« 2017年8月 | トップページ

2017年9月

2017年9月23日 (土)

「新疆生産建設兵団」の扱いと軍の統率問題

 ここ数日、今度の中国共産党大会で最大の焦点と言われた政治局常務委員の王岐山氏の再任問題について、「再任しない」ことで決着する見通し、と日本の各紙が報道しています。日経新聞と時事通信が報じたところによると「王岐山氏が退任の意向を示し、習近平氏は慰留したが、結局は退任することになった」とのことです。これが事実とすれば、習近平氏は全て自分の思った通りに物事を進められているわけではない、ことを意味するので、ことは結構重大だと思います。

 一昨日(9月21日)かねて失脚したと伝えられていた甘粛省の元党書記の党籍剥奪が決まりました。また先ほど見た(9月23日(土)放送の)中国中央電視台の夜7時のニュース「新聞聯播」によると、中国保険監督監視委員会の元主席(閣僚級)と中国共産党中央規律委員会駐財政部規律検査組組長が腐敗により党籍剥奪となった、とのことです。それぞれかねて失脚が報じられていましたが、党大会を前にして党として正式な決定を下した、ということのようです。地方政府(省)のトップや中央官庁の閣僚級だった人の失脚も「おおごと」だと思いますが、腐敗を取り締まる中央規律委員会の取り締まり現場の組長の失脚も「おおごと」だと思います。「駐財政部規律検査組組長」が収賄で失脚した、ということは、財政部の中に贈賄した人がいる、ということを意味するわけで、ことは重大だと思います。もしかすると、中央規律委員会の規律検査の現場の組長が失脚したことで、中央規律委員会の総元締めである王岐山氏の再任が難しくなった、といった事情もあるのかもしれません。

 10年前の第17回党大会直前のこの時期(9月末頃)、私は北京に駐在していましたが、これほど次々と「大物」が失脚したと報道されていた記憶はないので、今回の第19回党大会は、いつもとは違った雰囲気の党大会になるのかもしれません。

 私が「今回は10年前の党大会とは雰囲気が違う」と感じるもうひとつの要因は、習近平氏が軍の内部に相当露骨に手を突っ込んで改革を進めようとしている点です(胡錦濤前総書記は江沢民元総書記の力がまだ強かったので軍の改革には手を突っ込めなかった、と言った方が正しいのだと思いますが)。

 私は2007年4月に二回目の北京駐在を始めた時点で、その前の北京駐在終了時(1988年9月)以降、ほとんど中国関係の仕事をやっていなかったことから、「タイムマシンで19年すっ飛ばして北京に戻って来た」ような状態でした。そのため「あれぇ、以前とは随分変わったんだなぁ」と気付くところがたくさんありました。その一つが「新疆生産建設兵団」の扱いでした。

 「新疆生産建設兵団」は、人民解放軍の人員で構成され、新疆ウィグル自治区において辺境の防衛にあたるとともに、新疆ウィグル自治区の経済開発のための様々な生産活動を行う集団で、一種の「屯田兵」的存在です(通常、略して「兵団」と呼ばれる)。1980年代には既に存在していましたが、軍の一部の部隊であり、特段「人民日報」などに登場する機会もなかったので、私自身、1986年~1988年の北京駐在時には、「兵団」の存在について意識することはありませんでした。

 ところが、2007年4月に二回目の北京駐在を始めてみると、例えば、全国で何かの問題についてテレビ会議をするニュースでは、河北省、天津市、新疆ウィグル自治区といった地方政府代表者と同じレベルで「兵団」代表者が登場していました。国営通信社である新華社のホームページの「地方」のページを見ると、河北省、天津市、新疆ウィグル自治区と同じレベルで「兵団」のページがありました。

 中国では、地方行政区分として、河北省などの23の省(これには中華人民共和国政府が主張する「台湾省」も含む)と5つの自治区(新疆ウィグル、チベット、内モンゴル、寧夏回族、広西チワン族の各自治区)と4つの直轄市(北京、天津、上海、重慶の各市)があり、基本的に(台湾省以外は)これらは同等に扱われます(このほかに、香港とマカオの特別行政区がある)。「新疆生産建設兵団」は、物理的地理区分上は、新疆ウィグル自治区の内部にあるので、「兵団」を「新疆ウィグル自治区」と同等に扱うのは、どう考えてもおかしいので、2007年の二回目の北京駐在時にニュースで「兵団」と「新疆ウィグル自治区」を同等の別個な主体であるかのように扱うのを見て私は「おかしいなぁ」と感じたのでした。

