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2017年8月

2017年8月26日 (土)

党大会前の景気過熱はコントロールできているのか

 中国共産党大会を前にして中国経済は過熱し、党大会終了後に下り坂に向かう、ということは誰もが(中国共産党自身も含めて)わかっていることなので、通常、中国政府は党大会前の経済が過熱しすぎないように適度にブレーキを掛けます。ただ、今回(2017年)の党大会に関しては、既に8月末になっているのに、まだ「過熱状態」が続いているようであり、中国政府による「適度なブレーキ」が効いていない、即ち、中国政府は党大会前の景気過熱をうまくコントロールできていないのではないか、との懸念が出てきているようです。

 その懸念を端的に示す記事が今朝(2017年8月26日)の日本経済新聞朝刊に載っていました。13面の記事「中国発 鉄冷えの秋警戒 世界生産は15ヵ月連続増」という記事です。この記事では「山が高ければ、それだけ谷が深くなる」として、党大会前の過熱が過ぎると、党大会終了後の落ち込みが大きくなると警戒している日本の鉄鋼大手幹部の発言を紹介しています。

 ちょうど一月前の7月29日、私はこのブログで「今年『中国共産党大会前の経済の過熱』は許されるのか」という記事を書きました。私は2007年4月~2009年7月まで北京に駐在していました。その北京駐在期間中の2007年10月に第17回中国共産党大会を、2008年8月に北京オリンピックを経験しましたが、その頃、中国政府は、党大会と北京オリンピックへ向けた景気の過熱をかなり警戒しており、北京オリンピック終了後に景気が急に冷えることを防ぐために、適度に景気にブレーキを掛けるような政策をとっており、実際、それは一定の効果が上がっていたように私は感じました。それに比べると、今回(2017年)は党大会前の景気過熱の行きすぎを抑制するための「適度なブレーキ」があまり効いていないように感じます。それだけに党大会終了後に中国の景気に急ブレーキが掛かることが懸念されます。

 「中国の経済統計指標は信用できない」という人も多いのですが、国際的な市況の動向を見ていると、中国経済の実態もある程度は想像することができます。ここ一週間の日本経済新聞の報道でも、中国経済が現在もかなりホットな状況にあることを背景にしていると思われる国際市況に関する記事が相次ぎました。

○8月23日(水)付け朝刊20面「ばら積み船 用船料上昇 大型船、1ヵ月で2倍 中国向け堅調」

○8月25日(金)付け朝刊21面「鉄スクラップが一段高 直近安値3割上昇 中国輸出減で」

○8月26日(土)付け朝刊17面「NY銅先物が上昇 2年9ヵ月ぶり3ドル超え 中国の需要増に期待」

 これらは「現在の需要が実際に好調だという実需」の側面と「これから需要が好調になるだろうと見込んだ投機」の側面とを両方含んでいると思われますが、党大会の時期(つまり景気のピークになるだろうと思われるタイミング)のほぼ二か月前という現時点での状況にしては、私には「ちょっと景気が熱過ぎる」という感じがします(ついでに言うと、3,250ポイント程度を上限とする範囲内に当局がうまく納めるだろうと思っていた上海株式市場の総合指数が8月24日(金)に3,331.522(対前日比1.80%高:年初来高値更新)に急騰したのも気になります。私は上海総合指数は、2015年の株バブル崩壊以降、国家隊(政府系ファンド等)による売り買いによって「当局が数字をコントロールできている」と思っていたので、今後、上海総合指数の上昇が止まらなくなるようだと要注意だと思います)。

 ここで気になるのは、「過熱の行きすぎが心配になるほどの景気」と習近平氏が党大会で権力集中を図ろうとしていることが関係しているのではないか、という点です。習近平氏が、多くの地方政府や国有企業に関係する党幹部の支持を得たいと考えるならば、党大会直前のこの時期に過熱するくらい「景気のよい」状況を現出させておいた方が得策だと考えると思われるからです。前にも書いたことがありますが、2008年頃、北京オリンピック終了後の急速な景気後退を心配した中国政府は一定程度景気にブレーキを掛けていましたが、この頃、私の耳には「マクロ経済政策の中心人物である周小川中国人民銀行総裁の更迭説」が入って来ました。おそらくは「景気の過熱」を好む地方政府や国有企業の有力党幹部が景気にブレーキを掛けようとする周小川氏を排除しようとする動きがあったものと思われます。

 2008年当時、胡錦濤政権は「景気の過熱を防ぐための適度なブレーキ政策」を堅持し、周小川氏も辞めることはありませんでした。私は、胡錦濤政権は「景気過熱」を求める党内勢力の圧力には屈しなかったのだ、と当時思いました。(2008年9月、アメリカ発のリーマン・ショックが世界を襲い、その対策のために四兆元の超大型経済対策が打たれたため「北京オリンピック終了後の中国経済の後退」は結局は杞憂に終わりました)。

