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2017年5月20日 (土)

世の中「中国経済バブル崩壊準備モード」に突入

 週刊東洋経済2017年5月20日号の特集は「最後の証言:バブル全史」でした。日本の1980年代末~1990年代初のバブル形成と崩壊の過程を当時の関係者の証言で綴るものでした。

 「なぜ今このタイミングで『バブル全史』の特集なのか」と問われれば、やはり現在の世界経済の状況が「バブルらしき様相」であるからでしょう。最も懸念されているのが中国の不動産バブルです。一昨年(2015年)夏、上海株のバブルがはじけたことを思い出せば、1989年末をピークにしてまず「株バブル」がはじけ、二年くらい掛けて「土地バブル」がはじけた日本のバブルを思い出さざるを得ません。たまたま偶然ですが、バブル最盛期に始まった「平成」が「そろそろ終わりそうだ」ということも、そういった連想を助長しているのかもしれません(昨日(2017年5月19日)「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案」が閣議決定されました)。

 で、私がちょっとショックだったのは、週刊東洋経済2017年5月20日号の「編集部から」の欄に「当時中学生だった私にとってバブルの記憶といえば・・・」と書かれていた編集部の方の言葉でした。これを読んで「あちゃ~、就職後十年目でバブルに遭遇した私はもう『お年寄り』の部類なのかなぁ」と思ってしまったのでした。ということで、このブログを読んでいる方にも「日本のバブルの実体験がない」方も多いと思うので、「日本のバブルでは何があったのか」について、私の経験や私の知っている話をお話しして、来るべき「中国経済バブルがはじける時」に何が起こるのかを考える上での参考にしていただければ、と思います。

 まず、バブルに至る過程で私が印象に残っているのは「急速な円高の進展」でした。私は1986年10月~1988年9月に一回目の北京駐在を経験していますが、海外駐在員にとって、為替レートは日常生活にも直接影響する一大関心事項です。当時、中国では、朝7時前に中国人民銀行が決める各外貨と人民元との為替レートを中央人民広播電台(中央人民ラジオ局)が放送していましたが、私は毎朝そのラジオ放送で流れる為替レートを聞き取ってメモするのが日課になっていました(非常によい中国語のディクテーション(聴音書き取り)教材でした)。なので、プラザ合意(1985年9月)の後、数年間にわたって怒濤のごとく進んだ円高は「日々の衝撃」として私の記憶に残っています。

 当時新聞等では急激な円高に伴う日本の輸出企業の苦境が報じられていましたが、私が思っていたのは「物価は全く下がらないのだから、原材料を輸入している企業はボロ儲けしているのだろうなぁ」ということでした。確かに円高に苦しむ輸出企業の裏側で、円高で相当儲けた輸入関係企業もあったはずで、そうした「あまり話題にならない中で円高によって積み上がった余裕資金」がいろいろな資産に投機として投入されて、それが後でバブル化した面もあるのだと思います。

 苦しんでいる企業は対策を打つようにいろいろ政府に働き掛けをするので、新聞等でそれらの動きを目にすることも多いのですが、「意外に儲かっていて資金に余裕がある企業」は基本的に「だんまり」なので目に付きません。「あんなところにも金が余っていたのか」といった話はバブルがはじけた後でわかる話です。「バブルが形成されつつある間は気がつかないが、意外なところに意外な資金が貯まっていてバブルがはじけた時に悪さをする」ことがあり得ることには注意しておく必要があると思います。

 もうひとつ印象に残っているのは、1980年代前半は相当に金利が高く、例えば郵便局の定額貯金は金利が年利7%を越えていたことでした。定額貯金は満期10年なのですが複利なので年利7%ちょっとで10年後まで途中解約しないでいれば元本が2倍の金額になったのでした。1980年代後半は円高が進んだこともあり、日本の物価はそれほど上がりませんでした。バブルの頃は、給料がそんなに上がったわけでもないのですが、「貯金しておけば結構な額の金利が付く」という意識があったので、結構気楽にお金を使う「気分」になっていたような記憶があります。今、「個人消費が伸びない」のが日本経済の重要なマイナス要因になっていますが、ゼロ金利下で「利子という余裕資金」が全く存在しない現状が消費しようとする「気分」に水を差しているのは間違いないと思います。

