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2018年4月

2018年4月28日 (土)

アメリカによる中国のZTEに対する制裁は結構「おおごと」だ

 報道によれば、アメリカ商務省は4月16日、中国の通信機器大手の中興通訊(ZTE)がイランや北朝鮮に対して通信機器を違法に輸出していたとして、アメリカ企業によるZTEへの部品や設備等の販売を7年間禁止すると発表しました。また、アメリカのウォール・ストリート・ジャーナルの電子版は、アメリカ司法省はこれも中国の通信機器大手である華為技術(ファーウェイ)についても捜査していると報じている、とのことです。

 私には、アメリカの措置が、「妥当で合理的なもの」なのか、「5G」世代へ向けてアメリカが中国の通信機器大手企業の成長を阻害しようとしている「よこしまなもの」なのか、を判断する材料はありませんが、ZTEも華為も現代の中国を代表するトップ企業なので、アメリカがこれらの企業への制裁を「本気で」やろうとしているのならば、中国経済のみならず、ZTEや華為とビジネスを行っている外国の企業(アメリカの企業も含む)にも多大な影響を及ぼすことになるのではないかと私は心配しています。

 一方、トランプ政権になってからのアメリカでは、安全保障上の観点から、中国によるアメリカのハイテク企業への投資を監視・制限しようとする動きも強まっています。

 これらの一連の動きは、世界経済全体の動向にも悪い影響を与える可能性があり、思っている以上に相当に「おおごと」だと思います(場合によっては、米中による関税引き上げ合戦より、今回のZTE等への「制裁」の方が世界経済への影響度は深刻かもしれない)。これらの動きは、民間部門における技術交流のグローバル化を妨げ、結果的にアメリカも含めた世界経済全体の進展を阻害するおそれがあるからです。

 現在、技術進歩のスピードが速くなっており、各企業は、自社内での研究開発だけでなく、ベンチャー企業など外部の優れた技術を持つ企業をM&A(合併・買収)することも、新しい技術を獲得するための重要な手段として考えるようになっています。特に中国の企業は、自社技術への「こだわり」は強くなく、新しい技術を外部からM&A等で導入することに全く抵抗がありません。むしろ、日本の企業の方は「自社での技術開発」にこだわり過ぎていて「我が社の優れた技術を持ってすれば必ずマーケットに受け入れてもらえるはずだ」というよく言えば「自負」、悪く言えば「おごり(慢心)」があり、それが日本企業の欠点ですらある、とも言われるようになってきています。

 自社技術にこだわり過ぎて、世界のマーケットの動きと全く関係なく技術進歩を続ける日本企業について、2000年代、外界との関係を絶った環境で独自の生物進化を遂げたガラパゴス諸島にちなんで「ガラパゴス化」と言われたりしました。実際、独自技術に自信を持っていたはずの日本企業群がほとんど全て中国の携帯電話市場で敗れ去ったことは記憶に新しいところです(スマートフォンに対して従来型携帯電話を「ガラケー(ガラパゴス携帯)」と呼ぶのは、この頃に流行った「ガラパゴス化」という言葉のなごりですね)。

 私は、ZTEについては、「自社技術にこだわらず、世界から優れた技術を買い取って、市場が求める新しい製品を次々と作っていく」というバイタリティーのある中国企業の典型例である、というイメージを持っています。私はちょうど十年前、北京駐在時代の2008年4月に広東省深センにあるZTEの本社を見学する機会があったのですが、その時の様子を下記の文章にまとめました。

(参考URL)
国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が運営する「サイエンス・ポータル・チャイナ」内
「コラム&レポート」-「北京便り」
【08-004】中国企業の企業戦略の傾向
(2008年4月25日(JST北京事務所快報) File No.08-004)
http://www.spc.jst.go.jp/experiences/beijing/b080425.html

※このレポートの筆者はこのブログの筆者と同一人物です。

 上記の文章では、ZTEと中国のネット検索最大手「バイドゥ(白度)」について取り上げています。この文章でも指摘しているとおり、ZTEは、マーケットのニーズに合わせて、世界から最先端の技術を導入して新しい製品を作ることが会社の柱になっています。なので、アメリカ・トランプ政権によるZTEへのアメリカ企業の部品・設備の供給停止やアメリカのハイテク企業への中国企業による投資の制限等の政策は、ZTEの経営の柱の部分を直撃する可能性があります。上の文章でも指摘しているとおり、ZTEのような「自社技術にこだわらず、広く世界から最新の技術を導入する」という方針は、中国の新進企業に急速な発展をもたらした一つの大きな経営方針であり、今回のようなアメリカ・トランプ政権による一連の政策は、ZTEに限らず他の同様の中国企業に大きな影響を与える可能性があります。

