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2017年7月 8日 (土)

またぞろ「中国の理財商品は大丈夫なのか」という話

 私は中国国内で販売されている「人民日報」の記事を読むために、毎日「人民日報」のホームページを見ています。「人民日報」を購読していなくても記事を読むことができるので便利なのですが、それと併せて「紙版」の人民日報をPDFで見られるページがあり、見出しや写真の位置や大きさもわかるので重宝しています。「人民日報」のホームページには、このほかにもいろいろな記事が掲載されています。

 他の国の様々なホームページと同様に、「人民日報」のホームページもしょちゅう「模様替え」をします。以前は、「人民日報」のホームページのトップから「理財」というページを開けるようになっていました。「理財」は、中国語で「資産運用」といった意味の言葉ですが、ここのページを開くと、上海株式市場の総合指数のリアルタイムのグラフが見られたり、金融関係の記事、マンション販売動向に関する記事などが見られたのでした。

 しかし、2015年に上海株式市場で「株バブル」がはじけたあたりから、上海総合指数のリアルタイム表示のグラフが見られなくなり、そのうち「理財ページ」自体がなくなりました。その後、「人民日報」ホームページのトップからは「財経」という名称のページに入れるようになり、そこに金融関係、不動産市況関係の記事が載るようになりました(上海総合指数のリアルタイム・グラフは復活しませんでしたが)。私は、2013年6月頃、中国の「理財商品」や「影の銀行」の問題がクローズアップされたこともあり、「理財」という単語のイメージがあまりよくない、との判断で「財経」というページ名に変えたのかなぁ、と思っていました。

 ところが最近、「人民日報」ホームページ・トップから入れる「財経」ページのトップに「理財」というページに入れる入口ができました。私はてっきり以前あった「理財」のページと同じように金融とか経済関係の記事をまとめたサイトかなぁ、と思っていたのですが、実際に入ってみると「理財商品」の宣伝サイトのような場所でした。このページに入ると、理財商品のリストが載っています。例えば、「○○○の××号:予定金利年率6.80% 期限:258日 最低募集価格10,000元 24.48%販売済み」などと書かれたすぐ右に「今すぐ購入する」というボタンが付いていたりします。

 私は「これって、経済ニュースのサイトじゃなくて、単なる『理財商品』の宣伝サイトじゃない」と思っていたのですが、今日(2017年7月8日)アクセスしてみたら、この「理財」サイトは、「人民信金融」というサイト名に変更になっていました。「人民日報」ホームページ内の「理財」サイトという名称では、以前あった記事を集めたサイトと誤解されるので、「記事を掲載するサイトではなく理財商品を紹介するサイトですよ」とわかるように名称変更をしたのかもしれません。

 それでもやはり私には「中国共産党の機関紙である『人民日報』のホームページ内に『理財商品』の宣伝サイトがあって、そこに『理財商品』のリストがあって『今すぐ購入する』というクリック・ボタンが付いたりしていていいのかなぁ」と思えます。

 この「人民信金融」のページのトップに「このページについて」というボタンがあったので見てみたら、「このページは『人民信金融資産平台』のサイトであり、人民日報社が主宰し、人民網(人民日報ホームページ)と中信資産管理有限公司の傘下にある中信恒達支付有限公司とが共同で運営管理しているものです」との説明がありました。私の感覚からしたら、人民日報社がこういう「商売」をやってもいいのかなぁ、という感じもするのですが、中国の公的機関では「予算が足りない分は自分で稼げ」とよく言われるようなので、こういうのも「あり」なのかもしれません。

 「理財商品」は、元本が保証されていないリスクのある金融商品ですが、人民日報ホームページのトップページから2クリックで入れて、しかも「ここは人民日報社が主宰している『人民信金融資産平台』のサイトです」と言われたら、中国人民は「そらなら安心だ」と思って「理財商品」を買うのではないかなぁ、と私は非常に心配になります。

 2013年6月頃に「理財商品」の問題がクローズアップされた頃にも散々言われたのですが、この「理財商品」って「期間が短すぎ」「利率が高すぎ」な印象を強く受けます。今日見たサイトには、上に書いた「期間258日、予定金利年率6.80%」のほかに「期間180日、予定金利年率6.50%」「期間90日、予定金利年率6.00%」というのもありました。実質GDP成長率6.5%前後、消費者物価指数上昇率が1.5%程度の現在の中国において、どういうところに投資するとこれだけ短期間でこれだけ高い利率が得られるのでしょうか。

 私は「理財商品」を買う気はさらさらないので、上記のページのさらに奥に入って「運用方針」とか「目論見書」とかいったものを見たわけではないので、この「理財商品」のリスクについて判断する材料は持ち合わせていません。

 ただ、2013年7月に放送されていた日経CNBCの番組で紹介されていた「理財商品」の例では、運用方針として「(1)高流動性資産0~80%、(2)債権類資産0~80%、(3)その他資産・資産ポートフォリオ0~80%」としか書かれていませんでした。それを聞いて日経CNBCコメンテーターの岡村友哉氏が「衝撃的なざっくり感ですね」と言っていたのが印象に残っています。

