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2018年6月 9日 (土)

中国の大学入学統一試験受験者975万人の将来

 中国では毎年6月初旬、その年度の大学入学のための全国統一試験(中国語では「高考」と呼ばれる)が行われます(中国の新年度は9月から)。一人っ子政策に基づく少子化傾向と大学進学率の上昇との関係で、最近は年度によって増えたり減ったりしていましたが、今年(2018年)は、受験者が過去最高の975万人になった、とのことです。毎年50~60万人が受験する日本の大学入試センター試験に比べると、中国の人数は相当多いと言うべきでしょう。

 中国の人々の教育レベルが上がることはよいことだと思うのですが、大学に進学を希望する人の数が年間1,000万人のレベルに達して、それらの人々の就職先があるのか、というのは、中国にとって大問題です。中国の産業構造が要求する人材の数と質と大学卒業生の数と質にマッチしているかが問題となるからです。

 現在、日本では「人手不足」が問題となっており、「大学卒業生が余って就職できない」という問題は生じていません。しかし、それは現在の日本の景気の動向と日本の産業構造の変化の過程がたまたまそういうタイミングになっているだけで、今後とも大学卒業生の就職戦線は売り手市場が続くことになるとは限りません。

 ただ、日本の産業構造は、既にかなり成熟しつつあり、私は日本においては大学卒業生の数と大学卒業レベルの人材に対する企業等の求人数は、将来も基本的にそんなに大きくずれる可能性はないと思っています。それは既に日本ではサービス産業が主流になりつつあるほか、製造業においても「ものづくり」そのものではなく「ものづくりマネジメント」が日本企業の仕事の大きな部分を占めており、今後とも大学卒業レベルの人材に対する需要は、そんなに大きくは減らないだろうと思われるからです。「ものづくり」はAI(人工知能)を活用した機械に置き換わることはあっても、「ものづくりマネジメント」(製品の企画、研究開発、マーケティング、製造工場の管理等)は機械に置き換えることは不可能だからです。(なお、ヨーロッパ諸国や韓国など、大学卒業生の数と企業の大学卒レベルの求人数が必ずしもマッチしていない国は多くあり、この点、日本は世界の中では恵まれている方だと思います)。

 一方、現在の中国において、年間1,000万人近く輩出される大学卒レベルの人材を有効に活かせる産業構造になっているか、はかなり疑問です。経済が急速に発展しつつあった中国では、今まであまり大きな問題になってきませんでしたが、経済成長が安定化し、一方で大学卒業生の数が今後も高止まりして減ることはないだろうと思われる中国においては、大学卒業生の就職問題は、今後、重要性が増してくることになるだろうと思います(中国政府もこの点はよく認識しており、若い人の就業問題は、毎年の政府方針の中でも重要な柱の一つに位置付けられています)。

 「中国の大学統一試験受験者が過去最高の975万人になった」というニュースは、日本ではあまり関心がないようで、私が見た範囲では、日本の新聞等では報じられていませんでした。しかし、本当に日本の企業が世界でビジネスを拡大したい、と考えているならば、数が非常に多くて、従って優秀な人材も多い中国の大学卒業生を自社で使うかどうか、という問題は、各企業の将来戦略にとって非常に重要な課題であるはずです(特に中国でビジネスを展開している企業にとっては)。

 私は、1986~1988年と2007~2009年の二回北京駐在を経験しており、中国側のいろんな企業等とのつきあいもありましたし、二回目の駐在時には中国人スタッフ雇用のための若い人の面接等もやりましたが、中国には若い優秀な人材は一杯いるという印象を持っています。今、日本の企業の中には(もちろん会社によって中国に製造現場を持つかどうか、等の事情によって異なりますが)中国人社員の雇用に積極的なところと消極的なところの両方があるようです。聞いた話では、日本には「優秀な中国人を雇うと日本人社員の中の『和』が乱れるので・・・」と中国人の雇用に消極的な企業も少なくないようですが、このあたりは国際化が進む市場環境の中で各企業が将来展望の中において人材戦略をどう考えるかの問題でしょう。

 一方、私は、今の日本の若い人たちの中に「自分たちの就職活動において、今後中国人をはじめとする外国人と就職先の奪い合いになる可能性がある」という危機感が薄すぎるのは問題ではないか、と常々思っています。現在の日本企業の中に外国人の雇用に消極的な会社が多いことをいいことに、「将来にわたって、日本企業への就職において日本人である自分が外国人求職者に負けるはずがない」と思っている人が多いのではないかと思います。

 中国の教育システムは、基本的に「教師が教えることを学ぶ人が一生懸命覚える」ことが中心で、議論(ディベート)の機会がほとんどないため、中国人は基本的に人の意見を聞き自分の意見をハッキリ言って他人と議論して新しいことを決めることが苦手だというイメージを私は持っています(アメリカ人に比べれば日本人もそういうのは苦手ですが、中国人はそれに輪を掛けて苦手に見えます)。一方、自分のスキル・アップについては中国の若い人たちの方が日本人より圧倒的に意欲的です(ギラギラしている、とさえ言える)。これは中国では農村戸籍の人は大学生になると一旦「暫定戸籍」になり、都市部の就職先に就職できると都市戸籍が与えられることと関係しているのではないかと私は思っています。自分の好きな場所に住む自由がある日本人に比べると、就職先が自分の住む場所さえ決めてしまうことになるという意味で、中国人の必死さは日本人には想像できないと思います。

 もちろん、中国の大学卒業生の動向が日本の雇用環境に影響を与えることになるかどうかは、「外国人が日本で働くことをどの程度認めるのか」という日本政府の今後の方針と、「自社の中で外国人が働くことをどの程度認めるのか」という日本企業の今後の方針に左右されるのでしょうが、これだけ国際化が進む現代にあって、「日本国内で働くのは日本人だけ」「日本企業が雇うのは日本人だけ」という状態が続くことはあり得ないわけですから、中国において大学卒レベルの人材が毎年どの程度の数生まれているか、といったニュースには、雇用する側の日本の企業も、現在雇用されている(将来雇用されることになる)日本の人たちも、もっと関心を持ってよいと思います。

 中国の大学入試統一試験受験者数が過去最高の975万人になった、というニュースに対して日本のメディアはあまり関心がないようなので、今日はあえてこのブログで取り上げさせていただきました。

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