 今日(2017年8月26日(土))の時点で、中国共産党大会の日程はまだ公表されていません。10年前の2007年の党大会の日程発表は8月28日だったので、あと一週間のうちには党大会の日程が発表されると思われます(発表がそれより遅れるようだと、党大会で決めるべき事項の中でまだ方向性が決まっていない「揉めている案件」が残っているからだ、という憶測を生むことになると思います)。

 上に書いたように、「党大会直前になっても景気の過熱が収まらない」という現状は、中国政府の経済政策が「経済の円滑な推移」よりも「党大会での習近平主席への権力集中の実現」という政治的目的の方を優先していることを示している可能性があり、もしそうなら、党大会後、習近平政権は、実態経済から大きな「しっぺ返し」を受けてしまうことになる可能性があります。

 なお、外国メディアが「中国の現在の景気は党大会を前にした当局による大規模なインフラ投資で支えられているので、党大会が終わると景気は急減速する可能性がある」という論調で伝えることが多いことについては、中国当局自身も結構気にしているようです。今日(2017年8月26日(土))付け「人民日報」2面には「経済情勢の新しい変化については全面的に客観的に見るべき」と題する論説記事が載っていました(もともとは8月25日の「経済日報」に載っていたものを「人民日報」が転載したもの)。

 この記事では、最近の中国の経済成長は、新しい産業分野の成長が大きいことや労働生産性が上がっていること、最終消費支出の経済成長における寄与度が大きくなっていることなどを数字を上げて説明した上で、「一部外国メディアはこのような中国経済の重要な変化を理解しておらず、あるいは見て見ぬふりをして、依然として中国の経済成長はインフラ等の投資が引っ張っていると説明している」と外国メディアを批判しています。

 もともと「経済日報」に掲載された記事を「人民日報」が改めて転載した、ということは、中国共産党宣伝部がこの論調を強く主張したいと考えていることの表れです。私のような「中国の新聞をひねくれて読むクセ」のある人から見ると、こういう記事の出し方は、実は「中国経済は依然としてインフラ等の投資が引っ張っている」という外国メディアの論調が「痛いところを突いている」からだ、と見えてしまいます。

 中国共産党の内部には優秀なエコノミストがたくさんいます。おそらくは「経済の円滑な推移よりも政治目的を優先していると、あとで実態経済から手ひどい『しっぺ返し』を受けるおそれがある」ということについては、中国共産党内部の「心ある人々」には重々わかっているのだと思います。上に紹介した「痛いところを突いてくる外国メディアをムキになって批判する論説記事」は、そうした中国共産党内部にいる「心ある人々」の苦しさを映していると私は思っています。

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2017年8月19日 (土)

中国のインフラ投資とPPPと社債との関係

 2015年夏から2016年初に掛けて、世界の関係者に「失速か?」と心配された中国経済ですが、2016年央から2017年に掛けては「意外に」順調で、現時点(2017年8月)でも(若干ピークアウト感はあるものの)それなりの高いレベルは維持しているようです。

 2017年に中国経済が復調した原因は、インターネット通販の拡大やシェア・エコノミーの浸透などもあるかとは思いますが、やはり2017年秋の党大会へ向けての大規模なインフラ投資事業の推進が大きかったと思います。このブログの過去の記事を読み返してみて改めて思ったのは、去年(2016年)5月11日に中国国家発展改革委員会が発表した「交通インフラ設備重要プロジェクト建設3年行動計画」が効いているのかもしれません。この「行動計画」は2016~2018年の3年間に鉄道、地下鉄、空港、道路などに4.7兆元(今のレートで約78兆円)を投資しようというものです。この規模は、2008年11月に出されたリーマン・ショック対応の4兆元の超大型経済対策と比較しても、相当に大きなものであると言えます。

(参考1)このブログの2016年5月28日付け記事「今夏の中国はまた『大都市不動産バブル崩壊』か」

 このほか、2017年4月には、河北省に新たな副都心とも言える「雄安新区」を建設する計画が打ち出されており、この秋の党大会が終わっても、「超大型インフラ投資」は継続されることになるのかもしれません。

 一方、こうしたインフラ投資の資金源として使われていた地方政府による資金管理会社「融資平台」は、負債の額が巨額に上っていることから「融資平台」に対する融資は制限されるようになりました。それに代わって、PPP(官民パートナーシップ事業)が活用されるようになりましたが、これが「地方政府が新たな借金をするための打ち出の小槌」になるのではないか、との懸念がなされています。