 私は中国の人民解放軍の内部事情については報道されている以上のことは何も知らないのですが、おそらくは「新疆生産建設兵団」は、辺境の地にあって、国土防衛(最近はイスラム過激派等のテロ対策も含めた治安維持)にあたるとともに、農業経営、工場の運営から、病院、学校まで自ら経営しているため、ほとんど新疆ウィグル自治区政府とは異なる「独立王国」的な性格を持っているのではないかと思います(新疆ウィグル自治区全体では漢民族は少数派ですが、「兵団」は軍の一部であることもあり、漢民族が大多数を占めていることも「独立王国」的性格を持つ原因になっている可能性があります)。しかし、仮に実態的に「兵団」が「独立王国」的性格を持っていたとしても、政治的には(特に中国共産党が新疆ウィグル自治区ではウィグル族等による「自治」を重んじていると主張するならば)「兵団」を「独立王国的」に扱うことはむしろ避ける方が賢明だと私は思います。しかし、実際は「新疆生産建設兵団」はまるで新疆ウィグル自治区とは別に存在する「独立王国」のように扱われています。

 これも私の「想像」の域を出ませんが、二つの私の北京駐在期間の間(1988年と2007年の間)に、独立王国的性格を強めた「新疆生産建設兵団」が中央政府と中国共産党中央に対して独立した扱いをするよう求め、中央政府と党中央がその圧力に屈したのではないか、と私は考えています。

 1980年代の中国の最高実力者のトウ小平氏は、中国共産党中央軍事委員会主席以外の党や政府の要職には就いていませんでしたが、軍の内部には圧倒的な支配力を持っていました。それは、トウ小平氏自身が国民党との国共内戦時に「将軍」として戦闘の現場を指揮した経験があり、その時に生死を共にして戦った部下の多くが人民解放軍の幹部として残っていたからでした。なのでトウ小平氏の存命中は「軍が党中央に圧力を掛ける」などということは誰も考えもしなかったことでした。

 トウ小平氏は1997年に亡くなりましたが、トウ小平氏の後継として中国共産党中央軍事委員会主席になった(国家主席にもなった)江沢民氏、胡錦濤氏、習近平氏は軍での経験はありません。トウ小平氏の死後、軍の党中央に対する声が大きくなっても党中央の中に軍による「圧力」を押さえ込めるだけの力がなくなってしまった、と想像することは難しくありません。

 1980年代の北京駐在時のことはほとんど覚えていないのですが、2007年~2009年の北京駐在時には「新聞聯播」で三日に一度は「軍の○○部隊は××でこういう軍事訓練を行った」といった軍関連のニュースを必ず流しているのに気がつきました。今、「新聞聯播」は、2013年8月から東京でスカパー!経由で毎日見ていますが、今は「新聞聯播」では、軍関連のニュース(どこそこでこういう軍事訓練が行われた、といった類のもの)を毎日放送しています。「新聞聯播」では、政治・経済のニュースのほかに、国際ニュース、文化ニュース、スポーツ・ニュースもやるので、軍関連のニュースもそれと同じようなものであって他意はない、という考え方もあるのでしょうが、軍関係のニュースの放送頻度については今は胡錦濤政権時より明らかに多くなっています。私の率直な感想は「党中央は軍の機嫌を損ねないように相当軍に気を使っているなぁ」というものです。

 中国に行ったことのある人ならすぐ気付くと思いますが、例えば、高速道路の料金所では、軍関係車両専用のゲートがあって、軍関係のナンバープレートの車は、他のゲートのところに並ばずにゲートを通過できるようになっています。おそらくこうした「軍関係者を他とは区別して優遇するシステム」が中国社会には広く存在していることが想像され、それによって軍関係者の「特権階級意識」も強いのではないかと想像されます。もし仮に軍の内部に政府や党中央をも凌駕するような「特権階級意識」があるのだとすると、党中央としては、そうした軍の「特権意識」を排し、軍は完全に党中央の指揮下に入るべきだ、との考えが党中央に芽生えてもおかしくはありません。最近、習近平主席が軍内部においても集中した権力掌握を進めていますが、それが「軍の特権階級意識を撲滅し、軍を名実ともに完全に党中央の指揮下に収める」ことを目的としているのならば、習近平主席による軍内部での権力集中は前向きな軍改革として評価すべきなのかもしれません。

