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2021年8月14日 (土)

チャイナ・マンション・ショックに対する備え

 日本経済新聞はここのところ連日のように中国不動産バブルに対して警鐘を鳴らす記事を掲載しています。今日(2021年8月14日(土))付け朝刊の12面には「中国不動産に淘汰の波 オフィス空室率、コロナで高止まり」と題してオフィス空室率が上昇し、市況が悪化していることを伝えています。

 このブログでも毎週のように中国マンション・バブルが危機的状態になっていることについて書いてきました。今まで何回も「中国バブルはまもなく崩壊する」と書いておきながら実際には崩壊はしてこなかったので、おそらく多くの人は「またまたオオカミ少年が騒いでいる」と受け取ると思いますが、私は「今回は違う」と感じています。ひとつは経済を観察するプロである日本経済新聞が連日のように警鐘を鳴らす記事を掲載していることと、ネットで見る中国国内の不動産関連のニュースを見ても「ただならぬもの」を感じるからです。

 今日付の日経新聞では、上記の記事と同じ面に「中国恒大、財務改善急ぐ EV関連資産の売却検討」という記事も載っています。財務不履行懸念が高まっている中国恒大集団が傘下の電気自動車メーカー等に関する資産を他者に売却する検討に入った、という記事です。マーケットには「中国共産党は、2022年2月の北京冬季オリンピック・パラリンピック、秋の中国共産党大会を控えて、経済バブルを崩壊させるわけにはいかないので、恒大集団についても国有企業による資産買収などの形で支援を行い、恒大を破綻させるようなことはしないさ。」とタカをくくっている向きもまだまだ多いと思いますが、中国当局が本当に恒大集団を救済するのかどうかは不透明です。

 火曜日(2021年8月10日)付け日本経済新聞朝刊4面のオピニオンの欄では同紙コメンテーターの梶原誠氏が「企業に問う『なぜ中国』」と題する評論を書いています。梶原氏はこの中で「今重要なのは、『なぜ中国なのか』を問い直すことに違いない。」と指摘しています。安い労働力なのか、拡大する市場への期待なのか、様々なリスクが顕在化する中、企業にとって「そういったリスクがあっても中国でビジネスを継続する理由」が問われている、という指摘です。

 この評論の欄外には、日本の住宅用水回り設備(トイレ、お風呂、キッチン等)大手のLIXILの瀬戸欣哉CEOの言葉が載っています。「不動産融資の規制で日本のバブル終末に近い。デベロッパー向けは債権を回収する。」というものです。日々、中国の住宅に関連してビジネスを展開しているLIXILの瀬戸CEOの発言は重いと私は思っています。LIXILが中国の不動産開発企業に関して現在持っている債権を回収する方針であるということは、中国住宅バブルの崩壊へ向けての同社の自己防衛の動きであり、他の企業に対する非常に大きな警鐘であると私は考えています。

 日本経済新聞では翌8月11日(水)朝刊11面で「中国、住宅投機締め付け 中古価格に直接介入」という記事を書いて、中国当局によるマンション取引に対する規制の強化を伝えています。こういった規制に対して、日本の一定年齢以上の人の中には、1990年3月の平成バブル末期における大蔵省の「不動産融資の総量規制」を思い出し、結果的にこれが地価に関するバブル崩壊のきっかけとなったことをよく覚えているので、警戒感を高める人が多いと思います。

 日本の平成バブル期における当時の大蔵省による不動産融資に対する総量規制が打ち出されたのは1990年3月ですが、不動産市場で「バブルが崩壊した」と認識されるようになったのは1990年年末頃以降であることを考えると、中国においても不動産に対する融資規制が強化されてから、実際に不動産市場において「バブルが崩壊した」と実感されるようになるには、半年ないし一年程度の時間差が生じることは念頭に置いておく必要があります。

(注)日経平均株価における平成バブルのピークは1989年12月29日の大納会であり、1990年に入ると株価は下落基調に入るのですが、日本の金融政策当局は1990年年央頃までは「今までがバブルで今はバブル崩壊期にある」とは認識していなかったようです。大蔵省は地価の高騰を抑制するため1990年3月に不動産融資に対する総量規制を決めましたし、日本銀行は1990年には3月と8月の二回にわたって利上げを行っています(日銀が利下げを開始したのは1991年7月)。1990年に入って株価が下落基調に入っている中で不動産融資の総量規制や複数回の利上げを行って結果的に急激なバブル収縮を招いた当時の政策運営については批判する人が多いのですが、そうした批判はバブルが実際にはじけた後だから言えることであって、バブル崩壊過程にあった途中の時点では「今がバブル崩壊過程のまっただ中だ」と認識することは非常に難しいのです。日経新聞が連日のように中国マンションバブル崩壊のきっかけになりそうなことについて報じているのも、そうした平成バブル崩壊の記憶があるので、日本の経済界にできる限りの警鐘を鳴らしたいと考えているからだと思います。

