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2017年7月29日 (土)

今年「中国共産党大会前の経済の過熱」は許されるのか

 最近になって「現在の中国経済は『順調』という領域を超えて『過熱』しているのではないか」との見方が出ています。中国の今年(2017年)の経済成長目標は「6.5%前後」ですが、今年の第一四半期と第二四半期のGDP成長率は、ともに6.9%で目標を上回っています。中国政府が発表するGDPのデータは「信用できない」との見方も強いので、多くの人が外国との関係で「ゴマカシ」が難しい貿易統計や中国で実際にビジネスを展開している外国企業の決算発表における中国ビジネスの状況に注目しています。

 世界鉄鋼協会が発表したところによると、今年(2017年)1月~6月の中国の粗鋼生産高は対前年比4.6%増の4億1,975万トンで過去最高だった、とのことです(この時期の世界全体の粗鋼生産は対前年比4.5%増の8億3,603万トンなので、中国が粗鋼生産において世界全体の50.2%を占めたことになります)。この状況について、7月24日に記者会見した日本鉄鋼連盟の進藤孝生会長(新日鉄住金社長)は「中国経済がやや過熱している。ソフトランディングができるか関心を持って見ている」と語ったそうです(以上、2017年7月25日付け日本経済新聞朝刊3面記事「中国の粗鋼生産最高に 1~6月 鉄余りを市場警戒」による)。

 中国では去年(2016年)の全人代では、中国経済が高度成長経済期から「新常態」の時代に入っているとして、鉄鋼、石炭、セメント等の業界の過剰生産設備の削減が重要な課題として議論されました。その後確かに鉄スクラップを溶かして成形した品質の粗悪な「地条鋼」と呼ばれる鉄鋼の生産工場に対する取り締まりはかなり進んでいるようですが、全体として鉄鋼生産量が増え続けているのでは「過剰生産能力の解消」という去年の政策目標は達成されていないと批判されても仕方がないでしょう。まるで政府の政策に対して現場では「政府は『生産能力を削減せよ』と命じたけれども『生産量を削減せよ』とは言わなかったもんね」と舌を出しているように見えます。

 さらに今年(2017年)4~6月期の日本やアメリカの企業の中国におけるビジネスが極めて順調であることが各企業の決算報告で明らかになってきています。今朝(2017年7月29日(土)付け朝刊)の日本経済新聞7面には「中国復調、好決算の波 インフラ需要後押し 秋以降に失速懸念も」という記事が載っており、4~6月期、例えばコマツが中国事業で建機の売り上げが2倍になったことなどを紹介しています。7月28日(金)付け日経新聞17面の記事では、日立建機が2017年4~6月期の中国での売り上げ高が前年同期の2.2倍に上ったことを伝えています。また、7月26日(水)放送のテレビ東京「Newsモーニング・サテライト」では、アメリカの建機大手・キャタピラーが発表した4~6月期の決算でも中国の需要増加が牽引役だったことを伝えていました。

 習近平政権になってから中国は「新常態」を強調し、経済成長率はそれほど伸びない現状を中国の人々に納得させることに躍起になっていた感がありますが、ここに来てまるで「高度経済成長の再来」を思わせるような状況になっています。中国中央電視台の夜7時のニュース「新聞聯播」では、習近平政権の「功績」を強調する一環として、高速鉄道や巨大な橋などのインフラ投資が進んでいることを盛んに伝えています。中央電視台は、中国経済がインフラ投資によって強力に進んでいることをむしろ肯定的に伝えようとしているようです。

 実際、上記に書いたように建設機械系の日米の会社の売り上げが順調に伸びていることから、インフラ投資が中国経済を牽引しているのは事実だと思います。ただ、強力に進められるインフラ・プロジェクトの資金は地方債の発行にしろ銀行借入にしろ「借金」でまかなわれているのでしょうから、結局のところ「中国共産党大会の勝利開催」のお題目の下、「『新常態』の成長率」「鉄鋼等の生産能力の調整」「むやみな債務拡大の抑制」といった政府の目標は、政府自らが消し飛ばしてしまっているように見えます。

 こうした経済の過熱は、十年前の党大会の直前にもありました。ちょうどほぼ10年前の2007年7月22日にこのブログに書いた記事「中国の経済成長はまだ過熱状態」を読み返すと、2007年における目標成長率は8%であったのに対し、2007年第一四半期は11.5%、第二四半期は11.9%の「過熱状態」であったことがわかります。「党大会を前にして中国経済が『過熱』するのはいつものこと」と見ることもできますが、2007年の時は中国はまだ高度経済成長のまっただ中におり、2008年の北京オリンピック、2010年の上海万博を前にして全速力で走っていた時期なので「過熱」も大目に見ることができたと思いますが、本来もっと「落ち着いた経済」であるべき2017年も「過熱」しているのはよくないと思います。特に10年前、2007年の党大会前には、まだ「理財商品」「影の銀行」の問題は起きていませんでしたし、地方政府の「融資平台」もありませんでしたし、リーマン・ショック後の「4兆元の経済対策」で膨れあがった過大な生産設備もありませんでした。