 中国の企業に限らず、今、世界経済はグローバル化の中、国籍に関係なく、優れた製品は国境を超えて輸出・輸入され、優れた技術は国境を超えて技術移転や企業のM&Aの形で移転されています。それが世界経済のスピーディな発展を支える大きな柱だからです。物や技術の世界的な流通が第二次世界大戦後の世界経済の発展を支えてきたこと、通信技術など多くの技術が軍事用・民間用の垣根のない汎用技術であることを考えると、もし仮にアメリカのトランプ政権が「中国という国」「安全保障に関連する技術」に絞った形にせよこれらの動きに大きな制限を掛けようとすることは、21世紀における世界経済発展の原動力の源を細らせてしまう切っ掛けになる可能性があると思います。

 また、今(2018年4月)というタイミングもよくありません。今、世界経済の景気の波は、もしかするとリーマン・ショック後の回復期のピークを越えつつあるのかもしれないからです。このタイミングでアメリカ・トランプ政権が中国に対して、貿易や技術の面で「縛り」を強化することは、現在の世界景気の波の「下り」を急速に加速させてしまう可能性があります。なので、「これはアメリカと中国との問題だ」「中国のこれまでのやり方にもいろいろ問題があったので、アメリカがある程度中国に『制裁』を加えるのはやむを得ない」といった態度で傍観するのでなく、世界各国は、世界経済全体の根本問題になり得るとの危機感を持って、アメリカ及び中国に対して問題を早期に解決するよう働きかけるべきだと思います。

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2018年4月21日 (土)

香港ドルの動きに見る中国からの資金流出圧力の状況

 トウ小平氏が始めた改革開放下の中国経済の発展において、香港は中国経済の世界経済に対する窓口として大きな役割を果たしてきました。中国が1984年の中英共同声明において、「1997年の返還後も50年間は香港の資本主義体制は維持する」と約束したのも、中国としては「世界との窓口としての経済センターたる香港」の活力を当面の間(少なくとも返還後50年間)は維持して欲しいいと考えたからでしょう。

 中国大陸部の通貨である人民元は外貨との交換に際して様々な規制が掛かりますが、香港ドルは、イギリス統治時代から一貫して米ドルや日本円と基本的に自由に交換できる国際的通貨として現在に至っています。

 1980年代、中国は「外貨兌換券制度」を導入して、外貨と交換できない通常の人民元の他に、外貨によって入手できる外貨と兌換可能な元建ての「外貨兌換券」を発行していました。人民元と外貨兌換券の公定交換レートは1:1でしたが、通常の人民元では輸入品は買えず、輸入品を買うには外貨兌換券が必要であったことから外貨兌換券の人気が高く、街には人民元と外貨兌換券を交換する「ヤミ交換業者」がうようよしていました。1986年~1988年の私の最初の北京駐在の際、街を歩いていて外国人だとわかるとよく「外貨兌換券を交換しないか」と声を掛けられたものでした。その頃のヤミレートは1:1.6くらいでした。北京で香港ドルを見かけることはありませんでしたが、その頃香港ドルを持っている人がヤミレートで人民元と交換しようとすれば、おそらく公定の交換レートの1.6倍くらいの有利なレートで交換できたろうと思います。

 中国経済の発展により外貨兌換券は1995年1月1日をもって廃止されました。2009年に二回目の北京駐在の際に私が香港に行った際には、既に人民元は香港ドルより人気が高い状態になっていました。香港では、香港ドルでも人民元でも買い物ができましたが、お店の人は人民元で支払った方が喜ぶようでした。

 香港ドルは、米ドルペッグ制(米ドルとの交換レートが一定している)を採っています。2005年からは1米ドル=7.75~7.85香港ドルの間になるように香港通貨当局がコントロールするような変動幅を持った米ドルペッグ制度になっています。従来、香港ドルと米ドルとの交換レートは香港ドル高上限の1米ドル=7.75香港ドル付近で安定していたのですが、2017年に入ってから徐々に香港ドル安の方向に動き、つい最近(2018年4月12日)、香港ドル安下限の1米ドル=7.85香港ドルを付けました。それでも香港ドル売り・米ドル買いの圧力があったため、香港通貨当局は香港ドル買い・米ドル売りの為替介入を実施することにより1米ドル=7.85香港ドルを維持しました。

