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2017年5月27日 (土)

中国国債の格下げとビットコイン価格の急騰

 アメリカの格付け会社ムーディーズは、2017年5月24日、中国の長期国債の格付けをそれまでの「Aa3」から一段階引き下げて「A1」にしました(一方で、見通しをそれまでの「ネガティブ(弱含み)」から「安定的」に変更しました)。

 「引き下げ」とは言っても、例えばムーディーズの日本国債に対する格付けは安倍総理が消費税再増税延期を表明した直後の2014年12月に「A1」に引き下げられていましたから、今回中国の長期国債が「A1」に引き下げられたのは、日本国債と同じになった、というだけで、これから「とんでもないこと」が起こるわけではありません。

 また、2014年12月に日本国債の格付けが引き下げられた時にこの格付け引き下げによって日本のマーケットに大きな混乱が起きたわけでもないことに見られるように、今回のムーディーズによる中国の長期国債の格付け引き下げが、中国のマーケットに混乱を引き起こすことはないと思います。

 ただ、バブル崩壊からデフレ時代の中に長く浸っている日本国民にとっては、「日本国債の格付けが下がった」と言われても「やっぱ、そうでしょうね」と思うだけでしょうけど、現在急速に成長中であり中国経済が世界経済を引っ張っていると言える、という感覚を持っている中国の人々にとっては、この「格下げ」はちょっとショックだったかもしれません(特にムーディーズによる中国国債の格付け引き下げは「六四天安門事件」のあった1989年以来ですから、それなりの「心理的ショック」はあったのではないかと思います)。

 そうした「中国の人々に対する心理的ショック」があることは、格付けの引き下げに対して中国財務省が直ちに反論のコメントを出したことでも伺えます(ちなみに、2014年12月にムーディーズが日本国債の格下げをした時は、日本の財務省は無視しました(2002年5月の格付け引き下げの時は日本の財務省は格付け会社に対して反論レターを出したのですけどね))。

 私も今回のムーディーズによる中国の長期国債の格付け引き下げにより「心理的ショック」を超えて大きな実態的な影響が出てくるとは思っていませんが、格下げ発表後の上海株式市場の株価の値動きがかなり不自然だったので、そちらの方が気になっています。格付け引き下げがあった5月24日、上海総合指数は安く始まって午前中に前日比1.3%安まで下がる場面もあったのですが、その後盛り返し、結局はこの日は0.1%高で終えました。翌5月25日は対前日比1.4%高で引け、5月26日(昨日)も0.07%高で引けました。株式市場は、様々な要素で上がったり下がったりするので、国債の格付け引き下げの影響だけを考えるのは正しくないのですが、こうした動きはまるで「国債格付け引き下げによって株価が下がらないように政府系ファンドが株式市場で買い支えをしている」ように見えます(実際、政府による買い支えが実施されているようだ、といった観測記事も出ているようです)。

 私が「気になる」のは、不動産バブルの膨張を懸念して、不動産価格の抑制を図るための様々な政策が打ち出されいている今の時点で、政府が株式市場を下支えしているとの観測が出てくると、中国人投資家の間に「政府は秋の中国共産党大会までマーケットの暴落を絶対に許さないはずだから、今、株式市場に投資して党大会の前に売り抜けば必ず儲かる」などといった「思惑」を生んで、価格抑制策で不動産市場に入れない余剰資金が株式市場に流入して、株式市場の方に「新たなバブル」を生んでしまうのではないか、ということです(実際、2014年秋~2015年6月までの「上海株バブル」は、それ以前の不動産バブルの沈静化によってあふれた資金が不動産市場から株式市場に回ってきたため、と言われました)。