 今、多くの中国の人々は「マンション」という資産を持っており、「自分の持っているマンションの価格は将来上がる」という認識の下で消費行動をとっています。「想定しているマンション価格の上昇」は、自分の意識の中では「余裕資金」として存在していると思います。従って、今後、中国の不動産市場において「バブル崩壊」とまではいかなくても、「マンションの価格は上昇しない」という状況が生じた場合、現在の中国の人々が持っている「マンション所有による余裕資金があるという感覚」は消滅し、中国の人々の消費意欲を急激に冷やす可能性があります。その場合、中国人旅行者による日本での購入や中国国内での消費に期待している日本の企業は打撃を受ける可能性があります。

 さらに「今思えば」と後になって気がついたのは、1980年代後半、日本政府に「バブルに対する危機意識」がなく、むしろ政策によって「バブルを煽った」面があったのではないか、ということです。冒頭に紹介した週刊東洋経済2017年5月20日号の特集「最後の証言:バブル全史」では、早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問の野口悠紀雄氏が1987年11月26日号の週刊東洋経済に掲載した文章「バブルで膨らんだ地価~地価引き下げのための緊急対策を~」について紹介しています。この1987年の記事の中で野口氏は「現在の地価は投機のバブル(泡)で膨らんだ異常な水準である。」と書いています。「バブル」に「(泡)」とわざわざカッコ書きで書いているほど、日本経済の状況を「バブルだ」とする認識は1987年当時は一般的ではなかったのでしょう(なお、経済のある状況を指す言葉としての「バブル」はガリバー旅行記を書いたスウィフトが初めて使ったとされており、18世紀からある言い方です)。余裕資金を用いて地方活性化を図ろうとする総合保養地域整備法(通称「リゾート法」)は1987年制定ですが、この法律は企業によるリゾート開発等のいわゆる「財テク」を促進させることになり、結果的に政府が率先して当時のバブル的状況をさらに膨らませる結果になりました(それを「政策の誤りだった」と批判することは「バブルがはじけた後だから言えること」だと思いますけど)。

 こうした政府の政策の背景には、1985年に民営化されたNTT(旧電電公社)の株式売却(1987年2月に上場)においてNTT株が想定より高値で売却できた(政府の収入が想定より多かった)という点もあったと思います。「NTT株が想定より高く売れた」のは、後から振り返って見れば当時既に日本経済が「バブル化」していたからだと言えますが、当時の日本政府は「今はバブルだ。今のままでは危険だ。」とは認識していなかったのだと思います(だから適切な対策は講じなかった)。政府に危機意識がなかったからこそ、野口悠紀雄氏は上記のように警告を発する記事を書こうと思ったのでしょう。

 ここで問題なのは、「政府に『今の状況はバブルである』という認識があれば、適切な措置を講じてバブルがはじけるのを避けることができたのか」という点です。今の中国政府には、現在の不動産市場の状況が「バブル的である」との懸念は持っており、もし政府が適切な状況認識を持って適切な措置を講じることができれば、中国の不動産バブルも「はじける」ことは回避できることになるのでしょう。

 しかし、2008年のリーマン・ショックのことを考えると「政府が『バブルかもしれない』という危機感を持っていれば事前に適切な措置を講じることによりバブルがはじけることは回避できる」ことには必ずしもならないことは明らかでしょう。21世紀に入って、日本のバブル崩壊については、アメリカ政府担当者を含めて世界の政策担当者はよく知っていたし、アメリカの住宅市場に関して「サブ・プライム・ローンは危ないのではないか」といった認識は2007年頃からあったにも係わらず、アメリカ政府はリーマン・ショックという「バブルの突然の崩壊」を防ぐことはできませんでした。