 今、新華社のホームページの「地方」のページに行くと、台湾省を除く22の省、5つの自治区、4つの直轄市に加えて、「兵団」と無錫市、長江デルタ地帯、河北・天津・北京地域を特集したページへ飛ぶリンクが並んでいます。一方、「人民日報」のホームページトップには、台湾省を除く22の省、5つの自治区、4つの直轄市に加えて深セン市を特集したページへ飛ぶリンクが張られています(「兵団」を特集したページへのリンクはない)。なので、新華社の「地方」のページに「兵団」へのリンクがあっても、そんなに深い意味はない、「『兵団』が省・自治区・直轄市と同じレベルの独立王国と化している」とするのは考え過ぎ、との見方もできるかもしれません。しかし、最近、「人民日報」(中国共産党の機関紙)が党大会前の特集として「前回の党大会以後の5年間の発展ぶりを紹介する企画」として、平日の紙面で、毎日、各地方をひとつづつ取り上げる特集を組んだ際にも、台湾省を除く22の省、5つの自治区、4つの直轄市の後に来たのは「新疆生産建設兵団」の特集でした。これも、現在、党中央が、「新疆生産建設兵団」を省・自治区・直轄市と同じレベルで扱っていることの証左だと思います。

 最近、日本の新聞では、軍における習近平主席への権力集中の動きについて、「政権は銃口から生まれる」という毛沢東の言葉を引用しつつ、習近平主席が自分への権力集中にどん欲であるとの印象を強く打ち出しています。それは一面では誤りではないとは思いますが、別の一面として、習近平氏が目指しているものについては、上に書いたように「党中央をもないがしろにしがちな軍の内部を改革し、真に党中央が軍全体を統率できるような体制を構築する」という一面もあることは指摘すべきだと思います(なお、「新疆生産建設兵団」の扱いについては、中国国内では極めて「敏感な」(政治的にセンシティブな)案件ですので、たぶん、中国のネットに私が今日書いたような議論を書き込んだら、例え習近平氏への権力集中を応援するような内容であったとしても、一発で削除対象になると思います)。

(注)日本の新聞等で軍における習近平主席への権力集中を語る際に毛沢東の「政権は銃口から生まれる」という言葉を引用していることについては、引用の仕方が誤りである、と私は考えています。毛沢東の言葉は「西欧型議会制民主主義においては、ブルジョア階級(資本家及び大地主)が資金力にものを言わせて選挙を勝ち抜くので、議会は常にブルジョア階級に有利な決定をし、人民の大多数であるプロレタリアート(労働者や貧農の階級)からの搾取はなくならないので、プロレタリアートは団結して、武力蜂起によって、場合によっては議会を粉砕して、革命を達成させなければならない」と主張するもので、民主主義を確立し議会制度を通して平和裏に(武力を用いないで)近代化革命を進めようとしている勢力に対する批判の中でなされたものです。従って、既に共産主義革命が成立した現在の中国において、為政者が軍に対する掌握力を強化しようとしていることについて、この毛沢東の「政権は銃口から生まれる」という言葉を引っ張ってきて説明しようとすることは、言葉の背景を考えていない誤った引用の仕方だと私は思っています。

| | コメント (0)

2017年9月16日 (土)

党大会前後で何がピークを打つのか打たないのか

 中国共産党第19回全国代表大会(2017年10月18日開幕)まで残すところほぼ一ヶ月となりました。党大会を境に中国政府による「下支え」がなくなるので、中国経済は党大会をピークとして下り坂に入る、という見方と、中国政府は党大会後の急速な経済減速を望まないので、党大会後も中国経済は堅調さを維持する、という見方が交錯しています。ただ、おそらくは「党大会のピークで一儲けしよう」と考えている「投機筋」が少なからずいると思うので、多くの相場で中国共産党大会が「転換点」のタイミングになる可能性は小さくないと思います。

 党大会前1か月のこの時期、もしかしてピークを付けたのかな、と見えるようなものをいくつか掲げてみたいと思います。

○上海総合指数:9月14日に中国国家統計局が発表した今年(2017年)1~8月の経済指標が予想より悪かったので、週末上海総合指数は少し下げました。ただ、今年(2017年)の上海総合指数は上昇基調にはありますが、2007年の党大会前や2015年夏のような「バブル的な上昇相場」ではないので、これから党大会前後に掛けて、そんなに乱高下はしないのではないか、と私は見ています。2015年の株バブル崩壊以降、国家隊(政府系ファンド等)による株価安定策がかなり効いていると思いますので。