 日経CNBCの番組の中でコメンテーターの岡崎良介氏は、この香港ドルの動きについて次のように解説していました。

○2015年12月のアメリカFRBによる利上げ開始後、アメリカが利上げを進めるたびに香港当局は香港の政策金利を引き上げて、アメリカと香港との間の金利差によって米ドル高・香港ドル安の動きが起きないようにする金融政策を採ってきた。

○しかし、香港へは中国大陸部からの資金流入があるので、香港の市場金利は香港の政策金利と同じようには上昇せず、2017年を通して、アメリカの利上げの継続に伴って、米ドル金利が上昇するペースでは香港ドルの市場金利は上昇しなかった。そうなると、金利の低い香港ドルを借りて米ドルに代え、米ドル建ての金融商品を買うと、金利差分だけ儲かることになるので、そうしたトレード(キャリー・トレードと呼ばれる)が増えてきた。このトレードでは香港ドル売り・米ドル買いが行われるので、香港ドル安・米ドル高の圧力が高まることになる。

○今後、香港ドル安・米ドル高の圧力が継続しても、香港当局の外貨準備は十分にあるので、必要に応じて為替介入を行うことにより、1米ドル=7.85香港ドルの限度を維持することは当面は可能である。

○もし仮に香港当局の為替介入が長期にわたることになり、香港当局の外貨準備が不足しそうになった場合には「香港ドルの米ドル・ペッグ制をやめる」「世界最大の3兆米ドルの外貨準備を持つ中国本土の中国人民銀行が乗り出して人民元と香港ドルを統合する(実質的に香港ドルが廃止される)」というオプションもあるが、この場合は世界の金融市場に大きな影響を与えることになる可能性がある。

 香港ドルと米ドルの交換レートの推移を見ると、2017年に入った頃から急激に香港ドル安・米ドル高の傾向が強まっています。これは、2017年に入ってから、中国当局が人民元による外貨購入の規制を厳しくしたことにより、人民元を直接外貨に替えることが難しくなったので、人民元で香港ドルを入手して(中国大陸部と香港は密接な経済関係にあるので物の売り買いなど人民元を香港ドルに替える手段はいくらでもある)、入手した香港ドルで外貨を買う行為が増えてきたことを意味していると思われます。このことは、現在、人民元の対米ドルレートは非常に安定していますが(むしろ人民元高・米ドル安の方向に動いているが)、これは中国国内からの資金流出圧力が減ったことを意味するのではなく、あくまで中国当局の人民元に対する規制が功を奏していることを表しているだけであり、実際の中国国内の傾向としては、やはり人民元を売って外貨を買いたいという圧力が依然として強いことを意味していると思われます。

(参考)2016年末の中国からの資金流出圧力と2017年に入ってからの中国の資金流出規制については、このブログの2016年12月24日付け記事「中国からの資金流出と財産保護に対する信頼感」、2017年1月7日付け記事「中国資金流出阻止攻防戦:当局対人民・投機筋」を御覧ください。

 冒頭に書いたように、香港は、改革開放下の中国の経済発展の過程で、世界経済と中国大陸部をつなぐ極めて重要な窓口の役割を果たしてきました。今、その「窓口」は、大陸部の中国当局の資本規制の網をかいくぐって資金の対外流出を可能にする「抜け穴」として機能しているわけです。

 アメリカ・トランプ大統領によるアメリカにとっての米中貿易赤字削減圧力に対応して、習近平主席は、自動車産業等における中国国内投資への規制緩和の姿勢を明確に打ち出していますが、これは「トランプ大統領対策」という側面と同時に、外国から中国国内への投資を増やして、中国国内にある「資金流出圧力」を緩和させようという狙いもあるものと思われます。

