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2017年10月21日 (土)

中国人民銀行周小川総裁の口から「ミンスキー・モーメント」

 ブルームバーグが伝えるところによると、10月19日、党大会と平行して行われたイベントで中国人民銀行総裁の周小川氏が質問に答えて「過度に楽観的であれば緊張が高まり、それが急激な調整につながる可能性がある。ミンスキー・モーメントと呼ばれる状況で、我々はこれを防がなければならない」と述べた、とのことです。「ミンスキー・モーメント」とは、バブルの形成から調整(崩壊)に転じるタイミングを表す表現で、経済学者ハイマン・ミンスキーにちなんで名付けられたものです。

 この10月19日は、たまたま1987年10月19日のニューヨーク株の大暴落、いわゆる「ブラック・マンデー」の30年目の日に当たることから、「バブル崩壊」に関連する話の流れの中で出てきた言葉だと思います。中国指導部は最近「金融リスクを防ぐ」「システミック・リスクを発生させないという最低限のラインを断固として守る」といったことを繰り返し述べており、今回の周小川総裁の発言も基本的にそれと同じであって、何か新しいことを述べたわけではありません。しかし、私は、この日の周小川総裁の発言は以下の点で非常に重要であると考えています。

○周小川氏は、既に14年間中国の中央銀行である中国人民銀行の総裁を務めており、世界各国の中央銀行総裁の中で最も経験が長く、中央銀行の総裁として、自分の些細な言葉が市場にどういう影響を与えるかを熟知している。その周小川氏が「バブルが形成期から崩壊期に転換するポイント」を意味する「ミンスキー・モーメント」という言葉をあえて用いたことからは、周小川氏の「強力な警告メッセージを中国内外のマーケットに発したい」という意図が感じられること。

○バブルが存在しなければ「ミンスキー・モーメント」について議論する必要は生じないのであるから、周小川総裁が「ミンスキー・モーメントを防がなければならない」と述べたことは、周小川総裁自身が現在の中国経済について「バブル的状況」にあると認識していることを意味すること。

○年齢的な面で周小川総裁は来年3月の全人代で退任すると見られており、実際、周小川氏の後任人事について、いろいろと推測記事が流されているのが現状である。もうすぐ辞める周小川総裁は、「今は思い切って自分の考えを述べられる時期」であることを自覚していると思われることから、おそらくは今回の発言は自分の考えに基づいてあえて明確な表現で警告を発したものと思われること。

○この発言は、習近平総書記が三時間半にわたって「政治報告」を行った第19回党大会初日の翌日になされた。今、中国のメディアはこぞって習近平政権5年間の成果を礼賛する記事を連発しているし、党大会開催期間中は中国全土において人の集まるイベントが中止されたりするなど、中国国内の全ての活動が「党大会の平穏な終了のために」神経質なほどにコントロールされているのが現状である。そうした中、周小川氏が「ミンスキー・モーメント」という刺激的な用語を使ったことは、政治的にはかなりリスキーであったと思われるが、逆に言えば、周小川氏は、党大会での議論に対しても「現在の中国経済の状況はメディアで礼賛されているような楽観的な状況ではない」という一種の「異議申し立て」をしたかったとも捉えられる。周小川氏は、従来の言動から見ると、周囲には市場経済に基づく経済を重視する方向で経済改革を進めたいと考えている中国共産党の一部の幹部(李克強総理も含む)やエコノミスト、官僚たちがいると考えられることから、今回の発言は「習近平総書記への一点権力集中と経済に対する党の支配力の強化」に反対する意図があった可能性がある。

 このように私は周小川総裁による「ミンスキー・モーメント」という用語を用いた発言は非常に重要だと考えているのですが、ブルームバーク・ニュースが伝えているほか、CNBCアジアでは伝えていたものの、日本の新聞やテレビでは現時点では私が見た限り報道したものはありませんでした(ネットで検索してみると、一部、ネットのニュースでは伝えているようですが)。

 私は、周小川総裁の発言は、中国経済バブルに対する中国の中央銀行総裁の懸念を直接的に表現するものであるので、結構インパクトがあったと思うのですが、マーケットは全く「無反応」でした。周小川総裁の発言の翌日の10月20日(金)に上海株式市場が上昇したのは党大会開催期間中であり「国家隊」による買い支えがなされていると思われるので当然だとしても、東京株式市場では日経平均が57年ぶりの「14営業日続伸」を記録(10月20日終値:2万1,457円64銭)し、ニューヨーク・株式市場ではニューヨーク・ダウが5日連続史上最高値を更新(10月20日終値:2万3,163.04ドル)したのは、「何か変じゃない?」という感じがします。

