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2018年1月 6日 (土)

新年早々習近平氏への権力集中をアピール

 中国中央電視台の夜7時のニュース「新聞聯播」の年初のニュースは、習近平氏への権力集中をアピールするものが並びました。2018年1月3日~5日のトップ・ニュースを並べると以下のとおりです。

1月3日:中国共産党軍事委員会は全軍一斉の「訓練開始動員大会」を初めて実施し、習近平党軍事委員会主席が全軍に訓示をした。

1月4日:習近平主席が河北省にある人民解放軍の中部戦区を視察した。

1月5日:習近平主席が「習近平の新時代の中国の特色のある社会主義思想と党の第19回大会の精神を貫徹して学習する討論会」で重要講話を行った。

 「訓練開始動員大会」は、報道によると7,000人の兵士が参加したそうで、映像で見る限り、多数の兵士や戦車、海軍基地や空軍基地とも映像でつないで、かなり壮大な「大会」の様子でした。2015年9月の「対ファシスト戦勝利70周年軍事パレード」(北京の天安門前で実施)や去年(2017年)8月の人民解放軍健軍90周年記念閲兵式(内モンゴル自治区で実施)もありましたので、私の印象は、「なんでこんなに頻繁に大規模な閲兵行事をやらないといかんのかなぁ」というものでした。

 一般の報道では、これらの相次ぐ大規模閲兵行事は、習近平氏が中国政府内部のみならず人民解放軍に対しても完全に一手に権力を掌握していることをアピールするため、といった解説がなされていますが、これだけ何回も繰り返されると、私には「習近平氏は、実際には人民解放軍内部を完全に掌握している自信がないので、大規模な閲兵行事を繰り返さないと不安なのではないか」と思えてしまいます。

 というのは、私は1980年代の中国共産党軍事委員会主席がトウ小平氏だった時代に北京に駐在していましたが、トウ小平氏は、閲兵式もやらないしテレビにもほとんど登場しないのに、彼が人民解放軍を完全に掌握していることは、中国人民も世界の人々もよく理解していたので、当時の状況と現在とをどうしても比較してしまうからです。トウ小平氏をはじめ葉剣英、李先念、楊尚昆といった当時の中国共産党の幹部たちは、日中戦争期や国共内戦期に実際に戦闘現場で兵士を率いて戦った人たちであり、かつて戦場で生死を共にした彼らの部下たちが当時の人民解放軍の幹部に多数いたことから、トウ小平氏をトップとする人民解放軍の掌握の力は誰も疑う余地のないものだったのでした。

 それに対して、習近平氏は軍人としての経験はありません。おそらく習近平氏は大規模な閲兵式を繰り返して自分が軍の最高司令官であることをアピールしなければ自分の軍の統率力は維持できない、と考えているのでしょう。

 「習近平の新時代の中国の特色のある社会主義思想と党の第19回大会の精神を貫徹して学習する討論会」も、習近平氏が党内における自分の「特別な地位」をアピールしたいと考えて行ったのでしょう。

 これらの動きは、習近平氏がおそらくは次の党大会(2022年)で毛沢東と同じ「党主席」の制度を復活させて自分がそれに就任したいと考え、それを実現させるための運動の一環なのでしょう。

 こうした「習近平氏への権力集中をさらに進めるための動き」と「共産党大会が終わったのに中国経済が減速していない状態」が同時進行していることは重要だと思います。習近平氏は、貧困対策等基層の人々に対する配慮にたびたび言及しています。2018年の年頭の辞においても中国人民の「獲得感」「幸福感」「安全感」に言及していました。この習近平氏の発想は、実際の政策の実行を担当する政府部門に一部に痛みを伴う可能性のある改革を実行するのをためらわせるのに十分だと思います。

 私の感覚から言っても、2007年の党大会後の経済に掛かったブレーキと「経済成長のスピードにブレーキが掛かかることを心配するよりも、バブルは小さなうちに潰しておくことを重視すべき」と考えていた当時の政策と、現在の2017年の党大会後の中国経済の状況と中国の経済成長の方向性とは、明らかに異なります。

 もっとも懸念されるのは、昨年(2017年)12月の中央経済工作会議で三つの課題のうちの最初の柱として「重大なリスクの緩和・解消」が打ち出された一方で、習近平氏の方針に伴う現場レベルでの「痛みを伴った改革の実施への躊躇(ちゅうちょ)」が結局は中国の経済改革を中途半端なものにしてしまわないか、ということです。

 既に報道されているように、中国の当局は、採算性の悪い地方のインフラ・プロジェクトを中止させたり、大手企業の借金体質の改善を迫ったりしています。中国当局から銀行に対する信用リスクの調査を指示されたことに起因して大連万達集団(ワンダ・グループ)が借金縮小のためにホテルやテーマパークの大半を売却すると発表した件については、このブログの2017年7月22日付けの記事「全国金融工作会議と中国の金融を巡る現在の状況」で書きました。また、各報道によると、借金による海外資産の買収を当局から問題視された海航集団が資産の売却に動いているとされています。こうした類の債務レバレッジ縮小のための大企業による不動産などの資産を売却する動きは、それなりに活発化しているようです。これらの動きは、「重大なリスクの緩和・解消」のための方策の一環だと見ることができます。

 一方、こうした動きは、マンション資産を持っている一般の人の間に「大企業は、不動産市場が冷え込む前に資産を売却しようとしているのではないか」との疑念を引き起こしているようです。「人民日報」ホームページの「財経チャンネル」にある「房産(不動産資産)チャンネル」には、2018年1月5日付の「証券日報」の記事「中央国有企業が頻繁に不動産資産を売却していることについて、専門家は、これは不動産市場からの事前撤退ではない、と述べている」と題する記事が載っていました。この記事では、最近大手企業の不動産資産売却が多いのは、借金体質の改善のためと、2016年は不動産価格が低迷していたので不動産の売却が難しかったことの反動があるためであって、これらの企業が不動産価格が今後下がると見て早めに売却しているのではない、との専門家の見方を紹介していました。

 やはり「債務レバレッジの緩和・解消」の様々な施策を講じると、どうしても「この先経済は冷える」との見方が出てしまうので、このあたりのバランスは難しいようです。もし、習近平氏の「権力集中」への動きを邪魔してはならない、と政策担当者が「忖度」するのであれば、「リスクの緩和・解消」のための施策の実行にはどうしてもブレーキが掛かってしまい、党中央が考えるほど「リスクの緩和・解消」の効果が上がらない結果になるのではないかと私は思います。

 すくなくとも、2018年第一週の「新聞聯播」を見ている限り、「習近平氏は、中央経済工作会議で議論された『リスクの緩和・解消』の推進よりも、自分自身への権力集中の方を重視しているようだ」と私は受け取ったので、2018年の中国経済は去年「党大会後に経済は減速する」と考えていたほどには減速しない、と見た方がよいのかもしれません。もちろんその代わり「リスクの緩和・解消」は進まないので、「バブルが崩壊するリスク」はより高まる、という点には注意する必要があります。

 2018年の第一週の日米をはじめとする世界の株価は「これでいいの?」と思えるほどの急騰で「ロケット・スタート」などと言われています。理由は「アメリカでの減税法案の可決」「北朝鮮がピョンチャン・オリンピック・パラリンピックを前にして対話路線に出てきている」などいろいろあると思いますが、「中国経済が党大会を通過しても意外に減速していない」ことも理由の一つだと思います。しかし、中国経済については、「減速していない」ことは「バブルが崩壊するリスクは高まっている」ことの裏返しであることは常に意識しておく必要があると思います。

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