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2017年5月

2017年5月27日 (土)

中国国債の格下げとビットコイン価格の急騰

 アメリカの格付け会社ムーディーズは、2017年5月24日、中国の長期国債の格付けをそれまでの「Aa3」から一段階引き下げて「A1」にしました(一方で、見通しをそれまでの「ネガティブ(弱含み)」から「安定的」に変更しました)。

 「引き下げ」とは言っても、例えばムーディーズの日本国債に対する格付けは安倍総理が消費税再増税延期を表明した直後の2014年12月に「A1」に引き下げられていましたから、今回中国の長期国債が「A1」に引き下げられたのは、日本国債と同じになった、というだけで、これから「とんでもないこと」が起こるわけではありません。

 また、2014年12月に日本国債の格付けが引き下げられた時にこの格付け引き下げによって日本のマーケットに大きな混乱が起きたわけでもないことに見られるように、今回のムーディーズによる中国の長期国債の格付け引き下げが、中国のマーケットに混乱を引き起こすことはないと思います。

 ただ、バブル崩壊からデフレ時代の中に長く浸っている日本国民にとっては、「日本国債の格付けが下がった」と言われても「やっぱ、そうでしょうね」と思うだけでしょうけど、現在急速に成長中であり中国経済が世界経済を引っ張っていると言える、という感覚を持っている中国の人々にとっては、この「格下げ」はちょっとショックだったかもしれません(特にムーディーズによる中国国債の格付け引き下げは「六四天安門事件」のあった1989年以来ですから、それなりの「心理的ショック」はあったのではないかと思います)。

 そうした「中国の人々に対する心理的ショック」があることは、格付けの引き下げに対して中国財務省が直ちに反論のコメントを出したことでも伺えます(ちなみに、2014年12月にムーディーズが日本国債の格下げをした時は、日本の財務省は無視しました(2002年5月の格付け引き下げの時は日本の財務省は格付け会社に対して反論レターを出したのですけどね))。

 私も今回のムーディーズによる中国の長期国債の格付け引き下げにより「心理的ショック」を超えて大きな実態的な影響が出てくるとは思っていませんが、格下げ発表後の上海株式市場の株価の値動きがかなり不自然だったので、そちらの方が気になっています。格付け引き下げがあった5月24日、上海総合指数は安く始まって午前中に前日比1.3%安まで下がる場面もあったのですが、その後盛り返し、結局はこの日は0.1%高で終えました。翌5月25日は対前日比1.4%高で引け、5月26日(昨日)も0.07%高で引けました。株式市場は、様々な要素で上がったり下がったりするので、国債の格付け引き下げの影響だけを考えるのは正しくないのですが、こうした動きはまるで「国債格付け引き下げによって株価が下がらないように政府系ファンドが株式市場で買い支えをしている」ように見えます(実際、政府による買い支えが実施されているようだ、といった観測記事も出ているようです)。

 私が「気になる」のは、不動産バブルの膨張を懸念して、不動産価格の抑制を図るための様々な政策が打ち出されいている今の時点で、政府が株式市場を下支えしているとの観測が出てくると、中国人投資家の間に「政府は秋の中国共産党大会までマーケットの暴落を絶対に許さないはずだから、今、株式市場に投資して党大会の前に売り抜けば必ず儲かる」などといった「思惑」を生んで、価格抑制策で不動産市場に入れない余剰資金が株式市場に流入して、株式市場の方に「新たなバブル」を生んでしまうのではないか、ということです(実際、2014年秋~2015年6月までの「上海株バブル」は、それ以前の不動産バブルの沈静化によってあふれた資金が不動産市場から株式市場に回ってきたため、と言われました)。

 一方、私がもうひとつ気にしているのはビットコインの価格動向です。ビットコインの価格は、2017年年初に暴落しましたが、それは中国当局がビットコイン取引の管理を厳しくしたからだ、と言われました。今、5月初め頃からビットコインの価格が急激に上昇してきています。中国国債の格付け引き下げよりずっと前からビットコインの価格高騰は始まっていたので、ビットコイン価格と今回のムーディーズによる中国国債の格付け引き下げの間に因果関係はないことは明らかですが、ビットコインの価格の急上昇の背景には中国国内の事情(例えば、不動産市場に入っていた投機資金の一部がビットコイン市場に回ってきているなど)がある可能性があります。

(注)ビットコインの価格急騰については、アメリカのトランプ政権の先行きが不透明、ヨーロッパのユーロの先行き不安も払拭されたわけではない、ということで、欧米の投資家が米ドルやユーロを売ってビットコインを買っているからかもしれません。日本でも5月15日から日本最大と言われるビットコイン取引所であるビットフライヤーが地上波テレビでのCM放映を開始したり、5月22日に格安航空会社(LCC)ピーチ・アビエーションがビットコインで航空券などを購入できるシステムを導入する予定と発表したりしていますので、日本でもビットコインの認知度が高まり日本人の間で買う人が増えたのでビットコインの価格が上昇している可能性もあります。