 中国マンションバブル崩壊について日本の人はそれなりに警戒感を高めていると思いますが、中国国内にはまだまだ「最後は中国共産党が何とかするから、ハード・ランディングすることはないさ」とタカをくくっている人が多いと思います。日本では平成バブル崩壊の記憶が鮮明ですし、中国当局も日本の平成バブル崩壊やアメリカのリーマン・ショックといった前例についてはそれなりに勉強していると思われますが、中国の一般の人たちは日本の平成バブルやアメリカのリーマン・ショックのような「バブル崩壊」の実体験がありません。というか、中国でもマンション価格が下落する局面は過去にも何回かありましたが、その都度、マンション市場が冷えると中国当局が景気刺激策を打ち出すので、中国では「当局によるマンショ規制はどうせどこかで緩んでまたマンション価格は上昇に転ずるさ」という考え方が主流なのだと思います。従って、中国において一般の多くの人々が「マンション価格の下落は続くかもしれない」と本気で考えるようになるまでには、日本の平成バブルの時以上に時間が掛かる可能性があります。

 それでも、最近私が見たネット上の中国国内での不動産関連ニュースには「もしかして、これってヤバいんじゃない?」というような記事が増えています。先週のこのブログでも二つほどそうした記事を紹介しましたが、それに加えて、この一週間、私は「テンセント網」の中にある房産(マンション資産)情報のサイトで以下のような記事を見つけました。

○中国のマンション投機時代が閉幕(2021年8月8日07:34アップ)

 この記事では、テンセントが運営するウェイボー(微博:中国版フェイスブックと呼ばれる)上にあった「深房理」という名前のマンション売買を仲介するサイトに捜査当局の手が入り、2人が逮捕、3人が刑事拘留されたというニュースを伝えています。このサイトでは、マンションを売りたい人と買いたい人のほか「資金を貸したい人」の仲介も行っていたことから、金融業の許可のない者による資金融資が違法だと判断されたらしいのですが、このサイトに協力していた深センの不動産仲介業者や不動産関連事務処理代行会社も資格停止処分を受けており、この記事を書いた人も「何が違法だったのかがよくわからない」という観点で記事を書いています。この記事では「炒房」(投機的にマンションを売ったり買ったりする行為)自体が違法だと判断されたのではないか、との疑念を示しています。それでこの記事には「中国のマンション投機時代が閉幕(中国語では「中国炒房時代落幕」)というタイトルが付いているのです。

○突然中止! 深センの第二次集中土地供給に何が起こったのか?(2021年8月9日07:01アップ)

 この記事では、7月9日に入札公告が出され、8月9日に入札実施が予定されていた深セン市の合計22区画の第二次集中土地供給プロジェクトが8月6日になって突然中止になった、というニュースを伝えています。

 この記事では、多くの専門家が、この入札中止は、中国共産党政治局常務委員で副総理の韓正氏が主宰して7月22日に行われた「保障性賃貸住宅の発展の加速と不動産市場に対する調整工作をさらに一層進めることに関する電話会議」に関係しているのではないか、と指摘しています。この記事では、党中央の方針として、分譲マンション建設用の土地販売を制限し、低所得者向け賃貸マンション建設用の土地供給を増やす可能性があることを示唆しています。

(注)「保障性賃貸住宅」とは、政府が主導して建設する低所得者向けの賃貸住宅・賃貸マンションのことです。

○不動産企業への融資は収縮し始める一方で債権の償還期限がピークを迎えている(2021年8月11日08:02アップ:広州日報の記事)

 2021年1~7月の中国の不動産企業の社債発行による資金調達が2020年同期比より13%減っている一方、中国の不動産企業の米ドル建て債券の価格が下落していることを伝えています。2021年7月に償還期限を迎える不動産企業の債権は前年同期比12.6%増加しており、社債償還の圧力が高いことも伝えています。こうした中、不動産企業による資産売却の動きが続いていることを指摘しています。

○これからの数ヶ月間、マンション市場は驚天動地になる!(2021年8月12日07:19アップ)

 中国語の表記をそのまま書いた方がこの記事の刺激度合いがわかると思います。中国語では「接下来幾個月, 楼市将翻天覆地!」です。

 この記事は「7月以来、地震級の政策が頻繁に出されている。」と書き出しています。「特に」と前置きして書いているのは、学習塾に対する規制です。
 
 先の学習塾に対する「非営利団体化する」(=儲けることは許さない)という政策決定は、中国国内でも相当な衝撃を持って受け取られたようです。この記事では「勃興しつつあった学習塾業界が一夜にして死刑宣告を受け、即刻斬首を言い渡された。」と書いています(これも中国語で書けば「朝陽行業教培一夜之間判処死刑, 当即問斬。」)。