○銅価格:9月上旬に高値を付けた銅価格の値上がりが一服していますが、今日(2017年9月16日(土))付け日本経済新聞朝刊17面には「銅、高値修正は限定的 投機筋の売りで上げ一服 実需の買いが下支え」という見出しの記事が載っていました。世界最大の銅の消費国は中国なので「党大会後、中国での銅の需要は頭打ちになる」と見た一部の「投機筋」が今のタイミングで売りを入れたのでしょう。

○亜鉛:今日(9月16日)付け日本経済新聞朝刊18面には「亜鉛価格、内外で下落 中国経済に減速観測」という記事が載っていました。

○ビットコイン:昨日(9月15日)、ビットコインの価格が大幅に下落しました。中国の規制強化により中国の大手仮想通貨取引所が今月末で取引を停止すると発表したことが切っ掛けでした。今の時点ではビットコイン市場の動向が実態経済に与える影響は大きくないと思いますが、「投機マネー」の動向を見る指標として、ビットコイン価格は一種の「温度計」の役割を果たしていると見てもよいかもしれません。

○中国の不動産市場:「人民日報」のホームページ「人民網」の「財経チャンネル」に経済参考報の記事として「全国のマンション市場の在庫圧力大幅減 多くの都市において在庫は『良性周期』に入った」(2017年9月15日アップ)が載っていました。この記事では、今年1~8月、マンション販売面積は過去最高で前年同期比12.7%増(1~7月比1.3ポイント下落)、マンション販売額は前年同期比17.2%増(1~7月比1.7ポイント下落)だったことを伝えています。「今年はこれまでマンションはよく売れたので在庫が減った。ただし、8月には売れるスピードが鈍化した」ということだと思います。記事では「在庫は『良性周期』に入った」とポジティブに報じていますが、そもそも経済は堅調とは言えそんなに景気が急速に拡大しているわけではない今年(2017年)の1~8月のマンション販売額が前年比17.2%増だ、というのは「売れすぎ(=過熱し過ぎ)」なのじゃないかなぁ、と私は思います。なお、この記事では、政府の方針に従って、手持ちのマンション物件を賃貸にする開発業者も増えていることを紹介しています。賃貸物件に思った通りの家賃で借り手が付くかどうか、も今後の中国のマンション市場の将来を占う上で、重要なカギになりそうです。

 そもそも9月14日に発表された中国の経済指標について、昨日(9月15日)の日本経済新聞朝刊11面では「中国経済、緩やか減速 8月、資産・投資伸び鈍る」という見出しで報じています。党大会を一ヶ月後に控え、中国経済は既にピーク打ち感が出ている、と見るべきなのかもしれません。

 それに加えてちょっと気になるのは、その記事の隣にあった「訪日団体旅行を制限 中国・福建省など 外貨流出警戒か」という見出しの記事です。もし、この記事が指摘しているように、中国当局が中国からの資金流出を懸念して「爆買い」をするような日本旅行を制限しようとしているのが事実ならば、それは中国当局自体が「党大会後の中国経済の減速とそれに伴う資金の海外流出圧力の増加」を見込んで、そのための対策を打ち始めていることを意味しているのかもしれません。

 来週(9月19~20日)、アメリカFRB(連邦準備制度理事会)はFOMC(連邦公開市場委員会)を開いて金融政策について議論します。この会合で「量的緩和」によって積み上がった資産(バランスシート)の縮小を10月から開始することを決定するのではないか、との見方も強いのですが、アメリカFRBが資産の縮小を始めてアメリカの金利が上がり始めるのと同じタイミングで中国で共産党大会後の経済の減速が始まるのだとするとあまりよくないなぁ、とちょっと心配になります。おそらく米欧日の中央銀行は、10月の中国共産党大会後に中国経済が減速するかもしれない、というスケジュール感は頭に入っていて、それを踏まえた金融政策のコントロールをしてくると思いますが、北朝鮮情勢の不透明さもあり、今年(2017年)の秋は、各種の経済指標や市場の相場動向を注意深く見守っていく必要のある時期が続きそうです。

| | コメント (0)

2017年9月 9日 (土)