 5月25日付けの「人民日報」は10面でムーディーズの中国国債格付け引き下げについて「評価引き下げの方法は不当である」と題する財務部関係者の反論記事を載せていますが、一方で21面には「ビットコインは『デジタル・ゴールド』になった」(中国語は「比特幣成了『数字黄金』」)と題する解説記事を載せています。これはビットコイン価格が急騰し金(ゴールド)の価格を超えたことを切っ掛けとした解説記事です。この解説記事は、特段ビットコインの購入について推奨するわけでも批判するわけでもなく、中立的に現状やリスクについて解説しています。

(注)この記事の中では「現在、アメリカ、日本、中国、ヨーロッパの各国・地域での一日あたりの交易規模は、それぞれ7,300万ドル、7,300万ドル、4,500万ドル、3,140万ドルである」と紹介されています。日本での報道では「中国での交易量が世界で最も多い」とされていますが、日本での報道とこの「人民日報」の解説とのどちらが正しいのかは私にはわかりません。

 先週、ビットコインの価格は1ビットコイン=2,500米ドル程度まで上昇したようですが、この「人民日報」の記事には次のような記述があります。

○2020年までに、ビットコインの交易規模は30億ドルを超え、その交易価格は1万ドルに達する可能性もある。

○ビットコインは一種のバーチャルな『デジタル・ゴールド』と見なすこともできるが、黄金(ゴールド)のような高い流動性、低いリスク、価格の安定性とコントロール可能性といった属性を具備しておらず、一種のハイリスク・ハイリターンの投資品と言える。

○貨幣のイノベーションという視点でデジタル属性に注目することもできるが、慎重な投資姿勢により黄金(ゴールド)のような属性を持つかどうか見極めるべきである。

とも書いてあり、リスクについても解説してありますので、この記事は別にビットコインの購入を推奨しているものではないと言えるでしょう。しかし、投資好きの中国の読者に対して、今2,500ドルまで急騰したビットコインについて「2020年までにその交易価格は1万ドルに達する可能性もある」などと紹介したら結果的に「煽っている」ことになるんじゃないかなぁ、と私は思います。

 2015年6月をピークにしてはじけた上海株バブルの時も、春頃に「人民日報」が株投資を煽っていた、と批判されたことがありました。今回のビットコインに関する「人民日報」の解説記事を切っ掛けにして、価格抑制策がなされた中国の不動産市場や政府系ファンドに価格変動をコントロールされている中国の株式市場から押し出された資金がビットコイン市場に過度に流入し始めるのではないか、と心配になります。

 この他、「人民日報」のホームページ「人民網」の「財経チャンネル」に載っていた中国経済網の記事「鋼材の価格上昇の嵐 石炭の奇跡の再演なるか 今年の業種の利益は去年を超えている」(2017年5月23日アップ)も気になっています。この記事では、中国語でいう「螺紋鋼」(建築用コンクリートに入れる鉄筋)の価格が4月19日以来20%以上高騰しており、株式市場でも関心を集めていることを伝えています。「螺紋鋼」の価格が高騰しているのは、市場関係者がマンション等の建設による需要が今後とも高いレベルを維持すると見ていることを示しています。中国政府は、マンション・バブルの抑制のための政策をいろいろとっていますが、「どうせ党大会の前にマンション販売の低迷を出現させるわけにはいかないので、党大会まではマンション建設ラッシュは続くだろう」と中国の市場関係者は中国共産党の「足元」を見ているのかもしれません。

 この記事の最後は「鋼鉄株は去年の『石炭の奇跡』の再演なるか 刮目(かつもく)して待つべし」と締めくくっています。去年(2016年)は、中国政府の「生産能力削減」の政策により、石炭の生産量が減りましたが、一方でマンション建設等に使う鉄鋼の需要は堅調だったことから、石炭の品薄感が急激に広がって石炭(製鉄に使う原料炭)の価格が高騰しました。この記事はこの「石炭の奇跡」が今年は鉄鋼で起きるのか、と期待を持って書いているわけです。私はなんか競馬新聞の予想記事を読んでいるような気分になりますが、少なくともこの記事の読者である中国の投資家の皆様は、去年の石炭や鋼材価格の乱高下に全然懲りていないようですね(というか、そういう価格の乱高下を投資のチャンスとして待っているようにすら感じる)。

 今、日本をはじめ世界の経済関係者は、「中国経済バブル崩壊にどう対処すべきか」と身構えているところだと思いますが、中国には上のような「投資新聞」の記事を読んで不動産や株や商品(鉄鋼、石炭、銅など)(場合によってはビットコインなども含めて)に投資している血気盛んな投資家の皆さんがとんでもない数おられることを念頭においておく必要があると思います。

 今日(2017年5月27日(土))付け日本経済新聞朝刊1面には「人民元の急落防止 中国、基準値算出方法を見直し」という記事が、9面には「中国、資本流出を警戒 人民元の急落防止 米追加利上げにらむ」という記事が掲載されています。国外への資本流出と人民元の急落を防ぐため、中国が人民元レートを定める基準値の算出方法を見直す、という記事です。9面の記事では、24日のムーディーズによる国債の格付け引き下げを受けて「25日には一定規模の為替介入があったもよう」(外国銀行)との指摘も紹介されています。

