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2017年9月 9日 (土)

内政外交ともに「対処できていない感」満載の習近平氏

 先週日曜日(2017年9月3日)の日本時間12:30頃、北朝鮮が六回目の核実験を行いました。日本の新聞等でも指摘していますが、この日の午後、福建省厦門(アモイ)で開かれたBRICS(新興五か国)首脳会談に先立って行われた経済シンポジウムの開会式で習近平主席が演説をしており、北朝鮮の核実験が習近平主席の演説の数時間前であったことから、北朝鮮の今回の核実験は「中国への面当て」の意図を強く打ち出したものだった、との見方が強くなっています。

 最近の北朝鮮のミサイル発射等の挑発行為は、時刻に係わらず行われていて、「自分の好きな時にいつでもできる」ことをアピールしていますが、5月14日に行われた弾道ミサイルの発射も、北京で行われた「一帯一路」首脳会議に先立つ経済シンポジウムの開会式で習近平主席が演説する数時間前に行われました。この日の習近平主席の演説は午前中に行われましたが、北朝鮮による弾道ミサイル発射は早朝に行われ、タイミング的には「習近平主席が各国首脳とテレビカメラの前で演説を行う数時間前」という意味では、今回の核実験と全く同じでした。

 北朝鮮の貿易の9割以上は中国相手であり、北朝鮮問題については、アメリカのトランプ大統領ならずとも、世界の多くの国が中国に対して「なんとかしてよ」と思っている中で、習近平主席「肝入り」の各国首脳を招いての国際会議の直前のタイミングでの北朝鮮のたび重なる挑発行為は、北朝鮮による習近平氏の「メンツ潰し」としては極めて効果的だったと思われます。こういったタイミングでの北朝鮮の挑発は、国際社会のみならず、中国国内に対して「習近平主席は北朝鮮問題について何も対処できてないじゃないか」との印象を与えたと思います。

 こうした北朝鮮の挑発行為に対する中国側の対応も「中国は北朝鮮に対して有効な対処ができていない」という印象を強めるものとなっています。「一帯一路シンポジウム」の時も今回のBRICS首脳会議に際してのシンポジウムの際も、北朝鮮の「挑発」の数時間後に演説した習近平主席は、北朝鮮の問題について何も触れませんでした。今回のBRICS首脳会議関連のシンポジウムに関しての中国側の報道は、当日の中国中央電視台の夜7時のニュース「新聞聯播」でも翌日の「人民日報」の紙面でも、習近平主席が演説したシンポジウム関連の報道に多くの割合を裂き、北朝鮮問題については、「外交部が強烈な反対を表明した」旨をごく小さく、ほとんど「ベタ記事扱い」で報じたに過ぎませんでした。この習近平主席の「だんまり」と中国側の北朝鮮問題をなるべく小さく扱おうとする態度は、BRICS首脳会議に出席していたロシアのプーチン大統領が記者会見で北朝鮮問題に関してロシアの立場をハッキリ表明していたのとは対照的で、「北朝鮮問題については、中国はロシアに比べても態度をハッキリ表明していない。中国は相当に困惑しているようだ。」という印象を内外に与えてしまいました。

 そうした一方、BRICS首脳会議が開かれていた9月4日と5日、国務院総理の李克強氏は山西省を視察していて、貧困対策等について地元の地方政府幹部と話し合う姿が「新聞聯播」などで報じられました。私は、まるで李克強総理が「習近平主席は福建省でBRICS首脳会議をやっているようだが、私(李克強総理)は関係ないもんね」と言っているような印象を受け、「北朝鮮に対して有効に対処できていない」以前の問題として、習近平主席は中国政府内部も統括できていないのではないか、という印象を持ってしまいました。もし中国政府が政府全体としてBRICS首脳会議を中国の外交上の重要イベントだと認識しているならば、李克強総理もアモイに出向いてBRICS参加国の首相や経済関係閣僚と会談を行うのが普通でしょう(去年(2016年)9月に浙江省杭州で開かれたG20首脳会議の際も李克強氏は杭州へは行っていないので、こうしたやり方は今に始まった話ではないんですけどね)。

 一方、内政問題については、今、中国ではそんなに大きな問題が生じているようには見えません。実際、10月18日から開催予定の第19回中国共産党全国代表大会へ向けて、現在のところ中国経済は順調に行っているようです。ただ、これは、政府によるインフラ投資等による景気下支え策と強烈な資本規制による資金の国外への逃避抑制に起因する中国国内での資金滞留の効果が大きいのであって、中国経済の根本的な問題点は先送りされているだけであまり改善されていない、という見方も強いようです。

 8月30日付け日本経済新聞朝刊8面に「中国の地方政府 土地売却を加速 1~7月4割増の30兆円 景気対策に財源確保」という記事が載っていました。中国の地方政府が「土地は公有制」という中国の特徴を活用して、農民から一定額の補償金を支払った上で農地を収用し、それを土地開発業者に売却して大きな財政収入を得て、それをインフラ投資等に使っているという問題は、私が北京に駐在していた10年前頃ですら「持続可能なやり方ではない」と認識されていました。そうした「土地収入依存体質」という構造が全く改善されていない(というより党大会前の景気下支えのための投資の財源としてより強力に行われている)という現状は、中国政府は「構造改革」についてはうまく対処できていないことを示しています。