(参考2)このブログの2017年6月17日付け記事「中国のインフラ投資のスピード感」で紹介した2017年6月11日付け日本経済新聞朝刊13面記事「官民投資 中国で乱立 地下鉄など総額230兆円 『民』の実態は国有? 不良資産拡大も」

 一方で、最近増え続ける中国の社債の発行残高についても懸念を示す見方が出てきています。

(参考3)このブログの2017年8月5日付け記事「中国の景気循環と『中国共産党大会勝利開催バイアス』」で紹介した2017年8月2日(水)放送:テレビ東京「Newsモーニング・サテライト」の「プロの眼」のコーナーでなされたBNPパリバ証券の中空麻奈氏の指摘「中国:社債市場に要注意」

 これらの「懸念」をひとつに結びつける記事が「人民日報」ホームページの「財経チャンネル」に載っていました。2017年8月17日付けでアップされた「経済参考報」に掲載されていた「発展改革委員会:企業債券(社債)の違約リスク(=デフォルト(債務不履行)リスク)を防ぐ」という見出しの記事です。

 この記事のポイントは以下のとおりです。

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○中国国家発展改革委員会が8月16日に語ったところによると、発展改革委員会は数日前、企業債券(=社債)の分野においてさらに一歩リスク防止のための管理監督を強化し実体経済への効果を上げるための通知を出した。

○企業が新たに社債の発行を申請する場合には、企業と地方政府との間の権利責任関係を明確にし、社債を発行する企業と地方政府の信用を厳格に隔離し、地方政府及びその関係機関と社債を発行する企業との間において、規範的ではない協力関係があったり、政府による購入、財政による補助等があったりするような状況を厳禁する。

○2016年に中国国家発展改革委員会が認可した社債の規模は8,000億元を超えるが、これらは主に、交通インフラ施設、低層老朽化住宅地区(中国語で「棚戸区」)の改造、都市インフラ建設等の重点領域に用いられるものだった。

○社債の発行が絶え間なく拡大している状況の下、中国国家発展改革委員会は、これからさらに一歩管理監督を強化し、社債のデフォルト(債務不履行)リスクを防止する。(中央政府の)中国国家発展改革委員会は、省レベルの発展改革担当部署に対し、社債発行後の資金の使用状況について追跡調査を実施し、規則に反する行為があれば適切なタイミングでこれを是正するよう要求する。デフォルト(債務不履行)リスクのある債券については、事前に介入し、市場を使い、法的手段を用い、企業を指導し、仲介機関に償還方法を制定させ、システミック金融リスクを発生させない、という最低ラインを断固として守る。

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 この記事を読むと、地方政府が行うインフラ投資プロジェクトにおいて、PPP(官民パートナーシップ)の名の下、政府調達や財政補助を通じて地方政府と密着した企業が社債を発行して資金を調達し、その結果、発行された社債の償還責任が企業にあるのか地方政府もある程度の責任を負うのか不分明になっている例があることが想像されます。PPP(官民パートナーシップ)とは言え、中国の場合、多くの場合の「民」は国有企業であり、地方政府も国有企業も「中国共産党による指導」の下にあるので、最終的に社債の償還責任が誰にあるのかわかりにくい現状があるのだと思います。

 そもそも「中国国家発展改革委員会が社債の発行を認可する」という行政行為や「デフォルト・リスクのある債券については、事前に介入して、デフォルト(債務不履行)を起こさないようにする」という考え方自体、「社債を償還する(=借りた金を返す)責任はどこにあるのか」を不明確にしていると思います。(日本等の資本主義国の場合には、社債の償還責任はあくまで会社にあり、インフラ投資プロジェクトにおいてパートナーを組んでいる地方政府や事業を監督する中央政府が社債の償還責任の一端を担うことなどあり得ません。それに対して「中国共産党が全てを指導している」という大原則がある中国では、おそらくは中国人民は、社債の償還不履行が起きた場合には「中国共産党が責任を取れ」と騒ぐことになるのだと思います)。

 これを突き詰めれば、最後の最後は、デフォルト(債務不履行)になる社債が数多く発生して、金融システミック・リスクが起きそうになったら、中国人民銀行(中央銀行)が社債を買い入れる、というようなところもまでやってしまうのじゃないかなぁ、とさえ思います。「最後は中国人民銀行が社債を買ってくれるのだったら安心だ」とも言えますが、もしそういう考え方が流布しているのなら、いい加減な社債発行も横行することになり、中国の金融システムに「モラル・ハザード」が起こることになります。そうなったら中国経済がどうなるのかは、私にはわかりませんが、リーマン・ショックの後、アメリカFRBが「量的緩和措置」と称して住宅ローン担保証券を国債とともに大量に購入した現実があるので、もし中国人民銀行が社債の購入を始めたりしても「FRBと同じことをやっているだけ」と言われるだけかもしれません。