 世界的な株の上昇傾向は私にはなんとなく変な感じ(特に「日本では大手企業の不祥事が相次いでいるのに株価が上がっていいの?」と思います)に思えるのですが、世界経済にとって大きなリスクのひとつである中国の不動産市場については、「人民日報」ホームページの「財経」サイト内の「房産(マンション資産)」のサイトに、以下のような記事が載っていました。

○2017年10月20日「経済参考報」の記事
「大都市(中国語で「一線城市」)での不動産の投機性需要は抑制されてきている」

○2017年10月21日「中国新聞網」の記事
「中国マンション市場は『降温』、不動産販売面積の増加スピードは持続的に下落」

 大まかに言うと、住宅、事務所スペース、商業用スペースの販売面積について「増加スピードが鈍った」、販売価格について「上昇スピードが鈍った」という話であって、「減少した」「価格が下がった」という話ではないので、別に現時点で「不動産バブルの崩壊が始まった」というわけではないのですが、不動産市場の過熱気味の状況にブレーキが掛かりつつあるのは確かだと思います。こういったニュースは今後とも注意深くフォローしていく必要があると思っています。

 今、世界のマーケットではコンピューターによる取引がかなりの割合を占めており、要人の発言や突発的な出来事が瞬時にして市場に影響を与える状況なのですが、大きな流れを変えるような重要な発言や出来事に対しては、一定の「タイムラグ」を置いてから反応する場合があります(市場に参加している多くの人間が「ちょっと待て。さっきの発言(出来事)はもしかすると重要な意味があるんじゃないのか?」などと一定の時間を掛けて考えを巡らせるからだと思います)。

 2013年5月23日(日本時間)の「バーナンキ・ショック」の時は、FRBバーナンキ議長の議会証言は日本時間未明に終了していたにも係わらず、東京株式市場は通常と同じような雰囲気で9時から取引を開始し、10:45に中国の経済指標(PMI:購買担当者指数)が予想外に悪かったのがわかってもその時は即座には反応しなかったのですが、11時過ぎから「なんか変だな?」という感じになり、午後に入って「暴落状態」となり、結果的には午後3時の大引け時には対前日比1,143円安の大きな暴落となってしまったのでした。

 2015年8月の「チャイナ・ショック」(中国発世界同時株安)の時も、切っ掛けは8月11~13日の中国当局による人民元切り下げだったのですが、実際に世界の株価が下がり始めたのは10日後の8月21日(金)頃であり、その週明けの8月25日(月)のニューヨーク市場はショック的な株価の下落に見舞われたのでした。

 2013年の「バーナンキ・ショック」の時は、当初は「何でこんなに市場が乱高下するんでしょうね」といぶかる人が多かったのですが、後で時系列を整理してみると、「そういえば、バーナンキFRB議長の議会での証言を切っ掛けとしていろいろなマーケットで動きが出始めましたね」ということがわかったのでした。

 明日(2017年10月22日(日))には日本で総選挙があるし、10月26日(木)にはヨーロッパ中央銀行(ECB)が金融政策の変更を決めるかもしれません。トランプ大統領は近日中に来年2月で任期が切れるFRBのイエレン議長の後任を指名する、と言っています。これら様々な要因を受けて、今後世界のマーケットは動いていくのでしょうが、後になって考えると「そういえば2017年10月19日に周小川中国人民銀行総裁が『ミンスキー・モーメント』という単語を使って警告を発したのが、今思えば切っ掛けだったのかもしれませんね。」というようなことになるかもしれないので、あまり日本の新聞やテレビが取り上げないので、今日、このブログに記録しておこうと思って書いた次第です。

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コメント

中国が「市場原理を無視すればバブルは割りと維持できる」と教えたこれまでですが、それも経済成長があってこそで、経済成長低下の状況では借金依存に、収入減の中での生活費や利払いによる貯蓄の切り崩し、一人っ子政策の後遺症を抱えつつ少子高齢化と儒教思想消滅による独身容認で確実視される税金減少、海外企業脱出による外貨預金減少による中国外貨ジリ減(「企業の姓は党」運動で余計加速?)、採算性が怪しい一帯一路への出費、サブプライムを模範に不良債権を証券化して売り払おうとする国営銀行という現状を乗り越えられるか疑問だし、乗り越えたら乗り越えたで少子高齢化による税収減少の推進で余計に不本意な時期(全人代前とか)でのバブル崩壊に直面するリスクが上がる気もします

あれ程、ミサイル配備で韓国弾圧してたのに中韓通貨スワップはしっかりやってる辺り、外貨は韓国ウォンすら手放せない状況という気もします

詳細に分析する時間もあるにしてもバブル期にババというかゴミを高値で売り払おうとするのはお約束
12月固定の中国企業決算や欧米の12月決算を考えれば12月に安く買いなおすために秋から11月に売るのは常道

投稿: | 2017年10月24日 (火) 23時01分

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