内政外交ともに「対処できていない感」満載の習近平氏

 先週日曜日(2017年9月3日)の日本時間12:30頃、北朝鮮が六回目の核実験を行いました。日本の新聞等でも指摘していますが、この日の午後、福建省厦門(アモイ)で開かれたBRICS(新興五か国)首脳会談に先立って行われた経済シンポジウムの開会式で習近平主席が演説をしており、北朝鮮の核実験が習近平主席の演説の数時間前であったことから、北朝鮮の今回の核実験は「中国への面当て」の意図を強く打ち出したものだった、との見方が強くなっています。

 最近の北朝鮮のミサイル発射等の挑発行為は、時刻に係わらず行われていて、「自分の好きな時にいつでもできる」ことをアピールしていますが、5月14日に行われた弾道ミサイルの発射も、北京で行われた「一帯一路」首脳会議に先立つ経済シンポジウムの開会式で習近平主席が演説する数時間前に行われました。この日の習近平主席の演説は午前中に行われましたが、北朝鮮による弾道ミサイル発射は早朝に行われ、タイミング的には「習近平主席が各国首脳とテレビカメラの前で演説を行う数時間前」という意味では、今回の核実験と全く同じでした。

 北朝鮮の貿易の9割以上は中国相手であり、北朝鮮問題については、アメリカのトランプ大統領ならずとも、世界の多くの国が中国に対して「なんとかしてよ」と思っている中で、習近平主席「肝入り」の各国首脳を招いての国際会議の直前のタイミングでの北朝鮮のたび重なる挑発行為は、北朝鮮による習近平氏の「メンツ潰し」としては極めて効果的だったと思われます。こういったタイミングでの北朝鮮の挑発は、国際社会のみならず、中国国内に対して「習近平主席は北朝鮮問題について何も対処できてないじゃないか」との印象を与えたと思います。

 こうした北朝鮮の挑発行為に対する中国側の対応も「中国は北朝鮮に対して有効な対処ができていない」という印象を強めるものとなっています。「一帯一路シンポジウム」の時も今回のBRICS首脳会議に際してのシンポジウムの際も、北朝鮮の「挑発」の数時間後に演説した習近平主席は、北朝鮮の問題について何も触れませんでした。今回のBRICS首脳会議関連のシンポジウムに関しての中国側の報道は、当日の中国中央電視台の夜7時のニュース「新聞聯播」でも翌日の「人民日報」の紙面でも、習近平主席が演説したシンポジウム関連の報道に多くの割合を裂き、北朝鮮問題については、「外交部が強烈な反対を表明した」旨をごく小さく、ほとんど「ベタ記事扱い」で報じたに過ぎませんでした。この習近平主席の「だんまり」と中国側の北朝鮮問題をなるべく小さく扱おうとする態度は、BRICS首脳会議に出席していたロシアのプーチン大統領が記者会見で北朝鮮問題に関してロシアの立場をハッキリ表明していたのとは対照的で、「北朝鮮問題については、中国はロシアに比べても態度をハッキリ表明していない。中国は相当に困惑しているようだ。」という印象を内外に与えてしまいました。

 そうした一方、BRICS首脳会議が開かれていた9月4日と5日、国務院総理の李克強氏は山西省を視察していて、貧困対策等について地元の地方政府幹部と話し合う姿が「新聞聯播」などで報じられました。私は、まるで李克強総理が「習近平主席は福建省でBRICS首脳会議をやっているようだが、私(李克強総理)は関係ないもんね」と言っているような印象を受け、「北朝鮮に対して有効に対処できていない」以前の問題として、習近平主席は中国政府内部も統括できていないのではないか、という印象を持ってしまいました。もし中国政府が政府全体としてBRICS首脳会議を中国の外交上の重要イベントだと認識しているならば、李克強総理もアモイに出向いてBRICS参加国の首相や経済関係閣僚と会談を行うのが普通でしょう(去年(2016年)9月に浙江省杭州で開かれたG20首脳会議の際も李克強氏は杭州へは行っていないので、こうしたやり方は今に始まった話ではないんですけどね)。

 一方、内政問題については、今、中国ではそんなに大きな問題が生じているようには見えません。実際、10月18日から開催予定の第19回中国共産党全国代表大会へ向けて、現在のところ中国経済は順調に行っているようです。ただ、これは、政府によるインフラ投資等による景気下支え策と強烈な資本規制による資金の国外への逃避抑制に起因する中国国内での資金滞留の効果が大きいのであって、中国経済の根本的な問題点は先送りされているだけであまり改善されていない、という見方も強いようです。

