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2017年12月23日 (土)

中国で不動産税の議論が本格化か

 12月20日(水)に中国の中央経済工作会議が終わりました。ポイントは、「今後三年間、重大なリスクの緩和・解消、貧困脱出の推進、汚染防止の三つの戦いを推し進める」ということでした。この三つは、先に開かれた中国共産党政治局会議で打ち出されていたものを、中央経済工作会議で正式に決めた、と言えるでしょう。

 先に政治局会議で議論されていた三つの課題に関して、中央経済工作会議において「今後三年間」という接頭語が付いたことについては、以下の三つの観点があると思います。

○金融リスクの緩和・解消は短期間で実行できるものではなく、三年間掛けてじっくり取り組むべき重要な課題であることを党中央も認識している点を評価すべきだ。

○金融リスクの緩和・解消は非常に重要な課題だが急速に進めると様々な問題が生じるので三年掛けてゆっくり進めよう、ということで、急激な引き締めは避けよう、という意図が見えるので、中国経済の急激な変化はなさそうだ。一方、11月22日付け「人民日報」に掲載された中国人民銀行周小川氏の論文(このブログの2017年11月25日付け記事「『人民日報』掲載の周小川中国人民銀行総裁の論文」参照)に示された「危機感」に比して「三年間でじっくり取り組む」との今回の方針は危機感が甘いのではないか、との見方もあり得る(中国の株式市場の反応等を見ていると、「急激な引き締めはない」と見たマーケットの多くの関係者の一種の「安心感」が見て取れます)。

○次の党大会(2022年)までの5年間のうち、最初の三年間は金融リスクの緩和・解消の重点期間なので露骨な投機は避けた方が良さそうだ。しかし、次の五年間のうちの三年経過した後の次の党大会直前の二年間は「金融リスクの緩和・解消」よりも経済成長優先路線になるだろうから、「ウハウハ投機」はその時になったら再開させればよいので、それまではおとなしくしておこう(「投機筋」の中にはこうした受け取り方をする「筋」もあるかもしれませんが、「三年間おとなしくする」方針は、その間、金利があまり上がらない前提ならばいいのですが、今後金利が上昇する場合にはおとなしくしている間収益が上がらない一方で金利負担が増すので大量の借金を抱えた「投機筋」が保有する資産の投げ売りに出る可能性があるので要注意です)。

 今回の中央工作会議の議論には出てきていないのですが、「不動産税」(マンション等の不動産資産に対して掛ける財産税)は今後の中国の経済政策の中で重要な課題になりそうです。というのは、今回の中央経済工作会議の最終日の2017年12月20日付け「人民日報」7面に財政部長の肖捷氏が「現代的な財政制度の確立を加速させなければならない(第19回党大会の精神を真剣に学習し宣伝し貫徹しよう)」と題する寄稿文を載せており、その中で「不動産税の立法、個人所得税改革、健全な地方税体系の改革の作業を穏やかに推進しなければならない」と述べているからです。

 この寄稿文では、不動産税についてことさらに強調しているわけではないのですが、マンション市場では関心が高かったと見えて、「人民日報」ホームページ内にある「財経チャンネル」の中の「房産(不動産資産)チャンネル」には、この肖捷財政部長の寄稿文に対する解説記事が多く掲載されていました。

 このページで私が閲覧した記事のうち2017年12月21日付けの「証券日報」の記事に「将来の不動産税は評価価値に応じて徴収され、既存の保有マンションに対しも課税される」というのがありました。この解説記事では、実際の不動産税の施行においては、解決すべき様々な問題点がある、と指摘しています。この記事で指摘している点を私なりの解説を加えて記すと以下のとおりです。

○不動産税は所有者が明記された不動産登記に基づいて徴収される必要があり、不動産登記制度の確立が必須である。

○不動産税は、課税評価額に対して課税されることになるが過去に取得されたマンションに対しても課税されることは明らかである。そのためには各都市において既存のマンションに対する評価体系を確立する必要がある(これに関して、この記事では、現在、マンション価格抑制のために多くの都市で「指導価格」が示されているが、実際の取引価格との価格差がかなりあり、「一物一価」の評価方法はいまだに確立されていない、との不動産専門家の意見が示されている)。

