« 中国のインフラ投資とPPPと社債との関係 | トップページ | 党大会前の順調な中国の企業決算の信頼性 »

2017年8月26日 (土)

党大会前の景気過熱はコントロールできているのか

 中国共産党大会を前にして中国経済は過熱し、党大会終了後に下り坂に向かう、ということは誰もが(中国共産党自身も含めて)わかっていることなので、通常、中国政府は党大会前の経済が過熱しすぎないように適度にブレーキを掛けます。ただ、今回(2017年)の党大会に関しては、既に8月末になっているのに、まだ「過熱状態」が続いているようであり、中国政府による「適度なブレーキ」が効いていない、即ち、中国政府は党大会前の景気過熱をうまくコントロールできていないのではないか、との懸念が出てきているようです。

 その懸念を端的に示す記事が今朝(2017年8月26日)の日本経済新聞朝刊に載っていました。13面の記事「中国発 鉄冷えの秋警戒 世界生産は15ヵ月連続増」という記事です。この記事では「山が高ければ、それだけ谷が深くなる」として、党大会前の過熱が過ぎると、党大会終了後の落ち込みが大きくなると警戒している日本の鉄鋼大手幹部の発言を紹介しています。

 ちょうど一月前の7月29日、私はこのブログで「今年『中国共産党大会前の経済の過熱』は許されるのか」という記事を書きました。私は2007年4月~2009年7月まで北京に駐在していました。その北京駐在期間中の2007年10月に第17回中国共産党大会を、2008年8月に北京オリンピックを経験しましたが、その頃、中国政府は、党大会と北京オリンピックへ向けた景気の過熱をかなり警戒しており、北京オリンピック終了後に景気が急に冷えることを防ぐために、適度に景気にブレーキを掛けるような政策をとっており、実際、それは一定の効果が上がっていたように私は感じました。それに比べると、今回(2017年)は党大会前の景気過熱の行きすぎを抑制するための「適度なブレーキ」があまり効いていないように感じます。それだけに党大会終了後に中国の景気に急ブレーキが掛かることが懸念されます。

 「中国の経済統計指標は信用できない」という人も多いのですが、国際的な市況の動向を見ていると、中国経済の実態もある程度は想像することができます。ここ一週間の日本経済新聞の報道でも、中国経済が現在もかなりホットな状況にあることを背景にしていると思われる国際市況に関する記事が相次ぎました。

○8月23日(水)付け朝刊20面「ばら積み船 用船料上昇 大型船、1ヵ月で2倍 中国向け堅調」

○8月25日(金)付け朝刊21面「鉄スクラップが一段高 直近安値3割上昇 中国輸出減で」

○8月26日(土)付け朝刊17面「NY銅先物が上昇 2年9ヵ月ぶり3ドル超え 中国の需要増に期待」

 これらは「現在の需要が実際に好調だという実需」の側面と「これから需要が好調になるだろうと見込んだ投機」の側面とを両方含んでいると思われますが、党大会の時期(つまり景気のピークになるだろうと思われるタイミング)のほぼ二か月前という現時点での状況にしては、私には「ちょっと景気が熱過ぎる」という感じがします(ついでに言うと、3,250ポイント程度を上限とする範囲内に当局がうまく納めるだろうと思っていた上海株式市場の総合指数が8月24日(金)に3,331.522(対前日比1.80%高:年初来高値更新)に急騰したのも気になります。私は上海総合指数は、2015年の株バブル崩壊以降、国家隊(政府系ファンド等)による売り買いによって「当局が数字をコントロールできている」と思っていたので、今後、上海総合指数の上昇が止まらなくなるようだと要注意だと思います)。

