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2017年7月 1日 (土)

香港の「一国二制度」の歴史的意味

 今日(2017年7月1日)、香港はイギリスの植民地から中華人民共和国の一部として返還されてから20年目の節目の日を迎えました。北京から習近平主席が香港入りして、記念式典等が行われました。習近平主席は演説で香港における「一国二制度」を維持する考えを改めて示しました。

 香港における「一国二制度」(香港は中華人民共和国の一部ではあるけれども、高度な自治を認め、資本主義制度と集会、出版の自由等を認める)は、イギリスとの中英共同声明で合意したものですので、北京政府が中英共同声明でうたわれている2047年までは「一国二制度」を維持する考えであることは間違いないと思います。問題は、2047年以降も「一国二制度」が維持されるかどうか、ですが、私は現時点では、「2047年以降は香港での『一国二制度』は維持されないだろう」と考えています。その理由は以下のとおりです。

○中国経済にとっての香港の経済的重要性の低下

 1978年末に「改革開放政策」を始めて外国との経済活動をスタートさせた中国は、当初は外国企業(及び台湾の企業)とのパイプがほとんどなかったことから、中国大陸部の経済発展において、香港が果たした「仲介役」としての役割は非常に大きいものがありました。しかし、中国がGDP世界第二位の経済大国となった今日、中国の企業が直接外国企業と関係を持つことは既に一般的なことになっているし、台湾の企業の大陸での活躍も「ごく普通のこと」になっています。そうした現状において、香港の外の世界との「仲介役」としての役割の重要性は、ゼロにはなってはいませんが、香港返還が決まった1980年代に比べると相当に低下していると思われます。

○アジア経済におけるイギリスの遺産としての香港の地位低下

 (これは中国の問題ではなく元宗主国のイギリス側の問題なのですが)2016年のイギリスのEU離脱決定により、おそらくはロンドンのヨーロッパ経済の中心としての地位は低下するでしょう。香港はシンガポールとともに、大英帝国の植民地だった頃に築かれた「アジア経済におけるイギリス企業(特に金融業)の拠点」として大きな役割を継承して現在でもアジア経済において大きな役割を果たしていますが、今後、世界経済の中において果たすイギリス企業(特に金融業)の地位が低下するのであれば、香港がアジア経済において果たす役割も小さくなっていく可能性があります。

○香港における「一国二制度」が将来の台湾と大陸との統一に役立つ見通しが現時点では全く立っていないこと

 香港返還交渉時に中国の当時の最高実力者であったトウ小平氏が考えていたことは、香港において「一国二制度」がうまく機能するのであれば、台湾も香港の制度の延長線上に位置付けることにより、台湾と大陸との平和的な統一が実現できるのではないか、ということだったと思います。香港の「一国二制度」がうまく行く(=香港市民や香港に立地する企業が「一国二制度」をよい制度だと感じる)のであれば、おそらくは台湾の人々や台湾企業も同じような制度を受け入れることに抵抗しないのではないか、という考え方です。

 しかし、香港の人々はイギリスの植民地であった頃と比べて政治的な自由度が増えていない一方で、香港経済が中国大陸部の人や企業にコントロールされる度合いが強まった、という不満を募らせているようです。

 2014年の香港での「雨傘運動」は香港の現状を変えることはできませんでしたが、おそらくは台湾の人たちに「香港の『一国二制度』を台湾に適用されてはたまらない」という気持ちを強くさせたことは間違いないと思います。香港の「雨傘運動」の直後に台湾で行われた2014年の地方選挙で大陸との関係改善を目指す国民党は大敗し、結局は2016年の総統選挙では、大陸との関係では一線を画する方針の民進党の蔡英文氏が当選しました。現時点(2017年の時点)においては、「香港の『一国二制度』の現状はむしろ台湾と大陸との距離を縮めることを阻害している」と言った方が正しいかもしれません。

 「香港における『一国二制度』は台湾統一には役に立たない」と北京政府が考えるのであれば、北京政府が香港において「一国二制度」を維持するメリットの中の最も重要な部分は消滅することになります。

 そもそも現在の中国経済全体は「持続可能な状態」ではないように見えるので、2047年までの間には中国経済の大規模な変動は避けられないと思います。もしそうなれば、北京政府周辺で、政治的な大変動が起こるかもしれません。そうした経済的・政治的大変動の中において、香港が経済的な繁栄を維持し続けられるのか、そうではなく、台湾の人々が「やはり香港と違って台湾は大陸とは切り離された存在でよかった」と感じるような状態になるのか、がポイントになると思います。香港市民や香港の企業が「一国二制度」でよかったと感じられないのであれば、「一国二制度」は、香港市民からも、台湾の人々からも、そして結局は北京政府からも「結果的に役に立たなかった制度」として歴史の中でその役割を終了させられることになるのだと思います。

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