 一方、私がもうひとつ気にしているのはビットコインの価格動向です。ビットコインの価格は、2017年年初に暴落しましたが、それは中国当局がビットコイン取引の管理を厳しくしたからだ、と言われました。今、5月初め頃からビットコインの価格が急激に上昇してきています。中国国債の格付け引き下げよりずっと前からビットコインの価格高騰は始まっていたので、ビットコイン価格と今回のムーディーズによる中国国債の格付け引き下げの間に因果関係はないことは明らかですが、ビットコインの価格の急上昇の背景には中国国内の事情(例えば、不動産市場に入っていた投機資金の一部がビットコイン市場に回ってきているなど)がある可能性があります。

(注)ビットコインの価格急騰については、アメリカのトランプ政権の先行きが不透明、ヨーロッパのユーロの先行き不安も払拭されたわけではない、ということで、欧米の投資家が米ドルやユーロを売ってビットコインを買っているからかもしれません。日本でも5月15日から日本最大と言われるビットコイン取引所であるビットフライヤーが地上波テレビでのCM放映を開始したり、5月22日に格安航空会社(LCC)ピーチ・アビエーションがビットコインで航空券などを購入できるシステムを導入する予定と発表したりしていますので、日本でもビットコインの認知度が高まり日本人の間で買う人が増えたのでビットコインの価格が上昇している可能性もあります。

 5月25日付けの「人民日報」は10面でムーディーズの中国国債格付け引き下げについて「評価引き下げの方法は不当である」と題する財務部関係者の反論記事を載せていますが、一方で21面には「ビットコインは『デジタル・ゴールド』になった」(中国語は「比特幣成了『数字黄金』」)と題する解説記事を載せています。これはビットコイン価格が急騰し金(ゴールド)の価格を超えたことを切っ掛けとした解説記事です。この解説記事は、特段ビットコインの購入について推奨するわけでも批判するわけでもなく、中立的に現状やリスクについて解説しています。

(注)この記事の中では「現在、アメリカ、日本、中国、ヨーロッパの各国・地域での一日あたりの交易規模は、それぞれ7,300万ドル、7,300万ドル、4,500万ドル、3,140万ドルである」と紹介されています。日本での報道では「中国での交易量が世界で最も多い」とされていますが、日本での報道とこの「人民日報」の解説とのどちらが正しいのかは私にはわかりません。

 先週、ビットコインの価格は1ビットコイン=2,500米ドル程度まで上昇したようですが、この「人民日報」の記事には次のような記述があります。

○2020年までに、ビットコインの交易規模は30億ドルを超え、その交易価格は1万ドルに達する可能性もある。

○ビットコインは一種のバーチャルな『デジタル・ゴールド』と見なすこともできるが、黄金(ゴールド)のような高い流動性、低いリスク、価格の安定性とコントロール可能性といった属性を具備しておらず、一種のハイリスク・ハイリターンの投資品と言える。

○貨幣のイノベーションという視点でデジタル属性に注目することもできるが、慎重な投資姿勢により黄金(ゴールド)のような属性を持つかどうか見極めるべきである。

とも書いてあり、リスクについても解説してありますので、この記事は別にビットコインの購入を推奨しているものではないと言えるでしょう。しかし、投資好きの中国の読者に対して、今2,500ドルまで急騰したビットコインについて「2020年までにその交易価格は1万ドルに達する可能性もある」などと紹介したら結果的に「煽っている」ことになるんじゃないかなぁ、と私は思います。

 2015年6月をピークにしてはじけた上海株バブルの時も、春頃に「人民日報」が株投資を煽っていた、と批判されたことがありました。今回のビットコインに関する「人民日報」の解説記事を切っ掛けにして、価格抑制策がなされた中国の不動産市場や政府系ファンドに価格変動をコントロールされている中国の株式市場から押し出された資金がビットコイン市場に過度に流入し始めるのではないか、と心配になります。

