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2023年6月24日 (土)

中国のマンション・バブル崩壊が進行中

 この火曜日(2023年6月20日)、中国人民銀行は事実上の政策金利と言われる「最優遇貸出金利(LPR)」の一年物を0.10%引き下げて3.55%にしました。この利下げをNHKでは「不動産市場の低迷など景気の回復ペースが鈍るなか、利下げで需要を刺激する狙いだ。」と伝えました。各報道機関も同様の報道の仕方ですが、どこも「中国ではマンション・バブルの崩壊が始まったので」という表現はしていません。表現が刺激的だし、「何をもってマンション・バブルの崩壊が始まったのか」を断言できるかが明確ではないからです。ただ客観的に言えば、中国において「日本における平成バブルの崩壊またはそれを上回る不動産市場の資産価値下落の連鎖が始まっている」のは間違いありません。

 現在の中国の経済状況において「0.1%の利下げでは足りない」「財政出動などその他の景気刺激策が何も出てきていない」ということで「物足りない」として、中国の利下げ発表後、世界各国では株価が下落しました。今日(2023年6月24日(土))付け日本経済新聞朝刊の19面では、昨日(6月23日(金))の東京株式市場での株価下落について「日経平均、一時600円超安 中国景気の悪化懸念 嫌気」と題して書いています。この記事の中で、専門家による「中国経済が思うほど上向かず、景気不安の『チャイナ・リスク』が意識された感は否めない。」というコメントを紹介しています。これは私には「奥歯に物が挟まったようなコメント」のように聞こえます。私は現在の中国の不動産市場の状況は既に極めて明確なものになっており、一時的な景気後退ではなく、構造的で長期的な「巨大バブルの崩壊の始まり」と言えるものであって、日本の平成バブル崩壊が日本に「失われた十年」「失われた二十年」をもたらした以上のインパクトを中国の経済社会に与えるものだと考えています。

 現在は、資産としてマンションを保有している家計が将来の値下がりを懸念して中古市場にマンションを売り出す一方、不要不急の消費を抑制して、中国全体の消費が低迷している段階です。各地の地方政府がマンション市場での「安売り禁止令」を出しているために統計上に現れるマンション価格の下落幅はまだ小さいのですが、市場の状況を反映したマンション価格が定着するようになれば、多くの企業が資産として抱えているマンションやその他の不動産の資産価値が下がっていることが帳簿上表面化し、各企業の資金繰りの自由度に制限が掛かるようになる「バランス・シート不況」の段階に進みます。「週刊東洋経済」最新号(2023年6月24日号)の「ニュースの核心」の欄でコラムニストの西村豪太氏は「ピークチャイナ後に中国経済は日本化するのか」と題する文章を書いていますが、西村氏はこの中で中国がかつて日本が経験した「バランスシート不況」を迎えようとしているのではないか、と指摘しています。

 私がマンション・バブル崩壊が重要だと考える理由は、2023年4月1日付けのこのブログの記事「中国のマンション・バブルはなぜ重要か」で書きました。それに加えて今回指摘したいのは次の点です。

 ひとつは、中国のマンション・バブル崩壊はその規模からして日本の平成バブル崩壊をしのぐ大きさである上に、それ以上に中国の政治システムがこれまで経験したことのない経済的危機に対応するだけの政治的柔軟性を持っていない、ということです。日本の平成バブル崩壊は日本の政治における「五十五年体制」の終焉、即ち1990年代の細川内閣(非自民連立内閣)の誕生をもたらしました。細川内閣に対する評価は様々だと思いますが、少なくとも言えるのは、日本は民主主義制度下にあり、危機に直面した際のひとつの選択肢として「政権交代」を選択できるという政治的柔軟性を持っていた、ということです。極めて硬直的な政治制度の中国において、政治的に危機に対する柔軟な対応ができるかどうかは極めて疑問です。