 8月30日付け日本経済新聞朝刊8面に「中国の地方政府 土地売却を加速 1~7月4割増の30兆円 景気対策に財源確保」という記事が載っていました。中国の地方政府が「土地は公有制」という中国の特徴を活用して、農民から一定額の補償金を支払った上で農地を収用し、それを土地開発業者に売却して大きな財政収入を得て、それをインフラ投資等に使っているという問題は、私が北京に駐在していた10年前頃ですら「持続可能なやり方ではない」と認識されていました。そうした「土地収入依存体質」という構造が全く改善されていない(というより党大会前の景気下支えのための投資の財源としてより強力に行われている)という現状は、中国政府は「構造改革」についてはうまく対処できていないことを示しています。

 「土地収入依存体質が改善していない」という点については、中国国内でも問題意識は持たれてるようです。「人民日報」ホームページ「人民網」の「財経チャンネル」に2017年9月5日付けの「経済参考報」の記事「1~8月の300都市の土地収入は2.2兆元 不動産企業による土地取得は依然として加速している」との記事が掲載されていました。この記事のポイントは以下のとおりです。

○今年(2017年)1月~8月の全国300都市の土地売り出し総額は2兆2,032.6億元で、前年同期比約34%の増加である。

○中原地産の首席アナリストの張大偉氏は次のように解説している。「不動産企業による土地取得が加速過程にあることは非常に明確である。大都市(中国語で『一線城市、二線城市』)では不動産販売抑制政策の効果が明らかであるが、全国のデータで見ると、不動産企業は今年上半期の販売状況が比較的よかったという状況の下、資金状況は空前の規模で余裕がある状態にあり、現在ある在庫分の販売が成功した後、大部分の大手不動産企業は積極的に土地取得を開始している。」

 この記事は、2017年に入ってからの中国政府による資金の海外流出の締め付けにより、中国国内で資金がだぶつき、またぞろ不動産市場がバブル的状況になっていることを表していると思います。中国政府は、党大会前の景気の過熱を抑制し、党大会後に経済が急速にしぼむことを防ぐ対策をやる必要があることはわかっているにも係わらず、今年については、過熱の抑制に成功していないようです。

 中国当局は9月4日、ICO(仮想通貨発行による資金調達)を禁止する旨の通達を出しました。これも中国国内でだぶついた資金が新しい投資対象であるICOを過熱化させることを中国当局が懸念したからだと思います。規制するのは政策判断として私も「あり」だと思いますが、市場の混乱を避けるためには、全面禁止する前に当局側からICOに関する懸念が表明されるなり、政府内で禁止へ向けて検討を開始した等の情報を流すなりして、ある程度熱を冷ましてから「禁止」の決定をすべきだと思いますので、今回の突然のICO禁止決定は、私には経済政策のやり方としてはいささか「拙劣」だったような気がします。

 2015年夏の上海株バブル崩壊時のあわてふためいた株価下支え策、2015年8月の突然の人民元の切り下げ、2016年年初の株式市場でのサーキット・ブレーカー制度の朝令暮改(制度を導入したら市場が混乱したので数日で制度を撤回した)、そして今回の突然のICO禁止決定といった一連の政策から私が受ける印象は、「習近平政権の経済政策は一貫性がなく、その場しのぎで、中国の歴代政権の中でも『アラ』が目立つ気がするなぁ」というものです。私には、外貨が非常に少ない1980年代に苦労して外貨兌換券制度を編み出し、それを1990年代に混乱なく終了させた過去の中国当局の巧妙な経済・金融政策の記憶があるので、ちょっと昨今の中国の経済政策の「ドタバタぶり」が気になってしまい、今の中国政府は現状の問題点にうまく対処できていないのではないか、と感じてしまうのです。

(注)私には、リーマン・ショック後のアメリカFRB、ヨーロッパECBや日本銀行の金融政策についても「うまく行っている」と判断する自信はないので、中国のことだけを批判的に見るのは公平ではない、とも考えています。

 で、私が一番気になるのは、上に書いたように外交や内政において、中国には様々な問題があり、中国政府の対応が必ずしもうまく行っていないのではないか、という部分もある中、習近平主席が次の党大会での自分への権力集中にばかり関心を向けているように見え、李克強総理もそういう習近平主席から一定の距離を置いて「お手並み拝見」という態度を取っているように見えて、中国政府に一体感がないように見えてしまっていることです。