 ここで気になるのは、「過熱の行きすぎが心配になるほどの景気」と習近平氏が党大会で権力集中を図ろうとしていることが関係しているのではないか、という点です。習近平氏が、多くの地方政府や国有企業に関係する党幹部の支持を得たいと考えるならば、党大会直前のこの時期に過熱するくらい「景気のよい」状況を現出させておいた方が得策だと考えると思われるからです。前にも書いたことがありますが、2008年頃、北京オリンピック終了後の急速な景気後退を心配した中国政府は一定程度景気にブレーキを掛けていましたが、この頃、私の耳には「マクロ経済政策の中心人物である周小川中国人民銀行総裁の更迭説」が入って来ました。おそらくは「景気の過熱」を好む地方政府や国有企業の有力党幹部が景気にブレーキを掛けようとする周小川氏を排除しようとする動きがあったものと思われます。

 2008年当時、胡錦濤政権は「景気の過熱を防ぐための適度なブレーキ政策」を堅持し、周小川氏も辞めることはありませんでした。私は、胡錦濤政権は「景気過熱」を求める党内勢力の圧力には屈しなかったのだ、と当時思いました。(2008年9月、アメリカ発のリーマン・ショックが世界を襲い、その対策のために四兆元の超大型経済対策が打たれたため「北京オリンピック終了後の中国経済の後退」は結局は杞憂に終わりました)。

 今日(2017年8月26日(土))の時点で、中国共産党大会の日程はまだ公表されていません。10年前の2007年の党大会の日程発表は8月28日だったので、あと一週間のうちには党大会の日程が発表されると思われます(発表がそれより遅れるようだと、党大会で決めるべき事項の中でまだ方向性が決まっていない「揉めている案件」が残っているからだ、という憶測を生むことになると思います)。

 上に書いたように、「党大会直前になっても景気の過熱が収まらない」という現状は、中国政府の経済政策が「経済の円滑な推移」よりも「党大会での習近平主席への権力集中の実現」という政治的目的の方を優先していることを示している可能性があり、もしそうなら、党大会後、習近平政権は、実態経済から大きな「しっぺ返し」を受けてしまうことになる可能性があります。

 なお、外国メディアが「中国の現在の景気は党大会を前にした当局による大規模なインフラ投資で支えられているので、党大会が終わると景気は急減速する可能性がある」という論調で伝えることが多いことについては、中国当局自身も結構気にしているようです。今日(2017年8月26日(土))付け「人民日報」2面には「経済情勢の新しい変化については全面的に客観的に見るべき」と題する論説記事が載っていました(もともとは8月25日の「経済日報」に載っていたものを「人民日報」が転載したもの)。

 この記事では、最近の中国の経済成長は、新しい産業分野の成長が大きいことや労働生産性が上がっていること、最終消費支出の経済成長における寄与度が大きくなっていることなどを数字を上げて説明した上で、「一部外国メディアはこのような中国経済の重要な変化を理解しておらず、あるいは見て見ぬふりをして、依然として中国の経済成長はインフラ等の投資が引っ張っていると説明している」と外国メディアを批判しています。

 もともと「経済日報」に掲載された記事を「人民日報」が改めて転載した、ということは、中国共産党宣伝部がこの論調を強く主張したいと考えていることの表れです。私のような「中国の新聞をひねくれて読むクセ」のある人から見ると、こういう記事の出し方は、実は「中国経済は依然としてインフラ等の投資が引っ張っている」という外国メディアの論調が「痛いところを突いている」からだ、と見えてしまいます。

 中国共産党の内部には優秀なエコノミストがたくさんいます。おそらくは「経済の円滑な推移よりも政治目的を優先していると、あとで実態経済から手ひどい『しっぺ返し』を受けるおそれがある」ということについては、中国共産党内部の「心ある人々」には重々わかっているのだと思います。上に紹介した「痛いところを突いてくる外国メディアをムキになって批判する論説記事」は、そうした中国共産党内部にいる「心ある人々」の苦しさを映していると私は思っています。

|

« 中国のインフラ投資とPPPと社債との関係 | トップページ | 党大会前の順調な中国の企業決算の信頼性 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 中国のインフラ投資とPPPと社債との関係 | トップページ | 党大会前の順調な中国の企業決算の信頼性 »