 以前、中国の地方政府は、地方政府債券を発行することは認められていませんでした。そのため、リーマン・ショック後の「四兆元の大型経済対策」が打ち出された時期、地方政府は「融資平台」と呼ばれる企業体(日本で言えば第三セクターのようなもの)を設立して、この「融資平台」に銀行が融資することによって資金を調達して様々なプロジェクトを実施しました。銀行からの融資は、本来業務としての銀行融資のほかに、銀行や関連会社が組成する「理財商品」によって集められた資金も使われたと考えられています。

 「融資平台」の債務が膨張して、「融資平台」への銀行からの融資が制限されると、今度はPPP(官民パートナーシップ)と称してプロジェクトに参加する企業(多くは国有企業)の側が社債を発行して資金を調達するようになりました。その社債は結局は「理財商品」を組成しているファンドが買っている場合が多いようです。つまり、結局のところ「理財商品」という銀行の帳簿上には載ってこない金融商品によって多くの人々から集められた資金が地方政府が行うプロジェクトに流れる、という構図は以前も今も全く変わっていないわけです。

 投資したプロジェクトから十分なリターンが得られない場合でも、中国経済全体が成長して、販売される理財商品が増え続けている間は、償還期限が来た理財商品の利子は新しく販売した理財商品で得られる資金でまかなうことができますが、理財商品の全体規模の成長が止まった時、この構図は崩壊します(おそらく、崩壊を回避する方策は、上に書いたように、社債や理財商品を中国人民銀行が買い入れることしかないでしょう。それが中国にハイパー・インフレを招くことになるのか、中央銀行が大量の国債等を購入してもインフレにならないアメリカや日本のようになるのか、は私にはわかりません)。

 この秋(2017年秋)、中国共産党大会が終われば、中国政府(中央政府及び地方政府)によるインフラ投資はピークを越えるので、中国経済は減速期に入る、という見方があります。一方、「雄安新区」の構想に見られるように、中国政府は党大会終了後も高いレベルのインフラ投資を続けるので、中国経済は減速しない、という考え方もあります。ただ、高いレベルのインフラ投資を続ける場合、その資金源をどこに求めるのか、という問題には必ずぶち当たります。「やめられないインフラ投資とそれを支える借金の積み上がり」という中国経済の「止まったら倒れる自転車操業」的問題は、「融資平台」が「PPP」あるいはそれを支える「社債」に置き換わっただけで、今も本質は何も解決していないことはよく認識しておく必要があると思います。

P.S.

 8月17日に習近平主席はアメリカ軍の制服組トップと会談し、翌8月18日李克強総理はWHO幹部と会談し、それぞれの会談がテレビのニュースで伝えられました。お二人とも、通常通り、にこやかな表情でテレビに映っていました。ということで、今年の「北戴河会議」は終了したようです。今のところ、お二人に特に「変わった様子」は見られないので、「北戴河会議」では特段の「揉めごと」はなかったようです。アメリカのホワイトハウス内部がガタガタして、トランプ政権がほとんど機能不全状態に陥っているように見える昨今ですので、中国の政治には、うまく秋の党大会を乗り切ってもらって、「問題先送り」でもいいから中国経済には、当面「中国経済大減速!」という事態にはならないようにして欲しいな、と思います。アメリカでトランプ氏が大統領をやっている間に中国の政治や経済がゴタゴタしたら世界が壊れてしまうかもしれないので、そうならないように、中国の政治と経済にはぜひ安定を保ってもらいたいと思います。

 「リーマン・ショック」に続いて、今度また「トランプ危機」を中国に救ってもらうような事態になるのだったら、当面アメリカは中国には頭が上がらなくなるようなぁ、と思いますね。アメリカには、もっとしっかりして欲しいと思います。(アメリカ国債の保有額については、去年(2016年)10月の時点で中国は日本に抜かれて二位になっていましたが、アメリカ財務省が8月15日に発表したところによると、今年(2017年)6月時点で、中国は日本を抜き返して首位に返り咲いたそうです)。

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2017年8月12日 (土)

習近平主席と李克強総理の「選挙運動」

 今日(2017年8月12日)現在、「北戴河会議」はまだ続いているようです。例年、「北戴河会議」が開催されている期間中、「今日、中国共産党政治局常務委員(今の体制では劉雲山氏)が北戴河で休暇を過ごしている専門家たちと懇談しました」というニュースが流れるのですが、このニュースが流れたのは一昨年(2015年)と去年(2016年)は8月5日だったのに対し、今年(2017年)は8月9日でした。なので、たぶん「北戴河会議」は、今年は例年よりやや遅めのスケジュールで進行しているようです。