○不動産税導入のタイミングについても、全国一律に導入するのではなく、各都市がそれぞれの状況に応じて導入した方がよい(例えばマンション価格が高騰している都市では早期に導入し、マンション在庫が多い中小都市(中国語で「三、四線城市」)では導入を遅らせる、など)との議論がある(注:日本の場合「法の下の平等」という憲法上の大原則があるので、同種の税金について場所によって導入時期を変える、というやり方はハードルが高いが、中国の場合「法の下の平等」という概念は非常にゆるいので(実際、都市部と農村部では人々が持っている権利がかなり違う)、場所によって不動産税の導入時期を変える、というやり方には抵抗はないと思われる。ただし、地域によって不動産税の導入時期を変えた場合、投機資金によるマンション購入が不動産税のない地域に集中する、といった問題が生じる可能性はある)。

 この記事では、2000年頃、中国で最初のマンション・ブームが起きた頃、不動産税の導入が議論になった時期があり、上海や重慶などで不動産税の試験的導入が行われたことがあったが、これら試験導入についていまだに結果が出されていないことを指摘して、不動産税の導入は簡単ではないことを指摘しています。

 また、この記事では、不動産業界内の声として、今後不動産税制度の確立が加速される可能性が認識されており、2019年に法律上の制度が確立し、2020年に「税収に関する基本原則」が目指される、との見方が出ていることを紹介しています。しかし、法律制度の確立が即徴税の実施に繋がるかどうかはわからず、不動産税導入の動きを見極める必要がある、とも指摘しています。

 財政部長が「人民日報」に寄稿した文章の中で不動産税の立法について言及したことの意味は小さくないと思いますが、上に書いたように、業界内では「立法は2019年、徴税方法の詳細が決まるのは2020年、その上、実際の徴税は法制度確立後すぐになされるかどうかは不明」といった見方がある以上、実際に不動産税が課税されることになるのはかなり先で、現在の不動産税立法へ向けての議論が今すぐ中国のマンション市場に影響を与えることはなさそうです。ただ、現時点で、既に中国のマンション市場はバブル化している(実際の住むための価値に比べて売買価格がかなり高い水準まで高騰してしまっている)と考えられるため、不動産税導入の議論は、今後の金利動向の変化とも相まって、今後の中国のマンション市場、ひいては中国経済全体に大きな影響を与える可能性があるので、引き続き注目していく必要があると思います。

 なお、12月13日のアメリカのFOMC(連邦公開市場委員会)による5回目の利上げ決定後、ドイツ国債やアメリカ10年物国債の金利が上昇傾向にあります。これらの金利上昇が長続きするかどうかはわかりませんが、ここ数日、「人民日報」ホームページ「財経チャンネル」から入れる「人民信金融」で販売されている「理財商品」の中に「特恵」と称して「償還期限333日、金利7.2%」というのが登場しました。「人民信金融」のページができたのは今年(2017年)7月ですが金利7%を越える理財商品を見たのは私は初めてです。

 12月14日、中国人民銀行はアメリカFOMCでの利上げ決定を受けて、定例オペ(公開市場操作)を行う際のリバースレポ金利を0.05%引き上げました。これを伝えるロイターの記事では「5ベーシスポイント(0.05%)は引き上げ幅としては小さく、象徴的意味合いが強い」とする専門家の意見を紹介していますが、もしこうした金利動向を受けて、従来7%だった理財商品の金利が7.2%に上がったのだとしたら(0.2%の金利上昇は小さくないので)、それは「象徴的意味合い」ではなく「実体的な金利引き上げ効果が出る」ことを意味します。もし、今後、中国国内の実質的金利が上昇傾向を描くとすると、債務レバレッジが高い(=借金して買ったマンションを担保にして銀行から金を借りてさらに高いマンションを買っているような状態の)中国のマンション市場に大きな影響が出る可能性があります。

 日本時間今朝(2017年12月23日)、上院・下院を通過した減税法案についてトランプ大統領が署名し、法案は成立しました。現在、アメリカ経済は順調ですが、IMFのラガルド専務理事などは「天気がよい時にこそ、次の雨に備えて屋根の修理をすべきだ」と主張しているのですが、政治の世界では「天気がよいのだから、今こそどんちゃん騒ぎすべきだ」との考え方も強いようです。最近のアメリカの政策を見ていると、中国に対して「経済がそれなりにうまく行っている今こそ債務レバレッジ改革や国有企業改革を急いでやるべきだ」と強く言う元気がなくなってしまうのですが、今回の中国の中央経済工作会議で決まった「三年で金融リスクの緩和・解消を図る」という方針について「危機感に対する感覚がぬるい」と考えるか、「急がずにじっくり取り組むという姿勢は評価できる」という考え方の方が正しいのか、私には今のところ判断ができません。

 すくなくとも西暦で下一桁に「7」の付く年には経済危機が訪れる、と言われた2017年はひとまず平穏に終わりそうですので、来年もこのまま「平穏な時期」が続いて欲しいものです。

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