 特に私の印象では、習近平主席は前任の胡錦濤主席に比べて、テレビを通じて人民に呼び掛ける姿がかなり少ないのが気になっています。李克強総理の方は、よく国際的な経済シンポジウムに出席して、経済人や報道陣からの質疑を受ける場面をテレビで見かけるのに対し、習近平主席の方は用意された原稿を読み上げる演説の場面はたくさんあるのですが、「自分の言葉」で語りかける場面が少ないように思います。特にロシアのプーチン大統領が、テレビによく出て、自分の言葉で国民と世界に呼び掛けるのがうまく、「強い指導者」であるとの印象を作り出すことに成功しているのと比較すると、習近平主席はメディア戦略という点ではあまり成功していないと思います。

 タイトルに掲げた「対処できていない感」は、単なるテレビ等を通じた印象だけの話であって、実際には、習近平主席は中国共産党と中国政府内部では見えないところで強力なリーダーシップを発揮しているのかもしれません。しかし、もし仮に「対処できていない感」を保持したまま、10月の党大会で習近平氏が「中国共産党主席」に就任し、権力を一手に集中させることに成功するのだとしたら、習近平氏は、メディアから受ける印象と実質的な権力集中の不一致、という苦しみに今後苛まれることになると思います。中国人民の気持ちは、やはりメディア等から受ける「印象」に左右されますからね。

| | コメント (0)

2017年9月 2日 (土)

党大会前の順調な中国の企業決算の信頼性

 中国共産党第19回全国代表大会は2017年10月18日から開催されることが8月31日に公表されました。10年前の2007年の第17回党大会の時は、10月15日から党大会が開かれる旨が8月28日に公表されていますので、それとだいたい同じタイミングです。なので、党大会の重要な決定事項については今の時点で既に「概ね見通しがついた」(=特段揉めているわけではない)と考えてよさそうです。

 一方で、今度の党大会で去就が注目される政治局常務委員の王岐山氏(習近平主席の「右腕」として反腐敗運動の中心を担っているとされる。年齢的には今度の党大会では再任されない見通しだが、習近平主席への権力集中の一環として慣例となっている「定年制」を変更してでも再任されるのではないか、との見方もある)は7月下旬以来、テレビのニュースに登場していません。王岐山氏の再任問題が最後まで調整を要する事項として残っている可能性があります。

 党大会の開催日公表は8月31日でしたが、おそらくは先週末(8月25日)の時点で開催日程公表のメドがついていたのではないかと思います。というのは、8月25日(金)、上海総合指数が対前日比1.80%高と急騰し、年初来高値を更新しましたが、中国共産党内部の情報に通じている投資家が未公表の党内情報を踏まえて株を買った可能性があるからです(公表されていない内部情報を元に株を売買することは、中国でもインサイダー取引として規制されますが、おそらく実態的には党内情報を知った一部の投資家が他の投資家に先駆けて株を売買するようなケースは中国では「よくあること」なのではないか、と私は想像しています)。

 8月29日(火)、北朝鮮が日本を飛び越して太平洋に中距離弾道ミサイルを発射して、日韓の株価が大幅安しているのに、上海総合指数は平気な顔をして小幅に値を上げました。足元の上海総合指数の上昇傾向については、最近の中国企業の決算発表の内容が予想以上によかったからだ、といった理由付けがなされているようです。

 最近の中国企業の業績が好調なことについては、8月31日(木)付けの日本経済新聞朝刊13面に「中国企業 2割増益 上場3,118社1~6月期 資源高やインフラ投資に依存 党大会後は不透明」という見出しの記事で解説がなされていました。この記事によると、業種別では鉄鋼と建材が飛び抜けて最終損益の上昇率が大きく、インフラ投資が大きく企業業績の好調さに貢献していることがわかります。

 実際、今、中国企業の業績は好調なのだと思いますが、私は、最近の中国の「雰囲気」には留意する必要があるのではないか、と思っています。その「雰囲気」とは以下の点です。

○中国共産党は(民間企業も含めて)企業に対する党の指導を強化する方針を強く打ち出していること(企業も中国共産党の意向には逆らってはならない、という「暗黙の圧力」になっている)。

○「反腐敗闘争」の一環として、企業トップが摘発される例も多発していること。特に最近の軍の最高幹部クラスの摘発は、平時にしてはいささか度を越しているように思われ、各界トップに「次は自分が摘発されるのではないか」という恐怖心を植え付けるのに十分な状況であること。