 なお、今日(2017年8月12日)、習近平主席はアメリカのトランプ大統領と北朝鮮情勢に関して電話会談を行いましたが、「電話会談をした」ということが習近平主席が北京にいる証拠にはなりません。

 8月8日、四川省九寨溝で大きな地震があり、観光客を含めて20名の方が亡くなりました。この地震について、習近平主席と李克強総理は、ともに救援に全力を尽くすよう指示を出しています。大きな事態に対して中国政府として重要な指示を出す際にはこの二人が同じような指示を出す、という状況は続いているので、現在のところ、政府を動かす権限が習近平主席に一本化され、李克強総理の役割が後退した、というわけではないようです。

 地震に対する指示についても、トランプ大統領との電話会談についても、中国中央電視台の夜7時のニュース「新聞聯播」では、アナウンサーが事実を読み上げて伝えただけで、習近平主席も李克強総理も映像としては登場していないことも「北戴河会議」がまだ続いており、二人とも北京にはいないことを示していると思います。

 「北戴河会議」が開催される前、習近平主席は7月30日に内モンゴル自治区の演習場で行われた大規模な軍事パレードに迷彩服で登場して閲兵を行い、自分が軍を統率していることを内外にアピールしました(これは日本でも報道されたので御存じの方も多いと思います)。一方、翌7月31日、李克強総理は、中国の携帯電話大手の中国電信、中国移動、中国聯通を視察し、三社の代表と経済情勢について意見交換会を開きました。これは「人民日報」や「新聞聯播」で報道されましたが、習近平主席の「迷彩服による閲兵」に比べれば扱いは小さいものでした。李克強総理が大手企業幹部と座談会をやるのは別に珍しい話でもないので、日本では報道されなかったようです。

 ただ、私のように中国のニュースを「ひねくれた目で」見てしまう者には、この李克強氏の携帯電話三社との座談会は「北戴河会議」参加者に対して「自らの立ち位置」を明確に示す一種の「選挙運動」だったのではないか、と写ったのでした。習近平主席の「迷彩服での閲兵」が「北戴河会議」に参加する中国共産党の現役幹部・引退した幹部に対して「自分が軍を完全に掌握しているのだぞ」と示す「アピール」だったのは明らかですが、それと同じ目線で見れば、李克強氏の携帯電話三社との座談会は、「今の中国にとって重要なのは『迷彩服での閲兵』ですか? そうじゃないでしょ。今の中国にとって最も重要なのはスマートフォンやインターネットを活用した経済の新しいステージへの進展、例えばシェア・エコノミーの活性化でしょ?」という「アピール」だったと私は思います。たぶん、中国の都市住民や中国の経済人の目から見れば(もし彼らに投票権があるのだったら)、「習近平主席と李克強総理のどちらに一票を入れますか?」と聞かれれば、「李克強総理に一票」と答える人が多いと思います。

 一方、習近主席は、最近、「貧困対策」に言及することも多いので、軍の関係者や経済発展に取り残された地方の貧しい人民は「習近平主席に一票」と主張するかもしれません。問題は、「北戴河会議」に参加している中国共産党の現役幹部や引退した幹部が、習近平主席による権力集中強化に賛成するのか、李克強総理が進めようとする経済改革強化(中国共産党による指導よりも企業の自主的経営判断を重視する)に賛成するのか、どちらの方が勢力が強いのか外部からはよくわからない点です(「今後、中国をどのようにしたいのか」という理念よりも、「どちらに味方した方が得か」という損得勘定で動く人が多いのかもしれません)。

 最近、中国の大手企業の活動に対する中国当局の「指導」の強化が目に付いています((参考)2017年8月10日付け日本経済新聞朝刊6面「Financial Times: It is what you know 中国企業、見えぬ行動原理 M&A 共産党介入リスク(エマージング・マーケッツ・エディター ジェームズ・キング氏)」)。「中国共産党による指導」と「自由な企業行動範囲をできるだけ拡大したいと考える中国の企業家」との衝突は、遅かれ早かれいつかは表面化する問題でした。今、この二つの考え方の衝突が習近平主席と李克強総理を代表とする勢力の間の権力闘争という形で「北戴河会議」の中で闘わされている可能性があります。

