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2017年11月

2017年11月25日 (土)

「人民日報」掲載の周小川中国人民銀行総裁の論文

 「人民日報」2017年11月22日付けの6面に周小川中国人民銀行総裁による「システミック金融リスクを発生させないという最低ラインを守る」と題する論文が掲載されていました。私はこの論文は中国経済の現状と今後の政策の方向性を示唆する非常に重要な論文だと思うのですが、日本の新聞やネット等ではその内容が余り報じられていないようですので、紹介してみたいと思います。

 副題に「第19回党大会の精神を真剣に学習し、伝え広め、貫徹しよう」とありますので、中国共産党大会関連のあくびの出るような宣伝論文のようにも見えてしまうのですが、これは「党中央の意向に沿って書いているのだぞ」と強調するための「添え字」であって、論文の中身は極めて率直かつ真剣で、私にはもうすぐ退任する予定の周小川氏が抱いている「危機感」を感じさせる非常に中身の濃いものであると思えます。

(この論文は、このブログの先週の記事で指摘した11月14日(火)付日本経済新聞朝刊21面の「一目均衡」というコラムで証券部の土居倫之記者が言及している11月4日に出されたという周小川氏のメッセージと内容は同じものである可能性があります。ただし、上記の日経のコラムでは周小川氏のメッセージの内容自体は詳しくは紹介されていません)。

--2017年11月22日付け「人民日報」6面「システミック金融リスクを発生させないという最低ラインを守る」(周小川中国人民銀行総裁)のポイント--

○システミック金融リスクを防ぐことは金融の改革と開放を加速させることに依存している。

○システミック金融リスクの発生を防止することは金融政策の永遠の課題である。

・まず我が国が直面する金融リスクを正確に判断する必要がある。総体的に見て我が国の金融情勢は良好だが、当面及び今後の一時期、我が国の金融領域には発生しやすいリスクが存在している。内外の多重的な要因による圧力の下、リスクは幅広く存在し、隠蔽され、複雑で、突発し、伝染し、危害を与えるという特徴を有している。構造的バランス失調の問題は突出しており、違法・規則違反はいくつも発生し、潜在的リスクと隠れた病巣は蓄積されつつあり、脆弱性は明確に上昇している。「ブラックスワン」の発生を防止することはもちろん、「灰色のサイ」のリスクの発生も防止しなければならない。

(注)「ブラックスワン」と「灰色のサイ」については、このブログの先週(2017年11月18日付け)記事「あの手この手の中国マンション政策」を参照のこと。

・マクロ面の金融から見れば、高いレバレッジ率と流動性のリスクがある。2016年末、我が国のマクロのレバレッジ率は247%であり、そのうち中小企業部門のレバレッジ率は165%に達しており、これは国際的な警戒ラインより高い。一部の国有企業の債務リスクは突出しており、「ゾンビ企業」の市場からの退出は緩慢である。一部の地方政府では「名目上は株だが実際は債券」といった類のものやサービスの購入といった形でレバレッジを加えているところもある。2015年の株式市場における異常波動は、一部の都市で不動産価格のバブル化を招いた。これは債券の仕組み化と不動産ローンの急速な拡大等のレバレッジの高度化が直接に相関していたと言える。一部の高リスクの操作が「金融イノベーション」の名目の下、多くの市場でバブルの集積を推進している。国際経済の回復力の欠如と主要な国の経済政策の外国への波及効果は、我が国の国境を超えた資本流動と為替相場等に対し外部から衝撃を与えるリスクとなっている。

・ミクロ面では、金融機関の信用リスクがある。近年来、不良な貸し出しは一定程度増えており、銀行業の資本とリスク対応能力を侵食している。債券市場におけるデフォルト案件は明瞭に増加しており、債券の発行量は一定程度減ってきている。信用リスクは、相当程度、社会及び海外における我が国の金融システムの健全性に対する信頼感に影響を与えている。

・マーケットと業態と地域を越える影の銀行と違法犯罪のリスクがある。一部の金融機関と企業は、政府の監督機関の空白及び欠陥を狙って「エッジボール」を打っており、裁定取引(さやとり行為)がひどい。理財業務は多層に組み上げられており、資産と負債に期限のミスマッチがあり、責任と権利関係が複雑化している。各種の金融ホールディング会社が急速に発達しており、一部の実業企業は投資金融業に熱中し、インサイダー交易や関連交易で短期的な金稼ぎをやっている。一部のインターネット企業は、オンラインで不法に資金を集めるなどして地域を越えた民衆騒動(中国語で「群体性事件」)を起こしている。少数の金融界の「大物」は許認可権限を有する機関の「内通者」と共謀して、火中の栗を拾い、利益を移動させ、個別の監督管理部局の幹部が監督対象者を捕虜にし、投資者や消費者の権益保護とは反対のことをやっている。

○金融リスクの原因は科学的に分析する必要がある。

・マクロ経済調整と金融監督体制の問題がリスクを構造的なものにしている。マクロ経済調整は、タイミング的に非常に難しい舵取りが要求される。一方で、新しい業態や新しい産品が急速に発展する中、マーケットや業界、地域を越えた金融リスクが伝達されるような状況の下、監督管理機関の不完全性の問題が突出してきている。「鉄道警察がそれぞれの所管地域を担当する」というような監督管理方式において、同じような種類の金融業に対する規則が一致していない、重要な部分の管理監督が抜け落ちる、といった問題が起きる。統計データのインフラがまだ集中的に統一されておらず、システミック・リスクを判断することの難しさが増大している。中央と地方の金融監督管理の職責が不明確であり、一部の金融活動が金融の監督管理の外に置かれている。

