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2018年1月27日 (土)

農村宅地の「資格権」に見る中国経済の錬金術

 最近の中国の不動産関連のニュースの中で「農村宅地に関する資格権」「農村宅地に関する三権分離」といった言葉がよく出てきます。この話は、中国における「土地は公有という社会主義としての大原則の上に立った土地売買を正当化するための理屈」を象徴するような話なので、紹介してみたいと思います。

 中国は、社会主義国なので、全ての土地は公有です。都市部の土地については国有、農村部の土地(農地及び農民が住んでいる住居の宅地)は村や鎮などの地方行政組織の所有(中国語では「集団所有」)です。都市部でマンションの売買が行われているのは、都市部の土地の「所有権」は国にあるけれども、一定期間(通常は70年間)の「使用権」は売買できるので、マンションを買う人は建物とその土地の「使用権」を買えるのだ、というタテマエになっています。

 作物を耕作する農地については、所有権(村や鎮などの地方政府が持つ)のほかに「請負権」(農民が政府から作物の耕作を請け負っている権利)と「使用権」(実際にその土地を利用して作物を作ったり別の用途に使ったりする権利)が別にあり、「請負権」と「使用権」については売買したり、借金の担保にしたりできたりする、とされています。これを「農地の三権分離」と呼んでいます。

 農民が住んでいる住宅の宅地については、その土地で作物は作りませんから「請負権」はないので、従来「三権分離」の対象ではありませんでした。2000年代、都市近郊の農村部において、農民が自分の住んでいる宅地にマンションを建て、それを都市住民に売る行為が広く行われました(こうした農民用住宅地に建てられたマンション等の住宅は「小産権」と呼ばれています)。しかし、社会主義の原則上、農民用住宅地は、土地所有者(村や鎮などの地方政府)が農民に住むことを許可している土地であるのだから、マンションを買った都市住民にはその土地の上に居住する権利はなく、「小産権」は法律上認められないはずだ、という議論が起こり、裁判の結果、こうした「小産権」は認められない、という確定判決が出ています(このブログの2007年12月18日付け記事「都市住民の『小産権』購入は違法と確定判決」参照)。

 しかし、今年(2018年)1月15日、国土資源部の姜大明部長は、全国国土資源工作会議の席上、今後、農村宅地について「所有権」「資格権」「使用権」の三つを分離して考える政策を採ることを検討する、と表明しました。農村宅地の「所有権」は村・鎮などの地方政府にあり、「使用権」は実際に住んでいる農民にあるのは明かですが、これに「その土地に住む資格という権利」という意味で「資格権」をプラスして設定する、という考え方です。この考え方は、農村宅地について「所有権」は村・鎮等の地方政府に維持したままで、「資格権」「使用権」を土地開発業者に売却したり、借金の担保にしたりできるようにする、という考え方のようです。

 この考え方は、2007年に裁判所が出した「社会主義の法制度上、農村宅地に都市住民が住むことはできない」という判断を覆そう、という考え方ですが、中国では「中国共産党が全ての権力の上に立つ」ので、過去の判例だろうとなんだろうと、中国共産党が決定すれば、過去の裁判所の判例などいつでも覆せますので、こうした政策の設定は可能なんだと思います(正式には、中国共産党の会議で議論した後、全人代で法律にする必要があります)。

 こうした政策の案が出てきた背景には、「農民が都市部に長期間出稼ぎに出ており、農村に残っていた年老いた両親が亡くなったために空き家になっている農村の農民用住宅が多くなってきていること」があるのだと思います。空き家になっている農村の宅地を売却したり、借金の担保にしたりできれば、農民が資金を得られるようになる、というわけで、「農村の空き家対策」と「農民の資金源の多様化」を狙った一定の合理性を持った政策のように思えます。一方で、都市部に出稼ぎに出ていて、今後とも都市部で働き続けたいと考えている農民がまとまった資金を得られる道を開き、都市部で建設されているマンションをこれらの農民に買わせよう、という意図もあるように思われます。

 もともと存在していなかた「農村宅地の資格権」を認定することによって、それを売却や担保にして資金を得られるようにする、という政策は「何もなかったところから経済的価値を生み出す錬金術」のようなものですが、ある意味で、これは中国の経済政策の「お得意」の政策であると言えます。もともと所有権が公有であり、個人間で売買することができなかった土地について、「所有権と使用権は別」という考え方を導入し、使用権を売買することによりマンションの建設と売買を可能にした時点で、「土地の錬金術」は既にスタートしていたと言えます。今後、農村宅地について、新たに「資格権」なるものを設定してそれを売買や担保の対象にできるようにすることは、そういった中国における「土地の錬金術」の延長線上にある話なので、今後中国で何か新しい革命的なことが起こる、というわけではありません。

 ただ、こうした政策の方向性は、中国の経済政策が「バブル気味のマンション建設を抑制する」方向ではなく、セメントや鉄などの産業の雇用維持の意味もあり、今後ともマンション建設を継続・拡大させる方向にある、ということを示す意味で重要だと思います。

 中国の不動産関連の新聞記事で「農村宅地の資格権」に関する記事が注目されているのは、この政策がうまく行って、都市に出てきた「農民工」が農村の自分の家を処分して資金を得て都市部のマンションを買えるようになれば、都市部のマンション価格は維持される(あるいは上昇する)ので、そうなるかどうかを非常に気にしている既にマンションを持っている都市部住民が多いからだと思います。

 農村宅地の「資格権」については、まだ国土資源部長が「今後検討する」と言っている「政策案」の段階なので、実際に政策になるのかどうかはわかりませんが、「中国経済は今後も土地の錬金術の上に乗って発展していく」のかどうか、そうした「土地の錬金術」がどこまで破綻せずに進むことができるのか、を考える上で、今後とも注目すべき議論だと思います。

(注)「錬金術」と書くと否定的に聞こえますが、例えば、日米欧における中央銀行による国債購入も「政府が発行した『国債』という名前の借用証書を中央銀行が買い取って世の中に出回るお金を増やす」という意味では一種の「錬金術」ですし、「将来これを根拠にしてみんなが物を売買できるようになるだろう」という「想定」だけで数字の羅列のような電子情報に対してお金を積む仮想通貨も21世紀の「錬金術」と言えるかもしれません。

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