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2017年10月 7日 (土)

中国が「暗黙の保証」の問題に対処できていない現状

 今週も「中国バブルはなぜつぶれないのか」(朱寧著、森山文那生訳。日本経済新聞出版社)で述べられている「暗黙の保証」に関する問題点についてです。「訳者あとがき」によれば、この本の中国語版は2016年3月に初版が出版されて以降、中国でもベストセラー経済書上位50冊にランクインするほど売れたのだそうです。「中国では、政府による『暗黙の保証』の認識の下、リスクの実態とは関係なく多くの借金がなされて投資に使われている」と警告しているこの書が中国国内でもよく売れている、という事実は非常に重要だと思います。

 経済学者がこうした「警告」を鳴らし、そうした「警告」を鳴らす本がよく売れていることは、中国社会のひとつの「健全性」を示していますが、一方で、政策面ではこうした「警告」に対して適切な対応が採られているとは言い難い、という点が、中国経済のたぶん最も重大なリスクだと私は思います。中国共産党中央は、こうした「警告」を真剣に受け止めていると思いますが、「現場」では「よくわかっていない人たちによる適切ではない対応」がなされているように見えるからです。

 私がこのブログ内に書いてきたいくつかの点をここで改めてピックアップしておきたいと思います。

○2016年11月26日付け記事:中国の「地方政府の債務リスク応急処置事前対策」

 私はこの記事で、国務院弁公庁が出した「地方政府の債務リスク応急処置事前対策」において「地方政府の債券は、地方政府が法に基づいてその全ての償還責任を負う」とされていることを指摘しました。この部分は国務院が地方政府が持っている「暗黙の保証」意識の問題点を認識していることを示していますが、逆に言えば、現実問題として地方政府はややもすると「最後は中央政府が尻拭いしてくれるさ」と考えてしまう現状があることを示しています。

○2017年4月29日付け記事:中国共産党政治局で金融安全について議論

 この記事で述べたように、習近平総書記自身が、「中国の金融リスクはコントロール可能である」としながらも、外国からの国際金融上の衝撃(具体的には、アメリカFRBにより利上げや資産の縮小、ヨーロッパ中央銀行(ECB)による量的緩和の縮小など)を切っ掛けとした金融リスクに対する対応を考えるべき、と指摘している点は重要です。「暗黙の保証」で膨れあがった経済は、何かの切っ掛けでその信頼の一部が崩れると、雪崩を打って崩壊する可能性があることを、中国共産党中央もよく認識しているわけです。

(注)2008年のアメリカの「リーマン・ショック」はまさに「雪崩を打って」という表現にふさわしい急激なバブルの崩壊でしたが、日本の「平成バブル」は、1989年末の株価のピークの後、1990~1991年頃をピークとした地価の下落、1997年の北海道拓殖銀行と山一證券の破綻、2003年のりそな銀行への公的資金注入と足利銀行の破綻あたりまでを考えると、十年単位の長期間にわたるゆっくりとした地滑りのような「崩れ」でした(りそな銀行と足利銀行はその後の関係者の努力により現在は復活しています)。

○2017年7月8日付け記事:またぞろ「中国の理財商品は大丈夫なのか」という話

 私はこの記事で「人民日報」ホームページ内にある特定の会社と人民日報社が共同で運営管理する「理財商品」を販売する「人民信金融」という名前のサイトを紹介しました。私は、中国共産党中央が本当に真剣に「暗黙の保証」を問題だと考えているならば、こんなサイトは作らせなかっただろうと思っています。というのは、多くの中国人民は、中国共産党の機関紙である「人民日報」を発行する人民日報社が共同運営するサイトで売っている「理財商品」ならばデフォルト(債務不履行)を起こすことはないだろう、と思うはずであって、このサイト自身が「暗黙の保証」の感覚に基づく「理財商品」の販売拡大を助長する役割を果たしているからです。中国の一般人民は、この「人民日報」ホームページ上の「理財商品」販売サイトを見て、このサイトで売っている「理財商品」だけでなく、広く中国全土で売られている「理財商品」全体について、「最後は中国共産党がなんとかしてくれるはずだから、デフォルトするはずはない」と感じているかもしれません(私は、この「人民信金融」サイトについては、今度の中国共産党大会での議論の中で問題視され、共産党大会終了後にはサイトが閉鎖されてしまうのではないか、とすら考えています)。