○金融リスクを防ぐためには以下のようなことをすべきである。

・金融機構と金融マーケットを改革し開放すること。

・金融マーケットの改革を深化させ、社会に対する融資システムを向上させること。

・金融の対外開放を絶え間なく拡大し、競争によって向上と繁栄を進めること。

・金融監督管理制度を完全なものにすること。

・党の指導を強化し、金融の改革と発展の方向が正しい方向を向くことを確保すること。

・整備された開放的な機構の欠如がリスクを容易に発生させ、多発させることになる。一部の業種では、保護主義が依然として存在しており、金融監督規制は国際的に通用する基準に比べて相対的に劣後しており、金融機関の競争力は不足しており、リスクを見極める能力は弱く、金融市場を効率的にコントロールし、資産バブルと金融リスクを防ぐことが有効にできない。境内外(大陸部と香港や外国)とが接続しておらず、内外の価格差を利用して一部の機関は国境を越えた投機をやっている。

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 金融専門用語も多く、私の中国語力では、間違った訳になった部分もあると思いますが、この文章は相当に強烈な「現状批判」です。「いろいろ批判はあるが、中国の政策はうまくやっている」という文章が多い「人民日報」の中において、これだけ強烈に現状(金融の現状とそれに対する政府の体制の欠陥)を率直に指摘した文章は特に目に付きます(私は、最近の「人民日報」は習近平氏を礼賛する記事ばかりで2013年頃に比べて「鋭さ」がなくなった、と書いたことがありますが、その批判は撤回します)。この文章は、周小川氏という中国金融界の中では「誰にも文句は言わせない」ほどの大人物だから書けた文章だと思います。普通の人が同じ文章を書いたら、「人民日報」に掲載できないどころか、ネットのブログにアップしただけで削除される可能性すらあるほど「刺激的だけれども正直な内容」だと私は思います。

 最後のところに「党の指導を強化し・・・」とあるのは、周小川氏が政権の現職の重要人物ですからこういう言い方をするのは当然なのですが、この部分が意味するところは、「地方政府や企業は制度の欠陥を狙って金儲けするようなことをせず、党中央の政策方針にしっかりと従え」と主張している、と捉えれば、私としても納得できます。ネットで見たロイターのニュースでは、この人民日報の周小川論文について「金融当局、中央・地方間で政策協力強化―中国人民銀総裁=人民日報」というタイトルで報じていますが、ロイターは周小川論文の「地方はちゃんと中央の言うことを聞け」の部分をピックアップして報じているのだと思います(ロイターの記事は内容が簡単過ぎて、上に紹介したような周小川氏の過激とも言える現状批判が全く伝わってきません)。

 この「周小川論文」が掲載されたのと同じ11月22日、「人民日報」22面では、政府関係三部門が湖北省武漢で不動産政策に関する会議を行ったことを伝えています。他の新聞の記事等を総合すると、この会議は、住宅を所管する住宅都市建設部と土地を所管する国土資源部と中国人民銀行が行った会議のようです。「座談会」と称しているので、それほどハイレベルの会議ではなかったようですが、「住宅バブル抑制のために、今後とも住宅価格抑制政策は、動揺せず、力を緩めることをせずに進める」ことを改めて確認したこの会議は、上記の「周小川論文」と合わせて読むと結構インパクトがあったと思います(中国政府は、経済に対する「引き締め」を揺るぎなくやる決意だ、ということを示しているので)。

(注)周小川氏の後任として中国人民銀行総裁になる候補の一人として現在湖北省党書記をやっている蒋超良氏の名前が挙がっています。今回、住宅バブル対策の会議が湖北省武漢で開かれたのも、そのことと関係があるのかもしれません。

 11月23日の上海総合指数は対前日比2.3%安と久々の「暴落」でしたが、おそらくは上に掲げたような新聞記事を受けて、マンション・バブル対策のため、政府は「引き締め」に舵を切っている、と中国の人々も感じたからだと思います(そのほか、最近、中国国債の金利が上昇傾向にあることも背景にあると思います(参考:日本経済新聞2017年10月31日付け朝刊9面記事「中国長期金利 上昇に勢い 3年ぶり一時3.9%強」))。

 一方、「人民日報」ホームページ(人民網)の財経チャンネルの不動産チャンネルには11月24日付けの「証券日報」の記事が載っていました。タイトルは「10都市のマンション価格が下落し一年前の水準に戻る マンション市場の資金があるいはA株市場に転戦するか」でした。この記事では、マンション価格の下落に伴い、マンション市場の資金が株式市場に回るかどうか関心を持って見ていく必要がある、と指摘しています。背景には、ちょうど3年前、2014年初冬頃からマンション価格が下落する傾向の中、上海株が上昇した事実があります(2015年6月をピークに株バブルは崩壊)。私は、上に紹介した「周小川論文」の非常に厳しい現状認識を踏まえれば、「マンション価格が下がれば、今度は株価が上がるかもしれない」といった見方はあまりにも脳天気だと思います。おそらくは、中国の人々も、今度は「マンション価格が下がったら、株価が上がるさ」などと脳天気には考えていないかもしれません。

