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2018年2月10日 (土)

中国の次の政策の目玉は「農村振興計画」

 最近の「人民日報」には「農村振興計画」に関する記事がたくさん載っています。中国共産党中央と国務院は2月4日に「農村(中国語では「郷村」)振興戦略の実施に関する意見」を発表し、翌2月5日には中国共産党弁公庁と国務院弁公庁(「弁行庁」は日本語にすれば「事務局」のようなもの)は「農村居住環境の整備に関する三年行動計画案」を発表しました。「農村振興計画」は、ひとことで言えば「農村インフラ整備計画」で、「農村居住環境整備」は具体的には農村におけるゴミ処理、糞尿処理、汚水処理、農村道路の整備などです。

 これらの計画は、二週間前(2018年1月27日)にこのブログの「農村宅地の『資格権』に見る中国経済の錬金術」で書いたような老朽化した(あるいは空き家になった)農民の住宅とその土地の活用も含まれています。また、昨年(2017年)秋以来習近平氏が強力に進めようとしている「トイレ革命」とも連なっている政策です。

 このブログの二週間前の記事を書いた時には、まだ国土資源部の部長(日本の「大臣」に相当)が全国国土資源工作会議の席上「政策案」として言及した段階の話で、具体的な動きはまだ先だと思っていたのですが、やはり大臣が公の会議で発言した背景として、既に中国共産党内ではかなり詰めた議論がなされていたようです。農村宅地の「資格権」は、土地政策に関する重要事項であり、この「資格権」も含めた「農村振興計画」と「農村居住環境の整備」の問題は、今年(2018年)秋に開かれるであろう中国共産党第19期中央委員会第三回全体会議(三中全会)で議論される重要な政策課題になるものと思われます。

(注)「三中全会」は、通常、党大会の約一年後に開かれ、その期(五年単位)に実行される重要な具体的政策課題について議論されます。「三中全会」で決まった政策方針は、後で「全人代」において実際の法律に落とし込まれていくことになります。

 中国経済は、リーマン・ショック対応として2008年に打ち出された四兆元の超大型経済対策の一巡を受けて、2015年~2016年前半にはかなり大きな低迷期を経験しましたが、その後2017年秋の党大会へ向けて中国経済を「ふかした」のは、高速道路、高速鉄道、地方都市の地下鉄、巨大橋梁プロジェクト等の交通インフラ事業でした。今、これらの交通インフラ事業は一巡しつつありますので、次の「経済のカンフル剤」として、中国経済の発展に乗り遅れた農村のインフラ、特に農民が日常生活で感じる「居住環境」の整備を次の重点課題にしようとしているのだと思います。

 「農村振興計画」「農村居住環境の整備」は、習近平氏が年頭の辞で述べていた中国人民の「獲得感」「幸福感」「安全感」に直接関係しており、習近平氏に対する中国人民、特に数が多い農民の支持を得る目的があるのだと思います。

 経済発展に乗り遅れた感のある農民の「獲得感」を大事にするために農村を振興し、農村の居住環境を整備することは、政策意図としては非常に「よいこと」だと思いますが、実行段階でうまく行くかどうかは、中国共産党中央が実際の政策を実行する中国共産党の地方幹部をうまくコントロールできるかどうかに掛かっています。

 というのは、中国共産党地方幹部は、常に何かの「儲け話プロジェクト」をやりたがっており、今回のように党中央が「農村振興計画」「農村居住環境の整備」を打ち出したら、狂喜乱舞して、「党中央からお墨付きをもらった」として、これに関連した様々な「儲け話プロジェクト」を考案して実行しようとすることが想像されるからです。

 2008年のリーマン・ショック対応の四兆元の大型経済対策においても、党中央は「ちゃんと計画的に執行する」と宣言していましたが、実際はほとんど無秩序に鉄鋼やセメントの生産工程の設備投資等が進み、その後、中国経済は過剰生産設備対策に苦慮することになりました。

 今回の「農村振興計画」「農村居住環境の整備」でも、「計画は党の指導に従ってしっかりした監督管理体制で行う」としていますし、「大型別荘や個人用集会所の建設は厳格に禁止する」などとしていますが、中国共産党地方幹部は、党中央の意向に従う形をうまく作って様々なプロジェクトを考えるでしょう。また、資金的には、中央からの財政投入に加えて、地方債券の発行、PPP(官民共同プロジェクト)方式、大手国有銀行からの融資などが想定されていますが、「農村振興計画」「農村居住環境の整備」という「錦の御旗」を得て、また様々なルートでの資金調達が行われることになるでしょう。いじわるい言い方をすれば、また「新しいバブルのネタ」を提供することになるわけです。

 「農村インフラの整備」は農民の生活向上のためには非常に良いことですが、将来大きな収入を生むような投資ではなく、投下された資金を回収する段階になって問題が生じることはないのか、という点は気になります。何年か経過して、外国のメディアが「今、中国の農村では豪華で非常に高性能の設備を備えた巨大な公衆便所が乱立しています」などと報じることにならなければよいなぁ、と思っております。

 私が2008年11月28日付けのこのブログの記事「『史上最大のバブル』の予感」の中で書いたように2008年の四兆元の大型経済対策については、始まる前から過剰投資のおそれを心配する声がありました。当時、中国共産党中央は「計画的に実行するから心配はない」と言っていたのですが、実際は、コントロールは不十分で、無秩序にも見える過剰投資が起きたのでした。この「農村振興計画」「農村居住環境の整備」が2008年の四兆元の超大型経済対策が残した問題点の「二の舞」にならないことを願いたいと思います。

 私が北京に駐在していた十年前に中国日本商会のいろいろな会合に出席していた経験から想像するに、今、中国に進出しているトイレ設備や汚水処理等に関連する日本企業の方々は「大きなビジネス・チャンスになる可能性がある」として、積極的に情報収集に当たっておられると思います。もし「農村振興計画」「農村居住環境の整備」が、日本企業のトイレ、ゴミ処理、汚水処理等の技術を活用して実際に中国の農村の農民の生活環境の向上に繋がることになるなら、それは日中関係にとっても非常によい話だと思います。

 なお、今年(2018年)はリーマン・ショックから10年目の年であり、ここ一週間のアメリカ株式市場の乱調に見られるように、世界経済の流れが今ちょうど潮目の変化の時期に当たっているように見えますが、これから進められる中国の「農村振興計画」「農村居住環境の整備」に2008年に始まった四兆元の大型経済対策のような「世界経済の救世主」の役割を期待してはならないと思います。「農村振興計画」「農村居住環境の整備」の目的は、中国の農民の生活環境の向上であり、大きな経済上のアウトプットを生むようなものではないからです。

 今、また「アメリカ発の世界経済の波乱」が起きつつあるのかもしれませんが、2008年とは異なり、今(2018年)は、中国には世界経済の乱調を救う余裕はないことはもちろん、むしろこれまでの過剰な投資による巨大な債務を抱える中国が世界経済の乱調を拡大させる可能性の方が大きいことはよく認識しておく必要があると思います。

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