 おそらくは、形式上の権力集中(例えば「党主席」職の復活=習近平氏の党主席就任)と李克強氏側の実質権限の維持(例えば、李克強氏が国務院総理を退くとしても全人代常務委員会委員長として党内ナンバー2の地位は維持する、など)を並立させる形の「妥協」で収まるのではないかと思います。ただ、「中国共産党による指導の強化」と「企業による自由な企業活動」とは根本的に「水と油」ですので、形式的に「妥協」を図ったとしても、その矛盾は蓄積を続け、いつかは「妥協では解決できない臨界点」に達する可能性は否定できないと思います。

 今日(2017年8月12日(土))の各紙報道によれば、中国インターネット情報弁公室は、大手ネットサービスの微信(ウィーチャット:中国版LINEと言われる)、微博(ウェイボ:中国版ツィッターと言われる)、検索最大手の百度(バイドゥ)が運営するティエパ(「貼」+「口へんに巴」)に対して管理強化のための一斉調査に着手したとのことです。中国国内ではツィッターやフェースブックの利用ができない代わりにこれらの中国企業によるネットサービスが極めて盛んです(日経新聞の記事に基づけばこれらの利用者は重複勘定すると13億5,400万人に上る)。今後、中国の企業家だけではなく、一般の中国人民も「中国共産党による管理の息苦しさ」をよりいっそう強く意識するようになるかもしれません。

 私は、李克強氏が習近平主席による「迷彩服による閲兵」の翌日に携帯電話三社を視察することにより「今は閲兵じゃなくてネットをどう経済に活かすか、でしょ?」とのアピールを出したのは、政治家として相当にセンスのよいやり方だったと思っています。

 来週末頃までには「北戴河会議」が揉めることなく終了し、月内には中国共産党大会の日程が発表されて、「方向性はほぼ固まった」という空気が流れることを期待したいと思います。

P.S.

 8月8日、「内モンゴル自治区成立70周年記念式典」が行われました。党中央からは政治局常務委員の兪正声氏(序列7位)を代表とする代表団が参加しました。兪正声氏は内モンゴル自治区へ行っている間「北戴河会議」に参加していなかったわけですが、彼は既に72歳であり秋の共産党大会で政治局常務委員に再任される可能性はありません。なので、「内モンゴル自治区成立70周年記念式典」への兪正声氏の参加は特段の「ニュース」ではありませんでした。10年前の「内モンゴル自治区成立60周年記念式典」には当時の政治局常務委員の曽慶紅氏(江沢民元国家主席の側近)が参加しましたが、今から思えば、これは「曽慶紅氏は秋の党大会で政治局常務委員には再任されない予定」というメッセージだったのでした。

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2017年8月 5日 (土)

中国の景気循環と「中国共産党大会勝利開催バイアス」

 報道によれば、今(2017年8月5日現在)、中国共産党の現職幹部と引退した幹部が集まって議論する非公式な会議「北戴河会議」が開かれているようです。これから秋(開催日時は未公表)の共産党大会までの期間、中国から流れてくるニュースを聞き逃せない日々が続きそうです。

 以前から、中国の景気循環は、5年に一度開かれる中国共産党大会と非常に密接に関連している、と言われてきました。共産党大会の開催までは、地方政府の幹部が自分の業績をアピールしようとして積極的にインフラ投資等のプロジェクトを行うので景気が過熱し、共産党大会が終わるとそうした「公共事業の集中時期」が終わるので、景気は落ち込む、という考え方です。

 21世紀になってからの中国経済の景気の波は、2003年のSARSの流行、2008年の四川大地震、北京オリンピック、リーマン・ショック、2010年の上海万博など中国共産党の政治イベントとは関係のない案件にも影響を受けてきましたので、それほど単純ではありませんが、大まかに言って「共産党大会に向かって景気は過熱し、共産党大会が終わると景気は冷める」という傾向は確かにあったと私も思います。私のイメージでは、2000年代までは、中国経済全体が急速な高度経済成長期にあったので、共産党大会が終わった後の「景気の冷え込み」はそれほど目立たなかったが、2010年代に入って、中国の経済成長の伸びが落ち着く、いわゆる「新常態」の時代になると、二つの共産党大会の間の「谷間の時期」の経済の落ち込みが大きくなっている可能性があると感じています。

 2007年と2012年の党大会の間の時期は、アメリカ発のリーマン・ショックの影響が大きく、中国は四兆元の大型経済対策を打ちましたので、「党大会の間というタイミングによる景気の落ち込み」とリーマン・ショックの影響とを判別することは困難だと思います。一方、世界経済におけるリーマン・ショックの影響と中国の四兆元の大型経済対策の影響が一巡した2012年と2017年の党大会の間の時期においては、2015年頃から2016年前半に掛けて、中国の景気は実際にかなり落ち込んでいたようです。中国の貿易額の推移を見れば、それは明らかです。