 「不動産価格の高騰を抑制する」「国外への資金流出を阻止する」という政策を同時に進めた場合、不動産市場からあふれた資金は中国国内の「どこか」へ向かいます。上に書いてきたように、その「どこか」とは中国国内の株式市場、鉄鋼、石炭等の商品市場あるいはビットコイン市場かもしれません。仮に「不動産バブル」を抑えることに成功したとしても、不動産市場にあった資金が移動した先の「どこか」でまた新たなバブルが発生することになるのかもしれません。中国が国外への資金流出を阻止することは、中国国内のバブルが外国に輸出されることを防ぐことになるので、諸外国にとってはよいことなのかもしれませんが、「ガス抜き栓」をふさがれた資金の圧力が中国国内に溜まってバブル破裂のエネルギーが蓄積されるのではないか、という恐怖感も湧いてきます。

 5月26日(金)付けの日本経済新聞朝刊11面のコラム「NIKKEI ASIAN REVIEW」では、米クレアモント・マッケナ大学教授のミンシン・ペイ氏の「中国企業 不透明な経営 急膨張 資本規制で転機か」という文章が掲載されています。この文章の中でペイ氏は「歴史上の信用崩壊後の惨状に通じる人なら、こうした一見結びつきのない諸報道が金融危機の前兆だと認識するだろう。」と書いています。今回も上に書いてきたいろいろなことがらは、後から見ると「中国経済バブル崩壊の前兆現象だった」「壁が大崩壊する前にミシミシなっていたきしむ音だった」と顧みることになるのかもしれません。

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2017年5月20日 (土)

世の中「中国経済バブル崩壊準備モード」に突入

 週刊東洋経済2017年5月20日号の特集は「最後の証言:バブル全史」でした。日本の1980年代末~1990年代初のバブル形成と崩壊の過程を当時の関係者の証言で綴るものでした。

 「なぜ今このタイミングで『バブル全史』の特集なのか」と問われれば、やはり現在の世界経済の状況が「バブルらしき様相」であるからでしょう。最も懸念されているのが中国の不動産バブルです。一昨年(2015年)夏、上海株のバブルがはじけたことを思い出せば、1989年末をピークにしてまず「株バブル」がはじけ、二年くらい掛けて「土地バブル」がはじけた日本のバブルを思い出さざるを得ません。たまたま偶然ですが、バブル最盛期に始まった「平成」が「そろそろ終わりそうだ」ということも、そういった連想を助長しているのかもしれません(昨日(2017年5月19日)「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案」が閣議決定されました)。

 で、私がちょっとショックだったのは、週刊東洋経済2017年5月20日号の「編集部から」の欄に「当時中学生だった私にとってバブルの記憶といえば・・・」と書かれていた編集部の方の言葉でした。これを読んで「あちゃ~、就職後十年目でバブルに遭遇した私はもう『お年寄り』の部類なのかなぁ」と思ってしまったのでした。ということで、このブログを読んでいる方にも「日本のバブルの実体験がない」方も多いと思うので、「日本のバブルでは何があったのか」について、私の経験や私の知っている話をお話しして、来るべき「中国経済バブルがはじける時」に何が起こるのかを考える上での参考にしていただければ、と思います。

 まず、バブルに至る過程で私が印象に残っているのは「急速な円高の進展」でした。私は1986年10月~1988年9月に一回目の北京駐在を経験していますが、海外駐在員にとって、為替レートは日常生活にも直接影響する一大関心事項です。当時、中国では、朝7時前に中国人民銀行が決める各外貨と人民元との為替レートを中央人民広播電台(中央人民ラジオ局)が放送していましたが、私は毎朝そのラジオ放送で流れる為替レートを聞き取ってメモするのが日課になっていました(非常によい中国語のディクテーション(聴音書き取り)教材でした)。なので、プラザ合意(1985年9月)の後、数年間にわたって怒濤のごとく進んだ円高は「日々の衝撃」として私の記憶に残っています。

 当時新聞等では急激な円高に伴う日本の輸出企業の苦境が報じられていましたが、私が思っていたのは「物価は全く下がらないのだから、原材料を輸入している企業はボロ儲けしているのだろうなぁ」ということでした。確かに円高に苦しむ輸出企業の裏側で、円高で相当儲けた輸入関係企業もあったはずで、そうした「あまり話題にならない中で円高によって積み上がった余裕資金」がいろいろな資産に投機として投入されて、それが後でバブル化した面もあるのだと思います。

 苦しんでいる企業は対策を打つようにいろいろ政府に働き掛けをするので、新聞等でそれらの動きを目にすることも多いのですが、「意外に儲かっていて資金に余裕がある企業」は基本的に「だんまり」なので目に付きません。「あんなところにも金が余っていたのか」といった話はバブルがはじけた後でわかる話です。「バブルが形成されつつある間は気がつかないが、意外なところに意外な資金が貯まっていてバブルがはじけた時に悪さをする」ことがあり得ることには注意しておく必要があると思います。