 中国国内の企業・個人や中国国内に投資している外国企業が中国経済の将来について安心感を持てないようだと中国国内からの資金流出圧力はこれからも続くでしょう。中国当局による国境での資金移動規制はある程度奏功すると思いますが、香港という「抜け穴」が存在する以上、中国当局の資金移動規制にも限界が生じます。そうなった時、北京の当局が「香港」という「抜け穴」を塞ごうとするのかどうか、が、今後の香港の将来を決めることになると思います。北京当局が自由経済圏である香港における規制をもし強化するなら、自由貿易港・アジアの金融センターとしての香港の活力は失われてしまうでしょう。もし北京が香港に「経済的自由」を享有させ続けるのだとすれば、北京政府は中国国内における「資金流出圧力」を減らす実効的な政策を採らない限り、香港経由での資金流出は続いていくことになるでしょう。

 昨日(2018年4月20日)、中国共産党中央と国務院は河北省に北京の非首都機能を移転させようという新しい都市「雄安新区」についての「計画綱要」を許可しました。今日(4月21日)見た「人民日報」ホームページの「房産(不動産)チャンネル」のトップにこのニュースが載っていることを見ても、この「雄安新区計画」は中国の不動産業界における目下の最大の関心事項であることがわかります。こうした動きを見ると、中国政府は、また新たな巨大不動産投資プロジェクトを進めることによって中国国内に資金需要を作り出して外国への「資金流出圧力」を抑制しようと躍起になっているように見えます。これは「新しいバブルによって過去のバブルを吸収する政策」と言えますので、どこまで持続可能なのかは私にはわかりません。ただ、こうした中国大陸部における経済バブルの状況や資金流出圧力の実情を知るためには、香港の市場金利や香港ドルの対米ドル・レートの動きに注目することも重要である、と最近の香港ドルの動きは教えてくれたと思います。

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2018年4月14日 (土)

1987年1月の「トウフ事件」

 アメリカのトランプ大統領による中国の知的財産権侵害に対する制裁措置に対抗して中国が報復関税品目を発表した際にその中にアメリカ産大豆が入っていたことに関連して、私は1回目の北京駐在(1986年10月~1988年9月)の最中に知った1987年1月の「トウフ事件」を思い出しました。

 1987年1月の「トウフ事件」とは、この頃、中国の新聞に「ベタ記事」として小さく出た「事件」に対して、私が本社宛の報告の中で使った「事件名」です。日本ではどの新聞も報じていないし、どの本にも載っていないと思うので、ネットを検索しても出てこないと思います。

 1987年1月、北京の街のあちこちで北京市民の行列が発生していて「おかしいなぁ」と思っていたら、中国の新聞で「中国の東北地方の国営の豆腐工場に大豆を納入する業者が豆腐を製造している個人経営の工場に大豆を横流ししていたことが発覚し、横長していた人物が逮捕された」という事件が報じられていたのでした。この事件を私は1987年当時の中国の状況を象徴的に表す事件だと考えて「トウフ事件」と名付けました。

 当時の中国では、改革開放政策が進行中で、豆腐製造についても、国営工場と小規模な個人経営の工場とが併存しており、国営工場ルートの大豆は安く取引されている一方、個人経営の工場の中には高値で大豆を買い取ってくれるところがあったことから、本来、国営工場に大豆を納入すべき国営ルートの大豆流通の担当者が個人経営の豆腐工場に大豆を横流しして、国営ルートでの販売価格との差額をポケットに入れていた、という事件でした。

 1980年代後半、改革開放経済の進展により、国営企業ルートと個人経営ルートの二つの流通ルートが存在し、国営ルートでは安く、個人経営ルートでは高く商品の取引が行われていたことから、大豆に限らず、二つのルートの価格差を利用して商品を横流しして差額の「さやを抜く」ブローカー行為が横行していました。商品の差額を利用して儲けるブローカー業者を中国語では「倒爺(daoye)」と言いますが、国営ルートの流通の担当者がブローカー行為を働く場合、その人は「官製の倒爺」という意味で「官倒爺」と呼ばれていました。「官倒爺」は国営ルートの商品を扱うという公的立場を利用して私腹を肥やしていましたが、「官倒爺」が横行すると国営ルートの商品が足りなくなって庶民生活を直撃するので、「官倒爺」は中国の一般庶民の怨嗟の的でした。

 市場経済の発展に伴い「国営ルート」は縮小したので、今の中国では「官倒爺」の存在感は薄れていますが、それでも経済自体が中国共産党の指導下にある以上、中国共産党の権限を利用して私腹を肥やす連中が跡を絶たないことが、習近平氏による「反腐敗闘争」の大きな背景になっています。