 中国経済で「バブル崩壊」が起きると中国共産党政権自体が揺らぎかねませんので、中国共産党は日本のバブルを含めて過去のバブルについては相当熱心に(真剣に)勉強しています。なので、「中国共産党はバブルを崩壊させることなくソフトランディングさせることができる(はず)」と多くの人が考えています。しかし、問題は、中国共産党の経済政策を考える経済学者が「バブル退治」の処方箋を仮に持っていたとしても、実際の政策としてそれを実行できるのか、という問題があります。政策を決定する中国共産党員自身が「利害関係者」であるために、有効な政策決定ができないことがあり得るからです。例えば、不動産バブルを沈静化させるための「マンション保有税」(日本の固定資産税に相当)も政策手段としてあるはずなのですが、中国共産党の会議や全人代ではまだ議論すらされていません。それどころか、先に発表された新副都心「雄安新区」プロジェクトなど、むしろバブルを助長させるような方向の政策も打ち出されています。

 まとめると以下のとおりになると思います。

 日本のバブルは、バブル崩壊まで(野口氏のような一部の学者を除いて)日本政府や経済界の中に「今の状況はバブルで危険だ」という危機意識はなかった。

 アメリカのリーマン・ショックにおいて、アメリカの政策担当者は日本のバブルについて既に学んでおり、サブ・プライム・ローンの危険性についてある程度の危機意識は持ってはいたが、適切な対策を適切なタイミングで採ることができずにリーマン・ショックを起こしてしまった。

 中国の経済政策担当者は、日本のバブルもアメリカのリーマン・ショックもよく学んでおり、現在の中国の不動産市場についてバブル的要素があり一定程度の危険性があると認識いている(公式見解は「現在の状況はコントロール可能」というものだが)。中国経済において「バブルがはじけることを回避する」ことができるかどうかは、現時点ではわからない。

 一方、日本のバブルがはじけた後の状況を「世界の工場」へ向けて急速に発展した中国経済は後ろから支えた(1980年代から始まった中国のインフラ投資等に対する日本の経済協力(円借款など)が結果的に中国経済の急速な発展を通じて日本のバブル崩壊からの回復を手助けした)。バブル崩壊後の日本が苦しんだのは事実ですが、すぐ隣に急速に発達する中国が存在していなかったら、日本経済の状況はさらに悪いものになっていたと思います。

 アメリカのリーマン・ショックに始まる世界経済危機に対して中国政府が実施した四兆元の超大型経済対策は結果的に世界の需要を下支えし、世界経済のリーマン・ショックからの回復に大きなプラスの役割を果たした。

 中国経済のバブルが今後崩壊すると想定した場合に「バブル崩壊後の日本を支え、リーマン・ショック後の世界経済を支えた中国と同じような役割を果たす者」は現在の世界には存在しない。

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 いくら過去のことを学んでも「もし中国の経済バブルがはじけたらどう対応したらよいか」はわからないのですが、「何も知らないよりは、過去の経験を知っていた方がケガは小さいだろう」と思うので、やはり今回週刊東洋経済が「最後の証言:バブル全史」という特集を組んだのは非常にタイムリーでよかったと思います。

 先週までのブログにも書いたように、日本経済新聞も最近「中国経済バブル警戒モード」に入っていると私は感じています。今日(2017年5月20日(土))まで、日本経済新聞朝刊は「変わる鉄鉱石市場」という短期連載コラムを掲載していました。鉄鉱石、原料炭、銅などの価格やビット・コインの価格の変動は、「中国経済の現状の何か」を表している可能性があるので、注意深く見ている必要があると思います(もちろんこれらは「投機筋の思惑」で動くので、価格変動が「何を意味しているか」を安直に判断することは難しいと思いますが)。中国でビジネスを展開する企業の日々のコメントにも注意を払う必要があると思います。

 これまでも何回も書いてきましたが、「『バブル』とははじけた後で初めて気付くものであって、『今はバブルだ』と感じているのなら、今はバブルではない。」という考え方は中国については通用しないので、警戒は緩めずにいる必要があると思います。(とは言え、一昨年(2015年)8月に「中国発世界同時株安」が起きた時は、私自身、結構びっくりしました。「バブルが崩壊した時にびっくりしないように事前に準備する」ことなど実際には誰にもできないのかもしれません)。

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