 上海株式市場を動揺させた一つの原因だと思われる11月22日付け「人民日報」の中国人民銀行周小川総裁の論文について、日本のマスコミはほとんど伝えていない(ロイターはネットニュースで報じていたが内容が簡単過ぎる)ので、今日、ブログでポイントを紹介させていただきました。そして、こうした鋭い指摘のできる周小川総裁がまもなく退任することの意味は大きいことも、一言付け加えさせていただきたいと思います(後任の方もたぶん非常に優秀な方だとは思いますが、後任の方が世界の金融関係者にも一目置かれている周小川氏と同じレベルに到達するのは結構大変だと私は思っています)。

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2017年11月18日 (土)

あの手この手の中国マンション政策

 びっくりするほど価格が高騰して住みたい人が買えない状況になっている中国のマンション市場には、様々なプレーヤーが様々な思惑で係わっています。私が思いつく「中国マンション市場に係わっているプレーヤー」を列記してみたいと思います。

○自分が住むためにマンションを購入したいと思っている人

○資産保持のためにマンションを購入したいと思っている人(この中には「積極的に将来の値上がりを見込んで投機的にマンションを購入しようとしている人」と「銀行の預金金利よりはマンションの値上がり可能性の方が大きいと見て『貯金の延長線上』という観点からマンションを購入しようとしている人」がいると思います)。

※先日見た中国のネット上の記事に「一人娘のために10戸もマンションを保有している老夫婦」の話がありました。

□一定水準以上のマンション建設・販売を維持したいマンション開発業者、不動産仲介業者、マンション建設業者

□過去に借り入れた借金を返済するため是非とも新規マンションを販売しなければならないマンション開発業者

☆住みたいマンションが高価すぎて買えないと思う人が増えて政府に対する不満が高まることを心配する政府

☆一定水準以上のマンション建設が継続して、建設業の雇用が維持され、鉄鋼、セメント等の需要が維持され、経済の水準が維持されることを望む政府

☆マンション市場がバブル化し、マンション建設に投入された資金及びマンションを購入した人の住宅ローンが不良債権化し、同時に理財商品等の持つリスクが顕在化し、金融システムが不安定化することを何としても避けたい金融当局

☆土地使用権をマンション開発業者に販売することによって財政収入を得たいと考える地方政府

 これらの「プレーヤー」の思惑は様々です。政府内部でマンション市場の「望むべき姿」が統一されていないことが政策を複雑にしています。政府の関係者の中でも、高くてマンションを買えない人々の不満が高まることを心配するセクションの人は、マンション価格の高騰が続いては困ると考えています。金融当局は、経済実態と掛け離れてマンション価格が高騰することは避けたいと考えているはずですが、マンション価格が急落することも避けたいと考えているでしょう。関連する雇用や産業のレベルを維持させたい政府部署の人は、マンション価格が下落しては困ると考えるでしょう。

 一番やっかいなのは(そして、他の諸国では存在せず、中国独自のものと言えるのは)、マンション開発業者等に土地使用権を売り渡すことによって財政収入を得ている地方政府です(中国では、土地に私有権はなく、所有権は国または地方政府にあるので、地方政府は一定の補償金を農民等に支払って土地を収用した後、開発業者に土地使用権を売り渡して巨額の財政収入を得ることができます)。土地譲渡収入に頼っている地方政府は、財政収入の観点だけから見れば、マンション価格は高ければ高いほどうれしいのです。

 「人民日報」ホームページ内の「財経」チャンネルの「不動産チャンネル」に2017年11月8日の経済参考報の「北京の今年の土地収入は3,000億元に達する見通し」というタイトルの記事が載っていました。この記事によると、今年(2017年)の北京市の土地譲渡収入は目下のところ2,374.5億元で、これは既に歴史的記録を超えており、今後譲渡される見込みの分を加えると通年で3,000億元(5兆1,000億円)に達する見込みとのことです。

 地方政府の多くが土地使用権を売却することによって得られる収入に頼っている状況については、私が北京に駐在していた10年前には既に問題視されていました(このブログの2007年7月13日付け記事「中国の地方政府による無秩序な土地開発」、2008年12月3日付け記事「景気刺激策の中で農地の収用は抑制可能か」参照)。地方政府による土地の売却は、農民等から農地を奪うことになり「持続可能」ではありません。

 ところが、北京駐在から帰国した後も、2010年頃、万博が行われた上海において財政収入の半分が土地譲渡収入だった、などというニュースを見聞きしたので、私は「全然改善されてないじゃないか」と思ったものでした。で、上に紹介した北京市の例で見るように、地方政府が土地譲渡収入に頼る、という状況は、それ以降も全く改善されている様子はないようです。マンション開発やその他の土地開発が止まることは地方政府の大きな収入減を招くわけですから、地方政府が行うマンション価格抑制策に腰が入らないのは明らかです。

 多くの中国の人々が資産保全の目的でマンションを購入しようとするのも、「マンション価格が下がったら地方政府自身が困るから、政府は絶対マンション価格が下がるような政策を継続的に採り続けるはずがない」と政府の足元を見透かしているからです。

 一方で、政府がマンション価格高騰に対して何も政策を採らないと、高くてマンションを買えない階層の人々の不満が高まるので、政府は効果があるかないかは別にして矢継ぎ早にマンション価格抑制政策を打ち出さざるを得ない状況に追い込まれています。このブログの今年5月6日付け記事「中国のマンション市場に『状況変化』の気配」でも紹介しましたが、最近は「購入制限」「住宅ローンに対する制限」「価格制限」「販売量の制限」等のマンション価格高騰抑制策が実施されています(「政府に政策あれば、我々には対策がある」ということで、一世帯あたりのマンション購入戸数が制限されたことから、夫婦が「偽装離婚」して購入するマンション戸数を増やした例などがよく知られています)。