 この他、「人民日報」のホームページ「人民網」の「財経チャンネル」に載っていた中国経済網の記事「鋼材の価格上昇の嵐 石炭の奇跡の再演なるか 今年の業種の利益は去年を超えている」(2017年5月23日アップ)も気になっています。この記事では、中国語でいう「螺紋鋼」(建築用コンクリートに入れる鉄筋)の価格が4月19日以来20%以上高騰しており、株式市場でも関心を集めていることを伝えています。「螺紋鋼」の価格が高騰しているのは、市場関係者がマンション等の建設による需要が今後とも高いレベルを維持すると見ていることを示しています。中国政府は、マンション・バブルの抑制のための政策をいろいろとっていますが、「どうせ党大会の前にマンション販売の低迷を出現させるわけにはいかないので、党大会まではマンション建設ラッシュは続くだろう」と中国の市場関係者は中国共産党の「足元」を見ているのかもしれません。

 この記事の最後は「鋼鉄株は去年の『石炭の奇跡』の再演なるか 刮目(かつもく)して待つべし」と締めくくっています。去年(2016年)は、中国政府の「生産能力削減」の政策により、石炭の生産量が減りましたが、一方でマンション建設等に使う鉄鋼の需要は堅調だったことから、石炭の品薄感が急激に広がって石炭(製鉄に使う原料炭)の価格が高騰しました。この記事はこの「石炭の奇跡」が今年は鉄鋼で起きるのか、と期待を持って書いているわけです。私はなんか競馬新聞の予想記事を読んでいるような気分になりますが、少なくともこの記事の読者である中国の投資家の皆様は、去年の石炭や鋼材価格の乱高下に全然懲りていないようですね(というか、そういう価格の乱高下を投資のチャンスとして待っているようにすら感じる)。

 今、日本をはじめ世界の経済関係者は、「中国経済バブル崩壊にどう対処すべきか」と身構えているところだと思いますが、中国には上のような「投資新聞」の記事を読んで不動産や株や商品(鉄鋼、石炭、銅など)(場合によってはビットコインなども含めて)に投資している血気盛んな投資家の皆さんがとんでもない数おられることを念頭においておく必要があると思います。

 今日(2017年5月27日(土))付け日本経済新聞朝刊1面には「人民元の急落防止 中国、基準値算出方法を見直し」という記事が、9面には「中国、資本流出を警戒 人民元の急落防止 米追加利上げにらむ」という記事が掲載されています。国外への資本流出と人民元の急落を防ぐため、中国が人民元レートを定める基準値の算出方法を見直す、という記事です。9面の記事では、24日のムーディーズによる国債の格付け引き下げを受けて「25日には一定規模の為替介入があったもよう」(外国銀行)との指摘も紹介されています。

 「不動産価格の高騰を抑制する」「国外への資金流出を阻止する」という政策を同時に進めた場合、不動産市場からあふれた資金は中国国内の「どこか」へ向かいます。上に書いてきたように、その「どこか」とは中国国内の株式市場、鉄鋼、石炭等の商品市場あるいはビットコイン市場かもしれません。仮に「不動産バブル」を抑えることに成功したとしても、不動産市場にあった資金が移動した先の「どこか」でまた新たなバブルが発生することになるのかもしれません。中国が国外への資金流出を阻止することは、中国国内のバブルが外国に輸出されることを防ぐことになるので、諸外国にとってはよいことなのかもしれませんが、「ガス抜き栓」をふさがれた資金の圧力が中国国内に溜まってバブル破裂のエネルギーが蓄積されるのではないか、という恐怖感も湧いてきます。

 5月26日(金)付けの日本経済新聞朝刊11面のコラム「NIKKEI ASIAN REVIEW」では、米クレアモント・マッケナ大学教授のミンシン・ペイ氏の「中国企業 不透明な経営 急膨張 資本規制で転機か」という文章が掲載されています。この文章の中でペイ氏は「歴史上の信用崩壊後の惨状に通じる人なら、こうした一見結びつきのない諸報道が金融危機の前兆だと認識するだろう。」と書いています。今回も上に書いてきたいろいろなことがらは、後から見ると「中国経済バブル崩壊の前兆現象だった」「壁が大崩壊する前にミシミシなっていたきしむ音だった」と顧みることになるのかもしれません。

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