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2017年8月 5日 (土)

中国の景気循環と「中国共産党大会勝利開催バイアス」

 報道によれば、今(2017年8月5日現在)、中国共産党の現職幹部と引退した幹部が集まって議論する非公式な会議「北戴河会議」が開かれているようです。これから秋(開催日時は未公表)の共産党大会までの期間、中国から流れてくるニュースを聞き逃せない日々が続きそうです。

 以前から、中国の景気循環は、5年に一度開かれる中国共産党大会と非常に密接に関連している、と言われてきました。共産党大会の開催までは、地方政府の幹部が自分の業績をアピールしようとして積極的にインフラ投資等のプロジェクトを行うので景気が過熱し、共産党大会が終わるとそうした「公共事業の集中時期」が終わるので、景気は落ち込む、という考え方です。

 21世紀になってからの中国経済の景気の波は、2003年のSARSの流行、2008年の四川大地震、北京オリンピック、リーマン・ショック、2010年の上海万博など中国共産党の政治イベントとは関係のない案件にも影響を受けてきましたので、それほど単純ではありませんが、大まかに言って「共産党大会に向かって景気は過熱し、共産党大会が終わると景気は冷める」という傾向は確かにあったと私も思います。私のイメージでは、2000年代までは、中国経済全体が急速な高度経済成長期にあったので、共産党大会が終わった後の「景気の冷え込み」はそれほど目立たなかったが、2010年代に入って、中国の経済成長の伸びが落ち着く、いわゆる「新常態」の時代になると、二つの共産党大会の間の「谷間の時期」の経済の落ち込みが大きくなっている可能性があると感じています。

 2007年と2012年の党大会の間の時期は、アメリカ発のリーマン・ショックの影響が大きく、中国は四兆元の大型経済対策を打ちましたので、「党大会の間というタイミングによる景気の落ち込み」とリーマン・ショックの影響とを判別することは困難だと思います。一方、世界経済におけるリーマン・ショックの影響と中国の四兆元の大型経済対策の影響が一巡した2012年と2017年の党大会の間の時期においては、2015年頃から2016年前半に掛けて、中国の景気は実際にかなり落ち込んでいたようです。中国の貿易額の推移を見れば、それは明らかです。

 そのほか、2012年と2017年の「党大会の間の時期」については、2013年6月の「影の銀行」「理財商品」を巡る金融の不安定化、2015年夏の上海株のバブル崩壊と8月の「中国発世界同時株安」(いわゆる「チャイナ・ショック」)、2016年年初の上海株式市場の混乱(サーキット・ブレーカー制度の朝令暮改など)など、中国経済は今までにない「波乱」を経験しました。もちろん、アメリカ金融政策における量的緩和政策の終了、原油価格の下落など、中国にとっての外部要因も重なったことも影響していますが、これらの事象は、高度経済成長期が終わった現在の中国において、経済政策・金融政策の舵取りが相当に難しくなってきていることを象徴する出来事だったと言えるでしょう。

 私は、共産党大会と中国の景気循環との関係の原因については、党大会へ向けての地方政府幹部による「自己アピール・プロジェクトの拡大」の側面があるとともに、「党大会の直前の時期には労働者の大量リストラ等による大衆騒動を起こしてはならない」という認識に基づいて、金融機関が経営不振の大手企業に対しての貸し出し基準を実質的に緩くしている、という側面もあるのではないか、と考えています。地方で営業する国有銀行の幹部にとっては、銀行経営にプラスかマイナスか、といった銀行経営上の判断よりも、銀行が融資を認めなかった結果として地方の有力企業が倒産し、労働者がリストラされて社会不安が起きたりすると中国共産党中央から叱責を受けることになるので、その方がよっぽど恐いと思うだろう、と考えられるからです。特に習近平政権になってからは、地方政府や地方の銀行の幹部は、党中央からにらまれると「腐敗追放」の名の下に失脚させられるかもしれない、という恐怖感が植え付けられているのではないか、と想像されます。

 党大会直前の時期には、通常ならば倒産リスクが大きくて銀行が融資を断るような「ゾンビ企業」に対しても融資にOKを出してしまうような銀行の判断があるとすれば、それを私は「中国共産党大会勝利開催バイアス」と呼びたいと思います。このバイアスの存在により、共産党大会が開催される直前の期間(=中国共産党中央が社会の安定を特に求める期間)においては、中国人民銀行が考えるより、中国の金融市場は、実際はより緩和的になっている可能性があります。逆に、共産党大会が無事に終了すると「中国共産党大会勝利開催バイアス」は消滅し、銀行の貸し出し態度は党大会前と比較して引き締め的に変化する可能性があります。留意すべき点は、この「中国人民銀行が意図しない中国金融市場の『緩和』から『引き締め』への変化」が、中国全土で同時に一斉に発生する、ということです。

 中国人民銀行も「共産党大会前は景気は過熱気味で、共産党大会終了により景気は冷え込む方向に動く」ことは事前にわかっていることですから、それを踏まえて金融政策のコントロールをしてくると思います。ただ、そのコントロールのやり方は、高度経済成長が続いている間(概ね2012年の第18回党大会まで)に比べて、今は相当に難しくなってきていると思います。実際、2013年6月の「影の銀行」「理財商品」の問題表面化の時期、2015年8月の「チャイナ・ショック」、2016年1月の上海株式市場の変動の際には、中国の当局の対応は、ハタ目にもギクシャク(言い方を変えれば「ドタバタ」)感が否めないものでした。