 そのほか、2012年と2017年の「党大会の間の時期」については、2013年6月の「影の銀行」「理財商品」を巡る金融の不安定化、2015年夏の上海株のバブル崩壊と8月の「中国発世界同時株安」(いわゆる「チャイナ・ショック」)、2016年年初の上海株式市場の混乱(サーキット・ブレーカー制度の朝令暮改など)など、中国経済は今までにない「波乱」を経験しました。もちろん、アメリカ金融政策における量的緩和政策の終了、原油価格の下落など、中国にとっての外部要因も重なったことも影響していますが、これらの事象は、高度経済成長期が終わった現在の中国において、経済政策・金融政策の舵取りが相当に難しくなってきていることを象徴する出来事だったと言えるでしょう。

 私は、共産党大会と中国の景気循環との関係の原因については、党大会へ向けての地方政府幹部による「自己アピール・プロジェクトの拡大」の側面があるとともに、「党大会の直前の時期には労働者の大量リストラ等による大衆騒動を起こしてはならない」という認識に基づいて、金融機関が経営不振の大手企業に対しての貸し出し基準を実質的に緩くしている、という側面もあるのではないか、と考えています。地方で営業する国有銀行の幹部にとっては、銀行経営にプラスかマイナスか、といった銀行経営上の判断よりも、銀行が融資を認めなかった結果として地方の有力企業が倒産し、労働者がリストラされて社会不安が起きたりすると中国共産党中央から叱責を受けることになるので、その方がよっぽど恐いと思うだろう、と考えられるからです。特に習近平政権になってからは、地方政府や地方の銀行の幹部は、党中央からにらまれると「腐敗追放」の名の下に失脚させられるかもしれない、という恐怖感が植え付けられているのではないか、と想像されます。

 党大会直前の時期には、通常ならば倒産リスクが大きくて銀行が融資を断るような「ゾンビ企業」に対しても融資にOKを出してしまうような銀行の判断があるとすれば、それを私は「中国共産党大会勝利開催バイアス」と呼びたいと思います。このバイアスの存在により、共産党大会が開催される直前の期間(=中国共産党中央が社会の安定を特に求める期間)においては、中国人民銀行が考えるより、中国の金融市場は、実際はより緩和的になっている可能性があります。逆に、共産党大会が無事に終了すると「中国共産党大会勝利開催バイアス」は消滅し、銀行の貸し出し態度は党大会前と比較して引き締め的に変化する可能性があります。留意すべき点は、この「中国人民銀行が意図しない中国金融市場の『緩和』から『引き締め』への変化」が、中国全土で同時に一斉に発生する、ということです。

 中国人民銀行も「共産党大会前は景気は過熱気味で、共産党大会終了により景気は冷え込む方向に動く」ことは事前にわかっていることですから、それを踏まえて金融政策のコントロールをしてくると思います。ただ、そのコントロールのやり方は、高度経済成長が続いている間(概ね2012年の第18回党大会まで)に比べて、今は相当に難しくなってきていると思います。実際、2013年6月の「影の銀行」「理財商品」の問題表面化の時期、2015年8月の「チャイナ・ショック」、2016年1月の上海株式市場の変動の際には、中国の当局の対応は、ハタ目にもギクシャク(言い方を変えれば「ドタバタ」)感が否めないものでした。

 今年(2017年)の第19回中国共産党大会終了後の中国経済の変動の可能性については、私がこのブログで今日も含めて何回も書いているように、多くの人が事前に相当懸念を持っています。ということは、多くの関係者が事前に対応策を考えている、ということですので、ほとんど「不意打ち」のような感さえあったリーマン・ショックの時とは異なり、例え、党大会終了後、中国経済にブレーキが掛かっても、影響はマイルドなものになるのかもしれません(別の言い方をすれば、リーマン・ショックの時は、誰も「コケる」とは思っていなかったアメリカが「コケた」ので世界中が狼狽したが、中国の場合は世界中の多くの人が「中国はコケるかもしれない」と警戒しているので、仮に実際に「中国がコケた」としても、実際の影響はリーマン・ショックほどは大きくないかもしれない、ということです)。

 ここに来て、中国共産党大会が開かれる秋を前にして、秋以降の中国経済の動きを心配する人が多くなってきたと見えて、この一週間、私が見たテレビ番組や新聞では、以下のように中国における債務の問題等を取り上げた報道が目に付きました。

○2017年8月2日(水)放送:テレビ東京「Newsモーニング・サテライト」
プロの眼のコーナー「中国:社債市場に要注意」(BNPパリバ証券の中空麻奈氏)