(注)今日(2017年9月2日(土))付け各紙は、中国共産党軍事委員会メンバー11人のうち4人が失脚していることを大きく報じています。ちょうど10年前の2007年の党大会の時に私は北京に駐在していましたが、当時の胡錦濤政権では、こうした「あからさまな権力闘争」と思われる案件は党大会の直前にはありませんでした。2006年9月、陳良宇上海市党書記(江沢民前国家主席に近いと言われていた)が失脚しましたが、この案件は党大会の1年以上前の話でした。党大会直前の時期に大物(特に軍の大物)の失脚が続くという現在の習近平政権のやり方は「ただ事ではない」という雰囲気を作り出しています。

○(これは党大会が行われる際には毎度のことですが)中国全土で「中国共産党大会勝利開催!」の雰囲気の盛り上げが行われていること(個人的な感想ですが、先日、習近平主席も出席して行われた中国全国運動会(日本の国民体育大会に相当)の開会式で、観客席で「第19回党大会勝利開催!」という人文字を作っていたのは、やめて欲しいと思いました。北朝鮮じゃないんだから。)

 このような「雰囲気」の中で中国政府が景気浮揚のため一生懸命インフラ投資をやっているわけですが、こういう「周囲の状況」の中で「残念ながら当期の我が社の業績は今ひとつ振るいませんでした。」と正直に決算発表できる企業トップは相当に勇気のある人だと思います。中国の企業の決算発表の実態(例えば、監査法人や公認会計士による監査がどの程度厳格に行われているのか)は私はよく知りませんが、省レベルの地方政府ですらGDPの「水増し」が行われている中国社会の現状を鑑みれば(先日、遼寧省幹部はGDPの「水増し」があったことを認めた)、中国の企業決算をどの程度信用してよいのか、については、私は疑問に思っています。

 もし仮に、中国の企業トップに「党大会の前の決算はよく見せよう」という意向が働くのだとしたら、昔、バブルの時期に日本企業がやっていたような「飛ばし」(含み損を抱えた資産を決算時期の前に「決算時期の後に買い戻す」という条件付きで他社に売却する行為)のようなことを中国の企業はやっているのかもしれません。もしそうだとすると、党大会前の決算内容は実態よりも「水増し」されていることになります。

 8月5日付けのこのブログでは、金融機関の貸し出し時における「党大会バイアス」(党大会前の企業破綻を避けるため、党大会前は平常より貸し出し条件が甘くなってしまうケース)があるのではないか、と書きました。金融機関によるこうした「党大会バイアス」や各企業の「党大会前の決算を通常より良くお化粧して見せる」という行為が仮に一般的に行われているのだとしたら、中国経済は党大会前は実態よりもよく見えてしまうことになります。

 中国の株式市場の投資家たちがそうした中国における「党大会前の特殊な事情」を知った上で株を売買しているのかどうかは私は知りません。ただ、事実として2007年のケースを書くと、党大会は2007年10月15日に開幕し、当時も「バブルではないか」と言われていた上海総合指数は党大会開幕翌日の10月16日に終値ベースでピーク値6,124ポイントを付けました(翌2008年3月末には3,400ポイント、8月18日には2,320ポイントまで下落。翌月に起きたリーマン・ショックによりさらに下値を探ることになる)。

 今回も上海総合指数が党大会開催翌日にピークを打つかどうかは誰にもわかりませんが、問題は、今回の党大会の開催日が10月18日であることが公表されたことから、「党大会の開催日が様々な経済指標のピークになる可能性がある」と考える「投機筋」がそういう前提で投機マネーを動かす可能性があることです。

 7月下旬、ウォール・ストリート・ジャーナルが10月頃に相場が変動することに賭けた投資家が出たことを報じて話題になりました。アメリカ政府の債務上限問題(9月末がタイムリミットと言われる)やアメリカFRBの資産縮小開始決定(9月20日に決定される可能性が取りざたされている)もありますので、この投資家が中国のことをどの程度考えていたのかは定かではありませんが、中国共産党大会の開催日が決まったことで、ピンポイントのタイミングを狙った投機筋の行動もこれからも出てくるかもしれません。

 ここのところ日経新聞では「中国共産党大会後の中国経済が心配」といった趣旨の記事が非常に多くなっているように感じます。特に今の習近平政権は、明らかに「経済が党大会の時点でピークを打つという懸念」よりも「習近平氏への権力集中の実現」の方に優先順位を置いているように見えるので、「中国経済が党大会のタイミングでピークを打ち、その後、下り坂に入る」という「みんなが心配している懸念」が実際に起きる可能性はかなり大きいと私は思っています。

| | コメント (0)

« 2017年8月 | トップページ