 「住宅ローンの制限」は、例えば、頭金を一定割合以上にする(特に二件目以降の購入の場合は頭金の割合を相当大きくする)といった類のものも含まれます。こうした政策を打ち出すと、今度はマンション開発業者が購入希望者に頭金に対するローンを組ませるようなことをし始めたので、最近は「頭金ローンの禁止」といった政策も打ち出されているようです。

 こうした様々なマンション購入抑制策は一部で効果が出てきており、北京などではマンション価格の上昇に歯止めが掛かっています。今日(2017年11月18日)中国国家統計局が発表した2017年10月のデータによると、新築住宅価格は北京では前月より0.2%値下がりしたそうです(上海は0.3%値上がりでした。全国70都市中対前月比値上がりが50都市、値下がりは14、変わらずは6なので、全国ベースではマンション価格が下落基調に入ったとは現時点では言えません)。

 なお、「人民日報」ホームページ「財経チャンネル」の「不動産チャンネル」に載っていた2017年11月15日付けの「証券日報」の記事「北京の中古マンションは再び下落 買い換えたいマンション所有者は売り急いでいる」によると、北京の中古マンション市場では「天気が冷えている中、市場も冷えてきている」という状態になっているようです。

 中国各地でマンション価格高騰抑制政策が相次いで打ち出されている中、マンション開発業者の中には「今はガマンのしどき。またしばらくすればマンション価格が上がる時期が来る」と思っているところもあるようで、一部では「売り惜しみ」の状況も出てきているようです。昨日(2017年11月17日)付け「人民日報」22面には「成都ではマンション購入には抽選が必要になった」という記事が載っていました。この記事によると、四川省成都は、上海、江蘇省南京、湖南省長沙に次いで四番目の「公的抽選」が必要となる都市となった、とのことです。マンション販売抑制策が効いて、「売り惜しみ」等によりマンションの供給量が絞られる中、マンションを買いたい人の数は依然として非常に多いので、各地で販売時に夜中から並ぶ、といった弊害が出てきているため、地方政府がマンション販売時に「抽選」を実施することになったようです(大都市で自動車のナンバープレートが抽選によって与えられるのと似たような制度)。マンション開発業者ではなく地方政府が抽選を行うのは、業者に抽選をやらせると関係者に有利なマンションを先に割り当てて、一般客用の抽選には条件のよくない案件を回す、といった不公正な行為が行われる可能性があるからのようです。

 この「人民日報」の記事の最後の方には専門家の以下のような認識が掲載されています。

「『価格制限+抽選制の実施』といった政策は需要と供給がバランスしていない市場の状況がもたらした短期的に有効な暫定的な対応策である。マンション市場には周期性があり、売買双方の需要と供給の関係はお互いに関係して変化し、常にその位置を変えるものだ。実際、2016年上半期、成都の多くのマンション販売部署にマンションを見に来ていた人は多いとは言えなかったし、2015年には「さっぱり」(中国語で「惨淡」)という形容が用いられていた。」

 この部分は、2014年秋から2015年~2016年初(上海株バブル崩壊や「中国発世界同時株安」が世界を駆け巡った頃)に冷え込んでいた成都のマンション市場が今は過熱気味になっていることを示しています。これと日本経済新聞電子版の今年(2017年)8月30日付け記事「中国の地方政府、土地売却加速 景気対策に財源確保」を合わせて読むと、中国では、2015年を底とした経済減速に対して、今年(2017年)秋の共産党大会へ向けて経済を刺激するため地方政府が土地売却を増やして様々な投資を増やしてきたことが明確にわかります。現在の中国のマンション価格の高止まりはその結果なのですから、今後たどるべき道は以下の二つのうちのどちらか、ということになります。

○中国の地方政府が土地売却を減らし、その結果として投資が減り、中国経済は減速し、マンション価格も下落する。

○中国の地方政府は土地売却を継続し、その結果として投資は維持され、中国経済は一定の速度を維持し、マンション価格も維持されるかまたはさらに上昇する。ただし、地方政府に売る土地がなくなった時、この流れは突然ストップする。

 どちらの道を行くにしても「ソフト・ランディング」にはなりそうもないような気がします。

 今、日米欧の株価が乱高下しています。ある解説者は「最近出た中国の経済指標がいまひとつ芳しくなく、中国経済に対する不安が出てきているため」と解説しています。でも、中国共産党大会が終わったら中国経済が減速する可能性がある、といった話は、前から耳にタコができるほど聞かされてきた話のはずです。それなのに、今更、「中国の芳しくない経済統計が出てきたので、市場に不安が広がっている」というのは変な気がします。

 おそらく、今、世界のマーケットは「富士川の合戦における平家軍」の状況なのかもしれません。治承四年(1180年)、「源氏の勢力は侮れないかもしれない」という一抹の不安の中、富士川に陣取った平家軍は、京から連れてきた楽士や遊女とともにどんちゃん騒ぎの宴を催します。そして、翌朝、水面から飛び立つ水鳥の羽音に驚いて、源氏と戦うことなく敗走したのでした。どんちゃん騒ぎで騒いでいる中で、平家軍の中には「不安感」が満ち満ちていたのでしょう。