 1853年に黒船が来た時、その当時の江戸幕府は経験したことのない危機に直面して、藩や身分の枠を超えて幅広く多くの人々から建白書を募りました(そして目を引いた建白書を提出した無役の旗本だった勝海舟(当時31歳)を抜擢したのでした)。それでも江戸幕府は危機を乗り切れずに崩壊してしまったわけですが、現在の中国の習近平政権は幕末期の江戸幕府が持っていた程度の柔軟性すら持っていない点が非常に懸念されます。

 もうひとつは、マンション・バブル崩壊に伴う総需要の減退と各企業のバランス・シート悪化に対応して、中国共産党が強制的総需要の創出と全経済の強権的管理のために戦争を開始するというオプションが現実問題としてあり得るという点です。「台湾への武力侵攻」の可能性が存在しているからです。習近平氏の目指す最も重要な最終目標が「中国人民の幸福の向上」ではなく「自分がトップとなっている中国共産党による支配の維持・強化」なのであれば、「戦争の開始」は十分に選択される可能性のある政策オプションだと言えます。

 私の印象では、日本の中には中国のマンション・バブルの崩壊が既に始まっている状況がまだ「本気度」を伴って伝わっていないように思えます。現在の状況を示すために、最近、テンセント網・房産チャンネルで見たいくつかの記事の見出しを書いておきます。

○「価格を下げてもマンションを売れない中年の人:マンションによる利益を上げられない、のではなく、マンションによって損をした最初の世代」(6月19日アップ)

 この記事では、値下げしてもマンションが売れなくて、損失を出した人の実例をいくつか紹介しています。

○「中央財経領導小組弁公室前副主任が不動産市場の低迷について語る:変革しなければ金融危機を引き起こすだろう」(6月18日アップ)

 この記事では、6月17日に行われた第45回清華大学中国と世界の経済シンポジウムの席上、全国政治協商会議委員で前中央財経領導小組弁公室副主任の尹艶林氏が語った内容を報じています。尹艶林氏は、次のように語ったとのことです。

「マンション市場が経済に与える影響は決して軽視してはならない。マンション市場の低迷は次のような一連の問題を引き起こすからである。即ち、川上・川下の産業の市場回復を制約するだけでなく、貨幣の流動性の喪失によって実態経済に向かう流動性のチャンネルを失わせ、地方政府の債務問題を悪化させ、『灰色のサイ』の問題を『ブラック・スワン』に変化させるリスクを増大させるからである。」

(注)「灰色のサイ」は「普段その存在は皆が知っているがそれほど問題視してないことが突然暴れ出して大変なことになる事態」、「ブラック・スワン」は「滅多に起こらないと思われるが起こると大変なことになる事態」のことで、ともに経済バブル崩壊や金融危機など経済的な危機に関する表現です。

 尹艶林氏のような中国共産党の政策検討の中枢にいるエコノミストがこのような強い危機感を持っていることは重要なことだと思います。問題は、こうしたエコノミストたちの意見をきちんと聞いて、習近平氏が「正しい政治判断」をするかどうか、です。このブログで何回も指摘しているように、土地使用権売買と土地開発業者に対する国有銀行の融資決定は、中国共産党地方幹部の「権力行使」に係わる「メシの種」ですので、エコノミストたちの進言を聞き入れて抜本的な対策に切り込むためには、中国共産党という利益集団自体の体制にメスを入れる必要があるので、習近平氏が根本まで切り込んだクリアカットなバブル崩壊対応策をとれるかどうかは予断を許しません。

 世界のマーケットでは、現在の中国経済の低迷について、まだ「いつもある経済の上昇と低迷の波の一つであって、中国共産党は今までと同じように何らかの刺激策を講じて、ほどなく中国経済を上昇基調に戻すことはできるはずだ」と考えている人が多いと思います。しかしながら、私は現在の中国の状況は「既にマンション・バブルの崩壊が明確に始まった状況であり、日本の平成バブル崩壊と同じような構造的で不可逆的な変化が起きつつある状況である」と考えています。中国の場合、こうした経済的不可逆変化が大きな政治的変動を引き起こす可能性が大きいので、今回も改めてマンション・バブル崩壊について書かせていただきました。

 

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