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2017年6月17日 (土)

中国のインフラ投資のスピード感

 先週日曜日(2017年6月11日)付の日本経済新聞朝刊13面に「官民投資 中国で乱立 地下鉄など総額230兆円 『民』の実態は国有? 不良資産拡大も」という記事が載っていました。今、中国各地の都市で地下鉄建設等が急ピッチで進められていますが、その多くが「官民パートナーシップ(PPP)」と呼ばれ、その多くで、完成後の運営権の民間移転を前提とした「民間資金」の導入を利用していることが紹介されています。

 「官民パートナーシップ方式(PPP)」は、税金負担を少なくするという観点から、最近、日本でも多くのプロジェクトでこの方式が採られるようになっていますが、中国の場合「民間資金」と言ってもかなりの割合で国有企業の資金が投入されています。中央政府の方針によって地方政府が設立する「地方融資平台」(地方インフラ投資会社)が使えなくなっている現在、PPPが銀行から資金を借りて地方でインフラ・プロジェクトを進めるための地方政府の新たな「仕掛け」になっている、とこの記事は指摘しています。

 この記事では、都市部での地下鉄建設を例に挙げて解説していますが、私の感覚としても、最近(=リーマン・ショック以降)の中国での地下鉄建設ラッシュは「危険なほど速い」と感じています。

 私は1986年10月に一回目の北京駐在を開始しましたが、その時点では、北京の地下鉄は東西に走る1号線(「苹果園駅」から「復興門駅」まで)と2号線(環状線)の南半分と北半分だけでした(天安門前の長安街の下には地下鉄はまだなかった。環状の2号線はまだ環状運転していなかった。2号線が環状運転を開始したのは、私の北京駐在期間中の1987年12月24日)。私は2007年4月に二回目の北京駐在を開始しましたが、この時点でも、既に開通していた2号線に加えて、1号線(天安門前の長安街を含む全線)、13号線と八通線が開通していただけでした。

(注)北京の地下鉄の路線番号は、路線を区別するための番号であり、開通の順番とは一致しない。また、地上を走る路線も「地下鉄(中国語で「地鉄」)」と表記される。例えば、13号線は北方郊外を逆U字型に走る路線だが全線地上を走っているほか、空港線は、市街地は地下を走るが途中で地上に出て、空港付近まで高架を走る構造になっている(第一ターミナル駅、第二ターミナルの駅の部分では再び地下に潜る)。

 その後、2008年8月の北京オリンピックを前に、5号線の一部、8号線の一部、10号線の一部と空港線が開通しました。ウィキペディアの「北京地下鉄」の項目によると、現在、北京の地下鉄は19路線あるそうです。ウィキペディアにある一覧表を見ていただければ、上に書いた以外の路線は全て2009年以降に開通していることがわかります。北京以外の中国の都市の地下鉄については、私はよく知りませんが、オリンピックがあった関係もあって北京は比較的先行して地下鉄建設が進んでいたはずなので、北京オリンピックの時点(2008年)では北京以外の都市ではあまり地下鉄建設は進んでいなかったと思います。それを考えると、中国各地の都市の地下鉄はリーマン・ショック以降に猛烈なスピードで建設が進んでいると言えます。

 一方、現在、中国全国を結ぶ高速鉄道網もものすごいスピードで建設が進んでいます。中国全国を覆う「四縦四横」という計画は、私が二回目の北京駐在を終えた2009年頃でもあまり聞かなかった計画ですが、現在はさらに進んだ「八縦八横」計画が進行中なのだそうです。いくら中国は国土が広いとは言え、これは「やり過ぎじゃないの?」と思えるし、これらがここ10年間という短い期間で進んでいることを考えると「建設スピードは明らかに速過ぎ」だと思います。中国の高速鉄道建設の「速過ぎ」については、2017年6月10日号の「週刊東洋経済」も「ミスターWHOの少数異見」のコーナーで「中国国民もついていけない高速鉄道の急拡大事情」として指摘しています。

 地下鉄も高速鉄道も中国の一般庶民が使うものですから、料金はそんなに高くは設定できません(上記「週刊東洋経済」の記事によると、北京-上海間の高速鉄道の料金は所要6時間で550元(約9,000円)とのことです)。なので、建設資金が回収できるのかどうかわかりません。去年(2016年)7月19日付けでアップされたネット上の日本経済新聞の記事によると、最も基幹路線とされる北京-上海間の高速鉄道は2011年に営業運転を初めて以来2015年12月期に初めて黒字になったとのことです(ということは他の路線は全て赤字ということ)。

 また、ウィキペディアによると、現在の北京地下鉄の料金は初乗り(6kmまで)3元(約48円)、空港線は25元(約400円)だそうです。私が駐在していた2007年頃は一律3元(オリンピック前に市民の利便を考えて2元に値下げ)、空港線は開通当初から25元でしたので、既に10年近く経っているのに、ほとんど値上げしてないようですね。北京市民としてはありがたいと思っているのでしょうが、これでは建設費は回収できないのではないでしょうか。

  中国中央電視台の夜7時のニュース「新聞聯播」では、最近、こういった中国高速鉄道網や都市部地下鉄網の急速な発達について、「習近平主席の業績」として誇らしげに報じています。「都市の地下鉄や高速鉄道網の建設費は回収できるのか?」といった批判的意見は誰も言いませんが、膨大な中国の地下鉄や高速鉄道の建設費は巨大な「不良債権」に化ける可能性はかなり大きいのではないかと私は思います(かつて日本の国鉄が巨大な負債に苦しんでいたことは一定年齢以上の方ならよく覚えておられると思います)。

 今、中国のインフラ投資については「スピードを落とすと急減速してしまうのではないかという不安があるのでスピードを落とせない」という状況になっているとの懸念があります。この懸念が「ほんものの懸念」なのか「杞憂」なのか、中国の外の人間にはわかりにくいのですが、そうした「中国経済への懸念」が、世界の人々に不安感を抱かせ、その不安感が投資や消費を鈍らせて、世界経済を発展させるための阻害要因のひとつになっているのだと思います。

 今日(2017年6月17日(土))の日本経済新聞朝刊18面には「中国経済懸念、市況に影 銅・亜鉛や鋼材、1~2割安」との見出して、今後の中国経済に対する懸念から商品市況が悪化していることを伝えています。「中国のインフラ投資のあまりに速いスピード感から来る恐怖感」が既に世界の実態経済にマイナスの影響を与え始めているのではないかと私は思います。

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