 11月14日(火)の日本経済新聞朝刊21面の「一目均衡」というコラムに証券部の土居倫之記者が「『灰色のサイ』を手なずけよ」という文章を書いています。土居氏はこの文章の中で中国人民銀行総裁の周小川氏が11月4日に出した「ブラックスワンの出現だけでなく、灰色のサイのリスクも防がなければならない」というメッセージを紹介しています。「ブラックスワン」とは「発生確率は小さいが、実際に起きたら影響は甚大になる事象」のことですが、「灰色のサイ」とは、高い確率で存在し、みんながその存在を認識しているにも係わらず軽視されがちな問題のことだそうです。サイは灰色が普通です。「灰色のサイ」は普通の存在で普段はおとなしく、そこにいることは皆が知っているが、突然暴走し出すと誰も止めることができなくなる、という事情を背景にした表現なのだそうです。

 中国のマンション価格高騰とそれに関連する債務問題(理財商品の問題も含む)は、誰もがその存在を知っているけれども「今すぐに暴れ出すことはないだろう」と思っている問題です。私は、来年三月の全人代までには退任するだろうと言われている周小川氏が最近発しているこうした様々なメッセージは非常に重要で、多くの人が気に留める必要があると思っています(このブログの今年10月21日付け記事「中国人民銀行周小川総裁の口から『ミンスキー・モーメント』」参照)。

 前にも紹介しましたが、「中国バブルはなぜつぶれないのか」(森山文那生訳。日本経済新聞出版社)の中で著者の朱寧氏は、売買価格と賃料利回りの比較から、中国のマンション価格は既に「住む価値」を大きく越えて高騰していることを指摘しています(このブログの今年9月30日付け記事「中国のマンションにおける『住む価値』と価格との差」参照)。「住む価値」を越える価格のマンションを購入したいと思う人が多数存在する一方で、政策によって現在は抑制されているが将来は価格はもっと上がるはずだと考えているマンション開発業者が「売り惜しみ」をした結果、需給バランスが崩れて政府がマンション購入のための「公的抽選」を行わざるを得なくなっている、という中国の現在の状況は「まともではない」と言えます。私には、この中国の「マンション市場のゆがみ」は、今すぐにでも崩壊する危険性をはらんでいると思います(上に書いたように、上海、南京、長沙、成都で政府が抽選をしなければならないほど過熱している一方で、北京では新築マンションの価格が下落気味であり、中古マンションの価格は明らかに下落している状況は、既に「変化の兆しが見えている」と言ってよいのではないかと思っています)。

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2017年11月11日 (土)

「秒殺」「特恵」の「理財商品」のリスクはいかほどか

 以前のこのブログで、「人民日報」ホームページ上で「理財商品」が販売されていることについて、「本来リスクのある金融商品について一般人民に『中国共産党による暗黙の保証』が付いていることをイメージさせることになるので問題ではないか」といった趣旨のことを書いたことがあります(このブログの2017年7月8日付け記事「またぞろ『中国の理財商品は大丈夫なのか』という話」、10月7日付け記事「中国が『暗黙の保証』の問題に対処できていない現状」)。10月7日の記事では「今度の中国共産党大会での議論の中で問題視され、共産党大会終了後にはサイトが閉鎖されてしまうのではないか、とすら考えています。」とまで書きました。しかし、実際は特段問題にはされていないようで、現在でも「人民日報」ホームページの中の「財経」というサイトの中の「人民信金融」というサイトで「理財商品」が販売されています。

 「問題にはされていない」どころか、最近、「財経」サイトのトップページの一部に「人民信金融」の中に列記されている「理財商品」のリストが掲載されるようになり、「人民日報」サイトでの「理財商品」の購入が「より便利に」なりました。この「理財商品」の販売サイトは「広告」ではありません。この「理財商品販売サイト」は「人民日報社」と金融関連会社が共同で運営しているもので、いわば「人民日報」ホームページの「本来業務」の一部として「理財商品」が販売されているのです。

 今日(11月11日)は、中国のネット通販最大手の「アリババ」が始めた「独身の日」で、中国のネットでは大々的な「販売セール」が展開されています。「人民信金融」のサイトも例外ではなく、サイトを開くと「11月11日の特売」を示すポップ広告がバンと出てきます。「独身の日」のセールに合わせて、なのかもしれませんが、今、「人民信金融」のサイトでは「特恵」とか「秒殺」とか表示された「特売品」の「理財商品」も販売されています。

 「特恵」は「特別優遇金利」の意味なのはすぐわかったのですが、「秒殺」という中国語は私は知らなかったので調べてみました。手元の電子辞書(2007年購入)にも載っていなかったので、ネットで調べたら、「秒殺」とは、もともとは格闘技用語で「極めて短時間で相手を倒す」という意味なのだそうです。それから転じて、ネット販売サイトでは「すぐ売り切れる」という意味になり、そこから「販売個数限定の特別優遇商品」という意味で使われるようになったのだそうです。テレビ通販ならば「数量○○個限定! 今すぐお電話を!」という「ノリ」だと思います。

 私は「秒殺」という単語も知らなかった程度のネット通販には「うとい」おじさんなのですが、「人民日報」のホームページ内のサイトで、しかも「理財商品」という本来慎重にリスクを検討して購入しなければならない金融商品について「秒殺」という記述を使う「ノリ」には私はついていけない感じを強く持っています。

