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2017年8月19日 (土)

中国のインフラ投資とPPPと社債との関係

 2015年夏から2016年初に掛けて、世界の関係者に「失速か?」と心配された中国経済ですが、2016年央から2017年に掛けては「意外に」順調で、現時点(2017年8月)でも(若干ピークアウト感はあるものの)それなりの高いレベルは維持しているようです。

 2017年に中国経済が復調した原因は、インターネット通販の拡大やシェア・エコノミーの浸透などもあるかとは思いますが、やはり2017年秋の党大会へ向けての大規模なインフラ投資事業の推進が大きかったと思います。このブログの過去の記事を読み返してみて改めて思ったのは、去年(2016年)5月11日に中国国家発展改革委員会が発表した「交通インフラ設備重要プロジェクト建設3年行動計画」が効いているのかもしれません。この「行動計画」は2016~2018年の3年間に鉄道、地下鉄、空港、道路などに4.7兆元(今のレートで約78兆円)を投資しようというものです。この規模は、2008年11月に出されたリーマン・ショック対応の4兆元の超大型経済対策と比較しても、相当に大きなものであると言えます。

(参考1)このブログの2016年5月28日付け記事「今夏の中国はまた『大都市不動産バブル崩壊』か」

 このほか、2017年4月には、河北省に新たな副都心とも言える「雄安新区」を建設する計画が打ち出されており、この秋の党大会が終わっても、「超大型インフラ投資」は継続されることになるのかもしれません。

 一方、こうしたインフラ投資の資金源として使われていた地方政府による資金管理会社「融資平台」は、負債の額が巨額に上っていることから「融資平台」に対する融資は制限されるようになりました。それに代わって、PPP(官民パートナーシップ事業)が活用されるようになりましたが、これが「地方政府が新たな借金をするための打ち出の小槌」になるのではないか、との懸念がなされています。

(参考2)このブログの2017年6月17日付け記事「中国のインフラ投資のスピード感」で紹介した2017年6月11日付け日本経済新聞朝刊13面記事「官民投資 中国で乱立 地下鉄など総額230兆円 『民』の実態は国有? 不良資産拡大も」

 一方で、最近増え続ける中国の社債の発行残高についても懸念を示す見方が出てきています。

(参考3)このブログの2017年8月5日付け記事「中国の景気循環と『中国共産党大会勝利開催バイアス』」で紹介した2017年8月2日(水)放送:テレビ東京「Newsモーニング・サテライト」の「プロの眼」のコーナーでなされたBNPパリバ証券の中空麻奈氏の指摘「中国:社債市場に要注意」

 これらの「懸念」をひとつに結びつける記事が「人民日報」ホームページの「財経チャンネル」に載っていました。2017年8月17日付けでアップされた「経済参考報」に掲載されていた「発展改革委員会:企業債券(社債)の違約リスク(=デフォルト(債務不履行)リスク)を防ぐ」という見出しの記事です。

 この記事のポイントは以下のとおりです。

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○中国国家発展改革委員会が8月16日に語ったところによると、発展改革委員会は数日前、企業債券(=社債)の分野においてさらに一歩リスク防止のための管理監督を強化し実体経済への効果を上げるための通知を出した。

○企業が新たに社債の発行を申請する場合には、企業と地方政府との間の権利責任関係を明確にし、社債を発行する企業と地方政府の信用を厳格に隔離し、地方政府及びその関係機関と社債を発行する企業との間において、規範的ではない協力関係があったり、政府による購入、財政による補助等があったりするような状況を厳禁する。

○2016年に中国国家発展改革委員会が認可した社債の規模は8,000億元を超えるが、これらは主に、交通インフラ施設、低層老朽化住宅地区(中国語で「棚戸区」)の改造、都市インフラ建設等の重点領域に用いられるものだった。

○社債の発行が絶え間なく拡大している状況の下、中国国家発展改革委員会は、これからさらに一歩管理監督を強化し、社債のデフォルト(債務不履行)リスクを防止する。(中央政府の)中国国家発展改革委員会は、省レベルの発展改革担当部署に対し、社債発行後の資金の使用状況について追跡調査を実施し、規則に反する行為があれば適切なタイミングでこれを是正するよう要求する。デフォルト(債務不履行)リスクのある債券については、事前に介入し、市場を使い、法的手段を用い、企業を指導し、仲介機関に償還方法を制定させ、システミック金融リスクを発生させない、という最低ラインを断固として守る。

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 この記事を読むと、地方政府が行うインフラ投資プロジェクトにおいて、PPP(官民パートナーシップ)の名の下、政府調達や財政補助を通じて地方政府と密着した企業が社債を発行して資金を調達し、その結果、発行された社債の償還責任が企業にあるのか地方政府もある程度の責任を負うのか不分明になっている例があることが想像されます。PPP(官民パートナーシップ)とは言え、中国の場合、多くの場合の「民」は国有企業であり、地方政府も国有企業も「中国共産党による指導」の下にあるので、最終的に社債の償還責任が誰にあるのかわかりにくい現状があるのだと思います。