○2017年8月19日付け記事:中国のインフラ投資とPPPと社債との関係

 この記事の中で、私は中国国家発展改革委員会が「経済参考報」の取材に対して「デフォルト(債務不履行)リスクのある債券については、事前に介入し、市場を使い、法的手段を用い、企業を指導し、仲介機関に償還方法を制定させ、システミック金融リスクを発生させない、という最低ラインを断固として守る」と述べたことを紹介しました。この中国国家発展改革委員会の発言は、「中国政府はデフォルトしそうな社債は事前に介入してデフォルトさせないようにする」と言っているようにも読めます。これは「中国バブルはなぜつぶれないのか」の中で著者の朱寧氏が述べている「デフォルトと破産を容認せよ」という主張とは真逆のものです。

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 以上を比べてみると、中国においては「経済学者や中国共産党中央は『暗黙の保証』の問題点についてはよく理解しており、その対処も必要だと考えているが、現場(経済主体や政策執行部局)においては対処できていない」ことを示していると思います。別の言葉で言えば「頭ではわかっているが、バブルに踊る企業や人民からの反発を恐れて対処できない」のかもしれません。

 なお、経済主体や経済政策執行の現場では「バブルに踊る企業や人民からの反発を恐れて対処できない」のではなく、「全ては市場が決めるべき」という自由主義経済の大原則を理解しておらず、「デフォルトを出さないことが金融リスクを防ぐことに繋がる」と誤って理解している人が多くいる可能性があるのが気掛かりです(そもそも1978年暮に改革開放経済が始まって40年弱、「六四天安門事件」の後、トウ小平氏による「南巡講話」(1992年)で市場経済の重要性を再認識してから25年しか経過していないので、特にそれ以前に教育を受けた人の中には、そもそも「自由主義経済」がどういうものかをわかっていない人が意外に多い、というのが、二回の北京駐在を通じて得た私の中国の人々に対する素直な印象です)。

 この一週間、国慶節の連休中、中国全土のマンション市場でマンションがどれだけ売れたか(順調に売れたか、意外に売れ行きがよくなかったか)が気になるところです。もっとも、もし仮に「マンション市場での売れ行きが意外に低調だった」ことが事実だったとしても、党大会が終わるまでは、そうしたことは報道されないと思いますけどね。

 マンション市場の動向は、中国の新聞等では報道されないとしても、国際的な商品市況(鉄鉱石、原料炭、スクラップ、銅、アルミなど)に現れて来ますし、中国市場でビジネスを行う諸外国の企業のビジネスに必ず影響が出てきますから、そういった国際商品市況や中国でビジネスを行う外国企業からの情報発信には注意深くアンテナを張っておく必要があると思います(今、上海株式市場は「国家隊」(政府系ファンドなど)による買い支え等でコントロールされているので、上海の株価を見ていても、おそらく現状はよくわからないと思います)。

(注)人民元の対米ドル相場と「アメリカ国債の金利が不自然に上昇していないか」を見るのも、ひとつの「手」かもしれません。アメリカ国債の最大の保有者は中国ですが、「マンション価格の下落=資本の外国への流出圧力の増大」により人民元安圧力が強まった場合、人民元安を防ぐために中国当局が「米ドル売り・人民元買い」の為替介入を行おうとすれば、手持ちのアメリカ国債を売却して米ドル資金を得る必要があるからです(中国が米国国債を大量に売却すれば、米国国債の価格は下落(金利は上昇)します(結果としてドル高になる))。2017年10月2日(月)にテレビ東京で放送された「Newsモーニング・サテライト」でソシエテ・ジェネラル銀行の鈴木恭輔氏は、去年(2016年)後半のドル高局面で中国の米国国債保有額が大きく減少していることを指摘した上で「9月ドル高の影に北京あり」と述べていました。

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