 今、「人民信金融」のサイトに載っている定期ものの「理財商品」では、例えば、「普通」のものだと「年率6.30%、満期期限160日、10,000元単位」、「特恵」のマークがついているものだと「年率7.00%、満期期限360日、50,000元単位」、「秒殺」のマークがついているものだと「年率6.90%、満期期限160日、3,000元単位」というのが載っています。3,000元(日本円で約51,000円)なら、中国の若い人でも比較的買いやすいので「秒殺」と表示して、若いお客を誘っているのかもしれません。

 そもそも論ですが、中国の今年(2017年)のGDP成長率が目標6.5%前後、実績6.8%程度、先週発表された2017年10月の中国の消費者物価指数は年率1.9%上昇ですが、「理財商品」で集めたお金はどういう形で運用してこれだけの金利を実現しているのでしょうか。

 経済学の基本的な考え方に従えば「金利は資金提供側(貸し方)が負担するリスクに対する報酬」ということになります。従って、金利が高いということはそれだけ貸し倒れリスクが高いということを意味しますし、期間が長くなれば金利が高くなるのが通常です。「中国で『理財商品』を購入している人は、提示されている金利に応じたリスクがあることを理解しているのだろうか」とはよく聞かれる問いかけです。しかし、通常考えれば、「人民日報」ホームページ上で販売されている「理財商品」について、中国の人はほとんど「貸し倒れリスク」など感じていないでしょう。「人民日報」は中国共産党の機関紙であり、「『人民日報』ホームページ上で販売されている『理財商品』がデフォルト(債務不履行)になりそうになったら、中国共産党がなんとかしてくれるさ」と多くの人が思っているのではないでしょうか。

 などと、今、私は偉そうなことを書いていますが、30年以上前の1980年代、就職したばかりの私が郵便局の定額貯金(満期10年まで金利固定、半年経過したらいつでも解約可能、当時の金利は年率7%以上)に貯金した時、「年率7%」に相当するリスクを意識したか、と問われれば、答えは「ノー」です。今でこそ民営化が始まりましたが、郵便局はずっと「国営金融機関」でしたからね(単純に言えば、1980年代の日本では金利とリスクがバランスしていなかった結果が「平成バブル」(1989年末がピーク)を生んだ、と言ってよいと思います)。

 リーマン・ショック後の日米欧では、中央銀行が「異次元の量的緩和」を実施して、金利を極めて低い水準に抑えている(ヨーロッパと日本では一部にマイナス金利さえ導入している)現状では、「金利とリスクの関係」は先進国でもほとんど崩壊しかけており、中国の「理財商品」についてだけ「金利と購入している人が意識しているリスクとがマッチしていない」などと懸念を表明するのは公正ではない、との指摘はある程度当たっていると思います。

 しかし、そうした事情を踏まえた上でも、やはり私は中国の「理財商品」の状況は懸念すべきだと思っています。中国の「理財商品」は複数の債券等を組み合わせて組成されたものであり、かつてのアメリカのサブ・プライム・ローンを組み合わせた住宅ローン担保証券のような「リスクの見えない金融商品」になっているおそれがあるからです(この点は、中国のエコノミストすら「リスクがステルス化している」と懸念を表明しています:このブログの2013年7月10日付け記事「中国金融改革:『人民日報』に『正論』」参照)。それに加えて、中国の人々が認識している「中国共産党による暗黙の保証意識」は、おそらく日米欧の国民が持っている「銀行が危なくなっても政府がなんとかしてくれるだろう」という意識より強いと考えられます。

 中国当局が取り得る手段も日米欧とは異なることになるでしょう。日本では北海道拓殖銀行や山一證券については政府は救済せず、アメリカ政府はリーマン・ブラザーズを見放しました。しかし、中国では何か危機が起こった時、一部の金融機関を見放すことは「原理的にできない」のです。なぜなら全ての金融機関は「中国共産党の指導の下」にあるからです。

 そもそも私は「人民日報」のホームページの中のサイトで「理財商品」を販売し、それにネット上での特売セールを行う「独身の日」に合わせて「特恵」だの「秒殺」だのと表記して「理財商品」を売っている現場の人たちの感覚が問題だと思います。中国共産党内部にいる優秀なエコノミストたちは、日本の平成バブルやアメリカのリーマン・ショックのことをよく勉強しています。しかし、現場の人たちの間には、かなり「脳天気な雰囲気」が広まって来ているのではないかと思います。

 中枢部分では問題を理解しているのに末端の現場では危機感を共有できていなかったことが問題が発生した後でわかる、といった話は、最近相次ぐ日本の大企業の不祥事を例示するまでもなく「よくある話」です。

 先ほど、このブログの過去の部分を読み返して気がついたのですが、習近平政権初期の頃は、「人民日報」でもかなり問題意識を指摘する「鋭い記事」が目につきました(例えば、このブログの2013年9月1日付け記事「中国の低所得者用公共住宅の問題点:『人民日報』の指摘」、同年9月3日付け記事「中国の不動産バブルの現状を『人民日報』がレポート」)。しかし、習近平氏への権力集中が進むにつれ(別の言い方をすれば李克強総理の影が薄くなるにつれ)、「人民日報」における「問題点を指摘する鋭い記事」は減ってきたように思います(習近平氏を賞賛する記事が増えてきているので、当然と言えば当然ですが)。

 過去にこのブログで紹介した朱寧著「剛性泡沫:中国経済為何進退両難」(邦題「中国バブルはなぜつぶれないのか」(森山文那生訳。日本経済新聞出版社))のように中国経済における「暗黙の保証」の問題に対して鋭い警告を発するエコノミストの本が中国でもよく売れている一方で、上に書いたような「人民日報」ホームページ上の「軽いノリの『理財商品』販売現場」が存在している、というアンバランスな現状は、「問題が顕在化する臨界点」が近づいている証左かもしれない、と私は感じています。

