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2017年9月 2日 (土)

党大会前の順調な中国の企業決算の信頼性

 中国共産党第19回全国代表大会は2017年10月18日から開催されることが8月31日に公表されました。10年前の2007年の第17回党大会の時は、10月15日から党大会が開かれる旨が8月28日に公表されていますので、それとだいたい同じタイミングです。なので、党大会の重要な決定事項については今の時点で既に「概ね見通しがついた」(=特段揉めているわけではない)と考えてよさそうです。

 一方で、今度の党大会で去就が注目される政治局常務委員の王岐山氏(習近平主席の「右腕」として反腐敗運動の中心を担っているとされる。年齢的には今度の党大会では再任されない見通しだが、習近平主席への権力集中の一環として慣例となっている「定年制」を変更してでも再任されるのではないか、との見方もある)は7月下旬以来、テレビのニュースに登場していません。王岐山氏の再任問題が最後まで調整を要する事項として残っている可能性があります。

 党大会の開催日公表は8月31日でしたが、おそらくは先週末(8月25日)の時点で開催日程公表のメドがついていたのではないかと思います。というのは、8月25日(金)、上海総合指数が対前日比1.80%高と急騰し、年初来高値を更新しましたが、中国共産党内部の情報に通じている投資家が未公表の党内情報を踏まえて株を買った可能性があるからです(公表されていない内部情報を元に株を売買することは、中国でもインサイダー取引として規制されますが、おそらく実態的には党内情報を知った一部の投資家が他の投資家に先駆けて株を売買するようなケースは中国では「よくあること」なのではないか、と私は想像しています)。

 8月29日(火)、北朝鮮が日本を飛び越して太平洋に中距離弾道ミサイルを発射して、日韓の株価が大幅安しているのに、上海総合指数は平気な顔をして小幅に値を上げました。足元の上海総合指数の上昇傾向については、最近の中国企業の決算発表の内容が予想以上によかったからだ、といった理由付けがなされているようです。

 最近の中国企業の業績が好調なことについては、8月31日(木)付けの日本経済新聞朝刊13面に「中国企業 2割増益 上場3,118社1~6月期 資源高やインフラ投資に依存 党大会後は不透明」という見出しの記事で解説がなされていました。この記事によると、業種別では鉄鋼と建材が飛び抜けて最終損益の上昇率が大きく、インフラ投資が大きく企業業績の好調さに貢献していることがわかります。

 実際、今、中国企業の業績は好調なのだと思いますが、私は、最近の中国の「雰囲気」には留意する必要があるのではないか、と思っています。その「雰囲気」とは以下の点です。

○中国共産党は(民間企業も含めて)企業に対する党の指導を強化する方針を強く打ち出していること(企業も中国共産党の意向には逆らってはならない、という「暗黙の圧力」になっている)。

○「反腐敗闘争」の一環として、企業トップが摘発される例も多発していること。特に最近の軍の最高幹部クラスの摘発は、平時にしてはいささか度を越しているように思われ、各界トップに「次は自分が摘発されるのではないか」という恐怖心を植え付けるのに十分な状況であること。

(注)今日(2017年9月2日(土))付け各紙は、中国共産党軍事委員会メンバー11人のうち4人が失脚していることを大きく報じています。ちょうど10年前の2007年の党大会の時に私は北京に駐在していましたが、当時の胡錦濤政権では、こうした「あからさまな権力闘争」と思われる案件は党大会の直前にはありませんでした。2006年9月、陳良宇上海市党書記(江沢民前国家主席に近いと言われていた)が失脚しましたが、この案件は党大会の1年以上前の話でした。党大会直前の時期に大物(特に軍の大物)の失脚が続くという現在の習近平政権のやり方は「ただ事ではない」という雰囲気を作り出しています。

○(これは党大会が行われる際には毎度のことですが)中国全土で「中国共産党大会勝利開催!」の雰囲気の盛り上げが行われていること(個人的な感想ですが、先日、習近平主席も出席して行われた中国全国運動会(日本の国民体育大会に相当)の開会式で、観客席で「第19回党大会勝利開催!」という人文字を作っていたのは、やめて欲しいと思いました。北朝鮮じゃないんだから。)

 このような「雰囲気」の中で中国政府が景気浮揚のため一生懸命インフラ投資をやっているわけですが、こういう「周囲の状況」の中で「残念ながら当期の我が社の業績は今ひとつ振るいませんでした。」と正直に決算発表できる企業トップは相当に勇気のある人だと思います。中国の企業の決算発表の実態(例えば、監査法人や公認会計士による監査がどの程度厳格に行われているのか)は私はよく知りませんが、省レベルの地方政府ですらGDPの「水増し」が行われている中国社会の現状を鑑みれば(先日、遼寧省幹部はGDPの「水増し」があったことを認めた)、中国の企業決算をどの程度信用してよいのか、については、私は疑問に思っています。

 もし仮に、中国の企業トップに「党大会の前の決算はよく見せよう」という意向が働くのだとしたら、昔、バブルの時期に日本企業がやっていたような「飛ばし」(含み損を抱えた資産を決算時期の前に「決算時期の後に買い戻す」という条件付きで他社に売却する行為)のようなことを中国の企業はやっているのかもしれません。もしそうだとすると、党大会前の決算内容は実態よりも「水増し」されていることになります。

 8月5日付けのこのブログでは、金融機関の貸し出し時における「党大会バイアス」(党大会前の企業破綻を避けるため、党大会前は平常より貸し出し条件が甘くなってしまうケース)があるのではないか、と書きました。金融機関によるこうした「党大会バイアス」や各企業の「党大会前の決算を通常より良くお化粧して見せる」という行為が仮に一般的に行われているのだとしたら、中国経済は党大会前は実態よりもよく見えてしまうことになります。

 中国の株式市場の投資家たちがそうした中国における「党大会前の特殊な事情」を知った上で株を売買しているのかどうかは私は知りません。ただ、事実として2007年のケースを書くと、党大会は2007年10月15日に開幕し、当時も「バブルではないか」と言われていた上海総合指数は党大会開幕翌日の10月16日に終値ベースでピーク値6,124ポイントを付けました(翌2008年3月末には3,400ポイント、8月18日には2,320ポイントまで下落。翌月に起きたリーマン・ショックによりさらに下値を探ることになる)。

 今回も上海総合指数が党大会開催翌日にピークを打つかどうかは誰にもわかりませんが、問題は、今回の党大会の開催日が10月18日であることが公表されたことから、「党大会の開催日が様々な経済指標のピークになる可能性がある」と考える「投機筋」がそういう前提で投機マネーを動かす可能性があることです。

 7月下旬、ウォール・ストリート・ジャーナルが10月頃に相場が変動することに賭けた投資家が出たことを報じて話題になりました。アメリカ政府の債務上限問題(9月末がタイムリミットと言われる)やアメリカFRBの資産縮小開始決定(9月20日に決定される可能性が取りざたされている)もありますので、この投資家が中国のことをどの程度考えていたのかは定かではありませんが、中国共産党大会の開催日が決まったことで、ピンポイントのタイミングを狙った投機筋の行動もこれからも出てくるかもしれません。

 ここのところ日経新聞では「中国共産党大会後の中国経済が心配」といった趣旨の記事が非常に多くなっているように感じます。特に今の習近平政権は、明らかに「経済が党大会の時点でピークを打つという懸念」よりも「習近平氏への権力集中の実現」の方に優先順位を置いているように見えるので、「中国経済が党大会のタイミングでピークを打ち、その後、下り坂に入る」という「みんなが心配している懸念」が実際に起きる可能性はかなり大きいと私は思っています。

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