 もうひとつ印象に残っているのは、1980年代前半は相当に金利が高く、例えば郵便局の定額貯金は金利が年利7%を越えていたことでした。定額貯金は満期10年なのですが複利なので年利7%ちょっとで10年後まで途中解約しないでいれば元本が2倍の金額になったのでした。1980年代後半は円高が進んだこともあり、日本の物価はそれほど上がりませんでした。バブルの頃は、給料がそんなに上がったわけでもないのですが、「貯金しておけば結構な額の金利が付く」という意識があったので、結構気楽にお金を使う「気分」になっていたような記憶があります。今、「個人消費が伸びない」のが日本経済の重要なマイナス要因になっていますが、ゼロ金利下で「利子という余裕資金」が全く存在しない現状が消費しようとする「気分」に水を差しているのは間違いないと思います。

 今、多くの中国の人々は「マンション」という資産を持っており、「自分の持っているマンションの価格は将来上がる」という認識の下で消費行動をとっています。「想定しているマンション価格の上昇」は、自分の意識の中では「余裕資金」として存在していると思います。従って、今後、中国の不動産市場において「バブル崩壊」とまではいかなくても、「マンションの価格は上昇しない」という状況が生じた場合、現在の中国の人々が持っている「マンション所有による余裕資金があるという感覚」は消滅し、中国の人々の消費意欲を急激に冷やす可能性があります。その場合、中国人旅行者による日本での購入や中国国内での消費に期待している日本の企業は打撃を受ける可能性があります。

 さらに「今思えば」と後になって気がついたのは、1980年代後半、日本政府に「バブルに対する危機意識」がなく、むしろ政策によって「バブルを煽った」面があったのではないか、ということです。冒頭に紹介した週刊東洋経済2017年5月20日号の特集「最後の証言:バブル全史」では、早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問の野口悠紀雄氏が1987年11月26日号の週刊東洋経済に掲載した文章「バブルで膨らんだ地価~地価引き下げのための緊急対策を~」について紹介しています。この1987年の記事の中で野口氏は「現在の地価は投機のバブル(泡)で膨らんだ異常な水準である。」と書いています。「バブル」に「(泡)」とわざわざカッコ書きで書いているほど、日本経済の状況を「バブルだ」とする認識は1987年当時は一般的ではなかったのでしょう(なお、経済のある状況を指す言葉としての「バブル」はガリバー旅行記を書いたスウィフトが初めて使ったとされており、18世紀からある言い方です)。余裕資金を用いて地方活性化を図ろうとする総合保養地域整備法(通称「リゾート法」)は1987年制定ですが、この法律は企業によるリゾート開発等のいわゆる「財テク」を促進させることになり、結果的に政府が率先して当時のバブル的状況をさらに膨らませる結果になりました(それを「政策の誤りだった」と批判することは「バブルがはじけた後だから言えること」だと思いますけど)。

 こうした政府の政策の背景には、1985年に民営化されたNTT(旧電電公社)の株式売却(1987年2月に上場)においてNTT株が想定より高値で売却できた(政府の収入が想定より多かった)という点もあったと思います。「NTT株が想定より高く売れた」のは、後から振り返って見れば当時既に日本経済が「バブル化」していたからだと言えますが、当時の日本政府は「今はバブルだ。今のままでは危険だ。」とは認識していなかったのだと思います(だから適切な対策は講じなかった)。政府に危機意識がなかったからこそ、野口悠紀雄氏は上記のように警告を発する記事を書こうと思ったのでしょう。

 ここで問題なのは、「政府に『今の状況はバブルである』という認識があれば、適切な措置を講じてバブルがはじけるのを避けることができたのか」という点です。今の中国政府には、現在の不動産市場の状況が「バブル的である」との懸念は持っており、もし政府が適切な状況認識を持って適切な措置を講じることができれば、中国の不動産バブルも「はじける」ことは回避できることになるのでしょう。

 しかし、2008年のリーマン・ショックのことを考えると「政府が『バブルかもしれない』という危機感を持っていれば事前に適切な措置を講じることによりバブルがはじけることは回避できる」ことには必ずしもならないことは明らかでしょう。21世紀に入って、日本のバブル崩壊については、アメリカ政府担当者を含めて世界の政策担当者はよく知っていたし、アメリカの住宅市場に関して「サブ・プライム・ローンは危ないのではないか」といった認識は2007年頃からあったにも係わらず、アメリカ政府はリーマン・ショックという「バブルの突然の崩壊」を防ぐことはできませんでした。

 中国経済で「バブル崩壊」が起きると中国共産党政権自体が揺らぎかねませんので、中国共産党は日本のバブルを含めて過去のバブルについては相当熱心に(真剣に)勉強しています。なので、「中国共産党はバブルを崩壊させることなくソフトランディングさせることができる(はず)」と多くの人が考えています。しかし、問題は、中国共産党の経済政策を考える経済学者が「バブル退治」の処方箋を仮に持っていたとしても、実際の政策としてそれを実行できるのか、という問題があります。政策を決定する中国共産党員自身が「利害関係者」であるために、有効な政策決定ができないことがあり得るからです。例えば、不動産バブルを沈静化させるための「マンション保有税」(日本の固定資産税に相当)も政策手段としてあるはずなのですが、中国共産党の会議や全人代ではまだ議論すらされていません。それどころか、先に発表された新副都心「雄安新区」プロジェクトなど、むしろバブルを助長させるような方向の政策も打ち出されています。