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2017年11月 5日 (日)

長期政権を狙う習近平氏は痛みを伴う改革をできるのか

 10月26日に決まった新しい中国共産党政治局常務委員のメンバーに次の党大会(2022年)で習近平氏の後任になるような50歳代の人物がいなかったことから、習近平氏は「次の」あるいは「次の次の」党大会でも党のトップの座を降りず、「次の次の次の」(2032年の)党大会まで降板しないつもりなのではないか、との見方が出ています。党総書記は原則2期10年間ですが、2022年の党大会で「党主席」の役職を復活させれば、さらに10年間習近平氏が党のトップに座り続けることは可能だ、というわけです。

 今回の党大会(中国共産党第19回全国代表大会)で習近平氏が行った「政治報告」の中では、今世紀半ばまでの中国の「青写真」として、2035年までの第一段階(中国をイノベーション型国家の前列に並べ、中国人民の中流階級の比率を明確に向上させる)と2035年から21世紀中葉までの第二段階(中国を「富強民主文明」で「調和の取れた美しい社会主義現代化強国」にする)に分けて語っています。こうした「青写真」は、うがった見方をすれば、「第一段階(2035年まで)は私(習近平氏)が責任を持って中国の舵取りを担当します」と宣言しているようにも聞こえます。

 私は、今回の党大会での人事で、陳敏爾氏(重慶市書記、習氏に近い:57歳)と胡春華氏(広東省書記、共青団派:54歳)を党政治局常務委員に入れ、汪洋氏を来年3月の全人代で国務院総理の「ワンポイント・リリーフ」(2023年までの5年1期のみ)にし、李克強氏は党内序列2位ながら次期全人代で名誉職的な全人代常務委員会委員長になる、と見込んでいました。しかし、50歳代(次期の党書記・国務院総理が見込まれる)の陳敏爾氏と胡春華氏が政治局常務委員入りしなかったことで、この私の「見込み」は完全に崩れました。李克強氏は次期(2023年の全人代まで)も国務院総理を継続するようです。報道によれば、来年(2018年)3月の全人代で、栗戦書氏(67歳)が全人代常務委員会委員長に、汪洋氏(62歳)は中国人民政治協商会議主席になるようです。

 今回決まったこの陣容だと、私は次の点で問題があると思っています。

 まず、今まで経済政策も含めて習近平氏が権限を集めて李克強氏を疎外することによって生じていた「習近平氏と李克強氏のバラバラ感」の目立つ習近平政権の体制が次の5年間(2023年3月の全人代まで)継続されることになるが、それで政策運営(特に経済政策)がうまく行くのか、ということです。

 次に、2022年の党大会で習近平氏が「党主席」としてさらに長期政権のトップに居座り続けるのはいいとして、その体制で次の国務院総理は誰がやるのか、という問題が残ります。過去の国務院総理の経歴を見ると、国務院総理になる前は党政治局常務委員であるか、そうでなくてもかなりの長期間にわたり党中央のそれなりの役職を経験した方が国務院総理になっています。今、2023年以降の国務院総理の「候補」を決めないまでも、「総理になるかもしれない」という人物をそれなりの役職に配置しておいて、総理になるかもしれないという自覚を持って中央で経験を積ませることは、スムーズな国務院総理の交代のために必要不可欠だと思います。

 もしかすると、習近平氏は「全ての業務は自分一人で決める。国務院総理の権限は小さくするので、誰がなっても(当面は李克強氏の続投でも、2023年以降は経験のない者でも)かまわない。」と思っているのかもしれません。しかし、かの絶大な権力を有していた毛沢東時代においても、周恩来という最高クラスの国務院総理がいたからこそ、中国の政治はそれなりに回っていたことは認識すべきです(周恩来という極めて強力な実務担当能力のある総理がいたからこそ、毛沢東は権力闘争に明け暮れることができた、という一面があると私は思っています)。もし習近平氏が最大の参謀であるべきはずの国務院総理について軽く見ているのだとしたら、中国政府の具体的な政策執行の能力に大きな疑問符が付くと言わざるを得なくなります。

 また、これも私の予想に反することですが、党大会が終わっても、上海株は大きく調整せず、人民元レートが下落することもなく、中国経済が減速するような兆候は今のところ見えていません。これは、マーケット関係者が「習近平氏は長期政権を狙うはずだから、経済減速を招くおそれのある『痛みを伴う改革』は行わず、今後とも景気のアクセルを踏み続けるだろう」と読んでいるからだ、と見ることもできます。実際、習近平氏は、今年4月に北京の首都機能を移転させるための新しい都市としての「雄安新区」の構想を打ち出しており、これは習近平氏が「経済のバブルは新しいバブルを起こすことによって対処する」という方向を向いているらしいことを示唆しています。

 こうした見方に基づいて、「党大会が終わると中国政府は改革を進め、それにより経済の減速が始まる」という「警戒感」は、「当面の間は、中国政府は改革よりも経済速度維持を優先させる」という「期待感」に変わり、そのことが日米欧の継続的な株式市場の上昇傾向を生んでいる可能性があります。

 しかし、おそらく中国経済の現状は「痛みの伴う改革」を先送りできるほどの余裕は既になくなっていると私は思っています。この危機感は、先々週のこのブログの記事で「中国人民銀行周小川総裁の口から『ミンスキー・モーメント』」に書いたように、中国当局の中枢部にもあると思います。