 最近の不動産融資に対する当局の締め付けの強化を見て、不動産業界に対して学習塾業界に対してなされたのと同じように中国の時代劇に出てくるような「青竜刀で首をはねる斬首の場面」が出てくるのではないか、とこの記事を書いた人は懸念しているようです。

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 こういった中国のネット上での記事や日本経済新聞の一連の報道を見ていれば、もはや事態は「炭鉱のカナリアが鳴いた」のレベルは過ぎていると言えます。コックピットの表示板でたくさんの警告灯が一遍に点滅し、複数の警告音がけたたましく鳴っている状態だと言えるでしょう。

 ところで、明日は1971年8月15日の当時のアメリカのニクソン大統領による「ドル・ショック」から50周年に当たる日です。当時世界経済が拡大する中、金(ゴールド)と米ドルとの兌換を約束する「米ドルを中心とした金本位制」は早晩行き詰まることがわかっていたのですが、日本を含め世界各国は何の準備もしていませんでした。「アメリカ政府は世界経済にショックを与えないようにうまくソフト・ランディングを図るための方策を講じるはずだ」と考えていたからでした。そうした中、ニクソン大統領は突然「金と米ドルとの兌換を停止する。全ての輸入品に一律10%の輸入課徴金を課す。」という決定を発表したのでした。世界経済はこれにより大混乱に陥りました。

 この「ドル・ショック」が起きた時、当時、中学二年生だった私は「何かはよくわからないけれども、大変なことが起きたらしい」と思って新聞を切り抜いてとっておいたのですが、50周年の日を前にして、とっておいた古い新聞を押し入れから引っ張り出して読み返してみました。「ドル・ショック」により、1ドル=360円の固定相場制から変動相場制へ移行せざるを得なくなった1971年8月28日の様子を伝える8月29日(日)の朝日新聞4面の紙面に朝日新聞論説顧問の森恭三氏の論説が載っていました。その中に次のような一節がありました。
 
「円の問題にかぎらず、中国においても、日本の政策はいつも後手になった。問題を先取りするのでなく、どうにもならない状況に追いこまれて、やむをえず行動する。それは政治でも政策でもない。」

 五十年経ったけど、全然変わっていませんね。

 「中国マンション・バブルは崩壊の危機にあるけれども、中国共産党はうまく対処してソフト・ランディングさせるさ。」と考えるのは勝手ですが、それは「ドル・ショック」の前の時点で「米ドルを基軸とする金本位制はいつかは終わりの時が来るけれども、アメリカ政府はうまく対処してソフト・ランディングさせるさ。」と考えることと全く同じです。「何をやるかわからない」という点では、今の中国共産党の方が五十年前のアメリカ政府より一段と不透明の度合いが高いことは明らかです。「チャイナ・マンション・ショック」についても「どうせオオカミ少年でしょ。結局はひどいことにはならないよ。」とタカをくくらずに、自分ができる範囲の準備は何なのかを考えて、慎重に備えておくことが重要だと思います。

 

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コメント

今週もブログをありがとうございます。
LIXILのCEOは勇気のある経営者だと思います。

中国当局は日本の平成バブル崩壊やアメリカのリーマンショックをかなり研究してきた事と思います。何しろ2009年、私の中国駐在時、知り合いの日本語を勉強している大学4年の学生の卒論テーマが『日本のバブル崩壊』についてでしたから・・・。そして2010年に話題となった中国ドラマ『蝸居』(長屋に住む真面目な若い夫婦が何とかマンションを購入したいと日々苦闘する一方で不動産屋や役人が金儲けをするという中国の日常の現実が見える物語)も思い出します。 先週は夏休みの時間を使って、テレビで中国ドラマ『恋した彼女は宇宙人』を観ていましたが、きれいなオフィスにキレイな住居と10年前の『蝸居』に比べて舞台背景が何と違う事かと驚きました。しかし、14憶人が皆億ションに住む事はできません。

バブル崩壊を長年研究してきた中国ですから、今チャイナ・マンション・ショックが起きても(意図的に起こしても又はやむを得ず起こしても)、それに対する中国国内向けの対応策は持っている事と想像します。 バブル崩壊の結果、経済活動は(1割?2割? 株価は5割?)減少するのかも知れませんが、それを補いかつ対外的な影響を跳ね返す対応策としては・・・?? 経済活動の補完を金融や財政政策ではやり切れないとした場合にはそれらの政策と同時に何か国民(・人民)を引き付ける動きをするのでしょうか。

香港やチベット,ウイグル,台湾問題といったテーマに加え、今年になって『食品を大切にしよう(無駄な食べ残しを止めよう)』,『共産党員の大幅増員・若者の入党』といった話題も『新型コロナの厳格な蔓延防止策・抑え込み』と同様に私にとって気に留めておきたいニュースです。

投稿: 山岸吉保 | 2021年8月15日 (日) 06時31分

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