院総理の李克強氏の名を借りて「リコノミクス」ともてはやしたのでした)。

 それに比べると、国務院総理が李強氏に交代した習近平政権の三期目は、新しい政策が驚くほど何も出てきていません。マンション・バブル崩壊が始まってしまった、という点で、現在(2023年)の方が十年前(2013年)よりも経済を巡る状況が格段に悪いにも係わらず、です。

 十年前のこのブログの記事を読み返して思い出したのは、当時の国務院総理だった李克強氏や中国人民銀行総裁だった周小川氏は、上に書いたような様々な改革を実行に移していた一方、習近平氏の方は「ぜいたく禁止令」とか「人民解放軍の文芸関連部署の人員が地方のテレビ局の『のど自慢』の類の番組に出演するのを禁ずる」とかいうことでしか目立っていなかったので、当時の私は「実際の政策は李克強総理が取り仕切っている」というイメージを持っていた、ということです。この当時(2013年7月頃)は、元重慶市党書記の薄煕来氏に対する裁判が進行中で、習近平氏はこちらの方面で多忙だった、という面があったのかもしれません。ただ、改めて感じるのは、習近平三期目政権では、李克強元総理や周小川元中国人民銀行総裁のような国際的にも「切れ者」と思われるような経済政策の実行者が見当たらないなぁ、ということです。

 マンション・バブル崩壊が明確になっている現状において、具体的数字として対ドルでの人民元安がジリジリと進行し、どうやら中国の富裕層などによる中国からの資産流出が起きているらしい、と見られる状況に対して、習近平政権が何も対応策を打ち出していない(打ち出そうという気配すらない)というはかなりマズいと私は思います。特に、「中央政府での経験がなくて大丈夫か」と心配されていた李強総理については、うまくいくかどうかは別にして、何か対応策を打ち出さないと、「やっぱり経験不足で具体策は何もできないようだ」と内外から思われてしまいかねません。

 毎年、7月末の中国共産党政治局会議では、その年後半の経済政策について議論されることが多いので、今月末の政治局会議までには具体的な経済政策が打ち出されることに期待したいものです。データ面では、現在進行中の人民元安がこれからもジリジリと進むのかどうかに注目すべきだと思います。具体的に言えば、中国では「ゼロコロナ」による経済停滞の底、かつ、利上げ予想で米ドル高のピークだった(円安もピークだった)去年(2022年)10月の最安値1ドル=7.375人民元を超えて人民元安が進んでしまうようなら、中国からのキャピタル・フライト(資産流出)が本格的になると考えて警戒を強める必要があると思います。

 

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