 党大会直前の2017年10月9日付け「人民日報」18面に載っていた記事も、中国当局中枢部の危機感を示すものと言えます。この記事のタイトルは「上場企業は理財(資産運用)をすべきかすべきでないのか」でした。この記事では、今年9月上旬までに既に900以上のA株を発行する企業が理財商品を購入しており、その規模は累計1兆元(約17兆円)近くになっていて、この数字は去年全年の数字より2割多くなっているという事実を指摘した上で、余剰資金を有利に運用することは株主にとってプラスの面もあると考えられる一方、大量の上場企業が事業の資源として資金を使わないで理財領域に投資していることは資金が実経済を離脱して空転していることを意味している可能性がある、として警告を鳴らしています。この「人民日報」の記事が指摘する中国上場企業の姿は、多くの企業が手持ち資金を自社事業のための投資に使わないで「財テク」に励んでいた平成バブル期の日本を思い起こさせます。

 中国経済における「ミンスキー・モーメント」(バブルが膨張から崩壊に転換するタイミング)が近いのかまだ時間的余裕があるのかは判断が難しいところですが、不動産市況において「過熱状態」にブレーキが掛かりつつあるのは事実のようです。関連する「人民日報」ホームページ(人民網)の中の「不動産資産チャンネル」に載っていた記事を掲げると以下のとおりです。

○2017年11月2日付け「『金の9月、銀の10月』の契約数ここ10年で最低を記録 伝統的な『盛んな季節』が盛んではなかった」(注:10月初旬の国慶節連休を含む9月と10月は、毎年、一年の中で最もマンション販売が活発になる時季)

○2017年11月2日付け「ゼロ・プレミアムでの契約 土地市場は熱が下がり始めている」(北京青年報のホームページの記事の転載)

 一方、2017年10月27日付けの「経済参考報」の記事を転載した記事「目下のところ中小都市(中国語で「二三線城市」)の不動産価格は依然として過熱」では、西安の新築住宅価格が14.9%上昇しているのを筆頭に、長沙、瀋陽、南寧では新築マンションの価格上昇率が10%を越えていると伝え、大都市(中国語で「一線城市」:北京、上海等)でブレーキが掛かりつつあるのに対して、中規模都市ではまだ過熱状態が続いていることを伝えています。

 実は似たような内容のことは十年前にも書いたことがあります(このブログの2007年12月22日付け記事「中国の不動産ブームはピークを越えたのか?」)。この当時は、北京、上海等の「大都市」以外での不動産建設熱はそれほど問題になっていませんでした。この年12月の(2007年の第17回党大会の後の)「中央経済工作会議」では、翌年(2008年)の経済運営について、従来の「適度に引き締めた」ものを「引き締めた」ものに変え、不動産ブームのピークを越えたことを認識しつつも、景気にブレーキを掛ける方向で経済運営を変化させていたのでした。これは、当時の中国政府が、2008年8月に控えていた北京オリンピック終了後の景気の落ち込みを軽減させるため、「小さなバブルはあらかじめ潰しておく」方針だったからだと思います。

 10年前は2008年秋のリーマン・ショックの発生とそれに対応するための中国政府の「四兆元の超大型経済対策」で2007年暮に決めたような「景気引き締め方針」などは吹き飛んでしまい、結局は「小さなバブル潰し」どころかバブルはさらに膨張し続ける結果となりました。しかし、2018年は、十年前と違って北京オリンピックはありませんし、リーマン・ショックのようなこともたぶんないでしょう。なので、十年前と同じことがこれから起こるわけではありません。

 不動産市場の過熱を放っておくと危険であることは現在の中国当局もわかっているので、例えば、不動産開発業者による頭金融資の禁止等マンション市場の過熱を防ぐ方策は現在も強化されつつあります。しかし、十年前に比べて格段に肥大してしまった中国のマンション市場をコントロールすることは、おそらくは十年前には考えられなかったような困難を伴うと思います。

 党大会は終わりましたが、今も「人民日報」ホームページの「財経」チャンネルにある「人民信金融」のページでは理財商品の販売をやっています。リストには「年率6.30%、期限150日」「年率6.40%、期限181日」「年率6.00%、期限85日」といった「理財商品」が載っています。私は、1980年代の日本の郵便局の「定額貯金」が「期間10年間、半年複利、半年経過したらいつでも解約可能で年率7%以上」だったのを覚えていますが、一方で1989年をピークに日本では「平成バブル」が崩壊したことも知っています。世界各国では一定の金利があった1980年代とは異なり、2017年の今は日米欧が超低金利の時代ですから、今の中国の状況が1980年代の日本より危ういのは明らかなように私には見えます。

 「長期政権を狙う習近平政権は経済減速を伴う改革は行わないだろう」と推測するのは勝手ですが、ニューヨーク・ダウが史上最高値更新中、日経平均が21年ぶり高値をさらに更新中、という現在の日米の株式市場の状況はやはりおかしいと思います。私はネットで「人民日報」やその他の新聞の記事を読んでいるだけで、最近は中国へ行っていないので、中国の本当の実情はよく知りません。経済関係のマスメディアの皆様、世界の経済アナリストの皆様には、中国経済の実情をよく調べて、警告すべき点はきちんと警告して、「中国発の危機」が起こらないように世界の方々に注意喚起をして欲しいと思います。

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