 上に紹介した日本鉄鋼連盟の進藤孝生会長のコメントも今日(7月29日)付け日経新聞の記事の見出しも「中国共産党が開かれる秋以降の不安」に言及しています。

 それに加えて、実は私が一番気にしているのは、今の中国政府に「現在の経済の過熱状況を適切に抑制するつもりがあるのか」という懸念です。2007年~2008年の時期に私は北京に駐在していましたが、当時の中国政府は、明らかに2007年10月の党大会前に過熱した経済が特に北京オリンピック終了後に急速にしぼむことをかなり警戒していました。党大会前からマンション・バブルの抑制のための様々な施策を講じていました。一方で、2007年の党大会が終わり、上海株がピークを付け、不動産価格が下がり始めた時には、株を買い支えたり、マンション価格下落対策を打ったりすることはあえてしませんでした。私はその時この当時の中国政府の政策については「北京オリンピック終了後にバブルが大きくはじけることを避けるために、北京オリンピック前にはあえて『プチ・バブル』は潰しておこうとしているのだ」と感じました。

 この頃(2008年前半頃)の「プチ・バブル潰し政策」に対しては、中国国内からはかなり不満があったようです。当時、私の耳には、金融政策の中心人物である周小川中国人民銀行総裁の「更迭説」が入って来たのですが、実際は周小川氏は更迭されず、中国政府の政策はぶれませんでした(北京オリンピック終了直後、アメリカ発のリーマン・ショックによって中国の「プチ・バブル潰し政策」は「大型経済対策路線」に大逆転していくことになりますが、これは外的原因によるものであり、中国政府の責任ではありません)。

 それに対し、現在の習近平政権は、4月に新都市計画「雄安新区」の構想をぶち上げるなど、「バブルは小さなうちに潰す」どころか「バブルはもっと大きなバブルで解決する」という方向に向いているように見えます。国内外から信頼の厚い周小川中国人民銀行総裁についても、年齢を理由に来年(2018年)3月の全人代で退任、という観測も出ているようです(2017年7月7日(金)放送のテレビ東京「Newsモーニング・サテライト」内の「チャイナNowCast」のコーナーでのSMBC日興証券の平山広太氏の解説)。

 それと、今、中国には「人民元の先安感」があります。これも2007年と2017年の大きな違いです。

 重複しますが、まとめると以下の4点により、今年(2017年)の「中国共産党前の経済過熱」は2007年の時と比べて非常に危険である、と私は考えています。

○2007年の中国は「高度経済成長期」にあり、ある程度の「経済の過熱」は許された(「過熱」の反動による少々の下ブレがあっても経済成長のプラスは維持できた)が、2017年には中国は既に「新常態」期にあり、「過熱の反動の経済下押し」があると成長がマイナスになる危険性があり、そうなった場合には社会不安が引き起こされるおそれがある。

○2007年には「理財商品」「影の銀行」「地方政府の借金」は既に存在していたかもしれないが規模はそれほど大きくなく問題とはなっていなかったのに対し、2017年には「大きな債務の存在」は多くの人の懸念材料となっている。少なくとも2007年時点で中国政府は「金融リスク」についての懸念を公言していなかったが、2017年時点では中国政府自身が「金融リスク」の存在を認識しており、「金融システム・リスクを顕在化させないこと」が重要な政策課題であることを公言している(それほど2017年の「金融リスク」は2007年に比べて実際に大きいのだと考えられる)。

○現在の習近平政権には「少々苦しい場面があったとしてもバブルは小さいうちに潰しておくべきだ」という姿勢が見られない。(むしろ政府とは独立して金融政策を実行できる(と多くの人から信頼されいている)周小川中国人民銀行総裁に退任の観測がある。官僚機構を率いて経済政策をリードしてきた李克強総理にも国務院総理退任(全人代常務委員長就任?)の可能性すらある)。

○2007年の時点では2008年の北京オリンピック、2010年の上海万博等のビック・イベントを見据えて、将来の中国の経済成長を見込んだ資金の流入圧力(=人民元の先高感)があったが、2017年の時点では中国の経済成長の鈍化を見込んだ資金の流出圧力(=人民元の先安感)がある。このため、2017年の時点では、中国経済の先行き不安が起こると、急速な資金の国外流出を呼び、中国経済の下押し圧力がさらに強化される可能性がある。

 こうした問題点は、中国政府自身がわかっていると思います。なので本来は、今年は「中国共産党大会前の経済の過熱」はできるだけ小さく抑制したかったのだろうと思います。しかし実際には「党大会前の経済の過熱」は抑制できませんでした(政府発表は6.9%の成長ですが、これは「6.5%前後」という年間目標から見た「想定の範囲内」と見せるための「作られた数字」である可能性があり、実際はこの数字より過熱している可能性があります(中国でビジネスを展開している日米の企業の決算を見て私はそう感じました)。

 これから中国共産党大会での人事の「根回し」を行う「北戴河会議」が行われ、まだ開催時期は未公表ですが秋頃には中国共産党大会が開かれます。ちょうどこの頃、アメリカとヨーロッパの金融当局の政策転換もありそうです。少なくとも2007年~2008年の頃と比較して、2017年~2018年の中国経済と世界経済はより緊張感を持って見ていく必要性があると私は感じています。(と私が書いているように、今、世界の多くの関係者が2008年秋に起きたリーマン・ショックのことを思い返して、相当に慎重に身構えていることが唯一の救いでしょう。2007年~2008年の頃はほとんどの人は「無防備」で、そのためにリーマン・ショックで大きな痛手を負いましたから、その頃と今とではだいぶ違うと思います。ただ、日本時間今日(2017年7月29日)未明、北朝鮮が2回目のICBMの発射実験をやったのにも係わらず史上最高値を更新したニューヨーク・ダウに見られるように、今、世界の中に「慎重に身構えている」とは思えない部分もあることはちょっと心配です)。

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