 まとめると以下のとおりになると思います。

 日本のバブルは、バブル崩壊まで(野口氏のような一部の学者を除いて)日本政府や経済界の中に「今の状況はバブルで危険だ」という危機意識はなかった。

 アメリカのリーマン・ショックにおいて、アメリカの政策担当者は日本のバブルについて既に学んでおり、サブ・プライム・ローンの危険性についてある程度の危機意識は持ってはいたが、適切な対策を適切なタイミングで採ることができずにリーマン・ショックを起こしてしまった。

 中国の経済政策担当者は、日本のバブルもアメリカのリーマン・ショックもよく学んでおり、現在の中国の不動産市場についてバブル的要素があり一定程度の危険性があると認識いている(公式見解は「現在の状況はコントロール可能」というものだが)。中国経済において「バブルがはじけることを回避する」ことができるかどうかは、現時点ではわからない。

 一方、日本のバブルがはじけた後の状況を「世界の工場」へ向けて急速に発展した中国経済は後ろから支えた(1980年代から始まった中国のインフラ投資等に対する日本の経済協力(円借款など)が結果的に中国経済の急速な発展を通じて日本のバブル崩壊からの回復を手助けした)。バブル崩壊後の日本が苦しんだのは事実ですが、すぐ隣に急速に発達する中国が存在していなかったら、日本経済の状況はさらに悪いものになっていたと思います。

 アメリカのリーマン・ショックに始まる世界経済危機に対して中国政府が実施した四兆元の超大型経済対策は結果的に世界の需要を下支えし、世界経済のリーマン・ショックからの回復に大きなプラスの役割を果たした。

 中国経済のバブルが今後崩壊すると想定した場合に「バブル崩壊後の日本を支え、リーマン・ショック後の世界経済を支えた中国と同じような役割を果たす者」は現在の世界には存在しない。

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 いくら過去のことを学んでも「もし中国の経済バブルがはじけたらどう対応したらよいか」はわからないのですが、「何も知らないよりは、過去の経験を知っていた方がケガは小さいだろう」と思うので、やはり今回週刊東洋経済が「最後の証言:バブル全史」という特集を組んだのは非常にタイムリーでよかったと思います。

 先週までのブログにも書いたように、日本経済新聞も最近「中国経済バブル警戒モード」に入っていると私は感じています。今日(2017年5月20日(土))まで、日本経済新聞朝刊は「変わる鉄鉱石市場」という短期連載コラムを掲載していました。鉄鉱石、原料炭、銅などの価格やビット・コインの価格の変動は、「中国経済の現状の何か」を表している可能性があるので、注意深く見ている必要があると思います(もちろんこれらは「投機筋の思惑」で動くので、価格変動が「何を意味しているか」を安直に判断することは難しいと思いますが)。中国でビジネスを展開する企業の日々のコメントにも注意を払う必要があると思います。

 これまでも何回も書いてきましたが、「『バブル』とははじけた後で初めて気付くものであって、『今はバブルだ』と感じているのなら、今はバブルではない。」という考え方は中国については通用しないので、警戒は緩めずにいる必要があると思います。(とは言え、一昨年(2015年)8月に「中国発世界同時株安」が起きた時は、私自身、結構びっくりしました。「バブルが崩壊した時にびっくりしないように事前に準備する」ことなど実際には誰にもできないのかもしれません)。

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2017年5月13日 (土)

「一帯一路国際フォーラム」の後に来るもの

 明日(2017年5月14日)から二日間、北京で「一帯一路国際フォーラム」が開催されます。28か国から首脳級が参加する他、日本を含め代表団を派遣する国は130か国を越えているようです。

 経済力が大きくなった中国が「陸と海のシルクロードの復活」という概念の下、中央アジアや東南アジアのインフラ投資に協力し、これらの地域の経済発展を図る、という発想は悪くはないですし、特に中央アジア諸国については、旧ソ連崩壊後、ロシアの支援が弱くなっていますから、中央アジア諸国の経済発展を支援することは、間接的に貧困から来るイスラム過激派の勢力拡大を食い止めることになり、中国自身の安全保障上プラスになるだけでなく、世界にとってもよいことだと思います。

 一方で、旧ソ連の崩壊で中央アジアの面倒まで見られなくなったロシアや混迷するヨーロッパ、「自国第一主義」になってしまったアメリカを尻目にして、国際社会の中で発言力を強化しようという中国の意図がミエミエなのは気になります。1970年代、80年代にトウ小平氏が「中国は絶対に超大国にはならない」と何回も繰り返していたことをよく覚えている私としては「話が違うんじゃないの?」という気分にもなります。

 それにしても習近平氏は「世界各国から首脳を招いて行う巨大国際イベント」が相当にお好きなようですね。2008年の北京オリンピックや2010年の上海万博のようなものが当面ないので、無理して自分で作っているように見えます。2014年11月には「APEC首脳会議」を北京で、2015年9月には「抗ファシスト勝利70周年記念軍事パレード」を北京で、2016年9月には「G20首脳会議」を杭州で開いたのに引き続いての今回の「一帯一路国際フォーラム」です。これまでの「国際イベント」と同じように、ここ数日、「人民日報」や中国中央電視台夜7時のニュース「新聞聯播」では、「一帯一路国際フォーラム」自体とフォーラムに参加するために中国を訪問している各国要人と習近平氏との会談の様子を連日大々的に報じています。

