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2018年1月20日 (土)

「李克強氏は退場しない」ので「バブルつぶしは今はやらない」

 昨日(2018年1月19日)、中国共産党第19期中央委員会第二回全体会議(第19期二中全会)が終了しました。3月の全人代で議論する「憲法改正」と「政府人事」について議論されたと見られているのですが、人事については何の発表もありませんでした。

 「憲法改正」については、指導理念として、従来からの「毛沢東思想」「トウ小平理論」「『三つの代表』重要思想(江沢民元総書記が提唱した)」に加えて「科学的発展観(胡錦濤前総書記が提唱した)」と「習近平の新時代の中国の特色のある社会主義思想」が追加されることになるようです。

 「トウ小平理論」はトウ小平氏が亡くなった後で、「『三つの代表』重要思想」と今回の「科学的発展観」はいずれも提唱した総書記が退任した後で「後づけ」で憲法に追加された(される)のに対し、「習近平の新時代の中国の特色のある社会主義思想」は現役の総書記が提唱している「思想」を憲法に盛り込むことになる、という意味で、かなり重要だと思います。報道の中には「現役の指導者が提唱した考え方を憲法に盛り込むのは毛沢東以来」と指摘しているところもあります。

 憲法に書き込まれる「指導理念」は、あくまで「理念」なので、憲法に書かれたところで「権威付け」とはなるけれども、政策実行上、実体的な意味は大きくない、という見方もあります。一方、中国の法律の規定には「違法な行為を禁じる」といったトートロジー表現(同語反復で実質的には中身がないような表現)の規定も多いので、憲法に「習近平」という固有名詞の付いた「思想」が書き込まれると、習近平氏の政策に反対する意見を表明すること対して「憲法違反だから違法だ」として取り締まり対象にされる可能性があるので要注意だと私は思っています。

 このように「習近平氏への独裁的権力集中の方針」が目立つ今回の二中全会でしたが、それを伝える今日(2018年1月20日)付けの「人民日報」は、一面トップは当然この二中全会の公報(コミュニケ)を伝えているのですが、一面の下の方に「李克強氏がEUの委員長に『中国-EU観光年』の開幕式を祝する祝辞を送った」という記事が載っていました。EUには大変申し訳ないのですが、「この程度の軽い話」は、ハッキリ言って「人民日報」1面ネタの記事ではありません(普通は3面(国際面)に載るような案件)。私はこの記事の載せ方は「二中全会は習近平氏への権力集中へ向けた議論が行われたが、李克強氏も党中央の重要な位置から退場するわけではありませんぞ」というメッセージであると捉えました。

 今回、3月の全人代で決める政府人事(各省大臣クラスの人事)が発表されなかったのも、習近平氏と李克強氏の「権力闘争」がまだ決着していないため、まだ議論が必要だったからである可能性があります。

 一昨日(1月18日)、国家統計局は2017年10-12月期と2017年通年のGDPを発表しましたが、2017年通年のGDPについては先に李克強氏がカンボジアでの講演で述べたのと同じ6.9%増という数字が発表されました。通常、GDPの発表は北京時間午前10時に発表されるのですが、今回は前日に、15時(=株式市場が閉じる時刻)に発表される、と発表時刻の変更がありました。理由は、記者会見で発表する国家統計局長が二中全会に参加するため、とのことでしたが、事前に李克強氏が2017通年のGDPの数字を口にしていたため、実際にはそれと異なる数字なので株式市場にショックを与えないようにするために発表タイミングを変更したのではないのか、などといろいろ憶測を呼びました。結局は数字自体は事前に李克強氏が述べていたのと同じだったので、特段の驚きは与えませんでした。

 私は、李克強氏が2017年通年のGDPを正式発表の一週間以上前に外国で述べてしまったことや、そのGDPの正式発表時刻が前日になって変更になったことなどから、李克強氏の党内での位置付けが動揺しているのではないか、と見ることも可能だ、と考えていました。今日(1月20日)付けの「人民日報」の1面の下の方に「李克強氏がEUの委員長に『中国-EU観光年』の開幕式を祝する祝辞を送った」という記事を載せたのは、そうした見方を否定し、李克強氏は党内で今も健在であることを強調する意図があったように思います。

 一方で、上に書いたように2017年の中国のGDPが政府目標の6.5%を上回って堅調だったことや、同じく1月18日に発表された2017年12月の主要70都市の新築マンション価格が下がっていないことでわかるように、中国政府は2017年10月の党大会を通過してバブルの抑制に動いていると思われるにも係わらず、現時点でもあまり中国経済のスピードは減速してないように見えます。私は、これは、李克強氏が党中央の権力の真ん中から退場しようとしないので、習近平氏はさらに自らへの権力集中強化のため、地方の党幹部や産業関係者からの支持を集めるために現時点では痛みを伴う「バブルつぶし」のような政策運営を強く押し出すことができていないからだろうと考えています。

 もし、習近平氏が「経済のスピード・コントロールよりも自らへの権力集中を強化させることの方が重要だ」と考えているのだとしたら、今後中国経済は「制限速度」を超えて減速することなく突っ走っていくことになる可能性があります。

 一方、今、全く同じように、アメリカのトランプ大統領も今年(2018年)11月の中間選挙へ向けて「経済のスピードをコントロールするよりも自らへの支持を強固なものにすることの方が重要だ」と考えているように見えます。

 世界経済の一位と二位の国のトップがもし今後とも同じ方向に進んでいくのだとしたら、世界経済は本来ならば政策的コントロールの下で管理されるべき適切なスピードの範囲を大きく超えて加速して行ってしまう可能性があります。習近平氏もトランプ氏も回りの側近の忠告をあまり聞くようには見えないので(二人とも周囲は「イエスマン」ばかりになっているように見えるので)、世界の人々は今後大けがをしないようにシートベルトはしっかり締めておいた方がよさそうです。

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