 「理財商品」で集められた資金が最終的に何に投資されているのかは、実際はよくはわからないようですが、仮に、例えば最終的にマンション建設等に使われているのだとしたら、投資資金が回収されるまでには数年単位以上の長い期間が掛かることから、通常の感覚から言ったら短期間の理財商品でその資金を賄うのは適切ではありません。また、鉄道、地下鉄などのインフラ投資に使われているのだとしたら、資金回収に時間が掛かる上に、黒字経営になって投資資金がきちんと回収できるかどうかすらわからないことになります(前にも書きましたが、例えば、高速鉄道網は、北京-上海線以外は、今のところ赤字のようです)。ということは、期間が1年以内の「理財商品」の利息は新しく理財商品を買った人からもらった資金で払い戻されている可能性があります。これって、「普通の国」なら「出資法違反」になるような行為なのではないでしょうか。

 このブログで2013年7月頃にも書いたのですが、中国の経済学者ですら、「理財商品」の問題点を認識していました(参考:このブログの2013年7月10日付け記事「中国金融改革:『人民日報』に『正論』」)。しかしながら、こういった中国国内での問題意識にも係わらず、問題はあまり改善していないようです。それどころか、ここへ来て「人民日報」ホームページ内に「理財商品」を宣伝販売するようなサイトができたことは、中国当局が少なくとも今年秋の中国共産党大会の前に「理財商品」の問題が顕在化しないように、中国人民に新規の「理財商品」の購入を勧めるような動きをしていることを示しているのではないか、と私は疑っています。

 今日、私が2013年6月頃に話題に上った中国の「理財商品」を再び取り上げた理由は、上に書いたように「人民日報」ホームページ内に「理財商品」を扱うサイトを見つけたことと合わせて、今、これから、2013年6月頃に起きたことと同じようなことが起こる可能性があるからです。

 2013年5月22日、アメリカFRBのバーナンキ議長(当時)は、議会証言で当時行っていた量的緩和第三弾の規模を縮小させること(いわゆる「テーパリング」)の可能性を示唆する発言を行いました。当時「アベノミクス」により急ピッチで上昇を続けていた日本の日経平均株価は翌5月23日大暴落を起こしました。アメリカ国債の金利は上昇し、新興国からアメリカへの資金の回帰が起こって、世界の金融市場は混乱しました。そうした状況の中で、中国においては「理財商品」「影の銀行」のリスクがクローズアップされたのでした。この時の世界の金融市場の動揺は「バーナンキ・ショック」とか「テーパー・タントラム」とか呼ばれました(「タントラム」とは「かんしゃくを起こす」の「かんしゃく」)。

 今、先月(2017年6月14日)、アメリカFRBは四回目の利上げを決めるとともに「量的緩和」で積み上がった資産の縮小方針を示しました(縮小開始時期は未定)。また6月27日のECB(ヨーロッパ中央銀行)ドラギ総裁の発言が「量的緩和の縮小を示唆した」と受け取られ、イギリスやカナダの中央銀行からも利上げの可能性についての発言があったことから、各国の国債の金利が急上昇しました。つられて日本国債の金利も急上昇したことから、金利を低く抑えたい日本銀行は昨日(2017年7月7日(金))、日本国債買い入れの「指し値オペ」を実施し同時に国債購入増額を発表しました。これらの動きを見ると、今、世界の金融市場では、新たな「タントラム」の現象が起きつつある可能性があります(ここ数週間起きている株式市場の上げ下げの繰り返し、または同じ国の株式市場内での主要株と新興株の逆行現象について、要注意の現象だ、と指摘する人もいます)。

 私が心配しているのは、中国が「今年秋の中国共産党大会終了までは経済を混乱させられない」という事情の下、世界の金融市場で「タントラム現象」が起きた際に柔軟な対応をとることができずに「ちからずく」の対応を採るのではないか、そのことがよくない結果をもたらすことはないか、という点です。そうした中、「人民日報」ホームページ内に、中国人民に対して、「理財商品をもっと買いましょう」と宣伝するようなサイトがあることは、ちょっとマズイではないか、とも思っています。後で「理財商品」に何らかの問題が生じた時に、中国人民の怒りが「人民日報」に向かい、そして結果的には中国共産党に向かう可能性があるからです。

 2015年の「上海株バブル」の時は、中国当局は恥も外聞もなく「ちからずく」で「株価対策」を実施しました。それでなんとかなったのだから、例えば理財商品で何か問題が起きて、中国当局が「ちからずくで」それに対応しても、結局は何とかなるのではないか、と楽観的に考える人もいるようです。私はそれほど楽観的にはなれませんが、「結局なんとかなる」結果になって欲しいと思います。

 なお、中国当局の対応を「ちからずく」と批判するのはよいとして、日本銀行の「指し値オペ」も「ちからずく」なのではないか、との批判があることも申し添えておきます。ただ、私は、個人的には、中国当局の「ちからずく」の中には、例えば「悪意ある株の空売りは犯罪と見なす」と言って犯罪取り締まり部署が出てくる部分もあるので、中国の「ちからずく」のレベルは日本銀行の「ちからずく」のレベルとでは全く次元が異なるものである、と考えております。

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