 「土地収入依存体質が改善していない」という点については、中国国内でも問題意識は持たれてるようです。「人民日報」ホームページ「人民網」の「財経チャンネル」に2017年9月5日付けの「経済参考報」の記事「1~8月の300都市の土地収入は2.2兆元 不動産企業による土地取得は依然として加速している」との記事が掲載されていました。この記事のポイントは以下のとおりです。

○今年(2017年)1月~8月の全国300都市の土地売り出し総額は2兆2,032.6億元で、前年同期比約34%の増加である。

○中原地産の首席アナリストの張大偉氏は次のように解説している。「不動産企業による土地取得が加速過程にあることは非常に明確である。大都市(中国語で『一線城市、二線城市』)では不動産販売抑制政策の効果が明らかであるが、全国のデータで見ると、不動産企業は今年上半期の販売状況が比較的よかったという状況の下、資金状況は空前の規模で余裕がある状態にあり、現在ある在庫分の販売が成功した後、大部分の大手不動産企業は積極的に土地取得を開始している。」

 この記事は、2017年に入ってからの中国政府による資金の海外流出の締め付けにより、中国国内で資金がだぶつき、またぞろ不動産市場がバブル的状況になっていることを表していると思います。中国政府は、党大会前の景気の過熱を抑制し、党大会後に経済が急速にしぼむことを防ぐ対策をやる必要があることはわかっているにも係わらず、今年については、過熱の抑制に成功していないようです。

 中国当局は9月4日、ICO(仮想通貨発行による資金調達)を禁止する旨の通達を出しました。これも中国国内でだぶついた資金が新しい投資対象であるICOを過熱化させることを中国当局が懸念したからだと思います。規制するのは政策判断として私も「あり」だと思いますが、市場の混乱を避けるためには、全面禁止する前に当局側からICOに関する懸念が表明されるなり、政府内で禁止へ向けて検討を開始した等の情報を流すなりして、ある程度熱を冷ましてから「禁止」の決定をすべきだと思いますので、今回の突然のICO禁止決定は、私には経済政策のやり方としてはいささか「拙劣」だったような気がします。

 2015年夏の上海株バブル崩壊時のあわてふためいた株価下支え策、2015年8月の突然の人民元の切り下げ、2016年年初の株式市場でのサーキット・ブレーカー制度の朝令暮改(制度を導入したら市場が混乱したので数日で制度を撤回した)、そして今回の突然のICO禁止決定といった一連の政策から私が受ける印象は、「習近平政権の経済政策は一貫性がなく、その場しのぎで、中国の歴代政権の中でも『アラ』が目立つ気がするなぁ」というものです。私には、外貨が非常に少ない1980年代に苦労して外貨兌換券制度を編み出し、それを1990年代に混乱なく終了させた過去の中国当局の巧妙な経済・金融政策の記憶があるので、ちょっと昨今の中国の経済政策の「ドタバタぶり」が気になってしまい、今の中国政府は現状の問題点にうまく対処できていないのではないか、と感じてしまうのです。

(注)私には、リーマン・ショック後のアメリカFRB、ヨーロッパECBや日本銀行の金融政策についても「うまく行っている」と判断する自信はないので、中国のことだけを批判的に見るのは公平ではない、とも考えています。

 で、私が一番気になるのは、上に書いたように外交や内政において、中国には様々な問題があり、中国政府の対応が必ずしもうまく行っていないのではないか、という部分もある中、習近平主席が次の党大会での自分への権力集中にばかり関心を向けているように見え、李克強総理もそういう習近平主席から一定の距離を置いて「お手並み拝見」という態度を取っているように見えて、中国政府に一体感がないように見えてしまっていることです。

 特に私の印象では、習近平主席は前任の胡錦濤主席に比べて、テレビを通じて人民に呼び掛ける姿がかなり少ないのが気になっています。李克強総理の方は、よく国際的な経済シンポジウムに出席して、経済人や報道陣からの質疑を受ける場面をテレビで見かけるのに対し、習近平主席の方は用意された原稿を読み上げる演説の場面はたくさんあるのですが、「自分の言葉」で語りかける場面が少ないように思います。特にロシアのプーチン大統領が、テレビによく出て、自分の言葉で国民と世界に呼び掛けるのがうまく、「強い指導者」であるとの印象を作り出すことに成功しているのと比較すると、習近平主席はメディア戦略という点ではあまり成功していないと思います。

 タイトルに掲げた「対処できていない感」は、単なるテレビ等を通じた印象だけの話であって、実際には、習近平主席は中国共産党と中国政府内部では見えないところで強力なリーダーシップを発揮しているのかもしれません。しかし、もし仮に「対処できていない感」を保持したまま、10月の党大会で習近平氏が「中国共産党主席」に就任し、権力を一手に集中させることに成功するのだとしたら、習近平氏は、メディアから受ける印象と実質的な権力集中の不一致、という苦しみに今後苛まれることになると思います。中国人民の気持ちは、やはりメディア等から受ける「印象」に左右されますからね。

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