 そもそも「中国国家発展改革委員会が社債の発行を認可する」という行政行為や「デフォルト・リスクのある債券については、事前に介入して、デフォルト(債務不履行)を起こさないようにする」という考え方自体、「社債を償還する(=借りた金を返す)責任はどこにあるのか」を不明確にしていると思います。(日本等の資本主義国の場合には、社債の償還責任はあくまで会社にあり、インフラ投資プロジェクトにおいてパートナーを組んでいる地方政府や事業を監督する中央政府が社債の償還責任の一端を担うことなどあり得ません。それに対して「中国共産党が全てを指導している」という大原則がある中国では、おそらくは中国人民は、社債の償還不履行が起きた場合には「中国共産党が責任を取れ」と騒ぐことになるのだと思います)。

 これを突き詰めれば、最後の最後は、デフォルト(債務不履行)になる社債が数多く発生して、金融システミック・リスクが起きそうになったら、中国人民銀行(中央銀行)が社債を買い入れる、というようなところもまでやってしまうのじゃないかなぁ、とさえ思います。「最後は中国人民銀行が社債を買ってくれるのだったら安心だ」とも言えますが、もしそういう考え方が流布しているのなら、いい加減な社債発行も横行することになり、中国の金融システムに「モラル・ハザード」が起こることになります。そうなったら中国経済がどうなるのかは、私にはわかりませんが、リーマン・ショックの後、アメリカFRBが「量的緩和措置」と称して住宅ローン担保証券を国債とともに大量に購入した現実があるので、もし中国人民銀行が社債の購入を始めたりしても「FRBと同じことをやっているだけ」と言われるだけかもしれません。

 以前、中国の地方政府は、地方政府債券を発行することは認められていませんでした。そのため、リーマン・ショック後の「四兆元の大型経済対策」が打ち出された時期、地方政府は「融資平台」と呼ばれる企業体(日本で言えば第三セクターのようなもの)を設立して、この「融資平台」に銀行が融資することによって資金を調達して様々なプロジェクトを実施しました。銀行からの融資は、本来業務としての銀行融資のほかに、銀行や関連会社が組成する「理財商品」によって集められた資金も使われたと考えられています。

 「融資平台」の債務が膨張して、「融資平台」への銀行からの融資が制限されると、今度はPPP(官民パートナーシップ)と称してプロジェクトに参加する企業(多くは国有企業)の側が社債を発行して資金を調達するようになりました。その社債は結局は「理財商品」を組成しているファンドが買っている場合が多いようです。つまり、結局のところ「理財商品」という銀行の帳簿上には載ってこない金融商品によって多くの人々から集められた資金が地方政府が行うプロジェクトに流れる、という構図は以前も今も全く変わっていないわけです。

 投資したプロジェクトから十分なリターンが得られない場合でも、中国経済全体が成長して、販売される理財商品が増え続けている間は、償還期限が来た理財商品の利子は新しく販売した理財商品で得られる資金でまかなうことができますが、理財商品の全体規模の成長が止まった時、この構図は崩壊します(おそらく、崩壊を回避する方策は、上に書いたように、社債や理財商品を中国人民銀行が買い入れることしかないでしょう。それが中国にハイパー・インフレを招くことになるのか、中央銀行が大量の国債等を購入してもインフレにならないアメリカや日本のようになるのか、は私にはわかりません)。

 この秋(2017年秋)、中国共産党大会が終われば、中国政府(中央政府及び地方政府)によるインフラ投資はピークを越えるので、中国経済は減速期に入る、という見方があります。一方、「雄安新区」の構想に見られるように、中国政府は党大会終了後も高いレベルのインフラ投資を続けるので、中国経済は減速しない、という考え方もあります。ただ、高いレベルのインフラ投資を続ける場合、その資金源をどこに求めるのか、という問題には必ずぶち当たります。「やめられないインフラ投資とそれを支える借金の積み上がり」という中国経済の「止まったら倒れる自転車操業」的問題は、「融資平台」が「PPP」あるいはそれを支える「社債」に置き換わっただけで、今も本質は何も解決していないことはよく認識しておく必要があると思います。

P.S.

 8月17日に習近平主席はアメリカ軍の制服組トップと会談し、翌8月18日李克強総理はWHO幹部と会談し、それぞれの会談がテレビのニュースで伝えられました。お二人とも、通常通り、にこやかな表情でテレビに映っていました。ということで、今年の「北戴河会議」は終了したようです。今のところ、お二人に特に「変わった様子」は見られないので、「北戴河会議」では特段の「揉めごと」はなかったようです。アメリカのホワイトハウス内部がガタガタして、トランプ政権がほとんど機能不全状態に陥っているように見える昨今ですので、中国の政治には、うまく秋の党大会を乗り切ってもらって、「問題先送り」でもいいから中国経済には、当面「中国経済大減速!」という事態にはならないようにして欲しいな、と思います。アメリカでトランプ氏が大統領をやっている間に中国の政治や経済がゴタゴタしたら世界が壊れてしまうかもしれないので、そうならないように、中国の政治と経済にはぜひ安定を保ってもらいたいと思います。

 「リーマン・ショック」に続いて、今度また「トランプ危機」を中国に救ってもらうような事態になるのだったら、当面アメリカは中国には頭が上がらなくなるようなぁ、と思いますね。アメリカには、もっとしっかりして欲しいと思います。(アメリカ国債の保有額については、去年(2016年)10月の時点で中国は日本に抜かれて二位になっていましたが、アメリカ財務省が8月15日に発表したところによると、今年(2017年)6月時点で、中国は日本を抜き返して首位に返り咲いたそうです)。

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