 私は最初の北京駐在の時に知った「1987年のトウフ事件」のことを覚えていたので、2007年4月に二回目の北京駐在を始めた頃に、経済統計を見て、中国の大豆の国内自給率が1980年代に比べて大幅に減っていたのを知って驚きました。大豆は、豆腐の原料として(今は家畜のエサとしても)中国の一般人民の「食」を支える重要な農産物であり、それを輸入に頼っていいのかなぁ、と思ったからでした。13億の人口を抱える中国においては、「食」の問題は国内政治において致命的に重要度の高い課題です。なので、中国では、食糧作物(コメ、小麦、トウモロコシ)については自給率を減らさない政策を現在でも維持しています(これらの食糧作物については、年によって多少の変動はあるが、国内生産量と国内消費量はほぼトントンで、輸入には頼っていない)。

 中国は社会主義国であり、特に農業に関しては社会主義的コントロールが今でも強く機能していますので、補助金政策等により大豆の自給率を減らさないようにする政策も実行可能だったと思われます。それなのに実際には中国の大豆の自給率が大幅に低下したのは、大豆の場合、主要な輸入先がブラジルやアメリカであり、中国にとって外交的には安定的な関係を維持できる相手国なので、自給率を低下させる(輸入率を増やす)ことになっても、大きな問題になる可能性は低い、と考えたのでしょう。

 2007年4月~2009年7月までの二回目の私の北京駐在期間中には、中国が自国のロケットでブラジルの人工衛星を打ち上げるなど、中国とブラジルの外交的関係の良好さを見せつけるようなイベントが数多くあったのですが、ブラジルとの良好な関係の維持は、ブラジルが大豆の重要な輸入元であることも踏まえた中国にとって重要な国際戦略なのだと思います。

 というような状況を考えると、今回、中国は、アメリカとの関係においてアメリカ産大豆も報復追加関税品目として掲げましたが、実際に発動する可能性はあまり高くないと思います。アメリカ産大豆への高い関税の付与は、アメリカの大豆農家にとっては打撃ですが、同時に中国の一般庶民に対するダメージも相当に大きいと考えられるからです。「1987年のトウフ事件」に見られた「官倒爺(官製ブローカー)」の横行は、「食」を通じた庶民の怒りに直結し、それが1989年の「六四天安門事件」における中国の人々の運動の背景にもなったことは中国政府自身がよくわかっていると思います。

 華北平原における水不足の問題、工場排水による農業用水や農地土壌の汚染問題等があるので、13億超の人口を抱える中国にとって、食糧生産の問題は中長期的には非常にセンシティブで致命的な課題です。今回、中国はアメリカ産大豆については「あとで振り上げたコブシを降ろすことでアメリカに恩を売るためのカード」としてテーブルに載せてきたのだと思いますが、大豆の輸入は食糧安全保障の問題にも直結している以上、中国にとっても「危険なカード」です。トランプ大統領は、中国に「危険なカード」を出させるような「プロレスごっこ」をやることは世界の安定にとって非常にリスクが高いことをもっと認識すべきだと思います。

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2018年4月 7日 (土)

トランプ大統領は結果的に習近平氏の応援団になるかも

 今日(2018年4月7日)付け「人民日報」2面の評論の冒頭の文章は「白宮完全失去了現実感!」でした。「白宮」がホワイトハウスのことであることがわかれば、中国語を知らなくても意味は通じますよね(この記事のタイトルは「中国はアメリカの乱舞大棒を甘んじて受け入れることはできない」)。この評論は、もちろん、中国が米国通商法301条発動に対する対抗関税引き上げ品目リストを発表したことに対し、日本時間の昨日(2018年4月6日)、アメリカのトランプ大統領が通商代表部に中国に対する追加関税措置を検討するよう命じたことに対する反論です。外国との関係に関する「人民日報」が論ずる論評の論旨に対して、私が「そうだ!そのとおりだ!」と同感したのは久し振りでしたね。