 ニュースを見ていていて感じるのは、これまでの「APEC首脳会議」「抗ファシスト勝利70周年記念軍事パレード」「G20首脳会議」と比べて、李克強氏と各国首脳との会談の様子なども結構多く報じられているなぁ、という点です(去年9月の「G20首脳会議」の時は李克強氏はニュースに全く登場しなかった)。秋の党大会を前にして、習近平氏と李克強氏の間では一定の手打ち(合意)ができているのかもしれません(例えば、李克強氏は国務院総理を退き全人代常務委員会委員長になるが、李克強氏と同じ中国共産主義青年団出身の胡春華氏(現・広東省党書記)を政治局常務委員にすることで、習近平氏と李克強氏は既に「手を握っている」とか)。

 もし今回の「一帯一路国際フォーラム」が習近平氏のリーダーシップを示すと同時に、習近平氏と李克強氏が「お互いに協力して今後とも仲良く中国の政権運営を担当していきますよ」ということを内外に示す場となるのだったら、それはそれでハッピーなことなのかもしれません。

 ただ、ちょっと気になるのは、中国経済の現状です。中国の不動産バブルが相当危機的状況になってきていることは、累次このブログでも書いてきたところです。それに加えて私が気になっているのは以下の点です。

○上海株式市場の上海総合指数のグラフを見ると、4月上旬、河北省に建設される新副都心「雄安新区」プロジェクトの発表を機に急騰した上海の株価が、「投機的な動きは許さない」という当局の姿勢を受けて急落に転じ、日々のグラフを見る限り「相当に危なっかしい格好」をしていること。ここ数日は、大きく下げそうになると「まるで誰かが買い支えているかのように」下げ幅を縮めたり、前日比わずかに上昇して引けたりしており、「一帯一路フォーラム」を前にして、「国家隊」(政府系ファンド等)による買い支えが行われているのではないかと思われること(もしそうなら「一帯一路フォーラム」が終わって「買い支え」がなくなると株価はさらに下落する可能性がある)。

○海外への資金流出圧力は弱まっていないと思われるにも係わらず、今年(2017年)2月~4月の中国の外貨準備はわずかに増加し「3兆ドル」という心理的節目を前にして「わざとらしいくらい」減少がストップしていること。これは政治的な意図により経済的な状況を無視して資金の中国外への送金を強制的に抑制していることが原因である可能性がある。もし資金の外国への送金を無理に規制しているなら、国際的企業の中国でのビジネス活動にブレーキを掛けてしまうことになる(今日(2017年5月13日(土))付け日本経済新聞夕刊1面の記事によると、麻生財務大臣はイタリアで開かれているG7財務相・中央銀行総裁会合でIMFに対して中国の資本規制への監視を強めるよう要請したとのことです。麻生財務大臣のこうした要請の背景には、中国当局の国外への送金規制に困惑する日本企業の怨嗟の声があるのだと思います)。

○需要の面で中国が世界最大の割合を占めている鉄鋼の原料(鉄鉱石と原料炭)や銅の価格がここへ来て急落している(つまり中国の需要が減っている(または投資家が中国の需要は今後減るという見通しを立てている))こと。(参考:日本経済新聞5月10日(水)付朝刊22面「銅の国際価格5%安 直近高値比 中国の需要減観測で」、5月13日(土)付朝刊24面「製鉄原料が一段安 豪の供給トラブル解消」

 これらの状況は、「中国経済はこれまで不動産やインフラ投資で景気が下支えされてきたが、中国当局が投資の過熱で経済がバブル化することを懸念してブレーキを掛け始めたため現実の景気は減速傾向にある。一方、直近の『一帯一路フォーラム』と秋に開かれる党大会を前にして中国当局が『意図的な株価の下支え』と『人民元安阻止と外貨準備減少阻止の同時実現のための資金の国外流出に対する強制的な規制』を強めている。」ことを表している可能性があります。今のところまではなんとか「もたせる」ことができていますが、このような「株価の下支え」や「強制的な資本規制」を秋の共産党大会まで続けることは相当に難しいのではないかと思われます。

 これらの懸念は、上記に日経新聞の記事をいくつか紹介しことでもわかるとおり、単に「私が気になっている」のではなく、日本経済新聞も同様の懸念を持っているようです。「日本経済新聞の懸念」を示す典型的な記事が昨日(2017年5月12日(金))の夕刊5面に並んで掲載されていました。ひとつは「アジア・ラウンドアップ」にあった「上海株、監督強化に揺れる」(NQN香港:柘植康文氏)とその下の「十字路」の欄にあった「日本のバブルと中国のバブル」(中前国際研究所代表中前忠氏)です。

 今、足元では上海株が連日「年初来安値」を続ける一方、香港ハンセン指数は「年初来高値」を続けています。本来、上海と香港の株式市場は両方とも同じように中国の景気動向を反映するならば株価も同じような動きをするはずですが、今は、上海と香港で株価が全く逆の動きをしているのです。この点について、上記の「上海株、監督強化に揺れる」の記事の中では、「当局の規制が及びにくい香港市場に資金を移す投資家は増えているようで、上海からの香港株の買越額は増加している。」と指摘されています。「日本経済新聞の懸念」と書きましたが、もしかすると中国人投資家自身も同じような懸念を持っているのかもしれません。