※このコーナーで、中空氏は、中国のシャドーバンキングの資産運用市場が2012年の28兆元から2016年の116兆元に急拡大していること、中国の社債のうち銀行が保有しているのは25.4%で、60%はファンドの保有(最終的には個人保有などだと思われるが基本的に誰が保有しているかよくわからない部分)であることを指摘していました。

○2017年8月4日(金)放送:テレビ東京「Newsモーニング・サテライト」
プロの眼のコーナー「膨張する世界の債務 この先のリスクは?」(マネックス証券の大月奈那氏)

※このコーナーで、大月氏は、2016年の国・地域別で見ると、特に中国と香港の債務の膨張のスピードが「危険水準」とされる水準(GDPの成長のスピードと10%以上かい離している水準)を大きく超えていることを指摘していました。

○2017年8月2日(水)付け日本経済新聞朝刊26面「経済教室」の欄
「中国バブル不安の実相(上)」「過剰貯蓄 経済の矛盾拡大 消費主導の構造改革急務」(日本国際フォーラム上席研究員 坂本正弘氏)

○2017年8月3日(木)付け日本経済新聞朝刊26面「経済教室」の欄
「中国バブル不安の実相(下)」「『崩壊』懸念も影響は限定的 当局、危機見越し対策準備」(日本大学教授露口洋介氏)

 普通、このように事前に「かなり危ないんじゃないか」との懸念が表明され、各方面でそれに対する準備と対策がなされている場合、実際にはあまりひどいことにはならないことが多いのですが、中国の場合「これはバブルだ」「そのうちこのバブルははじけるぞ!」と警告がなされている中で、実際にバブルが膨張して、はじけた例は過去に多々ありました。2015年夏の上海株バブルがその典型例です。2015年夏の上海株バブルについては、私もこのブログでバブル崩壊前から何回も書いてきました(例えば、このブログの2015年5月3日付け記事「上海株バブル崩壊のタイミングとその影響」)。なので、「中国共産党大会の開催を切っ掛けにして中国の経済バブルが崩壊するのではないか」と事前に何回警告を書いておいたところで、それが実際のバブル崩壊を避けるための「おまじない」になるわけではありません。

 最近、アメリカ、イギリス、オーストラリア等の不動産価格上昇が「バブル気味なのではないか」と懸念されています。2015年の上海株バブルの時は「上海市場で株を売り買いしているのは基本的に中国の個人なので、仮に上海で株バブルが崩壊したとしても、それが世界に伝搬する可能性は限定的」と言われていました。それでも、上海株バブル崩壊は「心理的不安」という形で世界に伝搬し「中国発世界同時株安」を引き起こしました。今、中国の債務問題や不動産市場で「バブル崩壊」のようなことが起きれば、中国企業や中国の資産家による諸外国の不動産の売却という形で世界に伝搬することが予想されます。「中国の経済的変動が世界に与える影響は限定的」とは、私は言えないと思います。

 まずは、今行われている「北戴河会議」が平穏に終了し、秋の共産党大会が大きな政治的混乱なく終了することが大前提なのですが、そのように「中国共産党大会は平穏に終了した」という最も望むべき状況になったとしても、中国経済がその後どのように変動していくことになるのかは今年後半の最も重要な注目すべき事項です(2008年や2013年の例を見ると、「秋の共産党大会終了の反動」は、翌年の夏頃に掛けて目に見える影響を及ぼすことになる例が多いと思われます)。これからも中国経済に関するニュースや中国でビジネスを展開する諸外国の企業が発する情報を注意深く追い掛けていく必要があると思います。

P.S.

 その前に、「北戴河会議」が終わるまでの期間(テレビのニュースに習近平主席や李克強総理がいつもどおりに登場するようになるまでの期間)、中国で、テロ、化学工場の爆発、高速鉄道の事故などが起きないように祈りたいと思います。2015年8月12日に天津港で発生した化学物質の大爆発事故は、私も偶然に起きた事故だと思いますが、タイミングがたまたま「北戴河会議」の開催期間中であったため、一部に「この大爆発は、政治的背景のあるサボタージュ(人為的破壊行為)だったのではないか」との「疑念」を生んだのではないかと思います。その「疑念」が8月11日の人民元の切り下げや8月21日の「中国の製造業購買担当者指数(PMI)の予想以上の悪化」を切っ掛けとして始まった急激な「世界同時株安」(いわゆる「チャイナ・ショック」)の背景にあるのではないかと私は考えています。こういう「疑心暗鬼の疑念」を生まないためにも、私は「北戴河会議」はやめるか、そうでなければきちんとニュースで報道して「秘密裏にやっている会議で重大な事項を決める」というような状態を作らないことが、世界の大国たる中国の責任だと私は思います。

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