 今年(2017年)の第19回中国共産党大会終了後の中国経済の変動の可能性については、私がこのブログで今日も含めて何回も書いているように、多くの人が事前に相当懸念を持っています。ということは、多くの関係者が事前に対応策を考えている、ということですので、ほとんど「不意打ち」のような感さえあったリーマン・ショックの時とは異なり、例え、党大会終了後、中国経済にブレーキが掛かっても、影響はマイルドなものになるのかもしれません(別の言い方をすれば、リーマン・ショックの時は、誰も「コケる」とは思っていなかったアメリカが「コケた」ので世界中が狼狽したが、中国の場合は世界中の多くの人が「中国はコケるかもしれない」と警戒しているので、仮に実際に「中国がコケた」としても、実際の影響はリーマン・ショックほどは大きくないかもしれない、ということです)。

 ここに来て、中国共産党大会が開かれる秋を前にして、秋以降の中国経済の動きを心配する人が多くなってきたと見えて、この一週間、私が見たテレビ番組や新聞では、以下のように中国における債務の問題等を取り上げた報道が目に付きました。

○2017年8月2日(水)放送:テレビ東京「Newsモーニング・サテライト」
プロの眼のコーナー「中国:社債市場に要注意」(BNPパリバ証券の中空麻奈氏)

※このコーナーで、中空氏は、中国のシャドーバンキングの資産運用市場が2012年の28兆元から2016年の116兆元に急拡大していること、中国の社債のうち銀行が保有しているのは25.4%で、60%はファンドの保有(最終的には個人保有などだと思われるが基本的に誰が保有しているかよくわからない部分)であることを指摘していました。

○2017年8月4日(金)放送:テレビ東京「Newsモーニング・サテライト」
プロの眼のコーナー「膨張する世界の債務 この先のリスクは?」(マネックス証券の大月奈那氏)

※このコーナーで、大月氏は、2016年の国・地域別で見ると、特に中国と香港の債務の膨張のスピードが「危険水準」とされる水準(GDPの成長のスピードと10%以上かい離している水準)を大きく超えていることを指摘していました。

○2017年8月2日(水)付け日本経済新聞朝刊26面「経済教室」の欄
「中国バブル不安の実相(上)」「過剰貯蓄 経済の矛盾拡大 消費主導の構造改革急務」(日本国際フォーラム上席研究員 坂本正弘氏)

○2017年8月3日(木)付け日本経済新聞朝刊26面「経済教室」の欄
「中国バブル不安の実相(下)」「『崩壊』懸念も影響は限定的 当局、危機見越し対策準備」(日本大学教授露口洋介氏)

 普通、このように事前に「かなり危ないんじゃないか」との懸念が表明され、各方面でそれに対する準備と対策がなされている場合、実際にはあまりひどいことにはならないことが多いのですが、中国の場合「これはバブルだ」「そのうちこのバブルははじけるぞ!」と警告がなされている中で、実際にバブルが膨張して、はじけた例は過去に多々ありました。2015年夏の上海株バブルがその典型例です。2015年夏の上海株バブルについては、私もこのブログでバブル崩壊前から何回も書いてきました(例えば、このブログの2015年5月3日付け記事「上海株バブル崩壊のタイミングとその影響」)。なので、「中国共産党大会の開催を切っ掛けにして中国の経済バブルが崩壊するのではないか」と事前に何回警告を書いておいたところで、それが実際のバブル崩壊を避けるための「おまじない」になるわけではありません。

 最近、アメリカ、イギリス、オーストラリア等の不動産価格上昇が「バブル気味なのではないか」と懸念されています。2015年の上海株バブルの時は「上海市場で株を売り買いしているのは基本的に中国の個人なので、仮に上海で株バブルが崩壊したとしても、それが世界に伝搬する可能性は限定的」と言われていました。それでも、上海株バブル崩壊は「心理的不安」という形で世界に伝搬し「中国発世界同時株安」を引き起こしました。今、中国の債務問題や不動産市場で「バブル崩壊」のようなことが起きれば、中国企業や中国の資産家による諸外国の不動産の売却という形で世界に伝搬することが予想されます。「中国の経済的変動が世界に与える影響は限定的」とは、私は言えないと思います。

 まずは、今行われている「北戴河会議」が平穏に終了し、秋の共産党大会が大きな政治的混乱なく終了することが大前提なのですが、そのように「中国共産党大会は平穏に終了した」という最も望むべき状況になったとしても、中国経済がその後どのように変動していくことになるのかは今年後半の最も重要な注目すべき事項です(2008年や2013年の例を見ると、「秋の共産党大会終了の反動」は、翌年の夏頃に掛けて目に見える影響を及ぼすことになる例が多いと思われます)。これからも中国経済に関するニュースや中国でビジネスを展開する諸外国の企業が発する情報を注意深く追い掛けていく必要があると思います。

P.S.

 その前に、「北戴河会議」が終わるまでの期間(テレビのニュースに習近平主席や李克強総理がいつもどおりに登場するようになるまでの期間)、中国で、テロ、化学工場の爆発、高速鉄道の事故などが起きないように祈りたいと思います。2015年8月12日に天津港で発生した化学物質の大爆発事故は、私も偶然に起きた事故だと思いますが、タイミングがたまたま「北戴河会議」の開催期間中であったため、一部に「この大爆発は、政治的背景のあるサボタージュ(人為的破壊行為)だったのではないか」との「疑念」を生んだのではないかと思います。その「疑念」が8月11日の人民元の切り下げや8月21日の「中国の製造業購買担当者指数(PMI)の予想以上の悪化」を切っ掛けとして始まった急激な「世界同時株安」(いわゆる「チャイナ・ショック」)の背景にあるのではないかと私は考えています。こういう「疑心暗鬼の疑念」を生まないためにも、私は「北戴河会議」はやめるか、そうでなければきちんとニュースで報道して「秘密裏にやっている会議で重大な事項を決める」というような状態を作らないことが、世界の大国たる中国の責任だと私は思います。

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