 「日本経済新聞の懸念」即ち「市場動向を無視した政治的意図による無理な『下支え』の継続は難しく、2017年後半は、秋の党大会というビッグ・イベント前後を切っ掛けとして中国経済が大きく後退する」という懸念は、かなり広く共有されているのかもしれません。今日(2017年5月13日(土))付け日経新聞朝刊7面の日本の企業の決算の状況を伝える記事においては「企業、中国景気に懸念」という見出しが付いていました。

 報道によれば、「一帯一路フォーラム」に参加する日本の代表団のヘッドである自民党の二階幹事長は、明日(5月14日(日))、習近平主席と会談できるよう最終調整の段階にある、とのことです。二階幹事長は、安倍総理の親書を携えて行っているようですし、会談できれば日中関係にとってよいことだと思います。冒頭に書いたように中国が「一帯一路国際フォーラム」を成功裡に開催すること自体は悪い話ではないと思います。ただ、中国が「一帯一路国際フォーラム」というイベントをうまく成功させるために、無理をして株式市場を支えており、無理を承知で資本規制で外貨準備を減らさずに人民元安を防いでいるのだとしたら、後から来る「市場からのしっぺ返し」には警戒しておく必要があると思います。特にこうした「無理」を秋の党大会まで続けることは非常に難しいと思うので、「無理がたたった市場からのしっぺ返し」が党大会の前に発生して、党大会へ向けて中国が政治的に混乱する、というようなことにはなって欲しくないと思います。

 私の場合、ちょうど10年前には北京に駐在していたので、どうしても「10年前(2007年)と今(2017年)を比較した話」が多くなります。今、一番重要なのは、2008年にアメリカ発のリーマン・ショックで世界経済が危機に陥った時、中国は四兆元の大型経済対策で世界経済を救いましたが、もし2017年に中国発の世界経済危機が発生したとしても、アメリカには世界経済を救う力はない(というか「アメリカだけよければ」の発想で世界経済を救うつもりはない)だろうということです。もっとも、それよりも最悪なのは「中国経済がコケる前にアメリカのトランプ大統領がコケること」ですが、それだけはぜひとも避けて欲しいと思います。

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2017年5月 6日 (土)

中国のマンション市場に「状況変化」の気配

 人民日報ホームページ「人民網」の「財経チャンネル」では、メーデー連休期間中のマンション販売動向に関するいくつかの記事が載っていました。例えば以下の二つです。

○2017年5月2日アップ:経済参考報の記事「四つの制限がメーデー連休期間中のマンション市場を二分化:大都市(第一線都市)は様子見、中小都市(二、三線級都市)は依然としてホットなまま」

○2017年5月3日アップ:人民日報海外版の記事「マンション市場の『冷熱』局面が静かに逆転 『悪循環』の打破が招くもの」

 記事末の「編集責任者」の欄に同一人物の名前が載っているので、これらは同じ系統の記事だと思います。

 これらの記事では、概ね以下のような点を報じています。

○マンション・バブルを防ぐための政策(「購入制限」「住宅ローンに対する制限」「価格制限」「販売量の制限」の「四限」)により、メーデー連休期間は北京のマンション市場にとっては冷めた連休期間となった。

○中国のマンション市場は「両高」:即ち、一方で大都市(一二線都市)ではマンション価格が高い一方、中小都市(三四線都市)ではマンションの在庫レベルが高い、という状況だった。しかし、今年のメーデー連休期間は、この「氷と火」の局面に逆転現象が起きている。

○例えば、北京やアモイでは様子見状態(中国語で「観望」)になりマンション成約が減った一方、鄭州では寝袋を持ってマンション販売に並ぶ行列が連夜見られた。

○あるデータによれば、2017年第一四半期、大都市(一線都市)の新築マンション成約数は対前年同期比16.3%減少したのに対し、小都市(三線都市)では35.84%増加した。価格については、3月17日にマンション販売規制が強化された北京では、18か月間で初めて下落したのに対し、3月のマンション価格は(中小都市である)広東省清遠では18.28%上昇し、福建省ショウ州(「ショウ」はさんずいに「章」)では15.76%上昇した。

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 このように、現在の中国では、マンション市場が過熱した地域では政策的な制限が掛けられて熱が冷めつつある一方、在庫が多い中小都市では販売の過熱と価格の上昇が同時に起きているようです(この記事では、例として、江蘇省の南京都市圏にある鎮江では、まだマンション政策が相対的に緩やかであるため、多くの専門家が鎮江地区のマンション価格は今後上昇すると見ていることを紹介しています。北京に二回、合計四年以上駐在していた私ですら名前を聞いたこともない小さな都市のマンション価格が急上昇している、という現状は、やはり「大丈夫かなぁ」と思わせますね)。

 このような状況について、北京科技大学管理学院経済貿易系の何維達主任は、各地方ごとの状況に応じた対応政策について、「一つの都市ごとに一つの政策といった『対症療法的服薬』が必要である」と述べています。