 今日の中国中央電視台の夜7時のニュース「新聞聯播」では、昨夜のニューヨーク株式市場で、ダウが570ドルも下げるなど、株価が暴落したことを伝えていますし、欧米のエコノミストや経済関係者がトランプ氏の一連の対中国貿易措置に対して批判している発言も伝えています。先の全人代で権力集中を実現させた習近平氏に対しては、国際的には懸念が高まっているし、おそらく国内的にも批判的な人が多いと思うのですが、今回のトランプ氏の対中国貿易関連措置については、国際的にも「トランプ氏のやり方はおかしい」という声が高く、そのことによって結果的に今の時点では「習近平政権の立場は正しい」という雰囲気が盛り上がっています。権力の集中により国内外から批判されることをある程度覚悟していた習近平氏にとって、結果的にトランプ大統領からありがたい贈り物をもらった格好になりました。

 この問題の決着の行方は予断を許しませんが、トランプ氏の動機が11月の中間選挙に向けて「中国から一本取った」というポーズを示したいことであることは中国側からもミエミエなので、もしかすると中国はトランプ氏が喜びそうな(しかし中国にとっては実態的には痛くない)「譲歩」を示すかもしれません。

 一番やっかいなのは、トランプ大統領が経済問題と安全保障問題をいっしょくたにして「取引」をやる可能性があることです(実際、今回、トランプ大統領が貿易問題で中国に対して強硬姿勢を示し始めたのは、北朝鮮のキム・ジョンウン委員長との米朝首脳会談の開催が決まり、当面、北朝鮮問題に関して「中国のお世話になる」必要がなくなったからであることは明かです)。最悪なのは、例えば、中国が、関税引き上げリストに載せている大豆についてアメリカ農民(=共和党の支持者が多い)の生活に考慮して関税引き上げリストから外すという妥協を示す一方で、南シナ海における中国の活動に関してアメリカは文句を言わないという約束を取り付ける、といった「取引」が成立することです。トランプ大統領にとっては、アメリカの大豆生産農家は選挙対策上重要な人たちですが、南シナ海における中国の活動はアメリカ国内の選挙には影響しないので、トランプ大統領はこうした取引に合意しかねません。もし、こうした「取引」が成立するようだと、トランプ大統領は完全に習近平氏の「支援者」になったと言われることになるでしょう(問題は、トランプ大統領は、国際的にこうした批判を受けることについては、全く気にしていないように見えることです)。

 中国経済が中国共産党のコントロール下で動いている以上、アメリカ的経済ルールから見れば中国の経済政策が一定程度「不公正」であることは最初からわかっていた話です。中国では、フェイスブックやツィッターが使えないのに、中国の会社の微博(ウェイボー)、微信(ウェイシン)は使える、外資系合弁会社であっても中国共産党の指導には従わなければならない、などといった話は今に始まった話ではありません。そうした中で、認められた範囲内で、アップルは中国でiPhoneを作って世界中に販売し、マクドナルドやケンタッキー・フライドチキンやスターバックスは中国全土に店を展開して相当の利益を上げています。

 トランプ大統領が「中国経済が中国共産党のコントロール下にあることを認めた上で中国経済を世界経済の中に組み込む」という現在の世界経済秩序を壊そうとしているのならば話は別ですが(当然そうなれば、アメリカ企業の多くは収益の場を失います)、そうではなく、選挙向けの「ハッタリ」として対中国通商摩擦を盛り上げようとしているのだとしたら、それは結果的に習近平政権に対する国内外からの支援を強化し、日本を含めたアメリカの同盟国のみならず、アメリカ自身の国際的立場を毀損することになるだけですから、即刻やめてほしいと思います。中国の知的財産権問題等については、問題意識を共有する日欧等の各国と協調して中国に対処する別の方法を採るべきだと思います。

 今日の「人民日報」を読んで、「アメリカ大統領自身が『人民日報』に『そうだ、そうだ、もっともだ!』と思えるような評論を書かせるようなことしてどうすんねん!」と思ったので、今日のこの文章を書かせていただきました。

 10年前、「空前の中国の経済バブルがはじけて世界を襲う」という懸念がある中、実際はアメリカの不動産バブルがはじけて世界経済を襲い、中国の「四兆元の経済対策」が世界経済を救ったのでした。今、「権力を集中させた習近平氏の中国が世界秩序を壊す」という懸念がある中、アメリカ大統領が原因となって世界の秩序が動揺したが、結局は中国の習近平主席の「大人の対応」によって世界は救われた、ということにはなって欲しくないなぁ、というのが私の個人的な願いです。

 こんな感じだと「習近平氏に権力が集中した中国」は、意外に長続きするかもしれませんね。

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