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2017年8月12日 (土)

習近平主席と李克強総理の「選挙運動」

 今日(2017年8月12日)現在、「北戴河会議」はまだ続いているようです。例年、「北戴河会議」が開催されている期間中、「今日、中国共産党政治局常務委員(今の体制では劉雲山氏)が北戴河で休暇を過ごしている専門家たちと懇談しました」というニュースが流れるのですが、このニュースが流れたのは一昨年(2015年)と去年(2016年)は8月5日だったのに対し、今年(2017年)は8月9日でした。なので、たぶん「北戴河会議」は、今年は例年よりやや遅めのスケジュールで進行しているようです。

 なお、今日(2017年8月12日)、習近平主席はアメリカのトランプ大統領と北朝鮮情勢に関して電話会談を行いましたが、「電話会談をした」ということが習近平主席が北京にいる証拠にはなりません。

 8月8日、四川省九寨溝で大きな地震があり、観光客を含めて20名の方が亡くなりました。この地震について、習近平主席と李克強総理は、ともに救援に全力を尽くすよう指示を出しています。大きな事態に対して中国政府として重要な指示を出す際にはこの二人が同じような指示を出す、という状況は続いているので、現在のところ、政府を動かす権限が習近平主席に一本化され、李克強総理の役割が後退した、というわけではないようです。

 地震に対する指示についても、トランプ大統領との電話会談についても、中国中央電視台の夜7時のニュース「新聞聯播」では、アナウンサーが事実を読み上げて伝えただけで、習近平主席も李克強総理も映像としては登場していないことも「北戴河会議」がまだ続いており、二人とも北京にはいないことを示していると思います。

 「北戴河会議」が開催される前、習近平主席は7月30日に内モンゴル自治区の演習場で行われた大規模な軍事パレードに迷彩服で登場して閲兵を行い、自分が軍を統率していることを内外にアピールしました(これは日本でも報道されたので御存じの方も多いと思います)。一方、翌7月31日、李克強総理は、中国の携帯電話大手の中国電信、中国移動、中国聯通を視察し、三社の代表と経済情勢について意見交換会を開きました。これは「人民日報」や「新聞聯播」で報道されましたが、習近平主席の「迷彩服による閲兵」に比べれば扱いは小さいものでした。李克強総理が大手企業幹部と座談会をやるのは別に珍しい話でもないので、日本では報道されなかったようです。

 ただ、私のように中国のニュースを「ひねくれた目で」見てしまう者には、この李克強氏の携帯電話三社との座談会は「北戴河会議」参加者に対して「自らの立ち位置」を明確に示す一種の「選挙運動」だったのではないか、と写ったのでした。習近平主席の「迷彩服での閲兵」が「北戴河会議」に参加する中国共産党の現役幹部・引退した幹部に対して「自分が軍を完全に掌握しているのだぞ」と示す「アピール」だったのは明らかですが、それと同じ目線で見れば、李克強氏の携帯電話三社との座談会は、「今の中国にとって重要なのは『迷彩服での閲兵』ですか? そうじゃないでしょ。今の中国にとって最も重要なのはスマートフォンやインターネットを活用した経済の新しいステージへの進展、例えばシェア・エコノミーの活性化でしょ?」という「アピール」だったと私は思います。たぶん、中国の都市住民や中国の経済人の目から見れば(もし彼らに投票権があるのだったら)、「習近平主席と李克強総理のどちらに一票を入れますか?」と聞かれれば、「李克強総理に一票」と答える人が多いと思います。

 一方、習近主席は、最近、「貧困対策」に言及することも多いので、軍の関係者や経済発展に取り残された地方の貧しい人民は「習近平主席に一票」と主張するかもしれません。問題は、「北戴河会議」に参加している中国共産党の現役幹部や引退した幹部が、習近平主席による権力集中強化に賛成するのか、李克強総理が進めようとする経済改革強化(中国共産党による指導よりも企業の自主的経営判断を重視する)に賛成するのか、どちらの方が勢力が強いのか外部からはよくわからない点です(「今後、中国をどのようにしたいのか」という理念よりも、「どちらに味方した方が得か」という損得勘定で動く人が多いのかもしれません)。

 最近、中国の大手企業の活動に対する中国当局の「指導」の強化が目に付いています((参考)2017年8月10日付け日本経済新聞朝刊6面「Financial Times: It is what you know 中国企業、見えぬ行動原理 M&A 共産党介入リスク(エマージング・マーケッツ・エディター ジェームズ・キング氏)」)。「中国共産党による指導」と「自由な企業行動範囲をできるだけ拡大したいと考える中国の企業家」との衝突は、遅かれ早かれいつかは表面化する問題でした。今、この二つの考え方の衝突が習近平主席と李克強総理を代表とする勢力の間の権力闘争という形で「北戴河会議」の中で闘わされている可能性があります。

 おそらくは、形式上の権力集中(例えば「党主席」職の復活=習近平氏の党主席就任)と李克強氏側の実質権限の維持(例えば、李克強氏が国務院総理を退くとしても全人代常務委員会委員長として党内ナンバー2の地位は維持する、など)を並立させる形の「妥協」で収まるのではないかと思います。ただ、「中国共産党による指導の強化」と「企業による自由な企業活動」とは根本的に「水と油」ですので、形式的に「妥協」を図ったとしても、その矛盾は蓄積を続け、いつかは「妥協では解決できない臨界点」に達する可能性は否定できないと思います。

 今日(2017年8月12日(土))の各紙報道によれば、中国インターネット情報弁公室は、大手ネットサービスの微信(ウィーチャット:中国版LINEと言われる)、微博(ウェイボ:中国版ツィッターと言われる)、検索最大手の百度(バイドゥ)が運営するティエパ(「貼」+「口へんに巴」)に対して管理強化のための一斉調査に着手したとのことです。中国国内ではツィッターやフェースブックの利用ができない代わりにこれらの中国企業によるネットサービスが極めて盛んです(日経新聞の記事に基づけばこれらの利用者は重複勘定すると13億5,400万人に上る)。今後、中国の企業家だけではなく、一般の中国人民も「中国共産党による管理の息苦しさ」をよりいっそう強く意識するようになるかもしれません。

 私は、李克強氏が習近平主席による「迷彩服による閲兵」の翌日に携帯電話三社を視察することにより「今は閲兵じゃなくてネットをどう経済に活かすか、でしょ?」とのアピールを出したのは、政治家として相当にセンスのよいやり方だったと思っています。

 来週末頃までには「北戴河会議」が揉めることなく終了し、月内には中国共産党大会の日程が発表されて、「方向性はほぼ固まった」という空気が流れることを期待したいと思います。

P.S.

 8月8日、「内モンゴル自治区成立70周年記念式典」が行われました。党中央からは政治局常務委員の兪正声氏(序列7位)を代表とする代表団が参加しました。兪正声氏は内モンゴル自治区へ行っている間「北戴河会議」に参加していなかったわけですが、彼は既に72歳であり秋の共産党大会で政治局常務委員に再任される可能性はありません。なので、「内モンゴル自治区成立70周年記念式典」への兪正声氏の参加は特段の「ニュース」ではありませんでした。10年前の「内モンゴル自治区成立60周年記念式典」には当時の政治局常務委員の曽慶紅氏(江沢民元国家主席の側近)が参加しましたが、今から思えば、これは「曽慶紅氏は秋の党大会で政治局常務委員には再任されない予定」というメッセージだったのでした。

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