 一方、あるアナリストは、「引き締め」と「緩和」を繰り返す周期的な政策の変化は短期的な応急手段に過ぎず、マンション市場の周期的な「悪循環」から抜け出すためには、真に長期的に効果のある規制が必要である、と述べています。これに関して、何維達主任は、「長期的に効果のある規制」とは何かあるひとつの政策を指すのではなく、全国的な不動産情報ネットワークの確立や金融政策・財政税制政策の総合利用を含む一連の系統的な政策群である、と述べています。

 記事の最後では、「例えば、固定資産税のような科学的な徴税によって投機のためのコストを収益よりも大きくすることによって、マンションを『(投機のためのものではなく)真に住むためのもの』に回帰させなければならない」と述べています。

 この最後の文章に見られるように、記事は極めて冷静で「まとも」なのですが、3月の「全人代」では「固定資産税(マンション保有税)」については議論されませんでした。「全人代」で票決を行う「全国人民代表」は「全国の人民の代表」ではなく、その多くがマンション所有者で、マンション保有税には反対だと思われるので、たぶん何年待っても「マンション保有税」はできないと思います。なので、いくら経済学者や「人民日報」の記者が「まともな」議論を展開しても、中国のマンション市場の問題を解決する政策はいつまで待っても出てこないと思います。

 中国のマンション・バブルの問題を考える時、「最も有効な手段はわかっているが、その有効な手段は講じられることはない」という現状を改めて認識する必要があると思います。

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 上に書いたように、この記事では、このメーデー連休期間中、北京やアモイでは「様子見状態」(中国語で「観望」)になっている、と指摘されています。私が「観望」という単語を知ったのは、2007年の北京駐在時のマンション・バブルの時期でした(このブログの2007年12月22日付け記事「中国の不動産ブームはピークを越えたのか?」参照)。

 2007年の頃も「今の中国のマンション市場はバブルではないのか?」と言われていました(2007年12月頃に一度ピークを打ってその後価格は下がったが、ほどなく上昇に転じ、「バブル的状況」は現在に至るまで続いている)。2007年の頃と今(2017年)の違いは以下のとおりです。

○2007年前後のマンション価格のピークは、党大会(2007年10月)後の2007年12月頃だったが、今(2017年)は、秋に開かれる予定の党大会の半年前の時点で既に一部の地域でピークを打つ兆候が出ている。

○2007年のマンション市場の過熱は北京や上海などの大都市に関するものであり、中小都市(三四線都市)ではマンション建設は問題とはなっていなかった。一方、2017年は、大都市(一二線都市)と中小都市(三四線都市)の両方で、事情が異なる中、マンション市場が過熱化しており、マーケット状況は非常に複雑化している。

○2007年の時点では、翌2008年に北京オリンピック、2010年に上海万博を控えており、マンション以外にも投資先がたくさんあった。一方、人民元には先高感があり、外国から中国への資金流入圧力が強かった。2017年は、鉄鋼業・石炭産業等において過剰生産設備が問題となっているなど、中国国内の有望な投資先は少ない。2017年は、人民元には先安感があり、中国から外国への資金流出圧力が強いが、急激な人民元安と資金の海外流出を防ぐため、当局が資金流出規制を強力に実施しており、行き先のない資金がマンションや株などの市場に滞留している。

(注)中国共産党が先に打ち出した河北省の新副都心「雄安新区」のプロジェクトは、10年前にあった北京オリンピックや上海万博のような「投資案件」を作り出そうとする意図が背景にあると思われます。実際、上記に紹介した記事では、「雄安新区」設置の発表後、充電した携帯電話の電池パックを1日で2個使い切ってしまったという河北省の不動産業者の話を紹介しています。

○(この点が最も重要)2008年の北京オリンピック終了の後にはバブルがはじけるのではないかという懸念があったが、たまたまこの時期にアメリカで発生したリーマン・ショックによる世界的経済危機対応のため、中国政府は2008年11月に四兆元の大規模経済対策を打ち出したため、2007年前後の「バブル的状況」ははじけることなく「先送り」となった。しかし、2017年は、おそらく2008年にあったような「バブル的状況を先送りすることを許す状況」は起きないだろうと思われる。

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 上に述べたように、10年前の中国共産党大会があった2007年頃の「バブル的状況」と比較して、今年(2017年)の中国共産党大会を前にしての「バブル的状況」の危険性は格段に大きいと言えます。今日(2017年5月6日(土))付け日本経済新聞朝刊の1面トップ記事は「中国バブル再び 資本規制、マネー氾濫 上海住宅・年収の20倍超 最盛期の東京上回る」でした。おそらく日本経済新聞社の方々も「中国バブルの危険性」について、相当に危機感を持っているのでしょう。

 明日(2017年5月7日)、フランス大統領選挙の決戦投票がありますが、今年2017年は今までいろいろありましたが、やはり世界経済の最大のリスク要因は、フランス大統領選挙でも、トランプ大統領でも北朝鮮問題でもなく、「中国経済のバブルがどうなるか」なのかもしれません。目先の不安要素に右往左往することなく、もう一度中国のバブルの状況をチェックしよう、というのが、おそらくは今日の日経新聞1面トップ記事の意図なのだと思います。

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